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  • 特許-出没式筆記具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/08 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
B43K24/08 110
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020165726
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057453
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅信
【審査官】早川 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-187813(JP,A)
【文献】特開2008-162105(JP,A)
【文献】特開2019-089272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 1/12
5/00- 8/24
21/00-21/26
24/00-24/18
27/00-27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒本体と、当該軸筒本体の前部に着脱自在に装着された先口と、により構成された軸筒を備え、
前記軸筒の内部に、前記軸筒の軸方向に沿って移動可能な筆記用のレフィルと、前記先口に対して前記レフィルを後方へ弾発するコイルスプリングと、前記コイルスプリングと前記レフィルとの間に配設され当該軸筒の軸方向に沿って移動可能な環状部材と、を備え、
前記レフィルは、筆記部を備えたチップと、当該チップの後方に配置され当該チップを保持するチップホルダーと、を有し、
前記コイルスプリングは前記先口に圧入装着され、
前記環状部材は、前記レフィルの少なくとも一部が挿通する内孔と、前記コイルスプリングが係止する係止部と、前記チップまたは前記チップホルダーが当接する当接部と、を有し、
前記先口を前記軸筒本体から取り外した状態において、前記環状部材の後端が前記先口の後端より後方に位置すると共に、当該環状部材の後端が当該先口の後端から突出する突出量をXとしたとき、X<1.5mmの関係式を満たすよう構成したことを特徴とする出没式筆記具。
【請求項2】
前記先口を前記軸筒本体から取り外した状態において、前記軸筒の軸方向に沿った断面における前記先口の後端の外周面部と前記環状部材の後端の後端外面部とを結んだ接線と、前記軸筒の軸方向に沿った軸線と、の交角の角度をYとしたとき、Y≧50°の関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記環状部材は、前記内孔の後端にテーパ部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の出没式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レフィルの移動に伴って先口の前端からチップが出没可能な出没式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の出没式筆記具としては、例えば特許文献1に開示しているように、
軸筒及び当該軸筒の前部に螺合された口先部(以降先口)内部に筆記用のボールペンレフィル(以降レフィル)が収容され、レフィルと先口との間にコイルスプリングが帳架されてレフィルが後方に付勢されており、ノック動作により先口の先端開口部から繰り出したレフィルをコイルスプリングの弾性力で軸筒内に戻して収容可能な構造の出没式筆記具が知られている。
【0003】
また、この種の繰出式筆記具は、特許文献1にもあるように、先口と軸筒の螺合を解除することでレフィルを軸筒内から取り外して交換することができる構造が便利であることから、出没式筆記具として広く一般的に採用されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の構造では、コイルスプリングが先口の先端内壁部で保持されているものの、先口を軸筒から取り外してレフィルを交換する際に、先口から後方へ突出するコイルスプリングを指で把持できるため簡単に外すことができることから、コイルスプリングが外れて紛失する場合や、レフィルを交換して先口を軸筒に螺着する際に、レフィルやコイルスプリングが傾くことでコイルスプリングとレフィルの先端が絡んでレフィルの繰り出し時に不具合が発生する場合やコイルスプリングが変形して使用できなくなる虞があった。
【0005】
一方、特許文献2には、コイルスプリングとレフィルとの間に環状の中間部材となるスライド部材を配置した出没式筆記具が開示されている。
この特許文献2の構造では、スライド部材により外径の異なるチップを備えた複数種類のレフィルを取り付け可能であり、レフィルをコイルスプリングで直接支持するのではなくスライド部材で支持するとともにコイルスプリングを着脱不能に取り付けているため、レフィル交換時におけるコイルスプリングの紛失やコイルスプリングとチップが絡むことによる繰出し不良やコイルスプリングの破損を防ぐことができる。
【0006】
しかしながら、特許文献2の構造では、中間部材が先口内部に収容され、先口を軸筒から取り外しても中間部材の後部が見えないため、レフィルを交換して先口を軸筒に取り付ける際に、先口の中心が判り難いため、レフィルの先端の筆記部が中間部材の内周部に当たってしまい、筆記部となるレフィルの先端が破損する虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-187715号公報
【文献】特開2019-89272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の背景をもとになされたものであり、その目的とするところは、レフィル交換時にレフィルを弾発するコイルスプリングが破損や紛失することがなく、先口を取り付けする際にレフィルの先端が破損することを防止する出没式筆記具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、軸筒本体と、当該軸筒本体の前部に着脱自在に装着された先口と、により構成された軸筒を備え、前記軸筒の内部に、前記軸筒の軸方向に沿って移動可能な筆記用のレフィルと、前記先口に対して前記レフィルを後方へ弾発するコイルスプリングと、前記コイルスプリングと前記レフィルとの間に配設され当該軸筒の軸方向に沿って移動可能な環状部材と、を備え、前記レフィルは、筆記部を備えたチップと、当該チップの後方に配置され当該チップを保持するチップホルダーと、を有し、前記コイルスプリングは前記先口に圧入装着され、前記環状部材は、前記レフィルの少なくとも一部が挿通する内孔と、前記コイルスプリングが係止する係止部と、前記チップまたは前記チップホルダーが当接する当接部と、を有し、前記先口を前記軸筒本体から取り外した状態において、前記環状部材の後端が前記先口の後端より後方に位置すると共に、当該環状部材の後端が当該先口の後端から突出する突出量をXとしたとき、X<1.5mmの関係式を満たすよう構成したことを特徴とする出没式筆記具である。尚、本発明では、軸筒の先口がある側を前方と表現し、その反対側を後方と表現する。また、軸筒に対してレフィルが収納されている中心側を内方と表現し、その反対側を外方と表現する。
【0010】
本発明によれば、先口を軸筒本体から取り外した状態において、環状部材の後端が前記先口の後端より後方に位置することから環状部材の後部が直接視認できるため、先口を軸筒に取り付ける際に、環状部材の中心を見極め易くなることから、レフィルの先端であるチップの筆記部を破損する虞を軽減できる。また、環状部材は先口内を前後動可能であるため、先口の後端の外径より環状部材の後端の外径を小さくなる。このため、先口および環状部材の後端が後方へ向かって先細るように段状に見えることから、より環状部材の中心位置を見極め易くなる。さらに、環状部材をコイルスプリングに係止して当該環状部材とレフィルとの間に配置しているため、取り外された先口を軸筒に取り付ける際にコイルスプリングにレフィルが絡むことがなく、コイルスプリングの破損を防止できる。さらにまた、前記先口を前記軸筒本体から取り外した状態において、環状部材の後端が当該先口の後端から突出する突出量をXとしたとき、X<1.5mmの関係式を満たすよう構成することが好ましく、この場合、環状部材を直接指などで把持することが難しくなることから、環状部材が先口から外れて紛失することや足で踏むなどすることで破損することを防止できる。尚、突出量Xは環状部材の視認性や指での把持性を考慮すると、0.4mm<X<1.0mmとすることがより好ましい。
【0011】
また、先口を軸筒本体から取り外した状態において、軸筒の軸方向に沿った断面における先口の後端の外周面部と環状部材の後端の外周面部とを結んだ接線と、前記軸筒の軸方向に沿った軸線と、の交角の角度をYとしたとき、Y≧50°の関係式を満たすよう構成してもよく、この場合、先口を軸筒本体から取り外している状態では、環状部材が先口の後端から後方へ向かって突出する長さが抑えられるため指で把持するのが困難になり、且つ、先口の後端外径と環状部材の後端外径との間の差が大きくなるため、レフィルを環状部材に挿入する際の中心部の見極めがより容易となることから好適である。
【0012】
また、環状部材は、内孔の後端にテーパ部を有してもよく、この場合、先口を軸筒本体に取り付ける際、テーパ部によりレフィルを中心部に寄せやすくなりレフィルの先端が環状部材に当接することを軽減することができることから、チップの筆記部が破損することを更に防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、レフィル交換時にレフィルを弾発するコイルスプリングが破損や紛失することがなく、先口を再取り付けする際にレフィルの先端が破損することを防止する出没式筆記具を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における出没式筆記具の縦端面図である。
図2図1の出没式筆記具のレフィルが前進した状態を示す縦端面図である。
図3図1の出没式筆記具の前方部を示す拡大縦端面図である。
図4図1の出没式筆記具から取り外した先口を示す拡大縦端面図である。
図5図1の出没式筆記具から先口を取り外し、再取り付けする状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態における出没式筆記具1の縦端面図であり、図2は、図1の出没式筆記具1のレフィル3が前進した状態を示す縦端面図であり、図3は、図1の出没式筆記具1の前方部を示す拡大縦断面図である。
【0017】
図1に示す本実施形態の出没式筆記具1は、出没式のボールペンであり、前端に前部開口2aを有する軸筒2を備えている。軸筒2は、筒状の軸筒本体10の前部に先口20を螺合により着脱自在に装着することで構成してあり、軸筒2の内部には、軸筒2の軸方向に移動可能なレフィル3が収容されている。レフィル3は、図1に示すように、後方側にインキ収容筒30を有しており、当該インキ収容筒30の前方側にチップ40が固定されている。このため、インキ収容筒30は本発明におけるチップ40を保持するチップホルダーとしての機能も有している。そして、チップ40の前部は、レフィル3の移動に伴って、軸筒2の前部開口2aから出没可能となっている。
【0018】
本実施形態の出没機構(不図示)は、回転カム機構を用いた後端ノック式出没機構である。当該出没機構は、軸筒2の後部開口から軸筒2内に挿入され内周部にカム部を形成された後部筒状体4と、カム部に係合し且つレフィル3の後端に当接する回転部材5と、該回転部材5に係合し且つ軸筒2の後部開口から突出する操作体6と、軸筒2内に収容され且つレフィル3を後方に付勢するコイルスプリング7と、からなる。尚、操作体6は、操作部60の前部に棒状部70を圧入固着して構成してある。
【0019】
また、本実施形態の出没機構は、レフィル3のペン先突出操作及びペン先没入操作のいずれもが操作体6を前方に押圧操作するダブルノック式である。具体的には、レフィル3が軸筒2内に没入している図1の状態で操作体6が前方に押圧されると、レフィル3が前方側に移動され、インキ収容筒30(チップホルダー)の前方部に固定されたチップ40が軸筒2の前部開口2aから突出する図2の状態となる。そして、当該突出状態が、不図示のカム部と回転部材5との係止作用によって維持される。チップ40が突出している状態(図2の状態)で操作体6が前方に押圧されると、カム部と回転部材5との係止状態が解除される。これにより、コイルスプリング7の作用により、レフィル3が後方側に戻され、チップ40が軸筒2の前部開口2aから退没する。
【0020】
続いて、チップ40は、前端部において、ボール50の前方側の一部に対して環状に当接可能かつ内方に縮径している前端縁部を有している。これにより、チップ40は、ボール50を保持するホルダーとして機能するようになっている。前端縁部のサイズ及び形状は、ボール50のサイズに合わせて選択され、本実施形態では、ボール50の直径が0.50mmであるため、前端縁部の先端内径(最狭径)は0.49mmとなっている。これにより、筆記時にインキ収容筒30内のインキがボール50を介して筆記面に吐出される筆記部80がチップ40の先端に形成される。
【0021】
先口20は、図3に示すように、軸方向に沿って貫通する内孔部を形成してあり、内孔部は前方へ向かって縮径するように複数の段部が形成されている。また、その内段部のうちの一つである前方内段部20aには、コイルスプリング7がバネの伸縮に影響を与えない範囲で圧入装着してあり、容易には外れないようにしてある。また、内孔部の後部には雌ネジ部20bが形成してあり、軸筒本体10の前部内周部に形成した雄ネジ部10aに対して着脱自在に螺合してある。
【0022】
コイルスプリング7の後部には環状部材8が配設されており、環状部材8の外周部に形成した外周係止部8aにコイルスプリング7の後部を係止してある。また、環状部材8の内孔8eにはレフィル3のチップ40及びインキ収容部30(チップホルダー)が挿通されており、環状部材8とレフィル3は共に軸筒2(先口20及び軸筒本体10)内部に軸方向に沿って前後方向に移動可能に収容されている。
【0023】
また、環状部材8の内孔8eの後部には後方に向かって拡径するテーパ部8bが形成してあり、レフィル3を環状部材8内に挿入する際、テーパ部8bによりレフィル3の先端にあるチップ40を環状部材8の中心部に寄せやすくなることから、チップ40の先端にある筆記部80が環状部材8に当接して破損することを軽減できる。そして、環状部材8の内孔8eの前部には内段部8cが形成してあり、内段部8cがレフィル3のインキ収容筒30の前端部が当接する当接部となることで、環状部材8でレフィル3を支持可能に構成され、これにより、コイルスプリング7の弾発力が環状部材8を介してレフィル3に伝達される。
【0024】
次に、先口20を軸筒本体10から取り外した状態について図4及び図5を用いて説明する。図4は、図1の出没式筆記具1から取り外した先口20を示す拡大縦断面図であり、図5は、図1の出没式筆記具1から先口20を取り外し、再取り付けする状態を示す説明図である。
【0025】
図4に示すように、図1の状態から先口20の雌ネジ部20bと軸筒本体10の雄ネジ部10aとの螺合を解除して軸筒2から先口20を取り外すと、コイルスプリング7がバネの自然長まで伸びることで環状部材8が後退し、環状部材8の後端が先口20の後端より後方に突出する。この際、環状部材8の後端が先口20の後端より後方へ突出する突出量をXとしたとき、X<1.5mmの関係式を満たすように構成することが好ましく、この場合、突出量が小さいことで、環状部材を直接指で掴むことが困難になるこことから、先口20から環状部材8及びコイルスプリング7が外れることを防止できるため、コイルスプリング7及び環状部材8の紛失や破損を防止することができる。また、環状部材8の後端は少なくとも先口20の後端より後方に突出していることから、図5に示すように、先口20を軸筒本体10に再取り付けする際には、先口20の後端の外径に比べて環状部材8の後端外径の方が小径であるため、先口20および環状部材8の後部が後方へ向かって先細るように段状に見える。このため、使用者は先口20の中心部を見極め易く、レフィル3を環状部材8の内孔8eに挿入する際に、環状部材8の一部にチップ40の先端の筆記部80を当接させることで筆記部80が破損する危険性を軽減することができる。尚、環状部材8の突出量Xは環状部材8の視認性や指での把持性を考慮すると、0.4mm<X<1.0mmとすることがより好ましく、本実施形態では突出量Xを0.75mmに設定することで環状部材8の掴みにくさを確保しつつ、環状部材8の視認性が得られるようにしてある。
【0026】
また、図4に示すように、先口20を軸筒本体10から取り外した状態において、先口20の後端の外周面部20cと環状部材8の後端の後端外面部8dとを結んだ接線Sと、前記軸筒の軸方向に沿った軸線である中心線Cと、の交角の角度をYとしたとき、Y≧50°の関係式を満たすよう構成してもよく、この場合、先口20を軸筒本体10から取り外している状態では、環状部材8が先口20の後端から後方へ向かって突出する長さが抑えられるため指で把持するのが困難になり、且つ、先口20の後端外径と環状部材8の後端外径との間の差が大きくなるため、レフィル3を環状部材8に挿入する際の中心部の見極めがより容易となることから好適である。本実施形態では、交角の角度Yが62°になるよう構成しているため、環状部材8を直接指で把持することが困難で、且つ、先口20や環状部材8の中心部の見極めがしやすく、レフィル3を環状部材8の内孔8eに挿入する際にチップ40の先端の筆記部80が環状部材8に当接することで破損することをより防止できるものとなった。
【符号の説明】
【0027】
1…出没式筆記具、
2…軸筒、2a…前部開口、
3…レフィル、
4…後部筒状体、
5…回転部材、
6…操作体、
7…コイルスプリング、
8…環状部材、8a…係止部、8b…テーパ部、8c…内段部(当接部)、
8d…後端外周部、8e…内孔、
10…軸筒本体、10a…雄ネジ部、
20…先口、20a…前方内段部、20b…雌ネジ部、20c…外周面部、
30…インキ収容筒(チップホルダー)、
40…チップ、
50…ボール、
60…操作部、
70…棒状部、
80…筆記部、
C…中心線、
S…接線、
X…突出量、
Y…交角。
図1
図2
図3
図4
図5