(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】高濃度高分散スラリー組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240919BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20240919BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C01B33/18 E
C09C3/08
C09D17/00
(21)【出願番号】P 2020128736
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】火箱 亮
(72)【発明者】
【氏名】栗田 桂輔
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
(72)【発明者】
【氏名】萩本 伸太
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-240900(JP,A)
【文献】国際公開第2018/096876(WO,A1)
【文献】特開2005-231954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
C09C 1/00 - 3/12
C09D 15/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積平均粒径が0.1μm以上、3.0μm以下であり球状の
シリカからなる無機材料から構成されるフィラー材料と、
前記フィラー材料を分散する液体である分散媒とを有し、
固形分が、全体の体積を基準として52体積%超含有され、
前記分散媒中に分散された前記フィラー材料について超音波を照射せずに行うレーザー回折法にて測定した粒度分布は、全体の体積を基準として、モード径の2倍以上の粒径をもつ粒子が
3.4体積%以下、モード径の3倍以上の粒径をもつ粒子が
0.7体積%以下、モード径の4倍以上の粒径をもつ粒子が
0体積%以下であり、
円筒状の透明容器中に液長90mmで300時間静置後の上澄み距離が10mm以下である高濃度高分散スラリー組成物。
【請求項2】
前記固形分の含有量は68体積%以下である請求項1に記載の高濃度高分散スラリー組成物。
【請求項3】
前記フィラー材料は、シラン化合物で表面処理されている請求項1
又は2に記載の高濃度高分散スラリー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のうちの1項に記載の高濃度高分散スラリー組成物を製造する方法であって、
体積平均粒径が0.1μm以上、3.0μm以下であり球状の無機材料から構成されるフィラー材料を液体である分散媒中に全体の体積を基準として固形分が52体積%以下になるように分散させて高分散スラリー組成物を調製する分散工程と、
クロスフロー濾過機に前記高分散スラリー組成物を継続的に循環させて前記分散媒の一部を濾過により分離して全体の体積を基準として前記固形分が52体積%超になるまで濃縮する分離濃縮工程と、
を有し、
前記分離濃縮工程は、前記クロスフロー濾過機の濾過膜表面で凝集が生じない条件で行う高濃度高分散スラリー組成物の製造方法。
【請求項5】
前記分離濃縮工程における前記濾過膜表面で凝集が生じない条件は、前記高分散スラリー組成物が前記濾過膜表面を流れる流速が所定以上であって、以下の(A)及び(B)のうちの少なくとも一方を満たす条件である請求項
4に記載の高濃度高分散スラリー組成物の製造方法。
(A)前記分散媒のうち分離された量がそれ以上分離されると前記フィラー材料が凝集する量に到達していない場合。
(B)循環している前記高分散スラリー組成物中の前記フィラー材料の濃度がそれ以上高くなると前記フィラー材料が凝集する濃度に到達していない場合。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料などから構成されるフィラーが分散された高濃度高分散スラリー組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から無機材料などから構成される無機粒子材料をフィラーとして樹脂材料中に分散させた樹脂組成物が汎用されている。このような樹脂組成物は、樹脂材料に比べて機械的特性に優れており半導体封止材や基板材料などに汎用されている。
【0003】
ところで、樹脂材料中にフィラーを分散させるときには、乾燥状態のフィラーを用いるほかに分散媒中に分散させたスラリー組成物を用いる場合がある(特許文献1など)。乾燥状態のフィラーでは樹脂材料中に均一に分散させることが困難な場合があるなどの理由による。
【0004】
スラリー組成物は、例えば、そのまま樹脂材料中などに混合・分散されることで樹脂材料中にフィラー材料を分散させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂材料中にスラリー組成物を混合して得られる樹脂組成物には、スラリー組成物由来の分散媒が含まれる。樹脂組成物中に含まれる分散媒の量は少ない方が好ましく、樹脂材料中に含有される分散媒の量を減らすためにはスラリー組成物を高濃度化して含有される分散媒の量を減らすことが有効である。
【0007】
また、低濃度のスラリー組成物は、分散は容易であるが、フィラー材料の沈降速度が速いため、沈降の経時安定性が低いという課題を抱えている。スラリー組成物中でフィラー材料が沈降すると、濃度勾配が生じるため、スラリー組成物を使用する工程の前に撹拌をし、再度分散させる必要がある。また、沈降が過度に進んだ状態では、フィラー材料が圧密状態となっているため、撹拌での再分散は困難となる場合がある。
【0008】
このように高濃度のスラリー組成物は、含有する分散媒の量が少なくでき、更にはフィラー材料の沈降速度が遅く沈降によるスラリー組成物中での濃度勾配の生成が遅く経時安定性が高い利点を有する。
【0009】
しかしながら、シリカ粒子材料を75質量%(52体積%)を超えるような高濃度で含有するスラリー組成物は粘度が高く、従来使用されているような分散機で高度に分散させるのは困難であるため現実的な生産手法がない。また、フィラー材料を高濃度に含有させた状態に分散させた高濃度スラリー組成物を調整できたとしても分散が不十分であると、高濃度スラリー組成物中においてフィラー材料が凝集体として存在するため、大粒子である凝集体は沈降が早く進み、濃度勾配が生じて経時安定性が十分でないという問題が生じる。
【0010】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、フィラーを多く含有し且つ高度に分散させた高濃度高分散スラリー組成物及びスラリー組成物中のフィラー含有量を高くし且つ高度に分散することができる高濃度高分散スラリー組成物の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討の結果、フィラーの含有量が高く且つ高度に分散した高濃度高分散スラリー組成物を製造する方法として、分散性を高くすることが可能な比較的低い濃度のスラリー組成物を調製後に分散媒を除去して濃度を向上する方法を検討した。
【0012】
球状のフィラー材料は、その濃度(固形分濃度)が通常濃度(例えば固形分の濃度が全体の体積を基準として52体積%以下:以下、基準を示さずにスラリー組成物中のパーセンテージを記載する場合にはスラリー組成物全体を基準とした値である)のスラリー組成物としたときに分散性を向上して高分散状態にすることが可能である。
【0013】
そのような目的の濃度よりも低い濃度でフィラー材料を含有する通常濃度のスラリー組成物であって高い分散性をもつ高分散スラリー組成物を製造した後に分散媒を除去することでフィラー材料濃度を濃縮する方法について実施例にて詳述する検討を行った。
【0014】
その検討の結果、フィラー材料の粒径が所定値以下の場合であって且つ分散媒を除去する濃縮過程において高分散スラリー組成物の局所的な濃縮が進行する条件を採用すると、その局所的な濃縮が進行した部分でフィラー材料が凝集して高分散スラリー組成物ではなくなることが明らかになった。この知見に基づき高分散スラリー組成物の濃縮工程について検討を行った結果、特定の条件下を採用することで凝集を進行させずに濃縮できることが分かった。
【0015】
具体的には、クロスフロー濾過により通常濃度をもつ高分散スラリー組成物から分散媒を濾別・除去することによりフィラー材料の凝集を伴う局所的な濃縮を生じさせずに高分散スラリー組成物を高濃度化して高濃度高分散スラリー組成物を製造することが可能になった。
【0016】
高分散スラリー組成物の局所的な濃縮は、分散媒の局所的な除去により進行することが分かっている。なお、いったん生成したフィラー材料の凝集は、分散媒を加えても容易に再分散できないため、分散媒を除去する量は慎重に制御する必要ある。
【0017】
分散媒が局所的に除去される濃縮方法の例としては、高分散スラリー組成物の表面から分散媒を蒸発させる方法、全量濾過などが挙げられる。また、クロスフロー濾過を用いたとしても分散媒を除去する速度が高すぎる条件を採用する場合にはフィラー材料の凝集が進行するおそれがあるため適正な濾過条件を採用する必要があることが分かった。なお、特に高分散スラリー組成物の濃度が低い場合には、分散媒の除去速度を高くしてもフィラー材料の凝集はしがたいため本発明方法が効果的に作用する高分散スラリー組成物の濃度の下限値を設定した。
【0018】
(1)上記知見に基づき本発明者らは以下の発明を完成した。すなわち、本発明の高濃度高分散スラリー組成物の製造方法は、体積平均粒径が0.1μm以上、3.0μm以下であり球状の無機材料から構成されるフィラー材料を液体である分散媒中に全体の体積を基準として固形分が52体積%以下になるように分散させて高分散スラリー組成物を調製する分散工程と、
クロスフロー濾過機に前記高分散スラリー組成物を継続的に循環させて前記分散媒の一部を濾過により分離して全体の体積を基準として前記固形分が52体積%超になるまで濃縮して高濃度高分散スラリー組成物とする分離濃縮工程と、
を有し、
前記分離濃縮工程は、前記クロスフロー濾過機の濾過膜表面で凝集が生じない条件で行う高濃度高分散スラリー組成物の製造方法である。
【0019】
特に前記分離濃縮工程における前記濾過膜表面で凝集が生じない条件は、前記高分散スラリー組成物が前記濾過膜表面を流れる流速が所定以上であって、以下の(A)及び(B)のうちの少なくとも一方を満たす条件であることが好ましい。(A)又は(B)の条件を満たさないと、フィラー材料の凝集体が生成し、その後に分散媒を添加して条件を満たすようにしても生成した凝集体が再分散されない場合もあるため、本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物の製造方法においては、これら(A)及び(B)の双方の条件を常に満たし続けるように行うことが好ましい。
(A)前記分散媒のうち分離された量がそれ以上分離されると前記フィラー材料が凝集する量に到達していない場合。
(B)循環している前記高分散スラリー組成物中の前記フィラー材料の濃度がそれ以上高くなると前記フィラー材料が凝集する濃度に到達していない場合。
【0020】
(2)上述の本発明の高濃度高分散スラリー組成物の製造方法により従来製造できなかった高濃度の高濃度高分散スラリー組成物を製造することが可能になり、以下の発明を提供することが可能になった。
【0021】
すなわち、上記課題を解決する本発明の高濃度高分散スラリー組成物は、体積平均粒径が0.1μm以上、3.0μm以下であり球状の無機材料から構成されるフィラー材料と、
前記フィラー材料を分散する液体である分散媒とを有し、
固形分が、全体の体積を基準として52体積%超含有され、
前記分散媒中に分散された前記フィラー材料についてレーザー回折法にて測定した粒度分布は、全体の体積を基準として、モード径の2倍以上の粒径をもつ粒子が15体積%以下、モード径の3倍以上の粒径をもつ粒子が5体積%以下、モード径の4倍以上の粒径をもつ粒子が1体積%以下であり、
直径35mmの円筒状の透明容器中に液長90mmで300時間静置後の上澄み距離が10mm以下である。
【0022】
特に、前記固形分の含有量は68体積%以下であることが好ましい。また、前記フィラー材料は、シラン化合物で表面処理されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の高濃度高分散スラリー組成物は、従来よりも高濃度であるため、分散媒を含有する割合を減らすことが可能になった。また、本発明の高濃度高分散スラリー組成物の製造方法は、そのような高濃度高分散スラリー組成物を製造することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1のスラリー組成物の粒度分布である。
【
図2】実施例2のスラリー組成物の粒度分布である。
【
図3】実施例3のスラリー組成物の粒度分布である。
【
図4】実施例4のスラリー組成物の粒度分布である。
【
図5】比較例1のスラリー組成物の粒度分布である。
【
図6】比較例4のスラリー組成物の粒度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物及びその製造方法について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物は、フィラー材料が液体の分散媒中に分散された高濃度高分散スラリー組成物である。本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物は、全体が均一な流動物である分散液である。
【0026】
(高濃度高分散スラリー組成物)
本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物は、フィラー材料とそのフィラー材料を分散する分散媒とを有する。更に、その他の構成要素を有していても良い。その他の構成要素としては分散剤、樹脂などが挙げられる。分散剤を有することでフィラー材料の凝集は抑制できるが、フィラー材料以外の構成要素はできるだけ少ない方が好ましいため分散剤の量は少ない方、特には存在しない方が好ましい。樹脂は、重合により高分子化するものであっても良い。分散剤及び樹脂は、分散媒に溶解されているものが好ましく、溶解されていない場合でもフィラー材料と同程度の粒径をもつ粒子状の形態をもち分散媒中に分散されていることもできる。
【0027】
フィラー材料は、体積平均粒径が0.1μm以上、3.0μm以下であり球状の無機材料から構成される。フィラー材料の体積平均粒径は、一次粒子にまで分離した状態で測定した値である。体積平均粒径の下限値としては、0.11μm、0.12μm、0.13μm、0.2μm、0.3μmを挙げることができ、上限値としては、2.9μm、2.8μm、2.7μm、2.5μm、2.0μm、1.5μm、1.0μmを挙げることができる。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。フィラー材料の粒子径は必要に応じて制御されている。
【0028】
フィラー材料を構成する無機材料は特に限定しないが、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、それらの混合物、複合酸化物などが例示できる。また、結晶型についても任意なものが採用できる。α線を放出するウラン、トリウムなどの含有量が少ないことが好ましく、アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量も少ないことが好ましい。
【0029】
フィラー材料は球状であり、球形度は0.95以上、0.98以上、0.99以上のものが採用できる。球形度が大きい方が充填性が向上する傾向にあり、また高濃度高分散スラリー組成物の粘度が低下する傾向にある。球形度はSEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(球形度)={4π×(面積)÷(周囲長)2}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社:A像くん)を用いて100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0030】
フィラー材料は表面処理されていても良い。表面処理を行うことでフィラー材料の表面の性質を好ましいものにすることができる。例えば、樹脂材料中に混合する場合には樹脂材料との親和性を向上するために疎水化(フェニル基、炭化水素基など)したり、樹脂との反応性をもつ官能基(ビニル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基など)を導入したりすることができる。表面処理の量は特に限定しないが目的の性質が実現できるように表面処理することができる。また、表面処理剤がフィラー材料の表面の官能基(OH基など)と反応する物である場合にはフィラー材料の表面に存在する官能基の量に応じて表面処理剤の量を選択することができる(表面の官能基の全量、半量など)。
【0031】
表面処理を行う表面処理剤はシラン化合物を採用することができる。シラン化合物としては、SiH、SiOH、SiOR(Rは炭化水素基)を有するいわゆるシランカップリング剤と称されるものやヘキサメチレンジシラザンなどのシラザン類が例示でき、シラン化合物がもつSiに任意の官能基が結合されている物が例示できる。
【0032】
任意の官能基としては、炭化水素基(アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など)、アルケニル基(ビニル基、エテニル基、プロペニル基など)、フェニル基、アミノ基、フェニルアミノ基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、スチリル基、シリコーン、これらの組み合わせが挙げられる。シラン化合物としては1種類を用いて処理したり、2種類以上を組み合わせて処理できる。2種類以上を組み合わせて表面処理する場合には複数種類の表面処理剤を混合して表面処理したり、複数種類の表面処理剤を用いて順次表面処理したりできる。
【0033】
分散媒は液体であり、水や有機溶媒などが挙げられる。有機溶媒としては、アルカン(ヘキサンなど)、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノールなど)、ケトン(アセトン、シクロヘキサノンなど)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなど)などを単独、又は混合物として使用する物が挙げられる。
【0034】
本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物に含まれるフィラー材料は、レーザー回折法にて測定した粒度分布から算出したモード径を基準として、モード径の2倍以上の粒径をもつ粒子が15体積%以下、モード径の3倍以上の粒径をもつ粒子が5体積%以下、モード径の4倍以上の粒径をもつ粒子が1体積%以下である。この条件に当てはまる場合には凝集体は存在しない物と扱うことが可能であり、その測定対象物は、全体が均質な流動物であって本発明における高分散性を保っていると判断する。
【0035】
本明細書中におけるレーザー回折法による粒度分布の測定は、超音波照射せずに行う。具体的にはHORIBA製のLA-750を用いて測定を行い、セルとしては、液体を循環させながら測定を行うLA-750専用フローセルを用いる。分散媒が循環しているセルに少量の高濃度高分散スラリー組成物を流し込んで所定の濃度に調整した状態で行う。所定の濃度とは、セルにレーザーを照射した際のレーザーの透過率が60%~90%となる濃度である。上記装置を用いて粒度分布を測定する時には超音波を照射するのが通常であるが、本明細書での測定条件としては、分散媒の循環のみを行って超音波等の分散は行わずに測定する。スラリー組成物中で形成されたフィラー材料の凝集体は希釈しても凝集が解消されずレーザー回折法により検出される。そのため凝集体が生成していることがレーザー回折法により検出できる。
【0036】
更に、本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物は、直径35mmの円筒状の透明容器中に90mmで300時間静置後の上澄み距離が10mm以下である。ここで液長については上述の値以上であれば良い。上澄み距離は、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下、2mm以下、1mm以下であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物は、固形分が全体の体積を基準として高濃度に含まれる。高濃度であるか否かは固形分が全体の体積を基準として52体積%超含有されるかどうかで判断する。
【0038】
固形分の濃度の好ましい下限値としては、53体積%、54体積%、55体積%、56体積%、57体積%、58体積%、59体積%、60体積%、61体積%、62体積%、63体積%、64体積%、65体積%が挙げられる。固形分の好ましい上限値としてはスラリー状態を保つことができれば特に限定しないが、75体積%、73体積%、71体積%、70体積%、69体積%、68体積%、67体積%などの値が挙げられる。
【0039】
固形分としてはフィラー材料により構成されることを想定しているがフィラー材料以外の固形材料を固形分として含有することを許容する。固形分の量を全体の質量を基準として規定すると、固形分がほぼフィラー材料から構成され、フィラー材料がシリカから構成される場合は、シリカの比重2.20g/cm3、代表的な分散媒としての有機溶媒の比重0.70~0.95g/cm3程度(メチルエチルケトン:MEK、比重0.81g/cm3)から算出すると、本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物は固形分が全体の質量を基準として75質量%超含まれる。好ましい下限値としては、76質量%、77質量%、78質量%、79質量%、80質量%、81質量%、82質量%、83質量%、84質量%が挙げられる。好ましい上限値としては高分散性を保つことができれば特に限定しないが、90質量%、88質量%、86質量%、85質量%などの値が挙げられる。
【0040】
固形分とは、フィラー材料とそれ以外に固体状態で含まれているものが含まれる。フィラー材料以外の固形分が含まれない場合にはフィラー材料の含有量が固形分の含有量になる。分散媒を除去すれば固体になる成分であっても、分散媒に溶解している場合には固体として存在していないため固形分には含まない。
【0041】
(高濃度高分散スラリー組成物の製造方法)
本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物の製造方法は、含有するフィラー材料をその濃度で分散媒中に分散させようとしても分散が困難である濃度でもフィラー材料の凝集体を形成せずに製造することができる製造方法である。製造する高濃度高分散スラリー組成物に含まれるフィラー材料の濃度よりも低い濃度でフィラー材料を分散媒中に分散した高分散スラリー組成物を製造後、フィラー材料の凝集を防ぎながら分散媒を除去することにより高分散スラリー組成物よりも高い濃度であってフィラー材料の凝集が進行しにくい高濃度高分散スラリー組成物を製造することができる方法である。
【0042】
本実施形態の高濃度高分散スラリー組成物の製造方法は、分散工程と分離濃縮工程とを有する。分散工程は、フィラー材料を分散媒に固形分が全体の体積を基準として52体積%以下になるように分散させて高分散スラリー組成物を調製する工程である。なお、高分散スラリー組成物に含まれる固形分の量の上限は前述の高濃度高分散スラリー組成物の説明において挙げた高濃度(52体積%超)でないそれより低い濃度である。
【0043】
具体的に固形分の量は、分散媒に混合し分散させるだけで高分散スラリー組成物が形成できる量であれば特に限定しない。余分な分散媒は除去するため高分散スラリー組成物における固形分の量はできるだけ多い方が好ましい。例えば固形分の量(特にフィラー材料の量)の上限値は、全体の体積を基準として50体積%、48体積%、46体積%、44体積%程度にすることができる。
【0044】
フィラー材料及び分散媒についての説明は、上述の高濃度高分散スラリー組成物について説明したものと同様であるため更なる説明は省略する。固形分については、フィラー材料以外に固体が含有される場合にはその含有された成分も含むが、フィラー材料しか含んでいない場合には、固形分の量とフィラー材料の量とは同じである。
【0045】
分散工程における分散方法は特に限定しないが、撹拌、超音波照射、剪断力を加える方法などが挙げられる。フィラー材料に分散媒を徐々に加えながら分散させて行っても良いし、反対に分散媒中にフィラー材料を徐々に加えながら分散させても良いし、フィラー材料と分散媒とを全量混ぜ合わせて分散させても良い。分散媒として複数種類を用いる場合には分散媒を種類毎に順次加えていっても良い。
【0046】
分離濃縮工程は、高分散スラリー組成物から分散媒を分離することで高分散スラリー組成物を濃縮して高濃度高分散スラリー組成物を調製する工程である。高分散スラリー組成物の濃縮は、全体の体積基準で固形分が52体積%超になるまで行う。最終的に濃縮により製造される高濃度高分散スラリー組成物中の固形分の量は、凝集体が生成しない範囲でできるだけ高い方が好ましい。
【0047】
具体的に分離濃縮工程は、クロスフロー濾過機により高分散スラリー組成物から分散媒を除去する。クロスフロー濾過機は、濾過膜に沿って高分散スラリー組成物を流しながら濾過する機械である。クロスフロー濾過は含有するフィラー材料に加わる力を小さくすることができる。特に分離濃縮工程は、分散媒の蒸発による除去を行わない工程(加熱、減圧などによる分散媒の除去が主に進行する工程でないこと)であることが好ましい。
【0048】
濾過膜は、管状、板状などの形態を採用することができる。管状の濾過膜を用いる場合には、その濾過膜を構成する管に高分散スラリー組成物を流すことで管壁から分散液が濾出する。板状の濾過膜を用いる場合には、その濾過膜を高速回転しながら濾過することで相対的に高分散スラリー組成物が濾過膜の表面に沿って流れることになる。濾過膜の孔径は、フィラー材料の粒径により適正な大きさが決定される。フィラー材料に含まれる無機粒子材料のうちの一番小さい粒子が通過できない大きさの孔径を採用することができる。例えば所定の粒径(例えば10nm)の粒子の通過を阻止するためには所定の粒径の2分の1(所定の粒径が10nmである場合には5nm)以下の孔径をもつ濾過膜を採用すると、所定の粒径をもつ粒子はもちろんそれ以上の粒径をもつ粒子であっても十分に通過を阻止することができる。更に、濾過膜の孔径は、均一に近い方が好ましい。
【0049】
分離濃縮工程では、フィラー材料の凝集が生じない条件で行う工程である。本工程における「フィラー材料の凝集が生じる」とは、濃縮した高分散スラリー組成物中に凝集したフィラー材料が混入することを意味する。つまり、本工程においてフィラー材料の凝集が生じても最終的に高分散スラリー組成物中に混入しなければ「フィラー材料の凝集が生じる」とは扱わないこともできる。
【0050】
クロスフロー濾過機は、濾過膜に沿う方向に高分散スラリー組成物を流しながら、濾過膜により分散媒を分離する。高分散スラリー組成物が濾過膜に沿う方向に流れることから高分散スラリー組成物に含まれるフィラー材料が濾過膜に堆積することが抑制される。
【0051】
デッドエンド方式の濾過ではフィラー材料が濾過膜上で堆積することにより凝集体を形成するが、クロスフロー方式の濾過ではフィラーが堆積しないために凝集体の生成も抑制される。高分散スラリー組成物が濾過膜表面を流れる速さは、濾過膜により分散媒が除去されてフィラー材料が堆積することがない程度以上の所定以上の流速にすることが好ましい。また、濾過膜の表面でフィラー材料の堆積が生成する条件を採用する場合であっても堆積したフィラー材料が高分散スラリー組成物に戻っていかないような条件を採用することでフィラー材料の凝集体が製造された高濃度高分散スラリー組成物に混入することを抑制することもできるが堆積したフィラー材料が無駄になるためできるだけ堆積はしない条件を採用することが好ましい。
【0052】
分離濃縮工程は、フィラー材料の凝集が生じない条件で行うが、具体的に好ましい条件としては以下の(A)及び(B)のうちの少なくとも一方の条件を採用することができる。(B)の条件の方が直接フィラー材料の濃度を測定することから制御はしやすいが、(A)の条件の方が測定はしやすい。
【0053】
(A)前記分散媒のうち分離された量がそれ以上分離されると前記フィラー材料が凝集する量に到達していない場合。
この条件は、濾過膜により分離された分散媒の量を測定することで高分散スラリー組成物中でフィラー材料の凝集が生じる濃度になっているかどうかを判断する。
【0054】
(B)循環している前記高分散スラリー組成物中の前記フィラー材料の濃度がそれ以上高くなると前記フィラー材料が凝集する濃度に到達していない場合。
この条件は、実際に高分散スラリー組成物中のフィラー濃度を測定することで高分散スラリー組成物中で凝集が生じる濃度になっているかどうかを判断する。
【実施例】
【0055】
本発明の高濃度高分散スラリー組成物及びその製造方法について実施例に基づき以下詳細に説明を行う。
【0056】
(実施例1)
表面処理を施したフィラー材料を用いた高濃度高分散スラリー組成物を調製した。フィラー材料としてVMC法(金属粒子を酸化炎中に投入し爆燃現象を生じさせて金属酸化物粒子を製造する方法)で合成した平均粒径0.5μmのシリカ製の無機粒子材料(球形度0.99、アドマテックス製、アドマファインSO-C2)に対して表面処理剤としてのシラン化合物(N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学製KBM-573)を反応させて得られた表面処理済み無機粒子材料を用いている。無機粒子材料の表面処理は、無機粒子材料の質量を基準として0.6%となる量で行った。
【0057】
本実施例における高濃度高分散スラリー組成物は、この表面処理済み無機粒子材料をフィラー材料とし、MEKを分散媒とする。
【0058】
上述の表面処理済み無機粒子材料100質量部とMEK42質量部とを攪拌機で予備混合して粗スラリー組成物を形成した後、分散機を用いてフィラー材料が均一に分散した高分散スラリー組成物を調製した(分散工程)。高分散スラリー組成物中の固形分(フィラー材料)の濃度は約70質量%(46体積%)であった。
【0059】
得られた高分散スラリー組成物をMEKを24質量部除去するまで管状の濾過膜(濾過面が10nm以下、1nm以上のナノサイズの細孔で構成されるセラミックフィルター)をもつクロスフロー濾過機を循環させてフィラー材料の濃度が84.7質量%(67体積%)の高濃度高分散スラリー組成物が得られ(分離濃縮工程)、本実施例の試験試料とした。
【0060】
(実施例2)
本実施例における高濃度高分散スラリー組成物は、実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料をフィラー材料とし、メチルイソブチルケトン(MIBK)を分散媒とする。
【0061】
実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料100質量部とMIBK42質量部とを攪拌機で予備混合して粗スラリー組成物を形成した後、分散機を用いてフィラー材料が均一に分散した高分散スラリー組成物を調製した(分散工程)。高分散スラリー組成物中の固形分(フィラー材料)の濃度は約70質量%(46体積%)であった。
【0062】
得られた高分散スラリー組成物をMIBKを22質量部除去するまで実施例1で用いた濾過膜をもつクロスフロー濾過機を循環させてフィラー材料の濃度が83.3質量%(64体積%)の本実施例の高濃度高分散スラリー組成物が得られ(分離濃縮工程)、本実施例の試験試料とした。
【0063】
(実施例3)
本実施例における高濃度高分散スラリー組成物は、実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料をフィラー材料とし、MEKを分散媒とする。
【0064】
実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料100質量部とMEK42質量部とを攪拌機で予備混合して粗スラリー組成物を形成した後、分散機を用いてフィラー材料が均一に分散した高分散スラリー組成物を調製した(分散工程)。高分散スラリー組成物中の固形分(フィラー材料)の濃度は約70質量%(46体積%)であった。
【0065】
得られた高分散スラリー組成物をMEKを17質量部除去するまで実施例1で用いた濾過膜をもつクロスフロー濾過機を循環させてフィラー材料の濃度が80質量%(60体積%)の本実施例の高濃度高分散スラリー組成物が得られ(分離濃縮工程)、本実施例の試験試料とした。
【0066】
(実施例4)
本実施例における高濃度高分散スラリー組成物は、実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料をフィラー材料とし、MEKを分散媒とする。
【0067】
実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料100質量部とMEK42質量部とを攪拌機で予備混合して粗スラリー組成物を形成した後、分散機を用いてフィラー材料が均一に分散した高分散スラリー組成物を調製した(分散工程)。高分散スラリー組成物中の固形分(フィラー材料)の濃度は約70質量%(46体積%)であった。
【0068】
得られた高分散スラリー組成物をMEKを12質量部除去するまで実施例1で用いた濾過膜をもつクロスフロー濾過機を循環させてフィラー材料の濃度が76.9質量%(55体積%)の本実施例の高濃度高分散スラリー組成物が得られ(分離濃縮工程)、本実施例の試験試料とした。
【0069】
(比較例1)
本比較例における高濃度高分散スラリー組成物は、実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料をフィラー材料とし、MEKを分散媒とする。
【0070】
実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料100質量部とMEK25質量部とを攪拌機で予備混合して粗スラリー組成物を形成した後、分散機を用いて分散性がそれ以上向上しなくなるまで分散を行ったが(分散工程に相当)、得られたスラリー組成物は高分散状態にはならなかった。このスラリー組成物を本比較例の試験試料とした。本試験試料中の固形分(フィラー材料)の濃度は80質量%(60体積%)であった。
【0071】
(比較例2)
本比較例における高濃度高分散スラリー組成物は、実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料をフィラー材料とし、MEKを分散媒とする。
【0072】
実施例1で用いた表面処理済み無機粒子材料100質量部とMEK18質量部とを攪拌機で予備混合した後、分散機を用いて分散させようとしたがスラリー状にすらならなかった。この組成物を本比較例の試験試料とした。本試験試料中の固形分(フィラー材料)の濃度は84.7質量%(67体積%)であった。
【0073】
(比較例3)
実施例1の分散工程までは同様の方法でスラリー組成物を形成した。その後、このスラリー組成物をエバポレータを用いてMEK17質量部を除去した。得られたスラリー組成物(濃度約80質量%:60体積%)は肉眼でも確認できる凝集体の塊が生じていた。
【0074】
(比較例4)
実施例1の分散工程までは同様の方法でスラリー組成物を形成し、本比較例の試験試料とした。得られたスラリー組成物の濃度は70質量%(46体積%)であり、高分散スラリー組成物であった。
【0075】
(粒度分布の測定及び沈降性の評価)
各実施例及び比較例の試験試料についてレーザー回折法により粒度分布の測定を行った。比較例2はスラリー状にならなかったため、比較例3は肉眼で凝集体が観察されたため評価を行わなかった。
【0076】
粒度分布の測定は、HORIBA製 LA-750を用いて計測した。レーザー回折法による粒度分布の測定は、分散媒が循環しているフローセルに少量の試験試料を流し込んで所定の濃度に調整した状態で行う。分散媒の循環にあたって超音波を照射して分散させることがあるが本発明では超音波の照射は行わずに循環のみで分散させて測定を行った。
【0077】
所定の濃度とは、セルにレーザー(He-Neレーザー:波長632.8nm)を照射した際のレーザーの透過率が60%~90%となる濃度である。
【0078】
測定した粒度分布を
図1(実施例1)、
図2(実施例2)、
図3(実施例3)、
図4(実施例4)、
図5(比較例1)、
図6(比較例4)に示す。また、測定した粒度分布から算出したモード径、モード径から算出した2倍以上(モード径×2以上の成分)、3倍以上(モード径×3以上の成分)、4倍以上(モード径×4以上の成分)の各粒径をもつ粒子の体積を算出した結果を表1に各試験試料の粒径を表2に示す。
【0079】
実施例1~3及び比較例4について沈降性の評価を行った。比較例1~3については、モード径の2倍以上の粒子が15体積%を超えていたり、スラリー状にならなかったり、肉眼で観察できるほど大きな凝集体の塊が観察されるなど明らかに実用に耐えないものであったため評価を行わなかった。
【0080】
沈降性の評価は、直径35mmの円筒状の透明容器中に90mmの液長で各試験試料を300時間静置した後にフィラー材料の沈降により生じる透明な部分(上澄み)の距離(上澄み距離)を測定して行った。
【0081】
【0082】
【0083】
実施例1~4においては、モード径の2倍以上の粒径をもつ粒子が15体積%以下、モード径の3倍以上の粒径をもつ粒子が5体積%以下、モード径の4倍以上の粒径を持つ粒子が1体積%以下であり、上澄み距離が10mm以下と、比較例1より分散性に優れており、高分散状態であることが明らかになった。
【0084】
なお、本実施例では体積平均粒径が0.5μmの粒子を用いて、体積平均粒径0.1μm~3.0μmの範囲に適用可能な本発明について説明している。これは、本発明が主に沈降性に関する性質を改善する発明であることにより、体積平均粒径が0.5μmの粒子の結果と同等の結果が体積平均粒径0.1μm~3.0μmの範囲に適用することが可能であるからである。
【0085】
沈降性は、50μm以下の範囲では主に粘性に支配され、0.1μm未満ではブラウン運動の影響も無視できなくなってくる。粘性に支配された沈降性についてはストークスの法則により良く近似されることになることが知られており、本発明の適用範囲である体積平均粒径0.1μm~3.0μmの範囲についてもストークスの法則により十分に近似可能な範囲であり、体積平均粒径が0.5μmの粒子の結果に基づいて十分に裏付けられた発明である。
【0086】
以下にストークスの法則についての一般的な事項の説明を行う。サブミクロン~ミクロンオーダーの粒子はストークスの法則に従って沈降性を示すことが知られている。
ストークスの法則に基づいて、沈降速度は下記式で計算することが可能である。
【0087】
V=[(ρ1-ρ2)gD2]/18μ
ここで、Vは粒子の沈降速度[m/s]、ρ1は粒子の密度 [kg/m3]、ρ2は分散媒の密度 [kg/m3]、gは重力加速度[m/s2]、μは粘性係数[Pa・s],Dは粒子の直径[m]である。
【0088】
ただし、沈降速度がストークスの法則に従う範囲は、慣性力と粘性力の比で表される無次元数レイノルズ数Reにより設定できる。
【0089】
Re=ρUL/μ
ここで、ρは流体の密度[kg/m3],Uは流体の代表速度[m/s],Lは代表長さ[m],μは流体の粘性係数[Pa・s]である。
【0090】
沈降速度がストークスの法則に従う範囲はRe<0.25となるときであり、粒子の沈降が主に粘性によって支配されているときにのみストークスの法則は成立する。Reがこれより大きな値となると分散媒と粒子の間の境界層の流速が大きくなるため,境界層が剥離し,沈降粒子の背後に渦流が発生する。このような状態になると,粒子の沈降に粘性だけではなく慣性が作用するようになるため、ストークスの法則では沈降速度を計算できなくなる。
【0091】
実際には、粒子の形状、密度、溶剤の密度などにより異なるが、粒子径がおよそ50μm以下のサイズの粒子はストークスの法則に基づいて沈降すると考えられる。また0.01μm未満になると、粒子のブラウン運動が支配的な状態となってしまい、沈降性はストークスの法則に従わずに振る舞う。
【0092】
(実施例、比較例中での用語の定義)
高濃度高分散スラリー組成物:75質量%超の濃度でフィラー材料を含有し且つ十分に分散されているスラリー組成物。
【0093】
高分散スラリー組成物:75質量%以下の濃度でフィラー材料を含有し、で十分に分散されているスラリー組成物。
【0094】
粗スラリー組成物:フィラー材料と分散媒とを予備混合して得られた十分に分散できていない状態のスラリー組成物。