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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20240919BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20240919BHJP
   C08J 9/04 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K5/49
C08J9/04 CES
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020064087
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161241
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】永井 麻美
(72)【発明者】
【氏名】乾 延彦
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-033519(JP,A)
【文献】特許第6618604(JP,B1)
【文献】特開2016-216382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 9/00-9/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、リン系難燃剤を10~40質量部含むポリオレフィン系樹脂組成物であって、該リン系難燃剤は、融点が200℃を超え、かつ平均粒径が100μm以下であり、メチルホスホン酸ジ-o-トリル及びポリリン酸メラミンから選択される少なくとも1種であり、前記リン系難燃剤が、10℃/minの昇温条件でTG-DTAを測定した場合の10質量%減少温度が340℃以上であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記難燃剤が、炭素数2以上の炭化水素基を有する、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記難燃剤が、ラジカルトラップ性官能基を含む、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂組成物からなる、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂組成物に関し、より詳細には、難燃性の高いポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂は、汎用樹脂として機械部品や自動車部品として、幅広い分野で使用されており、これらの分野では、安全性の観点で難燃性が要求される場合がある。ポリオレフィンは可燃性の樹脂であるため、難燃剤を配合して、難燃性を付与することが行われてきた。難燃剤としては、ハロゲン系、リン系、窒素系、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが知られているが、ハロゲン系難燃剤が、コストパフォーマンスが高く、多く使用されていた。
しかしながら、環境への影響に対する懸念から、ハロゲン系難燃剤を使用しない傾向にあり、代替の難燃剤としてリン系難燃剤が注目されている。ところが、リン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤に比較して性能に劣るため、多量に使用する必要があり、ポリオレフィン樹脂組成物の強度低下など、物性の低下が問題となっている。
このような状況下、特定の構造を有するポリオレフィンに、特定の構造からなるリン酸金属塩又はリン酸塩から選ばれる化合物を、難燃剤として配合したポリオレフィン樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-237019号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、炭素原子数5~20のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンを(共)重合して得られるポリオレフィン100質量部に対して、特定の構造のリン系難燃剤を1~150質量部含む難燃性ポリオレフィン樹脂組成物である(特許文献1、請求範囲)。しかしながら汎用のポリオレフィン樹脂として重要なポリエチレン、ポリプロピレン等については、その効果が実証されていない。
また、リン系難燃剤の配合量について、実施例では、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、44質量部配合しており、依然として、大量に配合する必要性がある。このような、難燃剤の大量の配合は、樹脂組成物の強度を低下させるなど、物性の低下を引き起こす可能性がある。
そこで、本発明は、ポリエチレン、ポリプロピレン等を含む汎用のポリオレフィン系樹脂に対して、比較的少量のリン系難燃剤の配合でも、良好な難燃性を示すポリオレフィン系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の融点と粒径を有するリン系難燃剤を用いることで、比較的少量のリン系難燃剤の配合でも、ポリオレフィン系樹脂組成物に優れた難燃性を付与し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供するものである。
【0006】
[1]ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、リン系難燃剤を1~100質量部含むポリオレフィン系樹脂組成物であって、該リン系難燃剤は、融点が200℃を超え、かつ平均粒径が100μm以下であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物。
[2]前記リン系難燃剤が、10℃/minの昇温条件でTG-DTAを測定した場合の10質量%減少温度が340℃以上である、上記[1]に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
[3]前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリオレフィン樹脂を40質量%以上含む、上記[1]又は[2]に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
[4]前記難燃剤のリン含有率が10質量%以上である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
[5]前記難燃剤が、炭素数2以上の炭化水素基を有する、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
[6]前記難燃剤が、ラジカルトラップ性官能基を含む、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
[7]前記難燃剤が、アルキルリン酸化合物である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
[8]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂組成物からなる、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ハロゲン系難燃剤を使用しなくても、比較的少量の難燃剤の添加で、十分な難燃性を示すポリオレフィン系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
[ポリオレフィン系樹脂組成物]
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、リン系難燃剤を1~100質量部含むことを特徴とする。
【0009】
<ポリオレフィン系樹脂>
本発明におけるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのオレフィンを(共)重合させたポリマーであるポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体など、オレフィンとオレフィン以外のその他のモノマー(共重合成分)との共重合体が挙げられる。本発明では、ポリオレフィン系樹脂中にポリオレフィン樹脂を40質量%以上含むことが好ましい。ポリオレフィン樹脂が40質量%以上であると柔軟性や耐薬品性の点で有利である。以上の観点から、ポリオレフィン樹脂の割合は60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0010】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂とを併用することがより好ましい。ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂とを併用することにより、柔軟性と強度を両立しやすくなる。
また、本発明のポリオレフィン系樹脂を発泡体に使用する場合には、ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂とを併用することにより架橋度や発泡倍率を調整しやすくなり、軽量性に優れる発泡体シートを得やすくなる。
【0011】
≪ポリエチレン樹脂≫
ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(0.930g/cm以下、LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(0.930g/cmより大きく0.942g/cm未満、MDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(0.942g/cm以上、HDPE)が挙げられる。また、低密度ポリエチレン樹脂の好適な具体例としては、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)が挙げられる。
【0012】
これらの中では、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂がより好ましい。これらの樹脂を使用することで、引張強度、引裂強度、衝撃強度に優れ、ヒートシール強度、耐熱性に優れるといった効果が得られる。
なお、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の密度は、好ましくは0.90g/cm以上であり、より好ましくは0.91g/cm以上0.93g/cm以下である。また、高密度ポリエチレン樹脂の密度は、好ましくは0.98g/cm以下であり、より好ましくは0.95g/cm以上0.97g/cm以下である。高密度ポリエチレン樹脂や直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の密度をこれら範囲内とすることで、上記効果が得られる。
【0013】
ポリエチレン樹脂は、エチレンのホモポリマーでもよいが、エチレンを主成分(全モノマーの好ましくは75質量%以上、より好ましくは90質量%以上)とした、エチレンと少量のα-オレフィンの共重合体等でもよい。α-オレフィンとしては、好ましくは炭素数3~12、より好ましくは炭素数4~10のものが挙げられ、具体的には、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられる。なお、共重合体において、これらのα-オレフィンは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、ポリエチレン樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
≪ポリプロピレン樹脂≫
ポリプロピレン樹脂としては、プロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレンでもよいし、プロピレンを主成分(全モノマーの好ましくは75質量%以上、より好ましくは90質量%以上)とした、プロピレンと少量のエチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
プロピレンと、エチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、ランダムブロック共重合体等が挙げられるが、これらの中でも、ランダム共重合体(すなわち、ランダムポリプロピレン)が好ましい。
プロピレン以外のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等の炭素数4~10程度のα-オレフィン等が挙げられるが、これらの中でも、成形性及び耐熱性の観点から、エチレンが好ましい。なお、共重合体において、これらのα-オレフィンは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、ポリプロピレン樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリオレフィン系樹脂として使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体は、例えば、エチレン由来の構成単位を50質量%以上含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体が挙げられる。
【0015】
本発明においては、チーグラー・ナッタ化合物、メタロセン化合物、酸化クロム化合物等の重合触媒で重合されたポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はこれらの混合物のいずれを用いてもよい。メタロセン化合物の重合触媒により得られた、ポリエチレン樹脂、特に直鎖状低密度ポリエチレンを用いることにより、例えば、樹脂シートとしたときには、柔軟性が高く、高い衝撃吸収性を有するシートが得られる。
【0016】
<リン系難燃剤>
本発明に係るリン系難燃剤としては、融点が200℃を超え、かつ平均粒径が100μm以下であれば、特に限定されず、種々の有機系リン化合物、無機系リン化合物を用いることができる。中でも、アルキルリン酸化合物、リン酸塩、ポリリン酸塩、亜リン酸塩、ホスファゼン系化合物が好適に挙げられる。これらの難燃剤は、難燃性が高く、かつポリオレフィン系樹脂組成物の粘度を極端に上げることがなく、取り扱いが容易である。
特に、ポリオレフィン系樹脂組成物への粘度の影響が小さく、取り扱いが容易という観点から、リン酸塩、ポリリン酸塩、アルキルリン酸化合物がより好ましく、中でもアルキルリン酸化合物がさらに好ましく、リン系スピロ化合物が特に好ましい。
【0017】
また、本発明に係るリン系難燃剤は、炭素数2以上の炭化水素基を有するリン系難燃剤、特にアルキルリン酸化合物であることが好ましい。炭素数2以上の炭化水素基を有することで、ポリオレフィン系樹脂との相互作用によって、リン系難燃剤の分散性が向上し、難燃性が向上する。以上の観点から、該炭化水素基の炭素数は4以上であることがより好ましく、6以上であることがさらに好ましい。
一方、当該炭化水素基の炭素数は、リン含有率が必要以上に低下することを避けるために、20以下であることが好ましく、15以下であることがさらに好ましい。
【0018】
ここで、リン系難燃剤に使用されるアルキルリン酸化合物において、「アルキル」は、アルキル基のみならず、飽和炭化水素基を含む概念である。また、リン酸化合物には、オルトリン酸エステルなどのオルトリン酸化合物のみならず、ホスホン酸エステルなどのホスホン酸化合物なども含まれる。
具体的なアルキルリン酸化合物としては、メチルホスホン酸ジ-o-トリル、ベンジルホスホン酸ジエチルなどのホスホン酸エステルが例示されるほか、リン系スピロ化合物等が挙げられる。
【0019】
〔リン系スピロ化合物〕
リン系スピロ化合物としては、リン原子を有するスピロ化合物であれば特に限定されない。なお、スピロ化合物とは、二つの環状化合物が一つの炭素を共有した構造を有する化合物であり、リン原子を有するスピロ化合物とは、上記二つの環状化合物を構成する元素の少なくとも一つがリン原子である化合物である。
リン系スピロ化合物としては、例えば、以下の式(1)で表される構造を有する化合物を用いることが好ましい。なお、式(1)において、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基又はアントリル基からそれぞれ選択され、同一でも異なっていてもよい。また、R及びRは、置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基又はアントリル基からそれぞれ選択され、同一でも異なっていてもよい。
【0020】
【化1】
(1)
【0021】
〔リン酸塩及びポリリン酸塩〕
リン酸塩としては、オルトリン酸ピペラジン塩、ピロリン酸メラミン塩、ピロリン酸ピペラジン塩、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、及びリン酸マグネシウム等が挙げられる。
ポリリン酸塩としては、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム塩、及びポリリン酸ピペラジン塩等が挙げられる。
これらの中でも、ピロリン酸メラミン塩、ピロリン酸ピペラジン塩、及びポリリン酸アンモニウム塩から選ばれる1種以上が好ましく、ピロリン酸ピペラジン塩とピロリン酸メラミン塩とを併用することがより好ましい。ピロリン酸ピペラジン塩とピロリン酸メラミン塩とを併用する場合、ピロリン酸ピペラジン塩に対するピロリン酸メラミン塩の質量比(ピロリン酸メラミン塩/ピロリン酸ピペラジン塩)は、0.25以上1.0以下であることが好ましい。
【0022】
前記リン酸塩及びポリリン酸塩の例示における「メラミン」又は「ピペラジン」は、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノメタン、エチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-ジエチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノへプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9ージアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、trans-2,5-ジメチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-エトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-プロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-イソプロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、アンメリン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレート、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3-ヘキシレンジメラミンに置き換えた名称の化合物も使用することができる。
【0023】
本発明においては、前記リン酸塩及びポリリン酸塩の1種を単独で用いてもよく、また、イントメッセント系難燃剤として前記リン酸塩及びポリリン酸塩から選ばれる2種以上を混合して用いてもよく、更に、イントメッセント系難燃剤として、前記リン酸塩及びポリリン酸塩から選ばれる1種以上と金属酸化物とを混合して用いてもよい。
リン酸塩及びポリリン酸塩から選ばれる1種以上と併用する金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マンガン(MnO、MnO)、酸化鉄(FeO、Fe、Fe)、酸化銅、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化アルミニウム、及びアルミン酸カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、及び酸化カルシウムが好ましい。
リン酸塩及びポリリン酸塩から選ばれる1種以上と、金属酸化物とを混合して用いる場合、これらの質量比は以下のとおりに調整することが好ましい。金属酸化物に対するリン酸塩及びポリリン酸塩から選ばれる1種以上の質量比〔リン酸塩及びポリリン酸塩の合計質量/金属酸化物の質量〕は、難燃性を向上させる観点から、好ましくは4以上100以下、より好ましくは6以上50以下、更に好ましくは10以上35以下である。
【0024】
前記リン酸塩及びポリリン酸塩から選ばれる1種以上を含む難燃剤の市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製「アデカスタブ FP-2100J」、「アデカスタブ FP-2200S」、「アデカスタブ FP-2500S」、クラリアントジャパン株式会社製「EXOLIT AP422」、「EXOLIT AP462」等が挙げられる。
【0025】
[亜リン酸塩]
亜リン酸塩としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸金属塩が挙げられる。
【0026】
〔ホスファゼン系化合物〕
ホスファゼン系化合物は、分子中に-P=N-結合を有する有機化合物である。ホスファゼン系化合物としては、比較的高い分解温度を有することより、好ましくは、下記一般式(2)で表されるものが好ましい。
【0027】
【化2】
【0028】
上記式(2)中、R~Rはそれぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、アミノ基、ハロゲン原子のいずれかを示す。
【0029】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、リン系難燃剤を1~100質量部含む。リン系難燃剤の含有量が1質量部未満では、難燃剤としての効果を示さない。一方、100質量部を超えて含有させると、相対的にポリオレフィン系樹脂の含有量が低くなり、樹脂としての機能を果たさない。以上の観点から、リン系難燃剤の含有量は、5~80質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがさらに好ましく、20~40質量部であることが特に好ましい。
【0030】
本発明に係るリン系難燃剤は、融点が200℃を超え、かつ平均粒径が100μm以下であることが特徴である。
融点が200℃以下であると、十分な難燃性が得られない。一方、融点の上限は特に限定されないが、通常650℃程度である。以上の観点から、リン系難燃剤の融点は、240~600℃が好ましく、250~550℃がより好ましく、255~500℃が更に好ましい。なお、測定はJIS K7121に準拠して行う。
また、リン系難燃剤には、融点を有さず、ある温度以上で分解するものがあるが、本発明においては、200℃を超えて、融解せずに分解する化合物も融点が200℃を超えているものとする。
【0031】
また、本発明に係るリン系難燃剤は、平均粒径が100μm以下である。平均粒径が100μmを超えると樹脂中での分散性が悪く強度が低下する点で問題となる。以上の観点から、リン系難燃剤の粒径は、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。
一方、下限値については、特に限定されないが、通常0.5μm程度であり、10μm以上であることが好ましい。測定は湿式粒度分布測定法で行う。
【0032】
本発明に係るリン系難燃剤のリン含有率は、10質量%以上であることが好ましい。リンの含有率が10質量%以上であることで、十分な難燃性を得ることができる。以上の観点から、リン系難燃剤中のリン含有率は、13質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。一方、リン含有率の上限については、特に制限はないが、樹脂との相溶性が悪化する傾向にあるため、35質量%以下であることが好ましい。
【0033】
また、本発明に係るリン系難燃剤は、ラジカルトラップ性官能基を有することが好ましい。ラジカルトラップ性官能基は、燃焼を促進するOHラジカル等を捕捉し、燃焼の進行を抑制する機能を有する。すなわち、リン系難燃剤の難燃性をさらに高める効果を有するものである。ラジカルトラップ性官能基としては、フェニル基、二重結合、カルボニル基、ヒンダードアミン基等が挙げられる。
ヒンダードアミン基としては、例えば、下記一般式(3)に示す分子構造のものが挙げられる。式(3)における分子構造においては、水素原子がアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子などの他の原子に置換されていてもよい。また、式(3)において、Rは、H、アルキル基、ヒドロキシル基、又はアルコキシ基を示す。
【0034】
【化3】
・・・(3)
【0035】
(熱分析)
本発明のリン系難燃剤は、10℃/minの昇温条件でTG-DTAを測定した場合の10質量%減少温度が340℃以上であることが好ましい。本発明のポリオレフィン系樹脂組成物の熱的安定性が高いことを示すものであり、10質量%減少温度が360℃以上であることがさらに好ましい。
【0036】
[その他の難燃剤]
本発明では、リン系難燃剤を必須の構成要件とするが、その他の難燃剤を含んでいてもよく、具体的には、金属水酸化物、アンチモン系などの無機系の難燃剤が挙げられる。また、臭素系難燃剤及び塩素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤は、少量であれば併用することもできるが、環境問題からその使用は制限され、使用しないことが好ましい。
【0037】
<発泡剤>
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、発泡体シートとして使用することができ、その場合には、ポリオレフィン系樹脂組成物に発泡剤を含むことが好ましい。発泡剤としては、熱分解型発泡剤が好ましい。
熱分解型発泡剤としては、有機発泡剤、無機発泡剤が使用可能である。有機発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸金属塩(アゾジカルボン酸バリウム等)、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、ヒドラゾジカルボンアミド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、トルエンスルホニルヒドラジド等のヒドラジン誘導体、トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物等が挙げられる。
無機発泡剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、無水クエン酸モノソーダ等が挙げられる。
これらの中では、微細な気泡を得る観点、及び経済性、安全面の観点から、アゾ化合物が好ましく、アゾジカルボンアミドがより好ましい。
熱分解型発泡剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
樹脂組成物における発泡剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下が好ましく、5質量部以上35質量部以下がより好ましく、10質量部以上30質量部以下がさらに好ましい。発泡剤の配合量を1質量部以上にすることで、発泡性シートは適度に発泡され、適度な柔軟性と衝撃吸収性を発泡体シートに付与することが可能になる。また、発泡剤の配合量を30質量部以下にすることで、発泡体シートが必要以上に発泡することが防止され、発泡体シートの機械強度等を良好にすることができる。
【0039】
[その他添加剤]
本願のポリオレフィン系樹脂組成物には、酸化防止剤が配合されていてもよい。酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等のフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、例えば樹脂100質量部に対して0.01~5質量部配合される。
当該樹脂組成物には、これら以外にも、熱安定剤、着色剤、リン系以外の難燃剤、帯電防止剤、充填材、架橋剤等の添加剤が配合されてもよい。
【0040】
[発泡体シート]
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂発泡シートに好適に用い得る。
【0041】
<見掛け密度>
発泡体シートとした場合には、見掛け密度が0.045g/cm以下であることが好ましい。発泡体シートの見掛け密度が0.045g/cm以下であると、発泡体シートを十分に軽量化することができる。発泡体シートの軽量化の観点から、発泡体シートの見掛け密度は、0.040g/cm以下がより好ましく、0.035g/cm以下が更に好ましい。
一方、発泡体シートの見掛け密度は、0.010g/cm以上が好ましく、0.013g/cm以上がより好ましい。発泡体シートの見掛け密度を0.010g/cm以上とすることにより、軽量性を維持しつつ機械強度を確保することができる
なお、発泡体シートの見掛け密度は、JIS K7222:2005に準拠して測定する。
【0042】
<架橋度(ゲル分率)>
発泡体シートは、軽量であっても機械強度を向上させる観点から、架橋したものが好ましく、その場合の架橋度(ゲル分率)は、15~65質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましい。ゲル分率が前記下限値以上であると、発泡体シートにおいて十分な架橋が形成されるため機械強度が高くなりやすい。また、架橋度がこれら上限値以下であると、発泡体シートの柔軟性等を確保しやすくなる。このような観点から、架橋度は、25~55質量%が更に好ましく、30~55質量%がより更に好ましく、35~55質量%がより更に好ましい。
なお、架橋度は以下の方法により測定することができる。
架橋度(ゲル分率)の測定
発泡体シートから約100mgの試験片を採取し、試験片の重量A(mg)を精秤した。次に、この試験片を120℃のキシレン30cm3中に浸漬して24時間放置した後、200メッシュの金網で濾過して金網上の不溶解分を採取、真空乾燥し、不溶解分の重量B(mg)を精秤する。得られた値から、下記式により架橋度(質量%)を算出する。
架橋度(質量%)=(B/A)×100
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各物性の測定方法、シートの評価方法は以下のとおりである。
【0044】
[測定方法]
本明細書における各物性の測定方法は、次の通りである。
1.難燃剤
(1)融点(℃);JIS K7121に準拠して測定した。なお、融点を示さず、分解する化合物は、融点については「無」と記載した。これらの化合物は、融解せずに、分解温度で分解した。また、常温、常圧で液体であるものについては、「<23」と記載した。
(2)分解開始温度(℃);10mgの難燃剤を加熱し、難燃剤の質量が10%減少した時点での温度を分解開始温度とした。
(3)リン含有率(質量%);難燃剤中のリンの含有量をフラスコ燃焼法で測定した。
(4)平均粒径(μm);難燃剤の平均粒径を湿式粒度分布測定法で測定した。
【0045】
2.シート物性
各実施例及び比較例で作製した樹脂組成物を、180℃、15MPaで熱プレスすることにより、0.5mm厚のポリオレフィン樹脂シートを作製した。該樹脂シートについて、以下の物性を評価した。
(1)機械物性
(1-1)シート厚み(mm);ダイヤルゲージを用いて測定した。
(1-2)引張強さ(MPa);JIS K 6767に準拠して測定した。
(1-3)引張強さの変化率(%);難燃剤を含まないポリオレフィン系樹脂組成物の引張強さに対する変化率を示した。100%の場合には、難燃剤の有無によらずに、引張強度が変化しないことを意味する。すなわち、100%からの数字の変化が大きいほど、変化率が大きいと判断される。
(2)燃焼挙動;シートを加熱し、質量が10%減少した時点を分解開始温度(℃)と定義した。
(3)難燃性;垂直燃焼試験機(須賀試験機株式会社製、燃焼性試験器CS-1S)を用いて測定を行った。下端部から150mmの高さまで燃焼するのにかかる時間を測定し、燃焼速度(mm/s)を算出した。150mmの高さまで燃焼せず消炎した場合、消炎時間と燃焼した距離から燃焼速度を算出した。
【0046】
<使用原料>
実施例及び比較例で用いた材料は以下のとおりである。
〔ポリオレフィン系樹脂〕
・ポリプロピレン:日本ポリプロ株式会社製「EG7F」
・ポリエチレン:ダウ・ケミカル社製「5220G」
〔難燃剤〕
・難燃剤A:3,9-ビス(フェニルメチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン
・難燃剤B:メチルホスホン酸ジ-o-トリル
・難燃剤C:ベンジルホスホン酸ジエチル
・ポリリン酸メラミン(日産化学株式会社製)
・ポリリン酸アンモニウム(クラリアントジャパン株式会社製)
・トリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスファート
・ヘキサメタリン酸ナトリウム
【0047】
実施例1
ポリプロピレン80質量部、ポリエチレン20質量部、難燃剤(アルキルリン酸A)30質量部、及び酸化防止剤として、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.5質量部及びジラウリルチオジプロピオネート0.3質量部をラボプラストミルで混練した。その後、180℃、15MPaで熱プレスすることにより、0.5mm厚の樹脂シートを作製した。上記評価方法により測定した結果を第1表に示す。
【0048】
実施例2~4及び比較例1~4
実施例1において、表1に示すように組成を変えたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂シートを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
上記の結果から明らかなように、本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物を用いたシートは難燃性が高く、機械物性も良好であることがわかる。一方、比較例の樹脂組成物は、引張強さの変化率が大きく、難燃剤を含有することによって、機械物性が大きく低下する。また、比較例2~4に係る樹脂組成物では、燃焼速度が速く、難燃性に劣ることがわかる。