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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/067 20060101AFI20240919BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240919BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
F16C35/067
F16C19/06
F16C33/58
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020181352
(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公開番号】P2022072100
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 隼人
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊樹
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-213471(JP,A)
【文献】特開2008-008434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/067
F16C 19/06
F16C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸(1)と、
前記軸(1)の外周を取り囲むハウジング(2)と、
前記軸(1)と前記ハウジング(2)との間でラジアル荷重を支持する転がり軸受(3)と、を備え、
前記転がり軸受(3)が、周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の転動体(7)と、前記軸(1)と前記ハウジング(2)のうちのいずれか一方である相手部材とすきまばめされる軌道輪を有し、
前記軌道輪と前記相手部材は、互いに嵌まり合う単一の円筒状のはめあい面を有する軸受装置において、
前記軌道輪と前記相手部材のうちの一方の部材には、その部材が有する前記単一の円筒状のはめあい面を周方向に分断するようにそのはめあい面の軸方向全幅にわたって延びる逃げ面(17)が周方向に間隔をおいて2つ以上形成され、
それぞれの前記逃げ面(17)の周方向長さに対応する角度αが、周方向に隣り合う前記転動体(7)のピッチ角度θの0.5倍以上となるように前記各逃げ面(17)が形成され、
前記逃げ面(17)は、前記軌道輪に形成され、
前記軌道輪は、外輪(6)であり、
前記相手部材は、前記ハウジング(2)であり、
前記逃げ面(17)は、前記外輪(6)が有する前記はめあい面(16)の径方向位置よりも径方向内側を通るように形成された凸円弧状の曲面であることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記逃げ面(17)は、前記外輪(6)の外周に周方向に等間隔に3つ以上6つ以下の範囲で設けられている請求項に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記逃げ面(17)の周方向の両端が、前記外輪(6)が有する前記はめあい面(16)と滑らかに接続している請求項1または2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記逃げ面(17)は、前記転がり軸受(3)に最大ラジアル荷重が負荷された場合にも、前記逃げ面(17)と前記ハウジング(2)が有する前記はめあい面(15)とが接触せずに両者の間に径方向隙間(18)が確保されるように形成されている請求項1から3のいずれかに記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸とハウジングの間にラジアル荷重を支持する転がり軸受を組み込んだ軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のトランスミッションの軸は、ハウジングに嵌め込まれた転がり軸受で支持される。この転がり軸受は、軸の外周に嵌合する内輪と、内輪の径方向外側に同軸に配置される外輪と、内輪と外輪の間に組み込まれる複数の転動体とを有する。
【0003】
ここで、トランスミッションの軸を支持する転がり軸受においては、ハウジングに対する転がり軸受の組み付け作業を容易にするために、通常、ハウジングに対して外輪がすきまばめされる。すなわち、外輪の外周の円筒状のはめあい面の外径寸法が、常に、ハウジングの内周の円筒状のはめあい面の内径寸法よりも小さくなるように寸法公差が設定される。
【0004】
一方、ハウジングに外輪をすきまばめした場合、軸から内輪にラジアル荷重を負荷した状態で軸を回転させると、ハウジングに対して外輪が次第に回転する現象(クリープ現象)が生じることがある。
【0005】
このクリープ現象のメカニズムの一つとして、次のものが知られている。すなわち、軸から内輪にラジアル荷重が負荷されると、そのラジアル荷重が、転動体を介して外輪に伝達し、外輪が波形に変形する。この状態で内輪が回転すると、転動体が転がりながら周方向に移動するので、外輪の波形の変形も周方向に移動し、その外輪の変形が進行波を形成する。そして、その進行波によって、外輪の外周のはめあい面とハウジングの内周のはめあい面との間で微小なすべりが生じ、その微小なすべりが累積することでクリープ現象が生じる。
【0006】
同様に、内輪に軸をすきまばめした場合にも、内輪と軸の間でクリープ現象が生じることがある。
【0007】
このクリープ現象を抑制するため、既に、本願の発明者は、特許文献1の図1に示される軸受装置を提案している。この軸受装置は、軸と、軸の外周を取り囲むハウジングと、軸とハウジングとの間でラジアル荷重を支持する転がり軸受とを有する。転がり軸受の外輪は、ハウジングにすきまばめされている。そして、その外輪とハウジングの間でクリープ現象が生じるのを抑制するため、外輪の外周の1箇所に、外輪の外周の円筒状のはめあい面を周方向に分断する逃げ面を形成している。
【0008】
この軸受装置は、外輪の外周に、円筒状のはめあい面を周方向に分断する逃げ面が形成されているので、その逃げ面によって、外輪の波形の変形が進行波としてハウジングに伝わるのを遮断することができ、クリープ現象を抑制することができる。
【0009】
例えば、水平に配置した軸を転がり軸受で支持し、鉛直下向きのラジアル荷重が軸から内輪に負荷された状態で軸が回転するとき、ハウジングと外輪の円筒状のはめあい面のうち、軸の鉛直下側の180°未満の所定の中心角に対応する範囲が荷重負荷域となる。
【0010】
そして、この荷重負荷域に外輪の外周の逃げ面が位置するように転がり軸受を組み付けたときは、荷重負荷域において外輪の外周とハウジングの内周とが非接触となるため、外輪の波形の変形が進行波としてハウジングに伝わるのを遮断することができ、クリープ現象が抑制される。一方、荷重負荷域から外れた領域(例えば、ハウジングと外輪の円筒状のはめあい面のうち、軸の鉛直上側の範囲)に、外輪の外周の逃げ面が位置するように転がり軸受を組み付けたときは、組み付けの直後、軸の鉛直下側の荷重負荷域において、外輪の外周とハウジングの内周とが接触し、外輪の波形の変形が進行波としてハウジングに伝わることで、一旦、クリープ現象が発生するが、そのクリープ現象で外輪が次第に回転し、外輪の外周の逃げ面が荷重負荷域に到達した後は、荷重負荷域において外輪の外周とハウジングの内周とが非接触となるため、外輪の波形の変形が進行波としてハウジングに伝わるのが遮断され、外輪はそれ以上回転しなくなり、クリープ現象がおさまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2020-45987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願の発明者は、特許文献1の図1のように転がり軸受の外輪の外周に逃げ面を1箇所だけ設けた場合、上述のように、転がり軸受を、外輪の外周の逃げ面が荷重負荷域に位置するように組み付けても、また外輪の外周の逃げ面が荷重負荷域から外れた領域に位置するように組み付けても、その組み付けの向きによらず、クリープ現象を抑制することができると考えていたが、実際には、クリープ現象が抑制されないケースがあることが分かった。そして、その原因を調査検討したところ、転がり軸受の荷重負荷域が変動する場合に、クリープ現象が抑制されないことが分かった。
【0013】
すなわち、転がり軸受に負荷されるラジアル荷重の方向が一定ではなく、常に変動する場合がある。典型的には、転がり軸受に負荷される荷重が回転荷重である場合(転がり軸受に負荷されるラジアル荷重の方向が回転する場合)である。この場合、転がり軸受の荷重負荷域が常に移動するので、特許文献1の図1のように、外輪の外周に逃げ面を1箇所だけ設けた転がり軸受を使用すると、荷重負荷域の移動に伴い、荷重負荷域が逃げ面の位置に重なったときは、外輪の波形の変形が進行波としてハウジングに伝わるのを遮断することができるが、荷重負荷域が逃げ面の位置から外れている間は、外輪の波形の変形が進行波としてハウジングに伝わり、クリープ現象が生じることとなる。そして、このクリープ現象によって外輪の外周の逃げ面がいずれの位置まで移動しても、荷重負荷域が常に移動するので、結局、クリープ現象はおさまらない。つまり、回転荷重が転がり軸受に負荷される場合のように、転がり軸受の荷重負荷域が常に移動する場合、特許文献1の図1のように、転がり軸受の外輪の外周に1箇所の逃げ面を設けたのでは、クリープ現象を抑制することができないことが分かった。
【0014】
この発明が解決しようとする課題は、転がり軸受に負荷されるラジアル荷重の方向が変動する場合においても効果的にクリープ現象を抑制することが可能な軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の軸受装置を提供する。
軸と、
前記軸の外周を取り囲むハウジングと、
前記軸と前記ハウジングとの間でラジアル荷重を支持する転がり軸受と、を備え、
前記転がり軸受が、前記軸と前記ハウジングのうちのいずれか一方である相手部材とすきまばめされる軌道輪を有し、
前記軌道輪と前記相手部材は、互いに嵌まり合う円筒状のはめあい面を有する軸受装置において、
前記軌道輪と前記相手部材のうちの一方の部材には、その部材が有する前記はめあい面を周方向に分断するようにそのはめあい面の軸方向全幅にわたって延びる逃げ面が周方向に間隔をおいて2つ以上形成されていることを特徴とする軸受装置。
【0016】
このようにすると、軌道輪とその軌道輪がすきまばめされる相手部材とのうちの一方の部材に、2つ以上の逃げ面が周方向に間隔をおいて形成されているので、回転荷重が転がり軸受に負荷される場合のように、転がり軸受に負荷されるラジアル荷重の方向が変動する場合においても、軌道輪の波形の変形が進行波として相手部材に伝わりにくく、効果的にクリープ現象を抑制することが可能である。
【0017】
前記逃げ面は、前記軌道輪に形成することができる。すなわち、前記軌道輪に、前記軌道輪が有する前記はめあい面を周方向に分断するようにそのはめあい面の軸方向全幅にわたって延びる逃げ面を周方向に間隔をおいて2つ以上形成することができる。
【0018】
さらに、前記相手部材は、前記ハウジングであり、前記軌道輪は、外輪である構成を採用することができる。すなわち、前記転がり軸受が、前記ハウジングとすきまばめされる外輪を有し、前記外輪と前記ハウジングは、互いに嵌まり合う円筒状のはめあい面を有し、前記外輪には、外輪が有する前記はめあい面を周方向に分断するようにそのはめあい面の軸方向全幅にわたって延びる逃げ面が周方向に間隔をおいて2つ以上形成されている構成を採用することができる。
【0019】
前記逃げ面は、前記外輪の外周に周方向に等間隔に3つ以上6つ以下の範囲で設けると好ましい。
【0020】
前記逃げ面を、前記外輪の外周に周方向に等間隔に3つ以上設けると、転がり軸受に負荷されるラジアル荷重の方向が変動し、荷重負荷域が常に移動する場合にも、常にその荷重負荷域にいずれかの逃げ面が入る状態を保つことができ、効果的にクリープ現象を抑制することが可能となる。また、前記外輪の外周に周方向に等間隔に設ける逃げ面を6つ以下とすることにより、1つあたりの逃げ面の周方向長さを確保することができるので、外輪の波形の変形が進行波としてハウジングに伝わるのを効果的に遮断することが可能となる。
【0021】
前記逃げ面は、平面状のものや凹円弧状のものを採用することも可能であるが、前記外輪が有する前記はめあい面の径方向位置よりも径方向内側を通るように形成された凸円弧状の曲面を採用すると好ましい。
【0022】
このようにすると、外輪の外周に形成する逃げ面として平面状のものを採用したり、凹円弧状のものを採用したりした場合よりも、逃げ面を形成することによる外輪の径方向の肉厚の減少を抑えることができ、ラジアル荷重が負荷されたときの外輪のたわみを抑えることが可能となる。
【0023】
逃げ面の周方向の両端は、前記外輪が有する前記はめあい面と滑らかに接続している構成を採用すると好ましい。
【0024】
このようにすると、外輪の逃げ面がはめあい面と滑らかに接続しているので、外輪の逃げ面とはめあい面の接続部が、ハウジングのはめあい面を攻撃することで過大な面圧が生じるのを防止することができる。
【0025】
前記逃げ面は、前記転がり軸受に最大ラジアル荷重が負荷された場合にも、前記逃げ面と前記ハウジングが有する前記はめあい面とが接触せずに両者の間に径方向隙間が確保されるように形成すると好ましい。
【0026】
このようにすると、転がり軸受に負荷されるラジアル荷重が大きいときにも、確実にクリープ現象を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
この発明の軸受装置は、軌道輪とその軌道輪がすきまばめされる相手部材とのうちの一方の部材に、2つ以上の逃げ面が周方向に間隔をおいて形成されているので、回転荷重が転がり軸受に負荷される場合のように、転がり軸受に負荷されるラジアル荷重の方向が変動する場合においても、軌道輪の波形の変形が進行波としてハウジングに伝わりにくく、効果的にクリープ現象を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】この発明の実施形態にかかる軸受装置を示す部分断面図
図2図1のII-II線に沿った断面図
図3図1に示す軸受装置から取り出した外輪を示す部分断面図
図4図3の逃げ面の近傍の拡大図
図5図1に示す転がり軸受に鉛直上向きのラジアル荷重が負荷された状態を示す図
図6】転がり軸受に負荷されるラジアル荷重の向きが図5に示す向きから回転した状態を示す図
図7】この発明の他の実施形態にかかる軸受装置を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1図2に、この発明の実施形態にかかる軸受装置を示す。この軸受装置は、軸1と、軸1の外周を取り囲むハウジング2と、軸1とハウジング2との間でラジアル荷重を支持する転がり軸受3とを有する。
【0030】
軸1は、図示しない回転駆動源(自動車のエンジン等)から回転が入力される回転軸である。一方、ハウジング2は、非回転の固定部材である。ハウジング2には、円筒状のハウジング穴4が形成され、そのハウジング穴4に転がり軸受3が組み込まれている。
【0031】
転がり軸受3は、軸1の外周に嵌合する内輪(内側の軌道輪)5と、内輪5の径方向外側に同軸に配置される外輪(外側の軌道輪)6と、内輪5と外輪6の間に周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の転動体7と、その複数の転動体7の周方向間隔を保持する保持器8とを有する。転動体7は玉である。
【0032】
図2に示すように、内輪5の外周には、転動体7が転がり接触する内輪軌道溝9と、内輪軌道溝9の軸方向の両側に位置する内輪肩部10とが形成されている。外輪6の内周にも、転動体7が転がり接触する外輪軌道溝11と、外輪軌道溝11の軸方向の両側に位置する外輪肩部12とが形成されている。内輪軌道溝9と外輪軌道溝11は、いずれも断面円弧状の溝である。
【0033】
内輪5は、軸1の外周にしまりばめされている。すなわち、内輪5は、内輪5の内周に形成された円筒状のはめあい面13を有し、軸1は、軸1の外周に形成された円筒状のはめあい面14を有し、内輪5のはめあい面13と軸1のはめあい面14とが、締め代をもって嵌まり合っている。ここで、軸1の外周に内輪5を取り付ける前の状態において、内輪5の内周のはめあい面13の内径は、軸1の外周のはめあい面14の外径よりも小さい。
【0034】
外輪6は、ハウジング2のハウジング穴4にすきまばめされている。すなわち、ハウジング2は、ハウジング穴4の内周に形成された円筒状のはめあい面15を有し、外輪6は、外輪6の外周に形成された円筒状のはめあい面16を有し、ハウジング2のはめあい面15と外輪6のはめあい面16とが、隙間(環状の微小隙間)をもって嵌まり合っている。ここで、ハウジング穴4に外輪6をはめ込む前の状態において、外輪6の外周のはめあい面16の外径は、ハウジング穴4の内周のはめあい面15の内径よりも小さい。
【0035】
図3に示すように、外輪6の外周には、はめあい面16を周方向に分断するように、はめあい面16の軸方向全幅にわたって延びる逃げ面17が周方向に間隔をおいて2つ以上(図では120°間隔で3つ)形成されている。逃げ面17は、外輪6の外周に周方向に等間隔に3つ以上6つ以下の範囲で設けると好ましい。
【0036】
図2に示すように、外輪6の逃げ面17とハウジング2のはめあい面15との間には、径方向隙間18が形成されている。径方向隙間18は、薄い三日月状を呈している。径方向隙間18の径方向寸法は、径方向隙間18の周方向中央から周方向両端に向かって次第に小さくなっており、径方向隙間18の周方向中央の径方向寸法は、外輪6のはめあい面16とハウジング2のはめあい面15との間に設定される隙間(環状の微小隙間)の径方向寸法よりも大きい。径方向隙間18は、その内部に部材が存在しない空間である。
【0037】
図4に示すように、逃げ面17は、外輪6のはめあい面16の径方向位置(図の二点鎖線の位置)よりも径方向内側を通るように形成された凸円弧状の曲面である。逃げ面17の周方向の両端は、はめあい面16と滑らかに接続している。すなわち、逃げ面17の周方向の両端部分は、逃げ面17の周方向の中央部分よりも大きい曲率をもつ曲線(例えば、円弧曲線、対数曲線など)の輪郭をもつ形状とされ、逃げ面17とはめあい面16の境界にエッジが生じないように、逃げ面17の周方向の両端部分が滑らかにはめあい面16に接続している。
【0038】
外輪6のはめあい面16の径方向位置(図の二点鎖線の位置)に対する逃げ面17の径方向深さδは、転がり軸受3に最大ラジアル荷重が負荷された場合にも、逃げ面17とハウジング2のはめあい面15とが接触せずに、逃げ面17とはめあい面15の間に径方向隙間18(図2参照)が確保される大きさに形成されている。最大ラジアル荷重は、例えば、基本静ラジアル定格荷重である。基本静ラジアル定格荷重は、転動体7が玉の場合、転がり軸受3に静ラジアル荷重を負荷したときに最大荷重を受ける転動体7と外輪軌道溝11との接触部の中央における接触応力が4.2GPaとなるような静ラジアル荷重である。
【0039】
図3に示すように、逃げ面17の周方向長さは、外輪6の中心まわりの角度αで規定することができる。この逃げ面17の周方向長さに対応する角度αは、図1に示すように、隣り合う転動体7の配置間隔に対応する転動体7のピッチ角度をθとしたときに、転動体7のピッチ角度θの0.5倍以上の大きさに設定すると好ましい。これにより、外輪6の波形の変形が進行波としてハウジング2に伝わるのを効果的に遮断することが可能となる。また、逃げ面17の周方向長さに対応する角度αは、転動体7のピッチ角度θの2.0倍以下(好ましくは1.0倍以下)に設定すると好ましい。これにより、ラジアル荷重が負荷されたときの外輪6のたわみを抑えることができる。
【0040】
この軸受装置は、外輪6に、2つ以上の逃げ面17が周方向に間隔をおいて形成されているので、回転荷重が転がり軸受3に負荷される場合のように、転がり軸受3に負荷されるラジアル荷重の方向が変動する場合においても、外輪6の波形の変形が進行波としてハウジング2に伝わりにくく、効果的にクリープ現象を抑制することが可能である。
【0041】
すなわち、図5に示すように、軸1から内輪5にラジアル荷重Fが負荷されると、ラジアル荷重Fが負荷される方向に荷重負荷域Wが生じる。この荷重負荷域Wでは、軸1から内輪5に負荷されるラジアル荷重Fが、転動体7(図1参照)を介して外輪6に伝達し、外輪6が波形に変形する。そして、図5および図6に示すように、軸1から内輪5に負荷されるラジアル荷重Fの方向が回転する場合、ラジアル荷重Fが負荷される方向に生じる荷重負荷域Wも、ラジアル荷重Fの回転に応じて周方向に移動する。ここで、この実施形態の軸受装置においては、外輪6に2つ以上の逃げ面17が周方向に間隔をおいて形成されているので、荷重負荷域Wがいずれの位置に移動しても、その荷重負荷域Wが逃げ面17の位置に重なった状態となりやすく、外輪6の波形の変形が進行波としてハウジング2に伝わりにくくなっている。そのため、効果的にクリープ現象を抑制することが可能である。
【0042】
逃げ面17は、外輪6の外周に周方向に等間隔に3つ以上設けると好ましい。このようにすると、転がり軸受3に負荷されるラジアル荷重Fの方向が変動し、荷重負荷域Wが常に移動する場合にも、常にその荷重負荷域Wにいずれかの逃げ面17が入る状態を保つことができ、効果的にクリープ現象を抑制することが可能となる。3つ以上の逃げ面17を外輪6の外周に不等配に設けることも可能である。この場合、いずれの方向にラジアル荷重Fが負荷されても、そのラジアル荷重Fによる荷重負荷域Wに、少なくとも1つの逃げ面17が入るように逃げ面17を配置するとよい。
【0043】
また、外輪6の外周に周方向に等間隔に設ける逃げ面17は6つ以下とすると好ましい。このようにすると、1つあたりの逃げ面17の周方向長さを確保することができるので、外輪6の波形の変形が進行波としてハウジング2に伝わるのを効果的に遮断することが可能となる。
【0044】
この軸受装置は、図4に示すように、外輪6が有するはめあい面16の径方向位置よりも径方向内側を通るように形成された凸円弧状の曲面を採用しているので、外輪6の外周に形成する逃げ面17として平面状のものを採用したり、凹円弧状のものを採用したりした場合よりも、逃げ面17を形成することによる外輪6の径方向の肉厚の減少を抑えることができる。そのため、ラジアル荷重Fが負荷されたときの外輪6のたわみを抑えることが可能となっている。
【0045】
また、この軸受装置は、図4に示すように、逃げ面17の周方向の両端がはめあい面16と滑らかに接続しているので、外輪6の逃げ面17とはめあい面16の接続部が、ハウジング2のはめあい面15を攻撃することで過大な面圧が生じるのを防止することが可能である。
【0046】
また、この軸受装置は、転がり軸受3に最大ラジアル荷重が負荷された場合にも、逃げ面17とはめあい面15とが接触せずに両者の間に径方向隙間18が確保されるように逃げ面17を形成しているので、転がり軸受3に負荷されるラジアル荷重Fが大きいときにも、確実にクリープ現象を抑制することが可能である。
【0047】
上記実施形態では、すきまばめの関係で互いに嵌まり合う外輪6とハウジング2のうち、外輪6に逃げ面17を形成したが、外輪6にかえてハウジング2に逃げ面17を形成してもよい。すなわち、ハウジング2に、ハウジング2のはめあい面15を周方向に分断するようにそのはめあい面15の軸方向全幅にわたって延びる逃げ面17を周方向に間隔をおいて2つ以上形成するようにした構成を採用してもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、外輪6とハウジング2がすきまばめの関係で嵌まり合う転がり軸受3を例に挙げて説明したが、この発明は、内輪5と軸1がすきまばめの関係で嵌まり合う転がり軸受3にも適用することができる。この場合、すきまばめの関係で互いに嵌まり合う内輪5と軸1のうちの一方の部材に逃げ面17を形成する。
【0049】
具体的には、図7に示すように、内輪5に、内輪5のはめあい面13を周方向に分断するようにそのはめあい面13の軸方向全幅にわたって延びる逃げ面17を周方向に間隔をおいて2つ以上(図では3つ)形成するようにした構成を採用することができる。このようにすると、回転荷重が転がり軸受3に負荷される場合のように、転がり軸受3に負荷されるラジアル荷重Fの方向が変動する場合においても、内輪5の波形の変形が進行波として軸1に伝わりにくく、効果的にクリープ現象を抑制することが可能である。また、軸1に、軸1のはめあい面14を周方向に分断するようにそのはめあい面14の軸方向全幅にわたって延びる逃げ面17を周方向に間隔をおいて2つ以上形成した構成を採用することもできる。
【0050】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
1 軸
2 ハウジング
3 転がり軸受
5 内輪(軌道輪)
6 外輪(軌道輪)
13,14,15,16 はめあい面
17 逃げ面
18 径方向隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7