(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】抗ヒトPD-L1抗体とその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240919BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240919BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240919BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240919BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240919BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240919BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240919BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
C07K16/28
A61K39/395 U
A61K39/395 T
A61K39/395 L
A61P35/00
A61P37/04
A61K47/68
A61K45/00
G01N33/574 A
C12N15/13 ZNA
(21)【出願番号】P 2021500745
(86)(22)【出願日】2019-07-14
(86)【国際出願番号】 US2019041747
(87)【国際公開番号】W WO2020018395
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-29
(32)【優先日】2018-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515269718
【氏名又は名称】ディベロップメント センター フォー バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】DEVELOPMENT CENTER FOR BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】ユ チェン-チョウ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シー-ラン
(72)【発明者】
【氏名】シェイ ツン-ハン
(72)【発明者】
【氏名】チャン メイ-チー
(72)【発明者】
【氏名】イェ シュ-ピン
(72)【発明者】
【氏名】シュー チュアン-ラン
(72)【発明者】
【氏名】フー リン-ユー
(72)【発明者】
【氏名】シャオ チー-ラン
【審査官】安川 聡
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03309177(EP,A1)
【文献】国際公開第2017/148424(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/017673(WO,A1)
【文献】特表2013-511959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
A61P
G01N
C12N
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2~4、または6~8、または10~12、または14~16、または18~20の配列を有する、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3の3つの重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変領域と、
配列番号22~24、または26~28、または30~32、または34~36、または38~40の配列を有する、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3の3つの軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変領域と
を含み、
前記HCDR1は配列番号2の配列を有し、前記HCDR2は配列番号3の配列を有し、前記HCDR3は配列番号4の配列を有し、前記LCDR1は配列番号22の配列を有し、前記LCDR2は配列番号23の配列を有し、前記LCDR3は配列番号24の配列を有する、または
前記HCDR1は配列番号6の配列を有し、前記HCDR2は配列番号7の配列を有し、前記HCDR3は配列番号8の配列を有し、前記LCDR1は配列番号26の配列を有し、前記LCDR2は配列番号27の配列を有し、前記LCDR3は配列番号28の配列を有する、または
前記HCDR1は配列番号10の配列を有し、前記HCDR2は配列番号11の配列を有し、前記HCDR3は配列番号12の配列を有し、前記LCDR1は配列番号30の配列を有し、前記LCDR2は配列番号31の配列を有し、前記LCDR3は配列番号32の配列を有する、または
前記HCDR1は配列番号14の配列を有し、前記HCDR2は配列番号15の配列を有し、前記HCDR3は配列番号16の配列を有し、前記LCDR1は配列番号34の配列を有し、前記LCDR2は配列番号35の配列を有し、前記LCDR3は配列番号36の配列を有する、または
前記HCDR1は配列番号18の配列を有し、前記HCDR2は配列番号19の配列を有し、前記HCDR3は配列番号20の配列を有し、前記LCDR1は配列番号38の配列を有し、前記LCDR2は配列番号39の配列を有し、前記LCDR3は配列番号40の配列を有する、
ヒトPD-L1と特異的に結合する
抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
a.前記重鎖可変領域は、配列番号1、5、9、13、もしくは17の配列、または配列番号1、5、9、13、もしくは17の配列と少なくとも約95%の相同性を有する配列を含む、および/または
b.前記軽鎖可変領域は、配列番号21、25、29、33、もしくは37の配列、または配列番号21、25、29、33、もしくは37の配列と少なくとも約95%の相同性を有する配列を含む
請求項1に記載の抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
a.前記重鎖可変領域は、配列番号1の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含み、前記軽鎖可変領域は、配列番号21の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含む、または
b.前記重鎖可変領域は、配列番号5の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含み、前記軽鎖可変領域は、配列番号25の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含む、または
c.前記重鎖可変領域は、配列番号9の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含み、前記軽鎖可変領域は、配列番号29の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含む、または
d.前記重鎖可変領域は、配列番号13の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含み、前記軽鎖可変領域は、配列番号33の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含む、または
e.前記重鎖可変領域は、配列番号17の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含み、前記軽鎖可変領域は、配列番号37の配列、またはそれに対して少なくとも約95%の相同性を有する配列を含む
請求項
2に記載の抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントがPD-L1媒介シグナルを阻害する
請求項1~
3のいずれか一項に記載の抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を形成するために前記抗体またはその抗原結合フラグメントに共有結合した薬物コンジュゲートをさらに含む
請求項1~
3のいずれか一項に記載の抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
二重特異性抗体を形成するために前記抗体またはその抗原結合フラグメントが第2の抗体結合フラグメントに結合する
請求項1~
3のいずれか一項に記載の抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
PD-1またはPD-L1によって媒介される疾患の治療に使用するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、請求項1~
6のいずれか一項に記載の抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントと、製薬上許容される担体とを含む
医薬組成物。
【請求項8】
前記疾患が癌である
請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記癌が肺癌、乳癌、前立腺癌、または結腸直腸癌である
請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントにサンプルを接触させることを含む
PD-L1の発現を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のヒト配列モノクローナル抗体、特にPD-L1に高い親和性で特異的に結合するヒトモノクローナル抗体に関する。特に、本発明は、ヒトの疾患の治療および診断におけるそのような分子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質Programmed Death 1(PD-1)は、受容体のCD28ファミリーの抑制性メンバーであり、CD28、CTLA-4、ICOS、およびBTLAも含む。PD-1は、活性化されたB細胞、T細胞、および骨髄性細胞に発現する(Bennett et al.2003、J.Immunol.170(2):711-718)。そのリガンドであるプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)は、一部の腫瘍細胞や、活性化されたB細胞およびT細胞、樹状細胞、マクロファージ、ならびに線維芽細胞によって発現する(Hansen et al.2009、Mol.Immunol.46(3):457-472)。PD-L1はPD-1に結合し、T細胞のアポトーシスまたは枯渇を誘発することによって細胞の免疫応答を弱める。(PD-1またはPD-L1に対する)モノクローナル抗体によるPD-1/PD-L1経路の遮断は、多くの種類のヒトの癌の研究で検討されている有望な治療アプローチである(Sanmamed and Chen 2014、Cancer J.20(4):256-261)。これらの研究の結果は、PD-L1がPD-1/PD-L1経路の活性化を促進することにより、腫瘍が免疫系から逃れるのを助ける上で重要な役割を果たすことを示唆している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PD-L1の発現は、乳癌、肺癌、胃癌、結腸直腸癌、肝細胞癌、腎細胞癌、精巣癌、甲状腺乳頭癌など、様々な固形腫瘍で観察されている。さらに、いくつかのメタアナリシスは、PD-L1の過剰発現が多くの種類の癌の予後不良を意味することを示している。したがって、PD-L1によって媒介される疾患または状態の治療または診断のために、PD-L1に対するより優れた抗体が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様では、本発明は、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体に関する。本発明の抗体は、配列番号2~4、または6~8、または10~12、または14~16、または18~20の配列を有する、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3の3つの重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変領域と、配列番号22~24、または26~28、または30~32、または34~36、または38~40の配列を有する、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3の3つの軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0005】
いくつかの実施形態では、HCDR1配列はGYIFISFWIH(配列番号2)、HCDR2配列はNIDPSDSETHYNQKFKD(配列番号3)、HCDR3配列はLDGDYGRAY(配列番号4)である、またはHCDR1配列はGYIFISFWIH(配列番号6)、HCDR2配列はNIDPSDSETHYNEKFRD(配列番号7)、HCDR3配列はLDGDYGRAY(配列番号8)である、またはHCDR1配列はGYAFSTSWIN(配列番号10)、HCDR2配列はRIYPGDGDINYNGKFKD(配列番号11)、HCDR3配列はSNHYYFDF(配列番号12)である、またはHCDR1配列はGYAFSTSWMN(配列番号14)、HCDR2配列はRIYPGDEDTNYNGNFKG(配列番号15)、HCDR3配列はSDNYYFDY(配列番号16)である、またはHCDR1配列はGFTFSDSGMH(配列番号18)、HCDR2配列はYISAGSYTIYYADIVKG(配列番号19)、HCDR3配列はGDWYFAV(配列番号20)であり、ここで、HCDR配列はChothiaの方法に従って定義される。
【0006】
本発明の実施形態によれば、ヒト抗PD-L1抗体の重鎖可変領域配列は、
図1A~
図1Eに示される配列番号1、5、9、13、または17の配列を有する。
【0007】
別の態様において、本出願は、LCDR1、LCDR2およびLCDR3配列を有する軽鎖可変領域を含む、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体に関し、ここで、LCDR1配列はRASESVDSFGNSFMH(配列番号22)、LCDR2配列はLASNLES(配列番号23)、LCDR3配列はQQNNEDPLT(配列番号24)である、またはLCDR1配列はRASESVDSNGNSFMH(配列番号26)、LCDR2配列はLASNLES(配列番号27)、LCDR3配列はQQNNDDPWT(配列番号28)である、またはLCDR1配列はRASEDIRTYLN(配列番号30)、LCDR2配列はYTSRLHS(配列番号31)、LCDR3配列はQQVHTLPPWT(配列番号32)である、またはLCDR1配列はRASDDIRTYLN(配列番号34)、LCDR2配列はYTSRLHS(配列番号35)、LCDR3配列はQQVHTLPPWT(配列番号36)である、またはLCDR1配列はRSSQSLVHINGNTYLE(配列番号38)、LCDR2配列はKVSNRFS(配列番号39)、LCDR3配列はSQGSHVPWT(配列番号40)であり、ここで、LCDR配列はChothiaの方法に従って定義される。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域は、
図2A~
図2Eに示される配列番号21、25、29、33、または37の配列を有する。
【0009】
別の態様において、本発明は、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を有する重鎖可変領域とLCDR1、LCDR2およびLCDR3を有する軽鎖可変領域とを含む、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体に関し、ここで、HCDR1配列はGYIFISFWIH(配列番号2)、HCDR2配列はNIDPSDSETHYNQKFKD(配列番号3)、HCDR3配列はLDGDYGRAY(配列番号4)である、またはHCDR1配列はGYIFISFWIH(配列番号6)、HCDR2配列はNIDPSDSETHYNEKFRD(配列番号7)、HCDR3配列はLDGDYGRAY(配列番号8)である、またはHCDR1配列はGYAFSTSWIN(配列番号10)、HCDR2配列はRIYPGDGDINYNGKFKD(配列番号11)、HCDR3配列はSNHYYFDF(配列番号12)である、またはHCDR1配列はGYAFSTSWMN(配列番号14)、HCDR2配列はRIYPGDEDTNYNGNFKG(配列番号15)、HCDR3配列はSDNYYFDY(配列番号16)である、またはHCDR1配列はGFTFSDSGMH(配列番号18)、HCDR2配列はYISAGSYTIYYADIVKG(配列番号19)、HCDR3配列はGDWYFAV(配列番号20)、LCDR1配列はRASESVDSFGNSFMH(配列番号22)、LCDR2配列はLASNLES(配列番号23)、LCDR3配列はQQNNEDPLT(配列番号24)である、またはLCDR1配列はRASESVDSNGNSFMH(配列番号26)、LCDR2配列はLASNLES(配列番号27)、LCDR3配列はQQNNDDPWT(配列番号28)である、またはLCDR1配列はRASEDIRTYLN(配列番号30)、LCDR2配列はYTSRLHS(配列番号31)、LCDR3配列はQQVHTLPPWT(配列番号32)である、またはLCDR1配列はRASDDIRTYLN(配列番号34)、LCDR2配列はYTSRLHS(配列番号35)、LCDR3配列はQQVHTLPPWT(配列番号36)である、またはLCDR1配列はRSSQSLVHINGNTYLE(配列番号38)、LCDR2配列はKVSNRFS(配列番号39)、LCDR3配列はSQGSHVPWT(配列番号40)であり、ここで、HCDRおよびLCDR配列は、Chothiaの方法に従って定義される。
【0010】
いくつかの実施形態において、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域配列は、配列番号1、5、9、13、または17の配列を有し、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域配列は、配列番号21、25、29、33、または37の配列を有する。
【0011】
いくつかの実施形態において、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域配列は、配列番号1の配列を有し、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域配列は、配列番号21の配列を有する。いくつかの実施形態において、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域配列は、配列番号5の配列を有し、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域配列は、配列番号25の配列を有する。いくつかの実施形態において、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域配列は、配列番号9の配列を有し、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域配列は、配列番号29の配列を有する。いくつかの実施形態において、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域配列は、配列番号13の配列を有し、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域配列は、配列番号33の配列を有する。いくつかの実施形態において、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域配列は、配列番号17の配列を有し、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域配列は、配列番号37の配列を有する。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体は、完全な抗体、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、またはScFvフラグメントである。いくつかの実施形態において、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体は、完全にヒトの抗体である。いくつかの実施形態において、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体は、IgG1、IgG2、またはIgG4アイソフォームから選択される重鎖定常領域と、κサブタイプまたはλアイソフォームから選択される軽鎖定常領域とを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体(またはその結合フラグメント)は、第2の標的のための別の特異的結合ドメインとコンジュゲートすることによって、二重特異性または多重特異性抗体の一部を形成する。第2の標的に対する他の特異的結合ドメインは、例えば、抗CD3、抗ICOSまたは抗TIM3などであり得る。いくつかの実施形態において、本発明の抗体(またはその結合フラグメント)は、薬物(ペイロード)とコンジュゲートすることにより、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の一部を形成する。薬物またはペイロードは、PD-L1発現細胞またはPD-1発現細胞の機能を調節する能力のために選択され得る。そのような薬物またはペイロードは、例えば、DM1、MMAEまたはMMAFを含み得る。
【0014】
本発明の別の態様は、PD-1および/またはPD-L1シグナル伝達に関連する疾患の治療および/または予防に使用するための医薬組成物に関し、ここで、医薬組成物は、上記の抗体またはその結合フラグメントを含み、これはヒトPD-L1に特異的に結合する。PD-L1を介した疾患は癌であり得る。癌には、黒色腫、非小細胞肺癌、腎癌、乳癌、白血病、癌および他の進行性固形腫瘍が含まれ得るが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、マウス抗ヒトPD-L1抗体の重鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト重鎖(1E12)可変領域配列を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、マウス抗ヒトPD-L1抗体の重鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト重鎖(3F11)可変領域配列を示す図である。
【
図1C】
図1Cは、マウス抗ヒトPD-L1抗体の重鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト重鎖(3E10)可変領域配列を示す図である。
【
図1D】
図1Dは、マウス抗ヒトPD-L1抗体の重鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト重鎖(8H3)可変領域配列を示す図である。
【
図1E】
図1Eは、マウス抗ヒトPD-L1抗体の重鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト重鎖(5E6)可変領域配列を示す図である。
【0016】
【
図2A】
図2Aは、マウス抗ヒトPD-1抗体の軽鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト軽鎖(1E12)可変領域配列を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、マウス抗ヒトPD-1抗体の軽鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト軽鎖(3F11)可変領域配列を示す図である。
【
図2C】
図2Cは、マウス抗ヒトPD-1抗体の軽鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト軽鎖(3E10)可変領域配列を示す図である。
【
図2D】
図2Dは、マウス抗ヒトPD-1抗体の軽鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト軽鎖(8H3)可変領域配列を示す図である。
【
図2E】
図2Eは、マウス抗ヒトPD-1抗体の軽鎖可変領域配列に対応するように設計された複合ヒト軽鎖(5E6)可変領域配列を示す図である。
【0017】
【
図3A】
図3Aは、PD-L1に対する抗体の結合を示し、ELISAを使用したPD-L1に対するヒト抗PD-L1の結合を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、PD-L1に対する抗体の結合を示し、Biacore 2000(GEヘルスケア)を使用したPD-L1に対するヒト抗PD-L1の結果を示す図である。
【0018】
【
図4A】
図4Aは、PD-L1のPD-1への結合を遮断する抗体の能力を示し、抗体1E12および3F11を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、PD-L1のPD-1への結合を遮断する抗体の能力を示し、抗体3E10、8H3および5E6を示す図である。
【0019】
【
図5】
図5は、PD-1/PD-L1遮断を誘導する様々な抗体の能力を示す図である。
【0020】
【
図6】
図6は、フローサイトメトリーでアッセイされたHCC827細胞に結合する抗PDL-1抗体を示す図である。
【0021】
【
図7A】
図7Aは、フローサイトメトリーを使用したMDA-MB-231細胞における抗PDL-1抗体の結合および内部移行アッセイを示す図である。
【
図7B】
図7Bは、フローサイトメトリーを使用したMDA-MB-231細胞における抗PDL-1抗体の結合および内部移行アッセイを示す図である。
【0022】
【
図8】
図8は、ヒト組織標本における抗PD-L1 mAb 3F11免疫組織化学を示す図である。
【0023】
【
図9】
図9は、マウス同系MC38結腸癌モデルにおける抗PD-L1 mAb治療のインビボ有効性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、PD-L1に特異的に結合し、PD-L1に対して高い親和性を有し、対象に治療上の利益をもたらすことができる新規の抗体に関する。ヒトであり得るかまたはヒト化され得る本発明の抗体は、PD-L1によって媒介される様々な障害を治療および/または診断するための治療薬として使用することができ、これらは本明細書により完全に記載されている。
【0025】
特に、本発明の実施形態による抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPD-L1またはそのフラグメントのエピトープに特異的に結合し、ここで、ヒトPD-L1は配列番号51のアミノ酸配列を有し、エピトープは178位のリジン残基、および179位のスレオニン残基を含む。
【0026】
本発明の実施形態による抗体は、全長であり得るか(例えば、IgG1またはIgG4抗体)、または抗原結合部分のみを含み得(例えば、Fab、F(ab’)2、またはscFvフラグメント)、必要に応じて機能に影響を与えるように改変され得る。
【0027】
本発明の実施形態による抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPD-L1に特異的に結合する。CD274またはB7ホモログ1としても知られるPD-L1は、40kDaの1型膜貫通タンパク質であり、例えば、妊娠、組織同種移植、自己免疫疾患、およびその他の病態などの特定のイベントで免疫系を抑制するのに主要な役割を果たすと推測されている。通常、免疫系は、外因性または内因性の危険信号に関連する外来抗原に反応し、抗原特異的CD8+T細胞および/またはCD4+ヘルパー細胞の増殖を引き起こす。PD-L1のPD-1またはB7.1への結合は、これらのT細胞の増殖を減少させる阻害シグナルを伝達し、アポトーシスを誘発できることもあり、これは、遺伝子Bcl-2のより低い調節によってさらに媒介される。
【0028】
「抗体」という用語は、その通常の意味を有し、ジスルフィド結合によって相互接続された2つの重鎖(H)と2つの軽鎖(L)とを含む。各重鎖は、3つのCDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と4つのフレームワーク領域(FR)とを含む重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略される)を含む。各軽鎖は、3つのCDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と4つのFRとを含む軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略される)を含む。本発明の異なる実施形態において、抗PD-L1抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得るか、または天然または人工的に改変され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの比較分析に基づいて規定され得る。
【0029】
本明細書で使用される抗体の「抗原結合フラグメント」という用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成することができる抗体の任意のフラグメントを含む。抗原結合フラグメントの非限定的な例には、(i)Fabフラグメント、(ii)F(ab’)2フラグメント、(iii)Fdフラグメント、(iv)Fvフラグメント、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAbフラグメント、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離されたCDR、例えば、CDR3ペプチド)、または拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基で構成される最小認識ユニットが含まれる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ、トライアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子も、本明細書で使用される「抗原結合フラグメント」である。
【0030】
抗体の抗原結合フラグメントは、通常、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成であり得、一般に、少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインに関連するVHドメインを有する抗原結合フラグメントにおいて、VHおよびVLドメインは、任意の適切な配置で互いに対して位置し得る。例えば、可変領域は二量体であり得、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含み得る。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体のVHまたはVLドメインを含み得る。
【0031】
完全な抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは、単一特異性または多重特異性(例えば、二重特異性)であり得る。抗体の多重特異性抗原結合フラグメントは、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、各可変ドメインは、別個の抗原に、または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示される例示的な二重特異性抗体フォーマットを含む任意の多重特異性抗体フォーマットは、当技術分野で利用可能な日常的な技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合フラグメントの状況での使用に適合され得る。
【0032】
本発明の抗体は、PD-L1を特異的に標的とすることができる抗体-薬物コンジュゲート(ADC)として使用され得る。ADC上のコンジュゲートは、PD-L1を発現する免疫細胞、またはPD-L1を発現する細胞と相互作用する細胞(PD-1発現細胞など)を調節する可能性がある。これらのADCは、本発明の任意の抗体、またはその抗原結合フラグメントを使用することができる。抗体(または結合フラグメント)にコンジュゲートする薬物(ペイロード)は、ADCで一般的に使用されているものであればどれでもかまわない。コンジュゲートの方法は、当技術分野で知られている方法であり得る。
【0033】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的類似性」または「実質的に類似」という用語は、デフォルトのギャップ重みを使用するプログラムGAPもしくはBESTFIT、またはBLASTなどによって最適に整列させた場合に、2つのペプチド配列が少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。本発明の実施形態によれば、GCGソフトウェアのGapおよびBest fitプログラムをデフォルトのパラメーターとともに使用して、密接に関連するポリペプチド間の配列相同性または配列同一性を決定した。
【0034】
本発明の実施形態において、抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、ここで、重鎖可変領域は、CDRH1(またはHCDR1)、CDRH2(またはHCDR2)およびCDRH3(またはHCDR3)領域の3つのCDR領域を含み、軽鎖可変領域は、CDRL1(またはLCDR1)、CDRL2(またはLCDR2)およびCDRL3(またはLCDR3)領域の3つのCDR領域を含む。
【0035】
本明細書で使用される場合、「PD-1またはPD-L1によって媒介される疾患」という用語は、免疫抑制または消耗につながるPD-1/PD-L1シグナル伝達に関連する疾患を指す。このような疾患には、自己免疫、神経障害、脳卒中、および癌に関連する疾患が含まれる。(N.Kuol et al.,Immunotherapy,2018,10(2):149-160)。本明細書で使用される場合、「治療すること」は、疾患または状態の症状の緩和を指し、完全な治癒である必要はない。
【0036】
図1A~
図1Eおよび
図2A~
図2Eを参照すると、本発明のいくつかの実施形態において、CDRH1領域は配列番号2のアミノ酸配列を含み、CDRH2領域は配列番号3のアミノ酸配列を含み、CDRH3領域は配列番号4のアミノ酸配列を含み、CDRL1領域は配列番号22のアミノ酸配列を含み、CDRL2領域は配列番号23のアミノ酸配列を含み、CDRL3領域は配列番号24のアミノ酸配列を含む。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態において、CDRH1領域は配列番号6のアミノ酸配列を含み、CDRH2領域は配列番号7のアミノ酸配列を含み、CDRH3領域は配列番号8のアミノ酸配列を含み、CDRL1領域は配列番号26のアミノ酸配列を含み、CDRL2領域は配列番号27のアミノ酸配列を含み、CDRL3領域は配列番号28のアミノ酸配列を含む。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態において、CDRH1領域は配列番号10のアミノ酸配列を含み、CDRH2領域は配列番号11のアミノ酸配列を含み、CDRH3領域は配列番号12のアミノ酸配列を含み、CDRL1領域は配列番号30のアミノ酸配列を含み、CDRL2領域は配列番号31のアミノ酸配列を含み、CDRL3領域は配列番号32のアミノ酸配列を含む。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態において、CDRH1領域は配列番号14のアミノ酸配列を含み、CDRH2領域は配列番号15のアミノ酸配列を含み、CDRH3領域は配列番号16のアミノ酸配列を含み、CDRL1領域は配列番号34のアミノ酸配列を含み、CDRL2領域は配列番号35のアミノ酸配列を含み、CDRL3領域は配列番号36のアミノ酸配列を含む。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態において、CDRH1領域は配列番号18のアミノ酸配列を含み、CDRH2領域は配列番号19のアミノ酸配列を含み、CDRH3領域は配列番号20のアミノ酸配列を含み、CDRL1領域は配列番号38のアミノ酸配列を含み、CDRL2領域は配列番号39のアミノ酸配列を含み、CDRL3領域は配列番号40のアミノ酸配列を含む。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態において、抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。好ましくは、重鎖可変領域は配列番号41の核酸配列によってコードされ、軽鎖可変領域は配列番号46の核酸配列によってコードされる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態において、抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号25のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。好ましくは、重鎖可変領域は配列番号45の核酸配列によってコードされ、軽鎖可変領域は配列番号47の核酸配列によってコードされる。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態において、抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号29のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。好ましくは、重鎖可変領域は配列番号49の核酸配列によってコードされ、軽鎖可変領域は配列番号48の核酸配列によってコードされる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態において、抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号33のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。好ましくは、重鎖可変領域は配列番号44の核酸配列によってコードされ、軽鎖可変領域は配列番号43の核酸配列によってコードされる。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態において、抗PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号37のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。好ましくは、重鎖可変領域は配列番号42の核酸配列によってコードされ、軽鎖可変領域は配列番号50の核酸配列によってコードされる。
【0046】
本発明の抗体は、ELISAを介してPD-L1と特異的に結合することが確認された。簡単に説明すると、PD-L1を96ウェルELISAプレート(0.1μg/ウェル)にコーティングした。抗PD-L1抗体の結合後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgGを二次抗体として使用し、3,3’、5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を基質として使用して、抗体-PD-L1結合を評価した。活性を計算するためにOD405を読み取った。
【0047】
図3Aに示されるように、いくつかのマウスハイブリドーマ抗ヒトPD-L1抗体(mAb 1E12、3F11、8H3、3E10、および5E6)はすべて、PD-L1との特異的かつ緊密な結合を示す。
図3Bは、BIAcore T200(GEヘルスケア)によって決定されたこれらの抗体の結合パラメーターおよび親和性を示している。簡単に説明すると、CM5 BIAcoreチップを、アクティブチャネル上でヒトPD-L1でコーティングした。アクティブチャネルには、マウスハイブリドーマ抗ヒトPD-L1抗体(mAbs 1E12、3F11、8H3、3E10、および5E6)またはその変異体を様々な濃度で順次注入し、バッファーのみを注入したチャネルをブランク対照として使用した。親和性は、単一サイクル反応速度論の方法で決定した。データを、BIAcore T200評価ソフトウェアを使用して1:1結合モデルに適合させ、反応速度定数(K
a:結合定数;K
d:解離定数;K
D=K
a/K
d)を取得した。
【0048】
本発明の抗体がヒトPD-L1に強固に、かつ特異的に結合できることは、これらの抗体がPD-1とPD-L1との間の結合を妨害できるはずであることを示唆している。PD-L1のPD-1への結合を遮断する本発明の様々な抗体の能力を、ELISAを使用して確認した。簡単に説明すると、100ng/ウェルのPD-L1-Fcを96ウェルプレートにコーティングした。次に、5ug/ウェルのPD-1-ビオチンと様々な濃度の抗ヒトPD-L1抗体を添加した。結合を37℃で1時間進行させた。PBSで洗浄した後、ストレプトアビジンHRPコンジュゲートを添加し、続いてTMB(3,3’、5,5’-テトラメチルベンジジン)を添加した。PD-L1-Fcに結合するビオチン化PD-1の量を、OD405の読み取り値で定量化した。
【0049】
図4Aに示されるように、本発明のmAb(例えば、1E12および3F11)は、PD-1とPD-L1との間の結合を効果的に遮断したが、対照のマウスIgGは遮断しなかった。同様に、
図4Bは、mAb 3E10、8H3、および5E6がPD-1とPD-L1との間の相互作用を妨害する可能性があるのに対し、対照のマウスIgGは妨害できないことを示している。
【0050】
上記の実験は、インビトロでPD-L1分子に対する本発明の抗体の結合を試験するが、そのような結合を、相互作用細胞上にそれぞれ発現したPD-1およびPD-L1でも試験した。例えば、PD-1/PD-L1遮断アッセイには、Promega(米国、ウィスコンシン州、マディソン)のキットなど、任意の市販のキットを使用してもよい。Promega PD-1/PD-L1 Blockade Bioassayは、生物発光細胞ベースのアッセイである。アッセイキットは、PD-1エフェクター細胞(ヒトPD-1を発現するジャーカットT細胞とNFAT応答エレメント(NFAT-RE)によって駆動されるルシフェラーゼレポーター)と、PD-L1 aAPC/CHO-K1細胞(ヒトPD-L1を発現するCHO-K1細胞であり、抗原に依存しない方法で同族のTCRを活性化するように設計された操作された細胞表面タンパク質)の2つの遺伝子操作された細胞株で構成されている。
【0051】
2つの細胞タイプを共培養すると、PD-1/PD-L1相互作用がTCRシグナル伝達とNFAT-REを介した発光を阻害する。PD-1/PD-L1相互作用を遮断する本発明の抗PD-L1抗体を添加すると、阻害シグナルを放出し、TCRの活性化とNFAT-REを介した発光をもたらすことができる。生物発光シグナルは、Bio-Glo(商標)Luciferase Assay Systemと標準的なルミノメーター、例えばPromega(米国、ウィスコンシン州、マディソン)のGloMax(登録商標)Discover Systemなどを使用して検出および定量化できる。
【0052】
図5に示されるように、本発明のmAb 1E12、3F11、3E10、および8H3はすべて、PD-1/PD-L1相互作用を遮断する特異的かつ強力な活性を示す。本発明の他の抗体も同様の活性を示す。これらの結果は、本発明の抗体が、相互作用する細胞上のPD-1およびPD-L1相互作用によって媒介される免疫抑制を緩和するのに有効であることを確認している。したがって、本発明の抗体は、PD-1および/またはPD-L1シグナル伝達による免疫抑制または消耗から生じる疾患の治療薬として有用であるはずである。そのような疾患には様々な癌が含まれる。
【0053】
癌治療における本発明の抗体の有用性をさらに検証するために、癌細胞上に発現したPD-L1に結合するこれらの抗体の能力を評価した。例えば、PD-L1発現細胞への抗PD-L1抗体の結合を、高レベルのPD-L1を発現するHCC827細胞(肺腺癌)を使用したフローサイトメトリーによってアッセイした。簡単に説明すると、HCC827細胞(PD-L1高)を抗PD-L1抗体と1時間インキュベートし、その後フローサイトメトリーを使用して分析した。
図6に示されるように、本発明のmAb 1E12、3E10、3F11、および8H3はすべて、HCC827細胞に結合することができ、これらの抗体が癌細胞表面上のPD-L1を認識できることを示している。本発明の他の抗体も同様の活性を示す。したがって、本発明の抗体は、癌細胞上に発現したPD-L1に結合し、それによってPD-L1を介した免疫抑制または消耗を阻害することによって、癌を治療するために使用することができる。
【0054】
PD-1/PD-L1相互作用の遮断に加えて、PD-L1に結合する抗体も受容体の内部移行/リサイクルを引き起こす可能性がある。また、受容体の内部移行またはリサイクルにより、PD-L1はPD-1との相互作用に利用できなくなる。したがって、PD-L1内部移行を引き起こす本発明の抗PDL-1抗体の能力を調査した。簡単に説明すると、PD-L1のこれらの遮断/リサイクルプロセスを調査するために、MDA-MB-231細胞(上皮性のヒト乳癌細胞株)を1μg/mLの抗PD-L1抗体で4℃および37℃で処理し、24時間にわたって監視した。次に、様々な時点で、細胞をフローサイトメトリーで分析した。
【0055】
図7Aおよび
図7Bに示すように、mAb 1E12および3F11はMDA-MB-231細胞に結合し、内部移行することができた。内部移行は、時間依存的様式で、37℃で発生したが、4℃では発生しなかった。これらの結果は、本発明の抗体が、PD-L1に結合することによって、およびPD-L1の内部移行を引き起こすことによって、PD-1/PD-L1相互作用を遮断できることを示している。内部移行によりPD-L1が利用できなくなり、PD-L1を介したシグナル伝達経路の遮断に(単純な盲検化よりも)効果的であろう。したがって、本発明の抗体は、PD-L1によって媒介される癌または疾患の治療においてより効果的であるはずである。
【0056】
本発明の抗PD-L1抗体はPD-L1に特異的かつ強固に結合できるため、いくつかの癌細胞で高度に発現しているPD-L1の検出にも有用である。
図8に示すように、ヒト組織標本の抗PD-L1抗体3F11の免疫組織化学染色では、正常組織(例えば、扁桃腺や平滑筋)のみで染色が弱いのに対し、肺癌組織の染色は非常に強いことがわかった。これらの結果は、本発明の抗PD-L1抗体が、癌細胞など、PD-L1を発現する細胞または組織の検出に有用であることを示している。したがって、これらの抗体は、癌の検出ならびに治療中および/または治療後の癌の予後/モニタリングのための診断薬として有用であるはずである。
【0057】
上記の例は、本発明の抗PD-L1抗体がヒトPD-L1に特異的かつ強固に結合できることを明確に示している。これらの抗体は、PD-1とPD-L1との間の相互作用を妨害してPD-1/PD-L1の結合を遮断することもできる。さらに、これらの抗体は、PD-L1の内部移行を引き起こし、PD-L1をPD-1との結合に利用できなくすることができる。結果として、本発明の抗体は、PD-1/PD-L1相互作用によって媒介される疾患を治療するための効果的な治療法であるはずである。そのような疾患には、例えば、癌が含まれる。癌の例には、肺癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌などが含まれるが、これらに限定されない。さらに、本発明の抗体は、PD-L1を検出するための試薬として使用されてもよく、PD-L1発現の診断または治療中の予後において有用である。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態は、PD-1および/またはPD-L1シグナル伝達によって媒介される疾患の状態/症状を治療または緩和するための方法に関し、そのような疾患には癌が含まれ得る。癌の治療における本発明の抗体の有用性を実証するために、マウス同系モデルを使用した。簡単に説明すると、0日目に、MC38細胞(結腸腺癌細胞)をC57BL/6マウスに皮下注射した。6、9、および13日目に、マウスを、毎回5mpk(mg/kg)で本発明の抗体(例えば、1E12、3F11、3E10、および8H3)で処理した。IgG(抗PD-L1ではない)を対照として使用した。16日目まで、様々な治療群の腫瘍増殖をモニターした。
【0059】
図9に示されるように、本発明の抗PD-L1 mAb(例えば、1E12、3F11、3E10、および8H3)は、このインビボ結腸直腸癌モデルにおいて腫瘍増殖を抑制するのに有効であった。本発明の他の抗体も同様の効果を有する。これらの結果は、本発明の抗体が、肺癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌などの癌を治療するための臨床使用に有用であることを明確に実証している。
【0060】
さらに、本発明の抗体は、ヒトPD-L1に非常に特異的である。本発明の抗体は、高い特異性と親和性で特有のエピトープを認識する。これらの特性により、治療薬としてより有用になる。実際、MDA-MB231乳癌細胞のマウス異種移植モデルでは、本発明の抗体(3F11および1E12)は、時間の経過とともに腫瘍に帰巣し、すなわち、結合強度は、120時間まで時間とともに増加する。対照的に、FDA承認の抗体であるアテゾリズマブは、十分な結合力がなく、動物全体に分布しているように見えた。その結果、アテゾリズマブは身体によって比較的速く除去され、120時間までに多くの結合を示さなかった。本発明の抗体は癌細胞に強固に結合するため、循環中の抗体のごくわずかが身体によって除去されるように見える。結果として、本発明の抗体は、はるかに長いインビボ半減期を有する。したがって、本発明の抗体は、より少ない用量で、より少ない投与頻度で使用することができ、治療費を実質的に削減し、潜在的な副作用を最小限に抑える。
【0061】
従来技術の抗PD-L1抗体と比較して、本発明の抗体は、より好ましい薬物動態特性(例えば、より高い結合力およびより長い半減期)を有し、これは、ヒトPD-L1上の異なるエピトープに結合するためと思われる。エピトープマッピングは、本発明の抗体が、残基171-180と206-210とを含む領域にあるエピトープでヒトPD-L1に結合することを示している。これらのエピトープ領域は、既知の抗体のものとは異なる。例えば、従来技術の抗体(例えば、アテゾリズマブおよびデュルバルマブ)のPD-L1への結合に関与する重要な残基は、PD-L1上のE58およびR125を含む。(Lee et al.、Scientific Reports、(2017)、7:5532)。
【0062】
次の表に示すように、アラニンスキャニングを使用した本発明の抗体の結合についてのエピトープのさらなる分析は、残基178および179が結合にとって特に重要であることを明らかにした。
部位特異的変異誘発によるヒトPD-L1への抗PD-L1抗体結合のマッピング
【表1】
【0063】
要約すると、本発明の抗体は、細胞表面上のPD-L1を含めて、PD-L1に特異的かつ強固に結合することができる。PD-L1発現細胞には、肺癌細胞、結腸直腸癌細胞(例えば、MC38細胞)、乳癌細胞(例えば、MDA-MB-231細胞)などの癌細胞が含まれる。これらの抗体は、PD-1とPD-L1との間の結合を妨害し、PD-1および/またはD-L1シグナル伝達経路の遮断をもたらすことができる。さらに、本発明の抗体による結合はまた、PD-L1の内部移行を引き起こし、PD-1との相互作用に利用できなくする。結果として、本発明の抗体は、PD-1および/またはD-L1シグナル伝達によって引き起こされる免疫抑制または消耗を軽減または逆転させることができる。したがって、本発明の抗体は、PD-1およびPD-L1相互作用によって引き起こされる免疫抑制または消耗に関連する疾患の状態を治療または緩和するための有用な治療薬である。
【0064】
本発明の抗体によるPD-L1の結合は、ヒトPD-L1上のこれまで未知のエピトープを含み、これらの新しいエピトープへの結合は、予想外の高い特異性および結合力をもたらし、より好ましい薬物動態特性(例えば、腫瘍細胞へのより集中した結合、循環中の遊離抗体が少ない、半減期が長い)につながる。結果として、本発明の抗体は、より低い用量で、より少ない投与頻度で使用することができ、それにより、コストおよび副作用を低減し、患者のコンプライアンスを高める。
【0065】
本発明の実施形態は、限られた数の例で示されているが、当業者は、他の改変および変形が可能であることを理解するであろう。したがって、本発明の保護の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるべきである。
【配列表】