(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン透過板状隔壁及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/39 20060101AFI20240919BHJP
C04B 35/113 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H01M10/39 A
C04B35/113
(21)【出願番号】P 2023503826
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008298
(87)【国際公開番号】W WO2022186139
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021032980
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512275156
【氏名又は名称】株式会社人工資源研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 宏
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-103197(JP,A)
【文献】特開平05-177619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/39
C04B 35/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向の中央部に溶融ナトリウムが供給される陰極室を持つ板状でありナトリウムイオンが透過する固体電解質で形成された板状隔壁であって、
前記陰極室は二次元方向に延びる箔状空間または網目状に二次元方向に延びる孔状空間で形成されていることを特徴とする板状隔壁。
【請求項15】
前記箔状空間と前記孔状空間は、前記陰極室内で生成した硫化ナトリウムにより閉塞するように形成されている請求項1記載の板状隔壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム硫黄電池とかナトリウム溶融塩電池等に使用されるナトリウムイオンを通す板状隔壁に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量の二次電池として、ナトリウム硫黄電池が知られている。ナトリウム硫黄電池は、溶融硫黄を陽極活物質とし、溶融ナトリウムを陰極活物質とし、ナトリウムイオンNa+を透過するβアルミナ等の固体電解質で溶融硫黄と溶融ナトリウムとを隔離する隔壁を構成している。また、溶融硫黄は陽極室に収納されており、溶融ナトリウムは陰極室に収納されている。陽極室および陰極室は、それぞれナトリウム硫黄電池の陽極端子および陰極端子に導通している。
【0003】
電池の放電時には、陰極室のナトリウムが電子とナトリウムイオンとに分かれ、電子は陰極端子から外部に流れ外部回路を介して陽極端子に送られ、ナトリウムイオンNa+は隔壁を透過し陽極室に移動する。陽極室では、陽極端子から電子が供与され、供与された電子とナトリウムイオンNa+と溶融硫黄Sが化学反応し、多硫化ナトリムNa2Sxが生成される。充電時にはこれら放電時の反応と逆の反応が起こる。
【0004】
充電時には多硫化ナトリムNa2SxからナトリウムイオンNa+、電子および硫黄Sが生成し、ナトリウムイオンNa+は隔壁を透過して陽極室から陰極室へ移動する。すなわち、ナトリウムイオンNa+は、放電時に陰極室から陽極室へ隔壁を透過して移動し、充電時に陽極室から陰極室へ隔壁を透過して移動する。
【0005】
ナトリウム硫黄電池の活物質の溶融硫黄および溶融ナトリウムはいずれも溶融状態、つまり液体である必要があり、ナトリウム硫黄電池は290~350度の高温で作動する。
【0006】
隔壁は、ナトリウム硫黄電池及びナトリウム溶融塩電池の隔壁として、上端開口で下端が閉じた管形状のもののみが実用化されている。国際出願の公開明細書WO 2017/090636 A1には厚さ方向の中央部に陰極室空間を持つ板状の隔壁も提案されているが隔壁としての耐久性が低く実用化されていない。
【0007】
従来、厚さ方向の中央部に所定の大きさの陰極室空間を形成するために焼失模型をβアルミナ等の造粒粉末の中央部に埋め込み加圧成形し、さらにシップ成形すると、焼失模型のスプリングバックと思われる作用により得られる圧密体に亀裂が発生した。このため焼失模型を用いて陰極室を作ることはできなかった。
【0008】
焼失模型を使用しない方法としてβアルミナ等の薄板を張り合わせて中央部に陰極室を持つ板状隔壁を製造する方法が知られている。この方法は、βアルミナの造粒粉で薄い板状の表板及び裏板、それに陰極室となる中央部分を取り除いた枠板からなる3個のβアルミナ部品を作り、この枠板の上及び下に表板及び裏板をガラス接合剤で接合し内部に陰極室を持つ板状隔壁を製造するものである。この方法で、ガラス接合剤を変えたり、βアルミナの薄板を変えて板状隔壁を作り、これらの板状隔壁を用いてナトリウム硫黄電池の単セルを作り、充放電試験を行ったが、いずれも1ヶ月を超える耐久性能を持つ単セルは得られなかった。
【0009】
また、発明者は管形状の隔壁を持つ安全なナトリウム硫黄電池の発明を完成しWO 2021/260962 A1として特許出願をした。この発明において隔壁の陰極室として焼結した粒子の間隙とか隙間とか目視できない狭い間隙が陰極室として機能することを知った。そこで、陰極室としては従来の部屋として認識できる大きな空間である必要がないのではと思い至った。すなわち、焼結した粒子の間隙にできる隙間とか目視できない狭い間隙を連結することにより陰極室として機能する空間が得られるのではないかと思い至り、本発明を完成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO 2017/090636 A1
【文献】WO 2021/260962 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は安全性及び耐久性の高いナトリウムイオンを透過する板状隔壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の板状隔壁は、厚さ方向の中央部に溶融ナトリウムが供給される陰極室を持つ板状でありナトリウムイオンが透過する固体電解質で形成された板状隔壁であって、
前記陰極室は二次元方向に延びる箔状空間または網目状に二次元方向に延びる孔状空間で形成されていることを特徴とする。
【0013】
(削除)
【0014】
(削除)
【0015】
(削除)
【0016】
本発明の板状隔壁の陰極室は薄い箔状空間あるいは細い孔状空間で構成されている。このため、陰極室を構成する空間が極めて狭くその容積が極めて小さく、陰極室に収納されている溶融ナトリウムも極めて少ない。このため、損傷により板状隔壁が破壊されて板状隔壁の周囲の溶融硫黄と反応しても、溶融ナトリウムの量が少ないため発熱量が少なく板状隔壁を含むその周囲の溶融硫黄の温度がわずかに高くなる程度に収まり、安全性が高い。
【0017】
また、陰極室が薄い箔状空間あるいは細い孔状空間で構成されているため、これらの空間を形成する焼失模型や有機物も薄いあるいは細かいものでよい。すなわち、従来の容積の大きい焼失模型に代えて、容積の小さい焼失模型や有機物粉を使用するために得られる圧密体に小さな亀裂等が発生しにくく、板状隔壁の製造が容易となる。
【0018】
さらに板状隔壁の場合、陰極室の両側に位置する表側壁部と裏側壁部はともに隔壁として機能する。このため板状隔壁の表面及び裏面は共に隔壁表面として機能し、隔壁表面の増大に寄与する。
【0019】
本発明の板状隔壁は、厚さ方向の中央部に陰極室を持ち、この陰極室は二次元方向に延びる箔状空間または網目状に二次元方向に延びる孔状空間で形成されている。
【0020】
陰極室を形成する箔状空間はその厚さが0.5mm以下であるのが好ましい。さらにこの箔状空間はその厚さが0.1mm以下であるのがより好ましい。箔状空間は溶融ナトリウムが流れ得る機能を確保できる範囲でより薄いものが好ましい。また、箔状空間はその空間の厚さ方向に貫通し板状隔壁の表側部及び裏側部を連結する支持部を持つものとすることができる。支持部としては柱状でも壁状でもよい。
【0021】
陰極室を形成する孔状空間はその孔径が0.5mm以下であるのが好ましい。さらにこの孔状空間はその孔径が0.1mm以下であるのがより好ましい。孔状空間は溶融ナトリウムが流れえる機能を確保できる範囲でより細かいものが好ましい。
【0022】
また、この孔状空間は二次元方向に延びる網状とすることができる。なお、この孔状空間を持つ多孔質部は厚さの厚いものでもよい。この多孔質部が厚いと当然に板状隔壁も厚くなり厚さの厚い板状隔壁となる。板状隔壁が厚くなると機械的強度が高くなり大きな板状隔壁とすることができる。
【0023】
本発明の板状隔壁の製造方法について説明する。製造方法の一つは二次元方向に延びる箔状の陰極室を焼失模型で形成するものである。
【0024】
この焼失模型は厚さの薄い箔状有機物で形成されている。この箔状有機物は繊維成形品とすることができる。この焼失模型は表裏を貫通する貫通孔または貫通壁等の通孔を持つものとすることができる。この通孔に造粒粉が入り込み脱脂焼結されて製造された板状隔壁の陰極室で厚さ方向に分けられた表側部と裏側部をつなぐ支持部となる。この支持部により板状隔壁の表側部と裏側部の一体性が高まり二次元方向に広い陰極室とすることができる。
【0025】
この箔状の焼失模型を形成する有機物としては 脱脂の容易なポリビニルアルコール、熱分解が容易なセルロース等の炭水化合物が好ましいと思われるがこれらに限るものではない。限られた試験結果では焼失模型として通常の衛生用のガーゼを複数枚重ねたものが良かった。木綿の布、不織布、紙も焼失模型として使用できるが、ガーゼ以上のものではなかった。
【0026】
焼失模型に求められる性質としては、造粒粉中で押圧成形された成形物が成形前の形状に復帰しない性質を持つことである。ガーゼは撚りの少ない木綿糸で緩く織ったもので、ガーゼを構成する個々のファイバーが互いにずれ動いて反発力を緩和しているものと考えられる。このため、圧縮によるガーゼの反発力、すなわち、圧縮前の形状に戻ろうとする力が弱いように思われる。これにより耐久性のある板状隔壁用の焼失模型用材料に適している。
【0027】
成形前に復帰しない性質を焼失模型に与えられる材料として氷を考えている。ガーゼに水を浸み込ませ冷却して水を氷に変え、氷点下で押圧成形し、その後加熱して氷を水に変えるものである。水に変わることでガーゼを形成する個々のファイバーの結合が解かれ、ファイバーが相対的に滑りやすくなる。さらに氷の体積が減少し、圧縮されている焼失模型がわずかに小さくなり、焼失模型による反発力が小さくなる。これにより陰極室表面に発生するであろうマイクロクラックの生成が抑制され、より耐久性のある板状隔壁が得られる。
【0028】
本発明に係る圧密体は箔状の焼失模型の外周をβアルミナ等の固体電解質の造粒粉で覆い厚さ方向の中央部に箔状の焼失模型を持つシート状の造粒粉を押圧して得られる。均質な圧密体とするため、外周面より同じ力で加圧ができるシップ成形を採用することが好ましい。
【0029】
もう一つの製造方法は、孔が二次元方向に延びて網状となる陰極室を形成するもので、前記焼失模型に代えてセラミクス粉と有機物粉の混合粉からなるシート状の連続孔形成部材を用いる。この製造方法においては、焼失模型を連続孔形成部材に代えたところだけが異なり、他の部分は焼失模型を用いて板状隔壁を製造するのと同じである。
【0030】
この連続孔形成部材が押圧されて圧密化し、加熱焼結される。加熱焼結の過程で連続孔形成部材の有機物粉が焼失して除去され、この有機物粉が存在した部分が空洞となる。連続孔形成部材の他の成分であるセラミクス粉は焼結され、連続孔形成部材は孔が連続する多孔質セラミックスとなる。この多孔質セラミックスの連続孔が陰極室となる。
【0031】
孔を形成する有機物粉として粒状の有機物、造粒粉に使用する有機結合剤からなる粉末を採用できる。セラミックス粉としてはβアルミナ粉が好ましいが、アルミナ粉等のセラミックス粉も使用できる。
【0032】
他のもう一つの製造方法は、板状隔壁の陰極室の両側に位置する表側壁部と裏側壁部を別体として個々に焼結して固体電解質からなる焼結体とする。これら表側壁部と裏側壁部とを重ね合わせ、重ね合わせた2枚の焼結体の周囲の側面及び、または重なった面の周縁部の表面部分にガラス接合材を塗って加熱しガラス接合材で一体的に接合するものである。陰極室は重ね合わせた対向面間に形成される隙間状の空間で構成される。塗布された接合材が本発明の枠部材前駆体となり、接合されることにより本発明の枠部材となる。
【0033】
枠部材前駆体は両端が所定間隔で対向するループ形状である。このループ形状の両端の空間が形成される陰極室の出入り口となる。このループ形状の枠部材前駆体とともにこのループ内に位置し前記表側部材と前記裏側部材とを接合する支持部前駆体を形成することもできる。支持前駆体を加熱溶解して得られる支持体により表側部材と裏側部材の一体性が高まり得られる板状隔壁の機械的強度も高くなる。
【0034】
この板状隔壁では表側壁部と裏側壁部の枠部材あるいは枠部材と支持体が介在していない表側部材及び裏側部材の対向面で区画される隙間状の空間が陰極室となる。
【0035】
この製造方法では、固体電解質とされた表側部材と裏側部材及び枠部材となるガラス接合材の3部品で板状隔壁が得られる。すなわち、従来必要とした焼結体としての枠部材が不要となる。このため、製造が容易になると共に焼結宝なる枠部材に起因する損傷が避けられる。この方法で形成される陰極室は表側部材と裏側部材の相対向する平面と陰極室のループ状の外周端面を区画する枠部材となるガラス接合層であり、陰極室の厚さは主としてガラス接合層の厚さとなる。ガラス接合層の厚さは薄いほうが良い。これにより薄い箔状空間からなる陰極室が形成される。
【0036】
焼失模型を用いる本発明の板状隔壁の製造方法の発明では、焼失模型の形状が薄い箔状である。すなわち焼失模型は量的に極めて少なくしかも二次元的に展開している。このため焼失模型による反発力が小さくマイクロクラックの生成が少ない陰極室ができる。陰極室を孔が連続する多孔質とする製造方法では孔形成成分として粒状の有機物を使用するためマイク理クラックが少ない連続孔を持つ多孔質体が得やすい。このため耐久性の高い板状隔壁が得やすい。
【0037】
ガラス接合材を用いる板状隔壁の製造方法では従来の枠状セラミック部品が不要となる。このため製造が容易になるばかりではなく、より耐久性の高い板状隔壁が得られる。
【0038】
(作用効果)
本発明の板状隔壁は、厚さ方向の中央部に溶融ナトリウムが供給される陰極室を持つ板状でありナトリウムイオンが透過する固体電解質で形成されている。この陰極室は二次元方向に延びる箔状空間または網目状に二次元方向に延びる孔状空間で形成されている。この板状隔壁はナトリウム硫黄電池の隔壁として使用される。放電時には、陰極室内のナトリウムはナトリウムイオンと電子に分かれ、ナトリウムイオンは板状隔壁を構成する固体電解質を通り、固体電解質の外周面から陽極室内に放出される。このナトリウムイオンと外部回路を介して移送される電子と陽極室内の硫黄とで陽極室内で硫化ナトリウムが生成し、約2.1Vの放電が起きる。外部回路に充電電圧を印加すると、陽極室内の硫化ナトリウムはナトリウムイオンと電子と硫黄に分かれ、ナトリウムイオンは陰極室に戻り、外部回路を介して送られた電子とでナトリウムとなって陰極室に生成する。
【0039】
本発明の板状隔壁ではその陰極室が二次元方向に延びる箔状空間または網目状に二次元方向に延びる孔状空間で形成されている。このため陰極室の空間容積が極めて小さく、そこに収納されているナトリウムも極めて少量である。このためこの板状隔壁が損傷を受け破壊され陰極室内のナトリウムが陽極室の硫黄と反応してもナトリウムの量が極めて少量のため発生する熱量は少なく板状隔壁の破壊された部分及びその周囲の溶融硫黄の温度がわずかに高くなる程度に収まり、発火に至ることは無い。このためこの板状隔壁を使用するナトリウム硫黄電池の安全性が高い。
【0040】
ナトリウム硫黄電池では通常陰極室内の圧力が陽極室内の圧力より低くなっている。このため隔壁が破壊されると陽極室内の溶融硫黄が陰極室内に流れ込み陰極室内で破壊個所からナトリウムタンク方向に流れる。破壊された部分で溶融ナトリウムと溶融硫黄が反応して反応熱を放出しながら硫化ナトリウムに変わる。生成した硫化ナトリウムは陰極室と陽極室の圧力差に従い陰極室内でナトリウムタンク側に流れる。陰極室内のナトリウムタンク側には常に未反応の溶融ナトリウムが存在しているため生成した硫化ナトリウムと未反応の溶融ナトリウムが反応し、硫黄成分に対してナトリウム成分の多い硫化ナトリウムへと変化する。ナトリウム成分の多い硫化ナトリウムはその融点が高いために、最後に固体の硫化ナトリウムとなり陰極室内で凝固して陰極室を閉じる。陰極室が固体の硫化ナトリウムで閉じられるため、更なるナトリウムと硫黄との反応が阻止される。このように本発明の板状隔壁は破損が生じても破損個所に固体の硫化ナトリウムが生成して破壊個所を閉じる。このため発火等の大きな災害にならない。このように本発明の板状隔壁は安全性の高いナトリウム硫黄電池を提供することとなる。
【0041】
また、陰極室が薄い箔状空間あるいは細い孔状空間で構成されているため、これらの空間を形成する焼失模型や有機物粉も薄いあるいは細かいものでよい。すなわち、従来の容積の大きい焼失模型に代えて、容積の小さい焼失模型や有機物粉を使用するために得られる圧密体に小さな亀裂等が発生しにくく、板状隔壁の製造が容易となる。
【0042】
さらに板状隔壁の場合、陰極室の両側に位置する表側壁部と裏側壁部はともに隔壁として機能する。このため板状隔壁の表面及び裏面は共に隔壁表面として機能し、隔壁表面の増大に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】実施形態1に係るβアルミナ板状隔壁の全体斜視図である。
【
図2】実施形態2に係るβアルミナ板状隔壁の全体斜視図である。
【
図3】実施形態2に係るβアルミナ板状隔壁とそれに接合されたアルミナ製ニップル及びアルミナ管の写真図である。
【
図4】実施形態3に係るβアルミナ板状隔壁の厚さ方向の中央断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(1)実施形態1のβアルミナ板状隔壁
実施形態1のβアルミナ板状隔壁1の全体斜視図を
図1に示す。この板状隔壁1は横幅約20mm、高さ約63mm、厚さ約10mmの板状で、全体がβアルミナで構成されている。この板状隔壁1はその厚さ方向の中央部に陰極室10を持つ。
【0045】
この陰極室10は板状隔壁1の上面11に開口13として表出している。陰極室10は、
図1の点線でその形状を示すように、板状隔壁1の上面11から下面12の上方約5mmまで延び、横幅方向の中央を横幅方向に約9mm延びる長方形状の空間として形成されている。陰極室10の横方向断面は開口13と同様のものと思われる。この開口13は幅方向にジグザグ状に延びる隙間状である。
【0046】
また、陰極室10を構成する隙間状空間にはこの隙間状空間の両側を一体的に結合する無数の微細な柱状の連結部が存在すると思われる。これら無数の柱状連結部でこの隙間状空間の両側にある板状隔壁1の表面側部分と裏面側部分は一体的に連結された一体物として機械的強度向上に貢献しているものと考えている。
【0047】
次にこの板状隔壁1の製造方法を説明する。金型として断面で縦約25mm、横約80mmの長方形の断面空間からなるシリンダー状型空間を持つ筒形状の雌型とこの雌型のシリンダー状空間に入る断面長方形のピストン状雄型2個を用意した。
【0048】
雄型を雌型の下方より少し挿入し、雌型の内周面の上側部分と挿入された雄型上面で区画される浅い長方形の凹部空間を形成した。この凹部空間に約25gのβアルミナ造粒粉を入れ、造粒粉の厚さを均一にならした。この造粒粉の上に医療用のガーゼ4枚を重ねた縦横約74mmと12mmで厚さが0.4mm程度の帯状の消失模型を一端が雌型の型面に接触し他端が対向する型面から離れた状態でかつ凹部空間の中央に位置するように配置した。
【0049】
その後、この消失模型の上に約25gのβアルミナ造粒粉をいれ、厚さを均一にならした。その後、他の雄型を雌型に上方より押し込め、両雄型間で中央に消失模型を持つβアルミナ造粒粉を圧密化した。得られた圧密体をさらにシップ成形し、より緻密な圧密体とした。この圧密体を1600℃まで加熱焼成して本実施態様の板状隔壁1を製造した。
【0050】
得られた板状隔壁1の陰極室2に溶融ナトリウム浸入できるか否かを確かめる試みをした。この試みは、この板状隔壁1の開口13にガラス管の一端開口を押し当て、この状態を耐熱性エポキシ樹脂接着剤で固定し、ガラス管と板状隔壁を一体的に結合するとともに、板状隔壁1の陰極室2とガラス管とを気密的に接合した。このガラス管の他端を130℃に加熱した溶融ナトリウムに漬け、溶融ナトリウムの表面を減圧及びアルゴンガスによる加圧を数回繰り返し陰極室10内に溶融ナトリウムを浸入させる試みを実施した。
【0051】
この状態で室温に冷却し、板状隔壁1の裏側表面に電灯を当て、板状隔壁1の表側表面に透過する光を観測した。板状隔壁1の表側表面は電灯の透過光で長方形状に白く輝きその中央部分の陰極室10に該当する部分が陰極室10内に保持されているナトリウムで光が遮られたうす暗い影が見られた。これにより板状隔壁1の陰極室10内には溶融ナトリウムが入ることが確認された。
【0052】
すなわちこの陰極室10は開口13を介して外部とつながり、板状隔壁1の内部に保持されているのが確認された。また。この板状隔壁1の全ての外周面に亀裂等の欠陥は見られなかった。これにより、この板状隔壁1はナトリウム硫黄電池のβアルミナ隔壁として機能することが明らかになった。
【0053】
本実施形態の板状隔壁1は、医療用のガーゼ4枚を重ねたものを消失模型として使用しβアルミナの造粒粉中に配置し、金型内で加圧成形し、さらにシップ成形することでグリーンコンパクトとし、その後、通常通りに焼成して得られたものである。すなわち消失模型として医療用のガーゼ4枚を重ねたものを使用した以外は特別のことをしていない。それでも板状のβアルミナ焼結体の厚さ方向の中央部にスリット状で、亀裂の無い完璧と思われる陰極室10を形成したものである。
【0054】
(2)実施形態2のβアルミナ板状隔壁
実施形態2のβアルミナ板状隔壁2の全体斜視図を
図2に示す。この板状隔壁2は縦横約10cm、厚さ約0.7cmの板状で、全体がβアルミナで構成されている。この板状隔壁2はその厚さ方向の中央部に陰極室20を持つ。
【0055】
この陰極室20は、
図2の点線でその形状を示すように、板状隔壁2の厚さ方向の中央部で二次元方向に延びる縦横約7.5cmの正方形で厚さ約0.01mmの隙間状の空間からなる。この陰極室20はその上端で開口201として表出する開口部202を持つ。この開口部202もガーゼ4枚からなる焼失模型の一部として陰極室20と同時に形成されたもので、厚さ約0.01mmの隙間状の空間で構成されている。
【0056】
この陰極室20も実施形態1の板状隔壁1の陰極室10と同様に隙間状の薄い空間で構成され、この隙間状空間の両側を一体的に結合する無数の微細な柱状の連結部が存在すると思われる。これら無数の柱状連結部でこの隙間状空間の両側にある板状隔壁1の表面側部分と裏面側部分は一体的に連結された一体物として機械的強度向上に貢献しているものと考えている。
【0057】
この板状隔壁2は実施形態1の板状隔壁1と同じβアルミナ造粒粉と同じ焼失模型である医療用のガーゼ4枚を重ねたものを使用した。圧縮成形装置は市販のタイルを製造する500トンプレスと縦横訳10cmのタイルを作る金型を使用した。金型内に造粒粉の半分を入れ、その上に4枚のガーゼを重ね、さらにその上に残りの造粒粉を入れ加圧して、板状の圧密体とし、その後シップ成形した後、約1600に加熱して焼結したものである。このようにして
図2に示す板状隔壁2を製造した。
【0058】
この板状隔壁2の開口201を覆うように軸孔を持つアルミナ製のニップルを配置し、さらにこのニップルの軸孔にアルミナ管を勘合し、ガラス接合材を用いて一体的に接合した部品を作成した。この部品の写真を
図3に示す。なお、この部品を構成する板状隔壁2の陰極室20はその開口部202の隙間、ニップルの軸孔及びアルミナ管の軸孔と連通し、溶融ナトリウムが流通可能となっている。
【0059】
この部品を用いてナトリウム硫黄単電池を作成した。この部品の板状隔壁2の表面と裏面にそれぞれ電気絶縁体としてのガラス繊維布と集電体としての炭素繊維フェルトを積層した状態でステンレススチール製の硫黄容器内に収納し、アルミナ管の上部が硫黄容器の上端より突出した状態とした。この硫黄容器には347gの硫黄を入れ、減圧下で気密的にシールした。また、硫黄容器より突出しているアルミナ管の上端部をステンレススチール製のナトリウム容器の下端より気密的に挿入すると共に、ナトリウム容器に56gのナトリウムを入れ、減圧化で気密的にシールした。これにより本実施態様2の板状隔壁2を用いたナトリウム硫黄単電池を作成した。
【0060】
このナトリウム硫黄単電池を約300℃に保持した恒温槽内に入れ硫黄容器とナトリウム容器の間に約0.7ωの外部回路を形成し、放電試験を行いおよそ3.5A~6.7A の放電電流が得られた。また、硫黄容器とナトリウム容器の間に2.57Vの充電電圧を印加し充電を行った充電電流はおよそ1A~2Aであった。さらにこのナトリウム硫黄単電池を用い放電、充電のサイクル試験を実施した。1回の放電時間を20時間、充電時間を100時間とし連続して約1カ月間の放電充電のサイクル試験を実施した。この期間中に放電、充電時に電流の異常な低下等の問題は発生しなかった。これにより本実施態様2の板状隔壁2はナトリウム硫黄電池の隔壁として使用できることが明らかになった。
【0061】
(3)実施形態3のβアルミナ板状隔壁
実施形態3のβアルミナ板状隔壁3の厚さ方向の中央断面を
図4に示す。この板状隔壁3は縦横約40mm、厚さ約4.5mmの板状で、縦横約40mm、厚さ約2.0mmのβアルミナ製の表側壁部31と同じ形状の裏側壁部(図示せず)と、図中斜線で示すガラス接合材を溶解して形成した幅約7mm、厚さ約0.5mmの一部が欠けた正方形状の枠部35及び直径約7mm、厚さ約7mmの支持部36とからなる。これら枠部35及び支持部36は表側壁部31と裏側壁部の両対向面の周縁部間および量対向面の中心部に介在し、両者を一体的に接合している。
【0062】
この板状隔壁3は表側壁部31と裏側壁部の対向面及び枠部35の内周面で区画された1辺が約26mm、厚さ約0.5mmの正方形状の陰極室30を持つ。なお、この陰極室30の中心部に支持部36が位置している。また、この板状隔壁3は枠部35の両端対向面と表側壁部31と裏側壁部の対向面とで区画され、陰極室30とつながる開口部302を持つ。この開口部302は板状隔壁3の上側端面の中央部に開口302として開口している。
【0063】
本実施形態3の板状隔壁3の製造について説明する。この板状隔壁3の表側部31及び裏側部となる薄板上のβアルミナ焼結体は実施形態1の板状隔壁1の製造に使用したのと同じβアルミナ造粒粉を用い成形型で押圧し圧密体を形成した。この圧密体にシップ成形を施すことなく焼成炉で1600℃に加熱して焼結体とした。得られた2枚のβアルミナ焼結体の一方の面に
図4に示す枠形状及び円形状にガラス接合材を塗布した。この後、塗布したガラス接合材を当接させてこれら2枚のβアルミナ焼結体を重ね合わせ、焼結炉中に配置した。その後焼成炉を加熱してガラス接合材を溶解し、2枚のβアルミナ焼結体を一体的に張り合わせ本実施態様3の板状隔壁3を製造したものである。
【0064】
この板状隔壁3の陰極室30に実施態様1と同じようにして溶融ナトリウムを圧入した。陰極室30内の溶融ナトリウムの存在は実施形態1と同様にして確認した。
これにより本実施形態3の板状隔壁3もナトリウム硫黄電池の隔壁として使用できることが明らかになった。
【符号の説明】
【0065】
1、2,3・・・板状隔壁 10,20,30・・・陰極室
13,201,301・・・開口 202,302・・・開口部