(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】セルロースアセテート及びセルロースアセテート組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/12 20060101AFI20240919BHJP
C08B 3/06 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C08L1/12
C08B3/06
(21)【出願番号】P 2022130695
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2021563476の分割
【原出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 裕之
(72)【発明者】
【氏名】賀 旭東
(72)【発明者】
【氏名】楠本 匡章
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-030182(JP,A)
【文献】国際公開第2004/076490(WO,A1)
【文献】特開平07-076632(JP,A)
【文献】特開平09-241425(JP,A)
【文献】特表2018-500416(JP,A)
【文献】国際公開第2019/156116(WO,A1)
【文献】特開平09-286801(JP,A)
【文献】特開2002-062430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08B 1/00- 37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル総置換度が2.7以下であり、アセチル総置換度における、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τが2.0以上であるセルロースアセテートを含み、
1~30重量%の20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質、及び/又は、5~30重量%の20℃の水に2重量%以上溶解する物質、を添加剤としてさらに含む、セルロースアセテート組成物。
【請求項2】
前記セルロースアセテートの硫酸成分量が20ppmを超えて400ppm以下である、請求項
1に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項3】
前記添加剤の総含有量が、5~40重量%である、請求項1又は2に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項4】
前記20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質が、酸化マグネシウムである、請求項1又は2に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項5】
前記20℃の水に2重量%以上溶解する物質が、トリアセチンである、請求項1又は2に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項6】
水と混合して得られるスラリーの20℃におけるpHが7~13である、請求項1又は2に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項7】
前記セルロースアセテートの硫酸成分量が150ppm以上である、請求項1又は2に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項8】
前記セルロースアセテートが、セルロースアセテートII型結晶構造を有する、請求項1又は2に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項9】
前記セルロースアセテートは、アセチル総置換度における、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τが2.0以上2.5以下である、請求項1に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項10】
前記20℃の水に2重量%以上溶解する物質が、アミド基含有ビニルポリマー、多糖類及びセルロースアセテートの可塑剤からなる群から選択され、
前記セルロースアセテートの可塑剤が、グリセリンと炭素数2~4の脂肪酸とのエステル化合物である、請求項1に記載のセルロースアセテート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテート及びセルロースアセテート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンポスト、河川、海洋及び土壌等の環境中で容易に分解される生分解性樹脂について種々の検討がなされている。代表的な生分解性樹脂として、セルロースアセテートがある。セルロースアセテートは、食料や飼料と競合しない、木材や綿花等の天然素材から得ることができる点で優れる。
【0003】
非特許文献1では、0.5%(0.08M)NaClの淡水条件と3%(0.5M)NaClの海水条件のPM培地での生菌数、および分離細菌の同定菌相を調べている。そして、その結果、生菌数は、淡水条件の場合、2.6×107Cells/mlであり、海水条件では9.7×105Cells/mlであり、淡水条件の3.7%の生菌数を示したことが記載されている。
【0004】
特許文献1には、「少なくとも1つの塩基性添加物が20℃の1重量%水溶液で測定されるときに13以下および7以上のpHを有する、少なくとも1つの塩基性添加物を含むポリマー組成物は、少なくとも1つの添加物を含まない組成物よりも向上した生分解性を示すことが見いだされた。」との記載があり、ポリマーとしてセルロースアセテートが開示されている。
【0005】
特許文献2には以下の記載がある。延伸されることで光学的性能を出す、セルロースアセテート光学フィルムにおいて、優れた延伸性と延伸された後に優れた光学的性能を得るためのセルロースアセテートを得る。アセチル基総置換度が2.27~2.56であるセルロースジアセテートであって、分散度Mw/Mnが3.0超7.5以下、かつ6位置換度が0.65~0.85、かつ酢化度分布半価幅が1.0~2.3、且つ粘度平均重合度が182以上213以下であることを特徴とする位相差フィルム用セルロースジアセテートを提供する。本発明の位相差フィルム用セルロースジアセテートは、6%粘度が120~230mPa・sであることが好ましく、また、重量平均分子量Mwが205,000以上235,000以下であることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/092024号
【文献】国際公開第2011/093216号
【非特許文献】
【0007】
【文献】石井営次他;生活科学1983年27巻3号p.111-118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のセルロースアセテートは、海水中における分解性は十分ではなかった。これは、非特許文献1から読み取れる通り、海水が、土壌及び淡水である河川水等と比較して、菌類(真菌)及びバクテリア(細菌)の含有量が少なく、生分解が困難な環境であることによる。すなわち、生分解に寄与するバクテリア、菌類等の存在比率が少なく、結果として海水中で生分解させるのが困難である。
【0009】
本発明は、海水中で優れた生分解性を有する、セルロースアセテートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第一は、アセチル総置換度が2.7以下、前記アセチル総置換度における、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τが2.0以上であって、硫酸成分量が20ppmを超えて400ppm以下である、セルロースアセテートに関する。
【0011】
前記セルロースアセテートにおいて、前記硫酸成分量が80ppm以上380ppm以下であることが好ましい。
【0012】
前記セルロースアセテートにおいて、前記硫酸成分量が150ppm以上350pm以下であることが好ましい。
【0013】
前記セルロースアセテートにおいて、前記アセチル総置換度における、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τが2.5以下であることが好ましい。
【0014】
本開示の第二は、セルロースアセテート及び添加剤を含有し、前記セルロースアセテートは、アセチル総置換度が2.7以下、前記アセチル総置換度における、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τが2.0以上であり、前記添加剤が、20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質、及び20℃の水に2重量%以上溶解する物質、海洋での生分解性に優れる物質よりなる群から選択される1以上である、セルロースアセテート組成物に関する。
【0015】
前記セルロースアセテート組成物において、前記セルロースアセテートの硫酸成分量が20ppmを超えて400ppm以下であることが好ましい。
【0016】
前記セルロースアセテート組成物において、前記添加剤の含有量が、5~40重量%であることが好ましい。
【0017】
前記セルロースアセテート組成物において、前記20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質が、酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0018】
前記セルロースアセテート組成物において、前記20℃の水に2重量%以上溶解する物質が、トリアセチンであることが好ましい。
【0019】
前記セルロースアセテート組成物において、水と混合して得られるスラリーの20℃におけるpHが7~13であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、海水中で優れた生分解性を有する、セルロースアセテートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[セルロースアセテート]
本開示のセルロースアセテートは、アセチル総置換度が2.7以下、前記アセチル総置換度における、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τが2.0以上であって、硫酸成分量が20ppmを超えて以上400ppm以下である。
【0022】
セルロースアセテートは、アセチル総置換度が2.7以下であり、2.6以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.2以下がさらに好ましい。アセチル総置換度は0.1以上であってよく、1.8以上が好ましい。セルロースアセテートは、当該アセチル総置換度が大きすぎると海水中の生分解性に劣り、小さすぎると成形性に劣る。
【0023】
アセチル総置換度とは、下記で測定したセルロースアセテートのグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度の和である。
【0024】
セルロースアセテートのグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度は、手塚(Tezuka, Carbonydr. Res. 273, 83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。すなわち、セルロースアセテート試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C-NMRスペクトルを測定する。アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比(言い換えれば、各シグナルの面積比)から、元のセルロースアセテートにおけるグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度を求めることができる。アセチル置換度は、13C-NMRのほか、1H-NMRで分析することもできる。
【0025】
アセチル総置換度における、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τは、2.0以上であるところ、τの値は、2.1以上であってよく、2.2以上であってよく、2.3以上であってよい。上限は特にないが、2.5以下であってよい。セルロースアセテートは、τの値が2.0未満であると海水中の生分解性に劣る。
【0026】
本開示のセルロースアセテートは、硫酸成分量が20ppmを超えて以上400ppm以下である。当該硫酸成分量は、50ppm以上380ppm以下が好ましく、80ppm以上380ppm以下がより好ましく、100ppm以上350ppm以下がさらに好ましく、150ppm以上350ppm以下が特に好ましい。硫酸成分量が当該範囲であると、セルロースアセテートは、海水中でより優れた生分解性を有する。硫酸成分量が多いほど海水中での生分解性は高くなる。また硫酸成分量が多すぎるとセルロースアセテートの製造が困難となる。
【0027】
硫酸成分量は、乾燥したセルロースアセテートから昇華した亜硫酸ガスのSO42-換算量である。
【0028】
[セルロースアセテート組成物]
本開示のセルロースアセテート組成物は、セルロースアセテートの他に、任意成分を含有してよい。セルロースアセテート組成物の任意成分としては、添加剤、及び海洋環境での安全性が高い物質等が挙げられる。
【0029】
添加剤としては、例えば、20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質、及び20℃の水に2重量%以上溶解する物質、海洋での生分解性に優れる物質よりなる群から選択される1以上の添加剤が挙げられる。
【0030】
本開示のセルロースアセテートを含む組成物としては、次のセルロースアセテート組成物が好ましい。セルロースアセテート及び添加剤を含有し、前記セルロースアセテートは、アセチル総置換度が2.7以下、前記アセチル総置換度における、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τが2.0以上であり;前記添加剤が、20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質、及び20℃の水に2重量%以上溶解する物質、海洋での生分解性に優れる物質よりなる群から選択される1以上である。
【0031】
(20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質)
20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質は、塩基性添加物と言い換えることができる。塩基性添加物としては、20℃の1重量%水溶液のpHが8.5以上であることが好ましく、8.5~11であることがより好ましい。
【0032】
20℃の1重量%水溶液のpHは、標準手順に従って、例えばガラスpH電極で測定される。
【0033】
本開示において、「20℃の1重量%水溶液」は、溶質がすべて水に溶解している必要はない。一般的に、水溶液(aqueous solution)とは、溶質が水(H2O)に溶解した液体をいう。つまり、溶媒が水である溶液をいう。水分子は極性分子なので、水溶液の溶質となる物質はイオン結晶もしくは極性分子性物質となるとされている。しかし、本開示において「水溶液」とは縣濁液(suspension)を含むものである。すなわち、固体粒子が液体中に分散した分散系であるスラリー(slurry)、コロイド溶液(colloidal solution)を含む。また、本開示において「20℃での1重量%水溶液」は、塩基性添加物を水に1重量%添加した際に、塩基性添加物の一部が溶解して水溶液(aqueous solution)となり、残り塩基性添加物の部分が、縣濁液(suspension)となっているものも含む。
【0034】
固体粒子はコロイド粒子(100nm程度以下)のこともあるが、それより大きな粒子であってもよい。コロイド粒子の懸濁液をコロイド溶液といい、コロイド粒子より大きな粒子の懸濁液を単に懸濁液と称する場合がある。コロイド粒子より大きな粒子の懸濁液は、コロイド溶液とは異なり、時間がたつと定常状態に落ち着く。固体粒子は顕微鏡で見ることができ、静かな場所に置くと時間の経過に連れて沈静化するものであってもよい。
【0035】
水溶液中の塩基性添加物が水溶液中でイオンになる無機物である場合、その表面は、粒子の表面電荷の影響によってイオンが吸着・帯電し、その表面近傍におけるイオン分布に影響をおよぼす。この影響によって塩基性添加物表面の周囲に電気二重層と呼ばれる、粒子の界面近傍外の溶液(溶媒)中とは異なったイオンの分布が生じる。電気二重層は、粒子表面に最も強くイオンが吸着している固定層とそこから遠ざかる拡散層から形成される。本開示の塩基性添加物は、水に溶解していない場合でも上記の通り塩基性添加物の表面電荷により分散媒のpHが変化する。
【0036】
20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質(塩基性添加物)としては、アルカリ土類金属又はアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、アルミン酸塩、珪酸塩、又はメタ珪酸塩;ZnO;並びに塩基性Al2O3等が挙げられる。
【0037】
塩基性添加物としては、アルカリ土類金属又はアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、アンモニウム塩、アルミン酸塩、珪酸塩、又はメタ珪酸塩;ZnO;並びに塩基性Al2O3よりなる群から選択される1以上が好ましい。
【0038】
塩基性添加物としては、アルカリ土類金属又はアルカリ金属の酸化物、水酸化物、アルミン酸塩、珪酸塩、又はメタ珪酸塩;ZnO;並びに塩基性Al2O3よりなる群から選択される1以上がより好ましい。
【0039】
塩基性添加物としては、アルカリ土類金属又はアルカリ金属の酸化物、アルミン酸塩、珪酸塩、又はメタ珪酸塩;ZnO;並びに塩基性Al2O3よりなる群から選択される1以上がさらに好ましい。
【0040】
塩基性添加物としては、アルカリ土類金属又はアルカリ金属の酸化物、アルミン酸塩、珪酸塩、及びメタ珪酸塩よりなる群から選択される1以上がよりさらに好ましい。
【0041】
塩基性添加物としては、アルカリ土類金属の酸化物が特に好ましい。酸化マグネシウム(MgO)が最も好ましいものの一つである。
【0042】
アルカリ土類金属又はアルカリ金属の酸化物としては、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化カルシウム(CaO)等が挙げられる。
【0043】
アルカリ土類金属又はアルカリ金属の水酸化物としては、Mg(OH)2及びCa(OH)2等が挙げられる。
【0044】
アルカリ土類金属又はアルカリ金属の炭酸塩としては、MgCO3、CaCO3、NaHCO3、Na2CO3、及びK2CO3等が挙げられる。
【0045】
アルカリ土類金属又はアルカリ金属の酢酸塩としては、酢酸マグネシウム及び酢酸カルシウム等が挙げられる。
【0046】
アルカリ土類金属又はアルカリ金属のアルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム(sodium aluminate)等が挙げられる。アルミン酸ナトリウム(sodium aluminate)は、ナトリウムとアルミニウムを含む無機化合物である。アルミン酸ナトリウムと呼ばれているものには、複酸化物である二酸化ナトリウムアルミニウム:NaAlO2、及びヒドロキシ錯体であるテトラヒドロキシドアルミン酸ナトリウム:Na[Al(OH)4]等がある。
【0047】
アルカリ土類金属又はアルカリ金属の珪酸塩としては、珪酸ナトリウム(Na2SiO3)等が挙げられる。珪酸(silicic acid)とは、一般式[SiOx(OH)4-2x]nで表されるケイ素、酸素、及び水素の化合物の総称である。
【0048】
アルカリ土類金属又はアルカリ金属のメタ珪酸塩としては、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。一般式Al2O3・MgO・2SiO2・xH2O(但し、xは結晶水の数を示し、1≦x≦10である。)で示されるものである。メタ珪酸アルミン酸マグネシウム自体は、公知であり、市販品を用いることもできる。例えば、日本薬局方外医薬品規格のメタ珪酸アルミン酸マグネシウムを好適に用いることができる。メタ珪酸アルミン酸マグネシウムは、ノイシリン(登録商標)として制酸剤として販売されている。
【0049】
他の好ましい塩基性物質として、塩基性のポリマー及びオリゴマー;塩基性のアミノ酸及びタンパク質;並びに塩基性の糖類が挙げられる。
【0050】
本開示の塩基性添加物は、必ずしも水溶性でなくてよいが、20℃で10-5~70g/100mL水の溶解度を有してよい。本開示の塩基性添加物は、20℃で10-6g以上/100mL水の溶解度を有することが好ましく20℃で10-5g以上/100mL水の溶解度を有することがより好ましく、20℃で10-4g以上/100mL水の溶解度を有することがより好ましい。また、塩基性添加物は、20℃で10g以下/100mL水の溶解度を有することが好ましく、20℃で1g以下/100mL水の溶解度を有することがより好ましく、20℃で0.1g以下/100mL水の溶解度を有することがさらに好ましい。
【0051】
水中約10-4g/100mL(20℃)の溶解度の添加物についての例は、MgO、ZnO及びMg(OH)2である。水中約10-2g/100mL(20℃)の溶解度の添加物についての一例は、MgCO3である。水中約0.1g/100mL(20℃)の溶解度の添加物についての例は、CaO及びCa(OH)2である。
【0052】
(20℃の水に2重量%以上溶解する物質)
20℃の水に2重量%以上溶解する物質としては、水溶性である限り高分子物質であっても、低分子物質であってもよい。
【0053】
高分子物質としては、親水性ポリマーを挙げることができる。ここで、親水性ポリマーとは、親水性の官能基を有するポリマーである。親水性ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、及び部分ケン化されたポリビニルアセテート等のOH基を有する高分子;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びアクリル酸やメタクリル酸と他のモノマーの共重合物等のCOOH基を有する高分子;ポリエチレングリコール、1,3-ポリプロピレングリコール、及び1,4ポリブチレングリコール等のポリエーテル骨格を有する高分子;並びにポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ-N-メチルアクリルアミド、ポリ-N,N-ジメチルアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリ-N-ビニルモルホリン及びポリ-N-ビニルモルホリン-N-オキシド等の分子内にアミド骨格を有するモノマーを組成にもつ重合物;が挙げられる。親水性ポリマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
高分子物質は、繰り返し単位を有する高分子であって、前記繰り返し単位を構成する原子数をN2とし、前記繰り返し単位に含まれるOH基、アミド基、アミノ基、COOH基、及びNR3
+基の数の合計をN1とした場合、N1/N2が、0.01以上0.55以下が好ましく、0.1以上0.5以下がより好ましい。高い親水性が付与できるためである。なお、NR3
+基のRとしては、例えば、CH3、CH2CH3等が挙げられる。
【0055】
高分子物質は、アミド基含有ビニルポリマーであることが好ましい。アミド基含有ビニルポリマーは、アミド基を有するビニル系モノマーの重合により得られる。アミド基含有ビニルポリマーは、ポリビニルピロリドン、又はビニルピロリドン共重合体であることがより好ましい。セルロースアセテートとの相溶性に優れるためである。
【0056】
低分子物質としては、例えば、多糖類及びセルロースアセテートの可塑剤等が挙げられる。
【0057】
多糖類としては、オリゴ糖(粉末状オリゴ糖)、還元水飴、及びクラスターデキストリンから選ばれる少なくとも1種類の多糖類(A)と、この少なくとも1種類の結晶性を有する糖アルコール(B)で構成された多糖類が挙げられる。
【0058】
オリゴ糖(粉末状オリゴ糖)、還元水飴、及びクラスターデキストリンから選ばれる少なくとも1種類の多糖類としては以下のものが用いることができる。
【0059】
オリゴ糖(A1)は、ホモオリゴ糖であってもよくヘテロオリゴ糖であってもよい。オリゴ糖(A1)としては、例えば、二糖類~十糖類、及び二糖類~六糖類のオリゴ糖が挙げられる。なお、オリゴ糖(A1)は無水物でもよい。また、オリゴ糖(A1)において、単糖類と糖アルコールとが結合していてもよい。さらに、オリゴ糖(A1)は複数の糖成分で構成されたオリゴ糖組成物であってもよく、多糖類の分解により生成するオリゴ糖組成物であってもよい。このようなオリゴ糖組成物であっても単にオリゴ糖(A1)という場合がある。
【0060】
オリゴ糖(A1)は、通常、常温で固体である。オリゴ糖(A1)(又はオリゴ糖組成物)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、前記オリゴ糖(A1)は、一般的に天然物由来であるため、環境への負荷を低減できる。
【0061】
二糖類としては、トレハロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、及びメリビオース等のホモオリゴ糖;並びにラクトース、スクロース、及びパラチノース等のヘテロオリゴ糖が挙げられる。
【0062】
三糖類としては、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、及びセロトリオース等のホモオリゴ糖;並びに、マンニノトリオース、ソラトリオース、メレジトース、プランテオース、ゲンチアノース、ウンベリフェロース、ラクトスクロース、及びラフィノース等のヘテロオリゴ糖が挙げられる。
【0063】
四糖類としては、マルトテトラオース、及びイソマルトテトラオース等のホモオリゴ糖;並びに、スタキオース、セロテトラオース、スコロドース、リキノース、もしくはパノースの還元末端に糖又は糖アルコールが結合したテトラオース等のヘテロオリゴ糖が挙げられる。これらの四糖類のうち、パノースの還元末端に単糖類又は糖アルコールが結合したテトラオースは、例えば、特開平10-215892号公報に開示されており、パノースの還元末端に、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、もしくはアラビノース等の単糖類;又はソルビトール、キシリトール、もしくはエリスリトール等の糖アルコールが結合したテトラオースが例示できる。
【0064】
五糖類としては、マルトペンタオース、及びイソマルトペンタオース等のホモオリゴ糖;並びにパノースの還元末端に二糖類が結合したペンタオース等のヘテロオリゴ糖が挙げられる。パノースの還元末端に二糖類が結合したペンタオースは、例えば、特開平10-215892号公報に開示されており、パノースの還元末端に、スクロース、ラクトース、セロビオース、又はトレハロース等の二糖類が結合したペンタオースが例示できる。
【0065】
六糖類としては、マルトヘキサオース、及びイソマルトヘキサオース等のホモオリゴ糖等が挙げられる。
【0066】
これらのオリゴ糖(又はオリゴ糖組成物)のうち、少なくとも四糖類で構成されたオリゴ糖は、溶融粘度特性、樹脂成分との溶融混合又は混練性の観点から好ましい。
【0067】
このようなオリゴ糖又はオリゴ糖組成物としては、例えば、デンプン糖(デンプン糖化物)、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、フルクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キチンオリゴ糖、及びキトサンオリゴ糖等が挙げられ、これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。例えば、デンプン糖は、デンプンに酸又はグルコアミラーゼ等を作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、複数個のグルコースが結合したオリゴ糖の混合物であってもよい。
【0068】
デンプン糖としては、例えば、東和化成工業(株)製の還元デンプン糖化物(商品名:PO-10、四糖類の含有量90重量%以上)等が挙げられる。ガラクトオリゴ糖は、ラクトースにβ-ガラクトシダーゼ等を作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、ガラクトシルラクトースとガラクトース-(グルコース)nの混合物(nは1~4の整数)であってもよい。カップリングシュガーは、デンプンとスクロースにシクロデキストリン合成酵素(CGTase)を作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、(グルコース)n-スクロースの混合物(nは1~4の整数)であってもよい。フルクトオリゴ糖(フラクトオリゴ糖)は、砂糖にフルクトフラノシダーゼを作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、スクロース-(フルクトース)nの混合物(nは1~4の整数)であってもよい。
【0069】
上記の20℃の水に2重量%以上溶解する物質は、セルロースアセテートの可塑剤を含むことが好ましい。
【0070】
(セルロースアセテートの可塑剤)
可塑剤については、“Handbook of Plasticizers,”Ed.Wypych,George,ChemTec Publishing(2004)に詳細が例示されている。可塑剤としては、ジメチルフタレート;ジエチルフタレート;ジブチルフタレート;ジオクチルフタレート;ジイソノニルフタレート;ブチルベンジルフタレート;ブチルフタリルブチルグリコレート;トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート;トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、p-フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、及びその他のホスフェート誘導体;ジイソブチルアジペート;ビス(2-エチルヘキシル)アジペート;クエン酸トリエチル;クエン酸アセチルトリエチル;クエン酸を含む可塑剤(例えば、Citroflex(登録商標));モノアセチン;ジアセチン;トリアセチン;トリプロピオニン;トリブチリン;スクロースアセテートイソブチレート;グルコースペンタプロピオネート;トリエチレングリコール-2-エチルヘキサノエート;ポリエチレングリコール;ポリプロピレングリコール;ポリプロピレングリコールジベンゾエート;ポリエチレングルタレート;ポリエチレンサクシネート;ポリアルキルグリコシド;2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールイソブチレート;ジイソブチレート;フタル酸共重合体;1,3-ブタンジオール;脂肪族エポキシドで末端封鎖された1,4-ブタンジオール;ビス(2-エチルへキシル)アジペート;エポキシド化大豆油;及びこれらの混合物からなる群から選択されるものが挙げられる。
【0071】
また可塑剤としては、グリセリンエステル系可塑剤を用いることができる。このグリセリンエステル系可塑剤としては、グリセリンの低級脂肪酸エステル、言い換えれば、グリセリンと炭素数2~4の脂肪酸とのエステル化合物を用いることができる。炭素数2の脂肪酸は酢酸であり、炭素数3の脂肪酸はプロピオン酸であり、炭素数4の脂肪酸はブチル酸である。グリセリンエステル系可塑剤は、グリセリンの3個のヒドロキシル基すべてが同じ脂肪酸によってエステル化されているものでもよく、2個のヒドロキシル基が同じ脂肪酸によってエステル化されているものでもよく、グリセリンの3個のヒドロキシル基すべてが異なる脂肪酸によってエステル化されているものでもよい。
【0072】
グリセリンエステル系可塑剤は、無毒性であり、容易に生分解されるため環境への負荷が小さい。また、グリセリンエステル系可塑剤をセルロースアセテートに添加することにより、得られるセルロースアセテート組成物のガラス転移温度を低下させることができる。このため、原料に対して優れた熱成形性を付与することもできる。
【0073】
上記脂肪酸が酢酸である場合、グリセリンエステル系可塑剤として、グリセリンの3個のヒドロキシル基が酢酸によってエステル化されているトリアセチン、及び2個のヒドロキシル基が酢酸によってエステル化されているジアセチン等が挙げられる。
【0074】
上記グリセリンエステル系可塑剤の中でも、特に、グリセリンの3個のヒドロキシル基すべてが酢酸によってエステル化(言い換えればアセチル化)されているトリアセチン(グリセロールトリスアセタート)が好ましい。トリアセチンは、人が摂取しても安全と認められる成分であり、容易に生分解されるため環境への負荷が小さい。また、トリアセチンをセルロースアセテートに添加することにより得られるセルロースアセテート組成物は、セルロースアセテートを単体で用いた場合よりも生分解性が向上する。さらに、トリアセチンをセルロースアセテートに添加することにより、セルロースアセテートのガラス転移温度を効率よく低下させることができる。このため、原料に対して優れた熱成形性を付与することができる。
【0075】
なお、トリアセチンは、化学構造的に純粋であり、純度が高いものがよい。また、例えばトリアセチンを80重量%以上又は90重量%以上含み、残部としてモノアセチン及び/又はジアセチンが含まれている可塑剤が用いられてもよい。
【0076】
(海洋での生分解性に優れる物質)
海洋での生分解性に優れる物質を添加することでセルロースアセテートの生分解性を促進できる。海洋での生分解性に優れる物質としては、海洋での生分解性に優れた化合物が挙げられる。海洋での生分解性に優れる物質は水に不溶であってもよい。海洋での生分解性に優れた化合物としては、例えば、ASTM D6691で規定された方法で、180日経過後に、比較対象となるセルロースに対し、50%以上分解する物質、好ましくは70%以上分解する物質、更に好ましくは90%以上分解する物質が挙げられる。例として、ポリ[ヒドロキシブチレート-コ-ヒドロキシヘキサノエート](PHBH)、ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシアルカノエート、熱可塑性でんぷん樹脂(アセチル化でんぷんを含む)が挙げられる。
【0077】
本開示のセルロースアセテート及びセルロースアセテート組成物の生分解の過程は下記のとおりである。一般にセルロースアセテートの生分解の機構は、セルロースアセテートの各アセチル基が加水分解されて置換度が低下するとセルロースを分解する酵素(例えばβ-グルコシダーゼ(β-glucosidase; EC 3.2.1.21)等が作用することで分解されると考えられている。β-グルコシダーゼ(β-glucosidase; EC 3.2.1.21)は糖のβ-グリコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素であり、β‐D‐グルコシドグルコヒドロラーゼ、アミグダーゼとも呼ばれる。セルロースアセテートの高分子鎖を構成するβ-グリコシド結合が加水分解され、単糖や低分子の多糖となった後は通常の微生物の代謝により分解される。従って、生分解性を促進する為には、アセチル基の脱離を促進することが有効である。
【0078】
海洋は、弱塩基性であり、この塩基性によってもセルロースアセテートの脱アセチルが進行する。検討の結果、塩基性下における脱アセチル(加水分解)は、グルコース環内の2位,3位の方が6位より速いことを見出した。よって、例えば同一の総置換度のセルロースアセテートであれば、6位より2位、3位の置換度が高い方が、総置換度の低下が速く、生分解が速く進むことを見出した。またその際に硫酸成分が20ppmを超えて400ppであると生分解性が優れることを見出した。硫酸成分は多すぎると、海洋中に浸漬されるまでの製品として使用している際に分解してしまう懸念がある。これらの作用は総置換度が同じもの同士で比較すれば、いずれの総置換度のものであっても同じような傾向を発現すると思われる。しかしながら、生分解性の程度はアセチル総置換度が2.7以下のものが優れる。
【0079】
前記アセチル総置換度における、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τが2.0以上であり、特には、2.1以上、さらには、2.15以上、2.2以上が好ましい。
【0080】
本開示のセルロースアセテート組成物の分解機構は以下の通りである。この機構は推測であるが、弱塩基性の海水中において、20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質(塩基性添加剤)は、セルロースアセテートの加水分解(脱アセチル)を促進すると思われる。この塩基性物質による脱アセチル効果は、6位より、2位、3位にアセチル基の多いセルロースアセテート、更には硫酸成分が多いセルロースアセテートにおいて顕著である。その結果として、セルロースアセテート組成物を構成しているセルロースアセテートの置換度が低下して生分解性の向上に寄与し得ると思われる。これらの性質は、製品として使用している際には発現せず、海水と接した後に速やかに発現されることが好ましい。よって、個体粒子状としてセルロースアセテート組成物中に分散されており、塩基性物質の粒子径はできる限り細かいものがよく、比表面積が大きいものが好ましい。
【0081】
20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質(塩基性添加剤)としては、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム及び酸化マグネシウム等が、医薬品として用いられる等の安全性が高いので好ましく用いることができる。
【0082】
また、本開示のセルロースアセテート組成物は、20℃の水に2重量%以上溶解する物質を含有することもできる。このような物質は、セルロースアセテート組成物が海水中に投入された場合に海水に溶解できる。そして、セルロースアセテート組成物から抜け、セルロースアセテート組成物が構成した成形品の中に構造上の空隙を形成する。そして、この空隙部に微生物が入り込みやすくなり、セルロースアセテートの組成物で構成された成形品の表面積は増大する。その結果として、生分解性の向上に寄与し得る。当該物質としては、トリアセチン及びジアセチン等が挙げられる。これらは、トリアセチン及びジアセチンは、セルロースアセテートの可塑剤としても作用するため、熱成形性の向上にも寄与し得る。
【0083】
セルロースアセテート組成物における、添加剤の含有量は、総含有量として、40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。また、当該添加剤の含有量は、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。
【0084】
セルロースアセテート組成物における、塩基性添加物(20℃の1重量%水溶液のpHが8以上の物質)の含有量は1~30重量%が好ましく、2~20重量%がより好ましく、3~15重量%がさらに好ましく、5~10重量%が特に好ましい。塩基性添加剤の量が多すぎると、セルロースアセテート又はセルロースアセテート組成物の成形が困難になる等成形性等の問題を生じ得る。
【0085】
セルロースアセテート組成物における、水溶性添加剤(20℃の水に2重量%以上溶解する物質)の含有量は、5~30重量%が好ましく、7.5~28重量%がより好ましく、10~25重量%がさらに好ましい。水溶性添加剤の量が多すぎるとセルロースアセテート組成物の強度が低下する。
【0086】
セルロースアセテート組成物における、海洋での生分解性に優れる物質の含有量は、5~40重量%が好ましい。
【0087】
本開示のセルロースアセテート組成物は、更に他の物質と混合して使用することで、混合物全体としての生分解性を向上することも可能である。
【0088】
セルロースアセテート又はセルロースアセテートを含む組成物に、前記の塩基性物質を添加したとしても、組成物が例えば酸性物質を含有しており、水に浸漬した際に中和反応がおこり、中性から酸性を示す場合は、塩基性物質添加の効果が得られないことがある。
【0089】
そこで、本開示のセルロースアセテート組成物は、水と混合して得られるスラリーの20℃におけるpHが7~13であることが好ましく、pH8~12であることが好ましい。
【0090】
本開示のセルロースアセテートの生分解は、まず、アセチル基が脱離して、アセチル置換度の値が小さくなりセルロースに近づき、微生物の働きにより分解されると考えられる。従って、添加剤としては、このセルロースアセテートの分解を促進する添加剤が好ましい。
【0091】
セルロースアセテートは、セルロースII型結晶構造(より正確には、セルロースアセテートII型結晶構造という)を有する。原料セルロースのアセチル化によりセルロースI型からII型へ転換し得る。セルロースII型結晶構造は、還元末端が交互に位置するような逆平行鎖構造をとり、セルロースI型結晶構造のような強固なものではない。このようなセルロースアセテートの結晶構造も本開示のセルロースアセテート組成物の海水中での優れた生分解性に寄与する。なお、セルロースI型結晶構造が、一旦セルロースアセテートII型結晶構造へ変化すると、I型結晶構造への変化は生じないとされている。
【0092】
本開示のセルロースアセテート組成物は、熱成形性に優れるため、熱成形用として好適である。本開示のセルロースアセテート組成物を成形してなる成形体の形状としては、特に限定されず、例えば、繊維等の一次元的成形体;フィルム等の二次元的成形体;並びにペレットを含む粒子状、チューブ及び中空円柱状等の三次元的成形体が挙げられる。
【0093】
粒子状である場合、粒径2mm以下の粒子の比率が50重量%以下であることが好ましい。より生分解性に優れるためである。
【0094】
粒径が2mm以下の粒子の比率(重量%)は、JIS Z 8801に規定の篩を用いて求めることができる。すなわち、目開きが、2mmである篩と受け皿とを用い、ロータップマシーン((株)飯田製作所製、タッピング:156回/分、ローリング:290回/分)に取り付け、100gの試料を5分間振動させた後、各篩上の粒子の重量の合計の、全体重量(試料100g)に対する割合を算出することにより求めることができる。
【0095】
本開示のセルロースアセテート又はセルロースアセテート組成物は、海水中で優れた生分解性を有するため、ストロー、コップ等の容器、包装材、バインダー、及びタバコフィルター等の使い捨てにされ易い製品;衣料用繊維;不織布;化粧品ビーズ・スクラブ等使用時に部分的にでも水と共に自然界に流れてしまう製品;並びに衛生材(オムツ、生理用品)等トイレに流せることが期待される製品等に好適である。
【0096】
[セルロースアセテートの製造方法]
本開示のセルロースアセテートの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、次の方法が挙げられる。酸触媒と酢酸溶媒の存在下でセルロースを無水酢酸と反応させて、セルロースアセテートのドープを生成する工程(a)、生成したセルロースアセテートを加水分解して、アセチル総置換度を2.7以下にする工程(b)、加水分解したセルロースアセテートを沈殿剤で沈殿させる工程(c)を含む、製造方法。
【0097】
(セルロースアセテートのドープを生成する工程(a))
セルロースアセテートのドープを生成する工程においては、酸触媒と酢酸溶媒の存在下でセルロースを無水酢酸と反応させる、言い換えれば、セルロースを酢化する酢化反応である。このセルロースは、活性化工程を経ていることが好ましい。活性化工程としては、原料セルロースに酢酸又は1~10重量%の硫酸を含む酢酸(含硫酢酸)を一段又は二段に分けて添加して原料セルロースを前処理活性化することが挙げられる。
【0098】
原料となるセルロース(パルプ)としては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)や綿花リンター等が使用できる。これらのセルロースは単独で又は二種以上組み合わせてもよく、例えば、針葉樹パルプと、綿花リンター又は広葉樹パルプとを併用してもよい。
【0099】
リンターパルプについて述べる。リンターパルプは、セルロース純度が高く、着色成分が少ないことから、成形品の透明度が高くなるため好ましい。
【0100】
次に、木材パルプについて述べる。木材パルプは、原料として安定供給できるため及びリンターに比べコスト的に有利であるため好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹前加水分解クラフトパルプ等が挙げられる。また、木材パルプは、広葉樹前加水分解クラフトパルプ等を綿状に解砕した解砕パルプを用いることができる。解砕は、例えば、ディスクリファイナーを用いて行うことができる。
【0101】
また、原料セルロースのαセルロース含量は、不溶解残渣を少なくし、成形品の透明性を損なわないため、90重量%以上であることが好ましく、92重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることがさらに好ましく、97重量%以上であることが最も好ましい。
【0102】
原料セルロースがシート状の形態で供給される等、以降の工程で取扱いにくい場合は、原料セルロースを乾式で解砕処理する工程を経ることが好ましい。
【0103】
原料セルロースに酢酸又は1~10重量%の硫酸を含む酢酸(含硫酢酸)を添加して前処理活性化する活性化工程において、酢酸及び/又は含硫酢酸は、原料セルロース100重量部に対して、好ましくは10~500重量部を添加することができる。また、セルロースに酢酸及び/又は含硫酢酸を添加する方法としては、例えば、酢酸もしくは含硫酢酸を一段階で添加する方法、又は、酢酸を添加して一定時間経過後、含硫酢酸を添加する方法、含硫酢酸を添加して一定時間経過後、酢酸を添加する方法等の酢酸又は含硫酢酸を2段階以上に分割して添加する方法等が挙げられる。添加の具体的手段としては、噴霧してかき混ぜる方法が挙げられる。
【0104】
そして、前処理活性化は、セルロースに酢酸及び/又は含硫酢酸を添加した後、17~40℃下で0.2~48時間静置する、又は17~40℃下で0.1~24時間密閉及び攪拌すること等により行うことができる。
【0105】
酸触媒と酢酸溶媒の存在下でセルロースを無水酢酸と反応させて、セルロースアセテートのドープを生成する工程(酢化反応工程)について述べる。酸触媒としては、硫酸が好ましい。また、例えば、酢酸、無水酢酸、及び硫酸からなる混合物に、セルロースを添加すること、又はセルロースに、酢酸と無水酢酸の混合物及び硫酸を添加する等により酢化を開始することができる。そして、ここでセルロースアセテートのドープとは、セルロースアセテートもしくはセルロースアセテートを含む混合物を溶媒に溶解して得られる溶液をいう。
【0106】
また、これらの混合物には、酢酸と無水酢酸とが含まれていれば、特に限定されないが、酢酸と無水酢酸との割合としては、酢酸300~600重量部に対し、無水酢酸200~400重量部であることが好ましく、酢酸350~530重量部に対し、無水酢酸240~280重量部であることがより好ましい。
【0107】
酢化反応における、セルロース、酢酸と無水酢酸の混合物、及び硫酸の割合としては、セルロース100重量部に対して、酢酸と無水酢酸の混合物は500~1,000重量部であることが好ましく、濃硫酸は0.5~15重量部であることが好ましく、5~14重量部であることがより好ましく、7~11重量部であることがさらに好ましい。濃硫酸量を増やせば硫酸成分量が増える。
【0108】
酢化反応工程において、セルロースの酢化反応は、20~55℃下で酢化を開始した時から30分~36時間、攪拌することにより行うことができる。
【0109】
また、セルロースの酢化反応は、例えば、攪拌条件下、酢化を開始した時から5分~36時間要して20~55℃に昇温して行うこと、又は、撹拌条件下、外部から反応系の内外には一切の熱は加えず行うことができる。酢化反応初期は固液不均一系での反応となり解重合反応を抑えつつ酢化反応を進ませ未反応物を減らすため可能な限り時間を掛けて昇温するのが良いが、生産性の観点からは、2時間以下、さらに好ましくは1時間以下で昇温を行うことが好ましい。
【0110】
また、酢化反応にかかる時間(以下、酢化時間ともいう。)は、30~200分であることが望ましい。ここで、酢化時間とは、原料セルロースが反応系内に投入され、無水酢酸と反応を開始した時点から中和剤投入までの時間をいう。
【0111】
(セルロースアセテートを加水分解する工程(b))
生成したセルロースアセテートを加水分解して、アセチル総置換度を2.7以下にする工程(b)においては、例えば、加水分解(ケン化)に際して、酢化反応停止のために水(水蒸気を含む);希酢酸;又は、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム若しくは亜鉛等の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物若しくは酸化物;等を含む中和剤を添加する。なお、希酢酸とは、1~50重量%の酢酸水溶液をいう。
【0112】
中和剤としては、酢酸マグネシウム及び酢酸カルシウムが好ましい。カルシウム等は硫酸と結合するため、セルロースアセテートのドープにおける硫酸イオン濃度を高くすることができる。その結果、得られるセルロースアセテート中の硫酸成分量を20ppmを超えて以上400ppm以下に調整することができる。また、加水分解時に添加する水の量を多くすると、6位置換度に対する2,3位置換度の比率(τ)を高くできる。
【0113】
加水分解(ケン化)反応の時間(以下、熟成時間ともいう。)は、特に限定されず、目的のアセチル総置換度に応じてその時間を適宜調整すればよい。ここで、熟成時間は、中和剤の投入開始から加水分解(ケン化)反応停止までの時間をいう。熟成時間を長くすると総置換度を小さくできる。
【0114】
また、加水分解(ケン化)反応は、好ましくは50~100℃、特に好ましくは70~90℃の熟成温度で20~120分間保持することにより行う。ここで、熟成温度とは、熟成時間における反応系内の温度をいう。
【0115】
(加水分解したセルロースアセテートを沈殿剤で沈殿させる工程(c))
調整したセルロースアセテートを沈殿剤で沈殿させる工程について述べる。沈殿剤は、は、目的のアセチル総置換度に応じて、適宜選択すればよい。
【0116】
沈殿したセルロースアセテートは、沈殿剤で洗い、遊離の金属成分や硫酸成分等を除去してもよい。そして、セルロースアセテートの熱安定性を高めるため、沈殿剤による洗いに加えてさらに、必要に応じて安定剤として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物、特に水酸化カルシウム等のカルシウム化合物を添加してもよい。また、沈殿剤による洗いの際に安定剤を用いてもよい。
【0117】
(任意工程)
加水分解したセルロースアセテートを沈殿剤で沈殿させる工程(c)の後、必要に応じて得られたセルロースアセテートの分離及び乾燥処理を行ってもよい。セルロースアセテートの分離は、ろ過、又は遠心分離等により脱水することが好ましい。また、乾燥処理は、その方法としては特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、送風や減圧等の条件下乾燥を行うことができる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥が挙げられる。
【0118】
さらに、本開示のセルロースアセテート組成物が添加剤を含有する場合、添加剤は、次の方法により含有させることができる。
【0119】
セルロースアセテート及び添加剤をアセトン等の溶媒と混合したのち、溶媒を除去することにより、セルロースアセテート組成物を得ることができる。またはセルロースアセテートを溶融させて添加物を混錬することでセルロースアセテート組成物を得ても良い。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
【0121】
下記の実施例及び比較例に記載の各物性は、以下の方法で評価した。
【0122】
<2,3,6位の各アセチル置換度、及びアセチル総置換度>
2,3,6位の各アセチル置換度は、上記のとおり、手塚(Tezuka, Carbonydr. Res. 273, 83(1995))の方法に従い、セルロースアセテート試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化し、得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C-NMRスペクトルを測定NMR法で測定した。そして、169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で現れるアセチル基の各炭素シグナルの面積比から、2,3,6位の各アセチル置換度(DS2,DS3,DS6)を求めた。アセチル総置換度は、2,3,6位の各アセチル置換度の和である。また、2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和(DS2+3)及び、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τを算出した。
【0123】
<硫酸成分量>
乾燥したセルロースアセテート又はセルロースアセテート組成物を1300℃の電気炉で焼き、昇華した亜硫酸ガスを10%過酸化水素水にトラップし、規定水酸化ナトリウム水溶液にて滴定し、SO42-換算の量を硫酸成分量として測定した。硫酸成分量は、絶乾状態のセルロースアセテート又はセルロースアセテート組成物1g中の硫酸成分量としてppm単位で表す。
【0124】
<スラリーpH>
微粉末状の乾燥したセルロース又はセルロースアセテート組成物2.0gを正確に秤量し、煮沸した蒸留水80mlを加え撹拌し、密閉して1晩放置した後、さらに撹拌し試料を沈降させた。約10mlの上澄みを試料液とし、補正したpHメーターでpHを測定した。ブランクとして、煮沸蒸留水のpHも測定し、計算式[H+]=10-(pH)(pHは測定pH値を示す)によって、試料液及びブランク液の水素イオン濃度である[H+]s及び[H+]b(sは試料、bはブランクを示す)をそれぞれ計算した。[H+]s≧[H+]bである場合、スラリーpHは下記式により計算できる。
【0125】
スラリーpH=-LOG([H+]S-[H+]b)
[H+]S<[H+]bの場合は、計算式[OH-]=10-14/[H+]により、試料液及びブランク液の水酸基イオン濃度[OH-]S、[OH-]bをそれぞれ計算し、次の式によってスラリーpHを計算できる。
スラリーpH=14+LOG([OH-]S-[OH-]b+10-7)
【0126】
<生分解性>
海水に浸漬して生分解性を評価する方法を用いて、生分解性を評価した。まず、一般的なソルベントキャスト法でフィルムを作製した。実施例及び比較例で得られたセルロース又はセルロースアセテート組成物10~15重量部を、85~90重量部のアセトンに溶解させ、さらに所定量のMgOを添加してドープを調製した。ガラス板上にドープを流し、バーコーターで流延した。40℃で30分乾燥させ、ガラス板からフィルムを剥離し、80℃でさらに30分乾燥させ、厚さ30μmの評価用フィルムを得た。
【0127】
上記の方法にて作成したフィルム(10cmx10xm×50μm)を、ステンレス製容器に入れ、ASTM D6691に準じた方法で生分解をさせた。海水は北九州の博多湾から採取した海水を使用した。但し、生分解性の評価は重量測定によって行った。すなわち、浸漬開始後90日後と180日後に、ステンレス製容器の内容物全量を目開きが10μmのフィルターでろ過を行い、フィルム及びフィルムが分解した残渣をフィルター上に回収した。蒸留水50mLでフィルターのリンスを行ったのち、残差及びフィルターを真空下80℃で4hr乾燥した。
【0128】
フィルム残渣のろ過前後のフィルター重量増加をW1(g)、浸漬前のフィルムをW2(g)とし、重量保持率を以下の式で算出した。
重量保持率(重量%)=100×W1/W2
【0129】
(比較例1)
αセルロース含量98.4wt%の広葉樹前加水分解クラフトパルプをディスクリファイナーで綿状に解砕した。100重量部の解砕パルプ(含水率8%)に26.8重量部の酢酸を噴霧し、良くかき混ぜた後、前処理として60時間静置し活性化した(活性化工程)。活性化したパルプを、323重量部の酢酸、245重量部の無水酢酸、13.1重量部の硫酸からなる混合物に加え、40分を要して5℃から40℃の最高温度に調整し、90分間酢化した。中和剤(24%酢酸マグネシウム水溶液)を、硫酸量(熟成硫酸量)が2.5重量部に調整されるように3分間かけて添加した。さらに、反応浴を75℃に昇温した後、水を添加し、反応浴水分(熟成水分)を52mol%濃度とした。なお、熟成水分濃度は、反応浴水分の酢酸に対する割合をモル比で表わしたものに100を乗じてmol%で示した。その後、85℃で130分間熟成を行ない、酢酸マグネシウムで硫酸を中和することで熟成を停止し、セルロースアセテートを含む反応混合物を得た。得られた反応混合物に希酢酸水溶液を加え、セルロースアセテートを分離した後、水洗・乾燥・水酸化カルシウムによる安定化をしてセルロースアセテートを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0130】
(比較例2)
熟成の時間を100分間にした以外は比較例1と同様にして、セルロースアセテートを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0131】
(比較例3)
αセルロース含量98.4重量%の広葉樹前加水分解クラフトパルプをディスクリファイナーで綿状に解砕した。前処理工程として100重量部の解砕パルプ(含水率7.0%)に25℃に保った33重量部の酢酸を噴霧し、良くかき混ぜた後、2時間静置し活性化した。エステル化工程として、前処理により活性化したパルプを、364重量部の酢酸、244重量部の無水酢酸、6.6重量部の濃硫酸からなる混合溶液に加えた。当該混合溶液はあらかじめ氷点下8.9℃に冷却しておいた。パルプを混合溶液に加えた時点を基準に、48分を要して氷点下8.9℃から50.9℃のピーク温度に調整し、65分後にピーク温度より5℃低下させた。パルプを混合溶液に加えた時点から152分後に中和剤(24重量%酢酸マグネシウム)を添加し始め、硫酸量(熟成硫酸量)が3.7重量部に調整されるように添加し、エステル化工程を終了した。さらに、加水分解工程として、反応浴を50.9℃に昇温して、50分間加水分解を行った。酢酸マグネシウムで硫酸を中和することで加水分解反応を停止し、セルロースアセテートを含む反応混合物を得た。なお、パルプを混合溶液に加えた時点から中和剤を添加するまでの時間をエステル化時間とする。セルロースアセテートを含む反応混合物100重量部に対し、10%希酢酸水溶液約300重量部にて沈殿させた。水洗した後、安定剤として水酸化カルシウムを添加し、濾別し乾燥することにより、セルロースアセテートを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0132】
(比較例4)
αセルロース含量98.4重量%、カルボキシル基量0.8meq/100gのコットンリンターをもちい、前処理工程として100重量部の解砕パルプ(含水率7.0%)に25℃に保った43酢酸を噴霧し、良くかき混ぜた後、2時間静置し活性化した。エステル化工程として、前処理により活性化したパルプを、386重量部の酢酸、279重量部の無水酢酸、9.9重量部の濃硫酸からなる混合溶液に加えた。当該混合溶液はあらかじめ氷点下12.7℃に冷却しておいた。パルプを混合溶液に加えた時点を基準に、62分を要して氷点下8.9℃から38℃のピーク温度に調整した。パルプを混合溶液に加えた時点から126分後に中和剤(24重量%酢酸マグネシウム)を添加し始め、硫酸量(熟成硫酸量)が3.7重量部に調整されるように添加し、エステル化工程を終了した。さらに、加水分解工程として、反応浴を50.9℃に昇温して、50分間加水分解を行った。酢酸マグネシウムで硫酸を中和することで加水分解反応を停止し、セルロースアセテートを含む反応混合物を得た。なお、パルプを混合溶液に加えた時点から中和剤を添加するまでの時間をエステル化時間とする。セルロースアセテートを含む反応混合物100重量部に対し、10%希酢酸水溶液約300重量部にて沈殿させた。水洗した後、安定剤として水酸化カルシウムを添加し、濾別し乾燥することにより、セルロースアセテートを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0133】
(比較例5)
シート状セルロース(コットンリンターパルプ)αセルロース含量97wt%をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100重量部の綿状セルロース(含水率8.0重量%)に示す割合で酢酸を噴霧し、よく攪拌し、温度24℃で60分間静置した(第1の活性化工程)。さらに、第1の活性化工程を経たセルロースに、0.94部の硫酸を含む酢酸30.24部を添加し、24℃で45分間静置した(第2の活性化工程)。そして、第2の活性化工程を経て活性化されたセルロースに、酢酸417.85部、無水酢酸282.98部及び硫酸8.72部を混合し、15℃以下で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を35℃まで昇温して80分保持し、アセチル化を行った。そして、酢酸0.15重量部、水22.98重量部、及び酢酸マグネシウム7.30重量部を混合し、温度61℃で95分間保持したのち、酢酸マグネシウム7.48重量部、酢酸20.94重量部及び水21.44部を添加し熟成反応を停止した。反応浴を希酢酸中に攪拌下投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別し乾燥することにより、セルロースアセテートを得た。
【0134】
(実施例1~8、比較例6~11)
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100重量部の綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、32.71重量部の酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸358.51重量部、無水酢酸214.99重量部及び硫酸A重量部を混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.28重量部、水89.55重量部及び酢酸マグネシウム13.60重量部を添加し、アセチル化反応を停止した。硫酸量Aは0.1~15重量部の範囲で適宜調整し、合成するセルロースアセテートの硫酸量を調整した。得られた反応混合液に、酢酸0.06重量部、水B重量部、酢酸マグネシウム2.90重量部を加え、85℃でC分、熟成反応を行った。熟成反応に添加する水Bは、1~50重量部の範囲で行い、2,3,6位の置換度を調整した。熟成反応時間Cは、5~120分の範囲で行い、合成するセルロースアセテートの置換度を調整した。以上により、セルロースアセテートを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0135】
(実施例9)
実施例1で合成した、置換度2.46のセルロースアセテート9.5重量部を110℃で2時間加熱して乾燥したのち、アセトン90重量部に加え25℃で6hr攪拌してセルロースアセテートを溶解させた。ここに、添加剤として、塩基性添加剤であるメタ珪酸アルミン酸マグネシウムの粉末0.5重量部を加え、さらに25℃で6hr攪拌して、フィルム作成用のドープを調製した。このドープをガラス板上に流し、バーコーターで流延し、40℃で30分乾燥させたのちフィルムをガラス板からはがし、80℃でさらに30分乾燥させ、厚さ30μmのセルロースアセテート組成物フィルムを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0136】
(実施例10)
塩基性添加剤として酸化マグネシウムを用い、セルロースアセテート9.6重量部、添加量を0.4重量部にした以外は、実施例9と同様にして厚さ30μmのセルロースアセテート組成物フィルムを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0137】
(実施例11)
添加剤として、塩基性添加剤にかえて、水溶性添加剤としてトリアセチン2.5重量部、セルロースアセテート7.5重量部を用いた以外は実施例9と同様にして厚み30μmのセルロースアセテート組成物フィルムを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0138】
(実施例12)
添加剤として、塩基性添加剤である酸化マグネシウム0.5重量部及び水溶性添加剤であるトリアセチンを2.0重量部、セルロースアセテート7.5重量部を用いた以外は実施例9と同様にして厚み30μmのセルロースアセテート組成物フィルムを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0139】
(実施例13)
添加剤として、海洋での生分解性に優れる物質としての添加剤としてPHBHを0.8重量部、セルロースアセテート9.2重量部を用い、二軸混錬装置を用いて240℃で溶融混錬し、ラボプラストミルのTダイ金型で厚み約30μmのセルロースアセテート組成物フィルムを得た。各物性を評価した結果は、表1に示す。
【0140】
【0141】
表1に示されるように、アセチル総置換度が高い、6位のアセチル置換度に対する2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度の和の比τが低い、又は硫酸成分量が低い比較例のセルロースアセテート組成物は、いずれも生分解性に劣る。一方、実施例のセルロースアセテート組成物は、海水中での生分解性に優れる。