(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】女性ホルモン分泌調節剤及び不快症状の緩和剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/747 20150101AFI20240919BHJP
A61P 5/24 20060101ALI20240919BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20240919BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240919BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240919BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240919BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P5/24
A61P17/10
A61P25/20
A61P25/22
A61P25/24
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021533993
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2020027754
(87)【国際公開番号】W WO2021015104
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019135979
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11331
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤原 茂
(72)【発明者】
【氏名】菅原 智詞
(72)【発明者】
【氏名】六反 一仁
(72)【発明者】
【氏名】西田 憲生
(72)【発明者】
【氏名】桑野 由紀
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-051835(JP,A)
【文献】特開2007-197334(JP,A)
【文献】特表2010-500306(JP,A)
【文献】国際公開第2018/073963(WO,A1)
【文献】NISHIDA, Kensei et al.,Daily administration of paraprobiotic Lactobacillus gasseri CP2305 ameliorates chronic stress-associated symptoms in Japanense medical students,Journal of Functional Foods,2017年,Vol. 36,p. 112-121
【文献】香川香 他,若年女性の月経前症状とストレス緩和要因や月経へのイメージおよびコーピングとの関連,Jpn. J. Psychosom. Med.,2013年,Vol. 53,p. 748-756
【文献】月経前症候群(premenstrual syndrome: PMS),公益社団法人日本産科婦人科学会WEBサイト,公益社団法人日本産科婦人科学会,2018年06月16日,http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/747
A61P 25/00
A61P 5/24
A61P 17/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する女性ホルモン分泌調節剤。
【請求項2】
前記女性ホルモンが、黄体ホルモン及び/又は卵胞ホルモンである請求項1に記載の女性ホルモン分泌調節剤。
【請求項3】
女性ホルモンの分泌調節によって、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状を緩和するための緩和剤であって、
ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する
、
月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状
を有する女性に摂取される緩和剤。
【請求項4】
前記不快症状が、月経前症候群及び/又は月経前不快気分障害である請求項3に記載の緩和剤。
【請求項5】
前記不快症状が、抑うつ気分、不安感、無気力感、怒り、ニキビの増加、及び帯下の増加からなる群から選択される少なくとも一つの症状である請求項3に記載の緩和剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、該乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する、女性ホルモン分泌調節剤及び不快症状の緩和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生理のある女性の8割には、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状(以下、「月経前不快症状」という)が存在することが知られている。この月経前不快症状は、女性ホルモンが影響して現れる症状であると考えられている。
【0003】
所定の月経前不快症状が連続する月経周期に繰り返して現れると、月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)であると診断されることがあり、日常生活に支障をきたすこともある。PMSやPMDDであると診断された場合、一般的には、カウンセリング、生活指導、食事療法を経た後、対症的に選択的セロトニン再取り込阻害薬(SSRI)や低用量ピルが処方される。低用量ピルは、女性ホルモンを有効成分とする薬剤であり、体外で生成された外因性の女性ホルモンを補充することで症状を緩和する。
【0004】
腸内細菌の生成物質であるエクオールは、女性ホルモンの一種である卵胞ホルモンと同様の作用を示すことが知られている。そして、特許文献1では、ラクトコッカス20-92株が生成するエクオール含有大豆胚軸発酵物を、更年期障害の改善に利用する技術が提案されている。
【0005】
なお、更年期障害は、主に40代や50代の女性に見られる更年期症状のうち、日常生活に支障をきたすほどの症状となったものである。更年期症状は、精神的症状や自律神経失調が主な症状であり、卵巣機能の衰えによる女性ホルモンの低下により現れる症状であると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で提案されている技術は、上述した低用量ピルを用いる技術と同様に、女性ホルモンとして作用する外因性の物質(エクオール)を補充して症状を緩和(改善)する技術であり、女性ホルモンの分泌を調節する技術ではない。
【0008】
本発明は、女性ホルモンの分泌を調節できる新規な技術を提供することを目的とする。また、本発明は、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状を緩和できる新規な技術を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、該乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を摂取することにより、女性ホルモンの分泌を調節できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する女性ホルモン分泌調節剤。
[2]前記女性ホルモンが、黄体ホルモン及び/又は卵胞ホルモンである、[1]に記載の女性ホルモン分泌調節剤。
[3]ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状の緩和剤。
[4]前記不快症状が、月経前症候群及び/又は月経前不快気分障害である[3]に記載の緩和剤。
[5]前記不快症状が、抑うつ気分、不安感、無気力感、怒り、ニキビの増加、及び帯下の増加からなる群から選択される少なくとも一つの症状である[3]に記載の緩和剤。
[6]女性ホルモンの分泌を調節するための、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用。
[7]女性ホルモン分泌調節剤を製造するための、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用。
[8]多嚢胞性卵巣症候群、月経困難症、月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)からなる群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防剤であって、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する、治療及び/又は予防剤。
[9]多嚢胞性卵巣症候群、月経困難症、月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)からなる群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防のための、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用。
[10]多嚢胞性卵巣症候群、月経困難症、月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)からなる群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防剤を製造するための、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用。
[11]月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状を緩和するための、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用。
[12]月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状の緩和剤を製造するための、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、女性ホルモンの分泌を調節できる新規な技術を提供することができる。また、本発明によれば、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状を緩和できる新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】黄体ホルモンの変化量及び卵胞ホルモンの変化量を示すグラフである。
【
図2】精神的な月経前不快症状のスコアの変化値と時間の関係を示すグラフである。
【
図3】身体的な月経前不快症状のスコアの変化値と時間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態は、女性ホルモン分泌調節剤(以下、単に「調節剤」ともいう)に関する。本実施形態の調節剤は、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(以下、単に「CP2305株」ともいう)である乳酸菌株、CP2305株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する。
【0015】
まず、本実施形態の調節剤に用いられるCP2305株について具体的に説明する。なお、以下の説明では、CP2305株と、その処理物と、それらの抽出物を総称し、CP2305株等ともいう。
【0016】
本実施形態の調節剤に用いられるラクトバチルス・ガセリ CP2305株は、乳酸菌株の1種であり、ブダペスト条約の規定に基づく国際寄託機関である独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、2007年9月11日付で受託番号:FERM BP-11331として国際寄託されている。
【0017】
本実施形態の調節剤に用いられるCP2305株は、CP2305株が生育し得る培地であれば、どのような培地で培養されたものであってもよく、特に限定されるものではない。例えば、乳酸菌の培養において一般的に用いられる培地(例えば、MRS培地等の合成培地)で培養されたCP2305株が用いられてもよく、その改変培地で培養されたCP2305株を用いられてもよい。
【0018】
CP2305株を培養する培地で使用される栄養素も、CP2305株が生育し得るものであればよく、特に限定されるものではない。
【0019】
例えば、炭素の供給源(以下、「炭素源」ともいう)としては、通常の微生物の培養に利用されるグルコース、蔗糖、乳糖、糖蜜等を用いることができる。これらの炭素源は、2種類以上を併用してもよい。また、窒素の供給源(以下、「窒素源」ともいう)としては、例えば、ペプトン、カゼイン、カゼイン分解物、ホエー、ホエー分解物を用いることができる。これらの窒素源は、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
CP2305株を培養する培地には、上述した炭素源や窒素源の他に、他の栄養素の供給源を含有させてもよい。このような栄養素の供給源としては、例えば、コーンスティプリカー(CSL)、酵母エキス、肉エキス、肝臓エキス、トマトジュースを挙げることができる。これらの供給源等は、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
また、CP2305株を培養するための培地には、上述した栄養素の供給源の他に、還元剤や、生育促進因子や、緩衝能を付与し得る物質などの他の成分が含有されていてもよい。具体的な還元剤としては、例えば、L-システインを挙げることができる。また、具体的な生育促進因子としては、例えば、ビタミン、核酸関連物質、酢酸塩、クエン酸塩、脂肪酸エステル、ツイーン80を挙げることができ、これらの中でもツイーン80がより好ましい。具体的な緩衝能を付与し得る物質としては、例えば、リン酸塩を挙げることができる。
【0022】
CP2305株の培養法は、CP2305株が生育し得るものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、静置培養や、pHを一定にコントロールした中和培養を用いることができる。
【0023】
CP2305株を培地で培養した場合には、培養物からCP2305株を集菌し、これを本実施形態の調節剤に用いることができる。集菌方法は、特に限定されるものではないが、例えば、遠心分離や膜ろ過を用いることができる。
【0024】
本実施形態の調節剤には、上述したように、CP2305株や、CP2305株の処理物(以下、単に「処理物」ともいう)や、CP2305株及び/又はその処理物の抽出物(以下、単に「抽出物」ともいう)が含有される。即ち、本実施形態の調節剤には、CP2305株、処理物、及び抽出物のうち、少なくとも一つ以上が含有される。
【0025】
本実施形態の調節剤に含有され得るCP2305株には、例えば、CP2305株の生菌や、湿潤菌や、乾燥菌を用いることができる。
【0026】
本実施形態の調節剤に含有され得る処理物には、例えば、CP2305株に物理的処理を施した処理物や、CP2305株に化学的処理を施した処理物を用いることができる。具体的な処理物としては、例えば、CP2305株を含む発酵乳の濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状物、希釈物、破砕物が挙げられる。なお、乾燥物には、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、およびドラム乾燥物からなる群より選択される1種の乾燥物を用いることができる。
【0027】
処理物中のCP2305株は、生菌であってもよく、死菌であってもよい。死菌は、通常、菌体を加熱することにより得ることができる。加熱条件は、菌体が死滅する条件であればよく、特に限定されないが、一般的には、105℃、30分程度の加熱により菌体は死滅する。死菌を得る方法は、上述した加熱する方法に限定されず、放射線により菌体を死滅させる方法や、破砕により菌体を死滅させる方法を用いることができる。
【0028】
本実施形態の調節剤に含有され得る抽出物には、CP2305株を溶媒で抽出した抽出物を用いることができる。抽出に用いる溶媒は、特に限定されるものではないが、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、水、またはこれらの混合溶媒を用いることができる。抽出温度や抽出時間などの抽出条件は、特に限定されるものではなく、菌体の抽出物を得るために一般的に用いられる条件を用いることができる。
【0029】
本実施形態の調節剤の剤型(形態)は、特に限定されるものではなく、医薬品、医薬部外品または飲食品などのあらゆる剤型とすることができる。なお、本実施形態の調節剤の摂取方法は、剤型に応じて適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、経口的に摂取することができる。
【0030】
本実施形態の調節剤は、CP2305株等に加えて、CP2305株等以外の他の成分が含有されていてもよい。例えば、本実施形態の調節剤を医薬品、医薬部外品、又は飲食品とする場合、本実施形態の調節剤には、CP2305株等に加えて、賦型剤、結合剤、安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、食品、飲料などの他の成分が含有されていてもよい。
【0031】
本実施形態の調節剤の剤形は、特に限定されるものではなく、調節剤の剤型(形態)に応じて適宜設定できる。例えば、本実施形態の調節剤を医薬品、医薬部外品、又は飲食品とする場合、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤等の剤形とすることができる。
【0032】
特に、本実施形態の調節剤を飲食品とする場合、通常の飲食品としてもよいが、特定保健用食品等の特別用途食品や、栄養機能食品としてもよい。飲食品の具体例としては、例えば、栄養補助食品(サプリメント)、牛乳、加工乳、乳飲料、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、アイスクリーム、キャンディ、グミ、ガム、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、飼料を挙げることができる。
【0033】
本実施形態の調節剤におけるCP2305株等の配合量は、特に限定されるものではないが、成人の場合、例えば、1日当たり1億個~1000億個のCP2305株(又は、その量に相当するCP2305株の処理物や、その量に相当するCP2305株の抽出物)を摂取できる配合量にすることができる。本実施形態の調節剤の摂取期間は、特に限定されるものではないが、例えば、6回以上の連続する月経周期(つまり、連続して24週以上)とすることができる。
【0034】
以上説明した本実施形態の調節剤を摂取することにより、女性ホルモンの分泌を調節できる。
【0035】
ここで、女性ホルモンの分泌を調節できるとは、本実施形態の調節剤を摂取することにより、本実施形態の調節剤を摂取していないときと比較して、女性ホルモンの分泌量(以下、「女性ホルモン量」ともいう)の変化をより穏やかにできることを指す。つまり、本実施形態の調節剤を摂取した場合には、本実施形態の調節剤を摂取していない場合と比較して、女性ホルモン量の急激な変化を抑制できる。
【0036】
一般的に、黄体期の後期には、女性ホルモン量が減少し、この女性ホルモン量の減少後に月経が生じることが知られている。本実施形態の調節剤を摂取した場合には、例えば、この黄体期の後期における女性ホルモン量の減少を、調節剤を摂取しない場合と比較してより穏やかにすることができる。従って、黄体期の後期における同時期に女性ホルモン量を比較した場合には、本実施形態の調節剤を摂取したときの方が、本実施形態の調節剤を摂取しないときよりも、女性ホルモン量がより高くなる。
【0037】
なお、本明細書において、女性ホルモンとは、特に、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)を指す。また、本明細書において、黄体期とは、排卵から月経が始まるまでの期間を指し、黄体期の後期とは、黄体期を2つに分けたときの後半の期間を指す。
【0038】
本実施形態では、CP2305株等を、女性ホルモンの分泌を調節するために使用したり、女性ホルモン分泌調節剤を製造するために使用したりすることができる。すなわち、本実施形態の一様態には、女性ホルモンの分泌を調節するためのCP2305株等の使用(ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用)や、女性ホルモン分泌調節剤を製造するためのCP2305株等の使用(ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用)が含まれる。なお、女性ホルモンの分泌を調節するために使用されるCP2305株等や、女性ホルモン分泌調節剤を製造するために使用されるCP2305株等は、上述した調節剤のCP2305株等と同一の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0039】
また、本実施形態の調節剤は、上述した通り、女性ホルモン量の変化を穏やかにすることができる。このため、本実施形態の調節剤は、女性ホルモン量の変化を穏やかにすることで、症状が改善されたり発症が予防されたりする、疾患の治療や予防に用いることができる。このような疾患としては、例えば、多嚢胞性卵巣症候群、月経困難症、月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)を挙げることができる。すなわち、本実施形態の調節剤は、多嚢胞性卵巣症候群、月経困難症、月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)からなる群(以下、「疾患群」ともいう)から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防剤とすることができる(本実施形態の調節剤と同一の構成により、疾患群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防剤とすることができる)。
【0040】
上述した実施形態(治療及び/又は予防剤)では、CP2305株等を、疾患群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防のために使用する。すなわち、本実施形態の一様態には、疾患群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防のためのCP2305株等の使用(ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用)が含まれる。なお、疾患群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防のために使用されるCP2305株等は、上述した調節剤のCP2305株等と同一の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0041】
また、上述した実施形態(治療及び/又は予防剤)では、CP2305株等を、疾患群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防剤を製造するために使用する。すなわち、本実施形態の一様態には、疾患群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防剤を製造するためのCP2305株等の使用(ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用)が含まれる。なお、疾患群から選択される少なくとも一つの疾患の治療及び/又は予防剤を製造するために使用されるCP2305株等は、上述した調節剤のCP2305株等と同一の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0043】
本実施形態は、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状の緩和剤に関する。本実施形態の緩和剤は、CP2305株、CP2305株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する。
【0044】
本実施形態の緩和剤は、第1実施形態の調節剤と構成が同じである。このため、本実施形態の緩和剤の構成については、詳細な説明を省略する。なお、本実施形態の緩和剤の摂取期間や摂取方法も、第1実施形態の調節剤と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0045】
本実施形態の緩和剤によれば、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状(以下、「月経前不快症状」ともいう)を緩和できる新規な技術を提供できる。即ち、本実施形態の緩和剤を摂取することにより、月経前不快症状を緩和できる。
【0046】
ここで、月経前不快症状とは、黄体期に現れ、月経期間中に減弱あるいは消失する症状を指す。つまり、月経前不快症状は、月経困難症などの月経期間中に現れる症状や、更年期症状などの月経期間中に減弱あるいは消失しない症状とは異なる概念である。
【0047】
月経前不快症状は、一般的に、女性ホルモンが影響して現れる症状であると考えられている。本実施形態の緩和剤を摂取した場合には、第1実施形態の調節剤を摂取した場合と同様に、女性ホルモンの分泌が調節されるため、月経前不快症状を緩和できると考えられる。
【0048】
なお、月経前不快症状を緩和できるとは、本実施形態の緩和剤を摂取することにより、本実施形態の緩和剤を摂取していないときと比較して、月経前不快症状をより軽減できることを指し、必ずしも、月経前不快症状を生じさせないことを指すものではない。
【0049】
本実施形態の緩和剤で緩和できる月経前不快症状としては、具体的には、例えば、抑うつ気分や、不安感や、無気力感、怒りを挙げることができる。
【0050】
抑うつ気分は、公知文献(標準精神医学第6版(医学書院))によれば、動機もないのに妙に気分が沈むことと定義できる。なお、抑うつ気分の症状が現れた場合、例えば、憂うつで、悲しく、淋しく、しおれがちになる、自信がもてず自己評価が低下し劣等感に悩む、などの感情が認められることがある。
【0051】
不安感は、公知文献(標準精神医学第6版(医学書院))によれば、対象のない恐れを感じることと定義できる。なお、当該公知文献によれば、不安感に対し、恐怖感が、対象のある恐れを感じることと定義できる。不安感の症状が現れた場合には、身体症状を伴うことがあり、例えば、どきどきする(動悸)、胸がしめつけられる、息が苦しい、冷汗が出る、体が震える、ふらふらする(めまい感)、手足のしびれ、脱力感、頻尿、のどが渇く、眠れない、頭痛など、様々な身体症状を伴うことがある。
【0052】
無気力感は、公知文献(ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版(メディカルサイエンス・インターナショナル))によれば、何かをする気力や意欲のないことと定義できる。無気力感の症状が現れた場合、例えば、意欲が低下したり、自発性が低下したり、感情の起伏が小さくなったり、周囲に無関心になったりすることがある。
【0053】
怒りは、公知文献(標準精神医学第6版(医学書院))によれば、感情の興奮性の亢進であり、些細なことで不機嫌になり深い感情が亢進した状態と定義できる。
【0054】
また、本実施形態の緩和剤で緩和できるその他の月経前不快症状としては、例えば、月経前症候群(以下、「PMS」ともいう)や月経前不快気分障害(以下、「PMDD」ともいう)を挙げることができる。
【0055】
PMSは、産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2017(日本産婦人科学会)に記載のある米国産婦人科学会の診断基準に従えば、「過去3回の連続した月経周期のそれぞれにおける月経前5日間に、情緒的症状(精神的な不快症状)および身体的症状(身体的な不快症状)のうち少なくとも1つが存在する症状」と定義できる。PMSにおける情緒的および身体的症状は、例えば、前述した公知文献(産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2017(日本産婦人科学会))に記載されている。
【0056】
なお、前述した公知文献(産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2017(日本産婦人科学会))によれば、PMSにおける情緒的および身体的症状は、月経開始後4日以内に消失し、少なくとも13日目まで再発しないと記載されている。また、前述した公知文献(産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2017(日本産婦人科学会))には、PMSの症状が現れると、社会的・学問的または経済的行動・能力に明確な障害を示すと記載されており、PMSが、日常生活に支障をきたす月経前の身体的・精神的な症状であると理解できる。
【0057】
また、PMDDは、産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2017(日本産婦人科学会)に従えば、PMSと比較し、精神症状(情緒的症状(精神的な症状))が主体で強い症状であると定義できる。PMDDの診断には、例えば、前述した公知文献(産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2017(日本産婦人科学会))に記載される、米国精神医学会の診断基準を用いることができる。
【0058】
さらに、本実施形態の緩和剤で緩和できるその他の月経前不快症状としては、ニキビの増加や帯下の増加を挙げることができる。ここで、ニキビや帯下の増加とは、月経が終了してから黄体期が始まるまでの期間と比較した、月経前(つまり、黄体期)におけるニキビや帯下の増加を指す。また、帯下とは、女性器からの分泌物であり、一般的には、おりものと呼ばれている。
【0059】
本実施形態では、CP2305株等を、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状を緩和するために使用したり、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状の緩和剤を製造するために使用したりすることができる。すなわち、本実施形態の一様態には、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状を緩和するためのCP2305株等の使用(ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用)や、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状の緩和剤を製造するためのCP2305株等の使用(ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用)が含まれる。なお、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状を緩和するために使用されるCP2305株等や、月経前の身体的及び/又は精神的な不快症状の緩和剤を製造するために使用されるCP2305株等は、上述した緩和剤のCP2305株等と同一の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0061】
[試験1(女性ホルモン量)]
CP2305株の加熱死菌と、麦芽糖(賦形剤)と、デキストリン(結合剤)と、でんぷん(結合剤)と、植物油脂(滑沢剤)を混合し、得られた混合物を打錠(圧縮成形)して直径8mmの丸型錠剤(以下、「CP2305錠」ともいう)を得た。CP2305錠の1粒は、0.22gであり、約50億個のCP2305株の加熱死菌を含んでいた。
【0062】
また、CP2305株の加熱死菌にかえて、麦芽糖の量(加熱死菌と同量)を増加したこと以外は、CP2305錠と同様の方法で、直径8mmの丸型錠剤(以下、「Placebo錠」ともいう)を得た。Placebo錠の1粒は、CP2305錠と同様に、0.22gであった。
【0063】
CP2305錠とPlacebo錠(以下、これらを「錠剤」ともいう)を用いて、二重盲検法による無作為化プラセボ比較試験(RCT)を行った。具体的には、月経を有する健常な女性(平均年齢21歳)58名を対象に、CP2305錠を摂取させる群(以下、「CP2305群」ともいう)と、Placebo錠を摂取させる群(以下、「Placebo群」ともいう)の2つの群に分け、錠剤を1日2錠、連続する6回の月経周期の間に継続して摂取させた。なお、錠剤の摂取を開始する日は、月経(1回目の月経)が始まった日に統一した。
【0064】
錠剤の摂取を開始する前の月経(1回目の月経の直前の月経)と、錠剤の摂取を開始した後の6回目の月経のそれぞれについて、月経が始まる前の3~6日目(黄体期後期)に、被験者の唾液を採取し、採取した唾液中の女性ホルモン(黄体ホルモン及び卵胞ホルモン)量を測定した。なお、女性ホルモン量は、SALIMETRICS社のSALIVARY PROGESTERONE ENZYME IMMUNOASSAY KIT及びSALIVARY 17β―ESTRADIOL ENZYME IMMUNOASSAY
KITを使用し、推奨プロトコルに従い測定した。
【0065】
次に、錠剤の摂取後から摂取前の女性ホルモン量の値を減じ、各被験者の女性ホルモンの変化量を求めた。CP2305群とPlacebo群のそれぞれについて、変化量の平均値を算出し、月経が始まる前の3~6日目の女性ホルモン量に対して、錠剤の摂取が及ぼす影響を測定した。結果を
図1に示す。
【0066】
図1から理解できるように、CP2305群では、黄体ホルモン量及び卵胞ホルモン量が両者とも基準値(錠剤の摂取前の女性ホルモン量)よりも高くなっており、一方で、Placebo群では、黄体ホルモン量及び卵胞ホルモン量が両者とも基準値よりも低くなっていた。
【0067】
ここで、唾液を採取した月経前の3~6日目は、上述したように、黄体期の後期に該当し、受精卵が着床しなかった場合、女性ホルモン量が減少していた時期である。このため、この時期に、女性ホルモン量が高くなるということは、女性ホルモン量の減少が緩やかになったこと示す。つまり、
図1に示す結果から、CP2305錠を摂取することにより、Placebo錠を摂取する場合と比較して、女性ホルモン量の減少がより緩やかになったことが理解できる。
【0068】
[試験2(月経前不快症状)]
上述した試験1における錠剤の摂取期間中と摂取開始前に、アンケートを行った。アンケートは、黄体期における月経前不快症状の有無及びその強さを評価するものであり、錠剤の摂取前の月経(1回目の月経の直前の月経)から摂取後の6回目の月経までの計7回の月経について、月経が生じる毎にその月経直前の黄体期を対象として評価した。
【0069】
アンケートで評価した月経前不快症状は、具体的には、抑うつ気分、不安感、無気力感、怒り、興味なし、ニキビの増加、及び帯下の増加の7項目であった。なお、言葉の定義を明確化するため、アンケートの前には、抑うつ気分、不安感、無気力感及び怒りの評価項目については、上述した公知文献に基づく定義を各被験者に伝えた。
【0070】
アンケートにおいて、月経前不快症状の有無及びその強さの評価には、視覚的評価スケール(VAS(VisualAnalog Scale))を用いた。VASは、症状が無いものをスコア0とし、症状がとても強いものをスコア100としたときに、今回の症状がスコア0とスコア100の間のどの位置にあるかを記入していくものである。
【0071】
なお、アンケートの評価項目のうち、抑うつ気分、不安感及び興味なしの評価項目は、公知文献(「Thepremenstrual tensionsyndrome rating scales: an updated version.」、Journal of Affective Disorders、2011年、Vol.135、p82-88)において、PMTS-VASの評価項目であり、PMSやPMDDをスクリーニングするために有効な尺度として記載されている。
【0072】
結果を
図2及び
図3に示す。なお、
図2及び
図3に示すグラフは、錠剤の摂取による影響のない錠剤摂取前のアンケートのスコアを基準(スコアの変化値0)としたスコアの変化値を示しており、横軸は月経周期を示している。
【0073】
図2及び
図3に示すように、いずれの評価項目においても、CP2305群では、Placebo群と比較し、有意に月経前不快症状が緩和された。この結果から、CP2305錠を摂取することにより、Placebo錠を摂取する場合と比較して、月経前不快症状を緩和できることが理解できた。また、特に、月経周期の6周期目に近づくにつれて、月経前不快症状がより緩和されていく傾向となった。