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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】被膜及び被膜形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20240919BHJP
   C09D 133/16 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C09K3/18 102
C09D133/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020185466
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2021075716
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019201078
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】賀川 みちる
(72)【発明者】
【氏名】山口 央基
(72)【発明者】
【氏名】井上 僚
(72)【発明者】
【氏名】森田 正道
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-279829(JP,A)
【文献】特開平08-134437(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18
C09K3/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/16
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、第2の重合体とを含み、
前記第1の重合体及び前記第2の重合体の少なくとも一方は、アルキル基又はフルオロアルキル基を有し、かつ、
前記第2の重合体は、分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物に基づく構造単位を有する重合体を含み、
前記第1の重合体は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX 基(但し、X およびX は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH CH N(R )SO -基(但し、R は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がR に、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH CH(OY )CH -基(但し、Y は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がR に、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH SO -基(nは1~10であり、式の右端がR に、左端がOにそれぞれ結合している。)を示し、R は炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含み、
前記微粒子の平均粒子径が1μm以上である、被膜。
【請求項2】
前記微粒子の比表面積が30~700m/gである、請求項1に記載の被膜。
【請求項3】
少なくとも一種の微粒子を含む被膜であって、
前記微粒子は第1の重合体で被覆されてなる複合粒子であり、
前記第1の重合体は、下記一般式(1):
【化2】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX 基(但し、X およびX は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH CH N(R )SO -基(但し、R は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がR に、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH CH(OY )CH -基(但し、Y は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がR に、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH SO -基(nは1~10であり、式の右端がR に、左端がOにそれぞれ結合している。)を示し、R は炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含み、
水の接触角が、150°以上であり、
紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角が150°以上であり、鉛筆硬度が2B以上である、被膜。
【請求項4】
前記微粒子の平均粒子径が1μm以上である、請求項に記載の被膜。
【請求項5】
前記微粒子の比表面積が30~700m/gである、請求項3又は4に記載の被膜。
【請求項6】
被膜形成用組成物であって、
微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子;及び
分子内に2つ以上の重合性基を有する、少なくとも一種の化合物を含み、
前記第1の重合体は、下記一般式(1):
【化3】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX 基(但し、X およびX は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH CH N(R )SO -基(但し、R は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がR に、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH CH(OY )CH -基(但し、Y は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がR に、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH SO -基(nは1~10であり、式の右端がR に、左端がOにそれぞれ結合している。)を示し、R は炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含み、
前記微粒子の平均粒子径が1μm以上である、被膜形成用組成物。
【請求項7】
前記微粒子の比表面積が30~700m/gである、請求項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項8】
硬化後の被膜は、
水の接触角が、150°以上であり、
紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角が、150°以上であり、鉛筆硬度が2B以上である、請求項6又は7に記載の被膜形成用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被膜及び被膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超撥液性を対象物の表面に付与しうる被膜が種々提案されている(なお、本明細書において、超撥液性を対象物の表面に付与しうる被膜を「超撥液性被膜」ということがある)。
【0003】
例えば、特許文献1には、重合性基を有する微粒子及び分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物を用いることで、超撥液性及び耐摩耗性を両立した超撥液性被膜を形成できることが開示されている。特許文献2には、フッ素原子を含む被膜であって、被膜の諸性能を適切に制御することで、超撥液性及び耐摩耗性を両立した超撥液性被膜を形成できる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/056663号
【文献】国際公開第2017/179678号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度も高い被膜及び該被膜を形成することができる被膜形成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本開示は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、第2の重合体とを含み、
前記第1の重合体及び前記第2の重合体の少なくとも一方は、アルキル基又はフルオロアルキル基を有し、かつ、
前記第2の重合体は、分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物に基づく構造単位を有する重合体を含み、
前記微粒子の平均粒子径が1μm以上である、被膜。
項2
前記微粒子の比表面積が30~700m/gである、項1に記載の被膜。
項3
前記第1の重合体は、下記一般式(1):
【0007】
【化1】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX基(但し、XおよびXは、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CHCHN(R)SO-基(但し、Rは炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がRに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CHCH(OY)CH-基(但し、Yは水素原子またはアセチル基であり、式の右端がRに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CHSO-基(nは1~10であり、式の右端がRに、左端がOにそれぞれ結合している。)を示し、Rは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含む、項1又は2に記載の被膜。
項4
少なくとも一種の微粒子を含む被膜であって、
水の接触角が、150°以上であり、
紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角が150°以上であり、鉛筆硬度が2B以上である、被膜。
項5
前記微粒子の平均粒子径が1μm以上である、項4に記載の被膜。
項6
前記微粒子の比表面積が30~700m/gである、項4又は5に記載の被膜。
項7
被膜形成用組成物であって、
微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子;及び
分子内に2つ以上の重合性基を有する、少なくとも一種の化合物を含み、
前記微粒子の平均粒子径が1μm以上である、被膜形成用組成物。
項7-1
前記第1の重合体は、上述の一般式(1)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含む、項7に記載の被膜形成用組成物。
項8
前記微粒子の比表面積が30~700m/gである、項7に記載の被膜形成用組成物。項9
硬化後の被膜は、
水の接触角が、150°以上であり、
紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角が、150°以上であり、鉛筆硬度が2B以上である、項7又は8に記載の被膜形成用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本開示の被膜は、優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度も高い。また、本開示の被膜形成用組成物によれば、優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度も高い被膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
超撥液性被膜に対しては、近年、超撥液性及び耐摩耗性に加えて、硬度を高くすることが求められている。なぜなら、硬度を高くすることによって、被膜が摩耗されたとしても剥がれがにくくなって、超撥液性被膜の耐久性が向上するからである。この点、従来の超撥液性被膜は、超撥液性及び耐摩耗性に優れるものの、硬度が比較的低く、硬度を高めるという観点の検討は詳細にはなされていない。
【0010】
本発明者らは、かかる事情に鑑み、優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度も高い被膜を形成することを目的として鋭意研究を重ねた。その結果、被膜中に平均粒子径が1μm以上である微粒子を構成要素として少なくとも含有させることで、上記目的を達成できることを見出した。一般的には、被膜に含まれる微粒子は、その平均粒子径を小さくすることで(例えば、1μm以下のナノオーダーとすることで)、被膜の諸性能が向上すると認識されているところ、本発明者らは、逆に微粒子の平均粒子径を大きくすることが、超撥液性及び耐摩耗性を維持しつつ、硬度を向上させることにつながることを見出している。
【0011】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を夫々最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。
【0013】
本開示の被膜は、被膜A及び被膜Bの2種類に大別することができる。被膜A及び被膜Bのいずれにおいても、優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度が高いものである。以下、被膜A及び被膜Bを順に説明する。
【0014】
1.被膜A
本開示の被膜Aは、微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、第2の重合体とを少なくとも含む。本開示の被膜Aにおいて、前記第1の重合体及び前記第2の重合体の少なくとも一方は、アルキル基又はフルオロアルキル基を有し、かつ、前記第2の重合体は、分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物に基づく構造単位を有する重合体を含み、前記微粒子の平均粒子径が1μm以上である。
【0015】
(複合粒子)
本開示の被膜Aにおいて、複合粒子は、微粒子が第1の重合体で被覆されてなる。特に、複合粒子は、微粒子の表面と第1の重合体とが化学結合を形成している。化学結合は、例えば、共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合及びファンデルワールス力等を挙げることができ、好ましくは共有結合である。
【0016】
微粒子の種類は特に限定されず、例えば、シリカ微粒子、その他の金属酸化物微粒子、カーボンブラック、フラーレン及びカーボンナノチューブ等を挙げることができる。被膜Aが硬くなりやすいという点で、微粒子はシリカであることが好ましい。
【0017】
前記微粒子の平均粒子径は1μm以上である。微粒子の平均粒子径が1μm未満となると、所望の硬さを有する被膜とならない。前記微粒子の平均粒子径は、2μm以上であることがより好ましい。前記微粒子の平均粒子径の上限は特に限定されず、例えば、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。
【0018】
本開示の被膜Aにおいて、前記微粒子の平均粒子径の測定方法は、以下に示す手順に従う。まず、被膜を加熱処理することで、被膜中の有機成分を焼失させ、これにより、被膜A中の微粒子を分離することができる。加熱処理は、窒素ガス雰囲気下、300℃で3時間行う。得られた微粒子を、走査型電子顕微鏡によって直接観察し、撮影画像中の微粒子を200個選択して、これらの円相当径を計測して算術平均した値を、被膜A中の微粒子の平均粒子径とする。なお、本明細書では、微粒子の平均粒子径とは、微粒子の一次粒子の平均粒子径のことをいう。
【0019】
前記微粒子の比表面積は特に限定されず、例えば、被膜の硬度が向上しやすい点で、30~700m/gであることが好ましく、100~300m/gであることがさらに好ましい。
【0020】
本開示の被膜Aにおいて、前記微粒子の比表面積は、BET法によって計測された値(いわゆるBET比表面積)を意味する。被膜Aから比表面積を計測するための微粒子を分離させる方法は、前述の被膜A中の微粒子の平均粒子径の測定方法における微粒子の分離方法と同様である。
【0021】
微粒子の形状も特に限定されず、例えば、球状、楕円球状等を挙げることができ、また、異形状等の不定形粒子であってもよい。
【0022】
微粒子を被覆している第1の重合体の種類は特に限定されず、例えば、公知の高分子化合物を広く採用することができる。第1の重合体は、例えば、フッ素原子を有していてもよいし、フッ素原子を有していなくてもよい。
【0023】
第1の重合体は、例えば、下記式(1)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含むことができる。念のための注記に過ぎないが、本明細書において、「化合物に基づく構造単位」とは、斯かる化合物が重合された場合に形成される繰り返しの構成単位を示し、化合物そのものを示すわけではない。
【0024】
【化2】
【0025】
前記式(1)中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX基(但し、XおよびXは、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示す。Xが炭素数3以上のアルキル基である場合、これらは環状又は非環状のいずれであってもよく、その炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~2である。Xがフルオロアルキル基である場合、これらは環状又は非環状のいずれであってもよい。また、アルキル基及びフルオロアルキル基の炭素数はいずれも、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2である。
【0026】
前記式(1)中、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CHCHN(R)SO-基(但し、Rは炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がRに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CHCH(OY)CH-基(但し、Yは水素原子またはアセチル基であり、式の右端がRに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CHSO-基(nは1~10であり、式の右端がRに、左端がOにそれぞれ結合している。)を示す。「直接結合」とは、前記式(1)において、Yの両端のRとOとが直接結合していることを意味し、つまりは、Yは元素を含まないことを意味する。Yが炭素数1~10の炭化水素基である場合、具体的には、炭素数1~10のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1~2のアルキレン基である。
【0027】
前記式(1)中、Rは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。フルオロアルキル基は、例えば、パーフルオロアルキル基であることが好ましく、フルオロポリエーテル基は、例えば、パーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0028】
式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、前述の特許文献1に開示されているアクリル酸エステルを広く挙げることができる。
【0029】
中でも、撥水性及び撥油性に優れるという観点から、式(1)で表される化合物は、Xが水素原子又はフッ素原子であり、Yが炭素数1~10のアルキレン基(好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1~2のアルキレン基)であり、Rが炭素数2~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数2~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又はフルオロポリエーテル基である組み合わせを挙げることができる。より好ましい式(1)で表される化合物は、Xが水素原子、Yが炭素数1~2のアルキレン基、Rが炭素数2~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基である。
【0030】
式(1)で表される化合物の具体な化合物を例示すると、フルオロアルキル基の炭素数が1~6のフルオロアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0031】
第1の重合体が式(1)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含む場合、重合体に含まれる式(1)で表される化合物に基づく構造単位は1種単独及び2種以上のいずれであってもよい。
【0032】
第1の重合体の分子量は特に限定されず、例えば、公知のラジカル重合で形成される程度の質量平均分子量の範囲とすることができる。第1の重合体は、ただ一種の構造単位で形成されるホモポリマーであってもよいし、二種以上の構造単位で形成されるコポリマーであってもよい。コポリマーである場合、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー等のいずれの形態であってもよい。
【0033】
第1の重合体は、式(1)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体のみで形成されていてもよいし、式(1)で表される化合物に基づく構造単位以外の構造単位を有することもできる。第1の重合体に含まれる式(1)で表される化合物に基づく構造単位の総含有量は、例えば、50質量%以上であり、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
【0034】
複合粒子を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。例えば、後記するように、表面に重合性基又は重合に関与する官能基を有する微粒子と、式(1)で表される化合物とを用いて製造することができる。
【0035】
(第2の重合体)
本開示の被膜Aにおいて、第2の重合体は、被膜のバインダーとしての役割を果たし得る成分である。前記第2の重合体は、分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物に基づく構造単位を有する重合体を含む。斯かる構造単位を有する限り、第2の重合体の種類は特に限定されず、公知の重合体を広く使用することができる。
【0036】
分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物の種類は特に限定されず、例えば、公知の化合物を広く採用することができる。分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物は、例えば、フルオロアルキル基を有していてもよいし、フルオロアルキル基を有していなくてもよい。重合性基は特に限定されず、例えば、逐次重合性基として、イソシアネート基、水酸基、アミン基、カルボキシ基などがあげられ、連鎖重合性基として、ラジカル重合性基、カチオン重合性基及びアニオン重合性基等が挙げられ、最も汎用的なラジカル重合性基の具体例として、ビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、マレイミド基等が挙げられる。特に、分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物は、後記する硬化剤であることが好ましい。分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物において、重合性基の上限は、例えば6とすることができる。
【0037】
第2の重合体としては、例えば、各種の熱硬化性樹脂が硬化剤で架橋された構造を有する重合体を挙げることができる。以下、熱硬化性樹脂及び硬化剤を説明する。
【0038】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂は、フルオロアルキル基を有していてもよいし、フルオロアルキル基を有していなくてもよい。被膜の撥水性が向上しやすいという観点から、熱硬化性樹脂はフルオロアルキル基を有していることが好ましい。
【0039】
熱硬化性樹脂は、例えば、後記する硬化剤と熱により反応して硬化反応が進行する化合物であることが好ましい。従って、熱硬化性樹脂は、例えば、分子中に水酸基、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基等の反応性官能基を有する化合物であることが好ましい。この場合において、斯かる化合物はさらに、フルオロアルキル基を有していることが好ましい。
【0040】
このような観点から、熱硬化性樹脂としては、反応性官能基を有する含フッ素重合体を適用することが好ましい。含フッ素重合体としては、例えば、
(a)テトラフルオロエチレン構造単位、
(b)水酸基とカルボキシル基とを含まない非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位、
(c)芳香族基とカルボキシル基とを含まない水酸基含有ビニルモノマー構造単位、
(e)水酸基と芳香族基とを含まないカルボキシル基含有モノマー構造単位および
(f)その他モノマー構造単位(ただし、(d)水酸基とカルボキシル基とを含まない芳香族基含有モノマー構造単位を含まない)
からなる重合体を挙げることができる。以下、この重合体を「重合体F」と表記する。熱硬化性樹脂が重合体Fである場合、被膜の耐水性が特に向上する。
【0041】
前記(a)テトラフルオロエチレン構造単位の含有割合は、重合体Fの全量中、下限が20モル%、好ましくは30モル%、より好ましくは40モル%、特に好ましくは42モル%であり、上限が49モル%、好ましくは47モル%である。
【0042】
前記非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位(b)を与えるモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニルなどの1種または2種以上があげられる。これらのモノマーは水酸基とカルボキシル基とを含まない非芳香族系モノマーである。特に好ましい非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位(b)を与えるモノマーは、耐候性等に優れる点からバーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる1種である。これらのなかでも耐薬品性の点から、非芳香族系カルボン酸ビニルエステル、特にカルボン酸の炭素数が6以上のカルボン酸ビニルエステル、さらに好ましくはカルボン酸の炭素数が9以上のカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルにおけるカルボン酸の炭素数の上限は20以下、さらには15以下が好ましい。具体例としてはバーサチック酸ビニルが最も好ましい。
【0043】
前記非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位(b)の含有割合は、重合体Fの全量中、下限が25モル%、好ましくは30モル%であり、上限が69.9モル%、好ましくは60モル%、より好ましくは43モル%、特に好ましくは40モル%である。
【0044】
前記水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)を与えるモノマーはカルボキシル基を含まない非芳香族系のモノマーであり、たとえば式(2)で表わされるヒドロキシアルキルビニルエーテル又はヒドロキシアルキルアリルエーテルがあげられる。
CH=CHR10 (2)
【0045】
ここで、式(2)中、R10は-OR20または-CHOR20(ただし、R20は水酸基を有するアルキル基である。)を表す。R20としては、たとえば炭素数1~8の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基に1~3個、好ましくは1個の水酸基が結合したものである。例としては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-2-メチルブチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテルなどの1種または2種以上が挙げられる。中でも、前記水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)を与えるモノマーは、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテルが好ましい。
【0046】
この水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)の存在によって、被膜の加工性、耐衝撃性、耐汚染性を改善することができる。
【0047】
水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)の含有割合は、重合体Fの全量中、下限が8モル%、好ましくは10モル%であり、さらに好ましくは15モル%、上限が30モル%、好ましくは20モル%である。
【0048】
重合体Fは基本的には(a)、(b)及び(c)(ただし、各単位の内では2種以上共重合してもよい)構成することができるが、10モル%までは他の共重合可能なモノマー構造単位(f)を含むことができる。他の共重合可能なモノマー構造単位(f)は、前記(a)、(b)および(c)のほか芳香族基含有モノマー構造単位(d)およびカルボキシル基含有モノマー構造単位(e)以外のモノマー構造単位である。
【0049】
他の共重合可能なモノマー構造単位(f)を与えるモノマーとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル;エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテンなどの非フッ素系のオレフィン等が挙げられる。他の共重合可能なモノマー構造単位(f)が含まれる場合、その含有割合は、重合体F中、10モル%以下、好ましくは5モル%未満、さらに好ましくは4モル%以下である。
【0050】
重合体Fはさらに、(d)水酸基とカルボキシル基とを含まない芳香族基含有モノマー構造単位を含むこともできる。(d)水酸基とカルボキシル基とを含まない芳香族基含有モノマー構造単位としては、例えば、安息香酸ビニル、パラ-t-ブチル安息香酸ビニルなどの安息香酸ビニルモノマーなどの1種または2種以上が挙げられ、特にパラ-t-ブチル安息香酸ビニル、さらには安息香酸ビニルが好ましい。
【0051】
芳香族基含有モノマー構造単位(d)の含有割合は、重合体F中、下限が2モル%、好ましくは4モル%であり、上限は15モル%、好ましくは10モル%、より好ましくは8モル%である。
【0052】
重合体Fはさらに、(e)水酸基と芳香族基とを含まないカルボキシル基含有モノマー構造単位を含むこともできる。カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、3-アリルオキシプロピオン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸無水物、フマル酸、フマル酸モノエステル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニルなどの1種または2種以上が挙げられる。中でも、単独重合性の低いクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、3-アリルオキシプロピオン酸が好ましい。
【0053】
カルボキシル基含有モノマー構造単位(e)の含有割合は、重合体F中、下限が0.1モル%、好ましくは0.4モル%であり、上限が2.0モル%、好ましくは1.5モル%である。
【0054】
重合体Fは、テトラヒドロフランを溶離液として用いるゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定する数平均分子量は、例えば、1000から1000000、好ましくは3000から50000である。示差走査熱量計(DSC)により求める重合体Fのガラス転移温度(2nd run)は、例えば、10~60℃、好ましくは20~40℃である。重合体Fの製造方法も特に限定されず、公知の製造方法を広く採用することができる。また、重合体Fは市販品等からの入手も可能である。
【0055】
重合体Fの具体例としては、ダイキン工業社製のゼッフル(登録商標)GKシリーズ等が挙げられる。
【0056】
<硬化剤>
硬化剤の種類は特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂用の硬化剤として使用される化合物を広く適用することができる。特に、硬化剤は、前述の分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物であることが好ましい。
【0057】
硬化剤の具体例としては、イソシアネート系硬化剤が挙げられる。イソシアネート系硬化剤としては、例えば、イソシアネート基を有する化合物(以下、単にイソシアネート化合物と表記)が挙げられる。イソシアネート化合物は、たとえば、下記一般式(20)で表されるが挙げられる。
【0058】
【化3】
【0059】
式(20)中、Zは、少なくとも一つの末端にイソシアネート基を有する、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよく、炭素-炭素間不飽和結合を有していてもよい、直鎖状又は分岐状の1価の炭化水素基又はカルボニル基であり、Rは、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、炭素-炭素間不飽和結合を有していてもよい、分岐状又は環状の2価以上の炭化水素基又はカルボニル基であり、かつ、oは2以上の整数である。
【0060】
は、好ましくは、炭素数1~20であり、より好ましくは炭素数2~15であり、さらに好ましくは炭素数3~10である。
【0061】
は、好ましくは、炭素数1~20であり、より好ましくは炭素数2~15であり、さらに好ましくは炭素数3~10である。
【0062】
イソシアネート化合物は、1種で用いてもよく、又は複数を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
イソシアネート化合物としては、例えば、ポリイソシアネートを挙げることができる。本明細書において、ポリイソシアネートとは、分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物を意味する。イソシアネート化合物は、ジイソシアネートを三量体化することにより得られるポリイソシアネートであってもよい。かかるジイソシアネートを三量体化することにより得られるポリイソシアネートは、トリイソシアネートであり得る。ジイソシアネートの三量体であるポリイソシアネートは、これらが重合した重合体として存在してもよい。
【0064】
ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等のイソシアネート基が脂肪族基に結合したジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等のイソシアネート基が芳香族基に結合したジイソシアネートが挙げられる。
【0065】
具体的なポリイソシアネートとしては、特に限定するものではないが、下記の構造を有する化合物が挙げられる。
【0066】
【化4】
【0067】
これらのポリイソシアネートは重合体として存在してもよく、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート型ポリイソシアネートである場合、下記構造を有する重合体を有していてもよい。
【0068】
【化5】
【0069】
好ましい実施形態において、イソシアネート化合物は、イソシアヌレート型ポリイソシアネートである。
【0070】
上記イソシアヌレート型ポリイソシアネートは、これらが重合した重合体であってもよい。イソシアヌレート型ポリイソシアネートは、イソシアヌレート環を1つのみ有する単環式化合物であってもよく、又はこの単環式化合物が重合して得られる多環式化合物であってもよい。
【0071】
二種以上のイソシアネート化合物を用いる一の態様において、イソシアヌレート環を1つのみ有する単環式化合物を含む混合物を用いることができる。
【0072】
二種以上のイソシアネート化合物を用いる別の態様において、イソシアヌレート型ポリイソシアネートであるイソシアネート化合物を含む混合物を用いることができる。イソシアヌレート型ポリイソシアネートは、例えば、トリイソシアネートであってもよく、具体的には、ジイソシアネートを三量体化することにより得られるトリイソシアネートであってもよい。
【0073】
イソシアネート化合物の具体例としては、例えば、スミジュール(登録商標)N3300(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュール(登録商標)N3600(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュールT、L、IL、HLシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュール(登録商標)2460M(住化コベストロウレタン株式会社製)、スミジュール(登録商標)44シリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、SBUイソシアネートシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュール(登録商標)E、Mシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、スミジュールHT(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュールNシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュールZ4470シリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デュラネートTPA-100(旭化成株式会社製)、デュラネートTKA-100(旭化成株式会社製)、デュラネート24A-100(旭化成株式会社製)、デュラネート22A-75P(旭化成株式会社製)及びデュラネートP301-75E(旭化成株式会社製)として市販されているもの等を用いることができる。
【0074】
熱硬化性樹脂成分が硬化剤を含む場合、その含有割合は、熱硬化性樹脂の全質量に対して10~30質量%とすることができる。
【0075】
(被膜Aの構成及び性質)
本開示の被膜Aは、前述のように、微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、第2の重合体とを少なくとも含む。被膜中の両者の含有割合は特に制限されず、任意とすることができる。例えば、被膜が優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度が高くなりやすいという点において、複合粒子及び第2の重合体の全質量に対して、複合粒子は30~70質量%含まれることが好ましい。
【0076】
本開示の被膜Aにおいて、微粒子を被覆している第1の重合体及び前記第2の重合体の少なくとも一方はアルキル基又はフルオロアルキル基を有し、好ましくは、フルオロアルキル基を有し、より好ましくは、パーフルオロアルキル基を有する。この場合、被膜Aは、優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しやすい。特に、第1の重合体及び前記第2の重合体の両方がアルキル基又はフルオロアルキル基を有し、フルオロアルキル基を有することが好ましく、両方がパーフルオロアルキル基を有することがさらに好ましい。この場合、被膜Aは、さらに優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しやすい。
【0077】
第1の重合体がパーフルオロアルキル基を有する場合、例えば、前記式(1)で表される化合物において、Rがパーフルオロアルキル基である。第2の重合体がパーフルオロアルキル基を有する場合、例えば、熱硬化性樹脂がパーフルオロアルキル基を有する。
【0078】
被膜Aは、例えば、フッ素の含有量が80質量%以下となり得る。あるいは、被膜Aは、フッ素を含まなくても良い。被膜A中、フッ素の含有量は1~75質量%であることが好ましく、より好ましくは5~70質量%である。フッ素の含有量が上記範囲であることで、被膜Aは、より強い撥液性及び耐摩耗性を発揮し得る。
【0079】
本開示において、被膜中のフッ素含有量は、X線光電子分光法(XPS)測定により得られる元素組成におけるF元素の含有量として定義される。XPS測定は、市販の装置[例:ESCA3400(製品名)(SHIMADZU)、PHI5000 VersaProbe II(製品名)(UlVAC-PHI)を使用して実施される。
【0080】
被膜Aは、その表面の平均表面粗さRaが、0.5~20μmとなり得る、より好ましくは0.6~17.5μmであり、さらに好ましくは0.7~15μmである。平均表面粗さRaが上記の範囲内であることにより、より強い撥液性及び耐摩耗性を発揮し得る。
【0081】
被膜Aは、水接触角は150°以上となり得る。これにより、被膜Aは優れた撥水性が発揮され得る。
【0082】
被膜Aは、n-ヘキサデカンの接触角は80°以上となり得る。これにより、被膜Aは優れた撥油性が発揮され得る。
【0083】
被膜Aは、紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角が、150°以上である。これにより、被膜Aは耐摩耗性を有し得る。本開示において、紙製ウエスとは、日本製紙クレシア製社製「キムワイプ」(登録商標)を示す。
【0084】
被膜Aの鉛筆硬度が2B以上になり得る。これにより、被膜Aは優れた硬度が発揮され得る。被膜Aの鉛筆硬度は、好ましくは2B以上、より好ましくはB以上である。
【0085】
被膜Aは、前記複合粒子及び前記第2の重合体以外のその他成分を含むこともできる。被膜Aがその他成分を含む場合、その他成分の含有量は、前記複合粒子及び前記第2の重合体の全質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。被膜Aは、前記複合粒子及び前記第2の重合体のみで形成されていてもよい。
【0086】
被膜Aは、優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度も高いことから、従来よりも剥がれが生じにくく、耐久性に優れる。従って、被膜Aは、被膜は、撥水性及び/又は撥油性を被処理面に付与するために用いられ、超撥液性が要求される種々の物品等に好適に使用することができる。
【0087】
本開示の被膜Aの用途は特に限定されず、例えば、撥水撥油剤、着霜遅延用途、防氷効果剤、防雪効果剤、指紋付着防止剤、指紋不認化剤、低摩擦剤、潤滑剤、タンパク質付着制御剤、細胞付着制御剤、微生物付着制御剤、スケール付着抑制剤、防カビ剤、防菌剤、等に本開示の被膜Aを好適に使用することができる。
【0088】
(被膜Aの形成方法)
被膜Aの形成方法は特に限定されず、例えば、下記の被膜形成用組成物を用いる公知の方法を採用することができる。
【0089】
<被膜形成用組成物>
被膜形成用組成物は、例えば、微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、分子内に2つ以上の重合性基を有する、少なくとも一種の化合物A2(以下、単に「化合物A2」と表記)とを含むことができる。ここで、微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子は、前述の被膜Aに含まれる複合粒子と同一である。また、化合物A2は、例えば、前述の硬化剤と同一であり、一例としては前述のイソシアネート化合物である。被膜形成用組成物は、さらに、前記熱硬化性樹脂を含むこともできる。
【0090】
複合粒子は、例えば、表面に重合性基又は重合に関与する官能基を有する微粒子と、式(1)で表される化合物とを用いて製造することができる。
【0091】
表面に重合性基又は重合に関与する官能基を有する微粒子において、微粒子は、前記同様、シリカ微粒子、その他の金属酸化物微粒子、カーボンブラック、フラーレン及びカーボンナノチューブ等を挙げることができる。被膜Aが硬くなりやすいという点及び重合性基含有化合物や重合開始基含有化合物を表面に修飾させやすい点で、微粒子はシリカであることが好ましい。
【0092】
微粒子表面の重合性基は特に限定されず、例えば、ラジカル重合性基、カチオン重合性基及びアニオン重合性基等が挙げられる。汎用性や反応性の点で、ラジカル重合性基が好ましく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、マレイミド基、等が挙げられる。表面に重合性基を有する微粒子を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。また、表面に重合性基を有する微粒子は、市販品等から入手することもできる。また、微粒子表面の重合に関与する官能基としては、ラジカル重合の開始剤に基づく基あるいは連鎖移動剤に基づく基が挙げられる。ラジカル重合の開始剤に基づく基として、アゾ基、ベルオキシ基等が挙げられ、連鎖移動剤に基づく基の具体例として、チオール基が挙げられる。
【0093】
表面に重合性基を有する微粒子の平均粒子径は1μm以上である。微粒子の平均粒子径が1μm未満となると、所望の硬さを有する被膜とならない。前記微粒子の平均粒子径は、2μm以上であることがより好ましい。前記微粒子の平均粒子径の上限は特に限定されず、例えば、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。
【0094】
被膜形成用組成物において、表面に重合性基を有する微粒子の平均粒子径の測定方法は、以下に示す手順に従う。被膜形成用組成物の揮発分成分を加熱処理(300℃、3時間)により除去し、得られた微粒子を走査型電子顕微鏡によって直接観察し、撮影画像中の微粒子を200個選択して、これらの円相当径を計測して算術平均した値を、被膜形成用組成物中の微粒子の平均粒子径とする。なお、本開示の組成物においては、微粒子の平均粒子径を複合粒子の平均粒子径とみなすことができる。
【0095】
表面に重合性基を有する微粒子の比表面積は特に限定されず、例えば、得られる被膜の硬度が向上しやすい点で、30~700m/gであることが好ましく、100~300m/gであることがさらに好ましい。
【0096】
被膜形成用組成物において、前記微粒子の比表面積は、BET法によって計測された値(いわゆるBET比表面積)を意味する。被膜形成用組成物中の微粒子は、被膜形成用組成物の揮発分成分を加熱処理により除去することで得ることができる。
【0097】
複合粒子は、表面に重合性基を有する微粒子と、式(1)で表される化合物との重合反応により製造することができる。これにより、微粒子表面の重合性基は式(1)で表される化合物と重合反応し、微粒子表面と式(1)で表される化合物とが化学結合(共有結合)する。重合反応としては、例えば、ラジカル重合である。
【0098】
表面に重合性基を有する微粒子と、式(1)で表される化合物との重合反応の条件は特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。この重合反応は、重合溶媒の中で行うことができる。また、重合反応では重合開始剤を使用することもできる。重合溶媒及び重合開始剤の種類は特に限定されず、重合反応用いられる公知の溶媒及び重合開始剤を広く使用することができる。例えば、重合溶媒としては、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素系溶剤の他、アルコール化合物、水、またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0099】
被膜形成用組成物は必要に応じて溶媒を含むことができる。溶媒の種類も限定されず、例えば、被膜を形成するために使用されている溶媒を広く使用することができ、例えば、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素系溶剤、アルコール化合物、エステル化合物(酢酸エチル等)、エーテル化合物等を挙げることができる。
【0100】
被膜形成用組成物に含まれる溶媒の含有割合は特に限定されず、例えば、複合粒子、熱硬化性樹脂及び化合物A2の全質量に対して、80~95質量%とすることができる。
【0101】
被膜形成用組成物は、前記複合粒子及び化合物A2、並びに重合開始剤及び溶媒以外の他の添加剤を含むこともできる。被膜形成用組成物が他の添加剤を含む場合、その含有割合は、例えば、前記複合粒子及び前記化合物A2の全質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。
【0102】
被膜形成用組成物の調製方法も特に限定されない。例えば、複合粒子と、熱硬化性樹脂と、化合物A2(例えば硬化剤)とを、適宜の混合手段等を用いて調製することができる。この調製において、複合粒子は分散液の状態で混合してもよい。分散液の固形分濃度は、例えば、5~20質量%とすることができる。
【0103】
被膜形成用組成物を用いて被膜Aを形成する方法は特に限定されない。例えば、被膜形成用組成物を、被膜を形成するための基材に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を重合することで、被膜を形成することができる。
【0104】
被膜形成用組成物の塗膜を形成するための基材の種類は特に限定されず、被膜形成用組成物の塗布が可能な基材を広く使用することができる。基材としては、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、繊維等の各種の基材を挙げることができ、具体的には、アクリル樹脂基材、ポリカーボネート樹脂機材等を挙げることができる。また、基材は、単一の材料で形成されていてもよいし、二種以上の材料の複合体であっていてもよい。基材上には、必要に応じて塗布を容易にするために各種のプライマー処理を施すこともできる。
【0105】
被膜形成用組成物の塗布方法も特に制限されず、公知の塗膜形成方法を広く採用することができる。被膜形成用組成物の塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、スプレー、スピンコート、ディスペンサー等の方法が挙げられる。塗布後、必要に応じ、適宜の処理を行うことで目的の被膜を基材上に形成することができる。
【0106】
被膜形成用組成物の硬化方法も特に限定されず、例えば、熱硬化等の種々の方法を採用することができる。熱硬化を採用する場合、被膜形成用組成物の塗膜を20~200℃に加熱することができ、好ましい温度加熱範囲は、60~150℃である。
【0107】
以上のように、被膜形成用組成物を用いることで、被膜Aを形成することができる。
【0108】
前記被膜形成用組成物を用いて薬液を調製することができる。斯かる薬液は、前記被膜形成用組成物を含むので、被膜を形成するための使用に好適である。薬液は、被膜形成用組成物のみで構成することができ、あるいは、本開示の被膜形成用組成物の目的とする諸性能が阻害されない程度である限り、他の添加剤(例えば、被膜形成溶薬剤として使用される公知の添加剤)を含むことができる。
【0109】
2.被膜B
本開示の被膜Bは、少なくとも一種の微粒子を含む被膜であって、
水の接触角が、150°以上であり、
紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角が、150°以上であり、鉛筆硬度が2B以上である。
【0110】
被膜Bは、水接触角は150°以上であることで、被膜Bは優れた撥水性が発揮され得る。
【0111】
被膜Bは、紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角が、150°以上であることで、被膜が優れた硬さを有し、耐摩耗性に優れるので被膜の耐久性が向上する。
【0112】
被膜Bは、鉛筆硬度が2B以上である。これにより、被膜Bは優れた硬度が発揮され得る。被膜Bの鉛筆硬度は、好ましくは2B以上、より好ましくはB以上である。
【0113】
被膜Bは上記物性を有することで、優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度も高いことから、従来よりも剥がれが生じにくく、耐久性に優れる。従って、被膜Bは、被膜は、撥水性及び/又は撥油性を被処理面に付与するために用いられ、超撥液性が要求される種々の物品等に好適に使用することができる。
【0114】
その他、被膜Bは下記の物性を有することも好ましい。
【0115】
被膜Bは、例えば、フッ素の含有量が80質量%以下となり得る。例えば、被膜B中、フッ素の含有量は1~75質量%であり、より好ましくは2~70質量%である。フッ素の含有量が上記範囲であることで、被膜Bは、より強い撥液性及び耐摩耗性を発揮し得る。
【0116】
被膜Bは、その表面の平均表面粗さRaが、0.5~20μmとなり得る、より好ましくは0.6~17.5μmであり、さらに好ましくは0.7~15μmである。平均表面粗さRaが上記の範囲内であることにより、より強い撥液性及び耐摩耗性を発揮し得る。
【0117】
被膜Bは、n-ヘキサデカンの接触角は80°以上となり得る。これにより、被膜Bは優れた撥油性が発揮され得る。
【0118】
被膜Bは上記各物性を有する限り、その他の構成及び物性は特に限定されない。被膜Bは、前述の被膜Aに含まれる複合粒子を含むことが好ましい。この場合、被膜Bは上記各物性を有しやすく、硬度も向上しやすい。
【0119】
被膜Bに含まれる複合微粒子において、微粒子の種類は被膜A同様、例えば、シリカ微粒子、その他の金属酸化物微粒子、カーボンブラック、フラーレン及びカーボンナノチューブ等を挙げることができる。被膜Bが硬くなりやすいという点で、微粒子はシリカであることが好ましい。
【0120】
前記微粒子の平均粒子径は1μm以上である。微粒子の平均粒子径が1μm未満となると、所望の硬さを有する被膜とならない。前記微粒子の平均粒子径は、2μm以上であることがより好ましい。前記微粒子の平均粒子径の上限は特に限定されず、例えば、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。
【0121】
本開示の被膜Bにおいて、前記微粒子の平均粒子径の測定方法は、被膜Aに含まれる微粒子の平均粒子径の測定方法と同様である。
【0122】
前記微粒子の比表面積は特に限定されず、例えば、被膜の硬度が向上しやすい点で、30~700m/gであることが好ましく、100~300m/gであることがさらに好ましい。本開示の被膜Bにおいて、前記微粒子の比表面積の測定方法は、被膜Aに含まれる微粒子の比表面積の測定方法と同様である。
【0123】
本開示の被膜Bの形成方法は特に限定されず、上記物性を有する限りは、例えば、公知の方法を広く採用することができる。中でも、前記被膜形成用組成物を用いて被膜Bを形成する方法が好ましい。
【0124】
被膜Bは、優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度も高いことから、従来よりも剥がれが生じにくく、耐久性に優れる。従って、被膜Bは、被膜は、撥水性及び/又は撥油性を被処理面に付与するために用いられ、超撥液性が要求される種々の物品等に好適に使用することができる。
【0125】
本開示の被膜Bの用途は特に限定されず、例えば、前述の被膜Aと同様の用途に好適に使用することができる。
【0126】
(本開示の被膜の各種物性の測定方法)
本開示の被膜の各種物性の測定方法を説明する。なお、念のための注記に過ぎないが、本開示の被膜は、前述の被膜A及び被膜Bを包含する。
【0127】
<平均表面粗さRa>
平均表面粗さRaの測定は、カラー3Dレーザー顕微鏡(KEYENCE社VK-X1000及びその付属品の顕微鏡ユニット)を用いて行われる。
【0128】
<水の接触角>
水の接触角は、すなわち水の静的接触角である。水の接触角は、接触角計(協和界面科学社「Drop Master 701」用いて測定され、具体的には、水(2μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して5点の測定が行われる。静的接触角が150°以上になると、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなる場合がある。このような場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、その時の得られた値を静的接触角とする。
【0129】
<n-ヘキサデカンの接触角>
n-ヘキサデカン(n-HDと略記)の接触角は、すなわちn-HDの静的接触角である。n-HDの接触角は、接触角計(協和界面科学社「Drop Master 701」用いて測定され、具体的には、n-HD(2μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して5点の測定が行われる。静的接触角が150°以上になると、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなる場合がある。このような場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、その時の得られた値を静的接触角とする。
【0130】
<紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角>
被膜を用いて、紙製ウエス(日本製紙クレシア製社製「キムワイプ」(登録商標))を荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角は、耐摩耗試験機(井元製作所社「ラビングテスター(3連仕様)151E」)を用いて行う。斯かる試験機に紙製ウエスを装着し、荷重100gにて一定回数(100回)、試料(被膜)表面の拭き取りを行い、その後、前記の水接触角の測定方法で、水接触角を測定する。紙製ウエスの試料に接する面積は1cmとする。
【0131】
<鉛筆硬度>
鉛筆硬度の測定方法は、JIS K 5600-5に準拠する。
【実施例
【0132】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0133】
(実施例1)
[Rf(C6)メタクリレート/微粒子]共重合体/(ゼッフルGK-570+スミジュールN3300)=50/50(w/w)薄膜の作製)
<[Rf(C6)メタクリレート/微粒子]共重合体溶液の調製>
200mL四つ口フラスコに、平均粒子径が2.7μmのシリカ微粒子(富士シリシア化学製、サイリシア310P、比表面積300m/g)を3g、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学製)0.06g、およびパーフルオロブチルエチルエーテル60gを仕込み、70℃で2時間加熱した。続いて、C13CHCHOCOC(CH)=CH[以下Rf(C6)メタクリレートと略す]6g、アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと略す)0.3gを投入し、6時間反応させることで複合粒子の分散液を得た。重合後、分散液中の複合粒子の固形分濃度を算出した。
<塗工液の作製>
次いで、上記複合粒子分散液と、熱硬化性樹脂として前記重合体Fに該当するゼッフルGK-570(商品名)(ダイキン工業株式会社製(テトラフルオロエチレンと水酸基含有ビニルモノマーの共重合体))と、硬化剤(イソシアネート化合物)としてスミジュールN3300(住化コベストロウレタン株式会社)と、酢酸ブチルとを混合して、被膜形成用組成物を塗工液として得た。この被膜形成用組成物中、(分散液中の複合粒子の質量):(ゼッフルGK-570(固形分換算)及びスミジュールN3300の総質量)=50:50となるように配合した。
<塗膜の作製>
上記の塗工液をアクリル基材にスプレー法により処理し、130℃で10分熱処理を施すことで、目的の被膜を得た。
【0134】
(実施例2)
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学製)を、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で被膜を作製した。
【0135】
(実施例3)
被膜形成用組成物中、(分散液中の複合粒子の質量):(ゼッフルGK-570(固形分換算)及びスミジュールN3300の総質量)=40:60となるように配合したこと以外は、実施例1と同様の手順で被膜を作製した。
【0136】
(実施例4)
被膜形成用組成物中、(分散液中の複合粒子の質量):(ゼッフルGK-570(固形分換算)及びスミジュールN3300の総質量)=40:60となるように配合したこと以外は、実施例2と同様の手順で被膜を作製した。
【0137】
(実施例5)
シリカ微粒子を平均粒子径が2.7μmのシリカ微粒子(富士シリシア化学製、サイリシア530、比表面積500m/g)に変更した以外は実施例1と同様の手順で被膜を作製した。
【0138】
(比較例1)
シリカ微粒子を一次粒子の平均粒子径が12nmであるR711(日本アエロジル製)に変更し、かつ、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを使用しなかったこと以外は実施例1と同様の手順で被膜を作製した。
【0139】
(比較例2)
超撥水材料HIREC100(NTTアドバンステクノロジーズ社製)を用いて、被膜を作製した。
【0140】
(被膜の評価)
実施例1~5、比較例1~2で得られた被膜の試験片について、以下の試験を行った。
【0141】
<接触角測定(水)>
接触角計Drop Master701(協和界面科学社製)を用いて、水の液滴体積2μLとし、1サンプルに対して5点測定した。静的接触角が150°以上になってくると条件によっては、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなるので、そのような場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、得られた値を静的接触角とした。ここで、転落角が0°とは、ニードルから20μLの液滴を基材に着弾させることができない、もしくは着弾させることができても測定前もしくは測定時0°から1°の間で液滴が転落し、今回用いた機器では測定できないことを意味する。
【0142】
<接触角測定(n-HD)>
n-ヘキサデカン(n-HDと略記)の静的接触角は、接触角計(協和界面科学社「Drop Master 701」用いて測定した。具体的には、n-HD(2μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して5点の測定を行った。静的接触角が150°以上になると、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなる場合があるので、この場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、その時の得られた値を静的接触角とした。
【0143】
<鉛筆硬度>
鉛筆硬度の測定方法は、JIS K 5600-5に準拠した。
【0144】
<紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角>
紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角、耐摩耗試験機(井元製作所社「ラビングテスター(3連仕様)151E」)を用いて行った。斯かる試験機に紙製ウエスを装着し、荷重100g(接触面積:1cm)にて一定回数(100回)、試料(被膜)表面の拭き取りを行い、その後、前記の水接触角の測定方法で、水接触角を測定した。
【0145】
<摩耗試験回数>
摩耗試験回数は、耐摩耗試験機(井元製作所社「ラビングテスター(3連仕様)151E」)を用いて行った。斯かる試験機に紙製ウエス(日本製紙クレシア製社製「キムワイプ」(登録商標))を装着し、荷重100g(接触面積:1cm)にて試料(被膜)表面の拭き取りを行い、これを静的接触角が150°以下になるまで行った。ここでの耐摩耗性能は、超撥水状態(5回平均の静的接触角の値が150°以上もしくは平均140°以上でその標準偏差を合わせると150°以上)を維持できる回数を摩耗回数と定義した。
【0146】
【表1】
【0147】
表1には、各実施例及び比較例で得られた被膜における、水の静的接触角(水20μL)、転落角、n-ヘキサデカン(n-HD)静的接触角、鉛筆硬度、紙製ウエスで荷重後の水の接触角(紙製ウエスを荷重100gで100回塗擦した後の水の接触角)及び摩耗試験回数の結果を示している。
【0148】
表1の結果から、各実施例で得られた被膜は優れた超撥液性及び耐摩耗性を有しつつ、硬度も高いことがわかった。一方、比較例1では、微粒子の平均粒子径が小さいので、超撥液性を有するものの、優れた耐摩耗性及び硬度の被膜とはならなかった。