(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】クレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B66C 13/23 20060101AFI20240919BHJP
B66C 23/88 20060101ALI20240919BHJP
B66D 1/46 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B66C13/23 A
B66C23/88 R
B66D1/46 E
(21)【出願番号】P 2020203376
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 竜
(72)【発明者】
【氏名】礒貝 興孝
(72)【発明者】
【氏名】宮地 啓介
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-87069(JP,A)
【文献】国際公開第2005/12155(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/275610(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/213919(US,A1)
【文献】特開2013-124176(JP,A)
【文献】特開2011-63427(JP,A)
【文献】特開昭57-131683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/23
B66C 23/88
B66D 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上下ドラムから繰り出される巻上下ワイヤがジブの基端側から先端側へ配索されるクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法であって、
前記巻上下ワイヤから吊り下げられるフック自重w及び吊荷実荷重Wと巻上下ワイヤの繰出長さlとを計測する計測工程と、
該計測工程で計測されたフック自重w及び吊荷実荷重Wと巻上下ワイヤの繰出長さlとに基づき理論共振回転数N
rを求め、該理論共振回転数N
rを基準として±幅を持たせた設定共振範囲を求める演算工程と、
該演算工程で求められた設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間以上入らないように巻上下ドラムの回転数を制御する回転数制御工程と
が行われるクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法。
【請求項2】
前記理論共振回転数N
rは
【数7】
但し、W:吊荷実荷重[t]
w:フック自重[t]
n
L:巻上下ワイヤの掛数[本]
l:巻上下ワイヤの繰出長さ[m]
ρ:巻上下ワイヤの単位長さ当たり重量[kg/m]
g:重力加速度[m/s
2]
n
c:巻上下ドラムにおける巻上下ワイヤのクロスオーバー部数[個]
i:減速比
L:巻上下ワイヤの振動長さ[m]
より求められる請求項1記載のクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法。
【請求項3】
巻上下ドラムから繰り出される巻上下ワイヤがジブの基端側から先端側へ配索されるクレーンの巻上下ワイヤ共振防止装置であって、
前記巻上下ワイヤから吊り下げられるフック自重w及び吊荷実荷重Wを計測する荷重検出器と、
巻上下ワイヤの繰出長さlを計測する繰出長検出器と、
前記荷重検出器で計測されたフック自重w及び吊荷実荷重Wと前記繰出長検出器で計測された巻上下ワイヤの繰出長さlとに基づき理論共振回転数N
rを求め、該理論共振回転数N
rを基準として±幅を持たせた設定共振範囲を求め、該設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間以上入らないように巻上下ドラムの巻上下電動機へ回転数制御指令を出力する制御器と
を備えたクレーンの巻上下ワイヤ共振防止装置。
【請求項4】
前記理論共振回転数N
rは
【数8】
但し、W:吊荷実荷重[t]
w:フック自重[t]
n
L:巻上下ワイヤの掛数[本]
l:巻上下ワイヤの繰出長さ[m]
ρ:巻上下ワイヤの単位長さ当たり重量[kg/m]
g:重力加速度[m/s
2]
n
c:巻上下ドラムにおける巻上下ワイヤのクロスオーバー部数[個]
i:減速比
L:巻上下ワイヤの振動長さ[m]
より求められる請求項3記載のクレーンの巻上下ワイヤ共振防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高層ビル等の構造物の建造にはクライミングクレーンが用いられており、
図5に示されるような構造を有している。
【0003】
図5において、1はクライミングクレーンであり、該クライミングクレーン1は、構造物内部の床板に設置され且つ上方へマストブロック2aを順次継ぎ足し可能な支持部としてのマスト2を備えている。該マスト2の頂部には、該マスト2に沿って昇降可能な昇降ユニット3を介し旋回体4が旋回自在に配置されている。前記旋回体4には、ジブ5が起伏自在に取り付けられると共に、後方へ延びるカウンタフレーム6が一体に設けられている。前記カウンタフレーム6上には、前記ジブ5先端から吊荷7A用のフック7を吊り下げる巻上下ワイヤ8を巻上げ下げするための巻上下ドラム9と、ジブ5の起伏ワイヤロープ10を巻上げ下げするための起伏ドラム11とが設置されている。又、前記旋回体4には、ガイサポート12が設けられ、該ガイサポート12の頂部には、前記巻上下ドラム9から繰り出される巻上下ワイヤ8が掛け回されるシーブ13と、前記起伏ドラム11から繰り出される起伏ワイヤロープ10が掛け回されるシーブ14とが配設されている。更に、前記ジブ5の先端には、前記巻上下ワイヤ8が掛け回されるシーブ15が配設されている。
【0004】
従来のドラムバランス式のクライミングクレーン1の場合、
図6に示される如く、巻上下ドラム9から繰り出される巻上下ワイヤ8は、ガイサポート12の頂部のシーブ13aに掛け回された後、シーブ13bに掛け回され、更に、ガイサポート12の頂部のシーブ13c、ジブ5先端のシーブ15a、フック7のシーブ7aを吊り下げるシーブ7b、ジブ5先端のシーブ15b、ガイサポート12の頂部のシーブ13dに順次掛け回され、起伏ドラム11に巻き取られている。
【0005】
前記巻上下ドラム9から繰り出される巻上下ワイヤ8は、左右二系統あり、
図6に示される例では、左系統のシーブ13bに荷重検出器20が設けられている。
図6には引張型のロードセル等の荷重検出器20を示しているが、圧縮型のロードセル等の荷重検出器20が用いられることもある。この場合、圧縮型のロードセル等の荷重検出器20と前記シーブ13bとの間には、中間部に支点を有するレバー(図示せず)が介装される。
【0006】
尚、左右二系統の起伏ドラム11から繰り出される起伏ワイヤロープ10はそれぞれ、ガイサポート12の頂部のシーブ14a、ジブ5先端に起伏ペンダントロープ10aを介して接続される起伏ペンダントシーブブロック16に取り付けられたシーブ14b、ガイサポート12の頂部のシーブ14c、前記起伏ペンダントシーブブロック16に取り付けられたシーブ14d、ガイサポート12の頂部から張り出す起伏スイングシーブブロック17に取り付けられたシーブ14eに順次掛け回され、つなげられる形となっている。
【0007】
尚、前述の如きクライミングクレーン1と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【0008】
そして、前記クライミングクレーン1の運転中、前記巻上下ドラム9から繰り出されてガイサポート12の頂部のシーブ13aに掛け回される巻上下ワイヤ8は、共振することがある。
【0009】
従来、前記クライミングクレーン1のオペレータは、巻上下ワイヤ8が共振していると感じた際には、巻上下ワイヤ8の巻上げ下げを減速したり、或いは運転を停止したりすることにより、巻上下ワイヤ8の巻上下ドラム9での乱巻きやシーブ13aでの脱索・振動を防止していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記巻上下ワイヤ8が共振していると感じてからオペレータが減速や運転停止を行うのでは、共振が既に発生しており、改善が望まれていた。
【0012】
又、巻上下ドラム9の巻上下回転数を落として巻上下ワイヤ8の共振を防止すると、揚重作業の効率が悪くなり、工期の遅れにつながる可能性もあった。
【0013】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、巻上下ワイヤの共振を未然に防止し得且つ揚重作業効率向上を図り得るクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、巻上下ドラムから繰り出される巻上下ワイヤがジブの基端側から先端側へ配索されるクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法であって、
前記巻上下ワイヤから吊り下げられるフック自重w及び吊荷実荷重Wと巻上下ワイヤの繰出長さlとを計測する計測工程と、
該計測工程で計測されたフック自重w及び吊荷実荷重Wと巻上下ワイヤの繰出長さlとに基づき理論共振回転数Nrを求め、該理論共振回転数Nrを基準として±幅を持たせた設定共振範囲を求める演算工程と、
該演算工程で求められた設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間以上入らないように巻上下ドラムの回転数を制御する回転数制御工程と
が行われるクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法に係るものである。
【0015】
前記クレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法において、前記理論共振回転数N
rは
【数1】
但し、W:吊荷実荷重[t]
w:フック自重[t]
n
L:巻上下ワイヤの掛数[本]
l:巻上下ワイヤの繰出長さ[m]
ρ:巻上下ワイヤの単位長さ当たり重量[kg/m]
g:重力加速度[m/s
2]
n
c:巻上下ドラムにおける巻上下ワイヤのクロスオーバー部数[個]
i:減速比
L:巻上下ワイヤの振動長さ[m]
より求められるようにすることができる。
【0016】
一方、本発明は、巻上下ドラムから繰り出される巻上下ワイヤがジブの基端側から先端側へ配索されるクレーンの巻上下ワイヤ共振防止装置であって、
前記巻上下ワイヤから吊り下げられるフック自重w及び吊荷実荷重Wを計測する荷重検出器と、
巻上下ワイヤの繰出長さlを計測する繰出長検出器と、
前記荷重検出器で計測されたフック自重w及び吊荷実荷重Wと前記繰出長検出器で計測された巻上下ワイヤの繰出長さlとに基づき理論共振回転数Nrを求め、該理論共振回転数Nrを基準として±幅を持たせた設定共振範囲を求め、該設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間以上入らないように巻上下ドラムの巻上下電動機へ回転数制御指令を出力する制御器と
を備えたクレーンの巻上下ワイヤ共振防止装置に係るものである。
【0017】
前記クレーンの巻上下ワイヤ共振防止装置において、前記理論共振回転数N
rは
【数2】
但し、W:吊荷実荷重[t]
w:フック自重[t]
n
L:巻上下ワイヤの掛数[本]
l:巻上下ワイヤの繰出長さ[m]
ρ:巻上下ワイヤの単位長さ当たり重量[kg/m]
g:重力加速度[m/s
2]
n
c:巻上下ドラムにおける巻上下ワイヤのクロスオーバー部数[個]
i:減速比
L:巻上下ワイヤの振動長さ[m]
より求められるようにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置によれば、巻上下ワイヤの共振を未然に防止し得且つ揚重作業効率向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置の実施例を示すフローチャートである。
【
図2】本発明のクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置の実施例を示す制御ブロック図である。
【
図3】本発明のクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置の実施例において演算に使用される定数及び変数を示す側面図である。
【
図4】本発明のクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置の実施例において理論共振回転数N
rに対する実際の巻上下回転数制御の一例を示す線図である。
【
図5】一般的なクライミングクレーンの一例を示す側面図である。
【
図6】シーブに掛け回される巻上下ワイヤの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1~
図4は本発明のクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置の実施例であって、図中、
図5及び
図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0022】
本実施例の方法は、
図1に示す如く、計測工程と、演算工程と、回転数制御工程とが行われるようになっている。
【0023】
前記計測工程は、巻上下ワイヤ8から吊り下げられるフック自重w及び吊荷実荷重Wと巻上下ワイヤ8の繰出長さlとを計測する工程である。因みに、前記巻上下ワイヤ8の繰出長さlは、
図3に示す如く、巻上下ドラム9の高さ位置から下方へ延びる巻上下ワイヤ8の長さであって、フック7が巻上下ドラム9より上方にある場合は負(マイナス)の値となる。
【0024】
前記演算工程は、前記計測工程で計測されたフック自重w及び吊荷実荷重Wと巻上下ワイヤ8の繰出長さlとに基づき理論共振回転数Nrを求め、該理論共振回転数Nrを基準として±幅を持たせた設定共振範囲を求める工程である。前記設定共振範囲は、理論共振回転数Nrを基準として、例えば、±5%の範囲とすることができる。但し、この数値に限定されるものではなく、必要に応じて変更し得ることは言うまでもない。
【0025】
前記回転数制御工程は、前記演算工程で求められた設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間以上入らないように巻上下ドラム9の回転数を制御する工程である。前記設定時間は、例えば、0.5秒とすることができる。但し、この数値に関しても必要に応じて変更し得ることは勿論である。
【0026】
又、前記方法を実施する装置は、
図2に示す如く、荷重検出器20と、繰出長検出器30と、制御器40とを備えている。
【0027】
前記荷重検出器20は、前記巻上下ワイヤ8から吊り下げられるフック自重w及び吊荷実荷重Wを計測するようになっており、例えば、
図6に示される位置に設けられる。
【0028】
前記繰出長検出器30は、前記巻上下ワイヤ8の繰出長さlを計測するようになっており、例えば、巻上下ドラム9の回転変位を計測するロータリエンコーダ等を繰出長検出器30として用いることができる。
【0029】
前記制御器40は、前記荷重検出器20で計測されたフック自重w及び吊荷実荷重Wと前記繰出長検出器30で計測された巻上下ワイヤ8の繰出長さlとに基づき理論共振回転数Nrを求め、該理論共振回転数Nrを基準として±幅(例えば、±5%の範囲)を持たせた設定共振範囲を求め、該設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間(例えば、0.5秒)以上入らないように巻上下ドラム9の巻上下電動機9aへ回転数制御指令Zを出力するようになっている。前記制御器40としては、クライミングクレーン1の運転操作を統括するプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC:Programmable Logic Controller)を用いることができる。
【0030】
ここで、巻上下ワイヤ8一本当たりの張力T[N]は、
【数3】
但し、W:吊荷実荷重[t]
w:フック自重[t]
n
L:巻上下ワイヤ8の掛数[本]
l:巻上下ワイヤ8の繰出長さ[m]
ρ:巻上下ワイヤ8の単位長さ当たり重量[kg/m]
g:重力加速度[m/s
2]
と表される。
【0031】
n次振動として考えた場合、前記巻上下ワイヤ8の共振が発生して問題となる振動長さ[m]を、
図3に示す如く、Lとすると、巻上下ワイヤ8の固有振動数f
n[Hz]は、
【数4】
但し、L:巻上下ワイヤ8の振動長さ[m]
と表される。
【0032】
前記巻上下ドラム9による加振振動数f
a[Hz]は、
【数5】
但し、N:巻上下ドラム9の巻上下電動機9aの回転数[rpm]
n
c:巻上下ドラム9における巻上下ワイヤ8のクロスオーバー部数[個]
i:減速比
と表される。尚、前記巻上下ドラム9における巻上下ワイヤ8のクロスオーバー部数n
cとは、前記巻上下ワイヤ8を巻上下ドラム9の軸線方向へ半ピッチ分横移動させるために、前記巻上下ドラム9に設けられる溝の数である。クロスオーバー部は、通常、前記巻上下ドラム9の円周上対称位置に二箇所設けられており、n
c=2となる。前記クロスオーバー部により巻上下ドラム9における巻上下ワイヤ8の多層巻取りをバランス良く行えるようになっている。
【0033】
前記n次振動のnは小さい整数の時に最も振幅が大きいため、n=1である一次振動のみを対象とすると、f
1=f
aで共振するので、前記理論共振回転数N
r[rpm]は、[数3]、[数4]、[数5]に基づき、
【数6】
より求められる。
【0034】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0035】
クライミングクレーン1の運転時、先ず、計測工程として、巻上下ワイヤ8から吊り下げられるフック自重w及び吊荷実荷重Wと巻上下ワイヤ8の繰出長さlとが計測される。
【0036】
続いて、演算工程として、前記計測工程で計測されたフック自重w及び吊荷実荷重Wと巻上下ワイヤ8の繰出長さlとに基づき理論共振回転数Nrが求められ、該理論共振回転数Nrを基準として±幅(例えば、±5%の範囲)を持たせた設定共振範囲が求められる。
【0037】
更に、回転数制御工程として、前記演算工程で求められた設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間(例えば、0.5秒)以上入らないように巻上下ドラム9の回転数が制御される。
【0038】
因みに、前記計測工程において、前記フック自重w及び吊荷実荷重Wは、
図2に示す荷重検出器20で計測され、前記巻上下ワイヤ8の繰出長さlは、
図2に示す繰出長検出器30で計測される。
【0039】
又、前記演算工程において、前記理論共振回転数N
r並びに設定共振範囲は、
図2に示す制御器40で求められ、前記回転数制御工程において、前記制御器40から巻上下ドラム9の巻上下電動機9aへ回転数制御指令Zが出力される。
【0040】
本実施例において、前記理論共振回転数N
rに対する実際の巻上下回転数制御の一例は、
図4に示すようなものとなる。
【0041】
図4において、横軸に時間を取り、縦軸に揚程h、繰出長さl、巻上下回転数を取っている。尚、巻上下回転数は、説明上、巻上を正(プラス)とし、巻下を負(マイナス)として図示している。
【0042】
図4に示す例では、吊荷7A(
図3参照)がなくフック7のみで、揚程hが約110[m]、繰出長さlが約30[m]、巻上下回転数が0[rpm]の状態からスタートしてクライミングクレーン1の能力最大の-2500[rpm]まで上げられ、一旦、前記巻上下回転数が-1300[rpm]程度まで下げられた後、再び-2500[rpm]まで上げられて保持される。この間、巻下のため、揚程hは低下し、繰出長さlは増加していく。
【0043】
前記巻上下回転数が-2500[rpm]に保持されたまま巻下が進行すると、設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間(例えば、0.5秒)以上入ってしまうか否かが、制御器40の演算によって確認される。これを避けるために実際の巻上下回転数は、約-2300[rpm]まで下げられ、設定共振範囲に沿うよう漸増する形で移行する。これにより、巻上下ワイヤ8が共振しなくなる。
【0044】
この後、前記巻上下回転数は、0[rpm]まで下げられて、巻下から巻上に転じる。巻上時、揚程hは増加し、繰出長さlは減少していく。
【0045】
前記巻上下回転数がクライミングクレーン1の能力最大の2500[rpm]まで上げられて保持されると、そのままでは設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間(例えば、0.5秒)以上入ってしまうか否かが、巻下時と同様、制御器40の演算によって確認される。この演算に基づき、実際の巻上下回転数は、約2300[rpm]まで下げられ、設定共振範囲に沿うよう漸減する形で移行し、巻上下ワイヤ8の共振が回避される。
【0046】
この間も、前記制御器40により演算は行われており、実際の巻上下回転数を2500[rpm]に戻せば、前記設定共振範囲を脱することができると判断されると、実際の巻上下回転数が2500[rpm]まで上げられて保持される。
【0047】
前記巻上下回転数は、2500[rpm]から再度、0[rpm]まで下げられて、巻上から巻下に転じる。
【0048】
前記巻上下回転数が-2500[rpm]まで上げられそのまま保持されると、前述と同様、設定共振範囲に実際の巻上下回転数が設定時間(例えば、0.5秒)以上入ってしまうか否かが、制御器40の演算によって確認され、実際の巻上下回転数は、約-2300[rpm]まで下げられ、設定共振範囲に沿うよう漸増する形で移行し、巻上下ワイヤ8の共振が回避される。
【0049】
図4はあくまでも一例であるが、このような形で巻上下ワイヤ8が巻上下時において共振する前に対応が行われることとなる。
【0050】
尚、
図4のF点において、理論共振回転数N
rの絶対値が巻上側と巻下側で増加しているのは、フック7に吊荷7Aを吊ったことに伴い、吊荷実荷重Wが加わったことによるものである。
【0051】
これにより、前記巻上下ワイヤ8が共振していると感じてからオペレータが減速や運転停止を行うのとは異なり、共振が発生する前に対応が可能となる。
【0052】
又、巻上下ドラム9の巻上下回転数を落として巻上下ワイヤ8の共振を防止するのは必要最小限の時間となるため、揚重作業効率の低下が抑えられ、工期の遅れが避けられる。
【0053】
こうして、巻上下ワイヤ8の共振を未然に防止し得且つ揚重作業効率向上を図り得る。
【0054】
尚、本発明のクレーンの巻上下ワイヤ共振防止方法及び装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、クライミングクレーンに限らずジブクレーン等の各種クレーンに適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
1 クライミングクレーン(クレーン)
2 マスト
2a マストブロック
3 昇降ユニット
4 旋回体
5 ジブ
6 カウンタフレーム
7 フック
7A 吊荷
7a シーブ
7b シーブ
8 巻上下ワイヤ
9 巻上下ドラム
9a 巻上下電動機
10 起伏ワイヤロープ
10a 起伏ペンダントロープ
11 起伏ドラム
12 ガイサポート
13 シーブ
13a シーブ
13b シーブ
13c シーブ
13d シーブ
14 シーブ
14a シーブ
14b シーブ
14c シーブ
14d シーブ
14e シーブ
15 シーブ
15a シーブ
15b シーブ
16 起伏ペンダントシーブブロック
17 起伏スイングシーブブロック
20 荷重検出器
30 繰出長検出器
40 制御器