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  • 特許-デジタル歯列弓データベース 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】デジタル歯列弓データベース
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/00 20060101AFI20240919BHJP
   A61C 13/34 20060101ALI20240919BHJP
   A61C 19/05 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
A61C13/00 Z
A61C13/34 Z
A61C19/05 120
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021544197
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 EP2020052172
(87)【国際公開番号】W WO2020157136
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】102019201115.2
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506329719
【氏名又は名称】メルツ・デンタル・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MERZ DENTAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリンゲンブルグ フリードヘルム
(72)【発明者】
【氏名】クレーヴェル オラフ
(72)【発明者】
【氏名】ペルシュケ フランク
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-206320(JP,A)
【文献】特表2017-538480(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194449(WO,A1)
【文献】特表2015-507942(JP,A)
【文献】特表2012-520702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/00-13/38
A61C 19/00ー19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯を作製する方法であって、
a)既に咬合位置にある上顎歯列弓と下顎歯列弓が予めデジタル的に定義されたデジタルデータが格納されたデジタル歯列弓データベースを用意し、
b)前記デジタルデータに基づいて、デジタル印象採得を行なうために患者の口内に挿入される既に咬合位置にある歯列を備えた咬合採得ツールを作製し
前記デジタルデータは、前記上顎歯列弓および前記下顎歯列弓と口内状況との関係が予め定義された関係データを含んでいる、
方法。
【請求項2】
個人の歯に適合させるオプションが、前記関係データに基づいて前記デジタル歯列弓データベースから提示される
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
デジタル設計および補綴物の製造は、前記関係データに基づいて、除去製造法と付加製造法の少なくとも一方によりなされる、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも一つのインプラント接続エレメントの上顎と下顎におけるデジタル的な位置決めと設計が、前記デジタルデータに基づいてなされる、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記デジタルデータに含まれる歯の形状、歯の大きさ、歯の色、歯列弓の幅の少なくとも一つは、前記口内状況のスキャンデータにアダプテーションされうる、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記デジタル歯列弓データベース部分義歯または総義歯を作製するため使用する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル歯列弓データベースに基づいて義歯を作製するための方法およびワークピース、ならびにその使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
近年、義歯は、大半の場合においてコンピュータ支援技術を援用して作製される。例えば、コンピュータ援用設計(CAD)法や、コンピュータ援用製造(CAM)法が使用される。まず、口内スキャナや口内カメラを用いて口内の状況がスキャン・取得される。これにより、従来の印象取得が不要とされる。取得されたデータは、CADソフトウェアへ送信され、保存される。義歯は、提供された口内状況のデータに基づいてCADソフトウェア上で設計され、CAM法により製造される。義歯の設計に際しては、様々な大きさや色の仮想歯がCADソフトウェア内に保存されていることが一般的である。よって、所望の義歯に適した形状や色が、確認された口内状況データに基づいて選択されうる。選択は、単独の歯だけでなく、複数の歯からなるブロック歯(臼歯ブロックなど)についてもなされうる。この手法は、個別歯修復だけでなく、部分義歯または総義歯の作製に適用される。
【0003】
あるいは、石膏模型を作製を通じた従来の印象採得や咬合採得がなされた後にデジタル化とコンピュータ支援を通じた設計と製造がなされてもよい。
【0004】
しかしながら、従来の手法においては、義歯の作製後に咬合器(咀嚼シミュレータ)を用いた咬合アダプテーションと位置合わせが必要という短所がある。咬合器は、予め作製された上下顎の石膏模型が咬合状況で配置される装置である。このようにして自然な顎の状況が外部モデルへと移され、患者の口外で上下顎の相対移動をシミュレートすることが可能とされる。従来の咬合器に加えて、「仮想咬合器」も存在する。仮想咬合器においては、デジタル的に作成されたモデルが使用される。咬合器を用いた咀嚼運動の状況のシミュレーションは、義歯の試着のために複数回のやり直しを伴う工程であり、技師と患者の双方にとって時間と手間を要するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、本発明の目的は、従来技術の不利を避ける義歯を作製するための方法およびワークピースを提供することである。また、本発明の目的は、個々の義歯の患者への試着に係る作業工程数を削減し、患者の快適性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明により提供される義歯を作製する方法においては、咬合位置にある上顎歯列弓と下顎歯列弓のデータを有する定義済みのデジタル歯列弓データベースが提供されている。すなわち、ワークピースのミリングは、咬合位置にある歯列弓のデータを有するデジタルデータに基づいてなされる。したがって、咬合位置にある上下顎の歯列弓のデジタルデータに基づいて義歯が作製される。
【0007】
本願に係る手法を用いることにより、完全にデジタル化されたワークフローを通じて、患者の来院機会が最小限に抑えられる。また、工程シーケンスが簡略化され、歯科医と歯科技工士の間の連絡も必要最小限とされる。患者の快適性も向上する。
【0008】
これにより、例えばシリコン材料からなる印象を用いる従来の手法におけるクラウンやブリッジのような仮補綴物の手作業による作製や、患者への複数回の試着が不要となる。よって、患者の快適性が顕著に向上する。
【0009】
義歯の設計と作製の双方が完全にデジタル化されてもよいし、デジタル手法とアナログ手法が組み合わせられてもよい。補綴物の作製は、いつでも必要なときに歯列弓のデジタルデータセットのファイルスプリッティングを行なうことにより、デジタル支援されうる。仮想データセットは、ファイルスプリッティングを通じて、例えば二つの異なる部分(フレームワークとベニア)に分割されうる。
【0010】
本発明に係る別の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0011】
咬合位置にある上顎歯列弓と下顎歯列弓のデータは、状況に関連付けられた位置において生成される。状況に関連付けられた位置は、予め定義される。定義済みの状況に関連付けられた位置は、咬合位置にある上顎歯列弓と下顎歯列弓の定義済みデータにより提供される。除去製造法と付加製造法の少なくとも一方による補綴物の製法を通じたデジタル設計と製造は、定義済みの状況に関連付けられた位置によりなされる。
【0012】
上下顎の歯列弓のデータに係る定義済みのデジタル咬合位置により、ユーザにとっては、咬合器などの支援なしに対応する補綴物をまずデジタル的に設計し、次いで除去製造法や付加製造法により当該補綴物を製造することが可能とされる。除去製造法の例としては、グラインディング(研削)、ミリング(切削)、およびターニング(旋削)が挙げられる。これにより、形状が大きく異なる材料からプログレッシブ仕上げを通じて高精度の補綴物が製造されうる。補綴物は、付加製造法を用いてレイヤーを重ねて作り上げられてもよい。この場合、正確で孔のないデザインが実現可能であり、複雑な仕上げ加工も省略されうる。
【0013】
所望の位置と既存の状況の関係に基づくので、システムは、歯列弓データベースから状況関係と定義済み咬合位置を失うことなく個人の歯に個別に適合するオプションを提示することもできる。
【0014】
少なくとも一つのインプラント接続エレメントもまた、咬合位置にある上下顎の歯列弓の定義済みデータに基づいて、上顎と下顎の少なくとも一方におけるデジタル的な位置決めと設計がなされうる。
【0015】
インプラント接続エレメントの位置決めと選択は、CADソフトウェア内で行なわれる。この場合、インプラント接続エレメント用の凹部を備えた義歯が作製される。
【0016】
咬合位置にある上下顎の歯列弓の定義済みデータにおける歯の形状、歯の大きさ、歯の色、歯列弓の幅の少なくとも一つは、患者の口内状況のスキャンデータにアダプテーションされうる。このアダプテーションは、CADソフトウェア内で行なわれる。
【0017】
上記の方法によれば、トレイまたは印象用トレイ、補綴物、即席補綴物、仮補綴物、二次的デザインや三次的デザイン形状を伴う部分補綴物、総補綴物、ハイブリッド補綴物、穿孔テンプレート(定義済み歯列弓の有無は問わない)、クランプなどの歯科矯正用デザイン、および付加製造法と除去製造法における審美的用途の少なくとも一つについて、大量の汎用デザインだけでなく個別化されたデザインも正確かつ効率的に生成されうる。
【0018】
Baltic Denture System(登録商標)などを用いた対応する印象採得プロセスにより、印象採得、咬合採得、および歯科診療などへのトランスファーが効率的になされ、情報が技工所へ転送される。しかしながら、上顎の下顎に対する所定の配置関係と状況関係(顎に残る歯とその状態を含む)に基づけば、インプラント(独立型またはペグ支持型)、アタッチメント、ハイブリッドデザインなどの構造の種別に依らず、既知既存の他の手法を用いてあらゆる種別の義歯が効率的かつ正確に作製されうる。
【0019】
上記の方法は、システム依存型ではない。すなわち、補綴物やその使用材料に依らず適用可能である。
【0020】
よって、咬合位置にある歯列弓のデジタル化されたデータは、デジタル設計および材料に依存しないさらなる義歯形成工程の基礎をなす。
【0021】
咬合位置にある歯列弓のデータは、対応するソフトウェアにおけるデジタル歯列弓データベースとして提供される。
【0022】
デジタル歯列弓データベースにより、直接的に接続された補綴物ベースを備えたワークピースまたはミリングブランクが最終的に得られる。
【0023】
咬合位置にある歯列弓データベースとバックワードプランニングまたはエンジニアリングやリバースプランニングまたはエンジニアリングにより、最大限に多様化された製法が提供される。
【0024】
バックワードプランニングは、最適インプラント補綴技術であり、理想的なインプラント義歯からインプラント供給へ遡ってプランニングがなされる。すなわち、バックワードプランニングにおいては、義歯がインプラント歯の位置を決定する。歯、骨、および軟組織の状態についての情報が、上下顎の歯のモデルに基づいて取得される。歯科医は、コンピュータ支援3Dインプラントプランニングにより、適切なインプラント数、理想的なインプラント位置、長さ、アライメント、穿孔深さ、および軟組織と骨組織の形成法を立案できる。歯科技工士は、理想的な機能歯位置と歯の見栄えを立案できる。これにより、現在の上顎および下顎における歯および歯茎の病理的な実状態から、それら本来の健常的な状態が再現される。よって、バックワードプランニングは、高品質な材料で形成された正確な義歯の納品を可能にする。
【0025】
歯列弓データベースにおける咬合位置にある上下顎の歯列弓のデータから始まるワークフロー全体を通じて、歯列弓を備えたミリングブランクのデジタル画像が得られる。途中では、例えばBDキー、古い補綴物、従来の印象採得を通じて咬合位置にある上下顎の関係を最大限に利用することによりデジタル的に採得された患者の印象のマッチングや、例えば部分義歯や総義歯の作製に用いられる既存のCAD/CAM法が実施される。
【0026】
マッチングは、仮想的な石膏模型が顎位決定時におけるスキャンされた表面と直接に関連付けられるデジタル的な手法である。
【0027】
個別化に基づいた咬合時の歯位置を含むデジタル歯列弓データベースにより、デジタル的なワークフローを通じた全ての患者に対する個別的な義歯の供給が可能とされる。
【0028】
上記の方法は、BDキーセットを含むBaltic Denture System(登録商標)などの口内スキャナを用いたデジタル印象採得に基づいて遂行されることが好ましい。BDキーセットは、例えば下顎用咬合採得ツールと上顎用咬合採得ツールからなる。これらの咬合採得ツールは、既に咬合位置にある歯を備えている。当該ツールは、患者の口内に挿入される。上顎用咬合採得ツールは、暗号化エレメントを介して下顎用咬合採得ツールに接続および固定される。この状態で口内スキャナによるデータのスキャンと専用ソフトウェアへの転送がなされる。当該ソフトウェアは、例えばデザイン用のCADソフトウェアである。咬合位置にある歯列弓のデータは、こうしてデジタル化され、歯列弓データベースに格納および保存される。個人用の印象トレイや個別化された歯列記録に適した個別化された印象用トレイは、例えばCAM法を用いたデータ転送を通じて、除去製造法または付加製造法により製造されうる。
【0029】
上記の方法は、印象採得プロセス全体とデータのデジタル化を一度の来院のみで遂行可能である点において有利である。当該データは、歯科技工所へ直接に転送され、別工程において最終的なデザインをデジタル的に得ることができる。咬合位置にある歯列弓をデジタル的に位置決めすることにより、後続する試着や顎同士の関連付けを不要にできる。
【0030】
本発明に係る有利な実施形態は、以下の図面に基づいて示される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】上顎用と下顎用の咬合採得ツール、歯列弓データベース、および総義歯の完成品を示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、CADソフトウェアにおいて咬合位置に配置された歯列弓1、2のデータを示している。当該データは、歯列弓データベース10において提供されている。歯列弓1、2のデータは、患者の口内状況をスキャンして得られたデータセットに基づいて定義済みである。咬合位置にある上顎歯列弓と下顎歯列弓のデータは、状況に関連づけられた定義済みの位置に配置される。患者の口内状況または顎間関係は、上顎用と下顎用の咬合採得ツールによって定められる。当該ツールは、すでに咬合位置にある歯列弓を有している。上顎用咬合採得ツールは、暗号化エレメントを介して下顎用咬合採得ツールに接続および固定される。上顎用と下顎用の咬合採得ツールは、接続エレメントによっても患者の口内に挿入されうる。例えば、図1に示される総義歯は、咬合位置に配置された上顎の歯列弓と下顎の歯列弓についてデジタル的に定義済みのデータに基づいて作製される。図1から明らかなように、総義歯の上顎人工歯と下顎人工歯は、さらなる仕上げ加工や咬合位置決めを咬合器などの援用して行なう必要がないように、正確な相対位置関係下にある。これにより、歯科技工士と歯科医の労力の一部が軽減されるとともに、患者の来院機会も削減されうる。
【0033】
咬合位置にある歯列弓のデジタルデータが、独国特許出願第102014117252号に記載の咬合採得の方法および咬合採得ツールの使用に対応する場合、有利であることが明らかになっている。本開示の一部を構成するものとして、当該出願の開示内容が援用される。咬合位置にある上下顎の歯列弓のデータにより義歯を作製するためのワークピースの少なくとも一部が、独国特許出願第102011118320号に記載のミリングブロック(好ましくはデンタルミリングブロック)において同じく咬合位置に配列された歯列形状に対応する場合においても同様である。本開示の一部を構成するものとして、当該出願の開示内容(好ましくはミリングブロック、ミリングブロックシステム、および対応する製法についての内容)が援用される。
図1