IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】皮膚状態評価装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20240919BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61B5/107 800
A61B5/00 101A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022101736
(22)【出願日】2022-06-24
(65)【公開番号】P2023007471
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2021109240
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】市橋 俊希
(72)【発明者】
【氏名】長澤 安曇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 舞
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/189754(WO,A1)
【文献】特開2005-189011(JP,A)
【文献】特開2010-088654(JP,A)
【文献】特開2010-172543(JP,A)
【文献】特開2019-025071(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0137445(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0117074(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第110151587(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/01
A61B 5/06 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の皮膚表面画像を撮影する撮影手段と、
前記皮膚表面画像から前記被験者の皮膚表面の構造情報および色情報を算出する算出手段と、
前記算出された前記構造情報および前記色情報に基づいて、前記被験者の経皮水分蒸散量を推定する推定手段と、
前記推定された前記経皮水分蒸散量に基づき前記被験者の皮膚状態を評価する評価手段と、を含む皮膚状態評価装置。
【請求項2】
前記構造情報は、前記皮膚表面画像における皮膚の局所的な凹凸領域の面積に関する情報であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚状態評価装置
【請求項3】
前記算出手段は、前記皮膚表面画像における皮膚表面の形状が変化することに伴い形成される凹凸領域と判定する閾値を複数設け、
前記構造情報は、第1閾値に基づき判定された第1構造情報と、前記第1閾値とは異なる第2閾値に基づき判定された第2構造情報と、を含み、
前記推定手段では前記第1構造情報、前記第2構造情報および前記色情報に基づいて前記経皮水分蒸散量を推定することを特徴とする請求項2に記載の皮膚状態評価装置
【請求項4】
前記色情報は、前記皮膚表面画像における色相および彩度であることを特徴とする請求項1から3何れか1項に記載の皮膚状態評価装置
【請求項5】
複数の被験者から取得した前記構造情報および前記色情報を説明変数とし、前記経皮水分蒸散量を目的変数とした回帰式を取得し、
前記推定手段は、前記被験者の前記構造情報および前記色情報と、前記回帰式を用いて前記経皮水分蒸散量を算出することを特徴とする請求項1から3何れか1項に記載の皮膚状態評価装置
【請求項6】
前記被験者が皮膚表面から感じる感覚を数値化した感覚情報を取得し、
前記回帰式は、前記複数の被験者から取得した前記感覚情報を説明変数にさらに含み、
前記推定手段は、前記被験者の前記構造情報、前記色情報および前記感覚情報と、前記回帰式とを用いて前記経皮水分蒸散量を算出することを特徴とする請求項5に記載の皮膚状態評価装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の皮膚表面画像から被験者の経皮水分蒸散量を推定し、推定された経皮的散逸水分量に基づき被験者の皮膚状態を評価する皮膚状態評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚画像から所定のパラメータを抽出し、被験者の皮膚機能に関するパラメータを提示する技術がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020/189754号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の場合、皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトルを抽出し、抽出した特徴量ベクトルと皮膚機能に関するパラメータとを関連づけた推定モデルを用いて、皮膚機能に関するパラメータを提示している。しかし、研究を進めていく中で、皮膚機能に関するパラメータとして経皮水分蒸散量を推定する際に、皮膚画像に基づく1種類の値を抽出して用いただけでは、推定した経皮水分蒸散量の精度が十分でない虞があり、改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、被験者の皮膚画像より複数種類の情報を抽出し、抽出した複数種類の情報を用いて経皮水分蒸散量を推定することで、精度のよい経皮水分蒸散量を推定可能とする技術に関する。本明細書において「皮膚状態評価」とは、非医療目的で、皮膚表面の見かけ状態を評価することを意味し、専門家以外の評価者であっても可能な評価を含む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被験者の皮膚表面画像を取得する取得工程と、前記皮膚表面画像から前記被験者の皮膚表面の構造情報および色情報を算出する算出工程と、前記算出された前記構造情報および前記色情報に基づいて、前記被験者の経皮水分蒸散量を推定する推定工程と、前記推定された前記経皮水分蒸散量に基づき前記被験者の皮膚状態を評価する評価工程と、を含む皮膚状態評価方法に関する。
【0007】
また、本発明は、被験者の皮膚表面画像を撮影する撮影手段と、前記皮膚表面画像から前記被験者の皮膚表面の構造情報および色情報を算出する算出手段と、前記算出された前記構造情報および前記色情報に基づいて、前記被験者の経皮水分蒸散量を推定する推定手段と、前記推定された前記経皮水分蒸散量に基づき前記被験者の皮膚状態を評価する評価手段と、を含む皮膚状態評価装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供される方法によれば、被験者の皮膚表面画像から皮膚表面の構造情報および色情報を算出し、算出された構造情報および色情報に基づいて、被験者の経皮水分蒸散量を推定し、推定した経皮水分蒸散量に基づき被験者の皮膚状態を評価するため、精度の高い経皮水分蒸散量を推定でき、皮膚状態の正確な評価を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は経皮水分蒸散量が低い肌の皮膚表面画像、(b)は(a)より経皮水分蒸散量が高い肌の皮膚表面画像、(c)は経皮水分蒸散量が高い肌の皮膚表面画像である。
図2】皮膚状態評価方法のフローチャートである。
図3】皮膚表面の構造情報を算出するフローチャートである。
図4】皮膚表面の色情報を算出するフローチャートである。
図5】(a)は構造情報(閾値50)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(b)は構造情報(閾値100)、(c)は構造情報(閾値150)、(d)は色情報(L)、(e)は色情報(a)、(f)は色情報(b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図6】(a)は構造情報(閾値50、100)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(b)は構造情報(閾値100、150)、(c)は構造情報(閾値50、150)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図7】(a)は構造情報(閾値50)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(b)は構造情報(閾値100)と色情報(L、a、b)、(c)は構造情報(閾値150)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図8】(a)は構造情報(閾値50、100)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(b)は構造情報(閾値100、150)と色情報(L、a、b)、(c)は構造情報(閾値50、150)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図9】構造情報(閾値50、100)、色情報(L、a、b)、および感覚情報を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図10】皮膚状態評価装置の概念図を示す図である。
図11】皮膚状態評価システムの概念図を示す図である。
図12】構造情報(閾値50、100、150)、色情報(L、a、b)、感覚情報、および角層水分量を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図13-1】(a)は低画質画像の構造情報(閾値50)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(b)は低画質画像の構造情報(閾値100)を、(c)は低画質画像の構造情報(閾値150)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。(d)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値50)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(e)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値100)を、(f)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値150)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図13-2】(g)は低画質画像の色情報(L)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(h)は低画質画像の色情報(a)を、(i)は低画質画像の色情報(b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図14】(a)は低画質画像から得た構造情報(閾値50、100)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(b)は低画質画像のから得た構造情報(閾値100、150)を、(c)は低画質画像から得た構造情報(閾値50、150)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。(d)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値50、100)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(e)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値100、150)を、(f)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値50、150)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図15】(a)は低画質画像から得た構造情報(閾値50)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(b)は低画質画像から得た構造情報(閾値100)と色情報(L、a、b)を、(c)は低画質画像から得た構造情報(閾値150)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。(d)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値50)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(e)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値100)と色情報(L、a、b)を、(f)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値150)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
図16】(a)は低画質画像から得た構造情報(閾値50、100)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(b)は低画質画像から得た構造情報(閾値100、150)と色情報(L、a、b)を、(c)は低画質画像から得た構造情報(閾値50、150)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。(d)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値50、100)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフであり、同様に(e)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値100、150)と色情報(L、a、b)を、(f)は低画質画像の彩度のみから得た構造情報(閾値50、150)と色情報(L、a、b)を説明変数とした回帰式による実経皮水分蒸散量と推定経皮水分蒸散量の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
はじめに、本実施形態の皮膚状態評価方法(以下、本方法と表現することもある)で推定する経皮水分蒸散量について図1(a)、(b)、(c)を用いて説明する。
皮膚は生体内と外部を分ける境界として重要な機能(バリア機能)を果たしており、角層のバリア機能が損なわれると、乾燥や肌荒れなどの皮膚トラブルを生じる。皮膚のバリア機能を評価する方法として、経表皮水分蒸散量の測定が広く用いられている。
経皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)とは、体内から角層を通じて揮散する水分量である。体温上昇、運動および精神的刺激などによって汗腺から分泌される汗とは区別されており、例えば、肌荒れをすると、経皮水分蒸散量の増加が観察されるなど皮膚の状態を判断するのに有用な指標である。
経皮水分蒸散量は、例えば、プローブ先端の円筒型のチャンバー内部に2組の高感度温度・湿度センサが一定の距離で配置され、皮膚の表面から蒸発する水分がFickの法則に従って拡散すると仮定し、各センサを通過する水分の温度差、湿度差を測定、その値から蒸散量を算出する計測装置で計測できる。
【0011】
図1(a)~(c)は、経皮水分蒸散量が異なる肌の肌画像であり、それぞれ5人の被験者の肌画像である。図1(a)は、経皮水分蒸散量が低い被験者の肌画像、図1(b)は、経皮水分蒸散量が図1(a)よりも高く図1(c)よりも低い被験者の肌画像、図1(c)は、経皮水分蒸散量が高い被験者の肌画像である。図1(a)~(c)から明らかなように、経皮水分蒸散量が高い被験者の肌画像の方が、経皮水分蒸散量が低い被験者の肌画像よりも、肌表面の凹凸が多くある。また、図1(a)~(c)では把握し難いが、経皮水分蒸散量が高い被験者の肌画像の方が、経皮水分蒸散量が低い被験者の肌画像よりも、色むらが多く、赤みがかった肌である。
経皮水分蒸散量が高くなると、角層のバリア機能が低下していることが示唆され、肌荒れ状態となっている。同様に、バリア機能の低下がある疾患でも経皮水分蒸散量が高くなり、肌表面に炎症をおこし、肌荒れ状態や肌表面に炎症をおこした状態の肌表面は、赤みがかった色であったり、赤黒い色となっており、さらに、凹凸により陰影も生じている。このように、経皮水分蒸散量の違いによって、肌表面の形状および色が異なることがわかる。本方法では、経皮水分蒸散量の違いによって、肌表面の形状および色が異なる点を用いて、撮影した皮膚表面画像から経皮水分蒸散量の推定を行う。したがって、計測装置を準備して計測するよりも利用者が容易に経皮水分蒸散量の推定を行うことができるため、日常生活において経皮水分蒸散量を継続的に推定でき、経皮水分蒸散量の変化を経時的に確認することも可能となる。
【0012】
図2に示した、本実施形態の皮膚状態評価方法(本方法)を示すフローチャートを用いて、本方法について説明する。
図2に示すように、本方法は、取得工程(ステップS100)、算出工程(ステップS110、ステップS120)、推定工程(ステップS130)、および評価工程(ステップS140)から構成される。
【0013】
工程(ステップS100)は、被験者の皮膚表面画像を取得する取得工程である。皮膚表面とは、被験者の身体の何れの部位でもよいが、経皮水分蒸散量が影響しやすい顔、首、腕、および手の甲が好ましい。皮膚表面画像は、カメラで撮影された画像データや、携帯電話やタブレット端末に備えられた一般的なカメラアプリケーションソフトやRAWデータのまま取得することが可能な撮影アプリケーションソフトを用いて撮影された画像である。本実施形態では、RAWデータのまま取得することが可能な撮影アプリケーションソフトを用いて、接写状態で撮影された画像データを用いるがこれに限らない。また、本方法による経皮水分蒸散量を推定する際に撮影し、取得した画像でもよいし、過去に撮影した画像を取得してでもよい。撮影された時期が異なる画像を用いて推定することで、皮膚状態の経時的変化も評価することが可能となる。皮膚表面画像の取得方法としては、撮影された皮膚表面画像データを直接取得する(本方法を実行する装置に撮影機能を備える)、ネットワーク経由で取得する、所定の媒体を用いた授受により取得するなど、どのような取得方法でもよい。
【0014】
工程(ステップS110)は、取得した皮膚表面画像から被験者の皮膚表面の構造情報を算出する工程である。本工程については、図3を用いて説明する。
工程(ステップS111)は、取得した皮膚表面画像を所定サイズにトリミングを行う。本実施形態1では、1200×1200[pix]のサイズに、本実施形態2では、100×100[pix]のサイズにトリミングを行う。本実施形態1では、1200×1200[pix]のサイズに、本実施形態2では、100×100[pix]のサイズにトリミングしたが、サイズはこれに限らない。また、取得した皮膚表面画像によっては、トリミングを行わなくてもよい。取得した皮膚表面画像は、当該皮膚表面画像から肌理の凹凸が測定でき、また、以降の処理を行うために当該皮膚表面画像の面積が少なくとも6mm×6mm必要であり、60mm×45mmより小さいことが好ましい。
工程(ステップS112)は、トリミングした画像に対し、平滑化処理等を行い特徴領域の抽出を行う。本実施形態では、皮膚表面の構造情報として、当該皮膚の水分量に影響し形成される凹凸領域を抽出する。皮膚の水分量に影響し形成される凹凸領域とは、鼻や人中や唇などの大局的な凹凸ではなく皮膚表面に形成される局所的な凹凸領域であり、例えば皮膚の水分量が減少したことにより表皮の増殖能力が低下し、防衛的に角質が肥厚するために生じる鱗屑、肌の表面の皮溝と皮丘による網目の状態である肌理、表皮の最外層を形成する角質層が厚くなり、種々の形状で表皮から剥がれて脱落する現象である落屑、皮膚の細胞が過剰に作られ、皮膚が厚く積み上がる浸潤・肥厚などの領域である。本実施形態では、経皮水分蒸散量が高くなることにより変化が生じる鱗屑および肌理の領域を皮膚表面の構造情報として算出することとした。
トリミングした画像に対し、ガウシアンフィルタなどの低域濾過フィルタ(平滑化フィルタ)を施し、得られた低周波画像とトリミングした画像との間で減算処理を行い、差分画像が得られる。得られた差分画像が所定の閾値で2値化されることで鱗屑および肌理を示す画像を抽出することができる。2値化画像では、白い画素が鱗屑および肌理を示す部分である。所定の閾値について説明する。本実施形態では、所定の閾値を2パターン設けることとする。詳細は後述するが、2パターンの閾値それぞれから算出した皮膚表面の構造情報を用いた方が、精度の良い経皮水分蒸散量を算出できるからである。本実施形態では、差分画像は、各画素の輝度レベルが8ビット(0~255)で表現されており、0は黒、255は白である。そして、0~255のうち、1つ目の所定の閾値を50とし、50以下は黒として、51以上は白として判定する(2値化する)、すなわち、51以上は鱗屑および肌理の領域とする。2つ目の所定の閾値を100とし、100以下は黒として、101以上は白として判定する、すなわち、101以上は鱗屑および肌理の領域とする。
トリミングした画像に、工程(ステップS112)で平滑化処理等を行う前に、中間処理を挟むことで、精度の良い経皮水分蒸散量を算出することも可能である。実施形態2ではトリミングした画像をマンセル表色系における彩度(C)の要素のみを抽出した後に、平滑化処理を行った。
工程(ステップS113)は、ステップS112での判定結果に基づき、鱗屑および肌理の領域の面積を算出する。なお、本実施形態では、所定の閾値を2パターン設けたため、1つ目の閾値での鱗屑および肌理の領域の面積、2つ目の閾値での鱗屑および肌理の領域の面積をそれぞれ算出する。
【0015】
工程(ステップS120)は、取得した皮膚表面画像から被験者の皮膚表面の色情報を算出する工程である。本工程については、図4を用いて説明する。
工程(ステップS121)は、取得した皮膚表面画像を所定サイズにトリミングを行う。本実施形態では、1200×1200[pix]のサイズにトリミングを行う。なお、本工程は、ステップS111と同様であるため、ステップS111でトリミングした画像を用いてもよく、再度、本工程を行わなくても良い。
工程(ステップS122)は、トリミングした画像に対し、色空間で明度を示すL、色相と彩度を示す色度をa、bの各平均値を算出する。トリミングした画像データについて、各画素1つ1つの色情報をL表色系に変換することで、L値、a値、b値のそれぞれについて数値を求めることが出来る。なお、この変換は公知の画像処理ソフトを用いて行うこととした。
【0016】
工程(ステップ130)は、算出された構造情報および色情報に基づいて、被験者の経皮水分蒸散量を推定する工程である。本実施形態1および2では、構造情報および色情報を説明変数とし、経皮水分蒸散量を目的変数とした重回帰式を用いて推定する。当該重回帰式は、複数の被験者から取得した実経皮水分蒸散量、構造情報および色情報に基づき予め求めて取得しておいたものを用いればよい。重回帰式を取得する関係情報取得工程は、ステップS130で行ってもよいし、ステップS130より以前で行っておけばよい。なお、重回帰式を求めるために必要な複数の被験者から取得する構造情報および色情報は、ステップS100~ステップS120の方法と同様である。
【0017】
工程(ステップS140)は、推定された経皮水分蒸散量に基づき肌状態を評価する工程である。経皮水分蒸散量を評価することで、皮膚の乾燥状態、すなわち、バリア機能を評価することができる。評価方法としては、公知の文献等に示されている健常者の経皮水分蒸散量と比較することで、被験者の肌状態を多段階で評価する。このようにすることで、撮影画像から推定された経皮水分蒸散量から被験者の肌状態を把握することが可能となる。また、他の評価方法としては、被験者の初期状態(所定の時期)の経皮水分蒸散量を基準とし、基準の経皮水分蒸散量に対し推定された経皮水分蒸散量が上昇した場合は肌状態が悪化傾向であり、下降した場合は肌状態が改善傾向であるのように、相対的な変化量で肌状態(肌のバリア状態)を評価する。なお、評価の主体は、コンピュータであってもよいし、人であってもよい。このようにすることで、撮影画像から推定された経皮水分蒸散量を経時的に評価することで、被験者の肌状態(肌のバリア状態)の変化を把握することが可能となる。
【0018】
ここで、上述した経皮水分蒸散量の算出に用いる重回帰式について詳細に説明する。
本実施形態1および2では、重回帰式を算出するために49人、もくしは85人の被験者の実経皮水分蒸散量、皮膚表面の構造情報および色情報を取得した。また、ステップS112で用いる所定の閾値を50、100、150の3種類用いた。そして、最適な重回帰式を算出するために、変数増減法(ステップワイズ法)を用いて、最適な説明変数を決定した。なお、上述したように、実施形態1は、1200×1200[pix]のサイズに、本実施形態2では、100×100[pix]のサイズにトリミングを行った画像を用いた。
【0019】
1)説明変数をいずれか1種類の閾値から算出した構造情報または1種類の色情報とする。
<実施形態1>
図5(a)~(f)に、実施形態1で1種類の閾値から算出した構造情報、または、1種類の色情報を説明変数とした場合の回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図中に、決定係数(R)を示す。
図5(a)~(f)から明らかなように、1つの説明変数の場合、決定係数の値が最もよいもので、色情報(L)を用いた場合の0.39であり、色情報(a)は0.38、構造情報(閾値50)は0.33、構造情報(閾値100)は0.24、構造情報(閾値150)は0.16、色情報(a)は0.05であるため、何れの説明変数の場合も精度の良い回帰式を算出できていない。
<実施形態2>
図13-1(a)~(c)に、実施形態2で1種類の閾値から算出した構造情報を説明変数とした場合の回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図13-1(d)~(f)に、画像の彩度だけを抽出し、同様の方法で1種類の閾値から算出した構造情報を説明変数とした場合の回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図13-2(g)~(i)に、1種類の色情報を説明変数とした場合の回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図中に、決定係数(R)を示す。
実施形態1と同様に構造情報及び色情報を算出した場合、画質によっては、図13-1(a)~(c)および図13-2(g)~(i)のように、1つの説明変数の場合、決定係数の値が最もよいもので、色情報(a)を用いた場合の0.35であり、構造情報(閾値50)は0.02、構造情報(閾値100)は0.08、構造情報(閾値150)は0.00であるため、何れの説明変数の場合も精度の良い回帰式を算出できていない。特に、構造情報の決定係数が非常に低く、局所的な凹凸領域をきちんと拾えていないと考えられた。このような場合、マンセル表色系における彩度(C)の要素のみを抽出すると鱗屑及び肌理の情報が安定して得られ、図13-1(d)~(f)のように構造情報(閾値50)は0.09、構造情報(閾値100)は0.29、構造情報(閾値150)は0.12まで改善することがわかった。
【0020】
2)説明変数をいずれか2種類の閾値から算出した構造情報とする。
<実施形態1>
図6(a)~(c)に、実施形態1において、2種類の閾値それぞれから算出した構造情報を説明変数とした場合の重回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図6(a)は、閾値50と閾値100とした場合の構造情報を説明変数とした場合であり、図6(b)は閾値100と閾値150とした場合の構造情報を説明変数とした場合であり、図6(c)は、閾値50と閾値150とした場合の構造情報を説明変数とした場合である。図中に、決定係数(R)を示す。
図6(a)~(c)から明らかなように、2種類の構造情報を説明変数とした場合、決定係数の値が最もよいもので、構造情報(閾値50と100)および構造情報(閾値50と150)の0.35であり、構造情報(閾値100と150)は0.29であるため、1つの説明変数の場合よりは決定係数の値は上がっているが、何れの説明変数の場合も精度の良い重回帰式を算出できていない。
<実施形態2>
図14(a)~(c)に、実施形態2において、2種類の閾値それぞれから算出した構造情報を説明変数とした場合の回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図14(d)~(f)に、画像の彩度だけを抽出し、同様の方法で2種類の閾値から算出した構造情報を説明変数とした場合の回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図中に、決定係数(R)を示す。
図14(a)~(c)から明らかなように、2つの説明変数の場合、決定係数の値が最もよいもので、構造情報(閾値100と150)の0.11であり、構造情報(閾値50と100)は0.08、構造情報(閾値50と150)は0.07であるため、1つの説明変数の場合よりは決定係数の値は上がっているが、何れの説明変数の場合も精度の良い重回帰式を算出できていない。マンセル表色系における彩度(C)の要素のみを抽出した場合であっても、図14(d)~(f)のように、決定係数の値が最もよいもので、構造情報(閾値100と150)の0.32であり、構造情報(閾値50と100)は0.30、構造情報(閾値50と150)は0.18までの改善にとどまる。
【0021】
3)説明変数をいずれか1種類の閾値から算出した構造情報と色情報(L、a、b)の4つとする。
<実施形態1>
図7(a)~(c)に、実施形態1において、1種類の閾値から算出した構造情報と色情報(L、a、b)との4つを説明変数とした場合の重回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図中に、決定係数(R)を示す。
図7(a)~(c)から明らかなように、1種類の構造情報と色情報(L、a、b)の4つを説明変数とした場合、決定係数の値が最もよいもので、構造情報(閾値50)および色情報の0.53であり、構造情報(閾値100)および色情報は0.50、構造情報(閾値100)および色情報は0.49であるため、説明変数が構造情報のみのときより、決定係数の値があがっており、特に、構造情報(閾値50)および色情報の4つの説明変数の場合は、精度のよい重回帰式を算出できている。
<実施形態2>
図15(a)~(c)に、実施形態2において、1種類の閾値から算出した構造情報と色情報(L、a、b)との4つを説明変数とした場合の重回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図15(d)~(f)に、実施形態2において、画像の彩度だけを抽出し、同様の方法で1種類の閾値から算出した構造情報と色情報(L、a、b)との4つを説明変数とした場合の重回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図中に、決定係数(R)を示す。
図15(a)~(c)から明らかなように、1種類の構造情報と色情報(L、a、b)の4つを説明変数とした場合、決定係数の値が最もよいもので、構造情報(閾値100)および色情報の0.44であり、構造情報(閾値50)および色情報は0.43、構造情報(閾値150)および色情報は0.42であるため、説明変数が構造情報のみのときより、決定係数の値があがっており、特に、構造情報(閾値100)および色情報の4つの説明変数の場合は、精度のよい重回帰式を算出できている。さらに、図15(d)~(f)のように、彩度のみを抽出した場合、決定係数の値が最もよいもので、構造情報(閾値100)および色情報の0.49であり、構造情報(閾値50)および色情報は0.43、構造情報(閾値150)および色情報は0.48とより一層精度の良い重回帰式を算出できることがわかる。
【0022】
4)説明変数をいずれか2種類の閾値から算出した構造情報と色情報(L、a、b)の5つとする。
<実施形態1>
図8(a)~(c)に、実施形態1において、2種類の閾値から算出した構造情報と色情報(L、a、b)との5つを説明変数とした場合の重回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図中に、決定係数(R)を示す。
図8(a)~(c)から明らかなように、2種類の構造情報と色情報(L、a、b)の5つを説明変数とした場合、決定係数の値が最もよいもので、構造情報(閾値50、100)および色情報の0.58であり、構造情報(閾値100、150)および色情報は0.55、構造情報(閾値50、150)および色情報は0.54であるため、説明変数が1種類の構造情報と色情報(L、a、b)のときより、決定係数の値があがっており、特に、構造情報(閾値50、100)および色情報の5つの説明変数の場合は、精度のよい重回帰式を算出できている。
<実施形態2>
図16(a)~(c)に、実施形態2において、2種類の閾値から算出した構造情報と色情報(L、a、b)との5つを説明変数とした場合の重回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図16(d)~(f)に、実施形態2において、画像の彩度だけを抽出し、同様の方法で1種類の閾値から算出した構造情報と色情報(L、a、b)との4つを説明変数とした場合の重回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを示す。図中に、決定係数(R)を示す。
図16(a)~(c)から明らかなように、2種類の構造情報と色情報(L、a、b)の5つを説明変数とした場合、決定係数の値は、構造情報(閾値50、100)および色情報、構造情報(閾値100、150)および色情報、構造情報(閾値50、150)および色情報いずれも0.44であるため、説明変数が1種類の構造情報と色情報(L、a、b)のときと精度にあまり差は見られない。一方で、図16(d)~(f)のように、彩度のみを抽出した場合、決定係数の値が最もよいもので、構造情報(閾値100、150)および色情報の0.51であり、構造情報(閾値50、100)および色情報は0.49、構造情報(閾値50、150)および色情報は0.48とより一層精度の良い重回帰式を算出できることがわかる。
【0023】
これらの結果より、2種類の構造情報と色情報(L、a、b)の5つの説明変数を用いた重回帰式を用いると、精度の良い経皮水分蒸散量を推定できることがわかった。特に、構造情報の閾値としては、決定係数の値が最もよかった閾値50と閾値100を用いるとよいことがわかった。
また、いずれの結果の場合も、閾値50を用いた構造情報を含む回帰式による決定係数の値が高い傾向にある。本実施形態は、1画素の輝度を0~255段階(黒~白)で表しており、閾値を輝度の中間値より黒に近い方に設定した値を用いて算出した構造情報を説明変数に用いた方が精度の高い回帰式を算出できることがわかった。そこで、構造情報を算出する際の閾値は中間値(127)より黒に近い値を設定することが好ましく、2種類の閾値を設ける場合は、第1閾値を40~60(1画素の輝度を0~255段階にした場合、40/256~60/256)、第2閾値を82~102(1画素の輝度を0~255段階にした場合、82/256~102/256)に設けることが好ましい。言い換えると、1画素の輝度の段階に対して、第1閾値を15%~25%、第2閾値を32%~40%に設けることが好ましい。なお、1画素の輝度の段階に対する第1閾値および第2閾値の比率は、1画素の輝度の段階が異なる場合でも適用可能である。もしくは、第1閾値と第2閾値とが、1対1.3~1対2.6の比率であることが好ましい。また、第1閾値の輝度値を100とした場合、第2閾値の輝度値は、125以上300以下が好ましく、150以上250以下がより好ましい。
また、実施形態2における100×100[pix]サイズにトリミングした画像そのものを用いた場合の結果と100×100[pix]サイズにトリミングした画像に対しマンセル表色系における彩度(C)の要素のみを抽出したものを用いた場合の結果とを比べると、彩度(C)の要素のみを抽出したものを用いた場合の結果の方が何れの説明変数とした場合でも推定された経皮水分蒸散量の精度が改善されることがわかった。
また、所定サイズにトリミングした画像そのものを用いた場合は、高画質画像を用いた場合の結果の方が推定された経皮水分蒸散量の精度は高かったが、一般ユーザが日常生活において自身の肌を撮影し、撮影した肌画像を用いて日常的に肌状態の変化を容易に把握することを考慮すると、例えば、100×100[pix]サイズにトリミングした画像を用いた場合でも、彩度(C)の要素のみを抽出する処理を施し、説明変数の組合せを考慮することにより、十分な精度で経皮水分蒸散量を推定可能であることがわかった。
なお、本実施形態では、2種類の閾値としたが、これに限らず、3種類以上の閾値でもよい。この場合でも、閾値には1画素の輝度の段階の中間値より黒に近い値を含むようにすることが好ましい。
【0024】
次に、被験者が皮膚表面または皮膚内部に感じる感覚を数値化した感覚情報を説明変数に加えた場合について説明する。感覚情報とは、被験者が当該被験者の皮膚表面または皮膚内部に感じる感覚であり、かゆみ、痛み、熱感、つっぱり感などのレベル(度合い)を数値化した情報である。経皮水分蒸散量が高くなることに影響し、生じる感覚であることが好ましい。また、これら何れかの感覚を感じるレベルについてアンケートをとってもよいし、これらのうち何れか1つの感覚を感じるレベルについてアンケートをとってもよい。本実施形態では、感覚情報として、被験者に対し皮膚表面にかゆみをまったく感じない、かゆみをほとんど感じない、どちらともいえない、かゆみを少し感じる、かゆみを非常に感じる、の5段階の何れに該当するかアンケートをとり、アンケート結果を数値化して説明変数に用いた。複数の被験者からも同様にして取得した感覚情報を説明変数に加えて重回帰式を算出した。上記結果に基づき、構造情報(閾値50、100)、色情報(L、a、b)、および感覚情報の6つの説明変数とした場合の重回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを図9に示す。図中に、決定係数(R)を示す。
図9から明らかなように、構造情報(閾値50、100)、色情報(L、a、b)、および感覚情報の6つの説明変数とした場合の決定係数の値は、0.65となり、精度の良い重回帰式となった。なお、感覚情報は、被験者の主観により値が変動する可能性が高いため、アンケート結果の段階について被験者が適切に回答できるようにする必要がある。感覚情報を含めない場合(構造情報(閾値50、100)および色情報(L、a、b)の5つの説明変数の場合)でも、決定係数の値は精度が高いため、被験者の理解に応じて使用する重回帰式(例えば、被験者が一定の感覚で回答が難しいと思われる子供の場合は感覚情報を除いた重回帰式、一定の感覚で回答が可能と思われる成人の場合は感覚情報を含めた重回帰式)を用いるようにしてもよい。
【0025】
<皮膚状態評価装置>
次に、上述した皮膚状態評価方法を備えた皮膚状態評価装置10について説明する。
図10に、皮膚状態評価装置10の概念図を示す。
皮膚状態評価装置10は、撮影手段11、算出手段12、推定手段13、評価手段14を備えている。本実施形態では、皮膚状態評価装置10は、スマートフォン、タブレット端末など、撮影手段11(カメラ)と中央処理装置(図示しない)を備えた移動端末としているが、中央処理装置を備えたカメラでもよい。
撮影手段11は、スマートフォンに内蔵されたカメラ、タブレット端末に内蔵されたカメラで足りるが、皮膚表面の色情報を算出するため、RGBカメラである必要がある。
算出手段12は、上述した被験者の皮膚表面の構造情報および色情報を算出する算出工程の処理内容を実行する手段である。中央処理装置に設けられる手段である。
推定手段13は、上述した被験者の経皮水分蒸散量を推定する推定工程の処理内容を実行する手段である。中央処理装置に設けられる手段である。
評価手段14は、上述した経皮水分蒸散量に基づき被験者の皮膚状態を評価する評価工程の処理内容を実行する手段である。中央処理装置に設けられる手段である。
皮膚状態評価装置10には、記憶手段15も設けられ、当該記憶手段15に上述した皮膚状態評価方法を実行するためのコンピュータプログラムが記憶されている。また、表示手段16も設けられている。表示手段16は、移動端末10が備えている表示装置である。評価手段14によって被験者の皮膚状態を評価した結果を表示手段16に表示することで被験者が皮膚状態を把握しやすくできる。
この他、図示はしていないが、皮膚状態評価装置10には、キーボード(タッチキーボードを含む)、ポインティングデバイスなどの入力装置、プリンターなどの外部装置への出力に必要な出力装置等を備えている。
【0026】
<皮膚状態評価システム>
次に、上述した皮膚状態評価方法を備えた皮膚状態評価システムについて説明する。
図11に、皮膚状態評価システム100の概念図を示す。
皮膚状態評価システム100は、移動端末110およびサーバー120で構成される。
移動端末110は、移動端末10と同様、撮影手段111(カメラ)と中央処理装置(図示しない)を備えたスマートフォン、タブレット端末など、または、中央処理装置を備えたカメラである。評価結果を確認しやすいように、表示手段116を備えていることが好ましい。なお、表示手段116は、移動端末110が備えている表示装置である。また、図示はしていないが、撮影手段111で撮影した皮膚表面画像をサーバー120へインターネット等により送信し、サーバー120から推定した経皮水分蒸散量や評価結果を受信する入出力手段を備えている。
サーバー120には、上述した皮膚状態評価方法を実行するためのコンピュータプログラムおよび撮影手段111で撮影された皮膚表面画像が記憶されている。サーバー120には、算出手段122、推定手段123、評価手段124、および記憶手段125が含まれる。算出手段122は、上述した被験者の皮膚表面の構造情報および色情報を算出する算出工程の処理内容を実行する手段である。推定手段123は、上述した被験者の経皮水分蒸散量を推定する推定工程の処理内容を実行する手段である。評価手段124は、上述した経皮水分蒸散量に基づき被験者の皮膚状態を評価する評価工程の処理内容を実行する手段である。記憶手段125は、皮膚状態評価方法を実行するためのコンピュータプログラムおよび撮影手段111で撮影された皮膚表面画像を記憶する手段である。また、図示はしていないが、サーバー120で推定した経皮水分蒸散量や評価結果を移動端末110へインターネット等により送信し、移動端末110から撮影した皮膚表面画像を受信する入出力手段を備えている。
このように、サーバー120で皮膚状態評価方法を実行するためのコンピュータプログラムを実行するようにすることで、利用者の移動端末110の処理負荷を軽減することが可能となる。また、サーバー120に撮影された皮膚表面画像を記憶するようにすることで、利用者全ての皮膚表面画像を集約して記憶できるため、皮膚状態評価方法を実行するためのコンピュータプログラム内のアルゴリズムの改良に当該皮膚表面画像を用いることができ、さらに精度の良い推定および評価を行うことが可能となる。また、利用者の過去の皮膚表面画像、推定した経皮水分蒸散量、および評価結果を記憶しておくため、利用者がサーバー120へアクセスすることにより、詳細な経時変化を確認することが可能となる。
【0027】
<変形例>
本実施形態では、皮膚表面の構造情報として、皮膚表面画像における皮膚の水分量に影響し形成される凹凸領域の面積を算出したがこれに限らない。例えば、皮膚表面に形成される凹凸領域と凹凸領域以外の領域との面積比を算出し、経皮水分蒸散量の推定に用いてもよい。このようにしても、面積を算出した場合と同様に効果が得られる。
【0028】
本実施形態では、皮膚表面に形成される凹凸として、鱗屑および肌理としたがこれに限らない。経皮水分蒸散量の変化の影響(経皮水分蒸散量が高くなることによる影響)により皮膚表面に生じる他の肌の状態でもよい。
【0029】
本実施形態では、色情報として各画素1つ1つの色情報をL表色系に変換することで、L値、a値、b値のそれぞれについて数値を求めたがこれに限らない。例えば、マンセル表色系に変換し、H(色相)、V(明度)、C(彩度)を求めてもよく、明度、色相、および彩度を算出できれば表色系は問わない。
【0030】
表示手段16(表示手段116)に表示する表示結果は、推定した今回分の評価結果のみでもよいし、過去に評価した評価結果と合わせて表示してもよい。このようにすることで、被験者自身で皮膚表面画像を撮影し、経皮水分蒸散量を推定し、求められた評価結果を経時的に把握できるため、肌状態の変化を日常的に容易に把握することが可能となる。
【0031】
本実施形態では、感覚情報は、被験者に対し、かゆみをまったく感じない、かゆみをほとんど感じない、どちらともいえない、かゆみを少し感じる、かゆみを非常に感じる、の5段階の何れに該当するかアンケート行ったがこれに限らない。かゆみの程度を評価スケールで表したもの(VAS)を用いてアンケートを行い、アンケート結果を数値化してもよい。このようにすることで、詳細な被験者の感覚(かゆみレベル)をアンケート結果に反映することが可能となり、経皮水分蒸散量の推定精度を高めることができる。
【0032】
本実施形態では、経皮水分蒸散量を重回帰式を用いて算出することとしたがこれに限らない。例えば、複数の被験者から取得した皮膚表面の構造情報および色情報と計測された経皮水分蒸散量に基づき機械学習により、Ridge、Lasso、Elastic Net、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、サポートベクター回帰等の回帰モデルを作成し、作成した回帰モデルと、算出した皮膚表面の構造情報および色情報を用いて経皮水分蒸散量を算出してもよい。機械学習により回帰モデルを作成する際に、複数の被験者から取得した感覚情報も用いて作成し、作成した回帰モデルと、算出した皮膚表面の構造情報および色情報、取得した感覚情報を用いて経皮水分蒸散量を算出してもよい。また、皮膚表面の構造情報および色情報を、複数の被験者から取得した皮膚表面画像、皮膚表面の構造情報および色情報から学習したデータを用いて、機械学習により、被験者の皮膚表面画像から皮膚表面の構造情報および色情報を算出してもよい。
【0033】
本実施形態では、説明変数として皮膚表面の構造情報、色情報、および感覚情報を用いたが、これに限らない。例えば、皮膚表面の構造情報、色情報、感覚情報に加えて、角層水分量を説明変数に加えてもよい。角層水分量は、公知の装置(例えば、Corneometer)を用いて計測した値を用いることとした。構造情報(閾値50、100、150)、色情報(L、a、b)、感覚情報、および角層水分量の8つの説明変数とした場合の重回帰式により推定された推定経皮水分蒸散量を縦軸に当該被験者の実測経皮水分蒸散量を横軸に表したグラフを図12に示す。図中に、決定係数(R)を示す。
図12から明らかなように、構造情報(閾値50、100、150)、色情報(L、a、b)、感覚情報、および角層水分量の8つの説明変数とした場合の決定係数の値は、0.67となり、精度の良い重回帰式となった。このように、説明変数に角層水分量を用いて経皮水分蒸散量を推定するとさらに精度の高い値を推定できる。
【符号の説明】
【0034】
10 皮膚状態評価装置(移動端末)
11 撮影手段
12 算出手段
13 推定手段
14 評価手段
15 記憶手段
16 表示手段
100 皮膚状態評価システム
110 移動端末
111 撮影手段
116 表示手段
120 サーバー
122 算出手段
123 推定手段
124 評価手段
125 記憶手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16