(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】樹脂組成物、該樹脂組成物の製造法および該樹脂組成物を用いた成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20240919BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20240919BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240919BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240919BHJP
C08J 3/205 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C08L29/04 B
C08L23/12
C08K7/02
C08J5/04 CES
C08J3/205
(21)【出願番号】P 2020094374
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019104456
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】小島 直紀
(72)【発明者】
【氏名】有留 憲文
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-515643(JP,A)
【文献】特開2012-149246(JP,A)
【文献】国際公開第2009/072613(WO,A1)
【文献】特開2016-064501(JP,A)
【文献】特開2005-298697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08J 3/00- 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と水溶性ポリマーとを含む、樹脂組成物の製造方法であって、
水溶性ポリマーを溶媒に溶解させて溶液を調製すること、
該溶液と熱可塑性樹脂とを溶融混練すること、および
溶融混練後、該溶媒を除去することを含み、
該熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネート系樹脂であり、
該水溶性ポリマーが、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリマレイン酸系樹脂またはセルロース系樹脂である、
樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーが、ポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の重合度が、200~2500である、請求項2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度が、90mol%以上である、請求項2または3に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である、請求項1から4のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が、水である、請求項1から5のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記溶液の水溶性ポリマー濃度が、5重量%~50重量%である、請求項1から6のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記溶液と前記熱可塑性樹脂との溶融混練を、連続式の溶融混練装置を用いて行う、請求項1から7のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
水溶性ポリマーと熱可塑性樹脂とを溶融混練することと、
該溶融混練により得られた混合物を、せん断速度が100sec
-1以上となるようにして押し出すこととを含む、
請求項1から8のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法により得られた、樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂組成物から形成された成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、該樹脂組成物の製造法および該樹脂組成物を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、機械的強度に優れた樹脂成形体を得るため、ガラス繊維、タルク等のフィラーが配合された樹脂組成物が用いられている。しかしながら、各種用途に使用される樹脂成形体の軽量化の要望が高まっている中で、ガラス繊維、タルク等の添加は樹脂成形体の高比重下の原因となり、機械的強度と軽量性とが高度に両立した樹脂成形体を形成し得る樹脂組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、機械的強度に優れ、かつ、軽量な成形体を形成し得る樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と水溶性ポリマーとを含み、該水溶性ポリマーが、該熱可塑性樹脂中で繊維状に分散している。
1つの実施形態においては、上記水溶性ポリマーが、ポリビニルアルコール系樹脂である。
1つの実施形態においては、上記ポリビニルアルコール系樹脂の重合度が、200~2500である。
1つの実施形態においては、上記ポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度が、90mol%以上である。
1つの実施形態においては、上記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である。
1つの実施形態においては、上記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂である。
本発明の別の局面によれば、上記樹脂組成物の製造方法が提供される。この製造方法は、水溶性ポリマーを溶媒に溶解させて溶液を調製すること、該溶液と熱可塑性樹脂とを溶融混練すること、および溶融混練後、該溶媒を除去することを含む。
1つの実施形態においては、上記溶媒が、水である。
1つの実施形態においては、上記溶液の水溶性ポリマー濃度が、5重量%~50重量%である。
1つの実施形態においては、上記溶液と上記熱可塑性樹脂との溶融混練を、連続式の溶融混練装置を用いて行う。
本発明のさらに別の局面によれば、上記樹脂組成物の製造方法が提供される。この製造方法は、水溶性ポリマーと熱可塑性樹脂とを溶融混練することと、該溶融混練により得られた混合物を、せん断速度が100sec-1以上となるようにして押し出すこととを含む。
本発明のさらに別の局面によれば、成形体が提供される。この成形体は、上記樹脂組成物から形成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、機械的強度に優れ、かつ、軽量な成形体を形成し得る樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例および比較例にて得られた成形体の光学顕微鏡写真図である。
【
図2】実施例にて得られた成形体のSEM写真図である。
【
図3】実施例にて得られた成形体のSEM写真図である。
【
図4】実施例にて得られた樹脂組成物中の水溶性ポリマーの分散状態を示すの顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と水溶性ポリマーとを含む。水溶性ポリマーは、熱可塑性樹脂中で繊維状に分散している。
【0009】
代表的には、樹脂組成物は固体であり、1つの実施形態においては、ペレットとして提供される。本発明の樹脂組成物は、繊維状に分散した水溶性ポリマーを含むことにより、機械的強度に優れる成形体を形成し得る。また、水溶性ポリマーにより機械的強度向上が可能になることから、本発明の樹脂組成物を用いれば、従来のフィラー(例えば、ガラス繊維、タルク等)により高強度化が図られた樹脂組成物に比べて、軽量な成形体を形成すすることができる。すなわち、本発明の樹脂組成物によれば、従来のフィラー(例えば、ガラス繊維、タルク等)を含む樹脂組成物から得られた成形体と同等あるいは同等以上に機械的強度に優れ、かつ、より軽量な成形体を形成することができる。
【0010】
A-1.熱可塑性樹脂
上記熱可塑性樹脂は、本発明の効果が得られる限り、任意の適切な熱可塑性樹脂が用いられ得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。なかでも好ましくは、ポリオレフィン系樹脂である。ポリオレフィン系樹脂を用いれば、より機械的強度に優れる成形体を得ることができる。
【0011】
上記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、α-オレフィンの単独重合体、α-オレフィン由来の構成単位を含む共重合体等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂として、2種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
上記ポリオレフィン系樹脂を構成するα-オレフィンとしては、炭素数が2~10のα-オレフィンが好ましく、炭素数が2~8のα-オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンまたは1-ブテンがさらに好ましく、プロピレンが特に好ましい。
【0013】
1つの実施形態においては、ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂が用いられる。ポリプロピレン系樹脂を用いれば、当該樹脂中で水溶性ポリマーを分散性よく存在させることが可能となり、繊維状の水溶性ポリマーを含ませることの効果が顕著となり、機械的強度が特に優れる成形体を形成し得る樹脂組成物を得ることができる。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンとプロピレンと共重合可能なその他のモノマーとの共重合体が挙げられる。好ましくは、プロピレンの単独重合体である。プロピレンと共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、例えば、エチレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-イコセン等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂中のプロピレン由来の構成単位の含有割合は、好ましくは50mol%以上であり、より好ましくは80mol%以上であり、より好ましくは90mol%以上であり、さらに好ましくは95mol%以上である。
【0014】
上記熱可塑性樹脂の230℃、2.16kgfにおけるメルトフローレートは、好ましくは0.1g/10min~100g/minであり、より好ましくは0.5g/10min~80g/minであり、さらに好ましくは1g/10min~50g/minである。このような範囲であれば、成形加工性に特に優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0015】
上記熱可塑性樹脂の含有割合は、樹脂組成物100重量部に対して、好ましくは70重量部~97重量部であり、より好ましくは80重量部~95重量部であり、さらに好ましくは85重量部~95重量部である。
【0016】
A-2.水溶性ポリマー
水溶性ポリマーとは、25℃における水100gに対して1g以上溶解する高分子化合物である。上記水溶性ポリマーとしては、本発明の効果が得られる限り、任意の適切な水溶性ポリマーが用いられ得る。水溶性ポリマーとしては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等の水素結合可能な極性官能基を有するポリマーが挙げられる。水溶性ポリマーの具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリマレイン酸系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。
【0017】
1つの実施形態においては、水溶性ポリマーとしてポリビニルアルコール系樹脂が用いられる。代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系ポリマーを鹸化して得られる。
【0018】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコールの他、ビニルアルコール由来の構成単位を含む共重合体であってもよい。当該共重合体が含むビニルアルコール由来の構成単位(および、酢酸ビニル由来の構成単位)以外の構成単位(以下、「その他の構成単位」ともいう)としては、ジヒドロキシアルキル基、アセトアセチル基、オキシアルキレン基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基等を有する単位、エチレン等のオレフィン由来の単位等が挙げられる。共重合体としてのポリビニルアルコール系樹脂の具体例としては、例えば、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合体(BVOH)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等が挙げられる。
【0019】
共重合体としてのポリビニルアルコール系樹脂において、その他の構成単位の含有割合は、ポリビニルアルコール系樹脂を構成する全構成単位に対して、好ましくは2mol%~30mol%であり、より好ましくは5mol%~20mol%である。
【0020】
上記ポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度は、好ましくは90mol%以上であり、より好ましくは95mol%以上であり、さらに好ましくは98mol%以上である。このような範囲であれば、繊維状のポリビニルアルコール系樹脂の強度が上がり、機械的強度向上に寄与し得る樹脂組成物を得ることができる。鹸化度は、JIS K6726に準じて測定することができる。
【0021】
上記ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、好ましくは200~2500であり、より好ましくは200~1000である。このような範囲であれば、溶解しやすいポリビニルアルコール系樹脂とすることができる。当該ポリビニルアルコール系樹脂は繊維状に分散しやすく、当該ポリビニルアルコール系樹脂を用いれば、機械的強度向上に寄与し得る樹脂組成物を得ることができる。重合度は、JIS K 6726に準じて測定することができる。
【0022】
上記水溶性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは8000~100000であり、より好ましくは8000~45000である。水溶性ポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー方法により測定することができる。
【0023】
上記水溶性ポリマーの融点は、上記熱可塑性樹脂の融点よりも高いことが好ましい。水溶性ポリマーの融点は、上記熱可塑性樹脂の融点よりも、20℃以上高いことが好ましく、35℃以上高いことがより好ましい。水溶性ポリマーの融点は、好ましくは180℃~250℃であり、より好ましくは190℃~230℃である。
【0024】
上記のとおり、水溶性ポリマーは、繊維状である。水溶性ポリマーが繊維状であることにより、機械的強度が優れる成形体を形成し得る樹脂組成物を得ることができる。樹脂組成物中、水溶性ポリマーの繊維径(数平均径)は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。水溶性ポリマーの繊維径(数平均径)の下限は、例えば、0.1μmである。また、水溶性ポリマーの繊維長(数平均長)は、好ましくは50μm以上であり、より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは200μm以上である。水溶性ポリマーの繊維長(数平均長)の上限は例えば、2000μmである。また、水溶性ポリマーのアスペクト比(繊維長/繊維径)は、好ましくは5以上2000以下であり、より好ましくは8以上1000以下であり、さらに好ましくは10以上500以下である。このような形状の水溶性ポリマーが樹脂組成物中に分散していることにより、より機械的強度に優れる成形体を形成し得る樹脂組成物を得ることができる。
【0025】
上記水溶性ポリマーの含有割合は、樹脂組成物100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部であり、より好ましくは5重量部~15重量部である。このような範囲であれば、機械的強度が特に優れる成形体を形成し得る樹脂組成物を得ることができる。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、任意の適切な添加剤をさらに含み得る。添加剤としては、例えば、流動改質剤、メヤニ防止剤、熱安定剤、耐候剤等の安定剤、顔料、染料等の着色剤、滑剤、架橋剤、架橋助剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、有機フィラー、無機フィラー等が挙げられる。
【0027】
B.樹脂組成物の製造方法
1つの実施形態においては、本発明の樹脂組成物の製造方法は、水溶性ポリマーを溶媒に溶解させて溶液を調製すること;該溶液と熱可塑性樹脂とを溶融混練すること;および溶融混練後、該溶媒を除去することを含む。このような製造方法により、上記樹脂組成物、すなわち、繊維状に分散した水溶性ポリマーを含む樹脂組成物を得ることができる。なお、本明細書において溶融混練とは、上記熱可塑性樹脂が溶融する条件で行う混練を意味する。
【0028】
上記溶液の水溶性ポリマー濃度は、好ましくは5重量%~50重量%であり、より好ましくは10重量%~40重量%であり、さらに好ましくは15重量%~25重量%である。このような範囲であれば、好ましく繊維化された水溶性ポリマーが熱可塑性樹脂中で分散性よく存在して構成された樹脂組成物を得ることができる。
【0029】
上記溶媒としては、25℃において1重量%以上の濃度で上記水溶性ポリマーを溶解し得る限り、任意の適切な溶媒が用いられ得る。上記溶媒としては、例えば、水、アルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、アセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、2種類以上の溶媒を混合して使用することもできる。なかでも好ましくは、水である。
【0030】
上記水溶性ポリマー溶液は、必要に応じて、任意の適切な添加剤をさらに含み得る。添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、流動改質剤、界面活性剤、塩、有機フィラー、無機フィラー等が挙げられる。
【0031】
溶融混練の方法としては、例えば、単軸押出機、多軸押出機、タンデム式押出機、バンバリーミキサー等の混練装置を用いた方法が挙げられる。
【0032】
1つの実施形態においては、上記溶液と熱可塑性樹脂との溶融混練は、連続式の溶融混練装置(例えば、2軸押出機)を用いて行われる。
【0033】
1つの実施形態においては、上記溶液と熱可塑性樹脂とは、別々に混練装置に投入される。好ましくは、熱可塑性樹脂を溶融状態にした後、当該熱可塑性樹脂に上記溶液を添加するという手順で、上記溶液と熱可塑性樹脂とが混練装置に投入される。例えば、材料の投入口であるメインスロートと、混練後に得られた樹脂組成物を吐出する吐出口と、メインスローと吐出口との間に設けられたサイドフィーダー(液添ノズル)を備える連続式の溶融混練装置を用い、メインスロートから熱可塑性樹脂を投入し、当該熱可塑性樹脂を溶融状態した後、サイドフィーダーから、上記溶液を投入する。1つの実施形態においては、溶融混練装置の内部圧力よりも高い圧力で上記溶液を圧入することにより、当該溶液の添加が行われる。
【0034】
溶融混練の加工条件は、本発明の効果が得られる限り、任意の適切な条件が採用され得る。
【0035】
上記溶融混練時の溶融温度は、上記熱可塑性樹脂を溶融させ得る温度とされ、例えば、100℃~300℃である。また、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン系樹脂を用いる場合、上記溶融混練時の溶融温度は、好ましくは160℃~230℃であり、より好ましくは180℃~210℃である。
【0036】
上記溶融混練時のスクリュー回転数は、好ましくは50rpm~500rpmであり、より好ましくは100rpm~300rpmである。このような範囲であれば、水溶性ポリマーを特に好ましく繊維化することができる。
【0037】
溶融混練後の溶媒除去は、任意の適切な方法により行うことができる。1つの実施形態においては、連続式の溶融混練装置に真空ベントを設け、当該真空ベントにより溶融混練装置内部を減圧することにより、溶液と熱可塑性樹脂とを含む溶融混練後の混合物から、溶媒を除去する。
【0038】
別の実施形態においては、水溶性ポリマー(例えば、粉末状の水溶性ポリマー)と熱可塑性樹脂とを溶融混練し、押し出してペレットを得る際にダイス出口で十分な流動速度(せん断速度)を与えることにより、上記樹脂組成物を得ることができる。このような製造方法によっても、繊維状に分散した水溶性ポリマーを含む樹脂組成物を得ることができる。
【0039】
好ましくは、せん断速度が100sec-1以上となるようにして、水溶性ポリマーと熱可塑性樹脂との混合物(溶融混練後の混合物)を押し出す。当該せん断速度は、より好ましくは1000sec-1以上である。溶融成形時の樹脂組成物のせん断速度の上限は、例えば、10000sec-1である。このような範囲であれば、上記のように、水溶性ポリマーの配向性が高くなり、機械的強度により優れる成形体を形成し得る樹脂組成物を得ることができる。
【0040】
1つの実施形態においては、上記樹脂組成物は、ペレット状で提供される。樹脂組成物のペレット化は、任意の適切な方法により行われ得る。
【0041】
C.成形体
本発明の樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形体を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形(シート成形、フィルム成形)およびブロー成形などが挙げられる。なかでも好ましくは、射出成形である。
【0042】
溶融成形時、溶融した樹脂組成物の流動速度は、所望特性の成形体が成型可能な範囲で速いことが好ましい。例えば、上記成形の際に、ダイス出口、金型内部で十分な流動速度(せん断速度)を与えることで、水溶性ポリマーの配向性が高くなり、機械的強度により優れる成形体を得ることができる。溶融成形時の樹脂組成物のせん断速度は、好ましくは100sec-1以上であり、より好ましくは1000sec-1以上である。溶融成形時の樹脂組成物のせん断速度の上限は、例えば、10000sec-1である。このような範囲であれば、上記のように、水溶性ポリマーの配向性が高くなり、機械的強度により優れる成形体を得ることができる。
【0043】
溶融成形時の溶融温度は、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂が溶融し得る温度であり、かつ、水溶性ポリマーが繊維状を維持し得る温度であることが好ましい。
【0044】
上記成形体は、用途に応じて、例えば、シート状、フィルム状、棒状、チューブ状、塊状、異形状等に成形され得る。上記成形体の形態としては、例えば、容器、冷凍バッグ、ブローボトル、トレー、包装材、テープ、蓋材等が挙げられる。また、被覆材として上記成形体を用いることもできる。また、本発明の樹脂組成物を用いれば、機械機構部品、電気部品、電子部品、自動車部品の成形体を得ることもできる。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。実施例における評価方法は以下のとおりである。なお、部および%は特に断りのない限り重量基準に基づく。
【0046】
(1)成形体の引張降伏応力、弾性率
JIS K 7162に準拠し、試料厚み4.0mm、試験速度50mm/分、23℃ で測定した。なお、引張方向は、樹脂組成物の射出方向と平行な方向とした。
【0047】
(2)成形体の比重
JIS K7112に準拠し、適切な形状の試験片を用いて水中置換法で測定した。
【0048】
[実施例1]
(水溶性ポリマー水溶液の調整)
精製水80重量部に対し、水溶性ポリマーA1(ブテンジオールビニルアルコールコポリマー、日本合成化学工業社製、商品名「G-Polymer OKS-1011」、完全鹸化、重合度:300)20重量部を投入して、90℃/1時間条件で攪拌し、水溶性ポリマー水溶液を得た。
(樹脂組成物の形成)
二軸押出機(東芝機械製、商品名「TEM37SS」)に、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン、日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックMA1B」)を投入し、200℃に加熱して、当該ポリオレフィン樹脂を溶融状態とした。その後、ポリオレフィン樹脂90重量部に対する水溶性ポリマーの量が10重量部となるように、上記水溶性ポリマー水溶液を、押出機内部圧力より高い圧力で注入した。その後、ポリオレフィン樹脂と水溶性ポリマーとを、200℃の温度で精製水が気化しない圧力を維持し十分に混練した。
次いで、含有水分を二軸押出機の真空ベント部分より強制的に脱揮処理し、ポリオレフィン樹脂90重量部中に水溶性ポリマー10重量部を含有するペレット状の樹脂組成物を得た。
(射出成型)
上記樹脂組成物を、射出成型機(東洋機械金属社製、商品名「SI-80IV-D150B」200t)で成形温度200℃にて成形し、JIS K 7141準拠の試験片を得た。得られた試験片を恒温恒湿室で24時間状態調整した後、上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
水溶性ポリマーA1に代えて、水溶性ポリマーA2(ポリビニルアルコール、クラレ社製、商品名「クラレポバールPVA-110」、完全鹸化、重合度:1000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を成形した。得られた試験片を恒温恒湿室で24時間状態調整した後、上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
二軸押出機(東芝機械製、商品名「TEM37SS」)に、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン、日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックMA1B」)と粉末状の水溶性ポリマー(ブテンジオールビニルアルコールコポリマー、日本合成化学工業社製、商品名「G-Polymer OKS-1011」、完全鹸化、重合度:300)とを投入し、200℃に加熱して、樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を成形した。得られた試験片を恒温恒湿室で24時間状態調整した後、上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例2]
水溶性ポリマー水溶液を調整せず、二軸押出機で溶融混練する際に、水溶性ポリマー(ポリビニルアルコール、クラレ社製、商品名「クラレポバールPVA-110」、完全鹸化、重合度:1000)を粉末状態で添加したこと以外は、実施例2と同様にして、試験片を成形した。得られた試験片を恒温恒湿室で24時間状態調整した後、上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例3]
水溶性ポリマー水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ポリオレフィン樹脂を二軸押出機に素通して、試験片を成形した。得られた試験片を恒温恒湿室で24時間状態調整した後、上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例4]
水溶性ポリマー水溶液に代えて、無機フィラー(日本タルク社製、商品名「PC-25」)を、ポリオレフィン樹脂に添加したこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を成形した。無機フィラーの量は、ポリオレフィン樹脂90重量部に対して、10重量部とした。得られた試験片を恒温恒湿室で24時間状態調整した後、上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
<分散状態の観察>
実施例1および比較例1で得られた試験片からミクロトームを用いて薄片を採取し、90℃の熱湯で4時間浸漬した。薄片から水溶性ポリマーを完全に溶解・脱離したものを観察用の試料とした。すなわち、浸漬後の薄片に空隙となった部分には水溶性ポリマーが存在していたことから試料を光学顕微鏡(300倍)で観察することで
図1に示す様に水溶性ポリマーの分散状態を観察し得るに至った。なお、
図1において、黒っぽい箇所が、水溶性ポリマーが存在していた箇所である。また、矢印の方向は、成形時の射出方向に相当する。
また、実施例1で得られた試験片の表面をSEMにて観察した。SEM写真図を
図2に示す。さらに、試験片の樹脂流動方向に対し垂直に切断した断面のSEM写真を
図3に示す。
実施例1の数平均粒子径及び数平均繊維長は、SEM観察の写真の1000μm×1000μm範囲の繊維径、繊維長を実測し求められる。実施例1の数平均粒子径は18μmであり、数平均繊維長は200μmになる。
【0056】
[実施例3]
二軸押出機(東芝機械製、商品名「TEM37SS」)に、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン、日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックMA1B」)と粉末状の水溶性ポリマー(ブテンジオールビニルアルコールコポリマー、日本合成化学工業社製、商品名「G-Polymer OKS-1011」、完全鹸化、重合度:300)とを投入し、200℃に加熱して、水溶性ポリマーと熱可塑性樹脂との混合物を得、ペレット状の組成物とした。この組成物を、毛管粘度計(安田精機製作所製、商品名「140SAS-2002」)で温度200℃、円管ダイスL/D=40/1(ランド40mm、径1mm)、せん断速度1000S
-1の条件で押出し、カットすることでペレット状の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物をホットステージ(メトラートレド製、商品名「Mettler FP90」)に乗せ、観察温度180℃で偏光顕微鏡(ライカ製、商品名「Leica DMLP」)を使用し観察を行い、結果を
図4に示す。
(射出成型)
上記樹脂組成物を、射出成型機(東洋機械金属社製、商品名「SI-80IV-D150B」200t)で成形温度200℃にて成形し、JIS K 7141準拠の試験片を得た。得られた試験片を恒温恒湿室で24時間状態調整した後、上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表2に示す。
【0057】
[実施例4]
せん断速度を138S
-1に変えたこと以外は、実施例3と同様にして観察を行い、結果を
図4に示す。また、実施例3と同様にして試験片を得、実施例3と同様の評価に供した。結果を表2に示す。
【0058】
[比較例5]
せん断速度を22S
-1に変えたこと以外は、実施例3と同様にして観察を行い、結果を
図4に示す。また、実施例3と同様にして試験片を得、実施例3と同様の評価に供した。結果を表2に示す。
【0059】
図4に示すようにポリオレフィン樹脂の融点以上、水溶性ポリマーA1の融点(206℃)以下の温度(180℃)で観察することにより、溶融しない水溶性ポリマーA1の分散状態を観察した。せん断速度が速くなるにつれ繊維状の水溶性ポリマーA1が増加することが観察し得た。上記よりペレット状の樹脂組成物、成型体を作製する際、せん断速度をコントロールすることで水溶性ポリマーを繊維状に配向させ得ることが明らかである。
【0060】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の樹脂組成物は、容器、冷凍バッグ、ブローボトル、トレー、包装材、テープ、蓋材、自動車部品等の各種成形体の材料として好適に用いられ得る。