(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物、液晶シール剤、ならびにこれを用いた液晶表示パネルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 299/00 20060101AFI20240919BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20240919BHJP
G02F 1/1339 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C08F299/00
C09K3/10 B
G02F1/1339 505
(21)【出願番号】P 2023502362
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2022006747
(87)【国際公開番号】W WO2022181498
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2021030188
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 大輔
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-219565(JP,A)
【文献】特開2017-219564(JP,A)
【文献】特開2001-253911(JP,A)
【文献】特開2000-273126(JP,A)
【文献】特表2010-525090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F299/00
C09K 3/10
G02F 1/1339
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する硬化性化合物(A)、
光重合開始剤(B)、
有機微粒子(C)、および
カップリング剤(D)、
を含有する光硬化性樹脂組成物であり、
前記硬化性化合物(A)は、分子内に(メタ)アクリロイル基を有し、かつエポキシ基を有さない化合物(A1)、および分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物(A2)を含み、
前記カップリング剤(D)が、ブ
タジエンゴム、ブタジエンスチレンゴム、アクリルゴム、およびシリコーンゴムからなる群より選ばれる、少なくとも一つの化学構造を有するカップリング剤であ
り、
前記硬化性化合物(A)の量が、前記光硬化性樹脂組成物の総量に対して40~80質量%であり、
前記光重合開始剤(B)の量が、前記硬化性化合物(A)の量に対して0.01~10質量%であり、
前記有機微粒子(C)の量が、前記光硬化性樹脂組成物の総量100質量部に対して0.1~30質量部であり、
前記カップリング剤(D)の量が、前記光硬化性樹脂組成物の総量100質量部に対して0.5~5質量部であり、
前記カップリング剤(D)が、アルコキシシリル基を含み、
前記光硬化性樹脂組成物100g中の前記カップリング剤(D)由来の前記アルコキシシリル基の量が、1.0×10
-5
mol以上8.0×10
-4
mol以下である、
光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記カップリング剤(D)が、ブタジエンゴム構造を有するシランカップリング剤である、
請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つの潜在性熱硬化剤(E)をさらに含有する、
請求項1
または2に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
無機充填剤(F)をさらに含有し、
前記無機充填剤(F)の含有量が、前記光硬化性樹脂組成物の総量100質量部に対して、5~15質量部である、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂組成物を含む、液晶シール剤。
【請求項6】
請求項
5に記載の液晶シール剤を、一対の基板の少なくとも一方の基板にパターン状に塗布し、シールパターンを形成する工程と、
前記シールパターンが未硬化の状態で、前記一方の基板の前記シールパターンに囲まれた領域、および/または他方の基板上に液晶を滴下する工程と、
前記一方の基板と前記他方の基板とを、前記シールパターンおよび前記液晶を介して重ね合わせる工程と、
前記シールパターンを硬化させる工程と、
を含む、
液晶表示パネルの製造方法。
【請求項7】
前記一対の基板の少なくとも一方が、前記液晶と接する面に配向膜を有する、
請求項
6に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項8】
前記シールパターンを硬化させる工程において、
前記シールパターンに光を照射する、
請求項
6または
7に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項9】
前記シールパターンを硬化させる工程において、
前記シールパターンに光を照射した後、加熱を行う、
請求項
6~
8のいずれか一項に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項10】
前記シールパターンに照射する光が、可視光領域の光を含む、
請求項
8または
9に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項11】
一対の基板と、前記一対の基板の間に配置された、枠状のシール部材と、前記一対の基板および前記シール部材の内側に配置された液晶と、を含む液晶表示パネルであって、
枠状の前記シール部材が、請求項
5に記載の液晶シール剤の硬化物である、
液晶表示パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂組成物、液晶シール剤、ならびにこれを用いた液晶表示パネルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルは通常、一対の基板と、これらの間に配置された枠状のシール部材と、2枚の基板およびシール剤に囲まれた領域に充填された液晶と、を有する。このような液晶表示パネルでは、2枚の基板がそれぞれ表面に配向膜を有し、液晶を所望の方向に配向させることが一般的である。また、従来の液晶表示パネルでは、配向膜より外周側に、液晶シール剤を塗布してシール部材を形成していた。
【0003】
しかしながら近年、液晶表示パネルの狭額縁化が求められており、基板の配向膜上にも、シール部材を形成することが求められている。配向膜は、疎水性であることが多く、ガラス基板等と比較して、親水性の官能基が少ない。したがって、配向膜上にシール部材を配置すると、基板とシール部材との接着強度が十分でなく、これらの界面で剥離してしまうことがあった。そこで、アルキルベンゼンスルホン酸型のチタネートカップリング剤を含む液晶シール剤等が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の液晶シール剤では、配向膜を有する基板とシール部材との接着強度が十分ではないことがあり、さらに、これらの接着強度を高めることが求められていた。
【0006】
ここで、シール部材は、光硬化性および/または熱硬化性を有する硬化性化合物を重合したり架橋したりすることで得られる。そこで、硬化性化合物どうしの架橋点間距離を長くしてシール部材の柔軟性を高め、シール部材と基板との界面にかかる応力を緩和することが考えられる。しかしながら、当該方法では、硬化性化合物どうしの架橋点間距離が長いため、高温高湿下の条件で、これらの隙間から水分が侵入しやすい、という課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。具体的には、基板との接着強度が高く、かつ耐湿性が高いシール部材を形成可能な光硬化性樹脂組成物、またこれを含む液晶シール剤、さらにはこれを用いた液晶表示パネルおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の光硬化性樹脂組成物および液晶シール剤を提供する。
[1]分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する硬化性化合物(A)、光重合開始剤(B)、有機微粒子(C)、およびカップリング剤(D)、を含有する光硬化性樹脂組成物であり、前記カップリング剤(D)が、ブダジエンゴム、ブタジエンスチレンゴム、アクリルゴム、およびシリコーンゴムからなる群より選ばれる、少なくとも一つの化学構造を有するカップリング剤である、光硬化性樹脂組成物。
【0009】
[2]前記カップリング剤(D)が、ブタジエンゴム構造を有するシランカップリング剤である、[1]に記載の光硬化性樹脂組成物。
[3]前記カップリング剤(D)が、アルコキシシリル基を含み、前記光硬化性樹脂組成物100中の前記カップリング剤(D)由来の前記アルコキシシリル基の量が、1.0×10-5mol以上5.0×10-3mol以下である、[2]に記載の光硬化性樹脂組成物。
[4]前記カップリング剤(D)の含有量が、前記光硬化性樹脂組成物の総量100質量部に対して、0.5~5質量部である、[1]~[3]のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【0010】
[5]ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つの潜在性熱硬化剤(E)をさらに含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【0011】
[6]無機充填剤(F)をさらに含有し、前記無機充填剤(F)の含有量が、前記光硬化性樹脂組成物の総量100質量部に対して、5~15質量部である、[1]~[5]のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を含む、液晶シール剤。
【0012】
本発明は、以下の液晶表示パネルの製造方法を提供する。
[8]上記[7]に記載の液晶シール剤を、一対の基板の少なくとも一方の基板にパターン状に塗布し、シールパターンを形成する工程と、前記シールパターンが未硬化の状態で、前記一方の基板の前記シールパターンに囲まれた領域、および/または他方の基板上に液晶を滴下する工程と、前記一方の基板と前記他方の基板とを、前記シールパターンおよび前記液晶を介して重ね合わせる工程と、前記シールパターンを硬化させる工程と、を含む、液晶表示パネルの製造方法。
【0013】
[9]前記一対の基板の少なくとも一方が、前記液晶と接する面に配向膜を有する、[8]に記載の液晶表示パネルの製造方法。
[10]前記シールパターンを硬化させる工程において、前記シールパターンに光を照射する、[8]または[9]に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【0014】
[11]前記シールパターンを硬化させる工程において、前記シールパターンに光を照射した後、加熱を行う、[8]~[10]のいずれかに記載の液晶表示パネルの製造方法。
[12]前記シールパターンに照射する光が、可視光領域の光を含む、[10]または[11]に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【0015】
本発明は、以下の液晶表示パネルを提供する。
[13]一対の基板と、前記一対の基板の間に配置された、枠状のシール部材と、前記一対の基板および前記シール部材の内側に配置された液晶と、を含む液晶表示パネルであって、枠状の前記シール部材が、[7]に記載の液晶シール剤の硬化物である、液晶表示パネル。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光硬化性樹脂組成物によれば、基板との接着強度が高く、かつ耐湿性の高いシール部材を形成である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0018】
1.光硬化性樹脂組成物
本発明の光硬化性樹脂組成物は、分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する硬化性化合物(A)、光重合開始剤(B)、有機微粒子(C)、およびカップリング剤(D)を含有する。
【0019】
従来の光硬化性樹脂組成物(液晶シール剤)では、基板表面に存在する官能基と、光硬化性樹脂組成物中の化合物とが共有結合すること等によって、基板と光硬化性樹脂組成物の硬化物(以下、「シール部材」とも称する)が強固に接着していた。しかしながら、基板がその表面に配向膜を有する場合、上記共有結合が十分に形成されず、基板とシール部材との接着強度を十分に高めることができなかった。また、シール部材の架橋密度を低減し、シール部材の柔軟性を高めることで、基板およびシール部材にかかる応力を高めようとすると、シール部材の耐湿性が低くなりやすく、液晶等に影響が生じることがあった。
【0020】
これに対し、本発明の光硬化性樹脂組成物は、上記カップリング剤(D)が、ブダジエンゴム、ブタジエンスチレンゴム、アクリルゴム、およびシリコーンゴムからなる群より選ばれる、少なくとも一つの化学構造を有するカップリング剤である。このようなカップリング剤(D)は、シール部材を形成した際、基板とシール部材との界面に多く配向する。シール部材と基板との剥離が生じる主な原因として、光硬化性樹脂組成物(液晶シール剤)の硬化時に発生する残留応力、および基板とシール部材とを剥離する方向にかかる剥離応力、が挙げられるが、上記カップリング剤(D)が、シール部材と基板との間に存在すると、ゴム由来の構造が、上記残留応力や、剥離応力を緩和する。一方で、当該カップリング剤(D)は、少量の添加でその効果を発揮する。したがって、カップリング剤(D)が、硬化性化合物(A)の架橋構造や架橋密度に影響を及ぼし難く、シール部材の耐湿性を高いまま維持できる。
【0021】
以下、本発明の光硬化性樹脂組成物中の各成分について、詳しく説明する。
【0022】
1-1.硬化性化合物(A)
硬化性化合物(A)は、分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する化合物であればよい。硬化性化合物(A)は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよい。当該硬化性化合物(A)の例には、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物が含まれる。当該(メタ)アクリロイル基を有する化合物1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数は、1つであってもよく、2以上であってもよい。本明細書において、(メタ)アクリロイル基との記載は、アクリロイル基またはメタクリロイル基、もしくはこれら両方を意味する。また、(メタ)アクリレートとの記載は、アクリレートまたはメタクリレート、もしくはこれら両方を意味する。さらに(メタ)アクリルとの記載は、アクリルまたはメタクリル、もしくはこれら両方を意味する。
【0023】
1分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ含む硬化性化合物(A)の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルエステル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。
【0024】
1分子内に2以上の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物(A)の例には、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等由来のジ(メタ)アクリレート;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート由来のジ(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオール由来のジ(メタ)アクリレート;ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオール由来のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオール由来のジもしくはトリ(メタ)アクリレート;ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオール由来のジ(メタ)アクリレート;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、またはそのオリゴマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートまたはそのオリゴマー;ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート;トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート;カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート;カプロラクトン変性トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート;アルキル変性ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート;エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート;エチレンオキサイド変性アルキル化リン酸(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのオリゴ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0025】
硬化性化合物(A)は、分子内にエポキシ基をさらに有してもよい。1分子あたりのエポキシ基の数は1つであってもよく、2以上であってもよい。硬化性化合物(A)が分子内に(メタ)アクリロイル基だけでなくエポキシ基をさらに有すると、光硬化性樹脂組成物を熱によっても硬化可能となる。つまり、光硬化と熱硬化とを併用することが可能となる。光硬化性樹脂組成物が、光硬化性および熱硬化性を有すると、短時間で効率よく光硬化性樹脂組成物を硬化させることが可能となる。
【0026】
分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する硬化性化合物(A)の例には、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを塩基性触媒の存在下で反応させて得られる(メタ)アクリル酸グリシジルエステルが含まれる。
【0027】
(メタ)アクリル酸と反応させるエポキシ化合物は、分子内に2以上のエポキシ基を有する多官能のエポキシ化合物であればよく、架橋密度が高まりすぎて光硬化性樹脂組成物の硬化物の接着性が低下するのを抑制する観点では、2官能のエポキシ化合物が好ましい。2官能のエポキシ化合物の例には、ビスフェノール型エポキシ化合物(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、2,2’-ジアリルビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、及び水添ビスフェノール型等)、ビフェニル型エポキシ化合物、およびナフタレン型エポキシ化合物が含まれる。中でも、光硬化性樹脂組成物の塗布性が良好になりやすいとの観点から、ビスフェノールA型及びビスフェノールF型のビスフェノール型エポキシ化合物が好ましい。ビスフェノール型エポキシ化合物由来の硬化性化合物(A)は、ビフェニルエーテル型エポキシ化合物由来の硬化性化合物(A)と比べて塗布性に優れる等の利点がある。
【0028】
なお、硬化性化合物(A)は、上記化合物を一種のみ含んでいてもよいが、二種以上を含んでいてもよい。特に、硬化性化合物(A)が、分子内に(メタ)アクリロイル基を有し、エポキシ基を有しない化合物(A1)と、分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物(A2)とを含むことが好ましい。例えば光硬化性樹脂組成物に後述のその他の硬化性化合物(例えば、エポキシ化合物)をさらに含む場合、化合物(A1)とエポキシ化合物とでは、相溶性が低いことがある。これに対し、エポキシ基を有する化合物(A2)を組み合わせると、光硬化性樹脂組成物中の他の樹脂等と硬化性化合物(A)との相溶性が高まる。また一般的に、光硬化性樹脂組成物を液晶シール剤に用いたとき、疎水性の化合物(例えばエポキシ化合物等)のほうが親水性の化合物より液晶に溶出しやすいが、化合物(A1)および化合物(A2)を組み合わせることで、エポキシ化合物の液晶への溶出が抑制されやすくなる。化合物(A2)と化合物(A1)との含有質量比はA2/A1=1/0.4~1/1.2が好ましく、1/0.8~1/1.2がより好ましく、1/0.9~1/1.1がさらに好ましい。
【0029】
なお、分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物(A2)の含有量は、特に制限されないが、例えば硬化性化合物(A)の総量に対して30質量%以上が好ましい。
【0030】
また、上述のいずれの硬化性化合物(A)においても、重量平均分子量は、310~1000程度が好ましい。硬化性化合物(A)の重量平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定できる。
【0031】
硬化性化合物(A)の含有量は、光硬化性樹脂組成物の総量に対して40~80質量%が好ましく、50~75質量%がより好ましい。硬化性化合物(A)の量が当該範囲であると、得られる硬化物(例えばシール部材)の強度が高まり、さらには基板と硬化物(シール部材)との密着性を高めることができる。
【0032】
1-2.光重合開始剤(B)
光重合開始剤は、光の照射によって、上記硬化性化合物(A)をラジカル重合等させることが可能な化合物であれば特に制限されない。例えば、自己開裂型の光重合開始剤であってもよく、水素引き無機型の光重合開始剤であってもよい。
【0033】
自己開裂型の光重合開始剤の例には、アルキルフェノン系化合物(例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(BASF社製、IRGACURE 651)等のベンジルジメチルケタール;2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン(BASF社製、IRGACURE 907)等のα-アミノアルキルフェノン;1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製、IRGACURE 184)等のα-ヒドロキシアルキルフェノン等)、アシルホスフィンオキサイド系化合物(例えば2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド等)、チタノセン系化合物(例えばビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム等)、アセトフェノン系化合物(例えばジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン等)、フェニルグリオキシレート系化合物(例えばメチルフェニルグリオキシエステル等)、ベンゾインエーテル系化合物(例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等)、およびオキシムエステル系化合物(例えば1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)](BASF社製、IRGACURE OXE01)、エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(0-アセチルオキシム)(BASF社製、IRGACURE OXE02)等)が含まれる。
【0034】
水素引き抜き型の光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン系化合物(例えばベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等)、チオキサントン系化合物(例えばチオキサントン、2-クロロチオキサントン(東京化成工業社製)、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、1-クロロ-4-エトキシチオキサントン(Lambson Limited社製、Speedcure CPTX)、2-イソプロピルキサントン(Lambson Limited社製、Speedcure ITX)、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン(Lambson Limited社製、Speedcure DETX)、2,4-ジクロロチオキサントン等)、アントラキノン系化合物(例えば2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-ヒドロキシアントラキノン(東京化成工業社製、2-Hydroxyanthraquinone)、2,6-ジヒドロキシアントラキノン(東京化成工業社製、Anthraflavic Acid)、2-ヒドロキシメチルアントラキノン(純正化学社製、2-(Hydroxymethyl)anthraquinone)等)およびベンジル系化合物が含まれる。光硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤(B)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0035】
光重合開始剤(B)の吸収波長は特に限定されず、例えば波長360nm以上の光を吸収する光重合開始剤(B)が好ましい。中でも、可視光領域の光を吸収することがより好ましく、波長360~430nmの光を吸収する光重合開始剤(B)が特に好ましい。なお、本明細書において「可視光領域」とは、波長360nm~780nmの範囲とする。
【0036】
波長360nm以上の光を吸収する光重合開始剤(B)の例には、アルキルフェノン系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、チオキサントン系化合物、アントラキノン系化合物が含まれ、好ましくはオキシムエステル系化合物である。
【0037】
なお、光重合開始剤(B)の構造は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)と、NMR測定またはIR測定とを組み合わせることで特定できる。
【0038】
光重合開始剤(B)の分子量は、例えば200以上5000以下が好ましい。分子量が200以上であると、光硬化性樹脂組成物を液晶シール剤としたときに、光重合開始剤(B)が液晶に溶出し難い。一方、分子量が5000以下であると、硬化性化合物(A)との相溶性が高まり、光硬化性樹脂組成物の硬化性が良好になりやすい。光重合開始剤(B)の分子量は、230以上3000以下がより好ましく、230以上1500以下がさらに好ましい。
【0039】
光重合開始剤(B)の分子量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)で分析したときに検出されるメインピークの、分子構造の「相対分子質量」として求めることができる。
【0040】
具体的には、光重合開始剤(B)をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた試料液を調製し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定を行う。そして、検出されたピークの面積百分率(各ピークの面積の、全ピークの面積の合計に対する比率)を求め、メインピークの有無を確認する。メインピークとは、各化合物に特徴的な検出波長(例えばチオキサントン系化合物であれば400nm)で検出された全ピークのうち、最も強度が大きいピーク(ピークの高さが最も高いピーク)をいう。検出されたメインピークのピーク頂点に対応する相対分子質量は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS:Liquid Chromatography Mass Spectrometry)により測定できる。
【0041】
光重合開始剤(B)の量は、上述の硬化性化合物(A)に対して0.01~10質量%が好ましい。光重合開始剤(B)の量が、硬化性化合物(A)に対して0.01質量%以上であると、光硬化性樹脂組成物の硬化性が良好になりやすい。光重合開始剤(B)の含有量が10質量%以下であると、光硬化性樹脂組成物を液晶シール剤に用いたとき、光重合開始剤(B)が液晶に溶出し難くなる。光重合開始剤(B)の含有量は、硬化性化合物(A)に対して0.1~5質量%がより好ましく、0.1~3質量%がさらに好ましく、0.1~2.5質量%が特に好ましい。
【0042】
1-3.有機微粒子(C)
光硬化性樹脂組成物が含む有機微粒子(C)の種類は特に制限されず、有機微粒子(C)の例には、シリコーン粒子、アクリル粒子、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体等のスチレン粒子、およびポリオレフィン粒子等が含まれる。光硬化性樹脂組成物は、有機微粒子(C)を一種のみ含んでもよく、二種以上含んでもよい。有機微粒子(C)の平均一次粒子径は、0.05~13μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.1~8μmがさらに好ましい。
【0043】
有機微粒子(C)の形状は特に制限されないが、好ましくは球状であり、さらに好ましくは真球状である。球状であるとは、各粒子の直径の最大値(a)に対する最小値(b)の比b/a=0.9~1.0であることをいう。有機微粒子(C)の平均一次粒径は、顕微鏡法、具体的には電子顕微鏡の画像解析により測定することができる。また、有機微粒子(C)の表面は平滑であることが好ましい。表面が平滑であると比表面積が低下して、光硬化性樹脂組成物に添加可能な有機微粒子(C)の量が増加する。
【0044】
有機微粒子(C)の含有量は、光硬化性樹脂組成物100質量部に対して、0.1~30質量部が好ましく、0.3~20質量部がより好ましく、0.3~15質量部がさらに好ましい。有機微粒子(C)の量が当該範囲であると、光硬化性樹脂組成物の光硬化後の弾性率が所望の範囲に収まりやすい。
【0045】
1-4.カップリング剤(D)
カップリング剤(D)は、ブダジエンゴム、ブタジエンスチレンゴム、アクリルゴム、およびシリコーンゴムからなる群より選ばれる、少なくとも一つの化学構造(以下、「ゴム構造」とも称する)と、液晶表示パネルの基板表面に存在する官能基と反応可能な基と、を有する化合物であればよい。当該カップリング剤(D)の例には、ゴム構造の側鎖または主鎖に、液晶表示パネルの基板表面に存在する官能基と反応可能な基を有する有機金属化合物が結合した化合物が含まれる。
【0046】
カップリング剤(D)の例には、上記有機金属化合物がシラン系化合物であるシランカップリング剤、上記有機金属化合物がチタネート系化合物であるチタネートカップリング剤、上記有機金属化合物がジルコネート系化合物であるジルコネートカップリング剤、上記有機金属化合物がアルミン酸ジルコニウム系化合物であるアルミン酸ジルコニウムカップリング剤、上記有機金属化合物がアルミネート系化合物であるアルミネートカップリング剤等が含まれる。これらの中でも特に、入手容易性やコスト等の観点でシランカップリング剤が好ましい。有機金属化合物において金属に結合する官能基、すなわち液晶表示パネルの基板表面に存在する官能基と反応可能な基の種類は特に制限されず、その例には、基板表面のOH基等と重縮合可能なアルコキシ基等が含まれる。
【0047】
ここで、カップリング剤(D)がシランカップリング剤である場合、光硬化性樹脂組成物100g中の当該カップリング剤(D)由来のアルコキシシリル基の量は、1.0×10-5mol以上5.0×10-3mol以下が好ましく、2.5×10-5mol~1.0×10-3molがより好ましく、5.0×10-5mol以上8.0×10-4mol以下がさらに好ましい。光硬化性樹脂組成物100g中の、カップリング剤(D)由来のアルコキシシリル基の量(以下、単位を「mol/100g」とも記載する)が、5.0×10-5mol/100g以上であると特に、当該アルコキシシリル基が、液晶表示パネルの基板表面のOH基等とシロキサン結合を形成するとともに、得られるシール部材が過度に硬くならず、光硬化性樹脂組成物の硬化時に発生する残留応力等を緩和しやすい。そのため、得られるシール部材と基板との間の接着強度が高くなる。一方、カップリング剤(D)由来のアルコキシシリル基の量が、8.0×10-4mol/100g以下であると、特に得られる光硬化性樹脂組成物の硬化物が過度に柔らかくならず、透湿性を悪化させにくい。
【0048】
なお、光硬化性樹脂組成物中のカップリング剤(D)由来のアルコキシシリル基の量は、以下の式から求められる。
アルコキシシリル基の量={(光硬化性樹脂100g中のアルコキシシリル基を有するカップリング剤(D)の量(g))/(当該カップリング剤(D)の分子量)}×(当該カップリング剤(D)中のアルコキシシリル基の数)
【0049】
有機金属化合物である、シラン系化合物の一例には、下記構造で表される化合物が含まれる。
【化1】
【0050】
一方、カップリング剤(D)が含む、ゴム構造は特に制限されず、ブタジエンゴム、ブタジエンスチレンゴム、アクリルゴム、またはシリコーンゴムのいずれかの構造であればよく、カップリング剤(D)の一分子中にこれらの複数の構造が含まれていてもよい。中でも、ブタジエンゴム構造を有するカップリング剤(D)が、汎用性等の観点で好ましい。
【0051】
カップリング剤(D)の数平均分子量は、1000以上1000000以下が好ましく、2000以上100000以下がより好ましい。カップリング剤(D)の分子量が1000以上であると、カップリング剤(D)のゴム構造部分が十分に大きくなり、例えばシール部材と基板との間にかかる応力や、光硬化性樹脂組成物の硬化時に生じる残留応力を十分に緩和しやすくなる。一方、カップリング剤(D)の分子量が1000000以下であると、カップリング剤(D)によって、硬化性化合物(A)の架橋点どうしの間隔が過度に広がり難く、シール部材の耐湿性を良好にできる。
【0052】
上記数平均分子量は、トルエンやテトラヒドロフラン、クロロホルム等を展開溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる値(スチレン換算値)である。
【0053】
ここで、カップリング剤(D)の具体例には、ポリブタジエン化合物と、有機シラン系化合物とを反応させて得られる、以下の化学式に示すような化合物が含まれる。
【化2】
【0054】
上記化学式で示されるカップリング剤(D)には、2,3-ビニル構造を有するブタジエン由来の繰り返し単位と、1,2-ビニル構造を有するブタジエン由来の繰り返し単位と、当該1,2-ビニル構造にシラン系化合物が結合した繰り返し単位と、が含まれる。各繰返し単位の順序は特に制限されない。
【0055】
上記化学式において、xは0以上であればよく、1~40が好ましく、2~20がより好ましい。また、yは、1以上であればよく、1~40が好ましく、2~20がより好ましい。zは0以上であればよく、0~10が好ましく、0~5がより好ましい。aは1~3の整数であり、2または3がより好ましい。
【0056】
上記化学式におけるR1は、炭素数1~12の置換または未置換の炭化水素基が好ましく、その例には、メチル基、エチル基、イソプロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基等のシクロアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;2-シアノエチル基等のシアノ化アルキル基;等が含まれる。これらの中でも、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基が好ましく、アルキル基がより好ましく、エチル基が特に好ましい。
【0057】
一方、R2は、炭素数1~12の置換または未置換の炭化水素基が好ましく、その例には、メチル基、エチル基、イソプロピル基等のアルキル基;シクロアルキル基;アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;2-シアノエチル基等のシアノ化アルキル基;メトキシエチル基等のエーテル結合を含むアルキル基;等が含まれる。これらの中でも、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基が好ましく、アルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0058】
カップリング剤(D)の含有量は、光硬化性樹脂組成物100質量部に対して、0.5~5質量部が好ましく、1~4質量部がより好ましく、1~3質量部がさらに好ましい。カップリング剤(D)の量が1質量部以上であると、光硬化性樹脂組成物から得られるシール部材と基板との接着強度等が高まる。一方、カップリング剤(D)の量が5質量部以下であると、硬化性化合物(A)の架橋点どうしの間隔に影響を及ぼし難く、シール部材の耐湿性が良好になる。
【0059】
1-5.潜在性熱硬化剤(E)
光硬化性樹脂組成物は、潜在性熱硬化剤(E)をさらに含むことが好ましい。潜在性熱硬化剤(E)は、通常の保存条件下(室温、可視光線下等)では硬化性化合物(A)や後述のその他の硬化性化合物を硬化させないが、熱を与えると、これらの化合物を硬化させる化合物である。つまり、光硬化性樹脂組成物が潜在性熱硬化剤(E)を含むと、光硬化性樹脂組成物が熱硬化可能になる。潜在性熱硬化剤(E)は、例えばエポキシ基を含む硬化性化合物や、後述のエポキシ系化合物の硬化が可能な硬化剤(以下、「エポキシ硬化剤」とも称する)が好ましい。
【0060】
エポキシ硬化剤は、光硬化性樹脂組成物の粘度安定性を高め、かつ硬化物の耐湿性を損なわない観点から、融点が50℃以上250℃以下であることが好ましく、融点は100℃以上200℃以下がより好ましく、150℃以上200℃以下がさらに好ましい。
【0061】
エポキシ硬化剤の例には、ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、ポリアミン系熱潜在性硬化剤、ジシアンジアミド系熱潜在性硬化剤、イミダゾール系熱潜在性硬化剤等が含まれる。光硬化性樹脂組成物は、これらの1種のみを含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0062】
ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤の例には、アジピン酸ジヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、およびセバシン酸ジヒドラジド等が含まれる。
【0063】
アミンアダクト系熱潜在性硬化剤は、触媒活性を有するアミン系化合物と任意の化合物とを反応させて得られる付加化合物からなる熱潜在性硬化剤である。アミンアダクト系熱潜在性硬化剤の市販品の例には、アミキュアPN-40、アミキュアPN-23、アミキュアPN-31、アミキュアPN-H、アミキュアMY-24、およびアミキュアMY-H(いずれも味の素ファインテクノ社製)等が含まれる。
【0064】
ポリアミン系熱潜在性硬化剤は、アミンとエポキシ樹脂とを反応させて得られるポリマー構造を有する熱潜在性硬化剤であり、その市販品の例には、アデカハードナーEH4339S、およびアデカハードナーEH4357S(いずれもADEKA社製)等が含まれる。
【0065】
ジシアンジアミド系熱潜在性硬化剤の例には、ジシアンジアミド等が含まれる。
【0066】
イミダゾール系熱潜在性硬化剤の例には、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチルイミダゾリル-(1’)]-エチルトリアジン、および2-フェニルイミダゾール等が含まれる。
【0067】
上記の中でも、入手しやすさ、他の成分との相溶性等の観点で、ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、またはポリアミン系熱潜在性硬化剤が好ましい。潜在性熱硬化剤(C)は、エポキシ硬化剤を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0068】
潜在性熱硬化剤(E)の量は、光硬化性樹脂組成物の総量100質量部に対して3~30質量部が好ましく、3~20質量部がより好ましく、5~20質量部がさらに好ましい。光硬化性樹脂組成物は、一液硬化性樹脂組成物としてもよい。一液硬化性樹脂組成物は、使用に際して主剤と硬化剤を混合する必要がないことから、作業性が優れる。
【0069】
1-6.無機充填剤(F)
光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて無機充填剤(F)をさらに含んでいてもよい。光硬化性樹脂組成物が無機充填剤(F)を含むと、光硬化性樹脂組成物の粘度や硬化物の強度、および線膨張性等が良好になりやすい。
【0070】
無機充填剤(F)の例には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン、窒化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、チタン酸カリウム、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が含まれる。中でも、二酸化ケイ素及びタルクが好ましい。
【0071】
無機充填剤(F)の形状は、球状、板状、針状等、定形状であってもよく、非定形状であってもよい。無機充填剤(F)が球状である場合、無機充填剤(F)の平均一次粒子径は、1.5μm以下が好ましく、かつ比表面積が0.5~20m2/gがより好ましい。無機充填剤(F)の平均一次粒子径は、JIS Z8825-1に記載のレーザー回折法により測定することができる。充填剤の比表面積は、JIS Z8830に記載のBET法により測定することができる。
【0072】
無機充填剤(F)の量は、光硬化性樹脂組成物の総量100質量部に対して5~15質量部が好ましい。無機充填剤(F)の量が5質量部以上であると、光硬化性樹脂組成物の硬化物(シール部材)の耐湿性が高まりやすく、10質量部以下であると、光硬化性樹脂組成物の塗工安定性が損なわれにくい。無機充填剤(F)の含有量は、光硬化性樹脂組成物に対して5~10質量部がより好ましい。
【0073】
1-7.その他の硬化性化合物
光硬化性樹脂組成物は、熱硬化性化合物をさらに含んでいてもよい。ただし、当該熱硬化性化合物は、上述の硬化性化合物(A)とは異なる化合物である。
【0074】
熱硬化性化合物の例には、分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物が含まれる。エポキシ化合物は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよい。光硬化性樹脂組成物がエポキシ化合物を含むと、得られる液晶パネルの表示特性が良好になり、さらには硬化物(シール部材)の耐湿性が高まる。
【0075】
エポキシ化合物は特に芳香環を有することが好ましい。また、エポキシ化合物の重量平均分子量は500~10000が好ましく、1000~5000がより好ましい。エポキシ化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定される。
【0076】
芳香族エポキシ化合物の例には、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等で代表される芳香族ジオール類や、これらの芳香族ジオールをエチレングリコール、プロピレングリコール、アルキレングリコール等で変性したジオール類と、エピクロルヒドリンとの反応で得られた芳香族多価グリシジルエーテル化合物;フェノールまたはクレゾールとホルムアルデヒドとから誘導されたノボラック樹脂、ポリアルケニルフェノールやそのコポリマー等で代表されるポリフェノール類と、エピクロルヒドリンとの反応で得られたノボラック型多価グリシジルエーテル化合物;キシリレンフェノール樹脂のグリシジルエーテル化合物類等が含まれる。中でも、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、トリフェノールメタン型エポキシ化合物、トリフェノールエタン型エポキシ化合物、トリスフェノール型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ジフェニルエーテル型エポキシ化合物またはビフェニル型エポキシ化合物が好ましい。光硬化性樹脂組成物は、エポキシ化合物を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0077】
エポキシ化合物は、液状であってもよく、固形であってもよい。硬化物の耐湿性を高めやすい観点では、固形のエポキシ化合物が好ましい。固形のエポキシ化合物の軟化点は、40℃以上150℃以下が好ましい。軟化点は、JIS K7234に規定する環球法によって測定することができる。
【0078】
熱硬化性化合物の含有量は、光硬化性樹脂組成物100質量部に対して3~20質量部が好ましい。熱硬化性化合物の量が3質量部以上であると、光硬化性樹脂組成物の硬化物(シール部材)の耐湿性を良好に高めやすい。熱硬化性化合物の含有量が20質量部以下であると、光硬化性樹脂組成物に、過剰な粘度上昇が生じ難い。熱硬化性化合物の量は、光硬化性樹脂組成物100質量部に対して3~15質量部がより好ましく、4~15質量部がさらに好ましい。
【0079】
熱硬化性化合物の含有量は、硬化性化合物(A)100質量部に対して3.8~50質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。熱硬化性化合物の硬化性化合物(A)に対する含有量が3.8質量部以上であると、硬化物の耐湿性やガラス基板への接着強度がさらに高まる。一方、50質量部以下であると、製造時に硬化性化合物(A)との相溶性が良好になりやすい。
【0080】
1-8.その他の化合物
本発明の光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて熱ラジカル重合開始剤、上述のカップリング剤(D)以外のシランカップリング剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、顔料、染料、増感剤、可塑剤及び消泡剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0081】
シランカップリング剤の例には、ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が含まれる。シランカップリング剤の含有量は、硬化性化合物(A)100質量部に対して0.01~5質量部が好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.01質量部以上であると、光硬化性樹脂組成物の硬化物がさらに高まりやすい。
【0082】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、液晶表示パネルのギャップを調整するためのスペーサー等をさらに含んでいてもよい。
【0083】
その他の成分の合計量は、光硬化性樹脂組成物の総量100質量部に対して1~50質量部が好ましい。その他の成分の合計量が50質量部以下であると、光硬化性樹脂組成物の粘度が過度に上昇し難く、光硬化性樹脂組成物の塗工安定性が損なわれにくい。
【0084】
1-9.光硬化性樹脂組成物の物性
本発明の光硬化性樹脂組成物の、E型粘度計の25℃、2.5rpmにおける粘度は、200~450Pa・sが好ましく、300~400Pa・sがより好ましい。粘度が上記範囲にあると、光硬化性樹脂組成物のディスペンサーによる塗布性が良好となる。
【0085】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、上述のようにシール剤として用いることができる。光硬化性樹脂組成物は特に、液晶表示素子、有機EL素子、LED素子等の表示素子の封止に用いられる表示素子シール剤に好適である。また、本発明の光硬化性樹脂組成物は、液晶を汚染し難いため、液晶滴下工法用の液晶シール剤に非常に好適である。
【0086】
2.液晶表示パネルおよびその製造方法
本発明の液晶表示パネルは、それぞれ配向膜を有する一対の基板(表示基板および対向基板)と、当該一対の基板の配向膜どうしの間に配置された枠状のシール部材と、一対の基板の間の前記シール部材で囲まれた空間に充填された液晶層と、を含む。当該シール部材が、上述の光硬化性樹脂組成物(液晶シール剤)の硬化物である。
【0087】
表示基板および対向基板は、いずれも透明基板である。透明基板の材質は、ガラス等の無機材料であってもよく、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォンおよびPMMA等のプラスチックであってもよい。
【0088】
表示基板または対向基板の表面には、マトリックス状のTFT、カラーフィルタ、ブラックマトリクス等が配置されていてもよい。表示基板または対向基板の表面には、さらに配向膜が配置されている。配向膜には、公知の有機配向剤や無機配向剤が含まれる。
【0089】
上述のように、一般的な液晶シール剤から得られるシール部材は、これらの配向膜との密着性が低いことがある。これに対し、上述の光硬化性樹脂組成物(液晶シール剤)は、基板表面と反応するアルコキシ基を持つため基板との界面近傍に存在するカップリング剤(D)がその分子構造内にゴム構造を有しているため、特に脆弱な基板とシール部材の界面において硬化時にシール部材に生じる残留応力を緩和したり、液晶表示パネルに外部からかかる応力を吸収したりできる。したがって、シール部材を、配向膜が形成されている領域に配置しても、これらの界面で剥離が生じ難い。よって、本発明の液晶表示パネルでは、狭額縁化を実現可能である。
【0090】
液晶表示パネルは、本発明の液晶シール剤を用いて製造される。液晶表示パネルの製造方法には、一般に、液晶滴下工法と、液晶注入工法とがあるが、本発明の液晶表示パネルは、液晶滴下工法で製造されることが好ましい。
【0091】
液晶滴下工法による液晶表示パネルの製造方法は、
1)それぞれ配向膜を有する一対の基板の、一方の基板の配向膜上に、上述の液晶シール剤をパターン状(枠状)に塗布し、シールパターンを形成する工程と、
2)シールパターンが未硬化の状態において、一方の基板上、かつシールパターンで囲まれた領域内、または他方の基板上に、液晶を滴下する工程と、
3)一方の基板および他方の基板を、シールパターンおよび液晶を介して重ね合わせる工程と、
4)シールパターンを硬化させる工程とを含む。
【0092】
1)の工程では、所望の形状に、液晶シール剤を塗布する。塗布方法は特に制限されず、一般的な方法とすることができる。またこのとき、形成するシールパターンの幅は特に制限されないが、上述の液晶シール剤は、基板との接着強度が高い。したがって、シール剤の幅を、0.3mm~0.6mm程度とすることも可能である。
【0093】
2)の工程において、シールパターンが未硬化の状態とは、液晶シール剤の硬化反応がゲル化点までは進行していない状態を意味する。このため、2)の工程では、液晶シール剤の液晶への溶解を抑制するために、シールパターンを光照射または加熱して半硬化させてもよい。一方の基板及び他方の基板は、それぞれ表示基板または対向基板である。また、2)の工程で他方の基板上に液晶を滴下する場合、3)の工程で2枚の基板を重ね合わせた際に、液晶がシールパターンの内側に収まるように、液晶を滴下する。
【0094】
4)の工程では、光照射による硬化のみを行ってもよいが、光照射による硬化を行った後、加熱による硬化を行ってもよい。光照射による硬化を行うことで、液晶シール剤を短時間で硬化させることができるので、液晶への溶解を抑制できる。光照射による硬化と加熱による硬化とを組み合わせることで、光照射による硬化のみの場合と比べて光による液晶層へのダメージを少なくすることができる。
【0095】
照射する光は、上述の液晶シール剤(光硬化性樹脂組成物)中の光重合開始剤(B)の種類に応じて適宜選択されるが、可視光領域の光が好ましく、例えば波長370~450nmの光であることが好ましい。上記波長の光は、液晶材料や駆動電極に与えるダメージが比較的少ないからである。光の照射は、紫外線や可視光を発する公知の光源を使用できる。可視光を照射する場合、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯等を使用できる。
【0096】
光照射エネルギーは、硬化性化合物(A)が硬化可能なエネルギーであればよい。光硬化時間は、液晶シール剤の組成にもよるが、例えば10分程度である。
【0097】
熱硬化温度は、液晶シール剤の組成にもよるが、例えば120℃であり、熱硬化時間は2時間程度である。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら制限を受けるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施形態の変更が可能である。
【0099】
1.材料の準備
1-1.硬化性化合物(A)の準備
以下の硬化性化合物(A-1)~(A-4)を準備した。
・硬化性化合物(A-1):以下の合成例1で調製したメタクリル変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂
・硬化性化合物(A-2):アクリル樹脂(ライトアクリレート14EG-A、共栄化学社製)
・硬化性化合物(A-3):以下の合成例2で調製したアクリル樹脂
・硬化性化合物(A-4):以下の合成例3で調製したメタクリル変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂
【0100】
[合成例1]硬化性化合物(A-1)の合成
液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポトートYDF-8170C、東都化成社製、エポキシ当量160g/eq)160gと、重合禁止剤(p-メトキシフェノール)0.1gと、触媒(トリエタノールアミン)0.2gと、メタクリル酸43.0gと、をフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。得られた樹脂を、超純水にて20回洗浄し、硬化性化合物(A-1)(メタクリル酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(部分変性メタクリル化物))を得た。
【0101】
[合成例2]硬化性化合物(A-3)の合成
2-ヒドロキシエチルアクリレート116gと、重合禁止剤(p-メトキシフェノール)0.1gと、無水コハク酸100gと、をフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。続いて、ビスフェノールAジグリシジルエーテル170gを加え、同様に90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。得られた樹脂を、超純水にて20回洗浄し、硬化性化合物(A-3)を得た。
【0102】
[合成例3]硬化性化合物(A-4)の合成
液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポトートYDF-8170C、東都化成社製、エポキシ当量160g/eq)160gと、重合禁止剤(p-メトキシフェノール)0.1gと、触媒(トリエタノールアミン)0.2gと、メタアクリル酸81.7gと、をフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。得られた樹脂を、超純水にて20回洗浄し、硬化性化合物(A-4)(メタクリル酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(95モル%部分変性メタクリル化物))を得た。
【0103】
1-2.光重合開始剤(B)の準備
光重合開始剤(B)として、IRGACURE OXE01、BASFジャパン社製を準備した。
【0104】
1-3.有機微粒子(C)の準備
有機微粒子(C)として、微粒子ポリマーF351、アイカ工業社製を準備した。
【0105】
1-4.カップリング剤(D)の準備
以下のカップリング剤(D-1)および(D-2)を準備した。
・カップリング剤(D-1):以下の化学式で示される、市販のシランカップリング剤(平均分子量:6000、アルコキシシリル基数:1)
【化3】
(上記化学式において、Rはアルキル基)
・カップリング剤(D-2):シランカップリング剤(KBM-403、信越シリコーン社製、分子量:236、アルコキシシリル基数:1)
【0106】
1-5.潜在性熱硬化剤(E)の準備
以下の潜在性熱硬化剤(E-1)および(E-2)を準備した。
・潜在性熱硬化剤(E-1):アジピン酸ジヒドラジド(ADH、日本化成社製、融点177~184℃)
・潜在性熱硬化剤(E-2):変性ポリアミン(EH-5030S、ADEKA社製)
【0107】
1-6.無機充填剤(F)の準備
無機充填剤(F)として、シリカ粒子(S-100日本触媒化学社製)を準備した。
【0108】
1-7.その他の化合物の準備
以下の化合物も準備した。
・エポキシ樹脂:YL983U、三菱ケミカル社製
・ポリイソプレンゴム1:UC-102、クラレ社製(重量平均分子量:17,000)
・ポリイソプレンゴム2:UC-203M、クラレ社製(重量平均分子量:35,000)
・ポリブタジエンゴム:LBR-361、クラレ社製(重量平均分子量:5,500)
・ポリスチレンブタジエンゴム:Ricon100、クレイバレー社製(重量平均分子量:4,500)
【0109】
2.樹脂組成物の調製
2-1.実施例1
エポキシ樹脂8質量部と、合成例1で得られた硬化性化合物(A-1)を54質量部と、硬化性化合物(A-2)(ポリエチレングリコールジアクリレート)2質量部と、合成例2で得られた硬化性化合物(A-3)5質量部と、合成例3で得られた硬化性化合物(A-4)5質量部と、光重合開始剤(B)1質量部と、有機微粒子(C)12質量部と、カップリング剤(D-1)2質量部と、潜在性熱硬化剤(E-1)(アジピン酸ジヒドラジド)5質量部と、無機充填剤(F)(シリカ粒子)6質量部とを、三本ロールを用いて均一な組成物になるように十分に混合して、光硬化性樹脂組成物を得た。
【0110】
2-2.実施例2~4、および比較例1~5
表1に示すように組成を変更した以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を作製した。
【0111】
3.評価
実施例1~4および比較例1~5で得られた光硬化性樹脂組成物について、光硬化性樹脂組成物中のアルコキシシリル基の量、相溶性、接着強度および透湿量を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0112】
3-1.光硬化性樹脂組成物中のアルコキシシリル基の量
光硬化性樹脂組成物100g中のアルコキシシリル基の量(mol/100g)は、以下のように求めた。
アルコキシシリル基の量(mol/100g)={(光硬化性樹脂100g中のアルコキシシリル基を有するカップリング剤(D)の量(g))/(当該カップリング剤(D)の分子量)}×(当該カップリング剤(D)中のアルコキシシリル基の数)
【0113】
3-2.相溶性
上述のように、三本ロールを用いて均一に混合した光硬化性樹脂組成物を、容器に入れて10分間静置した。その後、目視で分離が生じていないかを、以下の基準で判断した。
〇:分離なし
×:分離が認められる
【0114】
3-3.接着強度テスト
得られた光硬化性樹脂組成物を、ディスペンサー(ショットマスター、武蔵エンジニアリング社製)により、透明電極および配向膜が予め形成された一対の基板(40mm×45mmガラス基板(RT-DM88-PIN、EHC社製))の一方の基板上に枠状に塗布し、シールパターンを形成した。シールパターンは、38mm×38mmの四角形とし、その断面積が2500μm2(枠の幅としては0.5mmに対応)なるように形成した。なお、近年の液晶ディスプレイのシール材の枠幅は狭いもので1.8mm、一般的には8mm程度であり、本テストは極めて線幅が狭い接着強度試験としては厳しい条件である。当該シールパターンを形成した一方のガラス基板と他方のガラス基板とを、互いの配向膜の向きが垂直になるように減圧下で貼り合せた後、大気開放した。そして、貼り合わせた2枚のガラス基板を1分間遮光ボックス内で保持した。その後、3000mJ/cm2で可視光を含む光(波長370~450nmの光)を照射し、さらに120℃で1時間加熱して光硬化性樹脂組成物を硬化させて、試験片を得た。
【0115】
得られた試験片のシール部材の隅から4.5mmの部分に、押込み試験機(Model210、インテスコ社製)を5mm/分の速度で垂直に押込み、シールが剥がれた時の応力を測定した。接着強度は、その応力をシール部材の線幅で除して求めた。接着強度を以下のように評価した。
〇:15N/mm以上の場合
△:10N/mm以上15N/mm未満の場合
×:10N/mm未満の場合
【0116】
3-4.透湿量測定
光硬化性樹脂組成物の透湿量は、JIS:Z0208に準拠した透湿カップ法で測定した。具体的には、上述の光硬化性樹脂組成物を、アプリケータを用いて離型紙上に100μmの膜厚に塗布した。当該光硬化性樹脂組成物の塗膜が形成された離型紙に、紫外光を3J/cm2照射した。その後、120℃の熱風乾燥オーブンで60分間保持した後、取り出して冷却した。そして、離型紙から塗膜を剥離して、膜厚100μmのフィルムを得た。
【0117】
得られた100μmのフィルムから、JIS:Z0208に準拠した方法でアルミカップを作製し、60℃90%RHの高温高湿槽に24h放置した。そして、高温高湿槽による放置前後の質量から、下記の計算式で透湿量を算出した。
透湿量(g/m2・100μm・24h)=[24h放置後のアルミカップ重量(g)-放置前のアルミカップ重量(g)]/フィルム面積(m2)
透湿性は以下の基準で評価した。
〇:100g/m2・100μm・24h未満の場合
△:100g/m2・100μm・24h以上130g/m2・100μm・24h未満の場合
×:130g/m2・100μm・24h以上の場合
【0118】
【0119】
表1に示すように、ブタジエンゴム構造を有するカップリング剤(D-1)を含む光硬化性樹脂組成物によれば、基板との接着強度が高く、かつ透湿性が低かった(実施例1~6)。これに対し、カップリング剤が、ゴム構造を有さない場合には、接着強度が高まらなかった(比較例1)。また、カップリング剤の代わりに、各種ゴムを添加した場合にも、接着強度が十分に高まらず、さらに透湿量が高くなった(比較例2~5)。接着強度試験が従来のシール材の枠の幅より狭い幅で評価しているため実施例と比較例の差が顕著に表れていると考えられる。さらに、ゴム構造を有さないカップリング剤と、ゴムとを別々に添加した場合にも、接着強度が低下し、透湿量も多かった(比較例6および7)。さらに、ゴム構造を有さないカップリング剤の量を増減させても、接着強度および透湿量の低減を両立させることは難しかった(比較例8および9)。なお、比較例9では、アルコキシシリル基の量は多いものの、応力を緩和する構造(ゴム構造)がないため、接着強度が低かったと考えられる。
【0120】
本出願は、2021年2月26日出願の特願2021-030188号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の光硬化性樹脂組成物によれば、基板との接着強度が高く、かつ耐湿性の高いシール部材を形成である。したがって、当該光硬化性樹脂組成物は、各種表示素子のシール剤等として、非常に有用である。