(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】ビールテイストノンアルコール飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20240919BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240919BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20240919BHJP
C12C 12/04 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/00 B
A23L2/38 S
C12C12/04
(21)【出願番号】P 2022182564
(22)【出願日】2022-11-15
(62)【分割の表示】P 2018045816の分割
【原出願日】2018-03-13
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神代 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】竹村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】守川 斉利
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-019468(JP,A)
【文献】特開2013-201976(JP,A)
【文献】特開2017-216999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-2/84
C12C 1/00-13/10
C12F 3/00-5/00
C12H 1/00-6/04
C12J 1/00-1/10
C12L 3/00-11/00
C12G 1/00-3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580 (JDreamIII)
CAplus/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイストノンアルコール飲料であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率(百分率)が22~57%であ
り、前記分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが、大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するものおよび大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイストノンアルコール飲料に由来するものである、ビールテイストノンアルコール飲料。
【請求項2】
前記ペプチド質量の比率が25~41%である、請求項1に記載のビールテイストノンアルコール飲料。
【請求項3】
糖質濃度が1.5g/100mL以上3g/100mL未満である、請求項1または2に記載のビールテイストノンアルコール飲料。
【請求項4】
風味が改善された、
大麦麦芽を原料の少なくとも一部とする、ビールテイストノンアルコール飲料の製造方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率(百分率)を22~57%に調整することを含んでな
り、前記分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが、大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するものおよび大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイストノンアルコール飲料に由来するものである方法。
【請求項5】
ビールテイストノンアルコール飲料の製造工程において、
大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを添加する工程を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる、ビールテイストノンアルコール飲料の風味改善剤
であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記ビールテイストノンアルコール飲料の全ペプチド質量に対する前記ビールテイストノンアルコール飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率(百分率)が22~57%となるように使用するための、前記風味改善剤。
【請求項7】
大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイストノンアルコール飲料の風味改善方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率(百分率)を22~57%に調整することを含んでな
り、前記分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが、大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するものおよび大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイストノンアルコール飲料に由来するものである方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビールテイストノンアルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりに加え、飲用シーンや消費者の嗜好の多様化によりビールテイ
ストノンアルコール飲料への需要は年々高まっている。ビールテイストノンアルコール飲
料の分野ではノンアルコール飲料でありながらビール特有の味わいや香りが感じられるよ
うに様々な技術が開発されてきた。
【0003】
例えば、非発酵のビールテイスト飲料にGABAを配合して風味を改善する技術(特許
文献1)や、ビール様ノンアルコール飲料にビール凍結乾燥物を配合して風味を改善する
技術(特許文献2)がこれまでに知られている。しかし、消費者の嗜好レベルの高まりに
鑑みれば、ビーステイストノンアルコール飲料においては依然として風味改善が求められ
ているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-184697号公報
【文献】特開2013-201976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、味の厚みが実現されたビールテイストノンアルコール飲料を提供することを
目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ビールテイストノンアルコール飲料において、分子量800~1500
Daのペプチドの比率を特定範囲内にすることで、当該ビールテイストノンアルコール飲
料において味の厚みを実現できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである
。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイストノ
ンアルコール飲料であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチ
ド質量に対する前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)
のペプチド質量の比率(百分率)が22~57%である、ビールテイストノンアルコール
飲料。
[2]前記ペプチド質量の比率が25~41%である、上記[1]に記載のビールテイス
トノンアルコール飲料。
[3]糖質濃度が1.5g/100mL以上3g/100mL未満である、上記[1]ま
たは[2]に記載のビールテイストノンアルコール飲料。
[4]風味が改善された、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とす
る、ビールテイストノンアルコール飲料の製造方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法
で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量800~1500D
a(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率(百分率)を22~57%に調整
することを含んでなる方法。
[5]ビールテイストノンアルコール飲料の製造工程において、麦芽および/または未発
芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分
子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを添加する工程を含
む、上記[4]に記載の製造方法。
[6]麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発
酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)
のペプチドを有効成分として含んでなる、ビールテイストノンアルコール飲料の風味改善
剤。
[7]麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイストノ
ンアルコール飲料の風味改善方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記
飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析
用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率(百分率)を22~57%に調整することを含んで
なる方法。
【0008】
本発明によれば、ビールテイストノンアルコール飲料において、分子量800~150
0Daのペプチドの比率を特定範囲内に調整することによって、味の厚みが実現されたビ
ールテイストノンアルコール飲料を提供でき、消費者の多様な嗜好やニーズに応えること
ができる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1において実施した、HPLC分析用ゲル濾過法の保持時間と既知物質の分子量から作成した検量線を示した図である。
【
図2】実施例1の官能評価結果を示した図である。分子量800~1500Daのペプチド画分の添加が味の厚みや渋味に与える影響を官能評価スコアで示した。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明において「ビールテイスト」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵
母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを
意味する。
【0011】
「ビールテイストノンアルコール飲料」とは、未発酵のため発酵に由来するアルコール
成分を含まないノンアルコール飲料でありながらビール様(ビールテイスト)の風味を持
つ飲料をいう。また、本発明において「ノンアルコール飲料」とは、アルコールが全く含
まれない、すなわち、エタノール濃度が0.00v/v%である飲料を意味し、「完全無
アルコール飲料」と同義である。
【0012】
本発明のビールテイストノンアルコール飲料は、糖質濃度によらず味の厚みを実現する
ことができるが、例えば、下限値(以上または超える)を1.5g/100mLまたは2
.0g/100mLとすることができ、また、上限値(以下または未満)を3.0g/1
00mL、2.9g/100mLまたは2.5g/100mLとすることができる。これ
らの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、飲料の糖質
濃度を1.5g/100mL以上3g/100mL未満、1.5~2.9g/100mL
または2.0~2.5g/100mLとすることができる。
【0013】
糖質濃度の測定は公知の方法によって行うことができ、当該試料の質量から、水分、タ
ンパク質、脂質、灰分および食物繊維量を除いて算出する方法(栄養表示基準(平成21年
12月16日 消費者庁告示第9号 一部改正)参照)に従って行うことができる。
【0014】
本発明のビールテイストノンアルコール飲料ではHPLC分析用ゲル濾過法で分画され
た前記飲料由来の全ペプチド質量に対する飲料中の分子量800~1500Da(HPL
C分析用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率(百分率)が特定範囲内であることを特徴と
する。当該比率は、飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)
のペプチド濃度(mg/mL)をHPLC分析用ゲル濾過法で分画された飲料由来の全ペ
プチド濃度(mg/mL)で除することで算出することができる。本発明において、当該
ペプチド比率の下限値(以上または超える)は、味の厚みの付与の観点から22%(好ま
しくは25%、26%または27%)とすることができ、また、上限値(以下または未満
)は、57%(好ましくは41%、40%または34%)とすることができる。これらの
下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、ペプチド比率の
範囲は22~57%とすることができ、好ましくは25~41%、26~41%、27%
~41%、27%~40%または27%~34%とすることができる。
【0015】
本発明のビールテイストノンアルコール飲料ではまた、飲料中の分子量800~150
0Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度の下限値(以上または超える)を0
.207mg/mL(好ましくは0.290mg/mL)とすることができ、また、上限
値(以下または未満)を57mg/mL(好ましくは41mg/mL)とすることができ
る。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、飲
料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.
207~41mg/mLまたは0.290~57mg/mLとすることができる。
【0016】
飲料中のペプチドの分子量は高速液体クロマトグラフィーによるゲル濾過法(本明細書
において「HPLC分析用ゲル濾過法」ということがある)により測定される。具体的に
は、HPLC分析用ゲル濾過法の検量線(例えば、
図1)を用いて保持時間から分子量を
算出し、保持時間により分子量の異なるサンプルを分取できる。HPLC分析用ゲル濾過
法による分子量の測定の具体例は後記実施例1に示される通りである。また、ペプチドの
定量はLowry法(ローリー法)により実施することができる。
【0017】
本発明のビールテイストノンアルコール飲料は、ノンアルコール飲料であるにもかかわ
らず、味の厚みが付与されていることを特徴とする。ここで、「味の厚み」とは、味の広
がり、複雑さ、ボディ感付与等により認識される香味感覚を意味する。
【0018】
本発明のビールテイストノンアルコール飲料は、飲料中の800~1500Daのペプ
チド比率が所定の範囲内に調整される限り、通常のビールテイストノンアルコール飲料の
製造手順に従って製造することができる。例えば、麦芽、ホップ、その他の原料(例えば
、香料、色素、食物繊維、タンパク加水分解物、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤など)
、水等の原料から仕込み液を調製し、該仕込み液から静置により固形分を取り除いた後、
濾過を行うことでビールテイストノンアルコール飲料を製造することができる。
【0019】
上記仕込み液の調製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と醸造用水の
混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸し
た麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。また、麦汁は、糖化工程中に
市販の酵素製剤を添加して作製することもできる。例えば、タンパク分解のためにプロテ
アーゼ製剤を、糖質分解のためにα-アミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナ
ーゼ製剤等を、繊維素分解のためにβ-グルカナーゼ製剤、繊維素分解酵素製剤等をそれ
ぞれ用いることができ、あるいはこれらの混合製剤を用いることもできる。
【0020】
本発明のビールテイストノンアルコール飲料の製造の好ましい態様においては、糖化工
程において、エンド型プロテアーゼ活性が高い麦芽および/またはエンド型プロテアーゼ
活性を保有する酵素製剤をタンパク分解のために使用することができる。このような工程
を実施することによりビールテイストノンアルコール飲料に含まれる分子量800~15
00Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの比率を増加させて、所定値の範囲内
に調整することができ、ひいてはノンアルコール飲料でありながら、味の厚みが付与され
たビールテイストノンアルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれ
ば糖化工程においてエンド型プロテアーゼ活性が高い麦芽および/またはエンド型プロテ
アーゼを含む酵素製剤を使用することを含んでなる、ビールテイストノンアルコール飲料
の製造方法が提供される。上記の麦芽や酵素製剤の活性の特徴は、エンド型プロテアーゼ
活性に基づいて特定することができる。
【0021】
本発明のビールテイストノンアルコール飲料は、麦芽および未発芽の麦類のいずれかま
たは両方を原料の少なくとも一部とするものであり、好ましくは、麦芽または麦芽および
未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするものである。本発明のビールテイストノンア
ルコール飲料においては、麦芽として大麦麦芽を原料の一部として使用することができる
。本発明のビールテイストノンアルコール飲料においてはまた、未発芽の麦類として、未
発芽大麦(エキス化したものを含む)や、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を原
料として使用することができる。
【0022】
本発明のビールテイストノンアルコール飲料の製造では、麦芽および未発芽の麦類以外
に、米、とうもろこし、大豆、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)、
果実(例えば、果汁、濃縮果汁)、コリアンダーまたはその種、香辛料またはその原料(
例えば、こしょう、シナモン、さんしょう)、ハーブ(例えば、カモミール、セージ、バ
ジル)、野菜(例えば、かんしょ、かぼちゃ)、そばまたはごま、含糖質物(例えば、ハ
チミツ、黒糖)、食塩、みそ、花、茶、コーヒー、ココア(茶、コーヒーおよびココアは
その調製品を含む)、海産物(例えば、牡蠣、こんぶ、わかめ、かつお節)等の副原料;
タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;ホップエキス、香料、色素、起泡・泡持ち向
上剤、甘味料、食物繊維、水質調整剤等のその他の添加物を原料として使用することがで
きる。なお、本発明のビールテイストノンアルコール飲料中の食物繊維(例えば、難消化
性デキストリン)の含有量は1%未満(好ましくは0.9%未満)とすることができる。
【0023】
本発明においては、穀物類(例えば、麦芽および/または未発芽の麦類や大豆)から分
子量800~1500Daのペプチドが含まれる画分を調製し、該画分をビールテイスト
ノンアルコール飲料に添加することによって、分子量800~1500Daのペプチドの
比率を所定値の範囲内に調整することができ、味の厚みが付与されたビールテイストノン
アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば、穀物類から分子量
800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが含まれる画分を調製し
、該画分をビールテイストノンアルコール飲料に添加することを含んでなる、ビールテイ
ストノンアルコール飲料の製造方法が提供される。上記ペプチド画分のビールテイストノ
ンアルコール飲料への添加は、該飲料の製造工程(例えば、調合工程)において行うこと
ができる。なお、穀物類由来の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法
)のペプチドは、例えば、穀物類をペプチダーゼ等のタンパク分解酵素で加水分解処理す
ることにより調製することができ、大豆タンパク加水分解物のような穀物類のタンパク加
水分解物から得てもよい。
【0024】
本発明においてはまた、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とす
るビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、該飲料から分子量800~1500Da
のペプチドが含まれる画分を調製し、該画分をビールテイストノンアルコール飲料に添加
することによって、分子量800~1500Daのペプチドの比率を所定値の範囲内に調
整することができ、味の厚みが付与されたビールテイストノンアルコール飲料を製造する
ことができる。すなわち、本発明によれば、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少
なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、次いで、前記飲料から
分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが含まれる画分を
調製し、該画分をビールテイストノンアルコール飲料に添加することを含んでなる、ビー
ルテイストノンアルコール飲料の製造方法が提供される。上記ペプチド画分のビールテイ
ストノンアルコール飲料への添加は、該飲料の製造工程(例えば、調合工程)において行
うことができる。
【0025】
また、本発明によれば、穀物類あるいは麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少な
くとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量800~1500
Daの1種または2種以上のペプチドが配合されてなるビールテイストノンアルコール飲
料が提供され、該飲料は本発明のビールテイストノンアルコール飲料の一部である。該ペ
プチドが配合されてなる飲料はビールテイストノンアルコール飲料としての風味が改善あ
るいは向上されており、具体的には、味の厚みが増強された飲料である。
【0026】
本発明により提供される飲料は、場合によっては炭酸ガスを添加する工程に付し、さら
に、充填工程、殺菌工程などの工程を経て容器詰め飲料として提供することができる。殺
菌は容器への充填前であっても充填後であってもよい。また、飲料のpHが4未満に調整
されている場合には殺菌工程を経ずにそのまま充填工程を行って容器詰め飲料とすること
もできる。
【0027】
本発明による飲料に使用される容器は、飲料の充填に通常使用される容器であればよく
、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、
紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは、金属缶・樽容器、プラスチック
製ボトル(例えば、PETボトル)、瓶である。
【0028】
本発明の別の面によれば、風味が改善された、麦芽および/または未発芽の麦類を原料
の少なくとも一部とする、ビールテイストノンアルコール飲料の製造方法であって、HP
LC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲料中の分子
量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率(百分率)
を22~57%に調整することを含んでなる方法が提供される。本発明においてビールテ
イストノンアルコール飲料の「風味が改善された」あるいは「風味改善」とは、ビールテ
イストノンアルコール飲料において味の厚みが実現されることを意味するものとする。上
記の本発明の製造方法は、好ましくは味の厚みが付与されたビールテイストノンアルコー
ル飲料の製造方法である。上記の本発明の製造方法は本発明のビールテイストノンアルコ
ール飲料およびその製造方法についての記載に従って実施することができる。
【0029】
本発明の別の面によれば、穀物類あるいは麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少
なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~150
0Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる、ビールテ
イストノンアルコール飲料の風味改善剤が提供される。ビールテイストノンアルコール飲
料の風味改善剤は、好ましくはビールテイストノンアルコール飲料の味の厚み付与剤であ
る。本発明の風味改善剤は、本発明のビールテイストノンアルコール飲料およびその製造
方法に関する記載に従って実施することができる。
【0030】
本発明のさらに別の面によれば、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする
、ビールテイストノンアルコール飲料の風味改善方法が提供される。本発明の風味改善方
法は、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチド質量に対する前記飲
料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率
(百分率)を22~57%に調整することにより実施できる。本発明の風味改善方法は、
好ましくはビールテイストノンアルコール飲料に味の厚みを付与する方法である。本発明
の風味改善方法は、本発明のビールテイストノンアルコール飲料およびその製造方法に関
する記載に従って実施することができる。
【実施例】
【0031】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定される
ものではない。
【0032】
糖質濃度の分析
栄養表示基準に基づく糖質濃度の測定は、公知の五訂日本食品標準成分表分析マニュア
ルに記載の方法に従って行った。すなわち、サンプル飲料の質量から、水分(減圧加熱乾
燥法)、タンパク質(自動分析装置による方法)、脂質(ソックスレー抽出法(3))、
灰分(マッフル炉による燃焼法)および食物繊維量(プロスキー酵素重量法)を除いて算
出する方法により測定した。
【0033】
参考例1:ビールテイスト飲料に好ましい香味を付与するペプチド画分の特定
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
大麦麦芽、ホップ、酵素製剤を用いて、インフュージョン法にてビールテイスト発酵ア
ルコール飲料を製造した。具体的には、65℃の湯300mLに大麦麦芽100gを入れ
、60分保持し、さらに78℃に昇温して5分保持後、濾過して麦汁を得た。続いて、ホ
ップを0.8g/L投入して100℃で90分煮沸したのち、濾過して発酵前液を得た。
【0034】
その後、常法に従ってビール酵母により発酵を行い、発酵液の香味確認を行った。その
結果、得られた発酵液は、雑味が抑制され、ビールらしく柔らかくスムーズなテクスチャ
ーがあり、調和のとれた味わいがあることが確認された。
【0035】
(2)ゲル濾過分画
上記(1)で得られた発酵液を0.45μmフィルターで濾過し、濾過済み発酵液を計
量して凍結乾燥した。乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製し
、分画用サンプルとした。サンプルは、以下の条件にてゲル濾過分画を行った。
【0036】
<ゲル濾過分画条件>
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社
製)
サンプル注入量:5mL
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1mL(フラクション0)、その
後0.35cvから5mLずつ分画(フラクション1~51)
【0037】
分画物の官能評価により、香味の特徴の違いによって、表1のようにフラクションをプ
レ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた。また、各画分
の香味特徴は5名の訓練されたパネラーのディスカッションにより決定した。
【0038】
【0039】
(3)ペプチド画分の精製
上記(2)で得られた画分CおよびDは、固相抽出カラム(Bond Elute C
18、Agilent technologies社製)にて吸着処理を行い、脱塩水で洗浄した後、50%エ
タノール水溶液にて溶出して、濃縮乾固を行い、これを脱塩水にて復水し、濃縮液とした
。これをペプチド画分とした。
【0040】
(4)ローリー法によるタンパク定量
上記(2)のゲル濾過分画と上記(3)のペプチド画分の精製によって得られたペプチ
ド画分のタンパク定量は、市販のキット(DCプロテインアッセイ、Bio-Rad社製
)を用いたLowry法で行った。まず、上記分画液を適切な範囲になるように濃度調整
した。濃度調整したサンプル5μLに対し、A液を50μL加えて撹拌し、続いてB液を
400μL加えて攪拌した。室温で15分発色反応を行った後、96ウェルプレートに3
50μL移して750nmの吸光度を測定した。得られた吸光度と予め作成した検量線に
基づき、ペプチド濃度(mg/mL)を算出した。なお、検量線はBSA(ウシ血清アル
ブミン)を用いて作成した。
【0041】
(5)結果
ペプチド分画物は、Superdex 75 10/300カラムにて分析を行い、分
子量を推定したところ、画分CおよびDのペプチドが分子量約800~1500Daに分
布していた。
【0042】
以上の結果より、ビールテイスト発酵アルコール飲料から分画・精製した分子量約80
0~1500Daのペプチド画分CおよびDは、飲み応え(すなわち、味の厚み)の付与
に有効であることが示唆された。
【0043】
実施例1:ビールテイストノンアルコール飲料の製造並びに該飲料へのペプチド添加が味
の厚みに与える影響の分析
(1)ビールテイストノンアルコール飲料の製造
本実施例のビールテイストノンアルコール飲料の製造においては、主原料として、大麦
麦芽を使用した。糖化に際しては糖化の温度、時間を調整し、濾過することで、麦汁を得
た。具体的には、65℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽5.6質量部を投入して1
5分保持後、76℃に昇温して25分保持し、82℃に昇温保持した後濾過して麦汁を得
た。
【0044】
上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップを投入し100℃で60分煮沸した
後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却し、冷却麦汁を得た。得られた冷却
麦汁の糖度を水で調整した後、呈味素材、香料、泡持ち素材を添加し、濾過して、清澄な
ビールテイストノンアルコール飲料(サンプル番号1)を得た。
【0045】
(2)ペプチド画分の調製
市販のビールテイスト飲料をガス抜きした上で計量して凍結乾燥した。凍結乾燥物を1
00mM NaCl溶液に溶解して5倍濃縮液を調製し、ゲル濾過分画用サンプルとした
。参考例1(2)の記載に従ってゲル濾過分画を実施し、得られた画分C(フラクション
番号:F25~29)を、参考例1(3)の記載に従って精製した。この際、精製での回
収率向上に向け、固相抽出カラムの素通り画分を合成吸着材(セパビーズSP207、三
菱ケミカル社製)による回収も行った。タンパク定量は参考例1(4)に記載のローリー
法により行った。
【0046】
(3)HPLC分析用ゲル濾過画分の調製
試醸品に関しては、上記(1)で得られた試醸品をガス抜きした上で計量して凍結乾燥
した。各凍結乾燥物を50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0、150mM N
aCl含む)で溶解して2.5倍濃縮液を調製し、ゲル濾過分画用サンプルとした。ペプ
チド画分に関しては、10倍濃縮液相当になるよう上記の緩衝液で溶解し、ゲル濾過分画
用サンプルとした。分画サンプルについて、それぞれ、以下の条件にてゲル濾過分画を行
い、分画フラクション(フラクション1~10)を得た。
【0047】
HPLC分析用ゲル濾過法の条件は以下の通りであった。
<HPLC分析用ゲル濾過法分析条件>
カラム:Superdex 75 10/300(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:100μL
溶離液組成:50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)、20%(v/v)アセトニトリ
ル、150mM NaCl
流速:0.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
【0048】
分画液のタンパク定量は参考例1(4)に記載のローリー法により行った。
【0049】
(4)HPLC分析用ゲル濾過法による分子量の測定
ア HPLC分析用ゲル濾過のサンプル調製
上記(3)で得られた分画フラクション(フラクション1~10)をサンプルとして使
用した。
【0050】
イ 分子量の検量線作成
上記HPLC分析用ゲル濾過条件記載のカラム、溶離液、流速、検出波長において、分
子量既知のペプチドを0.1~5mg/mLで適宜超純水に溶解したものを50μL注入
してHPLC分析を行い、保持時間を確認した(表2)。その保持時間、分子量から検量
線(
図1)を作成した。
【0051】
【0052】
ウ 分子量の算出
分子量測定の結果、フラクション1~10のうちフラクション7に含まれるペプチドは
分子量800~1500Daの範囲であることが確認された。
【0053】
(5)分子量800~1500Daのペプチド比率の算出
分子量800~1500Daのペプチド比率は各分画フラクションにおける製品相当の
ペプチド濃度を用いて以下の算出式にて求めた。
【数1】
【0054】
試作品ペプチド比率は表3に示される通りであった。
【0055】
(6)糖質濃度の分析
ビールテイストノンアルコール飲料(サンプル番号1)および添加品1~3(サンプル
番号2~4)の糖質濃度の測定は前記の通り栄養表示基準に基づいて行った。結果は表3
に示される通りであった。
【0056】
(7)官能評価
上記(1)で製造したビールテイストノンアルコール飲料に上記(2)で得られたペプ
チド画分を添加しない試験区(試作品)と添加する試験区(添加品1~3)を設け、80
0~1500Daのペプチド濃度が表3のように調整されたサンプル飲料(サンプル番号
1~4)を調製した。
【0057】
官能評価は5名の訓練されたパネラーにより実施した。具体的には、「味の厚み」およ
び「渋味」について1~10点の10段階で評価を行い、パネラー5名の評価スコアの平
均値を計算した。ここで、「味の厚み」とは、味の広がり、複雑さ、ボディ感付与等によ
り認識される香味感覚をいう。「味の厚み」についてはサンプル番号1のサンプル飲料を
3点、サンプル番号4のサンプル飲料を8点とし、4点以上を味の厚みが増したと判断し
た。また、「渋味」についてはサンプル番号1のサンプル飲料を1点、サンプル番号4の
サンプル飲料を5点とし、8点以上の場合には飲料全体の香味として不適なレベルの渋味
であると判断した。
【0058】
官能評価の結果は表3と
図2に示される通りであった。
【表3】
【0059】
表3の結果から、ビールテイストノンアルコール飲料であっても、800~1500D
aのペプチド比率を高めることにより「味の厚み」が向上することが確認された。一方、
800~1500Daのペプチド比率を高めていくと、味の厚みは増加する一方で渋味が
強くなり香味バランスを崩す恐れがあるため、その上限値は60%程度とすることが望ま
しい。