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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】光学素子及び光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20240919BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20240919BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G02B5/00 B
G02B7/02 D
G02B5/22
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020037250
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021140019
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】寺本 洋二
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-024331(JP,A)
【文献】特開昭63-184702(JP,A)
【文献】特開2003-227911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00 - 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の外周部の一部に遮光膜が設けられている光学素子であって、
該遮光膜は、エポキシ樹脂、少なくともクマロンまたはインデンを有する樹脂、および染料を有することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記クマロンまたはインデンを有する樹脂は、クマロンとインデンとを含む請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記染料の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対し、80質量部以上200質量部以下である請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記クマロンまたはインデンを有する樹脂の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対し、100質量部以上300質量部以下であり、かつ、前記染料の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対し、80質量部以上200質量部以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記クマロンまたはインデンを有する樹脂に対する前記染料の比が、0.44以上である請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記クマロンまたはインデンを有する樹脂に対する前記染料の比が、1.31以下である請求項5に記載の光学素子。
【請求項7】
前記クマロンまたはインデンを有する樹脂に対する前記染料の比が、1.15以下である請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記遮光膜は、数種類の染料を有する請求項1から7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記遮光膜は、顔料を有する請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
前記クマロンまたはインデンを有する樹脂の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対し、100質量部以上300質量部以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項11】
前記基材は、レンズまたはプリズムである請求項1から10のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項12】
前記遮光膜は、膜厚が0.3μm以上100μm以下である請求項1から11のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項13】
前記光学素子は、レンズまたはプリズムである請求項1から12のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項14】
前記染料の含有量がクマロンまたはインデンを有する樹脂100質量部に対し、46質量部以上115質量部以下であることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の光学素子を備える光学機器。
【請求項16】
前記光学機器は、カメラ、双眼鏡、顕微鏡又は半導体露光装置のいずれかである請求項15に記載の光学機器。
【請求項17】
基材の外周部の一部に遮光膜が設けられている光学素子の製造方法であって、
該基材の外周部の表面に、遮光塗料を塗布する工程と、
塗布した該遮光塗料を硬化して遮光膜を作製する工程と、を有し、
該遮光塗料は、エポキシ樹脂、少なくともクマロンまたはインデンを有する樹脂、染料、およびアミン系硬化剤を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項18】
前記クマロンまたはインデンを有する樹脂の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対し、100質量部以上300質量部以下であることを特徴とする請求項17に記載の光学素子の製造方法。
【請求項19】
前記染料の含有量がクマロンまたはインデンを有する樹脂100質量部に対し、80質量部以上200質量部以下であることを特徴とする請求項17または18に記載の光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ、双眼鏡、顕微鏡の如き光学機器に使用される遮光膜、光学素子および光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子に用いる遮光膜とは、主にガラスの表面に形成される塗膜である。光学素子はレンズであってもプリズムであっても、その他の光学用ガラスであっても良いが、以下にレンズを例に遮光膜の説明をする。
【0003】
図1に示すように、光学素子の遮光膜1は、レンズ2の外周部分に形成される。入射光3のようにレンズ2のみに光が当たる場合は、透過光4として透過する。これに対して、斜めからの入射光5の光が入射した場合、遮光膜1に光は当たる。この時、遮光膜1が形成されていないと(図1のレンズの下側)、レンズ2の外周に当たった光5が内面反射して画像に関係のない内面反射した光6としてレンズ2の外に出て行き、フレアやゴーストの原因となり、画像の画質が低下する。遮光膜1を設けると(図1のレンズの上側)、斜めからの入射光5に対する内面反射を減らすことが可能なので、画像に悪影響を与える内面反射した光6が減少し、フレアやゴーストを防止することが可能である。
【0004】
近年の光学機器のコンパクト化、高性能化に伴い光学系に用いられる光学素子には、より複雑な形状を有する光学素子が用いられ、遮光膜も複雑な形状に形成されている。
【0005】
特許文献1は、染料で光を吸収させることにより、内面反射を低減する光学素子用の遮光膜を開示している。
特許文献2は、(A)エポキシ樹脂、(B)アミン系硬化剤、および(C)水酸基含有クマロン樹脂を含み、該水酸基含有クマロン樹脂を、エポキシ樹脂100重量部に対して1~500重量部の量で含有することを特徴とする防食塗料組成物を提供し、耐海水性に優れ灰色など明色の塗膜を形成することができ、海中パイプラインなどの表面塗装に使用することもできる、特にバラストタンクなどの船舶内部の塗装に有用である防食塗料組成物に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-186437号公報
【文献】国際公開第2007/129564号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の遮光膜では、図3(a)に示すように、例えば、複雑な形状として稜線12を有する光学素子に遮光膜を形成すると、乾燥中に遮光塗料が移動する現象13が発生し、図3(b)に示すように稜線部分の膜厚が減少してしまう。さらに、稜線部分では、塗膜の膜厚が薄くなっているだけではなく、光を吸収するための染料の濃度が減少する現象が起こり、十分な遮光性能を出すことが困難である。染料は、遮光塗料中の成分の中で比較的サイズが小さく塗料成分の中で高速に移動するため稜線部分から選択的に移動する。
【0008】
本発明は、このような背景技術に鑑みてなされたものであり、複雑な形状を有する光学素子の基材に遮光膜を設けた場合にも、内面反射を抑制して光学特性が良好な光学素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光学素子は、基材の外周部の一部に遮光膜が設けられた光学素子であって、前記遮光膜は、エポキシ樹脂、少なくともクマロンまたはインデンを有する樹脂(以下、「クマロン-インデン系樹脂」ともいう。)、および染料を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の光学素子の製造方法は、基材の外周部の一部に遮光膜が設けられている光学素子の製造方法であって、前記基材の外周部表面に、遮光塗料を塗布する工程と、塗布した前記遮光塗料を硬化して遮光膜を作製する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複雑な形状を有する光学ガラスにおいても、フレア、ゴーストを抑制する光学特性が良好な光学素子、遮光塗料からなる遮光膜および光学素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】内面反射光の光の進行を示した模式図である。
図2】本発明の光学素子の遮光膜を示す模式図である。
図3】塗料乾燥時の遮光塗料の移動を示す模式図である。
図4】内面反射の測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
本発明の光学素子に用いる遮光塗料からなる遮光膜は、複雑な形状を有する光学ガラスにおいても、十分な内面反射低減機能を有する光学素子を提供できる。
【0014】
以下、光学素子の内面反射について説明する。次に、本発明に係る遮光膜の構成について説明する。その次に、それらを達成するための本発明に係る遮光塗料、遮光膜、光学素子、遮光膜の製造方法及び光学素子の製造方法について説明する。
【0015】
[光学素子の内面反射]
まず、光学素子の透過光10について図2を用いて述べる。光学素子の内面反射は主に2つの界面7、界面8で起こる。すなわち、入射光3は基材(レンズ)2内を通り、基材(レンズ)2と遮光膜1との界面7で一部が第一の反射光9となる。遮光膜1を透過する透過光10は遮光膜1で減衰した後、遮光膜1と空気の界面8で第二の反射光11となる。
【0016】
第一の反射光9については、遮光膜1と基材(レンズ)2の屈折率を近づけることで低減可能である。屈折率を近づけると内面反射が少なくなる理由は、下記の式(1)に示すように、遮光膜1とレンズ2の界面の反射率Rが入射光3側のレンズ2の屈折率nと遮光膜1の屈折率nの差により決まり、その差が少ないほど小さくなるためである。
【数1】
【0017】
また、第二の反射光11については、遮光膜を透過する透過光10を吸収することで低減できる。塗膜内部への透過光10を効率良く吸収するために、着色剤を遮光膜1に含ませて膜の黒色度を高めることが好ましい。
【0018】
[本発明の光学素子の遮光膜の特徴]
本発明の光学素子の遮光膜1は、図3(a)に示すように、稜線12を有するような光学素子に形成した場合においても、遮光塗料の移動に伴う染料の選択的な移動を防止することで、稜線部分での染料濃度の低下を抑制できることを特徴としている。
【0019】
稜線12を有するような光学素子に形成した場合においても、染料濃度の低減を抑制させるためには、本発明に係る遮光膜1は、少なくとも、アミン系硬化剤により硬化させたエポキシ樹脂、染料、および少なくとも1種類以上のクマロン-インデン系樹脂からなる。本明細書において、クマロン-インデン系樹脂とは、少なくともクマロンまたはインデンを有する樹脂であり、クマロンおよびインデン樹脂、クマロン樹脂、またはインデン樹脂である。クマロンおよびインデン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロンとインデンとを含む樹脂であり、クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレンなどが挙げられる。クマロン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロンを含む樹脂である。インデン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、インデンを含む樹脂である。入手のしやすさ等からクマロンおよびインデン樹脂が好ましい。
【0020】
(技術的なクマロン-インデン樹脂効果)
特許文献2には、クマロン-インデン樹脂を塗膜強度、防食性付与のために使用している。しかしながら、本発明者らは、クマロン-インデン樹脂の添加が遮光塗料の乾燥工程における染料の移動を抑制することを見出した。クマロン-インデン樹脂は、五員環と六員環からなるクマロンとインデンを主成分とする樹脂のため、分子が非常に嵩高くなっており、分子サイズの比較的小さい染料の移動を抑制できると推察できる。また、クマロンとインデンとは染料との相溶性もよいことから、染料を遮光塗料全体に分散させかつ、移動を抑制することが可能になることが分かった。このため、塗装時の遮光塗料の移動により、膜厚が減少した部分の染料の選択的な移動を抑制できる。これにより、遮光膜の膜厚が減少した部分においても染料の濃度が減少せず、内面反射を効果的に抑制できることが分かった。
【0021】
[遮光塗料]
次に、本発明の光学素子用の遮光膜を形成する遮光塗料の材料構成について説明する。以下、特に記載しない限り、遮光塗料に用いる各材料の含有量については、硬化剤を含む遮光塗料に対する含有量を記載する。
【0022】
本発明に係る遮光塗料は、エポキシ樹脂、クマロン-インデン系樹脂、染料、及びアミン系硬化剤を有する。
【0023】
本発明に係る遮光塗料の粘度は、20.0mPa・s以上65.0mPa・s以下であることが好ましく、30.0mPa・s以上50.0mPa・s以下であることがより好ましい。遮光塗料の粘度が20mPa・s未満になると粘性が非常に低くなりすぎ塗料が乾燥中に移動しやすくなり、塗工性が低下する。また、遮光塗料の粘度が65.0mPa・sを超えると、塗布時のレベリング性が悪くなり、得られる遮光膜にスジ、ムラなどの外観不良が発生する。
【0024】
次に、本発明に係る遮光塗料に含まれる各材料について説明する。
(エポキシ樹脂)
本発明に係る遮光塗料に含まれるエポキシ樹脂は、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、多官能エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、高分子型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂を用いることが可能である。エポキシ樹脂は1種類を単独で用いても複数の種類を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明に係る遮光塗料に含まれるエポキシ樹脂の含有量は、遮光塗料中5.0質量%以上25.0質量%以下であることが好ましい。エポキシ樹脂の含有量が5.0質量%未満であると遮光塗料中の樹脂成分が少ないため、耐溶剤性が低下する。また、エポキシ樹脂の含有量が25.0質量%を超えると、屈折率が低下するため内面反射が大きくなる。
【0026】
(クマロン-インデン系樹脂)
本発明に係る遮光塗料に含まれるクマロン-インデン樹脂は、クマロンとインデンの少なくとも一つを用いた重合体であるため、クマロン樹脂単体でもよく、インデン樹脂単体でもよい。入手のしやすさ等からクマロンおよびインデン樹脂が好ましい。
【0027】
クマロン-インデン樹脂の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対し、100質量部以上300質量部以下であることが好ましい。含有量が100質量部より少ないと、染料の移動を抑制する効果が不十分となり、300質量部より多いと、エポキシ樹脂の架橋割合が小さくなるため、遮光膜からの溶出が問題となるためである。
【0028】
(染料)
本発明に係る遮光塗料に含まれる染料は、少なくとも1種類以上の染料を用いることが可能である。染料としては、波長400nmから700nmの可視光を吸収し、任意の溶媒に溶解可能な材料であれば良い。染料は1種類でも良いし,黒色、赤色、黄色、青色などの数種類の染料を混合しても良い。
【0029】
染料の含有量は、クマロン-インデン樹脂100質量部に対して、46質量部以上115質量部以下であることが好ましい。染料の含有量が、46部質量より少ないと、遮光性能が不十分となり、115質量部より多いと遮光膜から染料の溶出が問題となる。
【0030】
(顔料)
光学用のレンズは一般的に高い屈折率を有し、遮光膜と光学ガラス界面の反射を低減するために遮光膜の屈折率を高める必要がある。このために、特許文献1に記載されているように、顔料として高屈折率の粒子を導入してもよい。例えば、チタニア、ジルコニアなどがあげられる。
【0031】
また、顔料に黒色の粒子を用いてもよく、カーボンブラック、チタンブラック、酸化鉄、銅鉄マンガン複合酸化物を用いることが可能である。
【0032】
顔料の個数平均粒子径は、5nm以上200nm以下が好ましい。顔料の個数平均粒子径が5nm未満になると遮光塗料の安定性が低下する。また、顔料の個数平均粒子径が200nmより大きくなると遮光膜にした時の内面反射が大きくなる。
【0033】
(アミン系硬化剤)
本発明に係る遮光塗料は、遮光塗料に含まれるエポキシ樹脂を硬化させるためにアミン系硬化剤を含有している。アミン系硬化剤としては、直鎖脂肪族系、ポリアミド系、脂環族、芳香族、その他ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジドを用いることが可能である。また、アミン系硬化剤のアミノ基は活性であるため、式(2)に示す構造により、活性なアミノ基が保護されていてもよい。例えば、式(2)に示される構造は水の存在下で加水分解されることで、活性なアミノ基になる。このため、遮光塗料を形成した時には、アミノ基は少量であるため、遮光塗料中の成分との反応が抑制できる。
【数2】
これらは、単独で用いても構わないし、複数を混合して用いても良い。
【0034】
本発明に係る遮光塗料に含まれるアミン系硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、80質量部以上150質量部以下であることが好ましい。アミン系硬化剤の含有量が80質量部未満になると遮光膜の硬化度が下がり、遮光膜の基材に対する密着性が低下する。また、アミン系硬化剤の含有量が150質量部より多い場合は光学特性が低下する。
【0035】
(有機溶媒)
本発明に係る遮光塗料は、粘度を調整するため有機溶媒を含有していることが好ましい。本発明の遮光塗料に用いる有機溶媒は、エポキシ樹脂、着色剤及びアミン系硬化剤の溶解性や、顔料の分散性を満足する限り特に限定されない。有機溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、1-ブトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸3-メトキシブチル、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン、キシレン、トルエン、ベンジルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、エタノールを用いることができる。これらの有機溶媒は、1種類を用いても複数の種類を混合して用いても良い。
【0036】
(硬化触媒)
本発明に係る遮光塗料は、遮光膜を生成したときのエポキシ樹脂の架橋密度が上がり耐溶剤性を向上させるために、硬化触媒を含有してもよい。本発明に用いる硬化触媒としては、3級アミンやイミダゾール化合物を用いることが好ましい。3級アミンとしては、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジアミノメチル)フェノール、トリ-2-エチルヘキシル酸塩を用いることができる。また、イミダゾール化合物としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2-メチルイミダゾリル-(1)]-エチルS-トリアジンを用いることができる。
【0037】
本発明に係る遮光塗料に含まれる硬化触媒の含有量は、遮光塗料中に7.5質量部以上35質量部以下含有させることが好ましい。硬化触媒の含有量が7.5質量部未満になると、生成した遮光膜の耐溶剤性が低下することがある。また、硬化触媒の含有量が35質量部より大きくなると生成した遮光膜の架橋密度が上がり膜の靭性が低下することがある。
【0038】
(カップリング剤)
本発明に係る遮光塗料は、遮光膜を生成したときの樹脂と顔料などの密着性を向上させるために、カップリング剤を含有することが好ましい。一例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられるがそれらには限定されない。
【0039】
(可塑剤)
本発明に係る遮光塗料は、遮光膜を生成したときの柔軟性を向上させることで、割れにくくするために可塑剤を添加することが好ましい。本発明に用いる可塑剤としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、トリメリット酸トリオクチル、ポリエステル、リン酸トリクレシル、アセチルクエン酸トリブチル、セバシン酸エステル、キシレン樹脂、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステルを用いることが可能である。
【0040】
(添加剤)
本発明に係る遮光塗料は、本来の目的が損なわれない範囲内で、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、粘度調整剤、防カビ剤、酸化防止剤を添加することが可能である。
【0041】
[遮光膜]
次に、本発明に係る遮光膜について説明する。
本発明に係る遮光膜は、上記の遮光塗料を塗布した後に、硬化して作製される。遮光膜は、上記の遮光塗料の組成から有機溶媒を除いた組成を有する。すなわち、本発明に係る遮光膜は、エポキシ樹脂とクマロン-インデン樹脂と染料とアミン系硬化剤とを少なくとも含有し、これら以外に上記の遮光塗料の各材料を有してもよい。
遮光膜の膜厚は、0.3μm以上100μm以下が好ましく、0.5μm以上50μm以下がより好ましい。
【0042】
[光学素子]
本発明の光学素子は、基材の外周部の一部に遮光膜を設けた光学素子であって、遮光膜は上記の遮光膜であることを特徴とする。
【0043】
光学素子であるガラス基材としては、レンズ又はプリズムを用いることができる。ガラス基材のd線の屈折率は、1.60以上2.00以下であることが好ましく、1.80以上2.00以下であることがより好ましい。
【0044】
本発明の光学素子は、レンズ、プリズム、反射鏡、回折格子の如き光学機器を構成する素子として用いることが可能である。例えば、カメラ、双眼鏡、顕微鏡又は半導体露光装置のいずれかに用いる光学素子であって、光学有効面外に遮光膜が形成された光学素子として用いることが可能である。
【0045】
[光学素子の製造方法]
本発明の光学素子の製造方法は、基材の外周部の一部に遮光膜を設けた光学素子の製造方法であって、基材の外周部の表面に遮光塗料を塗布する工程と、塗布した遮光塗料を硬化する工程とを有する。本発明の光学素子の製造方法で用いる遮光塗料は、上記の遮光塗料を用いる。本発明の光学素子の製造方法では、上記の光学素子の材料や条件等を用いることが可能である。以下に、それぞれの工程について説明する。
【0046】
(遮光塗料の調整)
本発明の光学素子の製造方法で用いる遮光塗料は、上記の遮光塗料の材料を混合・分散することで調製することが好ましい。混合・分散方法としては、ボールミルやビーズミル、衝突分散装置、遊星回転式攪拌装置、ホモジナイザー、スターラーを用いることが可能である。
【0047】
尚、顔料を使用する場合は、ナノ分散させて用いることが好ましい。ナノ分散の具体的な方法としては、ビーズミルや衝突分散装置でナノ分散させる方法がある。またゾルゲル法で合成して合成中にナノ分散させても良いし、予めナノ分散された市販品を用いても良い。
【0048】
(遮光塗料を塗布する工程)
遮光塗料を塗布する工程では、ガラス基材の表面の一部に、上記の本発明の遮光塗料を塗布する。
【0049】
遮光塗料の塗付方法としては、所望の塗布形状に応じてディップ法、スピンコート法、スリットコート法、静電塗付法、はけ、スポンジ、バーコーターの如き塗付用冶具を用いての塗付方法を種々選択することが可能である。
【0050】
(遮光塗料を硬化する工程)
遮光塗料を硬化する工程では、塗布した遮光塗料を硬化させる。遮光塗料を硬化させるには、塗布した遮光塗料を乾燥させても良いし、焼成しても良い。本発明で使用されているエポキシ樹脂と硬化剤の硬化反応を促進するためには、以下の様な乾燥を行うことが望ましい。乾燥させる場合には、温度20℃以上100℃以下で乾燥させることが好ましく、温度40℃以上80℃以下で乾燥させることがより好ましく、温度40℃以上60℃以下で乾燥させることが更に好ましい。乾燥時間は、10分以上24時間以下が好ましく、30分以上24時間以下がより好ましく、1時間以上24時間以下が更に好ましい。焼成する場合には、温度40℃以上300℃以下であることが好ましく、温度40℃以上250℃以下であることがより好ましく、温度40℃以上200℃以下であることが更に好ましい。焼成時間は、10分以上10時間以下が好ましく、10分以上6時間以下がより好ましい。
【実施例
【0051】
以下に、本発明の実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明する。
実施例および比較例では、下記の測定方法および評価方法を使用した。
なお、以下に示す「部」は「質量部」を意味する。
【0052】
<光学特性の評価>
内面反射率は、図4に示すように、分光光度計(U-4000;日立ハイテク)を用いて測定を行った。測定用のサンプルには三角プリズムを用いた。14はプリズムを示す。三角プリズム14は、大きさが直角を挟む1辺の長さが30mm、厚み10mmで、材質がS-LaH53(nd=1.8;オハラ製)である。
【0053】
図4は三角プリズム14に対する入射角bが90°の測定方法を示す模式図である。まず、図4を用いて分光光度計を用いた測定方法について説明する。分光光度計より出た光は三角プリズム14に対して、入射角b=90°で入射する。このとき、空気の屈折率と三角プリズム14の屈折率(n)の差により、光の屈折が起こる。屈折後の入射角はc=68.13°である。入射角dに対する屈折後の角度eは下記の計算式(3)より算出した。また、屈折後のeより入射角cを算出した。
n=sin d/sin e 式(3)
【0054】
続いて、三角プリズム14で屈折した光は三角プリズム14の底面に当たり、反射して三角プリズム14の外に出る。この反射光の強度を波長400nmから700nmの可視光領域について検出器で検出した。尚、バックグラウンドは底面および入射面、反射面の3面が鏡面の三角プリズム14の底面に何も塗布しないサンプルとし、底面および入射面、反射面の3面が鏡面の三角プリズム14の底面に遮光膜1を形成した時の内面反射率を計測した。また、内面反射率は、波長400nmから700nmの可視光の内面反射を1nm間隔で測定し、その結果の平均値を記載した。
【0055】
<遮光塗料の温度20℃における粘度評価>
遮光塗料の温度20℃における粘度の評価は、温度を一定にして、音叉振動式粘度計(SV-1H[製品名](エー・アンド・デイ社製))を用いて評価した。
【0056】
<遮光塗料の塗料移動部の輝度評価>
光学素子用の染料濃度の塗布評価は、平板ガラス(MICRO SLIDGLASS S1126(松浪硝子工業社製))に遮光塗料を塗布し、乾燥中の塗料の移動を発生させた。
【0057】
具体的には、30mm×100mm×1mmの形状の平板ガラスの両端に10mm×100mm×0.065mmのカプトンテープをそれぞれ2枚ずつ重ねて貼り付け、平板ガラスとカプトンテープの段差(0.130mm)を設けたサンプルを作製した。
【0058】
得られた平板サンプルの塗布部(10mm×100mm×0.196mm)に光学素子用の遮光塗料をスライドスターで均一に塗布し、乾燥1時間後の塗布端部の塗料の輝度を評価した。
【0059】
輝度値の評価は、平板ガラスに塗布したサンプルを、塗布面を上面になるように、白色の紙上に置き、塗布面上面を撮影した後、画像処理を行うことで比較した。得られた画像のうち、塗布端部を抽出し、輝度値に対して256階調の二値化処理した後、平均値の算出を行い、輝度値とした。得られた256階調の輝度と内面反射の結果には、線形の相関関係があることを確認した。比較例1における輝度値を参考値として同様の処理を行い、各サンプルの輝度値を比較した。
以下の基準で効果を評価した。
A:輝度値の低減効果が参考値と比較して10%以上低減され良好である。
B:輝度値の低減効果が参考値と比較して10%未満であり不十分である。
【0060】
<遮光膜の外観評価>
光学素子用の遮光膜の外観評価は、評価用の材質がS-LaH53(nd=1.8;オハラ社製)の平板ガラスに膜厚10μmの厚みに形成し、以下の基準で評価した。
A:目視による遮光膜割れ、遮光膜のハガレが無く、均一な色味である。
B:目視による遮光膜割れ、遮光膜のハガレ、不均一な色味のいずれか一つに該当する。
【0061】
(実施例1)
<遮光塗料の調製>
以下の方法で遮光塗料を作製した。
まず、エポキシ樹脂(jER828[製品名](三菱化学社製))100部、クマロン-インデン樹脂(L-20[製品名](日塗化学社製))174部、染料(1)VALIFAST-BLACK3810[製品名](オリエント化学社製)21部、染料(2)VALIFAST-RED3320[製品名](オリエント化学社製)43部、染料(3)VALIFAST-YELLOW3108[製品名](オリエント化学社製)24部、染料(4)VALIFAST-BLUE2620[製品名](オリエント化学社製)43部、チタニア分散液(ND139[製品名](テイカ社製、チタニア濃度25質量%PGME分散液))580部、カップリング剤(KBM403[製品名](信越シリコーン))135部、有機溶媒プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)(キシダ化学社製)300部、疎水性シリカ(1)(アエロジルR972[製品名](日本アエロジル))45部、親水性シリカ(2)(アエロジル200[製品名](日本アエロジル))18部、防かび剤シントール(M-100[製品名](住化エンビロサイエンス社製))7部の割合で調整した遮光塗料前駆体を、撹拌用容器に投入し、撹拌用容器をロールコーターにセットし、66rpmで10時間撹拌した。溶剤の全量としては、チタニア分散液の内、75質量%のPGME345と有機溶媒として入れたPGME300の和である。
前記前駆体のエポキシ樹脂100部に対し、硬化剤(EH-6019[製品名](ADEKA社製))を110部の割合で混合し、遮光塗料を得た。
【0062】
次に、得られた遮光塗料を評価用の材質が平板ガラス(MICRO SLIDGLASS S1126(松浪硝子工業社製))の平板ガラスに膜厚130μmの厚みで塗布し、室温で60分間乾燥した。遮光塗料を乾燥した後に、温度140℃の恒温炉で2時間硬化し実施例1の遮光膜を得た。得られた光学素子輝度評価を上記の条件にて行った。
次に、得られた遮光塗料を評価用の材質がS-LaH53(nd=1.8;オハラ社製)の平板ガラスに膜厚10μmの厚みで塗布し、室温で60分間乾燥した。遮光塗料を乾燥した後に、温度140℃の恒温炉で2時間硬化し実施例1の遮光膜を得た。得られた遮光膜の外観評価を上記の条件にて行った。
【0063】
得られた遮光膜の主な成分と得られた光学素子輝度評価結果および膜の外観評価結果を表1に示す。
【0064】
(実施例2~5)
エポキシ樹脂、硬化剤、クマロン-インデン樹脂及び染料を表1に示す材料・条件にした以外は実施例1と同様にして、遮光塗料、遮光膜及び光学素子を作製し、評価した。得られた光学素子における輝度値評価結果及び外観評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例6~12)
実施例6~12では、クマロン-インデン樹脂の種類を変えた以外は実施例1と同様にして、遮光塗料、遮光膜及び光学素子を作製し、評価した。得られた光学素子における外観および輝度値および塗布評価結果を表1に示す。
実施例6では、クマロン-インデン樹脂(V-120[製品名](日塗化学社製))、実施例7では、クマロン-インデン樹脂(A-053[製品名](日塗化学社製))、実施例8では、クマロン-インデン樹脂(G-90[製品名](日塗化学社製))、実施例9では、クマロン-インデン樹脂(V-120S[製品名](日塗化学社製))、実施例10では、クマロン-インデン樹脂(L-5[製品名](日塗化学社製))、実施例11では、クマロン-インデン樹脂(PS-65[製品名](日塗化学社製))、実施例12では、クマロン-インデン樹脂(L-80[製品名](日塗化学社製))とした。
【0066】
(実施例13)
硬化剤の種類を硬化剤(jERキュア(R)H30[製品名](三菱化学社製))110部に変えた以外は実施例1と同様にして、遮光塗料、遮光膜及び光学素子を作製し、評価した。
【0067】
(比較例1)
クマロン-インデン樹脂の代わりに、キシレン樹脂(ニカノールY-50、[製品名](フドー社製))に変え、エポキシ樹脂及び硬化剤を表1に示す材料・条件にした以外は実施例1と同様にして、遮光塗料、遮光膜及び光学素子を作製し、評価した。得られた光学素子における内面反射および塗布評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例2~5)
クマロン-インデン樹脂を表1に示す材料・条件にした以外は実施例1と同様にして、遮光塗料、遮光膜及び光学素子を作製し、評価した。得られた光学素子における内面反射および塗布評価結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
〈評価結果〉
実施例1~13では、輝度値の低減効果が参考値と比較して10%以上低減され良好であった。また、塗膜の外観についても、ハガレや割れの発生がなく良好であった。
【0071】
これに対して、比較例1、比較例2、比較例3、比較例5については、輝度値の低減効果が参考値と比較して10%未満であり不十分であった。比較例3については、割れを生じた。比較例4については、溶剤拭きにおける染料の溶け出しが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の光学素子は、カメラ、双眼鏡、顕微鏡、半導体露光装置の如き光学機器に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 遮光膜
2 レンズ
3 入射光
4 透過光
5 入射光
6 反射光
7 界面
8 界面
9 反射光
10 透過光
11 反射光
12 稜線
13 遮光塗料が移動する現象
14 三角プリズム
図1
図2
図3
図4