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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】レーザ光走査装置及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20240919BHJP
   G02B 26/12 20060101ALI20240919BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20240919BHJP
【FI】
G02B26/10 C
G02B26/12
B23K26/082
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021041974
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142019
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000233332
【氏名又は名称】ビアメカニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 治明
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-121038(JP,A)
【文献】特開2021-001997(JP,A)
【文献】特表2012-524294(JP,A)
【文献】特開平01-280719(JP,A)
【文献】特開2021-009224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0225393(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0241118(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10,26/12,26/08
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光路上に配置され、レーザ光を偏向する第1の偏向手段と、
第2の光路上に配置され、レーザ光を偏向する第2の偏向手段と、
レーザ発振器から発振されたレーザ光が入射され、入射されたレーザ光を前記第1の光路若しくは前記第2の光路に向けて選択的に出射可能な選択手段と、
前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段を駆動する駆動手段と、
前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段によりそれぞれ偏向されたレーザ光を、走査対象物の所定位置に向けて反射させる反射手段と、を備え
前記反射手段は、回転軸を中心に回転可能で、複数の反射面を有する回転多面鏡であり、
前記反射手段と前記走査対象物との間にはfθレンズが配置されており、
前記回転多面鏡及び前記fθレンズは、前記fθレンズの光軸が前記回転多面鏡の回転軸に直交して前記回転多面鏡の反射面を通ると共に、前記fθレンズの前側焦点が前記回転多面鏡の反射面上の反射点付近になるように配置され、
前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段は、偏向したレーザ光の出射方向が、前記回転多面鏡の所定の回転角度における前記fθレンズの光軸の反射方向と一致するように、前記回転多面鏡の回転方向に関して異なる位置に配置されていることを特徴とするレーザ光走査装置。
【請求項2】
第1の光路上に配置され、レーザ光を偏向する第1の偏向手段と、
第2の光路上に配置され、レーザ光を偏向する第2の偏向手段と、
レーザ発振器から発振されたレーザ光が入射され、入射されたレーザ光を前記第1の光路若しくは前記第2の光路に向けて選択的に出射可能な選択手段と、
前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段を駆動する駆動手段と、
前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段によりそれぞれ偏向されたレーザ光を、走査対象物の所定位置に向けて反射させる反射手段と、を備え、
前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段は、それぞれ、
前記選択手段により光路を選択されたレーザ光が入射し、レーザ光の入射方向と直交する第1方向に中立位置を中心として移動可能であり、反射面が凹面形状である第1ミラーと、
前記第1ミラーで反射されたレーザ光が入射し、前記第1方向と直交する第2方向に中立位置を中心として移動可能であり、反射面が凹面形状である第2ミラーと、を有し、
前記駆動手段は、
前記第1ミラーを前記第1方向に移動させる第1移動手段と、
前記第2ミラーを前記第2方向に移動させる第2移動手段と、有することを特徴とするレーザ光走査装置。
【請求項3】
前記第1ミラー及び前記第2ミラーの反射面は、次の式を満たす凹面形状である
ことを特徴とする請求項に記載のレーザ光走査装置。
但し、前記第1ミラーへのレーザ光の入射方向をx軸、前記第2ミラーへのレーザ光の入射方向をy軸とした場合、次の数式中の符号は次の通りである。
x:前記反射面の断面をx軸及びy軸の直交座標系で示した場合のx軸方向の座標
y:前記反射面の断面をx軸及びy軸の直交座標系で示した場合のy軸方向の座標
L:前記反射面の断面をx軸及びy軸の直交座標系で示した場合の原点から偏向点まで
の距離
【数17】
【請求項4】
前記第1ミラーの前記中立位置における反射点 、前記第1ミラーの位置によらず前記第1ミラーにより偏向されたレーザ光が必ず通る空間の一点を点P 、前記反射点R から前記点Pまでの距離をL1、前記第2ミラーの前記中立位置における反射点R 、前記第2ミラーの位置によらず前記第2ミラーにより偏向されたレーザ光が必ず通る空間の一点を点P 記反射点Rから前記点Pまでの距離をL2、前記反射点Rと前記反射点Rとの間の距離をdとした場合、
d=L1-L2
を満たすことを特徴とする請求項又はに記載のレーザ光走査装置。
【請求項5】
レーザ光によりワークを加工するレーザ加工装置であって、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から発振されたレーザ光を走査してワークに向けて照射するレーザ光走査装置と、を備え、
前記レーザ光走査装置は、請求項1ないしの何れか1項に記載のレーザ光走査装置であり、
前記ワークは、前記走査対象物であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
前記レーザ発振器、前記選択手段、前記駆動手段及び前記反射手段を制御可能な制御部を備え、
前記制御部は、前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段のうち、何れか1つの偏向手段により偏向されたレーザ光を前記ワークの加工位置に射出している間に、他の1つの偏向手段により偏向されるレーザ光が前記ワークの次の加工位置に向くように前記駆動手段を制御することを特徴とする請求項に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を走査するレーザ光走査装置と、これを備えたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工装置として、レーザ発振器から発振されるレーザ光を一対のガルバノスキャナミラーにより偏向してレーザ光の進行方向を所望の方向に変化させ、fθレンズによりレーザ光の進行方向を一定の方向にして、加工対象であるプリント基板などのワークの目標位置に垂直に照射する構成が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-137074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の構成の場合、レーザ光を射出してワークに加工を行った後、アクチュエータ(駆動手段)により、次の加工位置に向けてレーザ光を偏向する角度へとガルバノスキャナミラー(偏向手段)を位置決めし、再びレーザ光を射出することを繰り返すことで、ワークに連続して加工が行われる。このため、ガルバノスキャナミラーの位置決め時間が加工の進行を支配し、ガルバノスキャナミラーの位置決めの速さを越えて加工の生産性を上げることはできなかった。
【0005】
本発明は、高い加工生産性を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、第1の光路上に配置され、レーザ光を偏向する第1の偏向手段と、第2の光路上に配置され、レーザ光を偏向する第2の偏向手段と、レーザ発振器から発振されたレーザ光が入射され、入射されたレーザ光を前記第1の光路若しくは前記第2の光路に向けて選択的に出射可能な選択手段と、前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段を駆動する駆動手段と、前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段によりそれぞれ偏向されたレーザ光を、走査対象物の所定位置に向けて反射させる反射手段と、を備え、前記反射手段は、回転軸を中心に回転可能で、複数の反射面を有する回転多面鏡であり、前記反射手段と前記走査対象物との間にはfθレンズが配置されており、前記回転多面鏡及び前記fθレンズは、前記fθレンズの光軸が前記回転多面鏡の回転軸に直交して前記回転多面鏡の反射面を通ると共に、前記fθレンズの前側焦点が前記回転多面鏡の反射面上の反射点付近になるように配置され、前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段は、偏向したレーザ光の出射方向が、前記回転多面鏡の所定の回転角度における前記fθレンズの光軸の反射方向と一致するように、前記回転多面鏡の回転方向に関して異なる位置に配置されていることを特徴とするレーザ光走査装置である。
本発明の一態様は、第1の光路上に配置され、レーザ光を偏向する第1の偏向手段と、第2の光路上に配置され、レーザ光を偏向する第2の偏向手段と、レーザ発振器から発振されたレーザ光が入射され、入射されたレーザ光を前記第1の光路若しくは前記第2の光路に向けて選択的に出射可能な選択手段と、前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段を駆動する駆動手段と、前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段によりそれぞれ偏向されたレーザ光を、走査対象物の所定位置に向けて反射させる反射手段と、を備え、前記第1の偏向手段及び前記第2の偏向手段は、それぞれ、前記選択手段により光路を選択されたレーザ光が入射し、レーザ光の入射方向と直交する第1方向に中立位置を中心として移動可能であり、反射面が凹面形状である第1ミラーと、前記第1ミラーで反射されたレーザ光が入射し、前記第1方向と直交する第2方向に中立位置を中心として移動可能であり、反射面が凹面形状である第2ミラーと、を有し、前記駆動手段は、前記第1ミラーを前記第1方向に移動させる第1移動手段と、前記第2ミラーを前記第2方向に移動させる第2移動手段と、有することを特徴とするレーザ光走査装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い加工生産性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成図。
図2】第1の実施形態に係る第1ミラーの、(a)平面図、(b)側面図。
図3】第1の実施形態に係る第1ミラーの反射面を説明するための模式図。
図4】第1の実施形態に係る第1ミラーのレーザ光の偏向を説明するための模式図。
図5】第1の実施形態に係る第1ミラーと第2ミラーを組み合わせたレーザ光の偏向系のレーザ光の偏向作用を説明するための図で、(a)それぞれのミラーが中立位置の状態を、(b)それぞれのミラーを変位させた状態を示す図。
図6】第1の実施形態に係るレーザ光偏向部からワークまでのレーザ光の偏向作用を説明するための図で、(a)正面図、(b)(a)の右側面図。
図7】第1の実施形態に係る制御系の動作を示すタイミングチャート。
図8】第2の実施形態に係るレーザ光偏向部からワークまでのレーザ光の偏向作用を説明するための図。
図9】第2の実施形態に係る制御系の動作を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の実施形態>
第1の実施形態について、図1ないし図7を用いて説明する。まず、本実施形態のレーザ加工装置の概略構成について、図1を用いて説明する。
【0010】
[レーザ加工装置]
図1は、レーザ光走査装置100を備えたレーザ加工装置200の全体構成図である。レーザ加工装置200は、レーザ発振器1、レーザ光走査装置100、テーブル10、制御部11などを有する。レーザ光走査装置100は、レーザ光分配器2、レーザ光偏向部3、レーザ光選択部6などを備え、レーザ発振器1から発振されたレーザ光を走査して、走査対象物であるワーク9に向けて照射する。
【0011】
レーザ発振器1から発振されたレーザ光(レーザビーム)Bは、レーザ光分配器2へ入射される。選択手段としてのレーザ光分配器2は、例えば、音響光学変調器などの高速で光路を切り替えられる光路切替装置である。このレーザ光分配器2の光路の切り替え速度は、後述する第1偏向系30a(又は第2偏向系30b)の各ミラーを、次の加工位置に位置決めする速度よりも速い。レーザ発振器1及びレーザ光分配器2は、制御部11によって制御され、所定のタイミングでレーザパルスの出力及び第1の光路B1aと第2の光路B1bの切替を行う。即ち、レーザ光分配器2は、レーザ発振器1から発振されたレーザ光が入射され、入射されたレーザ光を第1の光路B1a若しくは第2の光路B1bに向けて選択的に出射可能である。言い換えれば、レーザ光分配器2は、レーザ光を複数の光路に切り替え可能であり、本実施形態では、2つの光路B1a、B1bにレーザ光の光路を切り替える。
【0012】
レーザ光分配器2で光路を切り替えられたレーザ光は、レーザ光偏向部3に送り込まれる。レーザ光偏向部3は、2系統からなる走査系であるマルチ2次元偏向系であり、レーザ光分配器2からのレーザ光は、2系統の走査系のうち、所定の系統の走査系へと送り込まれる。具体的には、レーザ光偏向部3は、第1の偏向手段としての第1偏向系(a系統偏向系)30a及び第2の第2偏向系(b系統偏向系)30bと、第1偏向系30a及び第2偏向系30bを駆動する駆動手段としての駆動部31とを有する。
【0013】
第1偏向系30aは、第1の光路B1a上に配置され、レーザ光を偏向するための第1ミラー4a及び第2ミラー5aを有する。なお、図示の例の場合、レーザ光分配器2と第1偏向系30aとの間には、レーザ光分配器2からのレーザ光を第1偏向系30aに案内するミラー41a、42aが配置されているが、ミラー41a、42aを省略して、レーザ光分配器2からのレーザ光を、直接、第1偏向系30aに送り込むようにしても良い。駆動部31は、これら第1ミラー4a及び第2ミラー5aをそれぞれ移動させる第1移動手段としての第1アクチュエータ32a及び第2移動手段としての第2アクチュエータ33aを有する。第1ミラー4a或いは第2ミラー5aは、それぞれ第1アクチュエータ32a或いは第2アクチュエータ33aと共にアクチュエータミラーを構成する。
【0014】
同様に、第2偏向系30bは、第2の光路B1b上に配置され、レーザ光を偏向するための第1ミラー4b及び第2ミラー5bを有する。なお、図示の例の場合、レーザ光分配器2と第2偏向系30bとの間には、レーザ光分配器2からのレーザ光を第2偏向系30bに案内するミラー41b、42bが配置されているが、ミラー41b、42bを省略して、レーザ光分配器2からのレーザ光を第2偏向系30bに送り込むようにしても良い。駆動部31は、これら第1ミラー4b及び第2ミラー5bをそれぞれ移動させる第1移動手段としての第1アクチュエータ32b及び第2移動手段としての第2アクチュエータ33bを有する。第1ミラー4b或いは第2ミラー5bは、それぞれ第1アクチュエータ32b或いは第2アクチュエータ33bと共にアクチュエータミラーを構成する。これらのアクチュエータミラーの詳しい説明は後述する。
【0015】
レーザ光分配器2により第1の光路B1aに切り替えられたレーザ光は、ミラー41a、42aによって折り曲げられて、第1ミラー4aに入射し、反射したレーザ光は第1ミラー4aの作用で、まず平面内で1次元偏向される。この反射レーザ光はそれぞれ第2ミラー5aに入射し、反射したレーザ光は上記の1次元偏向面と直交する方向に偏向され、2次元偏向がなされる。レーザ光分配器2により第2の光路B1bに切り替えられたレーザ光についても、同様に、第1ミラー4bで1次元偏向され、第2ミラー5bで2次元偏向される。
【0016】
a系統である第1偏向系30a或いはb系統である第2偏向系30bで偏向されたレーザ光B3a或いはB3bは、レーザ光選択部6に設けられた、反射手段としての回転多面鏡7に入射し、それぞれ反射光がfθレンズ8に入射するような角度にあるタイミングで鏡面で反射されて、fθレンズ8の入射光B4となる。この入射光B4はfθレンズ8を経由して出射光B5となり、プリント基板などであるワーク9の所定位置に照射され、加工が行われる。即ち、本実施形態は、第1偏向系30a及び第2偏向系30bで共通の回転多面鏡7を用いている。したがって、第1偏向系30aで偏向されたレーザ光B3aも、第2偏向系30bで偏向されたレーザ光B3bも同じ回転多面鏡7で反射され、fθレンズ8を介してワーク9に照射される。
【0017】
ワーク9は、テーブル10に載置される。テーブル10は、図1において、レーザ光偏向部3、レーザ光選択部6及びfθレンズ8に対して相対移動可能である。具体的には、テーブル10は不図示のモータなどの駆動源によりfθレンズ8の光軸に直交する平面に沿って移動可能である。ワーク9は、fθレンズ8の実用的な直径に基づいて決定される加工領域に区分され、1つの加工領域内の加工が終了すると、テーブル10を水平に移動させ、次の加工領域の中心をfθレンズ8の中心軸上に位置決めする。
【0018】
制御部11は、上述のレーザ発振器1、レーザ光分配器2、レーザ光偏向部3、レーザ光選択部6、テーブル10の各部の動作を制御する。このような制御部11は、例えばプログラム制御の処理装置を主体にしたものによって実現される。
【0019】
[アクチュエータミラー]
上述したように、第1ミラー4a、4b或いは第2ミラー5a、5bは、それぞれ第1アクチュエータ32a、32b或いは第2アクチュエータ33a、33bと共にアクチュエータミラーを構成する。これらのアクチュエータミラーについて、図2(a)、(b)を用いて説明する。なお、各アクチュエータミラーは、同じ構成を有するため、以下、代表して第1ミラー4aと第1アクチュエータ32aとから構成されるアクチュエータミラー50について説明する。
【0020】
第1ミラー4aは、反射面が凹面形状である凹面ミラーであり、レーザ光の入射方向と直交する第1方向(図2(a)、(b)の左右方向)に中立位置を中心として移動可能である。第1ミラー4aは、レーザ発振器1及びレーザ光分配器2から入射されたレーザ光B1aを偏向して、第2ミラー5aへレーザ光B2aを出射する。なお、第2ミラー5aは、第1ミラー4aで反射されたレーザ光が入射し、第1ミラー4aが中立位置にある場合のレーザ光の入射方向及び第1方向と直交する第2方向に中立位置を中心として移動可能である。この第2ミラー5aの反射面も凹面形状であり、第1ミラー4a及び第2ミラー5aの反射面については後述する。
【0021】
第1アクチュエータ32aは、駆動コイル13,インナーヨーク14、アウターヨーク15、永久磁石16を有するボイスコイルモータである。第1ミラー4aには駆動コイル13が結合されていて、両者は一体となって第1方向に移動する。即ち、第1アクチュエータ32aは、第1ミラー4aを第1方向に移動させる。なお、第2アクチュエータ33aは、第2ミラー5aを第2方向に移動させる。
【0022】
駆動コイル13の内部にはインナーヨーク14の突出部が配置されており、図示しない軸受により駆動コイル13及び第1ミラー4aの運動を支えている。駆動コイル13の外部には、アウターヨーク15が配置され、インナーヨーク14とアウターヨーク15の間には永久磁石16が配置されて、駆動コイル13を貫く形で磁気回路が形成されている。駆動コイル13は両端が駆動増幅器に接続されており、制御部11により制御されて図中左右方向に駆動力を発生する。
【0023】
また、第1ミラー4aと駆動コイル13からなる可動部には光学グレーティング17、固定部であるアウターヨーク15には光学検出器18がそれぞれ一体化されており、第1ミラー4aの変位量を計測可能となっている。この光学検出器18からの信号に基づいて制御部11がフィードバック制御を行う位置決めサーボ機構により、第1ミラー4aの位置決めが行われる。なお、第1ミラー4aを駆動するアクチュエータは、リニアモータ、圧電素子などのアクチュエータを用いても良い。
【0024】
[ミラーの反射面]
次に、第1ミラー4a、4b、第2ミラー5a、5bの反射面について、図3を用いて説明する。これらの各ミラーの反射面についても同じ形状であるため、以下、代表して第1ミラー4aの反射面について説明する。図3では、第1ミラー4aの反射面の断面をx軸およびy軸が交差した直交座標系で示し、0はx軸とy軸が交差する原点であり、凹面形状である第1ミラー4aの反射面は、次の関数(式1)で定義される。
【数1】
【0025】
この第1ミラー4aがx方向に-δ変位したとき、断面形状は次の式2となる。
【数2】
【0026】
ここで、y軸に沿って上方から入射するレーザ光B1aが、反射面上の反射点R(r、r)で反射して偏向点P(p,p)に進む場合を考える。
【0027】
この場合、反射点Rがy軸上に偏向点Pがx軸上に位置し、次の式3の関係が成り立つ。なお、rは反射点Rのx軸方向の座標、rは反射点Rのy軸方向の座標、pは偏向点Pのx軸方向の座標、pは偏向点Pのy軸方向の座標、Lは原点Oから偏向点Pまでの距離である。
【数3】
【0028】
次に、ΔPQRがRP=RQとなる二等辺三角形になるようにレーザ光B1a上、即ちy軸上に点Qを定めると、次の式4の関係が成り立つ。qは点Qのx軸方向の座標、qは点Qのy軸方向の座標である。
【数4】
【0029】
ここで、反射の法則を考慮して、線分PQの中点をMとすると、
∠QRM=∠PRM
となる。即ち、反射面は、二等辺三角形ΔPQRの反射点Rと底辺PQの中点Mとを結ぶ線分RMが反射点Rでの法線Nと重なるような断面形状となる。
【0030】
PQの中点Mの座標は、次の式5のようになる。なお、mは中点Mのx軸方向の座標、mは中点Mのy軸方向の座標である。
【数5】
【0031】
また、線分RMの傾きsは、次の式6となる。
【数6】
【0032】
一方、反射点Rにおける反射面(凹面)の法線Nの方程式は、次の式7となる。
【数7】
【0033】
線分RMの傾きsが凹面の法線Nの傾きと等しいとすると、次の式8が成り立つ。
【数8】
【0034】
ここで、y=f(δ)とすれば、次の式9の微分方程式を得る。
【数9】
【0035】
そして、fの逆関数をδ=g(y)として上式を積分すれば、次の式10のようになる。
【数10】
【0036】
但し、Cは積分定数である。y=0でδ=0としてCを定めると、次の式11となる。
【数11】
【0037】
これを式10に代入して、式12となる。
【数12】
【0038】
従属変数をxとして、第1ミラー4aの反射面の形状が、次の式13のように定まる。
【数13】
【0039】
y=f(x)という形式で考えれば、関数fは関数gの逆関数として決定される。第1ミラー4aの反射面がこの形状を持てば、ミラーをx軸方向に直線変位させることで、y軸の+側から入射するレーザ光を、偏向点Pを維持しながら所望の角度に偏向することができる。
【0040】
そして、変位量δと、対応する偏向角αの関係は、次の式14から求まる。
【数14】
【0041】
そして、f(δ)の値を求めるには、次の式15を解いてy=f(δ)の値を求める。
【数15】
【0042】
[レーザ光の偏向]
次に、上述のようなアクチュエータミラーにおいて、ミラーを変位させた場合のレーザ光の偏向について説明する。以下でも、代表して第1ミラー4aを用いて説明する。図4では、第1ミラー4aの位置をx軸方向に5通りに変位させた場合に偏向されるレーザ光B2aを示している。図中上方から入射するレーザ光B1aは、第1ミラー4aの反射面上の反射点R(r,r)に入射する。
【0043】
第1ミラー4aの横方向(x軸方向)の移動量に応じて、反射点のy軸方向の位置が変化し、これに伴って、反射面の反射方向が変化することによって、レーザ光B2aの出射方向が変化する。なお、偏向点Pの位置は、反射面を定める関数中の定数Lによって定まり、変位量δの影響を受けない。即ち、第1ミラー4aの変位量或いは出射ビーム(レーザ光B2a)の偏向角によらず、出射ビームは常に偏向点Pを通る。
【0044】
図5(a)、(b)は、本実施形態における第1ミラー4aと第2ミラー5aを組み合わせた第1偏向系30aのレーザ光の偏向を説明するための図である。なお、第1ミラー4bと第2ミラー5bとを組み合わせた第2偏向系30bも同様であるため、以下では、代表して第1偏向系30a二ついて説明する。
【0045】
図5(a)は、第1ミラー4aと第2ミラー5aが変位0の中立位置にある場合を、図5(b)は、第1ミラー4aと第2ミラー5aを変位させた場合を含め、それぞれのミラーが3通りの位置にある場合を示している。図5(a)に示すように、空間には直交座標系o-xyzが設けられており、入射されるレーザ光B1aはx方向に平行逆向きのレーザ光である。レーザ光B1aは、x方向に関して図の上方から入射し、第1ミラー4aで反射された後、y方向へと進み、第2ミラー5aで反射され、z方向へと進む。
【0046】
図中、Rは第1ミラー4aの反射点、Rは第2ミラー5aの反射点、Pは第1ミラー4aの偏向点、Pは第2ミラー5aの偏向点である。また、反射点R、R、偏向点P、Pの座標は、それぞれR1(0、r1y、r)、R2(0、0、r)、P1(0、p1y、r)、P2(0、0、p2z)である。
【0047】
図5(a)に示した第1ミラー4aとこれの反射点Rは、第1ミラー4aの変位が0、即ち、第1ミラー4aが中立位置(図3においてδ=0の状態)にある場合で、x方向上方からのレーザ光B1aをy方向に反射する。また、第2ミラー5aとこれの反射点Rは、同じく第2ミラー5aの変位が0、即ち、第2ミラー5aが中立位置(図3においてδ=0の状態)にある場合で、y方向左からのレーザ光B2aをz方向に反射する。即ち、第1ミラー4a及び第2ミラー5aが変位しない場合には、第2ミラー5aで反射されたレーザ光B3aは図中のz軸と一致する。
【0048】
図5(b)に示すように、第1ミラー4aは、レーザ光の入射方向と直交する第1方向に中立位置を中心として移動可能であり、図5(b)のy方向に変位する。一方、第2ミラー5aは、第1方向(y方向)と直交する第2方向に中立位置を中心として移動可能であり、図5(b)のz方向に変位する。図5(b)では、第1ミラー4aを中立位置、中立位置からy軸正方向、中立位置からy軸負方向に変位させ、第2ミラー5aを中立位置、中立位置からz軸正方向、中立位置からz軸負方向に変位させた場合の光線を描いている。第1ミラー4aからは3方向にレーザ光B2aが反射され、第2ミラー5aからは9方向にレーザ光B3aが反射される。
【0049】
ここで、それぞれが中立位置にある2つのミラーの反射点Rと反射点Rとの間の距離(間隔)は、第1ミラー4aの偏向点Pと反射点Rとの距離|L1|と、第2ミラー5aの偏向点Pと反射点Rとの距離|L2|との差に等しく設定されている。そして、各座標(p1y、r、p2z、r1y)と距離|L1|、距離|L2|の関係が次の式16で示される。
【数16】
【0050】
言い換えれば、反射点Rと反射点Rとの間の距離dは、
d=L1―L2
を満たす。
【0051】
このとき、レーザ光B2aの第2ミラー5aの反射点Rを通るx軸に平行な直線を中心として、偏向点Pから反射点Rまでの部分の中立位置のレーザ光B2aを回転させ、第2ミラー5aでの反射後の中立位置のレーザ光B3aと同一直線上に移動させるようにすれば、偏向点Pは偏向点Pに一致する。即ち、反射後のレーザ光B3aは近似的偏向点Pを中心としてx方向、y方向の双方向に偏向される。
【0052】
[レーザ光走査装置によるレーザ光の走査]
次に、上述のような第1偏向系30a、第2偏向系30b及び回転多面鏡7を備えるレーザ光走査装置100によるレーザ光の走査について、図6(a)、(b)を用いて説明する。図6(a)、(b)は、第2ミラー5a、5bから出射したレーザ光B3a、B3bがテーブル10に搭載されたワーク9に照射されるまでの部分のレーザ光走査装置100を描いた図である。図6(a)は正面図、(b)は(a)の右側面図である。
【0053】
ここで、反射手段としての回転多面鏡7は、回転軸を中心に回転可能で、複数の反射面(鏡面)を有する。また、回転多面鏡7と走査対象物であるワーク9との間にはfθレンズ8が配置されている。回転多面鏡7及びfθレンズ8は、fθレンズ8の光軸が回転多面鏡7の回転軸に直交して回転多面鏡7の反射面を通ると共に、fθレンズ8の前側焦点が回転多面鏡7の反射面上の反射点付近になるように配置される。そして、第1偏向系30a及び第2偏向系30bは、偏向したレーザ光B3a、B3bの出射方向が、回転多面鏡7の所定の回転角度におけるfθレンズ8の光軸の反射方向と一致するように、回転多面鏡7の回転方向に関して異なる位置に配置されている。以下、具体的に説明する。
【0054】
まず、第1偏向系30aに入射したレーザ光は第2ミラー5aで偏向され、回転多面鏡7の反射面に入射する。第1偏向系30aは、第2ミラー5aの偏向点が回転多面鏡7が所定の回転角度にあるときの反射点に一致し、中立位置のレーザ光B3aの反射後のレーザ光B4がfθレンズ8の光軸と一致する位置に設置されている。これにより、第1偏向系30aで偏向されるレーザ光B3aは偏向角によらず回転多面鏡7の反射面に集結し、反射光はfθレンズ8の光軸を中心に散開する。
【0055】
同様に、第2偏向系30bは、第2ミラー5bの偏向点が回転多面鏡7が所定の回転角度にあるときの反射点に一致し、中立位置のレーザ光B3bの反射後のレーザ光B4がfθレンズ8の光軸と一致する位置に設置されている。これにより、第2偏向系30bで偏向されるレーザ光B3bは偏向角によらず回転多面鏡7の反射面に集結し、反射光はfθレンズ8の光軸を中心に散開する。
【0056】
回転多面鏡7に対してこのように設置されたレーザ光の走査系が2系統存在し、両者の設置位置は異なり、両者に設定されている所定の回転角度も異なった値となっているが、回転多面鏡7で反射されたレーザ光B4はいずれもfθレンズ8の光軸を通るように各系統の所定の回転角度が設定されている。fθレンズ8は前側焦点がこれら2系統の所定の回転角度に対応する反射点の付近に存在するように設置されている。そして、fθレンズ8を経たレーザ光はワーク9の所定位置に照射される。
【0057】
[レーザ加工の制御]
本実施形態では、上述のように、複数のレーザ光の偏向系である第1偏向系30a及び第2偏向系30bを備えている。制御部11は、レーザ発振器1、レーザ光分配器2、駆動部31及び回転多面鏡7を制御可能である。そして、制御部11は、複数の偏向系のうち、何れか1つの偏向系により偏向されたレーザ光をワーク9の加工位置に射出している間に、他の1つの偏向系により偏向されるレーザ光がワーク9の次の加工位置に向くように駆動部31を構成する第1アクチュエータ32a、第2アクチュエータ33aを制御する。
【0058】
即ち、制御部11は、レーザ発振器1、レーザ光分配器2、第1偏向系30a及び第2偏向系30bを制御することで、第1偏向系30a及び第2偏向系30bにレーザ光を各々所定のタイミングで順次入射することを繰り返す。そして、第1偏向系30a及び第2偏向系30bのうちの一方のレーザ光の偏向系は、他方のレーザ光の偏向系が位置決め状態でレーザ光を射出している間に次の加工位置に狙いを定めるように第1ミラー4a又は4b、第2ミラー5a又は5bの位置決めを行う。
【0059】
また、レーザ光走査装置100の各構成要素の形状、配置は、上述のように、第1偏向系30a及び第2偏向系30bのそれぞれの偏向系から出射するレーザ光が回転多面鏡7に入射し、回転多面鏡7の反射面上の反射点付近を偏向点として集結し散開するように定められている。このため、上述のように、各々所定のタイミングで回転多面鏡7の反射面で反射したレーザ光は、反射面上の反射点付近を前側焦点とするfθレンズ8に入射し、ワーク9の所定位置に照射される。
【0060】
図7を用いて具体的に説明する。図7は、本実施形態のレーザ加工の制御におけるタイムチャートである。上から1番目のグラフは、横軸を時間、縦軸を回転多面鏡7の反射面の傾角としたグラフであり、回転多面鏡7がa系統(第1偏向系30a)、b系統(第2偏向系30b)の所定の回転角度に対応する反射面傾角になる時点をマーカーで示してある。これらの時点において、ワーク9の所定位置に対する照射位置にそれぞれの偏向系の第1ミラー4a又は4b、第2ミラー5a又は5bが位置決めされる。
【0061】
2、3段目のグラフは、それぞれa系統の照射位置のx座標、y座標の時間的変化を示すグラフである。4、5段目のグラフはそれぞれb系統照射位置のx座標、y座標の時間的変化を示すグラフである。第1ミラー4a又は4b、第2ミラー5a又は5bは、回転多面鏡7が各偏向系の所定の回転角度になる時点、即ち、図中のマーカーで示した時点までに照射位置に対応する位置決めを完了する。6、7段目のグラフは、ワーク9の加工位置に対するレーザの照射、即ち、レーザショットを示す。回転多面鏡7が各系統の所定の回転角度になる時点でレーザショットが行われる。
【0062】
このように本実施形態のレーザ光走査装置100を備えたレーザ加工装置200は、レーザ発振器1から出射されたレーザ光をワーク9の所定の加工位置へと偏向する。即ち、
レーザ発振器1から出射されるレーザ光をレーザ光分配器2により、タイミングを制御しつつ複数の光路B1a、B1bに分配し、各光路に対応する2方向偏向を行う第1偏向系30a又は第2偏向系30bに入射させる。
【0063】
各偏向系では、一方向には形状が変化しない凹面形状の第1ミラー4a又は4bを設けた第1のアクチュエータミラーがあって、第1ミラー4a又は4bに入射されるレーザ光と垂直かつ第1ミラー4a又は4bの非湾曲方向とも垂直な方向へ、第1ミラー4a又は4bが駆動される。
【0064】
その後段には、第1ミラー4a又は4bの出射光が入射する第2ミラー5a又は5bを設けた第2のアクチュエータミラーがある。第2ミラー5a又は5bは、反射面が一方向には形状が変化しない凹面形状で非湾曲方向が第1ミラー4a又は4bに入射されるレーザ光と平行である。第2ミラー5a又は5bは、第1ミラー4a又は4bに入射されるレーザ光及び第1ミラー4a又は4bの駆動方向の双方に垂直な方向へ駆動される。本実施形態では、各偏向系がこのような一対の曲面ミラー駆動システムを備えて、出射光が2次元走査によらずほぼ空間の一点(偏向点)を通るようにしている。
【0065】
全ての偏向系30a、30bは、レーザ光の出射の各タイミングで選択された偏向系からの出射光が回転多面鏡7の反射点に入射すると共に、反射後はfθレンズ8に入射するように配置されている。反射点はfθレンズ8の前側焦点とほぼ一致しておりfθレンズ8の出射光が垂直にワーク9に入射するように構成されている。
【0066】
制御部11は、回転多面鏡7の回転に同期して、各偏向系30a、30bのうちの位置決め状態にある一つの偏向系の出射光の光路が回転多面鏡7の鏡面で反射されてワーク9上の所定の加工位置に照射されるタイミングで、該当する光路にレーザ光を射出させる。
【0067】
本実施形態では、これによって、アクチュエータミラーの位置決めに要する時間に基づく限界を越える頻度でレーザ光の走査位置決め射出を可能としている。即ち、偏向系が1つの場合、或る位置の加工が終わった後に次の位置にミラーの位置決めを行う場合、このミラーの位置決めに要する時間に基づく頻度で加工が順次行われることになる。これに対して本実施形態では、第1偏向系30a及び第2偏向系30bの2系統の偏向系を有することで、一方の偏向系は、他の偏向系が位置決めされた状態でレーザ光を射出している間に、次の加工位置に向けて位置決めを行える。したがって、ミラーの位置決めに要する時間に基づく頻度よりも多い頻度で、加工位置の変更ができる。この結果、本実施形態のレーザ光走査装置100を組み込んだレーザ加工装置200によれば、高い加工生産性を実現できる。
【0068】
<第2の実施形態>
第2の実施形態について、図1を参照しつつ、図8及び図9を用いて説明する。上述の第1の実施形態と異なる点は、レーザ光の偏向系をa系統からd系統まで4系統装備している点である。その他の構成及び作用、特に、各偏向系の構成及び作用は、上述の第1の実施形態と同様である。このため、同様の構成には同じ符号を付して説明及び図示を省略又は簡略にし、以下、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0069】
図8は、本実施形態のレーザ光走査装置100Aの構成のうち、第1、第2、第3、第4偏向系30a、30b、30c、30dから回転多面鏡7、fθレンズ8を経てワーク9にいたる部分を示す図である。本実施形態では、複数の偏向手段として、第1~第4偏向系30a~30dを有し、これら各偏向系は、上述の第1偏向系30a及び第2偏向系30bと同様の構成を有する。即ち、第1~第4偏向系30a~30dは、互いに、第1の偏向手段と第2の偏向手段の関係を有する。また、本実施形態のレーザ光分配器2(図1参照)は、レーザ発振器1から発振されたレーザ光を4つの光路にレーザ光の光路を切り替える。即ち、レーザ光分配器2は、レーザ発振器1から発振されたレーザ光が入射され、入射されたレーザ光を4つの光路の何れかに向けて選択的に出射可能である。これら4つの光路は、互いに、第1の光路と第2の光路の関係を有する。
【0070】
レーザ発振器1からのレーザ光は、回転多面鏡7の回転に同期して、a~dの4系統の偏向系30a、30b、30c、30のそれぞれについて定められている所定の回転角度となったタイミングで発射され、レーザ光分配器2でa~d系統の光路B1a~B1dまで順番に振り分けられる。レーザ光は、各偏向系30a~30dで2方向に偏向された後、各系統の第2ミラー5a、5b、5c、5dのそれぞれから出射される。偏向系30a、30b、30c、30は、それぞれ第1ミラー及びこれを駆動するアクチュエータ、第2ミラー5a、5b、5c、5d及びこれを駆動するアクチュエータ33a、33b、33c、33dを有する。
【0071】
図8では、各偏向系で駆動される第1ミラー及び第2ミラー5a~5dが中立位置にあるときのレーザ光B3a、B3b、B3c、B3dを示している。これら中立位置での出射レーザ光が回転多面鏡7の反射面に入射し、反射面の傾角がそれぞれ異なる位置で反射されたレーザ光が、すべてfθレンズ8の光軸を通るレーザ光B4となるように、各偏向系の構成要素が配置されている。
【0072】
第1ミラー及び第2ミラー5a~5dが中立位置から変位した場合には、B3aからB3dで示すレーザ光も変位するが、第1ミラー及び第2ミラー5a~5dの作用により、回転多面鏡7の反射面上の反射点付近でビームが集結し、fθレンズ8に向けてレーザ光が散開する。fθレンズ8の前側焦点がこの反射点付近に設定されているので、fθレンズ8から出射するレーザ光B5は、テーブル10に搭載されたワーク9にほぼ垂直に入射し加工が行われる。
【0073】
本実施形態の場合も、制御部11は、レーザ発振器1、レーザ光分配器2、第1~第4偏向系30a~30dを制御することで、各偏向系30a~30dにレーザ光を各々所定のタイミングで順次入射することを繰り返す。そして、複数の偏向系30a~30dのうち、何れか1つの偏向系により偏向されたレーザ光をワーク9の加工位置に射出している間に、他の1つの偏向系により偏向されるレーザ光がワーク9の次の加工位置に向くようにする。即ち、何れか1つの偏向系の第1ミラー及び第2ミラーが位置決め状態でレーザ光を射出している間に、他の1つの偏向系は、次の加工位置に狙いを定めるように第1ミラー及び第2ミラーの位置決めを行う。
【0074】
なお、上述の何れか1つの偏向系及び他の1つ偏向系以外の残りの1つ又は2つの偏向系については、何れか1つの偏向系によるレーザ光の照射中に、次の次の加工位置、更に次の加工位置にミラーの位置決めを行うようにしても良い。要は、偏向系が3つ以上ある場合に、何れか1つの偏向系によるレーザ加工が行われている間に、他の偏向系については、加工位置の順番に応じた位置に予めミラーの位置決めを行うようにしても良い。
【0075】
図9は、本実施形態のレーザ加工の制御におけるタイムチャートである。上から1番目のグラフは、横軸を時間、縦軸を回転多面鏡7の反射面の傾角としたグラフであり、回転多面鏡7がa系統、b系統、c系統、d系統の所定の回転角度に対応する反射面傾角になる時点をマーカーで示してある。これらの時点において所定の照射位置にレーザ光を偏向する位置にそれぞれの偏向系の第1ミラー及び第2ミラーが位置決めされる。
【0076】
2、3段目のグラフは、それぞれa系統照射位置のx座標、y座標の時間的変化を示すグラフであり、4、5段目のグラフはそれぞれb系統照射位置のx座標、y座標の時間的変化を示すグラフであり、6、7段目のグラフはそれぞれc系統照射位置のx座標、y座標の時間的変化を示すグラフであり、8、9段目のグラフはそれぞれd系統照射位置のx座標、y座標の時間的変化を示すグラフである。
【0077】
各偏向系の第1ミラー及び第2ミラーは、回転多面鏡7が各偏向系の所定の回転角度になる時点、即ち、図中のマーカーで示した時点までに照射位置に対応する位置決めを完了する。10、11、12、13段目のグラフは、各系統のレーザショットを示す。回転多面鏡7が各系統の所定の回転角度になる時点でレーザショットが行われる。
【0078】
本実施形態では、第1の実施形態に比べて2倍の系統の偏向系が設けられており、図7図9の時間軸を同一スケールとすれば、単位時間当たりのレーザショット数も2倍に増大できるが、それぞれのアクチュエータミラーの位置決め時間は短縮する必要は無く、走査系の系統数を増やすことで加工効率を向上できる。
【0079】
<他の実施形態>
上述の第1の実施形態では2系統の、第2の実施形態では4系統のレーザ光の偏向系を設けたが、偏向系の数はこれに限らない。また、偏向系において駆動されるミラーの数は、上述の2個に限らず、1個、或いは、3個以上であっても良い。更に、各偏向系が有するミラーは、上述のように凹面形状のミラー以外に、平面状や凸面状のミラーでも良いし、アクチュエータミラーは、一般的なガルバノスキャナミラーであっても良い。
【符号の説明】
【0080】
1:レーザ発振器
2:レーザ光分配器(選択手段)
3:レーザ光偏向部
4a、4b:第1ミラー
5a、5b、5c、5d:第2ミラー
7:回転多面鏡(反射手段)
8:fθレンズ
9:ワーク(走査対象物)
11:制御部
30a:第1偏向系(偏向手段)
30b:第2偏向系(偏向手段)
30c:第3偏向系(偏向手段)
30d:第4偏向系(偏向手段)
31:駆動部(駆動手段)
32a、32b:第1アクチュエータ(第1移動手段)
33a、33b:第2アクチュエータ(第2移動手段)
100:レーザ光走査装置
200:レーザ加工装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9