(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】表面検査支援方法及び表面検査支援装置
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240919BHJP
【FI】
G06T7/00 610Z
(21)【出願番号】P 2021010284
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【氏名又は名称】中辻 史郎
(74)【代理人】
【識別番号】100148655
【氏名又は名称】諏訪 淳一
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄貴
【審査官】藤原 敬利
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-033374(JP,A)
【文献】特開2001-344468(JP,A)
【文献】小畑 秀文,ベクトル集中度フィルタ 基本概念と応用,画像ラボ,第15巻,第6号,日本,日本工業出版株式会社,2004年06月01日,第39-42頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-21/958
G06T 1/00- 1/40
G06T 3/00- 7/90
G06V 10/00-20/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の成型部品の表面画像を取得する表面画像取得ステップと、
前記表面画像の各画素である注目画素を基準に設定した探索領域内の各画素に対して微分フィルタを施して得られた最大勾配ベクトルと前記注目画素を通る着目ベクトルに直交し該着目ベクトル側の向きを有する直交ベクトルとの一致度を、前記注目画素を中心に前記着目ベクトルの回転ごとに求め、最も一致度の高い値を前記注目画素の解析結果値とし、該解析結果値を前記表面画像の各画素に対して求める線集中度フィルタを施した線集中度解析画像を生成する線集中度解析画像生成ステップと、
前記線集中度解析画像のうちの不具合部分の不具合領域と不具合部分でない正常領域とを峻別できる位置特定画像を前記線集中度解析画像に表示する表示ステップと
を含むことを特徴とする表面検査支援方法。
【請求項2】
前記成型部品に発生する前記不具合部分の大きさ及び凹凸の特性に応じて前記探索領域を含む前記線集中度フィルタのパラメータを設定するパラメータ設定ステップを有することを特徴とする請求項1に記載の表面検査支援方法。
【請求項3】
前記不具合部分でない正常領域は、前記成型部品の意匠線であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面検査支援方法。
【請求項4】
前記表示ステップは、前記意匠線であることを示す位置特定画像を前記線集中度解析画像上にオーバーレイ表示することを特徴とする請求項3に記載の表面検査支援方法。
【請求項5】
前記表面画像に対してエッジ検出処理を施した画像を二値化した二値化画像を生成する二値化画像生成ステップを有し、
前記表示ステップは、前記二値化画像をもとに正常領域を特定する位置特定画像をオーバーレイ表示することを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の表面検査支援方法。
【請求項6】
前記表示ステップは、前記成型部品の設計データをもとに正常領域を特定する位置特定画像をオーバーレイ表示することを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の表面検査支援方法。
【請求項7】
前記線集中度解析画像の明度を反転した反転画像を生成する反転画像生成ステップを含み、
前記表示ステップは、前記線集中度解析画像の反転画像をもとに、凸部分を特定する位置特定画像と凹部分を特定する位置特定画像とを異なる色でオーバーレイ表示することを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の表面検査支援方法。
【請求項8】
前記表示ステップは、前記不具合領域及び/又は前記正常領域を示す位置特定画像を所定透明度でオーバーレイ表示することを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の表面検査支援方法。
【請求項9】
前記表示ステップは、前記位置特定画像の表示と非表示との切替を行うことを特徴とする請求項4~8のいずれか一つに記載の表面検査支援方法。
【請求項10】
前記線集中度解析画像を二値化判別した判別二値化画像を生成する判別二値化画像生成ステップと、
前記判別二値化画像をもとに前記不具合領域及び/又は正常領域の数値情報を計測する計測ステップと
を含み、
前記表示ステップは、前記数値情報を前記線集中度解析画像上又は前記線集中度解析画像外に表示することを特徴とする請求項1~9のいずれか一つに記載の表面検査支援方法。
【請求項11】
前記表示ステップは、前記線集中度解析画像を反転表示することを特徴とする請求項1~10のいずれか一つに記載の表面検査支援方法。
【請求項12】
前記パラメータ設定ステップは、前記表面画像の取得時における成型部品の表面と撮像部との距離及び撮像画角により前記パラメータを設定することを特徴とする請求項2に記載の表面検査支援方法。
【請求項13】
前記成型部品は、射出成型される樹脂部品であり、
前記パラメータ設定ステップは、樹脂の粘度に応じて前記パラメータを設定することを特徴とする請求項2又は12に記載の表面検査支援方法。
【請求項14】
前記成型部品は、射出成型される樹脂部品であり、
前記不具合領域は、トラシマ、ヒケ、キズ又はウェルドラインであることを特徴とする請求項1~13のいずれか一つに記載の表面検査支援方法。
【請求項15】
評価対象の成型部品の表面画像を取得する表面画像取得部と、
前記表面画像の各画素である注目画素を基準に設定した探索領域内の各画素に対して微分フィルタを施して得られた最大勾配ベクトルと前記注目画素を通る着目ベクトルに直交し該着目ベクトル側の向きを有する直交ベクトルとの一致度を、前記注目画素を中心に前記着目ベクトルの回転ごとに求め、最も一致度の高い値を前記注目画素の解析結果値とし、該解析結果値を前記表面画像の各画素に対して求める線集中度フィルタを施した線集中度解析画像を生成する線集中度解析画像生成部と、
前記線集中度解析画像のうちの不具合部分の不具合領域と不具合部分でない正常領域とを峻別できる位置特定画像を前記線集中度解析画像に表示する表示処理部と
を備えたことを特徴とする表面検査支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線集中度フィルタを用いて成型部品の不具合部分を検出する場合、成型部品の表面の不具合部分である不具合領域と不具合部分でない正常領域とを容易かつ客観的に峻別できる画像を提示して表面検査に資する表面検査支援方法及び表面検査支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮像した画像から線状パターンの一点への集中の度合いである集中度を評価する線集中度フィルタを用いるものがある。特に、医用画像の読影では、線やベクトルの集中度の評価が重要な意味をもつ場合が多い。線集中度フィルタを用いて、胃X線二重造影像における胃壁の襞パターン、悪性腫瘤周辺の血管の引き込み、スピキュラなどを検出することができる。
【0003】
特許文献1には、画像上の複数の測定点に対して輝度勾配ベクトルを計測し、輝度勾配ベクトルの集中度を計算し、線集中度が極大になったとき線情報がある旨の判定を行うものが開示されている。
【0004】
特許文献2には、樹脂成形体の透過画像の明暗濃度より、濃度勾配ベクトルを求め、集中度フィルタを用いて樹脂成形体に包含される空洞と周辺部の明暗濃度差を強調することにより、空洞を判別するものが開示されている。
【0005】
特許文献3には、導体ウェハ等の被検体の画像において、所定の閾値以上の輝度を持つ領域を欠陥領域として抽出し、抽出した欠陥領域の輝度勾配ベクトルを算出し、輝度勾配ベクトルの成分量より欠陥を異物欠陥、ムラ欠陥などに分類するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-284697号公報
【文献】特開2003-266479号公報
【文献】特開2005-294521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、樹脂射出成型部品などの成型部品の表面には、射出成型時に細かい凹凸の縞模様であるトラシマや、樹脂の熱収縮度によって生じた凹部であるヒケなどの不具合部分が発生する場合がある。この不具合部分の検出は目視確認により行われていたため、不具合部分の検出判定にばらつきが生じていた。このため、どの成形条件によって不具合部分が発生するのかを特定するかに時間がかかっていた。また、このばらつきは、成形部品の納品仕様、すなわち合格品質を定量的に提示することができないことになる。
【0008】
また、成型部品の表面には、意匠線などの不具合部分でない正常領域があり、従来の線集中度フィルタを用いて表面の細かい凹凸などを検出しても、トラシマ又はヒケなどの不具合部分である不具合領域の検出とともに正常領域も混在して検出され、不具合部分の特定が困難な場合が多かった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、線集中度フィルタを用いて成型部品の不具合部分を検出する場合、成型部品の表面の不具合部分である不具合領域と不具合部分でない正常領域とを容易かつ客観的に峻別できる画像を提示して表面検査に資する表面検査支援方法及び表面検査支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、評価対象の成型部品の表面画像を取得する表面画像取得ステップと、前記表面画像の各画素である注目画素を基準に設定した探索領域内の各画素に対して微分フィルタを施して得られた最大勾配ベクトルと前記注目画素を通る着目ベクトルに直交し該着目ベクトル側の向きを有する直交ベクトルとの一致度を、前記注目画素を中心に前記着目ベクトルの回転ごとに求め、最も一致度の高い値を前記注目画素の解析結果値とし、該解析結果値を前記表面画像の各画素に対して求める線集中度フィルタを施した線集中度解析画像を生成する線集中度解析画像生成ステップと、前記線集中度解析画像のうちの不具合部分の不具合領域と不具合部分でない正常領域とを峻別できる位置特定画像を前記線集中度解析画像に表示する表示ステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、前記成型部品に発生する前記不具合部分の大きさ及び凹凸の特性に応じて前記探索領域を含む前記線集中度フィルタのパラメータを設定するパラメータ設定ステップを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記不具合部分でない正常領域は、前記成型部品の意匠線であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記表示ステップは、前記意匠線であることを示す位置特定画像を前記線集中度解析画像上にオーバーレイ表示することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記表面画像に対してエッジ検出処理を施した画像を二値化した二値化画像を生成する二値化画像生成ステップを有し、前記表示ステップは、前記二値化画像をもとに正常領域を特定する位置特定画像をオーバーレイ表示することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の発明において、前記表示ステップは、前記成型部品の設計データをもとに正常領域を特定する位置特定画像をオーバーレイ表示することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記の発明において、前記線集中度解析画像の明度を反転した反転画像を生成する反転画像生成ステップを含み、前記表示ステップは、前記線集中度解析画像の反転画像をもとに、凸部分を特定する位置特定画像と凹部分を特定する位置特定画像とを異なる色でオーバーレイ表示することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記の発明において、前記表示ステップは、前記不具合領域及び/又は前記正常領域を示す位置特定画像を所定透明度でオーバーレイ表示することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記の発明において、前記表示ステップは、前記位置特定画像の表示と非表示との切替を行うことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上記の発明において、前記線集中度解析画像を二値化判別した判別二値化画像を生成する判別二値化画像生成ステップと、前記判別二値化画像をもとに前記不具合領域及び/又は正常領域の数値情報を計測する計測ステップと、を含み、前記表示ステップは、前記数値情報を前記線集中度解析画像上又は前記線集中度解析画像外に表示することを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記の発明において、前記表示ステップは、前記線集中度解析画像を反転表示することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記の発明において、前記パラメータ設定ステップは、前記表面画像の取得時における成型部品の表面と撮像部との距離及び撮像画角により前記パラメータを設定することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記の発明において、前記成型部品は、射出成型される樹脂部品であり、前記パラメータ設定ステップは、樹脂の粘度に応じて前記パラメータを設定することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記の発明において、前記成型部品は、射出成型される樹脂部品であり、前記不具合領域は、トラシマ、ヒケ、キズ又はウェルドラインであることを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、評価対象の成型部品の表面画像を取得する表面画像取得部と、前記表面画像の各画素である注目画素を基準に設定した探索領域内の各画素に対して微分フィルタを施して得られた最大勾配ベクトルと前記注目画素を通る着目ベクトルに直交し該着目ベクトル側の向きを有する直交ベクトルとの一致度を、前記注目画素を中心に前記着目ベクトルの回転ごとに求め、最も一致度の高い値を前記注目画素の解析結果値とし、該解析結果値を前記表面画像の各画素に対して求める線集中度フィルタを施した線集中度解析画像を生成する線集中度解析画像生成部と、前記線集中度解析画像のうちの不具合部分の不具合領域と不具合部分でない正常領域とを峻別できる位置特定画像を前記線集中度解析画像に表示する表示処理部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、成型部品の表面の不具合部分である不具合領域と不具合部分でない正常領域とを峻別できる画像として表示しているので、不具合領域を容易かつ客観的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本実施の形態に係る表面検査支援装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、制御部による表面検査支援処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、表面画像に対する線集中度解析画像の生成を説明する説明図である。
【
図4】
図4は、線集中度解析画像を生成する際の着目ベクトルの回転を説明する説明図である。
【
図5】
図5は、表面画像上に解析結果値が高い画素の位置を破線で示した模式図である。
【
図6】
図6は、線集中度解析画像生成部による線集中度解析画像の生成処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、表面画像から線集中度解析画像を含む表示画像を生成する一例を説明する説明図である。
【
図8】
図8は、変形例1の表示画像の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、変形例2の表示画像の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、変形例3に係る表面検査支援装置の構成を示す模式図である。
【
図11】
図11は、変形例3の制御部による表面検査支援処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、変形例3の表示画像の一例の生成を説明する説明図である。
【
図13】
図13は、変形例4の表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態に係る表面検査支援方法及び表面検査支援装置について説明する。
【0028】
<概要構成>
図1は、本実施の形態に係る表面検査支援装置1の構成を示す模式図である。
図1に示すように、表面検査支援装置1は、撮像部6が撮像した成型部品100の表面Sの画像を取得し、取得画像に線集中度フィルタを施して、表面Sの不具合部分である不具合領域と不具合部分でない正常領域とを峻別して画像表示するものであり、入力部2、表示部3、記憶部4、制御部5及び撮像部6を有する。成型部品100は、例えば樹脂射出成型された部品である。
【0029】
入力部2は、マウスやキーボードなどの入力インタフェースである。表示部3は、各種情報を表示する液晶ディスプレイなどの表示インタフェースである。記憶部4は、ハードディスク装置や不揮発性メモリなどの記憶デバイスである。撮像部6は、カメラなどの撮像デバイスである。
【0030】
制御部5は、表面検査支援装置1の全体を制御する制御部であり、画像取得処理部10、二値化画像生成部11、パラメータ設定部12、線集中度解析画像生成部13及び表示処理部14を有する。制御部5は、これらの機能部に対応するプログラムを不揮発性メモリや磁気ディスク装置などの記憶装置に記憶しておき、これらのプログラムをメモリにロードして、CPUで実行することで、対応するプロセスを実行させることになる。
【0031】
画像取得処理部10は、撮像部6を操作して成型部品100の表面Sの表面画像を取得する。なお、撮像部6及び画像取得処理部10は、表面画像取得部として機能する。
【0032】
二値化画像生成部11は、表面画像に対してエッジ検出処理を施した画像を二値化した二値化画像を生成する。この二値化画像は、意匠線などの正常領域を検出するために用いる。
【0033】
パラメータ設定部12は、成型部品100の表面Sに発生するトラシマやヒケなどの不具合部分の大きさ及び凹凸の特性に応じて探索領域を含む線集中度フィルタのパラメータを設定する。トラシマとヒケの大きさ及び凹凸特性は、異なる。したがって、トラシマを強調表示する場合には、トラシマの大きさ及び凹凸特性に応じた探索領域を設定したトラシマ検出モードを選択し、ヒケを強調表示する場合には、ヒケの大きさ及び凹凸特性に応じた探索領域を設定したヒケ検出モードを選択するようにしてもよい。なお、トラシマ又はヒケと同様に、キズ又はウェルドラインの不具合部分の大きさ及び凹凸の特性に応じて探索領域を含む線集中度フィルタのパラメータを設定することもできる。
【0034】
線集中度解析画像生成部13は、表面画像の各画素である注目画素を基準に設定した探索領域内の各画素に対して微分フィルタを施して得られた最大勾配ベクトルと、注目画素を通る着目ベクトルに直交し該着目ベクトル側の向きを有する直交ベクトルとの一致度を、注目画素を中心に着目ベクトルの回転ごとに求め、最も一致度の高い値を注目画素の解析結果値とし、該解析結果値を表面画像の各画素に対して求める線集中度フィルタを施した線集中度解析画像を生成する。
【0035】
表示処理部14は、線集中度解析画像のうちの不具合部分の不具合領域と不具合部分でない正常領域とを峻別できる位置特定画像を線集中度解析画像に表示した表示画像を生成して表示部3に表示する。この際、表示処理部14は、二値化画像を用いて正常領域である意匠線などを特定し、正常領域を示す位置特定画像、あるいは不具合領域を示す位置特定画像を線集中度解析画像上にオーバーレイ表示する。なお、表示処理部14は、成型部品100の設計データをもとに、意匠線などの正常領域を特定する位置特定画像をオーバーレイ表示するようにしてもよい。
【0036】
<表面検査支援処理>
図2は、制御部5による表面検査支援処理手順を示すフローチャートである。
図2に示すように、まず、制御部5は、撮像部6により成型部品100の表面Sの表面画像を取得する(ステップS110)。
【0037】
その後、制御部5は、表面画像に対してエッジ検出処理を施した画像を二値化した二値化画像を生成する(ステップS120)。さらに、パラメータ設定部12は、線集中度フィルタに設定パラメータを設定する(ステップS130)。そして、線集中度解析画像生成部13は、線集中度フィルタを用いて線集中度解析画像を生成する線集中度解析画像の生成処理を行う(ステップS140)。そして、表示処理部14は、二値化画像をもとに、正常領域の特定を行い、この特定に伴って線集中度解析画像のうちの不具合部分の不具合領域と不具合部分でない正常領域とを峻別できる位置特定画像を線集中度解析画像にオーバーレイ表示した表示画像を表示し(ステップS150)、本処理を終了する。
【0038】
<線集中度フィルタを用いた線集中度解析画像の生成>
図3は、表面画像D1に対する線集中度解析画像の生成を説明する説明図である。また、
図4は、線集中度解析画像を生成する際の着目ベクトルの回転を説明する説明図である。
【0039】
まず、表面画像D1に線集中度フィルタを施す場合、表面画像D1上の1つの注目画素21を特定する。また、この注目画素21を通る着目ベクトル22を特定する。さらに、着目ベクトル22に平行で着目ベクトル22の両側に右側探索領域ER及び左側探索領域ELを設定する。右側探索領域ERは、着目ベクトル22から離れる右エリア幅WRと着目ベクトルの方向に延びる着目長さLとによって決定される矩形領域である。また、左側探索領域ELは、右側探索領域ERとは反対側に設定され、着目ベクトル22から離れる左エリア幅WLと着目ベクトルの方向に延びる着目長さLとによって決定される矩形領域である。したがって、探索領域Eは、右側探索領域ERと左側探索領域ELとによって決定される矩形領域となる。なお、右エリア幅WR,左エリア幅WLは、最大エリア幅Wmax以下である。
【0040】
そして、線集中度フィルタは、右側探索領域E
Rの各画素に対して明度の偏微分をとる。具体的には、ソーベルフィルタを施す。この偏微分値の向きである勾配ベクトル20を求め、最も大きい偏微分値をもつ最大勾配ベクトルの角度φを求める。そして、着目ベクトル22に直交し、着目ベクトル22側に向きを有する直交ベクトル23の角度と、最大勾配ベクトルの角度φとの角度差θを求める。そして、各画素に対するcosθを算出する。その後、左側探索領域E
Lの各画素に対するcosθを算出する。なお、左側探索領域E
Lにおける直交ベクトル23の方向は、着目ベクトル22に向いている。cosθの値は、直交ベクトル23と最大勾配ベクトルの一致度を示す値であり、1~-1の値をとる。
図3に示したcosθの値は、1に近い値であり、最大勾配ベクトルが着目ベクトル22側に向いて集中していることを示している。最大勾配ベクトルは、明度が暗い方から明るい方に向くベクトルである。
【0041】
その後、探索領域E内の全ての画素のcosθの平均値cosθaveを算出する。このcosθaveは、今回特定した着目ベクトル22に対する一致度である。その後、
図4に示すように、注目画素21を通る着目ベクトル22を注目画素21を中心に、例えば16段階で半回転させ、各回転角度での着目ベクトル22に対する一致度であるcosθaveを算出する。回転は、180度であるので、1段階での回転角度は、11.25度となる。そして、各回転角度での着目ベクトル22に対するcosθaveのうち、最大値であるcosθavemaxを注目画素21に対する解析結果値として算出する。この解析結果値が大きい場合、注目画素21の画素値の明度は大きい値になる。なお、上記のソーベルフィルタによる偏微分は明度に対して処理したが、輝度であってもよい。また、ソーベルフィルタに限らず微分フィルタによって勾配ベクトル20の方向が得られればよい。
【0042】
そして、表面画像D1上の全ての画素を注目画素21として特定し、上記の解析結果値を算出する。表面画像D1は、解析結果値を画素とする線集中度解析画像が得られる。
【0043】
なお、
図5は、表面画像D1上に解析結果値が高い画素の位置を破線で示した模式図である。
図5に示すように、破線で示すトラシマの稜線L11,L12,L13は、線集中度の高い画素、すなわち明度の高い画素になる。また、破線で示す意匠線の稜線L20も線集中度の高い画素、すなわち明度の高い画素となる。すなわち、このような稜線L11,L12,L13,L20は、線集中度解析画像上にくっきりと表れることになる。特に、表面画像D1上には目視確認できないようなトラシマの稜線L11,L12,L13をはっきりと目視確認できるようになる。
【0044】
また、上記の表面画像D1は、取得したカラー画像をグレースケールの濃淡画像にしたものである。撮像部6は、直接、表面画像D1を濃淡画像として取得してもよい。
【0045】
<線集中度解析画像の生成処理>
図6は、線集中度解析画像生成部13による線集中度解析画像の生成処理手順を示すフローチャートである。
図6に示すように、まず、線集中度解析画像生成部13は、線集中度フィルタのパラメータを取得する(ステップS210)。このパラメータの取得は、トラシマ検出モードやヒケ検出モードの選択によりパラメータを取得するようにしてもよい。トラシマは例えば20mm間隔で発生し、ヒケが数mm程度で発生する場合、トラシマ検出のときは、探索領域Eのパラメータを大きくし、ヒケ検出のときは、探索領域のパラメータを小さくする。これらのパラメータの適正値は、予め実験等で取得することができる。なお、ヒケの場合、凹部となるため、表面画像D1の明暗を反転して解析結果値を求めるようにするとよい。トラシマの凹部も同様である。
【0046】
その後、表面画像D1上の注目画素21を決定し(ステップS220)、この注目画素21を通る着目ベクトル22を決定する(ステップS230)。その後、特定した注目画素21及び着目ベクトル22の探索領域E(ER,EL)内の各画素の最大勾配ベクトルの角度φを算出する(ステップS240)。そして、各画素の角度φと直交ベクトル23との角θを算出する(ステップS250)。その後、探索領域E(ER,EL)の各画素のcosθの平均値cosθaveを算出する(ステップS260)。これにより、1つの注目画素21に対する1つの着目ベクトル22の平均値cosθaveが求まる。
【0047】
その後、着目ベクトル22の回転が終了したか否かを判定する(ステップS270)。着目ベクトル22の回転が終了していないならば(ステップS270:No)、着目ベクトル22を次の回転角に設定し(ステップS280)、ステップS240に移行して、同じ注目画素21に対する次の回転角をもつ着目ベクトル22の平均値cosθaveを求める。
【0048】
一方、着目ベクトルの回転が終了したならば(ステップS270:Yes)、各着目ベクトル22の平均値cosθaveのうちの最大値cosθavemaxを、注目画素21の解析結果値に決定する(ステップS290)。
【0049】
その後、全ての注目画素21に対する処理が終了したか否かを判定する(ステップS300)。全ての注目画素21に対する処理が終了していないならば(ステップS300:No)、次の注目画素21を設定し(ステップS310)、ステップS220に移行して、設定した次の注目画素21に対する解析結果値を決定する処理を繰り返す。
【0050】
一方、全ての注目画素21に対する処理が終了しているならば(ステップS300:Yes)、各注目画素21の解析結果値からなる線集中解析画像を生成し(ステップS320)、本処理を終了してステップS150に移行する。
【0051】
図7は、表面画像D1から線集中度解析画像D2を含む表示画像D4を生成する一例を説明する説明図である。
図7に示すように、まず、表面画像D1を取得する。この表面画像D1は、車両のバンパーの一部の表面を撮像したものである。この表面画像D1に対して、線集中度解析画像生成部13が線集中度解析画像D2を生成する。この線集中度解析画像D2には、意匠線の稜線L30~L32以外にトラシマの稜線L41~L43が明瞭に現れる。
【0052】
一方、二値化画像生成部11は、表面画像D1に対してエッジ抽出処理を施した二値化画像D3を生成する。この二値化画像D3には、意匠線の稜線L30~L32のみが抽出される。そして、表示処理部14は、線集中度解析画像D2上の意匠線の稜線L30~L32の位置に、二値化画像D3により、意匠線の稜線L30~L32の位置を特定する位置特定画像P30~P32をオーバーレイ表示した表示画像D4を生成する。
図7では、位置特定画像P30~P32を線状画像としている。なお、ヒケなどの場合、位置特定画像は、円状画像となる。
【0053】
この表示画像D4上には、位置特定画像P30~P32によって示された意匠線の稜線L30~L32と、位置特定画像P30~P32が表示されないトラシマの稜線L41~L43とが峻別され、容易かつ客観的に不具合部分の確認をすることができる。なお、表示画像D4には、稜線L44で示すウェルドラインも表示されている。このウェルドラインも不具合部分である。なお、二値化画像D3をもとに、意匠線の稜線以外の不具合部分のみに位置特定画像をオーバーレイ表示してもよい。また、位置特定画像は、二値化画像D3に限らず、成型部品の設計データをもとに正常領域(意匠線)を特定するようにしてもよい。
【0054】
さらに、表示画像D4上で、意匠線の稜線と不良部分の稜線とが重なった部分では、位置特性画像を表示しないようにしてもよい。さらに、表示処理部14は、表示画像D4上の位置特定画像の表示、非表示を切り替えることができるようにしてもよい。
【0055】
<変形例1>
図8は、変形例1の表示画像D14の一例を示す図である。この変形例1では、全ての稜線に位置特定画像P41を表示画像D14上にオーバーレイ表示するとともに、線集中度解析画像D2の明度を反転した反転画像における稜線の位置特定画像P51を表示画像D14上にオーバーレイ表示している。反転画像における稜線は、例えば線状凹部である。位置特定画像P41が示す領域は、凸部であり、位置特定画像P51が示す領域は、凹部である。
【0056】
表示画像D14は、明度を反転しない線集中度解析画像D2を用い、この同じ線集中度解析画像D2上に、凸部を示す位置特定画像P41と凹部を示す位置特定画像P51とを同時にオーバーレイ表示する。ただし、位置特定画像P41と位置特定画像P51との表示色は異なるようにしている。これにより、特にトラシマの不具合部分は、稜線を示す位置特定画像P41と線状凹部を示す位置特定画像P51とが繰り返し表示され、トラシマの不良部分であることを容易かつ客観的に確認できる。
【0057】
<変形例2>
図9は、変形例2の表示画像D24の一例を示す図である。この変形例2では、線集中度解析画像D2の稜線を示す位置特定画像を所定透明度、例えば半透明でオーバーレイ表示している。これにより、線集中度解析画像D2の位置特定画像を非表示にしなくても、稜線が見やすくなる。
【0058】
<変形例3>
図10は、変形例3に係る表面検査支援装置1の構成を示す模式図である。
図10に示すように、変形例3では、さらに判別二値化画像生成部15及び計測部16を設けている。判別二値化画像生成部15は、線集中度解析画像D2を二値化判別した判別二値化画像を生成する。この二値化判別は、例えば、分離度が最大となる閾値を求め、自動的に二値化を行う大津の二値化判別法を用いることができる。
【0059】
計測部16は、判別二値化画像をもとに不具合領域及び/又は正常領域の数値情報を計測する。数値情報とは、線状の稜線であれば、稜線の長さであり、面的に広がるものであれば、面積である。また、数値情報に稜線などの本数、個数を求めてもよい。すなわち、変形例3は、不具合部分を定量化し、不具合部分の客観的検査を行うことができる。
【0060】
<表面検査支援処理>
図11は、変形例3の制御部5による表面検査支援処理手順を示すフローチャートである。なお、ステップS410~S440の処理は、
図2のステップS110~S140と同じである。
図11に示すように、線集中度解析画像の生成処理(ステップS440)の後、判別二値化画像生成部15は、線集中度解析画像D2を二値化判別した判別二値化画像を生成する(ステップS450)。その後、計測部16は、判別二値化画像をもとに不具合領域及び/又は正常領域の数値情報を計測する(ステップS460)。そして、表示処理部14は、数値情報を線集中度解析画像D2上にオーバーレイ表示し(ステップS470)、本処理を終了する。
【0061】
図12は、変形例3の表示画像D24の一例の生成を説明する説明図である。
図12に示すように、表示画像D24は、変形例2によって生成された表示画像である。ここで、判別二値化画像D30では、自動的に二値化されて稜線が現れる。計測部16は、この判別二値化画像D30に現れた各稜線の長さを数値情報として計測する。そして、これらの数値情報は、各稜線の位置に対応する表示画像D24上にオーバーレイ表示される。
【0062】
<変形例4>
図13は、変形例4の表示画面EAの一例を示す図である。上記の変形例3では、数値情報として稜線の長さを計測していたが、本変形例4では、稜線の本数を計測し、稜線の本数を表示画像D14外に表示している。表示画像D14は、凸部と凹部の稜線の位置特定画像がオーバーレイ表示されたものであるが、数値情報としては、凸部の稜線(明線)の本数:10本と、凹部の稜線(暗線)の本数:7本とが表示領域EBに表示される。この数値情報の表示により、不具合部分を定量化し、不具合部分の客観的検査を行うことができる。
【0063】
<変形例5>
変形例5は、パラメータ設定部12が、表面画像の取得時における成型部品100の表面Sと撮像部6との距離及び撮像画角によりパラメータを自動設定するようにしている。取得する表面画像の縮尺に対応してパラメータの自動設定を行うものである。なお、パラメータの自動設定時に成型部品の樹脂の粘度に対応してパラメータを自動設定するようにしてもよい。
【0064】
なお、上記の実施形態では、トラシマ又はヒケを対象とする場合を示したが、キズ又はウェルドラインを対象とする場合に適用することもできる。
【0065】
なお、上記の実施の形態及び変形例で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の表面検査支援方法及び表面検査支援装置は、成型部品の表面の不具合部分である不具合領域と不具合部分でない正常領域とを容易かつ客観的に峻別して表面検査を行う場合に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 表面検査支援装置
2 入力部
3 表示部
4 記憶部
5 制御部
6 撮像部
10 画像取得処理部
11 二値化画像生成部
12 パラメータ設定部
13 線集中度解析画像生成部
14 表示処理部
15 判別二値化画像生成部
16 計測部
20 勾配ベクトル
21 注目画素
22 着目ベクトル
23 直交ベクトル
100 成型部品
cosθave 平均値
cosθavemax 最大値
D1 表面画像
D2 線集中度解析画像
D3 二値化画像
D4,D14,D24 表示画像
D30 判別二値化画像
E 探索領域
EA 表示画面
EB 表示領域
EL 左側探索領域
ER 右側探索領域
L 着目長さ
L11~L13,L20,L30,L41~L43 稜線
P30,P41,P51 位置特定画像
S 表面
WL 左エリア幅
Wmax 最大エリア幅
WR 右エリア幅
θ 角度差
φ 角度