IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

特許7557463IGFBP-7に基づく妊娠高血圧腎症の予測
<>
  • 特許-IGFBP-7に基づく妊娠高血圧腎症の予測 図1
  • 特許-IGFBP-7に基づく妊娠高血圧腎症の予測 図2
  • 特許-IGFBP-7に基づく妊娠高血圧腎症の予測 図3
  • 特許-IGFBP-7に基づく妊娠高血圧腎症の予測 図4
  • 特許-IGFBP-7に基づく妊娠高血圧腎症の予測 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】IGFBP-7に基づく妊娠高血圧腎症の予測
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240919BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240919BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240919BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
C07K14/47
C07K16/18
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2021525378
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2019069581
(87)【国際公開番号】W WO2020016441
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】18184766.6
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】フント,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】カール,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532285(JP,A)
【文献】特表2013-515255(JP,A)
【文献】国際公開第2017/148854(WO,A1)
【文献】特表2015-525870(JP,A)
【文献】国際公開第2016/019176(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/001244(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/116740(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/080170(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
C07K 14/47
C07K 16/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するための方法であって、
(a)バイオマーカーIGFBP-7(インスリン様増殖因子結合性タンパク質7)の、対象に由来する試料中の量を決定するステップと、
(b)バイオマーカーの決定された量を、参照と比較するステップと
を含み、そして、妊娠高血圧腎症関連状態が子癇またはHELLP症候群である、方法。
【請求項2】
試料が、血液、血清または血漿などの体液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象が、ヒト対象であり、および/または対象が、高血圧症を患う、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
妊娠高血圧腎症が、早発性妊娠高血圧腎症または遅発性妊娠高血圧腎症である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
妊娠した対象が、妊娠19週目の後の対象である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
患者管理措置を、評価に基づき推奨するステップをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(i)対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があると評価された場合、患者管理措置が、以下の措置の群:緊密なモニタリング、入院、血圧降下剤の投与、および生活様式の推奨から選択され、(ii)対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がないと評価された場合、患者管理措置が、外来モニタリングである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)妊娠した対象に由来する試料中で決定された、IGFBP-7の量についての値を、処理ユニットにおいて受信するステップと、
(b)前記処理ユニットにより、ステップ(a)において受信された値を、IGFBP-7についての参照と比較するステップと、
(c)妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するステップと
を含み、そして、妊娠高血圧腎症関連状態が子癇またはHELLP症候群である、方法。
【請求項9】
前記参照が、メモリから確立される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかの評価を補助する情報を提供する方法であって、
(a)前記妊娠した対象から得られた試料を受け取るステップと、
(b)前記試料中のバイオマーカーIGFBP-7の量を決定するステップと、
(c)バイオマーカーIGFBP-7の決定された量の値についての情報を、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかの評価を補助する情報として、医師に提供するステップと
を含み、そして、妊娠高血圧腎症関連状態が子癇またはHELLP症候群である、方法。
【請求項11】
妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がある、妊娠した対象と、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がない、妊娠した対象とを区別するための方法であって、
(a)バイオマーカーIGFBP-7(インスリン様増殖因子結合性タンパク質7)の、対象に由来する試料中の量を決定するステップと、
(b)バイオマーカーの決定された量を、参照と比較するステップと
を含み、そして妊娠高血圧腎症関連状態が、子癇またはHELLP症候群である、方法。
【請求項12】
危険性が、1週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
1週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性を組み入れる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
危険性が、4週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
4週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性を除外する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患っていない、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するための、前記対象の試料中でのバイオマーカーIGFBP-7、またはIGFBP-7に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤のin vitro使用であって、
妊娠高血圧腎症関連状態が子癇またはHELLP症候群である、使用。
【請求項18】
危険性が、1週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
1週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性を組み入れる、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
危険性が、4週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性である、請求項17に記載の使用。
【請求項21】
4週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性を除外する、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患っていない、請求項17~21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するために適合したデバイスであって、
(a)バイオマーカーIGFBP-7に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤を含み、妊娠した対象の試料中の前記バイオマーカーの量を決定するために適合している解析ユニットと、
(b)量を参照と比較するためのアルゴリズムを実装したデータ処理装置を含み、それによって、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかが評価される査定ユニットと
を含み、そして、妊娠高血圧腎症関連状態が子癇またはHELLP症候群である、デバイス。
【請求項24】
危険性が、1週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性である、請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
1週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性を組み入れる、請求項24に記載のデバイス。
【請求項26】
危険性が、4週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性である、請求項23に記載のデバイス。
【請求項27】
4週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性を除外する、請求項26に記載のデバイス。
【請求項28】
妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患っていない、請求項23~27のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するための方法であって、バイオマーカーIGFBP-7(インスリン様増殖因子結合性タンパク質7)の、対象に由来する試料中の量を決定するステップと、バイオマーカーの決定された量を、参照と比較するステップとを含む方法に関する。さらに、本発明は、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するための、前記対象の試料中でのバイオマーカーIGFBP-7、またはIGFBP-7に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤のin vitro使用に関する。また、本発明により、本発明の方法を実行するのに適合したデバイスも包含される。
【発明の概要】
【0002】
高血圧性障害は、妊娠の、最も一般的な合併症を表し、妊娠のうちの、約6~8パーセントに影響する(「Report of the National High Blood Pressure Education Program Working Group on High Blood Pressure in Pregnancy」、Am J Obstet Gynecol.、2000;183(1):S1~S22)。妊娠合併症は、一方で、妊娠した女性の、妊娠関連死亡率と関連し、他方でまた、新生児の有病率および死亡率の増大とも関連する。39歳を上回る妊婦では、生児出生100,000例当たり14.5例の割合にある、母体死亡率が、さらにより高頻度となる。
【0003】
妊娠の高血圧性障害は、1)妊娠高血圧腎症、2)慢性高血圧症(任意の原因による慢性高血圧症)、3)加重型妊娠高血圧腎症を伴う、慢性高血圧症、および4)妊娠高血圧症として分類されうる(ACOG Task Force on Hypertension in Pregnancy、Obstet Gynecol、2013;122:1122~31)。臨床管理は、一般に、妊娠高血圧腎症および慢性高血圧症の症例における血圧のコントロール、重度の高血圧症または子癇発作を伴う重度の高血圧症の症例における、発作の防止、加重型妊娠高血圧腎症を伴う、慢性高血圧症の症例における、早期分娩(37週間後と対比した、34週間後における分娩)、妊娠高血圧症の症例における、分娩後の集中的監視を含む(NICE(2011)、NICE clinical guideline、107:「Hypertension in Pregnancy」)。
【0004】
妊娠高血圧腎症は、母体および胎児/新生児にとって、死亡率および有病率と関連する、妊娠中で最も重要な高血圧性障害である(Duley、2009、Semin Perinatol:33:130~37)。
【0005】
妊娠高血圧腎症は、一般に、妊娠と関連するか、または妊娠により誘導される高血圧症として規定される。妊娠高血圧腎症は、高血圧症およびタンパク尿症により特徴づけられる。詳細はまた、標準的な内科学教科書、および多様な臨床学会のガイドラインにおいても見出される(NICE(2011)、NICE clinical guideline、107:「Hypertension in Pregnancy」)。
【0006】
現在のところ、妊娠高血圧腎症に、分娩以外の治癒は存在しない。妊娠高血圧腎症は、軽度~致死性で、重症度が変動しうる。妊娠高血圧腎症の軽度形態は、臥床および頻回のモニタリングにより処置されうる。中等度~重度の症例には、入院が推奨され、降圧剤または発作を防止するための抗痙攣剤が処方される。状態が、母体または新生児にとって致死性となる場合、妊娠は打ち切られ、新生児は、早期分娩される。
【0007】
現行のガイドラインに従い、妊娠高血圧腎症の診断は、妊娠20週目の後の妊婦における、高血圧症およびタンパク尿症の、新たな発生に基づく。以前は、血圧が正常であった女性の、妊娠20週間後の、少なくとも4時間を隔てた、2つの機会における、140mmHg以上の収縮期血圧、または90mmHg以上の拡張期血圧は、高血圧であると考えられる。著明なタンパク尿症の、信頼できる検出は、それが、妊娠高血圧腎症を伴う妊娠と、妊娠高血圧症を伴う妊娠とを識別し、これが、将来におけるモニタリングおよび管理のための土台を設定するので、新規発生の妊娠中高血圧症を伴う女性において、最も重要である。著明なタンパク尿症は、国際的に、24時間中の、300mgを超えるタンパク質の、尿中の排出として規定され、これは、妊娠高血圧腎症の定義内に含まれる(NICE(2011)、NICE clinical guideline、107:「Hypertension in Pregnancy」)。
【0008】
タンパク尿症の決定は、24時間蓄尿、タンパク質/クレアチニン比の計算、または尿試験紙の読取りにより実現されうる(「Executive Summary:Hypertension in Pregnancy」、American College of Obstetricians and Gynecologist、Obstet Gynecol、2013;22:1122~31)。
【0009】
タンパク尿症の決定は、方法が、タンパク尿の、迅速な測定を可能とするため、尿タンパク質用尿試験紙によりなされることが多い。しかし、尿試験紙は、不正確な結果を伴い、このため、腎機能不全を決定するには、極めて不正確な方法である。さらに、定性的決定のばらつきのために、この方法は、診断使用が控えられ、他の定量方法が、利用可能でない場合に限り使用される(ACOG Task Force、2013)。とりわけ、高血圧の問題を伴う女性の間で、不正確な尿試験紙結果の割合が高い。懸念されることに、尿試験紙が陰性である高血圧の女性のうちの最大で66%は、著明なタンパク尿症を有することが見出された(North R.、「Classification and diagnosis of preeclampsia」、「Preeclampsia:Etiology and Clinical Practice」、250~251頁)。
【0010】
尿中のタンパク質を決定するための、より正確な方法は、24時間尿の測定値(一般に、妊娠高血圧腎症の診断のための、24時間蓄尿当たり、300mg以上の測定値)、またはタンパク質-クレアチニン比(一般に、各々、mg/dl単位で測定された場合に、0.3以上の比)の計算である。しかし、これらの方法もまた、ある特定の欠点を有する。例えば、これらの方法は、ある特定の条件下では、時間がかかり、また、誤りを生じやすくもある。Bouzariらは、妊娠高血圧腎症を伴う患者におけるタンパク尿(24時間尿の測定により決定された)が、妊娠中の有害転帰と関連することを見出した。しかし、タンパク尿は、妊娠高血圧腎症における有害転帰の、十分な予測因子ではなかった(Bouzari Z、Javadiankutenai M、Darzi A、Barat S.:Clin Exp Obstet Gynecol.、2014;41(2):163~8)。Zhangは、タンパク尿が、妊婦における妊娠高血圧腎症またはHELLP症候群の発生を予測するための、信頼できるバイオマーカーではないことを開示する(Zhangら、「Prediction of adverse outcomes by common definitions of hypertension in pregnancy」、Obstet Gynecol 2001;97:261~7)。同様に、Thangaratinamは、体系的な総説において、タンパク尿が、妊娠高血圧腎症の合併症の予測因子として不十分であることを示す(Thangaratinamら、「Estimation of proteinuria as a predictor of complications of pre-eclampsia:a systematic review」、BMC Medicine、2009;7:10)。
【0011】
妊娠高血圧腎症は、周産期における有病率および死亡率の、主要原因の1つであるので、疾患の予測のためのバイオマーカーが、緊急に必要とされる。特に、早発性妊娠高血圧腎症の予測は、重度の副作用、およびこれと関連する有害転帰に照らして、重要である。さらに、妊娠高血圧腎症の予測は、予防的介入研究または治療的介入研究の計画にも、決定的である(Ohkuchi、2011、Hypertension、58:859~866)。他方、ある特定の時間域内における、妊娠高血圧腎症の危険性の増大が除外されうる危険性群に属する患者は、特別の加療を必要とせず、外来で処置されうる場合が大半である(外来状況)。
【0012】
ドップラー超音波検査は、子宮内灌流が異常な患者を同定するのに適用されており、ドップラー超音波検査により同定された、灌流の異常を呈する患者は、妊娠高血圧腎症、子癇、および/またはHELLP症候群を発症する危険性があることが示唆されている(Stepan、2007、Hypertension、49:818~824;Stepan、2008、Am J Obstet Gynecol、198:175.e1~1)。しかし、ドップラー超音波検査の欠点は、実行および結果の査定に、高度に専門的な医療従事者が要求されることである。
【0013】
血管新生因子およびこれらのアンタゴニストは、妊娠高血圧腎症についての指標であることが示唆されている。特に、胎盤増殖因子(PlGF)、および可溶性fsm様チロシンキナーゼ1(sFlt-1)は、妊娠高血圧腎症を患う患者において変更されることが報告されている。妊娠の異なる時点における、sFlt-1およびPlGFの個別の比は、妊娠高血圧腎症についての危険性と、個別に相関している(Kusanovic、2009、J of Maternal- Fetal and Neonatal Medicine、22(11):1021~1038)。WO2013/068475は、妊娠した対象が、sFlt-1とPlGFとの、第1の比および第2の比に基づき、短期間内に、妊娠高血圧腎症を発症する危険性があるのかどうかを診断するための方法を開示する。
【0014】
IGFBP-7(インスリン様増殖因子結合性タンパク質7)とは、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、および上皮細胞により分泌されることが公知である、30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono,Y.ら、Biochem Biophys Res Comm、202(1994)、1490~1496)。IGFBP-7は、多様な状態についての、診断マーカーまたは予後診断マーカーとして記載されている。例えば、IGFBP-7は、がんについてのバイオマーカーとして記載されており、抗IGFBP-7抗体の使用は、腫瘍血管新生を含む、新生物性疾患を検出するための診断ツールとして示唆された(WO2010/043037)。WO2008/089994は、心不全の評価における、IGFBP-7の使用を開示する。尿中の、TIMP-2と組み合わせたIGFBP-7は、心臓手術の直後における急性腎損傷(AKI)を予測し、腎臓の回復を予測するための、高感度かつ特異的なバイオマーカーであることが示されている(Meerschら、PLoS One、2014年3月27日;9(3))。EP2666872A1は、腎損傷および腎不全の、診断および予後診断のための、多様なマーカーを開示する。開示されたマーカーのうちの1つは、IGFBP-7である。
【0015】
WO2017/148854は、妊娠した対象における、妊娠高血圧腎症、または子癇、HELLP症候群などの妊娠高血圧腎症関連状態を診断するための方法を開示する。文献は、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかの評価を開示しない。それどころか、文献は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を、既に発症した対象の同定に焦点が絞られている。
【0016】
妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性を評価し、これにより、危険性のある対象を、可能な限り早期に同定する、新たなバイオマーカーベースの方法を開発することが、強く必要とされる。特に、対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する前に、危険性のある対象を同定することが、強く必要とされる。早期の同定は、危険性に取り組むことを目的とする、適切な患者管理措置の、早期の開始を可能とするであろう。したがって、危険性を評価するための、信頼でき、かつ、高感度のバイオマーカーが要求される。
【0017】
本発明の根底をなす技術的問題は、前述の必要に適合するための手段および方法の提供と考えられうる。技術的問題は、特許請求の範囲および本明細書の下記で特徴づけられる実施形態により解決される。
【0018】
本発明の研究の文脈では、妊娠した対象に由来する試料中のIGFBP-7の量の測定が、妊娠高血圧腎症、または妊娠高血圧腎症関連状態(子癇またはHELLP症候群など)についての、迅速かつ信頼できる予測を可能とすることが見出された。
【0019】
したがって、本発明は、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するための方法であって、
(a)バイオマーカーIGFBP-7(インスリン様増殖因子結合性タンパク質7)の、対象に由来する試料中の量を決定するステップと、
(b)バイオマーカーの決定された量を、参照と比較するステップと
を含む方法に関する。
【0020】
本発明のある実施形態では、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態の危険性は、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価する、さらなるステップ(c)を実行することにより評価される。前記評価は、ステップ(b)で実行された比較の結果に基づくものとする。
【0021】
本発明の方法は、好ましくは、in vitro法である。さらに、本発明の方法は、上記で明示的に言及されたステップに加えたステップを含みうる。例えば、さらなるステップは、試料の前処理または方法により得られる結果についての査定に関する場合がある。本発明の方法はまた、対象のモニタリング、確認、および亜分類のためにも使用されうる。方法は、手作業により実行される場合もあり、自動化により支援される場合もある。好ましくは、ステップ(a)、(b)、および/または(c)は、全体として、または部分的に、自動化により、例えば、ステップ(a)における決定のための、適切なロボット装置およびセンサー装置、またはステップ(b)における、コンピュータ実装計算により支援されうる。
【0022】
本発明に従い、妊娠した対象における、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態の危険性が、評価されるものとする。当技術分野では、妊娠高血圧腎症、または妊娠高血圧腎症関連状態が周知である。
【0023】
図は、以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】対照群(PEなし=妊娠高血圧腎症なし;n=354)、および1週間以内のPE(妊娠高血圧腎症;n=27)診断群で分けられた、妊婦におけるIGFBP-7レベル[ng/mL]についての箱髭図である。各箱の下辺および上辺は、それぞれ、第1四分位数および第3四分位数を表し、箱内の帯域は、中央値を表し、髭は、四分位範囲の1.5倍である値を表す。血清IGFBP-7の平均値は、1週間以内の妊娠高血圧腎症(PE)の診断を伴う妊婦において、1週間以内の妊娠高血圧腎症の診断を伴わない女性(PEなし=対照群)と比較して増大する。妊娠高血圧腎症の診断は、妊娠20週目の後における、高血圧症およびタンパク尿症の新たな発生により規定される。
図2】対照群(PEなし=妊娠高血圧腎症なし;n=328)、および4週間以内のPE(妊娠高血圧腎症;n=53)診断群で分けられた、妊婦におけるIGFBP-7レベル[ng/mL]についての箱髭図である。各箱の下辺および上辺は、それぞれ、第1四分位数および第3四分位数を表し、箱内の帯域は、中央値を表し、髭は、四分位範囲の1.5倍である値を表す。血清IGFBP-7の平均値は、4週間以内の妊娠高血圧腎症(PE)の発生を伴う妊婦において、4週間以内の妊娠高血圧腎症の発生を伴わない女性(PEなし=対照群)と比較して増大する。
図3】対照群(PEなし=妊娠高血圧腎症なし;n=305)、および分娩までの妊娠中のPE(妊娠高血圧腎症;n=76)診断(診断全体)で分けられた、妊婦におけるIGFBP-7レベル[ng/mL]についての箱髭図である。各箱の下辺および上辺は、それぞれ、第1四分位数および第3四分位数を表し、箱内の帯域は、中央値を表し、髭は、四分位範囲の1.5倍である値を表す。血清IGFBP-7の平均値は、妊娠中の妊娠高血圧腎症(PE)の診断を伴う妊婦において、妊娠中の妊娠高血圧腎症の診断を伴わない女性(PEなし=対照群)と比較して増大する。
図4】1週間以内の妊娠高血圧腎症の予測のための、IGFBP-7についてのROC(受信者操作特性)曲線である。1週間以内に妊娠高血圧腎症を発症する妊婦を、1週間以内に妊娠高血圧腎症を発症しない妊婦から区別するための、血清IGFBP-7についてのROC曲線は、77.8%(95%信頼区間:69.1~86.5)の曲線下面積(AUC)を結果としてもたらした。
図5】4週間以内の妊娠高血圧腎症の予測のための、IGFBP-7についてのROC(受信者操作特性)曲線である。4週間以内に妊娠高血圧腎症を発症する妊婦を、4週間以内に妊娠高血圧腎症を発症しない妊婦から区別するための、血清IGFBP-7についてのROC曲線は、78.7%(95%信頼区間:72.6~84.8)の曲線下面積(AUC)を示した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書で使用される、「妊娠高血圧腎症」という用語は、高血圧症およびタンパク尿症により特徴づけられる医学的状態を指す。妊娠高血圧腎症は、妊娠した女性対象において生じ、この文脈における高血圧症はまた、妊娠誘導性高血圧症とも称される。好ましくは、妊娠誘導性高血圧症は、140mmHg(収縮期)および/もしくは90mmHg(拡張期)またはこれを超える血圧の、2つの血圧測定により、対象において存在することが同定され、この場合、前記2つの測定は、少なくとも6時間を隔ててなされている。タンパク尿症は、24時間尿試料中の300mgまたはこれを超えるタンパク質により存在することが同定されうる。タンパク尿症はまた、タンパク質尿試験紙解析(≧2+の場合)によって同定される場合もあり、スポット尿試料中、タンパク質1dL当たり≧30mgが存在する場合に同定される場合もあり、スポット尿中の、1ミリモルのクレアチニン当たり、≧30mgのタンパク質の、タンパク質/クレアチニン比によって同定される場合もある。
【0026】
本発明に従う妊娠高血圧腎症は、軽度形態または重度形態の妊娠高血圧腎症でありうる。当技術分野では、「軽度の妊娠高血圧腎症」および「重度の妊娠高血圧腎症」という用語が周知である。「軽度の妊娠高血圧腎症」という用語は、好ましくは、少なくとも6時間を隔てた、2つの機会における、タンパク尿症および高血圧症(特に、血圧≧140/90mmHgの高血圧症)の存在を指すが、妊娠20週目の前に、正常血圧であった女性における、末端臓器の損傷の証拠を伴わない。「重度の妊娠高血圧腎症」という用語は、以下の症状:少なくとも6時間を隔てた、2つの機会における、160mmHgもしくはこれを超える収縮期血圧、または110mmHgもしくはこれを超える拡張期血圧、24時間蓄尿中で5gを超えるか、または少なくとも4時間を隔てて回収された、2例のランダム尿試料において、3+を超えて増加する、タンパク尿症、乏尿(特に、24時間中の尿が400mL未満である尿)、遷延性頭痛、上腹部痛および/または肝機能障害、ならびに血小板減少症のうちの少なくとも1つを伴う、妊娠高血圧腎症を指す。
【0027】
本発明の文脈で実行される研究は、早発性妊娠高血圧腎症および遅発性妊娠高血圧腎症のいずれの危険性も評価されうることを示す。特に、対象が、早発性妊娠高血圧腎症を患う危険性についての評価は、それが、通例、比較的軽度である、遅発性妊娠高血圧腎症と比較して、通例、より重度の副作用および有害転帰を伴うので、有利である。
【0028】
したがって、ある実施形態では、本発明の方法は、対象が、早発性妊娠高血圧腎症を患う危険性の評価を包含する。早発性妊娠高血圧腎症は、妊娠約20週目~約34週目の間に生じる。したがって、妊娠約20週目~約34週目の間に、試料を得ることが想定される。
【0029】
したがって、別の実施形態では、本発明の方法は、対象が、遅発性妊娠高血圧腎症を患う危険性の評価を包含する。遅発性妊娠高血圧腎症は、妊娠34週目の後で生じる。したがって、妊娠34週目の後で、試料を得ることが想定される。
【0030】
妊娠高血圧腎症関連状態は、好ましくは、子癇およびHELLP症候群から選択される。
子癇とは、強直間代発作または昏睡状態の出現により特徴づけられる、致死性障害である。重度の妊娠高血圧腎症と関連する症状は、24時間中に500ml未満の乏尿、脳または視覚の機能障害、肺浮腫またはチアノーゼ、上腹部痛または右上腹部痛、肝機能障害、血小板減少症である。
【0031】
当技術分野では、「HELLP症候群」という用語が周知である。HELLP症候群とは、通例、妊娠高血圧腎症の合併症と考えられる、致死性の産科合併症である。HELLP症候群は、通例、妊娠後期に生じる。HELLP症候群は、腎不全、被膜下肝血腫、再発性妊娠高血圧腎症、なおまたは死などの有害転帰の高危険性と関連する。「HELLP」とは、症候群の、3つの主要な特色:溶血、肝酵素の上昇、および低血小板カウントの略称である。HELLP症候群は、患者間の症状のばらつきのために、診断が困難であり(しばしば、患者は、一般的な腹痛以外の症状を有さない)、早期の診断が、有病率の低減における鍵である。一時的に処置されなければ、患者は、肝破裂/出血または脳浮腫のために、重病となるか、または死ぬ恐れがある。HELLP症候群の可能性がある患者では、一連の血液検査:全血球計算、凝固検査、肝酵素、電解質、および腎機能研究が実施される。上昇の恐れがある、フィブリン分解産物(FDP)レベルが決定されることが多い。乳酸デヒドロゲナーゼは、溶血のマーカーであり、上昇する(1リットル当たり>600Uとなる)。
【0032】
本発明に従い、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかが評価されるものとする。したがって、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する(すなわち、将来において、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う)危険性が予測されるものとする。したがって、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性の予測とは、患者が、現在、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患うことの診断を指すのではなく、患者における、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態の、将来の発生の危険性を指す。したがって、被験対象は、特に、被験試料が得られた時点において、予測される状態を患わないことが想定される。
【0033】
好ましくは、本明細書で使用される、「危険性を予測すること」または「危険性を評価すること」という用語は、対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う確率を評価することを指す。特に、ある特定の時間域内、例えば、3日間、1週間、2週間、3週間、4週間、または6週間以内の危険性/確率が予測される。したがって、対象が、短期的危険性があるのかどうかが評価されるものとする。例えば、短期的危険性は、約1~約4週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性である。また、短期的危険性とは、約1~約2週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性であることも想定される。
【0034】
本発明の、好ましい実施形態では、予測域は、1週間の期間である。したがって、対象が、1週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかが評価される。本発明の、さらに好ましい実施形態では、予測域は、2週間の期間である。本発明の、さらに好ましい実施形態では、予測域は、3週間の期間である。本発明の、別の好ましい実施形態では、予測域は、4週間の期間である。したがって、対象が、4週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかが評価される。好ましくは、予測域は、被験試料が得られた時点から計算される。
【0035】
当業者により理解される通り、このような予測/評価は、通例、対象のうちの100%について正確であることが意図されるわけではない。「危険性を予測すること」という表現は、典型的に、予測/評価が、対象のうちの、統計学的に有意な部分について、適正かつ正確になされうることを要求する。部分が、統計学的に有意であるのかどうかは、周知の多様な統計学的査定ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などを使用して、さらなる煩雑さを伴わずに、当業者により決定されうる。詳細については、Dowdy and Wearden、「Statistics for Research」、John Wiley & Sons、New York、1983において見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。好ましくは、本発明により想定される確率は、所与のコホートまたは集団の対象のうちの、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%について、予測が正確であることを可能とする。
【0036】
また、「危険性を予測すること」という表現は、典型的に、評価が、対象のうちの、ある特定の部分(例えば、コホート研究におけるコホート)について、本明細書の他の箇所で明示される陰性的中率で、正確であることも要求する。将来のある特定の時間域において、妊娠高血圧腎症、または妊娠高血圧腎症関連状態を、発症するのか、発症しないのかの危険性は、偽陽性/陰性および真陽性/陰性の評価に関する検定の性能について記載する要約統計量を伴う、本発明の方法などの検定により診断されうる。
【0037】
高陰性的中率は、診断検定によりなされる陰性評価における、高信頼水準を指し示す。陰性的中率は、真陰性結果および偽陰性結果の合計(すなわち、診断検定により決定される、全ての陰性転帰)により除された、真陰性結果の数として表されうる。原理的に、陰性的中率は、診断検定の感度および特異度、ならびにある特定のコホート内の、疾患または状態の有病率に応じて計算されうる。具体的に、陰性的中率とは、[(特異度)(1-有病率)]/[(特異度)(1-有病率)+(1-感度)(有病率)]である。有病率の予測が、コホート研究から得られうるのに対し、症例対照研究は、検定についての感度および/または特異度をもたらしうる。特に、本発明の方法により確立される予測の陰性的中率は、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、より好ましくは、少なくとも約92%であるものとし、最も好ましくは、少なくとも約94%であるものとする。前述の陰性的中率は、例えば、1週間の予測域に適用される。
【0038】
陽性的中率(PPV)とは、陽性判定を伴う対象のうち、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を、実際に発症する対象の百分率である。陽性的中率(PPV)は、好ましくは、少なくとも約20%、より好ましくは、少なくとも約27%である。前述の陰性的中率は、例えば、4週間の予測域に適用される。
【0039】
本発明に従い、被験対象は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がある対象の群、または妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がない対象の群へと割り付けられる。本発明に従い言及される通り、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がある対象とは、好ましくは、対象が、危険性を上昇させた(予測域内で)ことを意味する。好ましくは、前記危険性は、妊娠した対象のコホート内の平均の危険性と比較して上昇する。したがって、「妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がある」という語句は、将来の予後診断時間域内において、妊娠高血圧腎症を発症する危険性がない、妊娠した対象と比較して、統計学的に、有意に大きな可能性で、妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧腎症関連状態を発症する、妊娠した対象を指す。
【0040】
本発明に従い言及される通り、対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がない場合、好ましくは、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性は低減する(予測域内で)。好ましくは、前記危険性は、妊娠した対象のコホート内の平均の危険性と比較して低減する。
【0041】
本明細書で言及される「対象」とは、好ましくは、哺乳動物である。哺乳動物は、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長動物(例えば、ヒトおよびサルなどの非ヒト霊長動物)、ウサギ、および齧歯動物(例えば、マウスおよびラット)を含むがこれらに限定されない。好ましくは、対象は、ヒト対象、すなわち、妊娠したヒト女性対象である。前記対象は、好ましくは、妊娠19週目の後である。ある実施形態では、妊娠した対象は、妊娠約20週目~約40週目の間、特に、妊娠約24週目~約40週目の間である。別の実施形態では、妊娠した対象は、妊娠約24週目~34週目の間など、妊娠約20週目~34週目の間である。別の実施形態では、妊娠した対象は、妊娠約34週目~約40週目の間である。
【0042】
本発明のある実施形態では、妊娠した被験対象は、高血圧症を患う。この文脈では、高血圧症は、2つの独立の測定における、140mmHg(収縮期)および/もしくは90mmHg(拡張期)またはこれを超える血圧として規定され、この場合、前記2つの測定は、少なくとも6時間を隔ててなされている。ある実施形態では、高血圧症は、新規発生の高血圧症である。したがって、妊娠した対象は、妊娠の前に高血圧症を患ったことがないことが想定される。
【0043】
本発明のある実施形態では、対象は、以下の症状:高血圧の新たな発生、既往の高血圧症の重症化、尿タンパクの新たな発生、既往のタンパク尿症の重症化、上腹部痛、過剰な浮腫/重度の腫脹(顔面、手掌、脚部)、頭痛、視覚機能障害、急激な体重増加(第3トリメスター中における、1週間当たり1kgを超えるなど)、低血小板、肝トランスアミナーゼの上昇、子宮内発育制限(または推定子宮内発育制限)、第2トリメスターにおける、ドップラー超音波法を介する、平均値胎児血流>第95百分位数により検出される、異常な子宮内灌流、および子宮動脈流の両側拡張期切痕のうちの1つまたは複数を示す。
【0044】
さらに、対象は、40歳を超える妊娠した対象、および/または初回の妊娠における、妊娠した対象、妊娠高血圧腎症の家族暦を有する(例えば、母または姉妹における妊娠高血圧腎症)、妊娠した対象、かつての妊娠において、妊娠高血圧腎症の既往歴を有する、妊娠した対象、初診時の体格指数が、35kg/m以上である、妊娠した対象、または例えば、NICE(National Institute for Health and Care Excellence、Antenatal Care Guideline CG62、2008年3月)において記載されている、高血圧症もしくは糖尿病など、複数の妊娠性血管疾患もしくは既往の血管疾患を伴う、妊娠した対象であることが想定される。
【0045】
本発明の方法についての、別の実施形態では、被験対象は、見かけ上は健康な、妊娠した対象である。別の実施形態では、被験対象は、タンパク尿症を患わない、妊娠した対象でありうる。別の実施形態では、被験対象は、高血圧症を患わない、妊娠した対象でありうる。このような対象のために、本発明の方法は、規定のスクリーニング技法において使用されうる。
【0046】
「試料」という用語は、体液試料、分離細胞試料、または組織もしくは臓器に由来する試料を指す。体液試料は、周知の技法により得られる可能性があり、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、または他の任意の体内分泌物もしくはこれらの派生物の試料を含む。好ましい体液試料は、尿、血液、血清、または血漿である。組織試料または臓器試料は、任意の組織または臓器から、例えば、生検により得られうる。分離細胞は、遠心分離または細胞分取などの分離技法により、体液または組織もしくは臓器から得られうる。例えば、細胞試料、組織試料、または臓器試料は、バイオマーカーを発現させるか、または産生する、細胞、組織、または臓器から得られうる。試料は、凍結試料、新鮮試料、固定(例えば、ホルマリン固定)試料、遠心分離試料、および/または包埋(例えば、パラフィン包埋試料などでありうる。細胞試料は、当然ながら、試料中のマーカーの量を評価する前に、周知の、様々な、回収後調製技法および保存技法(例えば、核酸および/またはタンパク質抽出、固定、保存、凍結、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離など)にかけられうる。
【0047】
さらに、血液試料は、乾燥血斑試料であることが想定される。乾燥血斑試料は、血液の液滴を、吸収性の濾紙へと滴下することにより得られうる。血液は、濾紙を完全に飽和させ、数時間にわたり風乾させる。血液は、被験対象、例えば、指から、ランセットにより採取されている場合がある。
【0048】
好ましい実施形態では、試料は、血液(すなわち、全血)試料、血清試料、または血漿試料である。血清とは、血液が凝固した後で得られる、全血の液体画分である。血清を得るために、凝血が、遠心分離により除去され、上清が回収される。血漿とは、血液のうちの、無細胞の流体部分である。血漿試料を得るために、全血が、抗凝固処理チューブ(例えば、クエン酸処理チューブまたはEDTA処理チューブ)内に回収される。細胞が、遠心分離により、試料から除去され、上清(すなわち、血漿試料)が得られる。
【0049】
本発明に従い、インスリン様増殖因子結合性タンパク質7(=IGFBP-7)の量が決定されるものとする。好ましくは、IGFBP-7ポリペプチドの量が決定される。IGFBP-7とは、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、および上皮細胞により分泌されることが公知である、30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono,Y.ら、Biochem Biophys Res Comm、202(1994)、1490~1496)。好ましくは、「IGFBP-7」という用語は、ヒトIGFBP-7を指す。当技術分野では、タンパク質の配列が周知であり、例えば、Uni-Prot(Q16270、IBP7_HUMAN)、またはGenBank(NP_001240764.1)を介してアクセス可能である。バイオマーカーIGFBP-7の詳細な定義は、例えば、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、WO2008/089994において提示されている。IGFBP-7には、代替的スプライシングにより産生される、2つのアイソフォームである、アイソフォーム1および2が存在する。本発明のある実施形態では、両方のアイソフォームの合計量が決定される(配列については、UniProtデータベース登録番号(Q16270-1およびQ16270-2)を参照されたい)。
【0050】
本明細書で使用される、「量」という用語は、本明細書で言及される、バイオマーカーの絶対量、前記バイオマーカーの相対量または相対濃度のほか、これらと相関するか、またはこれらから導出される、任意の値またはパラメーターを包含する。このような値またはパラメーターは、直接的な測定、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルにおける強度値により、前記ペプチドから得られる、全ての特異的な、物理的特性または化学的特性に由来する強度シグナル値を含む。さらに、本記載の他の箇所で指定される、間接的な測定、例えば、ペプチドに応答する、生物学的読取りシステムから決定される応答量、または特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルにより得られる、全ての値またはパラメーターも包含される。前述の量またはパラメーターと相関する値はまた、全ての標準的な数学的演算によっても得られうることが理解されるものとする。
【0051】
本明細書で言及される、バイオマーカーの量「を決定すること」という用語は、バイオマーカーの定量、例えば、本明細書の他の箇所で記載される、適切な検出方法を援用して、試料中のバイオマーカーのレベルを決定することを指す。
【0052】
ある実施形態では、バイオマーカーの量は、試料を、バイオマーカーに特異的に結合する薬剤と接触させ、これにより、薬剤と、前記バイオマーカーとの複合体を形成し、形成される複合体の量を検出し、これにより、前記バイオマーカーの量を決定することにより決定される。
【0053】
本明細書で言及されるバイオマーカーは、当技術分野で一般に公知の方法を使用して検出されうる。検出方法は、一般に、試料中のバイオマーカーの量を定量する方法(定量方法)を包含する。当業者には、以下の方法のうちのいずれが、バイオマーカーの定性的検出および/または定量的検出に適するのかが、一般に公知である。試料は、例えば、市販される、ウェスタン法、およびELISA、RIAなどのイムノアッセイ、蛍光ベースのイムノアッセイおよび発光ベースのイムノアッセイを使用して、タンパク質について便利にもアッセイされうる。バイオマーカーを検出するのに適する、さらなる方法は、その正確な分子量またはNMRスペクトルなど、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な、物理的特性または化学的特性を決定するステップを含む。前記方法は、例えば、バイオセンサー、イムノアッセイへとカップリングした光学デバイス、バイオチップ、質量分析器、NMR解析器、またはクロマトグラフィーデバイスなどの解析デバイスを含む。さらに、方法は、マイクロプレートによるELISAベースの方法、完全自動式イムノアッセイまたはロボット式イムノアッセイ(例えば、Elecsys(商標)解析器上で実行可能なアッセイ)、CBA(例えば、Roche-Hitachi(商標)解析器上で実行可能な、酵素コバルト結合アッセイ)、およびラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-Hitachi(商標)解析器上で実行可能なアッセイ)を含む。
【0054】
本明細書で言及される、バイオマーカータンパク質の検出のためには、このようなアッセイフォーマットを使用する、広範にわたるイムノアッセイ技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号、同第4,424,279号、および同第4,018,653号を参照されたい。これらは、単一サイトアッセイおよび2サイトアッセイ、または非競合的型の「サンドイッチ」アッセイ、ならびに従来の競合的結合アッセイを含む。これらのアッセイはまた、標識付けされた抗体の、標的バイオマーカーへの、直接的な結合も含む。サンドイッチアッセイは、最も有用なイムノアッセイの中のアッセイである。
【0055】
電気化学発光標識を援用する方法が周知である。このような方法は、特殊な金属錯体が、酸化により、そこから、電気化学発光を放射しながら、基底状態へと減衰する励起状態を達成する能力を使用する。総説については、Richter,M.M.、Chem.Rev.104(2004)、3003~3036を参照されたい。
【0056】
ある実施形態では、バイオマーカーの量を決定するために使用される検出抗体(またはその抗原結合性断片)は、ルテニル化またはイリジニル化される。したがって、抗体(またはその抗原結合性断片)は、ルテニウム標識を含むものとする。ある実施形態では、前記ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。または抗体(またはその抗原結合性断片)は、イリジウム標識を含むものとする。ある実施形態では、前記イリジウム標識は、WO2012/107419に開示された錯体である。
【0057】
ポリペプチド(IGFBP-7など)の量の決定は、好ましくは、(a)ポリペプチドを、前記ポリペプチドに特異的に結合する薬剤と接触させるステップ、(b)(任意選択で)結合しなかった薬剤を除去するステップ、(c)結合した結合剤、すなわち、ステップ(a)で形成された、薬剤の複合体の量を決定するステップを含みうる。好ましい実施形態に従い、前記接触させるステップ、任意選択で、除去するステップ、および決定するステップは、解析器ユニットにより実施されうる。一部の実施形態に従い、前記ステップは、前記システムの、単一の解析器ユニットにより実施される場合もあり、互いに作動可能に連絡された、1つを超える解析器ユニットにより実施される場合もある。例えば、特異的実施形態に従い、本明細書で開示される前記システムは、前記接触させるステップと、任意選択で、除去するステップとを実施するための、第1の解析器ユニットと、輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、前記第1の解析器ユニットへと、作動可能に接続された、前記決定するステップを実施するための、第2の解析器ユニットとを含みうる。
【0058】
バイオマーカーに特異的に結合する薬剤(本明細書にまた、「結合剤」とも称される)は、標識へと、共有結合的に、または非共有結合的にカップリングし、結合した薬剤の検出および測定を可能としうる。標識付けは、直接方法によりなされる場合もあり、間接方法によりなされる場合もある。直接的標識付けは、標識の、結合剤への、直接的な(共有結合的または非共有結合的)カップリングを伴う。間接的標識付けは、二次結合剤の、一次結合剤への結合(共有結合的または非共有結合的)を伴う。二次結合剤は、一次結合剤に特異的に結合するものとする。前記二次結合剤は、適切な標識とカップリングさせる場合もあり、および/または二次結合剤に結合する、三次結合剤の標的(受容体)である場合もある。適切な、二次以上の結合剤は、抗体、二次抗体、およびストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)など、周知の結合系を含みうる。結合剤または基質はまた、当技術分野で公知の、1つまたは複数のタグによっても「タグづけ」させうる。次いで、このようなタグは、高次結合剤のための標的でありうる。適切なタグは、ビオチン、ジゴキシゲニン、Hisタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、mycタグ、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合性タンパク質などを含む。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくは、N末端および/またはC末端にある。適切な標識は、適切な検出方法により検出可能な、任意の標識である。典型的な標識は、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム複合体、イリジウム複合体、酵素的活性標識、放射性標識、磁性標識(例えば、常磁性標識および超常磁性標識を含む、「磁気ビーズ」)、および蛍光標識を含む。酵素的活性標識は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびこれらの誘導体を含む。適切な検出用基質は、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート;Roche Diagnosticsから、既製品の原液として市販されている)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)を含む。適切な酵素基質の組合せは、当技術分野で公知の(例えば、感光フィルムまたは適切なカメラシステムを使用する)方法に従い決定されうる、有色反応産物、蛍光発光、または化学発光を結果としてもたらしうる。酵素反応の決定に関しても、上記で示された基準が、同様に適用される。典型的な蛍光標識は、蛍光タンパク質(など、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、Texas Red、フルオレセイン、およびAlexa染料(例えば、Alexa 568)を含む。さらなる蛍光標識は、例えば、Molecular Probes(Oregon)から市販されている。また、蛍光標識としての量子ドットの使用も企図される。放射性標識は、公知で適切な、任意の方法、例えば、感光フィルム、またはホスホル造影剤により検出されうる。
【0059】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下の通りに:(a)本明細書の別の箇所で記載される、ポリペプチドに対する結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含む試料と接触させ、(b)支持体に結合した、ペプチドまたはポリペプチドの量を決定しても決定されうる。当技術分野では、支持体を製造するための材料が周知であり、とりわけ、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、金属コロイド粒子、ガラスおよび/またはシリコン製のチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト、反応トレイのウェルおよび壁面、プラスチックチューブなどを含む。
【0060】
さらなる態様では、試料は、形成された複合体の量を測定する前に、結合剤と、1つのマーカーとの間で形成された複合体から除去される。したがって、ある態様では、結合剤は、固体支持体上に固定されうる。さらなる態様では、試料は、洗浄液を適用することにより、固体支持体上に形成された複合体から除去されうる。
【0061】
「サンドイッチアッセイ」は、多種多様なサンドイッチアッセイ技法を包含する、最も有用であり、かつ、一般的に使用されるアッセイの中にある。略述すると、典型的なアッセイでは、非標識(捕捉)結合剤を、固定するか、または固体基質上に固定することができ、被験試料を、捕捉結合剤と接触させる。結合剤-バイオマーカー複合体の形成を可能とするのに十分な時間にわたる、適切なインキュベーション時間の後、次いで、検出可能なシグナルをもたらすことが可能なレポーター分子で標識された、第2の(検出)結合剤を添加し、インキュベートし、結合剤-バイオマーカー-標識化結合剤の、別の複合体の形成に十分な時間をもたらす。任意選択で、任意の非反応材料は、洗い流すことができる。バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子によりもたらされるシグナルの観察により決定される。結果は、目視可能なシグナルの単純な観察により、定性的な場合もあり、既知量のバイオマーカーを含有する対照試料との比較により定量される場合もある。
【0062】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーションステップは、要件および必要に応じて変動しうる。このような変動は、例えば、2つまたはこれを超える結合剤およびバイオマーカーが共インキュベートされる、同時的インキュベーションを含む。例えば、解析される試料、標識付けされた結合剤の両方が、固定された捕捉用結合剤へと、同時に添加される。また、まず、解析される試料、標識付けされた結合剤をインキュベートし、その後で、固相に結合した抗体、または固相に結合することが可能な抗体を添加することも可能である。
【0063】
特異的結合剤と、バイオマーカーとの間で形成される複合体は、試料中に存在するバイオマーカーの量と比例するものとする。適用される結合剤の特異度および/または感度は、特異的に結合することが可能な、試料中に含まれる少なくとも1つのマーカーの比率を規定することが理解されるであろう。本明細書の他の箇所では、どのようにして測定が実行されうるのかについての、さらなる詳細もまた見出される。形成された複合体の量は、試料中に、実際に存在する量を反映する、バイオマーカーの量へと変換されるものとする。
【0064】
本明細書では、「結合剤」、「特異的結合剤」、「解析物特異的結合剤」、「検出剤」、および「バイオマーカーに特異的に結合する薬剤」という用語は、互換的に使用される。好ましくは、「結合剤」という用語は、対応するバイオマーカーに特異的に結合する結合性部分を含む薬剤に関する。「結合剤」または「薬剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)、または化合物である。好ましい薬剤は、決定されるバイオマーカーに特異的に結合する、抗体またはその抗原結合性断片である。本明細書における「抗体」という用語は、最も広義において使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば、二特異性抗体)、および、それらが、所望の抗原結合性活性を呈する限りにおける、抗体断片(すなわち、抗体の抗原結合性断片)を含むがこれらに限定されない、多様な抗体構造を包含する。好ましくは、抗体は、ポリクローナル抗体である。より好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体である。
【0065】
「~に特異的に結合すること」または「~に特異的に結合する」という用語は、結合対分子が、他の分子にそれほど結合しない条件下で、互いに対する結合を呈する、結合反応を指す。バイオマーカーとしてのタンパク質またはペプチドに言及する場合の、「~に特異的に結合すること」または「~に特異的に結合する」という用語は、結合剤が、少なくとも10-7Mのアフィニティーで、対応するバイオマーカーに結合する結合反応を指す。「~に特異的に結合すること」または「~に特異的に結合する」という用語は、好ましくは、その標的分子に対する、少なくとも10-8Mのアフィニティー、なおまたは、より好ましくは、少なくとも10-9Mのアフィニティーを指す。「特異的」または「特異的に」という用語は、試料中に存在する他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意には結合しないことを指し示すのに使用される。
【0066】
本明細書で使用される、「~を比較すること」という用語は、対象に由来する試料中のバイオマーカーの量を、本記載の他の箇所において指定される、参照バイオマーカーの量と比較することを指す。本明細書で使用される、「比較すること」とは、通例、対応するパラメーターまたは値の比較、例えば、絶対量は、絶対参照量と比較される一方、濃度は、参照濃度と比較されるか、または試料中のバイオマーカーから得られる強度シグナルは、参照試料から得られる、同じ型の強度シグナルと比較されることを指すことが理解されるものとする。比較は、手作業により実行される場合もあり、コンピュータにより支援される場合もある。したがって、比較は、コンピューティングデバイスにより実行されうる。対象に由来する試料中のバイオマーカーの決定された量または検出された量の値と、参照量の値とは、例えば、互いと比較され、前記比較は、比較のためのアルゴリズムを実行する、コンピュータプログラムにより、自動的に実行されうる。前記査定を実行するコンピュータプログラムは、所望の評価を、適切な出力フォーマットで提示するであろう。コンピュータ支援型比較では、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベース内に保存された、適切な参照に対応する値と比較されうる。コンピュータプログラムは、比較の結果をさらに査定しうる、すなわち、所望の評価を、適切な出力フォーマットで、自動的にもたらしうる。コンピュータ支援型比較では、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベース内に保存された、適切な参照に対応する値と比較されうる。コンピュータプログラムは、比較の結果をさらに査定しうる、すなわち、所望の評価を、適切な出力フォーマットで、自動的にもたらしうる。
【0067】
本発明に従い、バイオマーカーの量である、IGFBP-7は、参照と比較されるものとする。参照は、好ましくは、参照量である。本明細書で使用される、「参照量」という用語は、対象の、(i)妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う対象の群、または(ii)妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患わない対象の群への割付けを可能とする量を指す。適切な参照量は、被験試料と合わせて、すなわち、同時に、または逐次的に、解析される参照試料から決定されうる。
【0068】
参照量は、原則として、統計学の標準的な方法を適用することにより、所与のバイオマーカーについての平均または平均値に基づき、上記で指定された通りに、対象のコホートについて計算されうる。特に、事象であるのかどうかを診断することを目的とする方法など、検定の精度は、そのROC(受信者操作特性)により、最も良く記載される(とりわけ、Zweig、1993、Clin.Chem.、39:561~577を参照されたい)。ROCグラフは、観察された全範囲のデータにわたる、連続的に変化する決定閾値から得られる、感度対特異度対の全てについてのプロットである。予後診断方法の臨床性能は、その精度、すなわち、対象を、ある特定の予後診断へと、正確に割り付ける、その能力に依存する。ROCプロットは、識別を行うのに適する、閾値の完全な範囲について、1-特異度と対比した感度をプロットすることにより、2つの分布の間の重複を指し示す。y軸上には、真陽性検定結果の数の、真陽性検定結果数と、偽陰性検定結果数との積に対する比として規定される、感度、または真陽性率が取られる。これはまた、疾患または状態の存在下における、陽性率とも称される。感度は、罹患亜群だけから計算される。x軸上には、偽陽性結果の数の、真陰性結果数と、偽陽性結果数との積に対する比として規定される、偽陽性率、または1-特異度が取られる。偽陽性率は、特異度の指標であり、もっぱら、非罹患亜群から計算される。真陽性率と、偽陽性率とは、2つの異なる亜群からの検定結果を使用することにより、全く別個に計算されるため、ROCプロットは、独立のコホート内の事象の発生率に依存しない。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する、感度/1-特異度対を表す。弁別が完全な(2つの結果の分布に、重複が見られない)検定は、左上の隅を通る、ROCプロットを有し、この場合、真陽性率は、1.0または100%(完全な感度)であり、偽陽性率は、0(完全な特異度)である。弁別がなされない検定についての、理論的なプロット(2つの群についての結果の、同一な分布)は、左下隅から、右上隅への、45°の対角線である。大半のプロットはこれらの両極の間に収まる。ROCプロットが、完全に、45°対角線の下方に収まる場合、これは、「陽性率」についての基準を、「~を超える」から、「~未満の」へと逆転するか、またはこの逆により、容易に是正される。定性的に述べると、プロットが、左上隅に近づくほど、検定の全体的な精度が高まる。所望の信頼区間に応じて、閾値は、感度および特異度のそれぞれを、適正に均衡させて、所与の事象についての診断を可能とする、ROC曲線から導出されうる。したがって、本発明の前述の方法のために使用される参照、すなわち、妊娠した対象のコホート間で、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がある対象、または妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がない対象を区別することを可能とする閾値は、好ましくは、前記コホートについてのROCを、上記で記載した通りに確立し、ここから、閾値量を導出することにより生成されうる。診断方法についての、所望の感度および特異度に基づき、ROCプロットは、適切な閾値を導出することを可能とする。最適の感度が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がある対象を除外するために所望される(すなわち、除外感度である)のに対し、最適の特異度は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性があると評価される対象について想定される(すなわち、組入れ特異度)ことが理解されるであろう。
【0069】
ある特定の実施形態では、本明細書における、「参照量」という用語は、所定の値を指す。前記所定の値は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がある対象と、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がない対象とを区別することを可能とするものとする。
【0070】
本発明のある実施形態では、参照量は、例えば、4週間の予測域内で、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性を除外することを可能とするものとする。この参照量を下回る、IGFBP-7の量は、典型的に、4週間の予測域内で、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がない対象を指し示す。
【0071】
本発明のある実施形態では、参照量は、例えば、1週間の予測域内で、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性を組み入れることを可能とするものとする。この参照量を上回る、IGFBP-7の量は、典型的に、1週間の予測域内で、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がある対象を指し示す。
【0072】
以下は、診断アルゴリズムとして適用される。
好ましくは、参照量であるか、またはこれを上回る、被験対象の試料中のIGFBP-7の量は、対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性があることを指し示す。好ましくは、参照量を下回る、試料中のIGFBP-7の量はまた、対象が、妊娠高血圧腎症および/または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がないことも指し示す。
【0073】
ある実施形態では、参照量は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がないことが既知である、妊娠した対象、または妊娠した対象の群に由来する。好ましくは、参照量は、被験対象と同じ妊娠期(例えば、トリメスター、月、または週)にある、妊娠した対象、または妊娠した対象の群に由来する。好ましくは、参照量と比較して減少するか、または参照量と同一である、被験対象の試料中のバイオマーカーIGFBP-7の量は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がない対象を指し示す。
【0074】
ある実施形態では、参照量は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性があることが既知である、妊娠した対象、または妊娠した対象の群に由来する。好ましくは、参照量は、被験対象と同じ妊娠期(例えば、トリメスター、月、または週)にある、妊娠した対象、または妊娠した対象の群に由来する。好ましくは、参照量と比較して増大するか、または参照量と同一である、被験対象の試料中のバイオマーカーIGFBP-7の量は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がある対象を指し示す。
【0075】
本明細書で使用される「参照」とは、典型的に、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、より好ましくは、少なくとも約92%、または、最も好ましくは、少なくとも約94%の陰性的中率で予測を行うためのカットオフを表す、参照量または参照値を指す。ある実施形態では、前記予測は、1週間の期間域内でなされる。
【0076】
本明細書で使用される「参照」はまた、少なくとも約20%、より好ましくは、少なくとも約27%、または、最も好ましくは、少なくとも約27%の陽性的中率で予測を行うためのカットオフを表す、参照量または参照値も指す場合がある。ある実施形態では、前記予測は、4週間の期間域内でなされる。
【0077】
ある実施形態では、参照量は、約90~110ng/mlの範囲内、とりわけ、90~105ng/ml内にある。
ある実施形態では、参照量は、102~105ng/mlの量、例えば、104ng/mlなど、約100~105ng/mlの量である。このような量は、例えば、危険性を、組み入れることを可能とするであろう。したがって、この参照量を上回る、IGFBP-7の量は、例えば、1週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がある対象を指し示す。
【0078】
別の実施形態では、参照量は、96~97ng/mlの量、例えば、97ng/mlなど、約95~99.9ng/mlの量である。このような量は、例えば、危険性を、除外することを可能とするであろう。したがって、この参照量を下回る、IGFBP-7の量は、例えば、4週間以内に、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がない対象を指し示す。
【0079】
したがって、また、危険性を組み入れることを可能とする参照量、および/または危険性を除外するための参照量を使用することも想定される。
本発明の方法についての、さらに好ましい実施形態では、前記方法は、本発明の方法によりなされた評価に基づき、患者管理措置を推奨または開始するステップをさらに含む。
【0080】
本明細書で使用される、「~を推奨すること」という用語は、対象へと適用されうるか、または対象へと適用されてはならない、患者管理措置またはこれらの組合せについての提言を確立することを意味する。しかし、1つの特定の実施形態では、どのようなものであれ、実際の管理措置の適用は、用語により含まれないことが理解されるものとする。本明細書で使用される、患者管理措置とは、健康状態を、治癒させるか、回避するか、または操作するために、妊娠高血圧腎症を患う対象へと適用されうる、全ての措置を指す。例えば、患者管理措置は、モニタリングの程度(例えば、緊密なモニタリング、定期的なモニタリング、または低度のモニタリング)、入院または外来による維持、薬物処置の適用もしくは忌避、または生活様式の推奨を含む。好ましくは、前記患者管理措置は、対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があることが評価される場合、以下の措置の群:緊密なモニタリング、入院、血圧降下剤の投与、および生活様式の推奨から選択される。好ましくは、対象が、妊娠高血圧腎症を発症する危険性がないと評価される場合、前記患者管理措置は、外来モニタリングである。
【0081】
ある実施形態では、血圧降下剤は、メチルドーパ、ラベタロール、およびニフェジピンからなる群から選択される。
本発明はまた、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するための、前記対象の試料中でのバイオマーカーIGFBP-7、またはIGFBP-7に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤のin vitro使用も企図する。「検出剤」という用語は、本明細書の他の箇所で規定されている。ある実施形態では、前記検出剤は、IGFBP-7に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合性断片である。
【0082】
本明細書の上記で与えられた定義および説明は、変更すべき点は変更して、本発明の、以下の実施形態に適用される。
本発明は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がある、妊娠した対象と、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がない、妊娠した対象とを区別するための方法であって、
(a)バイオマーカーIGFBP-7(インスリン様増殖因子結合性タンパク質7)の、対象に由来する試料中の量を決定するステップと、
(b)バイオマーカーの決定された量を、参照と比較するステップと
を含む方法にさらに関する。
【0083】
前述の方法は、比較ステップ(b)の結果に基づき、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がある、妊娠した対象と、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がない、妊娠した対象とを区別するステップ(c)をさらに含みうる。
【0084】
本発明はまた、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がある、妊娠した対象と、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性がない、妊娠した対象とを区別するための、妊娠した対象の試料中でのバイオマーカーIGFBP-7、またはIGFBP-7に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤のin vitro使用も企図する。
【0085】
本発明は、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)妊娠した対象に由来する試料中で決定された、IGFBP-7の量についての値を、処理ユニットにおいて受信するステップと、
(b)前記処理ユニットにより、ステップ(a)において受信された値を、IGFBP-7についての参照と比較するステップと、
(c)妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するステップと
を含む方法にさらに関する。
【0086】
上記で言及された方法は、コンピュータ実装方法である。好ましくは、コンピュータ実装方法の全てのステップは、コンピュータ(またはコンピュータネットワーク)の、1つまたは複数の処理ユニットにより実施される。したがって、ステップ(c)における評価は、処理ユニットにより実行される。好ましくは、前記評価は、ステップ(b)の結果に基づく。
【0087】
ステップ(a)において受信された値は、本明細書の別の箇所で記載される通り、妊娠した対象に由来する試料中のIGFBP-7の量の決定から導出されるものとする。好ましくは、値は、IGFBP-7の濃度についての値である。値は、典型的に、値を、処理ユニットへと、アップロードまたは送信することにより、処理ユニットにより受信される。代替的に、値は、ユーザーインターフェースを介して、値を入力することによっても、処理ユニットにより受信されうる。
【0088】
前述の方法についての、ある実施形態では、ステップ(b)において明示された参照は、メモリから確立される。好ましくは、参照のための値は、メモリから確立される。
前述の、本発明のコンピュータ実装方法についてのある実施形態では、ステップ(c)でなされた評価の結果は、結果を提示するために構成されたディスプレイを介して提示される。
【0089】
前述の、本発明のコンピュータ実装方法についてのある実施形態では、方法は、ステップ(c)でなされた評価についての情報を、個体の電子的医療記録へと移す、さらなるステップを含みうる。
【0090】
本発明は、プログラムが、コンピュータ上またはコンピュータネットワーク上で実行される場合に、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するための、本発明に従うコンピュータ実装方法のステップを実施するための、コンピュータ実行型命令を含むコンピュータプログラムにさらに関する。典型的に、コンピュータプログラムは、具体的に、本明細書で開示される方法のステップを実施するための、コンピュータ実行型命令を含有しうる。具体的に、コンピュータプログラムは、コンピュータ読取り型データ記憶媒体上に保存されうる。
【0091】
本発明は、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかの評価を補助する方法であって、
(a)前記妊娠した対象から得られた試料を受け取るステップと、
(b)前記試料中のバイオマーカーIGFBP-7の量を決定するステップと、
(c)バイオマーカーIGFBP-7の決定された量の値についての情報を、医師に提供し、これにより、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかの評価を補助するステップと
を含む方法をさらに企図する。
【0092】
医師は、危険性の予測のために、バイオマーカーIGFBP-7の決定を依頼した医師であるものとする、すなわち、医師は、主治医である。前記医師は、妊娠した対象を処置するものとする。前述の方法は、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかの評価において、主治医を支援するものとする。
【0093】
前述の方法についての、ある実施形態では、試料を受け取るステップa)は、試料を、対象から採取することを包含しない。そうではなくて、対象から得られた(例えば、主治医の監視下で)試料が提供される。例えば、試料は、前記試料中のバイオマーカーIGFBP-7の量の決定を実行する検査室へと、試料を送達することにより提供されうる。
【0094】
量が決定された後で、決定された量の値についての情報が、医師へと提供される。加えて、参照量の値についての情報も提供されうる。提供される情報は、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのか、危険性がないのかの表示を、さらに含有しうる。
【0095】
本発明はまた、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかを評価するために適合したデバイスであって、
(a)バイオマーカーIGFBP-7に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤を含み、妊娠した対象の試料中の前記バイオマーカーの量を決定するために適合している解析ユニットと、
(b)量を参照と比較するためのアルゴリズムを実装したデータ処理装置を含み、それによって、妊娠した対象が、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を発症する危険性があるのかどうかが評価される査定ユニットと
を含むデバイスにも関する。
【0096】
本発明の方法は、前述のデバイスにより実装されうる。したがって、デバイスは、本発明の方法を実行するために適合させるものとする。本明細書で使用されるデバイスは、少なくとも前述のユニットを含むものとする。デバイスのユニットは、互いに、作動的に連結される。どのようにして、ユニットを、作動的に連結するのかは、デバイスへと組み入れられるユニットの種類に依存するであろう。例えば、IGFBP-7を、自動的に、定量的に測定するための手段が、解析ユニットにおいて適用される場合、前記自動的に作動するユニットにより得られたデータは、査定ユニット、例えば、診断を容易とするために、データ処理装置であるコンピュータ上で実行するコンピュータプログラムにより処理される。ある実施形態では、データ処理装置は、バイオマーカーの量の、参照との比較を実行する。
【0097】
このような場合、好ましくは、ユニットは、単一のデバイスにより組み入れられる。しかし、解析ユニットと、査定ユニットとはまた、物理的に別個でもありうる。このような場合、作動的連結は、データの転送を可能とする、ユニット間の有線接続および無線接続を介して達成されうる。無線接続は、無線LAN(WLAN)またはインターネットを使用しうる。有線接続は、ユニット間の光ケーブル接続および非光ケーブル接続により達成されうる。有線接続のために使用されるケーブルは、好ましくは、ハイスループットのデータ輸送に適する。
【0098】
IGFBP-7を決定するために好ましい解析ユニットは、本明細書の他の箇所で指定される、IGFBP-7を特異的に認識する抗体(またはその抗原結合性断片)などの薬剤と、前記検出剤を、被験試料と接触させるための領域とを含む。薬剤は、接触させるための領域上に固定される場合もあり、試料がロードされた後で、前記領域へと適用される場合もある。解析ユニットは、好ましくは、薬剤と、IGFBP-7との複合体の量を、定量的に決定するために適合させるものとする。
【0099】
本発明のデバイスについての、好ましい実施形態では、前記保存された参照は、所定の値(本明細書の別の箇所で記載される)である。好ましくは、参照量を上回るバイオマーカーIGFBP-7の量は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がある対象を指し示す。好ましくは、参照量を下回るバイオマーカーIGFBP-7の量は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がない対象を指し示す。
【0100】
本発明のデバイスについての、別の好ましい実施形態では、前記保存された参照は、妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性がないことが既知の対象または対象群に由来する参照量、または妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧腎症関連状態を患う危険性があることが既知の対象または対象群に由来する参照量である。
【0101】
本明細書で引用される、全ての参考文献は、それらの全開示内容、および本明細書で具体的に言及される、本開示の内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0102】
以下の実施例により、本発明は、例示されるに過ぎない。いかなる場合であれ、前記実施例は、本発明の範囲を限定するようには見なされないものとする。
実施例1
母体の血清中または血漿中IGFBP-7レベルを決定することによる、1週間以内の、妊婦における妊娠高血圧腎症の予測
cobas(登録商標)プラットフォーム(Roche Diagnostics)上の、血清中または血漿中の解析物である、IGFBP-7の、完全自動式定量のための、Elecsys IGFBP-7イムノアッセイが開発されている。
【0103】
図1は、対照群(PEなし=妊娠高血圧腎症なし;n=354)、および1週間以内のPE(妊娠高血圧腎症;n=27)診断群で分けられた、妊婦におけるIGFBP-7レベル[ng/mL]についての箱髭図を提示する。箱髭図は、血清IGFBP-7の平均値が、1週間以内の妊娠高血圧腎症の診断を伴う妊婦(PE;平均値IGFBP-7=110.90ng/mL)において、1週間以内の妊娠高血圧腎症の診断を伴わない女性(PEなし=対照群;平均値IGFBP-7=95.24ng/mL)と比較して増大することを示す。妊娠高血圧腎症の診断は、妊娠20週目の後における、高血圧症およびタンパク尿症の新たな発生により規定される。
【0104】
【表1】
【0105】
図4は、1週間以内の妊娠高血圧腎症の予測のための、IGFBP-7についてのROC(受信者操作特性)曲線を提示する。1週間以内に妊娠高血圧腎症を発症する妊婦を、1週間以内に妊娠高血圧腎症を発症しない妊婦から区別するための、血清IGFBP-7についてのROC曲線は、77.8%(95%信頼区間:69.1~86.5)の曲線下面積(AUC)を結果としてもたらした。
【0106】
【表2】
【0107】
表3は、104.1ng/mLのIGFBP-7カットオフ(感度が最大化される場合の特異度は、少なくとも80%である)を使用する、1週間以内の妊娠高血圧腎症を除外するための陰性的中率(NPV)が、感度を63.0%、特異度を80.2%として、96.6%(95%信頼区間:93.8~98.4)であることを示す。
【0108】
【表3】
【0109】
実施例2
母体の血清中または血漿中IGFBP-7レベルを決定することによる、4週間以内の、妊婦における妊娠高血圧腎症の予測
図2は、対照群(PEなし=妊娠高血圧腎症なし;n=328)、および4週間以内のPE(妊娠高血圧腎症;n=53)診断群で分けられた、妊婦におけるIGFBP-7レベル[ng/mL]についての箱髭図を提示する。箱髭図は、血清IGFBP-7の平均値が、1週間以内の妊娠高血圧腎症の診断を伴う妊婦(PE;平均値IGFBP-7=108.75ng/mL)において、1週間以内の妊娠高血圧腎症の診断を伴わない女性(PEなし=対照群;平均値IGFBP-7=94.34ng/mL)と比較して増大することを示す。妊娠高血圧腎症の診断は、妊娠20週目の後における、高血圧症およびタンパク尿症の新たな発生により規定される。
【0110】
【表4】
【0111】
図5は、4週間以内の妊娠高血圧腎症の予測のための、IGFBP-7についてのROC(受信者操作特性)曲線を提示する。4週間以内に妊娠高血圧腎症を発症する妊婦を、4週間以内に妊娠高血圧腎症を発症しない妊婦から区別するための、血清IGFBP-7についてのROC曲線は、78.7%(95%信頼区間:72.6~84.8)の曲線下面積(AUC)を結果としてもたらした。
【0112】
【表5】
【0113】
表6は、97.6ng/mLのIGFBP-7カットオフ(特異度が最大化される場合の感度は、少なくとも75%である)を使用する、4週間以内の妊娠高血圧腎症を除外するための陰性的中率(NPV)が、感度を75.5%、特異度を67.4%として、94.4%(95%信頼区間:90.7~97.0)であることを示す。
【0114】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5