(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/14 20160101AFI20240919BHJP
【FI】
H02P21/14
(21)【出願番号】P 2020148516
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】橋本 誠司
(72)【発明者】
【氏名】木暮 雅之
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 誠
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-014838(JP,A)
【文献】特開平06-217597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御する制御装置であって、
入力信号を入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、最適効率となる出力信号を導出するニューラルネットワーク補償器を備え、
該ニューラルネットワーク補償器は、電流波高指令値i
p
*
と電流波高値i
p
を前記入力信号とし、前記電流波高指令値i
p
*
に対する前記電流波高値i
p
の二乗誤差(i
p
*
-i
p
)
2
を教師信号とし、電流位相指令値θ
i
*
を前記出力信号として、前記教師信号を最小化するように、前記入力信号から前記出力信号を学習的に導出すると共に、
前記ニューラルネットワーク補償器が導出した前記出力信号に基づき、前記モータを制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
モータを制御する制御装置であって、
入力信号を入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、最適効率となる出力信号を導出するニューラルネットワーク補償器を備え、
該ニューラルネットワーク補償器は、q軸電流指令値i
q
*
とq軸電流i
q
を前記入力信号とし、前記q軸電流指令値i
q
*
に対する前記q軸電流i
q
の二乗誤差(i
q
*
-i
q
)
2
を教師信号とし、電流位相指令値θ
i
*
を前記出力信号として、前記教師信号を最小化するように、前記入力信号から前記出力信号を学習的に導出すると共に、
前記ニューラルネットワーク補償器が導出した前記出力信号に基づき、前記モータを制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータは、永久磁石同期電動機であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータを駆動制御するモータ駆動部と、
前記ニューラルネットワーク補償器の前記出力信号に基づいて前記モータ駆動部により前記モータを制御するモータ制御部と、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの運転を制御するためのモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石埋込型(IPM)モータ(永久磁石同期電動機)は、永久磁石を回転子内部に配置した構造で、リラクタンストルクを併用可能であり、高効率化を図りやすいため、家電機器や産業機器、自動車分野の用途などに広く用いられてきている。また、近年のAI技術の発展に伴い、この種モータ制御の分野においてもその導入が検討されて来ている。
【0003】
例えば、特許文献1ではモータの電流制御系において,ステップ状のトルク指令に対する電流のオーバーシュート量、アンダーシュート量、立ち上がり時間を報酬とした学習により、電流制御器のPIゲインを最適化する学習装置と学習方法を提案している。また、例えば、特許文献2ではモータの最適電流指令を学習することができる機械学習方法を提案している。
【0004】
この文献では、モータトルク、モータ電流、モータ電圧を報酬とした学習により、モータの電流指令値を導出している。更に、例えば、特許文献3ではニューラルネットワーク手段を用いて、1次電圧と位相角を導出し、誘導機を制御する装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-34844号公報
【文献】特開2018-14838号公報
【文献】特許第3054521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、何れの文献に記載の構成によっても、モータの製品ばらつきや経年変化によるモータパラメータの変動に対して、応答性良く損失を最小化し、効率の低下を防止することは難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、ニューラルネットワーク構造により、直接的に最適効率となる出力信号を学習的に導出し、リアルタイムで効率の改善を図ることができるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明のモータ制御装置は、モータを制御する制御装置であって、入力信号を入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、最適効率となる出力信号を導出するニューラルネットワーク補償器を備え、このニューラルネットワーク補償器は、電流波高指令値i
p
*
と電流波高値i
p
を入力信号とし、電流波高指令値i
p
*
に対する電流波高値i
p
の二乗誤差(i
p
*
-i
p
)
2
を教師信号とし、電流位相指令値θ
i
*
を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から前記出力信号を学習的に導出すると共に、ニューラルネットワーク補償器が導出した出力信号に基づき、モータを制御することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明のモータ制御装置は、モータを制御する制御装置であって、入力信号を入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、最適効率となる出力信号を導出するニューラルネットワーク補償器を備え、このニューラルネットワーク補償器は、q軸電流指令値i
q
*
とq軸電流i
q
を入力信号とし、q軸電流指令値i
q
*
に対するq軸電流i
q
の二乗誤差(i
q
*
-i
q
)
2
を教師信号とし、電流位相指令値θ
i
*
を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出すると共に、ニューラルネットワーク補償器が導出した出力信号に基づき、モータを制御することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明のモータ制御装置は、上記各発明においてモータは、永久磁石同期電動機であることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明のモータ制御装置は、上記各発明においてモータを駆動制御するモータ駆動部と、ニューラルネットワーク補償器の出力信号に基づいてモータ駆動部によりモータを制御するモータ制御部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明のモータ制御装置によれば、入力信号を入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、最適効率となる出力信号を導出するニューラルネットワーク補償器を設け、このニューラルネットワーク補償器が電流波高指令値i
p
*
と電流波高値i
p
を入力信号とし、電流波高指令値i
p
*
に対する電流波高値i
p
の二乗誤差(i
p
*
-i
p
)
2
を教師信号とし、電流位相指令値θ
i
*
を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から前記出力信号を学習的に導出すると共に、ニューラルネットワーク補償器が導出した出力信号に基づき、モータを制御するようにしたので、モータに製品ばらつきがあった場合や、磁気飽和に加え、経年変化や温度変化によりモータパラメータが変動した場合にも、リアルタイムで損失を最小化し、効率の低下を防止することが可能となる。
【0013】
これにより、ばらつきが多くなる安価なモータを採用することができるようになると共に、パラメータの適合にかかる工数も大幅に低減され、コストの削減も図ることが可能となると共に、所謂ロバスト化も実現することができるようになる。
【0014】
特に、電流波高指令値i
p
*
と電流波高値i
p
を入力信号とし、電流波高指令値i
p
*
に対する電流波高値i
p
の二乗誤差(i
p
*
-i
p
)
2
を教師信号とし、電流位相指令値θ
i
*
を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から前記出力信号を学習的に導出するようにしたことにより、トルクを検出できない場合にも最適効率の状態で的確にモータを制御することができるようになる。
【0015】
請求項2の発明のモータ制御装置によれば、入力信号を入力し、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、最適効率となる出力信号を導出するニューラルネットワーク補償器を設け、このニューラルネットワーク補償器が、q軸電流指令値i
q
*
とq軸電流i
q
を入力信号とすると共に、q軸電流指令値i
q
*
に対するq軸電流i
q
の二乗誤差(i
q
*
-i
q
)
2
を教師信号とし、電流位相指令値θ
i
*
を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出するようにしたので、モータに製品ばらつきがあった場合や、磁気飽和に加え、経年変化や温度変化によりモータパラメータが変動した場合にも、リアルタイムで損失を最小化し、効率の低下を防止することが可能となる。
【0016】
これにより、ばらつきが多くなる安価なモータを採用することができるようになると共に、パラメータの適合にかかる工数も大幅に低減され、コストの削減も図ることが可能となると共に、所謂ロバスト化も実現することができるようになる。
【0017】
特に、q軸電流指令値i
q
*
とq軸電流i
q
を入力信号とし、q軸電流指令値i
q
*
に対するq軸電流i
q
の二乗誤差(i
q
*
-i
q
)
2
を教師信号とし、電流位相指令値θ
i
*
を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出するようにしたことにより、トルクを検出できない場合にも最適効率の状態で的確にモータを制御することができるようになる。
【0018】
また、上記各発明は請求項3の発明の如き永久磁石同期電動機に有効であり、具体的には請求項4の発明の如くモータを駆動制御するモータ駆動部と、ニューラルネットワーク補償器の出力信号に基づいてモータ駆動部によりモータを制御するモータ制御部を更に設けてモータを制御するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を適用した一実施例のモータ制御装置のブロック図である(実施例1の1)。
【
図2】
図1のモータ制御装置のニューラルネットワーク補償器のブロック図である。
【
図3】
図2のニューラルネットワーク補償器の内部構造の一例を示す図である。
【
図4】本発明を適用した他の実施例のモータ制御装置のブロック図である(実施例1の2)。
【
図5】
図4のモータ制御装置のニューラルネットワーク補償器のブロック図である。
【
図7】
図4の場合のトルク応答波形を示す図である。
【
図9】
図4の場合の電力損失とエネルギー損失を示す図である。
【
図10】
図1の場合の速度応答波形を示す図である。
【
図11】
図1の場合のトルク応答波形を示す図である。
【
図12】
図1の場合の電流応答波形を示す図である。
【
図13】
図1の場合の電力損失とエネルギー損失を示す図である。
【
図14】モータパラメータ変化時の
図1と
図4の場合の速度応答波形を示す図である。
【
図15】モータパラメータ変化時の
図1と
図4の場合のトルク応答波形を示す図である。
【
図16】モータパラメータ変化時の
図1と
図4の場合の電流応答波形を示す図である。
【
図17】モータパラメータ変化時の
図1と
図4の場合の電力損失とエネルギー損失を示す図である。
【
図18】本発明を適用した更に他の実施例のニューラルネットワーク補償器のブロック図である(実施例2の1)。
【
図19】本発明を適用した更に他の実施例のニューラルネットワーク補償器のブロック図である(実施例2の2)。
【
図20】本発明を適用した更に他の実施例のニューラルネットワーク補償器のブロック図である(実施例2の3)。
【
図21】本発明を適用した更に他の実施例のニューラルネットワーク補償器のブロック図である(実施例3の1)。
【
図22】本発明を適用した更に他の実施例のニューラルネットワーク補償器のブロック図である(実施例3の2)。
【
図23】本発明を適用した更に他の実施例のニューラルネットワーク補償器のブロック図である(実施例3の3)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
(1)モータ制御装置1
図1は本発明の一実施例のモータ制御装置1の構成を示すブロック図である。この実施例のモータ制御装置1は、インバータ回路9と、モータ制御部3を備え、所定周波数の交流電力を変換生成し、モータ6に供給する構成とされている。モータ6は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両の空調装置に用いられる電動圧縮機を駆動する三相の永久磁石埋込型モータであり、実施例の場合は永久磁石同期電動機(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)を採用し、モータ制御部3が生成する電圧指令によってインバータ回路9により駆動される。
【0022】
(2)インバータ回路9
インバータ回路9は、複数(6個)のスイッチング素子がブリッジ結線されて構成されている。インバータ回路部9の各スイッチング素子は、後述するインバータ制御部3のPWM信号生成器8が生成するPWM信号によりスイッチングされる。
【0023】
(3)モータ制御部3
モータ制御部3は、実施例ではモータ6の機械角速度推定値ω’mと機械角速度指令値ω*との偏差に基づき、当該偏差を無くす方向でd軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*を生成し、これらd軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*から最終的にPWM信号生成器8を用いて、インバータ回路9の各スイッチング素子をスイッチングするためのPWM信号を生成し、モータ6をセンサレスベクトル制御にて駆動するものである。尚、係るセンサレス制御に限らず、位置センサを用いてモータ6を制御してもよい。
【0024】
この実施例のモータ制御部3は、プロセッサを備えたコンピュータの一例であるマイクロコンピュータから構成されており、その機能として、ニューラルネットワーク補償器11と、速度制御器12と、変換器13と、電流制御器14と、非干渉補償器16と、相電圧指令演算器7と、PWM信号生成器8と、dq軸電流変換器10、三相電流推定器17と、磁石位置推定器18と、回転数演算器19等を備えている。
【0025】
三相電流推定器17は、相電圧指令演算器7が出力する各相電圧、即ち、U相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、W相電圧指令値V*
w(PWM信号生成器8が生成する6つのPWM信号を用いても良い。)と、一つのシャント抵抗により検出したインバータ回路9を流れる一相の相電流から、各相電流(U相電流iu、V相電流iv、W相電流iw)を推定する(1シャント電流検知方式)。尚、各相電流の検知方式としてはそれ以外に、二つのシャント抵抗を用いて二相の相電流を検出する2シャント電流検知方式や、シャント抵抗を3つ用いて三相の相電流を検出する3シャント電流検知方式、ホールCTを用いて相電流を検出するホールCT電流検知方式が考えられる。
【0026】
磁石位置推定器18は、この実施例では三相電流推定器17が出力する各相電流、即ち、U相電流iu、V相電流iv、W相電流iwから電気角推定値θ'
eを推定する。尚、この電気角推定値θ'
eの推定に関しては、これらの他に、U相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、W相電圧指令値V*
wを用いても良く、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*を用いても良い。又、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*とd軸電流id、q軸電流iq活用しても良く、それ以外にも、これらU相電流iu、V相電流iv、W相電流iw、U相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、W相電圧指令値V*
w、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*、d軸電流id、q軸電流iqのうちの何れか、或いは、それらの組み合わせ、若しくは、それらの全てを用いて電気角推定値θ'
eを推定しても良い。更に、回転数演算器19は、磁石位置推定器18が出力する電気角推定値θ'
eから、先述した機械角速度推定値ω'
mを推定する。更に、dq軸電流変換器10は、磁石位置推定器18が出力する電気角推定値θ'
eからd軸電流idと、q軸電流iqを導出する。また、磁石位置推定器18が出力する電気角推定値θ'
eは、更に相電圧指令演算器7に入力されると共に、dq軸電流変換器10が出力するd軸電流idとq軸電流iqと、回転数演算器19が出力する機械角速度推定値ω'
mを、非干渉補償器16に入力される。また、回転数演算器19が出力する機械角速度推定値ω'
mは、更に減算器21に入力される。この減算器21には機械角速度指令値ω*が入力され、この減算器21において機械角速度指令値ωm
*から機械角速度推定値ω'
mが減算されてそれらの偏差が算出される。尚、前述した如く位置センサを用いてモータ6を制御する場合には、当該位置センサにより検出された機械角速度(ωm)が機械角速度推定値ω'
mの代わりに減算器21に入力されることになる。
【0027】
減算器21で算出された偏差は速度制御器12に入力される。この速度制御器12はPI演算及び電流波高値ipとトルクの関係式より、電流波高指令値ip
*を算出する。尚、係る式による演算では無く、電流波高値ipとトルクの関係からオフラインで設定したマップを使用し、電流波高指令値ip
*を算出しても良い。また、式を使用する場合、オンラインでパラメータを同定、又は推定し、精度の向上を図っても良い。変換器13にはこの電流波高指令値ip
*が他方の入力として入力される。変換器13の一方の入力には、ニューラルネットワーク補償器11が出力する電流位相指令値θi
*が入力される。尚、このニューラルネットワーク補償器11については、後に詳述する。
【0028】
変換器13は、これら電流位相指令値θi
*と電流波高指令値ip
*からd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*を導出する。変換器13では、以下の式(I)に基づき、d軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*を導出する。
【0029】
【0030】
変換器13が出力するd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*は、減算器22、23にそれぞれ入力される。各減算器22、23にはdq軸電流変換器10が出力するd軸電流idとq軸電流iqがそれぞれ入力され、各減算器22、23において偏差がそれぞれ算出される。
【0031】
各減算器22、23が出力する各偏差は、電流制御器14に入力される。この電流制御器14は、各偏差を用いてPI演算を行い、d軸電圧指令値V
d
*とq軸電圧指令値V
q
*を生成して出力する。これらd軸電圧指令値V
d
*とq軸電圧指令値V
q
*は、非干渉補償器16にてdq軸間の干渉を打ち消された後(
図1中ではその出力をV
'
d
*、V
'
q
*で示す)、相電圧指令演算器7に入力される。尚、この非干渉補償器16は省略しても良い。
【0032】
相電圧指令演算器7は、d軸電圧指令値V'
d
*とq軸電圧指令値V'
q
*、磁石位置推定器18が出力する電気角推定値θ'
eからU相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*、W相電圧指令値Vw
*を生成してPWM信号生成器8に出力する。PWM信号生成器8は各相の電圧指令値Vu
*、Vv
*、Vw
*からインバータ回路9の各スイッチング素子をスイッチング(PWM制御)するためのPWM信号を生成する。そして、インバータ回路9から各相電圧Vu、Vv、Vwがモータ6に印加され、これにより、実施例ではモータ6のセンサレスベクトル制御を実現するものである。
【0033】
(4)ニューラルネットワーク補償器11(実施例1の1)
次に、
図2、
図3を用いて
図1中のニューラルネットワーク補償器11について詳述する。
図2はこの実施例のニューラルネットワーク補償器11のブロック図、
図3はニューラルネットワーク補償器11の内部構造を示す図である。ニューラルネットワーク補償器11は、入力信号を入力して、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返すことにより、最適効率となる出力信号を導出するものである。
【0034】
尚、前記出力信号としては最適効率となる電流波高指令値ip
*(電流波高値ipの指令値)や電流位相指令値θi
*が考えられる。また、入力信号としては、出力に影響を与える電流波高値ip、制御対象としてのモータ6のパラメータ(モータパラメータ)であるd軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLqや、鎖交磁束ψが考えられ、入力信号としては更に、トルク指令値τ*や、現在トルクτが考えられる。また,最小化すべき教師信号は、トルク指令値τ*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ*-τ)2や、電流波高指令値ip
*に対する電流波高値ipの二乗誤差(ip
*-ip)2、q軸電流指令値iq
*に対するq軸電流iqの二乗誤差(iq
*-iq)2が考えられる。
【0035】
図1、
図2の実施例(実施例1の1)のニューラルネットワーク補償器11は、電流波高指令値i
p
*と電流波高値i
pを入力信号とし、電流波高指令値i
p
*に対する電流波高値i
pの二乗誤差(i
p
*-i
p)
2を教師信号とする。そして、電流位相指令値θ
i
*を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出する。
【0036】
即ち、最適効率となる電流位相指令値θi
*を導出するために、入力信号には電流波高指令値ip
*と電流波高値ip、最小化する教師信号には電流波高指令値ip
*に対する電流波高値ipの二乗誤差(ip
*-ip)2を利用する。ニューラルネットワーク補償器11は、多層のニューラルネットワーク補償器であり、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返し、リアルタイムで教師信号を最小化する最適な電流位相指令値θi
*を導出する。
【0037】
図1、
図2の実施例は目標入力(又は、速度制御器12の出力)を電流波高値i
pと捉えて制御する手法であり(i
dは0では無い)、実施例の永久磁石同期電動機から成るモータ6の制御により適した制御方式と考えられ、特に、現在トルクτが検出できない場合や、速度制御系での利用に有効であり、電流波高値i
pとともに算出した最適な電流位相指令値θ
i
*により、モータ6を最適効率の状態で速度制御する。
【0038】
次に、
図3に示す内部構造を用いてニューラルネットワーク補償器11を更に具体的に説明する。ニューラルネットワーク補償器11は、教師信号(電流波高指令値i
p
*に対する電流波高値i
pの二乗誤差(i
p
*-i
p)
2)を最小化するように、補償量(出力信号)を現在の入力信号から学習的に導出する。即ち、現在の電流波高値i
pに対する電流波高指令値i
p
*(必要電流波高値)への補償量(電流位相指令値θ
i
*:出力信号)を現在の利用可能な情報(電流波高指令値i
p
*、電流波高値i
p:入力信号)から演算周期毎に情報更新することで導出する。
【0039】
ニューラルネットワーク(NN)補償器11の内部構造は
図3のようになる(
図3では2入力1出力の例である)。入力層(Input layer)と出力層(Output layer)間に複数の層(Middle layer)があり、各層はニューロン(neuron)により構成され、前後のニューロンはシナプス(重み)により接続される。各ニューロンの結合式は式(II)となる。尚、実施例のニューラルネットワーク補償器11は、入力層(2入力)、2層(10ニューロン)、3層(10ニューロン)、出力層(1出力)である。
【0040】
【0041】
ここで、式(II)中のwiは重み、θは閾値、σは活性化関数である。また、重みwiと、閾値θの更新式(学習式)は式(III)となる。
【0042】
【0043】
ここで、式(III)中のαは学習率、Eは損失関数(二乗誤差和)である。
【0044】
(5)ニューラルネットワーク補償器11(実施例1の2)
次に、
図4と
図5を用いて他の実施例のニューラルネットワーク補償器11を用いた場合について説明する。
図4はこの場合のモータ制御装置1のブロック図、
図5はこの実施例のニューラルネットワーク補償器11のブロック図である。尚、各図において
図1、
図2と同一符号で示すものは同一若しくは同様の機能を奏するものとする。
【0045】
図4、
図5の実施例(実施例1の2)のニューラルネットワーク補償器11は、q軸電流指令値i
q
*とq軸電流i
qを入力信号とし、q軸電流指令値i
q
*に対するq軸電流i
qの二乗誤差(i
q
*-i
q)
2を教師信号としている。そして、電流位相指令値θ
i
*を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出する。
【0046】
即ち、最適効率となる電流位相指令値θi
*を導出するために、入力信号にはq軸電流指令値iq
*とq軸電流iq、最小化する教師信号にはq軸電流指令値iq
*に対するq軸電流iqの二乗誤差(iq
*-iq)2を利用する。この実施例のニューラルネットワーク補償器11も、多層のニューラルネットワーク補償器であり、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返し、リアルタイムで教師信号を最小化する最適な電流位相指令値θi
*を導出する。
【0047】
図4、
図5の実施例は目標入力(又は、速度制御器12の出力)をq軸電流i
q(トルク電流)と捉えて制御する場合である。これは表面磁石型(SPM)のモータの制御法(i
d=0)である。これも現在トルクτが検出できない場合や、速度制御系での利用に有効であり、電流波高値i
pとともに算出した最適な電流位相指令値θ
i
*により、モータ6を最適効率の状態で速度制御する。
【0048】
(6)
図1~
図5のモータ制御装置1の評価
次に、
図6~
図17を参照しながら
図1~
図5の前述したニューラルネットワーク補償器11を用いたモータ6の最適効率制御の効果について説明する。先ず、
図6は
図4(
図5)の例(実施例1の2)の場合に、時刻0sでステップ指令を、時刻t1でトルク外乱を印加した場合の速度応答波形であり、
図7は同じくトルク応答波形、
図8は同じく電流応答波形、
図9は同じく電力損失とエネルギー損失をそれぞれ示している。この場合、速度制御器12の出力(電流指令)をi
q
*と捉えて評価する。
【0049】
図6と
図7において、実線はニューラルネットワーク補償器11(NN)を用いたモータ制御装置1の場合であり、破線はニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系(
図1や
図4でニューラルネットワーク補償器12と変換部13が無く、それ以外は同様の構成で、i
d=0で制御する方式)の場合を示している。
図6と
図7において、速度応答、トルク応答いずれも大幅な違いは見られない。
【0050】
一方、
図8の電流応答波形では、実線はニューラルネットワーク補償器11(NN)を用いたモータ制御装置1の場合を示し、幅広の破線はニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系の場合を示している。また、細かい破線は最適電流値を示している。尚、この最適電流値は予め実験やシミュレーションにより求めておくものとする。
【0051】
ニューラルネットワーク補償器を用いない一般的なモータ制御系では、トルク外乱印加時の定常状態では、d軸電流i
d=0であった。これに対し、ニューラルネットワーク補償器11を用いた
図4(
図5)のモータ制御装置1では、d軸電流i
d、q軸電流i
q、電流波高値i
pの何れも最適電流値に近い値に学習できていることが確認できる。
【0052】
また、
図9は上段に電力損失と、下段にエネルギー損失をそれぞれ示している。実線はニューラルネットワーク補償器11(NN)を用いたモータ制御装置1の場合であり、破線はニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系の場合を示している。
図9より、トルク外乱印加時にはいずれも従来のモータ制御系に比べて、
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11(NN)を用いたモータ制御装置1では損失を改善することができていることが確認できる。
【0053】
次に、
図10は
図1(
図2)の例(実施例1の1)の場合に、時刻0sでステップ指令を、時刻t1でトルク外乱を印加した場合の速度応答波形であり、
図11は同じくトルク応答波形、
図12は同じく電流応答波形、
図13は同じく電力損失とエネルギー損失をそれぞれ示している。この場合、速度制御器12の出力(電流指令)をi
p
*と捉えて評価する。
【0054】
図10と
図11において、実線は
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11(NN1)を用いたモータ制御装置1の場合、一点鎖線は
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11(NN2)を用いたモータ制御装置1の場合であり、破線は前述同様ニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系の場合を示している。
【0055】
図10の速度応答では、
図1(
図2)の場合(一点鎖線)の方が、
図4(
図5)の場合(実線)や一般的なモータ制御系(破線)の場合よりも、目標値に対する行き過ぎ量が若干改善でき、外乱応答についてもドロップ量が低減できている。また、
図11のトルク応答では、
図1(
図2)の場合(一点鎖線)の方が、
図4(
図5)の場合(実線)や一般的なモータ制御系(破線)の場合よりも、目標入力時のトルクが増大しており、外乱に対しては、略同等である。
【0056】
一方、
図12の電流応答波形でも、実線は
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11(NN1)を用いたモータ制御装置1の場合、一点鎖線は
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11(NN2)を用いたモータ制御装置1の場合であり、幅広の破線はニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系の場合を示している。また、細かい破線は最適電流値を示している。
【0057】
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11を用いたモータ制御装置1の場合(一点鎖線)、
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11を用いたモータ制御装置1の場合(実線)よりも、d軸電流i
d、q軸電流i
q、電流波高値i
pの何れも最適電流値(細かい破線)により近い値に学習できていることが確認できる。
【0058】
また、
図13は上段に電力損失と、下段にエネルギー損失をそれぞれ示している。この場合も、実線は
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11(NN1)を用いたモータ制御装置1の場合、一点鎖線は
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11(NN2)を用いたモータ制御装置1の場合であり、幅広の破線はニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系の場合を示している。
【0059】
同図上段の電力損失の結果より、ステップトルク外乱印加時の定常値で、
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11(NN2)を用いたモータ制御装置1(一点鎖線)が最も改善できていることが確認できる。また、下段のエネルギー損失についても、
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11(NN1)を用いたモータ制御装置1(実線)と比べて、
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11を用いたモータ制御装置1(一点鎖線)では更なる改善が確認できる。
【0060】
次に、モータ6(制御対象)のパラメータ(モータパラメータ)が変化した場合の効率改善について
図14~
図17を用いて検証する。この場合のモータパラメータのうち、変動パラメータ(変動させるモータパラメータ)は、d軸インダクタンスL
d、q軸インダクタンスL
q、磁束密度ψとする。各パラメータの変動後の値は、平均値1、標準偏差0.5/3の乗数を各値に乗算し,10
5回の乱数計算で最もトルクが減少する組み合わせを1つ選択した。また、シミュレーション条件は、前述同様に時刻0sでステップ指令を、時刻t1でステップトルク外乱を印加し、その後、時刻t2でモータ6(制御対象)のパラメータ(モータパラメータ)を変動させた。
【0061】
図14と
図15に速度とトルクの応答波形を示す。各図中、実線は
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11(NN1)を用いたモータ制御装置1の場合、一点鎖線は
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11(NN2)を用いたモータ制御装置1の場合であり、破線は前述同様ニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系の場合を示している。
【0062】
また、
図16と
図17に電流応答波形と損失を示す。各図中、実線は
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11(NN1)を用いたモータ制御装置1の場合、一点鎖線は
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11(NN2)を用いたモータ制御装置1の場合であり、幅広の破線は前述同様ニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系の場合を示している。また、
図16ではモータパラメータ変動時に外乱トルクを補償するために必要な最適電流値を細かい破線で示している。
【0063】
図16の結果より、モータパラメータの変動に対し、ニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系(幅広の破線)、
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11(NN1)を用いたモータ制御装置1(実線)、
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11(NN2)を用いたモータ制御装置1(一点鎖線)の順で最適電流値に近い値となっていることが確認できる。
【0064】
また、
図17上段の電力損失(銅損)の結果より、モータパラメータ変動の定常時の損失において、外乱分の電力損失を減算した正味の電力損失分で、ニューラルネットワーク補償器(NN)を用いない一般的なモータ制御系(幅広の破線)に対し、
図4(
図5)のニューラルネットワーク補償器11(NN1)を用いたモータ制御装置1(実線)は改善でき、更に、
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11(NN2)を用いたモータ制御装置1(一点鎖線)では大幅に改善できていることが確認できる。
【0065】
このように、損失改善が可能であることに加え、応答特性も一般的なモータ制御系と同等、或いは、それ以上に改善できることが
図14より確認できる。即ち、速度指令、トルク外乱、モータパラメータ変動に対する定常状態での定量評価において、一般的なモータ制御系に比して、
図1(
図2)のニューラルネットワーク補償器11(NN2)を用いたモータ制御装置1では大幅に損失を抑えていることが確認できる。
【実施例2】
【0066】
次に、
図18~
図20を用いて更に他の実施例のニューラルネットワーク補償器11について説明する。尚、この実施例のニューラルネットワーク補償器11の出力信号も、
図1や
図4のニューラルネットワーク補償器11と同様に、変換器13の一方の入力となり、モータ制御装置1の一部を構成するものとする。
【0067】
(7)ニューラルネットワーク補償器11(実施例2の1)
図18の実施例(実施例2の1)のニューラルネットワーク補償器11は、電流波高値i
p、モータパラメータであるd軸インダクタンスL
d(ハット)、q軸インダクタンスL
q(ハット)、及び、鎖交磁束ψ(ハット)を入力信号とし、トルク指令値τ
*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ
*-τ)
2を教師信号としている。そして、電流波高指令値i
p
*を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出する。
【0068】
即ち、この場合はトルク制御を目的とした最適効率となる電流波高指令値ip
*を導出するために、入力信号には電流波高値ip、d軸インダクタンスLd(ハット)、q軸インダクタンスLq(ハット)、及び、鎖交磁束ψ(ハット)、最小化する教師信号にはトルク指令値τ*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ*-τ)2を利用する。この実施例のニューラルネットワーク補償器11も、多層のニューラルネットワーク補償器であり、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返し、リアルタイムで教師信号を最小化する最適な電流波高指令値ip
*を導出するものである。
【0069】
(8)ニューラルネットワーク補償器11(実施例2の2)
図19の実施例(実施例2の2)のニューラルネットワーク補償器11も、電流波高値i
p、d軸インダクタンスL
d(ハット)、q軸インダクタンスL
q(ハット)、及び、鎖交磁束ψ(ハット)を入力信号とし、トルク指令値τ
*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ
*-τ)
2を教師信号としている。一方、出力信号としては電流波高指令値i
p
*と電流位相指令値θ
i
*を出力する。そして、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出する。
【0070】
即ち、この場合もトルク制御を目的とした最適効率となる電流波高指令値ip
*と最適効率となる電流位相指令値θi
*を導出するために、入力信号には電流波高値ip、d軸インダクタンスLd(ハット)、q軸インダクタンスLq(ハット)、及び、鎖交磁束ψ(ハット)、最小化する教師信号にはトルク指令値τ*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ*-τ)2を利用する。この実施例のニューラルネットワーク補償器11も、多層のニューラルネットワーク補償器であり、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返し、リアルタイムで教師信号を最小化する最適な電流波高指令値ip
*と電流位相指令値θi
*を導出するものである。
【0071】
(9)ニューラルネットワーク補償器11(実施例2の3)
図20の実施例(実施例2の3)のニューラルネットワーク補償器11も、電流波高値i
p、d軸インダクタンスL
d(ハット)、q軸インダクタンスL
q(ハット)、及び、鎖交磁束ψ(ハット)を入力信号とし、トルク指令値τ
*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ
*-τ)
2を教師信号としている。一方、出力信号としては電流位相指令値θ
i
*を出力する。そして、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出する。
【0072】
即ち、この場合も最適効率となる電流位相指令値θi
*を導出するために、入力信号には電流波高値ip、d軸インダクタンスLd(ハット)、q軸インダクタンスLq(ハット)、及び、鎖交磁束ψ(ハット)、最小化する教師信号にはトルク指令値τ*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ*-τ)2を利用する。この実施例のニューラルネットワーク補償器11も、多層のニューラルネットワーク補償器であり、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返し、リアルタイムで教師信号を最小化する最適な電流位相指令値θi
*を導出するものである。
【実施例3】
【0073】
次に、
図21~
図23を用いて更に他の実施例のニューラルネットワーク補償器11について説明する。尚、この実施例のニューラルネットワーク補償器11の出力信号も、
図1や
図4のニューラルネットワーク補償器11と同様に、変換器13の一方の入力となり、モータ制御装置1の一部を構成するものとする。
【0074】
(10)ニューラルネットワーク補償器11(実施例3の1)
図21の実施例(実施例3の1)のニューラルネットワーク補償器11は、トルク指令値τ
*と現在トルクτを入力信号とし、トルク指令値τ
*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ
*-τ)
2を教師信号としている。そして、電流波高指令値i
p
*を出力信号として、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出する。
【0075】
即ち、この場合はトルク制御を目的とした最適効率となる電流波高指令値ip
*を導出するために、入力信号にはトルク指令値τ*と現在トルクτ、最小化する教師信号にはトルク指令値τ*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ*-τ)2を利用する。この実施例のニューラルネットワーク補償器11も、多層のニューラルネットワーク補償器であり、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返し、リアルタイムで教師信号を最小化する最適な電流波高指令値ip
*を導出するものである。
【0076】
(11)ニューラルネットワーク補償器11(実施例3の2)
図22の実施例(実施例3の2)のニューラルネットワーク補償器11も、トルク指令値τ
*と現在トルクτを入力信号とし、トルク指令値τ
*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ
*-τ)
2を教師信号としている。一方、出力信号としては電流位相指令値θ
i
*を出力する。そして、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出する。
【0077】
即ち、この場合も最適効率となる電流位相指令値θi
*を導出するために、入力信号にはトルク指令値τ*と現在トルクτ、最小化する教師信号にはトルク指令値τ*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ*-τ)2を利用する。この実施例のニューラルネットワーク補償器11も、多層のニューラルネットワーク補償器であり、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返し、リアルタイムで教師信号を最小化する最適な電流位相指令値θi
*を導出するものである。
【0078】
(12)ニューラルネットワーク補償器11(実施例3の3)
図23の実施例(実施例3の3)のニューラルネットワーク補償器11も、トルク指令値τ
*と現在トルクτを入力信号とし、トルク指令値τ
*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ
*-τ)
2を教師信号としている。一方、出力信号としては電流波高指令値i
p
*と電流位相指令値θ
i
*を出力する。そして、教師信号を最小化するように、入力信号から出力信号を学習的に導出する。
【0079】
即ち、この場合もトルク制御を目的とした最適効率となる電流波高指令値ip
*と最適効率となる電流位相指令値θi
*を導出するために、入力信号にはトルク指令値τ*と現在トルクτ、最小化する教師信号にはトルク指令値τ*に対する現在トルクτの二乗誤差(τ*-τ)2を利用する。この実施例のニューラルネットワーク補償器11も、多層のニューラルネットワーク補償器であり、順伝搬と逆伝搬による学習を繰り返し、リアルタイムで教師信号を最小化する最適な電流波高指令値ip
*と電流位相指令値θi
*を導出するものである。
【0080】
以上詳述した如く本発明では、モータ6(永久磁石同期電動機)の制御において、ニューラルネットワークに基づいて、トルク指令τ*と現在トルクτの2乗誤差、或いは、電流指令値(ip
*、iq
*)と現在電流(ip、iq)の2乗誤差を最小化する電流波高値指令ip
*、又は、電流位相指令値θ*、或いは、その両方を学習的に導出し、導出した指令値を用いて制御を行うことで,高効率制御が実現できる。
【0081】
即ち、本発明ではニューラルネットワーク学習において、教師信号をトルク誤差(τ*-τ)の2乗、或いは、q軸電流誤差(iq
*-iq)の2乗、若しくは、電流波高値誤差(ip
*-ip)の2乗とし、ニューラルネットワーク学習への入力信号を現在トルクτ、q軸電流iq、電流波高値ipとそれらの指令値τ*、iq
*、ip
*、更にはモータパラメータ(プラントパラメータ)d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、鎖交磁束ψとしてニューラルネットワーク学習による出力を電流位相指令値θi
*や電流波高指令値ip
*としている。
【0082】
これにより、教師信号を最適化(最小化)するニューラルネットワーク出力を、リアルタイムでのフィードバック制御時に学習的に導出することができるようになる。この最適学習は、目標値変化や外乱トルク変化時にも学習的(自動的)に導出され、その結果、高効率制御の効果が得られる。また、制御対象(モータ6)のパラメータ(モータパラメータ(d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、鎖交磁束ψ)の変化時にも、それらの値を同定(或いは、推定)すること無く、最適に学習でき、高効率化を図ることができるようになる。
【0083】
尚、上記各実施例で示したニューラルネットワーク補償器11の入力信号は、それらに限らず、q軸電流指令値iq
*、q軸電流iq、電流波高指令値ip
*、電流波高値ip、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、磁束密度ψ、トルク指令値τ*、及び、現在トルクτの他の組み合わせ、或いは、それらの全てであってもよい。
【0084】
また、本発明のモータ制御装置の制御対象は、請求項10の発明以外では実施例で示した永久磁石同期電動機に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0085】
1 モータ制御装置
2 モータ駆動部
3 モータ制御部
4 Plant
6 モータ
11 ニューラルネットワーク補償器
12 速度制御器
13 変換器
14 電流制御器