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  • 特許-アルミニウム合金ブレージングシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-18
(45)【発行日】2024-09-27
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ブレージングシート
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/22 20060101AFI20240919BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20240919BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240919BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20240919BHJP
   F28F 19/06 20060101ALI20240919BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20240919BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20240919BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20240919BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240919BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20240919BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22C21/00 D
C22C21/00 J
C22F1/04 A
C22F1/04 Z
F28F19/06 A
F28F21/08 D
B23K1/00 S
B23K1/00 330H
B23K1/19 F
B23K1/19 D
C22C21/00 E
C22F1/00 614
C22F1/00 623
C22F1/00 626
C22F1/00 627
C22F1/00 630A
C22F1/00 630G
C22F1/00 651A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
B23K101:14
B23K103:10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024507101
(86)(22)【出願日】2023-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2023031822
(87)【国際公開番号】W WO2024048723
(87)【国際公開日】2024-03-07
【審査請求日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2022138306
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】川上 隆之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-095758(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189427(WO,A1)
【文献】特開2019-108597(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169492(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/22
B23K 35/28
C22C 21/00
C22F 1/04
F28F 19/06
F28F 21/08
B23K 1/00
B23K 1/19
C22F 1/00
B23K 101/14
B23K 103/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる心材の一方の面にろう材が貼り合わされ、ろう材が貼り合わされた心材の他方の面に犠牲陽極材が貼り合わされたアルミニウム合金ブレージングシートであって、
前記心材が、質量%で、Mn:1.3~1.8%、Si:0.6~1.1%、Cu:0.6~1.3%、Zr:0.05~0.3%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
前記ろう材が、質量%で、Si:6.0~13.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
前記犠牲陽極材が、質量%で、Mn:1.3~1.8%、Si:0.4~0.9%、Zn:2.0~8.0%、Zr:0.05~0.3%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
ろう付前の心材に含まれる円相当径で0.01μm以上1.0μm未満の径を有するAl-Mn-Si系金属間化合物の分布密度が0.65×10個/mm~5.0×10個/mmであり、
ろう付前の心材に含まれる円相当径で0.01μm以上1.0μm未満の径を有するAl-Zr系金属間化合物の分布密度が0.05×10個/mm~0.5×10個/mmであることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
ろう付熱処理後のアルミニウム合金ブレージングシート単体の片振り平面曲げ疲労試験における破断寿命をX、試験初期のひずみ値をYとした際に、
Y≧1.0×10×X(-0.30)の関係を有し、
ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシートの0.2%耐力が58MPa以上であり、n値が0.25以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
前記心材に、さらに質量%で、Fe:0.1~0.7%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.3%、Zn:0.05~1.0%のうち、1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項4】
前記ろう材に、さらに質量%で、3.5%以下のZnを含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項5】
前記犠牲陽極材に、さらに質量%で、Fe:0.1~0.7%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.3%のうち、1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項6】
前記犠牲陽極材に、さらに質量%で、Fe:0.1~0.7%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.3%のうち、1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項7】
前記犠牲陽極材に、さらに質量%で、Fe:0.1~0.7%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.3%のうち、1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項8】
フィンにろう付される熱交換器用のチューブとして適用される請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項9】
フィンにろう付される熱交換器用のチューブとして適用される請求項3に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項10】
フィンにろう付される熱交換器用のチューブとして適用される請求項4に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項11】
フィンにろう付される熱交換器用のチューブとして適用される請求項5に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金ブレージングシートに関する。本願は、2022年08月31日に、日本国に出願された特願2022-138306号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車用熱交換器、例えばラジエータは、自動車の走行時に高温となるエンジンを冷却するための媒体を冷却するために用いられる。高温の媒体の熱は熱伝達によりチューブを介してフィンへ伝わるため、媒体は冷却される。一方でチューブやフィンは熱せられるため熱膨張する。ここで、チューブは一方の面をヘッダープレートに固定され、他方をフィンに固定されている。このため、チューブが熱膨張するとヘッダープレートの長手方向の端部に位置するチューブのヘッダープレート根付部に応力が集中し、根付部のチューブに亀裂を生じるおそれがある。
【0003】
この対策として、熱交換器の構造を変更することがなされている。ただし、熱交換器の構造を変更できないものは、チューブに使用されるアルミニウム合金の強度を上げることで亀裂の進展を抑制できるという報告がなされている。
【0004】
アルミニウム合金の強度とろう付性を向上させる技術として、例えば、以下の特許文献1に記載の心材とろう材を備えるアルミニウム合金ブレージングシートが知られている。
このブレージングシートは、心材に含まれるMn量、Si量、Fe量、Cu量を規定し、ろう材に含まれるSi量、Fe量を規定した上に、心材に含まれるFeを含有する金属間化合物であって、円相当径1~100μmの金属間化合物が占める面積率を3%以下に規定している。
また、疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板として、以下の特許文献2に記載の心材と犠牲防食材からなるクラッド材が知られている。このクラッド材は、心材に含まれるSi量とCu量とMn量とTi量とFe量を規定し、心材の集合組織における圧延方向に対し45°方向のCube方位の面積率を10~15%に規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-234376号公報
【文献】特許第5452027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アルミニウム合金の強度を上げることで亀裂の進展を抑制することを目的に、チューブに適用される3層構造のクラッド材において、ろう材にMgを添加し強度を向上させることが可能である。
しかしながら、ろう材にMgを添加すると、熱交換器のろう付時にアルミニウム合金の酸化皮膜を除去するために塗布されるフッ化物系フラックスとMgが先に反応する。この反応により、フッ化マグネシウムを生成し不活性化するため、ろう付性を阻害する問題がある。
そのため、アルミニウム合金を用いた電縫溶接により扁平管の形状に加工するなど、ろう付する面からMgを隔離する使用方法が必要となる。従って、チューブ自体で流路を形成するような加工を施した後、流路を封するためにろう付される構成の熱交換器には、Mgを添加したアルミニウム合金を適用できない問題がある。
【0007】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、熱交換器などに用いて好適な心材とろう材と犠牲陽極材を備えたブレージングシートにおいて、ろう付後の耐力に優れ、破断までの寿命を長くできるアルミニウム合金ブレージングシートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本形態は、アルミニウム合金からなる心材の一方の面にろう材が貼り合わされ、ろう材が貼り合わされた心材の他方の面に犠牲陽極材が貼り合わされたアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記心材が、質量%で、Mn:1.3~1.8%、Si:0.6~1.1%、Cu:0.6~1.3%、Zr:0.05~0.3%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記ろう材が、質量%で、Si:6.0~13.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠牲陽極材が、質量%で、Mn:1.3~1.8%、Si:0.4~0.9%、Zn:2.0~8.0%、Zr:0.05~0.3%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう付前の心材に含まれる円相当径で0.01μm以上1.0μm以下の径を有するAl-Mn-Si系金属間化合物の分布密度が0.65×10個/mm~5.0×10個/mmであり、ろう付前の心材に含まれる円相当径で0.01μm以上1.0μm以下の径を有するAl-Zr系金属間化合物の分布密度が0.05×10個/mm~0.5×10個/mmであることを特徴とする。
【0009】
(2)本形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、ろう付熱処理後のアルミニウム合金ブレージングシート単体の片振り平面曲げ疲労試験における破断寿命をX、試験初期のひずみ値をYとした際に、Y≧1.0×10×X(-0.30)の関係を有し、ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシートの0.2%耐力が58MPa以上であり、n値が0.25以上であることが好ましい。
(3)本形態に係る(1)または(2)に記載のアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記心材に、さらに質量%で、Fe:0.1~0.7%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.3%、Zn:0.05~1.0%のうち、1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0010】
(4)本形態に係る(1)~(3)のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記ろう材に、さらに質量%で、3.5%以下のZnを含有することが好ましい。
(5)本形態に係る(1)~(4)の何れかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記犠牲陽極材に、さらに質量%で、Fe:0.1~0.7%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.3%のうち、1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0011】
(6)本形態に係る(1)~(5)の何れかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートは、フィンにろう付される熱交換器用のチューブとして適用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ろう付後の耐力に優れ、破断寿命を長くできるアルミニウム合金ブレージングシートを提供できる。
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートからチューブを構成することにより、チューブの耐力向上、チューブの破断寿命の向上をなし得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートの第1実施形態を示す断面図。
図2】本形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートからなるチューブを備えた熱交換器の一例を示す斜視図。
図3】実施例で行った平面曲げ試験の状態を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照し、実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0015】
本実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートAは、一例として、図1に示すように、アルミニウム合金からなる心材1の一方の面にろう材2を他方の面に犠牲陽極材3を貼り合わせたクラッド材からなる。
なお、ブレージングシートAは、心材1とろう材2をそれぞれ複層構造とすることができ、心材1とろう材2の間に犠牲陽極材を設けるなどの構成とした4層構造や5層構造としても良い。
【0016】
「心材」
本実施形態において心材1は、質量%で、Mn:1.3~1.8%、Si:0.6~1.1%、Cu:0.6~1.3%、Zr:0.05~0.3%を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなる。
なお、本明細書に記載の質量%の範囲について「~」を用いて表記する場合、特に指定しない限り、下限と上限を含む表記とする。よって、一例として1.3~1.8%は、1.3%以上1.8%以下の含有量であることを意味する。
心材1を構成するアルミニウム合金には、上述の元素に加え、Fe:0.1~0.7%、Ti:0.01~0.3%、Cr: 0.01~0.3%、Zn:0.05~1.0%の中から1種または2種以上を適宜選択して添加することができる。
【0017】
Mn:1.3~1.8%
Mnは、心材1の材料強度を向上するために上述の範囲添加する。Mnは、固溶強化により心材1の材料強度を向上させるとともに、心材1において、Al-Mn系、Al-Mn-Si系、Al-Mn-Fe-Si系などの金属間化合物の析出に寄与し、分散強化作用を奏する。
Mn含有量が1.3%未満では所望の強度向上効果を得られない。Mn含有量が1.8%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下する。Mn含有量は、1.31~1.77%であることが好ましく、1.43~1.77%であることがより好ましい。
Si:0.6~1.1%
Siは、心材1の材料強度を向上するために上述の範囲添加する。Siは、固溶強化により材料強度を向上させるとともに、心材1において、Al-Mn-Si系、Al-Mn-Fe-Si系などの金属間化合物の析出に寄与し、分散強化作用を奏する。
Si含有量が0.6%未満では所望の強度向上効果が得られない。Si含有量が1.1%を超えると、心材1の母相融点が低下し、ろう付時に局部溶融を生じるおそれがある。Si含有量は、0.61~1.09%であることが好ましく、0.61~1.01%であることがより好ましい。
【0018】
Cu:0.6~1.3%
Cuは、固溶強化により心材1の材料強度を向上させるために上述の範囲添加する。Cu含有量が0.6%未満では所望の強度向上効果が得られない。Cu含有量が1.3%を超えると、心材1の母相融点が低下し、ろう付時に局部溶融を生じるおそれがある。また、Cu含有量が1.3%を超えると耐食性が低下するおそれがある。Cu含有量は、0.61~1.28%であることが好ましく、0.68~1.11%であることがより好ましい。
Zr:0.05~0.3%
Zrは、心材1の材料強度を向上するために上述の範囲添加する。Zrは、固溶強化により心材1の材料強度を向上させるとともに、心材1において、Al-Mn-Si系化合物およびAl-Zr系の金属間化合物の析出に寄与し、分散強化作用を奏する。
Zr含有量が0.05%未満では所望の強度向上効果が得られない。Zr含有量が0.3%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下する。Zr含有量は、0.05~0.29%であることが好ましく、0.05~0.22%であることがより好ましい。
【0019】
Fe:0.1~0.7%
Feは、心材1の材料強度を向上するために上述の範囲添加する。Feは、固溶強化により心材1の材料強度を向上させるとともに、心材1において、Al-Fe系、Al-Fe-Si系、Al-Mn-Fe-Si系、などの金属間化合物の析出に寄与し、分散強化作用を奏する。好ましくはFe:0.3%~0.7%である。
Fe含有量が0.1%未満では高純度のアルミニウムを使用する必要があるためコストがかかる。Fe含有量が0.7%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下する。なお不可避不純物としては0.3%未満が含まれても良い。Fe含有量は、0.11~0.68%であることが好ましく、0.11~0.51%であることがより好ましい。
Ti,Cr:0.01~0.3%
Ti,Crは、心材1の材料強度を向上するためにそれぞれ上述の範囲添加できる。Ti,Crは、Al-Ti系、Al-Cr系の金属間化合物として析出し、分散強化により心材1の強度向上に寄与する。Ti,Cr含有量がそれぞれ0.01%未満では所望の強度向上効果が得られない。Ti,Cr含有量がそれぞれ0.3%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下する。
【0020】
Zn:0.05~1.0%
Znは、疲労寿命を向上するために上述の範囲添加する。上述の範囲のZnを含有していることが望ましい。
Zn含有量が0.05%未満の場合、所望の効果を得ることができなくなる。Zn含有量が1.0%を超える場合、疲労寿命向上には問題がないが、ブレージングシートの耐食性が低下する。Zn含有量は、0.05~0.90%であることが好ましく、0.10~0.80%であることがより好ましい。
【0021】
「ろう材」
本実施形態においてろう材2は、質量%で、Si:6.0~13.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。
ろう材2を構成するアルミニウム合金には、上述のSiに加え、Zn:3.5質量%以下を添加することができる。
Si:6.0~13.0%
Siは、Alの融点を低下させ、ろう材2がろう付中に溶融して他の部材とろう付する際のろうとなるために必要である。Si含有量が6.0%未満の場合、充分な溶融ろうが生成せず、ろう付不良となるおそれがある。Si含有量が13.0%を超えると、心材へのろう侵食が生じろう付不良となるおそれがある。Si含有量は、6.2~12.5%であることが好ましく、7.5~12.5%であることがより好ましい。
Zn:3.5%以下
Znは、ろう材の電位を卑とし、犠牲陽極作用により心材1を防食する効果を奏する。Znを添加しない場合、ろう材による犠牲陽極効果を得ることができなくなる。ろう材2に3.5%を超えるZnを含有させると、腐食速度が増加し、耐食性が低下するおそれがある。Zn含有量は、0.11~3.49%であることが好ましく、0.56~2.00%であることがより好ましい。
【0022】
「犠牲陽極材」
本実施形態において犠牲陽極材3は、質量%で、Mn:1.3~1.8%、Si:0.4~0.9%、Zn:2.0~8.0%、Zr:0.05~0.3%を含有し、残部が不可避不純物とAlからなるアルミニウム合金からなる。
犠牲陽極材3を構成するアルミニウム合金に、上述の元素に加え、Fe:0.1~0.7%、Ti:0.01~0.3%、Cr: 0.01~0.3%の中から1種または2種以上を適宜選択して添加することができる。
【0023】
Mn:1.3~1.8%
Mnは、犠牲陽極材3の材料強度を向上するために上述の範囲添加する。Mnは、固溶強化により犠牲陽極材3の材料強度を向上させるとともに、犠牲陽極材3において、Al-Mn系、Al-Mn-Si系、Al-Mn-Fe-Si系などの金属間化合物の析出に寄与する。
Mn含有量が1.3%未満では所望の強度向上効果を得られない。Mn含有量が1.8%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下する。Mn含有量は、1.32~1.78%であることが好ましく、1.40~1.65%であることがより好ましい。
Si:0.4~0.9%
Siは、犠牲陽極材3の材料強度を向上するために上述の範囲添加する。Siは、固溶強化により材料強度を向上させるとともに、犠牲陽極材3において、Al-Mn-Si系、Al-Mn-Fe-Si系などの金属間化合物の析出に寄与し、分散強化作用を奏する。
Si含有量が0.4%未満では所望の強度向上効果が得られない。Si含有量が0.9%を超えると、犠牲陽極材3の母相融点が低下し、ろう付時に局部溶融を生じるおそれがある。Si含有量は、0.41~0.88%であることが好ましく、0.41~0.79%であることがより好ましい。
【0024】
Zn:2.0~8.0%
Znは、犠牲陽極材3の電位を卑とし、犠牲陽極作用により心材1を防食する。Zn含有量が2.0%未満では所望の犠牲陽極効果を得ることができず、Zn含有量が8.0%を超えると腐食速度が増加し、耐食性が低下するおそれがある。Zn含有量は、2.3~7.9%であることが好ましく、3.50~6.96%であることがより好ましい。
Zr:0.05~0.3%
Zrは、犠牲陽極材3の材料強度を向上するために上述の範囲添加する。Zrは、固溶強化により犠牲陽極材3の材料強度を向上させるとともに、犠牲陽極材3において、Al-Mn-Si系およびAl-Zr系の金属間化合物の析出に寄与し、分散強化作用を奏する。
Zr含有量が0.05%未満では所望の強度向上効果が得られない。Zr含有量が0.3%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下する。Zr含有量は、0.05~0.28%であることが好ましく、0.05~0.22%であることがより好ましい。
【0025】
Fe:0.1~0.7%
Feは、犠牲陽極材3の材料強度を向上するために上述の範囲添加する。Feは、犠牲陽極材3において、Al-Fe系、Al-Fe-Si系、Al-Mn-Fe-Si系、などの金属間化合物の析出に寄与し、分散強化作用を奏する。
Fe含有量が0.1%未満では不可避不純物以下となり制御ができない。Fe含有量が0.7%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下する。Fe含有量は、0.11~0.68%であることが好ましく、0.11~0.48%であることがより好ましい。
Ti,Cr:0.01~0.3%
Ti,Crは、犠牲陽極材3の材料強度を向上するためにそれぞれ上述の範囲添加できる。Ti,Crは、Al-Ti系、Al-Cr系の金属間化合物として析出し、分散強化により犠牲陽極材3の強度向上に寄与する。Ti,Cr含有量がそれぞれ0.01%未満では所望の強度向上効果が得られない。Ti,Cr含有量がそれぞれ0.3%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下する。
【0026】
以上説明のアルミニウム合金ブレージングシートAは、熱交換器などを製造する場合のろう付温度、例えば、590~620℃程度の温度範囲である不活性ガス雰囲気中に1~30分程度設置してろう付する目的に使用される。
例えば、種々の熱交換器のチューブやフィンあるいは種々形状の成形体などのろう付部材と積層する形式で熱交換器の組立に利用され、チューブやフィン、あるいは、成形体を組み付け後、全体をろう付温度に加熱し、ろう材2を溶融させた後、常温に冷却することでろう付が完了する。
【0027】
本実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートAは、所望のろう付後耐力を得るために、ろう付前のAl-Mn-Si系金属間化合物およびAl-Zr系金属間化合物を最適な分布状態にする必要がある。
いずれの金属間化合物も最適な粒子サイズは、化合物粒子サイズが0.01μm以上、1μm以下である。
これら金属間化合物の粒子サイズ(円相当径)が0.01μm未満であると、ろう付時にマトリクスへAl-Mn-Si系金属間化合物あるいはAl-Zr系金属間化合物の再固溶がなされ、ろう付後の機械的性質が低下し、疲労寿命が低下する。金属間化合物の粒子サイズが1μmを超える場合においても、ろう付後の機械的性質が低下し、同じく疲労寿命が低下する。
また、分散密度に関し、Al-Mn-Si系金属間化合物は、0.65×10~5.0×10個/mmの範囲、Al-Zr系金属間化合物は、0.05×10~0.5×10個/mmの範囲であることを要する。
Al-Mn-Si系金属間化合物については、0.66×10~2.36×10個/mmの範囲であることが好ましく、1.03×10~2.06×10個/mmの範囲であることがより好ましい。
Al-Zr系金属間化合物については、0.14×10~0.44×10個/mmの範囲であることが好ましく、0.14×10~0.29×10個/mmの範囲であることがより好ましい。
【0028】
金属間化合物の観察は、圧延方向に平行な断面にクロスセクションポリッシャ加工を施し、加工を施した断面に対し、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)より二次電子像を倍率×30000で例えば10枚取得し、平均値として得ることができる。取得した画像より、金属間化合物の粒子の円相当径および分布密度を算出できる。
【0029】
ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシートAは、ブレージングシート単体の片振り平面曲げ疲労試験における破断寿命をX、試験初期のひずみ値をYとした際に、Y≧1.0×10×X(-0.30)の関係を有することが好ましい。
また、Y=1.0~2.0×10×X(-0.20~-0.30)の関係であることがより好ましい。
更に、ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシートの0.2%耐力が58MPa以上であり、n値が0.25以上であることが好ましい。耐力については60MPa以上であることがより好ましい。
上述のろう付後耐力とn値を有するならば、ブレージングシートAから構成したチューブにフィンをろう付して熱交換器を製造した場合、高温となる自動車用熱交換器のラジエータを構成し、高温の媒体からの熱を受けてチューブが熱膨張したとして、早期にチューブに亀裂などを生じない疲労特性に優れたチューブを備えたラジエータを提供できる。
n値については、0.28以上0.35以下がより好ましく、0.29以上0.34以下が最も好ましい。
【0030】
ろう付後におけるアルミニウム合金ブレージングシートAの0.2%耐力とは、ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシートを圧延方向と平行になるようにJIS5号試験片を作製し、各試料3本ずつ引張試験を実施して得ることができる。
ろう付後の耐力及びn値が0.25未満であると、疲労寿命が短くなり、ブレージングシートから構成したチューブとフィンをろう付して熱交換器を製造した場合、早期にチューブに亀裂を生じるおそれがある。
【0031】
図2は、前記ブレージングシートAを用いてチューブ6を構成し、ろう付対象材としてアルミニウム合金製のフィン5を用いたアルミニウム製熱交換器4を示している。フィン5、チューブ6を、補強材7、ヘッダープレート8と組み込んで、ろう付によって自動車用途などのアルミニウム合金製の熱交換器4を得ることができる。
【0032】
図2に示す構成の熱交換器4であるならば、チューブ6の内部を高温の媒体が流動し、熱を受けてチューブ6が膨張し、ヘッダープレート8との接合部分に応力が作用したとして、ヘッダープレート8との接合部分において亀裂や破断を生じ難い熱交換器4を提供できる。
【0033】
「製造方法」
上述のブレージングシートAを製造するには、目的の組成の心材1とろう材2と犠牲陽極材3をそれぞれ構成するためのアルミニウム合金を製造する。例えば、半連造鋳造方法により上述の各組成の心材1用のアルミニウム合金と、ろう材2用のアルミニウム合金と、犠牲陽極材3用のアルミニウム合金を鋳造する。
鋳造により形成した心材1用のアルミニウム合金に対し、400℃以上600℃以下の所望の温度で、処理時間1hから10hの範囲で均質化処理を施すことができる。これにより、所望する特性を得るための適切な金属間化合物の分散状態が得られる。上述の所望温度を外れ、所望時間を外れた条件で均質化処理を施すと、所望する金属間化合物の分散状態が得られない。より好ましくは520℃~590℃、処理時間5h~9hの条件とする。
【0034】
ろう材2を構成するアルミニウム合金は、切削性向上のため400℃~550℃、処理1h~10hの範囲で均質化処理を行っても良い。
犠牲陽極材3を構成するアルミニウム合金は、必要によって均質化処理を施してよい。なお施す場合は、心材1を構成するアルミニウム合金に対する均質化処理条件と同様の処理を付与する。
【0035】
「クラッド圧延」
上述のように用意した心材1用のアルミニウム合金と、ろう材2用のアルミニウム合金と、犠牲陽極材3用のアルミニウム合金を熱間圧延により板状に加工後、板状のアルミニウム合金を重ねてクラッド圧延する。
クラッド率は、例えば、ろう材:心材:犠牲材=5~20%:60~90%:5~20%程度に設定できる。また、クラッド圧延は、熱間圧延にて行う。この熱間圧延により、3層のアルミニウム合金を接合することができる。
【0036】
「冷間圧延」
熱間圧延後、冷間圧延により目的の厚さの図1に示す3層構造のブレージングシートAを得ることができる。
冷間圧延の条件は、特に規定されるものではないが、1パスあたりの圧下率を20%~50%の間に設定して実施することができる。この範囲以外の圧下率の場合、冷間圧延による製造性が低下する。
「熱処理」
圧延続行もしくは調質調整のために熱処理を実施できる。例えば、昇温速度30~70℃/hで100~400℃、処理時間2h~15hの範囲で施すことができる。ここで行う熱処理温度は、均質化温度以下の温度で施す。
均質化温度を超える温度を採用すると、ろう付前の心材1において、目的とする金属間化合物の分散状態を得ることができない。
【0037】
「ろう付」
ろう付時の熱処理条件は特に限定されないが、例えば、450℃から目標温度までの到達時間が1分~15分となるような昇温速度で加熱し、590~615℃の目標温度で1分~20分間保持し、その後、200~300℃まで50~110℃/minで冷却した後、室温までを空冷とする条件で行うことができる。
【実施例
【0038】
表1~表12に示す組成のアルミニウム合金からなる心材と、ろう材と、犠牲材の組み合わせによりNo.1~No.334の各ブレージングシートを構成した。
表1~表12に示す心材とろう材と犠牲陽極材を構成する各アルミニウム合金は主要含有成分のみを表記し、残部を構成する不可避不純物とアルミニウムの含有量は表では記載を略している。
半連続鋳造により表1~表12に示す各組成のアルミニウム合金について溶製し、熱間圧延により各組成の板材に加工後、心材について表13~表20に示す各均質化処理温度と均質化処理時間による均質化処理を施した。
板状の心材とろう材と犠牲陽極材を重ね合わせた積層材を熱間圧延機でクラッド圧延し、適宜熱処理を施しながら冷間圧延機で冷間圧延することにより、厚さ0.2mmのブレージングシートを得た。
【0039】
表1~表12に示すNo.1~No.334の各ブレージングシートについて、以下に説明するように、ろう付前の金属間化合物の測定、ろう付後の耐力測定、n値の測定、破断寿命の測定を実施し、それらの測定結果を表13~表20に示した。なお、ろう付相当熱処理として、450℃から10minかけて600℃まで加熱し、600℃を5min保持後50℃/minで300℃まで冷却した後、室温まで空冷を施した。
「金属間化合物の測定」
製造したアルミニウム合金ブレージングシートの心材について、圧延方向に平行な断面にクロスセクションポリッシャ加工を施し、金属間化合物を観察した。加工を施した断面に対し、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)より二次電子像を倍率×30000で10枚取得した。取得した画像より、金属間化合物の粒子の円相当径および分布密度を算出した。
Al-Mn-Si系金属間化合物およびAl-Zr系金属間化合物の判別は、EDSにより元素分析を行い検出された元素を基に行った。
【0040】
所望のろう付後耐力を得るために、ろう付前のAl-Mn-Si系金属間化合物およびAl-Zr系金属間化合物を最適な分布状態に調整する必要がある、これら元素の添加量調整と均質化処理条件により調整した。
いずれの金属間化合物も粒子サイズ(円相当径)は、0.01μm以上、1μm以下とした。
また、金属間化合物の分散密度は、Al-Mn-Si系金属間化合物については、0.65×10~5.0×10個/mm、Al-Zr系金属間化合物については、0.05×10~0.5×10個/mmであった。
金属間化合物の粒子サイズ(円相当径)が、0.01μm未満であると、ろう付時にマトリクスへAl-Mn-Si系金属間化合物の再固溶がなされ、ろう付後の機械的性質が低下し、疲労寿命が低下する。金属間化合物の粒子サイズが1μmを超える場合においてもろう付後の機械的性質が低下し、同じく疲労寿命が低下する。
【0041】
「ろう付後の耐力およびn値(加工硬化指数)の測定」
ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシートから、圧延方向と平行になるようJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に準ずる方法で0.2%耐力を測定、JISZ2253に準ずる方法で公称ひずみ1%から2%の間でn値を計算し平均値を算出した。 ろう付後の耐力およびn値は、疲労寿命に影響があり、ろう付後の耐力とn値が低い場合、疲労寿命が短くなり、早期にチューブが破断する傾向となる。
【0042】
「破断寿命」
ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシートの圧延面を圧延方向が法線方向に折り曲がる方向となるように平面曲げ疲労試験を実施した。図3に平面曲げ疲労試験の状態を示す。
ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシートを圧延方向に平行が長手になるように試験片加工を施し、試験片の両端を試験機のチャックにて固定し、所定の曲げ歪みを与えられるように後述する金属プーリに沿う形で繰り返し折り曲げる、曲げ試験を施す。
【0043】
曲げ試験は、アルミニウム合金ブレージングシートの一方のろう材のみが引張を受けるような片振り疲労試験にて実施した。図3に示すように隙間をあけて左右に配置した金属プーリ10、11の間にアルミニウム合金ブレージングシートAの上部側を挿通し、金属プーリ10、11でアルミニウム合金ブレージングシートAを挟持する。
金属プーリ10、11より上方に突出したアルミニウム合金ブレージングシートAの上部側を左側のプーリ10の外周面に沿って繰り返し折り曲げる試験とした。ろう材側が引張を受けるような曲げ試験を実施するため、3層構造のブレージングシートAにおいて、心材1を中心として図3の右側にろう材2を配置し、左側に犠牲陽極材3を配置した。
【0044】
初期ひずみを10000μSTに設定した時の破断寿命(疲労寿命)を測定した。また、初期ひずみ1000μSTから30000μSTにおいて下記の関係式を満たすことが望ましい。下記関係式において、Xは破断寿命、Yは初期ひずみの値を示す。
Y≧1.0×10×X(-0.30)
Y値の大きさは、熱交換器のヘッダープレートとチューブの接合部付近の破断に影響があり、Yの値が小さくかつXの値が小さい場合、熱交換器が熱応力疲労環境にさらされると、ヘッダープレートとチューブの接合部付近に破断を生じるおそれがある。
この関係は、実験にて認められた事実である。初期ひずみYが小さくて破断寿命Xが短い材料はこの式に則らず所望する疲労寿命が得られない。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
【0052】
【表8】
【0053】
【表9】
【0054】
【表10】
【0055】
【表11】
【0056】
【表12】
【0057】
【表13】
【0058】
【表14】
【0059】
【表15】
【0060】
【表16】
【0061】
【表17】
【0062】
【表18】
【0063】
【表19】
【0064】
【表20】
【0065】
表1~表12に示す実施例No.1~No.334のアルミニウム合金ブレージングシートにおいては、心材が、質量%で、Mn:1.3~1.8%、Si:0.6~1.1%、Cu:0.6~1.3%、Zr:0.05~0.3%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう材が、Si:6.0~13.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、犠牲陽極材が、Mn:1.3~1.8%、Si:0.4~0.9%、Zn:2.0~8.0%、Zr:0.05~0.3%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。
また、実施例No.1~No.334のアルミニウム合金ブレージングシートは、ろう付前の心材に含まれる円相当径で0.01μm以上1.0μm未満の径を有するAl-Mn-Si系金属間化合物の分布密度(表
ではろう付前の分布と略記)が0.66×10個/mm~2.36×10個/mmであり、Al-Zr系金属間化合物の分布密度が0.14×10個/mm~0.44×10個/mmである。
【0066】
従って、実施例No.1~No.334のアルミニウム合金ブレージングシートは、疲労寿命が長く、ろう付後の耐力に優れ、ろう付後のn値も大きい。
また、実施例No.1~No.334のアルミニウム合金ブレージングシートは、ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシートの0.2%耐力が58MPa以上であり、n値が0.28以上である。例えば、0.2%耐力については、58~96MPaの範囲であり、n値は0.28~0.35の範囲であった。
また、実施例のブレージングシートは、ろう付熱処理後のアルミニウム合金ブレージングシート単体の片振り平面曲げ疲労試験における破断寿命をX、試験初期のひずみ値をYとした場合に、Y≧1.0×10×X(-0.30)の関係を有している。
このため、実施例No.1~No.334のアルミニウム合金ブレージングシートは、疲労寿命が長いチューブを提供することができ、ろう付によりフィンと接合して熱交換器を構成した場合、耐久性に優れた熱交換器を提供できる。
【0067】
比較例1のブレージングシートは、心材のMn含有量が少ないため、ろう付前に所望する金属間化合物の分散粒子数に到達せず、ろう付後の強度不足となった。
比較例2のブレージングシートは、心材のMn含有量が多いため、鋳造時に巨大な金属間化合物が生成し、圧延途中で圧延続行不可となった。
比較例3のブレージングシートは、心材のSi含有量が少なく、ろう付前に所望する分散粒子数に到達せず、ろう付後の強度不足となった。
比較例4のブレージングシートは、心材においてSiの過剰添加により融点が低下し、ろう付時に過度にエロージョンが生じたため、熱交換器を製造する上で不適となった。
【0068】
比較例5のブレージングシートは、心材においてCu含有量が少なくなり、ろう付後の強度不足となった。
比較例6のブレージングシートは、心材においてCu含有量が多くなり過ぎたため、融点低下につき、ろう付時に過度にエロージョンするため熱交換器を製造する上で不適となった。
【0069】
比較例7のブレージングシートは、Zr含有量が少なく、ろう付前に所望する分散粒子数到達せず、ろう付後の強度不足となった。
比較例8のブレージングシートは、Zr含有量が多すぎて、鋳造時に巨大な金属間化合物が生成、圧延続行不可となった。
比較例9のブレージングシートは、ろう材に含有されるSi量が少なく、各部材と接合するのに必要なろう量が足りず、ろう付性に問題を生じた。
比較例10のブレージングシートは、均質化処理温度が低すぎるため、ろう付前に所望する分散粒子状態が得られず、ろう付後の強度不足となった。
比較例11のブレージングシートは、均質化処理温度が高すぎるため、ろう付前に所望する分散粒子状態が得られず、ろう付後の強度不足となった。
比較例12のブレージングシートは、ろう材に含有されるSi量が多く、心材および他部材を激しくエロージョンするため、ろう付性に問題を生じた。
【0070】
比較例13のブレージングシートは、犠牲陽極材に含まれるMn量が少ない試料であり、所望するろう付後の強度が得られなかった。
比較例14のブレージングシートは、犠牲陽極材に含まれるMn量が多すぎる試料であり、鋳造時に巨大な金属間化合物が生成、圧延続行不可となった。
比較例15のブレージングシートは、犠牲陽極材に含まれるSi量が少ない試料であり、所望するろう付後の強度が得られなかった。
比較例16のブレージングシートは、犠牲陽極材に含まれるSi量が多すぎる試料であり、融点低下につき、ろう付時に犠牲材が溶融し熱交換器製造用として不適であった。
【0071】
比較例17のブレージングシートは、犠牲陽極材に含まれるZn量が少ない試料であり、所望する犠牲陽極作用が得られずに耐食性に問題を生じた。
比較例18のブレージングシートは、犠牲陽極材に含まれるZn量が多すぎる試料であり、犠牲材の腐食速度が速くなり、心材を防食できず耐食性に問題が生じた。
比較例19のブレージングシートは、犠牲陽極材に含まれるZr量が少ない試料であり、所望するろう付後の強度が得られなかった。
比較例20のブレージングシートは、犠牲陽極材に含まれるZr量が多すぎる試料であり、鋳造時に巨大な金属間化合物が生成し、圧延続行不可となった。
【0072】
これら比較例No.1~20と実施例No.1~334の対比から、上述の如く、心材とろう材と犠牲陽極材の個々の元素含有量を規定し、ろう付前の心材に含まれるAl-Mn-Si系金属間化合物の分布密度とAl-Zr系金属間化合物の分布密度を規定することが重要であることが分かる。上述の元素含有量を規定し、金属間化合物の分布密度を規定することにより、ろう付後の耐力に優れ、n値が大きく、破断寿命の長い優れたブレージングシートを提供できる。
また、上述のブレージングシートを用いてチューブを構成し、チューブとフィンをろう付した熱交換器であれば、熱媒の循環によりチューブが熱膨張しても、チューブに亀裂などを生じ難い熱交換器を提供できる。
【符号の説明】
【0073】
A…アルミニウム合金ブレージングシート、1…心材、2…ろう材、3…犠牲陽極材、4…熱交換器、5…フィン、6…チューブ、8…ヘッダープレート、10、11…金属プーリ。
図1
図2
図3