(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
B05B 17/06 20060101AFI20240919BHJP
B41J 2/04 20060101ALI20240919BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B05B17/06
B41J2/04
B41J2/14 305
B41J2/14 613
(21)【出願番号】P 2021007152
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095452
【氏名又は名称】石井 博樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 毅
(72)【発明者】
【氏名】関野 博一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 祐司
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-079470(JP,A)
【文献】特開2008-101495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 17/06
B41J 2/04
B41J 2/14
F04B 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルに前記液体を送る流路と、
前記液体を前記流路内に押し出す加圧部と、
前記ノズルの上流において前記流路に隣接して設けられ、前記液体に振動を加える圧電素子と、
前記圧電素子の第1面と前記流路との間に設けられて前記流路を隔離する振動板と、
前記圧電素子の前記第1面とは反対側の第2面に配置され、前記圧電素子の前記第1面とは逆方向への厚み振動を規制する規制部と、を備
え、
前記規制部と前記圧電素子の第2面との間には充填層が在り、
前記規制部は金属材又はセラミック材で形成され、
前記充填層は前記規制部の材料より曲げ剛性の小さい樹脂材で形成される、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置において、
前記圧電素子の駆動周波数は100kHz以上である、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射装置において、
前記規制部は前記圧電素子の第2面の全面を覆うように配置される、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液体噴射装置において、
前記振動板の厚みは前記圧電素子の厚みより薄い、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射装置において、
前記振動板の厚みは1mm以下である、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の液体噴射装置において、
前記圧電素子の厚みは1mm以下である、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の液体噴射装置において、
前記圧電素子の厚み方向に直交する面内における少なくとも一部の長さは、前記圧電素子の厚みの5倍以上である、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
請求項
1から7のいずれか1項に記載の液体噴射装置において、
前記規制部は前記充填層側となる裏面から表面につながる貫通孔を有する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか1項に記載の液体噴射装置において、
前記加圧部と前記圧電素子の動作を制御する制御部を備え、
前記制御部の前記制御により前記ノズルから吐出された液体が連続流から液滴に分裂するまでの距離は10mm以下である、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯等の対象物に向かって液体を高圧で噴射して衝突させ、前記対象物の洗浄、剥離、削り等を行う歯科治療装置等の液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の液体噴射装置の一例として、特許文献1および2に記載のものがある。この文献には、噴射される高圧水の連続流を液滴化して衝撃力を高め、その液滴を対象物に衝突させることで対象物の切断や洗浄を行うウォータージェット用ノズル及び超音波ウォータージェット装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-145296公報
【文献】特表2007-523751公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波ウォーター装置を例えばう蝕除去や歯石除去等の歯科治療に応用する場合は、通常の用途と比べて液体の噴射速度が十分に高速であり、かつ、液滴化距離も噴射ノズルから近くする必要がある。しかしながら、特許文献1に記載のウォータージェット装置は、圧電素子の流路とは反対側の面が自由となっているため、高速噴射時の液滴化に必要な圧電素子の高周波駆動を行う場合には前記圧電素子から液体に振動を十分に伝えることができず、液滴化距離を短くすることが難しいという課題がある。
また、特許文献2に記載の発明は、長いプローブ部を振動させるため、その質量から高周波化が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る液体噴射装置は、液体を噴射するノズルに前記液体を送る流路と、前記液体を前記流路内に押し出す加圧部と、前記ノズルの上流において前記流路に隣接して設けられ、前記液体に振動を加える圧電素子と、前記圧電素子の第1面と前記流路との間に設けられて前記流路を隔離する振動板と、前記圧電素子の前記第1面とは反対側の第2面に配置され、前記圧電素子の前記第1面とは逆方向への厚み振動を規制する規制部とを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施形態1に係る液体噴射装置の全体概略構成図。
【
図3】同実施形態1の効果を説明するための要部概略断面図。
【
図4】本発明の実施形態2に係る液体噴射装置の要部概略断面図。
【
図5】本発明の実施形態3に係る液体噴射装置の要部概略断面図。
【
図6】同実施形態3の効果を説明するための要部概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について先ず概略的に説明する。
上記課題を解決するため、本発明に係る液体噴射装置の第1の態様は、液体を噴射するノズルに前記液体を送る流路と、前記液体を前記流路内に押し出す加圧部と、前記ノズルの上流において前記流路に隣接して設けられ、前記液体に振動を加える圧電素子と、前記圧電素子の第1面と前記流路との間に設けられて前記流路を隔離する振動板と、前記圧電素子の前記第1面とは反対側の第2面に配置され、前記圧電素子の前記第1面とは逆方向への厚み振動を規制する規制部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、前記規制部によって前記圧電素子の前記第1面とは逆方向への厚み振動が規制されるので、高周波駆動時の微小変位でも前記振動板に対して前記変位を効率的に伝えることができる。即ち、前記圧電素子の前記第1面から前記振動板に向かう方向への厚み振動を前記振動板に効率的に伝えることができる。これにより、前記ノズルの上流において前記流路を流通する液体を効率的に加振でき、高速噴射時であっても液滴化距離を短くすることができる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る液体噴射装置は、第1の態様において、前記圧電素子の駆動周波数は100kHz以上である、ことを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、前記圧電素子の駆動周波数は100kHz以上であるので、表面張力によって自然に液滴化する距離よりも液滴化距離を効果的に短くすることができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る液体噴射装置は、第1の態様又は第2の態様において、前記規制部は前記圧電素子の第2面の全面を覆うように配置されることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、前記規制部は前記圧電素子の第2面の全面を覆うように配置されるので、前記圧電素子の前記第1面から前記振動板に向かう方向への厚み振動を前記振動板に一層効率的に伝えることができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る液体噴射装置は、第1の態様から第3の態様のいずれか一つの態様において、前記振動板の厚みは前記圧電素子の厚みより薄いことを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、前記振動板の厚みは前記圧電素子の厚みより薄いので、前記振動板は前記圧電素子の振動による変形が容易な構造にすることが容易となり、前記厚み振動を前記振動板に効率的に伝えることが可能となる。前記振動板の厚みは前記圧電素子の厚みの1/2以下が望ましい。
【0015】
本発明の第5の態様に係る液体噴射装置は、第4の態様において、前記振動板の厚みは1mm以下であることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、前記振動板の厚みは1mm以下であるので、前記圧電素子の振動による前記振動板の変形が一層容易な構造にすること可能となる。
【0017】
本発明の第6の態様に係る液体噴射装置は、第4の態様又は第5の態様において、前記圧電素子の厚みは1mm以下であることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、前記圧電素子の厚みは1mm以下であるので、圧電素子の片面が前記規制部によって固定されている状態でも、高い周波数での駆動が可能である。
【0019】
本発明の第7の態様に係る液体噴射装置は、第1の態様から第6の態様のいずれか一つの態様において、前記圧電素子の厚み方向に直交する方向における少なくとも一部の長さは、前記圧電素子の厚みの5倍以上であることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、前記圧電素子の厚み方向に直交する方向における少なくとも一部の長さは、前記圧電素子の厚みの5倍以上である。これにより、前記圧電素子の形状が薄く且つ広くなり前記振動板に対する駆動面積を大きく確保することができる。更に、前記圧電素子の振動モードが厚み方向の振動に限定され、安定した高い周波数で前記振動板を振動させることが可能となる。
【0021】
本発明の第8の態様に係る液体噴射装置は、第1の態様から第7の態様のいずれか一つの態様において、前記規制部と前記圧電素子の第2面との間には充填層が在ることを特徴とする。
ここで、「充填層」とは、規制部と圧電素子の第2面の両方に密着している層を意味する。
【0022】
本態様によれば、前記規制部と前記圧電素子の第2面との間には充填層が在る。即ち、前記充填層が前記規制部と前記圧電素子の第2面の両方に密着して存在するので、前記規制部による前記圧電素子の前記第1面とは逆方向への厚み振動を効果的に規制することができる。
【0023】
本発明の第9の態様に係る液体噴射装置は、第8の態様において、前記規制部は金属材又はセラミック材で形成され、前記充填層は前記規制部の材料より曲げ剛性の小さい樹脂材で形成されることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、前記充填層は前記規制部の材料より曲げ剛性の小さい樹脂材で形成されるので、樹脂材より成る前記充填層には圧縮応力のみがかかることになり、以って前記規制部による前記圧電素子の前記第1面とは逆方向への厚み振動を効果的に規制することができる。
【0025】
本発明の第10の態様に係る液体噴射装置は、第8の態様又は第9の態様において、前記規制部は前記充填層側となる裏面から表面につながる貫通孔を有することを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、前記規制部は前記充填層側となる裏面から表面につながる貫通孔を有する。これにより、前記充填層の材料を溶融状態で充填場所に流し込んだ後に前記規制部を押し付けることで、余分な前記材料は前記貫通孔から流出させることができる。従って、密着状態の良い充填層の設置を容易に行うことができる。
【0027】
本発明の第11の態様に係る液体噴射装置は、第1の態様から第10の態様のいずれか一つの態様において、前記加圧部と前記圧電素子の動作を制御する制御部を備え、前記制御部の前記制御により前記ノズルから吐出された液体が連続流から液滴に分裂するまでの距離は10mm以下である、ことを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、液滴化距離が10mm以下であるので、歯科治療における口腔内のような狭い場所で用いる液体噴射装置を実現することができる。
【0029】
[実施形態1]
以下に、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置について、
図1から
図3に基づいて詳細に説明する。ここでは、液体噴射装置1は、歯科治療装置であるとして説明する。
以下の説明においては、互いに直交する3つの軸を、各図に示すように、それぞれX軸、Y軸、Z軸とする。Z軸方向は、鉛直方向に相当する。X軸方向及びY軸方向は、水平方向に相当する。
【0030】
図1に示したように、本実施形態に係る液体噴射装置1は、液体5を噴射するノズル7に液体5を送る流路3と、液体5を流路3内に押し出す加圧部9と、ノズル7の上流において流路3に隣接して設けられ、液体5に振動を加える圧電素子11と、圧電素子11の第1面13と流路3との間に設けられて流路3を隔離する振動板15とを備える。
また、圧電素子11の第1面13とは反対側の第2面17に配置され、圧電素子11の第1面13とは逆方向19(+Z軸方向)への厚み振動を規制する規制部21を備える。尚、厚み振動の方向はZ軸方向に限らないことは勿論である。即ち、圧電素子11をXY平面以外に配置してもよい。
更に、加圧部9と圧電素子11の動作を制御する制御部23を備える。
【0031】
具体的には、本実施形態に係る液体噴射装置1は、ノズル7を有するヘッド部2と、噴射する液体5を貯留するタンク4と、加圧部9とタンク4とをつなぐ流路3を成す液体吸引チューブ6と、送液ポンプ9とヘッド部2とをつなぐ同じく流路3を成す送液チューブ8とを備える。ヘッド部2と制御部23は駆動信号線10でつながっている。また、送液ポンプ9と制御部23は制御信号線12でつながっている。
【0032】
図2に示したように、ヘッド部2は、液体室16を有する。液体室16はノズル7につながっており、液体室16の内部に導かれた液体5は、ノズル7の噴出口22から高速の噴射流体b(
図1)として噴射される。このノズル7は噴射口22の先に円錐形状の囲い部34を備えている。液体室16は、ノズル7が形成される流路部材18と、ダイアフラムである振動板15と、振動板15と流路部材18の間に位置する中間部材20とで囲われることで形成されている。液体室16内の液体5は、振動板15が振動することで振動板15が振動する方向(-Z軸方向)に位置するノズル7から噴射される。
また、ヘッド部2は把持部14を有している。使用者は、把持部14を握ってヘッド部2を図示を省く液体噴射対象物に対して移動させる。
【0033】
以下、液体噴射装置の各構成要素について詳しく説明する。
<流路、加圧部>
図2に示したように、本実施形態では、把持部14の内部にも流路3が形成され、送液チューブ8は把持部14内の流路3につながっている。把持部14内の流路3は流路部材18に形成される導入流路24を介して液体室16につながっている。導入流路24は把持部14内の流路3より小径に形成されている。
本実施形態では、流路3は、液体吸引チューブ6の内部、送液チューブ8の内部、把持部14の内部、流路部材18の導入流路24、及び液体室16の全体によって構成されている。
尚、ここでは流路部材18と把持部14は一体成形により形成されているが、これに限定されず、流路部材18と把持部14は別体で作ったものを一体に組み付けてもよい。
加圧部9は、本実施形態では、送液ポンプ9(「加圧部」と同じ符号を用いる)によって構成されている。
【0034】
<振動板>
図2に示したように、振動板15は、金属薄膜で作られている。振動板15は、後述する圧電素子11の第1面13と流路3のうちの液体室16を成す部分との間に設けられて、液体室16を隔離するように構成されている。即ち、振動板15は、液体室16を構成する内面の内、流路部材18に設けられるノズル7と対向して離間した位置に配置されている。振動板15の形状は、ここでは平面視で円板形状である。
具体的には、流路部材18のノズル7の位置を液体室16の内部とする位置にリング形状の中間部材20が配置され、振動板15はその周縁部が中間部材20に接着固定されている。これにより上記したように、液体室16が振動板15と中間部材20と流路部材18のノズル7を有する部分によって区画される。
【0035】
本実施形態では、振動板15の厚み、即ち前記金属薄膜の厚みは後述する圧電素子11の厚みより薄い厚さに構成されている。これにより、振動板15は圧電素子11の振動による変形が容易な構造になっている。
具体的には、振動板15の厚みは圧電素子11の厚みの1/2以下が望ましい。ここでは、振動板15の厚みは1mm以下となる0.1mmである。
【0036】
<圧電素子>
圧電素子11は、ノズル7の上流において流路3に隣接して設けられ、液体5に振動を加えるように構成される。本実施形態では、圧電素子11の駆動周波数は100kHz以上になるように構成されている。
圧電素子11は振動板15に対して液体室16と反対側の面に固定される。即ち、圧電素子11の第1面13が振動板15と接触する。圧電素子11の形状は、ここでは振動板15と同様に平面視で円板形状である。
本実施形態では、圧電素子11として、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)から成るセラミック系の単板圧電素子が使われ、それが導電性接着剤により振動板15に接着固定されている。この単板圧電素子は、小型化が可能であり、高い周波数での厚み方向変位を得るのに好適な材料である。圧電素子11としては、前記PZT に限定されず、他の材料としてBaTiO3、PbTiO3等によるセラミック系の圧電素子も挙げられる。
【0037】
図2に示したように、駆動信号線10は、その1本は振動板15に導通固定され、他の1本は圧電素子11の電極に直接導通固定されている。
図2において、符号26、28は、後述する規制部21に形成された孔であり、各駆動信号線10をそれぞれ通すためのものである。尚、各駆動信号線10をそれぞれ通すための孔26、28は中間部材20に設けるようにしてもよい。
圧電素子11の振動板15に対する大きさは、
図2に示したように、振動板15の前記周縁部を除いたサイズ以下、具体的には、液体室16内に入り込めるサイズに形成されている。
【0038】
本実施形態では、圧電素子11の厚みは1mm以下である。具体的には、圧電素子11の厚みは1mmであり、振動板15の厚みは圧電素子11の厚みの1/2以下が望ましいという関係を満たしている。
また、圧電素子11の厚み方向に直交する面内方向における少なくとも一部の長さは、圧電素子11の厚みの5倍以上に構成されている。ここでは、圧電素子11は円板形状であるので、円の直径が前記厚みの5倍以上に形成されている。圧電素子11が長方形である場合は、その長辺の長さが前記厚みの5倍以上に形成される。
【0039】
<規制部>
規制部21は、上記の通り、圧電素子11の第1面13とは反対側の第2面17に配置され、圧電素子11の第1面13とは逆方向19(+Z軸方向)への厚み振動を規制する。本実施形態では、規制部21は、ステンレス材のSUS316Lやチタン材等の耐蝕性があって剛性の高い金属材によって、中間部材20の外径と同程度の外径を有する円板形状に形成されている。尚、規制部21は金属材に限定されずセラミック材も使用可能である。セラミック材としては、ジルコニアや窒化ケイ素等が挙げられる。
また、規制部21は、圧電素子11の第2面17に、
図2に示したようにその全面を覆うように配置されて、接着剤により接着固定されている。規制部21と中間部材20と振動板15は、更に図示を省くネジによって強固に固定されている。
【0040】
<制御部>
制御部23は、上記の通り加圧部9と圧電素子11の動作を制御する。
本実施形態では、制御部23は、ノズル7から吐出された液体5が連続流3aから液滴3b(
図1)に分裂するまで距離、即ち液滴化距離が10mm以下になるように圧電素子11を制御している。具体的には、加圧部9による加圧力と圧電素子11の駆動周波数の設定によって液滴化距離が10mm以下になるように設定されて、歯科治療用に使えるように制御している。
尚、歯科治療用として使うには、ヘッド2の厚み(Z軸方向)は20mm以下にすることが好ましい。
【0041】
<実施形態1の作用の説明>
次に、
図3に基づいて、実施形態1の液体噴射装置1である歯科治療装置の作用を従来構造との対比において説明する。
使用者は、把持部14を手に持って噴射対象物である歯にノズル7の噴射口22を接近させる。そして、図示を省くトリガーを操作して制御部23を介して制御信号を送って送液ポンプ9を駆動させる。これにより、液体タンク4内の液体5は、流路3を通って液体室16に加圧された状態となって送られる。更に、制御部23からの駆動信号によって圧電素子11が動作して駆動周波数が100kHz以上の振動が振動板15に加えられる。これにより、液体室16内の液体5は、ノズル7の噴射口22から液滴化距離10mm以下の噴射流体bとなって歯に向かって噴射される。
その際、
図2及び
図3の(D)の図に示したように、規制部21が存在することで、圧電素子11の第1面13とは逆方向19(+Z軸方向)への厚み振動が規制される。即ち、圧電素子11の第1面13から振動板15に向かう方向fへの厚み振動が振動板15に効率的に伝わる。
【0042】
ノズル7から噴射された液体7が噴射対象物に衝突した際に、前記対象物が衝突した液体から受ける力は、連続流3aの状態のときには、衝突する液体の速度をV、その液体の密度をρとして、1/2×ρ×V2の淀み点圧として与えられる。
一方、液滴3bとなった場合、衝突する液体の音速をCとして、ρ×C×Vで示される衝撃圧となる。
例えば水の音速は約1500m/sであるため、液体5の噴射速度が100m/sの場合、連続流3aの状態に対して液滴3bの状態では、前記対象物に与える力が30倍になり、対象物の破砕や切除などが同一流量でも極めて効果的に行える。
【0043】
一方、規制部21が無い場合は、
図3の(A)~(C)の各図に示したように、圧電素子11の第1面13から振動板15に向かう方向への厚み振動を振動板15に効率的に伝えることができない。
図3の(A)の図のように、規制部21が無い状態で液体室16に液体5が高圧の流体となって流入すると、振動板15と圧電素子11は、いずれも厚みが薄いので、
図3の(B)の図のように、振動板15が前記高圧によって反り返ってしまうからである。更に、この反りによって圧電素子11にクラックdが生じたり、振動板15と圧電素子11が剥離する虞がある。
例えば、噴射口22の口径が50μmのノズル7から5ml/minの水を噴射する場合、液体室16の内圧は2.4MPa近くになる。約2.5cm
2の振動板15を想定すると、振動板15にかかる力は60kgf程度にもなる。
また、規制部21が無いことにより、
図3の(C)の図に示したように、圧電素子11が電圧の印加によって厚み方向に変形する場合に、抵抗が大きい振動板15が存在する側よりも開放されている矢印eの方向に変形しやすい。そのため、圧電素子11からの厚み振動を振動板15に効率的に伝えることができない。
【0044】
<実施形態1の効果の説明>
(1)本実施形態によれば、規制部21によって圧電素子11の第1面13とは逆方向19への厚み振動が規制されるので、高周波駆動時の微小変位でも振動板15に対して前記変位を効率的に伝えることができる。即ち、圧電素子11の第1面13から振動板15に向かう方向への厚み振動を振動板15に効率的に伝えることができる。これにより、ノズル7の上流において流路3を流通する液体5を効率的に加振でき、高速噴射時であっても液滴化距離を短くすることができる。
【0045】
(2)また、本実施形態によれば、圧電素子11の駆動周波数は100kHz以上であるので、表面張力によって自然に液滴化する距離よりも液滴化距離を効果的に短くすることができる。
(3)また、本実施形態によれば、規制部21は圧電素子11の第2面17の全面を覆うように配置されるので、圧電素子11の第1面13から振動板15に向かう方向fへの厚み振動を振動板15に一層効率的に伝えることができる。
(4)また、本実施形態によれば、振動板15の厚みは圧電素子11の厚みより薄いので、振動板15は圧電素子11の振動による変形が容易な構造にすることが容易となり、前記厚み振動を振動板15に効率的に伝えることが可能となる。
【0046】
(5)また、本実施形態によれば、振動板15の厚みは1mm以下であるので、圧電素子11の振動による振動板15の変形が一層容易な構造にすること可能となる。
(6)また、本実施形態によれば、圧電素子11の厚みは1mm以下であるので、圧電素子11の片面が規制部21によって固定されている状態でも、高い周波数での駆動が可能である。
(7)また、本実施形態によれば、圧電素子11の厚み方向に直交する方向における少なくとも一部の長さは、圧電素子11の厚みの5倍以上の10倍である。これにより、圧電素子11の形状が薄く且つ広くなり振動板15に対する駆動面積を大きく確保することができる。更に、圧電素子11の振動モードが厚み方向の振動に限定され、安定した高い周波数で振動板15を振動させることが可能となる。
【0047】
[実施形態2]
次に、本発明の実施形態2に係る液体噴射装置1について、
図4に基づいて説明する。
本実施形態の液体噴射装置1では、規制部21は樹脂材で形成されている。流路部材18は、振動板15及び圧電素子11の液体室16と反対側の部分に流体を流し込むことが可能な凹部30が形成されている。規制部21は、凹部30内に溶融状態の樹脂を流し込み、硬化させることで構成される。
樹脂材としては、硬化前に流動性を保てるエポキシ樹脂、UV硬化樹脂、熱可塑性樹脂などが使用可能である。
ここで、規制部21を上記樹脂材で作る場合は、その厚みは、加えられる高圧に耐えられる大きさに設定することが必要である。その厚さは用いる材料毎に加わる圧力に対する耐圧試験を行って確認することで容易に定めることができる。
【0048】
本実施形態では、駆動信号線10が振動板15と圧電素子11の電極にそれぞれ導通固定された状態で、前記樹脂材を凹部30に流し込む。そのため、実施形態1のような孔26、28の形成が不要になる。
また、把持部14内に流路3は設けられず、駆動信号線10が通されている。流路部材18はチューブ接続部32を備える。チューブ接続部32に送液チューブ8が接続される。本実施形態では、ノズル7は、径が異なる小径部36と大径部38によって構成されている。
その他の構成は、実施形態1と同様であるので、同一部分に同一符号を付して、その説明を省略する。また、実施形態1と同様の作用及び効果についてもその説明は省略する。
【0049】
<実施形態2の効果の説明>
本実施形態によれば、規制部21が樹脂材で構成されているので、規制部21が圧電素子11に密着していても過度なストレスが圧電素子にかからない。これにより、精密な高さ管理を行う必要なく簡単に規制部21を設けることができる。
【0050】
[実施形態3]
次に、本発明の実施形態3に係る液体噴射装置1について、
図5及び
図6に基づいて説明する。
本実施形態の液体噴射装置1では、規制部21と圧電素子11の第2面17との間に充填層25が設けられている。ここで、充填層25とは、規制部21と圧電素子11の第2面17の両方に密着している層を意味する。充填層25は樹脂材で形成されている。
実施形態2と同様に、流路部材18には凹部30が形成されている。充填層25は、凹部30内に溶融状態の樹脂を流し込み、硬化させることで構成される。
規制部21は金属材又はセラミック材で形成され、充填層25は規制部21の材料より曲げ剛性の小さい樹脂材で形成されている。前記金属材、セラミック材、樹脂材の具体例は実施形態1や実施形態2で挙げたもの同様の材料が使用可能である。
【0051】
また本実施形態では、規制部21は充填層25側となる裏面27から表面29につながる貫通孔31を2個有する。
貫通孔31は
図5においては一直線の孔が示されているが、これに限定されず、曲がっている孔でもよい。貫通孔31の数も2個に限らず、1個でも3個以上でもよい。
【0052】
次に組み立て方法を説明する。充填層25の材料となる樹脂材を溶融状態で充填場所となる凹部30に流し込んだ後に、規制部21を上から押し付けて
図5の状態にする。これにより、余分な樹脂材を貫通孔31から流出させ、その状態を維持して溶融状態の樹脂材を硬化させる。
その後、規制部21は溶接やネジ等で流路部材18に強固に固定される。その結果、規制部21は樹脂材の充填層25をバックアップする形で、流路部材18に固定されるので、充填層25が圧電素子11と規制部21との間に隙間なく存在し、充填層25は液体室16の高圧により撓むことはなく、高圧に耐えることが可能になる。
その他の構成は、実施形態2と同様であるので、同一部分に同一符号を付して、その説明を省略する。また、実施形態2と同様の作用及び効果についてもその説明は省略する。
【0053】
<実施形態3の効果の説明>
(1)本実施形態によれば、規制部21と圧電素子11の第2面17との間には充填層25が在る。即ち、充填層25が規制部21と圧電素子11の第2面17の両方に密着して存在する.これにより、規制部21による圧電素子21の第1面13とは逆方向19への厚み振動を効果的に規制することができる。
図6の(B)の図は、規制部21によって圧電素子21の第1面13とは逆方向19への厚み振動を効果的に規制され、圧電素子11の第1面13から振動板15に向かう方向fへの厚み振動を振動板15に一層効率的に伝えることができることを示している。
尚、
図6の(A)の図は、規制部21を樹脂材で形成した場合であって、その厚みが必要な大きさでない場合を示している。即ち樹脂材は曲げ剛性が低いため、高圧が加わった際に振動板15及び圧電素子11の撓みを抑えることができず、圧電素子11にクラックdが生じる虞があることを示している。
【0054】
(2)また本実施形態によれば、規制部21は曲げ剛性の大きい金属材又はセラミック材で形成され、充填層25は規制部21の材料より曲げ剛性の小さい樹脂材で形成される。即ち、充填層25は規制部21の高い曲げ剛性により圧縮応力のみを負担すればよいことになり、以って規制部21による圧電素子11の第1面13とは逆方向19への厚み振動を効果的に規制することができる。
【0055】
(3)また本実施形態によれば、規制部21は充填層25側となる裏面27から表面29につながる貫通孔31を有する。これにより、充填層25の材料を溶融状態で充填場所である凹部30に流し込んだ後に規制部21を押し付けることで、余分な材料は貫通孔31から流出させることができる。従って、密着状態の良い充填層25の設置を容易に行うことができる。
【0056】
〔他の実施形態〕
本発明の実施形態に係る液体噴射装置1は、以上述べたような構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内での部分的構成の変更や省略等を行うことは勿論可能である。
(1)上記実施形態の説明では、液体噴射装置1は、歯科治療装置であるとして説明したが、歯科治療装置に限定されないことは勿論である。この液体噴射装置1は、ノズル7から液体5を噴射させ、連続流が液滴になった状態で作業対象物に大きな衝撃力で衝突させることにより、例えば、洗浄、バリ取り、剥離、はつり、切除、切開、破砕等を行う装置に適用することができる。
(2)実施形態3の構造における充填層25は、先に規制部21を前記凹部30を囲って空室を作り、前記空室を真空引きした後に溶融状態の樹脂を吸引注入することで充填層25を配置するようにしてもよい。この真空引きによって隙間のほとんど無い充填層25を実現することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 液体噴射装置、2 ヘッド部、3 流路、4 タンク、5 液体、
6 液体吸引チューブ、7 ノズル、8 送液チューブ、9 加圧部(送液ポンプ)、
10 駆動信号線、11 圧電素子、12 制御信号線、13 第1面、
14 把持部、15 振動板、16 液体室、17 第2面、18 流路部材、
19 逆方向、20 中間部材、21 規制部、22 噴射口、23 制御部、
24 導入流路、25 充填層、26 孔、27 裏面、28孔、29 表面、
30 凹部、31 貫通孔、32 チューブ接続部、34 円錐形状の囲い部、
36 小径部、38 大径部、b 噴射流体、3a 連続流、3b 液滴