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特許7557573治療用モノクローナル抗体の品質特性の定量化及びモデル化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】治療用モノクローナル抗体の品質特性の定量化及びモデル化
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240919BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240919BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
C07K16/18
A61K39/395 N
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023086606
(22)【出願日】2023-05-26
(62)【分割の表示】P 2020539270の分割
【原出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2023113739
(43)【公開日】2023-08-16
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】62/625,219
(32)【優先日】2018-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】スー シャオビン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン ユー
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-536935(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0359853(US,A1)
【文献】Bing Cai et al,C-terminal lysine processing of human immunoglobulin G2 heavy chain in vivo,Biotechnology and Bioengineering,2011年,108(2),404-412
【文献】灘井雅行,薬物動態学の基礎と薬物投与設計への応用,日本小児腎臓病学会雑誌,2006年,19(2),P47-59
【文献】小田裕,麻酔薬の薬物動態,日本臨床麻酔学会誌,2005年09月,25(5),447-454
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
C07K 1/00 -19/00
A61K 39/00 -51/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の製品品質特性(PQA)の許容範囲を特定する方法であって、
(a)抗体の単回投与後の、PQAを伴う前記抗体のインビボ血清中濃度を、
(i)PQAを伴う前記抗体のパーセンテージを、前記PQAに対して特定されるインビボ速度定数を用いて予測すること、及び
(ii)PQAを伴う前記抗体の前記予測されたパーセンテージに、前記抗体の全インビボ濃度を掛けて、PQAを伴う前記抗体の濃度を特定すること、およびそれにより単回投与モデルを作製すること;
により予測し、
(b)工程(a)を少なくとも1回繰り返し、それにより、1つ以上の追加の単回投与モデルを作製すること;
(c)工程(a)および工程(b)の複数の単回投与モデルを重ね合わせること、およびそれにより複数回投与モデルを作製すること;
(d)複数回投与モデルを使用して、初期PQAレベルと、抗体の複数回投与後のPQAレベルの間の関係を特定すること;ならびに
(e)前記関係を使用して、抗体のPQAの許容範囲を特定すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記PQAについての前記インビボ速度定数が、
記PQAのパーセンテージを時間の関数として定量化すること、及び
記PQAの前記定量化されたパーセンテージを、方程式
にフィットさせること
によって特定され、
式中、PPQA(t)は、時間の関数としての前記PQAの割合であり、P0は、PQAの初期パーセンテージであり、kPQAは、前記PQAの速度定数である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
記PQAを伴う前記抗体への露を特定することをさらに含み、記PQAを伴う前記抗体への露を特定することが、記PQAを伴う前記抗体の濃度の曲線下面積(AUC)を特定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体の前記血清中濃度が、2コンパートメント薬物動態モデルの方程式C(t)=Ae-αt+Be-βtで示され、式中、A及びBは、それぞれ、α及びβがハイブリッド一次定数である場合のハイブリッド係数である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
抗体のPQAの許容範囲が、抗体の複数回投与後のPQAレベルが、実質的に前記初期PQAレベルに対して非感受性であるPQAレベルの範囲を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抗体のPQAの許容範囲が、抗体の複数回投与後の前記PQAを伴う前記抗体への露が、実質的に前記初期PQAレベルに対して非感受性であるPQAレベルの範囲を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
抗体のPQAの許容範囲が、約0%及び約10%の間、約0%及び8%の間、約0%及び約5%の間、約0%及び約4%の間、約0%及び約3%の間、約0%及び約2%の間、約0%及び約1%の間、約0%及び約0.5%の間、約0%及び約0.2%の間、または約0%及び約0.1%の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が、治療用組み換えモノクローナル抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記PQAが、薬物の安定性、安全性、及び/または有効性に影響を与え得る、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記PQAが、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、及び高マンノースグリコシル化のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(i)薬物動態濃度とPQAバリアントの割合との相関をモデル化すること、
(ii)単回投与レジメンまたは複数回投与レジメンのいずれかでの代表的なPQAへの対象の曝露を定量的に評価及び予測すること、
(iii)複数回投与レジメンで観察される最大及び最小のPQAレベルを予測すること、および/または
(iv)対象への抗体の投与後の、対象における抗体の全インビボ濃度を特定すること、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記PQAを伴う抗体の投与前インビボ濃度を予測することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
定常状態での前記PQAを伴う抗体の投与前インビボ濃度を予測することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記PQAを伴う抗体の投与後インビボ濃度を予測することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
定常状態での前記PQAを伴う抗体の投与後インビボ濃度を予測することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、2019年1月31日に作成され、514バイトを含む10421WO01-Sequence.txtとしてコンピュータ可読形式で提出された配列表を参照することにより組み込む。
【0002】
発明の分野
本発明は、バイオ医薬品に関し、また、治療用抗体のインビボ翻訳後修飾の予測及びモデル化に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
治療用モノクローナル抗体(mAb)は、哺乳類細胞で産生される異種分子であり、翻訳後修飾(PTM)に起因するバリアント等、多くの製品バリアントを含む。PTMを介して産生されるバリアントは、製造中、精製中、保存中、及び投与後のmAbの存続期間を通して生じ得る。これらバリアントまたは製品関連の修飾は、製品品質特性(PQA)とも呼ばれる。事前に定義された許容基準内でPQAを制御することは、一貫した製品品質を保証し、薬物の安全性と有効性への潜在的な影響を低減することから、バイオ医薬品業界にとって不可欠である。薬物の製造及び保存中に生じる修飾は、多くの場合、確実に監視及び制御することができる。しかしながら、薬物の投与後、製剤緩衝液に対して著しく異なる血流の環境のため、さらなる修飾が生じ得る。mAbのインビボ修飾は、通常、監視が困難であり、あまり研究されていない。PTMのインビボでの変化の評価及び予測は、製品のリスク評価における品質特性の重要度の理解を促進するだけでなく、製品の設計及び開発チームが、インビボでの安定性が向上したmAb薬物候補を設計するのにも役立つ。
【0004】
食品医薬品局の業界向けガイダンスでは、インビボ環境内での修飾に対する治療用タンパク質の感受性をスポンサーが評価するべきであることを推奨している(Guidance for Industry,Immunogenicity Assessment for Therapeutic Protein Products.2014参照)。結果として、脱アミド化(例えば、Huang et al.,Analytical chemistry 2005;77:1432-9、Ouellette et al.,mAbs 2013;5:432-44、Yin et al.,Pharmaceutical research 2013;30:167-78、Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al.,mAbs 2016:0参照)、酸化(例えば、Yin et al.,Pharmaceutical research 2013;30:167-78、Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al.,mAbs 2016:0参照)、糖化(例えば、Goetze et al.,Glycobiology 2012;22:221-34参照)、グリコシル化(例えば、Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al.,mAbs 2016:0、Goetze et al.,Glycobiology 2011;21:949-59、Alessandri et al.,mAbs 2012;4:509-20.参照)、ジスルフィド(例えば、Li Yet al.,mAbs 2016:0、Liu et al.,The Journal of biological chemistry 2008;283:29266-72参照)、N末端ピログルタミン酸(例えば、Yin et al.,Pharmaceutical research 2013;30:167-78、Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al., mAbs 2016:0、Liu et al., The Journal of biological chemistry 2011;286:11211-7参照)、及びC末端リジン除去(例えば、Li et al.,mAbs 2016:0、Cai et al.,Biotechnology and bioengineering 2011;108:404-12参照)を含めた多くのPQAのインビボでの挙動が動物またはヒトサンプルで調べられている。血清サンプルから治療用mAbを抽出し、分析での内因性タンパク質バックグラウンドの干渉を低減するため、親和性精製がしばしば使用される(例えば、Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al.,mAbs 2016:0参照)。動物での試験の場合、抗ヒトFc抗体または抗原が、捕捉試薬として容易に使用され得る。ヒトでの試験の場合、当該治療用mAb固有の相補性決定領域(CDR)を特異的に認識する抗原または抗体が、捕捉試薬として使用され得る。親和性精製後、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC-MS/MS)ペプチドマッピングが、PTM製品バリアントの相対存在量を定量化するためにしばしば使用される。最近、単回投与レジメンにおいて、インビボPTM定量を薬物動態(PK)モデルと組み合わせ、PTM製品バリアントの形成及び排除を評価し、当該対象のPQAへの曝露を定量的に評価し(例えば、Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al.,mAbs 2016:0、Goetze et al.,mAbs 2010;2:500-7参照)、製品リスク評価のためのPQAの重要度の確立を支援している。しかしながら、複数回投与レジメンにおいてPTMのインビボでの進行及び対象のPQAへの曝露をシミュレートし、PQAの重要度を定量的に評価するモデル化は試みられていない。
【発明の概要】
【0005】
1つの態様では、本発明は、抗体の単回投与後の、目的の翻訳後修飾を伴う該抗体のインビボ血清中濃度を予測する方法を提供し、該方法は、(a)目的の翻訳後修飾を伴う抗体のパーセンテージを、該翻訳後修飾に対して特定されるインビボ速度定数を用いて予測すること、及び(b)目的の翻訳後修飾を伴う抗体の該予測パーセンテージに、該抗体のインビボ濃度を掛け、目的の翻訳後修飾を伴う抗体の濃度を特定することを含む。場合によっては、次の方程式が計算に使用される:CPTM(t)=C(t)・P(t)、式中、CPTM(t)は、目的の翻訳後修飾を伴う抗体の血清中濃度であり、C(t)は、抗体の血清中濃度であり、P(t)は、目的の翻訳後修飾のパーセンテージである。
【0006】
いくつかの実施形態では、翻訳後修飾についてのインビボ速度定数は、目的の翻訳後修飾のパーセンテージを時間の関数として定量化すること、及び目的の該翻訳後修飾の定量化されたパーセンテージを、方程式
にフィットさせることによって特定される。式中、PPTM(t)は、時間の関数としての翻訳後修飾の割合であり、Pは、翻訳後修飾の初期パーセンテージであり、kPTMは、翻訳後修飾の速度定数である。
【0007】
いくつかの実施形態では、該方法は、さらに、目的の翻訳後修飾を伴う抗体への対象の曝露を特定することを含む。場合によっては、目的の翻訳後修飾を伴う抗体への対象の曝露を特定することには、目的の翻訳後修飾を伴う抗体の濃度(CPTM(t))の曲線下面積(AUC)を特定することが含まれる。
【0008】
いくつかの実施形態では、該抗体の血清中濃度は、2コンパートメント薬物動態モデルの方程式C(t)=Ae-αt+Be-βtで示される。式中、A及びBは、それぞれ、α及びβがハイブリッド一次定数である場合のハイブリッド係数である。
【0009】
いくつかの実施形態では、該方法はさらに、該抗体の複数回投与後に、目的の翻訳後修飾を伴う該抗体のインビボ血清中濃度を予測することを含む。場合によっては、該抗体の複数回投与後に目的の翻訳後修飾を伴う該抗体のインビボ血清中濃度を予測することには、複数の単回投与モデルを重ね合わせることが含まれ、この場合、各投与での該抗体の血清中濃度は、2コンパートメント薬物動態モデルの方程式C(t)=Ae-αt+Be-βtによって個々に示され、式中、A及びBは、それぞれ、α及びβがハイブリッド一次定数である場合のハイブリッド係数である。
【0010】
該方法の様々な実施形態では、該抗体は、治療用組み換えモノクローナル抗体を含む。場合によっては、該翻訳後修飾は、薬物の安定性、安全性、及び/または有効性に影響を与え得る製品品質特性を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、該方法は、モノクローナル抗体の翻訳後修飾プロファイルを予測的に監視する。
【0012】
いくつかの実施形態では、該方法はさらに、翻訳後修飾のインビボでの進行及び製品品質特性への対象の曝露についての予測モデルを作製することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、該方法はさらに、PK濃度と翻訳後修飾バリアントの割合との相関をモデル化することを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、該方法はさらに、単回及び複数回投与の両レジメンでの代表的な翻訳後修飾への該対象の曝露を定量的に評価及び予測することを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、該方法はさらに、複数回投与レジメンで観察される最大及び最小の翻訳後修飾レベルを予測することを含む。
【0016】
別の態様では、本発明は、当該対象への投与後の、治療用組み換えモノクローナル抗体のバリアントへの対象の曝露を予測する方法を提供し、この場合、該方法は、(a)バリアントの形成を引き起こす翻訳後修飾(PTM)プロセスについての速度定数を特定すること、(b)時間の関数としての該バリアントの予測割合を計算すること、(c)該バリアントの該予測割合に基づいて、時間の関数としての該対象における該バリアントの予測血清中濃度を計算すること、及び(d)該バリアントの予測血清中濃度に基づいて、該抗体の投与後、該バリアントへの該対象の曝露を予測することを含む。
【0017】
該方法のいくつかの実施形態では、時間の関数としての該バリアントの予測割合の計算は、次式を介して行われる:
式中、PPTM(t)は、時間の関数としての該バリアントの割合であり、Pは、投与時点での該バリアントの初期レベルであり、kPTMは、該PTMプロセスについての速度定数であり、tは時間である。
【0018】
該方法のいくつかの実施形態では、時間の関数としての該対象における該バリアントの予測血清中濃度の計算は、次式を介して行われる:CPTM(t)=C(t)・PPTM(t)、式中、CPTM(t)は、該バリアントの血清中濃度であり、C(t)は、該抗体の血清中濃度であり、PPTM(t)は、時間tでの該バリアントの割合である。
【0019】
いくつかの実施形態では、該方法はさらに、該抗体を該対象に投与することを含む。
【0020】
該方法のいくつかの実施形態では、該抗体はmAbである。
【0021】
いくつかの実施形態では、該方法はさらに、該対象における該抗体の全インビボ濃度を特定することを含む。
【0022】
別の態様では、本発明は、当該対象に治療用組み換えモノクローナル抗体を複数回投与した後の、該抗体のバリアントへの対象の曝露を予測する方法を提供し、この場合、該方法は、(a)上記で直接論じた方法を行うこと、(b)該バリアントの予測割合を、投与間隔に基づいて該抗体の各後続投与の前後に計算すること、(c)該バリアントの該予測割合に基づいて、該対象における該バリアントの予測血清中濃度を投与間隔ごとに計算すること、及び(d)該バリアントの予測血清中濃度に基づいて、該抗体の2回以上の投与にわたる該バリアントへの該対象の曝露を予測することを含む。
【0023】
上記にまたは本明細書で論じる方法の様々な実施形態では、該翻訳後修飾は、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、及び高マンノースグリコシル化のうちの1つ以上を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、該方法はさらに、該抗体を該対象に投与することを含む。
【0025】
該方法のいくつかの実施形態では、該抗体はmAbである。
【0026】
いくつかの実施形態では、該方法はさらに、該対象における該抗体の全インビボ濃度を特定することを含む。
【0027】
上記にまたは本明細書で論じる様々な態様または実施形態のいずれも、別の実施形態と組み合わせてもよく、その各々が本開示の範囲に包含される。
[本発明1001]
抗体の単回投与後の、目的の翻訳後修飾を伴う前記抗体のインビボ血清中濃度を予測する方法であって、
目的の前記翻訳後修飾を伴う前記抗体のパーセンテージを、前記翻訳後修飾に対して特定されるインビボ速度定数を用いて予測すること、及び
目的の前記翻訳後修飾を伴う前記抗体の前記予測されたパーセンテージに、前記抗体の全インビボ濃度を掛けて、目的の前記翻訳後修飾を伴う前記抗体の濃度を特定すること(CPTM(t)=C(t)・P(t)、ここで、CPTM(t)は、目的の前記翻訳後修飾を伴う前記抗体の血清中濃度であり、C(t)は、前記抗体の血清中濃度であり、P(t)は、目的の前記翻訳後修飾のパーセンテージである)
を含む、前記方法。
[本発明1002]
前記翻訳後修飾についての前記インビボ速度定数が、
目的の前記翻訳後修飾のパーセンテージを時間の関数として定量化すること、及び
目的の前記翻訳後修飾の前記定量化されたパーセンテージを、方程式
にフィットさせること
によって特定され、
式中、PPTM(t)は、時間の関数としての前記翻訳後修飾の割合であり、P0は、翻訳後修飾の初期パーセンテージであり、kPTMは、前記翻訳後修飾の速度定数である、
本発明1001の方法。
[本発明1003]
目的の前記翻訳後修飾を伴う前記抗体への前記対象の曝露を特定することをさらに含む、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
目的の前記翻訳後修飾を伴う前記抗体への前記対象の曝露を特定することが、目的の前記翻訳後修飾を伴う前記抗体の濃度(CPTM(t))の曲線下面積(AUC)を特定することを含む、本発明1003の方法。
[本発明1005]
前記抗体の前記血清中濃度が、2コンパートメント薬物動態モデルの方程式C(t)=Ae-αt+Be-βtで示され、式中、A及びBは、それぞれ、α及びβがハイブリッド一次定数である場合のハイブリッド係数である、本発明1001~1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
前記抗体の複数回投与後の、目的の前記翻訳後修飾を伴う前記抗体の前記インビボ血清中濃度を予測することをさらに含む、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記抗体の複数回投与後の、目的の前記翻訳後修飾を伴う前記抗体のインビボ血清中濃度を予測することが、複数の単回投与モデルを重ね合わせることを含み、この場合、各投与での前記抗体の前記血清中濃度は、2コンパートメント薬物動態モデルの方程式C(t)=Ae-αt+Be-βtによって個々に示され、式中、A及びBは、それぞれ、α及びβがハイブリッド一次定数である場合のハイブリッド係数である、本発明1006の方法。
[本発明1008]
前記抗体が、治療用組み換えモノクローナル抗体を含む、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記翻訳後修飾が、薬物の安定性、安全性、及び/または有効性に影響を与え得る製品品質特性を含む、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
モノクローナル抗体の翻訳後修飾プロファイルを予測的に監視する、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
翻訳後修飾のインビボでの進行及び製品品質特性への対象の曝露についての予測モデルを作製することをさらに含む、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
前記翻訳後修飾が、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、及び高マンノースグリコシル化のうちの1つ以上を含む、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
PK濃度と翻訳後修飾バリアントの割合との相関をモデル化することをさらに含む、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
単回及び複数回投与の両レジメンでの代表的な翻訳後修飾への前記対象の曝露を定量的に評価及び予測することをさらに含む、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
前記複数回投与レジメンで観察される最大及び最小の翻訳後修飾レベルを予測することをさらに含む、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1016]
前記対象に前記抗体を投与することをさらに含む、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
前記抗体がmAbである、本発明1001~1016のいずれかの方法。
[本発明1018]
前記対象における前記抗体の全インビボ濃度を特定することをさらに含む、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
対象に治療用組み換えモノクローナル抗体を投与した後の、前記抗体のバリアントへの前記対象の曝露を予測する方法であって、
バリアントの形成を引き起こす翻訳後修飾(PTM)プロセスについての速度定数を特定すること、
時間の関数としての前記バリアントの予測割合を計算すること、
前記バリアントの前記予測割合に基づいて、時間の関数としての前記対象における前記バリアントの予測血清中濃度を計算すること、及び
前記バリアントの前記予測血清中濃度に基づいて、前記抗体の投与後の前記バリアントへの前記対象の曝露を予測すること
を含む、前記方法。
[本発明1020]
時間の関数としての前記バリアントの前記予測割合を計算することが、次式
によって行われ、
式中、PPTM(t)は、時間の関数としての前記バリアントの割合であり、P0は、投与時点での前記バリアントの初期レベルであり、kPTMは、PTMプロセスについての速度定数であり、tは時間である、
本発明1019の方法。
[本発明1021]
時間の関数としての前記対象における前記バリアントの前記予測血清中濃度を計算することが、次式
PTM(t)=C(t)・PPTM(t)
によって行われ、
式中、CPTM(t)は、前記バリアントの血清中濃度であり、C(t)は、前記抗体の血清中濃度であり、PPTM(t)は、時間tでの前記バリアントの割合である、
本発明1019または1020の方法。
[本発明1022]
対象に治療用組み換えモノクローナル抗体を複数回投与した後の、前記抗体のバリアントへの前記対象の曝露を予測する方法であって、
本発明1019~1021のいずれかの方法を実行すること、
投与間隔に基づいて、前記抗体の後続の各投与の前後の前記バリアントの予測割合を計算すること、
各投与間隔での前記バリアントの前記予測割合に基づいて、前記対象における前記バリアントの予測血清中濃度を計算すること、及び
前記バリアントの前記予測血清中濃度に基づいて、前記抗体の2回以上の投与にわたる前記バリアントへの前記対象の曝露を予測すること
を含む、前記方法。
[本発明1023]
前記翻訳後修飾が、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、及び高マンノースグリコシル化のうちの1つ以上を含む、本発明1019~1022のいずれかの方法。
[本発明1024]
前記対象に前記抗体を投与することをさらに含む、本発明1019~1023のいずれかの方法。
[本発明1025]
前記抗体がmAbである、本発明1018~1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
前記対象における前記抗体の全インビボ濃度を特定することをさらに含む、本発明1018~1025のいずれかの方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1)親和性精製によるMAB1タンパク質の回収を示す一連のトレースである。MAB1の親和性精製の回収率は>99.5%であり、フロースルーには合計<0.5%のMAB1が検出された。回収率の計算は、実施例1の材料及び方法の節に記載した。既知量の高分子量標準(「上側マーカー」として示す)を、内部正規化対照として各サンプルと一緒に流した。各サンプルにおける上側マーカーのピーク面積に対するMAB1のピーク面積の比率を計算し、分析ごとのばらつきを補正した。
図2図2A及び図2Bは、ペプチド同定のMS/MSスペクトルの例(図2A)ならびにペプチドピーク積分及びPTM定量(図2B)の抽出イオンクロマトグラムの例である。(図2A)Metが酸化されたペプチドDTLMISR(配列番号1)の例のMS/MSスペクトル(上部パネル)及び野生型ペプチドDTLMISR(配列番号1)の例のMS/MSスペクトル(下部パネル)。(図2B)Metが酸化されたペプチドDTLMISR(配列番号1)の抽出イオンクロマトグラフ(上部パネル)及び野生型ペプチドDTLMISR(配列番号1)の抽出イオンクロマトグラフ(下部パネル)。
図3図3A及び図3Bは、単回投与PK試験(図3A)及び複数回投与PK試験(図3B)によるMAB1のFc領域の3つのAsn部位の各々での脱アミド化の相対存在量を示すグラフである。(図3A)単回投与試験では、3つのAsn部位の各々での脱アミド化の相対存在量は、一次反応速度式
に従う異なる速度で経時的に増加した。非線形回帰を使用して、Asn部位1、Asn部位2、及びAsn部位3でのインビボ脱アミド化速度定数は、それぞれ、0.003523%日-1、0.5394%日-1、及び0.1546%日-1と特定された。(図B)複数回投与試験では、3つのAsn部位の各々での脱アミド化の相対存在量は、該一次反応速度式に従って、各投与間隔の間に経時的に増加したが、各後続の投与後には、新たに投与された未修飾のMAB1による希釈のために急激に減少し、上昇傾向の鋸歯状パターンを示した。各投与時点は矢印「↑」で示されている。
図4図4A及び図4Bは、単回投与PK試験(図4A)及び複数回投与PK試験(図4B)によるMAB1のFc領域の3つのMet部位の各々での酸化の相対存在量を示すグラフである。(図4A)単回投与試験では、Met酸化の相対存在量はわずかに変動したが、3つ部位のすべてでほとんど変化しないままであった。(図4B)複数回投与試験では、Met部位1での酸化の相対存在量は、各投与間隔の間にわずかに減少し、各投与後わずかに増加した。Met部位2及び3での酸化の相対存在量は、安定した状態を保った。各投与時点は矢印「↑」で示されている。
図5図5A及び図5Bは、単回投与PK試験(図5A)及び複数回投与PK試験(図5B)によるN末端ピログルタミン酸の相対存在量を示すグラフである。(図5A)単回投与試験では、N末端ピログルタミン酸の相対存在量は、経時的に増加した。(図5B)複数回投与試験では、N末端ピログルタミン酸の相対存在量は、各投与間隔の間に増加したが、各後続のMAB1投与後には、新たに投与された未修飾のMAB1による希釈のために急激に減少し、上昇傾向の鋸歯状パターンを示した。各投与時点は矢印「↑」で示されている。
図6図6A及び図6Bは、単回投与PK試験(図6A)及び複数回投与PK試験(図6B)による重鎖C末端リジンを有するMAB1の相対存在量を示すグラフである。単回投与及び複数回投与の両試験で、C末端リジンは、各投与後1日以内に急速に除去された。各投与時点は矢印「↑」で示されている。
図7図7A及び図7Bは、単回投与PK試験(図7A)及び複数回投与PK試験(図7B)によるマンノース5グリコフォームの相対存在量を示すグラフである。(図7A)単回投与試験では、マンノース5の相対存在量は、6週間以内に0.5%から検出不能まで減少した。(図7B)複数回投与試験では、マンノース5の相対存在量は、各投与間隔の間に減少したが、各後続の新たな投与時には、新たに投与された高レベルのマンノース5を有するMAB1のために急激に増加し、下落傾向の鋸歯状パターンを示した。各投与時点は矢印「↑」で示されている。
図8図8Aは、単回投与PK試験による全MAB1への対象の曝露を示すグラフである。2コンパートメント薬物動態モデルの方程式C(t)=Ae-αt+Be-βtによって示されるMAB1の血清中濃度-時間曲線(黒線)を、ELISAで測定されたMAB1の血清中濃度(黒点)にフィットさせた。C(t)のAUCによって表される、56日間にわたる全MAB1への対象の曝露は、4302.0μg/mL・日と特定された。図8Bは、単回投与試験によるPQAでのMAB1への対象の曝露を示すグラフである。脱アミド化を伴うMAB1の血清中濃度-時間曲線は、CPQA(t)=C(t)・PPQA(t)で示され、CPQA(t)曲線のAUCは、PQAでのMAB1への該対象の曝露に相当する。Asn部位2での脱アミド化を伴うMAB1への56日間にわたる対象の曝露は、426.7μg/mL・日(実線)と特定された。Asn部位3での脱アミド化を伴うMAB1への56日間にわたる対象の曝露は、152.5μg/mL・日(破線)と特定された。N末端ピログルタミン酸を伴うMAB1への56日間にわたる対象の曝露は、191.5μg/mL・日(点線)と特定された。
図9図9Aは、複数回投与PK試験による全MAB1及びAsn部位2またはAsn部位3での脱アミド化を伴うMAB1の血清中濃度のモデル予測及び実験測定値を示すグラフである。全MAB1及びAsn部位2またはAsn部位3での脱アミド化を伴うMAB1の投与前及び投与後の予測血清中濃度は、実験測定値とよく一致している。全MAB1及びAsn部位2またはAsn部位3での脱アミド化を伴うMAB1の投与前及び投与後の濃度は、長期の投与後に定常状態のレベルに近づく。図9Bは、Asn部位2またはAsn部位3での脱アミド化の相対存在量のモデル予測及び実験測定値を示すグラフである。予測されたレベルは、実験値とよく一致している。Asn部位2またはAsn部位3での脱アミド化の投与前及び投与後の相対存在量は、長期の投与後に定常状態のレベルに近づく。各投与時点は矢印「↑」で示されている。
図10図10Aは、複数回投与PK試験によるN末端ピログルタミン酸を伴うMAB1の血清中濃度のモデル予測及び実験測定値を示すグラフである。N末端ピログルタミン酸を伴うMAB1の投与前及び投与後の予測血清中濃度は、実験測定値とよく一致している。N末端ピログルタミン酸を伴うMAB1の投与前及び投与後の濃度は、長期の投与後に定常状態のレベルに近づく。図10Bは、N末端ピログルタミン酸の相対存在量のモデル予測及び実験測定値を示すグラフである。予測されたレベルは、実験値とよく一致している。N末端ピログルタミンの投与前及び投与後の相対存在量は、長期の投与後に定常状態のレベルに近づく。各投与時点は矢印「↑」で示されている。
図11図11A及び図11Bは、単回投与試験(図11A)及び複数回投与試験(図11B)における、1日-1当たりのインビボ脱アミド化率2.5%及び初期脱アミド化レベル0%、10%、及び20%の仮説に基づいたCDR脱アミド化への対象の曝露のモデル化を示すグラフである。(図11A)単回投与試験において、初期脱アミド化0%、10%、及び20%の仮説に基づいたCDR脱アミド化バリアントへの56日間にわたる対象の曝露は、それぞれ、1385μg/mL・日、1653μg/mL・日、及び1921μg/mL・日であり、全mAbに対する対象の曝露のそれぞれ、32.5%、38.8%、及び45.1%を占めている。(図11B)複数回投与試験において、初期脱アミド化0%、10%、及び20%の仮説に基づいたCDR脱アミド化バリアントへの5回の投与(56日間)にわたる対象の曝露は、それぞれ、1086μg/mL・日、1478μg/mL・日、及び1871μg/mL・日であり、全mAbに対する対象の曝露のそれぞれ、21.7%、29.5%、及び37.3%を占めている。各投与時点は矢印「↑」で示されている。
図12)本開示の態様を実施するために使用することができるコンピュータシステムのブロック図である。
図13)本開示の態様を実施することができる分散コンピューティング環境の図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本方法を説明する前に、本発明が、特定の方法、及び記載される実験条件に限定されず、かかる方法及び条件は変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定するものとしては意図されないことも理解されたい。
【0030】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。本明細書に記載の方法及び材料と同様または同等の任意の方法及び材料を本発明の実践または試験において使用することもできるが、好ましい方法及び材料をここに記載する。本明細書で引用されるすべての特許、出願及び非特許出版物は、参照することにより全体として本明細書に組み込まれる。
【0031】
本明細書で使用される略語
Asn:アスパラギン
AUC:曲線下面積
CDR:相補性決定領域
CV:変動係数
EIC:抽出イオンクロマトグラフ
ELISA:酵素結合免疫吸着アッセイ
FDA:食品医薬品局
HC:重鎖
IgG:免疫グロブリンG
LC:軽鎖
mAb:モノクローナル抗体
MAB1:実施例1で使用される治療用ヒトモノクローナル抗体
Met:メチオニン
PK:薬物動態
PQA:製品品質特性
PTM:翻訳後修飾
RP-LC-MS/MS:逆相液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析
【0032】
定義
本明細書で使用される、「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された、4本のポリペプチド鎖、すなわち、2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子(すなわち、「完全な抗体分子」)、ならびにその多量体(例えば、IgM)またはその抗原結合断片を指すことを意図している。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「V」)ならびに重鎖定常領域(C1、C2及びC3ドメインからなる)からなる。様々な実施形態では、該重鎖は、IgGアイソタイプであり得る。場合によっては、該重鎖はIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4から選択される。いくつかの実施形態では、該重鎖は、アイソタイプIgG1またはIgG4のものであり、任意にアイソタイプIgG1/IgG2またはIgG4/IgG2のキメラヒンジ領域を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVRまたは「V」)及び軽鎖定常領域(C)からなる。該V及びV領域はさらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性領域に細分される。各V及びVは、3つのCDR及び4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へと、次の順序で配列される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。「抗体」という用語は、任意のアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方への言及を含む。「抗体」という用語は、組み換え手段によって調製、発現、作製、または単離された抗体分子、例えば、該抗体を発現するようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体を含む。抗体構造の総説については、Lefranc et al.,IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains,27(1)Dev.Comp.Immunol.55-77(2003)、及びM.Potter,Structural correlates of immunoglobulin diversity,2(1)Surv.Immunol.Res.27-42(1983)を参照されたい。
【0033】
抗体という用語はまた、「二重特異性抗体」も包含し、これには、複数の異なるエピトープに結合することができるヘテロ四量体免疫グロブリンが含まれる。1本の重鎖及び1本の軽鎖ならびに6つのCDRを含む二重特異性抗体の半分は、1つの抗原またはエピトープに結合し、該抗体の残りの半分は、異なる抗原またはエピトープに結合する。場合によっては、該二重特異性抗体は、同じ抗原に結合することができるが、異なるエピトープまたは非オーバーラップエピトープにおいてである。場合によっては、該二重特異性抗体の半分は両方とも、同一の軽鎖を有しながら二重特異性を保持している。二重特異性抗体は、概して米国特許出願公開第2010/0331527号(2010年12月30日)に記載されている。
【0034】
抗体の「抗原結合部分」(または「抗体断片」)という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片、すなわち、VL、VH、CL、及びCH1ドメインからなる一価の断片、(ii)F(ab’)2断片、すなわち、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結される2つのFab断片を含む二価の断片、(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.(1989)Nature 241:544-546)、(vi)単離されたCDR、ならびに(vii)合成リンカーによって結合され、VL及びVH領域が組み合わさって一価分子を形成する1本のタンパク質鎖を形成するFv断片の2つのドメイン、VL及びVHからなるscFvが挙げられる。一本鎖抗体の他の形態、例えば、ダイアボディもまた、「抗体」という用語に包含される(例えば、Holliger et at.(1993)90 PNAS U.S.A.6444-6448、及びPoljak et at.(1994)2 Structure 1121-1123参照)。
【0035】
さらに、抗体及びその抗原結合断片は、当技術分野で一般に知られている標準的な組み換えDNA技術を使用して得ることができる(Sambrook et al.,1989参照)。
【0036】
「Fc融合タンパク質」は、2つ以上のタンパク質の一部またはすべてを含み、そのうちの1つは、本来は一緒に見出されない免疫グロブリン分子のFc部分である。抗体由来のポリペプチド(Fcドメインを含む)の様々な部分に融合したある特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製については、例えば、Ashkenazi et at.,(1991)88 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.10535、Byrn et at.,(1990)344 Nature 677、及びHollenbaugh et at.,(1992)“Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins”,in Current Protocols in Immunology,Suppl.4,pages 10.19.1-10.19.11によって記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、Fc部分に結合された受容体の1つ以上の細胞外ドメインを含み、これは、いくつかの実施形態では、ヒンジ領域を含み、その後に免疫グロブリンのCH2及びCH3ドメインが続く。いくつかの実施形態では、該Fc融合タンパク質は、1つ以上のリガンドに結合する2つ以上の別個の受容体鎖を含む。例えば、Fc融合タンパク質は、トラップ、例えば、IL-1トラップ(例えば、リロナセプト、これは、hIgG1のFcに融合したIL-1R1の細胞外領域に融合IしたIL-1RAcPリガンド結合領域を含む。米国特許第6,927,004号参照)、またはVEGFトラップ(例えば、アフリバーセプト、これは、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含む。米国特許第7,087,411号(2006年8月8日発行)及び米国特許第7,279,159号(2007年9月9日発行)参照)である。
【0037】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列由来の可変及び定常領域を有する抗体を含むことを意図している。本発明のヒトmAbは、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異により、またはインビボでの体細胞突然変異によって導入される突然変異)を、例えば、CDRに、及び特にCDR3に含み得る。しかしながら、本明細書で使用される、「ヒト抗体」という用語は、別の哺乳類種(例えば、マウス)の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトFR配列にグラフトされたmAbを含むことを意図しない。該用語は、非ヒト哺乳類で、または非ヒト哺乳類の細胞で組み換え的に産生される抗体を含む。該用語は、ヒト対象から単離される、またはヒト対象で生成される抗体を含むことを意図しない。
【0038】
本明細書で使用される、「対象」という用語は、例えば、疾患または障害の改善、予防及び/または治療を必要とする動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを指す。
【0039】
本明細書で使用される、「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、治療薬、例えば、本発明の抗体を、それを必要とする対象に投与することに起因する、少なくとも1つの症状または兆候の重症度の低減または改善を指す。該用語には、疾患の進行の阻害が含まれる。該治療薬は、治療用量で該対象に投与され得る。
【0040】
「翻訳後修飾」(PTM)とは、タンパク質生合成後のタンパク質の共有結合修飾を指す。翻訳後修飾は、アミノ酸の側鎖で生じる場合もあれば、タンパク質のC末端またはN末端で生じる場合もある。抗体の例示的な翻訳後修飾としては、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、及びグリコシル化が挙げられる。
【0041】
概要
哺乳類細胞で産生される治療用モノクローナル抗体(mAb)は、翻訳後修飾(PTM)の結果として異成分からなる。治療用モノクローナル抗体(mAb)のPTMは、薬物の安定性、安全性、及び有効性に影響を与える可能性がある重要な製品品質特性(PQA)である(Xu et al.,Journal of Applied Bioanalysis 2017;3:21-5)。PTMは、mAbの製造、精製、保存、及び投与後の過程で生じ得る(Kozlowski et al.,Advanced drug delivery reviews 2006;58:707-22、Liu et al.,Journal of pharmaceutical sciences 2008;97:2426-47、Goetze et al.,mAbs 2010;2:500-7、Wang et al.,Journal of pharmaceutical sciences 2007;96:1-26)。薬物の製造及び保存中に生じる修飾は、確実に監視及び制御することができる。しかしながら、薬物の投与後、mAbがインビトロに対してインビボで遭遇する異なる環境を受け、さらなる修飾が生じ得る。mAbのPTMは、インビトロ条件と比較して、血流への投与後に著しく変化する。従って、mAbのインビボPTM変化の監視は、製品のリスク評価の過程でPQAの重要度を評価するのに役立つ。さらに、PTMバリアントへの対象の曝露の定量的評価は、治療用mAbの安全性及び有効性にPTMが与える影響を評価するのに役立つ。インビボで生じ得るPTMの評価及び予測は、製品のリスク評価における品質特性の重要度の理解を促進するだけでなく、製品の開発チームが、インビボでの安定性が向上したmAb薬物候補を設計するのにも役立つ。
【0042】
本明細書に開示の通り、本発明者らは、治療用モノクローナル抗体に存在する製品品質特性(PQA)の詳細な分析及び特定に着手した。モデルとして治療用モノクローナル抗体MAB1を使用し、本発明者らは、例えば、脱アミド化、酸化、N末端ピログルタミン酸形成、及びC末端リジン除去を含めた、多くの翻訳後修飾を評価した。本明細書に開示の通り、本発明者らは、単回及び複数回投与のサルの薬物動態(PK)試験において、治療用mAbであるMAB1のPTM(例えば、脱アミド化、酸化、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、及び高マンノースグリコシル化)を特定した。得られたデータを例として使用して、本発明者らは、単回及び複数回投与レジメンにおいて、3つの一般的なPTMを用いて、PQAのインビボ血清中濃度、PQAへの対象の曝露、及びPQAの相対存在量を計算するためのモデル化方程式を構築した。該モデル予測は実験結果との一致を示した。該モデルの適用例は、仮説に基づいたPTMを使用して解明された。該モデルは、高度なPKモデルが利用できない場合に、PQAの重要度を定量的に評価するための簡略化されたモデル化ツールを生化学分析化学者に提供する。以下の実施例で詳述するように、単回及び複数回投与PK試験によるサル血清サンプルを、親和性精製に続いてLC-MS/MSで分析し、MAB1のいくつかの翻訳後特性を特定した。本分析から得られたデータを使用し、本発明者らは、抗体の翻訳後修飾のインビボでの進行の数学的モデル及び/またはシミュレーションを構築して、治療用抗体の製品品質特性に対する対象の曝露を予測することができた。該シミュレーションは、PQAの重要度を評価するための定量的アプローチを提供する。
【0043】
MAB1のPQAの単回投与PK試験に基づいて、本発明者らには、PTMバリアントのPK濃度及び割合をモデル化すること、ならびに代表的なPTM特性(例えば、アスパラギンの脱アミド化)への対象の曝露を定量的に評価すること及び予測することが、単回及び複数回の両投与レジメンで可能であった。該モデルは、複数回投与レジメンで観察された最大及び最小PTMレベルも予測した。このモデル化アプローチは、生化学分析化学者に対して、治療用mAbのPQAの重要度を定量的に評価するための新たなツールを提供する。該モデルを使用して、初期PQAレベル(P)を調整することにより、プロセスの変更やロット間の変動によって引き起こされるPQAの影響を評価することができた。該モデル化により、PQAの進行または該PQAへの対象の曝露が、PQAの初期レベルに非感受性であることが示された場合、該PQAの許容範囲を広げて該プロセスの変更を採用することができる。
【0044】
該モデルを使用して、投与期間(t)を延長すること、または投与間隔(τ)を変更することにより、対象の曝露をシミュレートし、前臨床及び臨床試験でのPQAへの対象の曝露の定量的評価を提供することもできる。PQAへの対象の曝露の定量的評価は、該PQAに関連するリスクの評価に役立つ。PK試験の過程で高曝露レベルを有すると特定された既知の有害な免疫反応を伴うPQAは、高い潜在的リスクを有するであろう。かかる場合には、ある特定の戦略(例えば、インビボでの安定性を高めるためのタンパク質再設計)を実行し、該PQAのレベルを排除または低減することができる。
【0045】
抗体製品の品質特性への曝露の予測方法
本明細書に開示するのは、対象への抗体(例えば、治療用モノクローナル抗体)の投与後に、目的の翻訳後修飾を伴う該抗体のインビボ血清中濃度を予測する方法である。本開示の方法は、目的の翻訳後修飾を伴う抗体のパーセンテージを、目的の翻訳後修飾に対して特定されるインビボ速度定数を用いて予測することを含む。翻訳後修飾を伴う抗体のパーセンテージに、任意の時点での該抗体の全インビボ濃度を掛けて、目的の翻訳後修飾を伴う該抗体のその時点での濃度を特定することができる。例えば、方程式CPTM(t)=C(t)・P(t)を用いて、式中、C(t)は、抗体の血清中濃度であり、P(t)は、目的の翻訳後修飾のパーセンテージである。目的の翻訳後修飾を伴う抗体の血清中濃度(CPTM(t))を特定することができる。換言すれば、目的の翻訳後修飾を伴う抗体の血清中濃度は、その翻訳後修飾を有する全抗体のパーセンテージである。本明細書に開示の通り、該抗体の血清中濃度は、2コンパートメント薬物動態モデルの方程式C(t)=Ae-αt+Be-βtで示される場合があり、式中、A及びBは、それぞれ、α及びβがハイブリッド一次定数である場合のハイブリッド係数である。
【0046】
実施形態では、目的の翻訳後修飾についてのインビボ速度定数は、単回投与後の目的の翻訳後修飾のパーセンテージを、時間の関数として定量化すること、及び目的の該翻訳後修飾の定量化されたパーセンテージを、方程式
にフィットさせることによって特定される。式中、PPTM(t)は、時間の関数としての目的の翻訳後修飾の割合であり、Pは、目的の翻訳後修飾の初期パーセンテージであり、kPTMは、目的の翻訳後修飾に対する該翻訳後修飾の速度定数である。目的の翻訳後修飾の測定されたパーセンテージに曲線をフィットさせることにより、速度定数kPTMを、例えば、非線形回帰または他の数学的フィッティングアルゴリズムを用いて特定することができる。
【0047】
実施形態では、該方法は、目的の翻訳後修飾を伴う抗体の量に対する該対象の曝露を特定することも含み得る。例えば、目的の期間、例えば、数日、数週間または数か月にわたる、目的の翻訳後修飾を伴う抗体の濃度(CPTM(t))の曲線下面積(AUC)分析を使用することで、目的の翻訳後修飾を有する抗体の量に対する該対象の全曝露の値が得られる。
【0048】
同時に複数の部位に注目することも可能である。例えば、ある特定の部位での翻訳後修飾を伴う抗体の割合は、一次反応速度
によって示すことができ、ここで、PPTM_部位_i(t)は、部位iでの時間の関数としての翻訳後修飾の割合であり、Pは、部位iの初期の翻訳後修飾レベルであり、kPTM_部位_iは、部位iでの翻訳後修飾の速度定数である。従って、翻訳後修飾された抗体内のある特定の部位iを備えた抗体のPK濃度は、CPTM_部位_i(t)=C(t)・PPTM_部位_i(t)で示すことができる。CPTM_部位_i(t)プロットの曲線下面積(AUC)は、品質特性への対象の曝露を示す。さらに、例えば、1、2、3、またはそれ以上の異なる翻訳後修飾を有する、抗体バリアントの各々の種のおおよその濃度を計算することができる。
【0049】
脱アミド化に関する以下の実施例で論じる通り、モデルを複数回投与に拡張することにより、本明細書に開示の方法を使用して、当該抗体の複数回投与後の目的の翻訳後修飾を伴う該抗体のインビボ血清中濃度を予測してもよい。例えば、当該抗体の複数回投与後の目的の翻訳後修飾を伴う該抗体のインビボ血清中濃度を予測することには、複数の単回投与モデルを重ね合わせることが含まれる場合があり、この場合、各投与での該抗体の血清中濃度は、2コンパートメント薬物動態モデルの方程式C(t)=Ae-αt+Be-βtによって個々に示され、式中、A及びBは、それぞれ、α及びβがハイブリッド一次定数である場合のハイブリッド係数である。
【0050】
m回目の投与の直前の目的の翻訳後修飾を伴う抗体の血清中濃度は、以下の通りに示すことができる:
PTM,m,投与前(m・τ)=PPTM[(m-1)・τ]C[(m-1)・τ]+…+PPTM(1・τ)C(1・τ)
【0051】
m回目の投与の直後の目的の翻訳後修飾を伴う抗体の血清中濃度は、以下の通りに示すことができる:
PTM,m,投与後(m・τ)=PPTM[(m-1)・τ]C[(m-1)・τ]+…+PPTM(1・τ)C(1・τ)+PPTM(0)C(0)
ここで、PPTM(t)は、単回投与について記載した一次反応方程式である。従って、m回目の投与の直前の目的の翻訳後修飾を伴う抗体の割合は、以下の通りに示すことができる:
【0052】
m回目の投与の直後の目的の翻訳後修飾を伴う抗体の割合は、以下の通りに示すことができる:
【0053】
mが無限大に近づくと、P脱アミド化,m,投与前とPPTM,m,投与後はプラトーに達し、これは以下のように示すことができる:
従って:
【0054】
該方程式の定数A、B、α、β、及びkは、最初の投与間隔で得られた実験結果に該方程式をフィットさせることによって解くことができる。
【0055】
様々な実施形態では、該翻訳後修飾は、薬物の安定性、安全性、及び/または有効性に潜在的に影響を与え得る製品品質特性を含む。ある特定の実施形態では、該方法は、モノクローナル抗体、例えば、治療用組み換えモノクローナル抗体のインビボ翻訳後修飾プロファイルを監視するために使用される。場合によっては、該方法はさらに、翻訳後修飾のインビボでの進行及び製品品質特性への対象の曝露についての予測モデルを作製することを含む。いくつかの実施形態では、該翻訳後修飾は、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、及び/または高マンノースグリコシル化のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態では、該方法はさらに、PK濃度と翻訳後修飾バリアントの割合との相関をモデル化することを含む。いくつかの実施形態では、該方法はさらに、単回及び複数回投与の両レジメンでの代表的な翻訳後修飾への対象の曝露を定量的に評価及び予測することを含む。いくつかの実施形態では、該方法はさらに、複数回投与レジメンで観察される最大及び最小の翻訳後修飾レベルを予測することを含む。
【0056】
例示的なコンピュータシステム
図12を参照すると、本開示の方法を実施するための例示的なコンピュータシステムは、処理装置121、システムメモリ122、及び該システムメモリを含めた様々なシステムコンポーネントを処理装置121に結合するシステムバス123を含むコンピュータ120(例えば、パーソナルコンピュータ、ラップトップ、パームトップ、セットトップ、サーバ、メインフレーム、ハンドヘルドデバイス、及び他の種類のコンピュータ)を含む。該処理装置としては、様々な市販のプロセッサのいずれかでよく、INTEL(登録商標)x86、PENTIUM(登録商標)、ならびにINTEL(登録商標)とCyrix、AMD、及びNexgenを含めた他社の互換性のあるマイクロプロセッサ、Digital製Alpha、MIPS Technology、NEC、IDT(登録商標)、Siemens、及び他社製MIPS、ならびにIBM(登録商標)及びMotorola製PowerPCが挙げられる。デュアルマイクロプロセッサ及びその他のマルチプロセッサアーキテクチャもまた、処理装置121として使用することができる。
【0057】
該システムバスは、メモリバスまたはメモリコントローラ、周辺機器用バス、及び様々な従来のバスアーキテクチャ、例えば、数例を挙げると、PCI、VESA、AGP、MicroChannel、ISA、及びEISAのいずれかを使用するローカルバスを含めた、いくつかのタイプのバス構造のいずれかであり得る。例えば、起動時にコンピュータ120内の要素間で情報を転送するのに役立つ基本ルーティンを含む基本入力/出力システム(BIOS)は、ROM124に格納される。システムメモリは、読み取り専用メモリ(ROM)124及びランダムアクセスメモリ(RAM)125を含む。コンピュータ120はさらに、ハードディスクドライブ127、例えば、リムーバブルディスク129から読み取るためまたはそこに書き込むための磁気ディスクドライブ128、及び、例えば、CD-ROMディスク131を読み取るため、または他の光媒体から読み取るためもしくはそこに書き込むための光ディスクドライブ130を含み得る。ハードディスクドライブ127、磁気ディスクドライブ128、及び光ディスクドライブ130は、それぞれ、ハードディスクドライブインタフェース132、磁気ディスクドライブインタフェース133、及び光学ドライブインタフェース134によってシステムバス123に接続される。これらのドライブ及び関連するコンピュータ可読媒体は、コンピュータ120に対して、データの不揮発性ストレージ、データ構造(データベース)、コンピュータ実行可能命令等を提供する。上記のコンピュータ可読媒体の説明は、ハードディスク、リムーバブル磁気ディスク及びCDに言及しているが、当業者には、コンピュータ可読の他のタイプの媒体、例えば、磁気カセット、フラッシュメモリカード、デジタルビデオディスク、ベルヌーイカートリッジ等もまた、例示的な動作環境で使用することができることを理解されたい。
【0058】
オペレーティングシステム135、1つ以上のアプリケーションプログラム136、他のプログラムモジュール137、及びプログラムデータ138等のデータは、これらのドライブ及びRAM125に格納することができる。ユーザーは、様々な入力装置、例えば、キーボード140及びポインティングデバイス、例えば、マウス142を使用して、コンピュータ120にコマンド及び情報を入力することができる。他の入力装置(図示せず)としては、マイクロフォン、衛星放送受信アンテナ、スキャナ等を挙げることができる。これら及び他の入力装置は、多くの場合、システムバスに結合されるシリアルポートインタフェース146を介して処理装置121に接続されるが、他のインタフェース、例えば、パラレルポート、ゲームポートまたはユニバーサルシリアルバス(USB)によって接続することもできる。モニタ147または他のタイプの表示装置もまた、ビデオアダプタ148等のインタフェースを介してシステムバス123に接続される。モニタに加えて、コンピュータは通常、プリンタ等の他の周辺出力装置(図示せず)を含む。代替的に、表示媒体は、プリントアウトまたは他の有形的表現媒体である。出力情報は、保存及び/またはその後の使用または表示用に、コンピュータ可読媒体に保存することもできる。
【0059】
コンピュータ120は、1つ以上の他のコンピュータシステム、例えば、コンピュータ102への論理結合を使用してネットワーク化された環境で操作することができる。該他のコンピュータシステムは、サーバ、ルータ、ピアデバイスまたは他の共通ネットワークノードでもよく、通常、コンピュータ120に関して示される要素の多くまたはすべてを含むが、図12には、記憶装置149のみが示されている。図12に示す論理結合は、ローカルエリアネットワーク(LAN)151及び広域ネットワーク(WAN)152を含む。かかるネットワーク環境は、オフィス、企業規模のコンピュータネットワーク、イントラネット、及びインターネットで共通である。
【0060】
LANネットワーク環境で使用される場合、コンピュータ120は、ネットワークインタフェースまたはアダプタ153を介してローカルネットワーク151に接続される。WANネットワーク環境で使用される場合、コンピュータ120は通常、インターネット等の広域ネットワーク152を介して通信を確立するため(例えば、LAN151及びゲートウェイまたはプロキシサーバ155を介して)のモデム154または他の手段を含む。モデム154は、内蔵でも外付けでもよいが、シリアルポートインタフェース146を介してシステムバス123に接続される。ネットワーク化された環境では、コンピュータ120またはその一部に関して示されているプログラムモジュールは、遠隔記憶装置に格納することができる。示されているネットワーク接続は例示であり、コンピュータシステム間の通信リンクを確立する他の手段(イーサネットカード、ISDNターミナルアダプタ、ADSLモデム、10BaseTアダプタ、100BaseTアダプタ、ATMアダプタ等を含む)を使用してもよいことが理解されよう。
【0061】
該方法が含む上記の実行及び操作を含めた該方法は、コンピュータ120によって行われる場合もあれば、本開示の方法を行うために特異的にプログラムされた、または特化された機器もしくは他の装置によって行われる場合もある。従って、該方法は、特殊な機械、例えば、汎用コンピュータ以外の装置で実施され得る。かかる実行及び操作は、コンピュータで実行されると表現されることがある。該実行及び象徴的に表現される操作としては、データビットを表す電気信号の処理装置121による操作が挙げられ、結果として、該電気信号表現の変化または減少、及び該記憶装置(システムメモリ122、ハードドライブ127、フロッピーディスク129、及びCD-ROM131を含む)の記憶場所でのデータビットの維持をもたらし、それにより、該コンピュータシステムの操作、及び他の信号の処理を再構成または変更することが理解されよう。データビットが維持されるメモリの場所は、該データビットに対応する特定の電気的、磁気的、または光学的特性を有する物理的な位置である。
【0062】
例示的な分散コンピューティング環境
図13は、本開示の方法を実行するために使用されるソフトウェア及び/またはデータベース要素が存在し得る分散コンピューティング環境を示す。分散コンピューティング環境200は、接続媒体206によって接続される2つのコンピュータシステム202、204を含むが、本開示の方法は、接続媒体206によって接続される任意の多数のコンピュータシステムに等しく適用可能である。コンピュータシステム202、204は、パーソナルコンピュータ、マルチプロセッサシステム、ハンドヘルドデバイス等を含めた、いくつかのタイプのコンピュータシステム構成のいずれかであり得る。他のコンピュータシステムとの論理的関係の観点から、あるコンピュータシステムは、クライアント、サーバ、ルータ、ピアデバイス、または他の共通ネットワークノードであり得る。追加のコンピュータシステム202または204は、任意の数の接続媒体206によって接続され得る。接続媒体206は、イーサネット、企業規模のコンピュータネットワーク、イントラネット及びインターネットが挙げられるがこれらに限定されない、任意のローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)、または他のコンピュータネットワークを含むことができる。
【0063】
ソフトウェア及びデータ格納用のデータベースの一部は、単一のコンピュータシステム202または204に組み入れることができ、アプリケーションは後に、分散コンピューティング環境200における他のコンピュータシステム202、204に分散される。ソフトウェアの一部は、分散コンピューティング環境200で実行してもよく、ここでは、通信ネットワークを介してアクセスされる遠隔処理装置として機能する単一のコンピュータシステム202または204によってタスクが実行され、分散アプリケーションは後に、分散コンピューティング環境200における他のコンピュータシステムに分散される。ネットワーク化された環境では、プログラムモジュール及びデータ格納用のデータベースは、複数のコンピュータシステム202または204に配置することができる。分散コンピューティングネットワーク内のコンピュータシステム間の通信は、有利には、通信されたデータの暗号化を含み得る。
【実施例
【0064】
以下の実施例は、当業者に対して、本発明の方法及び組成物の作製及び使用方法の完全な開示及び説明を提供するために提示されており、本発明者らが自身の発明と見なすものの範囲を限定することを意図しない。使用される数値(例えば、量、温度等)に対する正確さを確保する努力がなされているが、いくらかの実験誤差及び偏差を考慮されたい。特に明記しない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、室温は約25℃であり、圧力は大気圧であるか、またはそれに近い。
【0065】
実施例1
単回及び複数回投与のサルの薬物動態試験における治療用モノクローナル抗体の製品品質特性の定量化及びモデル化
本実施例は、単回及び複数回投与PK試験によるサル血清サンプルを使用して、治療用モノクローナル抗体MAB1のPQAの数の調査について記載する。親和性精製とそれに続くLC-MS/MSにより、脱アミド化、酸化、N末端ピログルタミン酸、C末端リジン除去、及び高マンノースグリコシル化を含めたいくつかのMAB1のPTM特性を評価した。さらに、PQAの重要度を評価するための定量的アプローチを提供するPTMのインビボでの進行及びPQAへの対象の曝露をシミュレートするモデルを構築した。アスパラギンの脱アミド化を代表的なPTM特性として使用し、これらのモデルを評価した。本開示のモデルによってシミュレートされた脱アミド化されたMAB1への対象の曝露は、単回及び複数回投与の両試験の実験結果とよく一致した。
【0066】
材料及び方法
材料
本試験で使用したヒトIgG4モノクローナル抗体(MAB1)及び抗ヒト抗体は、Regeneron Pharmaceuticals,Inc.(Tarrytown,NY)で製造された。MABの平均半減期はおよそ11.5日であった。特に明記しない限り、試薬はすべてSigma-Aldrich(St.Louis,MO)またはThermo Fisher Scientific(Waltham,MA)から入手した。
【0067】
前臨床サンプルの情報
前臨床血清サンプルは、単回投与または複数回投与のいずれかのカニクイザルPK試験から得た。MAB1を対象の静脈内に(IV)投与した。単回投与試験では、動物に10mg/kgを投与し、血清サンプルを8週間(56日間)にわたって指定の時点(投与前、5分、4時間、12時間、1日、3日、7日、14日、18日、30日、42日、及び56日)で採取した。複数回投与試験では、2週間(14日間)おきに動物に3mg/kgを投与し、血清サンプルを8週間(56日間)にわたって、第一の投与間隔内の指定の時点(投与前、1時間、4時間、1日、3日、7日)、及び新たな投与の各々の前後(14日、28日、42日、56日)で採取した。血清サンプルは、分析まで-80℃で保存した。各採取時点でのMAB1の血清中濃度は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用して測定した。簡潔には、MAB1を、薬物標的でコーティングしたマイクロタイタープレートに捕捉した。プレートに捕捉されたMAB1は、ビオチン化マウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体に続いて西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたNeutrAvidin(NeutraAvidin-HRP)を使用して検出した。次に、ペルオキシダーゼに特異的なルミノール系基質を加えて、MAB1の濃度に比例する信号強度を得た。
【0068】
血清サンプルからのMAB1の親和性精製
MAB1は、採取したサルの血清サンプルから親和性精製により精製した。簡潔には、ビオチン化抗ヒト抗体を、Dynabeads MyOne Streptavidin T1磁気ビーズ(Invitrogen,Carlsbad,CA)に室温で10分間コンジュゲートした。コンジュゲートしたビーズを血清サンプルとともに室温で30分間インキュベートした。このビーズをHBS-EP緩衝液(GE Healthcare,Pittsburgh,PA)で洗浄し、次いで0.1%ギ酸及び50%アセトニトリルで溶出した。バイオアナライザ(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)を使用して、親和性精製でのMAB1の回収率を評価した。既知量のAgilent製230kDa高分子量標準(「上側マーカー」として示す)を、内部正規化対照として各サンプルと一緒に流した。各サンプルにおける上側マーカーのピーク面積に対するMAB1のピーク面積の比率を計算し、分析ごとのばらつきを補正した。親和性精製でのMAB1の回収率は、次式を使用して計算した:
【0069】
トリプシン消化
精製したMAB1サンプルを、真空濃縮器(LABCONCO,Kansas City,MO)を使用して乾燥させた。乾燥した試料を、8M尿素及び10mMのTCEP中に再懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。還元システイン残基を、10mMのヨードアセトアミドにより、暗所にて室温で30分間アルキル化した。アルキル化後、消化前に尿素濃度を1.25Mに希釈した。トリプシン(Promega,Sunnyvale,CA)を、サンプルに対して酵素:基質比1:10で加え、37℃で4時間インキュベートした。消化は、20%ギ酸(FA、Thermo Scientific,San Jose,CA)の添加により停止させた。消化したサンプルを分析まで-80℃で保存した。
【0070】
LC-MS/MS及びデータ分析
トリプシン消化によって生じたペプチドを、Q Exactive及び質量分析計(Thermo Fisher Scientific,San Jose,CA)に接続したAcquity I-Class UPLCシステム(Waters,Milford,MA)にて、Acquity UPLC CSH C18 1.7μm、2.1mm×150mmカラム(Waters,Milford,MA)を使用して分離した。移動相Aは0.1%FA水溶液であり、移動相Bは0.1%FAのアセトニトリル溶液であった。ペプチド分離には、流量0.25mL/分にて、56分間の移動相B2%から移動相B30%への勾配を使用した。MSの取得は、フルマススキャンに続いて、各フルスキャンの上位5つの最高強度イオンのタンデムマス(MS/MS)スキャンで構成した。ペプチド及びPTMの同定は、Byonic(バージョン2.16.11、Protein Metrics Inc.,San Carlos,CA)によって行い、手作業で検証した。PTMの相対存在量を定量化するため、修飾ペプチド及び天然ペプチドの両方の最初の同位体ピークのm/zに基づく抽出イオンクロマトグラムを生成し、5ppmの質量ウィンドウを使用して、抽出したピーク面積をSkyline-daily(バージョン4.1.1.18151)を使用して統合した。各PTMバリアントのパーセンテージは、この抽出イオンクロマトグラム(EIC)の修飾ペプチドと天然ペプチドのピーク面積の合計に対する修飾ペプチドのピーク面積を使用して計算した。
【0071】
単回投与PK試験における品質特性への対象の曝露の計算
単回投与PK試験における品質特性への対象の曝露の定量的評価は、Flynn et al.によって以前に記載された(Goetze et al.,mAbs 2010;2:500-7)。MAB1の血清中濃度-時間方程式は、2コンパートメントモデルで示すことができる(Rowland and Tozer Wolters Kluwer Health/Lippincott William & Wilkins,2011):
式中、C(t)はMAB1の血清中濃度であり、C、C、λ、及びλはハイブリッド定数である。
【0072】
読みやすくするために、以下の形式を採用した:
式中、A及びBは、ゼロ時間切片(ハイブリッド係数)であり、α及びβは、それぞれ、ハイブリッド一次定数である。この方程式を、採取した時点のELISAで測定したMAB1の血清中濃度にフィットさせ、最良フィットパラメータを見出した。このフィッティングの拘束は:C(0)が最初の投与後のELISAで測定されるMAB1の血清中濃度より高くなくてはならないこと、C(無限大)定数が0であること、A及びBが0より大きくなくてはならないことである。R二乗は、当てはまりの良さを定量化するために使用し、R二乗が0.95を超えた場合に良好なフィットと見なした。
【0073】
部位特異的Asnでの脱アミド化を伴うMAB1の相対存在量は、一次速度定数の方程式によって示すことができる:
式中、P脱アミド化(t)は脱アミド化の割合であり、Pは、0日目における初期の脱アミド化レベルであり、k脱アミド化は、脱アミド化速度定数である。
【0074】
特定のAsn部位での脱アミド化を伴うMAB1の血清中濃度は、次のように示すことができる:
式中、C脱アミド化(t)は、特定のAsn部位での脱アミド化を伴うMAB1の血清中濃度である。C脱アミド化(t)の曲線下面積(AUC)は、この品質特性(すなわち、特定のAsn部位での脱アミド化を伴うMAB1)への対象の曝露を表す。C(t)とP脱アミド化(t)を示す方程式を、JMP(バージョン13.2.1、SAS,Cary,NC)を使用した非線形回帰で解いた。C脱アミド化(t)は、Excel(Microsoft,Redmond,WA)を使用して計算し、JMPを使用してプロットした。C脱アミド化(t)のAUCで表される対象の曝露は、JMPを使用して計算した。
【0075】
複数回投与PK試験における品質特性への対象の曝露の計算
複数回投与PK試験における品質特性への対象の曝露のモデル化を、複数の単回投与の線形累積として重ね合わせの原理を使用し、数学的に単純化した。各投与後のMAB1の血清中濃度は、上記の単回投与PK試験で論じた2コンパートメントモデルで示した。m回目の投与の直前のMAB1の血清中濃度は、以下の通りに示すことができる:
式中、mは投与回数であり、τは投与間の時間間隔である。
【0076】
m回目の投与の直後のMAB1の血清中濃度は、以下の通りに示すことができる:
【0077】
mが無限大に近づくと、Cm,投与前及びCm,投与後は以下の通りに示される定常状態の濃度に近づく:
【0078】
m回目の投与の直前に特定のAsn部位での脱アミド化を伴うMAB1の血清中濃度は、以下の通りに示すことができる:
【0079】
m回目の投与の直後に特定された特定のAsn部位での脱アミド化を伴うMAB1の血清中濃度は、以下の通りに示すことができる:
ここで、P脱アミド化(t)は、上記の単回投与PK試験で論じた一次反応方程式である。
【0080】
従って、m回目の投与の直前に特定のAsn部位での脱アミド化を伴うMAB1の相対存在量は、以下の通りに示すことができる:
【0081】
m回目の投与の直後に特定のAsn部位での脱アミド化を伴うMAB1の相対存在量は、以下の通りに示すことができる:
【0082】
mが無限大に近づくと、P脱アミド化,m,投与前及びP脱アミド化,m,投与後は以下の通りに示される定常状態のレベルに近づく:
【0083】
総和項の計算が収束するため、定常状態での投与前の脱アミド化のレベルは、以下の通りに簡略化することができる:
【0084】
従って、定常状態での投与後の脱アミド化のレベルは、以下の通りに簡略化することができる:
この式の定数A、B、α、β、及びkは、最初の投与間隔内での実験結果にこの式をフィットさせることによって解いた。このシミュレーション値及び予測値を、Excelを使用して計算し、JMPを使用してプロットした。対象の曝露(すなわち、AUC)は、JMPを使用して計算した。
【0085】
結果
インビボでのMAB1の翻訳後修飾の定量化
様々なPTMを伴うMAB1バリアントのインビボ動態を、単回及び複数回投与の両方のサルPK試験で評価した。
【0086】
ストレプトアビジン磁気ビーズにコンジュゲートしたビオチン化抗ヒトFc抗体を使用して、サルの血清サンプルからMAB1を抽出した。MAB1の親和性精製による回収率は>99.5%であり(図1)、これは親和性精製アプローチが、本来のMAB1とそのPTMバリアントの両方を完全に抽出することができることを示し、各PTMの相対的なPTM存在量の正確な定量を保証した。
【0087】
図2Aは、野生型Fcトリプシンペプチド「DTLMISR」(配列番号1)(下部パネル)及び対応するメチオニン(Met)酸化ペプチド(上部パネル)の同定の例示的なタンデムMSスペクトルを示す。図2Bは、野生型ペプチド(下部パネル)及び対応するMet酸化ペプチド(上部パネル)の抽出イオンクロマトグラフのピーク面積を示す。
【0088】
アスパラギン(Asn)の脱アミド化は、mAbsの高度に保存された結晶化可能断片(Fc)領域では一般的なPTMである(Chelius et al.,Analytical Chemistry 2005;77:6004-11、Sinha et al.,Protein Science:a publication of the Protein Society 2009;18:1573-84)。3つの一般的な脱アミド化部位、すなわち、CH2ドメインの「NG」(Asn部位1)、CH3ドメインのPENNYペプチドの「NG」(Asn部位2)及び「NN」(Asn部位3)を本試験では測定した。本試験では、Asnの3つの脱アミド化部位、すなわち、CH2ドメインの「NG」(Asn部位1)、CH3ドメインの「NG」(Asn部位2)及び「NN」(Asn部位3)を測定した。単回投与PK試験では、Asn部位1での脱アミド化の相対存在量は、56日間にわたって約0.2%の低レベルでほとんど変化しなかった(図3A)。Asn部位2及びAsn部位3の脱アミド化の相対存在量は、56日間で、それぞれ、約1%から、25.5%及び9.1%に増加した(図3A)。脱アミド化率は、一次アミノ酸配列、タンパク質構造、pH、温度、及び緩衝剤組成に依存する(Chelius et al.,Analytical Chemistry 2005;77:6004-11、Sinha et al.,Protein Science:a publication of the Protein Society 2009;18:1573-84、Kossiakoff,Science 1988;240:191-4、Athmer et al.,The Journal of Biological Chemistry 2002;277:30502-7、Xie et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences 1999;88:8-13、Wearne et al.,Proteins 1989;5:8-12、Capasso et al.,The Journal of Peptide Research:official journal of the American Peptide Society 1999;54:377-82、Song Y et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences 2001;90:141-56、Wakankar et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences 2006;95:2321-36、Zheng et al.,International Journal of Pharmaceutics 2006;308:46-51、Pace et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences 2013;102:1712-23)。一次アミノ酸配列内のグリシン(Gly)またはセリン(Ser)が後に続くAsn残基は、特に脱アミド化を受けやすい(Patel et al.,Pharmaceutical Research 1990;7:787-93、Stephenson et al.,The Journal of Biological Chemistry 1989;264:6164-70;et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2001;98:944-9、Robinson et al.,The Journal of Peptide Research:official journal of the American Peptide Society 2004;63:426-36)。「NG」及び「NN」部位は完全に溶媒にさらされるため、CH2ドメインの「NG」部位(DeLano et al.,Science 2000;287:1279-83)より脱アミド化を受けやすい(DeLano et al.,Science 2000;287:1279-83)。
【0089】
脱アミド化率は、以前に確立された一次速度方程式を使用して示すことができる(Geiger et al.,The Journal of Biological Chemistry 1987;262:785-94)。この速度方程式は
で表すことができ、ここで、P脱アミド化(t)は、材料及び方法に記載の通り、時間の関数としての脱アミド化の割合であり、Pは、初期の脱アミド化のレベルであり、k脱アミド化は、脱アミド化速度定数である。この方程式を、単回投与試験においてLC-MSで測定した脱アミド化のレベルに非線形的にフィットさせ、最良フィットパラメータを特定した(図3A及び表1)。Asn部位1、Asn部位2、及びAsn部位3のインビボ脱アミド化速度定数を非線形的にフィットさせて、それぞれ、Rが0.9946、0.9866、及び0.8941でそれぞれ、0.003278%日-1、0.5384%日-1、及び0.1566%日-1であった(表1)。
【0090】
(表1)単回投与PK試験による修飾速度方程式における最良フィットパラメータ値
ここで、Pは、0日目における初期の脱アミド化レベルであり、k脱アミド化は、脱アミド化速度定数である。
【0091】
複数回投与試験では、Asn部位1での脱アミド化は、56日間にわたる5回の隔週投与後、約0.5%の低レベルでほとんど変化しなかった(図3B)。Asn部位2及び3の脱アミド化の相対存在量は、各投与間隔内に蓄積したが、新たに投与された非脱アミド化MAB1による希釈のため、新たな投与の各々の後に急激に低下した(図3B)。脱アミド化MAB1の蓄積により、投与前及び投与後の脱アミド化レベルは、各投与後に徐々に上昇した。56日目の5回目の投与の前、Asn部位2での脱アミド化の投与前レベルは14.2%に上昇したが、投与後レベルは7.9%に下がった(図3B)。56日目の5回目の投与の前、Asn部位3での脱アミド化の投与前レベルは6.2%に上昇したが、投与後レベルは3.6%に下がった(図3B)。結果として、Asn部位2及びAsn部位3での脱アミド化の相対存在量は、経時的に増加傾向の鋸歯状のパターンを示した(図3B)。図3Bはまた、投与前及び投与後の両脱アミド化レベルが、有限の投与回数後に定常状態に近づくことを示唆している。脱アミノ化の定常状態レベルを予測するため、MAB1濃度の2コンパートメントモデルを構築し、これを以下のモデル化の節で論じる。Met酸化はmAbsの別の一般的なPTMである(Yin et al.,Pharmaceutical research 2013;30:167-78、Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al.,mAbs 2016:0、Liu et al.,The Journal of biological chemistry 2011;286:11211-718)。Fc領域でのMet酸化は、Fc受容体の結合に影響を与えることが分かっている(Pan et al.,Protein Science:a publication of the Protein Society 2009;18:424-33)。本試験では、Fc領域の3つの一般的なMet酸化部位、すなわち、CH2ドメインのMet部位1、ならびにCH3ドメインのMet部位2及び3を評価した。単回投与試験では、Met部位1、2、及び3での酸化の相対存在量は、それぞれ、約8.0%、約2.0%、及び約5.0%のレベルで56日間にわたって比較的変化しなかった(図4A)。複数回投与試験では、Met部位1での酸化レベルは、各投与間隔の間にわずかに低下し、各投与後にわずかに上昇し、約7.0%~約9.0%の間で変動する鋸歯状のパターンを示した。Met部位2及び3での酸化レベルは、複数回投与試験では、それぞれ、約1.0%及び4.0%のレベルで安定したままであった(図4B)。
【0092】
mAbのN末端でのN末端グルタミン及びグルタミン酸は、化学的または酵素的環化を通じてピログルタミン酸を形成する傾向がある。グルタミンの変換は、グルタミン酸の変換よりはるかに速く行われる(Yin et al.,Pharmaceutical research 2013;30:167-78、Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al.,mAbs 2016:0、Liu et al.,The Journal of biological chemistry 2011;286:11211-718)。N末端環化タンパク質は、アミノペプチダーゼによる消化に対する耐性を示し、分解を防ぐ。この変換を触媒する酵素であるグルタミニルシクラーゼは、ヒトの血液に含まれ(Schilling et al.,Biological Chemistry 2008;389:983-91)、インビボでのmAbのグルタミン酸からのピログルタミン酸の形成は、主にpH依存性の非酵素的反応であり、インビトロのPBS中で同じ速度定数を有する(Yin et al.,Pharmaceutical Research 2013;30:167-78、Liu et al.,The Journal of Biological Chemistry 2011;286:11211-7)。単回投与試験では、N末端ピログルタミン酸は、56日間で0.7%から11.7%に増加した(図5A)。インビボでのN末端ピログルタミン酸形成率は、LC-MSで測定されたN末端ピログルタミン酸レベルへの非線形フィッティングを使用して、Rが0.9970で0.2201%日-1と特定された。複数回投与試験では、N末端ピログルタミン酸形成は、Asnの脱アミド化と同様の鋸歯状パターンに似ていた(図5B)。ピログルタミン酸のレベルは、各投与間隔の間に上昇したが、新たに投与された未修飾のMAB1による希釈を受け、新たな投与の各々の後に急激に低下した。56日目の5回目の投与の前、ピログルタミン酸のレベルは7.6%に上昇し、5回目の投与後に4.2%に下がった(図5B)。
【0093】
mAbの重鎖のC末端のリジン残基は、タンパク質発現の過程で塩基性カルボキシペプチダーゼによって除去されやすい(Dick et al.,Biotechnology and Bioengineering 2008;100:1132-43)。C末端のリジンの部分的な除去により、電荷が不均一になる。投与前、C末端のリジンを含むMAB1製剤の割合は約2.0%であった。単回及び複数回投与の両試験で、C末端のリジンは、各投与後1日以内に急速に除去された(図6)。これらの観察は、以前に報告された試験と一致する。
【0094】
Fc領域でのN結合型グリコシル化は、一般に観察されるmAbのPQAである。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)で発現されるmAbのN結合型グリコフォームの主要な構造は、通常、1つ以上のさらなる単糖が結合したコアの二分岐五糖構造からなる。複雑な二分岐オリゴ糖構造に加えて、高マンノースグリコフォーム(例えば、マンノース5)もまた、CHOで発現される抗体において観察され得る。単回投与試験では、主要なグリコフォーム(フコシル化複合体の二分岐)の相対存在量は56日間にわたって変化しなかった。しかしながら、マンノース5のグリコフォームの相対存在量は、6週間以内に0.5%から検出不能まで減少した(図6A)。この知見は、高マンノース受容体を介したクリアランス経路による高マンノースグリコフォームのより速い血清クリアランスと一致する(Goetze et al.,Glycobiology 2011;21:949-59、Alessandri et al.,mAbs 2012;4:509-20)。複数回投与試験では、マンノース5のレベルは、各投与間隔の間に低下し、新たな投与の各々の直後に、新たに投与された高レベルのマンノース5を有するMAB1との混合により評価され、鋸歯状パターンを示した(図6B)。5回目の投与を施す前、マンノース5のレベルは0.1%に低下した。5回目の投与を施した後、マンノース5のレベルは0.4%に上昇した。
【0095】
単回投与試験におけるMAB1のPQAへの対象の曝露のモデル化
mAbの品質特性への対象の曝露の定量的評価は、品質特性が薬物の安全性及び有効性に与える影響を評価するのに役立つ。材料及び方法の節で記載したように、ある特定のPTMを伴うmAbのインビボ血清中濃度は、CPTM(t)=C(t)・P(t)で示すことができる。CPTM(t)の曲線下面積(AUC)は、PTMを伴うmAbへの対象の曝露に相当する(Goetze et al.,mAbs 2010;2:500-7)。本試験では、Asn部位2及びAsn部位3での脱アミド化ならびにN末端ピログルタミン酸形成を例として使用して、単回投与試験でのPQAへの対象の曝露のモデル化を示した。Met酸化がインビボで変化しなかった(図4)ため、本明細書で論じる他のPTMではモデル化は行わず、C末端のリジンは、投与後数時間で急速に除去され(図6)、マンノース5及びAsn部位1での脱アミド化のレベルは極端に低かった(0.5%未満、図3及び図7)ため、これらのPTMのモデル化が実質的に意味のないものである可能性が生じた。
【0096】
MAB1の血清中濃度-時間プロファイルは、2コンパートメント薬物動態モデルの方程式C(t)=Ae-αt+Be-βtで示された式であった。式中、A及びBは、α及びβがハイブリッド一次定数である場合のハイブリッド係数である。単回投与PK試験による実験的なMAB1血清中濃度は、ELISAアッセイを使用して特定した。モデル化方程式は、Rが0.9916でのELISAで測定されたMAB1血清中濃度に非線形フィットさせることによって解いた(図8A)。モデル化方程式の最良フィットパラメータ値を表2に示す。C(t)のAUCで表される56日間にわたる全MAB1への対象の曝露は、4302.0μg/mL・日であった(図8A)。
【0097】
Asn部位2での脱アミド化の速度方程式は、上記前節でP脱アミド化-Asn2(t)=1-(1-0.01143)・e-0.005394tとして特定された。Asn部位2での脱アミド化を伴うMAB1の血清中濃度-時間方程式C脱アミド化-Asn2(t)=C(t)・P脱アミド化-Asn2(t)は、従って、C(t)とP脱アミド化-Asn2(t)の乗算によって解くことができる。C脱アミド化-Asn2(t)の曲線を図8Bにプロットした。C脱アミド化(t)のAUCで表されるAsn部位2での脱アミド化を伴うMAB1への56日間にわたる対象の曝露は、426.7μg/mL・日と計算され(図8B)、全MAB1への56日間にわたる対象の暴露の9.9%を占めていた。
【0098】
同様に、Asn部位3での脱アミド化の速度方程式は、上記前節でP脱アミド化-Asn3(t)=1-(1-0.008848)・e-0.001546tとして特定された。Asn部位3での脱アミド化を伴うMAB1の血清中濃度-時間方程式C脱アミド化-Asn3(t)=C(t)・P脱アミド化-Asn3(t)は、従って、C(t)とP脱アミド化-Asn3(t)の乗算によって解くことができる。C脱アミド化-Asn3(t)の曲線を図8Bにプロットした。C脱アミド化-Asn3(t)のAUCで表されるAsn部位3での脱アミド化を伴うMAB1への56日間にわたる対象の曝露は、152.5μg/mL・日と計算され(図8B)、全MAB1への56日間にわたる対象の暴露の3.5%を占めていた。
【0099】
N末端ピログルタミン酸形成の速度方程式は、上記前節でPPyroE(t)=1-(1-0.006868)・e-0.002201tとして特定された。N末端ピログルタミン酸を伴うMAB1の血清中濃度-時間方程式CPyroE(t)=C(t)・PPyroE(t)は、従って、C(t)とPPyroE(t)の乗算によって解くことができる。CPyroE(t)の曲線を図8Bにプロットした。CPyroE(t)のAUCで表されるN末端ピログルタミン酸を伴うMAB1への56日間にわたる対象の曝露は、191.5μg/mL・日であり(図8B)、全MAB1への56日間にわたる対象の暴露の4.5%を占めていた。
【0100】
(表2)単回投与PK試験及び複数回投与PK試験の最初の投与間隔からのMAB1血清中濃度-時間方程式における最良フィットパラメータ値
【0101】
複数回投与試験におけるMAB1のPQAへの対象の曝露のモデル化
全MAB1及び特定の特性(例えば、Asn脱アミド化)を有するMAB1の両方への対象の曝露は、濃度-時間曲線下面積を使用して、任意の所定の時間間隔に対して計算することができる。予測及び実験的全MAB1血清中濃度-時間曲線のAUCは、規定の時間間隔にわたる全MAB1への対象の曝露を表す。予測及び実験的MAB1血清中濃度-時間曲線(図9A)に基づいて、5回の投与(56日間)にわたる全MAB1への予測及び実験的に特定された対象の曝露は、それぞれ、5013μg/mL・日及び4789μg/mL・日であった。予測値と実験値の差は4.7%である。同様に、Asn部位2での脱アミド化を伴うMAB1の予測及び実験的に特定された濃度-時間曲線のAUCは、規定の時間間隔にわたるAsn部位2での脱アミド化を伴うMAB1への対象の曝露を表す。Asn部位2で脱アミド化されたMAB1への5回の投与(56日間)にわたる予測及び実験的に特定された対象の曝露は、それぞれ、381.5μg/mL・日及び352.6μg/mL・日であった(図9A)。Asn部位2で脱アミド化されたMAB1への予測及び実験的に特定された対象の曝露は、56日間にわたる全MAB1への対象の曝露の割合として、それぞれ、7.0%及び7.9%であり、これらのモデルが実験結果を正確に予測することができることを示した。
【0102】
Asn部位3で脱アミド化されたMAB1への5回の投与(56日間)にわたる予測及び実験的に特定された対象の曝露は、それぞれ、172.8μg/mL・日及び158.8μg/mL・日であった(図9A)。Asn部位3で脱アミド化されたMAB1への予測及び実験的に特定された対象の曝露は、56日間にわたる全MAB1への対象の曝露の割合として、それぞれ、3.4%及び3.3%であった。
【0103】
N末端ピログルタミン酸を伴うMAB1への5回の投与(56日間)にわたる予測及び実験的に特定された対象の曝露は、それぞれ、218.5μg/mL・日及び231.8μg/mL・日であった(図10A)。N末端ピログルタミン酸を伴うMAB1への予測及び実験的に特定された対象の曝露は、56日間にわたる全MAB1への対象の曝露の割合として、それぞれ、4.3%及び4.8%であった。
【0104】
複数回投与試験におけるMAB1のPQAのインビボでの相対存在量のモデル化
これらモデルを使用し、複数回投与試験の間の任意の所与の投与におけるmAbのPQAの投与前及び投与後のレベルを式12及び式13をそれぞれ用いることによって予測することもできる。例えば、56日目における、Asn部位2での脱アミド化の投与前及び投与後の脱アミド化の予測レベルは、それぞれ、14.2%及び7.9%である。この予測値は、56日目にLC/MSで測定された、それぞれ、15.0%と7.9%であった投与前及び投与後と一致する。他のすべての予測脱アミド化レベル(図9B、中空円)は、実験測定値(図9B、中実点)とよく一致する。複数回投与試験における投与前及び投与後のPTMレベルは、投与前及び投与後のmAbの血清中濃度が定常状態濃度に達するのと同様に、定常状態に達するであろう(図9B)。PQAの投与前及び投与後の予測定常状態レベル(すなわち、プラトーレベル)は、複数回投与試験におけるインビボでのこのPQAの最大及び最小レベルに相当する。式16及び式17を使用して、Asn部位2での脱アミド化を伴うMAB1の投与前及び投与後の定常状態レベルは、それぞれ、17.9%及び9.7%であると特定された。
【0105】
同様に、Asn部位3での投与前及び投与後の予測脱アミド化レベル(図9B、中空三角形)は、実験測定値(図9B、中実三角形)とよく一致する。Asn部位3での脱アミド化を伴うMAB1の投与前及び投与後の定常状態レベルは、それぞれ、8.4%及び4.6%であると特定された。
【0106】
投与前及び投与後の予測N末端ピログルタミン酸レベル(図10B、中空円)は、実験測定値(図10B、中実点)とよく一致する。N末端ピログルタミン酸を伴うMAB1の投与前及び投与後の定常状態レベルは、それぞれ、8.1%及び4.5%であると特定された。
【0107】
モデルの適用例
治療用タンパク質のインビボでのPQAの定量的評価は重要であり、これは、それがインビトロでは特定されない潜在的な重要品質特性(CQA)を特定するのに役立つからであり、製品のリスク評価及び制御戦略に影響を及ぼす。本明細書に記載するモデルは、多くの用途でPQAの定量的評価に使用することができる。第一に、単回及び複数回投与レジメンにおけるPQAのインビボでの進行ならびに該PQAへの対象の曝露を、これらモデルを用いて計算することができる。モデル予測と実験測定値の間の良好な一致は、上記の節で実証された(図8、9、及び10)。第二に、これらモデルを使用して、投与期間(t)の延長による対象の曝露を予測すること、ならびにPQAの投与前及び投与後の定常状態の濃度/レベルを特定すること(図9及び10)ができ、前臨床及び臨床試験に対する知見をもたらす。第三に、これらモデルを使用して、プロセス変更またはロット間変動に起因するPQAの初期レベルの変化の影響を、これらモデル化方程式でのPQAの初期レベル(P)を調整することによって評価することができる。これは、PQAがCDRの修飾である場合に特に意味がある。本試験で使用したMAB1には、本モデル化適用に適したCDR修飾がないため、1日-1当たり2.5%のインビボ脱アミド化率の仮説に基づいたCDR脱アミド化を、CDR脱アミド化の初期レベルがPQAへの対象の曝露に与える影響を評価するためにこれらモデルを使用する例として使用した。仮説に基づいたCDR脱アミド化の初期レベルが、それぞれ、0%、10%、及び20%である製剤の3つのバッチが存在する場合。これらバッチの経時的なインビボでの仮説に基づいたCDR脱アミド化は、それぞれ、P脱アミド化(t)=1-(1-0)・e-0.025t、P脱アミド化(t)=1-(1-0.1)・e-0.025t、及びP脱アミド化(t)=1-(1-0.2)・e-0.025tで示すことができる。上記のモデルを使用して、単回投与試験において、初期脱アミド化0%、10%、及び20%の仮説に基づいたCDR脱アミド化バリアントへの56日間にわたる対象の曝露は、それぞれ、1385μg/mL・日、1653μg/mL・日、及び1921μg/mL・日であり、全mAbに対する対象の曝露のそれぞれ、32.5%、38.8%、及び45.1%を占めている(図11A)。複数回投与試験の場合、初期脱アミド化0%、10%、及び20%の仮説に基づいたCDR脱アミド化バリアントへの5回の投与(56日間)にわたる対象の曝露は、それぞれ、1086μg/mL・日、1478μg/mL・日、及び1871μg/mL・日であり、全mAbに対する対象の曝露のそれぞれ、21.7%、29.5%、及び37.3%を占めている(図11B)。従って、プロセス制御がこの仮説に基づいたCDR脱アミド化の初期レベルの±10%をもたらした場合、このCDR脱アミド化mAbへの対象の曝露は、56日間にわたる単回または複数回投与試験において約6~8%変動する。該モデル化により、この仮説に基づいたCDR脱アミド化への対象の曝露が、PQAの初期レベルに非感受性であることが示されるため、該PQAの許容範囲を広げてプロセスのリスク評価の正当化を可能にすることができる。効力アッセイによって測定される効力に対してCDR修飾が与える影響と組み合わせて、これらのモデル化の結果を使用し、初期のCDR修飾の変化がプロセス制御またはロット間変動に起因する場合に、有効な薬物への対象の曝露を評価し、製品のリスク評価に重要な情報をもたらすことができる。
【0108】
考察
mAbのクリアランス、除去、及び分解をもたらす循環血流の動的なインビボ環境は、PBSまたは血清のインビトロでのmAbの静的インキュベーションと比較して、患者のPQAの変化を評価するのに、はるかに意味がある(Yin et al.,Pharmaceutical research 2013;30:167-78)。従って、インビボでのPQAの定量化及びモデル化は、PQAの重要度を評価するための、インビトロ試験からは得られない重要な情報を提供する。例えば、本明細書に示すこれらの結果(図6)及び以前の研究(Li et al.,mAbs 2016:0、Cai et al.,Biotechnology and Bioengineering 2011;108:404-12)は、インビボにおいてC末端のリジンが1日以内に急速に除去されることを示している。同様に、トリスルフィド結合は、インビボでは急速にジスルフィド結合に変換されることが分かっている(Li et al.,mAbs 2016:0)。本明細書に示す結果(図4)及び以前の研究(Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al.,mAbs 2016:0)は、メチオニン酸化のレベルが、多くの場合、インビボ投与後に影響を受けないことを実証した。従って、C末端リジン除去、トリスルフィド結合、及びメチオニン酸化は、CQAと見なされる可能性が低い。対照的に、脱アミド化は、単回及び複数回投与レジメン(図3)ならびに以前の研究(Li et al.,mAbs 2016:0、Li et al.,mAbs 2016:0)において、インビボで蓄積することが分かった。CDR領域で生じ、蓄積する脱アミド化は、薬効に影響を与える可能性(Yan et al.,Journal of pharmaceutical sciences 2009;98:3509-21、Haberger et al.,mAbs 2014;6:327-39)またはオフターゲット結合を引き起こす可能性がある。従って、本明細書に記載の式を使用したインビボでのCDR脱アミド化のモデル化により、上記(図11)で実証したように、CDR脱アミド化が対象の曝露に与える影響を定量的に評価することができる。
【0109】
本試験では、アスパラギンの脱アミド化及びN末端ピログルタミン酸形成を、我々のモデルの有効性を示すための代表的なPTMとして使用した。我々のモデルは、増加傾向または減少傾向のいずれかを示す他のPTMにも適用することができる。例えば、マンノース5の酵素ベースのクリアランスのため、モデルを適用して、三次反応速度を採用することによりマンノース5のクリアランスを評価した。マンノース5の相対存在量が経時的に1.0%未満に減少したにもかかわらず、予測値は実験データとよく一致した(データは示さず)。我々のモデルを使用して他のパラメータを計算し、複数回投与試験における所与の特性またはPTMを評価することができる。これらのパラメータには、定常状態への累積率、定常状態での平均レベル、及び定常状態でのPTMの変動率が含まれる。
【0110】
要約すれば、本発明者らは、治療用mAb(MAB1)の一般的なインビボでのPTMの変化を特徴づけ、単回及び複数回投与の両試験レジメンに関してPTMのインビボ挙動をモデル化し、インビボでのPTMの影響を評価した。MAB1のFc領域にある3つのアスパラギン残基は、異なる脱アミド化率を示した。MAB1のFc領域の3つのメチオニン残基での酸化のレベルは、インビボで経時的に変化を示さなかった。N末端ピログルタミン酸は、インビボで急速に生じた。C末端のリジンは、1日以内に完全に除去された。高マンノースグリコシル化を有するMAB1は、加速クリアランスを示した。我々は、代表的なPQAとして、2つのAsn脱アミド化及びN末端ピログルタミン酸形成を使用し、PQAの血清中濃度、PQAへの対象の曝露、及びPQAのインビボでの相対存在量を単回及び複数回投与の両レジメンで計算するためのモデル化方程式を構築した。これらのモデル予測を、実験的測定によって検証した。従って、これらモデルを使用して、単回及び複数回投与の両レジメンにおけるインビボでのPQAの進行とPQAへの対象の曝露をシミュレートすることができ、治療用mAbにおける重要度評価のPQAに対する定量的なアプローチを提供する。
【0111】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲を限定されるものではない。実際、本明細書に記載のものに加えて、本発明の様々な変更が、上記の説明及び添付の図面から当業者に明らかとなるであろう。かかる修正は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0112】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> Regeneron Pharmaceuticals, Inc.
<120> QUANTITATION AND MODELING OF QUALITY ATTRIBUTES OF THERAPEUTIC
MONOCLONAL ANTIBODIES
<150> US 62/625,219
<151> 2018-02-01
<160> 1
<170> PatentIn version 3.5

<210> 1
<211> 7
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Met oxidized peptide
<400> 1
Asp Thr Leu Met Ile Ser Arg
1 5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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