(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】テンションレベラ用バックアップロールユニット
(51)【国際特許分類】
B21D 1/05 20060101AFI20240919BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240919BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240919BHJP
F16C 33/42 20060101ALI20240919BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20240919BHJP
F16C 13/02 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B21D1/05 A
F16C19/06
F16C33/66 Z
F16C33/42 A
F16C13/00 Z
F16C13/02
(21)【出願番号】P 2020160713
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】八木 隆司
(72)【発明者】
【氏名】小津 琢也
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-155400(JP,A)
【文献】特開2015-101631(JP,A)
【文献】特開2007-285346(JP,A)
【文献】実開平07-006525(JP,U)
【文献】特開2000-087982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 1/02 - 1/05
F16C 13/02
F16C 19/06
F16C 33/66
F16C 33/42
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールと軸との間に、前記軸に対して前記ロールを回転自在に支持する玉軸受が配置されたテンションレベラ用バックアップロールユニットであって、
前記玉軸受は、軌道輪である内輪および外輪と、この内輪と外輪との間に介在する複数の玉と、これらの玉を保持する保持器とを有し、
前記玉軸受の軸受内部空間に固形潤滑剤が封入されており、前記固形潤滑剤の総体積が前記軸受内部空間の容積の30%~40%であ
り、
前記玉軸受は、前記内輪および前記外輪のいずれか一方の軌道輪に固定された密封板を有し、該密封板が他方の軌道輪との間にすきまを有することを特徴とするテンションレベラ用バックアップロールユニット
(ただし、前記玉軸受の軸方向外側に配置されるカバーに対して軸方向に締め代を有する環状のシールを有する密封構造を備える形態を除く)。
【請求項2】
前記保持器は、一対の環状体が前記玉を保持するポケットの間に位置する連結部で結合された波形保持器であり、
前記固形潤滑剤は、前記玉同士の間で、前記保持器の連結部に固定されていることを特徴とする請求項1記載のテンションレベラ用バックアップロールユニット。
【請求項3】
前記固形潤滑剤は、樹脂成分と潤滑成分との混合物の固化体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のテンションレベラ用バックアップロールユニット。
【請求項4】
前記樹脂成分が超高分子量ポリオレフィンであり、前記潤滑成分が基油および増ちょう剤を含むグリースであることを特徴とする請求項3記載のテンションレベラ用バックアップロールユニット。
【請求項5】
ユニット内部にころ軸受を有しないことを特徴とする請求項1から請求項
4までのいずれか1項記載のテンションレベラ用バックアップロールユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンションレベラ装置におけるワークロールまたは中間ロールを支持するバックアップロールユニットに関する。特に、バックアップロールの支持に玉軸受を採用したバックアップロールユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材製造設備において金属材料に圧延加工をする工程の最終段階では、金属板や金属帯の形状不良(反りや波うち)を矯正するために、テンションレベラ装置が用いられる。このテンションレベラ装置は、単独で、または、他の装置の一部に組み込まれて使用される。
【0003】
図4にテンションレベラ装置の一例を示す。
図4は圧延工程の最終段階において金属板の形状不良を矯正する設備の概略図である。
図4に示すように、加工中の金属板22に対して、ロールユニット23を上下に配置し、金属板22を上下のロールユニット23のワークロール24の間を通過させて、引張力を付与しながら圧延する。上下のロールユニット23が、金属板22に対して金属方向の圧縮力を与えている。ワークロール24と中間ロール25は、金属板22の移動に伴って回転し、バックアップロール26が、ラジアル方向への荷重を受ける。このバックアップロール26に補強されたワークロール24で金属板22に数%の伸びを与える。また、テンションレベラ装置21には、金属板22を支え、向きを変えるデフレクターロール27が複数配置されている。デフレクターロール27は、荷重センサ―が内部に組み込まれ、歪みを検出するためのシェープメーターロールとしても利用される。
【0004】
バックアップロールは、金属板の材料の種類や使用条件に応じたラジアル荷重の大きさや要求トルクにより仕様が異なる。ラジアル荷重が大きい場合には、荷重負荷能力が高い構成とすべく、ラジアル荷重を支持するころ軸受と、アキシアル荷重を支持する玉軸受を備えたバックアップロールユニットが使用される。例えば、特許文献1のバックアップロールユニットは、ロールを軸に対して回転可能に支持する軸受として、ラジアル荷重負荷用にニードル軸受をロールの軸方向中ほどに軸方向に沿って2箇所設け、その外側でロールの軸方向一方の端部にスラスト荷重負荷用に玉軸受を設けている。
【0005】
一方、ラジアル荷重が小さく、低トルクが要求される場合には、バックアップロールを玉軸受のみで支持するバックアップロールユニットが使用される。このバックアップロールユニットは、軸とロールと間に軸方向に沿って軸方向両側部に深溝玉軸受を設けている。このユニットではこの1対の深溝玉軸受でラジアル荷重とスラスト荷重を受け、ラジアル荷重負荷用に別途ニードル軸受(ころ軸受)などを設けていない。深溝玉軸受のみの構成とし、低トルク化することで、ワークロールや中間ロールとの摩擦力が小さい場合にもロール間のスリップを抑制できる。
【0006】
また、テンションレベラ装置による上記工程では、圧延した金属板の冷却および金属板に付着したごみの除去などのために、洗浄液が継続的に吹き付けられ、ワークロールを補強するバックアップロールにも多量の洗浄液がかかる。このようなバックアップロールには、その軸受内部の潤滑剤が洗浄液により流出することなどを防止すべく、軸受内部への洗浄液の侵入を防止する密封構造が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、内部にころ軸受を持たず、深溝玉軸受がラジアル荷重とアキシアル荷重を支持する構成では、低トルク化により、ワークロールや中間ロールとの摩擦力が小さい場合にもロール間のスリップを抑制でき、歪みなどの発生を抑制できる。しかし、例えば、延伸対象がアルミニウムなど、鋼よりも延伸強度が低く表面硬度が低い材質の金属板や金属帯である場合、歪み、しわ、チャタマーク(微小な縞模様)が生じ易くなる。このため、深溝玉軸受のみの構成においても、一層の安定した低トルクを達成できることが望ましい。
【0009】
また、潤滑剤のグリースがユニットから漏れ、延伸対象材に付着すると、歪み、しわ、チャタマークの原因となり得るとともに、潤滑油不足による深溝玉軸受のトルク増大や早期損傷に繋がるおそれがある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、バックアップロールを支持する玉軸受に固形潤滑剤を封入した構成において、回転トルクの上昇と潤滑剤の漏れを抑えたバックアップロールユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のテンションレベラ用バックアップロールユニットは、ロールと軸との間に、上記軸に対して上記ロールを回転自在に支持する玉軸受が配置されたテンションレベラ用バックアップロールユニットであり、上記玉軸受は、軌道輪である内輪および外輪と、この内輪と外輪との間に介在する複数の玉と、これらの玉を保持する保持器とを有し、上記玉軸受の軸受内部空間に固形潤滑剤が封入されており、上記固形潤滑剤の総体積が上記軸受内部空間の容積の30%~40%であることを特徴とする。特に、ユニット内部にころ軸受を有しないことを特徴とする。
【0012】
上記保持器は、一対の環状体が上記玉を保持するポケットの間に位置する連結部で結合された波形保持器であり、上記固形潤滑剤は、上記玉同士の間で、上記保持器の連結部に固定されていることを特徴とする。
【0013】
上記固形潤滑剤は、樹脂成分と潤滑成分との混合物の固化体であることを特徴とする。また、上記樹脂成分が超高分子量ポリオレフィンであり、上記潤滑成分が基油および増ちょう剤を含むグリースであることを特徴とする。
【0014】
上記玉軸受は、上記内輪および上記外輪のいずれか一方の軌道輪に固定された密封板を有し、該密封板が他方の軌道輪との間にすきまを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のテンションレベラ用バックアップロールユニットは、ロールと軸の間に玉軸受を配置してなるユニットにおいて、玉軸受の軸受内部空間に固形潤滑剤が封入され、この固形潤滑剤の総体積が軸受内部空間の容積の30%~40%であるので、固形潤滑剤による摺動抵抗の増加を抑制でき、トルクの増加を抑制できる。すなわち、固形潤滑剤の総体積を40%以下とすることで、固形潤滑剤を玉と玉の間に配置でき、内輪や外輪、密封板との摺動面積を小さくできる。また、30%以上とすることで、固形潤滑剤に含まれる潤滑成分の絶対量を確保しつつ、固形潤滑剤を保持器に巻き付けるなどして固定でき、軸受内での移動が抑制され、転がり面への巻き込みを抑制できる。
【0016】
また、保持器の構成を一対の環状体が玉を保持するポケットの間に位置する連結部で結合された波形保持器とし、固形潤滑剤を玉同士の間で保持器の連結部に巻き付けるなどして固定することで、固形潤滑剤を玉と玉の間の保持器連結部に保持でき、転がり面への巻き込みなどを抑制できる。
【0017】
また、固形潤滑剤を樹脂成分と潤滑成分との混合物の固化体とすることで、保持器に固形潤滑剤を着実に固定できる。例えば、常温で半固体状の潤滑剤(樹脂成分と潤滑成分との混合物)を保持器に巻き付けて成形したうえで熱固化させることで、洗浄液、冷却液、結露に晒されても固形潤滑剤が脱落または流出しにくい構成が得られる。
【0018】
また、玉軸受において、内輪および外輪のいずれか一方の軌道輪に固定された密封板を設け、この密封板が他方の軌道輪との間にすきまを有する構成とすることで、密封装置によるトルク上昇および軸受部の発熱、温度上昇を抑え、固形潤滑剤の劣化による早期損傷を抑制できる。
【0019】
これらの結果、本発明は、玉軸受の低トルク性能を損なうことなく、長寿命なバックアップロールユニットを提供できる。特に、ラジアル荷重が小さく低トルクが要求される、内部にころ軸受(針状ころ軸受)を有さずに玉軸受がラジアル荷重とアキシアル荷重を支持する構成のユニットに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のバックアップロールユニットの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のバックアップロールユニットの適用対象となるテンションレベラ装置は、
図4などで説明した公知のテンションレベラ装置である。この装置は、鉄鋼材製造設備において、金属板や金属帯の形状不良(反りや波うち)を矯正するために使用され、圧延加工の最終工程または圧延加工後に用いられる。この装置は、単独で用いられるほか、コーティング設備やせん断設備などの装置中に組み込まれる場合もある。
【0022】
図4に示すように、テンションレベラ装置21では、バックアップロール26に補強されたワークロール24で金属板22に伸びを与えている。本発明のテンションレベラ用バックアップロールユニットは、バックアップロールと、ロールの軸と、軸とロールの間に介在する玉軸受とで構成されるユニットである。このバックアップロールユニットは、設備内において、洗浄液などの多量の液体と接触する環境下で使用される。
【0023】
本発明のテンションレベラ用バックアップロールユニットの一実施例を
図1~
図3に基づいて説明する。
図1は、このバックアップロールユニットの斜視図であり、一部構成部品について手前半分を除去して図示している。
図2は、
図1のロールの一端部の拡大図であり、
図3は、
図2の正面図である。
図1に示すように、バックアップロールユニット1は、ロール4と軸3との間に、軸3に対してロール4を回転自在に支持する玉軸受2が配置された構造を有する。玉軸受2は、ロール4の軸方向両端部にそれぞれ設けられ、一対で使用されている。なお、本発明において「軸方向」は、軸3の軸心に沿った方向であり、「径方向」は、軸3の軸心を中心とした径方向である。ロール4と軸3の材質としては、種々の鋼材を使用でき、例えば、ロール4には軸受鋼、軸3には炭素鋼が使用される。
【0024】
図1~
図3に示す形態のバックアップロールユニット1は、内部にころ軸受(針状ころ軸受)を有さず、玉軸受2において、ロール4に負荷されるラジアル荷重とアキシアル荷重を支持している。このため、内部にころ軸受(針状ころ軸受)を設けるユニットと比較して低トルクとなり、ラジアル荷重が小さく、低トルクが要求される用途に好適に利用できる。
【0025】
軸3は、段付きの軸体であり、軸方向中間部分に形成される軸本体部と、軸方向両端部に設けられた軸端部とを有する。軸3の軸端部がロール4から突出している。また、軸3は、ロール4の内部に径方向のすきまを設けて挿通されている。一対の玉軸受2は、軸3の軸本体部と各軸端部との間に配置されている。
【0026】
ロール4は、円筒状であり、その軸方向両端部に玉軸受2が配置されている。また、ロール4内部への異物(水など)の侵入を防止するなどの目的で、ロール4の軸方向両端部の玉軸受2の外側にカバー11が設けられている。カバー11は、軸3に固定されている。
【0027】
図2および
図3に示すように、玉軸受2は、深溝玉軸受であり、軌道輪である内輪5と外輪6が同心に配置され、内輪転走面と外輪転走面との間に複数個の玉8が配置されている。保持器7は、玉8を保持するポケット7aを周方向等間隔で複数箇所に有し、ポケット7aで玉8を周方向等間隔に保持している。内輪5、外輪6および玉8の材質としては、軸受材料として一般的に用いられる任意の材料を使用でき、例えば、軸受鋼、炭素鋼、ステンレス鋼、高速度鋼などが使用できる。また、玉軸受2としては、深溝玉軸受のほか、アンギュラ玉軸受、四点接触型玉軸受などを適用できる。
【0028】
保持器7は、一対の環状体がポケット7a間に位置する連結部7bで結合された波形保持器である。保持器7を構成する環状体は、玉8に沿って湾曲した複数の湾曲部と、これらの湾曲部を連結する平板部を、周方向に交互に有する。一対の該環状体は、湾曲部同士と、平板部同士が対向した状態で、平板部においてリベットなどで固定されて一体化されている。この平板部が重なった部分が連結部7bとなる。各環状体は、金属板をプレス成形して製造されている。金属板としては、保持器材として一般的に用いられる任意の材料を使用でき、例えば、冷間圧延鋼板、炭素鋼などが使用できる。
【0029】
玉軸受2は、内・外輪の軸方向両端開口部に密封板10を有する。密封板10は、冷間圧延鋼板などからなる円板状の芯金10aと、この芯金10aに固定された、ニトリルゴムなどからなるゴム部10bとから構成される。密封板10は、外周部が外輪6の内周の溝に固定され、内周部は内輪5の外周の溝との間にラビリンスすきま(非接触シール)を形成している。密封板10を設けることで、カバー11をこえて侵入した洗浄液などが直接に軸受内部に侵入することを防止でき、固形潤滑剤の劣化や流出を抑制できる。また、固形潤滑剤を採用するため、密封板10においてラビリンスすきまを設けて回転トルクを低く抑えつつも、潤滑成分の流出を抑制できる。
【0030】
また、密封板10の構成はこれに限定されず、例えば、金属製シールド(ゴム部分なし)を採用できる。また、玉軸受2の一端部のみ、特にロール4の端面側のみに装着してもよい。その他、軌道輪への固定は、内輪側であってもよい。
【0031】
玉軸受2は、軸受内部空間に固形潤滑剤9が封入されている。本発明では、固形潤滑剤9が、その総体積が軸受内部空間の容積の30%~40%となるように封入されていることを特徴とする。ここで、「軸受内部空間の容積」とは、内輪5と外輪6と密封板10で閉じられた空間(密封板が片側の場合には、軸受端面まで)において、玉8と保持器7を除く空間の容積である。また、「固形潤滑剤の総体積」とは、軸受内部空間内における固形潤滑剤の全体の体積であり、固形潤滑剤が分離して複数個所に封入される態様(スポット)の場合、それらの合計体積である。
【0032】
固形潤滑剤の総体積が30%未満であると、固形潤滑剤から転動体周囲に徐放される潤滑成分量が不足し、回転トルク(特に起動時トルク)の上昇を十分に抑制できないおそれ、保持器から分離するおそれ、また、長期運転において潤滑成分が不足するおそれがある。また、固形潤滑剤の総体積が40%をこえると、内輪や外輪、密封板との摺動面積が大きくなりやすく、また、転がり面に巻き込まれやすくなり、回転トルクが上昇または変動するおそれがある。
【0033】
本発明のテンションレベラ用バックアップロールユニットでは、軸受内部に洗浄液などが流入する場合があり、その際に洗浄液などと固形潤滑剤とが接触する。固形潤滑剤の総体積を30%以上とすることで、固形潤滑剤を保持器に巻き付けるなどして固定でき、固形潤滑剤の移動や分離を抑制できる。また、固形潤滑剤に含まれる潤滑成分の絶対量を確保しつつ、バックアップロールユニットの長期運転において潤滑成分が不足することを防止できる。加えて、固形潤滑剤の総体積を40%以下とすることで、上記のとおり回転トルクの上昇または変動を抑制でき、圧延対象となる金属板や金属帯が、アルミニウムなどの鋼よりも延伸強度が低く表面硬度が低い材質であっても、歪み、しわ、チャタマークの発生を抑制できる。
【0034】
本発明で用いる固形潤滑剤について説明する。本発明に用いる固形潤滑剤は、特にその種類は限定されず、例えば、(1)樹脂成分(反応して樹脂成分となるものを含む)と潤滑成分との混合物の固化体、(2)固化してある樹脂成分に潤滑成分を含浸したものが挙げられる。潤滑成分を多く保持でき、また、保持器などに対する密着固定が可能であることから、(1)の固形潤滑剤を用いることが好ましい。固形潤滑剤の詳細について以下に説明する。
【0035】
固形潤滑剤の樹脂成分としては、超高分子量ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどの汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックが使用できる。これらは粉末状とし、潤滑成分と混合して混合物として、これを熱などにより固化させて固化体とする。
【0036】
超高分子量ポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンもしくはこれらの共重合体からなる粉末、または、それぞれ単独の粉末を配合した混合粉末が挙げられる。ここで、各粉末の、粘度法により測定される平均分子量は、1×106~3×106 であることが好ましい。このような分子量の範囲にあるポリオレフィンは、剛性や保油性において低分子量のポリオレフィンより優れる。また、超高分子量ポリオレフィンの中でも、超高分子量ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0037】
ポリアミドの具体例としては、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド6-6、ポリアミド6-10、ポリアミド6-12、ポリアミドMXD6などが挙げられる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。
【0038】
固形潤滑剤の潤滑成分としては、潤滑油またはグリースを使用できる。
潤滑油としては、特に限定されず、パラフィン系やナフテン系の鉱油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、フッ素油、シリコーン油、動物油、植物油などを使用できる。これらは単独でも混合油としても使用できる。樹脂成分と潤滑油が極性などの化学的な相性によって溶解、分散しない場合には、粘度の近い潤滑油を使用することで、物理的に混合しやすくなり、潤滑油の偏析を防ぐことが可能となる。
【0039】
鉱油の具体例としては、流動パラフィン油、スピンドル油、タービン油、マシン油、ダイナモ油、高度精製油などが挙げられる。エステル系合成油の具体例としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペートなどのジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテートなどの芳香族エステル油が挙げられる。エーテル系合成油の具体例としては、モノアルキルジフェニルエーテル油、ジアルキルジフェニルエーテル油、ポリアルキルジフェニルエーテル油などのアルキルジフェニルエーテル油が挙げられる。炭化水素系合成油の具体例としては、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ドコセン、1-テトラドコセンなどのオリゴマーからなるポリαオレフィン油(PAO油)が挙げられる。フッ素油の具体例としては、パーフルオロポリエーテル油、クロロトリフルオロエチレンの低重合体などが挙げられる。動物油としては、サナギ油、牛脚油、ラード(豚脂)、イワシ油、ニシン油などが挙げられる。植物油としては、ツバキ油、オリーブ油、落花生油、ヒマシ油、菜種油などが挙げられる。
【0040】
グリースは、基油に増ちょう剤を加えたものであり、基油としては上述の潤滑油を使用できる。増ちょう剤の具体例としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系化合物が挙げられる。
【0041】
ジウレア化合物は、例えばジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンジイソシアネートなどが挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミンなどが挙げられる。
【0042】
潤滑成分には、さらに二硫化モリブデン、グラファイトなどの固体潤滑剤、有機モリブデンなどの摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類などの油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ-リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでもよい。
【0043】
その他、固形潤滑剤には、油の滲み出しを抑制する目的や、焼成時に軸受からの潤滑成分の漏出を防止する目的で、固体ワックスを配合してもよい。固体ワックスとしては、カルナバロウ、カンデリナロウなどの植物性ワックス、ミツロウ、虫白ロウなどの動物性ワックス、またはパラフィンロウなどの石油系ワックスが挙げられる。固体ワックスはこれを含む低分子ポリオレフィンなどの配合物であってもよい。
【0044】
これらの樹脂成分と潤滑成分の中で、具体的な組み合わせと封入方法として以下の固形潤滑剤A~Eが例示できる。
【0045】
[固形潤滑剤A]
固形潤滑剤Aは、樹脂成分として超高分子量ポリエチレン粉末を用い、潤滑成分として鉱油にリチウム石けんを分散させたグリースを用いる。このグリースと、超高分子量ポリエチレン粉末とを均一に混合する。流動性のあるこの混合物を軸受の玉と玉の間で、保持器の連結部などに巻き付けるように充填・封入し、超高分子量ポリオレフィンのゲル化点以上の温度(融解温度)に加熱焼成し、その後冷却して固化することで固形潤滑剤Aとする。混合する方法は、特に限定されず、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサーなど、一般の撹拌機を使用できる。また、加熱焼成条件は、上記のゲル化点以上で、かつ、グリースの滴点以下で加熱することが好ましい。例えば、超高分子量ポリエチレンの平均分子量が1×106~3×106である場合、150~200℃の温度で加熱することが好ましい。固形潤滑剤Aにおける超高分子量ポリエチレン粉末の含有量は、例えば、固形潤滑剤全体に対して20~50質量%とする。
【0046】
[固形潤滑剤B]
固形潤滑剤Bは、樹脂成分として超高分子量ポリオレフィン粉末を用い、潤滑成分として流動パラフィン、PAO油、植物油および動物油から選ばれる1種以上の油を用いる。または、潤滑成分として、流動パラフィン、PAO油、植物油および動物油から選ばれる1種以上の油を基油とするグリースを用いる。封入方法などは、固形潤滑剤Aと同様である。固形潤滑剤Bにおける超高分子量ポリオレフィン粉末の含有量は、例えば、固形潤滑剤全体に対して1~95質量%とする。
【0047】
[固形潤滑剤C]
固形潤滑剤Cは、樹脂成分として変性シリコーンオイルと硬化剤の組み合わせを用い、潤滑成分としてシリコーンと相溶性のない潤滑油またはこれを基油とするグリースを用いる。硬化剤としては、ビスフェノール型エポキシ化合物や環式脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。変性シリコーンオイルと硬化剤とを潤滑成分中で重合反応させることで、潤滑成分をシリコーンの三次元網目構造体で保持した構造となる。封入方法は、固形潤滑剤Aと同様であり、変性シリコーンオイル、硬化剤、潤滑成分の均一混合物を軸受の玉と玉の間で、保持器の連結部などの位置に充填・封入し、所定温度で加熱焼成して硬化させ、上記構造を有する固形潤滑剤Cとする。固形潤滑剤Cにおける樹脂成分(変性シリコーンオイルと硬化剤)の含有量は、例えば、固形潤滑剤全体に対して20~80質量%とする。
【0048】
[固形潤滑剤D]
固形潤滑剤Dは、樹脂成分としてポリアミド粉末またはポリアセタール粉末を用い、潤滑成分として流動パラフィン、PAO油、植物油および動物油から選ばれる1種以上の油を用いる。または、潤滑成分として、流動パラフィン、ポリαオレフィン油、植物油および動物油から選ばれる1種以上の油を基油とするグリースを用いる。封入方法などは、固形潤滑剤Aと同様である。固形潤滑剤Dにおける超高分子量ポリオレフィン粉末の含有量は、例えば、固形潤滑剤全体に対して1~95質量%とする。
【0049】
[固形潤滑剤E]
固形潤滑剤Eは、樹脂成分として超高分子量ポリオレフィン粉末を用い、潤滑成分としてパラフィン系鉱油などを基油とするグリースを用い、さらに固体ワックスを含む。この固体ワックスは、直鎖炭素原子数36以上のノルマルパラフィン成分を、固体ワックス全体に対して合計13重量%以上含有するワックスである。特に、上記ノルマルパラフィン成分は、直鎖炭素原子数分布における含有率の最頻値が直鎖炭素原子数30~33の間にあるものが好ましい。封入方法などは、固形潤滑剤Aと同様である。固形潤滑剤Eにおける超高分子量ポリオレフィン粉末の含有量は、例えば、固形潤滑剤全体に対して10~30質量%とする。また、固体ワックスの含有量は、例えば、固形潤滑剤全体に対して1~10質量%とする。
【0050】
その他の固形潤滑剤の例として、ポリオールとジイソシアネートとを潤滑成分存在下で反応させて得られる、または、分子内にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと硬化剤とを潤滑成分存在下で反応させて得られるポリウレタン系固形潤滑剤や、これを発泡させた固形潤滑剤が挙げられる。
【0051】
以上の固形潤滑剤は、固化前の樹脂成分と潤滑成分の混合物(固形潤滑剤材料)を充填し、軸受内部で固化している。すなわち、樹脂成分(反応して樹脂成分となるものを含む)と潤滑成分との混合物の固化体である。樹脂成分の存在下で樹脂成分を固化するため、潤滑成分を多く保持でき、また、運転時に潤滑成分(グリース中の基油)が徐放され、長期にわたり潤滑性能を維持できる。また、洗浄液などに接触しても潤滑成分が流出しにくい。
【0052】
固形潤滑剤の充填・封入位置は、特に限定されないが、波形保持器の連結部に巻き付けるように充填・封入することが好ましい。具体的には、固化前の常温で流動性のあるグリース状の混合物を、連結部(平板部を合わせた部分)の周囲を覆って径方向の上下で平板部をこえて繋がるように充填し、これを固化することで、連結部に巻き付けられた状態の固形潤滑剤となる。これにより、固形潤滑剤が保持器に着実に固定され、洗浄液や高温に晒されても保持器から脱落しにくい。また、本発明では固形潤滑剤の封入量が、上述のとおり、軸受内部空間の容積の30%~40%であるので、フルパックではなく、玉と玉の間(ポケット間)の保持器連結部に点在するように配置され、転がり面への巻き込みを抑制できる。
【実施例】
【0053】
軸受単体と、これを用いたテンションレベラ用バックアップロールユニットに対し、下記成分A~Cの固形潤滑剤について封入体積を種々変更して評価試験を実施した。
【0054】
成分A:
潤滑成分である、基油を鉱油、増ちょう剤をリチウム石けんとしたグリースと、樹脂成分である超高分子量ポリエチレン粉末とを所定の配合比で混合した。得られた混合物を転がり軸受(
図2の転がり軸受)の玉と玉の間で保持器の連結部に巻き付けるように充填し、所定温度で加熱焼成して、その後冷却して固形化することで成分Aの固形潤滑剤が封入された転がり軸受とした。封入量は、軸受内部空間の容積に対する固形潤滑剤の総体積が表中の値となるように調整した。封入箇所は、上記のとおり、転がり軸受の玉と玉の間で保持器の連結部であり、各連結部で概ね均等になるように調整した。封入量により、1つの連結部における固形潤滑剤の大きさ(体積)が異なる。
【0055】
成分B:
潤滑成分である、基油をPAO油、増ちょう剤をウレア化放物としたグリースと、樹脂成分である超高分子量ポリエチレン粉末とを混合した。グリースと超高分子量ポリエチレンとの配合比は、成分Aと同じである。得られた混合物を転がり軸受(
図2の転がり軸受)の玉と玉の間で保持器の連結部に巻き付けるように充填し、所定温度で加熱焼成して、その後冷却して固形化することで成分Bの固形潤滑剤が封入された転がり軸受とした。封入量の調整方法は、成分Aの場合と同様である。
【0056】
成分C:
変性シリコーンオイルと、エポキシ系硬化剤と、グリースとを混合した。グリースは、成分Bのグリースと同じである。樹脂成分(変性シリコーンオイルおよびエポキシ系硬化剤)と、潤滑成分(グリース)との配合比は、成分Aと同じである。得られた混合物を転がり軸受(
図2の転がり軸受)の玉と玉の間で保持器の連結部の位置に充填・封入し、所定温度で加熱焼成して硬化させ、成分Cの固形潤滑剤が封入された転がり軸受とした。封入量の調整方法は、成分Aの場合と同様である。
【0057】
各転がり軸受単体について、起動時トルク試験と回転時トルク試験を実施した。結果を表1に示す。各トルク試験は、試験軸受を固定し、所定の温度および荷重条件で、起動時に発生するトルクと、一定速度での回転時のトルクとをそれぞれ測定した。試験条件は、すべての封入量の場合で同じとした。
起動時トルクにおける「大小判定」は、トルク値が規定値をこえる場合に「×」、トルク値が規定値をこえない場合に「〇」とし、「触感判定」は、手動で回転させた際の試験者の評価であり、引っ掛かり感がある場合に「×」、引っ掛かり感がない場合に「〇」とした。また、回転時トルクにおける「大小判定」は、起動時トルクの場合と同じであり、「変動判定」は、所定時間間隔におけるトルク値の変動幅が規定値をこえる場合に「×」、所定時間間隔におけるトルク値の変動幅が規定値をこえない場合に「〇」とした。
【0058】
また、各転がり軸受単体について、運転後の状態判定として、所定時間経過後(試験終了後)の軸受を目視により観察し、固形潤滑剤の状態を確認した。結果を表1に示す。何らかの異常がある場合(異常内容は表中に記載)には「×」、特段の問題がない場合には「〇」とした。
【0059】
【0060】
また、成分Aの固形潤滑剤が封入された転がり軸受をテンションレベラ用バックアップロールユニット(
図1~
図3のユニット)に組み込み、起動時トルクと外観状態の判定を行った。起動時トルク試験は、軸受単体の場合と同様であり、外観状態の判定は、所定時間経過後(試験終了後)のユニット内の軸受を目視などにより観察し、油分の有無を確認した。結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
表1および表2に示すように、バックアップロールを支持する玉軸受に固形潤滑剤を封入した構成において、固形潤滑剤の総体積を所定の範囲(軸受内部空間の容積の30%~40%)とすることで、回転トルクの上昇を抑制できることなどが確認できた。
【0063】
その他、表2の「30%」のユニットは、成分Aの固体潤滑剤の総体積を80%とし、それ以外は同じユニットに対して、回転時のトルクが1/5であった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のバックアップロールユニットは、テンションレベラ装置に利用できる。特に、バックアップロールを支持する玉軸受に固形潤滑剤を封入した構成において、回転トルクの上昇を抑制できるので、ラジアル荷重が小さく低トルクが要求される、内部にころ軸受(針状ころ軸受)を有さずに玉軸受がラジアル荷重とアキシアル荷重を支持する構成のバックアップロールユニットに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 バックアップロールユニット
2 玉軸受
3 軸
4 ロール
5 内輪
6 外輪
7 保持器
8 玉
9 固形潤滑剤
10 密封板
11 カバー
21 テンションレベラ装置
22 金属板
23 ロールユニット
24 ワークロール
25 中間ロール
26 バックアップロール
27 デフレクターロール