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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20240919BHJP
   B23K 9/133 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B23K9/29 E
B23K9/133 504A
B23K9/133 502D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020144274
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039313
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 幸也
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-058019(JP,A)
【文献】実開昭57-037579(JP,U)
【文献】特開2016-087628(JP,A)
【文献】特開2009-039742(JP,A)
【文献】特開2020-093270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/29
B23K 9/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のトーチボディと、
上記トーチボディの先端に取り付けられた筒状のチップボディと、
金属線材を螺旋状に巻回して構成されるとともに上記トーチボディおよび上記チップボディの内部空間に配置されており、溶接ワイヤを通すためのコイルライナと、を備え、
上記内部空間は、シールドガスが流れる流路であり、
上記コイルライナ、上記トーチボディおよび上記チップボディの少なくともいずれかは、上記トーチボディまたは上記チップボディと上記コイルライナとが他の部分よりも近接または当接するように張り出す張出し部を有し、
上記張出し部は、上記トーチボディまたは上記チップボディにおいてその内周面よりも径方向内方に張り出す内側張出し部を含み、
上記内側張出し部は、上記トーチボディまたは上記チップボディにおいて圧入された部位である、溶接トーチ。
【請求項2】
上記張出し部は、上記コイルライナにおいて外径が他の部分よりも大である外側張出し部を含む、請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
上記張出し部は、上記コイルライナの軸線方向において互いに離間する複数箇所に設けられている、請求項1または2に記載の溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば消耗電極アーク溶接において使用される溶接トーチは、給電チップからの給電を受けつつ溶接ワイヤが送り出されるように構成される。溶接ワイヤは、給電チップが有するワイヤ挿通孔に通され、このワイヤ挿通孔の内面に接触することにより給電を受ける。溶接トーチは、たとえば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1にも示されるように、溶接トーチは、トーチボディ、チップボディ、給電チップおよびノズルを備えている。これらはいずれも筒状であり、チップボディはトーチボディの先端に取り付けられている。給電チップは、チップボディの先端に取り付けられている。ノズルは、チップボディないし給電チップの外側において、前方に開放する環状空間を形成する筒状部材である。
【0004】
溶接トーチの内部を通過する溶接ワイヤは、たとえばコイルライナなどのガイド部材によりガイドされつつ送り出される。コイルライナは、金属線材を螺旋状に巻回して構成されたものである。コイルライナは、たとえばトーチボディの基端側から挿し込まれ、トーチボディないしチップボディの内部空間に配置される。このコイルライナは給電チップの近くまで延びており、当該コイルライナの内側を溶接ワイヤが挿通する。
【0005】
溶接トーチはまた、先端のノズルから不活性ガスなどからなるシールドガスが噴出するように構成されている。溶接トーチにシールドガスが送られると、当該シールドガスは、トーチボディおよびチップボディの内部空間を通過し、たとえばチップボディの先端に取り付けられたオリフィス部材を介してノズルの内側空間に送られ、ノズルの先端から噴出させられる。トーチボディおよびチップボディの内部空間は、シールドガスが流れる流路としての役割を有する。また、トーチボディおよびチップボディの内部空間にコイルライナが配置される場合、コイルライナとトーチボディやチップボディの内周面との間には適度な隙間が設けられており、シールドガスは主に当該隙間を流れる。
【0006】
しかしながら、上記コイルライナは、トーチボディおよびチップボディの内部空間に挿し込まれており、トーチボディやチップボディに内面に沿うなど配置の偏りが生じる場合がある。そうすると、トーチボディやチップボディの内部空間においてシールドガスの流路に偏りが生ずる。上記内部空間のシールドガス流路に偏りが生ずると、ノズル先端から噴出されるガス流れが偏流状態となる。その結果、溶接時のガスシールド性が低下し、溶接品質に悪影響を及ぼす。また、トーチボディは作業者が作業しやすいように湾曲部分を有する場合があるが、この場合、コイルライナは上記湾曲部分において外側に膨らんだ部位の内面に沿いやすく、シールドガス流路の偏りが生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-214412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、トーチボディおよびチップボディの内部空間にコイルライナが配置されるとともに当該内部空間にシールドガスが流れる構成において、上記内部空間におけるシールドガス流路の偏りを低減し、溶接時のガスシールド性を向上させるのに適した溶接トーチを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0010】
本発明によって提供される溶接トーチは、筒状のトーチボディと、上記トーチボディの先端に取り付けられた筒状のチップボディと、金属線材を螺旋状に巻回して構成されるとともに上記トーチボディおよび上記チップボディの内部空間に配置されており、溶接ワイヤを通すためのコイルライナと、を備え、上記内部空間は、シールドガスが流れる流路であり、上記コイルライナ、上記トーチボディおよび上記チップボディの少なくともいずれかは、上記トーチボディまたは上記チップボディと上記コイルライナとが他の部分よりも近接または当接するように張り出す張出し部を有する。
【0011】
好ましい実施の形態においては、上記張出し部は、上記コイルライナにおいて外径が他の部分よりも大である外側張出し部を含む。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記張出し部は、上記トーチボディまたは上記チップボディにおいてその内周面よりも径方向内方に張り出す内側張出し部を含む。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記内側張出し部は、上記トーチボディまたは上記チップボディにおいて上記内部空間の一部を占有するように圧入された部位である。
【0014】
好ましい実施の形態においては、上記張出し部は、上記コイルライナの軸線方向において互いに離間する複数箇所に設けられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る溶接トーチによれば、張出し部を有することでコイルライナの配置がトーチボディやチップボディの内周面に対して偏ることは防止され、コイルライナと上記内周面との間には、当該内周面の周方向においてほぼ満遍なく隙間が形成される。これにより、トーチボディやチップボディの内部空間におけるシールドガス流路の偏りが低減され、溶接時のガスシールド性が向上する。その結果、溶接品質の改善が期待できる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る溶接トーチの第1実施形態を示し、一部を縦断面図で表す。
図2図1に示す溶接トーチの要部縦断面図である。
図3図2の部分拡大図である。
図4図2に示した第1実施形態に溶接トーチの第1変形例を示す要部縦断面図である。
図5図2に示した第1実施形態に溶接トーチの第2変形例を示す要部縦断面図である。
図6】本発明に係る溶接トーチの第2実施形態を示す要部縦断面図である。
図7】本発明に係る溶接トーチの第3実施形態を示す要部縦断面図である。
図8図7のVIII-VIII線に沿う部分拡大断面図である。
図9】本発明に係る溶接トーチの第4実施形態を示す要部縦断面図である。
図10】本発明に係る溶接トーチの第5実施形態を示す要部縦断面図である。
図11図10の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
図1図2は、本発明に係る溶接トーチの第1実施形態を示す。本実施形態の溶接トーチA1は、ハンドル1と、トーチボディ2と、チップボディ3と、インシュレータ4と、オリフィス部材5と、ノズル6と、給電チップ7と、コイルライナ8と、を含んで構成される。
【0020】
ハンドル1は、作業者が手で把持するための部位である。トーチスイッチ11は、作業者が溶接の開始・停止の操作を行うための操作部分である。ハンドル1は本発明の本質的部分ではないので、大半の記載を省略している。
【0021】
トーチボディ2は筒状であり、基端部がハンドル1に保持されている。図1に示した例では、トーチボディ2は、作業者が溶接作業を行いやすいように、湾曲部分を有する。図2に示すように、トーチボディ2の先端部は、円筒状の内周面21を有する。
【0022】
チップボディ3は筒状であり、トーチボディ2の先端に取り付けられている。チップボディ3は、円筒状の内周面31を有する。このチップボディ3は、トーチボディ2の先端に対し、ねじ手段32によって取り付けられている。チップボディ3はまた、導電性金属で形成されており、トーチボディ2から溶接電流の給電を受ける。図2に示した例では、チップボディ3の内周面31の内径寸法はトーチボディ2の内周面21の内径寸法と同程度である。なお、内周面31の内径寸法と内周面21の内径寸法とが異なっていてもよい。チップボディ3の先端部付近には、テーパ部34が形成されている。テーパ部34は、チップボディ3の先端に向かうにつれて縮径する先細り形状とされている。
【0023】
インシュレータ4は、筒状とされており、チップボディ3の軸線方向中間部外面に外嵌されている。本実施形態において、インシュレータ4は、絶縁ブッシュ41および口金42を備える。絶縁ブッシュ41は、たとえば、耐熱性の硬質樹脂などの絶縁部材によって形成され、チップボディ3に対してねじ手段411によって連結されている。
【0024】
口金42は、絶縁ブッシュ41の基端側から先端側にかけて当該絶縁ブッシュ41に外嵌固定されている。口金42は、たとえば真鍮などの金属からなる。口金42の先端側の外周部には、雄ねじ部421が形成されている。雄ねじ部421は、たとえば台形ねじとして構成される。
【0025】
オリフィス部材5は、チップボディ3の軸線方向先端部外面に外嵌されている。オリフィス部材5は、チップボディ3の軸線方向においてインシュレータ4と隣接するように配置されている。このオリフィス部材5については、さらに後述する。
【0026】
給電チップ7は、チップボディ3の先端に取り付けられている。給電チップ7は、その基端部がチップボディ3に対してねじ手段71によって取り付けられている。給電チップ7には、溶接ワイヤを通すためのワイヤ挿通孔72が基端から先端まで貫通状に形成されている。給電チップ7の基端部において、ワイヤ挿通孔72はテーパ状であり、溶接トーチA1に送給される溶接ワイヤ(図示略)は、当該テーパ状部分で芯出し案内されながら給電チップ7の先端側に送られる。
【0027】
ノズル6は、チップボディ3ないし給電チップ7の外側において、前方に開放する環状空間を形成する筒状部材である。ノズル6の基端側の内周部には、雌ねじ部61が形成されている、雌ねじ部61は、インシュレータ4(口金42)の雄ねじ部421に螺合可能であり、当該雄ねじ部321と螺合させられるとこによって、ノズル6がインシュレータ4(口金42)に取り付けられる。
【0028】
コイルライナ8は、トーチボディ2およびチップボディ3の内部空間Sに配置されている。コイルライナ8は、金属線材を螺旋状に巻回して構成されたものである。コイルライナ8は、トーチボディ2の基端側から挿し込まれてトーチボディ2およびチップボディ3の内部空間Sに配置される。コイルライナ8とトーチボディ2の内周面21との間、およびコイルライナ8とチップボディ3の内周面31との間には、所定の隙間が設けられている。コイルライナ8は給電チップ7の近くまで延びており、図示した例では、コイルライナ8の先端はチップボディ3のテーパ部34に近接または当接している。溶接トーチA1に送給される溶接ワイヤ(図示略)は、トーチボディ2およびチップボディ3の内部空間Sにおいてコイルライナ8の内側を通ってガイドされつつ、給電チップ7のワイヤ挿通孔72を通り、給電チップ7の先端から導出される。
【0029】
本実施形態において、コイルライナ8は、大径部81を有する。大径部81は、コイルライナ8において外径が他の部分よりも大である部分である。図2に示した例では、大径部81は、チップボディ3の内部に位置し、チップボディ3の内周面31と近接または当接するように張り出している。このような構成の大径部81は、本発明の外側張出し部(張出し部)の一例に相当する。また、上記のように、コイルライナ8の先端はチップボディ3のテーパ部34に当接している。テーパ部34は、チップボディ3においてその内周面31よりも径方向内方に張り出す部分である。このテーパ部34は、本発明の内側張出し部(張出し部)の一例に相当する。
【0030】
トーチボディ2、チップボディ3、およびコイルライナ8の寸法の一例を挙げると、図3に示すように、トーチボディ2の内周面21およびチップボディ3の内周面31の内径寸法D1が7mm程度であり、コイルライナ8の外径寸法D2が6mm程度である。また、コイルライナ8の外周部とトーチボディ2、チップボディ3の内周面21,31との間の隙間L1は、0.5mm程度である。コイルライナ8の大径部81では、その外径寸法Dmaxが6.8~7mm程度である。大径部81(外周部)とチップボディ3の内周面31との間の隙間L2は0~0.1mm程度であり、微小である。なお、コイルライナ8において螺旋状に巻かれた金属線材の直径d3(線径)は、たとえば1.6mm程度であり、当該金属線材の隣接相互間の隙間L3はたとえば0~0.5mm程度である。ただし、上記の各寸法は一例であり、各部の寸法は上記例示した寸法値に限定されるものではない。
【0031】
溶接トーチA1はまた、先端のノズル6から不活性ガスなどからなるシールドガスが噴出するように構成されている。具体的には、オリフィス部材5の内周に環状孔51を形成してチップボディ3の外面との間に環状空間52を形成するとともに、この環状空間52とノズル6内空間をオリフィス孔53により連通させる。また、チップボディ3にその内部空間Sと上記環状空間52を連通させる通気孔33を形成している。溶接トーチA1にシールドガスが送られると、当該シールドガスは、トーチボディ2およびチップボディ3の内部空間Sを通過し、通気孔33、オリフィス部材5の環状空間52、ないしオリフィス孔53からノズル6の内側空間に送られ、最終的にノズル6の先端から噴出させられる。
【0032】
トーチボディ2およびチップボディ3の内部空間Sは、シールドガスが流れる流路としての役割を有する。また、トーチボディ2およびチップボディ3の内部空間Sにコイルライナ8が配置されているため、シールドガスは、主にコイルライナ8とトーチボディ2およびチップボディ3の内周面21,31との間に設けられた隙間を流れる。
【0033】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0034】
本実施形態において、トーチボディ2およびチップボディ3の内部空間Sには、コイルライナ8が配置されている。内部空間Sは、シールドガスが流れるガス流路の役割を有し、上記のように、シールドガスは、主にコイルライナ8とトーチボディ2およびチップボディ3の内周面21,31との間に設けられた隙間を流れる。コイルライナ8は大径部81を有し、当該大径部81は、コイルライナ8において外径が他の部分よりも大であり、チップボディ3と近接または当接するように張り出す部分である。このような構成によれば、コイルライナ8の配置がチップボディ3の内周面31に対して偏ることは防止され、コイルライナ8と内周面31との間には、当該内周面31の周方向においてほぼ満遍なく隙間が形成される。これにより、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りが低減され、溶接時のガスシールド性が向上する。その結果、溶接品質の改善が期待できる。
【0035】
チップボディ3は、テーパ部34を有する。テーパ部34は、チップボディ3においてその内周面31よりも径方向内方に張り出部分であり、コイルライナ8の先端がテーパ部34に近接または当接している。このような構成によれば、チップボディ3の先端部付近において、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りが適切に低減される。
【0036】
本実施形態において、大径部81とテーパ部34とは、コイルライナ8の軸線方向(図2における上下方向)において互いに離間する複数箇所(本実施形態では2箇所)に設けられている。これにより、内周面31に対するコイルライナ8のセンタリング効果が適切に発揮される。このことは、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りを低減し、溶接時のガスシールド性を向上させる上で好ましい。
【0037】
なお、コイルライナ8の大径部81について、図3に示した例では大径部81(外周部)とチップボディ3の内周面31との間の隙間が微小であり、大径部81が内周面31に近接する場合を示した。本発明において、「近接」とは、コイルライナ8の軸線とチップボディ3(内周面31)の軸線とが一致するとき、大径部81(外周部)と内周面31との間において周方向に均一な隙間がある状態を意味する。溶接トーチA1の使用時には、コイルライナ8の軸線がチップボディ3(内周面31)の軸線から少しずれると、大径部81(外周部)の一部が内周面31に当接し、コイルライナ8のセンタリング効果が得られる。
【0038】
図3に示した例とは異なり、大径部81が内周面31に当接していてもよい。本発明において、「当接」とは、コイルライナ8の軸線とチップボディ3(内周面31)の軸線とが一致するとき、大径部81(外周部)と内周面31とが隙間なく接触する状態を意味する。大径部81が内周面31に当接する場合、たとえば自然状態における大径部81の外径寸法を内周面31の内径寸法よりも僅かに大きく設定しておき、コイルライナ8をトーチボディ2およびチップボディ3の内部空間Sに挿し込む際、大径部81(外周部)が内周面21,31に摺接する。
【0039】
また、コイルライナ8の大径部81の巻数について特に限定されないが、たとえば1~3巻程度とされる。大径部81の巻数が多くなると、内部空間Sにおいてシールドガス流路の流路抵抗が増大する。また、大径部81が内周面31に当接する場合、大径部81の巻数が多くなると、コイルライナ8をセットする際に大径部81の摺動抵抗が増大するので、好ましくない。
【0040】
本実施形態では、チップボディ3の先端部においてテーパ部34を有するが、このようなテーパ部34を有さない構成であってもよい。チップボディ3がテーパ部34を有さない構成としてもよい点については、後述の変形例や他の実施形態においても同様である。
【0041】
図4は、上記第1実施形態に溶接トーチの第1変形例を示している。なお、図4以降の図面において、上記実施形態1と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付しており、適宜説明を省略する。
【0042】
図4に示した溶接トーチA11においては、コイルライナ8における大径部81の配置が上記実施形態と異なっている。溶接トーチA11において、チップボディ3の内部に2つの大径部81が設けられている。
【0043】
本変形例の溶接トーチA11においても、コイルライナ8の配置がチップボディ3の内周面31に対して偏ることは防止され、コイルライナ8と内周面31との間には、当該内周面31の周方向においてほぼ満遍なく隙間が形成される。これにより、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りが低減され、溶接時のガスシールド性が向上する。その結果、溶接品質の改善が期待できる。
【0044】
本変形例において、大径部81とテーパ部34とは、コイルライナ8の軸線方向(図4における上下方向)において互いに離間する複数箇所(本実施形態では3箇所)に設けられている。これにより、内周面31に対するコイルライナ8のセンタリング効果が適切に発揮される。このことは、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りを低減し、溶接時のガスシールド性を向上させる上でより好ましい。
【0045】
図5は、上記第1実施形態に溶接トーチの第2変形例を示している。図5に示した溶接トーチA12においては、コイルライナ8における大径部81の配置が上記実施形態と異なっている。溶接トーチA12において、トーチボディ2の内部とチップボディ3の内部に1つずつの大径部81が設けられている。
【0046】
本変形例の溶接トーチA12において、コイルライナ8の配置がトーチボディ2の内周面21およびチップボディ3の内周面31に対して偏ることは防止され、コイルライナ8と内周面21,31との間には、当該内周面21,31の周方向においてほぼ満遍なく隙間が形成される。これにより、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りが低減され、溶接時のガスシールド性が向上する。その結果、溶接品質の改善が期待できる。
【0047】
本変形例において、大径部81とテーパ部34とは、コイルライナ8の(図5における上下方向)において互いに離間する複数箇所(本実施形態では3箇所)に設けられている。これにより、内周面21,31に対するコイルライナ8のセンタリング効果が適切に発揮される。このことは、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りを低減し、溶接時のガスシールド性を向上させる上でより好ましい。
【0048】
なお、溶接トーチA12において、大径部81はトーチボディ2先端付近のストレート部分の内周面21に対応して設けたが、トーチボディ2の湾曲部分の内周面21に対応させて大径部81を設けてもよい。
【0049】
図6は、本発明に係る溶接トーチの第2実施形態を示す。図6に示した溶接トーチA2においては、コイルライナ8およびチップボディ3の構成が上記第1実施形態と異なっている。
【0050】
本実施形態では、コイルライナ8は、大径部81を有さず、全長にわたってほぼ均一な外径寸法とされている。チップボディ3は、縮径部35を有する。縮径部35は、チップボディ3においてその内周面31よりも径方向内方に張り出す部分である。図6に示した例では、縮径部35は、円環状とされており、コイルライナ8の外周部に近接または当接している。かかる構成の縮径部35は、本発明の内側張出し部(張出し部)の一例に相当する。
【0051】
チップボディ3が上記の縮径部35を有する構成によれば、コイルライナ8の配置がチップボディ3の内周面31に対して偏ることは防止され、コイルライナ8と内周面31との間には、当該内周面31の周方向においてほぼ満遍なく隙間が形成される。これにより、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りが低減され、溶接時のガスシールド性が向上する。その結果、溶接品質の改善が期待できる。
【0052】
本実施形態において、縮径部35とテーパ部34とは、コイルライナ8の軸線方向(図6における上下方向)において互いに離間する複数箇所(本実施形態では2箇所)に設けられている。これにより、内周面31に対するコイルライナ8のセンタリング効果が適切に発揮される。このことは、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りを低減し、溶接時のガスシールド性を向上させる上で好ましい。
【0053】
なお、図6に示した例ではチップボディ3が縮径部35を有する構成であったが、たとえば、トーチボディ2先端付近のストレート部分の内周面21に、上記縮径部35と同様の構成の縮径部を設けてもよい。
【0054】
図7図8は、本発明に係る溶接トーチの第3実施形態を示す。図7図8に示した溶接トーチA3においては、チップボディ3の構成が上記第2実施形態の溶接トーチA2と異なっている。
【0055】
本実施形態において、コイルライナ8は、上記第2実施形態と同様に大径部81を有さず、全長にわたってほぼ均一な外径寸法とされている。一方、チップボディ3は、上記第2実施形態の縮径部35に代えて、内面突起36および溝37を有する。
【0056】
内面突起36は、チップボディ3においてその内周面31よりも径方向内方に張り出す部分である。本実施形態では、図8に示すように、複数の内面突起36がチップボディ3の周方向において等間隔で配置されている。溝37は、隣接する内面突起36により挟まれた間の空間である。図7に示すように、本実施形態の内面突起36は、上記第2実施形態の縮径部35と比べて、チップボディ3の軸線方向に沿う長さ(図中上下方向長さ)が長くされている。
【0057】
チップボディ3が上記の内面突起36および溝37を有する構成によれば、コイルライナ8の配置がチップボディ3の内周面31に対して偏ることは防止され、コイルライナ8と内周面31との間には、当該内周面31の周方向においてほぼ満遍なく隙間が形成される。これにより、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りが低減され、溶接時のガスシールド性が向上する。その結果、溶接品質の改善が期待できる。
【0058】
内面突起36は、チップボディ3の軸線方向に沿う長さが相対的に長い。このため、コイルライナ8の軸線方向に沿った長い範囲において当該コイルライナ8のセンタリング効果が得られる。その一方、隣接する内面突起36の間には溝37が形成されている。これにより、内部空間Sを流れるシールドガスは、内面突起36の形成部位においては隣接する内面突起36の間の各溝37を通過可能である。したがって、シールドガス流路の流路抵抗の増大を抑制することができる。
【0059】
本実施形態において、内面突起36とテーパ部34とは、コイルライナ8の軸線方向(図7における上下方向)において互いに離間する複数箇所(本実施形態では2箇所)に設けられている。これにより、内周面31に対するコイルライナ8のセンタリング効果が適切に発揮される。このことは、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りを低減し、溶接時のガスシールド性を向上させる上で好ましい。
【0060】
なお、図7図8に示した例ではチップボディ3が内面突起36を有する構成であったが、たとえばトーチボディ2先端付近のストレート部分の内周面21に、上記内面突起36と同様の構成の内面突起を設けてもよい。
【0061】
図9は、本発明に係る溶接トーチの第4実施形態を示す。図9に示した溶接トーチA4においては、チップボディ3の構成が上記第2実施形態の溶接トーチA2と異なっている。
【0062】
本実施形態において、コイルライナ8は、上記第2実施形態と同様に大径部81を有さず、全長にわたってほぼ均一な外径寸法とされている。一方、チップボディ3は、上記第2実施形態の縮径部35に代えて、圧入部38を有する。圧入部38は、円環状とされており、チップボディ3の内周面31に圧入された部位である。チップボディ3への圧入前の時点において、圧入部38の外径寸法は内周面31の内径寸法よりも僅かに大きい。圧入部38は、チップボディ3においてその内周面31よりも径方向内方に張り出しており、コイルライナ8の外周部に近接または当接している。かかる構成の圧入部38は、本発明の内側張出し部(張出し部)の一例に相当する。
【0063】
チップボディ3が上記の圧入部38を有する構成によれば、コイルライナ8の配置がチップボディ3の内周面31に対して偏ることは防止され、コイルライナ8と内周面31との間には、当該内周面31の周方向においてほぼ満遍なく隙間が形成される。これにより、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りが低減され、溶接時のガスシールド性が向上する。その結果、溶接品質の改善が期待できる。
【0064】
本実施形態において、圧入部38とテーパ部34とは、コイルライナ8の軸線方向(図9における上下方向)において互いに離間する複数箇所(本実施形態では2箇所)に設けられている。これにより、内周面31に対するコイルライナ8のセンタリング効果が適切に発揮される。このことは、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りを低減し、溶接時のガスシールド性を向上させる上で好ましい。
【0065】
なお、図9に示した例ではチップボディ3の内周面31に圧入部38が圧入された構成であったが、たとえば、トーチボディ2先端付近のストレート部分の内周面21に、上記圧入部38と同様の構成の圧入部を圧入してもよい。
【0066】
図10図11は、本発明に係る溶接トーチの第5実施形態を示す。図10に示した溶接トーチA5においては、チップボディ3の具体的構成が上記第4実施形態の溶接トーチA4と異なっている。
【0067】
本実施形態において、コイルライナ8は、上記第4実施形態と同様に大径部81を有さず、全長にわたってほぼ均一な外径寸法とされている。また、チップボディ3は、上記第4実施形態と同様に圧入部38を有するが、本実施形態では、圧入部38は、圧入座39に圧入されている。圧入座39は、チップボディ3の内周面31から径方向内方に少し突出する部分である。チップボディ3への圧入前の時点において、圧入部38の外径寸法は圧入座39の内径寸法よりも僅かに大きく、内周面31の内径寸法よりも小さい。圧入部38は、チップボディ3においてその内周面31よりも径方向内方に張り出しており、コイルライナ8の外周部に近接または当接している。この圧入部38は、本発明の内側張出し部(張出し部)の一例に相当する。
【0068】
チップボディ3が上記の圧入部38を有する構成によれば、コイルライナ8の配置がチップボディ3の内周面31に対して偏ることは防止され、コイルライナ8と内周面31との間には、当該内周面31の周方向においてほぼ満遍なく隙間が形成される。これにより、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りが低減され、溶接時のガスシールド性が向上する。その結果、溶接品質の改善が期待できる。
【0069】
本実施形態において、圧入部38とテーパ部34とは、コイルライナ8の軸線方向(図10における上下方向)において互いに離間する複数箇所(本実施形態では2箇所)に設けられている。これにより、内周面31に対するコイルライナ8のセンタリング効果が適切に発揮される。このことは、内部空間Sにおけるシールドガス流路の偏りを低減し、溶接時のガスシールド性を向上させる上で好ましい。
【0070】
さらに、本実施形態では、圧入部38は、内周面31から径方向内方に突出した圧入座39に圧入されている。このような構成によれば、圧入部38を所定位置(圧入座39が設けられた位置)に正確に配置することができる。
【0071】
なお、上記の圧入座39について、円環状とされた構成例を図示したが、圧入座39の構成はこれに限定されない。たとえば、チップボディ3の周方向において、互いに分離した複数の圧入座39を、間隔を隔てて形成してもよい。
【0072】
また、図10図11に示した例ではチップボディ3の内周面31から突出する圧入座39を有し、当該圧入座39に圧入部38が圧入された構成であったが、たとえば、トーチボディ2先端付近のストレート部分の内周面21から突出する圧入座を形成し、当該圧入座に上記圧入部38と同様の構成の圧入部を圧入してもよい。
【0073】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【符号の説明】
【0074】
A1,A11,A12,A2,A3,A4,A5:溶接トーチ、2:トーチボディ、21:内周面、3:チップボディ、31:内周面、34:テーパ部(張出し部、内側張出し部)、35:縮径部(張出し部、内側張出し部)、36:内面突起(張出し部、内側張出し部)、38:圧入部(張出し部、内側張出し部)、8:コイルライナ、81:大径部(張出し部、外側張出し部)、S:内部空間
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