(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】PPARγ活性化用組成物及び糖取込み促進能向上用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20240919BHJP
A61K 36/47 20060101ALI20240919BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240919BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240919BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240919BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240919BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240919BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240919BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K36/47
A61P3/04
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P43/00 111
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2020568191
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2020002196
(87)【国際公開番号】W WO2020153413
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2019008518
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521318697
【氏名又は名称】株式会社ナチュファルマ琉球
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】禹 済泰
(72)【発明者】
【氏名】照屋 俊明
(72)【発明者】
【氏名】山野 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 香織
(72)【発明者】
【氏名】夏目 矩行
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-002678(JP,A)
【文献】特開2015-189681(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0296543(US,A1)
【文献】特開2010-202600(JP,A)
【文献】国際公開第2003/037316(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/014315(WO,A1)
【文献】特開2006-008552(JP,A)
【文献】SHAHINOZZAMAN Md et al.,Anti-inflammatory, anti-diabetic, and anti-Alzheimer's effects of prenylated flavonoids from Okinaw,Molecules,2018年,Vol.23,2479,doi:10.3390/molecules23102479
【文献】CHEN Li-Han et al.,Taiwanese green propolis ethanol extract delays the progression of type 2 diabetes mellitus in rats,Nutrients,2018年,Vol.10,503,doi: 10.3390/nu10040503
【文献】HENDRA Phebe et al.,Antihyperlipidemic and hepatoprotective studies on leaves of Macaranga tanarius,Asian Journal of Pharmaceutical and Clinical Research,2017年,Vol.10, No.1,pp.239-241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
A23L 2/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-C並びにこれらの少なくとも1種を含有するオオバギ抽出物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分を含有する、PPARγ活性化用組成物。
【請求項2】
イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニン並びにこれらの少なくとも1種を含有するオオバギ抽出物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分を含有する、糖取込み促進用組成物。
【請求項3】
前記組成物は、飲食品用組成物、医薬品用組成物又は医薬部外品用組成物である、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の
PPARγ活性化用組成物を製造するための、ニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-C並びにこれらの少なくとも1種を含有するオオバギ抽出物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分の使用方法。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の
糖取込み促進用組成物を製造するための、イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニン並びにこれらの少なくとも1種を含有するオオバギ抽出物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PPARγ活性化用組成物及び糖取込み促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARs)は、核内受容体スーパーファミリーに属する転写因子で、α、σ及びγの3つのタイプと、いくつかのサブタイプに分けられる。PPARsは、レチノイドXレセプター(RXR)とヘテロダイマーを形成し、リガンド依存的にそのプロモーター領域にPPAR応答配列(PPRE)を有する標的遺伝子の発現を誘導することが知られている。
【0003】
PPARsのうち、PPARγは、γ1型及びγ2型の2つのサブタイプに分類でき、γ1型は脂肪組織、免疫系組織、副腎、小腸などで発現し、γ2型は脂肪細胞で特異的に発現しており、脂肪細胞の分化誘導や脂質代謝に重要な役割を担っている。
【0004】
PPARγは、脂質代謝だけではなく、糖代謝に関係していることが知られている。例えば、非特許文献1には、PPARγの発現を促進することにより、解糖系による糖代謝からTCAサイクルによる糖代謝への割合が高まるということが記載されている(下記非特許文献1を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される。)。すなわち、PPARγの発現促進は、解糖系からTCAサイクルまでの糖代謝の効率を良好にして、結果として糖代謝を円滑に進めることができる。
【0005】
そこで、PPARγを活性化するPPARγリガンドは、核内受容体の活性を促進する物質として、生活習慣病や癌などの疾患の予防や治療、さらには健康増進における効果が期待されている。例えば、PPARγリガンド剤として、植物由来の抽出物として甘草抽出物を用いたものが下記特許文献1(該文献の全記載はここに開示として援用される。)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2003/037316号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 286, NO. 46, pp. 40013-40024, November 18, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の甘草抽出物は、グリチルリチンを含む多種多様な化合物を含む。甘草が含有するグリチルリチンは、コルチゾールを変換する酵素を阻害し、増加したコルチゾールが尿細管の受容体に作用してカリウムの排泄を促進する。したがって、甘草抽出物は、低カリウム血症を誘発するという問題を有する。また、甘草は、その種類、産地、採取時期などにより有効成分の組成や含量が異なり、なにより入手が比較的困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、甘草に比して、副作用が小さく、かつ、入手が容易でありながらも、PPARγを活性化する作用を有する有効成分を含む組成物を提供することを、本発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究開発を進め、多種多様の天然物及び非天然物の生理活性作用について検討したところ、トウダイグサ科オオバギ属に属する常緑広葉樹(雌雄異株)であるオオバギに着眼するに至った。さらに、試行錯誤を繰り返した結果、驚くべきことに、オオバギに含まれる成分にはPPARγを活性化する作用があることを見出した。
【0011】
さらに驚くべきことに、本発明者らは、オオバギに含まれる成分及びこれらの成分の含有物は筋管細胞に対して糖取込み量を促進する活性があることを見出した。そして、遂に、本発明者らは、オオバギに含まれる成分及びこれらの成分の含有物を有効成分とする組成物を完成するに至った。本発明はこれらの知見や成功例を基にして完成するに至った発明である。
【0012】
したがって、本発明の一態様によれば、以下[1]~[11]の組成物及び方法が提供される。
[1]ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-C並びにこれらの少なくとも1種の含有物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分を含有する、PPARγ活性化用組成物。
[2]イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニン並びにこれらの少なくとも1種の含有物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分を含有する、PPARγ活性化用組成物。
[3]ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-C並びにこれらの少なくとも1種の含有物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分を含有する、糖取込み能向上用組成物。
[4]イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニン並びにこれらの少なくとも1種の含有物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分を含有する、糖取込み促進用組成物。
[5]ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-C並びにこれらの少なくとも1種の含有物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分を含有する、PPARγが関与する病態、症状又は疾患の治療、予防、抑制又は改善用組成物。
[6]前記含有物は、オオバギ抽出物である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[7]前記PPARγが関与する病態、症状又は疾患が、糖尿病、血糖値上昇、インスリン抵抗性、肥満症、体重増加、内臓脂肪蓄積、心臓重量増加、皮下脂肪蓄積、レプチン抵抗性、高脂血症、総コレステロール増加、動脈硬化及びメタボリックシンドロームからなる群から選択される少なくとも1種の病態、症状又は疾患である、[5]~[6]のいずれか1項に記載の組成物。
[8]前記組成物は、飲食品用組成物、医薬品用組成物又は医薬部外品用組成物である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の組成物。
[9][1]~[8]のいずれか1項に記載の組成物を製造するための、ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-C並びにこれらの少なくとも1種の含有物からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分の使用方法。
[10]オオバギと、プレニルフラボノイド可溶性溶媒とを接触させることを含む、ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cからなる群から選択される少なくとも1種のプレニルフラボノイドを含有するオオバギ抽出物の製造方法。
[11]使用個体に、[1]~[8]のいずれか1項に記載の組成物を適用することを含む、PPARγが関与する病態、症状又は疾患を治療、予防、抑制又は改善する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様の組成物は、元来生薬で使用されるなどしてその安全性が実証されており、副作用を呈することについてほとんど知られていないオオバギの加工物又はオオバギに含まれる成分を有効成分として含有することから、使用個体に対して安全に使用することが可能である。また、オオバギは沖縄地方などで群生しており大量に入手可能であり、さらにオオバギに含まれる成分は市販されているものであることから、工業的規模で高い経済性をもって製造することが期待できる。
【0014】
本発明の一態様の組成物は、PPARγの活性化作用を通じて、細胞内代謝異常、脂質代謝異常や糖代謝異常などに加えて、種々の生活習慣病を治療、予防、抑制又は改善することが期待できる。特に、本発明の一態様の組成物は、副作用が少なく、大量に製造できることから、長期的な服用に際して有利なものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例に記載されているとおりの、オオバギ生実粗抽出物を用いた糖取込み量を評価した結果を示す図である。図中、折れ線グラフは細胞生存率を示し、棒グラフは糖取込み量を示す。また、「Con」はコントロール溶液を示す。
【
図2】
図2は、実施例に記載されているとおりの、ニムフェオール-B(Nympaeol-B)、イソニムフェオール-B(Isonymphaeol-B)、ニムフェオール-A(Nymphaeol-A)、3’-ゲラニルナリンゲニン(3’-geranyl-naringenin)及びニムフェオール-C(Nymphaeol-C)を用いた糖取込み量を評価した結果を示す図である。図中、折れ線グラフ(A)は細胞生存率を示し、棒グラフ(B)は糖取込み量を示す。また、「Con」はコントロール溶液を示す。
【
図3】
図3は、実施例に記載されているとおりの、オオバギ生実粗抽出物と、ニムフェオール-A、ニムフェオール-B及びニムフェオール-Cの組合せとをそれぞれ用いた糖取込み量を評価した結果を示す図である。図中、「Con」はコントロール溶液を示す。
【
図4】
図4は、実施例に記載されているとおりの、イソニムフェオール-B(Isonymphaeol-B)、エリオディクティオール(Eriodictyol)、3’-ゲラニルナリンゲニン(3’-geranyl-naringenin)及びナリンゲニン(Naringenin)を用いた糖取込み量を評価した結果を示す図である。図中、折れ線グラフ(A)は細胞生存率を示し、棒グラフ(B)は糖取込み量を示す。また、「Con」はコントロール溶液を示す。
【
図5】
図5は、実施例に記載されているとおりの、糖取り込みに係るシグナル分子AMPK及びAktのリン酸化に対する効果を示す図である。図中、「Con」はコントロール溶液を示し、「Iso-B」はイソニムフェオール-Bを示し、「3’-ger」は3’-ゲラニルナリンゲニンを示す。
【
図6】
図6は、実施例に記載されているとおりの、体重の測定結果を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例に記載されているとおりの、非絶食時血糖値の測定結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例に記載されているとおりの、絶食時血糖値の測定結果の測定結果を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例に記載されているとおりの、血糖値の測定結果を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例に記載されているとおりの、Δ血糖AUCの結果を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例に記載されているとおりの、主要臓器重量の測定結果を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例に記載されているとおりの、脂肪組織重量の測定結果を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例に記載されているとおりの、血漿トリグリセライドの測定結果を示す図である。
【
図14】
図14は、実施例に記載されているとおりの、血漿 総コレステロールの測定結果を示す図である。
【
図15】
図15は、実施例に記載されているとおりの、血漿 遊離脂肪酸の測定結果を示す図である。
【
図16】
図16は、実施例に記載されているとおりの、インスリンの測定結果を示す図である。
【
図17】
図17は、実施例に記載されているとおりの、HOMA-IRの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一態様である組成物及び方法の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0017】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。
【0018】
例えば、「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の物質が組み合わさってなる物であり、具体的には、有効成分と別の物質とが組み合わさってなるもの、有効成分の2種以上が組み合わさってなるものなどが挙げられ、より具体的には、有効成分の1種以上と固形物又は溶媒の1種以上とが組み合わさってなる固形組成物及び液性組成物などが挙げられる。
【0019】
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
【0020】
「PPARγ活性化作用」との用語は、PPARγを核内に移行して標的遺伝子の発現を制御する作用を意味する。
【0021】
「糖取込み促進作用」との用語は、筋管細胞の糖取込み能を促進する作用を意味する。
【0022】
本発明の一態様である組成物は、ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cのいずれか1種、2種、3種、4種又は5種全てを有効成分として含有する。
【0023】
[有効成分]
ニムフェオール-B(Nympaeol-B)、イソニムフェオール-B(Isonymphaeol-B)、ニムフェオール-A(Nymphaeol-A)、3’-ゲラニルナリンゲニン(3’-geranyl-naringenin)及びニムフェオール-C(Nymphaeol-C)は、通常知られているのとおりのものであれば特に限定されず、市販されているものであっても、合成されたものであっても、天然物から抽出及び/又は分離したものであってもよい。ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cの構造式は、それぞれ式(1)~(5)に示される。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cは、プレニルフラボノイドに属する化合物である。プレニルフラボノイドは、diphenylpropane構造にC5 isoprenoid group(プレニル基)が結合した構造であり、プレニル化ナリンゲニン、プレニル化エリオディクティオール及びプレニル化ヘスペレチンを含む。このうち、プレニル化ナリンゲニン及びプレニル化エリオディクティオールは、オオバギに含有される成分である。ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A及びニムフェオール-Cはプレニル化エリオディクティオールに属し、3’-ゲラニルナリンゲニンはプレニル化ナリンゲニンに属する。
【0030】
本発明の別の一態様である組成物は、ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cのいずれか1種、2種、3種、4種又は5種全てを含有する含有物を有効成分として含有する。該含有物は、前記プレニルフラボノイドを含有するものであれば特に限定されないが、例えば、植物抽出物であり、好ましくはオオバギ抽出物である。
【0031】
オオバギ(大葉木)は、マカランガ・タナリウス(Macaranga tanarius)とも呼ばれ、トウダイグサ科オオバギ属に属する常緑広葉樹(雌雄異株)であり、沖縄、台湾、中国南部、マレー半島、フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイなどの東南アジア、オーストラリア北部などにおいて生育する。オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。
【0032】
オオバギからニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cといったプレニルフラボノイドを含有するオオバギ抽出物を製造する方法は特に限定されず、例えば、オオバギと、プレニルフラボノイド可溶性溶媒とを接触させることを少なくとも含む方法などが挙げられる。
【0033】
オオバギ抽出物の原料としては、オオバギの各器官やそれらの構成成分を用いることができる。原料としては、単独の器官又は構成成分を用いてもよいし、2種以上の器官や構成成分を混合して用いてもよい。原料の具体例は、果実、種子、花、根、幹、茎の先端部、葉身、分泌物などを含む。茎の先端部は、茎の成長点及び葉芽を含んでおり、葉身に比べて柔軟であるため、抽出操作を効率的に行うことが容易である。また、オオバギの全体に対して各器官が占める割合を比較すると、幹、根及び葉の占める割合は高い。このため、オオバギの葉身をオオバギ抽出物の原料として用いることは、原料確保が容易であるという観点から、工業的に好適である。
【0034】
オオバギの各部位の中でも、花、種子及び果実(ワックスを含む)には、ニムフェオール-A,B,C及びイソニムフェオール-Bが高濃度で含有される。このため、プレニル化エリオディクティオールの濃度を高めるためには、花、種子及び果実(ワックスを含む)を用いることが好ましく、果実を用いることがより好ましい。
【0035】
オオバギ抽出物の原料は、採取したままの状態のものでもよく、採取した後に乾燥などの加工処理に供した状態のものでもよい。採取した後、加工処理までに時間を要する場合、オオバギの原料の変質を防ぐために低温貯蔵などの当業者が通常用いる貯蔵手段により貯蔵することが好ましい。
【0036】
オオバギ抽出物の原料は、用いるオオバギの部位によっては水分を多く含むことから、乾燥した状態のものであることが好ましい。乾燥処理は特に限定されず、例えば、オオバギ抽出物の原料の乾燥後の質量(乾燥質量)が、乾燥前の質量(湿質量)に対して1/2~1/10程度、好ましくは1/3~1/6程度になるように乾燥する処理などが挙げられる。乾燥処理は、例えば、熱風乾燥、高圧蒸気乾燥、電磁波乾燥、凍結乾燥などの当業者に公知の任意の方法により行われ得る。加熱による乾燥は、例えば、30℃~100℃、24時間~72時間にて加温によりオオバギ抽出物の原料が変色しない温度及び時間で行われ得る。
【0037】
オオバギ抽出物の原料は、抽出操作を効率的に行うという観点からは、破砕、粉砕又はすり潰した状態のものであることが好ましい。原料の破砕、粉砕又はすり潰しの方法は特に限定されないが、例えば、カッター、裁断機、クラッシャー、ブレンダー、ミキサー、ミル、グラインダー、ニーダー、乳鉢などを用いる方法などを挙げることができる。
【0038】
オオバギ抽出物を抽出するための抽出溶媒としては、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒であることが好ましい。抽出溶媒としては、例えば、水と有機溶媒との混合溶媒、低級アルコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、グリセリン、プロピレングリコールなどの有機溶媒などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどが挙げられる。有機溶媒としては、単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。抽出溶媒として水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは80体積%以上である。混合溶媒中における有機溶媒の含有量が50体積%未満の場合、プレニル化ナリンゲニン又はプレニル化エリオディクティオールを効率的に抽出することが困難となる傾向にある。なお、有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、エタノール及びメタノールがより好ましい。
【0040】
抽出操作としては、抽出溶媒中にオオバギ抽出物の原料を所定時間浸漬させる。こうした抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて撹拌操作、加温などを行ってもよい。また、原料から抽出される夾雑物を削減すべく、抽出操作に先だって、別途水抽出操作又は熱水抽出操作を行ってもよい。プレニル化ナリンゲニン及びプレニル化エリオディクティオールは、水に対して不溶の成分であるため、オオバギを例えば熱湯で煮沸することで、不必要な夾雑物を抽出操作に先立って除去することができる。
【0041】
抽出操作の後に固液分離操作を行うことで、オオバギ抽出液と原料の残渣とを分離することができる。固液分離操作の方法は特に限定されないが、例えば、ろ過、遠心分離などの公知の分離法を利用することができる。
【0042】
オオバギ抽出液は、必要に応じて濃縮してもよい。オオバギ抽出液に含まれる抽出溶媒を必要に応じて除去することにより、粘度を有する油状や固体状のオオバギ抽出物を得ることができる。濃縮の方法は特に限定されず、例えば、減圧下で常温に置く、又は加熱することにより行ってもよいし、凍結乾燥により行ってもよい。
【0043】
オオバギには、プレニルフラボノイド以外のフラボノイドを含有する。例えば、カラムを用いてオオバギ抽出物を分画することにより、所望のプレニルフラボノイドを高濃度で含有した抽出物を容易に得ることができる。カラムを用いた分離操作に用いられる充填材は特に限定されないが、例えば、オクタデシル基を結合したシリカゲルなどを挙げることができる。
【0044】
オオバギ抽出物中に含まれるプレニルフラボノイドの確認方法及び定量方法は特に限定されず、例えば、後述する実施例に記載のような高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。
【0045】
オオバギ抽出物におけるプレニルフラボノイドの含有量は特に限定されないが、例えば、オオバギ抽出物の質量あたり、ニムフェオール-Bは1.0wt%以上、好ましくは2.0wt%以上、より好ましくは2.5wt%以上であり;イソニムフェオール-Bは0.1wt%以上、好ましくは0.3wt%以上、より好ましくは0.5wt%以上であり;ニムフェオール-Aは1.0wt%以上、好ましくは2.0wt%以上、より好ましくは3.0wt%以上であり;3’-ゲラニルナリンゲニンは0.1wt%以上、好ましくは0.2wt%以上、より好ましくは0.3wt%以上であり;ニムフェオール-Cは1.0wt%以上、好ましくは1.8wt%以上、より好ましくは2.0wt%以上である。オオバギ抽出物におけるプレニルフラボノイドの含有量の上限は特に限定されず、典型的には総量として99wt%以下である。
【0046】
[組成物]
本発明の一態様の組成物は、有効成分を含有することにより、PPARγ活性化作用を示す。本発明の技術的範囲はいかなる憶測や推論に拘泥されるわけではないが、本発明の一態様の組成物が有するPPARγ活性化作用は、有効成分がリガンドとしてPPARγに結合することによりPPARγを活性化させる作用である可能性がある。PPARγの標的遺伝子は特に限定されないが、例えば、アディポネクチン、UCP-1、脂肪酸結合タンパク質、aP2などが挙げられる。
【0047】
PPARγ活性化作用は、後述の実施例に記載されるようなレポーターアッセイによって確認することができる。
【0048】
PPARγ活性化作用の程度は特に限定されないが、例えば、後述の実施例に記載されるようなレポーターアッセイによって、評価値が1.0よりも大きい程度であり、好ましくは1.1以上になる程度であり、より好ましくは1.4以上になる程度であり、さらに好ましくは1.6以上になる程度であり、なおさらに好ましくは3.0以上になる程度である。該評価値の上限は特に限定されず、典型的には100以下である。
【0049】
PPARγ活性化用組成物の使用個体や使用方法について特に限定されず、例えば、使用個体は動物、中でも哺乳類が挙げられ、哺乳類としてはヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマなどが挙げられ、これらの中でもヒトであることが好ましい。
【0050】
PPARγ活性化用組成物は、目的に応じて、飲食品用組成物や医薬品用組成物などの種々の形態をとり得る。したがって、本発明の組成物の具体的な一実施態様は、有効成分を含有する、経口用又は非経口用の飲食品用組成物、医薬品用組成物、医薬部外品用組成物、化粧品用組成物、動物飼料用組成物などである。
【0051】
PPARγ活性化用組成物は、上記のとおりに、経口的に投与されるものであっても、非経口的に投与されるものであってもよいが、日常的に摂取することを鑑みれば、経口用組成物であることが好ましく、飲食品用組成物又は経口用医薬品用組成物であることがより好ましい。
【0052】
飲食品用組成物の具体的な一態様は、例えば、生体に対して一定の機能性を有する飲食品である機能性飲食品である。機能性飲食品は、例えば、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、栄養機能飲食品、保健機能飲食品、特別用途飲食品、栄養補助飲食品、健康補助飲食品、サプリメント、美容食品などのいわゆる健康飲食品に加えて、乳児用飲食品、妊産婦用飲食品、高齢者用飲食品などの特定者用飲食品を包含する。さらに機能性飲食品は、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康飲食品を包含する。
【0053】
経口用医薬品用組成物は、適用後にPPARγ活性化作用を示し得る限り、あらゆる経口用医薬品の形態をとり得る。また、経口用医薬品用組成物は、本発明の目的を達成し得る限り、有効成分以外のPPARγ活性化作用を有する他の生理活性物質を配合してもよく、該生理活性物質を有効成分として含有する他の薬剤と併用してもよい。かかる薬剤としては、従来のPPARγ活性化による糖代謝改善剤として用いられてきたピオグリタゾンやチアゾリジン誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
PPARγ活性化用組成物の摂取量は特に限定されず、使用個体に求められるPPARγ活性化作用の程度や摂取態様などに応じて適宜設定され得る。例えば、PPARγ活性化用組成物の経口的に摂取される量は、使用個体の体重を基準として、有効成分の1日あたりの量として0.0001~10,000mg/kgであり、好ましくは0.001~5,000mg/kgであり、さらに好ましくは1~2,000mg/kgであり、なおさらに好ましくは100~1,000mg/kgであり、とりわけ好ましくは400~800mg/kgである。
【0055】
PPARγ活性化用組成物の摂取回数は特に限定されないが、例えば、1日1~3回であり、使用個体の健康状態や摂取量に応じて適宜回数を増減することができる。PPARγ活性化用組成物の摂取期間は特に限定されないが、例えば、一定期間、すなわち3日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは2週間以上、さらに好ましくは1ヶ月以上、なおさらに好ましくは6ヶ月又は1年以上にわたって継続的に投与する。PPARγ活性化用組成物の投与は、毎日行うことが好ましいが、期間中継続的に投与する限り、毎日投与しなくてもよい。
【0056】
PPARγ活性化用組成物の形態(剤形)は特に限定されず、任意の形態とすることができる。例えば、経口用のPPARγ活性化用組成物の形態としては、錠剤、散剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、丸剤、トローチ剤、液剤などの形態をとり得るが、これらに限定されない。錠剤には、糖衣錠、コーティング錠、バッカル剤などが含まれる。カプセル剤には、硬カプセル剤、軟カプセル剤の双方が含まれる。顆粒剤にはコーティングされた顆粒剤も含まれる。また、液剤には、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤などが含まれる。シロップ剤にはドライシロップなどが含まれる。
【0057】
飲食品用組成物とする場合は、例えば、PPARγ活性化用組成物を、パン、クッキー、ビスケット、米飯添加用麦、雑穀、うどん、そば、パスタその他の麺類、チーズ、ヨーグルトその他の乳製品、ジャム、マヨネーズ、味噌、醤油その他の大豆製品、茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料その他の非アルコール性飲料、薬用酒、その他のアルコール性飲料、キャンディー、チョコレートその他のスナック菓子、チューインガム、せんべい、羊羹その他の大豆を原料とする菓子などに添加して一般的な飲食品の形態とすることができる。
【0058】
PPARγ活性化用組成物は、有効成分を含有するものであればよいが、その他の成分と組み合わせたものであってもよい。その他の成分としては特に限定されないが、例えば、飲食品用又は経口用医薬品用の添加物などをその他の成分として用いることができる。例えば、種々の賦形剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、増量剤、乳化剤、着色料、香料、香油、増粘剤、光沢剤、緩衝剤などをその他の成分として用いることができる。その他の成分の含有量は、本発明の課題解決を妨げない限り、本発明の一態様の組成物の形態などに応じて適宜選択することができる。
【0059】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、デキストリン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末などを挙げることができる。結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースなどを挙げることができる。崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースなどを挙げることができる。滑沢剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウムなどを挙げることができる。着色剤としては、飲食品や経口用医薬品に添加することが許容されているものなどを使用することができ、特に限定されない。
【0060】
錠剤や顆粒剤とする場合には、所望により、白糖、ゼラチン、精製セラック、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体などを用いてコーティングしてもよく、複数層でコーティングすることもできる。さらに顆粒剤や粉剤をエチルセルロースやゼラチンのようなカプセルに詰めてカプセル剤とすることもできる。
【0061】
経口用のPPARγ活性化用組成物の使用方法は特に限定されないが、例えば、PPARγ活性化用組成物をそのまま、水などとともに、又は水などで希釈するなどして、飲食することにより経口摂取することができる。使用個体の好みなどに応じて、PPARγ活性化用組成物と他の固体物や液状物とを混ぜて経口摂取してもよい。PPARγ活性化用組成物を口腔崩壊剤形とした場合は、水なしで経口摂取することができる。
【0062】
非経口用の医薬品用組成物は、オオバギ由来化合物又はオオバギ抽出物以外のその他の成分として、保存剤、緩衝剤などを含有してもよい。保存剤としては、ナトリウム重亜硫酸、ナトリウム重硫酸、ナトリウムチオ硫酸、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、メチルパラベン、ポリビニルアルコール、フェニルエチルアルコール、アンモニア、ジチオスレイトール、ベータメルカプトエタノールなどが挙げられる。また、緩衝剤としては、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが挙げられる。非経口用の医薬品用組成物の剤型は特に限定されないが、例えば、注射剤(筋肉、皮下、皮内)、経口製剤、点鼻製剤などが例示される。
【0063】
PPARγ活性化用組成物は、容器に詰めて密封した容器詰組成物とすることができる。容器は特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、紙、PETやPTPなどのプラスチック、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、アルミ容器、プラスチック容器、ガラス容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられる。PPARγ活性化用組成物は、経時的な変質を避けるために、容器に詰めて密封した後に、加圧及び/又は加熱などにより殺菌処理したものであることが好ましい。容器詰組成物は、製造して得られた組成物を、分注、充填及び/又は個装して、それ自体で独立して、流通におかれて市販され得るものであることが好ましい。
【0064】
[抗疾患用組成物]
PPARγは、脂肪細胞の分化に関与する調節因子であることが明らかにされている(Cell 79:1147-1156,1994)。さらに、PPARγに作用するするリガンドがII型糖尿病、高インスリン血症、脂質代謝異常、肥満、高血圧、動脈硬化性疾患、インスリン抵抗性などの代謝性症候群と呼ばれる病態の予防や改善に有用であることが明らかとなってきている(Annual Reviews of Medicine,53,409-435,2002)。
【0065】
さらに、PPARγ活性化作用を有する物質は、一般的には適用された使用個体の、脂肪細胞に取り込まれ、PPARγ受容体に結合し、脂肪細胞内の炎症因子TNF-α分泌を抑制し、アディポネクチンの分泌を促進することでインスリン抵抗性を改善して糖代謝を改善し得る。すなわち、PPARγ活性を高めることにより、インスリン非依存性糖尿病、高血糖症の他に、糖尿病による合併症などの疾患の治療や予防、改善、緩和、抑制などが可能になる。
【0066】
そこで、本発明の一態様の組成物は、PPARγ活性化作用を通じた、PPARγが関与する病態、症状又は疾患の治療、予防、抑制又は改善用組成物である。ここでの治療や病態の改善には、これらの疾患や病態に対する予防や予後の処置も含まれる。本発明の一態様の組成物の使用個体は、健常な個体であってもよいが、PPARγが関与する病態、症状又は疾患に罹患している、及び罹患する危険性がある個体であることが好ましい。
【0067】
PPARγが関与する病態、症状及び疾患には、脂肪細胞の分化や種々の細胞の代謝に関与するものが広く含まれ、主として細胞内代謝異常、脂質代謝異常、糖代謝異常に関与するものが含まれる。PPARγが関与する病態、症状及び疾患の具体的態様は、糖尿病、血糖値上昇、インスリン抵抗性、肥満症、高脂血症、総コレステロール増加、高血圧症、内臓脂肪型肥満、内臓脂肪蓄積、心臓重量増加、皮下脂肪蓄積、脂肪肝、体重増加、レプチン抵抗性、動脈硬化、炎症性疾患、悪性腫瘍、メタボリックシンドローム及びこれらに関連する疾患などである。本発明の一態様の組成物は、これらの疾患の1種又は複数種に対する治療や改善、症状や病態の抑制や予防などに用いられる。本発明の一態様の組成物は、本発明の一態様の組成物を使用しない場合と比べて、これらのいずれか1種又は2種以上の病態、症状及び疾患の治療、予防、抑制又は改善が見られる量、好ましくは有意差をもって見られる量で使用することが好ましい。
【0068】
後述する実施例に記載があるとおり、本発明の一態様の組成物における有効成分は、筋管細胞の糖取込み能を促進する作用を有する。したがって、本発明の別の一態様の組成物は、糖取込み促進用組成物であり、好ましくは筋細胞による糖取込み促進用組成物である。また、このような糖取込み促進作用によって、上記したPPARγが関与する病態、症状及び疾患、特に糖代謝異常、糖尿病、インスリン抵抗性、肥満症、体重増加、メタボリックシンドローム及びこれらに関連する病態、症状又は疾患を治療、予防、抑制及び改善することができる。
【0069】
例えば、糖尿病の治療、予防、抑制及び改善作用とは、本発明の一態様の組成物の使用個体における現在の糖尿病の症状を改善、緩和若しくは治療し、又は糖尿病に罹患しているとされる状態になることを抑制、遅滞若しくは予防する作用をいう。
【0070】
本発明の一態様の組成物は、PPARγを活性化させることで、脂肪細胞又は筋管細胞への糖の取込みが促進され、またこれらを含有することにより、インスリンへの依存性が低く、インスリン投与下又は非投与下においても、血糖値を制御することができるため、糖代謝関連の疾患の改善に有効である。そのため、本発明のPPARγ活性化用組成物は、糖代謝の改善による糖代謝関連の疾患の予防、治療又は改善に有用である。
【0071】
本発明の一態様の組成物が有する糖取込み促進作用は、後述する実施例に記載があるとおり、筋管細胞に対し、本発明の一態様の組成物及びグルコースを添加してインキュベートし、細胞における糖の取込みを溶液中のグルコースのレベル(量)の変化を測定することにより確認することができる。この際、本発明の一態様の組成物を加えない系をコントロールとして、本発明の一態様の組成物を加えた系がコントロールよりも筋管細胞の糖取込み量が大きければ、本発明の一態様の組成物は糖取込み促進作用を有すると評価できる。
【0072】
糖取込み促進作用の程度は特に限定されないが、例えば、後述の実施例に記載されるような筋管細胞による糖取込み量の測定によって、コントロールに対する相対量が1.0よりも大きい程度であり、好ましくは1.2以上になる程度であり、より好ましくは1.5以上になる程度であり、さらにより好ましくは2.0以上になる程度であり、なおさらに好ましくは3.0以上になる程度である。該評価値の上限は特に限定されず、典型的には10以下である。
【0073】
[本発明の一態様の方法]
本発明の一態様の組成物の製造方法及び使用方法は、別の一態様として本発明に包含される。具体的な本発明の一態様の方法は、使用個体に、本発明の一態様の組成物を適用することを含む、PPARγが関与する病態、症状又は疾患を治療、予防、抑制又は改善する方法である。
【0074】
本発明の一態様の方法は、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。
【0075】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0076】
[例1.オオバギ抽出物含有物が有するPPARγ活性化作用の評価]
(1)オオバギ抽出物の調製
沖縄県で採取し、冷凍保存していたオオバギ(Macaranga tanarius)の果実を原料として用いた。オオバギの果実 1kgをエタノール 3Lに24時間浸漬した。その浸漬物をろ材としてフィルターペーパー(ADVANTEC)を用いてろ過することでろ液を得た。得られたろ液をエバポレーターで濃縮することで濃縮液を得た。次に、得られた濃縮液を分取用ODSカラムにより分画することで、プレニル化フラバノンを多く含む分画液をオオバギ抽出物として得た。
【0077】
得られたオオバギ抽出物を下記に示す条件で逆相HPLC分析に供することにより、ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cを、それぞれリテンション・タイムが15.2、21.3、23.9、26.7及び38.6分のピークにより検出した。
【0078】
分析条件:
日本分光株式会社製のソフトChrom NAV PU-2080 Plus型送液ポンプ、MD-4010型UV検出器、DG-2080-53デガッサ、及びLC-NetII/ADCを用いた。カラムはnacalai tesque社製のODS COSMOSIL 5C18-AR-II(Φ4.6×250mm)を用いた。
【0079】
検出方法:
溶媒はメタノール-水混合液を用い、75%(v/v)メタノール→90%メタノールのグラジェントで、流速1ml/min、カラム温度30℃でUV215nmを検出した。グラジェントの条件として、0~30分の間はメタノール/水(75/25)、30~45分の間はメタノール/水(90/10)で溶出した。ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cの含有量は、標品を用いて検量線を作成することによる検量線法により算出した。このような条件で、表1のオオバギ抽出物中のニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cの含有量を測定した。
【0080】
(2)被験試料の調製
オオバギ抽出物に含まれるニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cを被験物質として、それぞれ100mg/mLとなるようにDMSOに添加し、4℃で24時間振とうし、次いで孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、被験試料を得た。陽性コントロールとして、各種核内受容体の活性を促進することが知られているベルベリン(berberine)をDMSOに溶解したベルベリン溶液を用いた。陰性コントロールとしてはDMSOを用いた。
【0081】
(3)評価用培地の調製
フェノールレッドを含まない、活性炭処理したFBSを10%(v/v)含むDMEM培地(活性炭処理FBS含有DMEM培地)に、被験試料、陽性コントロール及び陰性コントロールをそれぞれ添加して、評価用培地を調製した。
【0082】
評価用培地における、被験試料の濃度(各物質の最終濃度)は表1になるような濃度で調製した。また、陽性コントロールの濃度(ベルベリンの最終濃度)は0.0036mg/mLとした。陰性コントロールの濃度(DMSOの最終濃度)は0.5%(v/v)とした。
【0083】
【0084】
(4)レポーターアッセイによるPPARγ活性評価
アフリカミドリザル腎由来細胞株であるCV-1細胞(P50)及びヒト肝ガン細胞株であるHepG2細胞(Px+14)を用いて、試験時間を48時間とし、キット「Dual-Luciferase(登録商標) Reporter 1000 Assay System」(Cat No.E1980;プロメガ社)を用いて、製造業者の指示に従って、PPARγ活性を評価した。
【0085】
評価値は、陰性コントロールを添加した場合の実質的発光値1.0に対する、被験試料又は陽性コントロールを添加した場合の実質的発光値の相対比を示している。したがって、評価値が2.0以上であって、かつ、細胞毒性が無い場合は、被験試料又は陽性コントロールは核内受容体の活性を有意に促進したといえる。なお、陰性コントロールを添加した場合と比較して、被験試料又は陽性コントロールを添加した場合にウミシイタケルシフェラーゼの発光強度が顕著に低下した場合は細胞毒性が有るものとし、同等以上である場合は細胞毒性が無いものとした。
【0086】
(5)評価結果
PPARγ活性評価結果を表2に示す。
【0087】
【0088】
表2に示すように、ニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cは、濃度依存的なPPARγリガンド活性を有することがわかった。
【0089】
このうち、表2において「*」が付された数値の試験区はコントロールに比べて2倍以上の活性を示し、p<0.05により有意差が有ると認められるものである。この結果より、ニムフェオール-B、ニムフェオール-A及び3’-ゲラニルナリンゲニンについては、高度なPPARγリガンド活性を有することがわかった。
【0090】
特に、ニムフェオール-Bは0.0125mg/mL以上、ニムフェオール-Aは0.002mg/mL以上、3’-ゲラニルナリンゲニンは0.01mg/mL以上であることにより、格別顕著に高いPPARγリガンド活性を示すことが分かった。さらに、ニムフェオール-A及びニムフェオール-Bは低濃度でありながら、非常に高いPPARγリガンド活性を有することがわかった。
【0091】
以上の結果から、ニムフェオール類の中でも、プレニル基の位置によってPPARγと結合する能力が異なり、その生理的挙動が異なると示唆される。ニムフェオール-A及びニムフェオール-Bなどのニムフェオール類を多く含むオオバギを加工して利用することにより、効率的にPPARγ活性化用組成物を得ることができることがわかった。
【0092】
[例2.オオバギ抽出物及びオオバギ由来単離化合物が有する糖取込み促進作用の評価]
(1)オオバギ実粗抽出物の作製
(1-1)オオバギ生実粗抽出物の作製
沖縄県で採取し、-80℃で冷凍保存していたオオバギ(Macaranga tanarius)の果実 2.2kgをフードミキサー(SANYO社製)で破砕した。得られた破砕物をメタノール 6Lに72時間浸漬した。得られた浸漬物を、ろ材としてフィルターペーパー(ADVANTEC)を用いてろ過することでろ液を得た。得られたろ液をエバポレーターで濃縮することで、濃縮物としてオオバギ生実粗抽出物 90.3gを得た。
【0093】
得られたオオバギ生実粗抽出物について、例1と同様のHPLC分析により、オオバギ生実粗抽出物中のニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cの含有量を測定した。結果を表3に示す。
【0094】
(1-2)オオバギ乾燥実粗抽出物の作製
沖縄県で採取したオオバギ(Macaranga tanarius)の果実 2.2kgを送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製)を用いて40℃で42時間にて乾燥した。乾燥後のオオバギ乾燥実 430gをフードミキサー(SANYO社製)で破砕した。得られた破砕物をエタノール 2.5Lに68時間浸漬した。得られた浸漬物を、ろ材としてフィルターペーパー(ADVANTEC)を用いてろ過することでろ液を得た。得られたろ液をエバポレーターで濃縮することで、濃縮物としてオオバギ乾燥実粗抽出物 30.5gを得た。
【0095】
得られたオオバギ乾燥実粗抽出物について、例1と同様のHPLC分析により、オオバギ乾燥実粗抽出物中のニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cの含有量を測定した。結果を表3に示す。
【0096】
【0097】
(2)筋管細胞の形成
L6筋芽細胞(JCRB細胞バンク)を5×104cells/mLの濃度となるように、10%(v/v)ウシ胎児血清、100U/mL ペニシリンG及び100μg/mL ストレプトマイシンを添加したD-MEM培地(高グルコース、4500mg/L)に懸濁した。
【0098】
懸濁したL6筋芽細胞を、96wellマルチプレートに5×104cells/well(0.1mL/well)となるように播種し、37℃で、5%CO2インキュベーター内で2日間培養した。
【0099】
培養開始2日後に、ウェル内の培地を除去した。筋管細胞へと分化誘導するために、各ウェルに、2%(v/v)ウシ胎児血清、100U/mL ペニシリンG及び100μg/mL ストレプトマイシンを添加したD-MEM培地(低グルコース、1000mg/L)に交換し、9日間培養した。培地は3日ごとに交換した。培養後、L6筋芽細胞が筋管細胞に分化していることを確認した。
【0100】
培養後、ウェル内の培地を除去し、グルコース不含クレブス溶液(Krebs-Henseleit-HEPES-Buffer(KHHバッファー);6900mg/L NaCl、350mg/L KCl、373mg/L CaCl2・2H2O、2100mg NaHCO3、160mg/L KH2PO4、300mg/L MgSO4・7H2O、2400mg/L HEPES、220mg/L Sodium pyruvate、0.1% BSA)に代え、37℃にて、5%CO2インキュベーター内で2時間培養して筋管細胞を維持した。
【0101】
(3)筋管細胞による糖取込み量の測定
KHHバッファーに1000mg/L グルコースのみを添加したコントロール溶液;KHHバッファーに1000mg/L グルコース及びオオバギ生実由来粗抽出物(最終濃度にて、10μg/mL、30μg/mL及び100μg/mL)を添加した被験試料溶液;並びに、KHHバッファーに1000mg/L グルコース及びオオバギ実が含有するプレニルフラボノイドであるニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-C(最終濃度にて、それぞれ5μM、10μM、30μM及び50μM)を添加した被験試料溶液を調製した。なお、これらの化合物はオオバギ生実由来粗抽出物から分離及び精製し、NMR及びMSにて構造決定して確認したものを用いた。
【0102】
各ウェルについて、培地を上記の各溶液に交換し、37℃で24時間にて、5%CO2インキュベーター中でインキュベートした。
【0103】
インキュベート開始時の溶液中のグルコース濃度と、インキュベート開始24時間後の溶液中のグルコース濃度とをマイクロプレートリーダー及びグルコース定量キット(グルコースCIIテストワコー;和光純薬工業株式会社、カタログ番号439-90901)を用いて定量し、インキュベート前後の溶液中のグルコース濃度差を算出し、その値を糖取込み量とした。結果を
図1及び
図2に示す。なお、図中の「糖取込み(Fold)」はコントロール溶液の測定結果に対する被験試料溶液の測定結果の割合(倍率)を示す。また、「**」はコントロールと比較して1%、「*」はコントロールと比較して5%の危険率で有意差があったことを示す。
【0104】
細胞生存率は、糖取込み量の測定後、KHHバッファーにMTT試薬溶液を加え、37℃にて、5%CO2インキュベーター内で2時間インキュベートし、青紫色を呈するまで反応させた。露呈した後、KHHバッファーを除去し、溶解溶液としてDMSOを加え、吸光度(570nm)を測定した。細胞生存率は、以下の式により算出した。
細胞生存率(%)=(検討サンプルの吸光度/Controlの吸光度)×100
【0105】
(4)評価結果
図1が示すとおりに、オオバギ生実粗抽出物は、濃度依存的に筋管細胞の糖取込み量を増加した。また、細胞生存率は、糖取込み量の増加に関係がなかった。その一方で、オオバギ生実粗抽出物の濃度が30μg/mL以上である場合には、細胞の若干の増殖がみられた。また、オオバギ生実粗抽出物を水:酢酸エチルでの分液操作に供すると、水層 約49g及び酢酸エチル層 約40gと重量が分散することがわかった。
【0106】
図2が示すとおり、ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cもまた、濃度依存的に筋管細胞の糖取込み量を促進した。特に、50μM ニムフェオール-B、5~50μM イソニムフェオール-B、50μM ニムフェオール-A、30~50μM及び3’-ゲラニルナリンゲニンは、良好な筋管細胞の細胞生存率を達成しながら、糖取込み量を促進した。ただし、ニムフェオール-Cの糖取込み能は有意なものではなかった。
【0107】
また、ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-Cのうち、イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニンは、その余の3種のプレニルフラボノイドよりも大きい糖取込み促進作用を有することがわかった。
【0108】
以上の結果より、ニムフェオール-B、イソニムフェオール-B、ニムフェオール-A、3’-ゲラニルナリンゲニン及びニムフェオール-C並びにこれらの少なくとも1種のプレニルフラボノイドを含有するオオバギ抽出物は、筋管細胞に対して糖取込み量を促進することがわかった。
【0109】
例1及び例2の結果を総合すると、オオバギ抽出物及びオオバギ抽出物の含有成分は、PPARγ活性化作用を有し、さらに細胞による糖の取込みを促進させることにより、糖代謝系を調節することなどに有用であることがわかった。
【0110】
[例3.オオバギ抽出物とオオバギ由来単離化合物の組合せとが有する糖取込み促進作用の比較評価]
例2の(1-1)で作製したオオバギ生実粗抽出物と、ニムフェオール-A、ニムフェオール-B及びニムフェオール-Cの組合せとをそれぞれ用いて、例2と同様にして筋管細胞による糖取込み量を測定した。該組合せにおけるニムフェオール-A、ニムフェオール-B及びニムフェオール-Cの使用量は、表3に記載のオオバギ生実粗抽出物におけるニムフェオール-A、ニムフェオール-B及びニムフェオール-Cの含有率に基づいて、オオバギ生実粗抽出物の10μg/mL、30μg/mL及び100μg/mLがそれぞれ含有する相当量とした。結果を
図3に示す。
【0111】
図3が示すとおり、オオバギ生実粗抽出物では、容量依存的に糖取込み量が促進されたが、ニムフェオール-A、ニムフェオール-B及びニムフェオール-Cの組合せではそのような傾向はみられなかった。この結果から、オオバギ生実粗抽出物が有する糖取込み促進作用は、オオバギ生実粗抽出物に含まれるニムフェオール-A、ニムフェオール-B及びニムフェオール-Cとは異なる成分、又はこれらと他の成分との組合せによる相乗作用によって発揮される可能性があることがわかった。
【0112】
[例4.イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニンが有する糖取込み促進作用の評価]
下記化学式群(6)に示すように、イソニムフェオール-Bとエリオディクティオールとは、及び3’-ゲラニルナリンゲニンとナリンゲニンとは、共通した骨格を有し、類似した構造を有する。そこで、これらの化合物が有する糖取込み促進作用を例2と同様にして評価した。結果を
図4に示す。
【0113】
【0114】
図4に示すとおり、イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニンは30μM及び50μMにおいて有意に糖取込み量を促進したが、エリオディクティオール及びナリンゲニンにおいては有意な糖取込み能が認められなかった。したがって、イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニンは、類似した構造を有する化合物が有さないような、糖取込み促進作用を有することがわかった。
【0115】
[例5.イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニンが有する糖取込みに係るシグナル分子の活性化作用の評価]
(1)ウエスタンブロット法によるリン酸化AMPK及びリン酸化Aktの測定
L6筋芽細胞の細胞濃度を2×105cells/wellとなるように播種し(2mL/well)、96wellプレートの代わりに6wellプレートを用いたこと以外は、例2(2)と同様にして、筋管細胞を形成した。
【0116】
KHHバッファーに1000mg/L グルコースのみを添加したコントロール溶液;KHHバッファーに1000mg/L グルコース及びイソニムフェオール-B(50μM)又は3‘-ゲラニル-ナリンゲニン(50μM)を添加した被験試料溶液;ポジティブコントロールとしてKHHバッファーに1000mg/L グルコース及びAMPKアゴニストであるAICAR又はInsulin経路活性剤であるInsulinを添加したポジティブコントロール溶液を調製し、これらのバッファーに培地を交換し、さらに37℃で各時間(30分、90分、270分)にて、5%CO2インキュベーター中で培養した。
【0117】
培養後、PBSで細胞を洗浄した後、各ウェルにBlue Loading Buffer(Cell Signaling technology社製)を加えて、細胞を溶解させた。各ウェルから細胞溶解液を回収し、ウエスタンブロット用サンプルとした。
【0118】
ウエスタンブロット用サンプルを、常法に従ってSDS-PAGEにて分離し、抗リン酸化AMPK抗体及びAkt抗体を用いてウエスタンブロット法にて解析した。結果を
図5に示す。
【0119】
(2)評価結果
図5が示すとおり、イソニムフェオール-B及び3‘-ゲラニル-ナリンゲニンを添加した培地中のL6筋管細胞では、コントロールと比較して、経時的にリン酸化AMPKが増加した。一方で、リン酸化Aktは影響が認められなかった。
【0120】
このように、イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニンは、有意にグルコーストランスポータ(Glut4)の遺伝子発現及び膜への移動を促進するシグナル分子であるAMPKのリン酸化を促進することが認められた。しかし、インスリンによって活性化される糖取込み促進に関わるシグナル分子であるAktのリン酸化には、ほとんど影響を与えなかった。従って、イソニムフェオール-B及び3’-ゲラニルナリンゲニンは、AMPK活性化を介するインスリン非依存的な糖取込みを促進することが分かった。
【0121】
[例6.高脂肪・高ショ糖食餌誘発性 肥満モデルマウスにおけるオオバギ抽出物の影響評価]
オオバギ抽出物として例2の(1-1)で作製したオオバギ生実粗抽出物を用いて、肥満症に対する影響を評価する目的で、高脂肪・高ショ糖食給与、肥満モデルマウスにオオバギ抽出物を11週間(78日間)経口投与し、体重変化、臓器重量、血糖値変動の指標を用いて影響を検証した。
【0122】
(6-1)試験方法
(1)試験動物
6週齢のC57BL/6J Jms Slc(雄性)を日本エスエルシー株式会社から購入し、4日間の予備飼育を行って一般状態に異常のないことを確認した後、群分けして試験に使用した。試験動物はポリカーボネート製ケージに各5匹を収容し、室温23℃±2℃、照明時間12時間/日に設定した飼育室において飼育した。予備飼育期間中は基礎飼料マウス、ラット、ハムスター用CRF-1固形飼料(オリエンタル酵母工業株式会社)及び飲料水(水道水)を自由に摂取させた。試験期間中は標準飼料としてCRF-1固形飼料又は高脂肪・高ショ糖飼料として特注飼料F2HFHSD(オリエンタル酵母株式会社)を自由摂取させた。
【0123】
(2)群設定
表4に示した施術群、試験飼料を給餌する群、経口投与(p.o.)サンプル群の計4群設定した。1群あたりの試験動物数は7または8匹とした。
【0124】
【0125】
(3)体重測定
試験開始日から11週間(78日間)まで毎日体重測定を行った(土日を含む)。
【0126】
(4)血糖値測定
試験開始時及び試験開始後7、10、11週に、非絶食時血糖値を、同様に2、4、6、8、10、11週に、16時間絶食させた後、尾の先端部を注射針で刺して得られた血液から血糖値を測定した。測定にはアキュチェックアビバ(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いた。
【0127】
(5)糖負荷試験
試験開始から10週に、16時間絶食させた後、グルコースを2 g/kgの用量で胃ゾンデを用いて強制経口投与した。投与前及びに投与後30、60、90、120及び180分に血糖値測定を行った。
【0128】
(6)採血及び安楽死
試験開始後11週にソムノペンチル麻酔下で頸椎脱臼し、安楽死した。心臓より採取した血液をヘパリン処理し、遠心分離し血漿を得た。
【0129】
(7)臓器重量測定
採血終了後、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、心臓、脳、白色脂肪(卵巣周囲脂肪、腸間膜腎周囲脂肪、腎臓周囲脂肪及び鼠蹊部皮下脂肪)、褐色脂肪、筋肉(長趾伸筋、前脛骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋及び脛骨周囲筋)を摘出し、それぞれについて湿重量を測定した。
【0130】
(8)血漿中パラメータ測定
血漿中のトリグリセリド、遊離脂肪酸、総コレステロール、アディポネクチン、レプチンを測定した。
【0131】
(9)統計処理
体重、血糖値、臓器重量及び血漿中パラメータについて、Dunnett法によりcontrol群との多重比較を行った。有意水準は5 %とした。結果は全て平均値±標準誤差で示した。
【0132】
(6-2)試験結果
(1)体重
体重の測定結果を、
図6及び表5に示す。オオバギ抽出物 500mg/kg投与群に高脂肪・高ショ糖食による体重増加を抑制する作用が認められた。
【0133】
【0134】
(2)非絶食時血糖値及び絶食時血糖値
非絶食時血糖値及び絶食時血糖値の測定結果をそれぞれ
図7及び
図8に示す。また、絶食時血糖値及び絶食時血糖値(mg/dL)の推移及び非絶食時血糖値及び絶食時血糖値(mg/dL)の推移をそれぞれ表6及び表7に示す。
【0135】
非絶食時血糖値において、control群と比較して投与後10週間後及び11週間後でオオバギ抽出物 500mg/kg投与群に血糖値上昇の抑制作用が認められた。絶食時血糖値ではcontrol群と比較して投与後6週間後及び8週間後でオオバギ抽出物 500mg/kg投与群に血糖値減少が認められた。
【0136】
【0137】
【0138】
(3)糖負荷試験
糖負荷試験の結果として、血糖値の測定結果及びΔ血糖AUCの結果をそれぞれ
図9及び
図10に示す。糖負荷前、糖負荷後60、90、120、180分後にオオバギ抽出物 500mg/kg投与群で、control群と比較して有意な差が認められた。また、糖負荷後90、120、180分後にオオバギ抽出物 100mg/kg投与群でも、control群と比較して有意な差が認められた。一方、Δ血糖AUCでは有意差は認められなかった。
【0139】
(4)臓器重量
主要臓器重量及び脂肪組織重量の測定結果をそれぞれ
図11及び
図12に示す。主要臓器重量(
図11)では、心臓においてcontrol群と比較してオオバギ抽出物 500mg/kg投与群で有意な減少が認められた。その他の臓器について有意な差は認められなかった。
【0140】
白色脂肪組織(WAT)重量(
図12)では、control群と比較してオオバギ抽出物 500mg/kg投与群で全WAT(腎臓WAT+皮下WAT+精巣周囲WAT+後腹膜周囲WAT+BAT(褐色脂肪細胞)の合計)、腎臓周囲、皮下WAT、精巣周囲WAT、後腹膜WATにおいて有意な脂肪組織の減少が認められた。褐色脂肪細胞(BAT)については有意な差は認められなかった。
【0141】
(5)血漿中パラメータ
血漿中の各種物質濃度の測定結果を
図13~
図17に示す。血漿トリグリセライド(
図13)では、control群と比較して有意な差は認められなかった。
【0142】
血漿 総コレステロール(
図14)では、control群と比較してオオバギ抽出物 500mg/kg投与群で有意な減少が認められた。
【0143】
血漿 遊離脂肪酸(
図15)では、オオバギ抽出物はcontrol群と比較して有意な差は認められなかった。
【0144】
インスリン測定(
図16)では、オオバギ抽出物はcontrol群と比較して有意な差は認められなかった。一方、インスリン抵抗性の指標となるHOMA-IR(homeostasis model assessment for insulin resistance;
図17)ではオオバギ抽出物で有意な減少が見られた。
【0145】
(6-3)評価
オオバギ抽出物の肥満に対する有効性を検証する目的で、動物試験により抗肥満、抗血糖効果及び体重変化等の指標を用いて検討した。すなわち、高脂肪、高ショ糖飼料を摂食させた肥満誘導モデルマウスを用いて、control群(高脂肪、高ショ糖飼料)、試験群(オオバギ抽出物)を設定し,11週間各飼料を給餌した。
【0146】
その結果、試験群の体重では、試験期間を通して500mg/kg投与群で、体重増加の抑制作用が認められ、試験終了時の臓器重量では、オオバギ抽出物 500mg/kg投与群で脂肪組織重量の減少作用が認められた。また、血漿中パラメータ解析では、オオバギ抽出物 500mg/kg投与群で総コレステロールの減少作用が認められた。これらのことから、オオバギ抽出物は、高脂肪、高ショ糖食餌によって誘導される脂肪組織の増加を抑制する抗肥満作用を有することがわかった。
【0147】
絶食時血糖値では投与後10週間後及び11週間後でオオバギ抽出物 500mg/kg投与群で血糖値上昇の抑制作用が認められた。また、非絶食時血糖値においても、投与後6週間後及び8週間後でcontrol群と比較してオオバギ抽出物 500mg/kg投与群で血糖値上昇の抑制作用が認められた。また、試験開始から11週後に実施した糖負荷試験においては、オオバギ抽出物 500mg/kg投与群において有意な血糖値上昇抑制効果が認められ、HOMA-IRの減少が認められた。これらのことから、オオバギ抽出物には高脂肪、高ショ糖食餌によって誘導される血糖値を抑制し、インスリン抵抗性を緩和する効果を有することがわかった。
【0148】
以上のことより、オオバギ抽出物には抗肥満効果及び抗糖尿病効果を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の一態様の組成物は、PPARγ活性化作用及び糖取込み促進作用を通じて、健常個体に加えて、細胞内代謝、糖代謝及び/又は脂質代謝の不全によって起こり得る疾患や症状を改善、緩和、抑制、治療又は予防することを期待する使用個体にとって有用なものであり、このような使用個体の健康及び福祉に資するものとして利用可能なものである。
【関連出願の相互参照】
【0150】
本出願は、2019年1月22日出願の日本特願2019-008518号の優先権を主張し、その全記載は、ここに開示として援用される。