(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】炭素繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 5/06 20060101AFI20240919BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C08J5/06 CEV
C08L27/06
(21)【出願番号】P 2020149957
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広部 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】冠 修平
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮介
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132999(JP,A)
【文献】特開2016-030822(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0371225(US,A1)
【文献】特開2020-055310(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059867(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂組成物と、炭素繊維基材とを備え、
前記塩化ビニル系樹脂組成物が、前記炭素繊維基材に含浸されており、
前記塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体、又は、塩化ビニルモノマーと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体を含
み、
前記炭素繊維基材が、スペーサ粒子により開繊された炭素繊維束である、炭素繊維強化複合材料。
【請求項2】
前記スペーサ粒子が、炭素同素体により被覆されたスペーサ粒子である、請求項1に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項3】
前記塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体100重量%中、前記塩化ビニルモノマーに由来する構造単位の含有量が、50重量%以上80重量%以下であり、前記エチレン-酢酸ビニルポリマーに由来する構造単位の含有量が、20重量%以上50重量%以下であり、
前記塩化ビニルモノマーと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体100重量%中、前記塩化ビニルモノマーに由来する構造単位の含有量が、50重量%以上80重量%以下であり、前記2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位の含有量が、20重量%以上50重量%以下である、請求項1
又は2に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項4】
成形体である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の炭素繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂組成物と炭素繊維基材とを含む炭素繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維基材とマトリックス樹脂とにより形成された炭素繊維強化複合材料は、強度及び弾性率等の力学特性に優れ、かつ耐光性及び耐薬品性等の機能特性にも優れる。そのため、炭素繊維強化複合材料は、航空機の構造部材、風車のブレード及び自動車の外板等の様々な用途に用いられている。また、炭素繊維基材と軟質マトリックス樹脂とにより形成された炭素繊維強化複合材料は、引張強度及び耐ひっかき性に優れ、さらに意匠性にも優れることから、自動車のインスツルメントパネル等の自動車産業分野や、ベルト及びキーケース等の一般産業分野での活用が検討されている。
【0003】
上記マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が知られている。エポキシ樹脂は、炭素繊維基材への含浸時には低い粘度を有し、炭素繊維基材に対して優れた密着性を有する。
【0004】
一方で、近年、耐衝撃性及び生産性の向上、並びに環境負荷の低減(例えば、リサイクル性の向上)の観点から、ポリオレフィンやポリアミド系ポリマーアロイ等の熱可塑性樹脂を炭素繊維強化複合材料に用いる開発が進んでいる。しかしながら、ポリオレフィンやポリアミド系ポリマーアロイ等を含む炭素繊維強化複合材料は、耐薬品性及び難燃性の面で劣る。
【0005】
ポリオレフィンやポリアミド系ポリマーアロイ以外の熱可塑性樹脂として、塩化ビニル樹脂がある。塩化ビニル樹脂は、難燃性、耐久性、耐油性、耐薬品性及び機械的強度に優れた性質を有し、さらにエチレン系樹脂やプロピレン系樹脂に比べてクリープ変形を抑制することができる性質を有する。
【0006】
下記の特許文献1には、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及び塩化ビニル系共重合体を含むマトリックス樹脂組成物が、炭素繊維基材に含浸されているプリプレグが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
塩化ビニル系樹脂に関しては、炭素繊維基材に該塩化ビニル系樹脂を含浸させた含浸物においてブリードアウトが発生したり、含浸物が他部材に粘着したりすることがある。また、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを用いた場合には、長期間経過すると、可塑剤の移行により含浸物の柔軟性が低下することがある。さらに、炭素繊維基材に塩化ビニル系樹脂を含浸させる際の加工温度が塩化ビニル系樹脂の熱分解温度に近いため、炭素繊維基材への塩化ビニル系樹脂の含浸が困難であるという課題がある。以上のことから、塩化ビニル系樹脂を炭素繊維強化複合材料に転用することには、様々な課題がある。なお、上記の特許文献1では、熱硬化性樹脂とその硬化剤とが主成分であり、塩化ビニル樹脂は副成分として含まれているにすぎない。
【0009】
本発明の目的は、柔軟性を高め、他部材への粘着を抑制し、ブリードアウトの発生を抑制することができる炭素繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の広い局面によれば、塩化ビニル系樹脂組成物と、炭素繊維基材とを備え、前記塩化ビニル系樹脂組成物が、前記炭素繊維基材に含浸されており、前記塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体、又は、塩化ビニルモノマーと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体を含む、炭素繊維強化複合材料が提供される。
【0011】
本発明に係る炭素繊維強化複合材料のある特定の局面では、前記塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体100重量%中、前記塩化ビニルモノマーに由来する構造単位の含有量が、50重量%以上80重量%以下であり、前記エチレン-酢酸ビニルポリマーに由来する構造単位の含有量が、20重量%以上50重量%以下であり、前記塩化ビニルモノマーと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体100重量%中、前記塩化ビニルモノマーに由来する構造単位の含有量が、50重量%以上80重量%以下であり、前記2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位の含有量が、20重量%以上50重量%以下である。
【0012】
本発明に係る炭素繊維強化複合材料のある特定の局面では、前記炭素繊維強化複合材料は、成形体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る炭素繊維強化複合材料は、塩化ビニル系樹脂組成物と、炭素繊維基材とを備え、上記塩化ビニル系樹脂組成物が、上記炭素繊維基材に含浸されている。本発明に係る炭素繊維強化複合材料では、上記塩化ビニル系樹脂組成物が、塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体、又は、塩化ビニルモノマーと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体を含む。本発明に係る炭素繊維強化複合材料では、上記の構成が備えられているので、柔軟性を高くし、他部材への粘着を抑制し、ブリードアウトの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0015】
<炭素繊維強化複合材料>
本発明に係る炭素繊維強化複合材料は、塩化ビニル系樹脂組成物(A)と、炭素繊維基材(B)とを備える。本発明に係る炭素繊維強化複合材料では、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)が、上記炭素繊維基材(B)に含浸されている。本発明に係る炭素繊維強化複合材料では、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)が、塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体、又は、塩化ビニルモノマーと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体を含む。本発明に係る炭素繊維強化複合材料は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinfоrced Plastic)である。
【0016】
マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂を用いた炭素繊維強化複合材料は、耐衝撃性、生産性及びリサイクル性の面で劣る。また、ポリオレフィンやポリアミド系ポリマーアロイ等を用いた炭素繊維強化複合材料は、耐薬品性及び難燃性の面で劣る。さらに、マトリックス樹脂として塩化ビニル系樹脂を用いた場合には、ブリードアウト及びひび割れが生じたり、粘度が高いために他部材への粘着等が生じたりすることがある。ここで、塩化ビニル系樹脂の粘度を低減させるために塩化ビニル系樹脂に可塑剤を添加すると、樹脂組成物と炭素繊維基材との接着性が悪化するという課題がある。また、可塑剤の移行により柔軟性が低下することがある。さらに、炭素繊維基材に塩化ビニル系樹脂を含浸させる際の加工温度が塩化ビニル系樹脂の熱分解温度に近いため、炭素繊維基材への塩化ビニル系樹脂の含浸が困難であるという課題がある。以上のことから、塩化ビニル系樹脂を炭素繊維強化複合材料に転用することには、様々な課題がある。
【0017】
本発明者らは、鋭意検討の結果、上記の構成を備える炭素繊維強化複合材料であれば、様々な課題を解決できることを見出した。本発明に係る炭素繊維強化複合材料では、上記の構成が備えられているので、柔軟性を高め、他部材への粘着を抑制し、ブリードアウトの発生を抑制することができる。さらに、本発明に係る炭素繊維強化複合材料では、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)が含まれているので、耐衝撃性、生産性、リサイクル性、難燃性、耐久性、耐油性、耐薬品性、機械的強度に優れ、さらにエチレン系樹脂やプロピレン系樹脂を用いた場合に比べてクリープ変形を抑制することができる。
【0018】
以下、炭素繊維強化複合材料の詳細を説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」と「メタクリレート」との一方又は双方を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリル」と「メタクリル」との一方又は双方を意味する。
【0019】
(塩化ビニル系樹脂組成物(A))
上記炭素繊維強化複合材料では、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)が、塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体(A-1)(以下、成分(A-1)と記載することがある)、又は、塩化ビニルモノマーと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体(A-2)(以下、成分(A-2)と記載することがある)を含む。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、塩化ビニル系樹脂として、上記成分(A-1)、又は、上記成分(A-2)を含む。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、上記成分(A-1)を含んでいてもよく、上記成分(A-2)を含んでいてもよい。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、上記成分(A-1)と上記成分(A-2)との双方を含んでいてもよい。
【0020】
上記成分(A-1)は、上記成分(A-1)を構成するモノマーとして、塩化ビニルモノマー及びエチレン-酢酸ビニルポリマー以外のモノマーを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上記成分(A-1)は、塩化ビニルモノマーに由来する構造単位及びエチレン-酢酸ビニルポリマーに由来する構造単位の双方と異なる構造単位を有していてもよい。上記成分(A-2)は、上記成分(A-2)を構成するモノマーとして、塩化ビニルモノマー及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマー以外のモノマーを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上記成分(A-2)は、塩化ビニルモノマーに由来する構造単位及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位の双方と異なる構造単位を有していてもよい。
【0021】
上記成分(A-1)及び上記成分(A-2)の平均重合度はそれぞれ、好ましくは400以上、より好ましくは400を超え、さらに好ましくは500以上である。上記成分(A-1)及び上記成分(A-2)の平均重合度はそれぞれ、好ましくは1500以下、より好ましくは800以下、さらに好ましくは700以下である。上記成分(A-1)及び上記成分(A-2)の平均重合度が上記下限以上であると、塩化ビニル系樹脂を用いることによる効果(例として、機械的強度の向上)がより一層効果的に発揮される。上記成分(A-1)及び上記成分(A-2)の平均重合度が上記上限以下であると、上記炭素繊維強化複合材料の柔軟性がより一層良好になる。
【0022】
上記平均重合度は、以下のようにして測定される。上記成分(A-1)又は上記成分(A-2)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、ろ過により不溶成分を除去する。得られたろ液中のTHFを乾燥により除去し、樹脂を得る。得られた樹脂を試料として、JIS K6721の塩化ビニル樹脂試験方法に準拠して平均重合度を測定する。
【0023】
上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)の200℃及び周波数10Hzでの複素粘度(η)は、好ましくは1Pa・s以上、より好ましくは10Pa・s以上、さらに好ましくは20Pa・s以上であり、好ましくは1500Pa・s以下、より好ましくは1000Pa・s以下、さらに好ましくは800Pa・s以下である。上記複素粘度(η)が1Pa・s以上であると、上記炭素繊維強化複合材料及び上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)の機械的強度を高めることができる。また、上記複素粘度(η)が1500Pa・s以下であると、炭素繊維基材(B)の内部まで上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)を容易に含浸させることができ、機械的強度を高めることができる。
【0024】
上記塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体(A-1)100重量%中、上記塩化ビニルモノマーに由来する構造単位の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは75重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下である。
【0025】
上記塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体(A-1)100重量%中、上記エチレン-酢酸ビニルポリマーに由来する構造単位の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。上記エチレン-酢酸ビニルポリマーに由来する構造単位の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記炭素繊維強化複合材料の柔軟性がより一層良好になる。
【0026】
上記塩化ビニルモノマーと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体(A-2)100重量%中、上記塩化ビニルモノマーに由来する構造単位の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは75重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下である。
【0027】
上記塩化ビニルモノマーと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体(A-2)100重量%中、上記2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。上記2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記炭素繊維強化複合材料の柔軟性がより一層良好になる。
【0028】
上記炭素繊維基材(B)に含浸される上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は23℃でフィルム状であってもよく、ペースト状であってもよい。上記ペースト状には液状が含まれる。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)を上記炭素繊維基材(B)に容易に含浸させる観点から、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、ペースト状であることが好ましい。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)の取り扱い性を高める観点から、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、フィルム状であることが好ましい。フィルム状の塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、加熱により溶融させて、上記炭素繊維基材(B)に含浸させることができる。
【0029】
本発明の効果を効果的に発揮する観点から、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)100重量%中、上記成分(A-1)及び上記成分(A-2)の合計の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)が、上記成分(A-1)を含み、かつ上記成分(A-2)を含まない場合には、上記成分(A-1)及び上記成分(A-2)の合計の含有量は、上記成分(A-1)の含有量を意味する。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)が、上記成分(A-1)を含まず、かつ上記成分(A-2)を含む場合には、上記成分(A-1)及び上記成分(A-2)の合計の含有量は、上記成分(A-2)の含有量を意味する。
【0030】
本発明の効果を効果的に発揮する観点から、上記炭素繊維強化複合材料100重量%中、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは75重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下である。
【0031】
(添加剤)
上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、添加剤を含んでいてもよい。上記添加剤としては、熱安定剤、熱安定化助剤、滑剤、加工助剤、衝撃改質剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、充填剤、顔料、可塑剤及び難燃剤等が挙げられる。上記添加剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なお、ブリードアウトによる物性の低下をより一層抑制し、他部材への粘着をより一層抑制する観点から、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、可塑剤を含まないことが好ましい。
【0032】
上記熱安定剤は、特に限定されない。上記熱安定剤としては、有機錫系安定剤、鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤、及びバリウムーカドミウム系安定剤等が挙げられる。上記有機錫系安定剤としては、メチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、及びジブチル錫ラウレートポリマー等が挙げられる。上記熱安定剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
上記熱安定化助剤は、特に限定されない。上記熱安定化助剤としては、エポキシ化大豆油、リン酸エステル、ポリオール、ハイドロタルサイト、及びゼオライト等が挙げられる。上記熱安定化助剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記滑剤は、特に限定されない。上記滑剤としては、内部滑剤及び外部滑剤が挙げられる。上記内部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する目的で使用される。上記内部滑剤としては、ブチルステアレート、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、エポキシ大豆油、グリセリンモノステアレート、ステアリン酸、及びビスアミド等が挙げられる。上記外部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂と金属面との滑り効果を上げる目的で使用される。上記外部滑剤としては、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス、及びモンタン酸ワックス等が挙げられる。上記滑剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。内部滑剤と外部滑剤とが、併用されてもよい。
【0035】
上記加工助剤は、特に限定されない。上記加工助剤としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレートの単独重合体又は共重合体、アルキルメタクリレートと、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレートとの共重合体、アルキルメタクリレートと、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物との共重合体、及びアルキルメタクリレートと、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物等との共重合体等が挙げられる。上記加工助剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。加工性をより一層良好にする観点から、上記加工助剤は、アルキルメタクリレートと、アルキルアクリレートとの共重合体であることが好ましく、重量平均分子量が10万以上200万以下であり、かつ、アルキルメタクリレートと、アルキルアクリレートとの共重合体であることがより好ましい。上記重量平均分子量が10万以上200万以下であり、かつ、アルキルメタクリレートと、アルキルアクリレートとの共重合体としては、n-ブチルアクリレート-メチルメタクリレート共重合体、及び2-エチルヘキシルアクリレート-メチルメタクリレート-ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0036】
上記衝撃改質剤は、特に限定されない。上記衝撃改質剤としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、塩素化ポリエチレン、フッ素ゴム、スチレン-ブタジエン系共重合体ゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン系共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン系グラフト共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン系共重合体ゴム、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン系グラフト共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体ゴム、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM)、シリコーン含有アクリル系ゴム、シリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体、及びシリコーン系ゴム等が挙げられる。上記衝撃改質剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記耐熱向上剤は、特に限定されない。上記耐熱向上剤としては、α-メチルスチレン系、及びN-フェニルマレイミド系樹脂等が挙げられる。上記耐熱向上剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
上記酸化防止剤は、特に限定されない。上記酸化防止剤としては、4,4’-ブチリデンビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、トリス(ミックスドモノ及びジ-ノニルフェニル)ホスファイト等のホスファイト系酸化防止剤、及びジステアリルチオジプロピオネート等のチオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。上記酸化防止剤としては、高温分解阻害機能が低いので、4,4’-ブチリデンビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤が特に好ましい。上記酸化防止剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0039】
上記紫外線吸収剤は、特に限定されない。上記紫外線吸収剤としては、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びシアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。上記紫外線吸収剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
上記帯電防止剤は、特に限定されない。上記帯電防止剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等が挙げられる。上記アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アミン、アミドの硫酸塩類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン塩類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類、ホルマリン縮合のナフタレンスルホン酸塩類及びこれらの混合物等が挙げられる。上記カチオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩類、アルキルピリジウム塩及びこれらの混合物等が挙げられる。上記非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエステル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、及びこれらの混合物等が挙げられる。上記非イオン性界面活性剤と、アニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤との混合物でもよい。上記両性界面活性剤としては、イミダゾリン型、高級アルキルアミノ型(ベタイン型)、硫酸エステル、リン酸エステル型、スルホン酸型等の両性界面活性剤が挙げられる。上記帯電防止剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
上記光安定剤は、特に限定されない。上記光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。上記光安定剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
上記充填剤は、特に限定されない。上記充填剤としては、タルク、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、クレー、マイカ、ウォラストナイト、ゼオライト、シリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、及び金属繊維等の無機物質、並びにポリアミド等の有機繊維等が挙げられる。上記充填剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
上記顔料は、特に限定されない。上記顔料としては、有機顔料及び無機顔料が挙げられる。上記有機顔料としては、アゾ系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料、スレン系有機顔料、及び染料レーキ系有機顔料等が挙げられる。上記無機顔料としては、酸化物系無機顔料、クロム酸モリブデン系無機顔料、硫化物・セレン化物系無機顔料、及びフェロシアニン化物系無機顔料等が挙げられる。上記顔料は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
上記難燃剤としては、金属水酸化物、臭素系化合物、トリアジン環含有化合物、亜鉛化合物、リン系化合物、ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、イントメッセント系難燃剤、及び酸化アンチモン等が挙げられる。上記難燃剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)100重量%中、添加剤(塩化ビニル系樹脂以外の成分)の含有量は、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。塩化ビニル系樹脂組成物(A)中の上記添加剤の含有量が、上記上限以下であると、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)中の添加剤が、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)と上記炭素繊維基材(B)との界面付近に滲出することを抑制することができ、柔軟性がより一層良好になる。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)中の上記添加剤の含有量の下限は、特に限定されない。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)中の上記添加剤の含有量は、0重量%(未使用)であってもよく、0重量%を超えていてもよく、1重量%以上であってもよい。
【0046】
(炭素繊維基材(B))
本発明に係る炭素繊維強化複合材料では、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、上記炭素繊維基材(B)に含浸されている。炭素繊維基材とは、例えば、複数の炭素繊維からなる炭素繊維束(フィラメント)が、経糸束及び緯糸束として組み込まれた炭素繊維物のことを表す。
【0047】
上記炭素繊維としては、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、及びPITCH系炭素繊維等が挙げられる。機械的強度を効果的に高める観点から、上記炭素繊維は、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維であることが好ましい。上記炭素繊維基材(B)では、上記炭素繊維は、炭素繊維以外の繊維と組み合わせて用いられてもよい。上記炭素繊維基材(B)の材料は、炭素繊維以外の繊維を含んでいてもよい。上記炭素繊維以外の繊維としては、金属繊維、無機繊維、有機繊維、及び天然繊維等が挙げられる。上記金属繊維としては、スチール繊維等が挙げられる。上記無機繊維としては、ガラス繊維、セラミックス繊維、及びボロン繊維等が挙げられる。上記有機繊維としては、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリアセタール繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、及びポリプロピレン繊維等が挙げられる。上記天然繊維としては、木綿繊維、麻繊維、羊毛繊維、及び絹繊維等が挙げられる。機械的強度を高める観点から、上記炭素繊維束の材料は、炭素繊維のみであることが好ましい。機械的強度を高める観点から、上記炭素繊維基材(B)の材料は、炭素繊維のみであることが好ましい。
【0048】
上記炭素繊維基材(B)は、炭素繊維の織物、炭素繊維の編物、又は炭素繊維の不織布であることが好ましい。上記炭素繊維基材(B)として、炭素繊維の織物、炭素繊維の編物、及び炭素繊維の不織布のうちの1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。機械的強度を効果的に高める観点から、上記炭素繊維基材(B)は、炭素繊維の織物又は炭素繊維の編物であることが好ましく、上記炭素繊維の織物であることがより好ましい。上記繊維基材の織物は、平織又は綾織の織物であることが好ましい。
【0049】
上記炭素繊維基材(B)は、平坦なシート状であることが好ましい。上記炭素繊維基材(B)は、炭素繊維シートであることが好ましい。上記炭素繊維基材(B)の表面には、模様が存在していてもよく、染色等により図柄が描かれていてもよい。
【0050】
また、上記炭素繊維は、繊維形態の違いにより、連続炭素繊維と、不連続炭素繊維とに区別される。上記不連続炭素繊維は、例えば、1mm以下の繊維長を有する短炭素繊維と、1mmを超え5cm以下の繊維長を有する長炭素繊維とに区別される。炭素繊維強化複合材料の耐光性及び耐薬品性等の機能特性を高める観点から、上記炭素繊維は、連続炭素繊維であることが好ましい。
【0051】
連続炭素繊維の形態としては、以下の形態が挙げられる。連続炭素繊維を一方向に引き揃えた形態。連続炭素繊維を経緯にして織物とした形態(クロス)。炭素繊維束(フィラメント)を束ねてトウとした形態。トウを一方向に引き揃え、横糸補助糸で保持した形態。連続炭素繊維を一方向に引き揃えた複数の炭素繊維シートを、炭素繊維の方向が異なるように重ねて、補助糸でステッチして留めた形態(マルチアキシャルワープニット)。上記炭素繊維基材(B)は、上記形態の連続炭素繊維からなる炭素繊維束(フィラメント)により形成されていることが好ましい。
【0052】
上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)の上記炭素繊維基材(B)への含浸性を良好にする観点から、上記炭素繊維基材(B)の材料は、開繊処理されている炭素繊維束(以下、開繊炭素繊維束ということがある)であることが好ましい。開繊処理の方法としては、スペーサ粒子を含ませる方法、丸棒で炭素繊維をしごく方法、気流を用いる方法、及び超音波等で炭素繊維を振動させる方法等が挙げられる。上記炭素繊維束を開繊処理する方法は、スペーサ粒子を含ませる方法であることが好ましい。スペーサ粒子を含ませる方法により開繊処理し、予め繊維間距離を広げておくと、製造段階で炭素繊維に高い張力が付与されても繊維間距離が狭くならず、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)の上記炭素繊維基材(B)への含浸性が良好になる。
【0053】
上記炭素繊維束(フィラメント)は、複数の炭素繊維の束である。上記炭素繊維は、一般には単繊維である。上記炭素繊維束(フィラメント)を構成している上記炭素繊維の本数は、好ましくは1000本以上、より好ましくは2000本以上、さらに好ましくは5000本以上であり、好ましくは50000本以下、より好ましくは40000本以下、さらに好ましくは25000本以下である。上記炭素繊維束(フィラメント)を構成している上記炭素繊維の本数が、上記下限以上及び上記上限以下であると、機械的強度及び含浸性を効果的に高めることができる。
【0054】
上記炭素繊維束(フィラメント)の繊維径は、好ましくは3μm以上であり、好ましくは12μm以下である。上記炭素繊維束(フィラメント)の繊維径が上記下限以上であると、機械的強度及び含浸性を効果的に高めることができる。具体的には、例えば炭素繊維束(フィラメント)が、各種加工プロセスにおいて、ロールやスプール等の表面で横移動を起こす際に、切断及び毛羽だまりが生じることを抑制できる。上記炭素繊維束(フィラメント)の繊維径が、上記上限以下であると、炭素繊維基材(B)の製造が容易になる。
【0055】
複数の炭素繊維束(フィラメント)は、特に限定されないが、シート状に成形されることが好ましい。シート状の炭素繊維束(フィラメント)の目付量は、好ましくは100g/m2以上、より好ましくは150g/m2以上、好ましくは600g/m2以下、より好ましくは500g/m2以下である。上記目付量が上記下限以上であると、得られる炭素繊維強化複合材料を積層させて二次加工する際の作業効率を高めることができる。上記目付量が上記上限以下であると、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)の上記炭素繊維基材(B)への含浸性が良好になる。
【0056】
機械的強度及び含浸性を効果的に高める観点から、上記炭素繊維の密度は、好ましくは1本/インチ以上、より好ましくは2本/インチ以上であり、好ましくは50本/インチ以下、より好ましくは20本/インチ以下である。
【0057】
機械的強度及び含浸性を効果的に高める観点から、上記炭素繊維基材(B)の厚みは、好ましくは0.2mm以下、より好ましくは0.15mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下、特に好ましくは0.05mm以下である。
【0058】
本発明の効果を効果的に発揮する観点から、上記炭素繊維強化複合材料100重量%中、上記炭素繊維基材(B)の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上であり、好ましくは60重量%以下、より好ましくは55重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。
【0059】
(炭素繊維強化複合材料の他の詳細)
本発明に係る炭素繊維強化複合材料は、成形体であってもよい。該成形体は、成形前の上記炭素繊維強化複合材料を成形して得ることができる。また、上記炭素繊維強化複合材料を得る際に、上記炭素繊維強化複合材料が、成形体とされてもよい。上記炭素繊維強化複合材料を得る際に、所定の形状の成形体が得られてもよい。
【0060】
上記成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜の形状にすることができる。
【0061】
本発明に係る炭素繊維強化複合材料を150℃で4時間加熱したときに、重量変化率が2重量%以下であることが好ましい。
【0062】
上記成形体では、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)が含浸された上記炭素繊維基材(B)が複数層積層されていてもよい。この際、上記炭素繊維基材(B)の炭素繊維の方向が一定の角度で異なるように重ね合わせることにより、上述のマルチアキシャルワープニット状の形態を有する成形体を得ることができる。
【0063】
(炭素繊維強化複合材料の製造方法)
本発明に係る炭素繊維強化複合材料は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0064】
上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)を用意する。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、フィルム状であることが好ましい。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)は、上述した添加剤を含んでいてもよい。
【0065】
次に、上記炭素繊維基材(B)を用意する。上記炭素繊維基材(B)の材料として、開繊処理されている炭素繊維束(開繊炭素繊維束)を用いることが好ましい。上記炭素繊維基材(B)の製造方法は、炭素繊維束を開繊処理する工程を備えることが好ましい。炭素繊維束を開繊処理する方法は、炭素繊維束にスペーサ粒子を含ませる方法であることが好ましい。スペーサ粒子を含ませる方法としては、スペーサ粒子を含む開繊含浸液に炭素繊維束を接触させる方法等が挙げられる。上記炭素繊維束を開繊処理する工程は、開繊含浸液に炭素繊維束を接触させる工程と、開繊含浸液に接触させた炭素繊維束を加熱する工程とを備えることが好ましい。
【0066】
上記開繊含浸液は、スペーサ粒子と、樹脂を形成し得るモノマーとを含むことが好ましい。上記開繊含浸液は、モノマーとスペーサ粒子とを混合して調製してもよく、モノマーを溶媒に溶解させた後にスペーサ粒子と混合して調製してもよい。上記開繊含浸液は、モノマーを溶媒に溶解させた後にスペーサ粒子と混合して調製することが好ましい。
【0067】
上記モノマーは、反応することで樹脂となる。上記樹脂としては、オキサジン系樹脂又はアクリル系樹脂が好ましい。
【0068】
上記スペーサ粒子は、有機粒子でもよく、無機粒子でもよい。柔軟性をより一層高める観点から、上記スペーサ粒子は、有機粒子であることが好ましい。
【0069】
上記開繊含浸液の使用により、上記炭素繊維束が上記スペーサ粒子によって十分に開繊される。したがって、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)と、上記炭素繊維基材(B)との相溶性が高くなり、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)が、上記炭素繊維基材(B)に適切な量で含浸され、樹脂含浸性が良好になる。また、炭素繊維間が、上記スペーサ粒子によって架橋され、また上記スペーサ粒子が炭素繊維に接着すると、圧力等が加わっても炭素繊維束の開繊状態が維持される。そのため、例えば、熱及び圧力を加えて上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)に上記炭素繊維基材(B)を含浸させるような場合でも、上記炭素繊維基材(B)の炭素繊維束の開繊状態が十分に維持されるので、樹脂含浸性が良好になる。また、得られる炭素繊維強化複合材料は、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)が適切に含浸されることで、優れた機械的強度を有する。
【0070】
上記開繊含浸液は、溶媒を含むことが好ましい。上記溶媒は、モノマーを溶解できるものが好ましい。上記溶媒としては、特に限定されないが、アルコール、水、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びジメチルホルムアミド等が挙げられる。上記アルコールとしては、メタノール及びエタノール等が挙げられる。上記溶媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0071】
次に、得られた開繊含浸液に、炭素繊維束を接触させる。炭素繊維束に開繊含浸液を接触させることで、上記スペーサ粒子が炭素繊維束の炭素繊維間の隙間に入り込み、炭素繊維束を開繊させる。
【0072】
次に、開繊含浸液に接触させた炭素繊維束を加熱する。加熱により、モノマーを重合させ、ナフトキサジン樹脂やアクリル樹脂等の樹脂を生成し、スペーサ粒子を被覆する。上記樹脂によって、スペーサ粒子は炭素繊維間に接着され、架橋することもできる。その後、さらに加熱を行うことにより上記樹脂を炭化させ、炭素同素体により被膜されたスペーサ粒子を得てもよい。炭素同素体により被膜されたスペーサ粒子(被膜粒子)は、炭素繊維間を架橋する構造を形成することが好ましい。また、スペーサ粒子を被膜した炭素同素体は、炭素繊維に接着してもよい。さらに、炭素同素体は、炭素繊維の表面を被膜していてもよく、被膜粒子表面の炭素同素体と、炭素繊維に被膜された炭素同素体とが接続するような構造を形成していてもよい。
【0073】
得られた炭素繊維基材(B)に、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)を含浸させ、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)を含浸させる方法は、特に限定されず、この方法として、従来公知の方法を使用することができる。具体的には、以下の方法が挙げられる。上記炭素繊維基材(B)に、フィルム状の上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)を重ね合わせ、熱プレス成形する方法。上記炭素繊維基材(B)に対して、上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)を溶融押出成形する方法。
【0074】
熱プレス成形には、押出成形やプレス成形を用いることができる。成形型を使用することにより、所望の形状の炭素繊維強化複合材料を得ることができる。熱プレス成形は、使用する上記塩化ビニル系樹脂組成物(A)の熱分解温度以上の温度で行うことが好ましい。
【0075】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0076】
以下の材料を用意した。
【0077】
塩化ビニル系樹脂:
塩化ビニル系樹脂(1)(徳山積水工業社製「TG40」、重合度:640、塩化ビニルモノマーとエチレン-酢酸ビニルポリマーとの共重合体、塩化ビニルモノマーに由来する構造単位の含有量:60重量%、エチレンー酢酸ビニルポリマーに由来する構造単位の含有量:40重量%)
塩化ビニル系樹脂(2)(徳山積水工業社製「TS640M」(重合度:640)と、2-エチルヘキシルアクリレートモノマーとの共重合体、塩化ビニルモノマーに由来する構造単位の含有量:70重量%、2-エチルヘキシルアクリレートモノマーに由来する構造単位の含有量:30重量%)
塩化ビニル系樹脂A(徳山積水工業社製「SLP40」、重合度:400)
【0078】
可塑剤:
フタル酸ジオクチル(ジェイ・プラス社製「DOP」)
【0079】
熱安定剤:
メチル錫メルカプト(日東化成社製「AT5300」、23℃で液状)
【0080】
(実施例1)
(塩化ビニル系樹脂組成物(A)の作製)
塩化ビニル系樹脂(1)100重量部に、メチル錫メルカプト0.5重量部を添加し、配合物を得た。得られた配合物を、濃度が10重量%となるようにテトラヒドロフラン(THF)に完全に溶解させて溶液を得た。得られた溶液を、コーターを用いてガラス板に展開し、THFを乾燥により除去し、厚み80μm~100μmの樹脂フィルム(塩化ビニル系樹脂組成物(A))を得た。
【0081】
(炭素繊維基材(B)の作製)
1,5-ジヒドロキシナフタレン10重量部、40%メチルアミン水溶液4重量部、及びホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37重量%)8重量部を含むモノマー成分と、溶媒としてエタノール水溶液(エタノールの含有量:50重量%)800重量部とを均一に混合して、モノマー溶液を作製した。上記モノマー溶液に、スペーサ粒子としてジビニルベンゼン架橋重合体の粒子(積水化学工業社製「ミクロパールSP」、平均粒子径:10μm)10重量部を添加し、開繊含浸液を作製した。
【0082】
また、PAN系炭素繊維束から構成される炭素繊維織物(炭素繊維数:3000本、炭素繊維束の平均繊維径:7μm、目付量:200g/m2、厚み:0.19mm、平織)を用意した。上記炭素繊維織物を上記開繊含浸液に浸漬した後に引き上げ、その後、200℃で2分間加熱した。この加熱によって、ナフトキサジン樹脂の重合反応が進行し、炭化が生じ、ナフトキサジン樹脂由来のアモルファスカーボン(炭素同素体)が生成し、開繊炭素繊維束の織物が得られた。得られた開繊炭素繊維束の織物を炭素繊維基材(B)とした。炭素繊維基材(B)中の炭素同素体により被膜されたスペーサ粒子(被膜粒子)の量は、1重量%であった。
【0083】
(炭素繊維強化複合材料の作製)
得られた炭素繊維基材(B)を、2枚の上記樹脂フィルムの間に配置して、上記樹脂フィルムで上下より挟み込み、200℃で0MPaから6MPaに段階的に加圧し、合計約10分間プレスした。このようにして、塩化ビニル系樹脂組成物(A)と、塩化ビニル系樹脂組成物(A)が含浸された炭素繊維基材(B)とを備える炭素繊維強化複合材料(成形体)を得た。
【0084】
(実施例2)
塩化ビニル系樹脂(1)の代わりに、塩化ビニル系樹脂(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、炭素繊維強化複合材料を作製した。
【0085】
(比較例1及び2)
塩化ビニル系樹脂(1)の代わりに、塩化ビニル系樹脂Aを用い、フタル酸ジオクチルを下記の表1に示す含有量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして、炭素繊維強化複合材料を作製した。
【0086】
(評価)
(1)粘着性(タック試験)
得られた炭素繊維強化複合材料を、縦50mm×横50mmの大きさに切りだし、2つの試験用サンプルAを作製した。
【0087】
一方の試験用サンプルA上に、縦60mm×横80mmのポリプロピレンフィルム(以下、PPフィルムとすることがある)を重ねて、PPフィルム上に50g(圧力43Pa)の錘を乗せた(試験体1)。
【0088】
他方の試験用サンプルA上に、縦60mm×横80mmのPPフィルムを重ねて、PPフィルム上に800g(圧力694Pa)の錘を載せた(試験体2)。
【0089】
試験体1及び2のそれぞれにおいて、錘を載せてから10秒間静置後、錘を回収した。その後、錘を回収した後の各試験体1及び2のそれぞれについて、PPフィルムの両端をゆっくりと上部へ持ち上げ、試験用サンプルAがPPフィルムとともに持ち上がるか否かを観察した。錘が50g(圧力43Pa)、800g(圧力694Pa)の場合のそれぞれにおいて、炭素繊維強化複合材料の粘着性を、以下の基準で判定した。
【0090】
[粘着性の判断基準]
○:試験用サンプルAが、PPフィルムとともに持ち上がらない
×:試験用サンプルAが、PPフィルムとともに持ち上がる
【0091】
(2)柔軟性(ショア試験)
得られた炭素繊維強化複合材料を、縦20mm×横20mmの大きさに切りだし、10枚~15枚重ね合わせて厚みが60mm程度の試験用サンプルBを作製した。デュロメータ(タイプA圧子、押付荷重10N)を用いて、ショア硬度を測定した。比較例1,2のショア硬度のうちの低い方をSTDとして、実施例の柔軟性を、以下の基準で判定した。
【0092】
[柔軟性の判定基準]
○:ショア硬度が、STD未満である
×:ショア硬度が、STD以上である
【0093】
(3)耐ブリードアウト性(ブリード試験)
得られた炭素繊維強化複合材料を、縦50mm×横50mmの大きさに切りだし、試験用サンプルCを作製した。
【0094】
作製直後の上記試験用サンプルCを、オーブンを用いて100℃で2時間加熱し、予備乾燥させた後の試験用サンプルCの重量(1)を測定した。その後、150℃で4時間加熱し、加熱後の試験用サンプルCの重量(2)を測定した。重量変化率を下記式により計算し、耐ブリードアウト性を、以下の基準で判定した。なお、重量変化率(重量%)が低いほど、耐ブリードアウト性が高く、ブリードアウトの発生が抑えられている。
【0095】
重量変化率(重量%)=((重量(1)-重量(2))/重量(1))×100
【0096】
[耐ブリードアウト性の判定基準]
○:重量変化率が、2重量%以下である
×:重量変化率が、2重量%を超える
【0097】
結果を下記の表1に示す。
【0098】