(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】透明な液状脂肪酸石鹸組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/36 20060101AFI20240919BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20240919BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240919BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20240919BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
A61K8/36
A61K8/02
A61K8/34
A61K8/365
A61Q19/10
(21)【出願番号】P 2020091166
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】503174051
【氏名又は名称】株式会社エス・ピー・エイチ
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 満太
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和子
(72)【発明者】
【氏名】中野 善郎
(72)【発明者】
【氏名】早▲崎▼ 泰
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-526674(JP,A)
【文献】特開2013-139408(JP,A)
【文献】特開2013-028759(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221529(WO,A1)
【文献】特開2019-048979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C11D 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和脂肪酸及び界面活性剤は配合されることなく、炭素数12~14の飽和脂肪酸を70モル%以上含む、炭素数8~18の飽和脂肪酸よりなる混合飽和脂肪酸を80℃以上に加温して溶融し、当該混合飽和脂肪酸に水を
一気に加えて70℃以下であって前記加温温度より少なくとも20℃以下低い温度に冷却した後、当該冷却した混合脂肪酸と水との懸濁液に、水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムと、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムとのモル比が90/10から50/50の範囲で混合された混合アルカリの水溶液を加えて中和することにより
、飽和脂肪酸石鹸分を8~35質量%含む透明な液状物とすることを特徴とする、透明な液状石鹸組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の透明な液状石鹸組成物の製造方法において、更に、炭素数8~16の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は炭素数8~16の飽和脂肪酸アルミニウム塩を含む場合には、当該炭素数8~16の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は炭素数8~16の飽和脂肪酸アルミニウム塩を、予め上記混合飽和脂肪酸に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対し炭素数8~16の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は炭素数8~16の飽和脂肪酸アルミニウム塩を100~2000ppmとなる添加量で混合し、当該混合飽和脂肪酸と飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩との混合物を80℃以上に加温して当該混合脂肪酸と飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩を溶融することを特徴とする、透明な液状石鹸組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の透明な液状石鹸組成物の製造方法において、更にアルコールを含む場合には、アルコール類は、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン及びカルボキシメチルセルロースよりなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコールであり、当該アルコールを、予め上記水に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対しアルコールを1~15質量部となる量で混合しておくことを特徴とする、透明な液状石鹸組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3いずれかの項記載の透明な液状せっけん組成物において、更に酸を含む場合には、酸は、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、フマル酸、乳酸及びこれらの塩よりなる群より選ばれる少なくとも1種の酸であり、当該酸を、予め上記水に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対し酸を0.3~3質量部となる量で混合しておくことを特徴とする、透明な液状石鹸組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚洗浄用の透明な液状脂肪酸石鹸組成物の製造方法に関し、特に、常温で透明であり、使用性が良好で、高い起泡力を有し、皮膚や目に対して刺激が少なく、環境にも優しい、透明な液状脂肪酸石鹸組成物の製造方法を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
毛髪洗浄剤、皮膚洗浄剤、洗顔料などの身体洗浄用石鹸に関しては既に種々の技術が公開されており、身体洗浄剤としてアルキルサルフェート塩、アルキルエーテルサルフェート塩、α-オレフィンスルフォネート塩、アルキルカルボキシベタイン、アルキルメチルタウリン酸塩等の化学合成された界面活性剤(以下、「合成活性剤」と略記する)を含むものが多数市販されている。
【0003】
脂肪酸石鹸を製造する方法は古くから実用化されており、油脂にアルカリ水を加えて加熱するけん化法と脂肪酸にアルカリ水を加える中和法が一般的である。
特に、脂肪酸石鹸が主成分である液状身体石鹸には、脂肪酸または油脂を水酸化カリウムによって中和または鹸化して得られる脂肪酸カリウム塩(以下、「カリ石鹸」と略記する)が液状石鹸として広く用いられている。かかる液状カリ石鹸は、凝固したり、固結したりしない濃度まで水で希釈されて液状石鹸として流通しているものもある。
【0004】
例えば、特開2006-206525号公報(特許文献1)には、(a)高級脂肪酸石鹸を25~50質量%、(b)低級アルコールを0.5~10質量%、および(c)水を含有する、ペースト状皮膚洗浄料が開示されている。
また、特開2002-322498号公報(特許文献2)には、脂肪酸石鹸として、特定の重量比のミリスチン酸石鹸、パルミチン酸石鹸及びステアリン酸石鹸と、プロピレングリコール、グリセリン及び水を含有する組成物が提案されている。
【0005】
特開2004-210704号公報(特許文献3)には、(A)高級脂肪酸塩、(B)アミノ酸系ポリマー、(C)イオン性の異なる二種以上の水溶性高分子(成分Bを除く)を含有する、皮膚洗浄剤組成物が提案されている。
更に、特開2011-121870号公報(特許文献4)には、(A)硫酸基を有するアニオン性界面活性剤を1~10質量%、(B)高級脂肪酸又はその塩を1~25質量%、(C)アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を0.1~2質量%、(D)(ジ)グリセリンモノ脂肪酸エステル又は(ジ)グリセリンモノアルキルエーテルを0.5~10質量%、(E)アルキルポリグルコシドを0.5~10質量%、(F)水を含有し、30℃における粘度が150~1000dPa・sである皮膚洗浄剤が提案されている。
【0006】
更に特開2015-196713号公報(特許文献5)には、脂肪酸組成がラウリン酸を50質量%以上含有する高級脂肪酸1モルに対して水酸化カリウム1~1.01モルで反応して得られた高級脂肪酸カリウム塩(A)の含有量が5~30質量%、アルキルヒドロキシスルホベタイン型両性界面活性剤(B)の含有量が1~10質量%であり、かつ(A):(B)の質量比が1:0.05~1である透明液体洗浄剤組成物が開示されている。
【0007】
一方、飽和脂肪酸のナトリウム塩(以下、「ナトリウム石鹸」と略記する)は、主に固形石鹸として用いられているが、水に対する溶解性がカリ石鹸と比べて著しく低く、水にはほとんど解けないため、ナトリウム石鹸は工業原料であるソープチップとして流通し、混錬機にて加熱されて添加剤が配合された後、粘調液を型枠に流し込み化粧石鹸等に加工されている。ナトリウム石鹸のソープチップも水への溶解性は低く、温水でもその均質な溶解を得るのは容易ではない。
【0008】
しかし、カリ石鹸を主として含む液状石鹸は、泡立ちや洗浄力が十分ではなく、これを改善するため石油化学原料から合成された非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両イオン性界面活性剤等を少なくとも1種類以上が混合処方されて用いられている。更に、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリアルキレングリコール等の多価アルコール類及び水溶性高分子化合物等が配合されて、組成物の泡立ち等が工夫されている。
【0009】
脂肪酸石鹸は、人体への安全性に加えて環境への安全性にも問題がなく、泡切れや洗いあがりがさっぱりするなど、使用感への評価が高い。
しかし、上記したように、カリ石鹸は泡立ちや洗浄力が合成活性剤に比べて弱いことが難点とされ、一方でナトリウム石鹸は泡立ちが良く洗浄力も合成活性剤に匹敵するが、水への溶解度が小さいことが問題であった。
【0010】
ナトリウム石鹸の水溶性については、飽和脂肪酸のナトリウム塩のなかでも水への溶解性が比較的優れたラウリン酸のナトリウム石鹸であっても10質量%以上溶解するためには約40℃以上とすることが必要とされ、クラフト(Krafft)点は30℃以上であり、低濃度でも流動性を失ってしまい、パルミチン酸やステアリン酸等の、より長い炭素鎖を持つナトリウム石鹸は更に溶解性が低いとされている(新版 脂肪酸化学 第2版 平野二郎・稲葉恵一編者 幸書房)。
かかる溶解性の低さにより、得られる液状石鹸製品が分離したり、液状石鹸を入れた容器のノズルの詰まり等が発生してしまい、現状ではナトリウム石鹸を主成分とする液状脂肪酸石鹸組成物は商品化されていない。
【0011】
また、合成活性剤を配合した複合カリ石鹸洗浄剤は洗浄力や泡立ちの弱さは補えるものの、脂肪酸石鹸特有の使用感、即ち泡切れの良さ等が損なわれており、皮膚刺激やぬめり感があるなどの指摘がある。
従って、皮膚にマイルドでかつ粘性のある泡を豊富に発生し、洗い心地が良く、ヌメリ感なく、さっぱりとしたすすぎ易い飽和脂肪酸石鹸を主成分とする身体洗浄剤の製品化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2006-206525号公報
【文献】特開2002-322498号公報
【文献】特開2004-210704号公報
【文献】特開2011-121870号公報
【文献】特開2015-196713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の第1の目的は、常温において、石鹸組成物が分離することなく透明な液状を維持するとともに、皮膚や目に対して刺激が少なく、環境にも優しく、ナトリウム石鹸の含有割合を多く含むことができ、特定の高級脂肪酸石鹸を洗浄成分として、高い起泡力を有する、透明な液状石鹸組成物を生産性良く製造する方法を提供することにある。また、合成活性剤を含まない、透明な液状石鹸組成物を生産性良く製造する方法を提供することにある。
更に、飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩を配合する場合には、本発明の第2の他の目的として、上記目的に加えて、更に低温においても石鹸組成物が分離することもなく透明な液状を維持することができる、透明な液状石鹸組成物を生産性良く製造する方法を提供することにある。
なお、本発明において、「常温」とは15~45℃までの温度を含むものであり、「低温」とは15℃より低い温度を表すものとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、通常使用されている合成活性剤を使用することなく、所定の混合脂肪酸、特に特定の飽和脂肪酸を所定割合で含む加温された混合脂肪酸を、水で一定温度差にまで冷却し、ナトリウム及びカリウムのアルカリで鹸化することで、上記第1の課題を解決できる透明な液状状石鹸組成物の製造が可能となることを見出し、本発明に到達した。
また更に、特定の脂肪酸飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩を特定量で配合する場合、特定のアルコールを特定量で配合する場合、特定の酸を特定量で配合する場合には、上記第1の課題に加えて、第2の課題を解決できる透明な液状石鹸組成物の製造が可能となることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明の透明な液状石鹸組成物の製造方法は、不飽和脂肪酸及び界面活性剤は配合されることなく、炭素数12~14の飽和脂肪酸を70モル%以上含む、炭素数8~18の飽和脂肪酸よりなる混合飽和脂肪酸を80℃以上に加温して溶融し、当該混合飽和脂肪酸に水を一気に加えて70℃以下であって前記加温温度より少なくとも20℃以下低い温度に冷却した後、当該冷却した混合脂肪酸と水との懸濁液に、水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムと、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムとのモル比が90/10から50/50の範囲で混合された混合アルカリの水溶液を加えて中和することにより、飽和脂肪酸石鹸分を8~35質量%含む透明な液状物とすることを特徴とする、透明な液状石鹸組成物の製造方法である。
【0016】
好適には、上記透明な液状石鹸組成物の製造方法において、更に、炭素数8~16の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は炭素数8~16の飽和脂肪酸アルミニウム塩を含む場合には、当該炭素数8~16の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は炭素数8~16の飽和脂肪酸アルミニウム塩を、予め上記混合飽和脂肪酸に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対し炭素数8~16の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は炭素数8~16の飽和脂肪酸アルミニウム塩が100~2000ppmとなる添加量で混合し、当該混合飽和脂肪酸と飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩との混合物を80℃以上に加温して当該混合脂肪酸と飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩を溶融させることを特徴とする、透明な液状石鹸組成物の製造方法である。
【0017】
更に好適には、上記いずれかの透明な液状石鹸組成物の製造方法において、更にアルコールを含む場合には、アルコール類は、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン及びカルボキシメチルセルロースよりなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコールであり、当該アルコールを、予め上記水に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対しアルコールが1~15質量部となる量で混合しておくことを特徴とする、透明な液状石鹸組成物の製造方法である。
【0018】
更に好適には、上記いずれかの透明な液状石鹸組成物の製造方法において、更に酸を含む場合には、酸は、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、フマル酸、乳酸及びこれらの塩よりなる群より選ばれる少なくとも1種の酸であり、当該酸を、予め上記水に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対し酸を0.3~3質量部となる量で混合しておくことを特徴とする、透明な液状石鹸組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の透明な液状石鹸組成物の製造方法は、常温において透明で均一な液状状態を維持できるとともに、得られた石鹸組成物が経時的に分離することもなく安定性に優れ、皮膚や目に対して刺激が少なく、高い起泡力を有し、使用感に優れる透明な液状石鹸組成物を、有効に生産性良く製造することができることとなる。
また、本発明の透明な液状石鹸組成物の製造方法により得られた透明な液状石鹸組成物は、飽和脂肪酸石鹸分を洗浄成分とし界面活性剤を含むことがないため、皮膚への刺激が少なく、環境的にも優れている。
更に、好ましくは、特定の炭素数範囲の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩を特定量で配合したり、また更に、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、フマル酸、乳酸及びこれらの塩よりなる群より選ばれる少なくとも1種を特定量で配合したり、特定のアルコールを特定量で配合することより、常温における透明液状状態のみならず、低温域における透明液状状態を安定化させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を以下の好適例に基づいて説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の第1の透明な液状石鹸組成物の製造方法は、炭素数12~14の飽和脂肪酸を70モル%以上含む、炭素数8~18の飽和脂肪酸よりなる混合飽和脂肪酸を80℃以上に加温して溶融し、当該混合飽和脂肪酸に水を加えて70℃以下であって前記加温温度より少なくとも20℃以下低い温度に冷却した後、当該冷却した混合脂肪酸と水との懸濁液に、水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムと、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムとのモル比が90/10から50/50の範囲で混合された混合アルカリの水溶液を加えて中和することにより透明な液状物とする、透明な液状石鹸組成物の製造方法である。
【0021】
従来は、ナトリウム石鹸を含む場合には、透明な石鹸組成物を得ることはできなかったが、上記構成を有することで、常温域で、好ましくは低温域においても、ナトリウム石鹸を多く含む場合であっても、得られる石鹸組成物は透明で、長期間分離しない安定な液状状態を保持することが可能となる。
本発明の製造方法においては、化学合成された界面活性剤や粘性剤は配合されないものである。
【0022】
本発明の透明な液状石鹸組成物の製造方法に用いる脂肪酸としては、炭素数12~14の飽和脂肪酸を70モル%以上含む、炭素数8~18の飽和脂肪酸よりなる混合飽和脂肪酸である。
本発明においては、不飽和脂肪酸は使用しない。不飽和脂肪酸を含むとその石鹸は酸化により色味や匂いが発生するため、皮膚洗浄用には適切ではないからである。
炭素数8~18、好ましくは炭素数12~16の飽和脂肪酸からなる混合脂肪酸としては、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸及びステアリン酸の少なくとも2種以上を混合した混合脂肪酸を使用する。
飽和脂肪酸の混合脂肪酸とすることが低臭気性、色相の経時安定性の点から望ましい。
【0023】
更に、これらの飽和脂肪酸の全混合脂肪酸中には、炭素数12~14の飽和脂肪酸を70質量%以上、例えばラウリン酸とミリスチン酸を、70質量%以上、好ましくは80質量%以上含む。
全混合脂肪酸中に炭素数12~14の飽和脂肪酸、例えばラウリン酸とミリスチン酸を上記高含量で含むことを必須とすることで、泡立ちが良好で、且つ透明な液状状態を常温域で長期間保持することが可能となる。
【0024】
本発明の製造方法においては、前記混合飽和脂肪酸を攪拌しながら温度80℃以上、好ましくは90℃以上に加温して(加温温度)、混合飽和脂肪酸を均質に溶融させる。好ましくは攪拌しながら溶融を実施する。ここで、加温温度とは、混合飽和脂肪酸を加温して均質に溶融した最高加温温度をいうものとする。
【0025】
次いで、当該加温されて溶融した無色透明な混合脂肪酸を攪拌しながら、前記混合脂肪酸に水を一気に添加して温度を70℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下に冷却する。冷却する温度は、70℃以下であって加温温度より少なくとも20℃以下低い温度になるようにする。
水を加えて冷却した混合飽和脂肪酸と水との混合物は、白色の小さな粒子が懸濁した状態を呈している。
添加配合する水の量は、80℃以上、好ましくは90℃以上に加温されて溶融した液状の混合脂肪酸の加温温度が、水を一気に加えることにより70℃以下、好ましくは60℃以下で、前記加温温度より少なくとも20℃以下低い温度に冷却できれば特に限定されない。例えば混合飽和脂肪酸100質量部に対して、水を約220~400質量部として添加することが、冷却を迅速に実現できるため望ましい。
【0026】
次いで、冷却された混合脂肪酸をアルカリで中和する。このように冷却された混合脂肪酸を中和することで、得られた液状石鹸組成物を透明とすることが可能となる。
冷却された上記混合飽和脂肪酸を中和して脂肪酸石鹸を得るために使用するアルカリは、水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムと、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムとの混合アルカリであり、かかる水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムと、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムとの混合モル比の割合は90/10~50/50、好ましくは80/20~60/40である。
かかる水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムと、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムとは予め配合して混合アルカリを調製して中和に用いても、予め配合することなく中和の際にそれぞれ配合して用いてもいずれでも良い。
水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムのモル比率が90より高くなってしまうと、カリウム石鹸の影響が強くなり、泡立ちや洗浄力等が満足できるものではなく、また50より水酸化カリウムの比率が低くなると、得られる石鹸の硬度が上昇して液状でなくなるとともに、使用時に水に早く溶けず起泡性が低くなる。
また、混合脂肪酸の中和には、前記アルカリを予めアルカリ水溶液(例えば、有効分濃度48%を基準)として用いることも可能であり、これにより短時間で均一な溶液を得ることが可能となる。
【0027】
また、中和の際に発熱して、上記冷却した温度より温度が上昇してしまうと、得られる液状石鹸組成物が透明ではなくなるおそれがあるため、このような場合には、上記したようにアルカリをアルカリ水溶液として用いたり、水を添加したり、水浴にて冷却等を実施して、中和熱により中和液状物の温度が、上記冷却温度より高くなることを防止することが望ましい。
なお、加温した混合飽和脂肪酸を冷却するにあたり、上記水の代わりに、アルカリ水溶液を混合脂肪酸に添加して、冷却と中和とを同時にすることも可能であるが、好ましくは、水を用いて冷却した後に、アルカリで中和する方法が望ましい。
【0028】
上記混合脂肪酸と混合アルカリを鹸化して得られた脂肪酸石鹸としては、例えば、カプリル酸カリウム/ナトリウムの混合塩、ペラルゴン酸カリウム/ナトリウムの混合塩、カプリン酸カリウム/ナトリウムの混合塩、ラウリン酸カリウム/ナトリウムの混合塩、ミリスチン酸カリウム/ナトリウムの混合塩、ペンタデシル酸カリウム/ナトリウムの混合塩、パルミチン酸カリウム/ナトリウムの混合塩、ステアリン酸カリウム/ナトリウムの混合塩及びマルガリン酸カリウム/ナトリウムの混合塩等が挙げられ、これらを2つ以上混合して使用することが起泡性で且つ泡立ちの良い液状石鹸を製造できる点から望ましい。
特に、ラウリン酸カリウム/ラウリン酸ナトリウムの混合塩、ミリスチン酸カリウム/ミリスチン酸ナトリウムの混合塩は含まれるように調製する。
【0029】
本発明の方法により得られた液状石鹸組成物には、例えば、飽和脂肪酸石鹸分は8~35質量%、好ましくは10~35質量%、より好ましくは18~28質量%含まれることが望ましい。
これは、飽和脂肪酸石鹸分が10質量%未満となると、使用時、充分な泡量が得られない場合があり、一方35重量%を超えると粘調になり均質な液状石鹸組成物が得られなくなる場合があるからである。
【0030】
また、上記本発明の液状石鹸組成物の製造方法において、好ましくは、炭素数8~16の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は炭素数8~16の飽和脂肪酸アルミニウム塩を配合することができる。かかる好適例の場合には、当該炭素数8~16の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は炭素数8~16の飽和脂肪酸アルミニウム塩を、予め上記混合飽和脂肪酸に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対し炭素数8~16の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は炭素数8~16の飽和脂肪酸アルミニウム塩が100~2000ppmとなる添加量で混合し、当該混合飽和脂肪酸と飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩との混合物を80℃以上に加温して当該混合脂肪酸と飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩を溶融する。
その後に水を加え、70℃以下であって前記加温温度より少なくとも20℃以下低い温度に冷却して懸濁液を得、これに、水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムと、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムとのモル比を90/10から50/50の範囲で混合した混合アルカリの水溶液を加えて中和することにより透明な液状石鹸組成物を得ることが可能となる。
【0031】
当該加温温度は、上記混合脂肪酸と当該飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩とが溶融できる温度とする。溶融後は、当該飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩と、混合飽和脂肪酸とが均質に混合されている状態となるように、攪拌されることが望ましい。
このように、当該飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩を配合する場合には、上記配合量範囲で添加することにより、得られる液状石鹸組成物の透明液状状態を、常温のみならず、低温域においても長期間安定化させることが可能となる。
また、前記当該飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩の脂肪酸基は炭素数8~16であり、かかる炭素数範囲の脂肪酸基であると、得られる飽和脂肪酸石鹸の脂肪酸基と馴染みやすいからである。
特に好ましくは、炭素数8~12の飽和脂肪酸マグネシウム塩及び/又は飽和脂肪酸アルミニウム塩金属塩を100ppm以上含んでいることが望ましい。
【0032】
また更に、本発明の透明な液状石鹸組成物の製造方法において、好ましくは、アルコール類を添加配合することができる。かかる好適例の場合には、アルコールを、予め冷却に用いる上記水に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対しアルコールが1~15質量部となる量で混合しておく。その後、当該アルコール水溶液を、加温された混合飽和脂肪酸等を冷却するために添加し、70℃以下であって上記加温温度より少なくとも20℃以下低い温度に冷却して懸濁液を得、これに、水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムと、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムとのモル比を90/10から50/50の範囲で混合した混合アルカリの水溶液を加えて中和することにより透明な液状石鹸組成物を得ることが可能となる。
【0033】
アルコール類としては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン及びカルボキシメチルセルロースよりなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコールを例示することができ、当該アルコール類は、水との親和性が良好なものであり、予め上記冷却水に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対しアルコール1~15質量部、好ましくは2~10質量部となる量で混合しておくことが望ましい。
かかるアルコールを配合する場合には、上記含有量となる範囲で配合することにより、透明液状状態を、常温域のみならず、低温域においても、より長期間安定化させることが可能となる。
【0034】
本発明の透明な液状石鹸組成物の製造方法において、好ましくは、酸を添加配合することができる。かかる好適例の場合には、酸類を予め冷却に用いる上記水に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対し酸を0.3~3質量部となる量で混合しておく。その後、当該酸水溶液を、加温された混合飽和脂肪酸等を冷却するために添加し、70℃以下であって前記加温温度より少なくとも20℃以下低い温度に冷却して懸濁液を得、これに、水酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムと、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムとのモル比を90/10から50/50の範囲で混合した混合アルカリの水溶液を加えて中和することにより透明な液状石鹸組成物を得る。
酸としては、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、フマル酸、乳酸及びこれらの塩よりなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を例示することができ、当該酸類は、予め上記冷却水に、上記混合飽和脂肪酸100質量部に対し酸を0.3~3質量部となる量で、好ましくは0.5~1.5質量部となる量で混合しておくとが望ましい。
かかる酸類を配合する場合には、上記含有量となる範囲で配合することにより、透明液状状態を、常温域のみならず、低温域においても、より長期間安定化させることが可能となる。
【0035】
また、アルコール類と酸とを両方配合する場合には、上記と同様の方法で、予め双方とも冷却水に上記含有量となるように配合することが望ましい。
【0036】
このようにして本発明の製造方法により得られた透明な液状石鹸組成物には、水が含まれ、該水は、上記冷却のための水及び各原料に含まれる水及び飽和脂肪酸とアルカリとの中和によって生成する水分等が該当し、液状石鹸組成物中、例えば、90~65質量%、好ましくは82~72質量%とすることが例示できる。かかる範囲となるように含有される水の量を調整すると、使用時に、より満足する起泡性が得られることとなる。
【0037】
なお、本発明の製造方法により得られる液状石鹸組成物は、下記実施例に記載の方法により測定して、常温において優れた透明性を有する液状石鹸組成物とすることができるものである。
なお、本発明の製造方法により得られる透明な液状石鹸組成物を、兵庫県RIKENのSPring-8により小角X線散乱(SAXS)にて測定した。水溶液中での石鹸ミセルの平均粒径は50nm以下で微細であり、透明状態を保持する石鹸溶液であることが裏付けられた。
【0038】
また、必要に応じて、上述した必須成分以外にも高級アルコール類、スクワラン、種々の液体状あるいは固体状脂肪酸エステル類、オリーブ油、ゴマ油等の各種精製天然油脂類などの油性成分、ポリオキシエチレンアルキル変性ジメチルシリコ―ンなどのシリコーン誘導体、ペクチン、アルギン酸などの天然水溶性高分子、グルコン酸ナトリウムなど生分解性のキレート剤、動植物由来の各種天然抽出物類、凝固点、硬度の調節に食塩、ボウ硝等の無機塩、d-トコフェロールなど天然酸化防止剤、天然色素類、天然香料類、その他を本発明の効果を損なわない程度の範囲内で任意に配合させることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を次の実施例、比較例及び試験例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
使用した原材料は下記のものである。
[原材料]
(1)脂肪酸
・カプリル酸(炭素数8:Mw144.21):商品名 NAA82(日油(株)製)
・ラウリン酸(炭素数12:Mw200.31):商品名 NAA122(日油(株)製)
・ミリスチン酸(炭素数14:Mw228.36):商品名 NAA142(日油(株)製)
・パルミチン酸(炭素数16:Mw256.42):商品名 NAA160(日油(株)製)
・ステアリン酸(炭素数18:Mw284.44):商品名 NAA180(日油(株)製)
(2)アルカリ
・水酸化ナトリウム:48%水酸化ナトリウム液(関東化学(株)製、試薬鹿1級)
・水酸化カリウム :48%水酸化カリウム液(関東化学(株)製、試薬鹿1級)
【0040】
(3)脂肪酸多価金属塩
・カプリル酸マグネシウム塩:カプリル酸(日油(株)製)を水酸化マグネシウム(商品名:水マグSP、ナイカイ塩業(株)製、MgO換算65.4重量%)で中和して調製したものを使用
・ミリスチン酸マグネシウム塩:ミリスチン酸(日油(株)製)を水酸化マグネシウム(商品名:水マグSP、ナイカイ塩業(株)製、MgO換算65.4重量%)で中和して調製したものを使用
・カプリル酸アルミニウム塩:川村化成工業(株)製
(4)アルコール類
・エタノール(日本薬局方無水エタノール:関東化学(株)製)
・イソプロパノール(関東化学(株)製:日本薬局方)
・グリセリン(和光一級:和光純薬(株)製)
・ジエチレングリコール(和光特級:和光純薬(株)製)
・2-エチルー1-ヘキサノール(和光特級:和光純薬(株)製)
(5)砂糖(三井製糖(株)グラニュー糖)
(6)カルボン酸類
・酢酸(和光一級:和光純薬(株)製)
・クエン酸(鹿特急:関東化学(株))
・リンゴ酸(鹿特級DLリンゴ酸:関東化学(株)製)
・フマル酸(鹿一級:関東化学(株)製)
・2-エチルヘキサン酸(和光一級:和光純薬(株)製)
(7)精製水:商品名 日本薬局方 精製水 小堺製薬株式会社製
【0041】
(実施例1~10、比較例1~7)
上記各脂肪酸を、下記表1に示す配合割合で各脂肪酸を混合して、各混合脂肪酸を調製した。
次いで、撹拌機、温度計と滴下ロートを備えた1Lフラスコに、前記混合脂肪酸を仕込み、攪拌しながら昇温して、表1に示す各加温温度で40分間保持した。混合脂肪酸はすべて溶融して液状となり、透明を呈していた。
【0042】
前記各加温温度の液状混合脂肪酸(表1中の全混合脂肪酸)を攪拌しながら、当該混合脂肪酸に300gの精製水を一度に加えて、前記フラスコ内の混合脂肪酸と精製水との混合液の温度を表1に示す各冷却温度とし、更に5分間攪拌して混合脂肪酸を混合液中に分散させて、白色の懸濁状態の液状分散液を得た。
【0043】
次いで、48%水酸化カリウム水溶液及び/又は48%水酸化ナトリウム水溶液と(表1)、精製水50gとを予め混合して調製した混合アルカリ水溶液を、上記5分間保持経過後の前記フラスコ内に、当該フラスコに装着した滴下ロートより滴下し、フラスコ内を攪拌しながら中和(鹸化)した。さらに水45gを用いて滴下ロート内に残存した混合アルカリ水溶液をフラスコ内に洗い落した。
中和による発熱で、当該フラスコ内の温度は50~54℃(比較例6は50℃、実施例1・2・7及び比較例1・3・5は52℃、実施例3~6・8及び比較例4・7は50℃、実施例9・10は54℃)となった。
【0044】
フラスコ内の中和液(鹸化液)が泡立たないように攪拌しながら、30分間50℃に保持するように加温して熟成を行った。
熟成後、得られた透明な溶液を室温にて放冷して、飽和脂肪酸石鹸組成物を得た。
実施例のものはすべて透明な液状の脂肪酸石鹸組成物が得られた。
【0045】
比較例2のものは、上記中和中に粘度の上昇が認められ、フラスコ内の中和物をヒーターで加温調整しながら攪拌を続けようとしたが、当該中和組成物の粘度が高くなり、攪拌しているプロペラに絡みついて攪拌不能となったため、この段階で中止した。したがって、均質な脂肪酸石鹸組成物を得ることはできなかった。また、比較例1及び3~7のものは透明な液状の脂肪酸石鹸組成物が得られた。
【0046】
(実施例11~17)
上記各脂肪酸を、下記表3に示す配合割合で各脂肪酸を混合して、各混合脂肪酸を調製した。
次いで、撹拌機、温度計と滴下ロートを備えた1Lフラスコに、各混合脂肪酸及び下記表3に示す脂肪酸金属塩を仕込み、攪拌しながら昇温して表3に示す各加温温度で40分間保持した。混合脂肪酸及び脂肪酸金属塩はすべて溶融して液状となり、透明を呈していた。
【0047】
前記各加温温度の液状混合脂肪酸(表3中の全混合脂肪酸)及び脂肪酸金属塩を攪拌しながら、これに300gの精製水を一度に加えて、前記フラスコ内の混合脂肪酸と精製水との混合液の温度を表3に示す各冷却温度とし、更に5分間攪拌して混合脂肪酸を混合液中に分散させて、白色の懸濁状態の液状物分散液を得た。
【0048】
次いで、48%水酸化カリウム水溶液及び/又は48%水酸化ナトリウム水溶液と(表3)、精製水50gとを予め混合して調製した混合アルカリ水溶液を、上記5分間保持経過後の前記フラスコ内に、当該フラスコに装着した滴下ロートより滴下し、フラスコ内を攪拌しながら中和(鹸化)した。さらに水45gを用いて滴下ロート内に残存した混合アルカリ水溶液をフラスコ内に洗い落した。
中和による発熱で、当該フラスコ内の温度は51℃~53℃(実施例17は51℃、実施例14・15及び16は52℃、実施例11~13は53℃)となった。
【0049】
フラスコ内の中和液(鹸化液)を泡立たないように攪拌しながら加温し、30分間50℃に保持して熟成を行った。
熟成後、得られた透明な溶液を室温にて放冷して、飽和脂肪酸石鹸組成物を得た。
実施例および比較例のものはすべて透明な液状の脂肪酸石鹸組成物を得られた。
【0050】
(実施例18~24)
上記各脂肪酸を、下記表5に示す配合割合で各脂肪酸を混合して、各混合脂肪酸を調製した。脂肪酸金属塩を配合する場合には、各混合脂肪酸に表5に示す脂肪酸金属塩を配合して混合物を調製した。
次いで、撹拌機、温度計と滴下ロートを備えた1Lフラスコに、各混合脂肪酸、又は混合脂肪酸と脂肪酸金属塩の混合物を仕込み、攪拌しながら昇温して表5に示す各加温温度で40分間保持した。混合脂肪酸、又は混合脂肪酸及び脂肪酸金属塩はすべて溶融して液状となり、透明を呈していた。
【0051】
前記各加温温度の液状混合脂肪酸(表5中の全混合脂肪酸)、又は混合脂肪酸(表5中の全混合脂肪酸)と脂肪酸金属塩の液状混合物を攪拌しながら、これに300gの精製水と表5に示すアルコール又は砂糖を予め混合したアルコール水溶液又は砂糖水溶液を一度に加えて、前記フラスコ内の混合液の温度を表5に示す各冷却温度とし、更に5分間攪拌して混合脂肪酸を混合液中に分散させて、白色の懸濁状態の液状物分散液を得た。但し、実施例23の2-エチルヘキサノールは、水に溶解し難いので、混合脂肪酸に予め添加して加温する方法で実施した。
【0052】
次いで、48%水酸化カリウム水溶液及び/又は48%水酸化ナトリウム水溶液と(表5)、精製水50gとを予め混合して調製した混合アルカリ水溶液を、上記5分間保持経過後の前記フラスコ内に、当該フラスコに装着した滴下ロートより滴下し、フラスコ内を攪拌しながら中和(鹸化)した。さらに水45gを用いて滴下ロート内に残存した混合アルカリ水溶液をフラスコ内に洗い落した。
中和による発熱で、当該フラスコ内の温度は52℃~53℃(実施例18・22は52℃、実施例19~21及び23~24は53℃)となった。
【0053】
フラスコ内の中和液(鹸化液)を泡立たないように攪拌しながら加温し、30分間50℃に保持して熟成を行った。
熟成後、得られた透明な溶液を室温にて放冷して、飽和脂肪酸石鹸組成物を得た。
得られた飽和脂肪酸石鹸組成物は透明な液状状態であった。
【0054】
(実施例25~31)
上記各脂肪酸を、下記表7に示す配合割合で各脂肪酸を混合して、各混合脂肪酸を調製した。
次いで、撹拌機、温度計と滴下ロートを備えた1Lフラスコに、前記混合脂肪酸及び下記表7に示す酸を仕込み、攪拌しながら昇温して表7に示す各加温温度で40分間保持した。混合脂肪酸はすべて溶融して液状となり、透明を呈していた。
【0055】
前記各加温温度の液状混合脂肪酸(表7中の全混合脂肪酸)を攪拌しながら、これに300gの精製水と表7に示す酸とを予め混合した溶液を一度に加えて、前記フラスコ内の混合脂肪酸と酸の混合物と精製水との混合液の温度を表7に示す各冷却温度とし、更に5分間攪拌して混合脂肪酸を混合液中に分散させて、白色の懸濁状態の液状物分散液を得た。但し、実施例31の2-エチルヘキサン酸は、水に溶解し難いので、混合脂肪酸に予め添加して加温する方法で実施した。
【0056】
次いで、48%水酸化カリウム水溶液及び/又は48%水酸化ナトリウム水溶液と(表7)、精製水50gとを予め混合して調製した混合アルカリ水溶液を、上記5分間保持経過後の前記フラスコ内に、当該フラスコに装着した滴下ロートより滴下し、フラスコ内を攪拌しながら中和(鹸化)した。さらに水45gを用いて滴下ロート内に残存した混合アルカリ水溶液をフラスコ内に洗い落した。なお、混合アルカリ溶液は、下記表7に示す混合脂肪酸と酸とを中和できるアルカリ量とした。
中和による発熱で、当該フラスコ内の温度は52℃~53℃(実施例25~26及び31は52℃、実施例27~30は53℃)となった。
【0057】
フラスコ内の中和液(鹸化液)を泡立たないように攪拌しながら加温し、30分間50℃に保持して熟成を行った。
熟成後、得られた透明な溶液を室温にて放冷して、飽和脂肪酸石鹸組成物を得た。
得られた飽和脂肪酸石鹸組成物は透明な液状状態であった。
【0058】
試験例
(試験例1)透明性・安定性(1)
実施例1~31及び比較例1、3~7により得られた各液状石鹸組成物を生成直後に、
平底試験管F25-100(型番TEST-F25-100、AGCテクノグラス)に、泡立たないように高さ75mmとなるまで入れて、密栓して25℃恒温槽に静置して、組成物の温度が25℃になった直後及び25℃で2週間放置後の前記平底試験菅を縦(上部)及び横より目視にて、透明性・安定性試験を評価した。
【0059】
なお、評価は以下のようにして、常温での安定性を判定した。
・目視により、白色塊状物、白色沈殿、濁り、分離物等などが観察された場合は透明性悪(×)
・目視により、白色塊状物、白色沈殿、分離物はないが、薄い濁りが観察された場合は透明性やや悪(△)
・目視により、白色塊状物、白色沈殿、濁り、分離物はなく、更に前記平底試験管の上部より(縦方向)から観察して、当該試験管の底部に設置した明朝のフォント8ポイントの文字が鮮明に読解可能であった場合は透明性良好(〇)
【0060】
総合評価(25℃)
・25℃にて静置して25℃になった直後及び2週間静置後も上記基準で透明性が良好であったものを透明安定性〇とした。
・25℃にて静置して25℃になった直後又は2週間静置後に上記基準で透明性悪又はやや悪となった場合は透明安定性×とした。
その結果を表2、4、6、8に示す。
【0061】
(試験例2)透明性・安定性(2)
実施例11~31により得られた各液状石鹸組成物について、恒温槽の温度を10℃にして、各平底試験管F25-100を静置して組成物の温度が10℃になった直後及び10℃で2週間放置後の平底試験菅を縦(上部)より目視にて、透明性・安定性試験を評価した以外は、上記試験例1と同様にして実施し、その評価をおこなった。評価基準は上記試験例1と同様の基準である。
なお、総合評価(10℃)は、以下のように評価した。
・10℃にて静置して10℃になった直後及び2週間静置後も上記基準で透明性が良好であり、更に前記平底試験管の底部に設置した明朝のフォント8ポイントの文字が鮮明に読解可能であった場合は透明安定性〇とした。
・10℃にて静置して10℃になった直後又は2週間静置後に、透明性悪またはやや悪となった場合は透明安定性×とした。
その結果を、表4、6、8に示す。
【0062】
(試験例3)起泡性
実施例1~10及び比較例1及び3~7で得られた各液状石鹸組成物について、25℃での起泡性の試験を簡易振盪法により実施した。
具体的には、各液状石鹸組成物を、必要に応じて加温して均一液とした後、液状石鹸組成物1.25gを、スポイトを用いて200ml三角フラスコに採取し、これに精製水を加えて全体を100gにした。フラスコを回して均一になるまで攪拌して、80倍に希釈した脂肪酸石鹸濃度約0.25重量%の希釈脂肪酸石鹸組成物水溶液を調製した。
【0063】
次いで、AGCテクノグラス(株)製の25mm径平底試験管(TEST-F25-100)3本に、得られた各希釈脂肪酸石鹸組成物水溶液3gをスポイトを用いて秤量注入し、塩化ビニルラップと輪ゴムで密栓してから試験管立てをセットした25℃の恒温水槽に浸して30分間25℃に保持した後、20秒間で20回天地返しにより振盪させ、直後の起泡性試験として、当該試験管底部からの液面(=泡部の底の)高さと泡部の最高位の高さを測定して泡部の高さとした。
【0064】
その後再度、当該各試験管を恒温水槽に浸し、5分間静置後に5分後の起泡性試験として、液面高さと泡部の最高位の高さを測定して、泡部の高さとした。同様の操作を全3本の試験管にて行い、液面と泡部高さの平均値を算出し、各脂肪酸石鹸組成物の起泡性を判定した。
その結果を表2に示す。
【0065】
なお、評価結果は以下のようにした。
・5分後測定された泡部の高さが30mm以上の場合は起泡性高(〇)
・泡部の高さが20mm未満の場合は起泡性低(×)
・泡部の高さが20mm以上30mm未満の場合は起泡性中(△)
なお、実施例11~31のものについても同様の起泡性試験を25℃及び10℃で実施し、両温度において泡部の高さはすべて〇の評価であった。
【0066】
【0067】
【0068】
上記表1及び2より、実施例の液状石鹸組成物は、すべて常温での透明性・安定性に優れ、起泡性にも優れるものである一方、カリウム石鹸のみの比較例1の液状石鹸組成物の気泡性は低く、また比較例2は液状ではなくなり攪拌することができず均一な石鹸組成物が得られず、比較例3~7の液状石鹸組成物は、常温での透明安定性に劣ることが明らかとなった。
【0069】
【0070】
【0071】
上記表3及び4より、実施例の液状石鹸組成物は、すべて常温での透明性・安定性に優れている一方、カプリル酸マグネシウムの添加量を44ppmとした実施例16及びカプリル酸マグネシウムの添加量を2441ppmとした実施例17では、常温での透明性・安定性に優れてはいるが、低温での長期透明安定性が悪いことが明らかとなった。また、実施例のものは、上記したとおり、起泡性にも優れるものであった。
【0072】
【0073】
【0074】
上記表5及び6より、実施例の液状石鹸組成物は、すべて常温での透明性・安定性に優れている一方、2-エチルヘキサノールや砂糖を添加した実施例23および実施例24で得られた脂肪酸石鹸組成物では常温での透明性・安定性に優れてはいるが、低温透明安定性の評価は悪いことが明らかとなった。また、実施例のものは、上記したとおり、起泡性にも優れるものであった。
【0075】
【0076】
【0077】
上記表7及び8より、実施例の液状石鹸組成物は、すべて常温のみならず低温での透明性・安定性に優れている一方、酢酸を混合脂肪酸に対し8質量部添加した実施例30および2-エチルヘキサン酸を0.54質量部添加した実施例31では常温での透明性・安定性に優れてはいるが、低温透明安定性の評価は悪いことが明らかとなった。また、実施例のものは、上記したとおり、起泡性にも優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の透明な液状飽和脂肪酸石鹸組成物は、顔や身体の皮膚洗浄用に適用することができる。