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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】密着性向上剤及びコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240919BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240919BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/65
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020176063
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2022067380
(43)【公開日】2022-05-06
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000106438
【氏名又は名称】サンノプコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112438
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 健一
(72)【発明者】
【氏名】澤熊 耕平
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-256592(JP,A)
【文献】国際公開第2010/018863(WO,A1)
【文献】特開平07-109359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/65
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対するコーティング膜の密着性を向上するための添加剤であって、
式(1)で表されるポリオキシアルキレン化合物(Y)を含有してなることを特徴とするコーティング組成物用密着性向上剤。

R-N{-(AO)H} (1)

ただし、Rはアルキル基又はアルケニル基、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、オキシプロピレンオキシエチレンとの混合を含み、オキシエチレンの含有割合(モル%)がオキシアルキレンの全モル数に基づいて、60~90であり、窒素原子Nから離れた末端部にオキシエチレンが結合し、結合様式にブロック状を含み、Nは窒素原子、Hは水素原子、nは16~100の整数を表す。
【請求項2】
コーティング剤及び請求項1に記載された密着性向上剤とからなり、この密着性向上剤の含有量がコーティング剤の重量に基づいて0.2~2重量%であることを特徴とするコーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物用密着性向上剤及びこれを含有するコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
密着性付与剤として、高分子量ブロックポリマーの溶液(ポリアミドを20~30重量%含有する)が知られている(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】BYK-4500の安全性データシート(2018年7月9日改訂、ビックケミー・ジャパン株式会社、https://www.byk.com/ja/products/additives-by-name/byk-4500 からダウンロード可能)
【文献】BYK-4500のTechnical Data Sheet(2017年12月発行、ビックケミー・ジャパン株式会社、https://www.byk.com/ja/products/additives-by-name/byk-4500 からダウンロード可能)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の密着性向上剤は、基材に対するコーティング膜の密着性が不十分であるという問題がある。本発明の目的は基材に対するコーティング膜の密着性を向上できるコーティング組成物用密着性向上剤を提供することである。
【0005】
本発明のコーティング組成物用密着性向上剤の特徴は、基材に対するコーティング膜の密着性を向上するための添加剤であって、
式(1)で表されるポリオキシアルキレン化合物(Y)を含有してなる点を要旨とする。
【0006】
R-N{-(AO)H} (1)
【0007】
ただし、Rはアルキル基又はアルケニル基、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、オキシプロピレンオキシエチレンとの混合を含み、オキシエチレンの含有割合(モル%)がオキシアルキレンの全モル数に基づいて、60~90であり、窒素原子Nから離れた末端部にオキシエチレンが結合し、結合様式にブロック状を含み、Nは窒素原子、Hは水素原子、nは16~100の整数を表す。
【0008】
本発明のコーティング組成物の特徴は、コーティング剤及び上記の密着性向上剤とからなり、この密着性向上剤の含有量はコーティング剤の重量に基づいて0.2~2重量%である点を要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコーティング組成物用密着性向上剤は、基材に対するコーティング膜の密着性を大幅に向上できる。
【0010】
本発明のコーティング組成物は、上記の密着性向上剤を含んでいるので、基材に対する密着性に優れたコーティング膜を容易に形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
アルキル基、アルケニル基又はアリール基(R)のうち、アルキル基としては、炭素数4~18のアルキル基が含まれ、n-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、メチルシクロヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、トリメチルシクロヘキシル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、イソトリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、ノニルシクロへキシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル及びイソオクタデシル等が挙げられる。
【0012】
また、アルケニル基としては、炭素数4~18のアルケニル基が含まれ、n-ブテニル、n-ペンテニル、n-ヘキセニル、n-ヘプテニル、n-オクテニル、2-エチルヘキセニル、n-ノネニル、n-デセニル、n-ウンデセニル、n-ドデセニル、n-トリデセニル、イソトリデセニル、n-テトラデセニル、n-ペンタデセニル、n-ヘキサデセニル、n-ヘプタデセニル、n-オクタデセニル及びイソオクタデセニル等が挙げられる。
【0013】
また、アリール基としては、炭素数6~15のアリール基が含まれ、フェニル、トリル、ベンジル、キシリル、ノニルフェニル及びナフチル等が挙げられる。
【0014】
これらのRのうち、アルキル基が好ましい。
【0015】
炭素数2~4のオキシアルキレン基(AO)としては、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン及びこれらの混合等が挙げられる。これらのうち、密着性の観点から、Rが炭素数12~18のアルキル基の場合、オキシエチレン単独が好ましく、Rが炭素数4~11のアルキル基やアルケニル基又はアリール基の場合、オキシエチレンとオキシプロピレン及び/又はオキシブチレンとの混合が好ましい。
【0016】
オキシプロピレン及び/又はオキシブチレンとオキシエチレンとの混合を含む場合、オキシエチレンの含有割合(モル%)は、オキシアルキレンの全モル数に基づいて、50~90が好ましく、さらに好ましくは60~90、特に好ましくは60~80である。また、この場合、窒素原子Nにオキシプロピレン及び/又はオキシブチレンが位置することが好ましい。すなわち窒素原子Nから離れた末端部にオキシエチレンが結合していることが好ましい。また、複数種類のオキシアルキレン基を含む場合、結合様式はブロック状、ランダム状及びこれらの混合のいずれでもよいが、少なくともブロック状を含むことが好ましい。
【0017】
nは、16~100の整数が好ましく、さらに好ましくは18~90の整数、特に好ましくは20~70の整数、つぎに好ましくは22~60の整数、最も好ましくは25~50の整数である。この範囲であると、密着性がさらに良好となる。
【0018】
式(1)で表されるポリオキシアルキレン化合物(Y)としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基及びアリール基のいずれか一つを持つアミン(第1級アミン)と炭素数2~4のアルキレンオキシドとの化学反応により製造できる。
【0019】
本発明の密着性向上剤には、ポリオキシアルキレン化合物(Y)以外に、必要により、その他の添加剤(粘度調整剤、消泡剤、湿潤剤及び分散剤等)等を含有させることができる。
【0020】
粘度調整剤としては、SNシックナー601及び同612(サンノプコ株式会社製)等、消泡剤としてはSNデフォーマー180及び同184及び同320(サンノプコ株式会社製)等、湿潤剤としてはSNウエット125及び同126(サンノプコ株式会社製)等、分散剤としてはノプコスパース6100及び同6150、SNディスパーサント2060及び同5041(サンノプコ株式会社製)等が挙げられる。なお、添加剤を含有する場合、これらの含有量としては、ポリオキシアルキレン化合物(Y)の重量に基づいて、いずれも0.1~100重量%が好ましい。
【0021】
本発明の密着性向上剤は、基材に対するコーティング膜の密着性を向上するための添加剤として、水系及び非水系のコーティング組成物に適用でき、特に焼付け塗料用の密着性向上剤として好適である。
【0022】
本発明の密着性向上剤は、塗料化工程のいずれかに添加してもよく、完成した塗料(すなわち、コーティング剤)に添加することもできる。そして、これらの何れの場合にも、優れた密着性を発揮し得る。
【0023】
本発明の密着性向上剤の含有量(重量%)は、コーティング剤の重量に基づいて、0.2~2が好ましく、さらに好ましくは0.5~1.7、特に好ましくは0.7~1である。
【0024】
本発明の密着性向上剤を含むコーティング組成物は、通常の方法により基材に塗装(コーティング)することができ、ハケ塗り、ローラー塗装、ベル塗装、エアスプレー塗装、エアレス塗装、ロールコーター塗装及びフローコーター塗装等の塗装方法等が適用できる。乾燥方法は常乾であっても焼付け乾燥であってもよいが、焼付け乾燥に効果的である。焼付け乾燥は電気式熱風乾燥機、間接熱風炉、直接熱風炉、遠赤外炉等を用い、約120~260℃にて数10秒~30分間保持する方法等が挙げられる。
【実施例
【0025】
<実施例1~4>
通常のポリアルキレンオキシド合成法により、以下のポリオキシアルキレン化合物(Y1)~(Y4)を調製し、本発明のコーティング組成物用密着性向上剤(順に実施例1~4)とした。
なお、/はランダム状を表し、・はブロック状を表す。
【0026】
(Y1)n-ブチルアミンのエチレンオキシド20モル/プロピレンオキシド16モル・エチレンオキシド20モル付加体
(Y2)n-オクタデシルアミンのエチレンオキシド20モル/プロピレンオキシド10モル・エチレンオキシド20モル付加体
(Y3)n-デシルアミンのプロピレンオキシド40モル・エチレンオキシド60モル付加体
(Y4)n-ヘプタデシルアミンのエチレンオキシド39モル/プロピレンオキシド12モル・エチレンオキシド9モル付加体
【0027】
<比較例>
非特許文献1及び2に記載されたBYK-4500(ビックケミー・ジャパン株式会社)を比較用の密着性向上剤(H)とした。
【0028】
<密着性評価>
1.エマルションベース塗料の調製
表1に記載した原料組成(グラインディング工程、レッドダウン工程)にて、円盤型羽根を装着した卓上サンドミル(カンペ家庭塗料株式会社、カンペサンドミル)でグラインディングし、ついでアンカー型羽根を装着した撹拌機(東京理化器械株式会社、MAZELLA ZZ-1100)でレットダウンして、エマルションベース塗料を調製した。
【0029】
【表1】
注1:分散剤(サンノプコ株式会社、「ノプコール」は同社の登録商標である。)
注2:増粘剤(サンノプコ株式会社)
注3:炭酸カルシウム(太陽化学株式会社、「カルライト」は白石工業株式会社の登録商標である。)
注4:二酸化チタン(石原産業株式会社、「タイペーク」は同社の登録商標である。)
注5:消泡剤(サンノプコ株式会社)
注6:アクリルエマルション(ジャパンコーティングレジン株式会社)
【0030】
2.評価用エマルション塗料の調製
エマルションベース塗料99部と密着性向上剤(Y1)~(Y4)及び比較用密着性向上剤(H)のいずれか1部とをコーレス型羽根を装着したエクセルオートホモジナイザー(日本精器株式会社、モデルED)にて25℃、3000rpm、5分間攪拌混合して評価用エマルション塗料(Y1)~(Y4)及び(H)を得た。
また、密着性向上剤を加えないこと以外、上記と同様にして、評価用エマルション塗料(ブランク)を得た。
【0031】
3.評価用塗装片の調製
300mm×100mm×0.8mmステンレス鋼板(SUS304)に、評価用エマルション塗料を100mm×100mmの面積で5mmウェット厚となるようにエアスプレー塗装機で塗布した後、15秒間レベリングさせてから140℃で30分間乾燥し、ついで、25℃で1日乾燥して、評価用塗装片(Y1)~(Y4)、(H)及び(ブランク)を調製した。
【0032】
4.密着性1
評価用塗装片の外観を目視観察して、次の基準によって、密着性1を評価した。
〇:ハガレ及び膨れも認められなかった
×:ハガレは認められなかったが膨れが認められた
××:ハガレ及び膨れが認められた
【0033】
5.密着性2
評価用塗装片のハガレ及び膨れが認められない部分3か所について、JIS K5600-5-6:1999「塗料一般試験法-第5部:塗膜の機械的性質-第6節:付着性(クロスカット法)」に準じて、碁盤目試験{クロスカット試験準拠カッターNTカッターeL500(エヌティー株式会社)、mtvクロスカットプレート(1mm間隔、100マス試験、オールグット株式会社)、クロスカット試験・基盤目試験準拠セロテープ(幅24mm、粘着力4.01N/10mm、ニチバン株式会社、「セロテープ」は同社の登録商標である。)}を行い、3か所の分類の平均値を算出し、密着性2とした。
【0034】
【表2】
【0035】
本発明のコーティング組成物用密着性向上剤は、比較用の密着性向上剤に比べ、基材に対するコーティング膜の密着性に優れていた。