IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

<>
  • 特許-圃場排水栓及び圃場貯水管理システム 図1
  • 特許-圃場排水栓及び圃場貯水管理システム 図2
  • 特許-圃場排水栓及び圃場貯水管理システム 図3
  • 特許-圃場排水栓及び圃場貯水管理システム 図4
  • 特許-圃場排水栓及び圃場貯水管理システム 図5
  • 特許-圃場排水栓及び圃場貯水管理システム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】圃場排水栓及び圃場貯水管理システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
A01G25/00 501D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022201856
(22)【出願日】2022-12-19
(62)【分割の表示】P 2021171514の分割
【原出願日】2017-12-25
(65)【公開番号】P2023021422
(43)【公開日】2023-02-10
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】末吉 康則
(72)【発明者】
【氏名】森田 仁
(72)【発明者】
【氏名】陳 巨壹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 好宏
(72)【発明者】
【氏名】武内 利樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 雅司
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-224502(JP,A)
【文献】特許第7198897(JP,B2)
【文献】特開平06-276868(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102172202(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の水位を調整可能な圃場排水栓であって、
圃場の排水水位を調整する排水水位調節機構と、
管理サーバ、または、降水を圃場に貯水する必要があるか圃場から排水が可能かを判断する貯水判断部から、圃場に降雨による水を貯める貯水指令が出力されると、前記排水水位調節機構を作動して、圃場の排水水位を通常の排水水位より高い貯水水位に切り替え、圃場に貯水された水を排出する排水指令が出力されると、前記排水水位調節機構を作動して、圃場の排水水位を前記通常の排水水位に切り替える排水水位制御部と、
を備え
前記排水水位制御部は、
圃場の水位を計測する水位センサにより計測された圃場の水位の上昇速度が所定の値を超えた場合に出力される前記貯水指令に基づいて、前記排水水位調節機構を作動させる、
圃場排水栓。
【請求項2】
前記排水水位制御部は、
前記上昇速度の値にかかわらず、気象情報に基づいて所定降水量より多い降雨が発生しており、かつ、圃場に設置された圃場給水栓が開放されている場合に出力される前記貯水指令に基づいて前記排水水位調節機構を作動させる、
請求項1記載の圃場排水栓。
【請求項3】
前記排水水位制御部は、
前記上昇速度の値にかかわらず、前記気象情報に基づいて降雨が発生していないと判断され、かつ、前記圃場給水栓が開放されている場合に出力される前記排水指令に基づいて前記排水水位調節機構を作動させる、
請求項2記載の圃場排水栓。
【請求項4】
請求項3記載の圃場排水栓と、
前記貯水指令及び前記排水指令を出力可能な前記管理サーバと、
を備えている圃場貯水管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場排水栓及び圃場貯水管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、豪雨時に水田に貯水する「田んぼダム」機能を働かせて自動的に一定水量を貯水して、河川への雨水の流出を抑制することを可能とする水田用貯水量調整装置が開示されている。
【0003】
当該水田用貯水量調整装置は、水田側に配置する前側を開放にし、方形状底版の奥側には下端部に排水孔を設けた垂直壁を配置し、該底版の両側に一対の側壁を配置してコ字状に形成した、水田の畔近傍に設置される水田用排水桝の該排水孔に、排水管の一方端を取り付け、該排水管の他方端を排水路に連結している。
【0004】
そして、一対の側壁の対向位置に、土留板差し戸口を設けると共に、該土留板差し戸口と前記垂直壁のほぼ中間位置に貯水量調整板差し戸口を設け、前記土留板差し戸口には、土壌面とほぼ同じ高さの土留板を垂直に差し込むとともに、該土留板上に載置した時に営農水位となる高さの営農水位調整板を垂直に差し込み、前記貯水量調整板差し戸口には、上端高さを稲の生育状態に合わせた任意の高さである貯水水位とほぼ同じ高さに形成し、下部に排水量調整孔を穿設した貯水量調整板を垂直に差し込むように構成している。
【0005】
通常雨量の場合は、営農水位調整板を越えて貯水量調整板との間の空間部に入った雨水が、貯水量調整板の排水量調整孔から排水孔に取り付けられた排水管を介して排水路へ排水して水田の営農水位を保持し、豪雨の場合は、営農水位調整板を越えて空間部に入った雨水は排水量調整孔からの排出量を上回り、空間部の水位が徐々に上昇し、やがて雨水は貯水量調整板の上端高さに設定した貯水水位を超えて越流させて、貯水量調整高さに越流高さを加えた高さの最高貯水水位まで雨水を貯め、水田の稲の冠水、畔の損壊する事態を防止するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-120510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、豪雨による水害を回避すべく圃場に貯水する必要がある度に各圃場に備えた水田用貯水量調整装置の貯水量調整板を操作する作業が必要となるばかりか、雨が降り止み圃場の水位を通常水位に戻す場合にも各圃場に備えた水田用貯水量調整装置の貯水量調整板を操作する作業が必要となり、その都度多数の圃場に備えた水田用貯水量調整装置の貯水量調整板を操作するという非常に煩雑な作業が要求される。
【0008】
また、一部の圃場のみ雨水を貯留可能に貯水量調整板が操作されても、他の圃場で貯水量調整板が操作されなければ十分な効果が得られず、圃場の管理者がそれぞれ異なる場合に、如何にして連系して貯水量調整板を操作するように活動できるかという点でも課題があった。
【0009】
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、降水量の多い時に多数の圃場を速やかに貯水池として機能させ、その後排水路からの溢水が生じないように圃場から適切に排水することができる圃場排水栓及び圃場貯水管理システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明による圃場排水栓の第一の特徴構成は、圃場の水位を調整可能な圃場排水栓であって、圃場の排水水位を調整する排水水位調節機構と、管理サーバ、または、降水を圃場に貯水する必要があるか圃場から排水が可能かを判断する貯水判断部から、圃場に降雨による水を貯める貯水指令が出力されると、前記排水水位調節機構を作動して、圃場の排水水位を通常の排水水位より高い貯水水位に切り替え、圃場に貯水された水を排出する排水指令が出力されると、前記排水水位調節機構を作動して、圃場の排水水位を前記通常の排水水位に切り替える排水水位制御部と、を備え、前記排水水位制御部は、圃場の水位を計測する水位センサにより計測された圃場の水位の上昇速度が所定の値を超えた場合に出力される前記貯水指令に基づいて、前記排水水位調節機構を作動させる点にある。
【0011】
管理サーバから貯水指令、または、排水指令が出力されると、各圃場の排水水位調節機構が排水水位制御部によって自動制御されるので、例えば、降水量の多い時に多数の圃場を速やかに貯水池として機能させ、その後排水路からの溢水が生じないように圃場から適切に排水することができる。
【0012】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記排水水位制御部は、前記上昇速度の値にかかわらず、気象情報に基づいて所定降水量より多い降雨が発生しており、かつ、圃場に設置された圃場給水栓が開放されている場合に出力される前記貯水指令に基づいて前記排水水位調節機構を作動させる点にある。
【0013】
同第三の特徴構成は、上述の第二の特徴構成に加えて、前記排水水位制御部は、前記上昇速度の値にかかわらず、前記気象情報に基づいて降雨が発生していないと判断され、かつ、前記圃場給水栓が開放されている場合に出力される前記排水指令に基づいて前記排水水位調節機構を作動させる点にある。
【0016】
本発明による圃場貯水管理システムの第一の特徴構成は、前記圃場排水栓と、前記貯水指令及び前記排水指令を出力可能な前記管理サーバと、を備えている点にある。
【発明の効果】
【0018】
以上説明した通り、本発明によれば、降水量の多い時に多数の圃場を速やかに貯水池として機能させ、その後排水路からの溢水が生じないように圃場から適切に排水することができる圃場排水栓及び圃場貯水管理システムを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】圃場及び圃場貯水管理システムの説明図
図2】(a),(b),(c)は圃場排水栓の説明図
図3】圃場貯水管理システムの説明図
図4】圃場貯水管理システムの貯水及び排水手順を示すフローチャート
図5】圃場貯水方法の貯水時の手順を示すフローチャート
図6】圃場貯水方法の排水時の手順を示すフローチャート
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明による圃場排水栓、圃場貯水管理システム、貯水管理サーバ及び圃場貯水方法を説明する。
【0021】
図1に示すように、稲作が行なわれている各圃場1には、給水管10に流れる用水を、導水路11を介して圃場1に導く圃場給水栓12、圃場1の水を、放水路21を介して排水路20に排水する圃場排水栓22が設けられ、圃場1の近傍にはインターネット40との接続を中継するWi-Fiルータ30などの中継器が設置されている。さらに、圃場1の水位を計測する水位センサ2が設けられ、圃場排水栓22の近傍の排水路20には排水路20の水位を計測する水位センサ3が設けられている。
【0022】
水位センサ2で検出された圃場1の水位データは圃場給水栓12に備えた通信部に入力され、当該通信部からWi-Fiルータ30を介して圃場排水栓22の通信部や圃場管理サーバ50に送信されるように構成されている。また、水位センサ3により検出された排水路20の水位データは圃場排水栓22に備えた通信部に入力され、当該通信部からWi-Fiルータ30を介して圃場管理サーバ50に送信されるように構成されている。なお、水位センサ2の出力が圃場給水栓12に、水位センサ3の出力が圃場排水栓22に直接入力されるように構成されていてもよい。
【0023】
図2(a),(b),(c)に示すように、圃場排水栓22は、ケーシング22Cと、ケーシング22Cの上部に姿勢調整自在に取り付けられた太陽光パネル22Aと、ケーシング22Cの内部に収容されたバッテリ22D、電動モータ22E、筒状の排水堰22H、排水堰22Hを昇降する昇降体22G、昇降体22Gを昇降駆動するギヤ22F、制御基板22Iを備えて構成されている。制御基板22Iには、Wi-Fiルータ30に対する通信インタフェースや電動モータ22Eに対する制御部が組み込まれている。
【0024】
太陽光パネル22Aによる発電電力がバッテリ22Dに蓄電され、バッテリ22Dから制御基板22I及び電動モータ22Eに電力が供給されるように構成されている。図2(c)に示すように、電動モータ22Eによって排水堰22Hが上昇駆動されると、貯水モードとなり圃場1からの排水水位が上昇し、図2(b)に示すように、排水堰22Hが下降駆動されると、排水モードとなり圃場1からの排水水位が下降する。
【0025】
圃場給水栓12は、排水堰22Hに代えて給水弁を備えている点を除いて圃場排水栓22とほぼ同様に構成されている。
【0026】
圃場管理サーバ50は、稲の育成スケジュールに従って、各圃場1に対して給水管理及び排水管理するべく圃場給水栓12及び圃場排水栓22を遠隔操作するように構成されている。
【0027】
例えば、田植え時期、幼穂形成期、穂ばらみ期、出穂期、登熟期、収穫期など各時期に稲を適切に育成すべく圃場水位を適切な水位に管理する。そのため各時期に応じて圃場排水栓22の排水堰22Hの高さを遠隔操作して調整した後に、圃場給水栓12の給水弁を遠隔操作して開放し、水位センサ2で検出される水位が所定水位になるまで給水管10から給水するとともに、その後所定期間が経過すると必要に応じて排水堰22Hの高さを遠隔操作で調整して所定水位まで排水するように構成されている。
【0028】
さらに当該圃場管理サーバ50は、上述した稲の育成のための給排水の管理に加えて、多量の降雨時に圃場1に一時的に貯水することで水害の発生を回避する貯水管理サーバとして機能するように構成されている。そのため、圃場管理サーバ50には、各圃場排水栓22及び各水位センサ2,3と通信し、各圃場1に降雨による水を貯める貯水指令、または、各圃場1に貯水された水を排出する排水指令を送信する貯水管理部51を備えている。
【0029】
即ち、圃場管理サーバ50(貯水管理部51)と、圃場1または排水路20の水位を計測して、計測水位を外部機器となる圃場管理サーバ(貯水管理サーバ)50に送信する水位センサ2,3と、各圃場1に備えた圃場排水栓22により圃場貯水管理システム100が構成されている。
【0030】
図3に示すように、当該圃場排水栓22は、圃場1の排水水位を調整する排水水位調節機構として機能する電動モータ22E及び排水堰22Hと、排水水位調節機構を作動して、圃場1の排水水位を通常の排水水位LL(図2(b)参照。)と通常の排水水位より高い貯水水位HL(図2(c)参照。)との何れかに切り替える排水水位制御部223と、固有の識別情報が設定され、貯水管理サーバ50及び水位センサ3と通信する通信部221と、貯水判断部222と、水位計測信号やデータ通信信号により排水路20の水位情報を取得する水位情報取得部224を備えている。なお、通常の排水水位LLは固定水位ではなく、上述した田植え時期、幼穂形成期、穂ばらみ期、出穂期、登熟期、収穫期などの各時期に応じて適宜設定された水位をいう。
【0031】
複数の圃場排水栓22にそれぞれ設定された固有の識別情報により各圃場排水栓22が一意に特定され、各識別情報と地図上の圃場位置が関連付けられた地図情報として、貯水管理サーバ50の記憶部に記憶されている。
【0032】
各水位センサ2,3は、圃場1または排水路20の水位を計測する水位計測部と、水位計測部による計測水位を外部機器に送信する送信部とを備え、送信部には、固有の識別情報が設定されている。水位センサ2,3に付された固有の識別情報と地図上の圃場1の位置または排水路20の位置が関連付けられた地図情報として、貯水管理サーバ50の記憶部に記憶されている。
【0033】
なお、本実施形態では、圃場1の水位センサ2に備えた送信部を介して計測水位が圃場給水栓12を介して貯水管理サーバ50に間接的に送信されるように構成され、排水路20の水位センサ3に備えた送信部を介して計測水位が近傍の圃場排水栓22を介して貯水管理サーバ50に間接的に送信されるように構成されているが、各水位センサ2,3の送信部を介して計測水位が貯水管理サーバ50に直接送信されるように構成されていてもよい。また、各水位センサ2,3は、圃場給水栓12や圃場排水栓22などの送信部を有する装置に水位計測部が接続され、当該送信部が水位情報を送信するように構成していてもよい。
【0034】
貯水管理サーバ50に備えた貯水管理部51は、水位センサ2,3により計測された水位情報から広域での降水量分布を把握することができ、各圃場排水栓22の排水水位の状態も把握できるようになる。貯水管理部51は、少なくともこれらの情報に基づいて、貯水水位に切り替えるべき圃場排水栓22、通常の排水水位に切り替えるべき圃場排水栓22を適切に選択して遠隔制御することにより、広域での水害の発生の未然防止を図ることができる。
【0035】
具体的に、貯水管理部51は、少なくとも各水位センサ2から送信された圃場水位の上昇速度及び識別情報から特定される所定地域ごとに貯水するか否かを判断し、貯水する旨の判断を行なった場合には、該当する圃場排水栓22に貯水指令を送信するように構成され、貯水指令を受信した圃場排水栓22の貯水判断部222は、排水堰22Hを貯水水位に調整するように構成されている。
【0036】
各水位センサ2から送信された圃場水位の上昇速度及びその地域に基づいて、水害が発生する虞がある地域が特定され、当該地域に対応して貯水の必要な圃場が迅速に特定されるようになる。
【0037】
また、貯水管理部51は、何れかの地域で貯水が必要であると判断すると、その地域より標高の低い所定地域に対しても貯水が必要であると判断し、対象地域の圃場排水栓22にも貯水指令を出力するように構成されている。圃場水位の上昇速度が高い地域が把握され、当該地域及び当該地域より標高が低い地域の圃場で貯水されると、水害の発生がより確実に回避されるようになる。
【0038】
貯水管理部51は、水位センサ2から送信された圃場水位の上昇速度に加えて、圃場給水栓12の状態、及び、気象庁や地方自治体などが管理する気象情報提供サーバからの気象情報を加味して貯水指令を出力するように構成されていることが好ましい。圃場給水栓12が開放されることにより水位が上昇しているのか、降雨により水位が上昇しているのかが正確に判別できるようになる。
【0039】
例えば、気象情報に基づいて降雨が発生していないと判断でき、圃場給水栓12が開放されている場合には、圃場の水位上昇速度が貯水指令を出力する必要がある値であっても、貯水指令を出すことなく、圃場管理サーバ50としての本来の機能に従った圃場1の水位調整を継続する。
【0040】
また、例えば、気象情報に基づいて降雨が発生しており、その降水量が所定降水量より多いと判断できる場合に、圃場給水栓12が開放されていれば、本来の機能に従った圃場1の水位調整に割込みをかけて圃場給水栓12を閉塞するとともに、圃場排水栓22に対して貯水指令を出力する。
【0041】
そして、貯水管理部51は、貯水が必要であると判断し、貯水指令を出力した後、少なくとも各水位センサ3から送信された排水路20の水位及び識別情報から特定される所定地域ごとに排水が可能か否かを判断し、可能と判断した圃場排水栓22に対して排水指令を出力するように構成され、排水指令を受信した圃場排水栓22の貯水判断部222は、排水堰22Hを排水水位に調整するように構成されている。
【0042】
降雨が止んだ後に、貯水された圃場1から一斉に排水されると排水路20の溢流による水害の発生の虞がある。そこで、水位センサ3の識別情報から排水路20の位置を把握し、当該排水路20の水位に基づいて溢流が生じないように地域ごとに圃場排水栓からの排水を許容するか否かが判断される。
【0043】
貯水管理部51は、何れかの地域で排水が可能であると判断すると、標高の低い地域を標高の高い地域に優先して排水するように判断する。排水可能な地域の圃場排水栓22の全てから一斉に排水されると、排水路20から溢流した水で二次災害が生じる虞がある。そこで、標高の低い地域を標高の高い地域に優先して排水することで、各圃場の貯水を排水路に安全に排水することができるようになる。
【0044】
図4に示すように、本発明による圃場貯水方法は、地域ごとに圃場または排水路の水位を検出して降水量を推定する降水量推定ステップと(S1)、推定した降水量に基づいて貯水の要否を判断する貯水判断ステップと(S2)、前記貯水判断ステップで貯水が必要と判断されると、該当する地域及びその地域より標高の低い地域の圃場に備えた圃場排水栓の排水水位を上げて貯水する貯水ステップと(S3)、貯水ステップの後に、貯水された圃場から排水が可能か否かを排水路の水位に基づいて判断する排水判断ステップと(S4)、前記排水判断ステップで排水が可能と判断されると、該当する地域のうち標高の低い地域を標高の高い地域に優先して排水する排水ステップと(S5)、を含む。
【0045】
上述した実施形態では、貯水管理サーバ50によって、複数の圃場1に備えた各圃場排水栓22が統括的に遠隔制御される態様を説明したが、各圃場1に備えた圃場排水栓22が独自に貯水するか否かを判断して貯水し、さらに貯水後に排水するように構成されていてもよい。
【0046】
当該圃場排水栓22は、圃場1の排水水位を調整する排水水位調節機構22E,22Hと、降水を圃場1に貯水する必要があるか圃場1から排水が可能かを判断する貯水判断部222と、貯水判断部222から貯水指令が出力されると、排水水位調節機構22E,22Hを作動して、圃場1の排水水位を通常の排水水位より高い貯水水位に切り替え、貯水判断部222から排水指令が出力されると、排水水位調節機構22E,22Hを作動して、圃場1の排水水位を通常の排水水位に切り替える排水水位制御部223と、を備えている。
【0047】
また、貯水判断部222は、圃場1に設置された水位センサ2により検出された水位の上昇速度を指標にして貯水が必要か否かを判断するように構成されている。単に、水位の上昇速度が所定の値より大きければ貯水指令を出力するのではなく、所定時間継続する場合に貯水指令を出力するように構成することが好ましい。
そして、貯水判断部222は、排水路20に設置された水位センサ3により検出された水位を指標にして排水が可能か否かを判断するように構成されている。排水路22の水位が高いときに圃場1からの排水が流入すると排水路20から溢流して水害につながる虞があるが、水位センサ3により検出された排水路20の水位に基づき排水が可能か否かを判断することにより、排水路20からの溢流による二次災害の発生を未然に回避することができる。
【0048】
図5に示すように、貯水判断部222は、圃場給水栓12が閉塞されている場合に(SA1)、降雨があると(SA2)、水位センサからの出力に基づいてその水位をモニタし(SA3)、水位の上昇速度を指標にして所定の値を超えると貯水が必要と判断すると(SA4)、排水水位を貯水水位に切換える(SA5)。ステップSA2で降雨と判断されない場合、及びステップSA4で水位の上昇速度が所定の値を下回っていれば、排水水位を通常水に設定する(SA6)。
【0049】
図6に示すように、排水水位が貯水水位に設定され、貯水状態にある場合に(SB1)、降雨が止み(SB2)、所定条件が満たされると(SB3)、排水水位を通常水位に切替えて排水処理される(SB4)。
【0050】
降雨が発生したか否か、或いは止んだか否かは、気象庁や地方自治体などが管理する気象情報提供サーバからの気象情報をWi-Fiルータ30を介して入手し、あるいは、別途備えた降雨センサの出力に基づいて判断することができる。圃場の水位は水位センサ2で検出され、圃場給水栓12、Wi-Fiルータ30を経由して得られる。上記実施形態では、降雨情報を得るステップを踏んでいるが、降雨情報なく制御する構成であってもよい。このようにして、各圃場1が個別に貯水、排水制御を行なうように構成することもできる。
【0051】
以上説明した実施形態は本発明の一例に過ぎず、該記載により本発明の技術的範囲が限定されることを意図するものではなく、圃場排水栓、圃場貯水管理システム及び貯水管理サーバの具体的な構成は本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0052】
100:圃場貯水管理システム
1:圃場
2:水位センサ(圃場)
3:水位センサ(排水路)
10:給水管
12:圃場給水栓
20:排水路
22:圃場排水栓
30:Wi-Fiルータ
40:インターネット
50:圃場管理サーバ(貯水管理サーバ)
51:貯水管理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6