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特許7557329位置決め装置、リソグラフィ装置及び物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】位置決め装置、リソグラフィ装置及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 9/00 20060101AFI20240919BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240919BHJP
   H01L 21/68 20060101ALI20240919BHJP
   G05D 3/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G03F9/00 H
G03F7/20 521
H01L21/68 K
H01L21/68 F
G05D3/00 Q
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020170031
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061834
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 勉
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-071178(JP,A)
【文献】特開2004-134456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00-7/24
9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を位置決めする位置決め装置であって、
ビームと、
第1方向に沿って互いに平行に配置され、前記ビームを前記第1方向に移動させるための第1アクチュエータ及び第2アクチュエータと、
前記ビームに内蔵され、前記ビームに対して前記物体を前記第1方向と交差する第2方向に移動させるための第3アクチュエータと、
前記第1アクチュエータ、前記第2アクチュエータ及び前記第3アクチュエータを制御する制御部と、
を有し、
前記ビームは、前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータに跨いで繋がれており、
前記制御部は、前記物体を前記第2方向における第1目標位置に移動させるために前記第3アクチュエータに与える第1操作量から、前記物体の前記第1目標位置への移動によって前記ビームに生じる回転を低減させるために前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与える互いに異なる第1補正操作量を求め、前記第1操作量を前記第3アクチュエータに与えるとともに、前記互いに異なる第1補正操作量を前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与えて前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータをフィードフォワード制御することを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記互いに異なる第1補正操作量は、前記第1方向において、前記物体を逆方向に移動させる操作量であることを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第1操作量から、前記回転の主成分に対応する特定の周波数を抽出して出力するバンドパスフィルタを含み、
前記バンドパスフィルタの出力から、前記互いに異なる第1補正操作量を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の位置決め装置。
【請求項4】
前記ビームの回転を計測する計測部を更に有し、
前記制御部は、前記第1操作量を前記第3アクチュエータに与えた後に前記計測部で計測された前記回転から、当該回転を低減させるために前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータに与える互いに異なる第2補正操作量を求め、前記互いに異なる第2補正操作量を前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与えて前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータをフィードバック制御することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記物体を前記第1方向における第2目標位置に移動させるために前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与える第2操作量から、前記物体の前記第2目標位置への移動によって前記ビームに生じる回転を低減させるために前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与える互いに異なる第3補正操作量を求め、前記第2操作量とともに、前記互いに異なる第3補正操作量を前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与えて前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータをフィードフォワード制御することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項6】
前記ビームに対して、前記ビームに配置されたスライダに設けられたステージを前記第1方向及び前記第2方向のそれぞれに沿った2つの軸で規定される平面内で回転させるための第4アクチュエータを更に有し、
前記制御部は、前記ステージを前記平面内における目標回転位置に回転させるために前記第4アクチュエータに与える第3操作量から、前記ステージの前記目標回転位置への移動によって前記ビームに生じる回転を低減させるために前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与える互いに異なる第4補正操作量を求め、前記第3操作量を前記第4アクチュエータに与えるとともに、前記互いに異なる第4補正操作量を前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与えて前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータをフィードフォワード制御することを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記第1アクチュエータ、前記第2アクチュエータ及び前記第3アクチュエータのそれぞれの推力の変動を補正するための推力補正テーブルを含み、
前記物体を移動させている間、前記推力補正テーブルに基づいて、前記第1アクチュエータ、前記第2アクチュエータ及び前記第3アクチュエータのそれぞれの推力の変動を補正することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項8】
前記推力補正テーブルは、前記第1アクチュエータ、前記第2アクチュエータ及び前記第3アクチュエータのそれぞれに与える操作量から生成されることを特徴とする請求項7に記載の位置決め装置。
【請求項9】
前記第1アクチュエータ、前記第2アクチュエータ及び前記第3アクチュエータのそれぞれに与える操作量は、前記物体を一定の加速度で移動させたときの等加速期間の操作量及び等減速期間の操作量を含むことを特徴とする請求項8に記載の位置決め装置。
【請求項10】
前記推力補正テーブルは、前記第1アクチュエータ、前記第2アクチュエータ及び前記第3アクチュエータのそれぞれに与える操作量の振幅が小さくなるように調整されていることを特徴とする請求項9に記載の位置決め装置。
【請求項11】
前記第1アクチュエータに対する推力補正テーブルは、前記第1アクチュエータのみで前記物体を前記第1方向に移動させる際に、前記第1アクチュエータに与える操作量から生成されることを特徴とする請求項8に記載の位置決め装置。
【請求項12】
前記第2アクチュエータに対する推力補正テーブルは、前記第2アクチュエータのみで前記物体を前記第1方向に移動させる際に、前記第2アクチュエータに与える操作量から生成されることを特徴とする請求項8に記載の位置決め装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記物体の前記第1目標位置への移動によって前記ビームに生じる回転の計測結果に基づいて、前記互いに異なる第1補正操作量を求めるためのゲイン及び比率を決定することを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項14】
前記物体を保持し、前記第1方向及び前記第2方向のそれぞれに沿った2つの軸で規定される平面内で回転可能なステージと、
前記ステージの回転を計測する計測部と、
を更に有し、
前記制御部は、前記ステージが前記ビームに拘束された状態において前記計測部で得られる計測結果に基づいて、前記ゲイン及び前記比率を決定することを特徴とする請求項13に記載の位置決め装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記物体の前記第1目標位置への移動に起因する、前記第1方向における前記物体の位置の制御偏差に基づいて、前記互いに異なる第1補正操作量を求めるためのゲイン及び比率を決定することを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項16】
前記第1方向と前記第2方向とは直交していることを特徴とする請求項1乃至15のうちいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項17】
前記制御部は、前記第1アクチュエータ、及び前記第2アクチュエータのそれぞれに操作量を与えて前記ビームを目標位置に移動させるように前記第1アクチュエータ、及び前記第2アクチュエータを制御し、前記第3アクチュエータに操作量を与えて前記物体を目標位置に移動させるように前記第3アクチュエータを制御することを特徴とする請求項1乃至16のうちいずれか1項に記載の位置決め装置。
【請求項18】
物体を位置決めする位置決め装置であって、
ビームと、
前記ビームを第1方向に移動させるための第1アクチュエータと、
前記ビームに内蔵され、前記ビームに対して前記物体を前記第1方向と交差する第2方向に移動させるための第2アクチュエータと、
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータを制御する制御部と、
を有し、
前記ビームは、前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータに跨いで繋がれており、
前記制御部は、前記物体を前記第2方向における第1目標位置に移動させるために前記第2アクチュエータに与える操作量から、前記物体の前記第1目標位置への移動によって前記ビームに生じる前記第2方向以外の方向の変位を低減させるために前記第1アクチュエータに与える補正操作量を求め、前記操作量を前記第2アクチュエータに与えるとともに、前記補正操作量を前記第1アクチュエータに与えて前記第1アクチュエータをフィードフォワード制御することを特徴とする位置決め装置。
【請求項19】
前記制御部は、前記第1アクチュエータに操作量を与えて前記ビームを目標位置に移動させるように前記第1アクチュエータを制御し、前記第2アクチュエータに操作量を与えて前記物体を目標位置に移動させるように前記第2アクチュエータを制御することを特徴とする請求項18に記載の位置決め装置。
【請求項20】
基板にパターンを形成するリソグラフィ装置であって、
前記基板を物体として位置決めする請求項1乃至19のうちいずれか1項に記載の位置決め装置を有することを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項21】
原版を介して基板にパターンを形成するリソグラフィ装置であって、
前記原版を物体として位置決めする請求項1乃至19のうちいずれか1項に記載の位置決め装置を有することを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項22】
請求項20又は21に記載のリソグラフィ装置を用いて基板にパターンを形成する工程と、
前記工程で前記パターンが形成された前記基板を処理する工程と、
処理された前記基板から物品を製造する工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め装置、リソグラフィ装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の急速な高集積度化に伴い、半導体素子の製造に用いられる露光装置などのリソグラフィ装置に要求される位置決め精度も高まりつつある。また、リソグラフィ装置では、スループットを向上させるため、高精度な位置決めをより高速に行わなければならない。
【0003】
このようなリソグラフィ装置に好適な位置決め装置に関する技術が従来から提案されている(特許文献1及び2参照)。特許文献1には、2つの平行するYアクチュエータに対して、Xアクチュエータを内蔵するXビームを繋いだ(横渡しした)構成のH形ステージ装置と呼ばれる位置決め装置が開示されている。かかる位置決め装置では、X方向の位置に起因する重心まわりの回転変位を計測し、2つのYアクチュエータの分配率をリアルタイムに計算するフィードバック制御を行うことで、X方向及びY方向の移動に起因するヨーイング振動を抑制している。
【0004】
また、特許文献2には、ステージの位置や姿勢による軸間の干渉や外乱を抑制するために、各軸間の非干渉化指令を位置や速度に応じて切り替えながら与える技術が開示されている。かかる技術によれば、X方向への移動やY方向への移動によって生じるモーメントに対して、XYステージ、及び、XYステージ上のθzステージ(回転ステージ)の振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-163359号公報
【文献】特開平8-314517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
物体の移動においては、物体の重心と力点とのずれによって、移動方向とは異なる方向へのモーメントが生じる。従って、高精度な位置決め装置では、物体の重心と力点とを合わせ、物体の移動によって生じるモーメントを抑えるようにしている。しかしながら、軽量化、配置上の制約、製造公差などによって、物体の重心と力点とを厳密な意味で合わせることはできない。このため、移動する主軸だけではなく、移動していない他の軸にも振動が伝達される。
【0007】
このような他軸干渉による振動の抑制に対して、特許文献1及び2に開示された技術は有効である。但し、特許文献1に開示された技術では、センサを用いてXビームのヨーイング振動を検出し、かかる振動をフィードバック制御によって抑制しているため、応答遅れが生じてしまう。また、特許文献2に開示された技術では、θzステージの振動を抑えることはできるが、2つのYアクチュエータを繋いでいるXビームのヨーイング振動を抑えることはできない。特に、近年では、露光装置などのリソグラフィ装置において、精度とスループットとが向上しているため、Xビームのヨーイング振動の影響が装置の性能として顕在化してきている。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、高精度な位置決めを実現するのに有利な位置決め装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての位置決め装置は、物体を位置決めする位置決め装置であって、ビームと、第1方向に沿って互いに平行に配置され、前記ビームを前記第1方向に移動させるための第1アクチュエータ及び第2アクチュエータと、前記ビームに内蔵され、前記ビームに対して前記物体を前記第1方向と交差する第2方向に移動させるための第3アクチュエータと、前記第1アクチュエータ、前記第2アクチュエータ及び前記第3アクチュエータを制御する制御部と、を有し、前記ビームは、前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータに跨いで繋がれており、前記制御部は、前記物体を前記第2方向における第1目標位置に移動させるために前記第3アクチュエータに与える第1操作量から、前記物体の前記第1目標位置への移動によって前記ビームに生じる回転を低減させるために前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与える互いに異なる第1補正操作量を求め、前記第1操作量を前記第3アクチュエータに与えるとともに、前記互いに異なる第1補正操作量を前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれに与えて前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータをフィードフォワード制御することを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、高精度な位置決めを実現するのに有利な位置決め装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一側面としての位置決め装置の構成を示す概略図である。
図2】本発明の一側面としての位置決め装置の構成を示す概略図である。
図3】本実施形態におけるXビームのヨーイング振動(回転)の低減を説明するための図である。
図4】本実施形態における各アクチュエータの制御を説明するための図である。
図5】本実施形態における各アクチュエータの制御を説明するための図である。
図6】本実施形態における各アクチュエータの制御を説明するための図である。
図7】推力補正テーブルの一例を示す図である。
図8】Xビームの回転情報の一例を示す図である。
図9】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
図1及び図2は、本発明の一側面としての位置決め装置100の構成を示す概略図である。図1は、位置決め装置100を構成する第1ステージSG1を説明するための図であって、図2は、位置決め装置100を構成する第2ステージSG2を説明するための図である。位置決め装置100は、物体を位置決めする機能を有し、図1に示すように、XYアクチュエータがH形に配置されたステージ装置、所謂、H形ステージ装置として具現化される。位置決め装置100は、例えば、基板Sを露光する露光装置において、かかる基板Sを位置決めする位置決め装置として好適である。本実施形態では、Xビーム1に平行な方向をX方向(第1方向に交差する第2方向)とし、Xビーム1に直交する方向をY軸としている。
【0015】
YLアクチュエータ3-1(第1アクチュエータ)とYRアクチュエータ3-2(第2アクチュエータ)とは、Y方向(第1方向)に沿って互いに平行に配置されている。YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2は、Xビーム1をY方向に移動させるためのアクチュエータである。
【0016】
Xビーム1は、Xアクチュエータ1-1(第3アクチュエータ)を内蔵し、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2に跨いで繋がれている(横渡ししている)。換言すれば、Xビーム1の両側に、Xビーム1に対して垂直に2つのアクチュエータ、即ち、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2が配置されている。また、Xビーム1に沿って、Xスライダ2(物体)がXビーム1に対して非接触で移動可能なように、Xスライドエアガイド5が設けられている。Xアクチュエータ1-1は、Xビーム1に対してXスライダ2をX方向(第1方向に交差する第2方向)に移動させるためのアクチュエータである。
【0017】
第1ステージSG1の上には、図2に示すように、基板Sを保持する第2ステージSG2(物体)が非接触で搭載されている。第2ステージSG2は、第1ステージSG1の上において、ラジアルエアガイド4のギャップ内で、Z方向、チルト方向、回転方向に移動可能なステージである。これにより、位置決め装置100は、X方向、Y方向、Z方向、θx方向、θy方向、θz方向の6軸に移動可能な構成となる。
【0018】
第2ステージSG2には、Xバーミラー8-2及びYバーミラー9-2が設けられている。また、Xバーミラー8-2に対してXレーザ干渉計8-2が設けられ、Yバーミラー9-2に対してYレーザ干渉計9-1及びY-Yaw干渉計10が設けられている。これにより、第2ステージSG2に関するX方向の位置、Y方向の位置及びZ軸周りの回転θzを計測することができる。また、Xレーザ干渉計8-2に対してZ方向において異なる位置に配置されたXピッチレーザ干渉計(不図示)によって、第2ステージSG2に関するY軸周りの回転θyが計測される。同様に、Yレーザ干渉計9-1に対してZ方向において異なる位置に配置されたYピッチレーザ干渉計(不図示)によって、第2ステージSG2に関するX軸周りの回転θyが計測される。更に、第2ステージSG2から第1ステージSG1に関するZ方向の位置やチルトを計測する3つのZエンコーダが設けられている。
【0019】
本実施形態では、第1ステージSG1から、第2ステージSG2に対して、θz用モータ6(第4アクチュエータ)を介して、Z軸周りに回転させる(θz駆動を行う)。θz用モータ6は、Xスライダ2に設けられている第2ステージSG2を、Y方向及びX方向のそれぞれに沿った2つの軸(Y軸及びX軸)で規定される平面内(XY面内)で回転させるためのアクチュエータである。従って、第2ステージSG2は、XY面内で回転可能なステージとして機能する。また、3つのZ用モータ(不図示)が設けられており、Z方向に移動させたり、X軸周り及びY軸周りに回転させたりする(θx駆動及びθy駆動を行う)ことが可能である。
【0020】
制御部CUは、CPUやメモリなどを含む情報処理装置(コンピュータ)で構成され、記憶部に記憶されたプログラムに従って、位置決め装置100の全体を制御する。制御部CUは、本実施形態では、YLアクチュエータ3-1、YRアクチュエータ3-2、Xアクチュエータ1-1などを制御する。以下、制御部CUによるYLアクチュエータ3-1、YRアクチュエータ3-2及びXアクチュエータ1-1の制御について具体的に説明する。
【0021】
位置決め装置100において、矢印AR1に示すように、Xスライダ2をX方向、具体的には、X軸プラス方向に移動させる場合を考える。また、第2ステージSG2を含めたXY可動部の重心101と、Xアクチュエータ1-1の力点からの反力102との間に、重心ずれ103が生じているものとする。
【0022】
この場合、Xスライダ2をX軸プラス方向に移動させることに起因して、図1に示すように、時計回りのモーメント104がXビーム1に対して生じる。また、Xビーム1に生じたモーメント104によって、Xビーム1は、図3(a)に示すように、時計回りに回転する。このようなXビーム1の回転、所謂、ヨーイング振動は、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2の可動子の外側から挟み込むようにYスライダエアガイド12でXビーム1が拘束されているため、時間とともにガイドの中立点に戻る。但し、Yスライダエアガイド12による拘束では減衰率が低く、ヨーイング振動が収まるまでに長時間を要するため、ヨーイング振動がX、Y、θzへの外乱として働き、Xビーム1の整定に影響を与えてしまう。
【0023】
位置決め装置100では、高精度な位置決めを実現するために、XY可動部の重心101とXアクチュエータ1-1の力点(反力102)とを合わせ、移動によって生じるモーメント104を極力抑えるようにしている。但し、軽量化、配置上の制約、製造公差などによって、XY可動部の重心101とXアクチュエータ1-1の力点(反力102)とを厳密な意味で合わせることはできない。このため、X方向に移動する際には、少なからず、Xビーム1のヨーイング振動が誘発される。
【0024】
そこで、本実施形態では、Xビーム1のヨーイング振動を低減させるために、図3(b)に示すように、X方向に移動する際に生じるモーメント104を相殺するように、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2に補正操作量105を与える。具体的には、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに対して、モーメント104の回転方向と逆方向のモーメントが生じるように、互いに異なる補正操作量105を与える。これにより、X方向に移動する際に生じるモーメント104によるXビーム1の回転(ヨーイング振動)を抑制することができる。
【0025】
モーメント104は、Xアクチュエータ1-1の反力によって発生する。図1では、重心ずれ101がY軸プラス方向に生じているため、Xスライダ2をX軸プラス方向に移動させると、Xビーム1に働くモーメント104は、時計回りの方向に作用する。従って、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2において反時計回りの方向の力を発生させることで、Xビーム1に働くモーメント104を相殺することができる。具体的には、Y座標に対して、YLアクチュエータ3-1にはマイナス方向に力を与え、YRアクチュエータ3-2にはプラス方向に力を与えることで、モーメント104が相殺される。
【0026】
一方、Xスライダ2をX軸マイナス方向に移動させる場合には、Xビーム1に働くモーメントは、反時計回りの方向に作用する。従って、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2において時計回りの方向の力を発生させることで、Xビーム1に働く反時計回りのモーメントを相殺することができる。具体的には、Y座標に対して、YLアクチュエータ3-1にはプラス方向に力を与え、YRアクチュエータ3-2にはマイナス方向に力を与えることで、モーメント104が相殺される。
【0027】
Xビーム1のモーメント104は、X方向の力に対して比例の関係にある。従って、X方向の力に対して、比例定数のゲインをかけた補正操作量105を、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに上述した符号で与えることで、Xビーム1のヨーイング振動を低減することができる。
【0028】
図4は、制御部CUによるYLアクチュエータ3-1、YRアクチュエータ3-2及びXアクチュエータ1-1の制御を説明するための図である。図4において、上側のブロックがX軸(Xアクチュエータ1-1)に関する制御ブロックを示し、下側のブロックがY軸(YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2)に関する制御ブロックを示している。図4において、本実施形態の特徴となる制御、具体的には、X操作量からXビーム1のヨーイング振動を抑制する制御は、XtoBeamYL及びXtoBeamYRの制御パスである。
【0029】
XtoBeamYL及びXtoBeamYRの制御パスの入力は、X操作量である。X操作量は、X方向における目標値(X目標位置)を複数回時間微分した値のフィードフォワード制御(AccFF、JerkFF、SnapPP)の加算値と、PIDコントローラの出力との加算値であるX操作量である。XtoBeamYL及びXtoBeamYRの制御パスの入力をDecouple Matrixの前段から抽出している理由は、X方向の移動(X軸の駆動)に必要な力のみを抽出するためである。例えば、Decouple Matrixの後段から操作量を抽出すると、XtoXに関する移動のための力だけでなく、YtoX、ZtoX、QxtoX、QytoX、QztoXなどの他軸干渉の抑制力がX操作量に含まれてしまう。
【0030】
本実施形態では、X操作量に対して、XtoBeamYL及びXtoBeamYRのゲインと分配比とをかけたものを、符号を逆にして、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに与える(加算又は減算する)補正操作量とする。かかる補正操作量(出力)は、X位置に応じて、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに推力分配(Thrust distribution)している後段に加算されている。Xアクチュエータ1-1の力点に対して重心ずれ101がY軸プラス方向に生じている場合には、上述したように、Xスライダ2をX軸プラス方向に移動させると、Xビーム1に働くモーメント104は、時計回りの方向に作用する。従って、Xビーム1の回転を抑制するためには、反時計回りの方向の力を発生させればよいため、YLアクチュエータ3-1に与える補正操作量の符号をマイナスとし、YRアクチュエータ3-2に与える補正操作量の符号をプラスとする。一方、Xアクチュエータ1-1の力点に対して重心ずれ101がY軸マイナス方向に生じている場合には、補正操作量の符号を逆にして入力する必要があるが、XtoBeamYL及びXtoBeamYRのゲインをマイナスとし入力することで最適に制御される。XtoBeamYL及びXtoBeamYRのゲインは、重心ずれ101の比例定数を示している。かかる比例定数の値を適正に設定することで、X方向への移動中に発生する力に対してXビーム1に生じるモーメント104を相殺する力(補正操作量)を、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2に出力することが可能となる。
【0031】
このように、本実施形態では、制御部CUは、X操作量である第1操作量から、Xビーム1に生じる回転を低減させるためにYLアクチュエータ3-1及びYLアクチュエータ3-2のそれぞれに与える互いに異なる第1補正操作量を求める。なお、第1操作量とは、Xスライダ2をX方向における第1目標位置に移動させるためにXアクチュエータ1-1に与える第1操作量である。そして、制御部CUは、互いに異なる第1補正操作量をYRアクチュエータ3-1及びYLアクチュエータ3-2のそれぞれに与える。この際、制御部CUは、第1操作量をXアクチュエータ1-1に与えているため、YRアクチュエータ3-1及びYLアクチュエータ3-2をフィードフォワード制御していることになる。
【0032】
本実施形態において、位置決め装置100は、Xビーム1の回転(ヨーイング振動)を計測する計測部を必要としていない。但し、XtoBeamYLやXtoBeamYRの制御パスと併せて、Xビーム1の回転を計測する計測部を設けて、かかる計測部の計測結果に基づいて、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2をフィードバック制御してもよい。例えば、第1操作量(X操作量)をXアクチュエータ1-1に与えた後に計測部で計測されたXビーム1の回転から、かかる回転を低減させるためにYRアクチュエータ3-1及びYLアクチュエータ3-2に与える互いに異なる第2補正操作量を求める。そして、互いに異なる第2補正操作量をYLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに与えてYLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2をフィードバック制御する。これにより、Xビーム1のヨーイング振動抑制の応答を早めることが可能となるため、単純なフィードバック制御に比べて高い効果を得ることができる。
【0033】
また、本実施形態では、X操作量から、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに与える補正操作量を求める場合について説明したが、軸間の干渉は、Xだけではなく、Y、θzでも発生する。例えば、X方向に重心ずれが生じている場合には、Y操作量から、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに与える補正操作量を求めることで、Xビーム1の回転(ヨーイング振動)を抑えることができる。また、第2ステージSG2をZ軸周りに回転させる場合(θz)には、XY可動部の重心とXアクチュエータ1-1の力点とが必ず異なるため、その反力をXビーム1が受けることになる。この場合、θz操作量から、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに与える補正操作量を求めることで、Xビーム1の回転(ヨーイング振動)を抑えることができる。
【0034】
また、図4を参照するに、Decouple Matrixは、特許文献2に開示されている軸間の非干渉制御である。第1ステージSG1のX、Yと併せ、第2ステージSG2のZ、チルト、回転の非干渉制御(不図示)は、XtoBeamYLやXtoBeamYRの制御パスが適用されることで過補正となる。従って、Decouple Matrixの各パラメータ(XtoX、YtoX、ZtoX、QxtoX、QytoX、QztoX)を再調整することでより高い効果が得られる。なお、図4では、Decouple Matrixの各パラメータの入力を省略して図示している。
【0035】
また、図5に示すように、XtoBeamYLやXtoBeamYRの制御パスにフィルタを追加してもよい。かかるフィルタは、X方向への移動中のXビーム1の回転(ヨーイング振動)の主成分に対応する特定の周波数のみを抽出して出力するバンドパスフィルタである。但し、位置決め装置によっては、DC成分のみをカットするハイパスフィルタやAC成分のみをカットするローパスフィルタを、XtoBeamYLやXtoBeamYRの制御パスに追加してもよい。このようなフィルタによって、ノイズの影響を低減してゲインを上げることが可能となるため、特定の周波数に対する振動抑制効果を向上させることができる。
【0036】
また、図6に示すように、図5に示す制御部CUの構成(制御ブロック)に対して、各アクチュエータの推力むらを補正するための推力補正テーブルとして、YLリップル、YRリップル及びXリップルを追加してもよい。本実施形態では、上述したように、Xビーム1の回転を計測してYLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2をフィードバック制御する必要はなく、Xビーム1の回転を計測しないオープン制御でもよい。但し、Xビーム1の回転を計測しない場合には、YLアクチュエータ3-1とYRアクチュエータ3-2との間で力のバランスがとれていることが好ましい。
【0037】
アクチュエータの代表として一般的に用いられるリニアモータは、磁石やコイルの磁束のばらつきに起因して、固定子に対する可動子の位置に応じて、磁石やコイルのピッチに相当する周期的な推力むら(推力の変動)が発生する。そこで、図6に示すように、X方向の位置によって発生する推力むらをXリップルによって補正する。また、Y方向の位置によって発生する推力むらをYLリップル及びYRリップルによって補正する。これらのリップルは、位置に対する推力むらのテーブルパラメータであり、位置に応じて補正値を切り替えている。従って、任意の位置において、操作量に対するアクチュエータの実際の力をX方向で一律に与えることが可能となり、YLアクチュエータ3-1とYRアクチュエータ3-2とを正確に等しい推力として制御することができる。これにより、X方向への移動の操作量に対するXビーム1のヨーイング振動の抑制が、Xビーム1の回転を計測しないオープン制御でも安定して効果を発揮する。
【0038】
一方、上述したような各リップルを用いた補正を行わない場合には、位置に応じて、各アクチュエータで推力ばらつきが発生する。例えば、Xアクチュエータ1-1では、X操作量に対して発生するモーメント(力)がばらつくことになる。また、YLアクチュエータ3-1とYRアクチュエータ3-2では、位置によって、YLアクチュエータ3-1とYRアクチュエータ3-2との間で推力のバランスにばらつきが生じる。従って、各アクチュエータの推力むらを補正することは、Xビーム1のヨーイング振動の抑制効果の安定に寄与する。
【0039】
ここで、YLリップル、YRリップル及びXリップルなどの推力補正テーブルの求め方について説明する。リニアモータの推力は、逆起電力に比例する。従って、推力補正テーブルを求める場合には、一定の加速度で移動中に発生する逆起電力か推力補正テーブルを求めることが一般的である。但し、逆起電力が計測できない場合には、フィードバック制御の制御量で代用することができる。例えば、任意の一定の加速度で移動させたときの等加速期間(又は等減速期間)の操作量を抽出する。かかる操作量は、図6では、FFゲインの加算値とPIDコントローラの出力の加算値に相当する。このような操作量の抽出を、位置を微小に変更しながら行うことで、図7(a)乃至図7(c)に示すような操作量のグラフが得られ、各位置における推力補正テーブルを生成することが可能となる。図7(a)乃至図7(c)において、横軸は、制御対象の各軸の位置を示し、縦軸は、任意の加速度に対応する操作量を示している。詳細には、同一の位置での同一の加速度と減速度のそれぞれの操作量の絶対値の平均である。加速と減速との平均とすることで、実装反力などの方向差の影響を小さくすることができる。図7(a)乃至図7(c)を参照するに、細線は、補正前(before)の操作量を示し、太線は、補正後の操作量を示しており、細線で示される値をテーブルとして、その振幅(強弱)に応じて操作量にテーブルの値の比率のゲインをかけ算で与える。比率が正しい場合や推力むらを正確に再現できている場合には、補正後の操作量は、太線で示すように、一定の値を示す。補正後の操作量の振幅が小さくなるようにテーブルを調整することで、操作量に対して、アクチュエータの実際の推力が正しく出力されるようになる。
【0040】
図7(a)は、X軸(Xアクチュエータ1-1)の推力補正テーブルである。X軸に関しては、Xアクチュエータ1-1の1つのアクチュエータで制御されているため、単純にX軸を制御している操作量を取得すればよい。一方、Y軸に関しては、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2の2つのアクチュエータで制御されている。従って、単純にY軸を制御している操作量を取得すると、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2に対して同一の推力補正テーブルが生成され、合算値となってしまう。YLアクチュエータ3-1とYRアクチュエータ3-2とでは、アクチュエータが異なるため、推力補正テーブルに関しても異なるテーブルを生成する必要がある。
【0041】
そこで、本実施形態では、YLアクチュエータ3-1とYRアクチュエータ3-2とで異なる推力むらを得るようにする。具体的には、YLアクチュエータ3-1のみでY軸を制御して、任意の加速度で移動させたときの等加速期間の操作量を抽出することで、図7(b)に示す細線に相当する補正前の操作量が得られる。同様に、YRアクチュエータ3-2のみでY軸を制御して、任意の加速度で移動させたときの等加速期間の操作量を抽出することで、図7(c)に示す細線に相当する補正前の操作量が得られる。これにより、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに対して、異なる推力補正テーブルを生成することができる。Y軸の制御に関しては、YLアクチュエータ3-1とYRアクチュエータ3-2との間で推力のバランスを合わせる必要があるため、太線で示される補正後の操作量が同一の操作量となるように、推力補正テーブルを調整している。これにより、Y軸の制御に関して、YLアクチュエータ3-1とYRアクチュエータ3-2との間で推力のバランスを確保している。
【0042】
このように、逆起電力を計測できない場合であっても、各軸の操作量から推力補正テーブルを生成することができる。
かかる推力補正テーブルに基づいて、位置に応じて補正値を切り替えることで、例えば、YLアクチュエータ3-1とYRアクチュエータ3-2との間で推力のバランスが維持される。従って、Xビーム1の回転を計測しないオープン制御であっても、Xビーム1のヨーイング振動の抑制が安定し、高い効果を得ることができる。これにより、Xビーム1の回転を計測する計測部が不要となり、Xビーム1のヨーイング振動の抑制をより安価に実現することができる。
【0043】
次に、XtoBeamYL及びXtoBeamYRのパラメータ(制御パラメータ)の求め方について説明する。Xビーム1の回転を計測することができる場合には、X方向への移動中のXビーム1の回転を計測しながら、かかる回転が小さくなるようにXtoBeamYL及びXtoBeamYRのパラメータを決定すればよい。但し、Xビーム1の回転が計測できない場合、上述した手法ではXtoBeamYL及びXtoBeamYRのパラメータを決定することができない。
【0044】
そこで、本実施形態では、まず、ラジアルエアガイド4の駆動を停止して、第2ステージSG2を第1ステージSG1に着座させ、その後、第2ステージSG2のZ、θx、θy、θzに関するサーボ制御を停止(オフ)する。これにより、第2ステージSG2は、第1ステージSG1に拘束された状態となるため、第2ステージSG2の回転θzに関する情報(回転情報)は、Xビーム1の回転に関する情報(回転情報)と一致する。かかる状態でX方向に移動させて、第2ステージSG2の回転θzに関する回転情報を一定周期で取得すると、図8(a)に示すような回転情報が得られる。図8(a)は、X方向への移動中におけるXビーム1の回転情報を示し、横軸が時間を示し、縦軸が回転情報を示している。図8(a)において、細線は、本実施形態によるXビーム1のヨーイング振動を低減する前の回転情報(before)を示し、太線は、本実施形態によるXビーム1のヨーイング振動を低減した後の回転情報(after)を示している。図8(a)に示す回転情報をフーリエ変換し、横軸を周波数とすると、図8(b)が得られる。図8(b)において、細線は、本実施形態によるXビーム1のヨーイング振動を低減する前の回転情報(before)を示し、太線は、本実施形態によるXビーム1のヨーイング振動を低減した後の回転情報(after)を示している。図8(b)を参照するに、Xビーム1のヨーイング振動を低減する前では、周波数100Hzの近傍に減衰の低いヨーイング振動が存在していることがわかる。このときのX操作量を図8(c)に示す。図8(c)に示すX操作量には、Xビーム1のヨーイング振動の影響が含まれている。かかるX操作量を、減衰の低い100Hzを中心とするバンドパスフィルタを介して、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2の操作量に加えることによって、Xビーム1の整定中のヨーイング振動を抑えることができる。そして、減衰効果が最も高いXtoBeamYL及びXtoBeamYRとなるように、ゲインと比率を変更しながらXビーム1を確認することで最適なゲインが求められる(トライアンドエラー)。このように、最適なバンドパスフィルタとパラメータが設定されることで、Xビーム1のヨーイング振動の振幅を小さくし、減衰を早めることが可能となる。
【0045】
なお、上述した方法では、第1ステージSG1に対して、実際には非接触となる第2ステージSG2を接触させているため、高い加速度で移動させることができない。従って、上述した方法は、Xビーム1のヨーイング振動の周波数の特定と粗調整に用いて、その後、精密調整を行うとよい。
【0046】
具体的には、全軸をサーボ制御している状態において、実際(例えば、露光時)の動作と同じプロファイルを用いて、X方向への移動後のY方向の制御偏差が最も小さくなるように、XtoBeamYL及びYtoBeamYRを調整する。この調整では、Yバーミラー9-2に対してYレーザ干渉計9-1からの光(光軸)が照射されるX座標と、Xビーム1の回転(θz)の中心のX座標とが最も離れた状態において、Xビーム1のヨーイング振動によるY軸への外乱が最も大きくなる。従って、X軸に関して外側の位置で、上述した調整を行うことが効果的である。
【0047】
また、実際の動作、例えば、露光中の動作と同じ動作を行った際の露光中における偏差を評価値として調整してもよい。Y方向の制御偏差には、絶対値と、異なるX方向の位置での偏差のばらつきとの2つの指標がある。全ての露光座標のY方向の制御偏差の平均値を評価指標としてゲインを調整することで、絶対値を下げることができる。一方、全ての露光座標のY方向の制御偏差の標準偏差を評価指標としてゲインを調整することで、ばらつきを抑えることが可能となる。絶対値を下げる場合には、バンドパスフィルタの周波数を下げることが効果的である。一方、標準偏差を抑えるためには、バンドパスフィルタの周波数を上げ、ゲインを高くする必要がある。このように、平均値と標準偏差には、トレードオフの関係がある。バランスを考慮する場合には、平均値と標準偏差との和を評価値として調整すればよい。位置決め装置に求められる性能によって、最適な調整状態は異なるため、それに応じて評価値を選択して調整する必要がある。
【0048】
なお、本実施形態では、位置決め装置100としてH形ステージ装置を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、位置決め装置100におけるXビーム1と第2ステージSG2のように、θ方向の自由度を有する構造体が複数構成されている構造のステージ装置であっても、本実施形態と同様の手法を適用することができる。
【0049】
例えば、第2ステージSG2をXY面内における目標回転位置に回転させる場合を考える。この場合、θz用モータ6に与える操作量から、Xビーム1に生じる回転を低減させるためにYLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに与える互いに異なる補正操作量を求める。そして、θz用モータ6に操作量を与えるとともに、求めた互いに異なる補正操作量をYLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに与えてYLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2をフィードフォワード制御する。
【0050】
また、Xスライダ2をY方向における第2目標位置に移動させる場合にも適用することができる。この場合、YLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2に与える操作量から、Xビーム1に生じる回転を低減させるためにYLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに与える互いに異なる補正操作量を求める。そして、第2目標位置に移動させるための操作量とともに、求めた互いに異なる補正操作量をYLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2のそれぞれに与えてYLアクチュエータ3-1及びYRアクチュエータ3-2をフィードフォワード制御する。
【0051】
更に、本実施形態は、ビームを第1方向に移動させるための第1アクチュエータと、ビームに内蔵され、ビームに対して物体を第1方向と交差する第2方向に移動させるための第2アクチュエータとを有する位置決め装置にも適用することが可能である。この場合、物体を第2方向における第1目標位置に移動させるために第2アクチュエータに与える操作量から、ビームに生じる第2方向以外の方向の変位を低減させるために第1アクチュエータに与える補正操作量を求める。そして、第1目標位置に移動させるための操作量を第2アクチュエータに与えるとともに、求めた補正操作量を第1アクチュエータに与えて第1アクチュエータをフィードフォワード制御することを特徴とする。
【0052】
図9は、本発明の一側面としての露光装置EXの構成を示す概略図である。露光装置EXは、例えば、半導体素子や液晶表示素子のデバイスの製造工程であるリソグラフィ工程に採用され、原版を用いて基板にパターンを形成するリソグラフィ装置である。露光装置EXは、原版であるマスク(レチクル)Mを介して基板Sを露光して、マスクMのパターンを基板Sに転写する露光処理を行う。露光装置EXは、本実施形態では、ステップ・アンド・スキャン方式を採用する。但し、露光装置EXには、ステップ・アンド・リピート方式やその他の露光方式を採用することもできる。なお、図9では、基板Sの表面に平行な面をXY面とするXYZ座標系で方向を示す。
【0053】
露光装置EXは、図9に示すように、ステージ定盤SPと、位置決め装置100と、鏡筒定盤LPと、ダンパDPと、投影光学系PSと、照明光学系ISと、マスク定盤MPと、マスクステージMSとを有する。
【0054】
ステージ定盤SPは、マウント(不図示)を介して、床FLに支持されている。ステージ定盤SPの上には、位置決め装置100が設けられている。鏡筒定盤LPは、ダンパDPを介して、床FLに支持されている。鏡筒定盤LPには、投影光学系PS及びマスク定盤MPが設けられている。マスク定盤MPの上には、マスクステージMSが移動可能(滑動自在)に設けられている。マスクステージMSの上方には、照明光学系ISが設けられている。
【0055】
露光において、光源(不図示)から発せられた光は、照明光学系ISによりマスクMを照明する。マスクMのパターンは、投影光学系PSにより基板Sに投影(結像)される。この際、マスクステージMS及び位置決め装置100のそれぞれは、マスクMと基板Sとを走査方向に相対的に走査する。露光装置EXが用いる位置決め装置100は、上述したように、高精度な位置決め精度を実現することができる。従って、露光装置EXは、高いスループットで経済性よく高品位なデバイス(半導体素子、磁気記憶媒体、液晶表示素子などのデバイス)を提供することができる。
【0056】
本発明の実施形態における物品の製造方法は、例えば、デバイス(半導体素子、磁気記憶媒体、液晶表示素子など)などの物品を製造するのに好適である。かかる製造方法は、露光装置EXを用いて、基板にパターンを形成する工程と、パターンが形成された基板を処理する工程と、処理された基板から物品を製造する工程とを含む。また、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージングなど)を含みうる。本実施形態における物品の製造方法は、従来に比べて、物品の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0057】
なお、本発明は、リソグラフィ装置を露光装置に限定するものではなく、例えば、インプリント装置にも適用することができる。インプリント装置は、基板上に供給(配置)されたインプリント材と型(原版)とを接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、型のパターンが転写された硬化物のパターンを形成する。
【0058】
また、本実施形態では、露光装置EXにおいて、位置決め装置100を基板Sの位置決め装置に適用しているが、H形ステージ装置であれば、マスクMの位置決め装置、即ち、マスクステージMSなどの如何なる位置決め装置にも適用可能である。
【0059】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0060】
100:位置決め装置 1:Xビーム 1-1:Xアクチュエータ 2:Xスライダ 3-1:YLアクチュエータ 3-2:YRアクチュエータ CU:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9