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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】ショベル
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20240919BHJP
   E02F 9/24 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
E02F9/22 E
E02F9/24 L
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022018585
(22)【出願日】2022-02-09
(62)【分割の表示】P 2019509256の分割
【原出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2022051893
(43)【公開日】2022-04-01
【審査請求日】2022-02-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2017072627
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 純一
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 将
【合議体】
【審判長】有家 秀郎
【審判官】▲吉▼川 康史
【審判官】太田 恒明
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-41428(JP,A)
【文献】特開2003-184133(JP,A)
【文献】特開平8-13546(JP,A)
【文献】特開2009-180065(JP,A)
【文献】特開平1-163323(JP,A)
【文献】実開平7-14204(JP,U)
【文献】特開2012-172382(JP,A)
【文献】国際公開第2012/121253(WO,A1)
【文献】特開平11-173308(JP,A)
【文献】特開平5-131829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
E02F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、
前記走行体に回動自在に設けられる上部旋回体と、
ブーム、アーム、バケットを有し、前記上部旋回体に取り付けられたアタッチメントと、
前記ブーム、アーム、バケットそれぞれに対応するブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダと、
前記ブームシリンダ、前記アームシリンダ、前記バケットシリンダと接続され、アーム軸、ブーム軸、バケット軸それぞれの操作量に応じて、前記ブームシリンダ、前記アームシリンダ、前記バケットシリンダのうち対応するシリンダに圧油を供給する油圧回路と、
前記アームシリンダまたは前記バケットシリンダの操作に起因する前記アタッチメントの慣性モーメントの変化で生じる前記アタッチメントから前記上部旋回体に作用する転倒モーメントを前記ブームシリンダが吸収するように前記油圧回路を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記アームシリンダまたは前記バケットシリンダの操作に起因して前記慣性モーメントが変化するときに、前記ブームシリンダの油室と、当該ブームシリンダの油圧回路との間を、前記慣性モーメントが変化する前より油が流通しやすい状態に変化させることにより前記転倒モーメントを吸収することを特徴とするショベル。
【請求項2】
前記コントローラは、前記ブームシリンダの推力または圧力が前記アタッチメントの状態に応じた上限値を超えないように動作させることを特徴とする請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
前記ブームシリンダの油室と接続される弁をさらに備え、前記コントローラは、前記ブームシリンダが前記転倒モーメントを吸収するように前記弁を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のショベル。
【請求項4】
前記弁は、前記ブームシリンダの油室に設けられた電磁ポートリリーフ弁であって、前記コントローラは前記電磁ポートリリーフ弁を制御することを特徴とする請求項3に記載のショベル。
【請求項5】
前記弁は、コントロールバルブが備える弁であって、前記コントローラはコントロールバルブを制御することを特徴とする請求項3に記載のショベル。
【請求項6】
前記弁は、前記ブームシリンダの油室と他の油室との間に設けられた外部再生弁であって、前記コントローラは前記外部再生弁を制御することを特徴とする請求項3に記載のショベル。
【請求項7】
前記弁は、前記ブームシリンダの油室からタンク室に至る油路に設けられた電磁制御弁であり、前記コントローラは前記電磁制御弁を制御することを特徴とする請求項3に記載のショベル。
【請求項8】
非走行状態または非旋回状態において、前記コントローラによる制御が有効となることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のショベル。
【請求項9】
空中動作中か掘削中か判定する機能を備え、空中動作中において、前記コントローラによる制御が有効となることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のショベル。
【請求項10】
バケットの位置が存在する場合に不安定とする領域が予め設定されており、バケットの位置が設定した不安定の領域に含まれるときに前記コントローラによる制御が有効となることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のショベル。
【請求項11】
車体に設けられ、ピッチング情報あるいは加速度情報を取得するセンサをさらに備え、
前記コントローラは、前記センサの出力に基づいて、前記制御を有効とすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のショベル。
【請求項12】
安定度が低下する動作として、排土、ブーム下げ、アーム開き動作をさせてアーム最大開き位置に到達させたとき、の少なくとも一つにおいて、前記コントローラによる制御が有効となることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のショベル。
【請求項13】
前記コントローラは、前記ブームシリンダが動作フリーとなるようにすることで、アタッチメントのモーメントの変化に応じて前記ブームシリンダ内の可動部が移動し、前記変化を移動で吸収するように、制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のショベル。
【請求項14】
走行体と、
前記走行体に回動自在に設けられる上部旋回体と、
前記上部旋回体に取り付けられたアタッチメントと、
前記アタッチメントに含まれるブームを動作させるブームシリンダと、
前記ブームシリンダと接続され、操作量に対応して前記ブームシリンダに圧油を供給する油圧回路と、
前記ブームシリンダ内の油をリリーフさせるリリーフ弁と、
ブーム軸以外の操作に起因して、振動が発生しそうな状態あるいは前記アタッチメントの慣性モーメントが変化しそうな状態となると、前記慣性モーメントの変化で生じる前記アタッチメントから前記上部旋回体に作用する転倒モーメントを、前記ブームシリンダが吸収するように、前記リリーフ弁を、前記ブームシリンダをその内部の油室から油が抜けるような状態に移行させるコントローラと、
を備え、
前記アタッチメントで排土したとき、または前記アタッチメントを空中で動状態から停止状態に移行させたときに発生する振動が低減される第1状態と、前記第1状態を解除した第2状態と、を有し、前記第2状態で前記アタッチメントで排土したとき、または前記アタッチメントを空中で動状態から停止状態に移行させたときに発生する振動は、前記第1状態で発生する振動より大きいことを特徴とするショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
ショベルは、主として走行体(クローラ、ロワーともいう)、上部旋回体、アタッチメントを備える。上部旋回体は走行体に対して回動自在に取り付けられており、旋回モータによって位置が制御される。アタッチメントは上部旋回体に取り付けられており、作業時に使用される。
【0003】
オペレータは、作業内容に応じて、アタッチメントのブーム、アーム、バケットを制御するが、このとき、車体(すなわち走行体、上部旋回体)は、バケットが接触している地面あるいは構造物から、アタッチメントを介して反力を受ける。反力が加わる向きと、車体の姿勢、地面の状況によって、ショベルの本体が浮き上がってしまう場合がある。特許文献1には、ブームシリンダの収縮側(ロッド側)の圧力を抑制することにより、車体の浮き上がりを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-122510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は係る状況においてされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、車体の振動を抑制し、および/または転倒を抑制可能なショベルの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様はショベルに関する。ショベルは、走行体と、走行体に回動自在に設けられる上部旋回体と、ブーム、アーム、バケットを有し、上部旋回体に取り付けられたアタッチメントと、アタッチメントの空中動作に起因する走行体の振動が抑制されるように、アタッチメントの動作を補正する振動抑制部と、を備える。
【0007】
この態様によると、アタッチメントの少なくとも一軸を利用して、アタッチメントの空中動作によって発生する力、すなわち転倒モーメントを吸収することにより、アタッチメントから走行体に対して、車体をピッチング方向に振動させる力が伝搬するのを防止でき、ひいては振動を抑制できる。
【0008】
振動抑制部は、アタッチメントのブームシリンダの動作を補正してもよい。これにより、ブームシリンダの動きに起因する振動のみでなく、それより先端側の、アームおよびバケットの両方の動作に起因する振動も抑制できる。
【0009】
振動抑制部は、制御対象のシリンダの推力がアタッチメントの状態に応じた上限値を超えないように動作してもよい。
【0010】
振動抑制部は、制御対象のシリンダの推力の上限値を、アタッチメントの状態を入力とする演算により取得してもよい。
【0011】
振動抑制部は、アタッチメントの状態を入力とし、制御対象のシリンダの推力の上限値を出力とするテーブルを備え、テーブル参照によって、制御対象のシリンダの推力の上限値を設定してもよい。
【0012】
振動抑制部は、シリンダのボトム側の圧力を、シリンダの推力の上限値およびシリンダのロッド側の圧力から計算されるしきい値以下に抑制してもよい。
【0013】
ショベルは、制御対象のシリンダのボトム側に設けられた電磁ポートリリーフ弁をさらに備え、振動抑制部は電磁ポートリリーフ弁を制御してもよい。
【0014】
ショベルは、制御対象のシリンダのボトム室とロッド室の間に設けられた外部再生弁をさらに備え、振動抑制部は外部再生弁を制御してもよい。
【0015】
ショベルは、制御対象のシリンダのボトム室からタンク室に至る油路に設けられた電磁制御弁をさらに備え、振動抑制部は電磁制御弁を制御してもよい。
【0016】
本発明の別の態様もまた、ショベルである。このショベルは、走行体と、走行体に回動自在に設けられる上部旋回体と、ブーム、アーム、バケットを有し、上部旋回体に取り付けられたアタッチメントと、ブームおよびアームのシリンダの少なくとも一方のボトム側に設けられた電磁ポートリリーフ弁と、を備える。アタッチメントの空中動作中において電磁ポートリリーフ弁の設定圧が制御される。
【0017】
本発明の別の態様もショベルに関する。ショベルは、走行体と、走行体に回動自在に設けられる上部旋回体と、上部旋回体に取り付けられたアタッチメントと、アタッチメントを動作させる油圧シリンダと、油圧シリンダ内の油をリリーフさせるリリーフ弁と、を備える。アタッチメントの空中動作中に所定の動作を行うと、油圧シリンダ内の油がリリーフされる。所定の動作はたとえば排土(排出動作)であり、土砂を持ったままでブームを降ろす動作、特に止まるときなどを含む。所定の動作は、アタッチメントの慣性モーメントが変化する動作であればよい。
【0018】
本発明の別の態様もショベルに関する。ショベルは、走行体と、走行体に回動自在に設けられる上部旋回体と、上部旋回体に取り付けられたアタッチメントと、アタッチメントを動作させる油圧シリンダと、油圧シリンダ内の油をリリーフさせるリリーフ弁と、を備える。アタッチメントで排土したとき、またはアタッチメントを空中で動状態から停止状態に移行させたときに発生する振動が低減される第1状態と、第1状態を解除した第2状態と、を有し、第2状態でアタッチメントで排土したとき、またはアタッチメントを空中で動状態から停止状態に移行させたときに発生する振動は、第1状態で発生する振動より大きい。
ショベルは、たとえば第1状態と第2状態とを切り替えるボタンやインタフェースを備えてもよい。
【0019】
本発明の別の態様もショベルに関する。ショベルは、走行体と、走行体に回動自在に設けられる上部旋回体と、ブーム、アーム、バケットを有し、上部旋回体に取り付けられたアタッチメントと、アタッチメントの空中動作に起因する、走行体あるいは上部旋回体の振動が抑制されるように、アタッチメントのうち、少なくとも1軸のシリンダを制御するコントローラと、を備える。
【0020】
コントローラは、ある軸が操作されるとき、操作されていない軸のシリンダを制御してもよい。
【0021】
コントローラは、制御対象のシリンダの油室と、当該シリンダの油圧回路との間を、より油が流通しやすい状態に変化させてもよい。
【0022】
コントローラは、制御対象のシリンダの推力または圧力がアタッチメントの状態に応じた上限値を超えないように動作してもよい。
【0023】
ショベルは、制御対象のシリンダのボトム側あるいはロッド側に設けられた電磁ポートリリーフ弁をさらに備え、コントローラは電磁ポートリリーフ弁を制御してもよい。
【0024】
振動制御部は、制御対象のシリンダと、コントロールバルブが備える弁を制御してもよい。
【0025】
ショベルは、制御対象のシリンダのボトム室とロッド室の間に設けられた外部再生弁をさらに備え、コントローラは外部再生弁を制御してもよい。
【0026】
ショベルは、制御対象のシリンダのボトム室からタンク室に至る油路に設けられた電磁制御弁をさらに備えてもよい。コントローラは電磁制御弁を制御してもよい。
【0027】
ショベルは、非走行状態または非旋回状態において、コントローラによる制御が有効となってもよい。特にアタッチメントが操作されやすい状況で自動的に有効になると、作業上、操作者の煩わしさを軽減できる。
【0028】
バケットの位置が所定の領域に含まれるときにコントローラによる制御が有効となってもよい。バケットの位置が車体から離れるほど、或いは高い位置にあるほど、外力によって車体が振動/浮き上がりやすいため、このような状況において有用である。
【0029】
コントローラは、車体の安定度を演算し、安定度が低い状態において制御を有効としてもよい。安定度が低い状態においては、車体が振動しやすい或いは浮き上がりやすい状態にあるため、特にこのような状態において、アタッチメントの振動/モーメント変化が車体に伝わり難いと効果的である。
【0030】
操作パネルまたは表示装置に付随する操作手段が、コントローラによる制御に関連する機能をオン、オフするための入力部を提供してもよい。ショベルの熟練操作者にとっては、かえって煩わしい場面が想定されるため、操作者自身で機能させるか否かを決定することができる。
【0031】
コントローラは、制御対象のシリンダが動作フリーとなるような制御を行ってもよい。アタッチメントのモーメントの変化に応じてシリンダ内の可動部が移動し、この変化を吸収することができる。
【0032】
本発明の別の態様もショベルに関する。ショベルは、走行体と、走行体に回動自在に設けられる上部旋回体と、ブーム、アーム、バケットを有し、上部旋回体に取り付けられたアタッチメントと、ブームおよびアームのシリンダの少なくとも一方のボトム側またはロッド側に設けられ、前記シリンダの油を排出させることが可能な弁と、を備える。アタッチメントの空中動作中に弁が制御され、シリンダから油を流出させる。
【0033】
本発明の別の態様もショベルに関する。ショベルは、走行体と、走行体に回動自在に設けられる上部旋回体と、上部旋回体に取り付けられたアタッチメントと、アタッチメントを動作させる油圧シリンダと、油圧シリンダ内の油をリリーフさせるリリーフ弁と、を備える。アタッチメントの空中動作中に所定の動作を行うと、油圧シリンダ内の油が油圧タンクまたは油圧タンクへの経路にある油圧回路にリリーフされる。
【0034】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ショベルの振動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】建設機械の一例であるショベルの外観を示す斜視図である。
図2図2(a)、(b)は、ショベルの空中動作時に発生する振動の一例を説明する図である。
図3】排出動作を行ったときに測定されたショベルの、ピッチング軸方向の角度および角速度の時間波形を示す図である。
図4図4(a)、(b)は、シリンダによる振動抑制を説明する図である。
図5】ショベルの電気系統や油圧系統などのブロック図である。
図6図6(a)~(c)は、実際のショベルによって、あるオペレータが空中動作を繰り返し行ったときの、動作波形図である。
図7】一実施例に係るショベルの振動抑制に関連するブロック図である。
図8】一実施例に係る制限推力取得部のブロック図である。
図9】一実施例に係るショベルの振動抑制のフローチャートである。
図10】一実施例に係るショベルの振動抑制に関連するブロック図である。
図11】一実施例に係るショベルの振動抑制に関連するブロック図である。
図12図12(a)~(c)は、変形例に係るショベルの振動抑制のフローチャートである。
図13図13(a)、(b)は、車体の安定度を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0038】
図1は、建設機械の一例であるショベル500の外観を示す斜視図である。ショベル500は、主として下部走行体(クローラ)502と、下部走行体502の上部に旋回機構503を介して回動自在に搭載された上部旋回体504とを備えている。
【0039】
旋回体504には、アタッチメント510が取り付けられる。アタッチメント510は、ブーム512と、ブーム512の先端にリンク接続されたアーム514と、アーム514の先端にリンク接続されたバケット516とを備える。ブーム512、アーム514、およびバケット516は、それぞれブームシリンダ520、アームシリンダ522、およびバケットシリンダ524によって油圧駆動される。また、旋回体504には、オペレータを収容するための運転室508や、油圧を発生するためのエンジン506といった動力源が設けられている。
【0040】
ショベルのアタッチメント510や、車体には、センサ720,722,724,726が設けられる。これらのセンサは、3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサを含む慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)であってもよい。これらのセンサの出力にもとづいて、バケット516の位置や、アタッチメント510の姿勢等を検出することができる。
【0041】
続いて、ショベル500の空中動作に起因する振動について詳細に説明する。
【0042】
本発明者は図1に示すショベルについて検討したところ、以下の課題を認識するに至った。バケットが地面に接触していない動作(以下、空中動作という)中に、アタッチメントの慣性モーメントが、ショベルの走行体(車体)に振動を誘発する場合がある。たとえばバケットから土砂を排出する際には、慣性モーメントが変化する。このときのアタッチメントは、ショベルの車体を前方向に傾けるように作用し、車体の振動を誘発する。場合によっては、車体の一部が浮き上がる場合もある。なおこの問題あるいは現象を当業者の一般的な認識として捉えてはならない。
【0043】
図2(a)、(b)は、ショベルの空中動作時に発生する振動の一例を説明する図である。ここでは空中動作の一例として排出動作を説明する。図2(a)では、バケット516およびアーム514が閉じており、ブーム512が上がった状態となっており、バケット516には土砂などの積載物2が収容されている。図2(b)に示すように、排出動作では、バケット516およびアーム514が大きく開かれ、積載物2が排出される。このときアタッチメント510の慣性モーメントの変化が、ショベル500の車体を図中矢印Aに示すピッチング方向に振動させるように作用する。
【0044】
図3は、排出動作を行ったときに測定されたショベル500の、ピッチング軸方向の角度(ピッチ角度)および角速度(ピッチ角速度)の時間波形を示す図である。図3から、空中動作に起因して、ショベルを転倒させようとする転倒モーメントが発生し、ピッチ軸周りの振動が発生することが分かる。以下では、空中動作に起因する振動を抑制する方法および抑制可能なショベルについて説明する。
【0045】
はじめに、振動抑制の原理を説明する。本実施の形態では、アタッチメントの動作に起因する力を、アタッチメント自身が備えるシリンダをクッションとして利用することにより吸収する。
【0046】
図4(a)、(b)は、シリンダによる振動抑制を説明する図である。図4(a)は、クッション機能が発揮されない状態を示す。一般的には、ある操作軸(たとえばブーム)に対応するシリンダ700は、無操作時において、ロッド室702、ボトム室704はいずれも油圧回路710と実質的に切り離されている。したがって、シリンダ700におけるピストンは移動しない状態であり、アタッチメントの振動712は、ダイレクトに車体側に伝達する。
【0047】
図4(b)は、クッション機能が発揮される状態を示す。ブームのシリンダ700を伸縮させる方向に振動712が発生すると、無操作状態であっても、ボトム室704およびロッド室702の少なくとも一方の圧力が逃げるように、あるいは油が流れるように、油圧系統が制御される。これによりシリンダ700がクッションとしての役割を果たし、慣性力や振動を吸収し、車体側への伝達が抑制される。この振動や慣性力はシリンダ内、それに繋がる油路の摩擦等でエネルギー消費される。なお、慣性力のみ考慮するなら、ボトム室704から流出させるだけで十分であるが、一般的にシリンダ内の圧力変化の反動が生ずるため、ロッド室702からも流出させるとよい。
【0048】
図5は、ショベル500の電気系統や油圧系統などのブロック図である。なお、図5では、機械的に動力を伝達する系統を二重線で、油圧系統を太い実線で、操縦系統を破線で、電気系統を細い実線でそれぞれ示している。
【0049】
エンジン506の回転は、減速機532を介してメインポンプ534に伝達される。エンジン506および減速機532に代えて、電気的な動力源(電動機)を用いてもよいし、エンジンと電動機のハイブリッドを用いてもよい。減速機532の出力軸にはメインポンプ534およびパイロットポンプ536が接続されており、メインポンプ534には高圧油圧ライン542を介してコントロールバルブ546が接続されている。コントロールバルブ546は、ショベル500における油圧系の制御を行う装置である。コントロールバルブ546には、図1に示した下部走行体502を駆動するための油圧モータ550Aおよび550Bの他、ブームシリンダ520、アームシリンダ522およびバケットシリンダ524が高圧油圧ラインを介して接続されており、コントロールバルブ546は、これらに供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御する。
【0050】
パイロットポンプ536には、パイロットライン552を介して操作手段554が接続されている。操作手段554は、旋回用電動機560、下部走行体502、ブーム512、アーム514およびバケット516を操作するためのレバーやペダルであり、オペレータによって操作される。具体的には、アタッチメント510の各軸(ブーム512、アーム514、バケット516)それぞれは、運転席に設けられた操作手段554の操作に連動して動作する。具体的には、レバーを操作すると操作に応じて、ブームシリンダ520、アームシリンダ522、バケットシリンダ524が伸び縮み動作をし、それに応じてブーム512、アーム514、バケット516が動作する。
【0051】
操作手段554には、油圧ライン556を介してコントロールバルブ546が接続される。操作手段554は、パイロットライン552を通じて供給される油圧(1次側の油圧)をオペレータの操作量に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作手段554から出力される2次側の油圧は、油圧ライン556を通じてコントロールバルブ546に供給される。
【0052】
センサ730は、シリンダ520,522,524のボトム側、ロッド側の圧力を測定する。センサ732は、各軸に対する操作入力を監視し、操作情報を取得する。たとえばセンサ732は、パイロット圧にもとづいて、操作情報を取得してもよいし、電気レバーからの情報を、電気的情報に変換してもよい。圧力センサ734は、高圧油圧ライン542の圧力を測定する。これらのセンサ730,732,734の出力は、コントローラ740に供給される。
【0053】
続いて、振動抑制の概要について説明する。このショベル500は、アタッチメント510の空中動作中に振動が発生しそうな状態あるいは慣性モーメントが変化しそうな状態になると、コントローラ740(後述の振動抑制部580)が自動で補正を実行する。補正によりアタッチメント510で振動を吸収し、車体へ伝わる振動を減少させる。補正では、シリンダ520,522,524の少なくともひとつ、例えばブームシリンダ520の内部の油室から油が抜けるような状態(シリンダの油室と油路とを連通状態にする)に移行させる。モーメントの変化で生じるアタッチメント510の振動、あるいはモーメントの変化そのものがブームシリンダ520に伝わり、その結果、ブームシリンダ520内の油が排出され、これにより振動が減衰する。
【0054】
なお補正は、空中動作中に行うため、空中動作中か否かをコントローラ740が判断し、アタッチメントの空中動作で生じる振動が車体側に伝わりにくくなる制御状態に自動的に移行する。なお、常にこの状態であると、その他の作業に影響があるかもしれないので、所定条件でこの制御状態に移行してもよい。
【0055】
以下、振動抑制について具体的に説明する。振動抑制部580は、空中動作に起因する走行体の振動が抑制されるように、アタッチメント510の動作を補正する。より具体的には振動抑制部580は、ブームシリンダ520、アームシリンダ522、バケットシリンダ524の少なくとも一つを制御対象とし、制御対象のシリンダに作用することにより、アタッチメント510の動作を補正する。
【0056】
より詳しくは、振動抑制部580は、制御対象のシリンダの推力がアタッチメント510の状態に応じた上限値(制限推力)を超えないように制御する。この上限値は、アタッチメント510の状態から計算あるいは推定されるショベルを倒そうとする力(転倒モーメントと称する)から適切に設定してもよい。転倒モーメントは、たとえば、アームの角度、ブームの角度、バケットの中の重量、バケットの角度、傾斜角度情報、下部走行体と旋回体の相対角度、各シリンダの圧力情報などから、理論的に計算することができる。振動抑制部580は、各種センサ582からの情報を取得できる。センサ582は、アタッチメント510の状態(アーム角度、ブーム角度、バケット角度、ピッチング角、バケットの積載重量など)を示す各種検出信号が入力される。センサ582の個数は、コストと転倒モーメントの演算の精度のトレードオフで決めればよい。さらにアタッチメント510の状態は、アタッチメントの向き、すなわち旋回体と走行体の相対角を含むことができる。車体(走行体、旋回体)の位置・速度・加速度情報等から、車体の振動や浮き上がりにかかる情報を直接取得してもよい。
【0057】
図5では、振動抑制部580からコントロールバルブ546に向かう制御線が描かれているが、これは振動抑制部580がコントロールバルブ546のみを制御対象とすることを限定するものではない。振動抑制部580の制御対象については後述する。
【0058】
このショベル500によれば、アタッチメント510の少なくとも一軸を利用して、アタッチメント510の空中動作によって発生する転倒モーメントあるいは振動、あるいはモーメントの変化を吸収することにより、アタッチメント510から走行体502に対して、車体をピッチング方に振動させる力が伝搬するのを防止でき、ひいては振動を抑制できる。
【0059】
続いて、振動抑制に有効な具体的な制御および構成を説明する。
図6(a)~(c)は、実際のショベルによって、あるオペレータが空中動作を繰り返し行ったときの、動作波形図である。図6(a)~(c)は、異なる試行を示しており、上から順に、ピッチング角速度(すなわち車体の振動)、ブーム角加速度、アーム角加速度、ブーム角度、アーム角度が示される。図中、X印は、ピッチ角速度の負のピークに対応するポイントを示している。
【0060】
図6(a)~(c)から、ブーム角の変化が止まるときに、振動が誘発されることが分かる。言い換えれば、ブーム角加速度が、振動の発生に及ぼす影響が最も大きいと言え、裏を返せばブーム角速度が振動の抑制にもっとも有効であることが言える。このことは、バケット角に関する慣性モーメント(イナーシャ)はバケットの質量のみが影響を与え、アーム角に関する慣性モーメントはバケットとアームの質量が影響を与えるのに対して、ブーム角に関する慣性モーメントは、ブームのみでなく、アーム、バケットの全質力が影響を与えることからも直感的に理解される。
【0061】
そこで振動抑制部580は、アタッチメント510のブームシリンダ520を制御対象として、その動作を補正することが好ましい。すなわちブームシリンダ520の推力がアタッチメント510の状態にもとづく上限値(制限推力)を超えないように、振動抑制部580は動作してもよい。
【0062】
図7は、一実施例に係るショベル500Aの振動抑制に関連するブロック図である。ショベル500Aは、制御対象のブームシリンダ520のボトム側に設けられた電磁ポートリリーフ弁584をさらに備える。振動抑制部580は電磁ポートリリーフ弁584を制御することにより、ブームシリンダ520の推力を制限する。
【0063】
振動抑制部580は、制限推力取得部586および電流指令生成部588を含む。制限推力取得部586は、センサ582からの検出信号Sにもとづいて、制限推力FMAXを取得する。一実施例において制限推力取得部586は、アタッチメント510の状態(すなわちセンサ582からの検出信号)を入力とする演算により制限推力FMAXを取得する。
【0064】
ブームシリンダ520の推力Fは、ロッド側の受圧面積をA、ロッド側の圧力をP、ボトム側の受圧面積をA、ボトム側の圧力をPとするとき、以下の式で表される。
F=A・P-A・P
制限推力をFMAXとするとき、
MAX>A・P-A・P
が成り立てばよいから、
<(FMAX+A・P)/A
を得る。すなわち、(FMAX+A・P)/Aがボトム圧の上限値PMAXとなる。
【0065】
ロッド圧センサ590は、ブームシリンダ520のロッド室側の圧力Pを検出する。振動抑制部580は、ボトム側の圧力Pを、制限推力FMAXおよびロッド圧Pから計算されるしきい値PMAX以下に抑制する。具体的には電流指令生成部588は、制限推力FMAXおよびロッド圧Pから、ボトム圧Pの上限値PMAXを計算し、上限値PMAXに応じた電流指令Sを電磁ポートリリーフ弁584に供給する。
【0066】
この構成により、振動を発生させるようなアタッチメント510の空中動作が発生すると、電磁ポートリリーフ弁584が開き、ブームシリンダ520の推力が制限され、振動が抑制される。
【0067】
なお制限推力FMAXを小さくしすぎると、ブーム512が下がってくる。そこで制限推力取得部586は、ブーム512の姿勢を保持可能な推力(保持推力FMIN)を取得し、保持推力FMINより高い範囲で、制限推力FMAXを設定するとよい。
【0068】
図8は、一実施例に係る制限推力取得部586Bのブロック図である。制限推力取得部586Bは、テーブル参照にもとづいて制限推力FMAXを設定する。制限推力取得部586Bは、第1ルックアップテーブル600、第2ルックアップテーブル602、テーブルセレクタ604、セレクタ606を含む。
【0069】
第1ルックアップテーブル600は、ブーム角θを入力とし、制限推力FMAXを出力とする。第1ルックアップテーブル600は、ショベルの異なる複数の状態に対応して設けられた複数のテーブルを含んでもよい。テーブルセレクタ604は、バケット角θ、車体のピッチ角θ、スイング角θの少なくひとつをパラメータとして、最適なテーブルを選択する。
【0070】
第2ルックアップテーブル602は、ブーム角θおよびアーム角θを入力とし、保持推力FMINを出力とする。第2ルックアップテーブル602も同様に、ショベルの異なる複数の状態に対応して設けられた複数のテーブルを含んでもよい。テーブルセレクタ604は、バケット角θ、車体のピッチ角θ、スイング角θの少なくひとつをパラメータとして、最適なテーブルを選択する。セレクタ606は、制限推力FMAXと保持推力FMINのうち大きい一方を出力する。制限推力取得部586Bによれば、ブームの下がりを防止しつつ、振動を抑制できる。この実施態様によればショベルの各種姿勢で最適な制御を実現することができる。
【0071】
制限推力FMAXを、テーブル参照に代えて演算処理により取得してもよい。また保持推力FMINをテーブル参照に代えて、演算処理により取得してもよい。一方で、厳密に推力を制御しなくても、所定時間或いは所定の流量がシリンダから流れ出るようにすることで、操作によらないブームの下がりを最低限の位置或いは速度に規制し、且つ、振動を抑制することもできる。
【0072】
図9は、一実施例に係るショベル500の振動抑制のフローチャートである。初めに、負荷判定(作業判定)が行われ、空中作業中か否かが判定される(S100)。負荷判定においては、空中作業中か掘削作業中か否かの判定を行ってもよい。この判定は、アタッチメントの先端の位置に基づいて行ってもよく、たとえば一実施例では、バケットの位置が、クローラ(あるいは地面)を基準として規定したある高さより低いときに掘削作業、それより高いときに空中動作と判定してもよい。あるいは、油圧ポンプの圧力や各シリンダの圧力が所定のしきい値より高いときに掘削作業と判定してもよいし、操作レバーへの入力にもとづいて、たとえばバケット引き操作、アーム引き操作の発生中は掘削作業と判定してもよい。
【0073】
空中作業中でないとき(S100のN)、処理S100に戻るか、掘削作業に対応する処理シーケンスに移る。掘削作業中であれば、掘削作業中の別の安定化制御を実行しても良いし、通常状態として安定化制御を実行してもよい。あるいは掘削作業中は、バケットが土砂等に接しているため、アタッチメントの急激な動作は、空中作業中に比べて発生頻度が低いため、安定化制御を実行しないとすることもできる。むしろ、シリンダから油を排出しやすくすると、バケットで土砂を引き込む場合にシリンダの踏ん張り力が減るため、作業性の観点からは、実行しない方が好ましいとも言える。
【0074】
空中作業中と判定されると(S100のY)、アタッチメント510の状態(たとえばブーム角θ、アーム角θ、バケット角θ)を監視する(S102)。そしてアタッチメント510の状態に応じて、制限推力FMAXおよび保持推力FMINを決定する(S104,S106)。そして制限推力FMAXおよび保持推力FMINにもとづいて、制御対象のシリンダのボトム圧の上限PMAXを決定する(S108)。
【0075】
図10は、一実施例に係るショベル500Cの振動抑制に関連するブロック図である。ショベル500Cは制御対象のシリンダ(ブームシリンダ520)のボトム室とロッド室の間に設けられた外部再生弁592を備える。振動抑制部580は、外部再生弁592を制御することにより、ブームシリンダ520の推力を、制限推力FMAXを超えないように制御する。この構成によっても振動を抑制できる。
【0076】
図11は、一実施例に係るショベル500Dの振動抑制に関連するブロック図である。コントロールバルブ546は、ブーム用の方向切換弁594と、電磁比例弁596を含む。電磁比例弁596は、ブームシリンダ520のボトム室からタンク室548に至る油路549に設けられる。
【0077】
振動抑制部580は、電磁比例弁596を制御することにより、ブームシリンダ520の推力を、制限推力FMAXを超えないように制御する。この構成によっても振動を抑制できる。
【0078】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例を説明する。
【0079】
実施の形態では、ブームシリンダ520の圧力を制御することにより振動を抑制したが、その限りではなく、それに加えて、あるいはそれに代えて、アームシリンダ522やバケットシリンダ524の圧力を制御することにより、振動を抑制してもよい。
【0080】
また実施の形態では、圧力、推力を制御する例を説明したが、その限りでなく、アタッチメントの空中動作によって発生する力、すなわち転倒モーメントを吸収することにより、アタッチメントから走行体に対して、車体をピッチング方向に振動させる力が伝搬を阻止、低減すればよく、要するに、シリンダから油が流出しやすい状態に移行させればよい。
【0081】
ショベル500を、第1状態と第2状態とで切替え可能としてもよい。第1状態は、上述した振動抑制動作が有効な状態であり、第2状態は、振動抑制が無効な状態である。たとえばショベル500の運転室に、第1状態と第2状態を切替えるためのインタフェース(ボタンやスイッチ、タッチパネルなど)を設けてもよい。たとえばデフォルトでは第2状態となっており、オペレータが希望するときに、第1状態に切りかえて、振動抑制を有効としてもよい。あるいは第1状態と第2状態は、ショベル500の使用状況(路面の滑りやすさ、傾斜の程度など)に応じて、ショベル500が自動的に切りかえてもよい。
【0082】
上述の振動を抑制するための補正は、空中作業中に限らず、走行していないとき(非走行状態)に実行してもよいし、旋回していないとき(非旋回状態)に実行してもよい。非走行状態や非旋回状態は、操作レバーの位置にもとづいて判定してもよく、ある操作レバーが中立位置になった場合、もしくは操作軸が実質的に中立になった場合に、それを非操作軸と判定することができる。たとえばフルレバーから中立に移行した場合や、実質的に中立な範囲で移動した場合が含まれる。
【0083】
図12(a)~(c)は、変形例に係るショベルの振動抑制のフローチャートである。
【0084】
図12(a)では、コントローラは取得した情報に基づいて、所定の制御周期で安定か判定する(S200)。不安定である場合は、振動抑制或いは転倒防止の補正を実行する(S202)。その後安定になるまで判定を繰り返し(S204)、安定になると解除する。安定度が回復したことを条件とするため、振動防止や転倒防止を確実に機能させることができる。
【0085】
図12(b)では、コントローラは取得した情報に基づいて、所定の制御周期で安定か判定する(S300)。不安定である場合は、振動抑制或いは転倒防止の補正を実行する(S302)。その後、補正が実行された軸が操作されることを条件として解除する。オペレータが安定したと感じた場合に操作がされることが多いためオペレータの直観を優先し、安定性と作業性との調和を図ることができる。
【0086】
図12(c)では、コントローラは取得した情報に基づいて、所定の制御周期で安定か
判定する(S402)。不安定である場合は、振動抑制或いは転倒防止の補正を実行する(S404)。その後、所定時間の経過したことを判定し(S404)、解除する(S408)。解除条件が最もシンプルであり、演算処理を低減させることができる。
【0087】
図13(a)、(b)は、車体の安定度を説明する図である。ショベルの安定性は、アタッチメントの姿勢に応じて変化する。図13(a)は、旋回角がゼロの状態を、図13(b)は、90°旋回した状態を示す。
【0088】
バケットの位置情報(旋回体に対しての高さや遠さ等)や下部走行体と旋回体との間の相対角度に基づいて補正の条件や補正量を変更してもよい。また、バケットの位置が存在する場合に不安定とする領域と不安定ではない領域とを予め設定しておき、補正が機能する条件として利用してもよい。例えば、図13(a)の領域(i)で排土したときは、比較的安定度であることから補正が効かず、図13(a)の(ii)(iii)や図13(b)の全ての領域で、補正が効くようにしてもよい。
【0089】
実施の形態ではショベルを説明したが、本発明の適用はその限りでなく、クレーンなど、油圧シリンダでアタッチメントを駆動する油圧作業要素を備えた作業機械に用いることができる。また、安定度を演算するだけでなく、安定度が低下する動作(排土、ブーム下げ、アーム開き動作をさせてアーム最大開き位置に到達させたとき等)、安定度が低下する操作(フルレバー状態から急にレバー中立にする動作、レバー入力速度が所定速度以上)の動作の有無に基づいて、アタッチメントのシリンダを制御しても効果が得られる。また、アタッチメント又は/及び旋回体に設けられたセンサから加速度や振動を検出し、車体が振動すること、振動していると判定して、補正を実行させてもよい。いずれにしてもアタッチメントから伝わる外力を減衰させるようにシリンダを制御することで、車体の振動や転倒の抑制することができる。センサから直接取得した車体のピッチング情報或いは加速度情報に基づいてシリンダを制御してもよく、直接安定度を計算せずとも、バケット位置やアタッチメントの位置情報や走行体と旋回体との間の相対角度等に基づいてシリンダを制御してもよい。
【0090】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0091】
2…積載物、500…ショベル、502…下部走行体、503…旋回機構、504…旋回体、506…エンジン、508…運転室、510…アタッチメント、512…ブーム、514…アーム、516…バケット、520…ブームシリンダ、522…アームシリンダ、524…バケットシリンダ、532…減速機、534…メインポンプ、536…パイロットポンプ、542…高圧油圧ライン、546…コントロールバルブ、550A,550B…油圧モータ、552…パイロットライン、554…操作手段、556…油圧ライン、580…振動抑制部、582…センサ、584…電磁ポートリリーフ弁、586…制限推力取得部、588…電流指令生成部、590…ロッド圧センサ、592…外部再生弁、596…電磁比例弁、600…第1ルックアップテーブル、602…第2ルックアップテーブル、604…テーブルセレクタ、606…セレクタ。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、作業機械に利用できる。
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