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特許7557626合金粉末の製造方法及びこの方法により製造された合金粉末、ペースト、並びにコンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】合金粉末の製造方法及びこの方法により製造された合金粉末、ペースト、並びにコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/145 20220101AFI20240919BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240919BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240919BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20240919BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20240919BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240919BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B22F1/145
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/054
B22F1/065
B22F1/16
B22F9/00 B
B22F9/08 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023528289
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 CN2022077815
(87)【国際公開番号】W WO2023082493
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】202111333058.4
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521539281
【氏名又は名称】江蘇博遷新材料股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙登永
(72)【発明者】
【氏名】彭家斌
(72)【発明者】
【氏名】李容成
(72)【発明者】
【氏名】陳鋼強
(72)【発明者】
【氏名】施偉
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-013837(JP,A)
【文献】特開2008-223068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/05,1/054,1/06,1/065,
1/14,1/145,1/16,9/00,9/04,
9/08,9/20,9/30
H01B 1/22
H01G 4/12,4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金粉末の製造方法であって、
(1)金属の融点よりも高い温度のキャリアガスよって、溶融した金属液滴を担持し、金属液滴を熱放射領域に送り込み、凝固するまで冷却し、粒子を得るステップであって、金属液滴中の金属の含有量が99.9wt%を超えるステップと、
(2)凝固成形された高温固体粒子を常温の流体と混合して急速に急冷し、緻密で安定した合金粉末粒子構造を得るステップであって、急冷前の粒子とキャリアガスの平均温度は500℃より高く、急冷後の粒子とキャリアガスの平均温度は300℃より低いステップと、
(3)金属液滴の形成中、または硬化後、または急冷後に、金属液滴または粒子の表面を酸素族元素に接触させ、酸素族元素との反応により粒子の表面に化学的不動態化層を生成させて、酸素族元素含有ニッケル化合物を生成するステップであって、酸素族元素の質量が合金粉末の質量に対して0.10~15.00wt%となるように酸素族元素の量を制御するステップと、
(4)常温で硬質内壁を有するハウジングの容器の流体中に、酸素族元素を含む化学的不動態化層を有する合金粉末を分散させ、圧力により流体に合金粉末を担持させて容器内で回転させ、回転した粒子同士を衝突させる、または回転した粒子と容器のハウジングの硬質内壁とを衝突させることで、粒子の表面の化学的不動態層をより緻密にするステップと、を含むことを特徴とする、合金粉末の製造方法。
【請求項2】
前記金属液滴中の金属原料が、ニッケルまたは銅のうちの少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1に記載の合金粉末の製造方法。
【請求項3】
前記キャリアガスが、窒素ガスまたはアルゴンガスのうちの少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1または2に記載の合金粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(2)における流体が、不活性ガスまたは液体のうちの少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の合金粉末の製造方法。
【請求項5】
前記酸素族元素が、酸素または硫黄のうちの少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の合金粉末の製造方法。
【請求項6】
前記合金粉末の平均粒径が20~1000nmであり、個々の粒子が類円形球状であり、粒子中の金属の含有量が84.00~99.80wt%、非金属かつ非酸素族元素の含有量が0.01~1.00wt%であり、酸素族元素の含有量が0.10~15.00wt%であり、且つ含有量の90wt%より大きい酸素族元素が、厚さ5nmの粒子の外表面層内に集中していることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の合金粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法によって、酸素族元素との反応により合金粉末表面に、化学的不動態化層生成させ、更に回転した粒子同士を衝突させる、または回転した粒子と容器のハウジングの硬質内壁とを衝突させることで、前記化学的不動態化層を緻密化した合金粉末であって、
前記合金粉末の平均粒径が20~1000nmであり、個々の粒子が類円形球状であり、
粒子中の金属の含有量が84.00~99.80wt%、非金属かつ非酸素族元素の含有量が0.01~1.00wt%であり、酸素族元素の含有量が0.10~15.00wt%であり、
且つ含有量の90wt%より大きい酸素族元素が、厚さ5nmの粒子外表面層内に集中していることを特徴とする、合金粉末。
【請求項8】
請求項7に記載の合金粉末を含むことを特徴とする、導電性ペースト。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性ペーストを用いて製造された電極を備えることを特徴とする、積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子応用に適した金属合金粉末の製造方法に関し、より具体的には、導電性ペーストに用いられる導電性粉末としての高安定性の合金粉末の製造方法に関し、さらに、この方法により製造された合金粉末、この合金粉末により製造された導電性ペースト、この導電性ペーストにより製造された積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの電極製造過程で用いられる導電性ペースト中の主成分である合金粉末は、導電性に影響を与えないように、不要な不純物をできるだけ少なくする必要がある。しかし、積層セラミックコンデンサには積層数が増加しており、導電性粉末には良好な導電性を有することが要求されると同時に、さらに、導電性粉末がセラミック絶縁層とガラス粉末との共焼成過程で良好な結合性を有するとともに、層と層の間に膨張割れが発生したり、各層の間に熱膨張性の違いによるセラミック体の曲げや破断が発生したりするのを防止するように、類似の熱膨張性を有することが要求されている。
【0003】
したがって、導電性粉体は高い焼結開始温度を有する必要があり、酸化セラミックス粉末またはガラス粉末と良好な共焼成性を有する必要がある。そして、国際的な分業環境下では、粉体から積層セラミックコンデンサを製造するまでの時間が長く(30日以上になることもある)、金属粉体には比較的高い安定性も有することが要求されている。粉体の安定性を維持するために、粉体を真空または不活性雰囲気包装したり、粉体表面を被覆したりすることができる。金属粉体とセラミック粉末の共焼成性を改善するために、酸素添加または硫黄添加プロセスで粉末を処理してもよいが、ミクロ材料、特にナノ材料は比表面積が非常に大きく、化学的活性が非常に強く、酸素添加または硫黄添加プロセスの処理過程中に粉体粒子の内部には化学反応が起こりやすく、粉体表面の化学的不働態層または被覆層も不均一で不安定な問題が発生しやすい。また、粉体粒子表面の化学的不働態化層を効果的に制御しなければ、粒子内部への反応が続き、金属粉体の安定性にも影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、背景技術における問題点に対して、熱放射凝固プロセス、急冷冷却プロセス、表面化学的不動態化プロセスおよび表面物理的不動態化プロセスの組み合わせにより、高安定性の合金粉末を製造する、高安定性合金粉末の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の技術的解決策によって達成された。
【0006】
高安定性合金粉末の製造方法は、具体的に、
1、金属の融点よりも高い温度のキャリアガスよって、溶融した金属液滴を担持し、金属液滴を熱放射領域に送り込み、凝固するまで冷却し、粒子を得るステップであって、金属液滴中の金属の含有量が99.9wt%を超えるステップと、
2、凝固成形された高温固体粒子を常温の流体と混合して急速に急冷し、緻密で安定した合金粉末粒子構造を得るステップであって、急冷前の粒子とキャリアガスの平均温度は500℃より高く、急冷後の粒子とキャリアガスの平均温度は300℃より低いステップと、
3、金属液滴の形成中、または硬化後、または急冷後に、金属液滴または粒子の表面を酸素族元素に接触させ、酸素族元素との反応により粒子の表面に化学的不動態化層を生成させて、酸素族元素含有ニッケル化合物を生成するステップであって、酸素族元素の質量が合金粉末の質量に対して0.10~15.00wt%となるように酸素族元素の量を制御するステップと、
4、常温で硬質内壁を有するハウジングの容器の流体中に、酸素族元素を含む化学的不動態化層を有する合金粉末を分散させ、圧力により流体に合金粉末を担持させて容器内で回転させ、回転した粒子同士を衝突させる、または回転した粒子と容器のハウジングの硬質内壁とを衝突させることで、粒子の表面の化学的不動態層をより緻密にするステップと、を含む。
【0007】
さらに、前記金属液滴中の金属原料は、ニッケルまたは銅のうちの少なくとも一方である。
【0008】
さらに、前記キャリアガスは、窒素ガスまたはアルゴンガスのうちの少なくとも一方である。
【0009】
さらに、前記ステップ2における流体は、不活性ガスまたは液体のうちの少なくとも一方である。
【0010】
さらに、前記酸素族元素は、酸素または硫黄のうちの少なくとも一方である。
【0011】
さらに、前記合金粉末の平均粒径は20~1000nmであり、個々の粒子は類円形球状であり、粒子中の金属の含有量は84.00~99.80wt%、非金属かつ非酸素族元素の含有量は0.01~1.00wt%であり、酸素族元素の含有量は0.10~15.00wt%であり、且つ含有量が90重量%より大きい酸素族元素は、厚さ5nmの粒子の外表面層内に集中している。
【0012】
本発明はさらに、上記の高安定性合金粉末を用いた導電性ペーストを提供する。
【0013】
本発明はさらに、上記の導電性ペーストからなる電極を用いた積層セラミックコンデンサを提供する。
【発明の効果】
【0014】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は下記の通りである。
本方法で製造された高安定性合金粉末は、粒子が熱放射冷却および凝固過程を経ており、熱放射の冷却方式には安定した温度場を有し、形状がより円球状に近い粒子を得るのに寄与している。凝固成形された粒子は高温状態下で流体冷却によって急冷され、粒子の表面は急速に収縮してより緻密な表面層を形成する。化学的不動態化反応は粒子の表面層で発生し、かつ化学的不動態化反応が発生した表面層は物理的手段の衝撃によって圧縮されると、表面層中の酸化層または加硫層がふわふわ状から緻密な保護層になる。熱放射凝固、流体急冷、化学的不動態化及び物理的衝撃不動態化によって形成された高安定性合金粉末粒子は、より安定した化学性と良好な分散性を有し、合金粉末粒子からなる導電性ペーストから製造された積層セラミックコンデンサの歩留まりが高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。本発明を明確かつ完全に説明するが、説明される実施例は、本発明の実施例の一部に過ぎず、全ての実施例ではないことが明らかである。本発明における実施例に基づいて、当業者が、進歩性に値する労働を行うことなく得たその他のすべての実施例はいずれも、本発明の保護範囲に属する。
【0016】
実施例1
ニッケルの融点1453℃よりも高い温度のキャリアガス(窒素ガス)によって、溶融した液滴微粒子(ニッケル含有量が99.9wt%を超える)を担持し、熱放射領域に送り込み、凝固するまで冷却し、粒子を得た。
凝固成形された高温固体粒子を常温の流体と混合して急速に急冷し、緻密で安定したニッケル合金粉末粒子を得ることであって、急冷前の粒子とキャリアガスの平均温度は800℃より高く、急冷後の粒子とキャリアガスの平均温度は200℃より低く、粒子の平均粒径は275nmであった。
金属液滴粒子を急冷した後、粒子の表面を酸素ガスに接触させることで、活性の強い超微粒子の表面に酸素含有ニッケル化合物を形成し、粒子中の酸素含有量は0.70wt%であった。
セラミックサイクロンのキャビティには、高圧(0.6MPa)ガスを導入してサイクロンを形成し、化学的不動態化層を有するニッケル合金粉末を気流中に分散させて高速で回転させ、回転したニッケル合金粉末粒子同士が衝突し、または回転したニッケル合金粉末粒子と容器ハウジングのセラミック内壁とが衝突して圧縮されることで、粒子の表面の化学的不動態化層がより緻密になる。
【0017】
実施例2
ニッケルの融点1453℃よりも高い温度のキャリアガス(窒素ガス)によって、溶融した液滴微粒子(ニッケル含有量が99.9wt%を超える)を担持し、熱放射領域に送り込み、凝固するまで冷却し、粒子を得た。
凝固成形された高温固体粒子を常温の流体と混合して急速に急冷し、緻密で安定したニッケル合金粉末粒子を得ることであって、急冷前の粒子とキャリアガスの平均温度は750℃より高く、急冷後の粒子とキャリアガスの平均温度は250℃より低く、粒子の平均粒径は72nmであった。
金属液滴粒子を急冷した後、粒子の表面を酸素ガスに接触させ、活性の強い超微粒子の表面に酸素含有ニッケル化合物を形成し、粒子中の酸素含有量は4.50wt%であった。
ステンレス製サイクロンのキャビティには、負圧ファンにより常圧気流を吸入して負圧(-0.03MPa)サイクロンを形成し、化学的不動態化層を有するニッケル合金粉末を気流中に分散させて高速で回転させ、回転したニッケル合金粉末粒子同士が衝突し、または回転したニッケル合金粉末粒子と容器ハウジングの内壁とが衝突して圧縮されることで、粒子の表面の化学的不動態化層がより緻密になる。
【0018】
実施例3
ニッケルの融点1453℃よりも高い温度のキャリアガス(窒素ガス)によって、溶融した液滴微粒子(ニッケル含有量が99.9wt%を超える)を担持し、熱放射領域に送り込み、凝固するまで冷却し、粒子を得た。
凝固成形された高温固体粒子を常温の流体と混合して急速に急冷し、緻密で安定したニッケル合金粉末粒子を得ることであって、急冷前の粒子とキャリアガスの平均温度は750℃より高く、急冷後の粒子とキャリアガスの平均温度は200℃より低く、粒子の平均粒径は150nmであった。
溶融した液滴が凝固しない前に硫黄を加え、金属液滴粒子を急冷した後、粒子の表面を酸素ガスに接触させることで、活性の強い超微粒子の表面に硫黄と酸素を含有するニッケル化合物を形成し、粒子中の酸素含有量は1.30wt%であり、硫黄含有量は0.11wt%であった。
セラミック旋回流チューブのキャビティには、高圧(0.8MPa)液体を導入して液体旋回流を形成し、化学的不動態化層を有するニッケル合金粉末を液流中に分散させて高速で回転させ、回転したニッケル合金粉末粒子同士が衝突し、または回転したニッケル合金粉末粒子と容器ハウジングのセラミック内壁とが衝突して圧縮されることで、粒子の表面の化学的不動態化層がより緻密になる。