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特許7557570塩素化プロパンの製造、調整、及び精製方法
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  • 特許-塩素化プロパンの製造、調整、及び精製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】塩素化プロパンの製造、調整、及び精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/275 20060101AFI20240919BHJP
   C07C 19/01 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C07C17/275
C07C19/01
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023075690
(22)【出願日】2023-05-01
(62)【分割の表示】P 2021182288の分割
【原出願日】2017-07-24
(65)【公開番号】P2023099154
(43)【公開日】2023-07-11
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】62/366,674
(32)【優先日】2016-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518459466
【氏名又は名称】オキシデンタル ケミカル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドーキンス,ジョン エル
(72)【発明者】
【氏名】ホリス,ダレル
(72)【発明者】
【氏名】クレイマー,キース エス
(72)【発明者】
【氏名】カルダーウッド,ブライアン
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-097978(JP,A)
【文献】特表2016-509001(JP,A)
【文献】特表2014-520940(JP,A)
【文献】特表平10-506837(JP,A)
【文献】特開平07-047262(JP,A)
【文献】特開昭52-001756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/275
C07C 19/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化プロパンを調製する方法であり、
エチレンの供給口流を、槽型反応器内の四塩化炭素を含む液体反応混合物の液面より下に注入することと、
前記液体反応混合物およびその上の頂部空間を含む前記槽型反応器内で、前記四塩化炭素を前記エチレン反応させること
前記液体反応混合物を吸引撹拌器で撹拌し、この撹拌を行う間に、前記エチレン一部を前記液体反応混合物から分散させて、前記頂部空間に入るようにすることと、を含み、
前記槽型反応器に供給されるエチレンがエチレン気体であり、
前記吸引撹拌器は、前記液体反応混合物を撹拌すると同時に、前記頂部空間内に分散させた前記エチレン、前記吸引撹拌器内の導管を経て前記液体反応混合物に戻すものであり
前記頂部空間と前記液体反応混合物との間の気体連通によって、前記頂部空間から前記液体反応混合物中に戻された分散させた前記エチレンが、エチレン気体であり、
前記四塩化炭素をエチレンと反応させること、前記液体反応混合物を撹拌すること、前記エチレンを分散させること、及び分散させた前記エチレンを戻すことを、単一の前記槽型反応器内で行う、
方法。
【請求項2】
前記吸引撹拌器は体積に対する電力の比が少なくとも10kW/mで運転される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記吸引撹拌器が混合要素を含み、
前記エチレン気体の前記供給口流が前記吸引撹拌器の前記混合要素あるいはその付近に当初注入される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記エチレン気体の前記供給口流が前記槽型反応器の底端部あるいはその付近に当初注入される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記槽型反応器は連続撹拌槽型反応器(CSTR)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記槽型反応器は静置領域邪魔板を含み、
前記静置領域邪魔板は、前記吸引撹拌器によって生じる直接撹拌から反応器取出口を保護し、前記静置領域邪魔板と前記槽型反応器の壁との間に、前記エチレン気体の一部が静置領域から前記頂部空間へと上がる経路を形成するものである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2016年7月26日に提出された米国仮特許出願第62/366,674号の利点を主張するものであり、その内容を参照により本明細書に取り込む。
【0002】
本発明の実施形態は、四塩化炭素をオレフィンと反応させて調製するハロゲン化プロパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
冷却剤および発泡剤として用いられている工業的に重要なヒドロフルオロカーボンは、ヒドロクロロカーボン原料から調製される。例えば、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)は広く用いられているヒドロフルオロカーボンの1種で、米国特許第6,313,360号によれば1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)原料から調製することができる。
【0004】
米国特許第6,313,360号によれば、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパンは、鉄触媒およびリン酸トリブチルの存在で四塩化炭素を塩化ビニルと反応させて製造することができる。塩化ビニルを液体または蒸気として反応器に供給し、金属鉄を好ましくは四塩化炭素のスラリーという形態で反応器に添加する。反応器内で未転化の金属鉄を維持するため、反応器の内容物を反応器から好ましくは沈殿管を通して取り出し続ける。この過程は、反応器内に形成された静置領域から反応器流出物を取り出すことで高められる。この反応器流出物を蒸留して、触媒を回収し、最終的に所望の1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン生成物を単離する。米国公開第2012/0310020号には、反応器内でのポリ塩化ビニルの形成は、四塩化炭素、リン酸トリブチル、および鉄粉を予め充填した反応器に浸漬管またはスポンジ型の気体拡散器を経て蒸気として塩化ビニルを供給することで低減することができると示唆されている。
【0005】
ヒドロフルオロオレフィン類は、ヒドロフルオロカーボンとの代替えと目されている。例えば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)は、自動車のエアコンの冷却剤である1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)の代わりに使用することが提案されている。ヒドロフルオロカーボンと同様に、塩素化有機物はヒドロフルオロオレフィン類の合成に重要な役割を果たす。例えば、米国公開第2009/0030247号および2014/0256995号には、1,1,2,3-テトラクロロプロペン(HCC-1230xa)が2,3,3,3-テトラフルオロプロパン(HFO-1234yf)の生成の出発分子として利点があることが教示されている。
【0006】
米国公開第2009/0216055号には、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパンを脱ヒドロ塩素化して1,1,2,3-テトラクロロプロペン(HCC-1230xa)を調製してもよいこと、および1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパンを単一の反応器内でルイス酸の存在下、1,1,1,3-テトラクロロプロパン(HCC-250fb)と塩素を反応させて調製してもよいことが教示されている。米国公開第2004/0225166号によれば、金属鉄、溶解鉄(II)、鉄(III)化合物、および有機リン酸エステル共触媒の存在で四塩化炭素をエチレンと反応させて1,1,1,3-テトラクロロプロパンを製造してもよい。米国公開第2004/0225166号には、四塩化炭素とエチレンが反応する反応器を撹拌して、液体反応物を金属鉄の表面に適切に接触させ、エチレンをこの液体に容易に溶解させるように液体反応物を反応器の頂部空間内の蒸気と適切に接触させ、また反応混合物を熱伝導面と適切に接触させてこれにより適切に温度制御することができることが教示されている。
【0007】
1,1,1,3-テトラクロロプロパンは重要なハロゲン化プロパンであるので、その調製に用いられる合成技術の向上が未だに望まれている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の1つ以上の実施形態は、液体反応混合物および前記液体反応混合物の上の頂部空間を含む槽型反応器内で、前記液体反応混合物を撹拌しながらエチレン気体を前記液体反応混合物から前記頂部空間に分散させて、四塩化炭素をエチレンと反応させて塩素化プロパンを製造する方法において、前記液体反応混合物を撹拌する混合装置内の導管を経て前記頂部空間内のエチレンを前記液体反応混合物に戻すことを特徴とする方法を提供する。
【0009】
本発明の他の実施形態は、液体反応混合物内で、不溶性または一部可溶性の触媒あるいは触媒前駆体の存在で四塩化炭素をオレフィンと反応させて塩素化プロパンを製造する方法において、連続撹拌されるスラリー内で前記触媒または触媒前駆体を前記液体反応混合物に充填することを特徴とする方法を提供する。
【0010】
本発明のさらに他の実施形態は、槽型反応器内で連続撹拌される液体反応混合物中、不溶性または一部可溶性の触媒あるいは触媒前駆体の存在で四塩化炭素をオレフィンと反応させて塩素化プロパンを調製する方法において、前記反応器内の静置領域から前記槽型反応器由来の塩素化プロパン生成物を取り出すことを特徴とする方法を提供する。
【0011】
本発明のさらに他の実施形態は、鉄および必要に応じて鉄化合物を含む粗塩素化プロパン流を蒸留技術により精製する方法において、蒸留塔および再沸器での反応または堆積物の形成を阻害する条件で運転される再沸器内で粗生成物流を加熱することを特徴とする方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】スラリー閉流路を含む本発明の実施形態による塩素化プロパンを調製する系の概略図である。
図2】本発明の1つ以上の実施形態の実践で用いられる添加反応器の断面図である。
図3】実質的に図2の線3-3に沿う断面図である。
図4】本発明の実施形態による塩素化プロパンの粗流を精製する系の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態は、少なくとも部分的に塩素化プロパンを製造する方法の発見に基づいている。1つ以上の実施形態によれば、吸引攪拌器で混合される反応器内で四塩化炭素をエチレンと反応させる。従って、従来では四塩化炭素と蒸気相のエチレンとを適切に接触させる目的で液体内容物(すなわち、四塩化炭素)を混合する必要が示唆されているが、本明細書では吸引攪拌器を使用することで反応器の頂部空間内に位置するエチレンを反応領域(すなわち液相に)に移動させることで反応効率を実現することができると考えられている。
【0014】
他の実施形態によれば、鉄系触媒の存在で四塩化炭素をオレフィン(例えば、エチレン)と反応させて塩素化プロパンを調製する。循環閉流路内で運転され、連続撹拌されるスラリー槽から鉄を反応器に充填する。従って、従来では四塩化炭素と共にスラリー内の鉄金属を送り込むことが望ましいとされていたが、本明細書ではスラリー内の鉄金属の送達を向上させることで製造効率を実現することができると考えられている。また、この動的循環閉流路により、他の材料(例えば、他の触媒材料または配位子)を反応器に送り込む能力が提供される。
【0015】
さらに他の実施形態によれば、鉄系触媒の存在で四塩化炭素をオレフィン(例えば、エチレン)と反応させて塩素化プロパンを調製する。また、反応器内に形成された静置領域から引き出された円錐形の流出物ノズルを通して反応領域から塩素化プロパンを取り出す。1つ以上の実施形態では、静置領域は、液体の流速を最少にし、これによりガス状反応物を反応器の頂部空間まで上昇させながら鉄の沈殿を最大にするようになっている。従って、従来では静置領域から反応器の流体を引き出すことに関連付けられた利点が示唆されているが、本明細書では特定の反応器の設計によって処理効率が生じ得ると考えている。
【0016】
さらに、本発明の実施形態は、強制循環再沸器内で液体混合物を加熱する蒸留技術を用いることにより触媒材料(例えば、鉄種)を含む重質化合物から塩素化プロパン(例えば、1,1,1,3-テトラクロロプロパン)を分離する精製技術に関する。流速および熱流束を維持して蒸留系内の付着物を防ぐ。実際、蒸留系内の局所的に熱い箇所により触媒残渣が系の表面に焼き付くことが発見されている。従って、今までは塩素化プロパンを精製する蒸留技術が提案されているが、本明細書では、特定の蒸留系により処理効率が生じ得ると考えられている。
【0017】
<方法の概要>
上で示唆したように、本発明の方法は、一般に四塩化炭素をオレフィンと反応させて塩素化炭化水素を調製することに関する。これらの反応は、一般に当該分野で知られており、従って米国特許第6,313,360号ならびに米国公開第2004/0225166号および2009/0216055号は引用により本明細書に組み込まれる。本発明の実施形態の実施は、反応物として用いられるオレフィンにより必ずしも限定されないが、これらの反応で共通して用いられるオレフィン類にはエチレンと塩化ビニルが含まれる。当業者には自明であるが、エチレンは気体状オレフィンであり、従って、本発明の実施形態はエチレンを反応物として用いる場合に明白な利点を提供する場合がある。他の実施形態は、塩化ビニルを反応物として用いる場合に特に利点がある場合がある。いずれにせよ、以下の実施形態は、特定のオレフィン(例えば、エチレン)を参照して記載される場合があるが、当業者には自明であるように、他のオレフィン類も同様に用いることができる。また、各種触媒種を用いて四塩化炭素とオレフィンの反応を触媒してもよい。これら触媒の多くは反応媒質に不溶性または一部可溶性の種であるか、そのような種の誘導体である。一般的な触媒または触媒前駆体は鉄であり、従って、本発明の実施形態は鉄を参照して記載されることがあるが、当業者には自明であるように本発明の実施形態は、同様に他の不溶性または一部可溶性の触媒あるいは触媒前駆体まで広げることができる。また、当業者には自明であるが、これらの不溶性または一部可溶性の触媒を、触媒を補完すると考えられている共触媒または配位子と共に用いてもよい。例えば、リン酸トリブチルは、鉄触媒と共同して用いられている。従って、本発明の実施形態は、鉄と共に用いられる共触媒または配位子としてリン酸トリブチルを参照して記載される場合があるが、当業者には自明であるように本発明は他の共触媒または配位子の使用まで広げることができる。
【0018】
図1を参照して本発明の1つ以上の方法を記載することができる。図示のように、系11は、導管閉流路41を経て反応器51(付加反応器51という場合がある)と流体連通している鉄スラリー混合槽21を備える。スラリー槽21は、供給口22から四塩化炭素31を受け入れ、供給口23から鉄粉33を受け入れる。また、スラリー槽21は、必要に応じて、供給口26から他の材料34(例えば、追加の溶媒、触媒、触媒配位子、またはこの方法の下流で捕捉される再循環流)を受け入れてもよい。1つ以上の実施形態では供給口22からスラリー槽21に四塩化炭素31を連続供給してもよく、他の実施形態では一定期間ごとに注入してもよい。同様に、鉄粉33をスラリー槽21に一定期間ごとに添加してもよい。あるいは、他の実施形態では、連続供給装置を用いて鉄粉33をスラリー槽21に連続充填してもよい。例えば、無塵バケツ型供給器(bucket tipper)を用いて鉄粉33をスラリー槽21に充填してもよい。
【0019】
1つ以上の混合要素24によりスラリー槽21内の混合物を撹拌することで四塩化炭素31と鉄粉33のスラリー35を形成する。この混合要素24は撹拌装置または邪魔板を含んでいてもよい。混合要素24は、塩素化炭化水素液体(例えば、四塩化炭素)中に触媒(例えば、鉄)を実質的に分散するように運転してもよい。特に、複数の実施形態で、撹拌は四塩化炭素内の触媒の濃度を実質的に均一にするのに十分なものある。
【0020】
スラリー35は、反応器51の上流の1つ以上のポンプ43により導管閉流路41を経て連続して循環されている。また、これらポンプは、閉流路41内の圧力を維持するという利点がある場合がある。また、閉流路41がスラリー35を反応器51に送り込む下流(すなわち閉流路41内の弁47の下流)にある背圧弁46の補助により適切な圧力を閉流路41内で維持してもよい。閉流路41を通って移動するスラリー35を加熱要素または冷却要素45により加熱あるいは冷却してもよい。また、必要に応じて上記のような他の材料34を閉流路41に注入してもよい。1つ以上の実施形態では、1つ以上のインラインミキサー(図示せず)でスラリー35内の様々な構成要素の混合を高めてもよい。また、循環閉流路41は弁47を備える。弁47が開位置にあるとき、スラリー35を反応器51に供給することができる。弁47が閉位置にあるとき、スラリー35は、閉流路41を経て混合槽21に再循環される。弁47は、信号流センサーあるいは同様の装置で制御することができる制御弁または電磁弁を含んでいてもよい。
【0021】
反応器51は、供給口53を経て閉流路41からスラリー35を受け入れる。また、反応器51は、供給口55を経てオレフィン61(例えば、エチレン)を受け入れる。また、以下でより詳細に説明するように、反応器51はまた必要に応じて追加の供給口57を経て他の材料の供給34(例えば上述したもの)を受け入れてもよい。反応器流出物63は取出口59で反応器51から出て行く。揮発性物質は取出口58を経て排気されてもよい。
【0022】
1つ以上の実施形態では、少なくとも部分的に弁47により調節されているスラリー35の反応器51への流れは、反応器51へのオレフィン61の供給速度に比例していてもよい。
【0023】
1つ以上の実施形態では、閉流路41は、反応器51内の圧力よりも高い圧力で維持されている。特に、複数の実施形態では、起こりうる重力の助けを考慮に入れつつ、閉流路41内の圧力は(弁47が開いているとき)反応器51への流れを形成するのに十分なものである。当業者には自明であるが、弁47が背圧弁46による反応器51への流れをもたらしながら、十分な圧力を閉流路41内で維持してもよい。弁46は、信号流センサーまたは同様の装置により制御することができる制御弁または電磁弁を含んでいてもよい。1つ以上の実施形態では、温度制御(例えば、要素45)により冷却して、スラリー35の温度を塩素化炭化水素の沸点(例えば、四塩化炭素の場合は77℃未満)より低く維持する。特定の実施形態では、閉流路温度を約0~約80℃に維持する。他の実施形態では約5~約60℃、他の実施形態では約10~約40℃に維持する。
【0024】
1つ以上の実施形態では、スラリー35内の鉄粉33の濃度は、液体重量中の固体の百分率として表してもよい。1つ以上の実施形態では、スラリー35内の鉄粉末固体の百分率は、約0.02~約5.0wt%であってもよく、他の実施形態では約0.03~約1.0wt%、他の実施形態では約0.05~約0.2wt%であってもよい。
【0025】
<付加反応器>
上述のように、四塩化炭素は、鉄粉またはその誘導体などの触媒種の存在で、エチレンなどのオレフィンと反応して反応器51内で塩素化プロパンを生成する。特に、四塩化炭素はエチレンと反応して1,1,1,3-テトラクロロプロパンを生成する。これに関しては、米国公開第2004/0225166号および2009/0216055号を参照により本明細書に組み込む。
【0026】
さらに図2を参照して反応器51を説明する。図2は、供給口53から反応器51に入るスラリー35、供給口55から入るオレフィン61(例えば、エチレン)、および供給口57から入る他の任意の材料(例えば、リン酸トリブチル配位子69)と触媒再循環流65を示す。反応器の内容物は、通気時の液面である液面67を形成している。当業者には自明であるが、液面は静置時(すなわち通気されていないとき)には下がる。反応器51は、一般に当該分野で既知の型の槽型反応器(例えば、連続撹拌槽型反応器(continuous stirred-tank reactor, CSTR))を含んでいてもよい。
【0027】
1つ以上の実施形態では、反応器51内の液面67より下に材料を注入することでスラリー35、オレフィン61、および他の材料69、65の充填を行う。当業者には自明であるように、充填を浸漬管や、各種ノズルまたは拡散装置を用いて行ってもよい。特定の実施形態では、オレフィン61を反応器51の底端部71に近い位置に注入する。さらに特定の実施形態では、オレフィン61は混合装置75の混合要素73の位置あるいはその付近に注入する。1つ以上の実施形態では、1種以上の反応物または触媒を液面67の上(すなわち、反応器の頂部空間内)に注入してもよい。吸引攪拌器を用いると気体状材料を頂部空間に導入することができるので便利である。というのは、この攪拌器は、最終的に気体状材料を反応領域に送り込むからである。上述のように、反応器流出物63は、取出口59を経て反応器51から出て行く。
【0028】
1つ以上の実施形態では、撹拌装置75は、液面67下で頂部空間68を液体混合物(すなわち、スラリー35)と気体連通させる導管を備える。その結果、頂部空間内の揮発性化合物、特にエチレンを液体混合物64に戻して、所望の反応を容易にすることができる。1つ以上の実施形態では、撹拌装置75は吸引攪拌器である。当業者には自明であるように、これら攪拌器は、頂部空間から気体状材料(例えば、エチレン)を引き出して、気体状材料を反応領域(すなわち、液体混合物64)に再導入する。1つ以上の実施形態では、撹拌装置75は、体積比に対する電力が1立方メートルあたり少なくとも10キロワット(kW/m)、他の実施形態では少なくとも30kW/m、他の実施形態では少なくとも50kW/m、および他の実施形態では約10~約100kW/mで運転される。
【0029】
また図2および図3に示すように、反応器51は1つ以上の撹拌邪魔板81、83、85、および87を備える。これら撹拌邪魔板(81、83、85、87)のそれぞれは、反応器の壁(あるいは反応器の上部または底部)に取り付けられている。撹拌邪魔板の寸法および形状は当該分野で分かっている。図2に最もよく示されているように、反応器51は静置領域邪魔板91を備える。静置領域邪魔板91は対向する壁93、97を含み、これらはそれぞれ、反応器51の周壁52に取り付けられている。また、静置領域邪魔板91は、対向する壁93、97を結合する相互結合壁95を含み、これにより静置領域92を形成している。反応器51の底部71に近接して邪魔板すき間99(図2に最もよく示されている)を設けるように、静置領域邪魔板91は壁52の高さ54に亘って部分的に延びている。言い換えると、静置領域邪魔板91の上端96は液面線67より上に延びるような高さであり、液体が流れることができるようなすき間99を提供するように静置領域邪魔板91の下端94は反応器51の底部71と接触していない。静置領域邪魔板91は取出口59を囲むように反応器51内に配置されている。その結果、反応器流出物63は、取出口59から出て行くためには静置領域邪魔板91によって形成される静置領域92に邪魔板すき間99を経て入らなければならない。
【0030】
この構成の結果、静置領域邪魔板91は、撹拌装置75によって生じる直接撹拌から取出口59を保護する。従って、液体媒質64内のエチレンなどの気体の気泡は、静置領域92から反応器の頂部空間68に上がる非制限経路を持つことになる。同様に、静置領域92に影響を及ぼす静置領域邪魔板91のこの構成により、反応器の内容物が邪魔板すき間99に入って取出口59から出て行く際に液体の流速が低下する。この速度低下により鉄粉の沈殿が促進される。当業者には自明であるように、鉄粉が反応器51から出て行くのを阻害することで、鉄粉を反応器内で再循環させて反応器内の1種以上の構成成分との反応または相互作用により可溶性種に転化することができる。従って、気体状材料が静置領域92を離れるための非制限経路と、鉄粉の沈殿を促進する流速の低下により、取出口59を経て反応器51から出て行く気体反応物(例えば、エチレン)および鉄粉の量は最少になる。これらまたは他の実施形態では、取出口59は円錐形の流出物ノズル62を備える。その広い端部66は反応器の壁52に取り付けられている。この構成はさらに、流出物63内に気体が含まれるのを阻害する。また、反応器の底部に存在する実質的、すなわち感知できる乱流を回避するように、反応器の高さに対して取出口59の高さを設計している。それでも、必要に応じて反応器の内容物を空けることができるように、取出口59は反応器内の相対的に低い位置に配置されていることは当業者には自明である。
【0031】
1つ以上の実施形態では、邪魔板すき間99を通過する液体媒質64の速度は、0.0015m/s未満、他の実施形態では0.0009m/s未満、他の実施形態では0.0006m/s未満である。
【0032】
<蒸溜/精製>
反応器51から出て行く反応器流出物63は、所望の塩素化プロパン生成物(例えば、1,1,1,3-テトラクロロプロパン)と、未反応の反応物(例えば、四塩化炭素およびエチレン)、反応副生物、触媒、および触媒残部とを含む。従って、反応器流出物63は、粗塩素化炭化水素流(例えば、1,1,1,3-テトラクロロプロパン粗生成物)と言う場合がある。次いで、この粗生成物を1つ以上の蒸留技術を用いて精製し、精製塩素化プロパン流(例えば、精製1,1,1,3-テトラクロロプロパン)を得る。
【0033】
図4を参照して、1つ以上の実施形態の精製法を記載する。図4は、蒸留塔103および再沸器123を備える精製系101を示している。一般に当該分野で知られているように、塔103は底部領域103Aを含む。ここで、液体の形態の塔底液106は集まって液面106Aを形成している。充填領域103Bには充填材料および/または棚が配置されている。頂部空間103Cを経て蒸気は塔103から出て行く。
【0034】
1つ以上の実施形態では、再沸器123は強制再循環沸騰器123とも言う場合があるが、単一経路または多経路の再沸器を含んでいてもよい。特定の実施形態では、本明細書の以下で記載するように、加熱流体または媒体が再沸器123内の胴体側を通る。本発明の実施は、用いられる加熱流体の種類によって限定されず、例えば、水蒸気を含んでいてもよい。
【0035】
蒸溜塔103と再沸器123は再沸器閉流路111を経て流体連通している。粗生成物63は、底部103Aあるいは液面106Aの付近で塔103に入る。ここで、粗生成物63は蒸留塔103の底部で塔底液106に含まれるようになる。塔底液106(目的化合物の塩素化プロパンを含む)は、取出口105からループ111に入る。閉流路111を流れる塔底液106の速度は、例えば、ポンプ115により調節されている。1つ以上の実施形態では、閉流路111を流れる塔底液の速度は、再沸器123内の管壁の温度を下げるのに十分な速度で維持され、これにより再沸器123内での反応および/または堆積物の形成を阻害する。塔底液106は、供給口125で再沸器123に入り、再沸器123内の管側を循環する。1つ以上の実施形態では、再沸器123を通る塔底液106の速度は少なくとも1m/s、他の実施形態では少なくとも3m/s、他の実施形態では少なくとも5m/sである。これらまたは他の実施形態では、再沸器123を通る塔底液106の速度は約1~約20m/s、他の実施形態では約2~約12m/s、他の実施形態では約3~約9m/sである。
【0036】
上に示唆したように、塔底液106は、再沸器123の管側を通過する。ここで、塔底液106は、塔底液106の胴体側の供給口126から導入された加熱流体水蒸気127(例えば、水蒸気)から伝えられた熱に曝される。1つ以上の実施形態では、再沸器123内の管全体の熱流束は44kW/m未満であり、他の実施形態では33kW/m未満であり、他の実施形態では22kW/m未満である。これらまたは他の実施形態では、再沸器123内の管全体の熱流束は約5~約44kW/m、他の実施形態では約7~約33kW/m、他の実施形態では約10~約22kW/mである。
【0037】
塔底液106は加熱液体として取出口129で再沸器から出て行き、充填領域103Bの下に配置された供給口107で塔103に注入される。特に、複数の実施形態では、塔底液106は液面106Aあるいはその付近で塔に入る。再沸器123の取出口から出て行く129から塔底液106は、塔103に入る際に発生する圧力差によりブクブク(すなわち、沸騰)する程度まで加熱されている。また、図4に示唆されているように、再沸器123は蒸留塔103の底部に対して低い位置に配置されていてもよく、これにより十分な静水圧を発生させて再沸器123内の塔底液の未熟な沸騰を防ぐ。従って、流速、再沸器123内の熱還流、および閉流路111内で維持される圧力の組み合わせは、反応および/または管壁または蒸留塔103内での堆積物の形成を阻害するように作用する。
【0038】
当業者には自明であるように、所望の塩素化炭化水素は蒸気流132として、蒸留塔103の蒸気取出口109から蒸留塔103を出て行く。次いで、蒸気流132は濃縮器136を通ってもよい。濃縮器により、濃縮物流138とも言う場合がある所望の塩素化炭化水素138(例えば、1,1,1,3-テトラクロロプロパン)が濃縮され、軽質最終流140として軽質材料(および非濃縮性材料)が出て行く。濃縮物流138の一部は、供給器(図示せず)を経て塔103および頂部空間103Cに戻されて、充填材料を還流してもよい。濃縮物138の残部は、所望の生成物として採取される。所望の精製の程度にもよるが、下流の処理で濃縮物流138のさらなる蒸留および精製を行ってもよい。
【0039】
本発明の範囲および精神を逸脱しない範囲での各種の修正および変更は、当業者には自明である。本発明は、本明細書に記載した例示としての実施形態に限定されるものでは全くない。
図1
図2
図3
図4