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特許7557221刺繍機、刺繍機制御装置、刺繍機の制御方法、刺繍柄データ、刺繍柄データ作成装置、刺繍柄データの作成方法、刺繍柄データ作成プログラム、および、刺繍柄データ作成アプリケーション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】刺繍機、刺繍機制御装置、刺繍機の制御方法、刺繍柄データ、刺繍柄データ作成装置、刺繍柄データの作成方法、刺繍柄データ作成プログラム、および、刺繍柄データ作成アプリケーション
(51)【国際特許分類】
   D05B 19/04 20060101AFI20240919BHJP
   D05C 9/06 20060101ALI20240919BHJP
   D05C 13/02 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
D05B19/04
D05C9/06
D05C13/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023060733
(22)【出願日】2023-04-04
(65)【公開番号】P2024078369
(43)【公開日】2024-06-10
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2022190352
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232461
【氏名又は名称】日本電波株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】別所 優志
(72)【発明者】
【氏名】中根 浩司
(72)【発明者】
【氏名】太田 誠
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-137624(JP,A)
【文献】特開2007-075492(JP,A)
【文献】特開2000-153085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-97/12
D05C 1/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動することにより上糸の供給と糸締めとを行う天秤と、
往復動することにより前記上糸を生地に刺し込むミシン針と、
前記ミシン針と前記生地とを縫い方向に相対移動させる移動機構と、
前記天秤の前記往復動の制御と前記ミシン針の前記往復動の制御と前記移動機構の前記相対移動の制御とを行う制御装置と、を備えた刺繍機であって、
前記制御装置は、
前記ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、ヒッチステッチ方向に対応する所定方向の所定角度内となるときに、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させた状態で、前記天秤を往復動させるステイ処理を行う、ことを特徴とする刺繍機。
【請求項2】
往復動することにより上糸の供給と糸締めとを行う天秤の前記往復動の制御と
往復動することにより前記上糸を生地に刺し込むミシン針の前記往復動の制御と、
前記ミシン針と前記生地とを縫い方向に相対移動させる移動機構の前記相対移動の制御と、を行う刺繍機制御装置であって、
前記ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、ヒッチステッチ方向に対応する所定方向の所定角度内となるときに、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させた状態で、前記天秤を往復動させるステイ処理を行う、ことを特徴とする刺繍機制御装置。
【請求項3】
往復動することにより上糸の供給と糸締めとを行う天秤と、
往復動することにより前記上糸を生地に刺し込むミシン針と、
前記ミシン針と前記生地とを縫い方向に相対移動させる移動機構と、を備えた刺繍機の制御方法であって、
前記ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、ヒッチステッチ方向に対応する所定方向の所定角度内となるときに、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させた状態で、前記天秤を往復動させるステイ処理を行う、ことを特徴とする刺繍機の制御方法。
【請求項4】
往復動することにより上糸の供給と糸締めとを行う天秤と、
往復動することにより前記上糸を生地に刺し込むミシン針と、
前記ミシン針と前記生地とを縫い方向に相対移動させる移動機構と、
前記天秤の前記往復動の制御と前記ミシン針の前記往復動の制御と前記移動機構の前記相対移動の制御とを行う制御装置と、を備えた刺繍機に読み込ませ
前記ミシン針と前記生地とを相対移動させるためのXY座標データおよび前記ミシン針の往復動を休止するか否かに対応するファンクションデータを含む刺繍柄データを作成する刺繍柄データ作成装置であって、
前記ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、ヒッチステッチ方向に対応する所定方向の所定角度内となるときに、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させた状態で、前記天秤を往復動させるステイ処理を行わせる情報を、前記刺繍柄データに含ませる、ことを特徴とする刺繍柄データ作成装置。
【請求項5】
往復動することにより上糸の供給と糸締めとを行う天秤と、
往復動することにより前記上糸を生地に刺し込むミシン針と、
前記ミシン針と前記生地とを縫い方向に相対移動させる移動機構と、
前記天秤の前記往復動の制御と前記ミシン針の前記往復動の制御と前記移動機構の前記相対移動の制御とを行う制御装置と、を備えた刺繍機に読み込ませ
前記ミシン針と前記生地とを相対移動させるためのXY座標データおよび前記ミシン針の往復動を休止するか否かに対応するファンクションデータを含む刺繍柄データを作成する刺繍柄データの作成方法であって、
前記ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、ヒッチステッチ方向に対応する所定方向の所定角度内となるときに、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させた状態で、前記天秤を往復動させるステイ処理を行わせる情報を、前記刺繍柄データに含ませる、ことを特徴とする刺繍柄データの作成方法。
【請求項6】
往復動することにより上糸の供給と糸締めとを行う天秤と、
往復動することにより前記上糸を生地に刺し込むミシン針と、
前記ミシン針と前記生地とを縫い方向に相対移動させる移動機構と、
前記天秤の前記往復動の制御と前記ミシン針の前記往復動の制御と前記移動機構の前記相対移動の制御とを行う制御装置と、を備えた刺繍機に読み込ませ
前記ミシン針と前記生地とを相対移動させるためのXY座標データおよび前記ミシン針の往復動を休止するか否かに対応するファンクションデータを含む刺繍柄データを作成する刺繍柄データ作成プログラムであって、
前記ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、ヒッチステッチ方向に対応する所定方向の所定角度内となるときに、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させた状態で、前記天秤を往復動させるステイ処理を行わせる情報を、前記刺繍柄データに含ませるステップを有する、ことを特徴とする刺繍柄データ作成プログラム。
【請求項7】
往復動することにより上糸の供給と糸締めとを行う天秤と、
往復動することにより前記上糸を生地に刺し込むミシン針と、
前記ミシン針と前記生地とを縫い方向に相対移動させる移動機構と、
前記天秤の前記往復動の制御と前記ミシン針の前記往復動の制御と前記移動機構の前記相対移動の制御とを行う制御装置と、を備えた刺繍機に読み込ませ
前記ミシン針と前記生地とを相対移動させるためのXY座標データおよび前記ミシン針の往復動を休止するか否かに対応するファンクションデータを含む刺繍柄データを作成する刺繍柄データ作成アプリケーションであって、
前記ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、ヒッチステッチ方向に対応する所定方向の所定角度内となるときに、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させた状態で、前記天秤を往復動させるステイ処理を行わせる情報を、前記刺繍柄データに含ませる、ことを特徴とする刺繍柄データ作成アプリケーション。
【請求項8】
前記ステイ処理は、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させ、かつ、前記ミシン針を上死点で停止させた状態で、前記天秤を往復動させるジャンプ処理である、ことを特徴とする請求項1に記載の刺繍機。
【請求項9】
前記ステイ処理は、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させた状態で、前記ミシン針および前記天秤を往復動させるリピート処理である、ことを特徴とする請求項1に記載の刺繍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、刺繍布等の被縫製物(生地)に刺繍柄を形成する刺繍機、刺繍機制御装置、刺繍機の制御方法、刺繍柄データ、刺繍柄データ作成装置、刺繍柄データの作成方法、刺繍柄データ作成プログラム、および、刺繍柄データ作成アプリケーションに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、刺繍用ミシン、刺繍機能搭載ミシン等のミシン(ソーイングマシン)として知られている刺繍機は、生地等の刺繍対象物(被縫製物)に刺繍柄を形成する。ここで、特許文献1には、表示装置を備えたミシンが開示されている。このミシンの表示装置には、被縫製物上の縫い目(ステッチ)の品質がパーフェクトステッチ、ヒッチステッチ、混在ステッチのいずれになるかの判定結果と共に、ミシン針の針落ち点を結んだステッチラインが表示される。また、特許文献2には、縫製中に目とびを可能とするミシンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-137624号公報(特許第7139999号公報)
【文献】特開平4-292194号公報(特許第2866488号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、刺繍機を操作する人は、刺繍の縫い上がりを見ながら糸張力を変えて、良好とされる糸締まりに調整する。しかし、糸の材質、生地、刺繍柄の作り等によっては、良好とされる糸締まりに調整できない場合がある。例えば、ポリエステルの糸、厚い生地、固い生地の場合に、糸締まりが悪くなり、縫い目と縫い目との間の糸(ステッチライン)が弛むおそれがある。また、例えば、刺繍柄の作りが使用する糸に対して細かい糸密度の場合も、糸締まりが悪くなる可能性がある。
【0005】
これに対して、糸締まりを良好にすべく、例えば、使用する糸や生地を変更することが考えられる。しかし、この場合は、完成品が所望の刺繍品とは異なってしまう。また、例えば、刺繍柄の糸密度を粗くすることが考えられる。しかし、この場合は、刺繍柄の見栄えが変わってしまう。また、例えば、糸張力を上げることが考えられる。しかし、この場合は、糸が切れやすくなることに加えて、生地の縫い縮み対策が必要になる等、手間を要する。また、糸張力を上げても十分に糸が締まらない場合もある。
【0006】
本発明の目的の一つは、糸締まりを向上できる刺繍機、刺繍機制御装置、刺繍機の制御方法、刺繍柄データ、刺繍柄データ作成装置、刺繍柄データの作成方法、刺繍柄データ作成プログラム、および、刺繍柄データ作成アプリケーションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
往復動することにより上糸の供給と糸締めとを行う天秤と、往復動することにより前記上糸を生地に刺し込むミシン針と、前記ミシン針と前記生地とを縫い方向に相対移動させる移動機構と、を備えた刺繍機の制御方法
前記天秤の前記往復動の制御と前記ミシン針の前記往復動の制御と前記移動機構の前記相対移動の制御とを行う刺繍機制御装置、
前記天秤と前記ミシン針と前記移動機構と前記刺繍機制御装置(制御装置)とを備えた刺繍機
前記刺繍機に読み込ませ、前記ミシン針と前記生地とを相対移動させるためのXY座標データおよび前記ミシン針の往復動を休止するか否かに対応するファンクションデータを含む刺繍柄データを作成する刺繍柄データ作成装置、
前記刺繍柄データの作成方法、
刺繍柄データ作成プログラム、および、
刺繍柄データ作成アプリケーションであって、
前記ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、ヒッチステッチ方向に対応する所定方向の所定角度内となるときに、前記第1針落ち点で前記移動機構の前記相対移動を停止させた状態で、前記天秤を往復動させるステイ処理を行うようにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、糸締まりを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態による刺繍機を示す正面図である。
図2図1中の操作装置を拡大して示す正面図である。
図3図1中の基台、ヘッド部、移動枠、操作装置等を上方からみた平面図である。
図4】第1の実施形態の刺繍機制御装置により行われる制御処理(ジャンプ追加の処理)を示すフローチャートである。
図5】「(A)ステイ処理(ジャンプ)を行わない場合」および「(B)ステイ処理(ジャンプ)を行う場合」の天秤と針棒(ミシン針)と刺繍枠(生地)の動作を示すタイムチャートである。
図6】刺繍柄の一例を示す説明図である。
図7】刺繍柄とミシン針が相対移動する方向と針落ち点とジャンプとの関係を示す図6のA部に相当する説明図である。
図8】第1の実施形態の操作装置の表示画面(ジャンプ設定画面)の一例を示す説明図である。
図9】(A)パーフェクトステッチと(B)ヒッチステッチとを示す説明図(断面図)である。
図10】原点からの縫い方向(ミシン針が相対移動する方向)と縫い目の品質(斜線:ヒッチステッチ)との関係の一例を示す説明図(平面図)である。
図11】第2の実施形態の刺繍機制御装置により行われる制御処理(ジャンプ追加またはリピート追加の処理)を示すフローチャートである。
図12】「(A)ステイ処理(リピート)を行わない場合」および「(B)ステイ処理(リピート)を行う場合」の天秤と針棒(ミシン針)と刺繍枠(生地)の動作を示すタイムチャートである。
図13】第2の実施形態の操作装置の表示画面(ステイ処理設定画面)の一例を示す説明図である。
図14】刺繍柄データの例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態による刺繍機、刺繍機制御装置、刺繍機の制御方法、刺繍柄データ、刺繍柄データ作成装置、刺繍柄データの作成方法、刺繍柄データ作成プログラム、および、刺繍柄データ作成アプリケーションを、単頭式刺繍機に用いる場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4および図11に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
【0011】
図1ないし図10は、第1の実施形態を示している。図1ないし図3において、ミシンである刺繍機1は、基台2と、ヘッド部6と、天秤13と、ミシン針15と、刺繍枠である移動枠16と、制御ユニット19と、を備えている。基台2は、単頭式刺繍機の本体部分(ベース部分)を構成している。基台2は、左右に離間した側枠3,4により支持されている。基台2は、側枠3,4の間で前後方向および左右方向に水平に延びて配置されている。側枠3,4の間には、基台2の上方に位置して左右方向に延びるヘッド支持体5が固定して設けられている。なお、「左右方向」は、例えば図1および図3の「X軸方向」に対応し、「前後方向」は、例えば図1および図3の「Y軸方向」に対応する。また、「上下方向」は、例えば図1および図3の「Z軸方向」に対応する。
【0012】
ヘッド支持体5の前部側には、刺繍機のヘッド部6が設けられている。ヘッド部6は、基台2上に1個設けられ、単頭式のミシンヘッドを構成している。ヘッド部6は、ヘッド本体7(図3参照)と、ヘッド本体7の前面側に設けられた針棒ケース8と、針棒ケース8上に設けられた糸調子台11と、を含んで構成されている。可動支持体である針棒ケース8は、ヘッド本体7に対して左右方向(即ち、図1中の矢示A,B方向)に移動可能となっている。糸調子台11は、ヘッド本体7に設けられた色替え機構(図示せず)により針棒ケース8と一緒に左右方向に移動される。
【0013】
ヘッド部6のヘッド本体7には、主軸モータ9により主軸(図示せず)を介して駆動される天秤駆動部および針棒駆動部(いずれも図示せず)が設けられている。天秤13と針棒14は、主軸モータ9により駆動される天秤駆動部および針棒駆動部によりそれぞれ上下に駆動される。主軸モータ9は、例えば、ヘッド支持体5の背面側等に設けられている。ヘッド本体7に設けられた色替え機構は、針棒ケース8と糸調子台11とを一体に左右に移動させることにより、色替え作業を行う。
【0014】
糸立て台10は、基台2の上方に位置してヘッド支持体5の上側に配設されている。上糸収納部となる糸立て台10には、複数の上糸ボビン(いずれも図示せず)が設けられている。これらの上糸ボビンには、例えば赤、青、黄、茶褐色、黒色等の複数色の上糸31が巻回されている。刺繍作業時には、これらの上糸ボビンから色替え機構により選択された上糸31が、縫い目形成により引出され、刺繍対象物である刺繍布17(以下、生地17という)に対する多数色の刺繍がミシン針15の運針動作に伴って行われる。
【0015】
糸調子台11は、糸立て台10と天秤13との間に位置してヘッド部6に設けられている。糸道形成台となる糸調子台11には、複数(例えば、9個)の糸調子12が設けられている。これらの糸調子12は、糸立て台10の各上糸ボビンから各天秤13に向けて導かれる各上糸31の張力を個別に調整する。
【0016】
天秤13は、ヘッド部6の針棒ケース8から前面側に突出して複数(例えば、合計9個)設けられている。これらの天秤13は、図1に示すように、左右方向に間隔をもって針棒ケース8内に横並びの並列状態で配設されている。そして、各天秤13は、天秤支持軸(図示せず)により回動可能に支持され、ヘッド本体7に設けられた天秤駆動部(図示せず)により主軸モータ9の回転に従って上下に揺動するように駆動される。
【0017】
色替え機構により針棒ケース8を左右に移動して色替え作業を行うときには、例えば合計9本の天秤13のうちのいずれか1本の天秤13が色替え機構で選択され、選択された天秤13のみが上下に揺動される。また、選択されていない残余の天秤13は、天秤保持機構(図示せず)により予め決められた待機位置に保持され、その後に色替え機構で選択されるまでは、この待機位置に停止し続ける。
【0018】
針棒14は、天秤13の下側に位置して針棒ケース8内に複数(例えば、合計9個)設けられている。各針棒14の下端側には、それぞれミシン針15が着脱可能に装着されている。これらの針棒14およびミシン針15は、ヘッド本体7に設けられた針棒駆動部(図示せず)により主軸モータ9の回転に従って上下に駆動される。
【0019】
また、これらの針棒14、ミシン針15についても、天秤13と同様に色替え機構により選択され、選択された針棒14のみがミシン針15と共に上下に往復動される。そして、色替え機構で選択されていない残余の針棒14は、ミシン針15と一緒に図1に示す如く上死点位置に留まり、色替え機構で選択されるまでは上死点位置に保持される。
【0020】
移動枠16は、ヘッド部6の下側に位置して刺繍機の基台2上に配設されている。刺繍用枠である移動枠16は、図3に示すように長方形状の枠体として形成されている。移動枠16は、ヘッド部6の下側で刺繍対象の生地17を展張状態で保持する。そして、移動枠16は、モータ等からなる枠移動機構18により生地17と一緒に基台2上を水平方向、即ち、左右方向(X軸方向)と前後方向(Y軸方向)とに移動される。
【0021】
この場合、枠移動機構18のモータは、基台2の下面側または背面側に設けられ、主軸モータ9等と共に刺繍機1の駆動源を構成している。そして、枠移動機構18により移動枠16が移動されるときには、これにほぼ連動してヘッド部6側のミシン針15が上下に運針されることによって、刺繍対象の生地17には刺繍柄データに対応した刺繍柄が形成される。
【0022】
制御ユニット19は、刺繍機1のコントロールユニットである。制御ユニット19は、例えば、基台2上にブラケット20等を介して設けられた操作装置21と、マイクロコンピュータ、駆動回路(ドライバ)、電源供給回路等を備えた駆動制御装置(図示せず)と、を含んで構成されている。マイクロコンピュータは、刺繍機1を制御する刺繍機制御装置に対応する。制御ユニット19は、刺繍柄データに従って主軸モータ9(即ち、主軸)の回転を制御しつつ、色替え機構および枠移動機構18等を駆動制御する。
【0023】
制御ユニット19は、複数の制御回路を用いて構成されている。これらの制御回路のうち制御電流値が小さい制御回路(例えば、マイクロコンピュータ)は、操作装置21内に設けられている。一方、制御ユニット19のうち電流値の高い制御回路、例えば、モータドライバ、ソレノイドドライバ等の駆動回路、電源供給回路等は、例えば基台2の下側等に大きな取り付けスペースをもって設けられている。
【0024】
図2に示すように、操作装置21は、操作装置21の外殻をなすユニットケース22と、複数の操作スイッチ(操作ボタン)またはキースイッチからなる操作部23と、液晶ディスプレイ(液晶モニタ、液晶タッチパネル)により構成された表示画面24と、を含んで構成されている。ユニットケース22は、例えば一方の側枠4側でヘッド支持体5にブラケット20を介して取り付けられている。操作部23は、ユニットケース22の前面側に設けられており、オペレータによって手動操作される。表示画面24は、操作部23の上側に位置してユニットケース22の前面側に配置されている。
【0025】
操作部23は、数値入力が可能なテンキー23Aと、テンキー23Aの左側に配置された4つのキーからなるジョグキー23Bと、ジョグキー23Bの中央側に配置されたオリジンキー23Cと、ジョグキー23Bおよびテンキー23Aの上側に配置され「A」~「G」と表記された合計7個のソフトキー23Dと、を有している。例えば、ジョグキー23Bは、刺繍柄データの選択やパラメータの設定(選択)等を行うことができる。表示画面24には、刺繍柄データに基づく刺繍柄のカラー画像等が表示される。また、表示画面24には、刺繍機の制御に必要な情報、刺繍機の運転状態、操作部23の操作内容等が表示される。また、表示画面24には、後述の図8に示すような設定画面26(ジャンプ設定画面)も表示される。
【0026】
操作装置21のユニットケース22内には、刺繍機1の制御に必要な各種の演算処理を行うためのマイクロコンピュータ(演算処理装置)が設けられている。CPU、メモリ等を含んで構成されるマイクロコンピュータは、刺繍機1を制御するコントローラ(刺繍機制御装置)に対応する。マイクロコンピュータは、例えば、操作部23のキースイッチ(即ち、各キー23A~23D等)を操作したときの指示信号を操作情報として処理する機能(入力処理機能)を有している。また、マイクロコンピュータは、表示画面24に表示する画像、表示内容等を制御する機能(表示処理機能)を有している。
【0027】
また、マイクロコンピュータは、主軸モータ9、枠移動機構18のモータ等を駆動するモータドライバ、色替え機構のソレノイドを駆動するソレノイドドライバ等、各種アクチュエータのドライバに出力する指令信号の制御を行う機能(駆動処理機能)を有している。この機能(駆動処理機能)は、刺繍柄データに基づいて各種アクチュエータのドライバに出力する指令(指令信号)を算出する機能(指令処理機能)も含まれている。
【0028】
そして、マイクロコンピュータのメモリ(記憶部)には、刺繍機1の各種アクチュエータ、即ち、主軸モータ9、色替え機構のソレノイド、枠移動機構18等を駆動制御するために必要な制御処理用プログラムが記憶(格納)されている。また、メモリ(記憶部)には、後述の図4に示す処理フローを実行するための処理プログラムも記憶(格納)されている。さらに、図示は省略するが、マイクロコンピュータには、例えば、USBメモリ等の携帯用記憶装置に記憶された刺繍柄データを取得することができるように、USBコネクタ等のデータ読み込み装置が接続されている。
【0029】
ところで、刺繍機のオペレータは、縫い上がりを見ながら糸張力を変えて、良好とされる糸締まりに調整する。しかし、糸の材質、生地、刺繍柄の作り等によっては、良好とされる糸締まりに調整できない場合がある。例えば、ポリエステルの糸、厚い生地、固い生地の場合に、糸締まりが悪くなり、縫い目と縫い目との間で糸が弛むおそれがある。また、例えば、刺繍柄の作りが使用する糸に対して細かい糸密度の場合も、糸締まりが悪くなる可能性がある。
【0030】
しかし、使用する糸や生地は、通常、刺繍の依頼者から指定されている。このため、糸締まり不良が発生しても、使用する糸や生地を変更することはできない。また、殆どの場合、刺繍機のオペレータと刺繍柄の作成者とは異なる。このため、糸締まりの問題があっても、刺繍機のオペレータは、刺繍柄の糸密度を粗くする等の刺繍柄の見栄えに関する調整、修正を行うことができない。このため、刺繍機のオペレータは、糸張力を上げて糸締まりを良くする以外、糸締まりを良くするための手段が残されていない。しかし、糸張力を上げると、糸が切れやすくなることに加えて、生地の縫い縮み対策が必要になる等、手間を要する。また、糸張力を上げても十分に糸が締まらない場合もある。
【0031】
ここで、図9の(A)は、正常縫い目となるパーフェクトステッチを示している。これに対して、図9の(B)は、不正縫い目となるヒッチステッチを示している。図9の(B)に示すように、ヒッチステッチは、上糸31が下糸32に半回転巻き付いており、「縫い目の張力バランスを狂わせる」、「糸切れの原因になる」、「縫い目間の糸の相互供給に影響する」、「縫い目間の糸量がばらつく」等、ステッチラインの乱れを生む結果となる。そして、図10は、一般的な刺繍機でパーフェクトステッチとヒッチステッチとが発生する角度範囲を示している。図10は、図3と同方向の図、即ち、ミシン針15の上側から生地17を見た平面図に対応する。従って、図10で左右方向に延びる180°から0°(360°)のラインとなるX軸は、図3のX軸に対応し、図10で上下方向に延びる270°から90°のラインとなるY軸は、図3のY軸に対応する。
【0032】
そして、図10中の基準円の内側で斜線が付された部分の角度範囲は、ヒッチステッチ(および、ヒッチステッチとパーフェクトステッチとが混在する混在ステッチ)が発生する角度範囲に対応する。図10中の基準円の内側で斜線が付されていない部分(紙面の色となる白の部分)の角度範囲は、パーフェクトステッチが得られる角度範囲に対応する。図10に示すように、現在の針落ち地点を「原点」とした場合に、この「原点」から斜線を付した角度範囲の方向へ縫い進むとき、即ち、原点から斜線の角度範囲の方向にミシン針と生地とが相対移動するときに、ヒッチステッチとなる。そして、糸締まりの不良(ステッチラインの弛み)は、このヒッチステッチ方向へ折り返して縫い進むときに発生する。
【0033】
そこで、実施形態では、糸締まりの不良を抑制すべく、ヒッチステッチ方向に折り返して縫い進むときに、生地を停止させた状態で天秤を往復動させるステイ処理(立ち止り処理)を行う。この場合に、第1の実施形態では、ヒッチステッチ方向に折り返して縫い進むときに、糸が締まるまで生地をその場に止めると共にミシン針の針落ちを一回キャンセルする「ジャンプ」を追加する。即ち、第1の実施形態では、刺繍機1の制御装置(刺繍機制御装置)となるマイクロコンピュータは、ヒッチステッチ方向に折り返して縫い進むときに、生地17とミシン針15とを停止させた状態で天秤13を往復させるジャンプが行われるように、刺繍機1を制御する。なお、後述の第2の実施形態で説明するように、ステイ処理としては、生地17を停止させた状態で、ミシン針15の針落ちをキャンセルせずに、天秤13とミシン針15を往復動させる「リピート」を追加してもよい。即ち、生地17を停止させた状態で、天秤13だけでなくミシン針15も往復させるリピートが行われるようにしてもよい。このような第2の実施形態については、後で詳しく説明する。
【0034】
第1の実施形態では、マイクロコンピュータは、例えば、読み込んだ刺繍柄データを「ジャンプ」が行われるように編集し、この編集した刺繍柄データに基づいて刺繍を行う。これにより、糸締まりを向上する。以下、この点について、詳しく説明する。なお、図10のヒッチステッチが発生する角度範囲は一例を示しており、この角度範囲は、刺繍機の種類、構造、より具体的には、釜の種類、機械の調整状況等(さらには、生地の種類、糸の種類等)に応じて変化する可能性がある。このため、それぞれの刺繍機に対応したヒッチステッチ方向の角度範囲を事前に得ておく。本実施形態では、ヒッチステッチの発生する角度範囲を、図10の角度範囲(65°から250°の範囲)として説明する。
【0035】
先ず、図1ないし図3に示すように、刺繍機1は、天秤13と、ミシン針15と、移動機構としての枠移動機構18と、制御装置(刺繍機制御装置)としてのマイクロコンピュータと、を備えている。天秤13は、往復動することにより、上糸31の供給と糸締めとを行う。ミシン針15は、往復動することにより、上糸31を生地17に刺し込む。枠移動機構18は、ミシン針15と生地17とを縫い方向に相対移動させる。即ち、枠移動機構18は、ミシン針15に対して生地17を縫い方向(次の針落ち点)に移動させる。マイクロコンピュータは、ミシン針15の往復動の制御と枠移動機構18の相対移動の制御とを行う。即ち、マイクロコンピュータは、刺繍柄データに基づいて、主軸モータ9、天秤駆動部、針棒駆動部、枠移動機構18のモータ、ソレノイド等の各種のアクチュエータを制御する。これにより、マイクロコンピュータは、往復動する天秤13によって供給と糸締めがされる上糸31を生地17に刺し込むミシン針15の制御(即ち、ミシン針15の往復動の制御)と、ミシン針15と生地17とを縫い方向に相対移動させる枠移動機構18の制御(即ち、枠移動機構18の相対移動の制御)と、を行う。
【0036】
この上で、マイクロコンピュータは、ミシン針15の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、予め設定された所定方向の所定角度内となるときに、第1針落ち点で枠移動機構18の相対移動を停止させた状態で、天秤13を往復動させるステイ処理を行う。より具体的には、マイクロコンピュータは、ミシン針15の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、予め設定された所定方向の所定角度内となるときに、第1針落ち点でミシン針15を上死点で停止させ、かつ、枠移動機構18の相対移動を停止させた状態で、天秤13を往復動させるジャンプ処理を行う。「所定方向の所定角度」は、例えば、図10に斜線を付した角度範囲に対応する。即ち、第1針落ち点を「原点」とした場合に、第2針落ち点の方向および角度が「原点」に対して65°から250°の範囲となるときに、第1針落ち点でジャンプをしてから第2針落ち点に進む。換言すれば、図10の90°を時計の12時の方向とした場合に、第2針落ち点が第1針落ち点から6時40分(250°)と12時50分(65°)との間の方向のときに、第1針落ち点(原点)でジャンプをしてから第2針落ち点に進む。
【0037】
図6は、サテン縫い(サテンステッチ)の刺繍柄の一例を示している。図7は、図6のA部を拡大して示している。図7に示すように、例えば、A→B→C→D→E→Fにサテンステッチで縫い進む場合、B→CとD→Eがヒッチステッチ方向の折り返しになる。そこで、第1の実施形態では、B→Cに縫い進むときに、ジャンプの処理を追加する。また、D→Eに縫い進むときに、ジャンプの処理を追加する。即ち、第1の実施形態では、A→B→ジャンプ→C→D→ジャンプ→E→Fで縫い進む。このジャンプでは、生地17とミシン針15は動かず、天秤13の往復動のみを行う。
【0038】
図5は、A→B→C→D→E→Fにサテンステッチで縫い進むときのタイムチャートを示している。図5の(A)は、ジャンプを行わない場合の「天秤13」と「針棒14(ミシン針15)」と「移動枠16(生地17)」の動作を示している。これに対して、図5の(B)は、ジャンプを行う場合の「天秤13」と「針棒14(ミシン針15)」と「移動枠16(生地17)」の動作を示している。第1の実施形態では、図5の(B)に示すように、B→Cに縫い進むときに、Bの位置でジャンプを行う。即ち、第1針落ち点となる針落ち点Bで、ミシン針15を上死点で停止させ、かつ、生地17の移動を停止させた状態で、天秤13を往復動させてから、第2針落ち点となる針落ち点Cに進む。
【0039】
また、D→Eに縫い進むときに、Dの位置でジャンプを行う。即ち、第1針落ち点となる針落ち点Dで、ミシン針15を上死点で停止させ、かつ、生地17の移動を停止させた状態で、天秤13を往復動させてから、第2針落ち点となる針落ち点Eに進む。なお、図5中の「針板」は、移動枠16の下側にミシン針15と上下方向に対応して配置される支持板である。「針板」は、移動枠16に取付けられた生地17を下側から支えることにより、ミシン針15が上糸31と一緒に生地17を貫通するときの貫通力を支承する。
【0040】
次に、刺繍機1のマイクロコンピュータで行われる処理について、図4のフローチャートを参照しつつ説明する。図4の処理は、例えば、刺繍機1による刺繍(縫製)の開始前に行われる。即ち、刺繍機1のマイクロコンピュータは、刺繍柄の針落ちデータ(針落ち点の位置に関する情報)が含まれた「刺繍柄データ」に基づいて刺繍を行う。例えば、マイクロコンピュータは、刺繍の開始に先立って、刺繍機1のオペレータによって指定(選択)された刺繍柄データを読み込み、この読み込んだ刺繍柄データに基づいて刺繍を行う。
【0041】
このとき、マイクロコンピュータは、刺繍の開始前に、刺繍柄データにジャンプ処理を行う指令情報を追加することにより、ジャンプ処理の指令情報が追加された刺繍柄データを作成する。即ち、マイクロコンピュータは、読み込んだ刺繍柄データを、ジャンプ処理の指令情報が追加された刺繍柄データに変更する。このような刺繍柄データの作成(変更)は、刺繍機1のオペレータが後述の図8に示すような設定画面26(ジャンプ設定画面)を操作することにより、マイクロコンピュータに実行させる。そして、マイクロコンピュータは、ジャンプ処理の指令情報が追加された刺繍柄データを作成(変更)した後に、このジャンプ処理の指令情報が追加された刺繍柄データに基づいて刺繍を行う。
【0042】
図4の処理は、刺繍柄データにジャンプ処理を行う指令情報を追加する処理に対応する。図4の処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。図4の処理は、刺繍機1のオペレータが刺繍機1に刺繍柄データを読み込ませるための操作を行うことにより開始される。例えば、オペレータは、操作装置21の表示画面24(例えば、液晶タッチパネル)に図8に示すような設定画面26(ジャンプの設定画面)を表示させ、この図8中の「実行(実行キー)」を選択する(押す)ことにより開始される。
【0043】
図4の処理が開始されると、マイクロコンピュータは、S1で、刺繍柄データを取得する。即ち、マイクロコンピュータは、マイクロコンピュータに接続されたUSBメモリ等から刺繍機1のオペレータによって選択された刺繍柄データを取得する。刺繍柄データの取得は、マイクロコンピュータに接続されたUSBコネクタ等のデータ読み込み装置を介して行うことができる。S1で、刺繍柄データを取得したら、S2に進む。
【0044】
S2では、S1で取得した刺繍柄データから針落ち点のデータ(位置データ)を2針分読み込む。即ち、S2では、刺繍の開始点となる針落ち点(開始針落ち点)から刺繍の終了点となる針落ち点(終了針落ち点)に達するまで、S2に進む毎に2針分ずつ針落ち点のデータ(位置データ)を順次読み込む。例えば、開始点を図7のAとした場合、図7のBとCのデータ(位置データ)を読み込む。また、例えば、現時点で図7のCまで読み込まれている場合は、図7のDとEのデータ(位置データ)を読み込む。S2で2針分のデータを読み込んだら、S3に進む。
【0045】
S3では、S2で読み込まれた針落ち点のデータ(位置データ)に基づいて、「折り返し角度」が予め設定した所定角度(指定角度)内であるか否かを判定する。即ち、S3では、ジャンプ処理を行うか否かを判定する針落ち点(判定対象針落ち点)とその前後の針落ち点との合計3点を結んで形成される「折り返し角度」が、予め設定した所定角度(指定角度)内であるか否かを判定する。折り返し角度は、「判定対象針落ち点と次の針落ち点とを結ぶ直線」と「判定対象針落ち点とこれよりも前の針落ち点とを結ぶ直線」との2本の直線がなす角の小さい方に対応する。例えば、判定対象針落ち点を図7のC点とし、その前後の針落ち点を図7のB点とD点とした場合、これらB点とC点とD点との3点で形成される角度θが「折り返し角度」に対応する。
【0046】
また、折り返し角度の閾値となる所定角度(指定角度)は、例えば、30°、60°90°のうちから刺繍機1のオペレータが事前に選択しておく。この選択は、後述の図8に示す設定画面26(ジャンプの設定画面)の折り返し角度の設定項目26C(30°、60°、90°)を選択することにより行うことができる。ここで、糸締まりの不良(ステッチラインの弛み)は、折り返しのときに発生する。このため、指定角度は、ジャンプを行うか否かを判定するための一つの閾値として設定することができる。
【0047】
この場合、指定角度を大きい角度(例えば、90°)にすると、大きい角度で折り返すときもジャンプが行われることになる。これに対して、指定角度を小さい角度(例えば、30°)にすると、大きい角度で折り返すときにジャンプが行われないようにすることができる。ジャンプは、その間、刺繍が進まないため、ジャンプが多くなる程、刺繍の完成までの時間が長くなり、ジャンプが少ない程、刺繍の完成までの時間を短くできる。このため、指定角度は、仕上がりの程度(糸締まりの程度)と完成に要する時間との関係で所望の角度に設定することができる。
【0048】
S3で「YES」、即ち、「折り返し角度」が予め設定した所定角度(指定角度)内であると判定された場合は、S4に進む。これに対して、S3で「NO」、即ち、「折り返し角度」が予め設定した所定角度(指定角度)内でないと判定された場合は、S4およびS5を介することなくS6に進む。S4では、S2で読み込まれた針落ち点のデータ(位置データ)に基づいて、ミシン針15と生地17との相対移動の方向がヒッチステッチ方向(図10の斜線の範囲)であるか否かを判定する。即ち、S4では、判定対象針落ち点(第1針落ち点)に対しで次の針落ち点(第2針落ち点)の方向(ミシン針15が縫い進む方向、換言すれば、第1針落ち点から上糸31が延びる方向)がヒッチステッチ方向となる65°から250°の範囲内であるか否かを判定する。
【0049】
S4で「YES」、即ち、第1針落ち点に対する第2針落ち点の方向がヒッチステッチ方向であると判定された場合は、S5に進む。これに対して、S4で「NO」、即ち、第1針落ち点に対する第2針落ち点の方向がヒッチステッチ方向でないと判定された場合は、S5を介することなくS6に進む。S5では、ジャンプ処理を追加する。即ち、S5では、判定対象針落ち点(第1針落ち点)の情報にジャンプ処理を行うための指令情報を追加する。S5で判定対象針落ち点(第1針落ち点)の情報にジャンプ処理を行うための指令情報を追加したら、S6に進む。S6では、刺繍柄データを確認する。即ち、S6では、ジャンプ処理を行うか否かの判定がされていない針落ち点のデータ、換言すれば、読み込まれていない針落ち点のデータ(残データ)があるか否かを判定する。
【0050】
S6で「YES」、即ち、残データがあると判定された場合は、S2の前に戻り、S2以降の処理を繰り返す。これに対して、S6で「NO」、即ち、残データがないと判定された場合は、処理を終了する。マイクロコンピュータは、図4の処理、即ち、刺繍柄データにジャンプ処理の指令情報を追加する処理を終了した後に、この処理により作成された刺繍柄データ、即ち、ジャンプ処理の指令情報が含まれた刺繍柄データに基づいて刺繍を行う。これにより、マイクロコンピュータは、図5の(B)に示すように、ミシン針15がヒッチステッチ方向に折り返すときに、ミシン針15を上死点で停止させ、かつ、枠移動機構18の相対移動を停止させた状態で、天秤13を往復動させるジャンプを行うことができる。
【0051】
このように、マイクロコンピュータは、刺繍柄の針落ちデータが含まれた刺繍柄データに対してジャンプ処理の指令情報を含ませる。この場合、マイクロコンピュータは、全ての針落ち点に対してジャンプを追加すべきか否かを判定し、ジャンプが必要と判定した針落ち点にのみジャンプを行う指令を追加する。また、ジャンプを行うべきか否かの判定は、図4のS3の処理である「折り返し判定」とS4の「縫い進み方向判定」とにより行う。
【0052】
S3の折り返し判定は、判定対象の針落ち点とその前後の針落ち点とで形成される角度が予め設定した指定角度以下であるか否かの判定である。また、S4の縫い進み方向判定は、判定対象の針落ち点から見て次の針落ち点がヒッチステッチ方向であるか否かの判定である。マイクロコンピュータは、折り返し判定と縫い進み方向判定との両方の判定結果に基づいて、針落ち点の情報にジャンプ処理を行わせる情報(ジャンプ指令情報)を含ませる。
【0053】
図8は、ジャンプ処理の設定画面26を示している。この設定画面26は、例えば、操作装置21の表示画面24(例えば、液晶タッチパネル)に表示される。図8に示すように、設定画面26には、取り込んだ刺繍柄26A、ヒッチステッチ方向の設定項目26B、折り返し角度の設定項目26C、ジャンプ処理の追加対象とするカラーファンクションの設定項目26D、ステッチ範囲設定項目26E等が表示される。例えば、折り返し角度は、大きい角度(例えば、90°)にすると、大きい角度で折り返すときもジャンプが行われ、小さい角度(例えば、30°)にすると、大きい角度で折り返すときにジャンプが行われないようにできる。ジャンプは、その間、刺繍が進まないため、折り返し角度の設定項目26Cでは、仕上がりの程度(糸締まりの程度)と完成に要する時間との関係で折り返し角度を設定する。
【0054】
カラーファンクションの設定項目26Dでは、それぞれ所望色の上糸が巻回された上糸ボビンのうちからいずれの色の上糸でジャンプ処理を追加するかを選択することができる。例えば、刺繍柄が、折り返しの多いサテン縫いを「黒色」で行い、折り返しの少ないタタミ縫いを「黄色」で行うデザインの場合を考える。この場合、カラーファンクションの設定項目26Dでは、「黒色」の上糸ボビンを選択(ON)し、「黄色」の上糸ボビンは選択を解除(OFF)することができる。なお、タタミ縫いは、例えば、下地等の刺繍面積の広い部分に用いられ、サテン縫いは、例えば、縁、縁取り、線、文字等の細い部分に用いられる。
【0055】
ヒッチステッチ方向の設定項目26Bでは、ジャンプを行うか否かの角度範囲を設定する。角度範囲は、刺繍を行う刺繍機1のヒッチステッチ方向となるように設定する。ステッチ範囲設定項目26Eでは、刺繍の開始点(最初の針落ち点)から刺繍の終了点(最後の針落ち点)までの間で、ジャンプが必要か否かを判定する範囲(換言すれば、ジャンプが必要であればジャンプを追加する範囲)を設定する。ステッチ範囲設定項目26Eでは、例えば、タタミ縫いの範囲は除外する等、刺繍柄のデザインに応じてその範囲を設定する。
【0056】
このように、設定画面26では、各項目26B,26C,26D,26Eを操作することにより、ジャンプ処理を追加する条件を設定することができる。刺繍機1のオペレータは、例えば、設定画面26の「実行(実行キー)」を選択する(押す)ことにより、設定画面26で設定された条件に応じて、取り込んだ刺繍柄26Aの刺繍柄データに、針落ち点と対応させてジャンプ処理の情報を追加する。また、オペレータは、例えば、設定画面26の「出力(出力キー)」を選択する(押す)ことにより、ジャンプの情報が追加された刺繍柄データを、USBメモリ等の記憶媒体に出力する。
【0057】
第1の実施形態による刺繍機1は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0058】
まず、刺繍機1の糸立て台10には、複数個の上糸ボビン(それぞれ所望色の上糸が巻回された上糸ボビン)をそれぞれ設置する。そして、これらの上糸ボビンから個別に引き出される各上糸31を、糸道形成台となる糸調子台11の前面側へと導きつつ、各糸調子12間で挟持させて各上糸31の張力を調整できるようにする。次に、各糸調子12の下流側では、各上糸31を夫々の天秤13の糸挿通孔(図示せず)に挿通しつつ、各ミシン針15へと導くようにする。
【0059】
次に、この状態で主軸モータ9により主軸(図示せず)を回転駆動し、ヘッド部6の天秤駆動部と針棒駆動部とを作動させると、色替え機構により選択された針棒14を針棒駆動部によってミシン針15と共に上下に駆動でき、ミシン針15を移動枠16側の生地17に対して運針することができる。また、色替え機構により選択された天秤13についても、天秤駆動部により主軸モータ9の回転に従って上下に駆動される。
【0060】
そして、色替え機構で選択された所望色の上糸31は、天秤13の上下動により糸立て台10上の各上糸ボビンのうちいずれか1つのボビンから糸調子12等を介してミシン針15側に供給される。この間、下糸側の回転釜(図示せず)は、上糸31と下糸32(図9参照)とを絡めるように回転され、回転釜の回転に伴って下糸32の繰出しを行う。
【0061】
これにより、上糸31はミシン針15の運針動作に伴って移動枠16側の生地17に縫付けられ、ミシン針15が生地17に縫い目を形成する毎に、上糸31がミシン針15側へと給糸され、刺繍柄データに基づいた刺繍柄が形成される。このとき、刺繍機1は、ミシン針15の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、所定の折り返し角度で、かつ、ヒッチステッチ方向となるときに、第1針落ち点でミシン針15を上死点で停止させ、かつ、枠移動機構18の相対移動を停止させた状態で、天秤13を往復動させるジャンプを行う。
【0062】
このように、第1の実施形態では、ミシン針15の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、予め設定された所定方向の所定角度内となるときに、ステイ処理としてジャンプが行われる。このため、第1針落ち点でヒッチステッチ方向に折り返すときに、第1針落ち点でミシン針15と生地17とを停止させた状態で天秤13によって上糸31を引き上げてから、第2針落ち点に縫い進むことができる。これにより、第1針落ち点とこの第1針落ち点の1つ前の針落ち点とによるライン(上糸31)の糸締まりを向上できる。
【0063】
この場合、糸張力を上げずに糸締まりのみを改善することができる。このため、糸張力を上げることによる糸切れ、生地17の縫い縮みを抑制できる。特に、糸調子の調整は、熟練度を伴うことが多く、刺繍の仕上がりがオペレータの技量に影響されるが、このような影響をなくすことができる。しかも、刺繍機が複数のヘッド部を備えた多頭式刺繍機の場合、複数の頭部、複数の針に対して糸張力を調整する必要があるが、このような調整の手間をなくすことができる。さらに、糸密度の修正や、縫い方向の変更が必要ないため、刺繍柄の仕上がりに手を加える必要もない。このため、糸、生地、刺繍柄の糸密度、糸張力等の変更を必要とせずに、糸締まりを向上できる。
【0064】
次に、図11ないし図14は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、ステイ処理として、第1の実施形態の「ジャンプ」に加えて「リピート」も行うことができるように構成したことにある。なお、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に、糸締まりの不良を抑制すべく、ヒッチステッチ方向に折り返して縫い進むときに、生地17を停止させた状態で天秤13を往復動させるステイ処理(立ち止り処理)を行う。即ち、第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に、ミシン針15の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、予め設定された所定方向の所定角度内となるときに、第1針落ち点で枠移動機構18の相対移動を停止させた状態で、天秤13を往復動させるステイ処理を行う。この場合に、前述した第1の実施形態では、ステイ処理として、第1針落ち点で枠移動機構18の相対移動を停止させ、かつ、ミシン針15を上死点で停止させた状態で、天秤13を往復動させるジャンプ処理を行う。
【0066】
これに対して、第2の実施形態では、ステイ処理として、リピート処理を行うことも可能としている。リピート処理は、第1針落ち点で枠移動機構18の相対移動を停止させた状態で、ミシン針15および天秤13を往復動させる処理である。即ち、第2の実施形態では、刺繍機1のマイクロコンピュータは、ミシン針15の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、予め設定された所定方向の所定角度内となるときに、第1針落ち点で枠移動機構18の相対移動を停止させた状態で、ミシン針15および天秤13を往復動させるリピートが行われるように、刺繍機1を制御することが可能となっている。この場合、マイクロコンピュータは、例えば、読み込んだ刺繍柄データを「リピート」が行われるように編集し、この編集した刺繍柄データに基づいて刺繍を行うことが可能となっている。
【0067】
ここで、ヒッチステッチ方向に折り返して縫い進むときに、リピートを行う場合について説明する。例えば、前述の図7に示すようにA→B→C→D→E→Fにサテンステッチで縫い進む場合は、A→B→リピート→C→D→リピート→E→Fで縫い進む。即ち、B→Cに縫い進むときとD→Eに縫い進むときに、リピートの処理を追加する。換言すれば、「ジャンプ」の位置で「リピート」を行う。リピートでは、生地17は動かず、天秤13およびミシン針15の往復動を行う。
【0068】
図12は、A→B→C→D→E→Fにサテンステッチで縫い進むときのタイムチャートを示している。図12の(A)は、ステイ処理(ジャンプおよびリピート)を行わない場合の「天秤13」と「針棒14(ミシン針15)」と「移動枠16(生地17)」の動作を示している。これに対して、図12の(B)は、リピートを行う場合の「天秤13」と「針棒14(ミシン針15)」と「移動枠16(生地17)」の動作を示している。
【0069】
図12の(B)に示すように、B→Cに縫い進むときに、Bの位置でリピートを行う。即ち、第1針落ち点となる針落ち点Bで、生地17の移動を停止させた状態で、天秤13およびミシン針15を往復動させてから、第2針落ち点となる針落ち点Cに進む。また、D→Eに縫い進むときに、Dの位置でリピートを行う。即ち、第1針落ち点となる針落ち点Dで、生地17の移動を停止させた状態で、天秤13およびミシン針15を往復動させてから、第2針落ち点となる針落ち点Eに進む。
【0070】
次に、刺繍機1のマイクロコンピュータで行われる処理について、図11のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、図11中のS1からS6の処理は、図4中のS1からS6の処理と同様であるため、S1からS6の処理の説明は省略する。
【0071】
S4で「YES」、即ち、第1針落ち点に対する第2針落ち点の方向がヒッチステッチ方向であると判定された場合は、S11に進む。S11では、選択されているステイ処理がジャンプ処理であるか否かを判定する。ステイ処理の選択は、後述の図13に示すような設定画面26のファンクション選択項目26Fを操作することにより予め行うことができる。S11で「YES」、即ち、選択されているステイ処理がジャンプ処理であると判定された場合は、S5に進む。この場合は、ファンクション選択項目26Fで「ジャンプ」が選択されている場合に対応する。このため、S5では、判定対象針落ち点(第1針落ち点)の情報にジャンプ処理を行うための指令情報を追加する。これに対して、S11で「NO」、即ち、選択されているステイ処理がジャンプ処理でない(リピート処理である)と判定された場合は、S12に進む。この場合は、ファンクション選択項目26Fで「リピート」が選択されている場合に対応する。このため、S12では、判定対象針落ち点(第1針落ち点)の情報にリピート処理を行うための指令情報を追加する。
【0072】
図13は、第2の実施形態による設定画面26を示している。図13に示すように、第2の実施形態の設定画面26には、ファンクション選択項目26Fが表示される。ファンクション選択項目26Fでは、第1針落ち点に対する第2針落ち点の方向がヒッチステッチ方向であるときに「ジャンプ」を行うか「リピート」を行うかを選択することができる。例えば、「ジャンプ」が選択されている場合は、第1の実施形態のように、ヒッチステッチ方向に折り返して縫い進むときに、枠移動機構18の相対移動を停止させ、かつ、ミシン針15を上死点で停止させた状態で、天秤13を往復動させるジャンプが行われる。これに対して、「リピート」が選択されている場合は、ヒッチステッチ方向に折り返して縫い進むときに、枠移動機構18の相対移動を停止させた状態で、ミシン針15および天秤13を往復動させるリピートが行われる。
【0073】
換言すれば、第2の実施形態では、第1針落ち点に対して第2針落ち点がヒッチステッチ方向(例えば、図10の65°から250°の範囲)となるときに、第1針落ち点でジャンプまたはリピートしてから第2針落ち点に進む。このとき、ジャンプかリピートかは、設定画面26のファンクション選択項目26Fで選択された項目に従う。
【0074】
図14は、図7のA→B→C→D→E→Fの順に縫い進むときの刺繍柄データの例を示している。図14中の(A)は、図4および図11のS1で取得される刺繍柄データの一例を示している。図14中の(B)は、図4および図11のS5の処理によりジャンプ処理の指令情報が追加された後の刺繍柄データの一例を示している。図14中の(C)は、図11のS12の処理によりリピート処理の指令情報が追加された後の刺繍柄データの一例を示している。この場合、刺繍柄データは、[ファンクション,X座標,Y座標]となっている。X座標、Y座標の添え字A,B,C,D,E,Fは、図7の位置A,B,C,D,E,Fに対応する。ファンクションは、刺繍機1の機能を使うための指令に対応する。例えば、ファンクションの「0」は、針落ちの指令に対応し、「JP」は、ジャンプの指令(針落ちさせない指令)に対応する。また、このようなファンクションとしては、例えば、糸を切る指令となる「T」、糸の色を替える「C」等がある。ファンクションは、その座標で行われる刺繍機1の動作に対応する。
【0075】
図14に示すように、図14中の(B)および(C)の刺繍柄データは、図14中の(A)の刺繍柄データに対して、B点とC点との間に、JPファンクション+B座標、または、0ファンクション+B座標が追加されている。また、D点とF点についても、同様に追加されている。このように、ステイ処理(リピート処理、ジャンプ処理)は、刺繍柄データに対して生地の移動のない座標(ステイポイント、立ち止り点)を追加する処理に対応する。即ち、ステイ処理(リピート処理、ジャンプ処理)は、加工前の刺繍柄データ(読み込んだ刺繍柄データ)に対して生地の移動のない同じ位置の座標(ステイポイント、立ち止り点)を追加する処理に対応する。
【0076】
そして、ファンクション選択項目26Fで「リピート」が選択されている場合は、ファンクションが「0」となる。この場合は、追加された位置(立ち止り点)でミシン針15の往復(針落ち)が行われる。これに対して、ファンクション選択項目26Fで「ジャンプ」が選択されている場合は、ファンクションが「JP」となる。この場合は、追加された位置(立ち止り点)でミシン針15の往復(針落ち)が行われない。いずれの場合も、追加された位置(立ち止り点)で天秤13の往復動が行われる。このように、ステイ処理では、次の針落ち点がヒッチステッチ方向となる針落ち点で、生地の移動を停止し、天秤13の往復動が行われる。このとき、天秤13の往復動と共にミシン針15を往復動(リピート)させるかミシン針15を上死点で停止(ジャンプ)させるかは、任意に選択することができる。
【0077】
第2の実施形態は、上述の如きステイ処理(ジャンプ処理またはリピート処理)を行うもので、その基本的作用については、上述した第1の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に、ミシン針15の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、予め設定された所定方向の所定角度内(ヒッチステッチ方向の範囲内)となるときに、ステイ処理が行われる。この場合、第2の実施形態は、ステイ処理として「ジャンプ処理」または「リピート処理」を選択することができる。そして、「ジャンプ処理」を選択したときも「リピート処理」を選択したときも、第1針落ち点でヒッチステッチ方向に折り返すときに、第1針落ち点で生地17を停止させた状態で天秤13によって上糸31を引き上げてから、第2針落ち点に縫い進むことができる。これにより、第1針落ち点とこの第1針落ち点の1つ前の針落ち点とによるライン(上糸31)の糸締まりを向上できる。
【0078】
なお、第2の実施形態では、ステイ処理として「ジャンプ」と「リピート」とを選択できる構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、「ジャンプ」と「リピート」との選択の処理を省略し、ステイ処理として「リピート」を行う構成としてもよい。換言すれば、第1の実施形態のステイ処理を「ジャンプ」ではなく「リピート」にしてもよい。さらには、1つの刺繍柄で「ジャンプ」と「リピート」とを混在させてもよい。例えば、折り返し角度等に応じて「ジャンプ」とするか「リピート」とするかを予め設定しておき、この設定に従ってステイ処理をすべき針落ち点毎に「ジャンプ」または「リピート」が自動的に選択されるようにしてもよい。
【0079】
第1の実施形態および第2の実施形態(以下、「各実施形態」ともいう)では、刺繍機1の制御装置(刺繍機制御装置)であるマイクロコンピュータを用いて刺繍柄の針落ちデータ(針落ち点の位置に関する情報)が含まれる刺繍柄データにステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)を行わせる情報(ジャンプの指令情報、リピートの指令情報)を含ませる構成とした場合を例に挙げて説明した。即ち、各実施形態では、刺繍機1のマイクロコンピュータを用いて針落ち点の情報が含まれる刺繍柄データに、針落ち点と対応させてステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を追加することにより、ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報も含む刺繍柄データを作成し、この作成した刺繍柄データに基づいて刺繍を行う。換言すれば、各実施形態では、刺繍機1のマイクロコンピュータは、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含まない刺繍柄データ」を「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含む刺繍柄データ」に変更(変換、編集)し、この変更(変換、編集)した刺繍柄データに基づいて刺繍を行う。
【0080】
しかし、これに限らず、例えば、マイクロコンピュータで刺繍柄データの作成(変更、変換、編集)を行わなくてもよい。即ち、刺繍機1のマイクロコンピュータで「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含まない刺繍柄データ」を取り込み、この刺繍柄データに基づいて刺繍を行っているときに、ステイ(ジャンプ、リピート)が必要か否かを判定しつつ刺繍を行うようにしてもよい。この場合には、刺繍機1のマイクロコンピュータに、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含まない刺繍柄データ」の針落ち点の情報からステイ(ジャンプ、リピート)を行うか否かを判定し、この判定結果に応じてステイ(ジャンプ、リピート)を行う機能を持たせる。
【0081】
また、例えば、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含む刺繍柄データ」の作成(変更、変換、編集)は、刺繍機1のマイクロコンピュータではなく、刺繍機1とは別のコンピュータ(情報処理装置、情報処理端末、携帯情報処理端末)、例えば、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン等で行ってもよい。この場合は、刺繍機1とは別のコンピュータ(情報処理装置、情報処理端末、携帯情報処理端末)に、刺繍柄データを作成(変更、変換、編集)するための刺繍柄データ作成プログラムをインストールしておく。
【0082】
そして、このインストールされたプログラムによる刺繍柄データ作成アプリケーションを用いて、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含む刺繍柄データ」の作成(変更、変換、編集)を行う。刺繍機のマイクロコンピュータは、刺繍機とは別のコンピュータ(情報処理装置、情報処理端末、携帯情報処理端末)で作成(変更、変換、編集)された「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含む刺繍柄データ」を読み込み、この読み込んだ刺繍柄データで刺繍を行う。なお、刺繍柄データ作成アプリケーションのインターフェイス(操作画面、設定画面)は、例えば、図8または図13に示す様なインターフェイス(操作画面、設定画面)にすることができる。
【0083】
いずれにしても、刺繍機で刺繍を行うときに、ヒッチステッチ方向の折り返し点で刺繍機にステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)をさせるためには、刺繍機のマイクロコンピュータに読み込ませる刺繍柄データを、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含む刺繍柄データ」としてもよいし、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含まない刺繍柄データ」としてもよい。「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含まない刺繍柄データ」を刺繍機のマイクロコンピュータで読み込む場合は、刺繍機のマイクロコンピュータで、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含む刺繍柄データ」の作成(変更、変換、編集)を行い、この作成(変更、変換、編集)した刺繍柄データを用いて刺繍を行う。
【0084】
これに対して、刺繍機のマイクロコンピュータで、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含む刺繍柄データ」の作成(変更、変換、編集)を行わなくてもよい。この場合には、刺繍機のマイクロコンピュータは、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含まない刺繍柄データ」に基づいて刺繍を行いつつステイ(ジャンプ、リピート)が必要か否かを判定し、この判定結果に基づいてステイ(ジャンプ、リピート)を行う。即ち、刺繍機の運転中に「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含まない刺繍柄データ」からステイ(ジャンプ、リピート)が必要か否かを判定し、ステイ(ジャンプ、リピート)が必要と判定されたときにステイ(ジャンプ、リピート)しつつ刺繍を行う。
【0085】
さらに、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含む刺繍柄データ」の作成(変更、変換、編集)は、刺繍機の制御装置となる刺繍機制御装置で行ってもよいし、この刺繍機制御装置とは別の装置となる情報処理装置(情報処理端末、携帯情報処理端末)で行ってもよい。情報処理装置(情報処理端末、携帯情報処理端末)で刺繍柄データの作成(変更、変換、編集)を行う場合は、この情報処理装置に刺繍柄データ作成プログラムをインストールする。そして、このプログラムによる刺繍柄データ作成アプリケーションを情報処理装置(情報処理端末、携帯情報処理端末)で起動し、この刺繍柄データ作成アプリケーションを用いて刺繍柄データの作成(変更、変換、編集)を行う。刺繍柄データ作成アプリケーションには、例えば、針落ち点の情報を含まない刺繍柄の画像データを針落ち点の情報を含む刺繍柄データに変換することにより、刺繍柄データを作成する機能を持たせる。
【0086】
また、刺繍柄データ作成アプリケーションには、「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含まない刺繍柄データ」にステイ(ジャンプ、リピート)の情報を追加する機能を持たせる。そして、刺繍柄データ作成アプリケーションでは、このステイ(ジャンプ、リピート)を追加する機能により刺繍柄データの作成(変更、変換、編集)を実行するか否かを選択できるようにする。なお、このような選択をしなくても、刺繍柄データ作成アプリケーションにて刺繍柄の画像データから針落ち点の情報を含む刺繍柄データを作成するときに、自動的に針落ち点に対応してステイ(ジャンプ、リピート)の情報を追加してもよい。
【0087】
また、刺繍柄データ作成アプリケーションには、作成(変更、変換、編集)した刺繍柄データを、USBメモリ等の携帯用記憶装置に出力する機能を持たせる。刺繍機のオペレータは、携帯用記憶装置に出力された「ステイ(ジャンプ、リピート)の指令情報を含む刺繍柄データ」を刺繍機(刺繍機制御装置)に読み込ませてから、刺繍機による刺繍を開始する。なお、刺繍柄データ作成アプリケーションで作成(変更、変換、編集)した刺繍柄データは、LAN等の通信回線を介して刺繍機(刺繍機制御装置)で読み込む構成としてもよい。
【0088】
まとめると、刺繍機の制御装置(刺繍機制御装置)は、ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点がヒッチステッチ方向への折り返しのときに、ステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)を行う。このステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)は、ステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)を行わせる情報が含まれた刺繍柄データを用いて行うことができる。刺繍柄データは、刺繍機(刺繍機制御装置)に読み込ませるデータである。この刺繍柄データの作成(変更、変換、編集)は、刺繍柄データ作成装置により行う。刺繍柄データ作成装置は、刺繍柄データの作成(変更、変換、編集)を行う。刺繍柄データ作成装置は、刺繍機のマイクロコンピュータとなる刺繍機制御装置、または、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン等の情報処理装置に対応する。刺繍柄データ作成装置は、ステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)を行わせる情報を刺繍柄データに含ませる。
【0089】
このために、刺繍機制御装置または情報処理装置には、ステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)を行わせる情報を刺繍柄データに含ませるステップを有する刺繍柄データ作成プログラムをインストールする。刺繍柄データの作成(変更、変換、編集)は、インストールした刺繍柄データ作成プログラムにより動作する刺繍柄データ作成アプリケーションを用いて行う。即ち、刺繍柄データ作成アプリケーションは、ステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)を行わせる情報を刺繍柄データに含ませることを行う。この刺繍柄データには、ステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)を行わせる情報を、ステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)を行う針落ち点の情報(位置情報)と対応させて含ませる。なお、刺繍機は、ステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)を行わせる情報が含まれていない刺繍柄データに基づいて刺繍を行いつつ、それぞれの針落ち点でステイ処理(ジャンプ処理、リピート処理)が必要か否かを判定し、必要と判定されたときにジャンプ処理を行うようにしてもよい。
【0090】
第1の実施形態では、刺繍柄として図6および図8に示す様な刺繍柄を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、刺繍柄は、各種のデザイン(模様、意匠)の刺繍柄を用いることができる。このことは、第2の実施形態についても同様である。
【0091】
第1の実施形態では、ミシン針15と生地17とを縫い方向(水平方向)に相対移動させる移動機構として、ミシン針15に対して生地17を縫い方向(次の針落ち点)に移動させる枠移動機構18(生地移動機構)とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、生地に対してミシン針を縫い方向(次の針落ち点)に移動させるミシン針移動機構(ミシン頭移動機構)としてもよい。また、生地移動機構(枠移動機構)と針移動機構(ミシン頭移動機構)との両方でミシン針と生地とを縫い方向(水平方向)に相対移動させる構成としてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
【0092】
第1の実施形態では、刺繍機1として1個のヘッド部6を備えた単頭式刺繍機を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、刺繍機は、例えば、複数のヘッド部を備えた多頭式刺繍機としてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
【0093】
第1の実施形態では、刺繍機として刺繍用ミシン(刺繍専用ミシン)を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、刺繍機は、例えば、刺繍機能搭載ミシン等、各種のミシンに用いることができる。このことは、第2の実施形態についても同様である。
【0094】
さらに、第1の実施形態および第2の実施形態は例示であり、第1の実施形態および第2の実施形態で示した構成の部分的な置換または組合せが可能であることは言うまでもない。
【0095】
以上説明した実施形態によれば、ミシン針の第1針落ち点に対して次の針落ち点となる第2針落ち点が、予め設定された所定方向の所定角度内となるときに、第1針落ち点で移動機構の相対移動を停止させた状態で、天秤を往復動させるステイ処理が行われる。この場合に、ステイ処理は、ミシン針を上死点で停止させる「ジャンプ処理」としてもよいし、ミシン針を往復動させる「リピート処理」としてもよい。また、「ジャンプ処理」にするか「リピート処理」にするかを任意に選択できるようにしてもよい。いずれの場合も、第1針落ち点でヒッチステッチ方向に折り返すときに、第1針落ち点で生地を停止させた状態で天秤によって上糸を引き上げてから、第2針落ち点に縫い進むことができる。これにより、第1針落ち点とこの第1針落ち点の1つ前の針落ち点とによるライン(上糸)の糸締まりを向上できる。この結果、糸締まりを向上できる。
【符号の説明】
【0096】
1 刺繍機
13 天秤
15 ミシン針
18 枠移動機構(移動機構)
19 制御ユニット(制御装置、刺繍機制御装置)
31 上糸
図1
図2
図3
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図6
図7
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図10
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