IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/46 20060101AFI20240919BHJP
   B29C 41/24 20060101ALI20240919BHJP
   B29C 41/52 20060101ALI20240919BHJP
   B29K 79/00 20060101ALN20240919BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
B29C41/46
B29C41/24
B29C41/52
B29K79:00
B29L7:00
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020173048
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064422
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大熊 敬介
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/111164(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/132986(WO,A1)
【文献】特開2013-032532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/46
B29C 41/24
B29C 41/52
B29K 79/00
B29L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアミド酸有機溶媒溶液を支持体上に流延または塗布して乾燥し、自己支持性を有するまで部分的にイミド化及び/または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムであるゲルフィルムを形成するゲルフィルム作製工程、
前記ゲルフィルムを支持体から剥離する工程、および
前記ゲルフィルムの端部を固定して幅方向に張力を付与しながら熱処理を施すテンター加熱工程
を含むポリイミドフィルムの製造方法(ただし、前記テンター加熱工程後に、フィルムの端部の固定を解除した状態で加熱する工程を有するものを除く)において、
前記テンター加熱工程ではフィルムの長手方向に連結された少なくとも3以上からなる複数の炉が配置された加熱炉により熱処理が施され、
前記加熱炉は、2以上の熱風炉が配置された熱風加熱ゾーンと、熱風加熱ゾーンに続いて配置される1以上の輻射熱線ヒーター炉が配置された輻射熱線加熱ゾーンにより構成されており、
前記テンター加熱工程で最初にゲルフィルムが通過する第一の熱風炉の温度が270~360℃の範囲に設定され、前記テンター加熱工程での最低温度が270℃以上であり、かつ最高温度に設定される炉の温度は330~420℃の範囲であることを特徴とする
ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記熱風加熱ゾーンに配置された互いに隣接する各熱風炉同士の温度差が100℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記熱風加熱ゾーンに配置された互いに隣接する各熱風炉同士の温度差70℃以下であることを特徴とする請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記テンター加熱工程で最高温度に設定される炉が輻射熱線ヒーター炉であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱風加熱ゾーンは、前記第一の熱風炉前記第一の熱風炉に隣接する第二の熱風炉および前記第二の熱風炉に隣接する第三の熱風炉を有することを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法
【請求項6】
前記第一の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であり、前記第二の熱風炉の温度は340~360℃の範囲であり、かつ前記第三の熱風炉の温度は340~360℃の範囲であることを特徴とする請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記第一の熱風炉の温度は270~290℃の範囲であり、前記第二の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であり、かつ前記第三の熱風炉の温度は340~360℃の範囲であることを特徴とする請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記第一の熱風炉の温度は270~290℃の範囲であり、前記第二の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であり、かつ前記第三の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であることを特徴とする請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記第一の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であり、前記第二の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であり、かつ前記第三の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であることを特徴とする請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記第一の熱風炉の温度は310~330℃の範囲であり、前記第二の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であり、かつ前記第三の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であることを特徴とする請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記第一の熱風炉の温度は340~360℃の範囲であり、前記第二の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であり、かつ前記第三の熱風炉の温度は290~310℃の範囲であることを特徴とする請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記第一の熱風炉の温度は270~310℃の範囲であり、前記第二の熱風炉の温度は370~390℃の範囲であり、かつ前記第三の熱風炉の温度は350~370℃の範囲であることを特徴とする請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記輻射熱線加熱ゾーンは、第一の輻射熱線ヒーター炉、および前記第一の輻射熱線ヒーター炉に隣接する第二の輻射熱線ヒーター炉を有することを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記第一の輻射熱線ヒーター炉と、前記第二の輻射熱線ヒーター炉の温度差0~70℃の範囲であることを特徴とする請求項13に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記第一の輻射熱線ヒーター炉の温度は340~390℃の範囲であり、前記第二の輻射熱線ヒーター炉の温度は340~390℃の範囲であることを特徴とする請求項13に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項16】
前記第一の輻射熱線ヒーター炉の温度は330~380℃の範囲であり、前記第二の輻射熱線ヒーター炉の温度は370~420℃の範囲であることを特徴とする請求項13に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項17】
前記第一の輻射熱線ヒーター炉の温度は370~420℃の範囲であり、前記第二の輻射熱線ヒーター炉の温度は330~380℃の範囲であることを特徴とする請求項13に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項18】
前記輻射熱線ヒーター炉が遠赤外線ヒーター炉であることを特徴とする請求項1~17のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項19】
前記ポリイミドフィルムの動的粘弾性を測定した場合の350℃における貯蔵弾性率が0.5GPa以下であることを特徴とする請求項1~18のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項20】
前記ポリイミドフィルムは、ビフェニル骨格またはターフェニル骨格構造を有するポリイミド樹脂を有する請求項1~19いずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項21】
前記ポリアミド酸有機溶媒溶液を支持体上に流延または塗布するに先立って、イミド化触媒および脱水剤を含む硬化剤を混合する工程をさらに含む請求項1~20のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項22】
前記ゲルフィルム作製工程は、複数のポリアミド酸有機溶媒溶液を、共押出法により支持体上に流延および/または塗布して乾燥することを特徴とする請求項1~21のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の有機溶媒溶液を、金属ドラムなどの回転する支持体上に流延塗布し、自己支持性を有するまで乾燥および硬化させてゲルフィルムを得、これを引き剥がし、その両端を固定してゲルフィルムの幅を保持または広げつつ加熱炉へ搬送して加熱し、さらなる乾燥・硬化を進めることで連続的に製造されている。
【0003】
上述のようなテンター方式は、加熱炉での乾燥および硬化工程においてゲルフィルムの硬化収縮に抗いながら幅を保持または延伸するために好適な公知の技術ではあるが、製品フィルムの横方向の物性を均一にすることは困難であった。この理由は、テンター内において、フィルムの両端はクリップやピンシートによって把持されているため、縦方向の延伸応力や収縮応力は拘束されるのに対し、フィルムの中央部は把持手段の影響が低く拘束力が弱くなるため、縦方向の延伸応力や収縮応力の影響を受けやすくなることで結果的にフィルムの両端と中央部で受ける応力の向きが異なり凹凸型の変形が残るためである。この現象はボーイング現象と称されるものであるが、このボーイング現象はフィルムの横方向の物性を不均一にする原因となっている。
【0004】
ポリイミドフィルムの幅方向の異方性は長年の課題であり、これまでに異方性を改善するための様々な試みがなされている。例えば、ポリアミド酸の有機溶媒溶液を回転する支持体上に流延塗布し、自己支持性を有するまで乾燥および硬化させてゲルフィルムを得、これを引き剥がし、その両端を固定してゲルフィルムの幅を保持または広げつつ加熱炉へ搬送して加熱する工程を含むポリイミドフィルムの製造方法において、ゲルフィルムの支持体上での収縮現象、ゲルフィルムの残存揮発成分量と、加熱炉での加熱開始温度に着目し、配向を制御する方法がある(特許文献1)。また、ゲルフィルムの端部を固定して加熱するテンター加熱工程において、加熱炉の第一ゾーンでの溶媒の揮発に伴う収縮応力に着目し、ゲルフィルムの弾性率、テンター加熱炉の第一ゾーンでの弾性率およびテンター加熱炉での第二ゾーンでの弾性率の関係により、ゲルフィルムに与える張力、加熱炉での最高焼成温度、ゲルフィルムの残存揮発成分量を決定することで、配向を制御しうることが知られている(特許文献2)。さらに、上記ポリイミドフィルムの製造方法のテンター加熱工程において、初期の加熱温度を180℃以上に設定し、加熱初期のある温度範囲においては両端の把持部材同士の間隔を変えることなく加熱することで配向異方性の強さが小さいフィルムにすること、ならびに220℃を超える温度領域においては幅方向に延伸して線膨張係数を所望の範囲に制御する方法が知られている(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-165850号公報
【文献】特開2008-12776号公報
【文献】WO2011/145696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の配向異方性を制御するポリイミドの製造方法によっても、異方性を制御する上で一定の効果は発現する。しかしながら、近年のFPCに要求される高度な性能に対応するために、ポリイミドフィルムにもさらに高度の特性が求められており、これに伴い使用するポリイミドの原料の選択肢も広がっている。そして、用いる原料として剛直なモノマーを使用したり、フィルムの高温での弾性率が低くなるような原料を選択した場合には、従来の方法では十分に配向が制御できない場合があり、改善の余地があった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ポリイミドフィルムに用いる原料として剛直なモノマーを使用したり、フィルムの高温での弾性率が低くなるような原料を選択した場合であっても、フィルムの配向異方性を制御しうるポリイミドフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアミド酸有機溶媒溶液を支持体上に流延または塗布して乾燥し、自己支持性を有するまで部分的にイミド化及び/または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムであるゲルフィルムを形成する工程、前記ゲルフィルムを支持体から剥離する工程、および前記ゲルフィルムの端部を固定して熱処理を施すテンター加熱工程を含むポリイミドフィルムの製造方法に関する(ただし、前記テンター加熱工程後に、フィルムの端部の固定を解除した状態で加熱する工程を有するものを除く)。テンター加熱工程ではフィルムの長手方向に連結された少なくとも3以上からなる複数の炉が配置された加熱炉により熱処理が施される。加熱炉は、2以上の熱風炉が配置された熱風加熱ゾーンと、熱風加熱ゾーンに続いて配置される1以上の輻射熱線ヒーター炉が配置された輻射熱線加熱ゾーンにより構成されている。テンター加熱工程で最初にゲルフィルムが通過する第一の熱風炉の温度が270~360℃の範囲に設定され、テンター加熱工程での最低温度が270℃以上であり、かつ最高温度に設定される炉の温度は330~420℃の範囲である
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。まず、本発明に係るポリイミドフィルムの場合について、その実施の形態の一例に基づき説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」をそれぞれ意味する。
【0031】
本発明は、少なくとも、ポリアミド酸有機溶媒溶液を支持体上に流延または塗布して乾燥し、自己支持性を有するまで部分的にイミド化及び/または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムであるゲルフィルムを形成する工程、前記ゲルフィルムを支持体から剥離する工程、前記ゲルフィルムの端部を固定して熱処理を施すテンター加熱工程を含むポリイミドフィルムの製造方法において、前記テンター加熱工程ではフィルムの長手方向に連結された少なくとも3以上からなる複数の炉が配置された加熱炉により熱処理が施され、前記加熱炉は、2以上の熱風炉が配置された熱風加熱ゾーンと、熱風加熱ゾーンに続いて配置される1以上の輻射熱線ヒーター炉が配置された輻射熱線加熱ゾーンにより構成されており、テンター加熱工程で最初にゲルフィルムが通過する第一の熱風炉の温度が270~360℃の範囲に設定され、テンター加熱工程での最低温度が270℃以上であり、かつ最高温度に設定される炉の温度は330~420℃の範囲であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法である。尚、本件明細書では「温度が270~360℃の範囲に設定され」等、「設定される」との表現を用いているが、「制御される」あるいは「制御する」という意味である。
【0032】
本発明では、前記テンター加熱工程において熱風加熱ゾーンでの加熱と輻射熱線加熱ゾーンでの加熱を行い、ゲルフィルムが最初に通過する第一の熱風炉の温度が270~360℃と比較的高い温度に設定されている。そして、第一の熱風炉に続く複数存在する炉の温度は、大きくは上昇させないで、隣接する各炉の温度差が100℃以下の範囲とすることが好ましい。さらに、複数存在する炉の中で、最高温度は330~420℃と比較的低い温度に設定されている。これは本発明者らが、以下のような仮説に基づき検証を行い、設定したものである。
【0033】
一般的にテンターで製膜されるフィルムは正のボーイングひずみを有していると考えられる。ポリイミドフィルムの幅方向における配向を測定した場合の、特に端部の配向角度が、進行方向に対しマイナスあるいはプラスのどちらを向いているかを確認すれば、正のボーイングひずみを有しているか負のボーイングひずみを有しているかが、その程度とともにわかる。そして、既存の長尺ポリイミドフィルムを含め、テンター加熱工程を経て製造される様々なポリイミドフィルムのについて端部の配向角度を確認してみると、すべてのフィルムにおいて正のボーイングを有していることが確認できた。このように最終的に製造されるフィルムは正のボーイングひずみを有するところ、本発明者らは、各焼成炉内で生じるボーイング現象も想定することにより、上記複数存在する炉の温度設定を行ったのである。
【0034】
すなわち本発明者らは、各焼成炉で生じるボーイング現象を、中央部が端部に対して遅れる方向のボーイング現象(以下、正のボーイングともいう)と端部が中央部に対して遅れる方向のボーイング現象(以下、負のボーイングともいう)に区別してまず捉えた。
【0035】
負のボーイングは、主にゲルフィルム中に含まれる溶媒の揮発に伴う収縮応力と前駆体であるポリアミド酸からポリイミドへの化学反応に伴う硬化収縮が支配的要因であると考えた。すなわち負のボーイングは特にテンター加熱炉の第一ゾーンなどの連続焼成炉前半で生じると考えられる。また、正のボーイングはフィルムが高温にさらされた場合の弾性率低下と密接に関係があり、テンター内の弾性率差によって生じるためだと考えた。すなわち、最高焼成温度に達する連続焼成炉の後半で特に生じやすく、次いで残溶媒が十分に揮発しきった比較的高温の焼成炉において生じやすいと考えられる。そこで、正のボーイングにより生じるひずみと負のボーイングにより生じるひずみを釣り合わせる(相殺させる)ことで最終的に製造されるポリイミドフィルムの異方性を改善できると考えた。このような考え方に基づき、テンター加熱工程で最初にゲルフィルムが通過する第一の熱風炉の温度、加熱炉内に配置された互いに隣接する各炉同士の温度差および最高温度に設定される炉の温度を特定の範囲に設定したところ、驚くべき配向異方性の抑制効果が確認されたのである。このような効果は、もともと配向しにくい性質を持つ汎用ポリイミドフィルムの場合でも発現する。しかし、近年、FPCに要求される様々なフィルム特性に応えるために選択される原料モノマー、フィルムの製膜条件も複雑になってきており、それらの特性に応えるフィルムが得られたとしても、結果として配向が発現しやすいフィルムになる場合がある。このような配向しやすい性質を有するポリイミドフィルムには、特に優れた効果を発現する。以下、ポリアミド酸有機溶媒溶液を支持体上に流延または塗布して乾燥し、自己支持性を有するまで部分的にイミド化及び/または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムであるゲルフィルムを形成する工程、前記ゲルフィルムを支持体から剥離する工程、前記ゲルフィルムの端部を固定して熱処理を施すテンター加熱工程の順に説明する。
【0036】
<ポリアミド酸有機溶媒溶液を支持体上に流延または塗布して乾燥し、自己支持性を有するまで部分的にイミド化及び/または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムであるゲルフィルムを形成する工程>
本発明のポリイミドフィルムの製造方法では、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶媒溶液を流延塗布して部分的に乾燥および/またはイミド化された自己支持性を有するが、本発明において用いられる原料モノマーは、ポリアミド酸の合成に通常用いられるジアミンおよび酸ニ無水物を使用可能である。
【0037】
芳香族ジアミンとしては本発明の効果を発現できれば特に制限されないが、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニル N-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4‘-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル等が挙げられ、これらを単独または複数併用することができる。
【0038】
また、ポリアミド酸の原料モノマーとして使用し得る酸二無水物系化合物としては本発明の効果を発現できれば特に制限されないが、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシフタル酸二無水物、3,4’-オキシフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物等が挙げられる。
【0039】
本発明では、面内配向しやすいフィルムのほうがより優れた効果を発現し、そのようなポリイミドフィルムとしてはビフェニル骨格またはターフェニル骨格構造を有するポリイミド樹脂を有するフィルムが挙げられる。その中でも、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および/または2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物と4,4'-ジアミノベンゾフェノンを含むジアミンとを原料としたポリイミド樹脂や、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および/または2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物と4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルとを原料としたポリイミド樹脂を有するフィルムを製造する場合に、優れた効果を発現する。
【0040】
本発明におけるポリアミド酸の製造方法は、公知のどうような方法も用いることが可能である。例えば、下記の工程(A-a)~(A-c)によって製造することができる。
(A-a)工程:芳香族ジアミンと、芳香族酸二無水物とを、芳香族ジアミンが過剰の状態で有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る工程、
(A-b)工程:(A-a)で用いたものとは構造の異なる芳香族ジアミンを追加添加する工程、
(A-c)工程:更に、工程(A-a)で用いたものとは構造の異なる芳香族酸二無水物を、全工程における芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物が実質的に等モルとなるように添加して重合する工程。
【0041】
または、下記の工程(B-a)~(B-c)を経ることによってポリアミド酸を得ることも可能である。
(B-a)工程:芳香族ジアミンと、芳香族酸二無水物とを、芳香族酸二無水物が過剰の状態で有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る工程、
(B-b)工程:(B-a)で用いたものとは構造の異なる芳香族酸二無水物を追加添加する工程、
(B-c)工程:更に、工程(B-a)で用いたものとは構造の異なる芳香族ジアミンを、全工程における芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物が実質的に等モルとなるように添加して重合する工程。
【0042】
任意のジアミンもしくは酸二無水物に、特定のジアミンもしくは酸二無水物が選択的に結合するように添加順序を決定する合成方法(例えば工程(A-a)~(A-c)、および(B-a)~(B-c))を本発明ではシーケンス重合と呼ぶ。これに対し、結合するジアミンと酸二無水物を投入順序で選択しない合成方法を本発明ではランダム重合と呼ぶ。
【0043】
本発明のポリアミド酸の固形分濃度は特に限定されず、通常5~35wt%、好ましくは10~30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0044】
本発明のポリアミド酸には、フィラー、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、有機滑剤(例えばワックス)等の、各種添加剤を加えることができる。
また、得られるポリイミドフィルムとしての特性を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂を混合しても良い。これら樹脂の添加方法としては、溶剤に可溶のものであればポリイミドの前駆体であるポリアミド酸に添加する方法が挙げられる。ポリイミドも可溶性のものであるなら、ポリイミド溶液に添加しても良い。溶剤に不溶のものであれば、上記非リイミドの前駆体であるポリアミド酸を先にイミド化した後、溶融混練で複合化する方法が挙げられる。但し、得られるフレキシブル金属張積層体の半田耐熱性や加熱収縮率などが悪化する可能性があるため、本発明では溶融性のあるポリイミドは使用しないことが望ましい。従って、ポリイミドと混合する樹脂は可溶性のものを用いることが望ましい。
【0045】
ポリアミド酸の製造の際に使用する有機溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができる。例えば、アミド系溶媒すなわちN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドがより好ましく用いられ得る。ポリアミド酸の固形分濃度は特に限定されず、5重量%~35重量%の範囲内であればポリイミドフィルムとした際に十分な機械強度を有するポリアミド酸が得られる。
【0046】
原料である芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物の添加順序についても特に限定されないが、原料の化学構造だけでなく、添加順序を制御することによっても、得られるポリイミドの特性を制御することが可能である。
【0047】
上記ポリアミド酸には、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0048】
得られるポリイミドフィルムとしての特性を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂を混合しても良い。これら樹脂の添加方法としては、溶剤に可溶のものであればポリイミドの前駆体であるポリアミド酸に添加する方法が挙げられる。ポリイミドも可溶性のものであるなら、ポリイミド溶液に添加しても良い。溶剤に不溶のものであれば、上記ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を先にイミド化した後、溶融混練で複合化する方法が挙げられる。但し、得られるフレキシブル金属張積層体の半田耐熱性や加熱収縮率などが悪化する可能性があるため、本発明では溶融性のあるポリイミドは使用しないことが望ましい。従って、ポリイミドと混合する樹脂は可溶性のものを用いることが望ましい。
【0049】
このようにして得られたポリアミド酸有機溶媒溶液を支持体上に流延または塗布して乾燥し、自己支持性を有するまで部分的にイミド化及び/または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムであるゲルフィルムを形成する。
【0050】
ポリイミドフィルムの製造方法においては、熱イミド化法と化学イミド化法の二つが知られている。熱イミド化法は、脱水閉環剤等を使用せず、ポリアミド酸有機溶媒溶液を製膜ドープとして支持体に流延、加熱だけでイミド化を進める方法である。一方の化学イミド化法は、ポリアミド酸有機溶媒溶液に、イミド化促進剤として脱水閉環剤及び触媒の少なくともいずれかを添加したものを製膜ドープとして使用し、イミド化を促進する方法である。どちらの方法を用いても構わないが、化学イミド化法の方が生産性に優れる。加えて本発明においては、面内配向しやすいフィルムのほうがより優れた効果を発現するため、イミド化促進剤として脱水閉環剤及び触媒の少なくともいずれかを添加したポリアミド酸有機溶媒溶液を成膜ドープとして用いる化学イミド化法を用いた場合に、より顕著な効果を発現する。化学イミド化法により製造されるポリイミドフィルムのほうが、面内配向しやすいためである。
【0051】
脱水閉環剤としては、無水酢酸に代表される酸無水物が好適に用いられ得る。触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の三級アミンが好適に用いられ得る。
【0052】
ポリアミド酸有機溶媒溶液を流延する支持体としては、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられ得る。
【0053】
なお、本発明の方法は、一つのポリアミド酸有機溶媒溶液を支持体上に流延または塗布して乾燥し、ゲルフィルムを得ることにより単層のポリイミドフィルムを製造する場合だけでなく、複数のポリアミド酸有機溶媒溶液を共押出法により支持体上に流延および/または塗布して乾燥し、多層のゲルフィルムを得ることにより多層のポリイミドフィルムを製造する方法にも適用できる。
【0054】
<前記ゲルフィルムを支持体から剥離する工程>
樹脂層を支持体上で加熱して自己支持性を持ったゲルフィルムとした後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程では、最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて加熱条件を設定し、部分的にイミド化または乾燥の少なくとも一方を行った後、支持体から剥離してポリアミド酸フィルム(以下、ゲルフィルムという)を得る。
【0055】
このようにして得られたゲルフィルムは部分的に乾燥されたものであり、溶媒を含んだものであるが、その残溶媒率は
(A-B)×100/B (%)
(式中A、Bは以下のものを表す。)
A:ゲルフィルムの重量
B:ゲルフィルムを350℃で10分間加熱した後の重量
から算出される。
【0056】
本発明においては、後に詳述するように負のボーイング現象を積極的に発生させるために、テンター加熱工程で最初にゲルフィルムが通過する第一の熱風炉の温度が比較的高い温度に設定されている。しかし、負のボーイングひずみを増大させるための手段の一つとして、ゲルフィルムの残存揮発成分量を大きくすることも有効であり、このような観点から好ましいゲルフィルムの残存揮発成分量の下限値は60%であり、さらに好ましくは70%であり、特に好ましくは80%である。ゲルフィルム中に含まれる溶媒が多いいほど、溶媒の急激な揮発による負の方向にはたらく収縮応力を増大させることができるためである。
【0057】
一方の好ましい上限値は110%であり、さらに好ましくは100%、特に好ましくは90%である。ゲルフィルムの残存揮発成分量が110%を超えると、ゲルフィルムの自己支持性が乏しく、ゲルフィルムをテンター加熱炉に搬送するやいなや伸びる、破断する等、安定的に生産できない場合がある。
【0058】
<前記ゲルフィルムの端部を固定して熱処理を施すテンター加熱工程>
続いて支持体から剥離されたゲルフィルムは、当該ゲルフィルムに適度な張力を与えつつ、テンターレールに敷設されたピンシートまたはクリップでその両端を把持し、テンター加熱工程へ搬送する。本発明のテンター加熱工程では、フィルムの長手方向に連結された少なくとも3以上からなる複数の炉が配置された加熱炉により熱処理が施される。加熱炉は、2以上の熱風炉が配置された熱風加熱ゾーンと、熱風加熱ゾーンに続いて配置される1以上の輻射熱線ヒーター炉が配置された輻射熱線加熱ゾーンにより構成されている。この工程では、複数の炉にて段階的に加熱することによってゲルフィルム中の残存揮発成分の揮発およびイミド化反応を完結させる。
【0059】
テンター加熱工程では、残溶媒の揮発による収縮、イミド化反応による剛性の増加、高温にさらされることによる剛性の低下が協奏的に作用し、加熱ゾーンごとに様々な伸縮挙動を生じていると考えられる。このようなテンター加熱工程でフィルムの配向にも影響を与えうる様々な因子についての仮説・検証を経て、本発明においては、テンター加熱工程で最初にゲルフィルムが通過する第一の熱風炉の温度を270~360℃の範囲に設定した。
【0060】
従来から、ポリイミドフィルムの製造工程において発生する所謂ボーイング現象がポリイミドフィルムの幅方向の配向異方性に関係することが知られており、特に端部における斜めおよそ45°方向の配向が問題になっていた。そしてボーイング現象を可能な限り抑制するためには、ポリアミド酸有機溶媒溶液を支持体上に流延または塗布して乾燥してゲルフィルムを得た後、ゲルフィルムの幅方向両端を把持して加熱炉へ搬送し加熱する際の最初の加熱は緩やかであったほうがよい、すなわち、支持体上での加熱と加熱炉での初期加熱温度との差はあまり大きくない方がよいという考えが主流であった。それゆえ例えば特許文献1では、加熱炉へ搬送した際の最初の加熱温度は、支持体上での雰囲気温度+100℃以下であり、かつ150~250℃となるよう制御している。これは、残存揮発成分を含んだゲルフィルムのテンター加熱炉における急激な収縮を抑制しようとするものだと考えられる。
【0061】
しかし本発明ではそれとは逆に、テンター加熱工程で最初にゲルフィルムが通過することになる第一の熱風炉の温度は高めに設定している。従来の考え方を採れば、ゲルフィルムが急に高温にさらされれば、配向がより進むので避けるべき手段であるところ、本発明では、ゲルフィルムの両端を固定して加熱炉を搬送するテンター加熱工程の前半では負のボーイング現象が、イミド化を完結させるためにより高温にフィルムがさらされるテンター加熱工程の後半に行くにつれて正のボーイング現象が生じるとの仮定のもと、負のボーイングひずみと正のボーイングひずみを相殺させるように加熱炉の各炉の温度パターンを設定しているので、後に発生する正のボーイング現象を予め加味して、むしろ第一の炉では積極的に負のボーイングひずみを発生させるという技術思想に基づくためである。従って本発明は、むしろ溶媒の揮発に伴う収縮応力とポリアミド酸からポリイミドへの化学反応に伴う硬化収縮を発生させるべく、テンター加熱工程での最初の加熱は高温に設定している。
【0062】
また、テンター加熱工程においてフィルムが高温にさらされた場合貯蔵弾性率が低下することは、例えば特許文献2でも明らかにされているが、これを正のボーイング現象の発生原因と関連づけて考察し、これと前述のテンター加熱工程前半で発生する負のボーイング現象と相殺させるという技術思想は、従来にはないもので本発明者らが独自に見出したものである。
【0063】
負のボーイングを増大させるための具体的手段としては、前出のゲルフィルムを支持体から剥離する工程で述べたとおり、ゲルフィルムの残揮残存揮発成分量を大きくする方法の他、前記第一の熱風炉の温度を上げるなどの手段が効果的であるが、他の物性への影響を鑑みると特に第一の熱風炉の温度を高温にすることが有効である。第一の熱風炉の温度を高温にすることが有効な理由は、ゲルフィルム中に含まれる溶媒が急激に揮発することで負の方向にはたらく揮発に伴う収縮応力を増大させることができるためである。
【0064】
第一加熱ゾーンにおいては残溶媒の揮発によるフィルムの収縮と、イミド化の進行によるフィルムの硬化すなわち剛性の増加が支配的と考えられ、後半に向かってフィルム中央部が引っ張られる負のボーイングが生じていると考えられる。
【0065】
フィルムの収縮により発生させる負のボーイングが不十分であり、360℃を超えるとイミド化の進行が不十分なまま残溶媒が揮発してしまうため得られるフィルムのイミド化率が不十分になり十分な機械強度が担保できなくなる傾向にある。また、本発明のテンター加熱工程での最低温度が270℃以上である。なお、本発明において加熱炉内に設置された炉の温度とは、熱風炉であっても輻射熱線ヒーター炉であっても雰囲気温度のことを言う。
【0066】
本発明において加熱炉は、前記第一の熱風炉を含め2以上の熱風炉が配置された熱風加熱ゾーンと、熱風加熱ゾーンに続いて配置される1以上の輻射熱線ヒーター炉が配置された輻射熱線加熱ゾーンにより構成されており、複数の炉により段階的に加熱を行うが、熱風加熱ゾーンに配置された互いに隣接する各熱風炉同士の温度差を100℃以下とすることが更に本件発明の効果が高まるため望ましい。好ましくは温度差が70℃以下であり、より好ましくは50℃以下であり、さらに好ましくは30℃以下である。第一の熱風炉で負のボーイングひずみを発生させた後は、続く第二の熱風炉以降においてはフィルムが高温にさらされることによる剛性の低下が支配的と考えられ、中央部が端部に対して遅れる正のボーイング(比較的剛性が保持されると考えられる手前の炉に向かってフィルム中央部が引っ張られる現象)が生じていると考えられる。この正のボーイングひずみは避けられないものであるため、第二の熱風炉以降は隣接する炉同士の温度差を小さくすることによって、正のボーイングを負のボーイングひずみと釣り合うようにコントロールする。すなわち、極度に正のボーイングが増大することを抑制するのである。
【0067】
また正のボーイングを減少させるためには、加熱炉内に配置された複数の炉において後半の温度を比較的低温に設定することが有効である。そして、段階的に加熱する際の最高温度を330~420℃とする点にも本発明の特徴がある。本発明のポリイミドフィルムの製造法においては、熱風加熱ゾーンに続いて配置される1以上の輻射熱線ヒーター炉が配置された輻射熱線加熱ゾーンにより、最高温度による加熱を行うことができる。従って、輻射熱線ヒーターにおける最高温度が330~420℃であることが好ましい。このように最高温度を330~420℃と低めに設定することが最も有効な理由は、フィルムの弾性率が下がりすぎることなく搬送できるためである。好ましくは最高温度は330~390℃、さらに好ましくは330~360℃である。
【0068】
このように段階的に加熱し、最終的に最高温度で加熱されたのち、徐冷ゾーンを経てテンター加熱工程は完了し最終的にポリイミドフィルムを得る。この最高温度での加熱によりほぼポリイミドへの転化は完了しているが、高温にさらされるため、フィルムはもはや弾性ではなく、粘弾性挙動を示すものと考えられる。
【0069】
本発明のテンター加熱工程において用いる加熱炉のより好ましい例を以下に示す。まず、熱風加熱ゾーンにおける熱風炉の数は効率的な加熱を行うという点から少なくとも2以上であることが必要であるが、3つの熱風炉からなることが好ましい。もちろん4以上の熱風炉から構成されることを妨げない。また、輻射熱線加熱ゾーンにおける輻射熱線ヒーター炉の数は少なくとも1以上であることが必要であるが、2つの輻射熱線ヒーター炉からなることが好ましい。もちろん、3以上の輻射熱線ヒーター炉から構成されることを妨げない。輻射熱線ヒーター炉は遠赤外線ヒーター炉であることが好ましい。
【0070】
なお、配向異方性を抑制するという観点からは、加熱炉内に配置される熱風炉および輻射熱線ヒーター炉のすべてにおいて、隣接する炉同士の温度差を小さくすることが好ましいのであるが、フィルムの基本的な特性を満足させるという観点からは、熱風加熱ゾーンと輻射熱線加熱ゾーンとの間にある程度の温度差を設けてもよい。ただし、輻射熱線加熱ゾーンにおいて2以上の輻射熱線ヒーター炉が配置される場合には、互いに隣接する各輻射熱線ヒーター炉同士の温度差が70℃以下となっていることが好ましい。
【0071】
以下では、テンター加熱工程における加熱炉の最も好ましい構成である3つの熱風炉からなる熱風ゾーンと、2つの輻射熱線ヒーター炉からなる輻射熱線加熱ゾーンを配置した場合を例に挙げ、より好ましい加熱方法について詳述する。
【0072】
3つの熱風炉からなる熱風加熱ゾーンは、第一の熱風炉、第一の熱風炉に隣接する第二の熱風炉および第二の熱風炉に隣接する第三の熱風炉と表現する。
【0073】
一つの好ましい熱風ゾーンの例は、第一の熱風炉の温度は290~310℃となっており、第二の熱風炉の温度は340~360℃となっており、かつ第三の熱風炉の温度は340~360℃となっている。また、この例において、第一の熱風炉と第二の熱風炉の温度差は50℃以下であることが好ましく、また第二の熱風炉と第三の熱風炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0074】
別の好ましい例は、第一の熱風炉の温度は270~290℃となっており、第二の熱風炉の温度は290~310℃となっており、かつ第三の熱風炉の温度は340~360℃となっている。また、この例において、第一の熱風炉と第二の熱風炉の温度差は50℃以下であることが好ましく、また第二の熱風炉と第三の熱風炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0075】
別の好ましい例は、第一の熱風炉の温度は270~290℃となっており、第二の熱風炉の温度は290~310℃となっており、かつ第三の熱風炉の温度は290~310℃となっている。また、この例において、第一の熱風炉と第二の熱風炉の温度差は50℃以下であることが好ましく、また第二の熱風炉と第三の熱風炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0076】
別の好ましい例は、第一の熱風炉の温度は290~310℃となっており、第二の熱風炉の温度は290~310℃となっており、かつ第三の熱風炉の温度は290~310℃となっている。また、この例において、第一の熱風炉と第二の熱風炉の温度差は50℃以下であることが好ましく、また第二の熱風炉と第三の熱風炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0077】
別の好ましい例は、第一の熱風炉の温度は310~330℃となっており、第二の熱風炉の温度は290~310℃となっており、かつ第三の熱風炉の温度は290~310℃となっている。また、この例において、第一の熱風炉と第二の熱風炉の温度差は50℃以下であることが好ましく、また第二の熱風炉と第三の熱風炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0078】
また別の好ましい例は、第一の熱風炉の温度は340~360℃となっており、第二の熱風炉の温度は290~310℃となっており、かつ第三の熱風炉の温度は290~310℃となっている。また、この例において、第一の熱風炉と第二の熱風炉の温度差は50℃以下であることが好ましく、また第二の熱風炉と第三の熱風炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0079】
また別の好ましい例は、第一の熱風炉の温度は270~310℃となっており、第二の熱風炉の温度は370~390℃となっており、かつ第三の熱風炉の温度は250~370℃となっている。また、この例において、第一の熱風炉と第二の熱風炉の温度差は50℃以下であることが好ましく、また第二の熱風炉と第三の熱風炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0080】
2つの輻射熱線ヒーター炉からなる輻射熱線加熱ゾーンを、第一の輻射熱線ヒーター炉、第一の輻射熱線ヒーター炉に隣接する第二の輻射熱線ヒーター炉と表現する。
【0081】
次に、一つの好ましい輻射熱線加熱ゾーンの例は、第一の輻射熱線ヒーター炉の温度は340~390℃となっており、第二の輻射熱線ヒーター炉の温度は340~390℃となっている。また、この例において、第一の輻射熱線ヒーター炉と第二の輻射熱線ヒーター炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0082】
また別の好ましい輻射熱線加熱ゾーンの例は、第一の輻射熱線ヒーター炉の温度は330~380℃となっており、第二の輻射熱線ヒーター炉の温度は370~420℃となっている。また、この例において、第一の輻射熱線ヒーター炉と第二の輻射熱線ヒーター炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0083】
さらに別の好ましい輻射熱線加熱ゾーンの例は、第一の輻射熱線ヒーター炉の温度は370~420℃となっており、第二の輻射熱線ヒーター炉の温度は330~380℃となっている。また、この例において、第一の輻射熱線ヒーター炉と第二の輻射熱線ヒーター炉の温度差は30℃以下であることが好ましい。
【0084】
以上、詳細に説明したようにポリイミドフィルムの製造過程において、ポリイミドフィルムは様々な熱履歴を受けるため、ゾーン毎でボーイングによる変形は刻々と変化するものである。
【0085】
本発明では、各加熱炉におけるボーイングひずみの向きと大きさをコントロールすることが配向異方性を抑制するためには肝要であることを見出し、これらが最終的に相殺するように各加熱炉の温度を制御することで、端部に生じる強い配向異方性を改善できることを見出した。
【0086】
以上のような考え方のもと、テンター加熱工程での加熱炉内に配置される各炉の温度を設定しているので、本発明の効果は正のボーイングひずみが大きいと想定されるポリイミドフィルムの製造に、より優れた効果を発現する。加熱炉内前半の比較的低温な状態における弾性率は高く、加熱炉内後半に進むにつれ温度が上昇すると弾性率は低下する傾向にある。搬送方向において生じたこのような弾性率の差によって、弾性率が低下した下流側のフィルムが弾性率が高く維持された上流側のフィルムに引っ張られるように力をうけるため、中央部が端部に対して遅れるボーイング現象が発生するためである。そのようなフィルムの例としては、最終的に得られるポリイミドフィルムの動的粘弾性を測定した場合の350℃における貯蔵弾性率が0.5GPa以下であるポリイミドフィルムが挙げられ、0.3GPa以下であるポリイミドフィルムであるとより優れた効果を発現し、0.2GPa以下であるとさらに優れた効果を発現する。正のボーイングひずみが大きいと想定されるフィルムでは、これを相殺するために負のボーイングを増大させる、ならびに正のボーイングをできるだけ抑制することにより、得られるフィルムの配向異方性を抑制することが可能となる。
【0087】
また、本発明の製造方法は、面内配向しやすいフィルムのほうがより優れた効果を発現し、そのようなポリイミドフィルムとしてはビフェニル骨格またはターフェニル骨格構造を有するポリイミド樹脂を有するフィルムが挙げられる。
【実施例
【0088】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
なお、合成例、実施例及び比較例におけるポリイミドフィルムのMOR-cの評価方法は次の通りである。
【0090】
(ポリイミドフィルムのMOR-cの評価方法)
実施例並びに比較例で得られたポリイミドフィルムを中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置から、50mm×50mmの大きさにフィルムを切りだし、分子配向状態を評価した。該測定装置には王子計測器(株)製のマイクロ波分子配向計MOA-6015Aを用いてMOR-cを求めた。ここで、MOR-cは、得られる分子配向度MORを試験片の厚みに換算した値である。得られた結果を表1に示す。
【0091】
(貯蔵弾性率の測定)
得られた接着層の単層フィルムを用いて、SIIナノテクノロジー社製 DDMS6100により空気雰囲気下にて動的粘弾性を測定し、測定温度に対して貯蔵弾性率、損失弾性率をプロットしたグラフを作成し、当該グラフから、350℃における貯蔵弾性率、損失弾性率を読み取った。
・サンプル測定範囲;幅9mm、つかみ具間距離20mm
・測定温度範囲;0℃~440℃
・昇温速度;3℃/分
・歪み振幅;10μm
・測定周波数;5Hz
・最小張力/圧縮力;100mN
・張力/圧縮ゲイン;1.5
・力振幅初期値;100mN
【0092】
(合成例1)
N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)1785.0kgに、p-フェニレンジアミン(以下、PDAともいう)を72.1kgと、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Rともいう)を26.5kg加えて5分間攪拌したのち、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAともいう)176.4kgを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAともいう)30.8kgを徐々に添加し、30分攪拌した。最後に、3.8kgのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリアミド酸溶液を得た。
【0093】
(合成例2)
DMF1892.0kgに、TPE-R120.0kgと4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(以下、m-TBともいう)37.4kgを添加し、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDA86.4kgを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視確認した後、PMDA41.0kgを添加し30分間攪拌を行った。3.8gのPMDAを固形分濃度7.2%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加し、粘度が800ポイズに達した時点で重合を終了した。
【0094】
(比較例1)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で120℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、180秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が62%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して200℃の第一の熱風炉にて23秒、350℃の第二の熱風炉にて22秒、350℃の第三の熱風炉にて18秒加熱した。その後、390℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて23秒、390℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて22秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。多層ポリイミドフィルムの貯蔵弾性率の0.2GPaであった。
【0095】
(比較例2)
第一の熱風炉の温度が230℃であること以外は、比較例1と同様の方法で厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は本比較例では63%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0096】
(実施例1)
第一熱の風炉の温度が280℃であること以外は比較例1と同様の方法で厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は本実施例では63%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。多層ポリイミドフィルムの貯蔵弾性率の0.2GPaであった。
【0097】
(実施例2)
第一の熱風炉の温度が300℃であること以外は比較例1と同様の方法で厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は本比較例では63%であた得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0098】
(実施例3)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で100℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、180秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が98%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して300℃の第一の熱風炉にて23秒、300℃の第二の熱風炉にて22秒、300℃の第三の熱風炉にて18秒加熱した。その後、400℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて23秒、380℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて22秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0099】
(実施例4)
第二の熱風炉の温度が350℃、第三の熱風炉が380℃であること以外は実施例3と同様の方法で厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では99%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0100】
(実施例5)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で120℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、180秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が62%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して280℃の第一の熱風炉にて23秒、350℃の第二の熱風炉にて22秒、350℃の第三の熱風炉にて18秒加熱した。その後、390℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて23秒、390℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて22秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0101】
(実施例6)
第二熱風炉の温度が380℃であること以外は実施例5と同様の方法で厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では61%であった。
【0102】
(参考例1)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で120℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、180秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が62%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して200℃の第一の熱風炉にて23秒、350℃の第二の熱風炉にて22秒、350℃の第三の熱風炉にて18秒加熱した。その後、370℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて23秒、370℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて22秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0103】
(参考例2)
第一の遠赤外線ヒーター炉の温度が420℃、第二の遠赤外線ヒーター炉の温度が420℃であること以外は参考例1と同様の方法で厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では61%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0104】
(実施例7)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で90℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、240秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が81%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して300℃の第一の熱風炉にて31秒、300℃の第二の熱風炉にて29秒、300℃の第三の熱風炉にて24秒加熱した。その後、350℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて37秒、350℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて36秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0105】
(実施例8)
第一の遠赤外線ヒーター炉の温度が370℃、第二の遠赤外線ヒーター炉の温度が370℃であること以外は実施例7と同様の方法で、厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では80%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0106】
(実施例9)
第一の遠赤外線ヒーター炉の温度が390℃、第二の遠赤外線ヒーター炉の温度が390℃であること以外は実施例7と同様の方法で、厚みが4μm/17μm/4μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では82%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0107】
(実施例10)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で150℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、320秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が60%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して280℃の第一の熱風炉にて41秒、300℃の第二の熱風炉にて39秒、300℃の第三の熱風炉にて32秒加熱した。その後、370℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて48秒、370℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて47秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが8μm/34μm/8μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0108】
(実施例11)
第三の熱風炉の温度が350℃であること以外は実施例10と同様の方法で、厚みが8μm/34μm/8μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では60%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0109】
(実施例12)
第三の熱風炉の温度が380℃であること以外は実施例10と同様の方法で、厚みが8μm/34μm/8μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では60%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0110】
(実施例13)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で120℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、320秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が70%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して280℃の第一の熱風炉にて41秒、300℃の第二の熱風炉にて39秒、300℃の第三熱風炉にて32秒加熱した。その後、370℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて48秒、370℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて47秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが8μm/34μm/8μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0111】
(実施例14)
第一の熱風炉の温度が300℃であること以外は実施例13と同様の方法で、厚みが8μm/34μm/8μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では70%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0112】
(実施例15)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で90℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、480秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が99%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して300℃の第一の熱風炉にて62秒、300℃の第二の熱風炉にて58秒、300℃の第三の熱風炉にて48秒加熱した。その後、380℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて73秒、350℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて73秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが8μm/34μm/8μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0113】
(実施例16)
第一の熱風炉の温度が320℃であること以外は実施例15と同様の方法で、厚みが8μm/34μm/8μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では91%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0114】
(実施例17)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で100℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、480秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が80%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して300℃の第一の熱風炉にて62秒、300℃の第二の熱風炉にて58秒、300℃の第三の熱風炉にて48秒加熱した。その後、380℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて73秒、380℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて73秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが8μm/34μm/8μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0115】
(実施例18)
第一の熱風炉の温度が320℃であること以外は実施例17と同様の方法で、厚みが8μm/34μm/8μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では81%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0116】
(実施例19)
3層共押出三層ダイを用いて、合成例2で得られたポリアミド酸溶液/合成例1で得られたポリアミド酸溶液/合成例2で得られたポリアミド酸溶液の順の3層構造で90℃のエンドレスベルトへ流延塗布し、120秒間加熱・乾燥させることによりゲルフィルムの残存揮発成分量が73%の自己支持性を有するゲルフィルムを形成した。この際、合成例1で得られたポリアミド酸溶液には三層ダイに投入する直前に、このポリアミド酸100gに対して、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比303/153/144)からなる硬化剤(化学脱水剤およびイミド化触媒)を40g添加し、ミキサーで混合した。その後、自己支持性を有するゲルフィルムを支持体から引き剥がし、横方向両端をテンターで固定して300℃の第一の熱風炉にて16秒、300℃の第二の熱風炉にて15秒、300℃の第三の熱風炉にて12秒加熱した。その後、350℃の第一の遠赤外線ヒーター炉にて19秒、350℃の第二の遠赤外線ヒーター炉にて18秒加熱したのち徐冷ゾーンおよび端部スリット工程を経て、幅2150mm、厚みが2μm/8.5μm/2μmの多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0117】
(実施例20)
第一の遠赤外線ヒーター炉の温度が370℃、第二の遠赤外線ヒーター炉の温度が370℃であること以外は実施例19と同様の方法で、厚みが2μm/8.5μm/2μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では73%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0118】
(実施例21)
第一の遠赤外線ヒーター炉の温度が400℃、第二の遠赤外線ヒーター炉の温度が380℃であること以外は実施例19と同様の方法で、厚みが2μm/8.5μm/2μmの多層ポリイミドフィルムを得た。ただし、ゲルフィルムの残存揮発成分量は、本実施例では74%であった。得られた多層ポリイミドフィルムの中央部、左端から70mmの位置および右端から70mmの位置におけるMOR-cを表1に示す。
【0119】
表1における比較例1および2ならびに実施例1~21の結果から、第一の熱風炉の温度が270~360℃と比較的高くなると、得られる多層ポリイミドフィルムの分子配向が優れることがわかる。これは、第一熱風炉の温度を高くすることで負のボーイングを大きくでき、正のボーイングを相殺できたためと考えられる。
【0120】
また、表1における実施例3と実施例4の結果、および実施例5と実施例6の結果から、隣接する熱風炉同士の温度差が小さく、特に第二の熱風炉の温度が低いと、得られる多層ポリイミドフィルムの分子配向が優れることがわかる。これは、第二の熱風炉で発生する正のボーイングを小さくできたためと考えられる。
【0121】
さらに、表1における実施例10、実施例11、実施例12の結果から、隣接する熱風炉同士の温度差が小さく、特に第三の熱風炉の温度が低いと、得られる多層ポリイミドフィルムの分子配向が優れることがわかる。これは、第三熱風炉で発生する正のボーイングを小さくできたためと考えられる。
【0122】
さらに、表1における実施例7、実施例8、実施例9の結果から、最高温度に設定される遠赤外線ヒーター炉の温度が低いほど、得られる多層ポリイミドフィルムの分子配向が優れることがわかる。表1における実施例19、実施例20の結果、実施例21の結果からも同様のことがわかる。これは、最高温度に設定される遠赤外線ヒーター炉の温度を低くすることで、当該炉内で発生する正のボーイングを小さくできたためと考えられる。なお、参考例1と参考例2の結果から、この最高温度に設定される温度を低くすることによる、フィルムの配向異方性の改善効果が端的に確認できる。
【表1】