(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】BNCT用リチウムターゲット及びBNCT用リチウムターゲットを用いた中性子発生方法
(51)【国際特許分類】
G21K 5/08 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
G21K5/08 N
(21)【出願番号】P 2023574030
(86)(22)【出願日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2023000301
(87)【国際公開番号】W WO2023136238
(87)【国際公開日】2023-07-20
【審査請求日】2024-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022003596
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516344904
【氏名又は名称】株式会社京都メディカルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100170025
【氏名又は名称】福島 一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 成人
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-142820(JP,A)
【文献】特開2013-054889(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素原子が六角形格子状に結合した単層グラフェンを複数積層させることで構成した積層グラフェンを、隣り合う単層グラフェンの間隔が上下方向に沿って設けられるように構成した異方性炭素基板と、
前記異方性炭素基板のうち、隣り合う単層グラフェンの間隔が存在する上面に設けられたリチウム金属膜と、
前記異方性炭素基板のうち、隣り合う単層グラフェンの間隔が存在する下面の端部に設けられた冷却用金属膜と、
冷却媒体が前記冷却用金属膜の下面に接触するように、前記冷却用金属膜の下方に設けられた冷却制御部と、
を備え、
陽子が、前記リチウム金属膜の上方から照射されることで、中性子を発生させる、
BNCT用リチウムターゲット。
【請求項2】
前記冷却用金属膜は、前記異方性炭素基板の下面の端部に設けられ、
前記冷却制御部は、冷却用流路に構成され、当該冷却用流路
に冷却冷媒を循環させることで、前記冷却用金属膜を冷却する、
請求項1に記載のBNCT用リチウムターゲット。
【請求項3】
前記異方性炭素基板と前記リチウム金属膜との間に設けられ、水素吸蔵金属、水素吸蔵金属の合金、熱伝導率の高い金属、又は、熱伝導率の高い金属の合金のいずれかの金属で構成される中間金属膜
を更に備える、
請求項1に記載のBNCT用リチウムターゲット。
【請求項4】
複数の炭素原子が六角形格子状に結合した単層グラフェンを複数積層させることで構成した積層グラフェンを、隣り合う単層グラフェンの間隔が上下方向に沿って設けられるように構成した異方性炭素基板と、
前記異方性炭素基板のうち、隣り合う単層グラフェンの間隔が存在する上面に設けられたリチウム金属膜と、
前記異方性炭素基板のうち、隣り合う単層グラフェンの間隔が存在する下面の端部に設けられた冷却用金属膜と、
冷却媒体が前記冷却用金属膜の下面に接触するように、前記冷却用金属膜の下方に設けられた冷却制御部と、
を備えるBNCT用リチウムターゲットを用いた中性子発生方法であって、
陽子を前記リチウム金属膜の上方から照射することで、中性子を発生させる発生制御工程と、
前記冷却制御部で前記冷却用金属膜を冷却する冷却制御工程と、
を備える
BNCT用リチウムターゲットを用いた中性子発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BNCT用リチウムターゲット及びBNCT用リチウムターゲットを用いた中性子発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日よく知られているように、加速器を用いたホウ素中性子捕獲療法(Boron Neutron Capture Therapy)(以下、BNCTと称する)に使用される中性子源には、9Be(p,n)9B反応、7Li(p,n)7Be反応、2H(2H,n)3He反応、3H(2H,n)4He反応などの利用が一般的には想定されている。
【0003】
この中でも、9Be(p,n)9B反応では、ターゲットであるベリリウム(Be)が固体金属であり、且つ、ベリリウムの融点も、1278℃と非常に高く安定であることから取り扱いやすく、よく利用されている。
【0004】
しかし、この9Be(p,n)9B反応が利用される場合、BNCTに必要な中性子量を発生させるためには、陽子の加速エネルギーを30MeVと高くする必要があり、それに伴い発生する中性子エネルギーも高くなる。このために、高い中性子エネルギーを、BNCTで要求される熱エネルギー領域まで減速する必要があり、大きな減速材を用意する必要がある。そのため、BNCTでは、低い中性子エネルギーを効率的に発生する他の核反応の利用が求められている。
【0005】
ここで、7Li(p,n)7Be反応では、陽子の加速エネルギーが、9Be(p,n)9B反応に比べて2.5MeVと低く設定されることから、9Be(p,n)9B反応での陽子の加速エネルギーに比べて1桁低く、発生する中性子のエネルギーもBeターゲットに比較して著しく低いことから、減速材も薄くて済むという利点がある。一方、2H(2H,n)3He反応や3H(2H,n)4He反応では、重水素ガスやトリチウムガスを吸蔵した金属ターゲットが必要となる。トリチウムは取り扱いが非常に難しい放射性物質であり、ターゲット製造に困難さが付きまとい、実用性が乏しいという課題がある。そのため、現在、BNCTでは、7Li(p,n)7Be反応の利用が注目されている。
【0006】
ところが、7Li(p,n)7Be反応に要する金属リチウム(Li)ターゲットを中性子発生用に使用するためには、いくつかの課題を克服しなければならない。先ず、第一に、金属リチウムは、空気中の酸素や水分と非常によく反応し易く、酸化リチウム又は水酸化リチウムに変わってしまい粉末に変わるため、金属リチウムの取り扱いには注意が必要である。第二に、金属リチウムの融点は179℃と大変低く、7Li(p,n)7Be反応を生じさせるため、陽子線(陽子ビーム)をリチウムに照射する際に発熱し、金属リチウムのターゲットを効率的に冷却する必要があるという課題がある。
【0007】
これらのリチウムターゲットの課題を解決するために、これまでにいくつかの方法が考案されている。例えば、非特許文献1(株式会社CICS,“管理番号24-105 再発がん治療のための新素材ターゲット技術を用いた加速器型中性子捕捉療法システムの開発”,[online],日本医療研究開発機構委託 医工連携イノベーション推進事業,[2021年12年27日検索],インターネット <URL:https://www.med-device.jp/development/org/24-105.html>)には、国立がん研究センターの中央病院で使用されたリチウムターゲットが開示されている。このリチウムターゲットは、熱伝導度の高いコーン形状の金属材料の表面にリチウムを薄く蒸着させることで、コーン型リチウムターゲットとして構成している。このコーン型リチウムターゲットでは、陽子が当たる面積を大きくすることで、陽子の照射により発生する熱によるリチウムの温度上昇を防ぐことが出来るとしている。
【0008】
又、非特許文献2(B Bayanov et al, “Neutron producing target for accelerator based neutron capture therapy”,Journal of Physics: Conference Series 41 (2006) 460-465)には、超高純度の銅の基板の上に水素吸蔵金属のパラジウムを蒸着し、その蒸着したパラジウムの上にリチウムを蒸着することで、作成したリチウムターゲットが開示されている。このリチウムターゲットでは、裏面に冷却水を接触させることで、リチウムの温度上昇を防止している。更に、加速器から打ち込まれた陽子、つまり、水素原子をパラジウムで受けることで、基板表面の金属の結晶格子の破損(以下、ブリスタリングと呼ばれる)による、基板からのリチウムの剥離を防止している。
【0009】
又、特開2021-243640号公報(特許文献1)には、陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットがリチウム材料及び非金属材料を複合してなる複合型ターゲットが開示されている。又、特開2013-054889号公報(特許文献2)には、陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、ベリリウム材料及びリチウム材料のいずれか一つの材料と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体である複合型ターゲットが開示されている。又、特開2013-206726号公報(特許文献3)には、陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲット部分が、ベリリウム材料、リチウム材料及び炭素系材料を複合して成り、該ターゲット部分の表面に真空シールを施すと共に、該ターゲット部分の少なくとも外側または内側のどちらかに冷媒流路を有する冷却機構を設ける複合型ターゲットが開示されている。この炭素系材料は、少なくとも等方性黒鉛材料及び結晶配向性炭素材料のいずれか一つの材料を含有する炭素系材料である。このような構成により、低エネルギーの陽子を用いて、BNCTで患者や医師などに有害で、さらには設備を放射化してしまう速中性子が低減された低エネルギーの中性子を発生可能となるとしている。又、ターゲットで発生する熱を容易に除熱することが可能となり、この効率的な除熱によって従来固体ターゲットとしての利用が困難であった低融点のリチウム(融点:約180℃)でも固体ターゲットとしての利用が可能となること、ターゲット材料の水素脆化を防止できること、リチウム材料と非金属材料の接着界面での剥離を防止できること、等の効果が得られるとしている。
【0010】
又、国際公開第2017/183693号(特許文献4)には、少なくとも、ベリリウム材料又はリチウム材料から構成される金属膜と、グラファイト膜から構成される基板と、を有し、加速された陽子を金属膜及び基板の面に衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが開示されている。このターゲットでは、グラファイト膜の膜面方向の熱伝導度は、1500W/(m・K)以上であり、膜面方向の熱伝導度が膜厚方向の熱伝導度の100倍以上であり、グラファイト膜の厚さは、1μm以上、100μm以下である。これにより、陽子ビームの照射に対し十分な耐久性、耐熱性を有し、放射化の程度を小さくし得るという効果を奏し、更には、従来のターゲットに比べて非常に薄くする事が可能であるので、より低い加速エネルギーの陽子ビームによって、ガン治療などの医療用途として最適な低エネルギーの熱・熱外中性を発生させることが出来るとしている。
【0011】
又、特開2002-148400号公報(特許文献5)には、ターゲットシステムの1次系システム(液体金属ターゲットシステム)及び2次系システム(液体金属ターゲットの冷却システム)からなるターゲットキャプセルが開示されている。このターゲットキャプセルの2次系システムは、ミスト(水)とガスによる冷却方式を採用することが出来るとしている。又、特開2013-206726号公報(特許文献6)には、陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲット部分が、ベリリウム材料、リチウム材料、及び炭素系材料を複合して成り、該ターゲット部分の表面に真空シールを施すと共に、該ターゲット部分の少なくとも外側または内側のどちらかに冷媒流路を有する冷却機構を設ける複合型ターゲットが開示されている。これにより、従来タイプのターゲットよりも熱安定性が高くターゲット材料の放射化を低減することが可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2021-243640号公報
【文献】特開2013-054889号公報
【文献】特開2013-206726号公報
【文献】国際公開第2017/183693号
【文献】特開2002-148400号公報
【文献】特開2013-206726号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】株式会社CICS,“管理番号24-105 再発がん治療のための新素材ターゲット技術を用いた加速器型中性子捕捉療法システムの開発”,[online],日本医療研究開発機構委託 医工連携イノベーション推進事業,[2021年12年27日検索],インターネット <URL:https://www.med-device.jp/development/org/24-105.html>
【文献】B Bayanov et al, “Neutron producing target for accelerator based neutron capture therapy”,Journal of Physics: Conference Series 41 (2006) 460-465
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、BNCTは、一般的な病院や病棟に設置可能となるように、7Li(p,n)7Be反応の利用によって、低エネルギー化、小型化がより一層進められており、優れた新規リチウムターゲットの探索や開発が盛んに行われている。
【0015】
非特許文献1に記載の技術では、製作の難しいコーン形状の金属上にリチウムを蒸着する必要があり、特殊性が高く、汎用性に乏しいという課題がある。非特許文献2に記載の技術では、水素吸蔵金属のパラジウムが陽子を吸蔵することで、ブリスタリングを防止しているが、パラジウムが陽子を吸蔵しきれなかった場合に、ブリスタリングを確実に防止することが出来ないという課題がある。
【0016】
又、特許文献1-3に記載の技術では、リチウム材料に加えて、非金属材料としての炭素系材料を採用し、炭素系材料の結晶配向性炭素及び等方性黒鉛材料を組み合わせるようにしている。特許文献4に記載の技術では、炭素系材料としてのグラファイト膜の熱伝導度を活用している。しかしながら、これらの技術では、炭素系材料の特性を十分に活用しきれていないという課題がある。又、特許文献5に記載の技術では、ターゲットシステムの1次系システム及び2次系システムを想定しており、BNCTでのターゲットを冷却することが出来るかどうか不明である。特許文献6に記載の技術では、ターゲット部分の少なくとも外側または内側のどちらかに冷媒流路を有する冷却機構を設けるものの、この冷却機構は従来と同様であり、十分な冷却を期待出来ないという課題がある。
【0017】
そこで、本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、陽子の照射により発生する熱の除去とブリスタリングの防止を飛躍的に向上させることが可能なBNCT用リチウムターゲット及びBNCT用リチウムターゲットを用いた中性子発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係るBNCT用リチウムターゲットは、異方性炭素基板と、リチウム金属膜と、冷却用金属膜と、冷却用流路と、を備える。異方性炭素基板は、複数の炭素原子が六角形格子状に結合した単層グラフェンを複数積層させることで構成した積層グラフェンを、隣り合う単層グラフェンの間隔が上下方向に沿って設けられるように構成している。リチウム金属膜は、前記異方性炭素基板のうち、隣り合う単層グラフェンの間隔が存在する上面に設けられる。冷却用金属膜は、前記異方性炭素基板のうち、隣り合う単層グラフェンの間隔が存在する下面の端部に設けられる。冷却制御部は、冷却媒体が前記冷却用金属膜の下面に接触するように、前記冷却用金属膜の下方に設けられる。BNCT用リチウムターゲットは、陽子が、前記リチウム金属膜の上方から照射されることで、中性子を発生させる。
【0019】
本発明に係る及びBNCT用リチウムターゲットを用いた中性子発生方法は、上述のBNCT用リチウムターゲットを用いて、陽子を前記リチウム金属膜の上方から照射することで、中性子を発生させる発生制御工程と、前記冷却制御部で前記冷却用金属膜を冷却する冷却制御工程と、を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、陽子の照射により発生する熱の除去とブリスタリングの防止を飛躍的に向上させることが可能となる。即ち、異方性炭素基板のグラフェンの熱伝導率の良さにより、陽子の照射により発生した熱が異方性炭素基板のグラフェンに沿って外部に迅速に放出される。そして、加速器よりターゲットのリチウムに打ち込まれた陽子は、リチウムが設けられた基板中で停止する。ここで、大量の水素原子が基板内に発生するが、基板が銅の場合、発生した水素原子が銅の金属格子を破壊して、ブリスタリングが生じる。一方、基板が本発明の異方性炭素基板の場合、打ち込まれた陽子は水素原子に変わるが、異方性炭素基板の単層グラフェンの間隔(層間)をすり抜けて、異方性炭素基板の外へ排出されるため、ブリスタリングが発生しない。このように、異方性炭素基板の特性を活用することで、熱の除去とブリスタリングの防止との両方を兼ね備えることが出来るのである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るBNCT用リチウムターゲットの一例を示す概略断面図(
図1A)と、平面視斜視図と底面視斜視図(
図1B)と、である。
【
図2】本発明の実施形態に係るBNCT用リチウムターゲットにおける陽子の照射時の熱の伝わり方の一例を示す概略断面図(
図2A)と、中性子と陽子の通過の一例を示す概略断面図(
図2B)と、である。
【
図3】本発明の実施形態に係るBNCT用リチウムターゲットに中間金属膜を設けた場合の一例を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るBNCT用リチウムターゲットに冷却用噴霧装置を設けた場合の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るBNCT用リチウムターゲットの参考例と実施例の一例を示す平面写真(
図5A)と、斜視写真(
図5B)と、である。
【
図6】本発明の実施形態に係るBNCT用リチウムターゲットの異方性炭素基板の熱伝導率を測定する場合の一例を示す概略断面図である。
【
図7】異方性炭素基板とヒートシンクの間の温度差のグラフである。
【
図8】本発明の実施形態に係るBNCT用リチウムターゲットの異方性炭素基板の熱伝導率を測定する場合の一例を示す概略断面図である。
【
図9】異方性炭素基板の間の温度差のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0023】
本発明に係るBNCT用リチウムターゲット1は、
図1A、
図1Bに示すように、異方性炭素基板10と、リチウム金属膜11と、冷却用金属膜12と、冷却制御部13と、を備える。
【0024】
異方性炭素基板10は、複数の炭素原子Cが六角形格子状に結合した単層グラフェン10aを複数積層させることで構成した積層グラフェン10bを、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gが上下方向に沿って設けられるように構成している。つまり、従来であれば、積層グラフェン10bの最上の単層グラフェン10aを上面にすることで、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gが左右方向又は奥行方向に沿って設けられるが、本発明では、積層グラフェン10bを垂直方向に立てることで、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gが上下方向に沿って設けられ、この間隔gを上下方向に走る微細な貫通孔として設置させるのである。尚、ここで、異方性炭素基板10は、左右方向の寸法及び奥行方向の寸法が同じであり、
図1Bに示すように、例えば、円盤状に構成されている。
【0025】
又、リチウム金属膜11は、異方性炭素基板10のうち、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gが存在する上面10cに設けられる。つまり、異方性炭素基板10の上面10cの間隔gを覆うように、リチウム金属膜11が設けられている。
【0026】
又、冷却用金属膜12は、異方性炭素基板10のうち、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gが存在する下面10d(底面)の端部10d1に設けられる。ここで、冷却用金属膜12は、
図1Bに示すように、例えば、ドーナツ状(円環状)に設けられている。
【0027】
又、冷却制御部13は、冷却媒体Rが冷却用金属膜12の下面に接触するように、冷却用金属膜12の下方に設けられる。ここで、冷却制御部13は、例えば、冷却用流路に構成されており、冷却用流路に冷却冷媒Rを循環させることで、冷却用金属膜12を冷却する。この冷却用流路は、
図1Bに示すように、例えば、冷却用金属膜12の形状に対応して、円筒状に構成されており、一部に冷却媒体Rが流入される入口が設けられ、他部に冷却媒体Rが流出される出口が設けられている。
【0028】
さらに、冷却制御部13は、冷却用流路のように、冷却媒体Rを、積層グラフェンの異方性炭素基板10の下面10dに沿って流す冷却手段の他に、除熱効果を最大限に上げるため、冷却用噴霧装置として構成して、冷却冷媒Rを霧状にして、異方性炭素基板10の下面10dから吹き付ける冷却手段にしてもよい。これにより、冷却媒体Rが蒸発する際に奪う気化熱を利用することが出来る。
【0029】
又、BNCT用リチウムターゲット1には、異方性炭素基板10と、リチウム金属膜11と、冷却用金属膜12と、冷却用流路13と、を保持するためのホルダー14が設けられる。ホルダー14は、異方性炭素基板10と、リチウム金属膜11と、冷却用金属膜12と、冷却用流路13と、を側面から把持している。
【0030】
そして、BNCT用リチウムターゲット1は、
図2Aに示すように、陽子p(陽子線)が、リチウム金属膜11の上方から照射されることで、中性子nを発生させる。
【0031】
これにより、陽子pの照射により発生する熱hが除去され、打ち込まれた陽子pから変わった水素原子(水素ガス)が溜まることなく、外部に排出され、ブリスタリングの防止を飛躍的に向上させることが可能となる。即ち、本発明では、異方性炭素基板10を、積層グラフェン10bにおいて、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gが上下方向に沿って設けられるように構成している。この積層グラフェン10bの配置が従来の配置と全く異なる。
【0032】
ここで、単層グラフェン10aの熱伝導率は、3000W/(m・K)であり、ダイアモンドの熱伝導率を凌いでいる。この単層グラフェン10aの熱伝導率が発揮される部分は、通常、単層グラフェン10aの面方向に沿った特性であり、言い換えると、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gに沿った方向の特性である。
【0033】
又、単層グラフェン10aを複数積層させた積層グラフェン10bは、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gに沿った方向(単層グラフェン10aの面方向と直角な方向)に、ガスを透過するガス透過性を有している。
【0034】
更に、単層グラフェン10aの破壊強度は、130GPaであり、強靭な物質である。ここで、単層グラフェン10aの破壊強度は、通常、単層グラフェン10aの面方向に対する特性である。
【0035】
そこで、本発明では、積層グラフェン10bのうち、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gを、陽子pが打ち込まれる上下方向に沿って設けられるように、炭素基板10に異方性を持たせている。
【0036】
これにより、先ず、加速器から陽子pがリチウム金属膜11に照射されることで、リチウム金属膜11に熱hが発生したとしても、リチウム金属膜11の下方には、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gが上下方向に沿って配置されていることから、発生した熱hが、単層グラフェン10aの面方向に沿って瞬時に下方に拡散される。つまり、異方性炭素基板10の特殊な異方性により、リチウム金属膜11で発生する熱hを効率よく直ちに下方に逃がすことが出来るのである。
【0037】
ここで、冷却用金属膜12は、異方性炭素基板10の下面10dの端部10d1に設けられ、冷却冷媒Rは、冷却用流路13により、冷却用金属膜12の下面に接触している。このことから、発生した熱hは、冷却冷媒Rによって瞬時に冷却される。つまり、熱hの蓄積を防止することが出来る。これにより、リチウム金属膜11はもちろん、異方性炭素基板10に蓄積する熱hを効率的に除去することが出来る。
【0038】
特に、異方性炭素基板10の下面10dと冷却制御部13とを直接接触させる場合、異方性炭素基板10の下面10dは、異方性炭素基板10の製造工程等により、単層グラフェン10aの端部に起因する非常に細かい凹凸が生じる。この凹凸は、異方性炭素基板10の下面10dと冷却制御部13との間の熱伝導性を悪化させ、異方性炭素基板10への熱hの蓄積の原因になる。そこで、本発明では、異方性炭素基板10の下面10dと冷却制御部13との間に、冷却用金属膜12を設けることで、冷却用金属膜12が異方性炭素基板10の下面10dの凹凸に入り込んで接触し、熱伝導性の低下を防止し、熱hが冷却用金属膜12へ伝達されるのを促進する。又、冷却制御部13を異方性炭素基板10の下面10dに直接接触させるよりも、冷却制御部13を冷却用金属膜12に直接接触させる方が、異方性炭素基板10に発生した熱hを冷却制御部13に伝え易くなり、熱hの除去を効果的に行える。
【0039】
尚、冷却用金属膜12を異方性炭素基板10の下面10dの端部10d1に設けることで、中性子nが通過する異方性炭素基板10の中央領域を阻害しない形態で、異方性炭素基板10の下面10dの端部10d1から冷却冷媒Rを接触させ、異方性炭素基板10を冷却することが出来る。
【0040】
又、本発明に係る及びBNCT用リチウムターゲットを用いた中性子発生方法は、上述のBNCT用リチウムターゲット1を用いて、陽子pをリチウム金属膜11の上方から照射することで、中性子nを発生させる発生制御工程と、冷却制御部13で冷却用金属膜12を冷却する冷却制御工程と、を備える。冷却制御部13が冷却用流路に構成される場合、冷却制御工程は、冷却媒体Rを冷却用流路に流して循環することで、冷却用金属膜12を冷却する。又、冷却制御部13が冷却用噴霧装置に構成される場合、冷却制御工程は、冷却媒体Rを冷却用金属膜12に向けて霧状に噴霧することで、冷却用金属膜12を冷却する。このように構成しても、陽子pの照射により発生する熱hの除去とブリスタリングの防止を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0041】
ここで、リチウム金属膜11において、7Li(p,n)7Be反応が適切に行われずに、陽子pが、異方性炭素基板10に打ち込まれた場合、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gの配置により、打ち込まれた陽子pが、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gに沿って下方に抜けていくため、陽子p(水素原子)が異方性炭素基板10に残留することが無い。つまり、陽子pが基板に残留することで発生するブリスタリング(水素脆化)を効果的に防止することが出来るのである。
【0042】
更に、単層グラフェン10aの破壊強度の高さにより、異方性炭素基板10自体の耐久性を高める。そのため、異方性炭素基板10を長期間利用することが出来るのである。
【0043】
このように、本発明に係るBNCT用リチウムターゲット1は、熱hの除去とブリスタリングの防止とを飛躍的に向上させることが可能であり、耐久性にも優れていることから、従来のリチウムターゲットよりも、BNCT用ターゲット(中性子発生ターゲット)として長期間使用することが可能となる。又、BNCT用ターゲットの構造自体が単純であるため、BNCT用ターゲットを、よりコンパクトに構成することが可能となり、BNCT用ターゲットと、中性子nを当てる患者との距離を短くすることが出来る。これにより、BNCT全体の小型化を実現することが出来るのである。
【0044】
ここで、異方性炭素基板10の寸法に特に限定は無いが、例えば、上面10cの左右方向の寸法は、1cm~20cmの範囲内であり、上面10cの奥行方向の寸法は、1cm~20cmの範囲内であり、上下方向の厚みは、1mm~20mmの範囲内であると好ましい。又、異方性炭素基板10の寸法比に特に限定は無いが、例えば、異方性炭素基板10の上下方向の厚みに対する異方性炭素基板10の上面10cの左右方向の寸法の寸法比は、1~200の範囲内であると好ましい。これにより、陽子pに対する異方性炭素基板10の照射面積を増やすとともに、陽子pの照射による発生する熱を迅速に下方に拡散させることが出来る。更に、異方性炭素基板10の上下方向の厚みに対する異方性炭素基板10の上面10cの奥行方向の寸法の寸法比は、1~200の範囲内であると好ましい。そして、異方性炭素基板10の上面10cの左右方向の寸法に対する異方性炭素基板10の上面10cの奥行方向の寸法の寸法比は、0.5~1.5の範囲内であると好ましい。
【0045】
又、異方性炭素基板10の形状に特に限定は無いが、例えば、円盤状の他に、直方体状にしても良いし、多角体状にしても構わない。又、異方性炭素基板10の上面10cは、略対象形状であると好ましく、円形や正方形、六角形等を挙げることが出来る。
【0046】
又、異方性炭素基板10の製造方法に特に限定は無いが、例えば、化学気相堆積法(Chemical Vapor Deposition、CVD)を挙げることが出来る。
【0047】
又、リチウム金属膜11の寸法に特に限定は無いが、例えば、上面の左右方向の寸法は、異方性炭素基板10の上面10cの左右方向の寸法に対応し(一致し)、上面の奥行方向の寸法は、異方性炭素基板10の上面10cの奥行方向の寸法に対応すると好ましい。又、リチウム金属膜11の上下方向の厚みは、1μm~500μmの範囲内であると好ましく、50μm~400μmの範囲内であると更に好ましい。これにより、陽子pの照射による中性子nの発生を確実にすることが出来る。
【0048】
又、リチウム金属膜11を構成するリチウムの種類に特に限定は無いが、例えば、リチウムやリチウム合金等を挙げることが出来る。
【0049】
又、リチウム金属膜11の配置方法に特に限定は無いが、例えば、蒸着法を挙げることが出来る。
【0050】
又、冷却用金属膜12の形状に特に限定は無いが、例えば、異方性炭素基板10の下面10dの形状に応じて、ドーナツ状の他に、Cの字状にしたり、ロの字状にしたり、コの字状にしたりしても構わない。
【0051】
又、冷却用金属膜12の上下方向の厚みに特に限定は無いが、例えば、1μm~100μmの範囲内であると好ましく、10μm~80μmの範囲内であると更に好ましい。これにより、異方性炭素基板10に発生した熱hを冷却用金属膜12を介して冷却制御部13に伝えて、異方性炭素基板10の冷却を促進することが出来る。特に、冷却用金属膜12は、異方性炭素基板10の下面10dの凹凸に入り込ませるだけで良いので、冷却用金属膜12の上下方向の厚みは薄くても問題は無い。
【0052】
又、冷却用金属膜12を構成する金属の種類に特に限定は無いが、例えば、熱伝導率が高い銅や銅合金等を挙げることが出来る。
【0053】
又、冷却用金属膜12の配置方法に特に限定は無いが、例えば、蒸着法を挙げることが出来る。これにより、冷却用金属膜12を異方性炭素基板10の下面10dの凹凸に入り込ませて設けることが出来る。
【0054】
又、冷却制御部13の冷却用流路の形状に特に限定は無いが、例えば、冷却用金属膜12の下面の形状に対応した円筒状でも良いし、冷却用金属膜12の下面の一部に対応させても良い。
【0055】
又、冷却制御部13の冷却用流路に流れる冷却媒体Rの種類に特に限定は無いが、例えば、冷却水等の液体やヘリウムガス等の熱伝導率の高い気体を挙げることが出来る。ここで、冷却制御部13は、冷却用噴霧装置の場合では、例えば、冷却媒体Rとして、主に、冷却水等の液体を採用することが出来る。
【0056】
又、冷却制御部13の冷却用流路の入口と出口の構成に特に限定は無いが、例えば、
図1A、
図1Bに示すように、入口と出口が近接しても良いし、離れていても構わない。
【0057】
又、ホルダー14の構成に特に限定は無いが、例えば、異方性炭素基板10と、リチウム金属膜11と、冷却用金属膜12と、冷却制御部13と、を側面から把持する枠体を挙げることが出来る。冷却制御部13は、枠体の内側面の一部に設けられる。ホルダー14を枠体として構成することで、例えば、当該ホルダー14は、BNCTのターゲット設置部に着脱可能とするカートリッジとして取り扱われる。これにより、ホルダー14の全体を交換可能なカートリッジとして構成し、異方性炭素基板10を含むカートリッジが放射能汚染された場合に、古いカートリッジから新しいカートリッジに交換することで、放射能汚染の無い状態でBNCTを継続して使用することが出来る。
【0058】
又、ホルダー14を構成する素材に特に限定は無いが、例えば、熱伝導率が高い金属や炭素素材等を挙げることが出来る。これにより、異方性炭素基板10の外側面に接触するホルダー14から異方性炭素基板10の熱hを外部に拡散させることが出来る。更に、異方性炭素基板10の外側面に金属膜を設け、この金属膜に金属製のホルダー14を接触させるように構成することで、異方性炭素基板10の熱hの拡散を促進することが出来る。
【0059】
ここで、上述では、異方性炭素基板10の上面10cの直上にリチウム金属膜11を設けるように構成したが、
図3に示すように、異方性炭素基板10とリチウム金属膜11との間に中間金属膜15を設けても構わない。
【0060】
ここで、中間金属膜15を構成する金属に特に限定は無いが、例えば、水素吸蔵金属(例えば、パラジウム)又は水素吸蔵金属の合金を挙げることが出来る。これにより、陽子pが中間金属膜15に補足され易くすることで、異方性炭素基板10とリチウム金属膜11との剥離を防止することが出来る。
【0061】
又、中間金属膜15を構成する金属は、熱伝導率の高い金属(例えば、銅)又は熱伝導率の高い金属の合金を挙げることが出来る。これにより、陽子pの照射によりリチウム金属膜11に熱hが発生したとしても、中間金属膜15を経由して異方性炭素基板10に伝わり、下方に拡散されるため、熱hを効率よく除去することが可能となる。
【0062】
ここで、中間金属膜15の上下方向の厚みに特に限定は無いが、例えば、1μm~100μmの範囲内であると好ましく、10μm~50μmの範囲内であると更に好ましい。これにより、リチウム金属膜11に照射した陽子pによる中性子nの発生を阻害することなく、陽子pの捕捉や熱hの拡散を可能とする。
【0063】
又、中間金属膜15の配置方法に特に限定は無いが、例えば、蒸着法を挙げることが出来る。更に、中間金属膜15は、水素吸蔵金属又は水素吸蔵金属の合金の第一の金属膜と、熱伝導率の高い金属又は熱伝導率の高い金属の合金の第二の金属膜との積層で構成され、第一の金属膜をリチウム金属膜11に接触させ、第二の金属膜を異方性炭素基板10の上面10cに接触させるよう構成しても良い。これにより、中間金属膜15に、陽子pの捕捉と、熱hの拡散との両方の機能を付与することが出来る。その他に、中間金属膜15を構成する金属に、水素吸蔵金属又は水素吸蔵金属の合金と、熱伝導率の高い金属又は熱伝導率の高い金属の合金とを混合した混合物を採用しても構わない。
【0064】
ここで、上述では、冷却制御部13として冷却用流路を構成したが、
図4に示すように、冷却用噴霧装置を構成しても良い。
図4では、冷却用金属膜12は、異方性炭素基板10のうち、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gが存在する下面10d(底面)の全面に設けられ、冷却用噴霧装置13は、冷却用金属膜12の下方に設けられ、冷却媒体Rを冷却用金属膜12に向けて霧状に噴霧している。このように冷却媒体Rをミストとして取り扱って、ミストの気化熱を利用して、異方性炭素基板10を顕著に冷却することが可能となる。
【0065】
さて、本発明に係る実施例について説明する。先ず、
図5A、
図5Bに示すように、化学気相堆積法によって、単層グラフェンを複数積層させることで構成した積層グラフェンを、隣り合う単層グラフェンの間隔が上下方向に沿って設けられるようにして、異方性炭素基板10を用意した。この異方性炭素基板10の上面10cの横寸法は10cmであり、異方性炭素基板10の上下方向の厚みは20mmであった。異方性炭素基板10の上下方向の厚みに対する異方性炭素基板10の上面10cの横寸法の寸法比は、5であった。これを参考例とした。蒸着法により、この異方性炭素基板10のうち、隣り合う単層グラフェンの間隔が存在する上面に、厚さが200μmのリチウム金属膜11を形成した。これを実施例とした。所定の実験施設において、この実施例のリチウム金属膜11の上方から陽子pを照射させたところ、陽子pの照射により発生する熱が、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gに沿って下方に拡散し、熱の除去が円滑に進んだ。又、照射した陽子pが、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gに沿って下方に抜けていき、ブリスタリングが発生しなかった。更に、異方性炭素基板10の下方に冷却用金属膜12を設け、この冷却用金属膜12に冷却媒体Rを接触させる冷却用流路13を設けることで、更に、効率の良い熱の除去が可能である。
【0066】
次に、この実施例の異方性炭素基板10の熱伝導率を測定した。先ず、
図6に示すように、熱源としてセラミックヒータ60を用意し、熱伝導性グリスGを介して、セラミックヒータ60の一端面に第一の温度測定センサ61を設置し、次に、熱伝導性グリスGを介して、セラミックヒータ60の他端面に、隣り合う単層グラフェン10aの間隔gが存在する異方性炭素基板10の上面10cを設置し、そして、熱伝導性グリスGを介して、異方性炭素基板10の下面10dに、放熱を目的とするヒートシンク62の上面を設置し、最後に、熱伝導性グリスGを介して、ヒートシンク62の下面に第二の温度測定センサ63を設置した。第一の温度測定センサ61の測定温度T1と第二の温度測定センサ63の測定温度T2との温度差dT(=T1-T2)が小さい程、その間に存在する異方性炭素基板10とヒートシンク62の熱伝導率が優れていることを意味する。
【0067】
図7には、異方性炭素基板10とヒートシンク62の間の温度差のグラフを示す。
図7には、セラミックヒータ60の電力状況も合わせて示した。その結果、
図7に示すように、温度差dTは16.7度であり、温度差dTが小さく、異方性炭素基板10とヒートシンク62の熱伝導率が優れていることが分かった。尚、異方性炭素基板10に代えて、同じサイズの鉄材で測定したところ、温度差dTは30度以上であった。
【0068】
次に、ヒートシンク62を除去して、異方性炭素基板10の単体の熱伝導率を測定した。先ず、
図8に示すように、熱伝導性グリスGを介して、セラミックヒータ60の一端面に第一の温度測定センサ61を設置し、次に、熱伝導性グリスGを介して、セラミックヒータ60の他端面に異方性炭素基板10の上面10cを設置し、熱伝導性グリスGを介して、異方性炭素基板10の下面10dに第二の温度測定センサ63を設置した。上述と同様に、第一の温度測定センサ61の測定温度T1と第二の温度測定センサ63の測定温度T2との温度差dT(=T1-T2)を算出し、異方性炭素基板10の熱伝導率を確認した。
【0069】
図9には、異方性炭素基板10の間の温度差のグラフを示す。
図9には、セラミックヒータ60の電力状況も合わせて示した。その結果、
図9に示すように、温度差dTは13.2度であり、温度差dTが更に小さくなり、異方性炭素基板10の熱伝導率が優れていることが分かった。尚、異方性炭素基板10に代えて、上述の鉄材で測定したところ、温度差dTは30度以上であった。これにより、異方性炭素基板10の熱伝導率は、金属の熱伝導率と比較して優れていることが分かった。これらの結果により、本発明のBNCT用リチウムターゲット1は、陽子pの照射により発生する熱hの除去とブリスタリングの防止を飛躍的に向上させることが可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明に係るBNCT用リチウムターゲット及びBNCT用リチウムターゲットを用いた中性子発生方法は、BNCTの低エネルギー化や小型化に有用であり、陽子の照射により発生する熱の除去とブリスタリングの防止を飛躍的に向上させることが可能なBNCT用リチウムターゲット及びBNCT用リチウムターゲットを用いた中性子発生方法として有効である。
【符号の説明】
【0071】
1 BNCT用リチウムターゲット
10 異方性炭素基板
11 リチウム金属膜
12 冷却用金属膜
13 冷却制御部
14 ホルダー