(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】活性炭素繊維材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/30 20170101AFI20240919BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20240919BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240919BHJP
D01F 9/12 20060101ALI20240919BHJP
D01F 9/16 20060101ALI20240919BHJP
F02M 25/08 20060101ALI20240919BHJP
B01J 20/30 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
C01B32/30
B01J20/20 B
B01J20/20 D
B01J20/28 Z
D01F9/12 501
D01F9/16 521
F02M25/08 311D
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2021059517
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】柳 棟▲ヨン▼
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 佳英
(72)【発明者】
【氏名】今井 大介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 由生
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0073838(KR,A)
【文献】特開2015-048256(JP,A)
【文献】特開2017-164741(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051680(WO,A1)
【文献】特開2013-147768(JP,A)
【文献】特開昭62-158108(JP,A)
【文献】特開2019-218943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/39
B01J 20/00 - 20/34
D01F 9/12
D01F 9/16
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が2580~3200m
2/gであ
り、
全細孔容積が0.95~2.00cm
3
/gであり、
平均細孔径が1.90~4.00nmであり、
マイクロ孔容積に占めるウルトラマイクロ孔容積の存在比率R
0.7/2.0
が、5.0~20.0%であり、
100%n-ブタンに対する有効吸脱着量率が40.0wt%以上である、
活性炭素繊維材料。
【請求項2】
ウルトラマイクロ孔容積が、0.07~0.15cm
3
/gである、請求項1に記載の活性炭素繊維材料。
【請求項3】
キャニスタ用吸着材である、請求項1または2に記載の活性炭素繊維材料。
【請求項4】
請求項1または2に記載の活性炭素繊維材料を備える、キャニスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、活性炭素繊維材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン車では外気温変化等に伴い燃料タンク内の圧力が変動し、燃料タンク内に充満した蒸散燃料ガスが燃料タンクから放出される。放出される蒸散燃料ガスは、PM2.5や光化学スモッグの原因物質のひとつとされており、これを大気中に放出することを防ぐために、活性炭などの吸着材を備えたキャニスタが設けられている。(以下、本明細書では、自動車に搭載されるキャニスタのことを、「自動車キャニスタ」または単に「キャニスタ」と略称する場合がある。)
【0003】
近年の環境保全意識の高まりに伴い、ガスの排出規制は年々強化される傾向にあるため、キャニスタについても、より高い吸着性能が求められている。また、アイドリングストップ等の普及により、自動車の吸気能力は抑制される傾向にあるため、キャニスタ内の吸着材に吸着したガソリンが脱着しづらい傾向にある。そのため、キャニスタに用いられる吸着材のさらなる高性能化が求められている。キャニスタに用いられる吸着材としては活性炭が用いられており、その形状としては粒状、ペレット状、又はハニカム形状に成型されたものなどが提案されている(例えば、特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
古くからある粉状、粒状の活性炭に対して、活性炭素繊維(または繊維状活性炭)は、第三の活性炭と呼ばれる場合がある。活性炭素繊維は、広義の活性炭の中でも、外表面に直接微細孔が開口し、吸脱着速度が速い傾向を有すると言われている。しかしながら、活性炭素繊維はキャニスタに実用化されるに至っておらず、どのような特性を有する活性炭素繊維がキャニスタの実用に適しているのかは、未だ十分に研究、開発が進んでいない。
【0006】
吸着材の開発においては、様々な物理的特性および性能が検討される。吸着材において比表面積は、最も基本的な指標の1つであり、活性炭素繊維の場合も同様である。にもかかわらず、活性炭素繊維の場合、その比表面積は最大でも2500m2/g程度のものが多く、2580m2/g以上のものを製造することは技術的に困難であった。そのため、比表面積が2580m2/g以上の活性炭素繊維についての物性や性能は未だ詳細には確かめられていない。しかして、比表面積が2580m2/g以上の活性炭素繊維が、ガソリンの蒸散により生じる蒸散燃料ガスに対する特性が重要視されるキャニスタに適したものであるか否かも不明であった。
【0007】
以上のような状況に鑑み、解決しようとする課題の1つは、比表面積が2580m2/g以上の活性炭素繊維材料およびその製造方法を提供することにある。
また、解決しようとする更なる課題の1つは、ガソリンから生じうる高濃度の蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能に優れた活性炭素繊維材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、比表面積が2580m2/g以上の活性炭素繊維材料の製造を鋭意研究したところ、炭化処理および賦活処理を行った後、さらに所定温度で追加の炭化処理を行うことにより、2580m2/g以上の活性炭素繊維材料を得ることに成功した。そして、得られた2580m2/g以上の活性炭素繊維材料は、ガソリンから生じうる高濃度の蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能に優れることを見出した。
【0009】
本開示中に提示される発明は、係る知見に基づき成されたものであり、多面的にいくつかの態様として把握しうるところ、課題を解決するための手段として、例えば、下記のものを含む。
【0010】
〔1〕 比表面積が2580~3200m2/gである、活性炭素繊維材料。
〔2〕 全細孔容積が0.95~2.00cm3/gである、上記〔1〕に記載の活性炭素繊維材料。
〔3〕 キャニスタ用吸着材である、上記〔1〕または〔2〕に記載の活性炭素繊維材料。
〔4〕 上記〔1〕または〔2〕に記載の活性炭素繊維材料を備える、キャニスタ。
〔5〕 比表面積が2580m2/g以上の活性炭素繊維材料の製造方法であって、下記(A)および(B):
(A)リン酸系触媒若しくは有機スルホン酸系触媒のいずれか一方または双方を保持させた前駆体繊維シートを、最大温度910℃未満の条件下で第1の炭化処理および第1の賦活化処理を施し第1の活性炭素繊維材料を得ることと、
(B)前記第1の活性炭素繊維材料を、最大温度910℃以上の条件下で第2の炭化処理を施すことと、
を含む、方法。
〔6〕 比表面積を2580m2/g以上の活性炭素繊維材料の製造方法であって、
比表面積が2580m2/g未満の活性炭素繊維材料を、最大温度910℃以上の条件下で追加炭化処理し、比表面積が2580m2/g以上の活性炭素繊維材料に改造する、方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、比表面積が2580m2/g以上の活性炭素繊維材料およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明の一態様によれば、ガソリンから生じうる高濃度の蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能に優れた活性炭素繊維材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、複数のシート状成形吸着体が重ね合わされて成る積層吸着体の一例と、当該積層吸着体を通過する流体の流れ方向の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本開示において、特に断らない限り、数値範囲に関し、「AA~BB」という記載は、「AA以上BB以下」を示すこととする(ここで、「AA」および「BB」は任意の数値を示す)。また、下限および上限の単位は、特に断りない限り、後者(すなわち、ここでは「BB」)の直後に付された単位と同じである。また、本開示において、「Xおよび/またはY」との表現は、XおよびYの双方、またはこれらのうちのいずれか一方のことを意味する。
【0014】
1.活性炭素繊維材料
本開示による活性炭素繊維材料の一実施形態は、比表面積が2580m2/g以上の活性炭素繊維材料でありうる。また、本開示による活性炭素繊維材料の他の一実施形態は、比表面積が2580~3200m2/gの活性炭素繊維材料でありうる。
【0015】
<比表面積>
活性炭素繊維材料の比表面積の下限値は、少なくとも2570m2/gより大きく、好ましくは2580m2/g以上、より好ましくは2600m2/g、更に好ましくは2650、2680、または2700m2/g以上でありうる。
【0016】
高比表面積を有する活性炭素繊維は、ガソリンからの蒸散燃料ガスに対する吸着材として好適なものとなりうる。ガソリンからの蒸散燃料ガスの成分は、揮発性有機化合物(VOC:Volatile organic compound)とも言われる。自動車などのガソリンエンジンでは、例えば、n-ブタンに対する吸脱着性能が評価指標とされる場合がある。本開示による活性炭素繊維材料の一実施形態は、高比表面積を有しており、高濃度蒸散燃料ガス、例えば、高濃度のn-ブタンに対する吸着材として好適である。よって、本開示による活性炭素繊維材料は、一実施形態として、キャニスタ用吸着材として好適に用いうる。
【0017】
上記のような高比表面積を有する活性炭素繊維材料は、以下に詳説する製造方法によって作ることができ、比表面積の上限値は、高濃度の蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能という観点からは必ずしも限定しなくてもよいが、概ね3200、3100、3000、2950、2900、2850、または2800m2/g以下でありうる。
【0018】
本開示における活性炭素繊維材料は、さらに下記の所定の項目のうちの任意の1つ又は任意の2つ以上の条件を満たすことにより、より好ましい実施形態でありうる。
【0019】
<全細孔容積>
本開示による活性炭素繊維材料の全細孔容積の下限値は、好ましくは0.95cm3/g以上、より好ましくは1.00cm/g以上、更に好ましくは1.05、1.10、1.20、または1.30cm3/g以上でありうる。
本開示による活性炭素繊維材料の全細孔容積の上限値は、好ましくは2.00cm3/g以下、1.90、1.80、1.70、または1.60cm3/g以下でありうる。
全細孔容積が上記のような範囲内にあると、高濃度の蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能について優れた活性炭素繊維材料として好適でありうる。
【0020】
<平均細孔径(平均細孔直径)>
本開示において、「細孔径」との用語は、特に明示しない限り、細孔の半径ではなく、細孔の直径又は幅のことを意味する。
本開示による活性炭素繊維材料の平均細孔径の下限値は、好ましくは1.80nm以上、より好ましくは1.90nm以上、更に好ましくは1.95、または2.00nm以上でありうる。
本開示による活性炭素繊維シートの平均細孔径の上限値は、好ましくは4.00nm以下、より好ましくは3.50nm以下、更に好ましくは3.00、2.50、2.30nm以下でありうる。
平均細孔径が上記のような範囲内にあると、高濃度の蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能について優れた活性炭素繊維材料として好適でありうる。
【0021】
<ウルトラマイクロ孔容積:V0.7>
本発明において「ウルトラマイクロ孔」との用語は、細孔径が0.7nm以下の細孔を意味する。
本開示による活性炭素繊維材料のウルトラマイクロ孔容積の下限値は、好ましくは0.05cm3/g以上、より好ましくは0.07cm3/g以上、更に好ましくは0.10cm3/g以上でありうる。
本開示による活性炭素繊維材料のウルトラマイクロ孔容積の上限値は、好ましくは0.20cm3/g以下、より好ましくは0.18cm3/g以下、更に好ましくは0.15cm3/g以下でありうる。
ウルトラマイクロ孔容積が上記のような範囲内にあると、高濃度の蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能について優れた活性炭素繊維材料として好適である。
【0022】
<マイクロ孔容積:V2.0>
本開示において「マイクロ孔」との用語は、細孔径が2.0nm以下の細孔を意味する。
本開示による活性炭素繊維材料のマイクロ孔容積の下限値は、好ましくは0.50cm3/g以上、より好ましくは0.60、0.65、または0.70cm3/g以上、更に好ましくは0.75cm3/g以上でありうる。
本発明の活性炭素繊維シートのマイクロ孔容積の上限値は、好ましくは1.40、1.20、1.00cm3/g以下、より好ましくは0.90cm3/g以下、更に好ましくは0.80cm3/g以下でありうる。
マイクロ孔容積が上記のような範囲内にあると、高濃度の蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能について優れた活性炭素繊維材料として好適である。
【0023】
<細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下の細孔の細孔容積:V0.7-2.0>
細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下の細孔の細孔容積V0.7-2.0は、ウルトラマイクロ孔容積の値aとマイクロ孔容積の値bとを用い、下記式1によって求めることができる。
【0024】
<式1>
V0.7-2.0=b-a
【0025】
本開示による活性炭素繊維材料において、細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下の細孔の細孔容積V0.7-2.0の下限値は、好ましくは0.20cm3/g以上、より好ましくは0.30、0.40、0.50、または0.55cm3/g以上、更に好ましくは0.58、または0.60cm3/g以上でありうる。
本開示による活性炭素繊維シートにおいて、細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下の細孔の細孔容積V0.7-2.0の上限値は、好ましくは1.20cm3/g以下、より好ましくは1.00cm3/g以下、更に好ましくは、0.90、0.80、0.75、または0.70cm3/g以下でありうる。
細孔容積V0.7-2.0が上記のような範囲内にあると、蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能について優れた活性炭素繊維材料として好適でありうる。
【0026】
<マイクロ孔の容積に占めるウルトラマイクロ孔の容積の存在比率:R0.7/2.0>
細孔径が2.0nm以下であるマイクロ孔の細孔容積に占める、細孔径が0.7nm以下であるウルトラマイクロ孔の細孔容積の存在比率R0.7/2.0は、ウルトラマイクロ孔容積の値aとマイクロ孔容積の値bとを用い、下記式2によって求めることができる。
【0027】
<式2>
R0.7/2.0=a/b×100(%)
【0028】
本開示による活性炭素繊維材料において、マイクロ孔容積に占めるウルトラマイクロ孔容積の存在比率R0.7/2.0の下限値は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは10.0%以上、更に好ましくは12.0または13.0%以上でありうる。
本開示による活性炭素繊維材料において、マイクロ孔容積に占めるウルトラマイクロ孔容積の存在比率R0.7/2.0の上限値は、好ましくは60.0、50.0、または40.0%以下、より好ましくは30.0、または25.0%以下、更に好ましくは20.0、18.0、17.0、16.0、または15.0%以下でありうる。
ウルトラマイクロ孔容積の存在比率R0.7/2.0が上記のような範囲にあると、高濃度の蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能について優れた活性炭素繊維材料として好適でありうる。
【0029】
<密度>
本開示による活性炭素繊維材料の密度の下限値は、好ましくは0.010g/cm3以上、より好ましくは0.020g/cm3以上、更に好ましくは0.030、0.040、0.050、0.060g/cm3以上でありうる。
本開示による活性炭素繊維シートの密度の上限値は、好ましくは0.200g/cm3以下、より好ましくは0.150g/cm3以下、更に好ましくは0.120、0.100、0.090、0.080、0.070g/cm3以下でありうる。
【0030】
密度が上記のような範囲内にあると、キャニスタ内に収納できる吸着材の容量の範囲内において、キャニスタ用に要求される体積当たりの吸脱着性能について優れた吸着材として用いうる。また、上記の下限値以上とすることにより、活性炭素繊維材料の機械的特性(例えば、強度など)が低下することを避けることができる。また、活性炭素繊維材料の密度は、活性炭素繊維材料の厚みや、キャニスタ内収納時の圧縮程度など他の要件と併せて調製することにより、活性炭素繊維材料の圧力損失を抑制できることができる。
【0031】
活性炭素繊維材料の厚みおよび密度は、前駆体の繊維の種類や、原料シートの厚み、密度などを調整したり、活性炭素繊維シートを押圧するなどの処理によって、調整することができる。
【0032】
<n-ブタン吸脱着性能>
本開示による活性炭素繊維材料は、吸着材として、所定のn-ブタン吸脱着性能を有することが好ましい。n-ブタン吸脱着性能は、蒸散燃料ガスの吸脱着性能の指標となるため、n-ブタンの吸脱着性能が優れるものは、自動車キャニスタ用途に好適である。n-ブタン吸脱着性能は、n-ブタンを十分に吸収破過させた後、所定の脱着条件下に置いたときに吸着材から脱離させた後、吸着を繰り返す際の吸着量を、活性炭素繊維材料重量当たりのn-ブタンの有効吸着量として示すことができる。
【0033】
本開示による活性炭素繊維材料の好ましい形態としては、下記実施例において示した測定方法に従って求められるn-ブタンの「有効吸脱着量」は、好ましくは1.50g以上、より好ましくは2.00g以上、更に好ましくは2.30g以上でありうる。
【0034】
本開示による活性炭素繊維材料の好ましい形態としては、下記実施例において示した測定方法に従って求められるn-ブタンの「有効吸脱着量率」が、好ましくは30.0wt%以上、より好ましくは40.0wt%以上、さらに好ましくは45.0、50.0、55.0、または60.0wt%以上でありうる。
【0035】
本開示による活性炭素繊維材料の好ましい形態としては、下記実施例において示した測定方法に従って求められるn-ブタンの「有効吸脱着率」が、好ましくは70.0%以上、より好ましくは77.0%以上、さらに好ましくは80.0、83.0、または85.0%でありうる。
【0036】
本開示による活性炭素繊維材料は、特にその外形に限定はないが、一般に不織布シートなどのシート原料を炭化および賦活化して製造されることが多く、シート状の形状を有しうる。本開示において、シート状の活性炭素繊維材料のことを、活性炭素繊維シートともいう。
【0037】
また、本開示の他の実施形態として、自動車キャニスタの吸着材室に収納用の吸着積層体が提供されうる。当該吸着積層体は、上記の活性炭素繊維シートが複数重ね合わされた積層体である。
【0038】
図1に、本発明の吸着積層体の一実施形態を示す。なお、シートの長さ、厚みなどの寸法は模式的に表現されており、これに限定されるわけではない。またシートの枚数は、例として4枚としているがこれに限定されるわけではない。
【0039】
図1に示す吸着積層体1は、4枚の活性炭素繊維シート10を重ね合わせて成る積層体である。活性炭素繊維シート10は、シートの主面10aを相互に重ね合わせて形成されている。
【0040】
また、吸着積層体は全体として、直方体形状であっても、立方体形状であってもよい。また、活性炭素繊維シートを収納する吸着材室の形状に合わせたり、活性炭素繊維シートを丸めて、吸着積層体を円筒状にしてもよい。このように本発明の活性炭素繊維シートは、容易に様々な形状に加工または成形することができ、取扱い性に優れた材料である。
【0041】
2.キャニスタ
本開示による活性炭素繊維材料は、自動車キャニスタに収納される吸着材として好適である。すなわち、本開示は、本発明の他の一実施形態として、自動車キャニスタも提供する。
【0042】
本開示の自動車キャニスタは、吸着材として活性炭素繊維材料を搭載したものである。自動車キャニスタの構造については、特に制限はなく、一般的な構造のものを採用しうる。例えば、自動車キャニスタとしては、以下のような構造を有するものが挙げられる。
【0043】
<キャニスタの第1実施形態>
筐体と、
筐体内において吸着材を収納する吸着材室と、
吸着材室とエンジンとの間をガスが移動可能に連通するための第1の開口部と、
吸着材室と燃料タンクとの間をガスが移動可能に連通するための第2の開口部と、
吸着材室または外気から所定の圧力が負荷されたときに開口し、吸着材室と外気との間をガスが移動可能に連通するための第3の開口部と、
を備えるキャニスタ。
【0044】
第1、第2、および第3の各開口部は、ガスが出たり入ったりする送出入口である。ガスの送出入口である各開口部の配置は、特に制限はないが、外気の送出入口である第3の開口部は、第1および/または第2の開口部との間でガスが移動する際に、ガスが吸着材を十分に通過する位置に配置されることが好ましい。例えば、第1および第2の開口部を、筐体の第1の側面部に設け、第3の開口部を第1の側面部の対面に位置する第2の側面部に設けるなどの実施形態を採りうる。
【0045】
吸着材室は、複数の室に分けて設けてもよい。例えば、吸着材室は、隔壁により2又はそれ以上の区画に区分けされていてもよい。隔壁としては、通気性のある多孔板などを用いうる。また、第1の筐体とは別に外付けの第2筐体を設け、第1の筐体と第2の筐体とをガス通路を介して連通するようにして、吸着材室を追加装備してもよい。このように複数の区画または筐体が設けられる場合、好ましい一実施形態として、各区画又は筐体単位で、エンジン又は燃料タンクからガスが流入する第1又は第2の開口部から、第3の開口部側へ向かって、吸着容量が順次小さくなるように、吸着材または吸着材室を配置しうる。
【0046】
本開示によるキャニスタの他の実施形態としては、例えば、次のように吸着材室を複数有する形態が挙げられる。
<キャニスタの第2実施形態>
吸着材を収納する主室および副室を備える自動車用のキャニスタであって、
前記主室は、前記副室よりも、前記吸着材を収納する容積が大きく、且つ、燃料タンクに連通する開口部または内燃機関に連通する開口部により近い位置に配置されており、
前記副室は、前記主室よりも、前記吸着材を収納する容積が小さく、且つ、外気へ連通する開口部により近い位置に配置されており、
前記主室に、比表面積が2580~3200m2/gである活性炭素繊維が収納されている、キャニスタ。
【0047】
<キャニスタの第2実施形態の変形例>
上記第2の実施形態において、前記副室に、比表面積が2580m2/g未満の活性炭素繊維材料が収納されている、キャニスタ。
【0048】
本開示による活性炭素繊維材料は、高濃度のn-ブタンに対する吸脱着性能が高い。そのため、キャニスタにおいて、高濃度の蒸散燃料ガスに接触する機会の多い部分に本開示による活性炭素繊維材料を収納することが有利な実施形態となりうる。上記の第2の実施形態では、主室に本開示による活性炭素繊維材料が納められている。これに対し、副室に収納する吸着材は、低濃度のn-ブタンに対する吸脱着性能に優れたものを収納することが好適でありうる。
【0049】
3.活性炭素繊維材料の製造方法
上記本開示による活性炭素繊維材料は、繊維材料を炭化、賦活化して製造することができる。なお、本開示において、炭化、賦活化する前の繊維のことを、「前駆体繊維」といい、前駆体繊維で形成されているシートのことを、「前駆体繊維シート」という。本開示において、「繊維径」との用語は、特に明示しない限り、繊維の半径ではなく、繊維の直径又は幅のことを意味する。また、活性炭素繊維に係る「繊維径」は、炭化、賦活化後の活性炭素材料の繊維に対して用いる。
【0050】
本開示による活性炭素繊維材料の製造方法の好ましい一実施形態として、例えば、下記(A)および(B)を含む方法が挙げられる。
(A)リン酸系触媒若しくは有機スルホン酸系触媒のいずれか一方または双方を保持させた前駆体繊維シートを、最大温度910℃未満の条件下で第1の炭化処理および第1の賦活化処理を施し第1の活性炭素繊維材料を得ること。
(B)前記第1の活性炭素繊維材料を、最大温度910℃以上の条件下で第2の炭化処理を施すこと。
【0051】
上記(A)の処理のみでは、2580m2/g以上の高比表面積を有する活性炭素繊維を得ることは困難であった。しかし、上記(B)の処理を加えることにより、高比表面機の活性炭素繊維を容易に得ることができる。上記(B)の処理を加えることにより、製造プロセスが増えることにはなるものの、操作としては炭化処理の1種であるから、新たな製造装置を用意せずとも既存の装置を用いて実施することが可能である。
【0052】
本開示による活性炭素繊維材の製造方法の実施形態の例として、活性炭素繊維シートの製造方法を、下記に示す。
【0053】
3-1.原料シート(前駆体繊維シート)の調製
<繊維の種類>
原料シートを構成する繊維としては、例えば、セルロース系繊維、ピッチ系繊維、PAN系繊維、フェノール樹脂系繊維などが挙げられ、好ましくはセルロース系繊維が挙げられる。
【0054】
<セルロース系繊維>
セルロース系繊維とは、セルロース及び/又はその誘導体を主成分として構成される繊維である。セルロース、セルロース誘導体は、化学合成品、植物由来、再生セルロース、バクテリアが産生したセルロースなど、その由来はいずれであってもよい。セルロース系繊維として好ましくは、例えば、樹木などから得られる植物系セルロース物質で形成された繊維、および、植物系セルロース物質(綿、パルプなど)に化学処理を施して溶解させて得られる長い繊維状の再生セルロース系物質から構成された繊維などを用いうる。また、この繊維には、リグニンやヘミセルロースなどの成分が含まれていても構わない。
【0055】
セルロース系繊維(植物系セルロース物質、再生セルロース物質)の原料としては、例えば、綿(短繊維綿、中繊維綿、長繊維綿、超長綿、超・超長綿など)、麻、竹、こうぞ、みつまた、バナナ、および被嚢類などの植物性セルロース繊維;銅アンモニア法レーヨン、ビスコース法レーヨン、ポリノジックレーヨン、竹を原料とするセルロースなどの再生セルロース繊維;有機溶剤(NメチルモルフォリンNオキサイド)紡糸される精製セルロース繊維;並びに、ジアセテートやトリアセテートなどのアセテート繊維、などが挙げられる。これらの中では、入手のし易さから、キュプラアンモニウムレーヨン、ビスコース法レーヨン、精製セルロース繊維から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
【0056】
セルロース系繊維の形態は、特に限定されるものではなく、目的に合わせて、原糸(未加工糸)、仮撚糸、染色糸、単糸、合撚糸、カバリングヤーン等に調製したものを用いることができる。また、セルロース系繊維が2種以上の原料を含む場合には、混紡糸、混撚糸等としてもよい。さらに、セルロース系繊維として、上記した各種形態の原料を、単独でまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの中では、複合材料の成型性や機械強度の両立から無撚糸であることが好ましい。
【0057】
<繊維シート>
繊維シートは、多数の繊維を薄く広いシート状に加工したもののことをいい、織物、編み物、および不織布などが含まれる。
【0058】
セルロース系繊維を製織する方法について特に制限はなく、一般的な方法を用いることができ、また、その織地の織組織も、特に制限はなく、平織、綾織、朱子織の三原組織を用いうる。
【0059】
セルロース系繊維で形成された織物は、セルロース系繊維の経糸及び緯糸同士の隙間が、好ましくは0.1~0.8mm、より好ましくは0.2~0.6mm、さらに好ましくは0.25~0.5mmでありうる。さらに、セルロース系繊維からなる織物の目付は、好ましくは50~500g/m2、より好ましくは100~400g/m2でありうる。
【0060】
セルロース系繊維及びセルロース系繊維からなる織物を上記範囲とすることにより、この織物を加熱処理して得られる炭素繊維織物は、強度に優れたものとすることができる。
【0061】
不織布の製造方法も、特に限定されないが、例えば、適当な長さに切断された前述の繊維を原料とし乾式法または湿式法などを用いて繊維シートを得る方法や、エレクトロスピニング法などを用いて溶液から直接繊維シートを得る方法などが挙げられる。さらに不織布を得た後に繊維同士を結合させる目的でレジンボンド、サーマルボンド、スパンレース、ニードルパンチ等による処理を加えてもよい。
【0062】
3-2.触媒
上記のようにして用意された原料シートに、触媒を保持させる。原料シートに触媒を保持させて炭化処理を行い、さらに水蒸気や二酸化炭素、空気ガス等を用いて賦活化し、多孔質の活性炭素繊維シートを得ることができる。触媒としては、例えば、リン酸系触媒、有機スルホン酸系触媒などを用いうる。
【0063】
<リン酸系触媒>
リン酸系触媒としては、例えば、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸等のリンのオキシ酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ジメチルホスホノプロパンアミド、ポリリン酸アンモニウム、ポリホスホニトリルクロライド、およびリン酸、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩またはトリス(1-アジリジニル)ホスフィンオキサイドと尿素、チオ尿素、メラミン、グアニン、シアナミツド、ヒドラジン、ジシアンジアミドまたはこれらのメチロール誘導体との縮合物などが挙げられ、好ましくはリン酸水素二アンモニウムが挙げられる。リン酸系触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。リン酸系触媒を水溶液として用いる場合、その濃度は、好ましくは0.05~2.0mol/L、より好ましくは0.1~1.0mol/Lでありうる。
【0064】
<有機スルホン酸系触媒>
有機スルホン酸としては、1又は複数のスルホ基を有する有機化合物を用いることができ、例えば脂肪族系、芳香族系など種々の炭素骨格にスルホ基が結合した化合物が利用可能である。有機スルホン酸系触媒としては、取扱いの観点から、低分子量のものが好ましい。
【0065】
有機スルホン酸系触媒としては、例えば、R-SO3H(式中、Rは炭素原子数1~20の直鎖/分岐鎖アルキル基、炭素原子数3~20のシクロアルキル基、または、炭素原子数6~20のアリール基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基はそれぞれアルキル基、水酸基、ハロゲン基で置換されていても良い。)で表される化合物が挙げられる。有機スルホン酸系触媒としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、1-ヘキサンスルホン酸、ビニルスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸などが挙げられる。このうち、好ましくは、メタンスルホン酸を用いうる。また、有機スルホン酸系触媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0066】
有機スルホン酸を水溶液として用いる場合、その濃度は、好ましくは0.05~2.0mol/L、より好ましくは0.1~1.0mol/Lでありうる。
【0067】
<混合触媒>
上記、リン酸系触媒および有機スルホン酸系触媒は、混合して、混合触媒として用いてもよい。混合比は適宜調整してよい。
【0068】
<触媒の保持>
原料シートに対し触媒を保持させる。ここで「保持」とは、触媒が原料シートに接触した状態を保つことを意味し、付着、吸着、含浸などの諸形態でありうる。触媒を、保持させる方法には特に制限はないが、例えば、触媒を含む水溶液に浸漬する方法、触媒を含む水溶液を原料シートに対して振りかける方法、気化した触媒蒸気に接触させる方法、触媒を含む水溶液に原料シートの繊維を混ぜて抄紙する方法などが挙げられる。
【0069】
十分に炭化させる観点から、好ましくは、触媒を含む水溶液に原料シートを浸漬し、繊維内部まで触媒を含浸させる方法を用いることができる。触媒を含む水溶液に浸漬する際の温度は特に制限されないが、室温が好ましい。浸漬時間は、好ましくは10秒~120分間、より好ましくは20秒~30分間である。浸漬により、原料シートを構成する繊維に、例えば1~150質量%、好ましくは5~60質量%の触媒が吸着する。浸漬後、原料シートを取り出して、乾燥させることが好ましい。乾燥方法としては、例えば室温で放置、乾燥機に導入する、などのいずれの方法であってもよい。乾燥は、触媒を含む水溶液から取り出した後、余分の水分が蒸発して試料重量の変化がなくなるまで行えばよい。例えば室温乾燥では、乾燥時間は0.5日以上放置すればよい。乾燥により質量変化が殆どなくなった後、触媒を保持した原料シートを炭化する工程へと進む。
【0070】
3-3. 第1の炭化処理
触媒を保持させた原料シートを用意した後、それを炭化処理する。活性炭素繊維シートを得るための炭化処理は、一般的な活性炭の炭化方法に沿って行うことができるが、好ましい実施形態として、以下のようにして行うことができる。
【0071】
炭化処理は、通常、不活性ガス雰囲気中で行う。本発明において、不活性ガス雰囲気とは、炭素が燃焼反応しにくく炭化する無酸素又は低酸素雰囲気のことを意味し、好ましくは、例えば、アルゴン、窒素などのガス雰囲気でありうる。
【0072】
触媒を保持させた原料シートは、上述の所定のガス雰囲気中で、加熱処理し、炭化させる。一実施形態として、加熱処理は、常温から昇温させていき、最大温度を所定時間維持するようにして行いうる。
【0073】
最大温度の下限は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350、400、または500℃以上、さらに好ましくは600、700、750、または800℃以上でありうる。
最大温度の上限は、910℃未満であり、または900℃としてもよい。
加熱処理における最大温度を上記のように設定とすることにより、繊維形態が維持された炭素繊維シートを得ることができる。加熱温度が上記の下限値以下であると、炭素繊維の炭素含有量が80%以下で炭化が不十分となりやすい。
【0074】
加熱処理時間の下限は、昇温の時間も含め、好ましくは10分以上、より好ましくは11分以上、さらに好ましくは12分以上、より好ましくは30分以上でありうる。
加熱処理時間の上限は任意でありうるが、好ましくは180分以下、より好ましくは160分、さらに好ましくは140分以下でありうる。
原料シートに十分に触媒を含浸させ、上記の好適な加熱温度に設定し、加熱処理時間を調整することにより、細孔形成の進行程度を調整することができ、比表面積、各種細孔の容積、平均細孔直径などの多孔体としての物性を調整することができる。加熱処理時間が上記の下限より少ないと、炭化が不十分となりやすい。
【0075】
3-4. 第1の賦活化処理
本開示における賦活化処理としては、例えば上記加熱処理後に連続して、水蒸気を供給し適切な賦活温度で所定時間保持することで行うことができ、活性炭素繊維シートを得ることができる。
【0076】
賦活温度の下限は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350、400、または500℃以上、更に好ましくは、600、700、750、または800℃以上でありうる。
他方、賦活温度の上限は、910℃未満であり、または900℃としてもよい。
なお、加熱処理後に連続して賦活処理を行う場合、賦活処理時の最大温度は、加熱処理時の最大温度と同等程度に調整することが望ましい。
【0077】
賦活時間の下限は、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上でありうる。
賦活時間の上限は任意でありうるが、好ましくは180分以下、より好ましくは160分以下、さらに好ましくは140分以下、100分以下、50分以下、30分以下でありうる。
【0078】
3-5. 第2の炭化処理(または追加の炭化処理)
上記のように第1の炭化処理および第1の賦活化処理によって、比表面積が2580m3/g未満の活性炭素繊維を得ることができる。本開示による活性炭素繊維材料の製造方法の一実施形態では、さらに第2の炭化処理を行う。第2の炭化処理は、第1の賦活化処理完了後に連続して行ってもよいし、または、第1の炭化処理および第1の賦活化処理により得られた活性炭素繊維材料について不連続に、例えば一旦放冷したものに対して、改めて施してもよい。
【0079】
第2の炭化処理は、少なくとも第1の炭化処理より最大温度が高い温度条件にて実施し、好ましくは最大温度がおよそ1000℃前後の条件下で行うことが好ましい。第2の炭化処理における最大温度の範囲をより具体的に示すと、最大温度範囲の下限は、好ましくは910、920、930、940、または950℃以上、より好ましくは980℃以上、さらに好ましくは1000℃以上でありうる。また、最大温度の上限は、好ましくは1200または1100℃以下程度でありうる。
第2の炭化処理における最大温度を上記のように設定することにより、活性炭素繊維の比表面積を上昇させることができる。
【0080】
加熱処理時間の下限は、昇温の時間も含め、好ましくは10分以上、より好ましくは11分以上、さらに好ましくは12分以上、より好ましくは30分以上でありうる。
加熱処理時間の上限は任意でありうるが、好ましくは180分以下、より好ましくは160分、さらに好ましくは140、120、100、80、または60分以下でありうる。
第2の炭化処理における加熱処理時間を、このように設定することにすることは、活性炭素繊維の比表面積を上昇させるために好適である。
【0081】
3-6.既成の活性炭素繊維材料の改造(改造された活性炭素繊維の製造方法)
本開示は、更に、比表面積が低い既成の活性炭素繊維材料を、高比表面積に改造する方法を提供する。
【0082】
高比表面積が改造された活性炭素繊維の製造方法においては、まず活性炭素繊維材料であって、比表面積が2580m3/g未満のものを用意する。このような活性炭素繊維材料は、上記のように第1の炭化処理および第1の賦活化処理で得た活性炭素繊維材料に対し連続的に用いる場合に限らず、既製品として存在する活性炭素繊維を別途購入などにより入手して用意してもよい。
【0083】
用意した比表面積が2580m2/g未満の活性炭素繊維材料を、上記の第2の炭化処理と同様にして追加炭化処理を行うことにより、比表面積を2580m3/g以上の活性炭素繊維に改造しうる。好適な条件は、上記第2の炭化処理の説明内容と同様である。ここで「追加炭化処理」という用語は、この改造に供する活性炭素繊維材料もまた活性炭素繊維である以上、既に炭化処理および賦活化処理は施されたものであることから、さらに追加で行う炭化処理であるという意味を内包する。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【0085】
活性炭素繊維の物性および性能に関する各種項目について、下記に示す方法により、測定および評価を行った。なお、本発明を規定する各種の数値は以下の測定方法および評価方法により求めることができる。
【0086】
<比表面積>
活性炭素繊維サンプルを約30mg採取し、200℃で20時間真空乾燥して秤量し、高精度ガス/蒸気吸着量測定装置BELSORP-maxII(マイクロトラック・ベル社)を使用して測定した。液体窒素の沸点(77K)における窒素ガスの吸着量を相対圧が10-8オーダー~0.990の範囲で測定し、試料の吸着等温線を作成した。この吸着等温線を、解析相対圧範囲を吸着等温線I型(ISO9277)の条件で自動的に決定したBET法により解析し、重量当たりのBET比表面積(単位:m2/g)を求め、これを比表面積(単位:m2/g)とした。
【0087】
<全細孔容積>
上記比表面積の項で得られた等温吸着線の、相対圧0.960での結果より1点法での全細孔容積(単位:cm3/g)を算出した。
【0088】
<平均細孔径(平均細孔直径)単位:nm>
平均細孔径を次式3により算出した。
【0089】
<式3>
平均細孔直径=4×全細孔容積×103÷比表面積
【0090】
<ウルトラマイクロ孔容積>
上記比表面積の項で得られた等温吸着線を、高精度ガス/蒸気吸着量測定装置BELSORP-maxII(マイクロトラック・ベル社)付属の解析ソフトBELMasterを用いて、解析設定を「スムージング(細孔分布の解析全点で前後1点を使用した移動平均処理)」、「分布関数:No-assumption」、「細孔径の定義:Solid and Fluid Def. Pore Size」、「Kernel:Slit-C-Adsorption」としたGCMC法によって解析し、得られた吸着時の細孔分布曲線の結果から、0.7nmの積算細孔容積を読み取り、ウルトラマイクロ孔容積(単位:cm3/g)とした。
【0091】
<マイクロ孔容積>
上記比表面積の項で得られた等温吸着線を、高精度ガス/蒸気吸着量測定装置BELSORP-maxII(マイクロトラック・ベル社)付属の解析ソフトBELMasterを用いて、解析設定を「スムージング(細孔分布の解析全点で前後1点を使用した移動平均処理)」、「分布関数:No-assumption」、「細孔径の定義:Solid and Fluid Def. Pore Size」、「Kernel:Slit-C-Adsorption」としたGCMC法によって解析し、得られた吸着時の細孔分布曲線の結果から、2.0nmの積算細孔容積を読み取り、マイクロ孔容積(単位:cm3/g)とした。
【0092】
<n-ブタン吸脱着性能>
米国試験材料協会規格Standard Test Method for Determination of Butane Working Capacity of Activated Carbon(ASTM D5228-16)を参考に、試験容器、n-ブタンの流量、脱着させる空気の流量を独自に設定し試験した。
【0093】
空の試験容器(断面5.6cm×5.6cm、断面積31.4cm2、長さ2cm、試料充填容積62.7cm3のステンレス容器)の質量を測定してから、吸着材を試験容器へ62.7cm3充填した。例えば活性炭素繊維シートは、シート巾5.6cm×長さ2cmになるようにカットし、積層して充填した。吸着材が充填された試験容器を乾燥機で115±5℃8時間以上乾燥し、シリカゲルを詰めたデシケーター内で冷却後に乾燥重量を測定した
【0094】
次いで、試験管を流通装置の中に設置して、試験温度25℃で、100%濃度のn-ブタンガス0.5L/分を試験容器に流しn-ブタンを吸着させる。試験容器を流通装置から取り外し、質量を測定する。この100%濃度n-ブタンガスの流通を、一定質量が達成されるまで、すなわち吸着量が飽和するまで繰り返した。
試験容器を流通装置に再設置し、試験温度25℃で空気2.0L/分を22.5分間試験容器に流し(合計が試験容器の719倍量)、n-ブタンを脱着させた。試験容器を流通装置から取り外し、質量を測定した。
【0095】
この吸着と脱着の操作を計2回繰り返し、次式4、5、6、および7を用いて、1回目吸着量、有効吸脱着量、有効吸脱着量率、有効吸脱着率を算出した。
【0096】
<式4>
1回目吸着量=1回目n-ブタン吸着量
なお、各数値の単位は次のとおりである。
1回目n-ブタン吸着量(単位:g)
【0097】
<式5>
有効吸脱着量=(2回目n-ブタン吸着量+2回目n-ブタン脱着量)÷2
なお、各数値の単位は次のとおりである。
有効吸脱着量(単位:g)
2回目n-ブタン吸着量(単位:g)
2回目n-ブタン脱着量(単位:g)
【0098】
<式6>
有効吸脱着量率=有効吸脱着量÷成形吸着体乾燥重量×100
なお、各数値の単位は次のとおりである。
有効吸脱着量率(単位:wt%)
有効吸脱着量(単位:g)
成形吸着体乾燥重量(単位:g)
【0099】
<式7>
有効吸脱着率=有効吸脱着量÷1回目吸着量×100
なお、各数値の単位は次のとおりである。
有効吸脱着率(単位:%)
有効吸脱着量(単位:g)
1回目吸着量(単位:g)
【0100】
<吸着材の体積>
吸着材の体積は、試験容器の容積と同一とした。
【0101】
<吸着材の密度:単位:g/cm3>
吸着密度を次式8により算出した。
【0102】
<式8>
密度=吸着材の乾燥重量÷吸着材の体積
【0103】
<実施例1>
(1)レーヨン繊維(17.0dtex、繊維長76mm)からなる坪量400g/m2のニードルパンチ不織布に6~10%リン酸水素二アンモニウム水溶液を含浸し、絞液後、乾燥して、8~10重量%付着させた。得られた前処理不織布を窒素雰囲気中、900℃まで38分で昇温し、引き続きその温度で露点60℃の水蒸気を含有する窒素気流中で18分間賦活処理を行った。
【0104】
(2)上記(1)で得た活性炭素繊維を1000℃まで100分で昇温し、この温度で50分保持する処理を行った。
【0105】
<比較例1>
レーヨン繊維(17.0dtex、繊維長76mm)からなる坪量400g/m2のニードルパンチ不織布に6~10%リン酸水素二アンモニウム水溶液を含浸し、絞液後、乾燥して、8~10重量%付着させた。得られた前処理不織布を窒素雰囲気中、900℃まで45分で昇温し、この温度で4分保持した。引き続きその温度で露点71℃の水蒸気を含有する窒素気流中で18分間賦活処理を行った。
【0106】
<比較例2>
レーヨン繊維(17.0dtex、繊維長76mm)からなる坪量400g/m2のニードルパンチ不織布に6~10%リン酸水素二アンモニウム水溶液を含浸し、絞液後、乾燥して、8~10重量%付着させた。得られた前処理不織布を窒素雰囲気中、900℃まで31分で昇温し、この温度で3分保持した。引き続きその温度で露点71℃の水蒸気を含有する窒素気流中で9分間賦活処理を行った。
【0107】
上記実施例および比較例の分析結果を表1に示す。また、上記実施例および比較例の製造方法の概略を表2に示す。
【0108】
【0109】