(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】被覆顔料
(51)【国際特許分類】
C09C 3/06 20060101AFI20240919BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20240919BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20240919BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240919BHJP
A61K 8/26 20060101ALI20240919BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240919BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C09C3/06
C09D17/00
C09D7/62
C09D201/00
A61K8/26
A61K8/19
A61Q1/02
(21)【出願番号】P 2020120328
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥子
(72)【発明者】
【氏名】南山 偉明
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/028566(WO,A1)
【文献】特開2015-178556(JP,A)
【文献】特開2002-080749(JP,A)
【文献】特開2012-031232(JP,A)
【文献】特開2004-124030(JP,A)
【文献】特開2016-069402(JP,A)
【文献】特開平11-080587(JP,A)
【文献】特開2013-100518(JP,A)
【文献】特開2008-247757(JP,A)
【文献】特開2015-120927(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101445674(CN,A)
【文献】特開昭61-019666(JP,A)
【文献】特開昭53-026299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/06
C09D 17/00
C09D 7/62
C09D 201/00
A61K 8/26
A61K 8/19
A61Q 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が透光性材料からなる基材と、前記基材を被覆するマグネタイト層を備え、
前記マグネタイト層の結晶格子定数が8.35Å以上であ
り、
前記基材が前記透光性材料で被覆された金属フレークである被覆顔料。
【請求項2】
前記透光性材料が、シリカ、アルミナ、ガラス、マイカ及び樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の被覆顔料。
【請求項3】
前記金属フレークが、アルミニウム、銅、ニッケル、錫、チタン、亜鉛、これらの何れか1種以上を含む合金及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種である請求項
1又は2に記載の被覆顔料。
【請求項4】
前記マグネタイト層上に、金属酸化物、金属水酸化物、金属酸化物水和物、樹脂、又はこれらの組合せのいずれかからなる保護層を備える請求項1~
3のいずれか1項に記載の被覆顔料。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の被覆顔料を含有する樹脂組成物。
【請求項6】
請求項
5に記載の樹脂組成物を基体に塗布した塗布物。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれかに1項に記載の被覆顔料を含有する化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネタイト層で被覆された被覆顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイカ、アルミナ、ガラス等の透明基材やアルミニウム顔料の表面に酸化珪素、酸化チタニウム、酸化鉄、金属等から成る単一又は複合皮膜を形成する事により干渉色を付与した顔料が知られている。
【0003】
例えば、透光性基材や透光性層を表面に形成した金属基材の表面にフェライト層を形成した被覆顔料が特許文献1に開示されている。
また、薄片状基質表面上に酸化鉄を含む金属酸化物が被覆されたオレンジ色パール顔料が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-178556公報
【文献】特開平10-259318公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の顔料は、彩度や発色性が充分とはいい難く、また、文献2の顔料は、得られる色調が赤色系又は黄色系に限られていた。
そこで、本発明は、高い彩度を備えた様々な色調の干渉色を有する顔料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の状況を鑑みて鋭意検討した結果、本発明者らは、少なくとも表面が透光性材料からなる基材を、マグネタイト層で被覆し、当該マグネタイト層を所定の結晶構造に制御することで上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明の要旨は、下記の[1]~[3]に存する。
[1]少なくとも表面が透光性材料からなる基材と、前記基材を被覆するマグネタイト層を備え、前記マグネタイト層の結晶格子定数が8.35Å以上である被覆顔料。
【0007】
[2]前記透光性材料が、シリカ、アルミナ、ガラス、マイカ及び樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種である[1]に記載の被覆顔料。
[3]前記基材が前記透光性材料で被覆された金属フレークである[1]又は[2]に記載の被覆顔料。
[4]前記金属フレークが、アルミニウム、銅、ニッケル、錫、チタン、亜鉛、これらの何れか1種以上を含む合金及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種である[3]に記載の被覆顔料。
【0008】
[5]前記マグネタイト層上に、金属酸化物、金属水酸化物、金属酸化物水和物、樹脂、又はこれらの組合せのいずれかからなる保護層を備える[1]~[4]のいずれか1項に記載の被覆顔料。
[6][1]~[5]のいずれか1項に記載の被覆顔料を含有する樹脂組成物。
[7][6]に記載の樹脂組成物を基体に塗布した塗布物。
[8][1]~[5]のいずれかに1項に記載の被覆顔料を含有する化粧料。
【発明の効果】
【0009】
この発明にかかる被覆顔料は、高い彩度及び発色性を有すると共に、赤色系、青色系、黄色系~緑色系など、多様な色の干渉色を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例12と比較例6で得られた被覆顔料をシートに塗工して円筒状にしたときの写真(カラー写真をグレースケールにしたもの)
【
図2】実施例11と比較例5で得られた被覆顔料をシートに塗工して円筒状にしたときの写真(カラー写真をグレースケールにしたもの)
【
図3】実施例4と比較例1で得られた被覆顔料をシートに塗工して円筒状にしたときの写真(カラー写真をグレースケールにしたもの)
【
図4】実施例10と比較例4で得られた被覆顔料をシートに塗工して円筒状にしたときの写真(カラー写真をグレースケールにしたもの)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明は、少なくとも表面が透光性材料からなる基材と、この基材を被覆するマグネタイト層を備えた、干渉色を有する被覆顔料に係る発明である。
【0012】
[基材]
本発明の基材は、本発明に係る被覆顔料のコアとなる材料であり、少なくとも表面が透光性材料からなる。少なくとも表面が透光性材料からなるものであれば、基材全体が当該透光性材料であってもよく、他の材料からなるコア材料を当該透光性材料で被覆したものであってもよい。
【0013】
当該基材の体積平均粒子径(D50)は、後記する本願発明に係る被覆顔料の粒子径が達成できる範囲で任意に選択することができ、0.5μm以上200μm以下であることがより好ましい。0.5μm以上200μm以下であれば、前記マグネタイト層に良好に被覆されることができる点から好ましい。0.5μmより小さい場合、基材の比表面積が大きくなる為、マグネタイト層を充分に堆積させることが難しく、一方、200μmより大きい場合、比表面積が小さく、基材と被覆するマグネタイト粒子の接触確率が下がり、マグネタイト層による良好な被覆が難しくなる。
【0014】
前記基材の形状としては、粒子状又はフレーク状であることがよく、フレーク状であることが好ましい。
前記基材として、透光性材料のみからなる透光性基材である場合、この透光性基材としては、公知のものを特に制限なく使用できる。なかでも、シリカ、アルミナ、ガラス、マイカ及び樹脂、並びにこれらの複合物からなる透光性基材は、透光性が高く好適に用いられる。
また、この透光性基材は、基材自体が干渉層となるため、粒子状又はフレーク状であれば厚みが均一であることが望ましい。
【0015】
また、前記基材として、コア材料の表面に透光性材料で被覆したものであり、このコア材料と透光性材料とが異なる材料からなる場合、当該コア材料の材料としては、特に制限なく、表面を構成する透光性材料と異なる透光性材料であってもよく、不透明な材料であってもよい。この不透明な材料としては、金属、板状酸化鉄等をあげることができる。この金属としては、特に限定されず公知のものが使用できるが、アルミニウム、銅、ニッケル、錫、チタン、亜鉛、これらの少なくとも1種を含む合金及びステンレス鋼等があげられる。
この透光性材料としては、前記したように、基材として透光性材料のみからなる透光性基材として用いられる材料と同様の材料をあげることができる。
【0016】
前記コア材料として、金属フレークを用いると、特に輝度及び彩度の高い顔料が得られるため好ましい。特に、金属フレークとして、前記した金属のうち、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるフレークを用いると、安価で輝度が高いため、好適である。
また、このとき、コア材料に被覆される透光性材料からなる被覆層は、色調を決定する干渉層となるためその厚みは均一であることが好ましい。透光性層が100nmより厚い場合で干渉色が強くなり、彩度が高い被覆顔料を得る事ができる。さらに厚みが増していくと見る角度による色調の変化(カラートラベル性)が強くなる。
【0017】
[マグネタイト層]
本発明のマグネタイト層は、前記基材を被覆するマグネタイトからなる層である。前記基材を被覆するマグネタイト層として、特定の結晶格子定数を有するマグネタイト層を用いると、より高い彩度及び発色性を有する被覆顔料が得られ、また、被覆顔料を構成する各構成成分の条件を変更することにより、赤色系、青色系、黄色系~緑色系等の多様な色の干渉色を発現させることができる。このため、多様な色の干渉色を有する被覆顔料を得ることができる。
これは、マグネタイトから、酸素原子が脱落し、酸素の欠損が生じることにより、結晶構造が変化していると考えられ、これにより、光のマグネタイト層での屈折、透過等に変化が生じ、彩度、発色性に深みや強度が増す傾向が生じる。また、前記のような多様な色の干渉色の発現が可能となる。
【0018】
前記マグネタイト層の結晶格子定数は、8.35Å以上が必要で、8.37Å以上が好ましい。結晶格子定数が8.35Å未満だと、干渉色の彩度が低くなり、十分な発色性が得られなくなるおそれがある。
また、前記マグネタイト層の結晶格子定数の上限は、特に限定されないが、8.45Å以下がよく、8.42Å以下が好ましい。8.45Åを超えてもよいが、8.45Åを超える結晶格子定数を有するマグネタイト層は得難く、酸素原子が減りすぎ、マグネタイトでなくなってしまうおそれが高まる。
【0019】
前記マグネタイト層の平均厚みとしては、特に限定されないが、10nm以上200nm以下が好ましく、20nm以上120nm以下がより好ましい。この範囲であれば、干渉色の彩度が特に良好となる。
【0020】
[基材の透光性層とマグネタイト層の厚み]
前記の基材として、コア材料の表面に透光性材料で被覆したものを用いるとき、マグネタイト層の厚みによっても干渉色の色調が変化する。
例えば約140nmのシリカからなる透光性層を形成したアルミニウムフレーク(金属基材)を基材として用いる場合、マグネタイトから成る厚みが30nm程度の層に基材上を被覆すると、磁性を有する高彩度のピンク系の被覆顔料(メタリック顔料)を得る事ができ、マグネタイトから成る厚みが100nm 程度の層に基材上を被覆すると、観察する角度により緑から紫色に変化する被覆顔料( メタリック顔料)を得る事ができる。これはマグネタイト層が厚くなると、マグネタイト層表面での反射光と、マグネタイト層および透光性層の界面での反射光との間にも光路長の差が生じるためと推測される。
【0021】
[保護層]
本発明の被覆顔料は、マグネタイト層の表面に、必要に応じてさらに保護層を設けてもよい。
保護層の材質としては、透明で被覆顔料の発色を損なわないものであれば特に限定されない。このような保護層としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属酸化物水和物、樹脂及びこれらの複合物等があげられ、目的に応じてこれらから適宜選択すればよい。
例えば、保護層が金属酸化物であれば、耐水性を向上することができる。また、保護層が樹脂であれば、本発明の被覆顔料を含む塗膜の密着性と耐薬品性が向上する。
【0022】
保護層を形成する方法としては、顔料を被覆する方法であれば公知のものを利用できる。例えば、スラリー中でのラジカル重合による樹脂被覆層形成や、ゾル‐ゲル法による金属酸化物層の形成があげられる。なお、保護層は、マグネタイト層の焼成の前に形成してもよく、焼成後に形成してもよい。
【0023】
[被覆顔料の製造]
本発明にかかる被覆顔料は、下記の方法により製造することができる。
まず、基材は次の方法で製造することができる。基材として透光性材料のみからなる透光性基材を用いる場合は、当該材料を所定の大きさ、厚みに調整したものをそのまま基材として用いることができる。
また、基材としてコア材料の表面に透光性材料で被覆したものを用いる場合、コア材料のアルコール等によるスラリーを調整し、これに、透光性材料の原料となる成分のアルコール溶液を滴下し、コア材料の表面に透光性材料の被覆層を形成させる。次いで、固液分離、乾燥させることにより、コア材料の表面に透光性材料で被覆した基材を得ることができる。
【0024】
次に、基材の表面にマグネタイト層を形成する方法としては、次の方法があげられる。
まず、基材を水に分散させスラリー状態とすることによりスラリーを得る。次いで、該スラリーを、脱酸素した密閉容器内で撹拌しながら、Fe2+を含有する水溶液を徐々に添加する。この際、pHが変動するため、pH調整剤によりそのpHを6.5~14の間に保持し、同時に酸化剤を用いてスラリーの酸化還元電位を概ね-160mV~-750mVの間に保つ。これにより、マグネタイト層を基材上に被覆させることができる。このpHの範囲は、6.5~11.0の間に保持することが好ましく、また、酸化剤を用いてスラリーの酸化還元電位を概ね-300mV~-500mVの間に保つことが好ましい。
【0025】
[被覆顔料]
このようにして製造された本発明の被覆顔料の粒子径としては特に限定されず、用途にもよるが、一般に体積平均粒子径(D50)で0.5μm以上であることが好ましい。0.5μmよりも粒子が細かいと、粒子表面の反射光が多くなり、高い彩度の干渉色の発色を得ることが難しい。
【0026】
例えば、塗料に使用する場合、0.5μm以上50μm以下であれば、塗膜表面の粗大粒子の突出を無くし、平滑に塗装することができる。
また、被覆顔料を印刷に使用する場合、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷では版の目詰まり防止や隠蔽性確保のため、概ね20μm以下の粒子径が好ましい。
さらに、化粧料や樹脂射出成型物に対しては大きなサイズも選択可能であり、50μm以上の被覆顔料を用いることで、基材由来の輝きを有した粒子感のある意匠を得ることができる。
【0027】
被覆顔料の粒子形状は特に限定されないが、フレーク状であれば、配向により、輝度、彩度、カラーフロップ性が高くなるため好ましい。
【0028】
[焼成工程]
本発明においては、マグネタイト層形成後に、不活性ガス雰囲気下、還元性ガス雰囲気下、又は50kPa以下の減圧(又は真空)下で焼成を行うことで、酸素欠損したマグネタイト層に変化し、結晶格子定数が所定の範囲となる。
前記の不活性ガスとしては、特に制限はないが、窒素ガス若しくはアルゴンガス等があげられる。また、前記の還元性ガスとしては、特に制限はないが、水素ガス、天然ガス、都市ガス等があげられる。
また、還元性ガスを不活性ガスと混合して使用する場合も、還元性ガス雰囲気に含まれる。
このような不活性ガスや還元性ガスを用いず、酸素を有する雰囲気の条件下で焼成工程を行うと、高い彩度を得ることが難しく、干渉色も発現し難い傾向があり、干渉色が発現した場合でも、十分な有意差のある干渉色は発現し難い傾向がある。
【0029】
前記焼成の温度としては、300℃以上であることが好ましく、300℃以上800℃以下であることがより好ましい。300℃未満では、酸素欠損が生じず所定の格子定数にすることができない。このため、高い彩度を得ることが難しく、干渉色も発現し難い傾向があり、干渉色が発現した場合でも、十分な有意差のある干渉色は発現し難い傾向がある。
一方、焼成温度が800℃を超えると被覆した酸化鉄微粒子の凝集により粒子径が大きくなり、また、その表面の酸化鉄微粒子同士の凝集により、被覆顔料同士の凝集が起こることで良好な発色を得られなくなる。さらに、基材自体の溶融や熱膨張による被膜界面の剥離による耐久性の低下も生じる。
【0030】
前記焼成の時間は、300℃以上の温度に達した時点から5分以上24時間以下が好ましく、30分以上3時間以下であることがより好ましい。5分以下では、充分な酸素欠損が生じず所定の格子定数にすることができず、3時間を超えると生産性が低下するため好ましくない。また、24時間以上焼成しても、それ以上の格子定数の変化はほとんど現れず、凝集や被覆顔料のダメージを招くことになるため好ましくない。
【0031】
[用途]
この発明に係る被覆顔料は、樹脂に混合することにより、鮮やかな干渉色を有する樹脂組成物として用いることができる。そして、これを紙、樹脂シート等のシート類や各種動産や不動産に塗工することにより、干渉色を有する塗布物を得ることができる。
また、この発明に係る被覆顔料を各種化粧料に混合することにより、干渉色を有する被覆顔料含有化粧料を得ることができる。
【0032】
[発明の効果の発現]
この発明において、前記した条件、特にマグネタイト層の結晶格子定数を特定の範囲内とし、また、必要に応じて他の条件と組み合わせることにより、前記の発明の効果、すなわち、高い彩度及び発色性を有し、また、赤色系、青色系、黄色系~緑色系などの様々な干渉色を生じさせることができ、これにより、多様な色の干渉色を発現することができる。
前記のマグネタイト層の結晶格子定数を特定の範囲内とするための条件や、前記の他の条件としては、マグネタイト層の厚み、基材層の材料の種類、基材層の透光性材料の厚み、焼成条件(焼成温度、焼成時間、焼成環境)等があげられる。
【実施例】
【0033】
以下にこの発明について、実施例を用いて説明する。まず、この実施例で用いた試験方法及び原材料を下記に示す。
【0034】
(試験方法)
[結晶格子定数]
被覆顔料を測定用セルに均一に充填し、X線回折装置(商品名:「Smart Lab」(株)リガク製)により被覆顔料のマグネタイト層を特定した。測定時の条件はX線源としてCuKα線を用い、管電圧40kV、管電流30mA、サンプリング幅0.01°、スキャン速度0.2°/minにて測定を行なった。この結果を用いて、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2の「格子定数の精密化」を行い、マグネタイトの格子定数を算出した。
【0035】
[色調]
被覆顔料4.0gに対して、アクリル樹脂バインダー(ニッペアクリルオートクリヤー、日本ペイント(株)製)16.0gを加え、遊星式攪拌脱泡機(マゼルスターKK-400W、倉敷紡績(株)製)で均一混合し、塗料を作成した。
これを、100μm間隙を有するアプリケーターを用いてアート紙上に塗布し常温で自然乾燥させることにより評価用塗膜を作成した。
色調の評価は、X-Rite MA68IIマルチアングル分光測色計を用いて行った。測色値はL*a*b*表色系(CIE1976)で表し、測色は入射光に対して正反射から15°ずれた光を検出した。
このとき、L*は明度を、色a*は赤-緑軸における色相と彩度を示す色度を、b*は黄-青軸における色相と彩度を示す色度を、ΔEは焼成工程を行った実施例と焼成工程を行わなかった以外は同じ条件の比較例との色差(L*a*b*色空間上の2点間の距離)を示す。
【0036】
[磁性]
被覆顔料1.0gを50ccガラスビーカーに投入し、イオン交換水10gを加えスラリーを調製した。次にフェライト磁石(φ20mm、厚み5mm、表面磁束密度100mT)をビーカー底面外側に設置し、目視にて磁性の有無を確認した。
なお、被覆顔料が磁性を有さない場合スラリーに変化は起こらないが、被覆顔料が磁性を有する場合、被覆顔料は磁気により配向したり、磁石自身に集まるので目視により磁性を有していることを確認できる。
【0037】
(原材料)
[基材]
・フレーク状アルミニウム顔料…東洋アルミニウム(株)製 商品名:5422NS
・IPA…イソプロピルアルコール、(株ゴードー)製・30%過酸化水素水…富士フィルム和光純薬(株)製
・アンモニア水…富士フィルム和光純薬(株)製:25質量%
・テトラエトキシシラン…富士フィルム和光純薬(株)製
【0038】
[マグネタイト層]
・ポリアクリル酸…東亜合成(株)製 商品名:アロンT-50)
・酢酸ナトリウム…日和合精(株)製
・硫酸第一鉄・7水和物…圓商産業(株)製
・水酸化ナトリウム…富士フィルム和光純薬(株)製
【0039】
<実施例1>
(基材製造工程)
基材には市販のフレーク状アルミニウム顔料の表面にシリカからなる透光性層を形成したものを使用した。まず、固形分で150gのフレーク状アルミニウム顔料をIPA1000gに投入し、75℃で攪拌混合し、スラリーを得た。ここに30%過酸化水素水を30分攪拌した後、アンモニア水とイオン交換水100gとを加え、スラリーのpH値を10.0に調整した。ここに、テトラエトキシシラン300gを300gのIPAに溶解した溶液を徐々に滴下し、更に75℃で4時間攪拌混合した。その後、スラリーを固液分離し、150℃のオーブンで24時間乾燥させることで、表面にシリカからなる透光性層を形成したフレーク状アルミニウムの基材を得た。
【0040】
(マグネタイト層製造工程)
攪拌機、p H測定電極、ガス導入管を備え付けた密閉反応器に、上記で得られた基材120 g および窒素にて十分に脱気したイオン交換水1000g を加え、イオン交換水中に基材を分散させたスラリーを得た。
次いで、ポリアクリル酸1.0g、酢酸ナトリウム7gを上記のスラリーに投入しスラリーが40℃になるまで攪拌しながら加温した。
次に、硫酸第一鉄・7水和物110gを窒素にて十分に脱気したイオン交換水300gに溶かした水溶液を用意し、この硫酸第一鉄水溶液を、攪拌中の上記スラリーに1時間掛けて徐々に添加した。この際、5wt%水酸化ナトリウム水溶液を添加しpHが9となるようにした。また、酸化還元電位が-400mVとなる様に空気を反応器内に導入した。
その後、ろ過、水洗を行なった。次いで、その後IPA洗浄を行ない、160℃、6時間オーブンで乾燥させることで、マグネタイト被覆顔料を得た。
【0041】
(焼成工程)
上記で得たマグネタイト被覆顔料200gを、アルゴンガス下で300℃、2時間焼成することで、マグネタイトの格子定数が規定の範囲になり、中央部が鮮やかなピンク色、端に行くにしたがって赤色を示す干渉色顔料を得た。得られた干渉色顔料の色調、磁性、結晶格子定数の測定結果を表1に示す。
【0042】
<実施例2~12、比較例2~3>
表1に示す各工程の条件以外は、実施例1に記載の方法にしたがい、干渉色顔料を得た。得られた干渉色顔料の色調、磁性、結晶格子定数の測定結果を表1に示す。
【0043】
<比較例1、4~6>
表1に示す基材製造工程及びマグネタイト製造工程の条件を行い、及び焼成工程を行わなかったことを以外は、実施例1と同様にして被覆顔料を作成した。得られた干渉色顔料の色調、磁性、結晶格子定数の測定結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
前記の結果から、本願発明の要件を満たす実施例1~12においては、彩度のより高い濃い干渉色が得られるのに対し、本願発明の要件を満たさない比較例1~6においては、彩度の低い薄い色しか得られず、干渉色も生じない場合があった。
また、各実施例、各比較例とも、磁性を有していたので、マグネタイト層は、マグネタイトの構造を保持していることが明らかとなった。
このことは、
図1~
図4からも明らかである。この
図1~
図4は、各実施例・比較例で得られた干渉色顔料を塗工したシートを円筒状に丸め、円周面が台と接触するように置いた(円周方向が各図の上下方向となるように配置した)ものである。このように配したので、中央部は、円筒面からほぼ直角の角度で見たときの色合いを観察でき、上下方向にいくにしたがって、円筒面からの角度が小さくなっていく状態で見たときの色合いを観察できるので、干渉色の有無を確認できる。
【0046】
図1の実施例12(右)と比較例6(左)とは、焼成工程の有無の点で異なり、結晶格子定数が所定範囲を満たすか否かの違いを有する。実施例12では、鮮やかな黄色(中央部)~鮮やかな緑色(上下部)と、彩度が高く、色合いの変化について明確な干渉色が得られたのに対し、比較例6では、薄い黄色と、彩度があまり高くなく、中央部と上下部との間に色合いの変化が見にくく、明確な干渉色が得られなかった。
【0047】
図2の実施例11(右)と比較例5(左)とは、焼成工程の有無の点で異なり、結晶格子定数が所定範囲を満たすか否かの違いを有する。実施例11では、中央部が鮮やかなオレンジ色であり、上下部に行くにしたがって、鮮やかな黄色から鮮やかな緑色に変化し、彩度が高く、色合いの変化について明確な干渉色が得られたのに対し、比較例5では、薄いベージュ(中央部)~薄い黄色(上下部)と、彩度があまり高くなく、中央部と上下部との間に色合いの変化あるものの明確とはいいにくく、明確な干渉色が得られたとは言い難かった。
【0048】
図3の実施例4(右)と比較例1(左)とは、焼成工程の有無の点で異なり、結晶格子定数が所定範囲を満たすか否かの違いを有する。実施例4では、中央部が鮮やかな赤色であり、上下部に行くにしたがって、鮮やかなオレンジ色から鮮やかな緑色に変化し、彩度が高く、色合いの変化について明確な干渉色が得られたのに対し、比較例1では、中央部は薄い桃色であり、上下に行くにしたがって、薄い黄色に変化するが、彩度があまり高くなく、中央部と上下部との間に色合いの変化あるものの明確とはいいにくく、明確な干渉色が得られたとは言い難かった。
【0049】
図4の実施例10(右)と比較例4(左)とは、焼成工程の条件で異なり、結晶格子定数が所定範囲を満たすか否かの違いを有する。実施例10では、中央部が鮮やかな青色であり、上下部に行くにしたがって、鮮やかな赤紫色に変化し、彩度が高く、色合いの変化について明確な干渉色が得られたのに対し、比較例4では、全体的に銀色と、干渉色が確認できなかった。