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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】電解分離機構および電気的分離デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/12 20060101AFI20240919BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240919BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20240919BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20240919BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20240919BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240919BHJP
   A61L 31/18 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
A61B17/12
A61L31/04 110
A61L31/04 120
A61L31/06
A61L31/10
A61L31/12
A61L31/14
A61L31/14 300
A61L31/18
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021542245
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 CN2019106824
(87)【国際公開番号】W WO2020063455
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】201811170257.6
(32)【優先日】2018-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516346171
【氏名又は名称】マイクロポート・ニューロテック(シャンハイ)・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,リー
(72)【発明者】
【氏名】グオ,ユアンイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ビン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,メンキ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,イクン ブルース
【合議体】
【審判長】平瀬 知明
【審判官】栗山 卓也
【審判官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-87643(JP,A)
【文献】特表2004-509662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラントの電解分離を実現するために電解分離装置と協働するための電解分離機構であって、
前記インプラントと、
前記インプラントに結合された遠位端を有する分離部材であって、前記分離部材は通電され電解的に溶解し、これによって、前記インプラントと前記分離部材との間の前記結合を解消するよう構成される、分離部材と、
導電部材であって、
‐第1絶縁要素によって覆われたアノード導電要素であって、前記アノード導電要素は、前記分離部材の近位端に結合された遠位端と、前記電解分離装置の正極に結合されるよう構成される近位端とを有する、アノード導電要素と、
‐前記電解分離装置の負極に結合されるよう構成される近位端を有するカソード導電要素であって、前記カソード導電要素は、前記第1絶縁要素によって前記アノード導電要素から電気的に絶縁される、カソード導電要素と、
を備える導電部材と、
電解質溶液を吸着した場合に、前記分離部材と前記カソード導電要素との間の導電を提供するために、膨張して前記分離部材および前記カソード導電要素の双方と接触するよう構成される吸着部材と、
を備え、
前記吸着部材は、水を吸着した場合に膨張する重合体を指すヒドロゲル材料からなる電解分離機構。
【請求項2】
前記吸着部材は前記分離部材を取り囲む、請求項1に記載の電解分離機構。
【請求項3】
前記吸着部材は、前記分離部材上にスリーブされる螺旋構造であるか、または前記分離部材上にスリーブされる中空チューブである、請求項2に記載の電解分離機構。
【請求項4】
前記吸着部材は分離部材上にコーティングされる、請求項1に記載の電解分離機構。
【請求項5】
前記ヒドロゲル材料は、
セルロースおよびその誘導体に基づくヒドロゲル、
ゼラチン修飾ヒドロゲル、
キトサンおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
ヒアルロン酸およびその修飾形態に基づく架橋ヒドロゲル、
ポリエチレングリコールおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
ポリビニルアルコールおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
ポリN-メチルピロリドンおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
ポリエステルベースのヒドロゲル、
ポリアクリルアミドおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
オレフィン結合を含む1つ以上の重合可能不飽和カルボン酸単量体に由来する架橋膨張可能重合体、
ヒドロキシエチルメタクリレートおよびその誘導体に基づくヒドロゲル、
のうちから選択される1つまたは2つ以上の組み合わせである、請求項1に記載の電解分離機構。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の電解分離機構を備える電解分離デバイスであって、
前記電解分離デバイスは、さらに、
カテーテルと、
前記電解分離機構の近位端に結合されたプッシャーロッドと、
を備え、
前記電解分離機構および前記プッシャーロッドは、それぞれ前記カテーテルに移動可能に受容され、前記プッシャーロッドは、前記電解分離機構を標的部位に送り届けるために前記カテーテルと協働するよう構成される、
電解分離デバイス。
【請求項7】
前記プッシャーロッドには、その遠位端に可撓性部材が設けられ、
前記プッシャーロッドは前記可撓性部材によって前記電解分離機構に結合される、
請求項6に記載の電解分離デバイス。
【請求項8】
前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材は、それぞれ中空構造であり、
前記導電部材は、前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材内に受容され、
前記カソード導電要素は、前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材から絶縁するための第2絶縁要素によって覆われ、
前記カソード導電要素は、前記第2絶縁要素から露出して前記吸着部材によって前記分離部材と電気的に接続可能な遠位端を有する、
請求項7に記載の電解分離デバイス。
【請求項9】
前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材は、それぞれ中空構造であり、
前記アノード導電要素は、前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材内に受容され、 前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材は、共に前記カソード導電要素を構成する、
請求項7に記載の電解分離デバイス。
【請求項10】
前記吸着部材および前記可撓性部材は、軸方向に沿って並列に配置され、
前記吸着部材は前記可撓性部材の遠位端に位置する、
請求項8または9に記載の電解分離デバイス。
【請求項11】
前記吸着部材は前記可撓性部材に受容される近位端部を有し、
前記吸着部材は前記可撓性部材の遠位端の外に突出する遠位端を有する、
請求項8または9に記載の電解分離デバイス。
【請求項12】
前記吸着部材の全体が前記可撓性部材に受容される、請求項8または9に記載の電解分離デバイス。
【請求項13】
前記可撓性部材は第1放射線不透過部を有し、
前記カテーテルの遠位端は第2放射線不透過部を有し、
前記第1および第2放射線不透過部は、それぞれ放射線不透過性の材料からなる、
請求項7に記載の電解分離デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療機器の分野に関し、とくに電解分離機構および電解分離デバイスに関する。
【0002】
[背景]
頭蓋内血管奇形は、血管の異常な変化によって起きる血管壁内の腫瘍のような膨らみである。とくに、頭蓋内動脈瘤を有する患者について、血圧の急な上昇が起きると、動脈瘤が破裂し、障害または致命的な出血に至る可能性がある。頭蓋内動脈瘤のGuglielmi分離可能コイル(電解的に分離可能なコイル)による処置は、1991年に初めて報告された。それ以来、材料および治療器具の発展に伴い、頭蓋内動脈瘤の治療にはコイルベースの塞栓形成が最初の選択となった。
【0003】
図1を参照すると、マイクロカテーテル10と、プッシャーロッド20と、導電性ワイヤ30と、コイル40と、分離可能ジョイント31とを含む、既存の電解的に分離可能なコイルの概略断面図である。マイクロカテーテル10の遠位開口12は、動脈瘤の頸部に近接して配置されるよう構成される。プッシャーロッド20は、マイクロカテーテル10内に挿入され、導電性ワイヤ30はプッシャーロッド20内に配置される。導電性ワイヤ30の近位端は、外部の分離装置(図示せず)に電気的に接続され、その遠位端は分離可能ジョイント31を介してコイル40に接続される。プッシャーロッド20の遠位端部には、遠位端部をより柔軟にして、湾曲した頭蓋内血管をより容易に通過できるようにするように構成された可撓性部材21が設けられる。マイクロカテーテル10は、その遠位端に第1放射線不透過部11を有し、可撓性部材21は第2放射線不透過部22を有する。内科医は、プッシャーロッド20がその進行の間に現在マイクロカテーテル10内のどこに位置しているかを決定でき、したがって、観測された第1および第2放射線不透過部11,22の間の位置的関係に基づき、コイル40が動脈瘤の内腔に入ったか否かを決定することができる。
【0004】
図1に示すように、第1および第2放射線不透過部11,22が共に逆T字状の形状を画定している時に、コイル40は通常は分離される。すなわち、第2放射線不透過部22がマイクロカテーテル10の遠位端に向かって動き、第1不透過部11を完全に通過した時にのみ、分離可能ジョイント31は確実に遠位端開口12からマイクロカテーテル10の外に延び、血液(分離可能ジョイント31の電解分離を可能にする環境)と接触する。その後にのみ、分離可能ジョイント31は、コイル40を分離するよう通電されることができる。しかしながら、本発明者らは、マイクロカテーテル10およびプッシャーロッド20の耐性により、第1および第2放射線不透過部11,22によって形成される逆T形状の構成の時であっても、依然として、分離可能ジョイント31が遠位端開口12からマイクロカテーテル10の外に完全には押し出されていない可能性があるということを発見した。この場合には、内科医は、コイル40が正しく分離されるまでに何回か試行する必要がある。さらに、電解分離のための環境は、血液と接触した後には不安定であるため(血液および血栓関連の要因により、ランダムな電解分離環境が形成される)、これは分離に要する非常に長い時間につながる可能性がある。さらに、分離可能ジョイント31が遠位端開口12からマイクロカテーテル10の外に過度に延びる可能性もある。この場合には、遠位端開口12から突出する分離可能ジョイント31またはプッシャーロッド20が、動脈瘤を突き、さらには破裂させる可能性が非常に高い。さらに、分離されていないコイル40をマイクロカテーテル10の遠位端開口12から外に進めるためにプッシャーロッド20を使用する時に、コイル40の近位端部を含む分離領域全体が、しばしば動脈瘤の内腔からのマイクロカテーテル10の離脱を起こす可能性もある。これは、いわゆる「反跳」効果であり、危険な場合がある。
【0005】
したがって、既存の電解的分離コイルの電解分離に必要な、要求される複数回の分離試行および潜在的に危険なマイクロカテーテルからの分離可能ジョイントの伸長を克服できる、新規な電解分離機構および電解分離デバイスを開発することが必要である。
【0006】
[発明のサマリー]
したがって、既存の電解分離デバイスの使用から生じる、低い分離信頼性と、潜在的に危険な、マイクロカテーテルの外への過度に長い伸長との問題を克服できる、電解分離機構および電解分離デバイスを提供することが、本発明の目的の1つである。
【0007】
上述の目的は、本発明において提供される、インプラントの電解分離を実現するために電解分離装置と協働するための電解分離機構によって達成され、それは、
前記インプラントと、
前記インプラントに結合された遠位端を有する分離部材であって、前記分離部材は通電され電解的に溶解し、これによって、前記インプラントと前記分離部材との間の前記結合を解消するよう構成される、分離部材と、
導電部材であって、
‐第1絶縁要素によって覆われたアノード導電要素であって、前記アノード導電要素は、前記分離部材の近位端に結合された遠位端と、前記電解分離装置の正極に結合されるよう構成される近位端とを有する、アノード導電要素と、
‐前記電解分離装置の負極に結合されるよう構成される近位端を有するカソード導電要素であって、前記カソード導電要素は、前記第1絶縁要素によって前記アノード導電要素から電気的に絶縁される、カソード導電要素と、
を備える導電部材と、
電解質を吸着した場合に前記分離部材と前記カソード導電要素との間の導電を提供するよう構成される吸着部材と、
を備える。
【0008】
任意選択で、前記吸着部材はヒドロゲル材料からなってもよい。
【0009】
任意選択で、前記吸着部材は前記分離部材を取り囲んでもよい。
【0010】
任意選択で、前記吸着部材は、前記分離部材上にスリーブされる螺旋構造であるか、または前記分離部材上にスリーブされる中空チューブであってもよい。
【0011】
任意選択で、前記吸着部材は分離部材上のコーティングであってもよい。
【0012】
任意選択で、前記ヒドロゲル材料は、
セルロースおよびその誘導体に基づくヒドロゲル、
ゼラチン修飾ヒドロゲル、
キトサンおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
ヒアルロン酸およびその修飾形態に基づく架橋ヒドロゲル、
ポリエチレングリコールおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
ポリビニルアルコールおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
ポリN-メチルピロリドンおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
ポリエステルベースのヒドロゲル、
ポリアクリルアミドおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、
オレフィン結合を含む1つ以上の重合可能不飽和カルボン酸単量体に由来する架橋膨張可能重合体、
ヒドロキシエチルメタクリレートおよびその誘導体に基づくヒドロゲル、
のうちから選択される1つまたは2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0013】
上述の目的は、上記に定義される電解分離機構を備える、本発明において提供される電解分離デバイスによって達成される。前記電解分離デバイスは、さらに、
カテーテルと、
前記電解分離機構の近位端に結合されたプッシャーロッドと、
を備え、
前記電解分離機構および前記プッシャーロッドは、それぞれ前記カテーテルに移動可能に受容され、前記プッシャーロッドは、前記電解分離機構を標的部位に送り届けるために前記カテーテルと協働するよう構成される。
【0014】
任意選択で、前記プッシャーロッドには、その遠位端に可撓性部材が設けられ、前記プッシャーロッドは前記可撓性部材によって前記電解分離機構に結合されてもよい。
【0015】
任意選択で、前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材は、それぞれ中空構造であり、前記導電部材は、前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材内に受容され、前記カソード導電要素は、前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材から絶縁するための第2絶縁要素によって覆われ、前記カソード導電要素は、前記第2絶縁要素から露出して前記吸着部材によって前記分離部材と電気的に接続可能な遠位端を有してもよい。
【0016】
任意選択で、前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材は、それぞれ中空構造であり、前記アノード導電要素は、前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材内に受容され、前記プッシャーロッドおよび前記可撓性部材は、共に前記カソード導電要素を構成してもよい。
【0017】
任意選択で、前記吸着部材および前記可撓性部材は、軸方向に沿って並列に配置され、前記吸着部材は前記可撓性部材の遠位端に位置してもよい。
【0018】
任意選択で、前記吸着部材の近位端は前記可撓性部材に受容され、前記吸着部材の遠位端は前記可撓性部材の遠位端の外に突出してもよい。
【0019】
任意選択で、前記吸着部材の全体が前記可撓性部材に受容されてもよい。
【0020】
任意選択で、前記可撓性部材は第1放射線不透過部を有し、前記カテーテルはその遠位端に第2放射線不透過部を有し、前記第1および第2放射線不透過部は、それぞれ放射線不透過性の材料からなってもよい。
【0021】
提供される電解分離機構および電解分離デバイスは、以下の利点を提供する:
【0022】
‐第1に、電解質を吸着した場合に、電解分離機構内の吸着部材は分離部材とカソード導電要素との間の導電を維持し、これによって、分離部材の電解的溶解を可能にする安定な電解分離環境を生成する。この設計によれば、導電部材が通電されると、アノード導電要素に結合した分離部材がカソード導電要素と電気化学的に反応して電解的に溶解し、分離部材からの(したがって電解分離機構全体からの)インプラントの分離を発生させる。従来技術と比較すると、吸着部材が分離部材とカソード導電要素との間の導電を維持でき、電解質を吸着した場合に安定な電解質環境を提供できるので、向上した電解分離信頼性を得ることができ、既存の電解分離デバイスによる長い分離時間および要求される複数回の分離試行の問題が克服でき、安全な分離の向上した信頼性が実現できる。
【0023】
‐第2に、電解分離デバイスは電解分離機構を組み込んでいるので、カテーテル内で分離部材の電解分離が能となり、カテーテルの遠位の開口からカテーテルの外に分離部材を押し出す必要がなくなり、すなわち、安定な微小循環的な電解分離環境を形成するために分離部材が電解質と接触することが保証され、このようにして、安全かつ効率的な態様でカテーテル内のどこでもインプラントの電解分離を発生させることができ、潜在的に危険な、カテーテルの遠位開口からカテーテルの外にインプラントが過度に長く伸長することおよび「反跳」効果の発生の問題が防止され、結果として、電解分離デバイスのインプランテーションしている間の安全性が大きく向上する。
【0024】
‐第3に、電解分離デバイスの実際の操作において、電解質を含む生理食塩水等がカテーテルに液滴式に加えられ、これによって、吸着部材が利用可能な電解質が常に存在し、したがって、分離部材の電解分離を可能にする安定な微小循環的環境が確実に維持される。これによって、既存の電解分離デバイスに伴う長い分離時間および要求される複数回の分離試行の問題が克服され、結果として安全な分離の信頼性が向上する。さらに、蛍光透視画像で「逆T状」形状の形成を確認する必要なく、プッシャーロッドが遠位端に向かって進んでいる時にインプラントの電解分離を発生させ得るので、内科医の操作がより容易になる。代替的に、電解分離は、プッシャーロッドが所望の位置まで押された後に発生してもよい。様々な外科的条件および複雑な外科的条件に対処するために、これらの構成を様々な態様で組み合わせてもよい。
【0025】
添付図面は、本発明のより良い理解のために提供されており、本発明をいかなる意味でも限定するものではないということが、当業者によって理解される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】既存の電解的に分離可能なコイルの概略断面図。
図2】本発明の一実施形態による、遠位端に可撓性部材が設けられたプッシャーロッドの概略図。
図3】本発明の一実施形態による電解分離機構(ヒドロゲル材料からばねへと製造された吸着部材を含む)の概略図。
図4】本発明の一実施形態による電解分離デバイス(可撓性部材の遠位側に全体が配置され、可撓性部材と重ならない吸着部材を含む)の概略断面図。
図5】本発明の一実施形態による電解分離デバイス(可撓性部材内に受容される近位端部と、可撓性部材の外に突出する遠位端とを有する吸着部材を含む)の概略断面図。
図6】本発明の一実施形態による電解分離デバイス(全体が可撓性部材に挿入された吸着部材を含む)の概略断面図。
図7】本発明の一実施形態による電解分離機構(ヒドロゲル材料からコーティングへと製造された吸着部材を含む)の概略断面図。
図8】本発明の一実施形態による電解分離機構(ヒドロゲル材料からチューブへと製造された吸着部材を含む)の概略断面図。
図9】a-a線に沿った、図8のチューブの概略断面図。
【0027】
これらの図面において、
10:マイクロカテーテル、11:第1放射線不透過部、12:遠位開口、20:プッシャーロッド、21:可撓性部材、22:第2放射線不透過部、30:導電性ワイヤ、31:分離可能ジョイント、40:コイル、
101:導電部材、102:吸着部材、102’:コーティング、102’’:チューブ、103:分離部材、104:コイル、201:プッシャーロッド、202:可撓性部材、203:第1放射線不透過部、301:カテーテル、302:第2放射線不透過部、303:カテーテルの遠位端。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の上記および他の目的、利点および特徴は、添付の図面と併せて読まれるいくつかの特定の実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになる。図面は、開示された実施形態を説明する際の利便性および明確さの理解を容易にすることのみを目的として、必ずしも縮尺どおりに提示されない非常に簡略化された形式で提供されていることに留意すべきである。加えて、図面に示す構造は、通常は実際の構造の一部である。とくに、図面は個別の強調を有する傾向があるので、それらはしばしば異なる縮尺で描かれる。
【0029】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、文脈が明確にそうでないと言明しない限り、単数形「a」、「an」および「the」は、複数形の参照を含む。本明細書および添付の特許請求の範囲において、文脈が明確にそうでないと言明しない限り、「または」という用語は、概して「および/または」を含む意味で採用される。「近位」は、概して内科医により近い物体の端部を指し、「遠位」は、概して患者の疾患により近い端部を指す。
【0030】
本発明の核となる概念は、インプラントの電解分離を可能にするために電解分離装置と協働する電解分離機構(インプラント、分離部材、導電部材および吸着部材を含む)を提供することである。従来技術と比較すると、吸着部材は電解質を吸着するよう構成され、それによって、カソード導電要素と導電可能に維持される。これにより信頼性のある電解分離が保証され、それによって、既存の電解分離デバイスに伴う長い分離時間および要求される複数回の分離試行の問題が克服される。
【0031】
本発明は、また、電解分離機構、カテーテルおよびプッシャーロッドを備える電解分離デバイスを提供する。実際の操作では、分離部材はカテーテル内で電解的に分離するので、カテーテルの遠位開口からカテーテルの外に分離部材を押し出す必要がなくなる。微小循環的な電解分離環境を生成するために、分離部材が電解質と接触することが保証されるので、安全かつ効率的な態様で、インプラントがカテーテル内のどこでも電解的に分離可能となる。結果として、潜在的に危険な、インプラントがカテーテルの外に過度に長く伸長することが防止され、「反跳」効果の発生が回避されることにより、インプランテーションしている間の電解分離デバイスの安全性および信頼性が向上する。
【0032】
より具体的には、患者の体内へのインプラントをインプランテーションしている間、患者の身体に加えるのに適した生理食塩水または他の電解質溶液でカテーテルを液滴式に充填することを介して、吸着部材は常に電解質を吸着することが可能になり、分離部材が電解分離のための微小循環的環境を有することが保証される。これにより、既存の電解分離デバイスに関連する長い分離時間および要求される複数回の分離試行の問題が防止され、結果として分離信頼性が向上する。さらに、蛍光透視画像で「逆T状」形状を確認する必要なく、プッシャーロッドがカテーテルの遠位端に向かって進んでいる間はいつでも電解分離を行い得るので、内科医の操作がより容易になる。
【0033】
添付図面を参照して、以下に詳細な説明を提供する。図2は、本発明の一実施形態によるプッシャーロッド(遠位端に可撓性部材が設けられている)の概略図である。図3は、本発明の一実施形態による電解分離機構の概略図である。図4~6は、本発明の好適な実施形態による電解分離デバイスの概略断面図である。図7および8は、本発明の好適な実施形態による電解分離機構の概略図である。図9は、a-a線に沿った、図8のチューブの概略断面図である。
【0034】
まず、図3を参照して、図示の電解分離機構は、血管奇形の塞栓形成(とくに、頭蓋内動脈瘤)に用いることができ、インプラントと、分離部材103と、導電部材101と、吸着部材102とを含む。インプラントは、標的部位に配置されるよう構成される。とくに、インプラントは、血管奇形の塞栓形成のために構成されるコイル104であってもよい。分離部材103は、一端でコイル104と結合され、分離部材103が電解的に溶解する時に、コイル104と分離部材103との間の結合は解消される。好ましくは、分離部材103は生体適合活性金属(Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)、Fe(鉄)、等)からなってもよい。当然ながら、任意選択で、分離部材103は、生体適合活性合金(マグネシウム亜鉛合金、マグネシウム鉄合金、ステンレス鋼、等)からなってもよい。
【0035】
導電部材101は、アノード導電要素およびカソード導電要素を含み、これらは互いに離隔され、アノード導電要素は第1絶縁要素によって覆われる。アノード導電要素の遠位端は分離部材103の他端に結合され、アノード導電要素の近位端は外部の電解分離装置の正極に結合される。カソード導電要素の近位端は、外部の電解分離装置の負極に結合される。正極および負極を有する外部の電解分離装置は、電解分離機構内で電解が発生するのに必要な電流を提供するよう構成される。従来の構造を有してもよく、その詳細な説明は不要とみなされる。第1絶縁要素は、カソード導電要素からアノード導電要素を電気的に絶縁するように構成される。
【0036】
とくに、吸着部材102は、電解質を吸着した場合に、分離部材103とカソード導電要素との間の導電を提供するよう構成され、分離部材103の電解的溶解を可能にする。吸着部材102は、カソード導電要素、分離部材103またはアノード導電要素に直接的に結合されなくともよい。むしろ、それは、電解質溶液が分離部材103とカソード導電要素との間の導電を提供するように、膨張または化学的に電解質を吸着するよう構成されてもよい。代替的に、構成を容易にするため、吸着部材102は、カソード導電要素、分離部材103およびアノード導電要素のうち1つに、またはコイル104に、結合されてもよい。加えて、以下に詳述するように、それは、電解分離デバイス全体の中で相対的に固定された位置(電解質を吸着して所望の機能を発揮できる位置)に配置されるように、プッシャーロッド201または可撓性部材202に結合されてもよい。
【0037】
具体的には、アノード導電要素は、導電性ワイヤ、および、カソード導電要素から導電性ワイヤを電気的に絶縁する絶縁層としてそれを覆う第1絶縁要素として実装されてもよい。分離部材103は、アノード導電要素に結合され外部環境に露出する導電体として実装されてもよい。このようにすると、吸着部材102が電解質を吸着した場合に、分離部材103とカソード導電要素との間の導電が提供される。本発明によれば、インプラントはコイル104に限定されず、ステント、人工弁、オクルダー、またはインターベンション的処置のための他のインプラント可能器具であってもよいということに留意すべきである。
【0038】
このように、吸着部材102が電解質を吸着した場合に、それは分離部材103とカソード導電要素との間の導電を確立し、分離部材103が電解的に溶解し得る電解分離環境を生成する。導電は、分離部材103とカソード導電要素との間の直接的な接触または接続によって提供されるのではなく、吸着部材102によって吸着される電解質によって提供されるということが理解されるべきである。すなわち、分離部材103とカソード導電要素との間の導電は、電解質によって実現される。電解質は、たとえば、血液、生理食塩水または他の生体適合電解質溶液に含まれることができ、吸着部材102はそのような電解質を吸着した場合に導電性となり、したがって、分離部材103とカソード導電要素との間の導電を確立する。分離部材103はアノード導電要素に結合されているので、導電部材101に通電されると、分離部材103はカソード導電要素と電気化学的に反応する。結果として、アノードとしての分離部材103は、電解的に溶解し、コイル104と分離部材103との間の結合を解消する。切り離されたコイル104は電解分離機構を離れ、動脈瘤の内腔において血栓形成を容易にする。従来技術と比較すると、吸着部材102は、電解質を吸着した時に分離部材103とカソード導電要素との間の導電を維持できるので、より信頼性の高い電解分離を実現することができ、既存の電解的に分離可能なコイルに対する、不安定な電解環境に起因する長い分離時間および要求される複数回の分離試行の問題が克服可能である。さらに、安全な分離の向上した信頼性が実現され、既存の電解的に分離可能なコイルに伴う低い分離信頼性の問題が解決可能である。
【0039】
吸着部材102は、電解質溶液が分離部材をカソード導電要素/アノード導電要素に電気的に接続するように、膨張または電解質を吸着してもよい。たとえば、化学的吸着特性を有するヒドロゲル材料または他の材料から形成されてもよい。ここで、ヒドロゲル材料は、水を吸着した場合に膨張し、非常に良好な水保持特性を有する重合体を指す。具体的には、ヒドロゲル材料は、天然重合体および人工有機重合体に基づくヒドロゲルを含んでもよい。ヒドロゲル材料は、特に、以下から選択される1つまたはそれ以上の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない:セルロースおよびその誘導体に基づくヒドロゲル、ゼラチン修飾ヒドロゲル、キトサンおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、ヒアルロン酸およびその修飾形態に基づく架橋ヒドロゲル、ポリエチレングリコールおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、ポリビニルアルコールおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、ポリN-メチルピロリドンおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、ポリエステルベースのヒドロゲル、ポリアクリルアミドおよびその誘導体に基づく架橋ヒドロゲル、ヒドロキシエチルメタクリレートおよびその誘導体に基づくヒドロゲル、オレフィン結合を含む1つ以上の重合可能不飽和カルボン酸単量体に由来する架橋膨張可能重合体、等。
【0040】
さらに、吸着部材102は、ヒドロゲル材料から多くの可能な形状の1つへと製造されてもよい。たとえば、分離部材103上に巻かれて、電解質を吸着した場合にカソード導電要素に電気的に接続されるよう構成されるばね(図3に示す)等の螺旋構造として製造されてもよい。具体的には、ヒドロゲル繊維またはフィラメントが分離部材103上の螺旋微小ばねに巻かれてコイルにされてもよい。すなわち、ばねは、分離部材103上に全体が配置されてもよい。好適には、分離部材103上の微小ばねは、一方で電解質への分離部材103の露出を可能にする疎な巻回を有し、他方で、微小ばねの伸長を受容するマージンを提供するよう設計される区画を有してもよい。このようにして、ヒドロゲル繊維またはフィラメントが電解質を吸着した場合に、それは膨張して分離部材103およびカソード導電要素の双方と接触し、したがって、分離部材103とカソード導電要素との間の導電を確立する。
【0041】
他の実施形態では、吸着部材102はヒドロゲル材料から分離部材103上のコーティング102’(図7に示す)へと製造されてもよい。具体的には、ヒドロゲル材料は、分離部材103の表面(好適には外表面)上にコーティングされてもよい。ここで、コーティングは、分離部材103の表面の部分的または全体のコーティングを含んでもよい。ヒドロゲル材料からなるコーティング102’もまた、電解質を吸着した場合に膨張してカソード導電要素と接触し、これによって分離部材103とカソード導電要素との間の導電を実現する。他の実施形態では、吸着部材102は、ヒドロゲル材料からチューブ102’’(図8に示す)へと製造されてもよい。チューブ102’’は、分離部材103上にスリーブされ、分離部材103を取り囲む。チューブ102’’は、定常円(図9(A)に示す)、矩形(図9(B)に示す)、歯車(図9(C)に示す)、または三角形(図9(D)に示す)の形状の断面を有してもよい。代替的に、断面形状は、他の多角形であっても不定形であってもよい。チューブ102’’は、電解質を吸着した場合に膨張してカソード導電要素と接触し、したがって、分離部材103とカソード導電要素との間の導電を確立する。
【0042】
図2~4を参照して、本発明の一実施形態による電解分離デバイスは、上述のように定義される電解分離機構を含む。さらに、電解分離デバイスは、カテーテル301およびプッシャーロッド201を含む。電解分離機構およびプッシャーロッド201の双方は、カテーテル301内に移動可能に受容され、プッシャーロッド201はカテーテル301と協働して電解分離機構を患者の体内の標的部位(動脈瘤の内腔等)に送り届けるよう構成される。本実施形態による電解分離デバイスは上述の電解分離機構を組み込んでいるので、分離部材103は、カテーテルの遠位端303の開口からカテーテルの外に分離部材103を押し出す必要なく、カテーテル301内で電解的に分離可能である。分離部材103は、微小循環的な電解分離環境を生成するために、電解質と接触することを保証することができ、これによって、コイル104が安全かつ効率的な態様でカテーテル301の内部どこでも電解的に分離可能となる。これは、潜在的に危険な、カテーテルの遠位端303の開口から外にコイル104が過度に長く伸長することを防止できる。好適には、コイル104は遠位端303の周辺のカテーテル301の部分内で電解的に分離してもよく、それによって、「反跳」効果(コイル104がカテーテルの遠位端303の開口から外に伸長する時に、カテーテルの遠位端303のこの開口が、動脈瘤の内腔の壁部によって分離部材(コイル104等)に及ぼされる抵抗力の作用下で動脈瘤の内腔から離脱する)の問題が回避される。結果として、電解分離デバイスをインプランテーションしている間、向上した安全性が実現される。概して、頭蓋内動脈瘤を処置するために電解分離デバイスを用いる時には、そのような塞栓形成コイル104を複数インプラントする必要がある場合がある。その場合には、あるコイルが上述の方法で電解的に分離すると、続いて電解的に分離されるべき次のコイルが、すでに分離したコイルを遠位端303の開口からカテーテルの外に、動脈瘤の内腔内に押し出す。その理由は、コイル104それら自体が可撓性であるため、それらのうち分離した第1のものが動脈瘤の内腔に正しく進入せずにカテーテルの遠位端303の周囲に配置された時には、第2のコイルがこれをプッシャーロッド201の作用下で動脈瘤の内腔へと押すことができるからである。このようにして、「反跳」効果の強化された防止が実現可能であり、結果として、電解分離デバイスをインプランテーションしている間の向上した安全性が実現される。
【0043】
好適には、プッシャーロッド201には、その遠位端に、可撓性材料からなり、または可撓性構造を有する可撓性部材202が設けられてもよい。たとえば、これはばねとして構成されてもよい。加えて、可撓性部材202は、電解分離機構を押すことができるように、電解分離機構と結合されてもよい。可撓性部材202は、プッシャーロッド201の遠位端部により高い柔らかさを伝えるように提供され、これによって、その部分は、湾曲した頭蓋内血管をより容易に通過できるようになる。
【0044】
図4を参照して、電解分離デバイスの構造が以下に説明される。プッシャーロッド201および可撓性部材202の双方は中空構造を有してもよい。たとえば、プッシャーロッド201はステンレス鋼中空チューブとして、可撓性部材202はステンレス鋼ばねとして実装してもよい。好適には、電解分離機構の導電部材101は2本の導電性ワイヤからなってもよい。すなわち、アノード導電要素およびカソード導電要素は、いずれも導電性ワイヤである。これらの導電性ワイヤは、双方がプッシャーロッド201に挿入されてもよく、それぞれが絶縁層でコーティングされてもよい。すなわち、電解分離機構内のアノード導電要素をコーティングする第1絶縁要素に加え、カソード導電要素は、アノード導電要素およびカソード導電要素を互いに電気的に絶縁するための第2絶縁要素でコーティングされてもよい。カソード導電要素は、分離部材103に近接した遠位端部を有し、それは第2絶縁要素から露出しており、電解質を吸着した吸着部材102と接触させることができる。この配置では、吸着部材102はカソード導電要素と分離部材103との間の導電を確立することができる。好適には、導電部材101は第3絶縁要素によって覆われる。すなわち、アノード導電要素を覆う第1絶縁要素およびカソード導電要素を覆う第2絶縁要素に加え、これら双方がさらに第3絶縁要素によって覆われてもよく、これはプッシャーロッド201からの導電部材101の電気的絶縁をさらに保証する。代替的な実施形態では、電解分離機構のアノード導電要素のみがプッシャーロッド201および可撓性部材202に挿入されてもよく、プッシャーロッド201および可撓性部材202が共にカソード導電要素として構成される。この場合には、可撓性部材202は分離部材103に近接した遠位端を有してもよく、これが電解質を吸着した吸着部材102と接触することができる。この構成では、吸着部材102もまた、プッシャーロッド201および可撓性部材202からなるカソード導電要素と、分離部材103との間の導電を確立することができる。アノード導電要素を覆う第1絶縁要素は、可撓性部材202からのプッシャーロッド201の電気的絶縁を保証できる。外部の電解分離装置が導電部材101に電流を提供する時、電流は電解分離装置の正極からアノード導電要素を介して分離部材103に流れ、その後、電解質を吸着した吸着部材102を介して可撓性部材202に流れ、その後、可撓性部材202を介してプッシャーロッド201に流れ、最後に、プッシャーロッド201を介して電解分離装置の負極へと流れ、したがって、電流ループが形成される。この電流の作用下で、分離部材103は電気化学的に浸食されて砕け、結果としてコイル104が分離される。
【0045】
好適には、吸着部材102および可撓性部材202は、可撓性部材202の軸方向に沿って並列に配置されてもよく、吸着部材102は可撓性部材202の遠位端に近接して配置されてもよい。このように、可撓性部材202の軸方向に沿って、吸着部材102と可撓性部材202の重複はない。図4に示すように、吸着部材102は、可撓性部材202の遠位側に、可撓性部材202の軸方向に沿ってこれと重なることなく可撓性部材202からずれて配置されてもよい。これは導電部材101が2本の導電性ワイヤからなる場合に適している。加えて、この場合には、分離部材103およびカソード導電要素の第2絶縁要素から露出した部分の双方が、吸着部材102によって取り囲まれてもよい。このように、吸着部材102が電解質を吸着した場合には、それは膨張して分離部材103および第2絶縁要素から露出したカソード導電要素の部分と接触する。この構成では、吸着部材102は、分離部材103とカソード導電要素との間の導電を確立することができる。
【0046】
他の実施形態では、図5に示すように、吸着部材102は可撓性部材202に部分的に挿入されてもよい。具体的には、吸着部材102の近位端部は、可撓性部材202内に受容されてもよく、吸着部材102の遠位端が可撓性部材202の遠位端から可撓性部材202の外に突出してもよい。このように、吸着部材102は、可撓性部材202の軸方向に沿って可撓性部材202と部分的に重なってもよい。
【0047】
他の実施形態では、図6に示すように、吸着部材102が可撓性部材202の軸方向に沿って可撓性部材202と完全に重なるように、吸着部材102の全体が可撓性部材202に挿入されてもよい。用語「完全に重なる」は、可撓性部材202は吸着部材102の長さと等しいかまたはこれより大きい長さを有してもよく、軸方向において吸着部材102の全長を覆ってもよいということを意味するということに留意すべきである。
【0048】
上述の実施形態による、吸着部材102が可撓性部材202の軸方向に沿って部分的にまたは完全に可撓性部材202と重なる構成は、カソード導電要素がプッシャーロッド201および可撓性部材202からなる場合に適している。この場合には、吸着部材102は分離部材103のみを受容し、少なくとも部分的に可撓性部材202と重なる。したがって、吸着部材102が電解質を吸着した場合には、それは膨張して分離部材103および可撓性部材202(カソード導電要素の構成要素として構成される)の双方と接触し、したがって、それらの間の導電を確立する。具体的には、吸着部材102は、ヒドロゲル繊維から製造される微小ばねとして実装されてもよく、可撓性部材202はステンレス鋼として実装されてもよい。微小ばねは、部分的にまたは全体がステンレス鋼ばね内に配置されてもよく、分離部材103は微小ばねによって取り囲まれてもよい。
【0049】
とくに、代替的な実施形態では、プッシャーロッド201は固体のロッド(たとえばステンレス鋼からなる)として実装されてもよく、カソード導電要素として構成されてもよい。加えて、導電部材101のアノード導電要素は、第1絶縁要素で覆われた導電性ワイヤとして実装されてもよい。この場合には、導電部材101は固体のプッシャーロッドに挿入されるのではなく、固体のプッシャーロッドに対して径方向に並列に配置されてもよい。好適には、導電部材101は固体のプッシャーロッドにいくつかの位置で固定されてもよい(たとえば接着、接合、等によって)。この場合には、固体のプッシャーロッドは、その遠位端に可撓性部材202が設けられてもよく、これによって、遠位端がより柔らかくなり、蛇行性の血管内の通過が容易になる。この場合には、分離部材103は、可撓性部材202に対して径方向に並列に配置されてもよく、吸着部材102は任意選択で、固体のヒドロゲル材料または化学的吸着特性を有する材料からなってもよい。吸着部材102の両端は、それぞれ分離部材103および可撓性部材202と接触してもよい。この構成では、吸着部材102は、また、分離部材103とカソード導電要素との間の導電を提供する。当然ながら、分離部材103も上述のように可撓性部材202に挿入されてもよい。
【0050】
図2と組み合わせて図4を参照して、好適には、可撓性部材202は第1放射線不透過部203を有してもよく、カテーテル301はその遠位端303に第2放射線不透過部302を有してもよい。第1および第2放射線不透過部203,302の双方が、X線下でそれらの位置を示すように、放射線不透過性の材料からなってもよい。たとえば、第1放射線不透過部203は可撓性部材202の他の部分の材料とは異なり放射線不透過性の高い材料(白金または他の金属)からなってもよい。このようにすると、X線蛍光透視鏡観察下で、カテーテル301の遠位端303に対する可撓性部材202の位置および距離がモニタで監視できる。これは、内科医がコイル104の電解分離の適切なタイミングを決定することを支援する。
【0051】
また、一実施形態によれば、上記のように定義される電解分離デバイスを操作する方法であって、
‐ステップi:患者の体内の標的部位(たとえば血管奇形の近傍)までカテーテル301を押し、カテーテル301の近位端に吸着部材102によって吸着可能な生理食塩水を連続的に液滴式に加えるステップと、
‐ステップii:所定の分離位置に達するまで、カテーテル301の遠位端に向けてプッシャーロッド201を押すステップと、
‐ステップiii:分離部材103が電解的に溶解するように、導電部材101に通電するステップと、
‐ステップiv:分離部材103の電解的溶解の結果として、分離部材103からのコイル104の分離、血管奇形の内腔へのコイル104の進入、したがってその塞栓形成のステップと、
を備える、方法が提供される。
【0052】
具体的には、ステップiにおいて、内科医は、プッシャーロッド201を操作しながら、カテーテル301に生理食塩水を連続的に加えてもよい。結果として、分離部材103上に位置する吸着部材102は、生理食塩水を吸着して膨張し、これによって、分離部材103がカソード導電要素と接触するよう維持し、分離部材103の電解分離を可能にする導電環境を生成する。従来技術の手法(分離可能ジョイントの、血液等の中の電解質との十分な接触は、マイクロカテーテルの外にそれが押し出された後にのみ電解分離を可能にすることが確実にできる)と比較すると、本実施形態による方法では、吸着部材102が押され進行している間に、電解質に露出され電解質を連続的に吸着することができる。これにより、従来技術と比較して、電解分離のためのより良い導電環境が保証され、結果として、電解分離の信頼性が向上し、複数回の電解分離の試行の必要性が回避される。
【0053】
ステップiiにおいて、所定の分離位置は、患者の状態に依存してもよく、一般的には、内科医によって、内科医自身の経験に基づいて決定される。
【0054】
ステップiiiでは、電流が外部の電解分離装置の正極からカソード導電要素へと、さらにアノード導電要素、分離部材103、生理食塩水、を介して電解分離装置の負極へと電流が流れるように、導電部材101は電流を通電されてもよく、それによって、電流ループが形成される。電流の作用下で、分離部材103は電解的に溶解し、これによってコイル104が分離する。
【0055】
好ましくは、ステップiiにおいて、プッシャーロッド201が遠位端に向かって押されるに伴い、X線イメージングによって第1および第2放射線不透過部203,302の間の距離を監視することができる。第1および第2放射線不透過部203,302の間の距離が所定距離を超えない際に、プッシャーロッド201を押すことが停止されてもよい。この所定距離は、電解分離デバイスの構造および外科的手順の要件に応じて異なってもよい。内科医は、X線イメージングを介して第2放射線不透過部302に対する第1放射線不透過部203の位置および距離を監視することによって、プッシャーロッド201の現在位置を決定し、それを所定の分離位置と比較してもよい。分離部材103が電解質と十分に接触することにより、分離部材103をカテーテル301の外に押し出す必要なく、コイル104の電解分離が確実に可能になるので、潜在的に危険な、カテーテルの外への過度に長い伸長なく、かつ、「反跳」効果のリスクなく、コイル104が電解的に分離可能となることが効率的に保証される。このように、押す操作の安全性の向上が実現でき、従来技術に関連するコイルの分離のための蛍光透視画像において必要な、適合する「逆T形状」構成の問題が克服できる。
【0056】
好適には、ステップiiにおいて、プッシャーロッド201が遠位端に向かって押されている時に、または、第1および第2放射線不透過部203,302の間の距離が所定距離を超えず、プッシャーロッド201を押すことが停止されている時に、導電部材101に通電することができる。吸着部材102は、カテーテル301に液滴式に加えられる生理食塩水と、または血液と、接触している時に膨張し、電解質(生理食塩水または血液から吸着される)を維持する。したがって、分離部材103の電解分離を可能にする微小循環的な環境が常に存在することが保証され、これによって、既存の電解的に分離可能なコイルに関連する長い分離時間および要求される複数回の分離試行の問題が克服され、安全な分離の信頼性の向上が実現される。好適には、電解分離機構がカテーテルの遠位端303に近づく時にプッシャーロッド201を押すことを止めることができ、その後、電解分離が発生してもよい。このようにすると、電解的分離後のコイル104が遠位端303においてカテーテルの開口周辺にあることができる。これによって、所定の塞栓形成部位におけるコイル104の配置が容易になる。当然ながら、複数のコイル104をインプラントすることが要求される場合には、外科的手順によって要求されるように、電解分離はカテーテル301内で発生させることができ、以前に分離したコイル104を、続いて分離される次のコイル104によって押し出すことができる。蛍光透視画像において「逆T状」形状の形成を確認する必要なくカテーテル301内で電解分離が発生可能なので、本方法は、プッシャーロッド201が遠位端に向かって押されている間に、内科医が電解分離の発生を開始することが可能になり、これによって内科医の操作をより容易とすることが可能になる。当然ながら、プッシャーロッド201が所望の位置へと進行した後に電解分離を発生させることも可能である。様々な外科的条件および複雑な外科的環境に対処するために、これらの様々な構成が、様々な方法によって組み合わせられてもよい。
【0057】
まとめると、本発明の実施形態による電解分離機構では、電解質を吸着した場合に、吸着部材が分離部材とカソード導電要素との間の導電を維持し、これによって、分離部材の電解的分離を可能にする安定な電解分離環境を生成する。この設計によれば、導電部材に通電すると、アノード導電要素に結合された分離部材は、カソード導電要素と電気化学的に反応し、したがって電解的に溶解し、結果として、分離部材(したがって電解分離機構全体)からインプラントが分離し、標的部位におけるその配置がなされる。従来技術と比較すると、吸着部材が電解質を吸着した場合に分離部材とカソード導電要素との間の導電を維持することができるので、電解分離の信頼性の向上が得られ、既存の電解分離デバイスに伴う長い分離時間および要求される複数回の分離試行の問題が克服でき、安全な分離の信頼性の向上が実現できる。
【0058】
さらに、本発明の実施形態による電解分離デバイスは、上述の電解分離機構を組み込んでいるので、カテーテル内で分離部材の電解分離が可能になり、カテーテルの遠位端において開口から外に分離部材を押し出す必要がなくなり、すなわち、安定な微小循環的電解分離環境を形成するために分離部材が電解質と確実に接触でき、このようにして、安全かつ効率的な態様でカテーテル内のどこでもインプラントの電解分離を発生させることができ、これによって、潜在的に危険な、カテーテルの遠位開口からカテーテルの外へのインプラントの過度に長い伸長および「反跳」効果の発生の問題が防止され、結果として、電解分離デバイスをインプランテーションしている間の安全性が大きく向上する。
【0059】
さらに、本発明の実施形態による電解分離デバイスの実際の操作では、カテーテルに生理食塩水が注入され、吸着部材が利用可能な電解質が常に存在することが保証され、これによって、分離部材の電解分離機構を可能にする安定な微小循環的環境が維持される。これによって、既存の電解分離デバイスに伴う長い分離時間および要求される複数回の分離試行の問題が克服され、結果として、安全な分離の信頼性が向上する。さらに、インプラントの電解分離は、蛍光透視画像において「逆T状」形状の形成を確認する必要なく、プッシャーロッドが遠位端に向かって進行している時に可能なので、内科医の操作をより容易とすることができる。様々な外科的条件および複雑な外科的環境に対処するために、複数の構成が、様々な方法によって組み合わせられてもよい。
【0060】
上記の説明は、単に本発明の好適な実施形態のいくつかのものであり、その範囲をいかなる意味においても限定しない。当業者によって、上記の教示に基づき行われる任意のおよびすべての変更および修正は、添付の特許請求の範囲に定義される範囲内に該当する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9