(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】アスファルト舗装体の撤去方法
(51)【国際特許分類】
E01C 23/00 20060101AFI20240919BHJP
E01C 23/03 20060101ALI20240919BHJP
E01C 23/09 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
E01C23/00 A
E01C23/03
E01C23/09 A
(21)【出願番号】P 2024117190
(22)【出願日】2024-07-22
【審査請求日】2024-07-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年6月1日、ウエブサイトにて公表 https://a24.hm-f.jp/cc.php?t=M10640&c=4990&d=9011
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508061549
【氏名又は名称】阪神高速技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138896
【氏名又は名称】森川 淳
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 高
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第219195592(CN,U)
【文献】特開平7-71006(JP,A)
【文献】特開平5-148815(JP,A)
【文献】実開昭61-19007(JP,U)
【文献】特開昭63-60307(JP,A)
【文献】特開2007-291839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 23/00
E01C 23/03
E01C 23/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床版上に敷設されたアスファルト舗装体を撤去するアスファルト舗装体の撤去方法であって、
上記アスファルト舗装体をロードヒーターによって加熱する加熱工程と、
上記加熱工程によってアスファルト舗装体の軟化した部分を人力で除去する人力除去工程とを備え、
上記加熱工程は、
第1の加熱強度で第1の加熱時間の加熱を行う第1加熱実行工程と、この第1加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して第1の養生時間の養生を行う第1養生実行工程とを、上記床版の表面温度が第1の基準温度に達するまで繰り返す第1段階と、
第2の加熱強度で上記第1の加熱時間よりも短い第2の加熱時間の加熱を行う第2加熱実行工程と、この第2加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して上記第1の養生時間よりも短い第2の養生時間の養生を行う第2養生実行工程とを、上記床版の表面の温度が第2の基準温度に達するまで繰り返す第2段階と、
上記第1及び第2の加熱強度以下の第3の加熱強度で、上記第2の加熱時間よりも短い第3の加熱時間の加熱を行う第3加熱実行工程と、この第3加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して上記第2の養生時間よりも短い第3の養生時間の養生を行う第3養生実行工程とを、上記床版の表面の温度が第3の基準温度に達するまで繰り返す第3段階と
を含み、
上記第1の基準温度が30℃以上40℃未満であり、上記第2の基準温度が40℃以上50℃未満であり、上記第3の基準温度が50℃以上60℃未満であることを特徴とするアスファルト舗装体の撤去方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアスファルト舗装体の撤去方法において、
上記加熱工程の前に、上記アスファルト舗装体の上記加熱工程で加熱する領域を取り囲むように格子状の切削溝を形成する溝形成工程を備えることを特徴とするアスファルト舗装体の撤去方法。
【請求項3】
請求項1に記載のアスファルト舗装体の撤去方法において、
上記加熱工程が、上記アスファルト舗装体の加熱対象領域を複数のブロックに分割し、これらの複数のブロックを順に加熱することにより、各ブロックに上記加熱実行工程と上記養生実行工程とを行うことを特徴とするアスファルト舗装体の撤去方法。
【請求項4】
請求項2に記載のアスファルト舗装体の撤去方法において、
上記アスファルト舗装体の上記切削溝の内側の部分のうち、上記人力除去工程で除去されずに残った部分をリッパーで除去するリッパー除去工程を備えることを特徴とするアスファルト舗装体の撤去方法。
【請求項5】
請求項1に記載のアスファルト舗装体の撤去方法において、
上記加熱工程の第1乃至第3加熱強度が、上記アスファルト舗装体の表面温度が340℃以下となる強度であることを特徴とするアスファルト舗装体の撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装体の撤去方法に関し、特に床版上に設置されたアスファルト舗装体の撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路等のアスファルト舗装体を撤去する方法として、斫り工法が多く採用されている。斫り工法では、作業者が保持して操作するコンクリートブレーカにより、アスファルト舗装体に打撃力を与えて破砕する。破砕したアスファルト舗装体の破砕片を現地から搬出し、アスファルト舗装体を撤去している。
【0003】
しかしながら、斫り工法は、コンクリートブレーカでアスファルト舗装体を破砕するときに、90dBを超える大きな騒音が発生する問題がある。したがって、住宅密集地や病院又は学校の近傍では、環境保全への配慮が特に求められるため、斫り工法を採用することは困難である。
【0004】
一方、騒音の少ないアスファルト舗装体の撤去方法として、電磁誘導加熱装置を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このアスファルト舗装体の撤去方法は、鋼床版の鋼板上に設けられたアスファルト舗装体の上方に電磁誘導コイルを設置し、この電磁誘導コイルによる電磁誘導作用により、鋼板の温度を上昇させる。このとき、アスファルト舗装体の下部が80℃以上になるように鋼板を加熱する。これにより、鋼板に接するアスファルト舗装体の下部を軟化させて、アスファルト舗装体を鋼板から剥離させる。そして、鋼板から剥離したアスファルト舗装体を重機で分断し、床版上から撤去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電磁誘導加熱装置を用いたアスファルト舗装体の撤去方法は、誘導加熱を行うための鋼板の存在が必須であるので、コンクリート床版上のアスファルト舗装体には適用できない。また、電磁誘導加熱装置を用いたアスファルト舗装体の撤去方法は、アスファルト舗装体の下部が80℃以上になるように鋼板を加熱するので、鋼板の温度は100℃を超えることとなる。このような鋼板の温度上昇により、鋼床版の鋼板の裏側に施された塗装の劣化を招くおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、騒音が少なく、また、鋼製とコンクリート製のいずれの床版にも適用でき、しかも、床版に対するダメージの少ないアスファルト舗装体の撤去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のアスファルト舗装体の撤去方法は、床版上に敷設されたアスファルト舗装体を撤去するアスファルト舗装体の撤去方法であって、
上記アスファルト舗装体をロードヒーターによって加熱する加熱工程と、
上記加熱工程によってアスファルト舗装体の軟化した部分を人力で除去する人力除去工程とを備え、
上記加熱工程は、
第1の加熱強度で第1の加熱時間の加熱を行う第1加熱実行工程と、この第1加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して第1の養生時間の養生を行う第1養生実行工程とを、上記床版の表面温度が第1の基準温度に達するまで繰り返す第1段階と、
第2の加熱強度で上記第1の加熱時間よりも短い第2の加熱時間の加熱を行う第2加熱実行工程と、この第2加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して上記第1の養生時間よりも短い第2の養生時間の養生を行う第2養生実行工程とを、上記床版の表面の温度が第2の基準温度に達するまで繰り返す第2段階と、
上記第1及び第2の加熱強度以下の第3の加熱強度で、上記第2の加熱時間よりも短い第3の加熱時間の加熱を行う第3加熱実行工程と、この第3加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して上記第2の養生時間よりも短い第3の養生時間の養生を行う第3養生実行工程とを、上記床版の表面の温度が第3の基準温度に達するまで繰り返す第3段階と
を含み、
上記第1の基準温度が30℃以上40℃未満であり、上記第2の基準温度が40℃以上50℃未満であり、上記第3の基準温度が50℃以上60℃未満であることを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、加熱工程で、床版上に敷設されたアスファルト舗装体をロードヒーターによって加熱する。ロードヒーターは、アスファルト舗装を加熱する機能を有する公知のものを使用することができる。この加熱工程には、第1段階から第3段階までが含まれる。第1段階では、第1の加熱強度で第1の加熱時間の加熱を行う第1加熱実行工程と、この第1加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して第1の養生時間の養生を行う第1養生実行工程とを、上記床版の表面温度が、第1の基準温度である30℃以上40℃未満に達するまで繰り返す。ここで、第1加熱実行工程と第1養生実行工程を繰り返す回数は、1回以上である。第2段階では、第2の加熱強度で上記第1の加熱時間よりも短い第2の加熱時間の加熱を行う第2加熱実行工程と、この第2加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して上記第1の養生時間よりも短い第2の養生時間の養生を行う第2養生実行工程とを、上記床版の表面の温度が、第2の基準温度である40℃以上50℃未満に達するまで繰り返す。ここで、第2加熱実行工程と第2生実行工程を繰り返す回数は、1回以上である。第3段階では、上記第1及び第2の加熱強度以下の第3の加熱強度で、上記第2の加熱時間よりも短い第3の加熱時間の加熱を行う第3加熱実行工程と、この第3加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して上記第2の養生時間よりも短い第3の養生時間の養生を行う第3養生実行工程とを、上記床版の表面の温度が、第3の基準温度である50℃以上60℃未満に達するまで繰り返す。ここで、第3加熱実行工程と第3生実行工程を繰り返す回数は、1回以上である。このような第1段階から第3段階を行うことにより、アスファルト舗装体の表面温度が過剰に上昇することなく、アスファルト舗装体の温度を概ね均一に上昇させて、アスファルト舗装体の加熱領域の全体を軟化させることができる。これにより、人力除去工程で、加熱工程によってアスファルト舗装体の軟化した部分を、人力で除去することが可能となる。したがって、コンクリートブレーカを用いる従来の斫り工法よりも、小さい騒音でアスファルト舗装体を撤去することができる。また、加熱工程で床版の表面が達する最高の温度が、第3の基準温度の50℃以上60℃未満であるので、床版の熱による損傷を効果的に防止できる。また、本発明のアスファルト舗装体の撤去方法は、公知のロードヒーターを用いてアスファルト舗装体を加熱するので、鋼床版とコンクリート床版のいずれの上に敷設されたアスファルト舗装体についても適用可能である。ここで、上記加熱工程は、第1乃至第3段階に加えて、アスファルト舗装体に加熱を行う他の工程を含んでもよい。
【0010】
一実施形態のアスファルト舗装体の撤去方法は、上記加熱工程の前に、上記アスファルト舗装体の上記加熱工程で加熱する領域を取り囲むように格子状の切削溝を形成する溝形成工程を備える。
【0011】
上記実施形態によれば、加熱工程の前の溝形成工程で、アスファルト舗装体に対して、加熱工程で加熱する領域を取り囲むように格子状の切削溝を形成する。この格子状の切削溝と、加熱工程で加熱を行う加熱対象領域とが重なる部分において、切削溝を通してアスファルト舗装体の内部に効果的に熱を伝えることができる。したがって、加熱対象領域におけるアスファルト舗装体の加熱効率を効果的に向上できる。また、格子状の切削溝を、平面視において加熱対象領域を取り囲むように形成するので、加熱対象領域に与えられる熱は、切削溝の外縁部の内側に留められ、切削溝の外側への熱の伝達を遮断できる。したがって、アスファルト舗装体の残存させる部分である、切削溝の外側部分に対する熱の影響を、効果的に防止できる。
【0012】
一実施形態のアスファルト舗装体の撤去方法は、上記加熱工程が、上記アスファルト舗装体の加熱対象領域を複数のブロックに分割し、これらの複数のブロックを順に加熱することにより、各ブロックに上記加熱実行工程と上記養生実行工程とを行う。
【0013】
上記実施形態によれば、加熱工程において、アスファルト舗装体の加熱対象領域を複数のブロックに分割し、これらの複数のブロックを順に加熱する。例えば、アスファルト舗装体の加熱対象領域を3個のブロックに分割する場合、第1の段階において、第1のブロックに対して第1加熱実行工程で加熱を行う。この後、第2のブロックと第3のブロックに対して、順にそれぞれ第1加熱実行工程を行う。これらの第2のブロックと第3のブロックに対して第1加熱実行工程を行うとき、第1のブロックについて、第1養生実行工程を並行して行うことができる。このように、アスファルト舗装体の加熱対象領域を複数のブロックに分割して順に加熱することにより、加熱実行工程と養生実行工程を効率的に実行することができる。なお、加熱対象領域を分割する個数は3個に限定されず、2個又は4個以上の何個でもよい。
【0014】
一実施形態のアスファルト舗装体の撤去方法は、上記アスファルト舗装体の上記切削溝の内側の部分のうち、上記人力除去工程で除去されずに残った部分を、リッパーを用いて除去するリッパー除去工程を備える。
【0015】
上記実施形態によれば、リッパー除去工程で、アスファルト舗装体の切削溝の内側の部分のうち、人力除去工程で除去されずに残った部分が、リッパーを用いて除去される。人力除去工程で除去されずに残った部分は、加熱工程で加熱されて軟化した部分と、切削溝の外縁部との間の部分が該当する。この部分は比較的小さいので、リッパーを用いて容易に床版やアスファルト舗装体の他の部分から分離することができる。ここで、リッパーは、重機に装着されて使用されるが、重機に装着されたリッパーで作業を行う際に発生する騒音は、コンクリートブレーカを使用する斫り工法で発生する騒音よりも小さいので、周辺環境に与える影響を少なくできる。
【0016】
一実施形態のアスファルト舗装体の撤去方法は、上記加熱工程の第1乃至第3加熱強度が、上記アスファルト舗装体の表面温度が340℃以下となる強度である。
【0017】
上記実施形態によれば、加熱工程の第1乃至第3加熱強度を、アスファルト舗装体の表面温度が340℃以下となる強度に設定することにより、アスファルト舗装体の発煙や発火、ひいては発煙や発火による悪臭の発生を、効果的に防止できる。したがって、住宅密集地や病院又は学校の近傍においても、環境保全を行いながらアスファルト舗装体の撤去を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態のアスファルト舗装体の撤去方法が適用される舗装体を示す断面図である。
【
図2】溝形成工程でアスファルト舗装体に形成される切削溝と、加熱対象領域を示す平面図である。
【
図4A】加熱工程において加熱対象領域の第1ブロックを加熱する様子を示す図である。
【
図4B】加熱工程において加熱対象領域の第2ブロックを加熱すると共に第1ブロックを養生する様子を示す図である。
【
図4C】加熱工程において加熱対象領域の第3ブロックを加熱すると共に第1及び第2ブロックを養生する様子を示す図である。
【
図5】リッパー除去工程でアスファルト舗装体の切削溝の内側の部分を除去する様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施形態のアスファルト舗装体の撤去方法により撤去するアスファルト舗装体を示す断面図である。このアスファルト舗装体1は、高架道路のコンクリート床版5の上に敷設されている。アスファルト舗装体1は、コンクリート床版5の上に密粒アスファルトで形成された基層2と、この基層2の上に密粒ギャップアスファルトで形成された表層3を有する。コンクリート床版5と基層2の間と、基層2と表層3の間は、図示しないタックコートで密着されている。このアスファルト舗装体1と床版5を含んで構成される高架道路は、住宅密集地に隣接しており、アスファルト舗装体1の撤去の工事を行うに際して、騒音防止や悪臭防止等の環境保全に配慮する必要がある。
【0021】
本実施形態のアスファルト舗装体の撤去方法は、アスファルト舗装体に格子状の切削溝を形成する溝形成工程と、アスファルト舗装体をロードヒーターで加熱する加熱工程と、アスファルト舗装体の軟化した部分を人力で除去する人力除去工程と、人力除去工程で除去されずに残った部分をリッパーで除去するリッパー除去工程を備える。
【0022】
(溝形成工程)
まず、本実施形態では、アスファルト舗装の撤去の対象領域に、格子状の切削溝を形成する溝形成工程を行う。
図2は、溝形成工程でアスファルト舗装体1に形成される切削溝6と、切削溝6の内側に設定される加熱対象領域Aを模式的に示す平面図である。溝形成工程に先立ち、加熱対象領域A内に、コンクリート床版5の温度測定用の熱電対を設置するため、コア削孔を行う。また、コア削孔により得たコアに基づいて、アスファルト舗装体1の厚みを測定する。
図2に示すように、コア削孔によるコア切削線9は、加熱対象領域Aの第1のブロックA1に形成することができる。なお、他の位置にコア削孔を行ってもよい。
【0023】
溝形成工程は、モーター又はエンジンで駆動されるアスファルトカッターを用いて、アスファルト舗装体1に格子状の切削溝6を形成する。切削溝6は、矩形の外縁部7と、この外縁部7の内側を区画する格子部8とで構成される。本実施形態では、外縁部7の内側を格子部8で9個に分割したが、格子部8で外縁部7の内側を区画する数は何個でもよい。本実施形態では、切削溝を、加熱対象領域Aの第1のブロックA1と、第2のブロックA2と、第3のブロックA3の境界に沿うと共に、各ブロックA1~A3を
図2の縦方向に3分割するように形成する。
【0024】
加熱対象領域Aは、切削溝6の外縁部7で確定される撤去の対象領域よりも内側に設定される。換言すれば、加熱対象領域Aの外側に、切削溝6の外縁部7を形成する。本実施形態では、切削溝6の外縁部7を、加熱対象領域Aの外周に対して5cm外側に形成する。加熱対象領域Aは、ロードヒーターの加熱面積に基づいて設定され、本実施形態では、ロードヒーターの加熱面積の3倍に相当する面積の加熱対象領域Aが設定されている。加熱対象領域Aの第1乃至第3ブロックA1~A3の夫々は、ロードヒーターの加熱面積と実質的に同一の面積を有する。
【0025】
溝形成工程で形成する切削溝6の幅は、アスファルトカッターの切削ブレードの幅に応じて3mmから20mmまでの間に設定できる。ここで、切削溝6の幅は、広く普及する切削ブレードに対応し、5mmを採用するのが好ましい。切削溝6の深さは、コンクリート床版5の損傷を防ぐため、基層2の下面よりも数mm程度上方に設定するのが好ましい。
【0026】
アスファルト舗装体1に切削溝6を形成することにより、切削溝6の格子部8と加熱対象領域Aとが重なる部分において、格子部8を通してアスファルト舗装体1の内部に効果的に熱を伝えることができる。したがって、加熱対象領域Aにおけるアスファルト舗装体1の加熱効率を効果的に向上できる。また、加熱対象領域Aの外周の5cm外側に、切削溝6の外縁部7を形成したので、加熱工程で加熱対象領域Aを加熱する際に、外縁部7の外側への熱の伝達を遮断できる。したがって、アスファルト舗装体1の残存部分に対する熱の影響を効果的に防止できる。
【0027】
アスファルト舗装体1に切削溝6を形成した後、先に加熱対象領域A内に作成したコア孔の底に、コンクリート床版5の表面温度を測定するための熱電対を設置する。なお、コンクリート床版5の表面温度を測定するため、他の温度センサを使用してもよい。この熱電対で測定したコンクリート床版5の表面温度に基づいて、後述する加熱工程の第1乃至第3の加熱強度の設定や、加熱工程の第1段階における第1加熱実行工程と第1養生実行工程のサイクルの回数や、第2段階における第2加熱実行工程と第2養生実行工程のサイクルの回数や、第3段階における第3加熱実行工程と第3養生実行工程のサイクルの回数等を決定する。
【0028】
図3は、本実施形態の加熱工程において、コンクリート床版5上のアスファルト舗装体1をロードヒーター11で加熱する様子を示す模式図である。ロードヒーター11は、アスファルト舗装体1に対向して配置され、燃料のプロパンガスを燃焼してアスファルト舗装体1を加熱する複数の赤外線加熱器12と、燃料のプロパンガスを供給するガスボンベ13と、走行方向の一端側と他端側に設けられた車輪14,15と、走行方向の他端側に設けられたハンドル16を備える。赤外線加熱器12は、燃料を噴射する燃料ノズルと、金属網やセラミック板等で形成され、上記燃料ノズルで噴射された燃料を燃焼して赤外線を生成する赤外線発生体を有する。この赤外線加熱器12は、走行方向に延在する概ね直方体の形状を有し、幅方向に複数個配置されている。ロードヒーター11の加熱強度は、赤外線加熱器12への燃料の供給圧力を調節することで設定される。ハンドル16は、ロードヒーター11を移動する際に、作業者によって把持されて操作される。このロードヒーター11は比較的軽量であるため、人力で操作や移動が可能であり、また、搬入や搬出の作業も容易に行うことができる。また、後述する加熱実行工程と養生実行工程を繰り返す作業を容易に行うことができる。このようなロードヒーター11として、範多機械株式会社製のRH-900を採用することができる。
【0029】
(加熱工程)
本実施形態の加熱工程は、上記ロードヒーター11を用いて、第1段階から第3段階までの工程を行い、アスファルト舗装体1を加熱して軟化する。
【0030】
(第1段階)
図4Aは、加熱工程の第1段階において、加熱対象領域Aの第1ブロックをロードヒーター11で加熱する第1加熱実行工程の様子を示す平面図である。ここで、アスファルト舗装体1に切削溝6を形成した後であって、加熱工程を行う前に、加熱工程で加熱対象領域Aの周囲に熱の影響が及ばないように、加熱対象領域Aを取り囲むように枠状の遮熱シート20を予め配置する。加熱工程の第1段階では、第1の加熱強度で第1の加熱時間の加熱を行う第1加熱実行工程と、この第1加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して第1の養生時間の養生を行う第1養生実行工程を、コンクリート床版5の表面温度が第1の基準温度に達するまで繰り返す。上記第1の基準温度は、30℃以上40℃未満であり、加熱の開始時のコンクリート床版5の温度に応じて設定する。例えば、冬季においてコンクリート床版5の表面温度が10℃程度の場合は第1の基準温度を30℃程度に設定し、夏季においてコンクリート床版5の表面温度が30℃程度の場合は第1の基準温度を39℃程度に設定する。
【0031】
加熱工程の第1段階は、アスファルト舗装体1に対する加熱の最初の段階であり、第1加熱実行工程の第1の加熱強度を、加熱開始時のアスファルト舗装体1の表面温度に応じて適宜調節する。また、アスファルト舗装体1の温度が加熱工程中で最も低いことから、第1加熱実行工程の第1の加熱時間は、後述する第2及び第3段階の第2及び第3の加熱時間よりも長く確保する。第1養生実行工程は、第1加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して養生を行うことにより、アスファルト舗装体1の深さ方向に熱を拡散させて、深さ方向における温度を均一にする。第1の養生時間は、第1の加熱時間よりも長く設定する。
【0032】
図4Bは、加熱工程の第1段階において、加熱対象領域Aの第1ブロックA1で第1養生実行工程を行うと共に、第2ブロックA2で第1加熱実行工程を行う様子を示す平面図である。
図4Bに示すように、加熱対象領域Aの第1ブロックA1に矩形の遮熱シート22を配置し、第1ブロックA1の養生を行う。この養生により、
図4Aの第1加熱実行工程で与えられた熱を、加熱対象領域Aの第1ブロックA1の深さ方向に拡散する。また、
図4Bに示すように、加熱対象領域Aの第1ブロックA1から第2ブロックA2にロードヒーター11を移動させ、第2ブロックA2において、第1ブロックA1と同様の第1の加熱強度と第1の加熱時間による加熱実行工程を行う。
【0033】
図4Cは、加熱工程の第1段階において、加熱対象領域Aの第1ブロックA1と第2ブロックA2で第1養生実行工程を行うと共に、第3ブロックA3で第1加熱実行工程を行う様子を示す平面図である。
図4Cに示すように、加熱対象領域Aの第1ブロックA1は、
図4Bから引き続いて養生を行う。第2ブロックA2では、矩形の遮熱シート22を配置して養生を行う。また、第2ブロックA2から第3ブロックA3にロードヒーター11を移動させ、第3ブロックA3において、第1ブロックA1と同様の第1の加熱強度と第1の加熱時間による加熱実行工程を行う。
【0034】
上記
図4A乃至4Cに示す工程を繰り返すことにより、加熱対象領域Aの第1ブロックA1から第3ブロックA3において、第1養生実行工程及び第1養生実行工程をブロック毎にずらして実行する。第1ブロックA1から第3ブロックA3において、第1加熱実行工程と第1養生実行工程のサイクルを、コンクリート床版5の表面温度を測定しながら繰り返す。コンクリート床版5の表面温度が第1の基準温度に達すると、上記第1加熱実行工程と第1養生実行工程のサイクルを終了し、第1段階を終了する。
【0035】
(第2段階)
加熱工程の第2段階では、第2の加熱強度で第2の加熱時間の加熱を行う第2加熱実行工程と、この第2加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して第2の養生時間の養生を行う第2養生実行工程を、コンクリート床版5の表面温度が第2の基準温度に達するまで繰り返す。上記第2の基準温度は、40℃以上50℃未満であり、第1の基準温度に応じて設定する。
【0036】
第2の加熱強度は、第1の基準温度と第2の基準温度の差や、気温等に基づいて設定する。第2の加熱時間は、第1の加熱時間よりも短く設定する。また、第2の養生時間は、第1の養生時間よりも短く設定する。
【0037】
加熱工程の第2段階は、上記第2の加熱強度と、上記第2の加熱時間と、上記第2の養生時間の設定で、第1段階と同様に、加熱対象領域Aの第1ブロックA1から第3ブロックA3について、第2加熱実行工程と第2養生実行工程のサイクルを、コンクリート床版5の表面温度を測定しながら繰り返す。第2段階において、ロードヒーター11を第1ブロックA1から第3ブロックA3まで移動させて順次第2加熱実行工程と第2養生実行工程を行う様子は、
図4A乃至4Cと同様である。コンクリート床版5の表面温度が第2の基準温度に達すると、上記第2加熱実行工程と第2養生実行工程のサイクルを終了し、第2段階を終了する。
【0038】
(第3段階)
加熱工程の第3段階では、第3の加熱強度で第3の加熱時間の加熱を行う第3加熱実行工程と、この第3加熱実行工程で加熱した領域を遮熱シートで被覆して第3の養生時間の養生を行う第3養生実行工程を、コンクリート床版5の表面温度が第3の基準温度に達するまで繰り返す。上記第3の基準温度は、50℃以上60℃未満であり、第2の基準温度に応じて設定する。
【0039】
第3の加熱強度は、第1の加熱強度及び第2の加熱強度以下に設定する。第3の加熱時間は、第2の加熱時間よりも短く設定する。また、第3の養生時間は、第2の養生時間よりも短く設定する。
【0040】
加熱工程の第3段階は、上記第3の加熱強度と、上記第3の加熱時間と、上記第3の養生時間の設定で、第1段階と同様に、加熱対象領域Aの第1ブロックA1から第3ブロックA3について、第3加熱実行工程と第3養生実行工程のサイクルを、コンクリート床版5の表面温度を測定しながら繰り返す。第3段階において、ロードヒーター11を第1ブロックA1から第3ブロックA3まで移動させて順次第3加熱実行工程と第3養生実行工程を行う様子は、
図4A乃至4Cと同様である。コンクリート床版5の表面温度が第3の基準温度に達すると、上記第3加熱実行工程と第3養生実行工程のサイクルを終了し、第3段階を終了する。
【0041】
加熱工程の第1乃至第3段階において、ロードヒーター11による上記第1乃至第3の加熱強度は、アスファルト舗装体1の表面温度が340℃以下となる強度に設定する。これにより、アスファルト舗装体1の発煙や発火、ひいては発煙や発火による悪臭の発生を効果的に防止できる。
【0042】
本実施形態の加熱工程によれば、第1段階から第3段階までを行うことにより、アスファルト舗装体1の深さ方向において実質的に均一の温度となるように、加熱を行うことができる。したがって、アスファルト舗装体1を均一に軟化することができる。また、アスファルト舗装体1を加熱する際のコンクリート床版5の表面温度を60℃未満にできるので、コンクリート床版5の劣化を効果的に防止できる。
【0043】
(人力除去工程)
上記加熱工程でアスファルト舗装体1を加熱した後、アスファルト舗装体1の軟化した部分を人力で除去する人力除去工程を行う。詳しくは、加熱工程でアスファルト舗装体1を加熱して軟化した加熱対象領域Aについて、軟化した基層2や表層3のアスファルトを、作業者がシャベル等を用いて人力で撤去する。この人力除去工程は、コンクリートブレーカを使用しないので、従来の斫り工法よりも小さい騒音で、アスファルト舗装体1を撤去することができる。
【0044】
(リッパー除去工程)
アスファルト舗装体1の加熱対象領域Aを人力除去工程で除去した後、この人力除去工程で除去されずに残った部分を、リッパー除去工程で除去する。詳しくは、アスファルト舗装体1の加熱対象領域Aの外周と、切削溝6の外縁部7との間の部分は軟化されず、人力除去工程では除去されずに残留している。この部分を、重機に装着したリッパーを用いて除去する。
図5は、アスファルト舗装体1に形成された切削溝6の外縁部7の内側に残留した部分を、リッパー25を用いて除去する様子を模式的に示す断面図である。リッパー除去工程で除去する対象部分は、アスファルト舗装体1の加熱対象領域Aの外周と、切削溝6の外縁部7との間の部分である。この部分は、アスファルト舗装体1の切削溝6の外側の部分に対して外縁部7で実質的に分離されており、底面がタックコートでコンクリート床版5に密着されているのみである。したがって、リッパー25の先端をアスファルト舗装体1とコンクリート床版5との間に挿入して持ち上げることにより、対象部分を比較的容易にコンクリート床版5とアスファルト舗装体1の外縁部7の外側の部分から離脱させ、また、比較的小さい破片に分解することができる。こうしてコンクリート床版5から離脱し、分解した対象部分は、体積が比較的小さいため、人力により、搬出用の台車や車両に移すことができる。また、重機に装着されたリッパー25で作業を行う際に発生する騒音は、コンクリートブレーカを使用する斫り工法で発生する騒音よりも小さいので、周辺環境に与える影響を少なくできる。
【0045】
上記リッパー除去工程により、アスファルト舗装体1の切削溝6の外縁部7の内側に残留した部分を除去した後、上記切削溝6の外縁部7の内側に、アスファルト合材等を配置することにより、舗装の復旧を行うことができる。
【0046】
本実施形態のアスファルト舗装体の撤去方法によれば、上記加熱工程と人力除去工程により、床版に対する損傷を防止しながら、小さい騒音でアスファルト舗装体を撤去することができる。
【0047】
上記実施形態において、アスファルト舗装体1は、密粒アスファルトで形成された基層2と、密粒ギャップアスファルトで形成された表層3を有したが、表層を透水性アスファルトで形成した排水性舗装についても、本発明を適用することができる。
【0048】
また、上記実施形態において、コンクリート床版5上に設置されたアスファルト舗装体1を対象としたが、鋼床版上に設置されたアスファルト舗装体についても、本発明を適用できる。本発明は、鋼床版上のアスファルト舗装体を撤去する場合において、鋼床版の表面温度を60℃未満に抑制して鋼床版に関する損傷を防止しながら、少ない騒音でアスファルト舗装体を撤去することができる。
【0049】
また、上記実施形態において、加熱対象領域Aを第1ブロックA1から第3ブロックA3までの3個に分割したが、加熱対象領域を分割する個数は3個に限定されず、2個又は4個以上の何個でもよい。
【0050】
(実施例)
上記実施形態のアスファルト舗装体の撤去方法を、コンクリート床版5の表面温度が比較的高い夏季に実施した実施例1と、コンクリート床版5の表面温度が比較的低い冬季に実施した実施例2について、施工時の騒音と、アスファルト舗装体1の加熱対象領域Aの人力除去の可否について確認した。表1は実施例1及び2の加熱工程における条件であり、表2は実施例1及び2の結果である。
【0051】
【0052】
【0053】
表2において、〇は、人力による除去が可能であることを示す。表2に示すように、実施例1及び2のいずれも、アスファルト舗装体1の加熱対象領域Aが軟化し、人力による除去が可能であった。また、騒音は、コンクリートブレーカを用いた場合の90dBに対して大幅に小さい値となった。ここで、実施例1及び2の騒音は、いずれもリッパー除去工程で生じた騒音である。
【0054】
本発明は、以上説明した実施の形態に限定されるものではなく、多くの変形が、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 アスファルト舗装体
2 基層
3 表層
5 コンクリート床版
6 切削溝
7 切削溝の外縁部
8 切削溝の格子部
9 コア切削線
11 ロードヒーター
12 赤外線加熱器
20,22 遮熱シート
25 リッパー
A 加熱対象領域
A1 加熱対象領域の第1ブロック
A2 加熱対象領域の第2ブロック
A3 加熱対象領域の第3ブロック
【要約】
【課題】騒音が少なく、また、鋼製とコンクリート製のいずれの床版にも適用でき、しかも、床版に対するダメージの少ないアスファルト舗装体の撤去方法を提供する。
【解決手段】
溝形成工程で、床版上のアスファルト舗装体1に切削溝6を形成する。加熱工程で、切削溝6の内側の加熱対象領域Aを、ロードヒーターで3段階の加熱を行う。第1段階で、第1加熱実行工程と第1養生実行工程を、床版の表面温度が第1の基準温度に達するまで繰り返す。第2段階で、第2加熱実行工程と第2養生実行工程を、床版の表面温度が第2の基準温度に達するまで繰り返す。第3段階で、第3加熱実行工程と第3養生実行工程を、床版の表面温度が第3の基準温度に達するまで繰り返す。加熱実行工程と養生実行工程は、加熱対象領域Aの第1乃至第3ブロックA1,A2,A3を順に加熱して行う。加熱工程でアスファルト舗装体1の軟化した部分を、人力除去工程で人力で除去する。
【選択図】
図2