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特許7557630眼鏡レンズ設計、眼鏡レンズキット及び眼鏡レンズを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ設計、眼鏡レンズキット及び眼鏡レンズを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20240919BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20240919BHJP
   A61B 3/103 20060101ALI20240919BHJP
   A61B 3/028 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G02C7/06
G02C7/02
A61B3/103
A61B3/028
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023532219
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2021083245
(87)【国際公開番号】W WO2022112531
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】20211634.9
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507062222
【氏名又は名称】カール ツァイス ヴィジョン インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】ディーター ブラウンガー
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05867247(US,A)
【文献】中国特許出願公開第103268023(CN,A)
【文献】国際公開第2018/076057(WO,A1)
【文献】米国特許第11543681(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/06
G02C 7/02
A61B 3/103
A61B 3/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズ(2、32、42、52)であって、前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)は、
第1の焦点屈折力を有するクリアな第1のゾーン(4、34、44、54)であって、所与の高さ(d)及び所与の幅(d)を有する第1のゾーン(4、34、44、54)と、
- 前記第1のゾーン(4、34、44、54)によって互いに隔てられる2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)からなる少なくとも1つの第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)であって、(i)前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)のそれぞれに設けられ、第1の焦点屈折力よりも強い第2の焦点屈折力を提供する複数の焦点構造(46)であって、第1の焦点屈折力が中心窩上に結像をもたらすときに第2の焦点屈折力は近視デフォーカスをもたらす複数の焦点構造(46)、又は(ii)前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)のそれぞれに設けられ、前記少なくとも1つの第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)を通る光を拡散させる拡散構造(6、36、56)の少なくとも1つを含む、少なくとも1つの第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)と
を含み、
前記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記幅(d)は、前記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記高さ(d の少なくとも4倍であり、且つ前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の幅に一致し
記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)の幅は、前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の前記幅に一致することを特徴とする眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記高さ(d は、前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)が所与の装用時位置に従って配置されるとき、それが0.8~1.5度の垂直視角をカバーするようなものであることを特徴とする、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
コンピュータによって実施される眼鏡レンズ(2、32、42、52)計方法であって、前記方法は、
第1の焦点屈折力を有する前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の数値表現を提供するステップと、
- 前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の前記数値表現において、所与の高さ(d )及び所与の幅(d )を有するクリアな第1のゾーン(4、34、44、54)によって互いに隔てられる2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)からなる少なくとも1つの第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)であって、(i)前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)のそれぞれに設けられ、第1の焦点屈折力よりも強い第2の焦点屈折力を提供する複数の焦点構造(46)であって、第1の焦点屈折力が中心窩上に結像をもたらすときに第2の焦点屈折力は近視デフォーカスをもたらす複数の焦点構造(46)、又は(ii)前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)のそれぞれに設けられ、前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)を通る光を拡散させる拡散構造(6、36、56)の少なくとも1つを含む、少なくとも1つの第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)を設計するステップと
を含み、 記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記(d が前記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記高さ(d の少なくとも4倍であり、且つ前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の幅に一致するような寸法で、前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)が設計され
記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)は、前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)の幅が前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の前記幅に一致するように設計されることを特徴とする方法。
【請求項4】
前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)は、前記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記高さ(d が、前記設計された眼鏡レンズ(2、32、42、52)が所与の装用時位置に従って配置されるとき、0.8~1.5度の垂直視角をカバーするような寸法を有するように設計されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
鏡レンズ(2、32、42、52)を製造する方法であって、
第1の焦点屈折力を有する前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)を提供するステップと、
所与の高さ(d )及び所与の幅(d )を有するクリアな第1のゾーン(4、34、44、54)によって互いに隔てられる2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)からなる少なくとも1つの第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)において、(i)前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)のそれぞれに設けられ、第1の焦点屈折力よりも強い第2の焦点屈折力を提供する複数の焦点構造(46)であって、第1の焦点屈折力が中心窩上に結像をもたらすときに第2の焦点屈折力は近視デフォーカスをもたらす複数の焦点構造(46)、又は(ii)前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)のそれぞれに設けられ、前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)を通る光を拡散させる拡散構造(6、36、56)の少なくとも1つを形成するステップと
を含み、
記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記(d )は、前記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記高さ(d の少なくとも4倍であり、且つ前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の幅に一致するような寸法で、前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)が形成され
記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)は、前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)の幅が前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の前記幅に一致するように形成されることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)は、前記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記高さ(d が、前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)が所与の装用時位置に従って配置されるとき、0.8~1.5度の垂直視角をカバーするような寸法を有するように形成されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
鏡レンズ(2、32、42、52)を設計するためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、命令を含み、前記命令は、コンピュータで実行されると、前記コンピュータに、
第1の焦点屈折力を有する前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の数値表現を提供することと、
- 眼鏡レンズ(2、32、42、52)の前記数値表現において、所与の高さ(d )及び所与の幅(d )を有するクリアな第1のゾーン(4、34、44、54)によって互いに隔てられる2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)からなる少なくとも1つの第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)であって、(i)前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)のそれぞれに設けられ、第1の焦点屈折力よりも強い第2の焦点屈折力を提供する複数の焦点構造(46)であって、第1の焦点屈折力が中心窩上に結像をもたらすときに第2の焦点屈折力は近視デフォーカスをもたらす複数の焦点構造(46)、又は(ii)前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)のそれぞれに設けられ、前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)を通る光を拡散させる拡散構造(6、36、56)の少なくとも1つを含む、少なくとも1つの第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)を設計することと
を行わせ、
記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記(d が前記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記高さ(d の少なくとも4倍であり、且つ前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の幅に一致するような寸法で、前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)が設計され
ンピュータで実行されると、前記コンピュータに、前記2つのサブゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)の幅が前記眼鏡レンズ(2、32、42、52)の前記幅に一致するように、前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)を設計させる命令を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項8】
コンピュータで実行されると、前記コンピュータに、記第1のゾーン(4、34、44、54)の前記高さ(d が、前記設計された眼鏡レンズ(2、32、42、52)が所与の装用時位置に従って配置されるとき、0.8~1.5度の垂直視角をカバーするような寸法を有するように、前記第2のゾーン(5a、5b、35a、35b、45a、45b、55a、55b)を設計させる命令を含むことを特徴とする、請求項に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近視制御のための眼鏡レンズ設計及び眼鏡レンズキットに関する。加えて、本発明は、眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法及び眼鏡レンズを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近視(近眼)の罹患率は、急増している。近視は、網膜剥離(近視のレベルに応じて)、後極白内障及び緑内障のリスクを大幅に高める。近視の光学的、視覚的及び潜在的な病理学的影響並びに個人及びコミュニティに対するその結果としての不便さ及びコストのため、進行を遅らせるか、近視の発症を阻止するか若しくは遅延させるか、又は子供及び若年成人の両方で生じる近視の度合いを制限する有効な戦略を有することが望ましい。
【0003】
国際公開第2010/075319A2号パンフレットは、近視眼の罹患を決める周辺網膜像の重要性にも言及している。この文献は、眼軸長関連障害を防止、改善又は回復させる治療処置法を提案しており、治療処置法は、患者において、眼軸長関連障害を識別することと、閾値空間周波数を超える眼の網膜への像入力の平均空間周波数を低減して、患者の眼の更なる眼軸長の伸びを阻止するために、患者の周辺視の人工ブラーリングを誘導することとを含む。特に、この文献は、(i)眼鏡レンズの表面上のバンプ、(ii)眼鏡レンズの表面上の窪み、(iii)眼鏡レンズ材料内の第1の半透明内包物、及び(iv)眼鏡レンズ材料内の第1の透明内包物であって、眼鏡レンズ材料と異なる屈折率を有する第1の透明内包物からなる群から選択される複数の要素を含むゾーンを有する眼鏡レンズを患者に提供することを提案している。要素は、一般に、1mm当たりドット0~8個の範囲の非ゼロ点密度を有する点形要素である。眼鏡レンズは、前記複数の要素を含むゾーンで囲まれ、クリアな視覚を提供する別のゾーンを有する。
【0004】
この種の眼鏡レンズの改良は、国際公開第2018/026697A1号パンフレット、国際公開第2019/152438A1号パンフレット及び国際公開第2020/014613A1号パンフレットにそれぞれ開示されている。
【0005】
特に、国際公開第2018/026697A1号パンフレットは、眼鏡であって、フレームと、フレームに搭載された眼鏡レンズの対とを備え、眼鏡レンズは、各眼鏡レンズにわたり点パターンで分布し、点パターンは、1mm以下の距離で離間されたドットの配列を含み、各点は、最大直径0.3mm以下を有する、眼鏡を開示している。
【0006】
国際公開第2019/152438A1号パンフレットには、眼鏡レンズであって、2枚の逆に湾曲した表面を有するレンズ材料と、クリアアパーチャを囲む散乱領域とを備え、散乱領域は、入射光を散乱させるようなサイズ及び形状の複数の離間された散乱中心を有し、散乱中心は、隣接する散乱中心の間隔の不規則な変動及び/又は散乱中心サイズの不規則な変動を含むパターンに配置される、眼鏡レンズが開示されている。
【0007】
例えば、国際公開第2019/152438A1号パンフレットに開示されているような近視改善眼鏡は、眼鏡フレームと、眼鏡フレームに搭載された眼鏡レンズとで構成される。一般に、眼鏡レンズは、平面レンズ、単焦点レンズ(例えば、正若しくは負の屈折力)又は多焦点レンズ(例えば、二焦点若しくは累進レンズ)であり得る。眼鏡レンズは、コントラスト低減を提供するゾーンで囲まれたクリアゾーンをそれぞれ有する。クリアゾーンは、装用者の軸上視位置と一致するように位置決めされる一方、コントラスト低減を提供するゾーンは、装用者の周辺視に対応する。コントラスト低減を提供するゾーンは、それらのゾーンを通して装用者の眼に届く光を散乱させることにより、装用者の周辺視における物体のコントラストを低減するドットの配列で構成される。一般に、ドットは、眼鏡レンズの片面又は両面に凸部及び/又は凹部を形成し、且つ/又はこれらのゾーンのレンズ材料自体内に散乱内包物を形成することにより提供することができる。
【0008】
香港理工大学及びHoyaは、近年、米国特許出願公開第2017131567A1号明細書において、同様の構造の眼鏡レンズ、即ち眼鏡レンズの表面上のバンプを有する眼鏡レンズを開示した。これらの眼鏡レンズは、MSMD(マルチセグメント近視デフォーカス)レンズとして知られている。各技術概念は、D.I.M.S.(デフォーカス内蔵マルチセグメント)技術として知られている。詳細は、例えば、https://www.hoyavision.com/en-hk/discover-products/for-spectacle-wearers/special-lenses/myosmart/に開示されている。各眼鏡レンズは、米国特許出願公開第2017/131567A1号明細書に開示されている。これらの眼鏡レンズの実施形態は、近視を矯正しながら、近視の進行を抑制する。そのような実施形態の眼鏡レンズは、メニスカス凹レンズであり、前面は、物体側に向かって湾曲した凸曲面として形成され、後面は、前面の曲率よりも大きい曲率の凹面に形成される。加えて、眼鏡レンズは、眼鏡レンズの中央における、近視矯正のための処方に基づく第1の屈折力を有する第1のゾーンと、第1のゾーンを囲み、複数のそれぞれ独立した島形エリアを含む第2のゾーンとを有する。
【0009】
第2のゾーンにおける各島形エリアの前面は、第1のゾーンの前面の曲率よりも大きい曲率の、物体側に向かう凸球面形状に形成される。したがって、第2のゾーンにおける独立した島形エリアの屈折力は、第1のゾーンの屈折力よりも2.00dpt~5.00dpt大きい。したがって、像は、第1のゾーンにより眼の網膜上に結ばれ、第2のゾーンにおける島形エリアにより網膜の前方の点で結ばれる。
【0010】
各島形エリアは、眼鏡レンズの約0.50~3.14mmをカバーし、直径約0.8~2.0mmを有する円形を有する。複数の島形エリアは、島形エリアの半径の値に略等しい距離だけ互いから離間されるように第1のゾーンの近傍に概ね均等に配置される。
【0011】
同様の手法は、欧州特許出願公開第3 553 594A1号明細書、欧州特許出願公開第3 561 578A1号明細書、国際公開第2019/166653A1号パンフレット、国際公開第2019/166654A1号パンフレット、国際公開第2019/166655A1号パンフレット、国際公開第2019166657A1号パンフレット、国際公開第2019/166659A1号パンフレット及び国際公開第2019/206569A1号パンフレットにそれぞれ詳述されているEssilorのStellest眼鏡レンズで使用されている。それらに記載の眼鏡レンズは、非球面であり、絶対値で2.0dpt~7.0dptの範囲内の屈折力を幾何中心に有し、絶対値で1.5dpt~6.0dptの範囲内の屈折力を幾何中心の周辺に有するマイクロレンズ/レンズレットを備える。非球面マイクロレンズ/レンズレットにより提供される屈折力は、眼鏡レンズのクリア中央ゾーンの屈折力を0.5dpt以上超える。
【0012】
Sightglass Vision Inc.に譲渡された国際公開第2020/014613A1号パンフレットも、1つ又は複数のデフォーカス要素を含み得る近視制御眼鏡レンズを近年開示しており、即ち、近視制御眼鏡レンズは、近視制御レンズを有する眼鏡を小児に装用させることにより、近視であるか又は近視が疑われる小児を治療する、前記デフォーカス要素のないクリア中央ゾーンを含み得、若年者の近視の進行を低減する安全で効率的且つ非侵襲的な方法を提供している。典型的には、この文献は、島形レンズを含む領域に言及している。
【0013】
国際公開第2019/152438A1号パンフレットに開示されるコントラスト低減を提供するゾーンで囲まれるか、又は国際公開第2019/206569A1号パンフレットに開示されるマイクロレンズ/レンズレットを有するゾーンで囲まれた中央クリアゾーンを有する眼鏡レンズの装用者によっては、使用に際して何らかの類いの不快さを報告する者がいる。特に、そのような眼鏡レンズのゾーンは、汚く見えることがある。
【0014】
国際公開第2018/076057A1号パンフレットには、近視デフォーカスを生成する焦点構造を有するゾーンで囲まれる、中心窩上に結像を提供するゾーンを含む眼鏡レンズ設計が開示されている。結像を提供するゾーンの幅は、高さよりもはるかに大きい。
【0015】
最も近い技術的現状と見なされる国際公開第2020/113212A1号パンフレットには、近視デフォーカスを生成する焦点構造を有するゾーン又は拡散ゾーンで囲まれる、中心窩上に結像を提供するゾーンを含む眼鏡レンズ設計が開示されている。結像を提供するゾーンの幅は、高さの5倍までであり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
国際公開第2020/113212A1号パンフレットに関して、本発明の第1の目的は、リーディング作業に特に適し、好ましくは各眼鏡レンズの装用者に高い快適性も提供する、上記のレンズ設計と同様の眼鏡レンズ設計を有する眼鏡レンズキット及び眼鏡レンズ設計を提供することである。
【0017】
本発明の第2の目的は、リーディング作業に特に適する、国際公開第2020/113212A1号パンフレットに記載のレンズと同様の眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法及びリーディング作業に特に適し、好ましくは各眼鏡レンズの装用者に高い快適性も提供する、国際公開第2020/113212A1号パンフレットに記載のレンズと同様の眼鏡レンズの(特に設計に従った)製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の目的は、請求項1、2及び3に記載の眼鏡レンズキット並びに請求項17、18及び19に記載の眼鏡レンズ設計により達成され、第2の目的は、請求項8、23、34、35、38及び39に記載の眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法並びに請求項13、28、36、37、40及び41に記載の眼鏡レンズの製造方法によりそれぞれ達成される。従属請求項は、本発明の更なる発展形態を含む。
【0019】
以下の定義が本説明の範囲内で使用される。
【0020】
追加度数
本明細書に関して、「追加度数」という用語は、眼鏡レンズの焦点屈折力に追加される焦点屈折力に該当し、眼鏡レンズの焦点屈折力は、順応により支援されて中心窩上に結像を提供し、追加度数は、眼鏡レンズの焦点屈折力に加えられた場合、近視デフォーカスを提供する。追加度数は、累進多焦点レンズの加入度数と混同されてはならない。他方、累進多焦点レンズの加入度数は、眼鏡レンズの近用部の頂点屈折力と眼鏡レンズの遠用部の頂点屈折力との間の差を指定する。
【0021】
アパーチャ
本明細書に関して、「アパーチャ」という用語は、(i)散乱中心等の拡散構造を含むゾーン、又は(ii)1つ若しくは複数の追加度数を提供する構造を含むゾーンで囲まれる眼鏡レンズのゾーンに該当する。
【0022】
装用時位置
装用時位置とは、装用中の両眼及び顔に対する眼鏡レンズの、向きを含む位置である(DIN ISO13666:2019,セクション3.2.36)。装用時位置は、装用時前傾角、装用時フロント角及び頂点間距離によって決まる。装用時前傾角は、水平と、主方向を含む垂直面においてフレームの上リム及び下リムの溝の頂点を通る基準線への垂直線との間の垂直角であり(DIN ISO13666:2019,セクション3.2.37)、主方向とは、裸眼でまっすぐ前を見ているときの習慣的な頭部及び体位で測定される、無限遠の物体への、通常は水平で測定される視線の方向であり(DIN ISO13666:2019,セクション3.2.25)、視線とは、物体空間における関心のある点(即ち固視点)から眼の入射瞳の中心までの光線経路及び射出瞳の中心から網膜固視点(一般に小窩)までの像空間におけるその続きである(DIN ISO13666:2019,セクション3.2.24)。装用時前傾角の典型的な値は-20~+30度の範囲である。装用時フロント角は、主方向と、主方向を含む水平面におけるフレームの鼻側リム及びこめかみ側リムの溝の頂点を通る基準線への垂直線との間の水平角である(DIN ISO13666:2019,セクション3.2.38)。装用時フロント角の典型的な値は-5~+30度の範囲である。頂点間距離は、両眼が主位置にある状態で測定される、眼鏡レンズの後面と角膜の頂点との間の水平距離であり(DIN ISO13666:2019,セクション3.2.40)、主位置とは、主方向を見ているときの眼の位置である(DIN ISO13666:2019,セクション3.2.26)。頂点間距離の典型的な値は5mm~30mmの範囲である。装用時位置は、特定の個人で特定される個々の装用時位置又は定義された装用者群で特定される一般装用時位置であり得る。
【0023】
装用時位置を参照しなければ、眼鏡レンズ設計を用いて達成すべき屈折力は不適切に定義される。更に、装用時位置についての情報は、眼鏡レンズ設計を用いて達成すべき屈折力を定義し、ひいては眼鏡レンズ設計により達成すべき技術的効果を定義するために必要であるため、装用時位置についての情報は、眼鏡レンズ設計に技術的に寄与する。
【0024】
クリアゾーン
本明細書に関して、「クリアゾーン」という用語は、眼鏡レンズが指定された装用時位置に従って位置する状態で装用者がクリアゾーンを見るとき、中心視に近視デフォーカスも拡散も提供しない眼鏡レンズ設計又は眼鏡レンズのゾーンに該当する。更に、クリアゾーンの少なくとも1つのセクションは、必要であれば順応により支援されて、中心窩上で結像を達成できるようにする。例えば、装用者が各ゾーンを通して見るとき、中心視に近視デフォーカスも拡散も提供しないが、像のぼやけに繋がる残留非点収差誤差を示す眼鏡レンズ設計又は眼鏡レンズのゾーンがあり得る。そのようなゾーンは、本明細書で使用される意味でクリアゾーンと見なすことができる。この例では、クリアゾーンの一セクションのみが、中心窩上の結像を達成できるようにする。クリアゾーンの他の例では、中心窩上の結像を達成できるようにする領域は、全クリアゾーンに及び得る。
【0025】
データ搬送信号
データ搬送信号とは、有線又は無線ネットワークを経由して移動するとき、データを表す電気又は光のパルス又は一連のパルスである。
【0026】
少なくとも部分的にゾーンを囲むことによるゾーンの画定
本発明に関して、「少なくとも部分的にゾーンを囲むことによるゾーンの画定」とは、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計のゾーンの限界が、ゾーンの限界が眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計のリムにより与えられない限り、そのゾーンを囲む別のゾーンへの境界により与えられることを意味する。
【0027】
拡散器
光学系では、拡散器(光拡散器又は光学拡散器も呼ばれる)とは、柔らかい光を伝達するように何らかの方法で光を拡散又は散乱する任意の材料で作られた光学要素である。拡散光は、白色表面から光を反射することによって容易に得ることができるが、よりコンパクトな拡散器は、すりガラス、Teflon、ホログラフ、乳白ガラス及びグレーガラスを含め、半透明材料を使用し得る。散乱は点形状であり得る散乱中心により達成し得、その例は、例えば、国際公開第2010/075319A2号パンフレット、国際公開第2018/026697A1号パンフレット、国際公開第2019/152438A1号パンフレット及び国際公開第2020/014613A1号パンフレットにそれぞれ開示されている。散乱中心は、線形状であり得る。以下では、「拡散」という用語は、特殊な場合として「散乱」という用語を包含する。
【0028】
拡散構造
拡散構造」という用語は、眼鏡レンズの各エリアに拡散性を提供する任意の構造を意味する。
【0029】
焦点屈折力
「焦点屈折力」という用語は、平行光の近軸光束を1つの焦点にもっていき、(通常、処方において「球面度数」値と見なされるか、又は「sph」と略称される球面頂点屈折力と、平行光の近軸光束を、相互に直角の2つの別個の線焦点にもっていき(DIN ISO13666:2019,セクション3.10.2)、通常、処方において「円柱度数」値と見なされるか、又は「cyl」と略称される眼鏡レンズの円柱頂点屈折力との集合的な用語である。「頂点屈折力」とは、近軸頂点焦点距離の逆数である(DIN ISO13666:2019,セクション3.10.7)。本説明の範囲内で、ビームは、その直径が0.05mm、特に0.01mmを超えない場合、光線の近軸光束であると見なされるべきである。
【0030】
焦点構造
本明細書に関して、「焦点構造」という用語は、1つ又は複数の焦点を提供する構造に該当する。特に、そのような焦点構造は、先行技術を参照して上述したように、マイクロレンズ、レンズレット、バンプ等を含み得る。
【0031】
中心窩
「中心窩」という用語は、本説明において、高密度の感光細胞を有する網膜の中心窩である中心窩を称するために使用される。
【0032】
高さ
「高さ」という用語は、構造の最大垂直寸法を指し、特に所定の装用時位置での眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計のゾーンの最大垂直寸法を指す。これは特に、湾曲構造において、構造の最高点と構造の最低点との差を意味する。
【0033】
近視デフォーカス及び周辺近視デフォーカス
「近視デフォーカス」という用語は、順応による支援がある場合でも、中心窩上の結像を達成することができないような距離により光が中心窩の前方で集束する状況を指す。周辺近視デフォーカスとは、中心窩外の視野外に存在する近視デフォーカスである。
【0034】
鼻セグメント
本説明では、「鼻セグメント」という用語は、眼鏡レンズのこめかみ側リムよりも鼻側リムの近くに配置された眼鏡レンズのセグメント若しくは眼鏡レンズのゾーンのセグメント又は眼鏡レンズ設計に従って製造された眼鏡レンズの鼻セグメントに対応する眼鏡レンズ設計のセグメント若しくは眼鏡レンズのゾーンのセグメントを表す。
【0035】
オフセンター
「オフセンター」という用語は、例えばアパーチャ等の眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計の構造体の幾何中心が、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計を通る画定された可視光線の進入点に一致しないことを記述するのに使用される。画定された可視光線とは、特に、リーディング時、リーディングターゲットをまっすぐ見ている間、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計に進入する光線束の中心光線であり得る。「オフセンターシフト」という用語は、構造体の幾何中心が、画定された可視光線の進入点とずれる寸法を示す。
【0036】
処方
「処方」という用語は、診断された屈折誤差を矯正するために必要なジオプトリ度数が適した値の形態で指定されるサマリを示す。球面度数の場合、処方は、球面度数の値「sph」を含み得る。乱視度数の場合、処方は円柱度数の値「cyl」及び軸の値「axis」を含むことができ、プリズム度数の場合、処方はプリズム及びベース値を含むことができる。更に、処方は更なる値、例えば多焦点眼鏡レンズの場合には「add」値を含み得、前記「add」値は、眼鏡レンズの近用部における頂点屈折力と眼鏡レンズの遠用部における頂点屈折力との差を指定する。瞳孔間距離の値「PD」が処方に含まれることもある。
【0037】
主方向
「主方向」という用語は、裸眼でまっすぐ前を見ているときの習慣的な頭部及び体位で測定される、無限遠の物体への、通常は水平で測定される視線の方向を意味する(DIN ISO13666:2019,セクション3.2.25)。
【0038】
眼鏡レンズ設計の表現
本発明に関して、「眼鏡レンズ設計の表現」という表現は、各設計特徴(眼鏡レンズ設計の物理的表現)を有する眼鏡レンズの実装形態又は設計特徴を記述する数値データセット(眼鏡レンズ設計の数値表現)を指す。例えば、そのようなデータセットは、コンピュータのメモリ又はコンピュータ可読(特に非一時的)記憶媒体に記憶し得る。加えて、データセットは、例えばインターネット又はローカルエリアネットワーク(LAN)のようなデータネットワークから検索可能であり得る。累進眼鏡レンズ設計の表現に類似するデータセットは、特に、幾何学的形状の記述及び累進眼鏡レンズの媒体の記述を含み得る。そのような記述は、例えば、前面、後面、互いに関連してのこれらの表面の配置(厚さを含む)及び累進眼鏡レンズのエッジ限界の数学的記述並びに累進レンズが作られるべきである媒体の屈折率分布を含むことができる。表現は、符号化された形態又は暗号化された形態であり得る。本明細書での媒体という用語は、眼鏡レンズが作られる元の材料又は物質を意味する。
【0039】
累進眼鏡レンズ設計の表現は、追加又は代替として、各設計特徴を有する眼鏡レンズを生産するように1つ又は複数の製造機械(例えば、鋳造機、研削機、フライス盤、ラップ盤及び/又は研磨機)を制御するためのコンピュータ可読命令を含み得る。
【0040】
半完成ブランク
「半完成ブランク」という用語は、眼鏡レンズの作製に向けて光学的に仕上げられた一表面を有する光学材料の個片を指す(DIN ISO13666:2019,セクション3.8.1)。
【0041】
ゾーンのセグメント
本明細書では、「セグメント」という用語は、前記ゾーンの総エリアよりも小さい前記ゾーンのエリアを表す前記ゾーンの一部分を称するために、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計のゾーンに関して使用される。
【0042】
眼鏡レンズ
眼鏡レンズとは、眼球の前方で装用されるが、眼球と接触しない眼科レンズであり(DIN ISO13666:2019,セクション3.5.2)、眼科レンズとは、眼の測定、矯正及び/又は保護を目的として又は外観を変えるために使用されることが意図されるレンズである(DIN ISO13666:2019,セクション3.5.1)。
【0043】
「アンカット眼鏡レンズ」という用語(DIN ISO13666:2019,セクション3.8.8)は、エッジング(3.8.10)前の完成レンズ(3.8.7)である。したがって、「カット眼鏡レンズ」とはエッジング後の完成レンズである。
【0044】
装用位置は、前記規格のセクション3.15.25(測定目的については、DIN ISO13666:2019,セクション3.9を参照されたい)に定義されるように各マークに基づいて決定し得るため、本発明は、「アンカット」及び「カット両方の眼鏡レンズ」並びに各設計を参照する。しかしながら、装用位置は、「カット眼鏡レンズ」のリム輪郭から導出することもできる。
【0045】
眼鏡レンズ設計
光学眼鏡レンズ設計という用語は、眼鏡レンズの装用者の眼のモデルに相対する眼鏡レンズの位置/配置、眼鏡レンズの特定の使用状況で眼鏡レンズの装用者が見る物体のモデル及び眼鏡レンズの装用者の生理学的視覚特性のモデルの位置/配置を考慮に入れて、典型的には所定の特定の装用者に向けた眼鏡レンズの計算された/所定の又は定義された光学特性を称するのに使用される。
【0046】
特に、光学眼鏡レンズ設計は、装用者(モデル)の眼に対する所定の装用時位置及び所定の物体距離モデルで眼鏡レンズの所定の装用者により知覚される眼鏡レンズの有効エリアにわたる屈折力の分布を含み得る。屈折力の分布の計算は、モデル眼に対する眼鏡レンズの距離及び向き、モデル物体に対する眼鏡レンズの距離及び向き並びに眼鏡装用者の生理学的パラメータ、例えば装用者の視覚欠陥、即ち例えば装用者の屈折異常、装用者の順応能力及び装用者の瞳孔間距離に基づく。
【0047】
幾何学的眼鏡レンズ設計という用語は、眼鏡装用者について上述した眼鏡レンズの計算された光学特性を提供する眼鏡レンズのジオメトリを意味する。
【0048】
目標光学眼鏡レンズ設計という用語は、目標光学特性に対応するか又はそれに等しい光学特性を有するドラフト光学眼鏡レンズ設計を意味する。実際の光学眼鏡レンズ設計という用語は、可能な限り目標光学眼鏡レンズ設計を達成することを目的とした最適化プロセス/計算の結果として受け取られる計算された光学特性の眼鏡レンズを意味する。特に累進眼鏡レンズ又はカスタマイズされた単焦点レンズにおけるそのような最適化プロセス/計算は、例えば、Werner Koeppen:Konzeption und Entwicklung von Progressivglaesern,in Deutsche Optiker Zeitung DOZ 10/95,S.42-46に開示されている。
【0049】
そのような光学又は幾何学的眼鏡レンズ設計は、コンピュータ可読(例えば非一時的、電子及び/又は光学)データキャリアに記憶し得る。更に、眼鏡レンズ設計に従って製造された眼鏡レンズは、眼鏡レンズ設計の物理的表現と見なすことができる。
【0050】
眼鏡レンズを設計する方法例の基本ステップについて以下で概説する:
第1のステップにおいて、眼鏡装用者の個々のユーザデータ又はアプリケーションデータが記録される。これは、眼鏡装用者に割り当てることができる(生理学的)データの取得と、眼鏡装用者が、設計された眼鏡を装用することになる使用条件の取得とを含む。
【0051】
眼鏡装用者の生理学的データは、例えば、装用者の屈折異常及び装用者の順応能力を含み得、これらは、屈折測定手段により特定され、通常、球面度数、円柱度数、軸、プリズム、ベース及び加入度数の処方値の形態で処方に含まれる。更に、例えば瞳孔間距離及び瞳孔サイズが様々な照明条件下で特定された。装用者の年齢は、順応能力及び瞳孔サイズに影響し、したがって装用者の年齢も考慮することができる。眼の集束挙動は、様々な視方向及び物体距離での瞳孔間距離から生じる。
【0052】
使用条件は、眼の前方での眼鏡レンズの装用時位置(通常、眼の枢動点に関連する)と、眼鏡装用者がクリアに見るべき様々な視方向での物体距離とを含む。眼の前方での眼鏡レンズのシートは、例えば、角膜頂点距離並びに前方及び側方傾斜を記録することによって特定することができる。これらのデータは、レイトレーシング法を適用することができる物体距離モデルに含められる。
【0053】
続くステップにおいて、多数の評価点を有する眼鏡レンズのドラフト設計が、この記録されたデータに基づいて決定される。ドラフト設計は、各評価点における眼鏡レンズの目標光学特性を含む。目標特性は、例えば、眼の前方のレンズの配置及び基本となる距離モデルによって指定されるように、加入度数を考慮に入れて、眼鏡レンズ全体にわたって分布する処方された球面度数及び乱視度数からの許容されるずれを含む。
【0054】
更に、前面及び後面の表面ジオメトリの設計並びに眼鏡レンズ全体にわたる屈折率分布の設計が指定される。例えば、前面は球面として選択することができ、後面は可変焦点面として選択することができる。両面とも、最初に球面として選択することもできる。第1のドラフトの表面ジオメトリの選択は、一般に、使用される最適化法の収束(速度及び成功)のみを決める。例えば、前面は球面形を保持すべきであり、後面には可変焦点面の形状が与えられると仮定すべきである。
【0055】
更なるステップにおいて、主光線のコースが多数の評価点を通して特定される。可能な場合、局部波面は、各主光線の近傍の各主光線について確立することができる。Werner Koeppen:Design and Development of Progressive Lenses,Deutsche Optiker Zeitung DOZ 10/95,pp.42-46によれば、評価点の数は、通常、1000~1500の範囲である。欧州特許第2 115 527B1号明細書では、8000を超える評価点数が示唆されている。屈折率は、通常、波長に依存するが、分散は、一般に、考慮されず、計算は、いわゆる設計波長で行われる。しかしながら、最適化プロセスが様々な設計波長を考慮に入れることを排除することはできず、例えば欧州特許第2 383 603B1号明細書に記載される。
【0056】
続くステップにおいて、評価点における眼鏡レンズの上記の光学特性が、主光線のビーム路及び必要であれば各評価点の近傍の局部波面に対する眼鏡レンズの影響を特定することによって特定される。
【0057】
更なるステップにおいて、眼鏡レンズの設計は、特定された光学特性及び個々のユーザデータに応じて評価される。背面ジオメトリ及び場合によっては眼鏡レンズの設計の屈折率分布は、例えば、
【数1】
等の目的関数を最小化することによって変更し得、式中、Pは評価点mにおける重みを表し、Wは光学特性nの重みを表し、Tは各評価点mにおける光学特性nの目標値を表し、Aは評価点mにおける光学特性nの実際の値を示す。
【0058】
換言すれば、後面の局部表面ジオメトリ及び場合によっては各視覚ビーム路における眼鏡レンズの局部屈折率は、終了基準が満たされるまで、評価点によって変更される。
【0059】
ゾーンを囲む
本発明に関して、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計の「ゾーンを囲む」とは、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計のリムに達しない眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計のゾーンの全辺が囲まれることを意味する。
【0060】
こめかみセグメント
本説明では、「こめかみセグメント」という用語は、眼鏡レンズの鼻側リムよりもこめかみ側リムの近くに配置された眼鏡レンズのセグメント若しくは眼鏡レンズのゾーンのセグメント又は眼鏡レンズ設計に従って製造された眼鏡レンズのこめかみセグメントに対応する眼鏡レンズ設計のセグメント若しくは眼鏡レンズ設計のゾーンのセグメントを表す。
【0061】
視角
「視角」という用語は、視野内の2点間の角距離を指す。
【0062】

「幅」という用語は、構造の水平寸法、特に所定の装用時位置での眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計のゾーンの水平寸法を指す。これは特に、湾曲構造の場合、最も鼻の方に位置する構造の点と最もこめかみの方に位置する構造の点との間の差の絶対値を意味する。
【0063】
眼鏡レンズのゾーン
本明細書では、「ゾーン」という用語は、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計に関して、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計の総エリアよりも小さい眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計のエリアを表す眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ設計の一部分を称するために使用される。
【0064】
本発明の第1の態様によれば、所与の装用時位置に従って装用者の眼に対して配置される眼鏡レンズの眼鏡レンズ設計と、装用者の眼に対する眼鏡レンズ設計の装用時位置及び所定の物体距離モデルを含む指示とを含む眼鏡レンズキットが提供される。本眼鏡レンズ設計は、
- 眼鏡レンズ設計に従って製造された眼鏡レンズが装用時位置に従って配置されるとき、中心窩上に結像を提供する焦点屈折力を有する第1のゾーンと、
- 第1のゾーンを少なくとも部分的に囲む少なくとも1つの第2のゾーンであって、(i)眼鏡レンズ設計に従って製造された眼鏡レンズが装用時位置に従って配置される、即ち第1のゾーンの焦点屈折力が中心窩上に結像を提供するように配置される場合、近視デフォーカスをもたらす焦点屈折力を提供する焦点構造、又は(ii)少なくとも1つの第2のゾーンを通る光を拡散させる拡散構造、例えば散乱中心の少なくとも1つを含む、少なくとも1つの第2のゾーンと
を含む。
【0065】
第1のゾーンは、好ましくは、眼の異常屈折を矯正する処方に基づく第1の屈折力を有するクリアエリアを表す。第2のゾーンは、拡散器、即ち正の追加度数を第1のゾーンに存在する焦点屈折力に追加することによって得られる焦点屈折力を各々有する焦点構造に起因して、近視デフォーカスを提供するゾーンを表す。第1のゾーンの幅は、第1のゾーンの高さの少なくとも4倍であり得、特に第1のゾーンの高さの少なくとも6倍であり得る。
【0066】
本発明の眼鏡レンズキットでは、第1のゾーンは、リーディング時、装用者の収束視線を辿るように湾曲される。これは、例えば、第1のゾーンが鼻セグメント、即ち眼鏡レンズ設計に従って製造された眼鏡レンズのこめかみ側リムよりも鼻側リムに近いセグメントと、こめがみセグメント、即ち眼鏡レンズ設計に従って製造された眼鏡レンズの鼻側リムよりもこめかみ側リムに近いセグメントと、鼻セグメントとこめかみセグメントとの間に配置された中央セグメントとを含むという点で達成することができる。この場合、第1のゾーンの曲率は、中央セグメントに対して鼻セグメントを下方にシフトすることによって達成し得る。そのような曲率は、テキストを読んでいる間、視方向が垂直に変化する場合、眼の上下移動及び収束に対応する。その結果、本発明の第1のゾーンの形状は、テキストを読む場合、眼の移動に良好に適合する。
【0067】
鼻セグメントを中央セグメントに対して下方にシフトすることへの追加又は代替として、こめかみセグメントは、中央セグメントに対して下方にシフトされ得る。そのような曲率は、テキストを読んでいる間、視方向が垂直に変化する場合、眼の上下移動に更に対応する。その結果、有利な本発展形態の第1のゾーンの形状は、テキストを読む場合、眼の移動に良好に適合する。
【0068】
本発明の上記の態様の一選択肢において、第1のゾーンの幅と高さとの比率は、以下の条件の少なくとも1つが満たされるように予め決定される:
a)第1のゾーンの幅は、第1のゾーンの高さの少なくとも3倍であり、
b)第1のゾーンの幅は、第1のゾーンの高さの少なくとも4倍であり、
c)第1のゾーンの幅は、第1のゾーンの高さの少なくとも5倍である。
【0069】
第1のゾーンの幅が高さを超える度合いが大きくなるほど、眼のより大きい「妨げのない」移動が可能になるとともに、眼に対して眼鏡レンズを装用することができる近さが増す。
【0070】
本発明のこの態様の別の選択肢において、第1のゾーンの幅と高さとの比率は、以下の条件の少なくとも1つが満たされるように更に指定され予め決定される:
a)第1のゾーンの高さは、第1のゾーンの幅の少なくとも一部分に沿って均一であり、前記一部分内の第1のゾーンの均一な高さは、3mm~5mmの範囲の値であり、幅の一部分は、均一な高さの少なくとも3倍であること、
b)第1のゾーンの高さは、第1のゾーンの幅の少なくとも一部分に沿って均一であり、前記一部分内の第1のゾーンの均一な高さは、3mm~5mmの範囲の値であり、幅の一部分は、均一な高さの少なくとも4倍であること、
c)第1のゾーンの高さは、第1のゾーンの幅の少なくとも一部分に沿って均一であり、前記一部分内の第1のゾーンの均一な高さは4mm~5mmの範囲の値であり、幅の一部分は、均一な高さの少なくとも3倍であること、
d)第1のゾーンの高さは、第1のゾーンの幅の少なくとも一部分に沿って均一であり、前記一部分内の第1のゾーンの均一な高さは4mm~5mmの範囲の値であり、幅の一部分は、均一な高さの少なくとも4倍であること。
【0071】
第1のゾーンの幅が第1のゾーンの高さの少なくとも4倍である場合、装用者は、第1のゾーンの高さが低い場合でも、本発明による眼鏡レンズ設計に基づく眼鏡レンズを用いて読む場合、行中の複数の文字をクリアに見ることができる。特に、幅が高さの少なくとも6倍である場合、更に長い言葉を全体としてクリアに見ることができる。本発明による眼鏡レンズ設計を用いれば、前記眼鏡レンズ設計に基づく眼鏡レンズの装用者が、汚く見える眼鏡レンズのゾーンによって邪魔されることがないか、又は邪魔があったとしてもその程度が少なくとも低い。したがって、本発明による眼鏡レンズ設計に基づく近視低減眼鏡レンズの装用の不快さは、近視進行制御機能が維持されながら、技術的現状による近視低減眼鏡レンズよりも低い。
【0072】
本発明の眼鏡レンズ設計の有利な発展形態では、第1のゾーンの高さは、本発明の眼鏡レンズ設計に従って製造された眼鏡レンズが装用時位置に従って配置される、即ち第1のゾーンの焦点屈折力が中心窩上に結像を提供するように配置される場合、垂直視角0.8~1.5度、好ましくは1.0~1.2度、特に1.0度又は1.2度をカバーするように選択される。12ptのサイズの文字を有する典型的な文字は、概ね1.0度の垂直視角に対応するため、この発展形態により、本発明の眼鏡レンズ設計に基づく眼鏡レンズの装用者は、文字行の幾つかの文字をクリアに見ることができ、それと同時に、大きい拡散器ゾーン又は近視デフォーカスを提供する大きいゾーンを近視進行制御機能のために維持することができる。
【0073】
したがって、第1のゾーンの高さは、概ね3mm~8mmの範囲であり得、一方、第1のゾーンの幅は、概ね12mm~水平方向での眼鏡レンズの全体寸法までの範囲であり得る。
【0074】
本発明の眼鏡レンズキットの眼鏡レンズ設計において、第1のゾーンの幅は眼鏡レンズ設計の幅に一致し得る。この場合、第2のゾーンは、第1のゾーンを上方及び下方において制限するが、鼻の方及びこめかみの方では制限しない。したがって、第1のゾーンは、第2のゾーンによって部分的にのみ囲まれ、第1のゾーンは第2のゾーンを2つの別個のサブゾーンに分割する。第1のゾーンの幅が眼鏡レンズ設計の幅に一致する場合、第1のゾーンの所与の各高さについて本発明によるレンズ設計に従って製造された眼鏡レンズの装用者に最大のリーディング快適性を提供することができる。
【0075】
本発明の眼鏡レンズキットの眼鏡レンズ設計の第1のゾーンは、リーディング時、リーディングターゲットをまっすぐ見ている間、眼鏡レンズ設計に進入する光線束の中心光線の進入点に関してオフセンターに配置され得、及び眼鏡レンズ設計が右眼又は左眼に使用される眼鏡レンズのためのものである場合、こめかみの方にシフトされ得、且つ眼鏡レンズ設計がそれぞれの他方の眼に使用される眼鏡レンズのためのものである場合、鼻の方にシフトされ得る。眼鏡レンズ設計が右眼に使用される眼鏡レンズのためのものである場合、第1のゾーンがこめかみの方にシフトされるとき、眼鏡レンズは、左から右に読むときの眼の移動に適合される。他方、眼鏡レンズ設計が左眼に使用される眼鏡レンズのためのものである場合、第1のゾーンがこめかみの方にシフトされるとき、眼鏡レンズは右から左に読む方向に適合される。リーディング時の眼の移動にこのように適合される眼鏡レンズ設計は、リーディング時の快適性の向上に繋がる。
【0076】
オフセンターシフト(例えば左から右へのリーディング作業では右方向への)は、0.5cmを超え、好ましくは0.6cmを超え、より好ましくは0.7cmを超え、更に0.8cmを超え得る。しかしながら、オフセンターシフトは好ましくは1.5cmを超えない。好ましくは、オフセンターシフトは0.5~1.2cmであり得る。
【0077】
本発明の第1の態様によれば、以下の種類のデータの少なくとも1つの種類を含むデータセットも提供される:(i)本発明の第1の態様による眼鏡レンズ設計の数値表現、及び(ii)本発明の第1の態様による眼鏡レンズ設計に従って眼鏡レンズを生成するように1つ又は複数の製造機械を制御するためのコンピュータ可読命令を含むデータ。そのようなデータセットは、眼鏡レンズ設計に基づいて眼鏡レンズを製造するためにコンピュータ数値制御製造プロセスで使用することができる。
【0078】
本発明の第1の態様によれば、以下の種類の少なくとも1つの種類のデータを搬送するデータ搬送信号も提供される:(i)本発明の第1の態様による眼鏡レンズキットによる眼鏡レンズ設計の数値表現、及び(ii)本発明の第1の態様による眼鏡レンズ設計に従って眼鏡レンズを生成するように1つ又は複数の製造機械を制御するためのコンピュータ可読命令を含むデータ。そのようなデータ搬送信号は、例えば、ネットワークを介してクラウドサーバにより提供し得、眼鏡レンズ設計に基づいて眼鏡レンズを製造するためにコンピュータ数値制御製造プロセスで使用することができる。
【0079】
本発明の第2の態様によれば、所与の装用時位置に従って装用者の眼に対して配置される眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法及び眼鏡レンズを製造する方法が提供される。本方法は、
- 眼鏡レンズが装用時位置に従って配置されるとき、中心窩上に結像を提供する焦点屈折力を有する眼鏡レンズ又は眼鏡レンズの数値表現を提供するステップと、
- 眼鏡レンズの前記数値表現において、(i)眼鏡レンズが装用時位置に従って配置されるとき、近視デフォーカスをもたらす焦点屈折力を提供する焦点構造、若しくは(ii)光を拡散させる拡散構造、例えば散乱中心の少なくとも1つを有するゾーンを設計するか、又は前記眼鏡レンズのゾーンにおいて、(i)眼鏡レンズが装用時位置に従って配置されるとき、近視デフォーカスをもたらす焦点屈折力を提供する焦点構造、若しくは(ii)光を拡散させる拡散構造、例えば散乱中心の少なくとも1つを形成するステップであって、前記ゾーンは、眼鏡レンズが装用時位置に従って配置されるとき、中心窩上に結像を提供する焦点屈折力を有する第1のゾーンを、それを少なくとも部分的に囲むことによって画定する第2のゾーンとして形成される、ステップと
を含む。
【0080】
本発明によれば、第2のゾーンは、少なくとも部分的に囲む第2のゾーンによって画定される第1のゾーンが、リーディング時、装用者の収束視線を辿るように湾曲されるように、眼鏡レンズの前記数値表現において設計されるか、又は前記眼鏡レンズにおいて形成される。これは、第1のゾーンが鼻セグメント、即ち製造される眼鏡レンズのこめかみ側リムよりも鼻側リムの近くにあるセグメントと、こめかみセグメント、即ち製造される眼鏡レンズの鼻側リムよりもこめかみ側リムの近くにあるセグメントと、鼻セグメントとこめかみセグメントとの間に配置された中央セグメントとを含むように第2のゾーンを設計又は形成することにより達成し得る。この場合、第1のゾーンの曲率は、中央セグメントに対する鼻セグメント及び/又はこめかみセグメントの下方シフトにより達成し得る。そのような曲率は、テキストを読んでいる間、視方向が垂直に変化する場合の眼の上下移動に対応する。その結果、本発明の第1のゾーンの形状は、テキストを読んでいるとき、眼の移動に良好に適合する。
【0081】
本発明の方法により設計又は製造された本発明による眼鏡レンズにおいて、第1のゾーンは、好ましくは、眼の異常屈折を矯正する処方に基づく第1の屈折力を有するクリアエリアを表す。第2のゾーンは、拡散器、即ち正の追加度数を第1のゾーンに存在する焦点屈折力に追加することによって得られる焦点屈折力を各々有する焦点構造に起因して、近視デフォーカスを提供するゾーンを表す。本発明の方法により設計又は製造された眼鏡レンズにおいて、第1のゾーンの幅が第1のゾーンの高さの少なくとも4倍である場合、装用者は、第1のゾーンの高さが低い場合でも、眼鏡レンズを用いて読む場合、行中の複数の文字をクリアに見ることができる。特に、幅が高さの少なくとも6倍である場合、更に長い言葉を全体としてクリアに見ることができる。このように設計された眼鏡レンズを用いれば、そのような眼鏡レンズの装用者は、上記の眼鏡レンズ設計に基づく眼鏡レンズの装用者が、汚く見える眼鏡レンズのゾーンによって邪魔されることがないか、又は邪魔があったとしてもその程度が少なくとも低い。したがって、本発明による方法により製造された近視低減眼鏡レンズの装用の不快さは、近視進行制御機能が維持されながら、技術的現状による近視低減眼鏡レンズよりも低い。
【0082】
第2のゾーンは、少なくとも部分的に囲む第2のゾーンによって画定される第1のゾーンが、眼鏡レンズが装用時位置に従って配置されるとき、0.8~1.5度の垂直視角をカバーするような寸法を有するように設計又は形成し得る。特に、第2のゾーンは、少なくとも部分的に囲む第2のゾーンによって画定される第1のゾーンが1.0~1.2度、例えば1.0度又は1.2度の垂直視角をカバーするような寸法を有するように設計又は形成し得る。12ptのサイズの文字を有する典型的な文字は、概ね1.0度の垂直視角に対応するため、そのような第1のゾーンにより、本発明による方法により製造された眼鏡レンズの装用者は、テキストの行の幾つかの文字をクリアに見ることができ、それと同時に、大きい拡散器ゾーン又は近視デフォーカスを提供する大きいゾーンを近視進行制御機能のために維持することができる。
【0083】
本発明による方法の有利な発展形態において、第2のゾーンは、少なくとも部分的に囲む第2のゾーンによって画定される第1のゾーンが眼鏡レンズの幅に一致するように設計又は形成される。この場合、第2のゾーンは、第1のゾーンを上方及び下方において制限するが、鼻の方及びこめかみの方では制限しない。したがって、第1のゾーンは、第2のゾーンによって部分的にのみ囲まれ、第1のゾーンは第2のゾーンを2つの別個のサブゾーンに分割する。第1のゾーンの幅が眼鏡レンズの幅に一致する場合、第1のゾーンの所与の各高さについて前記眼鏡レンズの装用者に最大のリーディング快適性を提供することができる。この発展形態では、第1のゾーンを囲む第2のゾーンは別個のサブゾーンを有する。
【0084】
本発明による方法の更なる有利な発展形態において、第2のゾーンは、少なくとも部分的に囲む第2のゾーンによって画定される第1のゾーンの幾何中心が、リーディング時、リーディングターゲットをまっすぐ見ている間、眼鏡レンズに進入する光線束の中心光線の進入点に対して少なくとも垂直のオフセンターに配置されるように設計又は形成される。第1のゾーンは、眼鏡レンズが右眼又は左眼に使用される場合、こめかみの方にシフトされ得、且つ眼鏡レンズがそれぞれの他方の眼に使用される場合、鼻の方にシフトされ得る。眼鏡レンズが右眼に使用される場合、第1のゾーンがこめかみの方にシフトされるとき、眼鏡レンズは、左から右に読むときの眼の移動に適合される。他方、眼鏡レンズ設計が、左眼に使用される眼鏡レンズのためのものである場合、第1のゾーンがこめかみの方にシフトされるとき、眼鏡レンズは右から左に読む方向に適合される。このようにリーディング時の眼の移動に適合された眼鏡レンズ設計は、リーディング時の快適性の向上に繋がる。
【0085】
本発明の第3の態様によれば、眼鏡レンズの眼鏡レンズ設計が提供され、眼鏡レンズ設計は、
- 単焦点屈折力を提供する第1のゾーンと、
- 第1のゾーンを少なくとも部分的に囲む少なくとも1つの第2のゾーンであって、(i)第1のゾーンの焦点屈折力よりも大きい焦点屈折力を提供する焦点構造、又は(ii)少なくとも1つの第2のゾーンを通る光を拡散させる拡散構造の少なくとも1つを含む、少なくとも1つの第2のゾーンと
を含む。焦点構造の焦点屈折力は、第1のゾーンの焦点屈折力よりも少なくとも0.5dpt高い値であり得る。
【0086】
本発明の第3の態様によれば、第1のゾーンは、鼻セグメント、こめかみセグメント及び鼻セグメントとこめかみセグメントとの間に配置された中央セグメントを含み、鼻セグメント及びこめかみセグメントの少なくとも1つは、中央セグメントに対して下方にシフトされ得る。特に、鼻セグメント及びこめかみセグメントの両方は、中央セグメントに対して下方にシフトされ得る。シフトは、テキストを読んでいる間、視方向が垂直に変化するとき、眼の上下移動及び収束に対応する第1のゾーンの曲率を提供する。その結果、本発明の第1のゾーンの形状は、テキストを読む場合、眼の移動に良好に適合する。この効果は、鼻セグメント及びこめかみセグメントの両方が中央セグメントに対して下方にシフトされる場合に特に顕著である。
【0087】
本発明の第3の態様の一選択肢において、第1のゾーンの幅と高さとの比率は、以下の条件:
a)第1のゾーンの幅は、第1のゾーンの高さの少なくとも3倍であること、
b)第1のゾーンの幅は、第1のゾーンの高さの少なくとも4倍であること、
c)第1のゾーンの幅は、第1のゾーンの高さの少なくとも5倍であること
の少なくとも1つが満たされるように予め決定される。
【0088】
第1のゾーンの幅が高さを超える度合いが大きくなるほど、眼のより大きい「妨げのない」移動が可能になるとともに、眼に対して眼鏡レンズを装用することができる近さが増す。
【0089】
本発明の第3の態様の別の選択肢において、第1のゾーンの幅と高さとの比率は、以下の条件:
a)第1のゾーンの高さは、第1のゾーンの幅の少なくとも一部分に沿って均一であり、前記一部分内の第1のゾーンの均一な高さは、3mm~5mmの範囲の値であり、幅の一部分は、均一な高さの少なくとも3倍であること、
b)第1のゾーンの高さは、第1のゾーンの幅の少なくとも一部分に沿って均一であり、前記一部分内の第1のゾーンの均一な高さは、3mm~5mmの範囲の値であり、幅の一部分は、均一な高さの少なくとも4倍であること、
c)第1のゾーンの高さは、第1のゾーンの幅の少なくとも一部分に沿って均一であり、前記一部分内の第1のゾーンの均一な高さは4mm~5mmの範囲の値であり、幅の一部分は、均一な高さの少なくとも3倍であること、
d)第1のゾーンの高さは、第1のゾーンの幅の少なくとも一部分に沿って均一であり、前記一部分内の第1のゾーンの均一な高さは4mm~5mmの範囲の値であり、幅の一部分は、均一な高さの少なくとも4倍であること
の少なくとも1つが満たされるように更に指定され予め決定される。
【0090】
第1のゾーンの幅は、例えば、第1のゾーンの高さの少なくとも4倍であり得、特に第1のゾーンの高さの少なくとも6倍であり得る。更に、第1のゾーンの幅は眼鏡レンズ設計の幅に一致し得る。本発明の方法の第3の態様により設計又は製造された眼鏡レンズにおいて、第1のゾーンの幅が第1のゾーンの高さの少なくとも4倍である場合、装用者は、第1のゾーンの高さが低い場合でも、本眼鏡レンズを用いて読む場合、行中の複数の文字をクリアに見ることができる。特に、幅が高さの少なくとも6倍であるか、又は眼鏡レンズ設計の幅に一致さえする場合、更に長い言葉を全体としてクリアに見ることもできる。このように設計された眼鏡レンズを用いれば、そのような眼鏡レンズの装用者は、汚く見える眼鏡レンズのゾーンによって邪魔されることがないか、又は邪魔があったとしてもその程度が少なくとも低い。したがって、本発明による方法により製造された近視低減眼鏡レンズの装用の不快さは、近視進行制御機能が維持されながら、技術的現状による近視低減眼鏡レンズよりも低い。
【0091】
本発明の第3の態様によれば、以下の種類のデータの少なくとも1つの種類を含むデータセットも提供される:(i)本発明の第3の態様による眼鏡レンズ設計の数値表現、及び(ii)本発明の第3の態様による眼鏡レンズ設計に従って眼鏡レンズを生成するように1つ又は複数の製造機械を制御するためのコンピュータ可読命令を含むデータ。そのようなデータセットは、眼鏡レンズ設計に基づいて眼鏡レンズを製造するコンピュータ数値制御製造プロセスに使用することができる。
【0092】
本発明の第3の態様によれば、以下の種類のデータの少なくとも1つの種類を搬送するデータ搬送信号も提供される:(i)本発明の第3の態様による眼鏡レンズ設計の数値表現、及び(ii)本発明の第3の態様による眼鏡レンズ設計に従って眼鏡レンズを生成するように1つ又は複数の製造機械を制御するためのコンピュータ可読命令を含むデータ。そのようなデータ搬送信号は、例えば、ネットワークを介してクラウドサーバにより提供し得、眼鏡レンズ設計に基づいて眼鏡レンズを製造するコンピュータ数値制御製造プロセスで使用することができる。
【0093】
本発明の第4の態様によれば、眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法及び眼鏡レンズを製造する方法が提供される。
【0094】
眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法は、単焦点屈折力を有する眼鏡レンズの数値表現を提供するステップと、眼鏡レンズの前記数値表現において、(i)第1のゾーンの焦点屈折力よりも大きい焦点屈折力を提供する焦点構造、又は(ii)光を拡散させる拡散構造の少なくとも1つを有するゾーンを設計するステップであって、前記ゾーンは、眼鏡レンズの提供された数値表現の焦点屈折力を有する第1のゾーンを、それを少なくとも部分的に囲むことによって画定する第2のゾーンを形成するように設計される、ステップとを含む。第2のゾーンは、第1のゾーンが鼻セグメント、こめかみセグメント及び鼻セグメントとこめかみセグメントとの間に配置された中央セグメントを含むように設計され、鼻セグメント及びこめかみセグメントの少なくとも1つは、中央セグメントに対して下方にシフトされる。特に、第2のゾーンは、鼻セグメント及びこめかみセグメントの両方が中央セグメントに対して下方にシフトされるように設計し得る。
【0095】
眼鏡レンズを製造する方法は、単焦点屈折力を有する眼鏡レンズのステップと、前記眼鏡レンズのゾーンにおいて、(i)第1のゾーンの焦点屈折力よりも大きい焦点屈折力を提供する焦点構造、又は(ii)光を拡散させる拡散構造の少なくとも1つを形成するステップであって、前記ゾーンは、提供された眼鏡レンズの焦点屈折力を有する第1のゾーンを、それを少なくとも部分的に囲むことによって画定する第2のゾーンとして形成される、ステップとを含む。第2のゾーンは、第1のゾーンが鼻セグメント、こめかみセグメント及び鼻セグメントとこめかみセグメントとの間に配置された中央セグメントを含むように形成され、鼻セグメント及びこめかみセグメントの少なくとも1つは、中央セグメントに対して下方にシフトされる。特に、第2のゾーンは、鼻セグメント及びこめかみセグメントの両方が中央セグメントに対して下方にシフトされるように形成し得る。
【0096】
鼻セグメント及び/又はこめかみセグメントのシフトは、テキストを読んでいる間、視方向が垂直に変化する場合、眼の上下移動及び収束に対応する第1のゾーンの曲率を提供する。その結果、本発明の第1のゾーンの形状は、テキストを読む場合、眼の移動に良好に適合する。この効果は、鼻セグメント及びこめかみセグメントの両方が中央セグメントに対して下方にシフトされる場合に特に顕著である。
【0097】
眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法及び眼鏡レンズを製造する方法において、第2のゾーンは、少なくとも部分的に囲む第2のゾーンによって画定される第1のゾーンが、設計された眼鏡レンズが装用時位置に従って配置されるとき、0.8~1.5度の垂直視角をカバーするような寸法を有するように設計又は形成し得る。特に、第2のゾーンは、少なくとも部分的に囲む第2のゾーンによって画定される第1のゾーンが1.0~1.2度、例えば1.0度又は1.2度の垂直視角をカバーするような寸法を有するように設計又は形成し得る。12ptのサイズの文字を有する典型的な文字は、概ね1.0度の垂直視角に対応するため、そのような第1のゾーンにより、装用者は、テキストの行の幾つかの文字をクリアに見ることができ、それと同時に、大きい拡散器ゾーン又は近視デフォーカスを提供する大きいゾーンを近視進行制御機能のために維持することができる。
【0098】
更に、眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法及び眼鏡レンズを製造する方法において、第2のゾーンは、第1のゾーンの幅が眼鏡レンズ設計の幅に一致するように設計又は形成し得る。第1のゾーンの幅が眼鏡レンズの幅に一致する場合、第1のゾーンの所与の各高さについて前記眼鏡レンズの装用者に最大のリーディング快適性を提供することができる。
【0099】
更に、眼鏡レンズを設計するコンピュータ実施方法及び眼鏡レンズを製造する方法において、第2のゾーンは、第1のゾーンの幾何中心が、リーディング時、リーディングターゲットをまっすぐ見ている間、眼鏡レンズに進入する光線束の中心光線の進入点に対して少なくとも垂直のオフセンターに配置され、及び設計された眼鏡レンズが右眼又は左眼に使用される場合、こめかみの方にシフトされ、且つ設計された眼鏡レンズがそれぞれの他方の眼に使用される場合、鼻の方にシフトされるように設計し得る。眼鏡レンズが右眼に使用される場合、第1のゾーンがこめかみの方にシフトされるとき、眼鏡レンズは、左から右に読むときの眼の移動に適合される。他方、眼鏡レンズ設計が、左眼に使用される眼鏡レンズのためのものである場合、第1のゾーンがこめかみの方にシフトされるとき、眼鏡レンズは右から左に読む方向に適合される。このようにリーディング時の眼の移動に適合された眼鏡レンズ設計は、リーディング時の快適性の向上に繋がる。
【0100】
第3の態様による眼鏡レンズ設計の更なる発展形態は、本発明の第1の態様による眼鏡レンズ設計の更なる発展形態と同じであり得る。
【0101】
本発明の更なる特徴、特性及び利点は、添付図面と併せて本発明の例示的な実施形態の以下の説明から明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1】眼鏡レンズの幅に一致する幅を有する第1のゾーンを有する眼鏡の例示的な一実施形態を示す。
図2】楕円形であり、第1のゾーンの高さの少なくとも4倍である幅を有する第1のゾーンを有する眼鏡の例示的な一実施形態を示す。
図3】楕円形であり、第1のゾーンの高さの少なくとも4倍である幅を有する第1のゾーンを有する眼鏡の別の例示的な一実施形態を示す。
図4】眼鏡レンズの幅に一致する幅を有する第1のゾーンを有する眼鏡の別の例示的な実施形態を示す。
図5】眼鏡レンズの幅に一致する幅を有する第1のゾーンを有する眼鏡の更に別の例示的な実施形態を示す。
図6】眼鏡レンズの幅に一致する幅を有する第1のゾーンを有する眼鏡の更に別の例示的な実施形態を示す。
図7】眼鏡レンズを製造する方法の例示的な一実施形態を表すフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0103】
本発明によるレンズ設計に基づく眼鏡レンズの例示的な実施形態について図1図6に関連して説明する。例示的な実施形態の眼鏡レンズは、第1のゾーンと、第1のゾーンを少なくとも部分的に囲む第2のゾーンとをそれぞれ含む。第1のゾーンは、リーディング時、装用者の収束視線を辿るように湾曲される。
【0104】
代替の実施形態では、第1のゾーンの幅は、第1のゾーンの高さの少なくとも4倍であるが、幾つかの例示的な実施形態では、第1のゾーンは眼鏡レンズの全幅に及び、即ち眼鏡レンズのこめかみ側リムから眼鏡レンズの鼻側リムに及ぶ。第1のゾーンが眼鏡レンズの全幅に及ぶこれらの例示的な実施形態では、第2のゾーンは、第1のゾーンを部分的にのみ囲み、第1のゾーンにより2つの別個のサブゾーンに分割される。例示的な実施形態は、第1のゾーンがオフセンターに配置されるような眼鏡レンズ及び第1のゾーンが湾曲されるような眼鏡レンズも含む。しかしながら、例示的な実施形態に記載の第1のゾーンの場所及びジオメトリは排他的ではない。各第1のゾーンの高さの少なくとも4倍の幅を有する第1のゾーンに可能な更なる場所及びジオメトリを当業者ならば考案するであろう。
【0105】
本発明による眼鏡レンズ設計の第1の例示的な実施形態について図1に関連して説明し、図1は、本発明による眼鏡レンズ設計の第1の例示的な実施形態により製造された眼鏡レンズ2を有する眼鏡1を平面図で示す。眼鏡レンズ2は、第1の例示的な実施形態の眼鏡レンズ設計の代表と見なすことができる。
【0106】
例示的な本実施形態では、眼鏡1は、装用者の右眼に1枚、左眼に1枚という2枚の単視眼鏡レンズ2を備える。2枚の眼鏡レンズ2は眼鏡フレーム3に取り付けられ、眼鏡フレーム3のブリッジ7によって隔てられる。近視装用者に起因して、眼鏡レンズ2は装用者の処方に従って完全矯正を提供するように設計される。したがって、眼鏡レンズ2はマイナスレンズである。
【0107】
各眼鏡レンズ2は、物体を見るためのクリアゾーンに類似する第1のゾーン4を含む。換言すれば、第1のゾーン4は、装用者の眼の網膜の中心窩ゾーンにクリアな像を提供する。
【0108】
この第1のゾーン4は、眼鏡レンズ2の全幅に及び、即ち垂直方向において全寸法dに及び、垂直方向において第2のゾーンによって囲まれ、第2のゾーンは、例示的な本実施形態では、第1のゾーン4により互いから隔てられた2つのサブゾーンであるゾーン5a、5bからなる。サブゾーンであるゾーン5a、5bは散乱光学特性を提供する。したがって、例示的な本実施形態の第2のゾーン、即ちそのサブゾーン5a、5bは、2つの拡散器サブゾーンを有する拡散器ゾーンを形成する。第2のゾーンのサブゾーン5a、5bはストライブ形であり、複数のドット形散乱中心6を備える。物理学における散乱は、一般に、別の局部物体、即ち散乱中心との相互作用を通した物体の偏向を意味するものと理解される。本事例では、散乱は、所定の集束又は複数の所定の集束に繋がらないが、クリアな第1のゾーン4を通して見る場合と比較してコントラスト低減を装用者に提供する入力光の非指向性の任意の偏向を意味するものとする。
【0109】
例示的な本実施形態では、第1のゾーン4の高さは、第2のゾーンのサブゾーン5aと5bとの間の垂直距離により与えられ、眼鏡レンズ2が専用装用時位置に従って装用される場合、約1.2度の垂直視角を可能にするように選択される。そのような視角は、12ptの文字をクリアに見られるようにする。第1のゾーン4は眼鏡レンズ2の全幅に及ぶことに起因して、行中の文字のクリアな視覚は第2のゾーンによって妨げられず、リーディング時、例えば、国際公開第2010/075319A2号パンフレット、国際公開第2018/026697A1号パンフレット、国際公開第2019/152438A1号パンフレット及び国際公開第2020/014613A1号パンフレットにそれぞれ記載のように円形ゾーンのクリア視覚を有する技術的現況の眼鏡レンズと比較して快適性を上げる。
【0110】
第1のゾーン4は、鼻セグメント4a、即ち眼鏡レンズの鼻側リム8に向かって配置されるセグメント、こめかみセグメント4b、即ち眼鏡レンズのこめかみ側リム9に向かって配置されるセグメント、鼻セグメント4aとこめかみセグメント4bとの間に配置された中央セグメント4cを含む。第1のゾーン4は、鼻セグメント4a及びこめかみセグメント4bが中央セグメント4cに対して下方にシフトされるように湾曲される。第1のゾーン4の曲率は、装用者が装用者の網膜からリーディング距離における、装用者の前方の平面に本を保持し、本の行を読むときに眼を左から右に動かす場合、近距離で本を読むときの装用者の視線に適合される。湾曲した第1のゾーン4を用いることで、第1のゾーンの高さが、12ptのサイズの文字を読めるようにするだけの垂直視角のみを可能にする場合でも、第2のゾーン5aにより誘導される拡散に起因して、行を読むとき、眼の移動中、現在読んでいる行の一部分のコントラストが低下することを回避することができる。
【0111】
本発明による眼鏡レンズ設計の第2の例示的な実施形態について図2に関連して説明し、図2は、本発明による眼鏡レンズ設計の第2の例示的な実施形態により製造された眼鏡レンズ12を有する眼鏡11を平面図で示す。眼鏡レンズ12は、第2の例示的な実施形態の眼鏡レンズ設計の代表と見なすことができる。
【0112】
例示的な本実施形態では、眼鏡11は、装用者の右眼に1枚、左眼に1枚という2枚の単視眼鏡レンズ12を備える。2枚の眼鏡レンズ12は眼鏡フレーム13に取り付けられ、眼鏡フレーム13のブリッジ17によって隔てられる。近視装用者に起因して、眼鏡レンズ12は装用者の処方と比較して矯正不足を提供するように設計される。したがって、眼鏡レンズ12はゼロ又はマイナスレンズであり得る。
【0113】
各眼鏡レンズ12は、物体を見るためのクリアゾーンに類似する第1のゾーン14を含む。換言すれば、第1のゾーン14は、装用者の眼の網膜の中心窩ゾーンにクリアな像を提供する。この第1のゾーンは第2のゾーン15によって囲まれ、第2のゾーン15は、第1の例示的な実施形態における第2のゾーンのサブゾーン5a、5bのように、散乱光学特性を提供し、したがって拡散器ゾーンとして見ることができる。第2のゾーン5は、複数のドット形散乱中心16を備え、第1のゾーン14を完全に囲み、したがって、第1のゾーン14は、第2のゾーン15におけるアパーチャとして見ることができる。
【0114】
第1のゾーン14を囲むことにより、第2のゾーン15は、第1のゾーン14の形状及び広がりを画定する。例示的な本実施形態では、第1のゾーン14は、楕円形を有し、幅、即ち水平方向における寸法dは、高さを超える、即ち垂直方向における寸法dの4倍である。第1のゾーン14の高さは、眼鏡レンズ12が専用装用時位置に従って装用される場合、約1.2度の垂直視角、即ち12ptのサイズの文字のクリアな視覚を可能にする視角を可能にするように選択される。第1のゾーンの幅は、眼を動かさずに、第1のゾーン14を通して短い長さから中程度の長さの言葉をクリアに見られるようにする約4.8度の水平視角を提供し、それにより、例えば、国際公開第2010/075319A2号パンフレット、国際公開第2018/026697A1号パンフレット、国際公開第2019/152438A1号パンフレット及び国際公開第2020/014613A1号パンフレットにそれぞれ記載のように円形クリアゾーンを有する技術的現況の眼鏡レンズと比較してリーディング時の快適性を上げる。
【0115】
第1のゾーン14は、鼻セグメント14a、即ち眼鏡レンズの鼻側リム18に向かって配置されるセグメント、こめかみセグメント14b、即ち眼鏡レンズのこめかみ側リム19に向かって配置されるセグメント、鼻セグメント14aとこめかみセグメント14bとの間に配置された中央セグメント14cを含む。第1のゾーン14は、鼻セグメント14a及びこめかみセグメント14bが中央セグメント14cに対して下方にシフトされるように湾曲される。第1のゾーン14の曲率は、装用者が装用者の網膜からリーディング距離における、装用者の前方の平面に本を保持し、本の行を読むときに眼を左から右に動かす場合、近距離で本を読むときの装用者の視線に適合される。湾曲した第1のゾーン14を用いることで、第1のゾーンの高さが、12ptのサイズの文字を読めるようにするだけの垂直視角のみを可能にする場合でも、第2のゾーン15aにより誘導される拡散に起因して、行を読むとき、眼の移動中、現在読んでいる行の一部分のコントラストが低下することを回避することができる。
【0116】
本発明による眼鏡レンズ設計の第3の例示的な実施形態について図3に関連して説明し、図3は、本発明による眼鏡レンズ設計の第3の例示的な実施形態により製造された眼鏡レンズ22を有する眼鏡21を平面図で示す。眼鏡レンズ22は、第3の例示的な実施形態の眼鏡レンズ設計の代表と見なすことができる。
【0117】
例示的な本実施形態では、眼鏡21は、装用者の右眼に1枚、左眼に1枚という2枚の単視眼鏡レンズ22を備える。2枚の眼鏡レンズ22は眼鏡フレーム23に取り付けられ、眼鏡フレーム23のブリッジ27によって隔てられる。近視装用者に起因して、眼鏡レンズ22は装用者の処方に従って完全矯正を提供するように設計される。したがって、眼鏡レンズ22はマイナスレンズであり得る。
【0118】
各眼鏡レンズ22は、物体を見るためのクリアゾーンに類似する第1のゾーン24を含む。換言すれば、第1のゾーン24は、装用者の眼の網膜の中心窩ゾーンにクリアな像を提供する。この第1のゾーンは第2のゾーン25によって完全に囲まれ、第2のゾーン25は、第1のゾーン24を通してまっすぐ前を見ている人に周辺近視デフォーカスを提供する。周辺近視デフォーカスは、各々が追加の焦点屈折力を眼鏡レンズ22の焦点屈折力に追加する複数のマイクロレンズ26を使用することによって達成される。追加度数は、眼鏡レンズ22が専用装用時位置に従って使用される場合、装用者の中心窩の前方に鮮鋭像が形成されるように選択される。
【0119】
例示的な本実施形態では、マイクロレンズ26は2本の概念的な同心楕円形線に沿って分布する。最小寸法を有する楕円形線に沿って分布するマイクロレンズ26は、第1のゾーン24を形成する楕円形のクリアアパーチャを囲む。したがって、第1のゾーン、特にその形状及びサイズは第2のゾーンによって画定される。なお、図3では、楕円形線は、楕円形線に沿ったマイクロレンズ26の分布を示すためにのみ示されており、楕円形線は眼鏡レンズ22に物理的に存在しない。
【0120】
例示的な本実施形態では、楕円形の第1のゾーン24は、その高さを超える、即ち垂直方向における寸法dの4倍の幅、即ち水平方向における寸法dを有する。第1のゾーン24の高さは、約1.0度の垂直視角を可能にするように選択される。眼鏡レンズ2が専用装用時位置に従って装用される場合、そのような視角はなお、12ptのサイズの文字のクリアな視覚を可能にする。第1のゾーンの幅は、眼を動かさずに、第1のゾーン24を通して少なくとも短い言葉をクリアに見られるようにする約4度の水平視角を提供し、それにより、例えば、国際公開第2010/075319A2号パンフレット、国際公開第2018/026697A1号パンフレット、国際公開第2019/152438A1号パンフレット及び国際公開第2020/014613A1号パンフレットにそれぞれ記載のように円形クリアゾーンを有する技術的現況の眼鏡レンズと比較してリーディング時の快適性を上げる。
【0121】
更に、例示的な本実施形態では、第1及び第2のゾーン24、25は、右眼鏡レンズ、即ち右眼のための眼鏡レンズでは眼鏡レンズ22のこめかみ側リムに向かってシフトされ、左眼鏡レンズ22、即ち左眼のための眼鏡レンズでは眼鏡レンズ22の鼻側リムに向かってシフトされる。なお、図は、装用者が眼鏡レンズを通して見るような眼鏡レンズを示す。したがって、全図で右眼の眼鏡レンズは右側に示されており、左眼の眼鏡レンズは左側に示されている。上述したように第1のゾーン24をシフトすることにより、第1のゾーン24は、テキストを左から右に読むためにリーディング方向にシフトする。眼鏡レンズが、リーディング方向が右から左である国々に向けて設計される場合、第1及び第2のゾーン24、25は、右眼鏡レンズでは眼鏡レンズ22の鼻側リムに向かってシフトされ、左眼鏡レンズ22では眼鏡レンズ22のこめかみ側リムに向かってシフトされることになる。第1及び第2のゾーン24、25のシフトはリーディングの快適さを改善する。第1及び第2のゾーンは例示的な本実施形態ではシフトされているが、特に第2のゾーンが第1のゾーン外の眼鏡レンズの相当量又は全体に及ぶ場合、第1のゾーンのみをシフトさせることが可能であることに留意されたい。
【0122】
第1のゾーン24は、鼻セグメント24a、即ち眼鏡レンズの鼻側リム28に向かって配置されるセグメント、こめかみセグメント24b、即ち眼鏡レンズのこめかみ側リム29に向かって配置されるセグメント、鼻セグメント24aとこめかみセグメント24bとの間に配置された中央セグメント24cを含む。第1のゾーン24は、鼻セグメント24a及びこめかみセグメント24bが中央セグメント24cに対して下方にシフトされるように湾曲される。第1のゾーン24の曲率は、装用者が装用者の網膜からリーディング距離における、装用者の前方の平面に本を保持し、本の行を読むときに眼を左から右に動かす場合、近距離で本を読むときの装用者の視線に適合される。湾曲した第1のゾーン24を用いることで、第1のゾーンの高さが、12ptのサイズの文字を読めるようにするだけの垂直視角のみを可能にする場合でも、第2のゾーン25aにより誘導される拡散に起因して、行を読むとき、眼の移動中、現在読んでいる行の一部分のコントラストが低下することを回避することができる。
【0123】
本発明による眼鏡レンズ設計の第4の例示的な実施形態について図4に関連して説明し、図4は、本発明による眼鏡レンズ設計の第4の例示的な実施形態により製造された眼鏡レンズ32を有する眼鏡31を平面図で示す。眼鏡レンズ32は、第4の例示的な実施形態の眼鏡レンズ設計の代表と見なすことができる。
【0124】
例示的な本実施形態では、眼鏡31は、装用者の右眼に1枚、左眼に1枚という2枚の単視眼鏡レンズ32を備える。2枚の眼鏡レンズ32は眼鏡フレーム33に取り付けられ、眼鏡フレーム33のブリッジ37によって隔てられる。近視装用者に起因して、眼鏡レンズ32は装用者の処方と比較して矯正不足を提供するように設計される。したがって、眼鏡レンズ32は、マイナスレンズである。
【0125】
本実施形態例は第1の例示的な実施形態と同様である。各眼鏡レンズ32は、物体を見るためのクリアゾーンに類似する第1のゾーン34を含む。換言すれば、第1のゾーン34は、装用者の眼の網膜の中心窩ゾーンにクリアな像を提供する。第1の例示的な実施形態でのように、例示的な本実施形態の第1のゾーン34は眼鏡レンズ32の全幅に及び、即ち垂直方向における全寸法dに及び、垂直方向において第2のゾーンによって囲まれ、第2のゾーンは、第1のゾーン34により互いから隔てられる2つのサブゾーンであるゾーン35a、35bからなる。サブゾーンであるゾーン35a、35bは散乱光学特性を提供する。したがって、例示的な本実施形態の第2のゾーン、即ちサブゾーン5a、5bは、2つの拡散器サブゾーンを有する拡散器ゾーンを形成する。第1の例示的な実施形態でのように、第2のゾーンのサブゾーン35a、35bはストライブ形である。しかしながら、第1の例示的な実施形態と異なり、サブゾーン35a、35bは複数のドット形散乱中心を含まず、複数の線形散乱中心36を含む。
【0126】
例示的な本実施形態では、第1のゾーン34の高さは、第2のゾーンのサブゾーン35aと35bとの間の垂直距離により与えられ、眼鏡レンズ2が専用装用時位置に従って装用される場合、約1.2度の垂直視角を可能にするように選択される。そのような視角は、12ptの文字をクリアに見られるようにする。第1のゾーン14は眼鏡レンズ2の全幅に及ぶことに起因して、行中の文字のクリアな視覚は第2のゾーンによって妨げられず、リーディング時、例えば、国際公開第2010/075319A2号パンフレット、国際公開第2018/026697A1号パンフレット、国際公開第2019/152438A1号パンフレット及び国際公開第2020/014613A1号パンフレットにそれぞれ記載のように円形ゾーンのクリア視覚を有する技術的現況の眼鏡レンズと比較して快適性を上げる。
【0127】
第1のゾーン34は、鼻セグメント34a、即ち眼鏡レンズの鼻側リム38に向かって配置されるセグメント、こめかみセグメント34b、即ち眼鏡レンズのこめかみ側リム39に向かって配置されるセグメント、鼻セグメント34aとこめかみセグメント34bとの間に配置された中央セグメント34cを含む。第1のゾーン34は、鼻セグメント34a及びこめかみセグメント34bが中央セグメント34cに対して下方にシフトされるように湾曲される。第1のゾーン34の曲率は、装用者が装用者の網膜からリーディング距離における、装用者の前方の平面に本を保持し、本の行を読むときに眼を左から右に動かす場合、近距離で本を読むときの装用者の視線に適合される。湾曲した第1のゾーン34を用いることで、第1のゾーンの高さが、12ptのサイズの文字を読めるようにするだけの垂直視角のみを可能にする場合でも、第2のゾーン35aにより誘導される拡散に起因して、行を読むとき、眼の移動中、現在読んでいる行の一部分のコントラストが低下することを回避することができる。
【0128】
本発明による眼鏡レンズ設計の第5の例示的な実施形態について図5に関連して説明し、図5は、本発明による眼鏡レンズ設計の第5の例示的な実施形態により製造された眼鏡レンズ42を有する眼鏡41を平面図で示す。眼鏡レンズ42は、第5の例示的な実施形態の眼鏡レンズ設計の代表と見なすことができる。
【0129】
例示的な本実施形態では、眼鏡41は、装用者の右眼に1枚、左眼に1枚という2枚の単視眼鏡レンズ42を備える。2枚の眼鏡レンズ42は眼鏡フレーム43に取り付けられ、眼鏡フレーム43のブリッジ47によって隔てられる。近視装用者に起因して、眼鏡レンズ42は装用者の処方に従った近視完全矯正を提供するように設計される。眼鏡レンズ42は、本事例では、装用者の非理想的な形の角膜に起因して幾らかの乱視矯正を含み得る。
【0130】
各眼鏡レンズ42は、物体を見るためのクリアゾーンに類似する第1のゾーン44を含む。換言すれば、第1のゾーン44は、装用者の眼の網膜の中心窩ゾーンにクリアな像を提供する。この第1のゾーン44は眼鏡レンズ42の全幅に及び、即ち垂直方向における全寸法dに及び、垂直方向において第2のゾーンによって囲まれ、第2のゾーンは、例示的な本実施形態では、第1のゾーン44により互いから隔てられる2つのサブゾーンであるゾーン45a、45bからなる。サブゾーンであるゾーン45a、45bは、第1のゾーン44を通してまっすぐ前を見ている人に周辺近視デフォーカスを提供する。周辺近視デフォーカスは、各々が追加の焦点屈折力を眼鏡レンズ42の焦点屈折力に追加する複数の線形シリンダーレンズ46を使用することによって達成される。追加度数は、眼鏡レンズ42が専用装用時位置に従って使用される場合、装用者の中心窩の前方に鮮鋭像が形成されるように選択される。
【0131】
例示的な本実施形態では、第1のゾーン44の高さは第2のゾーンのサブゾーン45aと45bとの間の垂直距離により与えられ、眼鏡レンズ42が専用装用時位置に従って装用される場合、約1.2度の垂直視角を可能にするように選択される。そのような視角は、12ptの文字をクリアに見られるようにする。第1のゾーン44は眼鏡レンズ42の全幅に及ぶことに起因して、行中の文字のクリアな視覚は第2のゾーンによって妨げられず、リーディング時、例えば、国際公開第2010/075319A2号パンフレット、国際公開第2018/026697A1号パンフレット、国際公開第2019/152438A1号パンフレット及び国際公開第2020/014613A1号パンフレットにそれぞれ記載のように円形ゾーンのクリア視覚を有する技術的現況の眼鏡レンズと比較して快適性を上げる。
【0132】
第1のゾーン44は、鼻セグメント44a、即ち眼鏡レンズの鼻側リム48に向かって配置されるセグメント、こめかみセグメント44b、即ち眼鏡レンズのこめかみ側リム49に向かって配置されるセグメント、鼻セグメント44aとこめかみセグメント44bとの間に配置された中央セグメント44cを含む。第1のゾーン44は、鼻セグメント44a及びこめかみセグメント44bが中央セグメント44cに対して下方にシフトされるように湾曲される。第1のゾーン44の曲率は、装用者が装用者の網膜からリーディング距離における、装用者の前方の平面に本を保持し、本の行を読むときに眼を左から右に動かす場合、近距離で本を読むときの装用者の視線に適合される。湾曲した第1のゾーン44を用いることで、第1のゾーンの高さが、12ptのサイズの文字を読めるようにするだけの垂直視角のみを可能にする場合でも、第2のゾーン45aにより誘導される拡散に起因して、行を読むとき、眼の移動中、現在読んでいる行の一部分のコントラストが低下することを回避することができる。
【0133】
本発明による眼鏡レンズ設計の第6の例示的な実施形態について図6に関連して説明し、図6は、本発明による眼鏡レンズ設計の第6の例示的な実施形態により製造された眼鏡レンズ52を有する眼鏡51を平面図で示す。眼鏡レンズ52は、第6の例示的な実施形態の眼鏡レンズ設計の代表と見なすことができる。
【0134】
例示的な本実施形態では、眼鏡51は、装用者の右眼に1枚、左眼に1枚という2枚の単視眼鏡レンズ52を備える。2枚の眼鏡レンズ52は眼鏡フレーム53に取り付けられ、眼鏡フレーム53のブリッジ57によって隔てられる。近視装用者に起因して、眼鏡レンズ52は装用者の処方に従って完全矯正を提供するように設計される。したがって、眼鏡レンズ52はマイナスレンズであり得る。
【0135】
各眼鏡レンズ52は、物体を見るためのクリアゾーンに類似する第1のゾーン54を含む。換言すれば、第1のゾーン54は、装用者の眼の網膜の中心窩ゾーンにクリアな像を提供する。この第1のゾーン54は眼鏡レンズ52の全幅に及び、即ち垂直方向における全寸法dに及び、垂直方向において第2のゾーンによって囲まれ、第2のゾーンは、例示的な本実施形態では、第1のゾーン54により互いから隔てられる2つのサブゾーンであるゾーン55a、55bからなる。サブゾーンであるゾーン55a、55bは、散乱中心56を含み、散乱光学特性を提供する。したがって、例示的な本実施形態の第2のゾーン、即ちそのサブゾーン55a、55bは、2つの拡散器サブゾーンを有する拡散器ゾーンを形成する。第2のゾーンのサブゾーン55a、55bはストライブ形であり、複数のドット形散乱中心56を含む。
【0136】
例示的な本実施形態では、第1のゾーン54の高さは第2のゾーンのサブゾーン55aと55bとの間の垂直距離により与えられ、眼鏡レンズ52が専用装用時位置に従って装用される場合、約1.0度の垂直視角を可能にするように選択される。そのような視角は、12ptの文字をクリアに見られるようにする。第1のゾーン54は眼鏡レンズ52の全幅に及ぶことに起因して、行中の文字のクリアな視覚は第2のゾーンによって妨げられず、リーディング時、例えば、国際公開第2010/075319A2号パンフレット、国際公開第2018/026697A1号パンフレット、国際公開第2019/152438A1号パンフレット及び国際公開第2020/014613A1号パンフレットにそれぞれ記載のように円形ゾーンのクリア視覚を有する技術的現況の眼鏡レンズと比較して快適性を上げる。
【0137】
第6の例示的な実施形態では、第1のゾーン54は、鼻セグメント54a、即ち眼鏡レンズの鼻側リム58に向かって配置されるセグメント、こめかみセグメント54b、即ち眼鏡レンズのこめかみ側リム59に向かって配置されるセグメント、鼻セグメント54aとこめかみセグメント54bとの間に配置された中央セグメント54cを含む。第1のゾーン54は、鼻セグメント54a及びこめかみセグメント54bが中央セグメント54cに対して下方にシフトされるように湾曲される。第1のゾーン54の曲率は、装用者が装用者の網膜からリーディング距離における、装用者の前方の平面に本を保持し、本の行を読むときに眼を左から右に動かす場合、近距離で本を読むときの装用者の視線に適合される。湾曲した第1のゾーン54を用いることで、第1のゾーンの高さが、12ptのサイズの文字を読めるようにするだけの垂直視角のみを可能にする場合でも、第2のゾーン55aにより誘導される拡散に起因して、行を読むとき、眼の移動中、現在読んでいる行の一部分のコントラストが低下することを回避することができる。第2のゾーン55における散乱中心に起因してコントラスト低減を提供する湾曲した第1のゾーン54が第2のゾーン55と併せて記載されたが、周辺近視デフォーカスを提供する第2のゾーンと併せて使用することも同様に可能である。次に、本発明によるレンズ設計を有する眼鏡レンズを製造する方法の例示的な一実施形態について図7に関連して説明する。
【0138】
第1のステップS1において、処方からのデータが受信され、処方は、診断された屈折誤差を矯正するために必要なジオプトリ度数のサマリを含む。近視眼の場合、処方は少なくとも1つの球面度数の値「sph」を含む。加えて、乱視が追加される場合、円柱度数の値「cyl」及び円柱軸の値「axis」を含むこともできる。例えばプリズム値のような更なる値が処方に存在することもある。第2のゾーンが周辺近視デフォーカスを提供するものである場合、処方は、周辺近視デフォーカスの提供に使用される追加度数の値も含む。しかしながら、例示的な本実施形態では、拡散器ゾーンが第2のゾーンに提供される。
【0139】
例示的な本実施形態では、処方に含まれる値は、患者に対して検眼士によって実行される測定に基づき、測定は患者の眼に関連する屈折データを提供する。屈折データは、客観的な屈折データ、即ち屈折計等により客観的に測定される屈折データ又は主観的屈折データの何れかを含み得る。主観的屈折データの場合、このデータは、患者が満足のいく視力を経験するまで、種々のテストレンズを試しながら、異なるサイズのテキスト又は視力表を患者に見させることによって収集し得る。
【0140】
しかしながら、処方の値の代わりに、他の適した値の形態、例えばゼルニケ係数の形態で測定データを提供することが可能でもある。加えて、屈折計又は任意の他の適した測定装置から直接、客観的な屈折データを表す値を受信することが可能でもある。
【0141】
ステップS1において受信された測定データに基づいて、装用者が装用時位置に従って装用された眼鏡レンズを通して見た場合、結像を中心窩上に提供する(順応により支援されて)焦点屈折力を有する単視眼鏡レンズが、ステップS2において、適したプロセスにより生成される。適したプロセスは、例えば、成形プロセス又は機械加工プロセスであり得る。機械加工プロセスが使用される場合、単視レンズは、例えば、半完成ブランクから製造することができ、半完成ブランクは既に完成した前面を含む。次いで、半完成ブランクの後面は、半完成ブランクが、要求される焦点屈折力を有する単視眼鏡レンズになるように機械加工される。
【0142】
ステップS3において、散乱中心が単視眼鏡レンズの拡散器ゾーンになるゾーン、即ち第2のゾーンに導入される。これは、適した方法により、例えば単視眼鏡レンズの後面におけるレーザ生成の点形若しくは線形窪みにより又はドーピングプロセスにより行うことができる。散乱中心は、第2のゾーンが少なくとも部分的に、散乱中心のないゾーンを囲むように単視眼鏡レンズに導入される。したがって、散乱中心のないゾーンは、中心窩上に結像を提供する焦点屈折力を有するクリア視覚を可能にし、第1のゾーンを形成する。換言すれば、第1のゾーンの形状及びサイズは、幾つかの場合、眼鏡レンズのリムと併せて、第2のゾーンによって画定される。第2のゾーンが第1のゾーンを完全に囲む場合、第1のゾーンの高さ及び幅は第2のゾーンによって画定される。他方、第2のゾーンが第1のゾーンを垂直にのみ囲む場合、第1のゾーンの高さは、第2のゾーンによって画定され、一方、その幅は眼鏡レンズの幅によって与えられる。更に、第1のゾーンが3方向において第2のゾーンにより制限され、第4の方向において眼鏡レンズのリムによって制限されるように、第2のゾーンが第1のゾーンの上方、下方及び鼻側又は上方、下方及びこめかみ側を囲む場合もあり得る。しかしながら、全ての場合において、第1のゾーンは、第2のゾーンが第1のゾーンを完全に囲むか、それとも部分的に囲むかに関係なく、眼鏡レンズの限界内で第2のゾーンによって画定されるものとして見ることができる。
【0143】
散乱中心は、眼鏡レンズが専用装用位置に従って配置される場合、アパーチャが、0.8~1.5度の垂直視角、特に1.0~1.2度、例えば1.0度又は1.2度の垂直視角をカバーするような高さを有するように導入される。更に、散乱中心は、アパーチャが高さの少なくとも4倍の幅を有するように導入される。散乱中心は、アパーチャを360度囲むか、又はアパーチャが眼鏡レンズの鼻側リム及びこめかみ側リムの少なくとも一方に延びるように導入され得る。
【0144】
第2のゾーンが散乱中心の代わりに集束構造を備え、装用者が第1のゾーンを通して見る場合、集束構造が周辺近視デフォーカスを提供する場合、代替のステップS3が使用される。この代替のステップS3において、金型が単視眼鏡レンズの後面にセットされ、金型の成形面は、製造すべき焦点構造のネガ形を表す。金型が単視眼鏡レンズの後面にセットされて、集束構造は、射出成形又は任意の他の適した成形プロセスにより後面に形成される。成形プロセス後、成形プロセスから残っているあらゆるリッジを除去する研磨プロセスが続き得る。しかしながら、焦点構造を単視眼鏡レンズの後面に適用することは、成形プロセスによって行われる必要はない。例えば、オレイン酸膨張又はインクジェットプリントのような付加製造プロセス等の他のプロセスを使用し得る。例示的な本実施形態では、焦点構造は、後面に形成されるが、同様に単視眼鏡レンズの前面に形成され得る。
【0145】
ステップS3において第2のゾーンを形成した後、即ち散乱中心又は焦点構造を提供した後、眼鏡レンズが完成する。
【0146】
本発明を示すために、本発明の概念を例示的な実施形態に関連して説明した。しかしながら、本発明の概念が例示的な実施形態の変形形態により実施可能なことを当業者であれば認識する。例えば、焦点構造の数及び形状は、例示的な実施形態で記載されるものと異なり得る。更に、当業者であれば、集束構造を提供するために他の製造技法を考案することができる。例えば、焦点構造を眼鏡レンズの前面又は後面に形成する代わりに、眼鏡レンズの残りの部分の屈折率と異なる屈折率を有するゾーンを眼鏡レンズに提供することも同様に可能である。そのようなゾーンの提供は、例えば、ドーピングプロセスにより行うことができる。その結果、焦点構造は、眼鏡レンズの表面上ではなく、眼鏡レンズ内に存在する。したがって、本発明は、例示的な実施形態によって限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7