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特許7557589発光体、荷電粒子検出器、電子顕微鏡及び質量分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】発光体、荷電粒子検出器、電子顕微鏡及び質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20240919BHJP
   H01J 43/04 20060101ALI20240919BHJP
   H01J 49/02 20060101ALI20240919BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J43/04
H01J49/02 500
C09K11/62
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023148567
(22)【出願日】2023-09-13
【審査請求日】2024-08-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】山内 邦義
(72)【発明者】
【氏名】前田 純也
(72)【発明者】
【氏名】高木 豊
(72)【発明者】
【氏名】中村 友洋
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆之
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-114392(JP,A)
【文献】特開2005-298603(JP,A)
【文献】特開2022-018377(JP,A)
【文献】特開2021-103612(JP,A)
【文献】特開2017-157732(JP,A)
【文献】特開2004-253743(JP,A)
【文献】特表2018-513351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/244
H01J 43/04
H01J 49/02
C09K 11/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した荷電粒子を光に変換する発光体であって、
前記荷電粒子の入射により前記光を発する多重量子井戸構造を備え、
前記多重量子井戸構造を構成する井戸層の厚みは、0.2nm以上で且つ1.5nm未満であり、
前記多重量子井戸構造を構成する障壁層及び前記井戸層に添加されている添加物の濃度は、4×1018cm-3よりも大きく且つ1×1020cm-3以下である、発光体。
【請求項2】
前記井戸層の厚みは、0.6nm以上で且つ1.0nm未満である、請求項1に記載の発光体。
【請求項3】
前記多重量子井戸構造は、前記障壁層として第1障壁層及び第2障壁層を含んで構成され、
前記第2障壁層は、前記第1障壁層に対して前記多重量子井戸構造の荷電粒子入射面側に位置し、
前記第1障壁層は、前記第2障壁層よりも厚い、請求項1又は2に記載の発光体。
【請求項4】
前記井戸層及び前記障壁層は、窒化物半導体層であり、
前記添加物は、シリコンを含む、請求項1又は2に記載の発光体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の発光体と、
前記多重量子井戸構造における荷電粒子入射面とは反対側の面に対して光学的に結合され、前記多重量子井戸構造が発する前記光に対して感度を有する光検出器と、を備える、荷電粒子検出器。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の発光体と、
前記多重量子井戸構造における荷電粒子入射面とは反対側の面に対して光学的に結合され、前記多重量子井戸構造が発する前記光に対して感度を有する光検出器と、
少なくとも前記発光体が内部に配置されるチャンバと、を備え、
前記チャンバ内に配置された試料の表面上に電子線を照射し、前記試料からの電子を前記発光体に導き、前記試料における前記電子線の照射位置と前記光検出器の出力とを対応づけることにより前記試料の像を取得する、電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の発光体と、
前記多重量子井戸構造における荷電粒子入射面とは反対側の面に対して光学的に結合され、前記多重量子井戸構造が発する前記光に対して感度を有する光検出器と、
少なくとも前記発光体が内部に配置されるチャンバと、
前記チャンバ内の試料から発生したイオンをその質量に応じて空間的又は時間的に分離する分離部と、
前記分離部で分離されたイオンが照射される電子変換部と、を備え、
前記電子変換部へのイオンの入射に応じて前記電子変換部から放出される電子を前記発光体に導き、前記光検出器の出力から前記試料の質量分析を行う、質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、発光体、荷電粒子検出器、電子顕微鏡及び質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、入射する電子を光に変換する発光体が記載されている。特許文献1に記載された発光体は、基板と、基板の一方の面に形成され量子井戸構造を有する窒化物半導体層と、窒化物半導体層上に積層され窒化物半導体層の構成材料よりもバンドギャップエネルギの大きな材料で構成されたキャップ層と、キャップ層上に形成されたメタルバック層と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4365255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した発光体においては、例えばより短い時間内に発生する事象を捉えるため、高速応答性をより高めることが望まれる場合がある。そこで、本発明の一態様は、高速応答性をより高めることが可能な発光体、荷電粒子検出器、電子顕微鏡及び質量分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討を重ね、発光体において井戸層の厚みと残光時間とには相関があることを見出した。また、発光体において添加物の濃度と残光時間とには相関があり、添加物の濃度が大きいほど残光時間が低減するという関係があることを見出した。一方、添加物の濃度が一定以上になると、例えば結晶性が悪くなるために、発光強度が大きく低下してしまい、実用上困難となることを見出した。そこで、本発明者らは鋭意検討を更に重ね、井戸層の厚み、並びに、障壁層及び井戸層の添加物の濃度を最適化できれば、発光強度を維持したまま残光時間を低下させることができ、高速応答性をより高めることが可能となることに想到し、本発明を成すに至った。
【0006】
(1)すなわち、本発明の一態様に係る発光体は、入射した荷電粒子を光に変換する発光体であって、荷電粒子の入射により光を発する多重量子井戸構造を備え、多重量子井戸構造を構成する井戸層の厚みは、0.2nm以上で且つ1.5nm未満であり、多重量子井戸構造を構成する障壁層及び井戸層に添加されている添加物の濃度は、4×1018cm-3よりも大きく且つ1×1020cm-3以下である。
【0007】
この発光体では、井戸層の厚みが0.2nm以上で且つ1.5nm未満であると共に、障壁層及び井戸層の添加物の濃度が4×1018cm-3よりも大きく且つ1×1020cm-3以下である。この場合、井戸層の厚み、並びに、障壁層及び井戸層の添加物の濃度を上述した知見に基づき最適化することができ、発光強度を維持したまま残光時間を低下させることが可能となる。したがって、応答時間をより短縮化することができ、高速応答性をより高めることが可能となる。
【0008】
(2)上記(1)に記載された発光体では、井戸層の厚みは、0.6nm以上で且つ1.0nm未満であってもよい。この場合、残光時間を一層低下させることが可能となる。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)に記載された発光体では、多重量子井戸構造は、障壁層として第1障壁層及び第2障壁層を含んで構成され、第2障壁層は、第1障壁層に対して多重量子井戸構造の荷電粒子入射面側に位置し、第1障壁層は、第2障壁層よりも厚くてもよい。このように荷電粒子入射面からの距離に応じて障壁層の厚さを変化させることにより、小さな加速電圧から大きな加速電圧にかけて光変換効率を向上することができ、発光強度を高めることが可能となる。
【0010】
(4)上記(1)~(3)の何れか一項に記載された発光体では、井戸層及び障壁層は、窒化物半導体層であり、添加物は、シリコンを含んでいてもよい。この場合、井戸層及び障壁層を窒化物半導体層とし、その添加物としてシリコンを利用することが可能となる。
【0011】
(5)本開示に係る荷電粒子検出器は、上記(1)~(4)の何れか一項に記載の発光体と、多重量子井戸構造における荷電粒子入射面とは反対側の面に対して光学的に結合され、多重量子井戸構造が発する光に対して感度を有する光検出器と、を備える。この荷電粒子検出器においても、上述の発光体を備えることから同様に、高速応答性をより高めることが可能となる。
【0012】
(6)本開示に係る電子顕微鏡は、(1)~(4)の何れか一項に記載の発光体と、多重量子井戸構造における荷電粒子入射面とは反対側の面に対して光学的に結合され、多重量子井戸構造が発する光に対して感度を有する光検出器と、少なくとも発光体が内部に配置されるチャンバと、を備え、チャンバ内に配置された試料の表面上に電子線を照射し、試料からの電子を発光体に導き、試料における電子線の照射位置と光検出器の出力とを対応づけることにより試料の像を取得する。この電子顕微鏡においても、上述の発光体を備えることから同様に、高速応答性をより高めることが可能となる。
【0013】
(7)本開示に係る質量分析装置は、(1)~(4)の何れか一項に記載の発光体と、多重量子井戸構造における荷電粒子入射面とは反対側の面に対して光学的に結合され、多重量子井戸構造が発する光に対して感度を有する光検出器と、少なくとも発光体が内部に配置されるチャンバと、チャンバ内の試料から発生したイオンをその質量に応じて空間的又は時間的に分離する分離部と、分離部で分離されたイオンが照射される電子変換部と、を備え、電子変換部へのイオンの入射に応じて電子変換部から放射される電子を発光体に導き、光検出器の出力から試料の質量分析を行う。この質量分析装置においても、上述の発光体を備えることから同様に、高速応答性をより高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、高速応答性をより高めることが可能な発光体、荷電粒子検出器、電子顕微鏡及び質量分析装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1実施形態に係る発光体の構成を示す断面図である。
図2図2は、図1の多重量子井戸構造の内部構造を拡大して示す断面図である。
図3図3は、図1の発光体において井戸層の厚みを変化させたときのDecayを示すグラフである。
図4図4は、図1の発光体において添加物の濃度を変化させたときのDecayを示すグラフである。
図5図5は、図1の発光体において井戸層の厚みを変化させたときの発光強度を示すグラフである。
図6図6は、図1の発光体において添加物の濃度を変化させたときの発光強度を示すグラフである。
図7図7は、図1の発光体におけるDecayと発光強度との関係を示すグラフである。
図8図8は、第2実施形態に係る電子線検出器の構成を示す断面図である。
図9図9は、第3実施形態に係る測長SEMの構成を概略的に示す図である。
図10図10は、第4実施形態に係る質量分析装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る発光体10の構成を示す断面図であって、厚み方向に沿った断面を示している。発光体10は、入射した荷電粒子、本実施形態においては電子を光に変換する。図1に示すように、発光体10は、基板12と、基板12の主面12a上に設けられた窒化物半導体層14と、窒化物半導体層14上に設けられた導電層18と、を備える。導電層18の表面は、電子入射面(荷電粒子入射面)10aを構成する。
【0018】
基板12は、窒化物半導体層14から出射される光の波長に対して光透過性を有する板状の部材である。基板12の構成材料は、窒化物半導体層14から出射される光を透過し、且つ窒化物半導体層14をエピタキシャル成長可能なものであれば特に限定されない。一例では、基板12はサファイア基板である。また、一例では、基板12は波長170nm以上の光を透過する。基板12は、主面12aと、主面12aに対して反対側に位置する裏面12bと、を有する。
【0019】
窒化物半導体層14は、基板12の主面12a上に設けられた第1バッファ層14Aと、第1バッファ層14A上に設けられた第2バッファ層14Bと、第2バッファ層14B上に設けられた多重量子井戸構造14Cとを含む。
【0020】
第1バッファ層14Aは、多重量子井戸構造14Cを結晶性良く成長させるための層であって、主面12aに接している。第1バッファ層14Aは、比較的低温(例えば400℃以上700℃以下)で成長され、例えばガリウム(Ga)及び窒素(N)を主に含むアモルファス構造を有する。一例では、第1バッファ層14AはアモルファスGaNから成る。第1バッファ層14Aの厚さは、例えば5nm以上500nm以下であり、一実施例では20nmである。
【0021】
第2バッファ層14Bもまた、多重量子井戸構造14Cを結晶性良く成長させるための層であって、例えばGaNの結晶を主に含む。一例では、第2バッファ層14BはGaNの結晶から成る。第2バッファ層14Bは、第1バッファ層14Aよりも高温(例えば700℃以上1200℃以下)でエピタキシャル成長される。第2バッファ層14Bの厚さは、例えば1μm以上10μm以下であり、一例では2.5μmである。第2バッファ層14Bは、第1バッファ層14Aに接していてもよい。
【0022】
多重量子井戸構造14Cは、電子の入射により光を発する部分であり、第2バッファ層14B上にエピタキシャル成長した層である。図2は、多重量子井戸構造14Cの内部構造を拡大して示す断面図である。図2に示すように、多重量子井戸構造14Cは、井戸層141と障壁層142とが交互に積層された構成を有する。
【0023】
井戸層141は、電子を受けて光を発する材料を含んで構成された発光層である。井戸層141は、例えばInxGa1-xN(0<x<1)の結晶を主に含む窒化物半導体層である。一例では、井戸層141は、SiがドープされたInxGa1-xN(0<x<1)の結晶から成る。電子が多重量子井戸構造14Cに入ると電子と正孔との対が形成され、これが井戸層141内にて再結合する過程で光が発せられる(カソードルミネッセンス)。多重量子井戸構造14Cを構成する複数の井戸層141の組成は互いに同一であり、上記の組成xは互いに等しい。一実施例では、組成xは0.1である。また、多重量子井戸構造14Cを構成する複数の井戸層141の厚さは互いに等しい。
【0024】
障壁層142のバンドギャップエネルギは、井戸層141のバンドギャップエネルギよりも大きい。障壁層142の間に井戸層141を挟むことにより、電子を井戸層141に集めて効率良く光に変換することができる。障壁層142は、GaNの結晶を主に含む窒化物半導体層である。一例では、障壁層142は、SiをドープされたGaNの結晶から成る。なお、障壁層142はGa以外のIII族原子(例えばIn)を更に含んでもよい。その場合においても、多重量子井戸構造14Cを構成する複数の障壁層142の組成は互いに等しい。
【0025】
多重量子井戸構造14Cを構成する複数の障壁層142の厚さは、互いに異なる。具体的には、各障壁層142は、各障壁層142に対して電子入射面10a(図1を参照)側に位置する障壁層142よりも厚い。言い換えると、複数の障壁層142は、電子入射面10aから離れるほど厚くなり、電子入射面10aに最も近い第1層目の障壁層142は、複数の障壁層142の中で最も薄い。好適な例では、電子入射面10aに最も近い第1層目の障壁層142の厚さは、障壁層142の平均厚さの80%以下であり、より好ましくは20%以下である。第2層目の障壁層142(すなわち電子入射面10aに最も近い障壁層142と隣り合う障壁層142)の厚さは、複数の障壁層142の平均厚さの90%以下であり、より好ましくは80%以下である。
【0026】
本実施形態の多重量子井戸構造14Cでは、9層の障壁層142が設けられている。最初の井戸層141は、電子入射面10a側から数えて第1層目の障壁層142と第2層目の障壁層142との間に設けられる。以降、第n番目(n=2,・・・,8)の井戸層141は、電子入射面10a側から数えて第n層目の障壁層142と第(n+1)層目の障壁層142との間に設けられる。なお、最後(第9層目)の井戸層141と第2バッファ層14Bとの間には、各障壁層142と同一の組成を有する障壁層143(図2を参照)が設けられている。障壁層143の厚さは、発光体10の特性には影響しないが、例えば10nmである。なお、必要に応じて、障壁層143を設けないことも可能である。
【0027】
本実施形態では、複数の障壁層142の全てにおいて電子入射面10aから離れるほど障壁層142が厚くなっているが、例えば多数の障壁層142のうちの大半がこの条件を満たしていれば、一部の障壁層142がこの条件を満たしていなくても、本実施形態の効果は殆ど損なわれない。すなわち、複数の障壁層142に含まれる或る障壁層142(以下、「第1障壁層」ともいう)が、該障壁層142に対して電子入射面10a側に位置する別の障壁層142(以下、「第2障壁層」ともいう)よりも厚い場合に、後述する本実施形態の効果は好適に奏される。
【0028】
本実施形態では、互いに隣り合う障壁層142同士の厚さの差は、電子入射面10aから離れるほど小さくなっている。なお、例えば多数の障壁層142のうちの大半がこの条件を満たしていれば、一部の障壁層142がこの条件を満たしていなくても、本実施形態の効果は殆ど損なわれない。すなわち、複数の障壁層142に含まれる、互いに隣り合う或る一対の障壁層142同士の厚さの差が、該一対の障壁層142に対して電子入射面10a側に位置する、互いに隣り合う別の一対の障壁層142同士の厚さの差よりも小さい場合に、後述する効果が好適に奏される。
【0029】
導電層18は、発光体10へ電子を導く一方の電極として用いられる。導電層18は、例えば金属を主に含み、一実施例ではアルミニウム(Al)を主に含む。導電層18の厚さは例えば10nm以上1000nm以下であり、一実施例では約300nmである。導電層18が金属を主に含む場合、導電層18は光反射膜としても機能する。すなわち、多重量子井戸構造14Cにおいて発生した光の一部は、多重量子井戸構造14Cから直接基板12に達し、基板12を透過して発光体10の外部へ出射されるが、多重量子井戸構造14Cにおいて発生した光の残部は、多重量子井戸構造14Cから導電層18に達し、導電層18において反射したのち、基板12を透過して発光体10の外部へ出射される。
【0030】
発光体10の作製方法に関する一例について説明する。まず、基板12を有機金属気相成長(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)装置の成長室に導入して、水素雰囲気中、1100℃・10分間の熱処理を行い、主面12aを清浄化する。そして、基板12の温度を500℃まで降温し、第1バッファ層14Aを堆積した後、基板12の温度を1100℃まで昇温し、第2バッファ層14Bをエピタキシャル成長させる。その後、基板12の温度を800℃まで降温し、InxGa1-xN/GaNの多重量子井戸構造14Cを形成する。そして、基板12を蒸着装置内に移して、多重量子井戸構造14C上に導電層18を成膜することにより、発光体10の作製が完了する。
【0031】
なお、上述した例においては、Ga源としてトリメチルガリウム(Ga(CH33:TMGa)、In源としてトリメチルインジウム(In(CH33:TMIn)、N源としてアンモニア(NH3)、キャリアガスとして水素ガス(H2)または窒素ガス(N2)、Si源としてモノシラン(SiH4)をそれぞれ用いることができる。或いは、他の有機金属原料(例えば、トリエチルガリウム(Ga(C253:TEGa)、トリエチルインジウム(In(C253:TEIn)等)及び他の水素化物(例えば、ジシラン(Si24)等)を用いてもよい。また、上述した例ではMOVPE装置を用いているが、ハイドライド気相成長(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE)装置や分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy:MBE)装置を用いてもよい。また、各成長温度は、上述の温度に限定されるものではない。
【0032】
本実施形態において、井戸層141の厚みは、0.2nm以上で且つ1.5nm未満である。好ましいとして、井戸層141の厚みは、0.6nm以上で且つ1.0nm未満である。障壁層142及び井戸層141に添加されている添加物(以下、単に「添加物」ともいう)は、シリコンを含む。添加物の濃度は、4×1018cm-3よりも大きく且つ1×1020cm-3以下である。添加物はドーパントとも称され、添加物の濃度はSiドープ濃度とも称される。
【0033】
図3は、発光体10において井戸層141の厚みを変化させたときのDecayを示すグラフである。Decayは、残光時間であり、ピーク強度の90%から10%に落ちる時間で定義される。グラフにおいて、データの丸印は実測値を示し、データの線分は実測値を元に求められた値を示す(以下のグラフで同様)。実施例1は、添加物の濃度が4×1018cm-3の場合の例である。実施例2は、添加物の濃度が1.5×1019cm-3の場合の例である。閾値αは、一般的な発光体のDecayを元に設定された値であって、ここでは3.5nsである。閾値αは、特に限定されない。
【0034】
図3に示されるように、Decayは、井戸層141の厚みの変化に伴って二次関数状に変化することがわかる。図示する例では、Decayの二次関数は、井戸層141の厚みが0.2nmから1.5nmの間(ここでは0.8nm付近)にボトムを有する。Decayと井戸層141の厚みとの関係は、添加物の濃度を変えても、同様な傾向を現すことが推定される。発光体10では、井戸層141の厚みが0.2nmよりも薄いと、製造上又は実用上等の観点から現実的ではない。
【0035】
図4は、発光体10において添加物の濃度を変化させたときのDecayを示すグラフである。実施例3は、井戸層141の厚みが0.8nmの場合の例である。実施例4は、井戸層141の厚みが1.5nmの場合の例である。図4に示されるように、添加物の濃度が大きいほど、Decayが低下することがわかる。Decayの変化量は、添加物の濃度が大きいほど小さいことがわかる。Decayと添加物の濃度との関係は、井戸層141の厚みを変えても、同様な傾向を現すことが推定される。添加物の濃度が4×1018cm-3よりも小さいと、井戸層141の厚みが1.5nmの場合に、Decayが大きくなって閾値αを超える可能性が高まることがわかる。
【0036】
図5は、発光体10において井戸層141の厚みを変化させたときの発光強度(任意単位(a.u.))を示すグラフである。実施例5は、添加物の濃度が4×1018cm-3の場合の例である。実施例6は、添加物の濃度が1.5×1019cm-3の場合の例である。実施例7は、添加物の濃度が1×1020cm-3の場合の例である。閾値βは、一般的な発光体の発光強度を元に設定された値であって、ここでは5000である。閾値βは、特に限定されない。
【0037】
図5に示されるように、井戸層141の厚みが大きいほど、発光強度が高まることが分かる。添加物の濃度を変えても、発光強度は同様な傾向を現すことが推定される。井戸層141の厚みが0.2nmよりも小さいと、例えば添加物の濃度が1×1020cm-3の場合、発光強度が小さくなって閾値βを下回る可能性が高まることがわかる。
【0038】
図6は、発光体10において添加物の濃度を変化させたときの発光強度(任意単位(a.u.))を示すグラフである。実施例8は、井戸層141の厚みが0.8nmの場合の例である。実施例9は、井戸層141の厚みが0.2nmの場合の例である。図6に示されるように、添加物の濃度が大きいほど、発光強度が低下する。発光強度の変化量は、添加物の濃度が大きいほど小さい。井戸層141の厚みを変えても、発光強度は同様な傾向を現すことが推定される。添加物の濃度が1×1020cm-3よりも大きいと、例えば井戸層141の厚みが0.2nmの場合、発光強度が小さくなって閾値βを下回る可能性が高まることがわかる。
【0039】
以上、発光体10では、井戸層141の厚みが0.2nm以上で且つ1.5nm未満であると共に、障壁層142及び井戸層141の添加物の濃度が4×1018cm-3よりも大きく且つ1×1020cm-3以下である。この場合、井戸層141の厚み、並びに、障壁層142及び井戸層141の添加物の濃度を最適化することができ、発光強度を維持したままDecayを低下させることが可能となる。したがって、応答時間をより短縮化することができ、高速応答性をより高めることが可能となる。
【0040】
発光体10では、井戸層141の厚みは、0.6nm以上で且つ1.0nm未満である。この場合、Decayを一層低下させることが可能となる。
【0041】
発光体10では、多重量子井戸構造14Cは、障壁層142として第1障壁層及び第2障壁層を含んで構成されている。第2障壁層は、第1障壁層に対して電子入射面10a側に位置し、第1障壁層は、第2障壁層よりも厚い。電子入射面10aから比較的浅い位置にある第2障壁層は比較的薄いので、第2障壁層を挟んで電子入射面10aとは反対側に位置する井戸層141は、電子入射面10aのより近くに配置されることとなる。したがって、小さな加速電圧の電子線に対する光変換効率を向上することが可能となる。また、比較的深い位置にある第1障壁層は比較的厚いので、第1障壁層を挟んで電子入射面10aとは反対側に位置する井戸層141は、電子入射面10aから遠くに配置されることとなる。したがって、大きな加速電圧の電子線の深い侵入に対しても光変換効率を維持することが可能となる。更に、電子線は発光体10内部において半球状に広がるので、電子入射面10a付近において密に配置された量子井戸は、大きな加速電圧時にも確実に電子を捕捉する。そして、このように電子入射面10aからの距離に応じて障壁層142の厚さを変化させることにより、小さな加速電圧から大きな加速電圧にかけて光変換効率を向上することができ、発光強度を高めることが可能となる。
【0042】
発光体10では、井戸層141及び障壁層142は、窒化物半導体層であり、添加物は、シリコンを含む。この場合、井戸層141及び障壁層142を窒化物半導体層とし、その添加物としてシリコンを利用することが可能となる。
【0043】
なお、発光体10において、第2障壁層は、複数の障壁層142のうち電子入射面10aに最も近い。また、その場合、第2障壁層は、複数の障壁層142の中で最も薄い。これにより、電子入射面10aから最も近い井戸層の位置が電子入射面10aに対してより近くなり、小さな加速電圧の電子線に対する光変換効率を更に向上させることができる。
【0044】
発光体10において、複数の障壁層142は、電子入射面10aから離れるほど厚い。この場合、加速電圧の様々な大きさに応じて適切な井戸層の配置を実現でき、光変換効率を更に向上させることができる。発光体において、複数の井戸層141の組成は互いに同一であり、この場合、多重量子井戸構造の作製が容易になる。
【0045】
図7は、発光体10におけるDecayと発光強度との関係を示すグラフである。図中では、井戸層141の厚み及び添加物の濃度を変化させたときの各データを示す。図7に示されるように、発光体10においては、Decayが大きいほど発光強度が高まる関係があることを確認できる。
【0046】
本実施形態では、入射した電子を光に変換したが、これに限定されない。本実施形態は、入射した荷電粒子を光に変換する発光体であればよい。上記実施形態において、窒化物半導体とは、III族元素としてGa、In、Alのうちの少なくとも1つを含み、主たるV族元素としてNを含む化合物を指す。光透過性を有するとは、例えば、対象となる光を50%以上透過する性質をいう。
【0047】
[第2実施形態]
図8は、第2実施形態に係る電子線検出器20の構成を示す断面図であって、厚み方向に沿った断面を示している。図8に示されるように、電子線検出器20は、第1実施形態の発光体10と、絶縁性の光学部材22と、光検出器30とを備える。光学部材22は、光透過部材(光ガイド部材)の例である。光学部材22は、絶縁性を有し、発光体10と光検出器30との間に介在して発光体10及び光検出器30を一体化する。
【0048】
発光体10の基板12の裏面12bと、光検出器30の光入射面30aとは、光学部材22を介して光学的に結合されている。具体的には、光学部材22の一端面は光入射面30aと接合されており、光学部材22の他端面は発光体10と接合されている。光学部材22は、ファイバオプティックプレート(FOP)等のライトガイドであってもよく、発光体10において発生した光を光入射面30a上に集光するレンズであってもよい。
【0049】
光学部材22と光検出器30との間には、光透過性の接着層AD2が介在しており、接着層AD2によって光学部材22と光検出器30との間の相対位置が固定されている。接着層AD2は、例えば光透過性の樹脂を主に含む。また、発光体10の基板12の裏面12b上と光学部材22との間には、接着層AD1が介在している。接着層AD1は、裏面12b上に設けられたSiN層ADaと、SiN層ADa上に設けられたSiO2層ADbとを含む。一例では、裏面12bとSiN層ADaとは互いに接しており、SiN層ADaとSiO2層ADbとは互いに接している。SiO2層ADbと光学部材22とは、互いに融着されている。SiO2層ADb及び光学部材22は共に珪化酸化物であるため、これらは加熱を行うことにより融着することができる。
【0050】
SiO2層ADbは、スパッタリング法等を用いてSiN層ADa上に形成されているので、SiN層ADaとSiO2層ADbとの結合力は極めて高い。同様に、SiN層ADaもまたスパッタリング法等によって基板12の裏面12b上に形成されているので、SiN層ADaと基板12との結合力も極めて高い。従って、接着層AD1を介して基板12と光学部材22とは強固に接合される。また、SiN層ADaは、反射防止膜としても機能し、多重量子井戸構造14Cにて発生した光が裏面12bにおいて反射することを抑制または低減する。
【0051】
このような構造を有する電子線検出器20において、電子の入射に応じて多重量子井戸構造14C内で発生した光は、接着層AD1、光学部材22、及び接着層AD2を順次透過して光検出器30の光入射面30aに至る。
【0052】
光検出器30の光入射面30aは、上述したように、基板12、接着層AD1、光学部材22、及び接着層AD2を介して、多重量子井戸構造14Cにおける電子入射面10aとは反対側の面と光学的に結合されている。つまり、光検出器30は、多重量子井戸構造14Cにおける電子入射面10a(図1参照)とは反対側の面に対して、光学的に結合されている。光検出器30は、多重量子井戸構造14Cが発する光に対して感度を有する。光検出器30は、例えば光電子増倍管である。この場合、光検出器30は、真空容器31を備える。真空容器31は、金属製の側管31aと、側管31aの頂部の開口を閉塞する光入射窓31bと、側管31aの底部の開口を閉塞するステム板31cとを含んで構成される。この真空容器31の内部には、光入射窓31bの内面に形成された光電陰極32と、電子増倍部及び陽極を含む電極部33とが配置されている。電子増倍部は、例えばマイクロチャネルプレート又はメッシュ型のダイノードを含む。
【0053】
光入射面30aは、光入射窓31bの外面であり、光入射面30aに入射した光は、光入射窓31bを透過して光電陰極32に入射する。光電陰極32は、光の入射に応じて光電変換を行い、生成した光電子を真空容器31の内部空間へ放出する。この光電子は、電極部33の電子増倍部によって増倍される。増倍された電子は、電極部33の陽極にて収集される。電極部33の陽極に収集された電子は、ステム板31cを貫通する複数のピンのうち何れかを介して光検出器30の外部に取り出される。金属製の側管31aの電位は0Vであり、光電陰極32は側管31aと電気的に接続されている。
【0054】
以上、電子線検出器20においても、発光体10を備えることから同様に、高速応答性をより高めることが可能となる。なお、本実施形態は、電子が入射される電子線検出器20であるが、これ限定されず、荷電粒子が入射される荷電粒子検出器であればよい。
【0055】
[第3実施形態]
第2実施形態の電子線検出器20(図8参照)は、電子顕微鏡、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)に用いることができる。図9は、第3実施形態に係る測長SEM40の構成を概略的に示す図である。測長SEM40は、被検査対象物の画像を取得するSEM41と、全体の制御を行う制御部42と、取得した画像などを磁気ディスクや半導体メモリなどに記憶する記憶部43と、プログラムに従い演算を行う演算部44と、を備える。
【0056】
SEM41は、試料ウェハ45を搭載する可動ステージ46、試料ウェハ45に電子線EB1を照射する電子源47、試料ウェハ45から発生した電子(二次電子及び反射電子)を検出する複数(図には3つを例示)の電子線検出器20を備える。電子線検出器20の構成は、第2実施形態と同様である。SEM41は、電子線EB1を試料ウェハ45上に収束させる電子レンズ(図示せず)、電子線EB1を試料ウェハ45上で走査するための偏向器(図示せず)、及び、各電子線検出器20からの信号をデジタル変換してデジタル画像を生成する画像生成部48等を備える。
【0057】
測長SEM40は、内部空間が真空(減圧)雰囲気とされた真空チャンバ(チャンバ)50を備える。真空チャンバ50の内部には、可動ステージ46、電子源47、電子線検出器20のうち少なくとも発光体10、電子レンズ、及び偏向器が配置される。画像生成部48及び各電子線検出器20は、配線を介して互いに電気的に接続されている。画像生成部48、制御部42、記憶部43、及び演算部44は、データバス49を介して互いに電気的に接続されている。
【0058】
電子線EB1を試料ウェハ45に照射しながら、電子線EB1を試料ウェハ45の表面上において走査すると、試料ウェハ45の表面からは電子が放出され、これが電子線EB2として電子線検出器20へと導かれる。電子線検出器20は電子線EB2を電気信号に変換し、電子線EB2の電流量に応じて電気信号が出力される。電子線EB1の走査位置と電子線検出器20の出力とを同期させて対応づけることにより、試料ウェハ45の像を取得することができる。
【0059】
制御部42は、試料ウェハ45の搬送を制御する機能、可動ステージ46の制御を行う機能、電子線EB1の照射位置を制御する機能、及び、電子線EB1の走査を制御する機能を有する。記憶部43は、取得された画像データを記憶する領域、及び撮像条件(例えば加速電圧など)を記憶する領域を有する。演算部44は、画像データにおける濃淡(コントラスト)に基づいて、構成物の寸法(溝の幅など)を算出する機能を有する。なお、制御部42及び演算部44は、各機能を実現するように設計されたハードウェアとして構成されてもよく、或いは、ソフトウェアとして実装され汎用的な演算装置(例えばCPUやGPUなど)を用いて実行されるように構成されてもよい。
【0060】
以上、測長SEM40においても、発光体10を備えることから同様に、高速応答性をより高めることが可能となる。
【0061】
[第4実施形態]
第2実施形態の電子線検出器20(図8参照)は、質量分析装置に用いることができる。図10は、第4実施形態に係る質量分析装置60の構成を概略的に示す図である。図10に示されるように、質量分析装置60は、第2実施形態と同様な構成の電子線検出器20(図8参照)と、電子線検出器20の少なくとも発光体10(図)を真空(減圧)雰囲気とされた内部空間に配置する真空チャンバ(チャンバ)61と、真空チャンバ61内の試料から発生したイオンをその質量に応じて空間的又は時間的に分離する分離部AZと、分離部AZで分離されたイオンが照射される電子変換部であるダイノードDY1,DY2と、を備える。
【0062】
質量分析装置60では、ダイノードDY1,DY2へのイオンの入射に応じてダイノードDY1,DY2から放射される電子を発光体10に導き、電子線検出器20の出力から試料の質量分析を行う。具体的には、質量分析装置60では、分離部AZ内に位置する正イオンは、アパーチャ-APに適当な電位を与えると共に、アパーチャ-APに対して分離部AZとは逆側に位置するダイノードDY1に負電位を与えると、アパーチャ-APを通過してダイノードDY1に衝突し、衝突に伴ってダイノードDY1の表面からは電子が放出され、これが電子線e3として電子線検出器20へと導かれる。ダイノードDY2には正の電位が与えられており、分離部AZから負イオンを引き出す場合には、この負イオンはダイノードDY2に衝突し、衝突に伴ってダイノードDY2の表面からは電子が放出され、これが電子線e3として電子線検出器20へと導かれる。電子線e3の入射に応じて、電子線検出器20から電気信号が出力される。
【0063】
例えば分離部AZが飛行管であるとすると、イオンは質量に応じて飛行管内部の通過時間が異なるため、結果的にはダイノードDY1,DY2への到達時間が異なる。また例えば分離部AZが、磁界によって各イオンの飛行軌道を質量に応じて変えるものであるとすると、分離部AZの磁束密度を可変することにより、アパーチャーAPを通過するイオンが質量毎に異なる。したがって、電子線検出器20から出力される電気信号の時間変化をモニタすることで、各イオンの質量が判明する。
【0064】
以上、質量分析装置60においても、発光体10を備えることから同様に、高速応答性をより高めることが可能となる。
【0065】
[変形例]
本発明の一態様は、上記実施形態に限られず、他に様々な変形が可能である。
【0066】
上記実施形態では、多重量子井戸構造14Cを構成する井戸層141及び障壁層142の組成は、上述した例に限定されない。上述した例では第1バッファ層14A及び第2バッファ層14BをGaN層とした例を示したが、III族元素としてIn、Al、及びGaの少なくとも1つ以上を含み、主たるV族元素としてNを含み、多重量子井戸構造14Cの発光波長に対して光透過性を有する窒化物半導体であれば、他の組成を適用してもよい。
【0067】
上記実施形態では、多重量子井戸構造14Cの井戸層141及び障壁層142にSiをドープした例を示したが、これに限定されず、他の不純物(例えばMg)をドープしてもよい。上記実施形態では、多重量子井戸構造14Cの井戸層141及び障壁層142は、InxAlyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)により構成され得る。そのため、上述したInGaN/GaNの組み合わせ以外にも、例えば、InGaN/AlGaN、InGaN/InGaN、GaN/AlGaN等の組み合わせが可能である。或いは、井戸層141及び障壁層142は、窒化物半導体を除く他の半導体から構成されてもよい。
【0068】
上記実施形態では、井戸層141及び障壁層142の層数をそれぞれ9層としたが、井戸層141及び障壁層142の層数は2以上の任意の層数であればよい。上記実施形態では、光検出器30は、光電子増倍管に限られず、例えばアバランシェフォトダイオードであってもよい。また、光学部材22は、直線的な形状に限られず、曲線的な形状であってもよく、またサイズも適宜変更可能である。
【0069】
上記実施形態において、多重量子井戸構造14Cは、基板12側の第1障壁層が電子入射面10a側の第2障壁層よりも厚い構造(いわゆる傾斜型の構造)であるが、これに特に限定されず、複数の障壁層142の厚さは、互いに同じでもよいし異なっていてもよい。
【0070】
上記における各数値は、測定上、製造上及び設計上等の誤差を含み得る。上記の「4×1018cm-3」は、丁度4×1018cm-3だけでなく、略4×1018cm-3を含む。上記の「1×1020cm-3」は、丁度1×1020cm-3だけでなく、略1×1020cm-3を含む。上記の「0.6nm」は、丁度0.6nmだけでなく、略0.6nmを含む。上記の「1.0nm」は、丁度1.0nmだけでなく、略1.0nmを含む。上記における「測定」、「製造」及び「設計」は、例えばJIS等の公知の標準及び規格に準拠して実施できる。上記における「等しい」及び「同じ」は、完全に等しい及び完全に同じ場合だけでなく、略等しい及び略同じ場合も含む。
【符号の説明】
【0071】
10…発光体、10a…電子入射面(荷電粒子入射面)、12…基板、12a…主面、12b…裏面、14…窒化物半導体層、14A…第1バッファ層、14B…第2バッファ層、14C…多重量子井戸構造、18…導電層、20…電子線検出器、22…光学部材、30…光検出器、30a…光入射面、31…真空容器、32…光電陰極、33…電極部、40…測長SEM、41…走査型電子顕微鏡(SEM)、42…制御部、43…記憶部、44…演算部、45…試料ウェハ、46…可動ステージ、47…電子源、48…画像生成部、50,61…真空チャンバ(チャンバ)、141…井戸層、142,143…障壁層、AZ…分離部、DY1,DY2…ダイノード(電子変換部)。
【要約】
【課題】高速応答性をより高める。
【解決手段】発光体10は、入射した電子を光に変換する。発光体10は、電子の入射により光を発する多重量子井戸構造14Cを備える。多重量子井戸構造14Cを構成する井戸層141の厚みは、0.2nm以上で且つ1.5nm未満である。多重量子井戸構造14Cを構成する障壁層142及び井戸層141に添加されている添加物の濃度は、4×1018cm-3よりも大きく且つ1×1020cm-3以下である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10