(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】球状結晶質シリカ粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240919BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20240919BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240919BHJP
C08K 7/18 20060101ALI20240919BHJP
C08K 9/00 20060101ALI20240919BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
C01B33/12 B
C08K3/36
C08K7/18
C08K9/00
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2023542450
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2022031305
(87)【国際公開番号】W WO2023022215
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2021134709
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓司
(72)【発明者】
【氏名】深澤 元晴
(72)【発明者】
【氏名】岡部 拓人
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/195205(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/186308(WO,A1)
【文献】特開2005-231973(JP,A)
【文献】特公昭49-008638(JP,B1)
【文献】特開平04-238808(JP,A)
【文献】特開2021-178770(JP,A)
【文献】OKABAYASHI, M. et al.,Chemistry Letters,2004年12月11日,Vol.34,pp.58-59,<DOI:10.1246/cl.2005.58>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に50℃~1000℃において脱離する水分子数が10μmol/g以下であり、
粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である、球状結晶質シリカ粉末。
【請求項2】
X線回折法により測定される粉末全体の結晶化度が30~98%である、請求項1に記載の球状結晶質シリカ粉末。
【請求項3】
粉末全体の20~90質量%がα-石英結晶である、請求項1又は2に記載の球状結晶質シリカ粉末。
【請求項4】
粉末全体の0~70質量%がクリストバライト結晶である、請求項1又は2に記載の球状結晶質シリカ粉末。
【請求項5】
アルカリ土類金属元素の含有量が酸化物換算で10000μg/g未満である、請求項1又は2に記載の球状結晶質シリカ粉末。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の球状結晶質シリカ粉末と、樹脂とを含む、樹脂組成物。
【請求項7】
(i)球状非晶質シリカ粉末を加熱して球状結晶質シリカ粉末を得ること、
(ii)球状結晶質シリカ粉末を酸と接触させること、及び
(iii)(ii)によって処理された球状結晶質シリカ粉末を800~1400℃で加熱すること、を含む、球状結晶質シリカ粉末の製造方法。
【請求項8】
(i)において、球状非晶質シリカ粉末と溶媒との混合物を加熱して球状結晶質シリカ粉末を得る、請求項7に記載の球状結晶質シリカ粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状結晶質シリカ粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粉末は、樹脂の充填剤として広く用いられている。特に、球状のシリカ粉末は、樹脂に対して分散性良く高充填することができるので、半導体素子の封止材用のフィラーとして好ましく用いられている。半導体素子の封止材用のフィラーは、リフロー時の温度変化や温度サイクル試験時の温度変化等によって封止材に反りやクラック等が生じないように、熱膨張率が高いことが好ましい。しかし、球状シリカ粉末の製造方法の一つである火炎溶融法により製造された球状シリカ粉末は、非晶質であるため、熱膨張率が低い傾向にある。そこで、球状の非晶質シリカ粉末を、高温で加熱して結晶化することで、熱膨張率や熱伝導率を向上させる試みがなされている(例えば、特許文献1)。
結晶質のシリカ粉末は、圧力や温度によって異なる結晶構造をとることが知られている。結晶質シリカ粉末の結晶構造としては、例えば、α-石英、クリストバライト、トリジマイト等がある。特許文献2には、α-石英、トリジマイトおよびクリストバライトから選ばれる2種以上の結晶形を有するシリカ粉末が記載されている。
【0003】
ところで、通信分野における情報通信量の増加に伴い、電子機器や通信機器等において高周波数帯の活用が広がっている。高周波帯の適用に伴い、回路信号の伝送損失を防ぐため、誘電正接が低い材料が求められている。特許文献3では、粉末溶融法で得られた球状非晶質シリカ粉末を所定の温度及び時間で加熱処理することで誘電正接が低減された球状非晶質シリカとすることが提案されている。
【0004】
【文献】国際公開第2016/031823号
【文献】特開2005-231973号公報
【文献】特開2021-38138号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる球状結晶質シリカ粉末及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
本発明者は、球状非晶質シリカ粉末を結晶化させ、その後に酸と接触させるとともにさらに加熱処理することで、線熱膨張係数が高くかつ誘電正接がより低減された球状結晶質シリカ粉末が得られること、及び得られる球状結晶質シリカ粉末は50℃~1000℃において脱離する水分子数が10μmol/g以下であるとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1]25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に50℃~1000℃において脱離する水分子数が10μmol/g以下であり、
粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である、球状結晶質シリカ粉末。
[2]X線回折法により測定される粉末全体の結晶化度が30~98%である、[1]に記載の球状結晶質シリカ粉末。
[3]粉末全体の20~90質量%がα-石英結晶である、[1]又は[2]に記載の球状結晶質シリカ粉末。
[4]粉末全体の0~70質量%がクリストバライト結晶である、[1]から[3]のいずれかに記載の球状結晶質シリカ粉末。
[5]アルカリ土類金属元素の含有量が酸化物換算で10000μg/g未満である、[1]から[4]のいずれかに記載の球状結晶質シリカ粉末。
[6][1]から[5]のいずれかに記載の球状結晶質シリカ粉末と、樹脂とを含む、樹脂組成物。
[7](i)球状非晶質シリカ粉末を加熱して球状結晶質シリカ粉末を得ること、
(ii)球状結晶質シリカ粉末を酸と接触させること、及び
(iii)(ii)によって処理された球状結晶質シリカ粉末を800~1400℃で加熱すること、を含む、球状結晶質シリカ粉末の製造方法。
[8](i)において、球状非晶質シリカ粉末と溶媒との混合物を加熱して球状結晶質シリカ粉末を得る、[7]に記載の製造方法。
【0008】
本発明によれば、線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる球状結晶質シリカ粉末及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1-5、比較例1-1(非晶質シリカ粉末)、比較例1-3(球状クリストバライト結晶)又は参考例(粉砕石英)のシリカ粉末を含む試験片の熱機械分析(TMA)で測定した熱膨張挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において「~」の記載は、「以上以下」を意味する。例えば、「X~Y」とは、X以上Y以下を意味する。なお、本明細書において、「粉末」とは「粒子の集合体」を意味する。
【0011】
[球状結晶質シリカ粉末]
本実施形態に係る球状結晶質シリカ粉末は、25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に、50℃~1000℃において脱離する水分子数(以下、単に「脱離する水分子数」又は「H2O脱離分子数」ともいう。)が10μmol/g以下であり、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である。
「球状」とは、顕微鏡等で観察した際に、その投影図が円形に近い形状を有することを意味している。球状の粉末であるので、流動性を低下させずに樹脂中に高い含有量で充填することができる。平均円形度及びその測定方法については後述する。
「結晶質」とは、ここでは結晶化度が20%以上であることを意味している。結晶化度の測定方法については後述する。従来、球状非晶質シリカ粉末を結晶化する試みは、結晶化度を80%以上にすることで熱伝導率等を高めようとするものであった(例えば特許文献1,2)。しかしながら、驚くべきことに、脱離する水分子数が10μmol/g以下であり、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である球状結晶質シリカは、結晶化度の高低に関わらず(結晶化度が80%に満たない場合及び結晶化度が80%を超える場合のいずれにおいても)、誘電正接が低くかつ線熱膨張係数が高い樹脂成形品を与えることができることが分かった。
【0012】
「脱離する水分子数」は、Pyrolyzer GC/MSシステム(日本電子社製 ガスクロマトグラフ質量分析計(JMS-Q1500GC)とフロンティア・ラボ社製 マルチショットパイロライザー(EGA/PY-3030D)を組み合わせたもの)を用い、25℃から1000℃まで30℃/minで昇温し、得られたマスクロマトグラム(m/z=18)の50℃~1000℃範囲における面積値を測定した。脱水量が既知の標準物質で検量線を引くことで、測定した面積値から脱離する水分子数を算出した。
一実施形態において、H2O脱離分子数は、好ましくは10μmol/g未満であり、より好ましくは9μmol/g以下であり、さらに好ましくは8.8μmol/g以下であり、特に好ましくは8.5μmol/g以下である。
一実施形態において、H2O脱離分子数は、好ましくは10μmol/g未満であり、より好ましくは8μmol/g以下であり、さらに好ましくは6μmol/g以下であり、特に好ましくは4μmol/g以下である。
【0013】
脱離する水分子数を10μmol/g以下にする方法としては、球状非晶質シリカ粉末を結晶化した後に、酸と接触させるとともにさらに加熱処理する工程を行う方法が挙げられる。製造方法の詳細については後述する。
結晶化工程の温度や時間を調整することで粉末表面の水酸基量を減らし、それにより脱離する水分子数を減らすこともできるが、上記したように球状結晶質シリカ粉末は結晶化時の加熱温度等によって結晶型が変わるので、粉末表面の水酸基量を減らすために温度を高くしたり時間を長くしたりすると適切な結晶相を制御できなくなってしまう場合がある。また、樹脂成形品の誘電正接が高くなってしまうことがある。
【0014】
球状結晶質シリカ粉末は、X線回折法により測定される粉末全体の結晶化度(以下、単に「結晶化度」ともいう。)は、好ましくは30~98%であり、さらに好ましくは35~90%であり、さらに好ましくは38~85%であり、よりさらに好ましくは38~80%である。結晶化度を30~98%にすることで、線熱膨張係数が高い球状結晶質シリカ粉末を容易に得ることができる。結晶化度は、X線回折(XRD)により測定される標準結晶質シリカのピークの積分面積と球状結晶質シリカのピークの積分面積との割合(球状結晶質シリカのピークの積分面積/標準結晶質シリカのピークの積分面積)により算出される。
【0015】
結晶化度の調整は、球状非晶質シリカ粉末を結晶化する工程の温度及び/又は時間を調整することで行うことができる。また、結晶化後にさらに加熱する工程において温度及び/又は時間を調整することで行うこともできる。温度を高くするほど、及び時間を長くするほど結晶化度は高くなる。結晶化工程及び加熱工程における好ましい温度及び/又は時間については後述する。さらに、後述する結晶化剤を使用して結晶化度を調整することもできる。温度や時間により結晶化度を調整する場合は適切な結晶相を制御することが難しい場合があるので、結晶相を制御しやすい点で、後述する結晶化剤を使用して結晶化度を調整することが好ましい。
【0016】
球状結晶質シリカ粉末は、樹脂に混合した際の粘度を低減させる観点から、平均円形度が、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.85以上であり、より好ましくは0.90以上である。
【0017】
「平均円形度」の測定方法は、以下のとおりである。球状結晶質シリカ粉末をカーボンテープで固定した後、オスミウムコーティングを行う。その後、走査型電子顕微鏡を用いて、倍率500~50,000倍で粉末を撮影し、画像解析装置を用いて、粉末の投影面積(S)と投影周囲長(L)を算出してから、下記の式(1)より円形度を算出する。任意の200個の粉末について円形度を算出してその平均値を平均円形度とする。
円形度=4πS/L2 ・・・(1)
【0018】
球状結晶質シリカ粉末は、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶であり、好ましくは粉末全体の20質量%以上がα-石英結晶であり、より好ましくは粉末全体の30質量%以上がα-石英結晶である。
α-石英結晶を10質量%以上含むことで、線熱膨張係数が高く誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる。また、樹脂成形品とした場合に粉砕石英粉末に近い熱膨張挙動を示すことができる。粉砕石英粉末は、樹脂成形品とした場合にリフロー温度近辺での熱膨張による寸法変化が少ない。そのため、リフロー処理前後の温度変化による成形品のクラックや反りなどを容易に抑制することができる。
一実施形態において、球状結晶質シリカ粉末は、粉末全体の40質量%以上がα-石英結晶であってよく、45質量%以上がα-石英結晶であってもよい。
一実施形態において、球状結晶質シリカ粉末は、好ましくは20~90質量%がα-石英結晶であり、より好ましくは粉末全体の25~85質量%がα-石英結晶であり、さらに好ましくは粉末全体の30~70質量%がα-石英結晶である。
【0019】
球状結晶質シリカ粉末は、好ましくは粉末全体の0~70質量%がクリストバライト結晶であり、より好ましくは0~50質量%がクリストバライト結晶であり、さらに好ましくは0~40質量%がクリストバライト結晶であり、特に好ましくは0~36質量%がクリストバライト結晶である。球状結晶質シリカ粉末は、クリストバライト結晶を含まなくてもよい。クリストバライトを含む場合、その含有量を70質量%以下にすることで、線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品をより容易に製造することができる。
【0020】
球状結晶質シリカ粉末は、好ましくは粉末全体の0~70質量%がトリジマイト結晶であり、より好ましくは0~40質量%がトリジマイト結晶である。球状結晶質シリカ粉末は、トリジマイト結晶を含まなくてもよい。トリジマイト結晶を含む場合、その含有量を70質量%以下にすることで、線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品をより容易に製造することができる。
【0021】
球状結晶質シリカ粉末中の各結晶型の含有量の測定は、X線回折測定を行い、リートベルト解析により行うことができる。
【0022】
球状結晶質シリカ粉末の平均粉末径(体積基準累積50%径D50)は、0.1~100μmであることが好ましく、0.2~50μmがより好ましく、0.3~10μmがさらに好ましい。球状結晶質シリカ粉末の平均粉末径を0.1~100μmにすることで、樹脂への充填性がより良好となりやすい。「体積基準累積50%径D50」は、レーザー回折式粒度分布測定装置(屈折率:1.50)を用いて測定される体積基準の累積粒度分布において、累積値が50%に相当する粉末径のことを意味する。
【0023】
球状結晶質シリカ粉末の比表面積は、6m2/g未満が好ましく、5.5m2/g以下がより好ましく、5m2/g以下がさらに好ましい。球状結晶質シリカ粉末の比表面積を6m2/g以下にすることで、より低い誘電正接を達成しやすい。なお、球状結晶質シリカ粉末の比表面積の下限は、1m2/g以上が好ましい。
一実施形態において、球状結晶質シリカ粉末の比表面積は、1~6m2/gであってもよい。なお、球状結晶質シリカ粉末の比表面積は、BET一点法により、全自動比表面積径測定装置を用いて測定した値とする。
【0024】
球状結晶質シリカ粉末を製造する際に、結晶化を促進する目的で、結晶化剤としてアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物等を使用することがある。誘電正接をより低減する観点から、粉末中に残るアルカリ土類金属元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba等)の含有量が、酸化物換算で、好ましくは10000μg/g未満であり、より好ましくは9000μg/g未満である。粉末中に残るアルカリ金属元素(Li、Na等)の含有量は、酸化物換算で、好ましくは30000μg/g未満である。
球状結晶質シリカ粉末中のアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属元素の含有量(酸化物換算)の測定は、ICP発光分光分析装置を用いて測定する。
【0025】
球状結晶質シリカ粉末には、不純物を少なくする観点から、Uの含有量が10ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、Feの含有量が200ppm以下であり、及び/又は、Alの含有量が1質量%以下(10000ppm以下)であることが好ましい。球状結晶質シリカ粉末中の上記不純物の含有量の測定は、ICP発光分光分析装置を用いて測定する。
【0026】
球状結晶質シリカ粉末は、後述する方法で作製した試験片(樹脂成形品)の、ガラス転移温度Tg以下における線熱膨張係数(CTE1)が、好ましくは、3.5×10-5/K~4.5×10-5/Kであり、より好ましくは3.7×10-5/K~4.3×10-5/Kであり、さらに好ましくは3.8×10-5/K~4.0×10-5/Kである。ガラス転移温度Tg以下における線熱膨張係数(CTE1)が高いので、製品の使用時の温度サイクル時の反りやクラックを防ぐことができる。
球状結晶質シリカ粉末は、後述する方法で作製した試験片(樹脂成形品)の、ガラス転移温度Tgを超過する温度領域における線熱膨張係数(CTE2)が、好ましくは、10.0×10-5/K~11.5×10-5/Kであり、より好ましくは10.5×10-5/K~11.3×10-5/Kであり、さらに好ましくは10.6×10-5/K~11.1×10-5/Kである。ガラス転移温度Tgを超過する温度領域における線熱膨張係数(CTE2)が高いので、リフロー時の反りやクラックを防ぐことができる。
【0027】
試験片の作製方法は、液状エポキシ樹脂(例えば、三菱ケミカル株式会社製「JER828」)と硬化剤(4,4-Diaminodiphenylmethane)とを4:1の重量比で混合し、そこに40体積%になるように球状結晶質シリカ粉末を充填して、200℃で硬化して、硬化体を作製する。硬化体を加工することで4mm×4mm×15mmの大きさの試験片とする。
【0028】
線熱膨張係数CTE1、CTE2の測定方法は、熱機械分析装置により、測定範囲-10℃~270℃、昇温速度5℃/分の条件で行い、ガラス転移温度Tg以下における線熱膨張係数(CTE1)、及びガラス転移温度Tgを超過する温度領域における線熱膨張係数(CTE2)を算出する。
【0029】
球状結晶質シリカ粉末は、後述する方法で作製した樹脂シートの誘電正接(tanδ)が、好ましくは7.0×10-4以下であり、より好ましくは6.9×10-4以下であり、さらに好ましくは6.8×10-4以下である。誘電正接(tanδ)を7.0×10-4以下にすることで、高周波帯が適用される電子機器や通信機器等において回路信号の伝送損失をより防ぐことができる。
【0030】
球状結晶質シリカ粉末は、後述する方法で作製した樹脂シートの誘電率(εr)が、好ましくは、2.5以上であり、より好ましくは2.6以上であり、さらに好ましくは2.65以上である。誘電率(εr)を2.5以上にすることで、誘電率が高くなり電子機器や通信機器等をより小型化することができる。
【0031】
球状非晶質シリカ粉末を結晶化した後に、酸と接触させるとともにさらに加熱処理することで、線熱膨張係数が高くかつ誘電正接がより低減された球状結晶質シリカ粉末が得られることが分かった。
【0032】
樹脂シートの作製方法は、球状結晶質シリカ粉末の充填量が40体積%となるように球状結晶質シリカ粉末とポリエチレン樹脂粉末とを混合して得られる樹脂組成物を、厚みが約0.3mmとなる量で直径3cmの金枠内に投入し、ナノインプリント装置にてシート化し、得られたシートを1.5cm×1.5cmサイズに切り出して試験用の樹脂シートとする。
【0033】
誘電率及び誘電正接の測定方法は、36GHzの空洞共振器をベクトルネットワークアナライザに接続し、試験用の樹脂シートを空洞共振器に設けられた直径10mmの穴を塞ぐように配置して、共振周波数(f0)、無負荷Q値(Qu)を測定する。1回測定するごとに評価サンプルを90度回転させて同様の測定を5回繰り返し、得られたf0、Quの値の平均値を測定値とする。解析ソフトを用いて、f0より誘電率を、Quより誘電正接(tanδc)を算出する。なお、測定条件は、測定温度20℃、湿度60%RHとする。
【0034】
球状結晶質シリカ粉末は、後述する方法で作製した樹脂シートの測定した熱伝導率が、0.48W/mK以上であることが好ましく、0.50W/mK以上であることがより好ましく、0.55W/mK以上であることがさらに好ましい。熱伝導率を0.48W/mK以上にすることで、作製した樹脂シートの別伝導率を向上させることができる。
球状非晶質シリカを結晶化することで熱伝導率が向上する。結晶化した後に、酸と接触させるとともに加熱処理することで、さらに熱伝導率が向上することがわかった。
熱伝導率は、以下の方法により測定した熱拡散率、比重、比熱を全て乗じて算出した値とする。
熱拡散率は、加工した樹脂シートを用いて、レーザーフラッシュ法により求めた。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447 NanoFlash)を用いた。樹脂シートの作製方法は、液状エポキシ樹脂(例えば、三菱ケミカル株式会社製「JER828」)と硬化剤(4,4-Diaminodiphenylmethane)とを4:1の重量比で混合し、そこに40体積%になるように球状結晶質シリカ粉末を充填して、200℃で硬化して、硬化体を作製する。硬化体を加工することで直径10mm×厚み1mmの大きさの円盤状試験片とする。
粉体の比重はアルキメデス法を用いて求めた。
比熱は、示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント社製、商品名:Q2000)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温~200℃まで昇温させて求めた。
【0035】
(用途)
本実施形態に係る球状結晶質シリカ粉末は、樹脂中に分散性良く高い含有量で充填することができるので、電子機器や通信機器等の種々の用途の樹脂成形品のフィラーとして用いることができる。特に、熱膨張係数が高く誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができるので、高周波数帯が適用される電子機器や通信機器等用の半導体封止材の製造に好ましく用いることができる。球状結晶質シリカ粉末を含む樹脂成形品は、リフロー処理前後の温度変化や使用時の温度サイクルにおけるクラックや反りなどを抑制することができる。
【0036】
[製造方法]
本実施形態に係る球状結晶質シリカ粉末の製造方法は、
(i)球状非晶質シリカ粉末を加熱して球状結晶質シリカ粉末を得ること、
(ii)球状結晶質シリカ粉末を酸と接触させること、及び
(iii)(ii)によって処理された球状結晶質シリカ粉末を800~1400℃で加熱すること、を含む。工程(i)の前に、球状非晶質シリカ粉末を準備する工程(i’)を有していてもよい。
【0037】
<工程(i’):球状非晶質シリカ粉末の準備工程>
任意で有していてもよい工程(i’)では、球状非晶質シリカ粉末を準備する。球状非晶質シリカ粉末は、従来公知の方法で製造されたものを用いることができるが、生産性、生産コストの観点から、火炎溶融法で製造された球状非晶質シリカ粉末を用いることが好ましい。火炎溶融法は、バーナーを用いて可燃ガスと助燃ガスとによって形成される高温火炎中に噴射して鉱石粉末の融点以上の温度(例えば、1800℃以上の温度)で溶融球状化させる。
原料は、コスト低減の観点から、好ましくは鉱物及び/又は鉱石の粉砕物である。鉱物又は鉱石としては、珪砂及び珪石等が挙げられる。原料の平均粉末径は、限定されず、作業性の観点から適宜選択することができる。
原料の平均粉末径(体積基準累積50%径D50)は、0.1~100μmであることが好ましく、0.2~50μmがより好ましく、0.3~10μmがさらに好ましい。
得られる球状非晶質シリカ粉末は、必要に応じて分級される。
【0038】
球状非晶質シリカ粉末は、平均円形度が、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.85以上であり、より好ましくは0.90以上である。平均円形度の測定方法は上記のとおりである。
【0039】
球状非晶質シリカ粉末の平均粉末径(体積基準累積50%径D50)は、0.1~100μmであることが好ましく、0.2~50μmがより好ましく、0.3~10μmがさらに好ましい。
【0040】
<工程(i):結晶化工程>
工程(i)では、球状非晶質シリカ粉末を加熱して球状結晶質シリカ粉末を得る。球状非晶質シリカ粉末は、所定の温度で加熱されることで結晶化され結晶質のシリカ粉末となる。加熱温度は、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶となるように、好ましくは900~1250℃であり、より好ましくは950~1200℃であり、さらに好ましくは1000~1200℃である。加熱時間は、好ましくは2~40時間であり、より好ましくは3~30時間であり、さらに好ましくは4~24時間である。加熱方法は、特に限定されず、公知の電気炉等で行うことができる。その後、常温(26℃)まで冷却する。
【0041】
球状結晶質シリカ粉末は、従来よりも結晶化度が低くても線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができるので、結晶化工程を従来よりも緩やかな条件(低い温度及び/又は短い時間)で行うことができる。
【0042】
結晶化を促進する目的で、結晶化剤を使用することができる。結晶化剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物及び炭酸塩等が挙げられる。結晶化剤の具体例としては、例えば、MgCO3、CaCO3、SrCO3、Li2O、Na2O等が挙げられ、これらから選択される1以上を用いることが好ましい。結晶化剤を用いる場合は、原料の球状非晶質シリカ粉末と結晶化剤とを混合し(例えば、振動ミル等の粉砕機や各種ミキサー等を用いて2~10分間混合し)、その後電気炉等で加熱する。
【0043】
結晶化剤の使用割合は、球状非晶質シリカ粉末100モルに対して、好ましくは1~10モルであり、より好ましくは2~8モルであり、さらに好ましくは3~5モルである。
【0044】
工程(i)において、球状非晶質シリカ粉末(好ましくは、球状非晶質シリカ粉末と結晶化剤との混合物)を、溶媒と混合した後に加熱して球状結晶質シリカ粉末を得てもよい。球状非晶質シリカ粉末と溶媒との混合物を加熱することで、結晶化度や結晶型を容易に調整することができる。溶媒としては、水やアルコール等が挙げられる。溶媒の使用量は、例えば、球状非晶質シリカ粉末10gに対して1~30mlであってよい。
結晶化後のシリカ粉末は、必要に応じて、振動式篩等を用いて解砕及び分級することができる。
【0045】
<工程(ii):酸との接触工程>
工程(ii)では、球状結晶質シリカ粉末を酸と接触させる。酸としては、25℃における酸解離定数pKaが、7.0以下であり、好ましくは6.0以下であり、より好ましくは5.0以下である酸が挙げられる。酸の具体例としては、酢酸、硝酸、塩酸、リン酸、硫酸等が挙げられ、これらから選択される1以上を含むことが好ましい。
【0046】
酸の使用量は、例えば、球状結晶質シリカ粉末10gに対して、50~1000mlであってよく、100~500mlであってもよい。
【0047】
球状結晶質シリカ粉末と酸との接触方法は、特に限定されず、例えば、球状結晶質シリカ粉末に酸を加えて混合することで行うことができる。
混合方法は、特に限定されず、例えば、ビーカー中に球状結晶質シリカ粉末と酸水溶液を入れ、10~90℃(好ましくは30~70℃)で10~600分間(好ましくは30~180分間)撹拌して行うことができる。
その後、水やエタノールを用い、複数回洗浄後ろ過して酸を除去し、得られた粉末を工程(iii)において加熱する。
【0048】
<工程(iii):加熱工程>
工程(iii)では、工程(ii)の処理後の球状結晶質シリカ粉末を800~1400℃で加熱する。加熱温度は、好ましくは900~1300℃であり、より好ましくは1000~1200℃である。球状結晶質シリカ粉末を800~1400℃で加熱することで、α-石英結晶及びクリストバライト結晶の含有割合に大きな影響を与えずに脱離する水分子数を少なくすることができる。また、結晶化度を容易に調整することができる。
加熱時間は、好ましくは30分~24時間であり、より好ましくは1~12時間であり、さらに好ましくは2~8時間である。加熱方法は、特に限定されず公知の電気炉等を用いることができる。
電気炉内で自然放冷後、110℃~300℃の状態で球状結晶質シリカ粉末を回収し、さらに湿度40%RH以下の環境下にて25℃にまで冷却する。
工程(iii)の後に、所望の平均粉末径となるように分級する工程を有していてもよい。
【0049】
得られる球状結晶質シリカ粉末の、脱離する水分子数、結晶化度、結晶型、平均粉末径(体積基準累積50%径D50)、平均円形度、不純物の含有量等は、上記のとおりであるからここでは記載を省略する。
【0050】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記した球状結晶質シリカ粉末と、樹脂とを含む。
【0051】
(樹脂)
樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂;ポリプロピレン樹脂;エポキシ樹脂;シリコーン樹脂;フェノール樹脂;メラミン樹脂;ユリア樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;フッ素樹脂;ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等のポリアミド系樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;全芳香族ポリエステル樹脂;ポリスルホン樹脂;液晶ポリマー樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリカーボネート樹脂;マレイミド変性樹脂;ABS樹脂;AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン)樹脂;AES(アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
樹脂組成物を高周波数帯用基板材料や絶縁材料として用いる場合、本用途に用いられる公知の低誘電樹脂を採用できる。具体的には、炭化水素系エラストマー樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、及び芳香族ポリエン系樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂を用いることができる。このうち、炭化水素系エラストマー樹脂、又はポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。これら樹脂の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、20~95質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましい。
【0053】
樹脂組成物中の球状結晶質シリカ粉末の含有量は特に限定されず、目的に応じて適宜調整し得る。例えば、高周波数用基板材料や、絶縁材料用途に用いる場合は、樹脂組成物の総質量に対して、5~80質量%の範囲で配合してもよく、より好ましくは5~70質量%の範囲である。
樹脂組成物中の樹脂と球状結晶質シリカ粉末の配合割合は、目的とする線熱膨張係数や誘電正接等の誘電特性に応じて、適宜調整することができる。例えば、球状結晶質シリカ粉末100質量部に対して、10~10,000質量部の範囲で樹脂の量を調整することもできる。
【0054】
樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、硬化剤、硬化促進剤、離型剤、カップリング剤、着色剤等を配合してもよい。
【0055】
[樹脂組成物の製造方法]
樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、各材料の所定量を撹拌、溶解、混合、分散させることにより製造することができる。これらの混合物の混合、撹拌、分散等の装置は特に限定されないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。またこれらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0056】
上記したように、本実施形態に係る球状結晶質シリカ粉末を含む樹脂組成物は、高い線熱膨張係数及び低い誘電正接を達成することができる。そのため、高周波数帯が適用される電子機器や通信機器等用の半導体封止材の製造に好ましく用いることができる。得られる樹脂成形品は、リフロー処理前後の温度変化や使用時の温度サイクルにおけるクラックや反りなどを抑制することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0058】
[参考例]
粉砕石英粉末(富士フィルム和光純薬社製「二酸化けい素、99.9%」、平均粉末径D50:20.7μm)10gをアルミナ坩堝に入れ、電気炉内温度1000℃で4時間加熱処理した。加熱処理後、炉内で200℃まで冷却し、デシケーター内(23℃-10%RH)で室温まで冷却して得られた粉末を参考例のシリカ粉末とした。
【0059】
実験1
[実施例1-1]
球状非晶質シリカ粉末(デンカ株式会社製、「FB-5D」、平均粉末径D50:4.5μm)とCaCO3とを、モル比(SiO2:CaCO3)が100:3となるように計量し、振動式ミキサー(Resodyn社製)で3分間、乾式混合した。混合物50gをアルミナ坩堝に入れた後、純水を5ml添加して混合した。その後、坩堝を電気炉内に配置し、電気炉内温度1000℃で12時間加熱処理した(工程(i))。加熱処理後、炉内で200℃まで冷却し、デシケーター内(23℃-10%RH)で室温まで冷却して、得られた粉末を乳鉢を用いて解砕し、目開き200μmの篩で分級した。
得られた粉末を500mlビーカーに入れ、そこに1Mの酢酸500mlを滴下して、60分間撹拌し混合した(工程(ii))。その後、ろ過して酢酸を除去し、得られた濾物をアルミナ坩堝に入れて電気炉内に配置して、電気炉内温度1000℃で4時間加熱処理した(工程(iii))。加熱処理後、炉内で200℃まで冷却し、デシケーター内(23℃-10%RH)で室温まで冷却して、実施例1-1の球状結晶質シリカ粉末を得た。
【0060】
[実施例1-2]
工程(iii)において、加熱温度を1200℃としたこと以外は、実施例1-1と同じ方法で、実施例1-2の球状結晶質シリカ粉末を得た。
【0061】
[実施例1-3]
工程(i)において球状非晶質シリカ粉末とCaCO3とのモル比が100:5となるように計量し、工程(iii)において加熱温度を1100℃としたこと以外は、実施例1-1と同じ方法で、実施例1-3の球状非晶質シリカ粉末を得た。
【0062】
[実施例1-4]
工程(i)において球状非晶質シリカ粉末とCaCO3とのモル比が100:5となるように計量し、工程(iii)において加熱温度を1200℃としたこと以外は、実施例1-1と同じ方法で、実施例1-4の球状非晶質シリカ粉末を得た。
【0063】
[実施例1-5]
工程(i)において加熱処理条件を1200℃及び24時間としたこと、及び工程(ii)において酢酸に替えて1Mの硝酸を500ml使用したこと以外は、実施例1-1と同じ方法で、実施例1-5の球状結晶質シリカ粉末を得た。
【0064】
[比較例1-1]
球状非晶質シリカ粉末(デンカ株式会社製「FB-5D」、平均粉末径D50:4.5μm)を比較例1-1のシリカ粉末とした(つまり、工程(i)~(iii)を行わなかった)。
【0065】
[比較例1-2]
比較例1-1の球状非晶質シリカ粉末10gをアルミナ坩堝に充填し、電気炉内温度1000℃にて4時間加熱処理した。加熱処理後、炉内で200℃まで冷却し、デシケーター内(23℃-10%RH)で室温まで冷却して、比較例1-2のシリカ粉末を得た。なお、後述する方法で結晶化度を測定したところ、比較例1-2のシリカ粉末は、比較例1-1と結晶化度が同じであり、結晶化は進んでおらず非晶質のままであった。
【0066】
[比較例1-3]
球状非晶質シリカ粉末(デンカ株式会社社製、「FB-5D」、平均粉末径D50:4.5μm)とCaCO3とを、モル比(SiO2:CaCO3)が100:1となるように計量し、振動式ミキサー(Resodyn社製)で3分間、乾式混合した。混合物を坩堝に入れて電気炉内に配置し、大気中で昇温速度10℃/minで1300℃まで昇温し、1300℃で4時間保持した(工程(i))。炉内で自然放冷で常温まで冷却して、比較例1-3のシリカ粉末を得た。
【0067】
実験2
[実施例2-1]
球状非晶質シリカ粉末(デンカ株式会社製、「SFP-30M」、平均粒径D50:0.68μm)とCaCO3とを、モル比(SiO2:CaCO3)が100:3となるように計量し、振動式ミキサー(Resodyn社製)で3分間、乾式混合した。混合物50gをアルミナ坩堝に入れた後、純水を5ml添加して混合した。その後、坩堝を電気炉内に配置し、電気炉内温度1100℃で12時間加熱処理した(工程(i))。加熱処理後、炉内で200℃まで冷却し、デシケーター内(23℃-10%RH)で室温まで冷却して、得られた粉末を乳鉢を用いて解砕し、目開き200μmの篩で分級した。
得られた粉末を500mlビーカーに入れ、そこに1Mの酢酸500mlを滴下して、60分間撹拌し混合した(工程(ii))。その後、ろ過して酢酸を除去し、得られた濾物をアルミナ坩堝に入れて電気炉内に配置して、電気炉内温度1000℃で4時間加熱処理した(工程(iii))。加熱処理後、炉内で200℃まで冷却し、デシケーター内(23℃-10%RH)で室温まで冷却して、実施例2-1の球状結晶質シリカ粉末を得た。
【0068】
[実施例2-2]
工程(i)において、加熱処理条件を1000℃で6時間にしたこと以外は、実施例2-1と同じ方法で、実施例2-2の球状結晶質シリカ粉末を得た。
【0069】
[比較例2-1]
工程(iii)を行わないこと以外は、実施例2-1と同じ方法で、比較例2-1のシリカ粉末を得た。
【0070】
[比較例2-2]
工程(iii)を行わないこと以外は、実施例2-2と同じ方法で、比較例2-2のシリカ粉末を得た。
【0071】
[比較例2-3]
球状非晶質シリカ粉末(デンカ株式会社製、「SFP-30M」、平均粒径D50:0.68μm)を、比較例4のシリカ粉末とした(つまり、工程(i)~(iii)を行わなかった)。
【0072】
[比較例2-4]
比較例2-3の球状非晶質シリカ粉末10gをアルミナ坩堝に充填し、電気炉内温度1000℃にて4時間加熱処理した。加熱処理後、炉内で200℃まで冷却し、デシケーター内(23℃-10%RH)で室温まで冷却して、比較例2-4のシリカ粉末を得た。なお、後述する方法で結晶化度を測定したところ、比較例2-4のシリカ粉末は、比較例2-3と結晶化度が同じであり、結晶化は進んでおらず非晶質のままであった。
【0073】
実験3
[実施例3-1]
工程(i)において、加熱処理条件を1200℃及び4時間としたこと、及び、工程(ii)において酢酸に替えて1M硝酸を500ml使用したこと以外は、実施例1-1と同じ方法で、実施例3-1の球状結晶質シリカ粉末を得た。
【0074】
[実施例3-2]
工程(i)において加熱処理条件を1100℃及び6時間としたこと、工程(ii)において酢酸に替えて1Mの硝酸を500ml使用したこと、及び工程(iii)において加熱処理条件を1100℃及び4時間としたこと以外は、実施例1-1と同じ方法で、実施例3-2の球状結晶質シリカ粉末を得た。
【0075】
[比較例3-1]
工程(ii)及び(iii)を行わないこと以外は、実施例3-1と同じ方法で、比較例3-1のシリカ粉末を得た。
【0076】
[比較例3-2]
工程(ii)及び(iii)を行わないこと以外は、実施例3-2と同じ方法で、比較例3-2のシリカ粉末を得た。
【0077】
[測定]
実施例及び比較例で得られたシリカ粉末について、以下の方法で、各物性を測定した。結果を表1~3に示す。
【0078】
(XRD測定:粉末中の結晶型の同定及び含有量、並びに結晶化度の測定)
実施例及び比較例で得られたシリカ粉末について、測定装置として、試料水平型多目的X線回折装置((株)リガク製、製品名:RINT-UltimaIV)を用い、以下の測定条件でX線回折パターンを測定した。
X線源:CuKα
管電圧:40kV
管電流:40mA
スキャン速度:10.0°/min
2θスキャン範囲:10°~80°
【0079】
結晶型の定量分析には、リートベルト法ソフトウェア(MDI社製、製品名:統合粉末X線ソフトウェアJade+9.6)を使用した。なお、各種結晶型の割合(質量%)は、X線回折用標準試料であるα-アルミナ(内標準物質)(NIST製)を、その含有量が50質量%(添加後の球状結晶質シリカ粉末試料の全量基準)となるようにシリカ粉末に添加した試料をX線回折測定し、リートベルト解析により算出した。
表1~3に、α-石英結晶の割合を「Qua(wt%)」として示し、クリストバライト結晶の割合を「Cri(wt%)」として示した。
【0080】
結晶化度は、それぞれの結晶に対し、標準結晶質のピークと作製したサンプルの結晶質のピークの積分面積を求め、その結晶質の面積の比率を結晶化度とした。つまり、以下の式により算出した。
結晶化度=得られた結晶質シリカのピークの積分面積/結晶質シリカ標準物質のピーク面積
表1~3に、α-石英結晶の割合を「Qua(wt%)」として示し、クリストバライト結晶の割合を「Cri(wt%)」として示した。
【0081】
(ICP測定)
実施例及び比較例で得られたシリカ粉末中の不純物を以下のようにして測定した。
シリカ粉末0.1gに、46%フッ酸1.2ml及び超純水5mlを加えて、120℃のホットプレート上で乾固した。得られた残渣に96%硫酸0.3mlを加え、加熱したのち、溶液成分を6mlに定容して測定サンプルを作成した。また、生成した固体成分をろ別回収し、ろ紙ごと電気炉で500℃、2時間の条件で加熱したのち、得られた固体をアルカリ溶解、塩溶解後6mlに定容した。その後、測定サンプルをICP発光分光分析法(ICP分光分析装置:SPECTRO社製、商品名:CIROS-120)にて分析し、球状結晶質シリカ粉末中の不純物含有量を測定した。
【0082】
(線熱膨張係数:CTE1,CTE2)
液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製「JER828」)と硬化剤(4,4-ジアミノジフェニルメタン)とを4:1の重量比で混合し、そこに40体積%になるようにシリカ粉末を混合して、200℃、4時間で硬化して、硬化体を作製した。その後、硬化体を加工し、最終的に4mm×4mm×15mmの大きさの試験片とした。
TMA装置(ブルカー・エイエックスエス社製、TMA4000SA)にて、線熱膨張係数を評価した。
測定条件としては、昇温速度を3℃/min、測定温度を-10℃~270℃、雰囲気を窒素雰囲気とし、得られた結果からガラス転移温度Tg以下(155~160℃以下)における線熱膨張係数(CTE1)、及びガラス転移温度Tgを超過する(160℃を超える)温度領域における線熱膨張係数(CTE2)を算出した。結果を表1~3に示す。
なお、シリカ粉末を混合しない状態での樹脂組成物の熱膨張係数は、3.4×10-5(CTE1)、9.7×10-5(CTE2)/℃であった。
【0083】
図1に、参考例、実施例1-5、比較例1-1、及び比較例1-3のシリカ粉末を用いた試験片について測定された熱膨張挙動を示す。
図1に示すように、実施例1-5のシリカ粉末を含む樹脂成形品は、粉砕石英(参考例)を含む樹脂成形品と類似の熱膨張挙動を示す。参考例(粉砕石英)を含む樹脂成形品及び実施例1-5のシリカ粉末を含む樹脂成形品は、比較例1-1のシリカ粉末(球状非晶質シリカ粉末)を含む樹脂成形品よりも線熱膨張係数(CTE1及びCTE2)が高い。比較例1-3(球状クリストバライト結晶であり、α-石英結晶を含まない)のシリカ粉末を用いた場合は、線熱膨張係数は高いものの、リフロー温度(240~260℃付近)における変化が大きく、当該温度付近における樹脂成形品の熱膨張挙動を調整が困難な場合がある。これに対して、実施例1-5のシリカ粉末を含む樹脂成形品は、リフロー温度付近における線熱膨張係数の変化が大きくないので、樹脂成形品の熱膨張挙動を容易にコントロールできる。
【0084】
(誘電特性の評価)
シリカ粉末の充填量が40体積%となるように、シリカ粉末とポリエチレン樹脂粉末(住友精化(株)製、商品名:フローセン(登録商標)UF-20S)またはポリプロピレン(PP)粉末(住友精化社製フローブレンQB200)とを計量し、振動式ミキサー(Resodyn社製)を用いて、加速度60G、処理時間2分で混合して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、厚みが約0.3mmとなる量で直径3cmの金枠内に投入し、ナノインプリント装置(SCIVAX社製、商品名:X-300)にて、140℃、5分、30,000Nの条件でシート化した。得られたシートを1.5cm×1.5cmサイズに切り出して評価サンプルを得た。
次に、36GHzの空洞共振器(サムテック(株)製)をベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、製品名:85107)に接続し、評価サンプルを空洞共振器に設けられた直径10mmの穴を塞ぐように配置して、共振周波数(f0)、無負荷Q値(Qu)を測定した。1回測定するごとに評価サンプルを90度回転させ、同様の測定を5回繰り返した。得られたf0、Quの値の平均値を測定値として、解析ソフト(サムテック(株)製ソフトウェア)を用いて、f0より誘電率を、Quより誘電正接(tanδc)を算出した。なお、測定温度20℃、湿度60%RHの条件で測定を行った。
【0085】
(脱離する水分子数)
Pyrolyzer GC/MSシステム(日本電子社製 ガスクロマトグラフ質量分析計(JMS-Q1500GC)とフロンティア・ラボ社製 マルチショットパイロライザー(EGA/PY-3030D)を組み合わせたもの)を用い、25℃から1000℃まで30℃/minで昇温し、得られたマスクロマトグラム(m/z=18)の50℃~1000℃範囲における面積値を測定した。脱水量が既知の標準物質として、水酸化アルミニウム(高純度化学社製)で検量線を引くことで、測定した面積値から脱離する水分子数を算出した。
標準物質として使用した水酸化アルミニウムの脱水量の算出は、熱重量示唆熱分析装置(NETZSCH社製 高感度差動型示唆熱天秤 STA2500 Regulus)を用い、25℃から10℃/minで昇温し、200℃から320℃の重量減少量を脱水量として使用した。
【0086】
(熱伝導率の測定)
樹脂組成物の熱伝導率は、熱拡散率、比重、比熱を全て乗じて算出した。熱拡散率は、前記硬化後のサンプルを10mm×10mm×1mmに加工し、レーザーフラッシュ法により求めた。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447 NanoFlash)を用いた。比重はアルキメデス法を用いて求めた。比熱は、示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント社製、商品名:Q2000)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温~200℃まで昇温させて求めた。
【0087】
【0088】
表1~3に示すように、脱離する水分子数が10μmol/g以下であり、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である各実施例の球状結晶質シリカ粉末は、いずれも線熱膨張係数(CTE1及びCTE2)が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる。また、得られる樹脂成形品は、誘電率が高く、熱伝導率も高い。さらに、線熱膨張係数(CTE2)が参考例(粉砕石英)と同程度であるので、リフロー温度付近における樹脂成形品の熱膨張挙動を容易にコントロールできる。
これに対して、脱離する水分子数が10μmol/gを超え、かつα-石英結晶が10質量%未満である非晶質の比較例1-1、比較例2-3のシリカ粉末は、線熱膨張係数が低く、かつ誘電正接が高い結果となった。
α-石英結晶が10質量%未満である非晶質の比較例1-2、比較例2-4のシリカ粉末は、誘電正接は低くなっているものの、線熱膨張係数(CTE1及びCTE2)が低い結果となった。
α-石英結晶を有しない結晶質の比較例1-3のシリカ粉末は、線熱膨張係数は高い値となっているが、誘電正接が高い結果となった。比較例1-3のシリカ粉末は、
図1に示すように、リフロー温度付近における樹脂成形品の熱膨張挙動の変化が大きいため、樹脂成形品の熱膨張挙動をコントロールすることが難しい。
脱離する水分子数10μmol/gを超える比較例2-1,2-2,3-1,3-2のシリカ粉末は、線熱膨張係数は高い値となっているが、誘電正接が高い結果となった。
熱伝導率に着目すると、各実施例の球状結晶質シリカ粉末は、0.48W/mK以上の高い熱伝導率を実現することができた。表1~3から明らかなように、原料非晶質球状シリカを結晶化し(工程(i))、さらに酸との接触及び加熱処理(工程(ii)及び(iii))と処理を経るごとに熱伝導率が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
上述の通り、本発明に係る球状結晶質シリカ粉末は、線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができるという特徴を有している。このような球状結晶質シリカ粉末を含む樹脂成形品は、例えば、半導体素子の封止材用のフィラーとして好適に用いることができる。