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特許7557543フレームに対して触媒のない端部を有する燃料電池用の膜電極接合体(MEA)の製造方法、MEA、およびMEAを用いた燃料電池
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  • 特許-フレームに対して触媒のない端部を有する燃料電池用の膜電極接合体(MEA)の製造方法、MEA、およびMEAを用いた燃料電池 図1
  • 特許-フレームに対して触媒のない端部を有する燃料電池用の膜電極接合体(MEA)の製造方法、MEA、およびMEAを用いた燃料電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】フレームに対して触媒のない端部を有する燃料電池用の膜電極接合体(MEA)の製造方法、MEA、およびMEAを用いた燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20240919BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20240919BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240919BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/0273
H01M8/10 101
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022553002
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2021055546
(87)【国際公開番号】W WO2021180576
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】16/812,630
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522100316
【氏名又は名称】セルセントリック・ゲーエムベーハー・ウント・コー・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】オーウェン・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ケピン・ワング
(72)【発明者】
【氏名】カルメン・チュイ
(72)【発明者】
【氏名】ユンソン・ヤン
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-245797(JP,A)
【文献】特開2017-054727(JP,A)
【文献】特開2018-206626(JP,A)
【文献】特開2010-198950(JP,A)
【文献】特表2008-508686(JP,A)
【文献】特開2006-202535(JP,A)
【文献】特開2005-166624(JP,A)
【文献】特開2013-101986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1004
H01M 8/0273
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用の膜接合体の製造方法であって、前記膜接合体が、
第1の面と第2の面とを有する膜と、
前記膜の前記第1の面に配置される第1の触媒層と、前記膜の前記第2の面に配置される第2の触媒層と、
前記膜の少なくとも前記第1の面に配置されるフレームであって、前記第1の触媒層の主延伸方向の平面において前記第1の触媒層を囲む前記フレームと、
前記第1の触媒層と前記フレームとの間のギャップと、
を備える前記方法において、
前記第1の触媒層と同じ材料からなる第1のデカール層を、前記膜の前記第1の面に配置される前記フレームに対して、前記第1のデカール層が前記フレームに重なるように、前記膜の第1の面に配置するステップと、
前記第2の触媒層と同じ材料からなる第2のデカール層を、前記膜の前記第2の面に配置するステップと、
前記膜の前記第1の面に前記第1の触媒層が配置され、および前記膜の前記第2の面に前記第2の触媒層が配置されるように、前記第1のデカール層および前記第2のデカール層を、その中間に位置する前記膜と前記フレームとともに、互いにプレスするステップと、
により特徴付けられるものであり、
前記ギャップが、前記プレスにより形成される、前記方法。
【請求項2】
前記第2のデカール層の前記配置は、前記第2のデカール層が前記膜の前記第2の面への前記フレームの投影と重なるように行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プレスは、前記第1のデカール層の側および前記第2のデカール層の側の2つのプレス面で行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のデカール層および前記第2のデカール層の前記配置の前に、前記フレームが別個のプレス処置によって前記膜上に配置されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のデカール層および前記第2のデカール層の前記配置の前に、前記フレームが前記膜に固定されるように前記膜上に配置され、その後前記第1のデカール層および前記第2のデカール層を互いにプレスするステップが続くことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記フレームの厚さが、前記ギャップの幅を調整するために変化させられることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
燃料電池用の膜接合体であって、
第1の面と第2の面とを有する膜と、
前記膜の前記第1の面に配置される第1の触媒層と、前記膜の前記第2の面に配置される第2の触媒層と、
前記膜の少なくとも前記第1の面に配置されるフレームであって、前記触媒層の主延伸方向の平面において前記第1の触媒層を囲む前記フレームと、
前記第1の触媒層と前記フレームとの間のギャップと、
を備える前記膜接合体において、
前記第1の触媒層が、デカール転写により前記第1の触媒層と同じ材料からなる第1のデカール層から形成され、かつ、前記第2の触媒層が、デカール転写により前記第2の触媒層と同じ材料からなる第2のデカール層から形成され、および
前記第1の触媒層と前記フレームとの間の前記ギャップが、前記フレームと重なる前記第1のデカール層および前記第2のデカール層を、その中間の前記膜と前記フレームとともに、互いにプレスすることによって、前記デカール転写により形成されることを特徴とする、前記膜接合体。
【請求項8】
前記第1の触媒層および前記第2の触媒層がそれぞれ電極を形成することを特徴とする、請求項7に記載の膜接合体。
【請求項9】
前記第1の触媒層と前記第2の触媒とが、前記膜に平行なそれらの延伸に対して、少なくとも完全に重なっていることを特徴とする、請求項7または8に記載の膜接合体。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか1項に記載の膜接合体を少なくとも1つ有する燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の膜接合体の製造方法に関するものであり、この膜接合体は、第1の面と第2の面とを有する膜と、この膜の第1の面に配置される第1の触媒層と、この膜の第2の面に配置される第2の触媒層と、この膜の少なくとも第1の面に配置され第1の触媒層の主延伸方向の平面において第1の触媒層を囲むフレームと、第1の触媒層とフレームとの間のギャップとを備える。また、本発明の他の態様は、上記方法により製造される燃料電池用の膜接合体に関する。本発明のさらなる態様は、膜接合体を有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
膜接合体は、しばしば膜電極接合体(MEA)とも呼ばれ、燃料電池での使用でよく知られている。このような膜接合体がフレームを備える場合、膜電極フレーム接合体(MEFA)とも称される。燃料電池は、電源回路が閉じられると、燃料、例えば水素を、電気エネルギー、特に電流をもたらす電圧に変換するように構成される。
【0003】
燃料電池用の膜接合体は、電解質とも呼ばれる膜と、電極ともいうことができる第1および第2の触媒層とを備える。多数の燃料電池を組み合わせて燃料電池のスタックとすることができる。スタックの各燃料電池は、それぞれ膜接合体を備えることができる。
【0004】
現在の膜接合体、特に膜電極フレーム接合体は、フレームと触媒層との間の端部で破損しやすい傾向がある。このような破損は、触媒層とフレームとが対向する領域において、化学的劣化によって引き起こされ得る。この領域では、フレームと触媒層とが対向するところを、フレームをおおうガス拡散層とすることができる。このようなガス拡散層は、膜接合体の両面に配置されていてもよい。化学的劣化は、この領域におけるいわゆる「局所OCV(開回路電圧)」タイプの状態によって引き起こされる可能性がある。OCV型の劣化は、過酸化水素および関連するラジカルが、水素が膜を通って拡散してカソードで酸素と反応することによって、または酸素が膜を通って拡散してアノードで水素と反応することによって、形成されるときに起こる。
【0005】
特許文献1は、MEAと、MEAをその間に挟むアノードとカソードのセパレータとをそれぞれ有する1つ以上のセルのスタックを備える固体高分子型燃料電池を示している。燃料電池の電極層は、周辺領域を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】EP 1 876 666 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記化学的劣化の問題を克服することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、独立請求項の、膜接合体、膜接合体の製造方法、および燃料電池によって解決される。有利な実施形態および実用的な改善は、従属請求項の主題である。
【0009】
本発明は、上述した劣化はフレームの領域に触媒層が存在しない場合に止められるという考えに基づいている。つまり、第1の触媒層とフレームとがそれらの間のギャップによって完全に分割されるように膜接合体を形成するという考えの一部である。つまり、このギャップは、フレームを第1の触媒層から隔てることになっている。このギャップは、少なくとも実質的に一定の幅を有していてもよい。この場合も、換言すれば、この幅は、フレームと触媒層、特に第1の触媒層とフレームとが互いに離れている距離であってもよい。
【0010】
本方法は、燃料電池用の膜接合体を製造するのに好適であり、この膜接合体は、第1の面と第2の面とを有する膜と、この膜の第1の面に配置される第1の触媒層と、この膜の第2の面に配置される第2の触媒層と、この膜の少なくとも第1の面に配置されるフレームであって、第1の触媒層の主延伸方向の平面において第1の触媒層を囲むフレームと、第1の触媒層とフレームとの間のギャップと、を備える。
【0011】
このような膜接合体を製造するための容易かつ費用対効果の高い方法を可能にするために、この製造方法は、以下のステップ、すなわち
第1の触媒層と同じ材料からなる第1のデカール層を、膜の第1の面に配置されるフレームに対して、第1のデカール層がフレームに重なるように、膜の第1の面に配置するステップと、
第2の触媒層と同じ材料からなる第2のデカール層を、膜の第2の面に配置するステップと、
第1のデカール層および第2のデカール層を、その中間に位置する膜とフレームとともに、互いにプレスするステップと、
を備えることが想定される。
【0012】
フレームと第1の触媒層の両者が膜の第1の面に配置されている場合、フレームは、第1の触媒層の周りに閉ループを形成してもよい。いくつかの実施形態では、フレームが膜の第1の面および第2の面の両方に配置されることが想定され得る。これらの実施形態において、フレームは、それぞれ膜の異なる側に配置される2つの部分を含んでもよい。この場合、膜の第1の面はフレームの第1の部分で囲まれていてもよく、第2の触媒層はフレームの第2の部分で囲まれていてもよい。本発明の範囲内で「囲まれる」とは、特に完全に囲まれることを意味する。換言すれば、膜の第1の面は、第1の触媒層の主延伸方向の平面においてフレームによって完全に取り巻かれるか、または囲まれ得る。第1の触媒層とフレームとの間には予備領域があり、これがギャップを形成している。つまり、ギャップにはフレームの一部も第1の触媒層の一部も膜上に配置されていない。上述したように、ギャップは、第1の触媒層とフレームとの間に一定のバルブを有していてもよい。
【0013】
第1の触媒層は、デカール転写プロセスにおいて第1のデカール層から作製される。第2の触媒層は、デカール転写プロセスにおいて第2のデカール層から作製される。このデカール層プロセスは、第1および第2のデカール層を互いにプレスするとともに、第1のデカール層および第2のデカール層を位置決めする上述のステップを含んでいてもよい。本発明の製造方法は、互いにプレスする第1のデカール層と第2のデカール層との間に位置する膜とフレームとの厚さが一定ではないことを利用している。膜とフレームの組み合わせは、フレームの一部が膜上に配置される膜の領域の厚さが大きい。換言すれば、膜およびフレームは、フレームが延びる領域においてより大きな厚さを有する。同様に、フレームが延びていない領域では、厚さは膜の厚さに等しい。フレームが伸びる領域では、厚さは膜の厚さにフレームの厚さを加えたものに等しくなる。したがって、フレームが膜上に配置される領域では、フレームによって覆われていない膜の領域と比較して自動的により高い圧力が加えられる。これは、第1および第2のデカール層を互いにプレスする2つのそれぞれのプレス面を有するプレス機が平面であるときでさえも保証される。フレームからの距離が長くなるにつれて、プレスする間に加えられる圧力は増加する。つまり、ギャップが位置するはずの場所に最低の圧力がかかる。この結果、第1のデカール層は、フレームの隣の膜の第1の面に接着しない。フレームが配置されるギャップの第1の面では、フレームが適切な材料で作られている場合、第1のデカール層は等しく接着しない。換言すれば、フレームは、第1のデカール層が接着しない材料から作製することができる。第1の触媒層が形成されるはずのギャップの第2の面には、第1のデカール層を膜に接着させるのに十分な圧力がかかる。そのため、デカール層の接着部が第1の触媒層を形成する。
【0014】
第1のデカール層と第2のデカール層とを互いにプレスする前に、両方のデカール層が位置決めされる。第1のデカール層がフレームに重なっていることが想定できる。有利には、第1のデカール層は、フレーム、ギャップおよび第1の触媒層によって共に覆われている膜の領域よりも大きな寸法を有する。上記領域は、第1のデカール層によって完全に重ね合わせることができる。第2のデカール層は、第1のデカール層と同様に、少なくとも実質的に同じサイズを有し得る。第2のデカール層は、第1のデカール層と同様に、しかし膜の第2の面に配置されてもよい。例えば、第2のデカール層は、膜の平面へのその投影が平面への第1のデカール層の投影と等しくなるように配置され得る。
【0015】
次のステップでは、両方のデカール層が互いにプレスされる。これは、膜の第1の面に位置するフレームを伴う膜が、第1のデカール層と第2のデカール層の間に配置されている間に起こる。第1および第2のデカール層を位置決めしながら、および/または、それらを互いにプレスしながら、デカール層をそれぞれの基板上に配置することができる。基板は、デカール層の取り扱いを容易にし、プレスおよび/または位置決め中にそれらを安定させることができる。プレスはホットプレスによって行うことができる。例えば、プレスは、第1および第2のデカール層並びにその間の膜およびフレームを有する2つのプレス面を互いにプレスすることによって行われる。プレスのために、両方のデカール層は、膜の第1または第2の面に部分的に接着する。膜の第1の面に接着するデカール層の部分には、第1の触媒層を形成することができる。膜の第2の面に接着する第2のデカール層の部分には、少なくとも本質的に第2の触媒層を形成することができる。
【0016】
場合によっては、第2のデカール層の別の部分が、膜が第1の面でフレームに触れる領域と反対側のその第2の面で膜に付着し得る。これを追加の触媒層と呼ぶことができる。追加の触媒層は、膜接合体または膜接合体で構成される燃料電池の使用特性に影響を及ぼさない。追加のギャップは、膜の第1の面のギャップのちょうど反対の位置にある膜の第2の面に形成されてもよい。これは、第1および第2の触媒層が膜のそれぞれの面にわたって同じ延伸を有し得るという事実による。
【0017】
本製造方法は、フレームと触媒層とを有し、フレームと触媒層との間にギャップを有する膜接合体を製造する簡単な方法を提供する。第1および第2のデカール層は、結果として得られる膜接合体よりもはるかに大きな延伸を有することができる。ギャップを設けるために必要な第1の触媒層とフレームとの互いに慎重な位置合わせはいらない。また第1の触媒層と第2の触媒層とを互いに慎重に位置合わせする必要はない。反対に、ギャップは、フレームと第1の触媒層とを互いに精密または正確に位置決めすることなく、製造方法の間に自動的に形成される。
【0018】
本発明のさらなる発展によれば、第2のデカール層の位置決めは、デカール層が第2のデカール層の平面へのフレームの投影と重なるように行われることが想定される。換言すれば、第2のデカール層は、第2のデカール層の平面へのフレームまたはその投影を重ねることができる。有利には、この重なりは、フレームに対する第1のデカール層の重なりと同様である。特に、第2のデカール層は、フレームまたはその投影をあらゆる方向にそれぞれ重ねてもよい。特に第2のデカール層は、フレーム、ギャップ、および第1の触媒層の第2のデカール層の平面への投影に重なり得る。第1および第2の触媒層は、互いに反対側のそれぞれ異なる面の膜上に配置されることが保証される。換言すれば、膜の平面への第1および第2の触媒層の投影は、少なくとも実質的に等しくすることができる。
【0019】
さらなる展開によれば、このプレスは、フレームと重なる2つのプレス面の両方で行われる。換言すれば、2つのプレス面は、それぞれフレーム、ギャップおよび第1または第2の触媒層を重ね合わせることができる。それにより、適切な圧力が、ギャップ、第1および第2の触媒層を形成するために加えられることが確保される。
【0020】
さらなる展開によれば、第1の触媒層および第2のデカール層の位置決めの前に、フレームが別個のプレス処置によって膜上に配置されることが想定される。この別個のプレス処置は、第1および第2のデカール層を互いにプレスするような同じプレスでおよび/または同じ2つのプレス面で行うことができる。特に、別個のプレス処置は、ホットプレスによるホットプレスとすることができる。別個のプレス処置の利点は、第1および第2のデカール層の位置決めが行われるときにフレームがすでに膜に固定されていることである。
【0021】
別の展開によれば、第1のデカール層および第2のデカール層の位置決めの前に、第1のデカール層および第2のデカール層を互いにプレスするのに続いて、フレームが膜に固定されるように膜上に位置決めされることが想定される。換言すれば、フレームを膜に固定することと、それぞれのデカール層から第1および第2の触媒層を形成することの両方について、1つのプレス処置のみが想定される。これは、膜接合体のより費用対効果の高い生産をもたらすことができる。
【0022】
さらなる展開によれば、フレームの厚さが、ギャップの幅を調整するために変化させられることが想定される。例えば、異なる厚さのフレームは、ギャップの異なる幅を結果として生じさせるように使用できる。ギャップの幅を調整するために使用することができる他の要因は、プレスまたはカレンダー材料の追従である。これらのパラメータはすべて、ギャップが簡単な方法で触媒なしであることを保証するために調整することができる。
【0023】
本発明の別の態様は、燃料電池用の膜接合体であって、
第1の面と第2の面とを有する膜と、
膜の第1の面に配置される第1の触媒層と、膜の第2の面に配置される第2の触媒層と、
膜の少なくとも第1の面に配置されるフレームであって、触媒層の主延伸方向の平面において第1の触媒層を囲むフレームと、
第1の触媒層とフレームとの間のギャップと、
を備える、燃料電池用の膜接合体に関する。
【0024】
このような膜接合体を製造するための容易かつ費用対効果の高い方法を可能にするために、膜接合体は、
第1の触媒層が、デカール転写により第1の触媒層と同じ材料からなる第1のデカール層から形成され、かつ、第2の触媒層が、デカール転写により第2の触媒層と同じ材料からなる第2のデカール層から形成され、および
第1の触媒層とフレームとの間のギャップが、フレームと重なる第1のデカール層および第2のデカール層を、その中間の膜とフレームとともに、互いにプレスすることによって、デカール転写により形成される、
ことを特徴とする。
【0025】
膜接合体は、それぞれのデカール層からの形成の結果として、第1および第2の触媒層の特性が異なるため、他の任意の膜接合体と区別可能である。プレスによるギャップの形成はまた、他の膜接合体と比較してギャップの異なる特性をもたらす。とりわけ、ギャップに面する第1の触媒層の端部は、例外的に一定であるギャップの幅と同様に異なることができる。得られた膜接合体は、この製造方法の範囲内で既に検討されている。第1の触媒層と第2の触媒層とは、同一の材料からなることができる。この場合、第1および第2のデカール層は、同一の材料から作製することもできる。第1および第2の触媒層は、燃料の電気エネルギーへの変換を増強するように構成することができる。第1および/または第2の触媒層は、導電性材料で作製することができる。したがって、それらは同様に電極と呼ぶことができる。電極または触媒層は、膜接合体が燃料電池の一部である場合、膜接合体または燃料電池の極にそれぞれ電気エネルギーまたは電流を伝導するように構成することができる。
【0026】
さらなる展開によれば、第1の触媒層と第2の触媒とが、膜に平行なそれらの延伸に対して、(少なくとも実質的に)完全に重なっていることが想定される。換言すれば、第1および第2のデカール層は、膜の平面内に(少なくとも実質的に)同じ投影を有し得る。例えば第1および第2のデカール層は、(少なくとも実質的に)同じサイズ、延伸および膜に平行な位置を有し得る。膜の両側における両方の触媒層の正確で等価な位置決めは、それによって保証され、膜接合体または膜接合体が属する燃料電池の有利な機能にとって極めて重要であり得る。
【0027】
本発明の第3の態様は、上述した膜接合体を備えた燃料電池に関する。換言すれば、燃料電池は、上述した膜接合体を備えることができる。換言すれば、燃料電池は、上述した製造方法で製造された膜接合体を備えることができる。
【0028】
燃料電池は、1つ以上のそのような膜接合体を含むことができる。燃料電池は、燃料電池スタックに他の燃料電池を積層することができる。なお、燃料電池スタックの燃料電池は、機械的にも電気的にも無く接続されることができる。また、電気エネルギーへの変換から燃料は、燃料電池スタックのすべての燃料電池を流れることができる。また変換の結果生じる排気ガスも、同じ排気により排気することができる。燃料電池スタックの燃料電池は、並列または直列または両方の組み合わせで電気的に接続することができる。
【0029】
燃料電池は、膜接合体を少なくとも部分的に取り囲むハウジングをさらに備えていてもよい。燃料電池は、燃料の統合を可能にするための1つ以上のガス拡散層を備えてもよい。第1のガス拡散層は、例えば、第1の触媒層の上に配置することができる。第1のガス拡散層はまた、ギャップおよび/またはフレームにわたって延びることができる。つまり、第1のガス拡散層は、第1の触媒層、ギャップおよびフレームを覆っていてもよい。第2のガス拡散層は、第2の触媒層の上に配置することができる。第2のガス拡散層は、膜の第2の面全体に亘って延びていてもよい。したがって、それは、膜および/または追加の触媒層の第2の面上の追加のギャップにわたって延び得る。
【0030】
本発明のさらなる利点、特徴、および詳細は、以下の好ましい実施形態の説明ならびに図面から導き出される。なお、先に説明した特徴および特徴の組み合わせ並びに以下の図の説明において言及する特徴および特徴の組み合わせ、および/または図に単独で示される特徴および特徴の組み合わせは、それぞれ示された組み合わせにおいてのみならず、他のいかなる組み合わせおいてもまたは単独でも、本発明の範囲を逸脱することなく採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】追加のガス拡散層を有する膜接合体の抜粋の概略断面を示す。
図2】1つのプレス処置で膜接合体を製造するための例示的なステップを示す。
図3】2つの別々のプレス処置を有する膜接合体の製造方法を示す。
図4】2つのプレス処置を有する製造方法を実行するための技術的装置を示す。
図5】膜接合体のプロトタイプを断面で模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図中、同一の要素または同一の機能を有する要素は、同一の参照符号で示されている。
【0033】
図1は、膜2と、膜2上に配置されるフレーム6と、膜の両面上の触媒層3、4とを備える膜接合体1を示している。膜接合体1が被覆される両面には、ガス拡散層8、9が設けられている。各ガス拡散層8、9は、膜接合体1の一部と考えることも、膜接合体1の一部でないと考えることもできる。
【0034】
電解質とも呼ぶことができる膜2は、第1の面18と第2の面19とを有する。膜2は、第1の面18と第2の面19との間のイオンおよび/または分子の交換を可能とするために、透過性または半透過性であり得る。第1の触媒層3は、膜2の第1の面18に配置されている。第2の触媒層4は、膜2の第2の面19に配置されている。フレーム6は、膜2の第1の面18に配置されている。第1の触媒層3および第2の触媒層4は、電極として形成することができる。つまり、触媒層3、4は、電流を流すように構成することができる。触媒層3、4は、同一の材料であっても異なっていてもよい。両触媒層3、4は、燃料から電気エネルギーへの変換を触媒するように構成することができる。例えば、燃料や周辺空気や酸素は、触媒層3、4によってエネルギーや排気ガスに変換することができる。燃料電池に配置する場合、膜接合体1は、変換を行うように配置することができる。燃料電池は、1つ以上の膜接合体1およびハウジング(図には示されていない)を備えることができる。
【0035】
第1の触媒層3内およびその周辺における触媒反応は、フレーム6における劣化の進行をもたらし得る。これは、特に、第1の触媒層3とフレーム6とが直接対向している場合に起こり得る。換言すれば、劣化は、特に、第1の触媒層3とフレーム6とが互いに接触するか、または少なくとも互いに非常に近接している場合に生じる。劣化は、この領域における局所開回路電圧タイプの状態によって引き起こされる化学的劣化であり得る。開回路電圧タイプの劣化は、水素が膜2を拡散してカソードで酸素と反応するか、または酸素が膜2を通って拡散してアノードで水素と反応することによって、過酸化水素および関連するラジカルが形成されるときに生じる。この劣化経路は、この領域に触媒層3、4が存在しない場合に遮断される。したがって、フレーム6と第1の触媒層3との間にはギャップ5が存在する。各図に示されていない他の実施形態では、フレーム6は、膜2の両面18、19に配置されてもよい。例えば、フレーム6は、少なくとも2つの部分からなっていてもよく、ここで、第1の部分が第1の面18に配置され、第2の部分が第2の面19に配置される。また、フレーム6が膜2の合わせを広げ、したがって膜2の両面18、19に触れることもできる。この場合、上述したことは、第2の触媒層4およびフレーム6についても有効である。いずれにせよ、第2の触媒層4とフレーム6の投影との間には、第2の触媒層4の平面への追加のギャップ12が存在する。この場合、フレーム6の投影の領域には第2の触媒層4の平面内に追加の触媒層11が存在する。
【0036】
第1のガス拡散層8は、第1の触媒層3、ギャップ5およびフレーム6を覆っている。ギャップ5より上の小三角形の領域を三角形領域7ともいう。つまり、第1の面18上の全ての配置は、ガス拡散層8で完全に覆われている。ギャップ5がない場合には、三角形領域は、第1の触媒層3、第1のガス拡散層8およびフレーム6の間に位置するであろう。第2の触媒層4および追加触媒層11の上に第2のガス拡散層9が配置されている。第2の触媒層9はまた、追加のギャップ12を被覆している。同様に、ギャップ5は、第1のガス拡散層8によって覆われている。
【0037】
ここで、図2を参照すると、膜接合体1を製造するための第1の可能性が示されている。例示的な方法の第1のステップS1.1において、膜2、フレーム6、第1のデカール層13および第2のデカール層14は、互いに相対的に位置決めされる。より正確には、第2のデカール層14は、膜2の第2の面19に位置する。フレーム6は、膜2の第1の面18に位置する。第1のデカール層13も、膜2の第1の面18に位置する。なお、第1のデカール層13の位置は、フレーム6に重なるように行われる。つまり、フレーム6は、膜2と第1のデカール層13との間に位置している。したがって、フレーム6は、その第1の面で膜2の第1の面18に接触し、フレーム6は、その第2の面で第1のデカール層13に接触する。フレーム6の第1の面と第2の面とは、互いに少なくとも略平行とすることができる。両デカール層13、14は、それぞれ支持体10上に配置されている。支持体10または基板は、それぞれのデカール13、14の取り扱いを容易にする。つまり、支持体10は、デカール層13、14の取り扱いを容易にする。次のステップS1.2では、プレス処置20において、デカール層13、14、膜2およびフレーム6の全体配置がプレスされる。プレス処置20により、フレーム6は膜2に強固に接続される。またデカール層13、14の一部が、膜2に強固に接続されている。特に、第1のデカール層13は、膜2の第1の面18に部分的に取り付けられる。第1のデカール層13のうち膜2に取り付けられる部分は、第1の触媒層3を形成する。特に、第2のデカール層14は、膜2の第2の面19に部分的に取り付けられる。膜2に取り付けられる第2のデカール層14の一部は、第2の触媒層4を形成する。これはステップ1.3で確認できる。このため、第1のデカール層13は、第1の触媒層3と同じ材料からなる。同様に、第2のデカール層14は、第2の触媒層4と同じ材料からなる。両方の触媒層3、4が同じ材料からなる場合、両方のデカール層13、14は等しくてもよい。
【0038】
ステップS1.2では、三角形領域7にフレーム6が存在するため、各触媒層3、4が形成される領域に比べて印加される圧力が少なくなる。勿論、フレーム6があるところにも比較的高い圧力がかかる。第1のデカール層13がフレーム6に正しく接続されていないため、デカール層は支持体10上に残り、フレーム6と第1のデカール層13とは面をなさない。膜2の第2の面19では、デカール層もフレーム6と反対側の膜2に取り付けられる。これは、追加の触媒層11の形成につながる。この追加の触媒層11は、その機能に必要ではないが、燃料電池や膜接合体1に何ら害を及ぼさない。プレス処置20の間の圧力が低いため、第1のデカール層13も第2のデカール層14も、ギャップ5および追加のギャップ12の領域において膜2に取り付けられていない。これが本製造方法の所望の効果である。
【0039】
別の可能な製造方法では、2つのプレス処置21、24が、単一のプレス処置20とは反対に想定される。段階的な図を図3に示す。第1のステップS2.1において、フレーム6は、膜2上に配置され、第1の別個のプレス処置21でプレスされる。第1の別個のプレス処置21の間、フレーム6は、膜2の第1の面18に取り付けられる。第1のプレス処置21の間、膜2を支持体30または基板に取り付けることができる。デカール層13、14の支持体10と同様に、支持体30は、膜2の取り扱いを容易にすることができる。第1のプレス処置21の後、支持体30は膜2から除去される。これは、ステップS2.2で起こり得る。次のステップS2.3では、両デカール層13、14が膜2上に位置する。このステップは、ステップS1.1と同様に、デカール層13、14が膜2およびフレーム6に対して同じように位置付けられる必要があるため、理解することができる。特に、第1のデカール層13は、第1のデカール層13がフレーム6に重なるように膜2の第1の面18上に位置する。特に、第2のデカール層14は、膜2の第2の面19上に位置する。有利には、第2のデカール層14は、デカール層14がフレーム6の投影を第2のデカール層14の平面に重ねるように位置決めされる。
【0040】
ステップS2.4では、第2のプレス処置24が行われる。そのプレス処置24により、第1の触媒層3および第2の触媒層4が形成される。ステップS2.5では、圧力を除去し、支持体10を除去する。結果は、ステップS1.2およびS1.3に従って上述したものと文字通り同じである。それぞれのプレス処置21、24に用いられるプレス面22、23は、同一でも異なっていてもよい。プレス面22および/または23は、ホットプレスまたはそれぞれのホットプレスの一部であってもよい。したがって、プレス処置21、24は、ホットプレス処置とすることができる。同様に、プレス処置20は、ホットプレス処置とすることができる。
【0041】
図4に、図3による製造方法を実行する装置の一例を示す。プレス面22は、それぞれローラ25によって提供されることができる。同様に、プレス面23は、それぞれローラ26によって提供されることができる。この装置は、以下で簡単に説明される。
【0042】
膜2とその支持体30は、フレーム6とともにローラ25に入る。ローラ25は、第1のプレス処置21を行っている。図1に従って膜2が右に移動する連続的なプロセスのために、ローラ25は、平面プレス面22のような特異な効果を提供する。2つのローラ25の間の第1のプレス処置21の後、支持体30は膜2から除去される。その結果、中間生成物としてフレーム化された膜16が得られる。ローラ26によって実現される第2のプレス処置24のために、両方のデカール層13、14は、それぞれ、膜またはフレーム化された膜16のそれぞれの面のそれぞれの支持体上に設けられる。そこでローラ26の直前に、ステップS2.3が行われる。ローラ26の間には、ステップS2.4または第2のプレス処置24が行われる。ローラ26を出た時点で、両方の支持体10が除去される。それは、ステップS2.5に相当する。その結果、膜接合体17の無限の役割が生まれる。
【0043】
最後に、図5に、膜接合体1の抜粋の断面を示す。図5は、図2または図3による本製造方法で製造されたプロトタイプの図面である。図5では、両触媒層3、4が互いに非常によく整列していることがわかる。サイズおよび/またはアライメントd1の差は約10μmであった。換言すれば、ボット触媒層3、4は、10μmの無視可能な許容範囲内で互いに対向して配置される。ギャップ5の幅d2は、プロトタイプでは500μmに相当する。d1と幅d2の寸法は例示にすぎないことに注意する必要がある。それにもかかわらず、両寸法は、実際の例において有用であることが分かっている。
【符号の説明】
【0044】
1 膜接合体
2 膜
3 第1の触媒層
4 第2の触媒層
5 ギャップ
6 フレーム
7 三角形領域
8 第1の拡散層
9 第2の拡散層
10 支持体
11 追加の触媒層
12 追加のギャップ
13 第1のデカール層
14 第2のデカール層
16 フレーム化された膜
17 膜接合体
18 第1の面
19 第2の面
20 プレス処置
21 プレス処置
22 プレス面
23 プレス面
24 プレス処置
25 ローラ
26 ローラ
30 支持体
S1.1からS1.3 ステップ
S2.1からS2.5 ステップ


図1
図2
図3
図4
図5