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  • 特許-LF鍋用マグカーボンれんがの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】LF鍋用マグカーボンれんがの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/043 20060101AFI20240919BHJP
   B22D 41/02 20060101ALI20240919BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20240919BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C04B35/043
B22D41/02 Z
C21C7/00 Q
F27D1/00 N
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020168678
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060911
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 誠一
(72)【発明者】
【氏名】江上 雅之
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101811881(CN,A)
【文献】特開2011-111627(JP,A)
【文献】特開2018-047479(JP,A)
【文献】特開2000-319063(JP,A)
【文献】特開2016-108187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C21C 7/00
B22D 41/02
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗状黒鉛を3~9質量%、アルミニウムを1.5~4質量%、炭化珪素を1~6質量%、及びマグネシアを80~94質量%含有すると共に膨張黒鉛の含有率が2質量%以下(0を含む。)である耐火原料配合物を混練し、成形後、熱処理するLF鍋用マグカーボンれんがの製造方法であって、
成形時には、れんががLF鍋にライニングされたときの位置を基準としてれんがの上下面を加圧面として加圧成形する、LF鍋用マグカーボンれんがの製造方法。
【請求項2】
成形後のれんがの、成形時の加圧方向の厚みが80~120mmである請求項に記載のLF鍋用マグカーボンれんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程においてLF(Ladle Furnace)法で使用される溶鋼鍋(LF鍋)に使用するLF鍋用マグカーボンれんがの製造方法に関する。
なお、本発明では、LF(Ladle Furnace)法で使用される溶鋼鍋を「LF鍋」という。
【背景技術】
【0002】
LF鍋では、内張りに耐火物がライニングされており、通常は、メタルラインにはキャスタブル又は黒鉛を含有する不焼成れんがが、スラグラインにはマグカーボンれんが(マグネシアカーボンれんが)が使用されている。
【0003】
このマグカーボンれんがは一般に黒鉛を10~20質量%含有するため熱伝導率が高く、内張りれんがとして使用した場合には、溶鋼鍋の鉄皮温度が上昇し、鉄皮の強度低下や変形が生じる問題がある。また、これによる熱放散で溶鋼温度が低下し溶鋼鍋のエネルギーロスが問題となる場合がある。このエネルギーロスの削減のためには、黒鉛含有率の低いマグカーボンれんがを使用することが考えられるが、黒鉛を減量すると、れんがが高弾性かつ高膨張となるため耐用性が不足してしまう問題がある。
【0004】
特にLF鍋では溶鋼が電極によって加熱されるため、他の溶鋼鍋と比較して温度差が大きくなり、LF鍋にライニングされているマグカーボンれんがにより大きな熱応力が生じる。このため、黒鉛を減量したマグカーボンれんがをLF鍋に使用すると、熱応力に伴うれんがの稼動面から剥離が生じやすくなり、れんがが低寿命となる。さらに、LF鍋にライニングされたれんがは鉛直方向(上下方向)への膨張と収縮を繰り返すことで、水平方向の目地(水平目地)に発生する目地開きが、他の溶鋼鍋よりも大きくなり、目地開きによる亀裂への地金差しが剥離を助長する問題がある。
【0005】
例えば特許文献1では、スピネル分散ペリクレースクリンカーを40~90重量%、黒鉛3~9重量%、残部がマグネシアクリンカーからなる黒鉛含有塩基性耐火物が開示されている。そして、このスピネル分散ペリクレースクリンカーは亀裂の伝播を分散し減衰させる効果をもつため、耐スポーリン性に優れると記載されている。しかし、このスピネル分散ペリクレースクリンカー中にはAlを5~15重量%含有するため、LF鍋のスラグラインに適用した場合には耐食性が不十分な問題があった。
【0006】
また、特許文献2の実施例では黒鉛含有率が2質量%のマグカーボンれんがが開示されているが、このマグカーボンれんがは、黒鉛含有率が低いためれんがが高膨張かつ高弾性となる問題がある。その結果、この実施例のマグカーボンれんがをLF鍋のスラグラインで使用した場合には、前記の理由から稼動面と平行な亀裂が発生し稼動面からの剥落が発生しやすくなる。
【0007】
また、特許文献3では厚さ12μm以下の薄肉膨張黒鉛1~12w%、粒径150メッシュ(タイラー標準篩)以下の炭化珪素0.5~10wt%、残部はマグネシアを主体とした耐火骨材組成100wt%に、金属粉及び結合剤を添加して製造されるマグネシア-炭素質不焼成れんがが開示されている。
しかし、この特許文献2のように、薄肉膨張黒鉛を含有するマグカーボンれんがは成形時の坏土の充填性が悪くなり高気孔率な組織となるため、耐食性に劣る問題がある。このため、スラグラインで使用すると耐食性が大幅に低下してLF鍋の寿命が低下することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭63-195161号公報
【文献】特許第6026495号公報
【文献】特開2000-319063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、黒鉛含有率が低くても低弾性でしかも使用時の水平目地の目地開きの発生を抑制することができるLF鍋用マグカーボンれんがの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、黒鉛含有率の低いマグカーボンれんがに特定量の炭化珪素を添加することで、弾性率が低下しかつ残存膨張が大きくなることを知見した。その結果、れんがの稼動面からの剥離あるいは水平目地の目地開きの発生を抑制して耐用性に優れるLF鍋用マグカーボンれんがが得られることを知見した。
【0011】
すなわち、本発明によれば、次の1~のLF鍋用マグカーボンれんがの製造方法が提供している
1.
鱗状黒鉛を3~9質量%、アルミニウムを1.5~4質量%、炭化珪素を1~6質量%、及びマグネシアを80~94質量%含有すると共に膨張黒鉛の含有率が2質量%以下(0を含む。)である耐火原料配合物を混練し、成形後、熱処理するLF鍋用マグカーボンれんがの製造方法であって、
成形時には、れんががLF鍋にライニングされたときの位置を基準としてれんがの上下面を加圧面として加圧成形する、LF鍋用マグカーボンれんがの製造方法。
2.
成形後のれんがの、成形時の加圧方向の厚みが80~120mmである前記に記載のLF鍋用マグカーボンれんがの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法で得られるLF鍋用マグカーボンれんがは、黒鉛含有率が低くても弾性率が低く残存膨張が大きい。その結果、他の溶鋼鍋と比較して温度差が大きくなるLF鍋で使用しても、れんがの稼動面からの剥離あるいは水平目地の目地開きの発生を抑制して耐用性に優れるものとなる。また、黒鉛含有率が低いためエネルギーロスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例における成形時の加圧方向と成形後の形状を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で使用する耐火原料配合物は、鱗状黒鉛を3~9質量%、アルミニウムを1.5~4質量%、炭化珪素を1~6質量%、及びマグネシアを80~94質量%含有すると共に膨張黒鉛の含有率が2質量%以下(0を含む。)である。
【0015】
これら原料のうちマグネシアは、耐スラグ性に優れる原料である点から主原料として80~94質量%使用する。マグネシアが80質量%未満では耐スラグ性が不十分となり、94質量%を超えると耐スポーリング性が不十分となる。
マグネシアとしては、電融マグネシアや焼結マグネシアを使用することができ、MgO純度が93質量%以上のものを使用することができる。
【0016】
炭化珪素は、残存膨張を大きくしかつ弾性率を低下させる目的で1~6質量%使用する。炭化珪素が1質量%未満ではこれらの効果が不十分となり、6質量%を超えると酸化(SiC+O→SiO+C)によって発生するSiOが低融点物質を生成するため耐食性が低下する。なお、炭化珪素には、後述するアルミニウムと同様に酸化防止の効果もある。
炭化珪素としては、耐火物用として一般に使用されているものであれば問題なく使用することができ、SiC純度が80%以上のものを使用することができる。また、炭化珪素の粒度としては、0.1mm以下のものを使用することができる。粒度0.1mm以下とすることで、残存膨張を大きくする効果及び弾性率を低下させる効果をより高くすることができる。
【0017】
なお、本発明において「粒度」とは篩目の大きさであり、例えば粒度が0.1mm以下とは0.1mmの篩目を通過するものである。
【0018】
れんが中の炭化珪素は、加熱されると前記のとおり酸化してSiOになるものと、酸化せずそのままの状態で存在するものとの2種類の状態で存在すると推定される。そして酸化してSiOになるものは体積が膨張するために残存膨張を大きくすることに寄与すると考えられる。一方、酸化しない炭化珪素は、主原料であるマグネシアとの熱膨張率の差が非常に大きいため、れんがが加熱された状態ではその膨張差によって炭化珪素粒子の周囲に隙間が発生すると考えられる。その後、れんがの温度が下がっても、れんがは残存膨張しているため、炭化珪素粒子の周囲には隙間が残った状態となりれんがの弾性率が低下すると考えられる。しかも、本発明のマグカーボンれんがは、鱗状黒鉛の含有率が低いため鱗状黒鉛による熱応力吸収作用(弾性率の低下効果)が不十分なため、炭化珪素添加による弾性率の低下効果がより顕著になる。
【0019】
鱗状黒鉛は、弾性率を低下させる目的で3~9質量%使用する。鱗状黒鉛が3質量%未満では弾性率が高くなり、9質量%を超えるとれんがの熱伝導率が高くなりエネルギーロスが大きくなる。マグカーボンれんがにおいてはその熱伝導率は黒鉛含有率によって決定することが知られており(例えば特許文献1の図)、本発明において鱗状黒鉛の含有率の上限値としては、未だLF鍋のスラグライン用マグカーボンれんがとして実用レベルに達していない9質量%を上限値とした。
鱗状黒鉛も通常マグカーボンれんがに使用されている鱗状黒鉛を使用することができる。
【0020】
アルミニウムは、酸化防止、残存膨張付与及び強度付与の目的で1.5~4質量%使用する。アルミニウムが1.5質量%未満では強度が不十分となり、4質量%を超えると高弾性率となる。
なお、アルミニウムは酸化することでAlとなり、このAlがMgOと反応して残存膨張を付与する作用があるが、同時に組織を緻密化する作用もある。このため、アルミニウムの使用量が多すぎると耐スポーリング性が低下する問題がある。そこで本発明では、炭化珪素を併用することで、酸化防止等のために必要なアルミニウムの使用量を低減することができ、しかも耐スポーリング性の低下を抑制しつつ残存膨張を大きくすることができるメリットがある。
【0021】
本発明において膨張黒鉛は使用しなくてもよいが、弾性率をさらに低下させたい場合には2質量%以下で使用することができる。ただし、膨張黒鉛が2質量%を超えると耐食性が低下する。
ここで、膨張黒鉛とは、鱗状黒鉛をその組織間に硫酸などを含ませた状態で急激に加熱し、数十倍あるいは百倍以上に膨張させたものであるが、本発明ではこの膨張黒鉛を解砕し、薄肉状としたものをいう。この膨張黒鉛も耐火物の原料として一般に市販されているものを使用することができる。
【0022】
本発明の耐火原料配合物には、上記以外の原料として、マグカーボンれんがの原料として一般的に使用されている原料を合量で5質量%以下程度であれば悪影響を及ぼさずに使用することができる。具体的には、アルミニウム合金、シリコン、硼化物、ピッチ、カーボンブラック、繊維、ガラス等である。
【0023】
本発明のマグカーボンれんがの製造方法は、以上のような耐火原料配合物を使用することを特徴とし、それ以外は一般的なマグカーボンれんがの製造方法と同様である。すなわち、耐火原料配合物に適量のバインダーを添加して混錬し、成形後に、熱処理する。熱処理温度は150~800℃程度とすることができる。バインダーとしては、フェノール樹脂やフラン樹脂等に溶剤を加えたもの等を使用することができる。
【0024】
本発明のマグカーボンれんがの製造方法において、成形時には、れんががLF鍋にライニングされたときの位置を基準としてれんがの上下面を加圧面として加圧成形することが好ましい。これにより、れんが中で鱗状黒鉛が加圧面と平行に配向することで、当該れんががLF鍋にライニングされたときの上下方向(鉛直方向)の弾性率を低下することができ、れんが使用時の熱応力を低減することができる。その結果、れんが稼動面からの剥離の抑制効果が得られる。成形機としては、れんがの製造に一般的に使用されている油圧プレスあるいはフリクションプレスなどを使用することができる。
【0025】
さらに本発明のマグカーボンれんがの製造方法において、成形後のれんがの厚みは、成形時の加圧方向の厚みとして80~120mmとすることが好ましい。この成形後のれんがの厚みは熱処理後もほぼ同じであり、LF鍋にライニングされる製品としてれんがの上下方向の厚み(れんがの積み高さ方向の厚み)もほぼ80~120mmとなる。一方で、従来一般的なLF鍋用のれんがの積み高さ方向の厚みは230mmである。
すなわち、成形後のれんがの厚みを80~120mmとすることで、従来に比べて、れんがをライニングした際の水平目地の数が増える。その結果、水平目地が膨張吸収代となって、れんがの熱膨張時のれんがへの応力を緩和することができる。
【実施例
【0026】
表1に示す耐火原料配合物にバインダーとしてフェノール樹脂を適量添加して混練し、オイルプレスによって図1に示すようなばち形のれんが形状に成形し、最高温度250℃で5時間保持の熱処理(乾燥処理)を施してマグカーボンれんがを得た。
なお、成形時の加圧方法は図1に示す矢印方向(上下方向)であり、れんががLF鍋にライニングされたときの位置を基準としてれんがの上下面を加圧面とした。成形後のれんがの厚みは、成形時の加圧方向の厚みで100mmとした。熱処理(乾燥処理)後のマグカーボンれんがの厚みも100mmであった。
このマグカーボンれんがから物性測定用試料を切り出して、熱間曲げ強さ、残存膨張率及び弾性率を測定すると共に耐食性を評価した。
【0027】
熱間曲げ強さは、JIS R 2656に準拠し窒素雰囲気下、1400℃で測定した。熱間曲げ強さは12MPa以上を合格とした。
【0028】
残存膨張率は1400℃で3時間還元焼成後の線変化率の測定結果である。残存膨張率は0.5%以上を合格とした。
【0029】
弾性率は1400℃で3時間還元焼成後の音速弾性率の測定結果である。音速弾性率の測定においては形状50×50×50mmの試料をコークスブリーズ中に埋め、電気炉において1400℃まで昇温し、3時間保持して自然放冷した。その後、試料の成形時の加圧方向及びこれと直交する非加圧方向の音速を測定し、加圧方向弾性率及び非加圧方向弾性率を求めた。弾性率は低いほど耐スポーリング性向上に有効である。具体的には、加圧方向弾性率が25GPa以下、かつ非加圧方向弾性率が35GPa以下を合格とした。
【0030】
耐食性は、回転侵食試験にて評価した。回転侵食試験では、水平の回転軸を有するドラム内面を供試れんがでライニングし、スラグを投入、加熱して、れんが表面を侵食させた。加熱源は酸素-プロパンバーナーとし、試験温度は1750℃、スラグ組成はCaO:40質量%、SiO:20質量%、Al:20質量%、FeO+Fe:20質量%とし、スラグの排出、投入を30分毎に10回繰り返した。試験終了後、各れんがの最大溶損部の寸法(れんがの残寸)を測定し、表1に記載の実施例1のれんがの残寸を100とする耐食性指数で表示した。この耐食性指数は数値が小さいほど耐食性が優れていることを示し、具体的には100以下を合格とした。
【0031】
総合評価は、前記の全ての評価が合格の場合を合格(〇)、それ以外を不合格(×)とした。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例1から実施例3は、炭化珪素の含有率が本発明の範囲内で異なるものであり、いずれも耐食性に優れしかも十分な残存膨張率と低い弾性率が得られている。これに対して比較例1は、炭化珪素を含有しないものであり、残存膨張率が小さく弾性率が高い。比較例2は炭化珪素の含有率が本発明の上限値を上回るものであり、耐食性が低下している。
【0034】
実施例4から実施例6は、鱗状黒鉛の含有率が本発明の範囲内で異なるものであり、いすれも良好な結果となっている。これに対して比較例3は、鱗状黒鉛の含有率が本発明の下限値を下回るものであり、弾性率が高くなっている。
【0035】
実施例7から実施例9は、アルミニウムの含有率が本発明の範囲内で異なるものであり、いずれも良好な結果となっている。これに対して比較例4は、アルミニウムの含有率が本発明の下限値を下回るものであり、熱間曲げ強さが低下している。また、比較例5はアルミニウムの添加量が本発明の上限値を上回るものであり、弾性率が高くなっている。
【0036】
実施例11と実施例12は膨張黒鉛を2質量%以下の範囲で含有するものであり、良好な結果となっている。これに対して比較例6は、膨張黒鉛の含有率が本発明の上限値を超えており、耐食性が低下している。
図1