(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】皮膚外用剤及び内用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/47 20060101AFI20240919BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240919BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240919BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240919BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240919BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240919BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240919BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240919BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20240919BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240919BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
A61K36/47 ZNA
A61P43/00 111
A61P43/00 107
A61P17/00
A61P19/02
A61P27/02
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
A61Q1/02
A23L33/105
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2020138656
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野場 翔太
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
(72)【発明者】
【氏名】奥野 凌輔
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-087136(JP,A)
【文献】特開2009-091284(JP,A)
【文献】特表2012-517450(JP,A)
【文献】特表2008-518987(JP,A)
【文献】World J. Pharm. Pharm. Sci.,2018年,vol.7, issue 6,p.341-358
【文献】Cream,Mintel GNPD,2015年12月,https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/3599399/from_search/jQJfW7Ep7F/?page=1
【文献】Air Slip BB Cushion SPF 50+ PA++++,Mintel GNPD,2018年07月,https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/5853587/from_search/tAFXu111gR/?page=1
【文献】Pharmacogn. Commn.,2017年,vol.7, issue 2,p.83-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/47
A61K 8/9789
A23L 33/105
A61K 131/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ククイノキの種子の
水、含水エタノール又はエタノールによる抽出物を含有することを特徴とするMMP阻害剤。
【請求項2】
ククイノキの種子の
水、含水エタノール又はエタノールによる抽出物を含有することを特徴とするコラーゲン産生促進剤。
【請求項3】
ククイノキの種子の
水、含水エタノール又はエタノールによる抽出物を含有することを特徴とする
真皮性のシワ改善剤。
【請求項4】
ククイノキの種子の
水、含水エタノール又はエタノールによる抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項5】
ククイノキの種子の
水、含水エタノール又はエタノールによる抽出物を含有することを特徴とする細胞増殖促進剤。
【請求項6】
ククイノキの種子の
水、含水エタノール又はエタノールによる抽出物を含有することを特徴とする
MMP産生の亢進が原因で起こる各種疾患、コラーゲン産生低下が原因で起こる各種疾患、及び/又はヒアルロン酸産生低下が原因で起こる各種疾患の予防改善用医薬品
(頭痛、発熱、潰瘍、関節の腫れ、便秘、関節リウマチ、強直性脊椎炎及びリウマチ性心疾患の予防改善用の用途を除く)。
【請求項7】
ククイノキの種子の
水、含水エタノール又はエタノールによる抽出物を含有することを特徴とする
MMP産生の亢進が原因で起こる各種疾患、コラーゲン産生低下が原因で起こる各種疾患、及び/又はヒアルロン酸産生低下が原因で起こる各種疾患の予防改善用食品組成物
(関節リウマチ、強直性脊椎炎及びリウマチ性心疾患の予防改善用の用途を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MMP阻害剤、コラーゲン産生促進剤、シワ改善剤、ヒアルロン酸産生促進剤、細胞増殖促進剤、医薬品及び食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、紫外線、乾燥、寒冷、熱、薬物等の様々な物理的及び化学的ストレスに日々曝されている。その結果、皮膚の機能低下が引き起こされ、様々な皮膚の老化現象が顕在化する。皮膚の老化現象の一つにシワがある。シワには、表皮性のシワと、真皮性のシワの二種類が存在することが知られている。表皮性のシワは小ジワと呼ばれ、皮膚の乾燥により、表皮角質中の水分量が低下することによって一時的に生じるシワである。一方、真皮性のシワは、太陽光線に含まれる紫外線や加齢によって形成されるシワである。その形成メカニズムとしては、紫外線や加齢による真皮線維芽細胞におけるコラーゲンの合成能の低下や、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の増加によるコラーゲンの分解促進が挙げられる。
【0003】
乾燥に起因する表皮性のシワと真皮性のシワでは、組織学的形態、発症メカニズム、治療方法が異なり、紫外線や加齢により生じる真皮性のシワは、保湿効果を有する化粧品の使用によって改善することは困難である。
【0004】
これまでに、紫外線によって生じる真皮性のシワを改善することを目的として、加水分解アーモンドを有効成分とする皮膚のシワ形成防止・改善剤(特許文献1)、ジョチョウケイ、テンキシ及びキセンソウの抽出物を有効成分とする紫外線照射に起因するシワの改善剤(特許文献2)が報告されている。
【0005】
また、真皮には線維芽細胞やコラーゲンが存在し、I型コラーゲンが全体の80%を占める。I型コラーゲンの他には、III、V、XII及びXIV型コラーゲンの存在が知られている。シワやたるみの原因の一つとして、I型コラーゲンの減少が挙げられる。従って、I型コラーゲンの産生を促進させることがシワ・たるみの予防・改善に有効であると考えられる。また、I型コラーゲンの産生促進は皮膚の創傷治癒の改善にも有効である。
【0006】
また、コラーゲンは、哺乳動物組織の約1/3を占める主要な構造タンパク質であり、軟骨、骨、腱、及び皮膚等の、多くのマトリックス組織の必須な成分である。MMPに属するゼラチナーゼ(MMP-2)は、線維芽細胞や内皮細胞、癌細胞等が産生する酵素であり、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン(動脈、腱、皮膚等の弾性組織の特殊成分をなす構造タンパク質)等の基質を分解する。従って、ゼラチナーゼに対して阻害活性を有する物質は、癌組織における血管新生や癌の転移を抑制する効果が期待され、癌疾患の予防、治療に有用であると考えられる。さらにMMPの阻害は癌疾患のみならず、潰瘍形成、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、歯周炎症、MMP産生の亢進が原因で起こる各種疾患の予防、治療及び改善に有用である。
【0007】
また、線維芽細胞はコラーゲン等のタンパク質及びヒアルロン酸等のグリコサミノグリカンを産生して真皮結合組織を形成し、皮膚のハリを保っている。この結合組織が収縮力を失い、さらに弾力性を失う結果として皮膚のシワやたるみが発生すると考えられている。
【0008】
特にヒアルロン酸は結合組織に広く分布する高分子多糖体として知られており、真皮中でゲル状の形態を呈し、肌の弾力を維持している。従って、ヒアルロン酸の変質や減少が皮膚老化において重要であると考えられている。また、ヒアルロン酸は高分子であるため、それを含有した化粧料を皮膚に直接塗布しても吸収されにくいという問題があった。そこで、これまで、線維芽細胞を活性化することで、細胞自らのコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進させることができる皮膚外用剤が模索されてきた(特許文献3)。また、ヒアルロン酸は、関節にも存在しており、関節の荷重の衝撃を和らげたり、関節の動きを滑らかにしたりする機能を果たしていることが知られている。変形性関節炎、慢性関節リウマチ、化膿性関節炎、痛風性関節炎、外傷性関節炎及び骨関節炎等の関節疾患の場合は、関節液中のヒアルロン酸量が加齢によって低下したりすることが知られている。このような関節疾患において、潤滑機能の改善、関節軟骨の被覆や保護、痛みの抑制及び病的関節液の改善もしくは正常化のために、関節液中のヒアルロン酸量を増加させることが有効であると考えられる。例えば、慢性関節リウマチ、外傷性関節炎、骨関節炎及び変形性関節炎の患者にヒアルロン酸ナトリウムの関節注入法を行うと上記症状の改善が認められることが知られている。しかし、これらの治療は長期にわたる。従って、日常生活の中で手軽に予防や治療等ができるように、ヒアルロン酸産生促進剤を含有させた食品や医薬品が望まれている。
【0009】
飛蚊症とは、視界内に糸くずや蚊のように見える薄い影が現れる症状で、目の内部を満たす硝子体内の混濁が網膜上に影を落とすことで発生する。飛蚊症は大きく二種類に分けることができ、加齢や紫外線、活性酸素等の影響で発症する生理的飛蚊症と網膜剥離、網膜裂孔、硝子体出血、ぶどう膜炎等の疾患の一症状として現れる病的飛蚊症がある。生理的飛蚊症は、硝子体の主要成分であるヒアルロン酸の減少による液状化と、それに伴うコラーゲン線維の崩壊で硝子体内が混濁することで生じる。治療法として、硝子体切除手術やレーザー治療があるが、これらの施術は安全性の観点から日本ではあまり行われていないという実情があり、外国で治療を行うには多額の費用が必要となる。そのため、生理的飛蚊症を予防改善するためには日常的に利用可能なヒアルロン酸産生促進剤を含有させた食品や医薬品が望まれている。
【0010】
加齢と共に表皮細胞の増殖・分裂能は低下し、表皮層自体は薄くなる(非特許文献1)。生体因子であるEpidermal Growth Factor(EGF/上皮細胞成長因子)や女性ホルモン(エストロゲン)は皮膚の表皮細胞増殖に働きかけるが、加齢と共にその分泌は低下する。このような加齢による表皮細胞代謝機能の低下は、皮膚のターンオーバー速度を遅らせ、肌荒れや皮膚の老化の原因となる。また、角層表面から剥がれ落ちる角層細胞が滞留することで、表皮内メラニンの排泄がスムーズに行われなくなり、色素沈着や肌のくすみの原因となる。さらに表皮の創傷治癒が遅くなること等も知られている。これらの現象の進行を防止あるいは改善するために、表皮細胞の増殖を促進させる成分の探索や、多くの皮膚外用剤の提案がなされてきた。
【0011】
トウダイグサ科アレウリテス属のククイノキ(学名 Aleurites moluccanus)は、その植物体からの抽出物がメラニン生成抑制作用、セリンプロテアーゼ阻害作用、エラスターゼ阻害作用を有すること(特許文献4)、その種子油が育毛効果を有すること(特許文献5)が知られている。しかしながら、ククイノキの種子がMMP阻害作用、コラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用を有することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2000-119125号公報
【文献】特開2006-199611号公報
【文献】特開2007-1924号公報
【文献】特開平9-87136号公報
【文献】特開平11-286414号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Varani J et al., J Invest Dermatol, Vol.3, pp 57-60, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
安全で安定性に優れ、MMP阻害作用、コラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用に優れた素材が望まれているが、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、この課題を解決すべく、鋭意検討した結果、ククイノキの種子抽出物が優れたMMP阻害作用、コラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用を持ち、安定性においても優れていることを見出した。さらに、その抽出物を含有する外用剤又は内用剤が、安全で安定であり、MMP阻害作用、コラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用に優れており、多機能性美容・健康用素材・医薬品と成り得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(7)からなる。
【0017】
(1)ククイノキの種子抽出物を含有することを特徴とするMMP阻害剤。
(2)ククイノキの種子抽出物を含有することを特徴とするコラーゲン産生促進剤。
(3)ククイノキの種子抽出物を含有することを特徴とするシワ改善剤。
(4)ククイノキの種子抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
(5)ククイノキの種子抽出物を含有することを特徴とする細胞増殖促進剤。
(6)ククイノキの種子抽出物を含有することを特徴とする医薬品。
(7)ククイノキの種子抽出物を含有することを特徴とするMMP産生の亢進が原因で起こる各種疾患、関節疾患及び生理的飛蚊症の予防改善用食品組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明について詳細に述べる。
【0019】
本発明に用いるククイノキ(Aleurites moluccanus)は、トウダイグサ科アレウリテス属に属する東南アジア原産の落葉樹であり、樹高は10~20メートルになる。深緑色で卵形の葉は螺旋状につき、黄緑色の果実は直径5センチメートルほどで3~6個集まっている。
【0020】
本発明で用いる「ククイノキの種子」とは、果実の内部にあるもので、果肉を除いた2層ほどの茶~黒色の塊状のものをさす。さらには、塊の内部の白~薄茶色のナッツ状のものも本願発明の種子とする。これらは仁ともいわれる。このナッツ状のものは、ククイナッツ、キャンドルナッツともいわれる。種子の入手に関しては、生育地域から入手することもできるし、市販品を購入することもできる。また、抽出には種子本体をそのまま抽出してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0021】
抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールがよい。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いてもよい。特に好ましい抽出溶媒としては、水、エタノール、水-エタノール系の混合極性溶媒、1,3-ブチレングリコール、又は水-1,3-ブチレングリコール系の混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えばククイノキの種子(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できる。
【0022】
その抽出方法は特に限定されず、加熱抽出、常温抽出、冷却抽出、撹拌抽出又はカラム抽出する方法等により行うことができる。また、その抽出物と種子を併用することもできる。
【0023】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0024】
本発明は、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分が含有されていてもよい。
【0025】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、カプセル剤、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射用溶液等が挙げられる。
【0026】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。さらに、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を越えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0027】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、投与期間等により異なる。通常、成人1人当たりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。さらに、20mg~2gが最も好ましい。
【0028】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、実験例及び処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。特記していない場合は、実施例に示す%とは重量%を示す。
【実施例1】
【0029】
ククイノキの種子抽出物の製造例
ククイノキの種子抽出物を以下のとおり製造した。製造例1~4において抽出材料にはククイノキの種子を用いた。
【0030】
(製造例1)ククイノキの種子の熱水抽出物の調製
ククイノキの種子の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してククイノキの種子の熱水抽出物を2.1g得た。
【0031】
(製造例2)ククイノキの種子の50%エタノール抽出物の調製
ククイノキの種子の乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してククイノキの種子の50%エタノール抽出物を0.2g得た。
【0032】
(製造例3)ククイノキの種子のエタノール抽出物の調製
ククイノキの種子の乾燥物10gを200mLのエタノールに室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してククイノキの種子のエタノール抽出物を1.7g得た。
【0033】
(製造例4)ククイノキの種子の1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
ククイノキの種子の乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過してククイノキの種子の1,3-ブチレングリコール抽出物を192g得た。
【0034】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【実施例2】
【0035】
実験例1 I型コラーゲン(COL1A1)、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)及びMMP-2 mRNA発現量の測定
ヒト線維芽細胞NB1RGBをφ60mm dishに1×105個播種し、コンフルエントになった時点で、終濃度が1、もしくは10μg/mLになるように試料を添加した。コントロールには、試料を希釈した溶媒を添加した。24時間培養後、総RNAの抽出を行った。細胞からの総RNAの抽出はRNAiso Plus(タカラバイオ)を用いて行い、総RNA量は分光光度計(NanoDrop)を用いて260nmにおける吸光度により求めた。mRNA発現量の測定は、細胞から抽出した総RNAを基にしてリアルタイムRT-PCR法により行った。リアルタイムRT-PCR法には、High Capacity RNA-to-cDNA Kit(アプライドバイオシステムズ)及びSYBR Select Master Mix(ライフテクノロジーズ)を用いた。すなわち、500ngの総RNAを逆転写反応後、PCR反応(95℃:15秒間、60℃:60秒間、40cycles)を行った。その他の操作は定められた方法に従い、COL1A1、HAS2、及びMMP-2 mRNAの発現量を、内部標準であるGAPDH mRNAの発現量に対する割合として求めた。COL1A1発現率は、コントロールのCOL1A1 mRNAの発現量に対する試料添加群のCOL1A1 mRNAの発現量の比率として算出した。HAS2及びMMP-2発現率についても、同様に算出した。尚、各遺伝子の発現量の測定に使用したプライマーは次の通りである。
【0036】
COL1A1用のプライマーセット
AGGACAAGAGGCATGTCTGGTT(配列番号1)
TTGCAGTGGTAGGTGATGTTCTG(配列番号2)
HAS2用のプライマーセット
TGGATGACCTACGAAGCGATTA(配列番号3)
GCTGGATTACTGTGGCAATGAG(配列番号4)
MMP-2用のプライマーセット
CCGTCGCCCATCATCAA(配列番号5)
CTTCTGCATCTTCTTTAGTGTGTCCTT(配列番号6)
GAPDH用のプライマーセット
CACTCTTCCAGCCTTCCTTCC(配列番号7)
GTGTTGGCGTACAGGTCTTTG(配列番号8)
【0037】
これらの実験結果を表1~3に示した。その結果、本発明のククイノキの種子抽出物には、優れたCOL1A1発現促進(コラーゲン産生促進効果)、HAS2発現促進(ヒアルロン酸産生促進効果)及びMMP-2発現抑制(MMP阻害効果)が認められた。
特に、COL1A1発現促進効果についてはエタノール抽出物(製造例3)、HAS2発現促進効果については熱水抽出物(製造例1)、MMP-2発現抑制効果については50%エタノール抽出物(製造例2)が顕著に高かった。
【0038】
【0039】
【0040】
【実施例3】
【0041】
実験例2 細胞増殖促進試験
ヒト由来ケラチノサイトを、0.1%FBSを含むDMEM培養液にて、96wellプレートに1wellあたり1×103個播種し、各試料を終濃度が1、もしくは10μg/mLになるように添加した後、37℃、5体積%CO2条件下にて4日間培養した。細胞数の測定は、染色法により行った。すなわち、培養終了後、培養液を除き、メタノールを用いて細胞を固定した。続いて、0.1%メチレンブルーを加え、1時間細胞の染色を行った。乾燥させた後、0.1N HClを各wellに100μLずつ加えてよく撹拌させ、マイクロプレートリーダーを用いて650nmにおける吸光度を測定した。細胞増殖率は、コントロール(試料未添加)群の細胞量に対する試料添加群の細胞量の比率として算出した。
【0042】
これらの実験結果を表4に示した。その結果、本発明のククイノキの種子の50%エタノール抽出物(製造例2)及びエタノール抽出物(製造例3)は、特に優れた細胞増殖促進作用を示した。
【0043】
【実施例4】
【0044】
(処方例1) 化粧水
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子の熱水抽出物(製造例1) 2.0
2.1,3-ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~6及び11と、成分7~10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0045】
(処方例2) クリーム
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子の50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.1,3-ブチレングリコール 8.5
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び11~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0046】
(処方例3) 乳液
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子のエタノール抽出物(製造例3) 0.01
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分10~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0047】
(処方例4) ゲル剤
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子の
1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 1.0
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 適量
6.1,3-ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~5と、成分1及び6~11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0048】
(処方例5) パック
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子の熱水抽出物(製造例1) 1.0
2.ククイノキの種子の
1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 5.0
3.ポリビニルアルコール 12.0
4.エタノール 5.0
5.1,3-ブチレングリコール 8.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
7.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
8.クエン酸 0.1
9.クエン酸ナトリウム 0.3
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~11を均一に溶解し製品とする。
【0049】
(処方例6) ファンデーション
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子の50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.)1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
10.ベントナイト 0.5
11.プロピレングリコール 4.0
12.トリエタノールアミン 1.1
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.二酸化チタン 8.0
15.タルク 4.0
16.ベンガラ 1.0
17.黄酸化鉄 2.0
18.香料 適量
19.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~8を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分19に成分9をよく膨潤させ、続いて、成分1及び10~13を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分14~17を加え、ホモミキサーで撹拌し75℃に保ち水相とする。油相に水相をかき混ぜながら加え、乳化する。その後、冷却し、45℃で成分18を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0050】
(処方例7) 浴用剤
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子のエタノール抽出物(製造例3) 1.0
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号(1) 適量
4.香料 適量
5.硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1~5を均一に混合し製品とする。
【0051】
(処方例8) 軟膏
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子の熱水抽出物(製造例1) 5.0
2.ククイノキの種子の
1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 1.0
3.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
4.モノステアリン酸グリセリン 10.0
5.流動パラフィン 5.0
6.セタノール 6.0
7.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
8.プロピレングリコール 10.0
9.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分3~6を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1、2及び7~9を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0052】
(処方例9) 散剤
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子の熱水抽出物(製造例1) 1.0
2.乾燥コーンスターチ 39.0
3.微結晶セルロース 60.0
[製造方法]成分1~3を混合し、散剤とする。
【0053】
(処方例10) 錠剤
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子のエタノール抽出物(製造例3) 5.0
2.乾燥コーンスターチ 25.0
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20.0
4.微結晶セルロース 40.0
5.ポリビニルピロリドン 7.0
6.タルク 3.0
[製造方法]成分1~4を混合し、次いで成分5の水溶液を結合剤として加えて顆粒成型する。成型した顆粒に成分6を加えて打錠する。1錠0.52gとする。
【0054】
(処方例11) 錠菓
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子のエタノール抽出物(製造例3) 2.0
2.乾燥コーンスターチ 49.8
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
6.香料 0.1
7.精製水 0.1
[製造方法]成分1~4及び7を混合し、顆粒成型する。成型した顆粒に成分5及び6を加えて打錠する。1粒1.0gとする。
【0055】
(処方例12) 飲料
処方 含有量(%)
1.ククイノキの種子の熱水抽出物(製造例1) 0.05
2.ステビア 0.05
3.リンゴ酸 5.0
4.香料 0.1
5.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2及び3を少量の水に溶解する。次いで、成分1、4及び5を加えて混合する。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のことから、本発明のククイノキの種子の抽出物は、優れたコラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用、MMP阻害作用、及び細胞増殖促進作用を有し、安定性にも優れていた。よって、本発明のククイノキの種子の抽出物は、皮膚の老化といった美容分野だけでなく、老化による関節機能低下の抑制、癌の予防、治療等といった医療分野にも利用でき、食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品等への応用が期待される。
【配列表】