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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】覆工コンクリートの打設方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
E21D11/10 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021150218
(22)【出願日】2021-09-15
(65)【公開番号】P2023042845
(43)【公開日】2023-03-28
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【弁理士】
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 奨士
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-257391(JP,A)
【文献】特開平10-077796(JP,A)
【文献】特開2012-062667(JP,A)
【文献】特開昭60-239208(JP,A)
【文献】特開平11-217931(JP,A)
【文献】特開2008-106242(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108316946(CN,A)
【文献】特開平05-010095(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108386202(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設方法であって、
トンネルの延伸方向に延びてトンネルの横断方向に湾曲した内型枠および当該内型枠の妻側においてトンネル横断方向外側にはみ出すように設置されたフランジを備えたセントルを吹付けコンクリートが打設された位置に設置し、
前記フランジに沿った前記内型枠と前記吹付けコンクリートとの間に、空気の入っていない長尺状のエアバルクを内型枠側に1層設置した後に、所定の厚みを有する長尺板状部材である押出発泡ポリスチレンフォームを前記内型枠と前記吹付けコンクリートとの隙間に応じて前記エアバルクの上に少なくとも1層設置し、その後、前記エアバルクを膨張させて妻側の前記内型枠と前記吹付けコンクリートとの間を閉塞し、
前記内型枠と前記吹付けコンクリートとで形成された空間に覆工コンクリートを打設する、
ことを特徴とする覆工コンクリートの打設方法。
【請求項2】
前記押出発泡ポリスチレンフォームの片面または両面には、トンネルの延伸方向に沿った切り欠きが所定の間隔で形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の覆工コンクリートの打設方法。
【請求項3】
前記押出発泡ポリスチレンフォームには、硬化した覆工コンクリートとの剥離性を向上させる剥離処理が施されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の覆工コンクリートの打設方法。
【請求項4】
前記剥離処理は、
表面が剥離剤面となった粘着テープで前記押出発泡ポリスチレンフォームの短手方向に沿って全体を巻く処理、
または前記押出発泡ポリスチレンフォームの全体に剥離剤を塗布する処理である、
ことを特徴とする請求項3記載の覆工コンクリートの打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覆工コンクリートの打設方法に関し、特に山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工において、岩盤にダイナマイトを仕掛けて爆破することでトンネルを掘削する発破方式が用いられる。この工法は、掘削部分にコンクリートを吹き付けて硬化させてロックボルトを岩盤に設置し、地山自体の保持力を利用してトンネルを保持する工法である。ロックボルトの設置後は、セントルと呼ばれる半円筒形の型枠を嵌め込み、吹付けを行ったコンクリートとセントルとの間に覆工コンクリートを打設(充填)して仕上げが行われる。
【0003】
ここで、セントルと吹付けコンクリートとの間詰(覆工コンクリートの打設)においてセントルの妻側からコンクリートが流出することを防止するために、エアバルクが使用されている。
【0004】
すなわち、トンネル延伸方向の断面図である図11および図11のZ-Z線に沿った断面図である図12に示すように、セントルCは、ロックボルトBが貫通して設置された吹付けコンクリート12と対向配置される内型枠Caと、内型枠Caの妻側において当該内型枠Caのトンネル横断方向外側にはみ出すように設置されたフランジCbを備えている。そして、フランジCb側の内型枠Caの上に空気を充填しない状態のエアバルクABを設置し、当該エアバルクABに空気を充填して膨張させることで吹付けコンクリート12と密着させておいて、内型枠Caと吹付けコンクリート12との空間13gに覆工コンクリートを打設している。
【0005】
また、内型枠Caの妻側と吹付けコンクリート12との間隔が大きくなってしまう場合には、図示するように、エアバルクABを複数重ねて使用することで、両者の間を塞いでいる。
【0006】
なお、図11および図12において、符号Gは地山、符号Sは鋼製支保工、符号11は鋼製支保工Sを保持するための仮吹付けコンクリートである。
【0007】
エアバルクを用いたトンネル施工について記載された技術としては、例えば特許文献1(特開2017-223013号公報)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-223013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述したエアバルクABを用いた施工方法では、次のような問題がある。
【0010】
すなわち、エアバルクABを膨張させると、その形状は円柱状になる。すると、エアバルクABを重ねて使用する場合には、円柱状のエアバルクABの上に円柱状のエアバルクABを載せるという形態になるため、エアバルクABの断面で考えた場合、図11に示すように、曲面を曲面で支えるようになる。そのため、エアバルクAB同士の接する面積が小さくなって不安定な設置となってしまい、施工性が悪化する。
【0011】
また、エアバルクABの長さは4m程度と長尺物で重量が嵩む(例えば、直径150mmのエアバルクで約6kg、直径200mmのエアバルクで約8kg)ために、セントルCの内型枠Ca上の横断方向に沿って設置する際の作業性が極めて悪い。
【0012】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、セントルの内型枠と吹付けコンクリートとの間に覆工コンクリートを打設する際におけるセントルの妻側からのコンクリートの流出を簡便に防止することのできる覆工コンクリートの打設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の覆工コンクリートの打設方法は、山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設方法であって、トンネルの延伸方向に延びてトンネルの横断方向に湾曲した内型枠および当該内型枠の妻側においてトンネル横断方向外側にはみ出すように設置されたフランジを備えたセントルを吹付けコンクリートが打設された位置に設置し、前記フランジに沿った前記内型枠と前記吹付けコンクリートとの間に、空気の入っていない長尺状のエアバルクを内型枠側に1層設置した後に、所定の厚みを有する長尺板状部材である押出発泡ポリスチレンフォームを前記内型枠と前記吹付けコンクリートとの隙間に応じて前記エアバルクの上に少なくとも1層設置し、その後、前記エアバルクを膨張させて妻側の前記内型枠と前記吹付けコンクリートとの間を閉塞し、前記内型枠と前記吹付けコンクリートとで形成された空間に覆工コンクリートを打設する、ことを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の本発明の覆工コンクリートの打設方法は、上記請求項1記載の発明において、前記押出発泡ポリスチレンフォームの片面または両面には、トンネルの延伸方向に沿った切り欠きが所定の間隔で形成されている、ことを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の本発明の覆工コンクリートの打設方法は、上記請求項1または2記載の発明において、前記押出発泡ポリスチレンフォームには、硬化した覆工コンクリートとの剥離性を向上させる剥離処理が施されている、ことを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載の本発明の覆工コンクリートの打設方法は、上記請求項3に記載の発明において、前記剥離処理は、表面が剥離剤面となった粘着テープで前記押出発泡ポリスチレンフォームの短手方向に沿って全体を巻く処理、または前記押出発泡ポリスチレンフォームの全体に剥離剤を塗布する処理である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、押出発泡ポリスチレンフォームはトンネルの延伸方向に対して平坦な形状となるため、エアバルクが安定して施工性が向上する。
【0021】
また、軽量で取り扱いが容易な押出発泡ポリスチレンフォームを用いることにより、設置時の作業性が向上する。
【0022】
これにより、セントルの内型枠と吹付けコンクリートとの間に覆工コンクリートを打設する際におけるセントルの妻側からのコンクリートの流出を簡便に防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(a)は本実施の形態に係る山岳トンネルの施工に用いられる連続ベルトコンベアシステムの平面図、(b)は(a)の連続ベルトコンベアシステムの側面図である。
図2】山岳トンネルの施工の概略を示すフローチャートである。
図3】(a)~(d)は本実施の形態に係る山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設について順を追って示す説明図である。
図4】山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設に際して設置される本発明の一実施の形態としての流出防止部材を含めたトンネル延伸方向の断面図である。
図5図4のW-W線に沿った断面図である。
図6】(a)は本実施の形態の流出防止部材に用いられた押出発泡ポリスチレンフォームを示す斜視図、(b)は片面に切り欠きを形成した(a)の押出発泡ポリスチレンフォームを示す斜視図、(c)は両面に切り欠きを形成した(a)の押出発泡ポリスチレンフォームを示す斜視図である。
図7】山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設に際して設置される本発明の他の実施の形態としての流出防止部材を含めたトンネル延伸方向の断面図である。
図8図7のX-X線に沿った断面図である。
図9】山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設に際して設置される本発明のさらに他の実施の形態としての流出防止部材を含めたトンネル延伸方向の断面図である。
図10図9のY-Y線に沿った断面図である。
図11】山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設に際して設置される従来の流出防止部材を含めたトンネル延伸方向の断面図である。
図12図11のZ-Z線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0025】
本実施の形態における覆工コンクリートの打設方法は、特に山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設に適用されるものである。
【0026】
山岳トンネルの施工において、岩盤にダイナマイトを仕掛けて爆破することでトンネルを掘削する発破方式が用いられる。この工法は、掘削部分にコンクリートを吹き付けて硬化させてロックボルトを岩盤に設置し、地山自体の保持力を利用してトンネルを保持する工法であり、NATM(New Austrian Tunneling Method)と呼ばれる。
【0027】
まず、本実施の形態に係る山岳トンネルの施工に用いられる連続ベルトコンベアシステムの構成例について図1を参照して説明する。ここで、図1(a)は本実施の形態に係る山岳トンネルの施工に用いられる連続ベルトコンベアシステムの平面図、図1(b)は図1(a)の連続ベルトコンベアシステムの側面図である。
【0028】
図示する連続ベルトコンベアシステム1は、トンネルTの切羽Kを発破により掘削した場合に生じたずり(掘削物)をトンネルTの抗口へと運ぶずり運搬用のシステムであり、クラッシャ2とテールピース台車3とベルトコンベア4とが、切羽Kから坑口に向かって順に縦列配置されている。
【0029】
クラッシャ2は、発破により生じたずりをベルトコンベア4で運ぶことが可能な大きさに破砕する自走式の破砕機である。テールピース台車3は、クラッシャ2で破砕されたずりをベルトコンベア4に搬送する自走式の中継運搬装置であり、ベルトコンベア4の先端(つまり、ベルトコンベア4の切羽K側)に設置されている。ベルトコンベア4は、テールピース台車3を介して運ばれたずりを長尺となった搬送用のベルト4aに搭載してトンネルTの坑口に向かって運ぶ運搬装置であり、テールピース台車3の後端部からトンネルTの坑口側まで連続して延在した状態で設置されている。さらに、連続ベルトコンベアシステム1には、余長ベルト(延伸用ベルト)を収納するとともに、ベルト4aに適切な張力を与えるためのベルトストレージ5が設置されている。
【0030】
なお、連続ベルトコンベアシステム1には、これら以外に、ベルトストレージ5に収納された余長ベルトがなくなった場合にベルト4aを継ぎ足すためのベルト接合架台(図示せず)、ベルト4aを周回駆動させるための主駆動装置であるメインドライブ(図示せず)、ベルトコンベア4の昼間部においてベルト4aを駆動するブースタドライブ(図示せず)、各装置を制御するための換気・電気機器(図示せず)などが配置されている。
【0031】
また、連続ベルトコンベアシステム1は、トンネルTの幅方向の一方の片側に寄せられた状態となっており、トンネルTの幅方向の他方の片側は、掘削した岩盤の壁面にコンクリートを吹き付ける吹付け機(図示せず)、発破を装填するための孔(装薬孔)を切羽Kに穿孔するための切羽穿孔機(図示せず)、発破により生じたずりをクラッシャ2に積載するためのショベル7aを備えた自走式のサイドダンプ7やバックホウなどの積載用重機、岩盤の破砕や掘削や小割などの作業を行うためのブレーカ(図示せず)などのような各種の重機の通路として使用可能になっている。さらに、作業現場には、ロックボルトや鋼製支保工などをストックしておく資材置場(図示せず)が割り当てられている。
【0032】
連続ベルトコンベアシステム1において、発破の際には、先頭に位置するクラッシャ2の先端部が切羽Kから飛散するずりが届かない程度の位置に配置する。これにより、発破の際に切羽Kから飛散したずりに起因してクラッシャ2、テールピース台車3およびベルトコンベア4が破損するのを防止することができる。そして、発破後のずりの運搬の際には、サイドダンプ7が切羽Kに向かって移動し、掘削物であるずりをショベル7aでクラッシャ2に投入する。
【0033】
なお、図1(b)において、左右に延びる点線は、トンネルTの長さ方向における吹付けコンクリートの領域を示し、符号Bはコンクリートに設置されたロックボルトを示している。また、吹付けコンクリートおよびロックボルトBについては後述する。
【0034】
次に、山岳トンネルの施工の概略について、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0035】
先ず、前述のように、切羽に装薬孔の穿孔を行い(ステップSt01)、爆薬の装填を行って(ステップSt02)、発破掘削を行う(ステップSt03)。そして、ずりの搬出を行う(ステップSt04)。
【0036】
次に、岩盤の状態等から鋼製支保工S(図4,6,9)を設置するか否かを判断し(ステップSt05)、設置する場合には、コンクリートの仮吹付けを行い(ステップSt06)、鋼製支保工Sの建込みを行う(ステップSt07)。ステップSt07で鋼製支保工Sの建込みを行ったならば仮吹きつけを行ったコンクリートの表面に、あるいは、ステップSt05で鋼製支保工Sを設置しない場合には直接地山G(図4,5,7~10)の表面に、コンクリートの吹付けを行って(ステップSt08)、ロックボルトB(図4,6,9)の設置を行う(ステップSt09)。
【0037】
なお、本願において、鋼製支保工Sを設置する際に吹き付けられるコンクリートを仮吹付けコンクリート11(図4,5,7~10)といい、仮吹付けコンクリート11あるいは鋼製支保工Sを設置せずに地山Gの表面に吹き付けられるコンクリートを単に吹付けコンクリート12(図4,5,7~10)という。また、本願においては、鋼製支保工Sの建込みを行っていることを前提として、吹付けコンクリート12が仮吹付けコンクリート11に吹き付けられるものとする。但し、鋼製支保工Sの建込みを行わずに、吹付けコンクリート12を地山Gに直接吹き付けることを排除するものではない。
【0038】
さて、ステップSt09でロックボルトBの設置を行ったならば、最後に、トンネル内への漏水を防ぐために必要に応じて防水シートを貼り、セントルを嵌め込んで、ステップSt08で施工された吹付けコンクリート12とセントルとの間に覆工コンクリートを打設して仕上げ作業を行う(ステップSt10)。なお、覆工コンクリートの打設は、例えば1日おきに実行される。そして、一連の作業が完了したか否かを判断し(ステップSt11)、完了したならばトンネルの施工を終了する。また、ステップSt11において作業が完了していない場合には、ステップSt01に戻って、以降の工程を繰り返す。
【0039】
ここで、図3を用いて、覆工コンクリート13の打設について説明する。図示するように、セントルCは半円筒形の型枠であり、トンネルTの吹付けコンクリート12の部分に覆工コンクリート13を打設するため、鋼製のレール(図示せず)上を移動可能になっている。図示するように、セントルCは、トンネルTの延伸方向に延びてトンネルTの横断方向に湾曲した内型枠Caと、セントルCの妻側においてトンネル横断方向外側にはみ出すように設置されたフランジCbとを備えている。そして、当該セントルCを移動させながら、セントルCと吹付けコンクリート12との空間13gに覆工コンクリート13を打設している。
【0040】
すなわち、図3(a)に示すように、セントルCの内型枠Caを移動させて覆工コンクリートの打設位置(つまり、吹付けコンクリート12が打設された位置)に設置したならば、図3(b)に示すように、内型枠Caの妻側にフランジCbを取り付ける。続いて、打設したコンクリートがセントルCの妻側から流出することを防止するために、図3(c)に示すように、フランジCbに沿った内型枠Caと吹付けコンクリート12との間に流出防止部材14(詳細は後述する)を設置して妻側の内型枠Caと吹付けコンクリート12との間を閉塞する。そして、図3(d)に示すように、内型枠Caと吹付けコンクリート12とで形成された空間13gに覆工コンクリート13を打設する。
【0041】
ここで、覆工コンクリート13を打設充填する際に、流出防止部材14が覆工コンクリート13に押されても、当該流出防止部材14の側面がフランジCbに押圧されて移動が阻止されるので、流出防止部材14がセントルCの妻側から落下することはない。このように、フランジCbは、覆工コンクリート13の打設時に、流出防止部材14がセントルCの妻側から落下しないように支える機能を果たしている。
【0042】
なお、覆工コンクリート13の打設に際しては、図3(d)に示すように、下から順番にコンクリートを注入して、最後に天井の部分にコンクリートを吹き上げて注入する。また、本実施の形態において、一度に覆工コンクリート13を注入する長さは、例えば10~15m程度、覆工コンクリート13の厚さは、例えば30cm以上である。但し、本発明における覆工コンクリート13の数値は、これらに限定されるものではない。
【0043】
また、本実施の形態では内型枠CaにフランジCbを取り付けているが、内型枠CaとフランジCbとが一体になっていて、フランジCbの取り付けが省略できるようになっていてもよい。
【0044】
次に、覆工コンクリート13を打設する際に設置される流出防止部材14について、図4図10を用いて説明する。
【0045】
図4は山岳トンネルの施工における覆工コンクリートの打設に際して設置される本発明の一実施の形態としての流出防止部材を含めたトンネル延伸方向の断面図、図5図4のW-W線に沿った断面図、図6は流出防止部材に用いられた押出発泡ポリスチレンフォームを示す斜視図である。
【0046】
図4および図5に示すように、流出防止部材14は、所定の厚みを有する長尺板状部材である押出発泡ポリスチレンフォームPFを設置するとともに、長尺状のエアバルクABを膨張させて設置したものである。また、押出発泡ポリスチレンフォームPFが内型枠Ca側に設置され、エアバルクABが吹付けコンクリート12側に設置されている。
【0047】
ここで、押出発泡ポリスチレンフォームPFとは、ポリスチレンを溶解し、発泡剤や難燃剤などを混ぜて板状に押出形成した板状部材である(図6(a)参照)。この押出発泡ポリスチレンフォームPFは、製造段階で所望のサイズに加工することができるのみならず、作業現場でも簡単にカットができ、さらに、断熱性能が高く、水・湿気に強く、軽量であるために取り扱いが容易である。なお、押出発泡ポリスチレンフォームPFは、長さ910mm、幅225mm、厚さ50mmとなっているが、寸法は特に限定されるものではない。
【0048】
本実施の形態では、このような押出発泡ポリスチレンフォームPFを内型枠Caに沿うようにして(つまり、押出発泡ポリスチレンフォームPFの長手方向がトンネルTの周方向となるようにして)3層設置し、その上に(つまり、吹付けコンクリート12側に)空気の入っていないエアバルクABを1層配置して膨張させることで、エアバルクABの膨張を利用して当該エアバルクABと押出発泡ポリスチレンフォームPFとで妻側の内型枠Caと吹付けコンクリート12との間を閉塞したものである。
【0049】
なお、以下に説明する図7図8を含め、押出発泡ポリスチレンフォームPFは3層設置されているが、3層である必要はない。つまり、押出発泡ポリスチレンフォームPFの設置数は、1枚の押出発泡ポリスチレンフォームPFの厚さ、膨張時のエアバルクABの径、および妻側の内型枠Caと吹付けコンクリート12との距離に応じて決定されることから、必ずしも3層となるものではなく、少なくとも1層設置されていればよい。但し、エアバルクABについては、1層のみ配置される。
【0050】
なお、内型枠Caにおけるトンネル横断方向の長さと押出発泡ポリスチレンフォームPFの長さによっては、押出発泡ポリスチレンフォームPFを1層配置するのに、当該押出発泡ポリスチレンフォームPFが1枚で足りる場合もあるし、複数枚必要となる場合もある。同様に、エアバルクABについても、1層配置するのに1枚で足りる場合もあるし、複数枚必要となる場合もある。
【0051】
このような本実施の形態によれば、押出発泡ポリスチレンフォームPFはトンネルTの延伸方向に対して平坦な形状となるため、押出発泡ポリスチレンフォームPFとエアバルクABとを重ねて設置することにより、円柱状のエアバルクABの上に円柱状のエアバルクABを載せた場合のように曲面を曲面で支える(図11参照)ことがなくなるので、エアバルクABが安定して施工性が向上する。
【0052】
また、軽量で取り扱いが容易な押出発泡ポリスチレンフォームPFを用いることにより、重量の嵩むエアバルクABの使用が最小限で済むので、設置時の作業性が向上する。
【0053】
これにより、セントルCの内型枠Caと吹付けコンクリート12との間に覆工コンクリート13を打設する際におけるセントルCの妻側からのコンクリートの流出を簡便に防止することが可能になる。
【0054】
なお、図4および図5に示す場合には、押出発泡ポリスチレンフォームPFが内型枠Ca側に設置され、エアバルクABが吹付けコンクリート12側に設置されているので、膨張により吹付けコンクリート12の凹凸に対する追随性が良好となり、妻側の内型枠Caと吹付けコンクリート12との間をより強固に閉塞することが可能になる。
【0055】
なお、図6(a)に示すように、押出発泡ポリスチレンフォームPFをそのまま使用することもできるが、以下に説明する図7図10を含め、図6(b)に示すように押出発泡ポリスチレンフォームPFの片面に、あるいは図6(c)に示すように押出発泡ポリスチレンフォームPFの両面に、トンネルTの延伸方向に沿った切り欠きPFcを所定の間隔で形成してもよい。一例を挙げると、前述した本実施の形態の押出発泡ポリスチレンフォームPFの寸法(長さ910mm、幅225mm、厚さ50mm)の場合、30mm間隔で深さ10mmの切り欠きPFcを形成する。また、両面に形成する場合には、切り欠きPFcが双方の面で交互になるようにする。
【0056】
このように切り欠きPFcを形成すれば、押出発泡ポリスチレンフォームPFを内型枠Caの形状(トンネルTの形状)、あるいは後述する図7図8に示すように、押出発泡ポリスチレンフォームPFを吹付けコンクリート12側に設置した場合には当該吹付けコンクリート12の形状に沿わせることが容易になり、妻側の内型枠Caと吹付けコンクリート12との間をより一層強固に閉塞することが可能になる。
【0057】
なお、本実施の形態において、押出発泡ポリスチレンフォームPFの長手方向に沿った切り欠きPFcの断面形状は三角形となっているが、四角形など他の形状であってもよい。
【0058】
ここで、以下に説明する図7図10を含め、押出発泡ポリスチレンフォームPFには、硬化した覆工コンクリート13との剥離性を向上させるための剥離処理を施すことが望ましい。剥離処理の具体例を挙げると、表面が剥離剤面となった粘着テープで押出発泡ポリスチレンフォームPFの全体を巻く処理、あるいは押出発泡ポリスチレンフォームPFの全体に剥離剤を塗布する処理などが考えられる。
【0059】
このようにすれば、硬化後の覆工コンクリート13が押出発泡ポリスチレンフォームPFに接着して当該押出発泡ポリスチレンフォームPFの端部がちぎれたりすることを防ぐことができ、脱型時の施工性の向上および複数回の再利用が可能になって耐久性の向上を図ることができる。また、一般的に、エアバルクABとよりも押出発泡ポリスチレンフォームPFの方が安価であるため、コスト削減を図ることができる。
【0060】
なお、押出発泡ポリスチレンフォームPFを粘着テープで巻く場合には、当該押出発泡ポリスチレンフォームPFの短手方向に沿って巻くようにする。短手方向に沿って巻くことにより、押出発泡ポリスチレンフォームPFの長手方向に対して曲げにくくならない(つまり、内型枠Caに沿って曲げにくくならない)とともに、押出発泡ポリスチレンフォームPFの強度が向上する。
【0061】
ここで、図4および図5に示す場合には、押出発泡ポリスチレンフォームPFが内型枠Ca側に設置され、エアバルクABが吹付けコンクリート12側に設置されているが、図7および図8に示すように、両者の設置位置を逆にして、エアバルクABが内型枠Ca側に設置され、押出発泡ポリスチレンフォームPFが吹付けコンクリート12側に設置されていてもよい。
【0062】
このようにすれば、重量の嵩むエアバルクABを、内型枠Caに載せるようになるので、作業者がエアバルクABを高い位置(つまり、押出発泡ポリスチレンフォームPFの上面)まで持ち上げる必要がなくなり、作業の軽減を図ることができる。
【0063】
また、図9および図10に示すように、エアバルクABを用いることなく、押出発泡ポリスチレンフォームPFのみで妻側の内型枠Caと吹付けコンクリート12との間を閉塞するようにしてもよい。なお、図示する場合には、押出発泡ポリスチレンフォームPFは3層設置されているが、3層である必要はない。つまり、押出発泡ポリスチレンフォームPFの設置数は、1枚の押出発泡ポリスチレンフォームPFの厚さ、および妻側の内型枠Caと吹付けコンクリート12との距離に応じて決定されることから、必ずしも3層となるものではなく、少なくとも1層設置されていればよい。
【0064】
このようにすれば、重量の嵩むエアバルクABは不要になり、比較的軽量な押出発泡ポリスチレンフォームPFのみで妻側の内型枠Caと吹付けコンクリート12との間を閉塞することができるので、作業の軽減を図ることができる。
【0065】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上の説明では、本発明を、覆工コンクリートを打設する際におけるセントルの妻側の内型枠と吹付けコンクリートとの間の閉塞に適用した場合が示されているが、背面平滑型トンネルライニング工法(FILM(Flat Insulated Lining Method))にも適用することができる。背面平滑型トンネルライニング工法とは、吹付けコンクリートの凹凸部と内型枠に設置した防水シートとの空隙にモルタル等の裏込め材を充填して防水シートを全面接着する工法であり、当該工法において、妻側の内型枠と吹付けコンクリートとの間の閉塞に本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
11 仮吹付けコンクリート
12 吹付けコンクリート
13 覆工コンクリート
13g 空間
14 流出防止部材
AB エアバルク
B ロックボルト
C セントル
Ca 内型枠
Cb フランジ
G 地山
PF 押出発泡ポリスチレンフォーム
PFc 切り欠き
S 鋼製支保工
T トンネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12