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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】熱処理設備及び熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/76 20060101AFI20240920BHJP
   C23C 8/34 20060101ALI20240920BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20240920BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20240920BHJP
   F27B 5/04 20060101ALI20240920BHJP
   F27B 5/18 20060101ALI20240920BHJP
   F27D 3/12 20060101ALI20240920BHJP
   F27D 19/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C21D1/76 R
C23C8/34
C21D1/06 A
C21D1/00 113G
C21D1/00 B
C21D1/76 M
F27B5/04
F27B5/18
F27D3/12 C
F27D19/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020118013
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022015288
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 和之
(72)【発明者】
【氏名】森 洋介
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴大
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-174377(JP,A)
【文献】特開2015-017790(JP,A)
【文献】特開2017-218655(JP,A)
【文献】特開2017-082275(JP,A)
【文献】特表2017-535671(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107109616(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0363123(US,A1)
【文献】特開2015-232164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/76
C23C 8/34
C21D 1/06
C21D 1/00
F27B 5/04
F27B 5/18
F27D 3/12
F27D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)搬送軌道に沿って配置されたバッチ式の浸炭チャンバ及び窒化チャンバと、
(B)被処理品を収容しヒータにて保温する保温チャンバと、前記浸炭チャンバ若しくは窒化チャンバと前記保温チャンバとの間で前記被処理品を受渡しする受渡しチャンバとを備え、前記浸炭チャンバ及び窒化チャンバとは分離して独立に構成された搬送ユニットと、
を有し、前記浸炭チャンバで前記被処理品を浸炭処理するとともに、前記搬送ユニットを走行させて、前記浸炭チャンバから受け取った浸炭処理後の前記被処理品を前記保温チャンバで保温して前記窒化チャンバまで搬送し、前記窒化チャンバで窒化処理を行う熱処理設備であって、
前記窒化チャンバにおける雰囲気制御手段が、雰囲気ガス中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサと前記雰囲気ガス中の水素濃度を検出する水素センサとを含んで構成されていることを特徴とする熱処理設備。
【請求項2】
前記窒化チャンバに接続され、チャンバ内の雰囲気ガスを取り出し排ガス管路に導くガス抽出ラインを有し、
前記ガス抽出ライン上に前記アンモニアセンサ及び水素センサが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱処理設備。
【請求項3】
前記浸炭チャンバに接続され、炉内の雰囲気ガスを真空ポンプにより炉外に排気する排気ラインと、
前記窒化チャンバに接続され、炉内の圧力を0.1atm以上、1.2atm以下に維持する圧力調整ラインと、
を備えていることを特徴とする請求項1,2の何れかに記載の熱処理設備。
【請求項4】
前記窒化チャンバを複数備え、前記窒化チャンバ毎に前記ガス抽出ライン、前記アンモニアセンサ及び水素センサが設けられていることを特徴とする請求項2に記載の熱処理設備。
【請求項5】
(A)搬送軌道に沿って配置されたバッチ式の浸炭チャンバ及び窒化チャンバと、
(B)被処理品を収容しヒータにて保温する保温チャンバと、前記浸炭チャンバ若しくは窒化チャンバと前記保温チャンバとの間で前記被処理品を受渡しする受渡しチャンバとを備え、前記浸炭チャンバ及び窒化チャンバとは分離して独立に構成された搬送ユニットと、
を有し、前記窒化チャンバにおける雰囲気制御手段が、雰囲気ガス中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサと前記雰囲気ガス中の水素濃度を検出する水素センサとを含んで構成された熱処理設備を用い、
前記浸炭チャンバで減圧下、浸炭ガスを供給して前記被処理品を真空浸炭処理する工程と、
前記搬送ユニットを走行させて、前記浸炭チャンバから受け取った浸炭処理後の前記被処理品を前記保温チャンバで保温して前記窒化チャンバまで搬送する工程と、
前記窒化チャンバで0.1atm以上、1.2atm以下の圧力下、窒化ガスを供給して前記被処理品を窒化処理する工程と、
を含むことを特徴とする熱処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は被処理品に浸炭窒化処理を行う熱処理設備及びこれを用いた熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材等の金属材において、表面の硬化等、特性の向上を図る表面処理として、金属材の表層部にC原子を導入する浸炭処理が実施されている。従来、浸炭処理の手法としてガス浸炭が用いられていたが、浸炭時間が長い等の問題があり、近年ではガス浸炭に比べて省エネルギー及び省人化の点で有利な真空浸炭が広く採用されている。
【0003】
また、表層部にC原子とともにN原子を導入する浸炭窒化処理が行われる場合もある。浸炭窒化処理では、先ず表層部にC原子を導入する浸炭処理が実施され、続いて表層部にN原子を導入する窒化処理が実施される。このような浸炭窒化処理は、耐摩耗性等の特性を向上されるのに有効とされている。例えば、真空浸炭に続いて窒化を行う熱処理設備としては、下記特許文献に記載されたものが開示されている。
【0004】
浸炭処理に続いて行われる窒化処理では、雰囲気中に含まれるアンモニアが、鋼材表面において、下記式(1)のように分解して、N原子が金属材の表層部に導入される。ここで、[N]は、金属材に取り込まれたN原子を意味する。
NH3→[N]+3/2H2 ・・・式(1)
【0005】
そして窒化の制御は、下記式(2)で示す炉内の窒化ポテンシャルKNを制御することによって主に行われる。ここでPNH3は炉内のアンモニア分圧を意味し、PH2は炉内の水素分圧を意味する。
N=PNH3/PH2 3/2 ・・・式(2)
【0006】
しかしながら真空浸炭処理を行う熱処理設備では、浸炭に続いて行う窒化の制御を安定させることが難しい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-174377号公報
【文献】特開2015-17790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような事情を背景とし、真空浸炭しその後に窒化する一連の熱処理を被処理品に施すことが可能で、且つ窒化の制御がばらつく問題を解決することができる熱処理設備及び熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは真空浸炭に続いて行われる窒化の制御にばらつきが生じる原因を究明するなかで、以下のような知見を得た。
(1)同一の炉内で浸炭処理に続いて窒化処理を実施した場合、残留アセチレンの影響で窒化制御が不安定化する。
(2)窒化ガスに含まれるアンモニアは、炉壁や治具の表面といった被処理品以外の様々な物質の表面で分解する(特に700℃以上の高温時において顕著である)。このため、NH3とH2のいずれか一方の分圧のみに基づく制御では、被処理品表層部のN原子の濃度を十分な精度で制御できない場合がある。
(3)表層部に導入されるN原子の濃度は圧力に影響され、圧力が低い程N原子の吸収量が低下する。このため浸炭処理を真空下で行った場合でも、その後の窒化処理については大気圧付近で行うことが有効である。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0010】
而して本発明の熱処理設備は、
(A)搬送軌道に沿って配置されたバッチ式の浸炭チャンバ及び窒化チャンバと、
(B)被処理品を収容しヒータにて保温する保温チャンバと、前記浸炭チャンバ若しくは窒化チャンバと前記保温チャンバとの間で前記被処理品を受渡しする受渡しチャンバとを備え、前記浸炭チャンバ及び窒化チャンバとは分離して独立に構成された搬送ユニットと、
を有し、前記浸炭チャンバで前記被処理品を浸炭処理するとともに、前記搬送ユニットを走行させて、前記浸炭チャンバから受け取った浸炭処理後の前記被処理品を前記保温チャンバで保温して前記窒化チャンバまで搬送し、前記窒化チャンバで窒化処理を行う熱処理設備であって、
前記窒化チャンバにおける雰囲気制御手段が、雰囲気ガス中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサと前記雰囲気ガス中の水素濃度を検出する水素センサとを含んで構成されていることを特徴とする。
【0011】
このように構成された本発明の熱処理設備によれば、浸炭処理を行う処理室と窒化処理を行う処理室が完全に分離されるため、残留アセチレンによる影響を回避しつつ、浸炭と窒化を一連の処理として行うことができる。
【0012】
また本発明の熱処理設備によれば、窒化チャンバにおける雰囲気制御手段が、雰囲気ガス中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサと、前記雰囲気ガス中の水素濃度を検出する水素センサとを含んで構成されているため、窒化温度が高い場合であっても窒化制御の精度を高めることができる。
上記式(1)のように、NH3の分解を経て金属材の表面にN原子が導入される場合に、金属材表層部におけるN原子の濃度は、NH3とH2の両方の分圧に影響を受けるはずである。雰囲気の構成成分やそれらの分圧、熱処理温度、処理対象の金属材の成分組成、使用する熱処理炉の形態等、窒化処理にかかる条件が狭い範囲に限られている場合には、NH3とH2のいずれか一方の分圧のみに基づいて雰囲気制御を行う形態でも、十分な精度で、金属材表面のN濃度の制御を行える可能性がある。
【0013】
しかしながら、窒化処理が700℃以上の高温で行われる場合には、式(1)のような反応が被処理品以外の炉壁や治具の表面でも起こるため、NH3とH2のいずれか一方の分圧のみに基づく制御では、金属材表層部のN濃度を十分に制御できない可能性がある。このため本発明では、雰囲気ガス中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサと前記雰囲気ガス中の水素濃度を検出する水素センサとを含んで雰囲気制御手段を構成し、NH3とH2の両方の分圧に基づく制御を可能としている。
【0014】
ここで、アンモニアセンサ及び水素センサを直接窒化チャンバ内に差し込んで雰囲気ガス中のアンモニア濃度及び水素濃度を検出することも可能であるが、この場合にはセンサが常時高温に晒されることからセンサ寿命が短くなってしまう。このため本発明の熱処理設備では、窒化チャンバ内の雰囲気ガスを取り出し排ガス管路に導くガス抽出ラインを設け、このガス抽出ライン上に前記アンモニアセンサ及び水素センサを設けておくことが好ましい。
【0015】
本発明の熱処理設備は、窒化チャンバを複数設けておくことが可能である。このような場合、窒化チャンバ毎に前記ガス抽出ライン、前記アンモニアセンサ及び水素センサを設けておくことができる。
【0016】
また本発明の熱処理設備では、前記浸炭チャンバに接続され、炉内の雰囲気ガスを真空ポンプにより炉外に排気する排気ラインと、前記窒化チャンバに接続され、炉内の圧力を大気圧近傍に維持する圧力調整ラインと、を備えておくことができる。ここで大気圧近傍の圧力とは、表層部におけるN原子濃度向上の観点から、0.1atm以上、好ましくは0.8atm以上で、1.2atm以下の範囲である。
【0017】
また本発明の熱処理方法は、
(A)搬送軌道に沿って配置されたバッチ式の浸炭チャンバ及び窒化チャンバと、
(B)被処理品を収容しヒータにて保温する保温チャンバと、前記浸炭チャンバ若しくは窒化チャンバと前記保温チャンバとの間で前記被処理品を受渡しする受渡しチャンバとを備え、前記浸炭チャンバ及び窒化チャンバとは分離して独立に構成された搬送ユニットと、
を有し、前記窒化チャンバにおける雰囲気制御手段が、雰囲気ガス中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサと前記雰囲気ガス中の水素濃度を検出する水素センサとを含んで構成された熱処理設備を用い、
前記浸炭チャンバで減圧下、浸炭ガスを供給して前記被処理品を真空浸炭処理する工程と、
前記搬送ユニットを走行させて、前記浸炭チャンバから受け取った浸炭処理後の前記被処理品を前記保温チャンバで保温して前記窒化チャンバまで搬送する工程と、
前記窒化チャンバで大気圧近傍の圧力下、窒化ガスを供給して前記被処理品を窒化処理する工程と、
を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態の熱処理設備の全体構成を示した図である。
図2】同実施形態における浸炭チャンバ及び搬送ユニットの内部構造を示した断面図である。
図3】同浸炭チャンバ及び搬送ユニットの平面図である。
図4】浸炭チャンバ及び窒化チャンバに接続されている各種ガスの供給ライン及び排気ラインを示した図である。
図5図2のV-V断面図である。
図6】同実施形態における受渡し機構の動作説明図である。
図7】同実施形態における熱処理の各工程を被処理品に対するヒートパターン及び圧力パターンとともに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図7は、本実施形態における熱処理の各工程を被処理品Wに対するヒートパターン及び圧力パターンとともに示したものである。
同図に示しているように、ここでは被処理品Wに対し浸炭処理し、更に窒化処理と焼入れ処理とを行う。具体的には、工程K1で被処理品Wを浸炭温度である930℃まで昇温して均熱し、930℃の温度の下で被処理品Wに対する真空浸炭処理、詳しくは減圧下での浸炭とその後の拡散とを行う。その後、工程K2では被処理品Wを850℃まで冷却し、850℃で保温する。
【0020】
次の工程K3では圧力を大気圧近傍に戻し850℃の温度の下で窒化処理を行う。温度850℃はこの実施形態では焼入れ温度でもあり、工程K4で被処理品Wの温度を850℃に維持した後、工程K5で被処理品Wを焼入れ温度から急冷し焼入れを行う。
【0021】
図1は本実施形態の熱処理設備1の概略全体構成を示している。同図において、10は図中左右方向に直線状に延設された搬送軌道たるレールで、このレール10に沿って複数のバッチ式の処理チャンバ(ここでは浸炭チャンバ12-1,12-2、窒化チャンバ13及び焼入れチャンバ14)が、後述の開口部44(図2参照)を同方向である図中上方に向けた状態で直線状に一列に配置されている。
【0022】
この実施形態において、浸炭チャンバ12-1,12-2は被処理品Wに対し所定の温度(例えば930℃)の下で浸炭処理を行う。また窒化チャンバ13は、その後において被処理品Wに対し所定の温度(例えば850℃)の下で窒化処理を行う。
【0023】
図1中右端側には装入テーブル16が設けられており、上流工程からの被処理品Wが先ずこの装入テーブル16上に載置される。装入テーブル16上に載置された被処理品Wは、浸炭チャンバ12-1,12-2によって浸炭処理され、その後に窒化チャンバ13によって窒化処理される。更にその後に焼入れチャンバ14にて焼入れ処理され、その後に図中左端側且つ焼入れチャンバ14の図中下側位置の抽出テーブル18へと排出され、引続いて下流工程へと抽出される。
【0024】
この実施形態の熱処理設備1は、上記の浸炭チャンバ12-1,12-2,窒化チャンバ13,焼入れチャンバ14に加えて、レール10上を走行する搬送ユニット20を有している。搬送ユニット20は、装入テーブル16上の被処理品Wを受け取ってレール10上を走行し、浸炭チャンバ12-1,12-2の何れかに被処理品Wを装入する。
或いはこれら浸炭チャンバ12-1,12-2において浸炭処理された後の被処理品Wを、それら浸炭チャンバ12-1,12-2から受け取ってレール10上を走行し、窒化チャンバ13に装入してそこで窒化処理せしめる。
また搬送ユニット20は、窒化チャンバ13から窒化処理後の被処理品Wを受け取ってレール10上を走行し、これを焼入れチャンバ14へと渡してそこで焼入れ処理せしめる。
【0025】
図2に、浸炭チャンバ12-1及び搬送ユニット20の内部構造が示してある。
同図に示しているように浸炭チャンバ12-1は、有底の円筒状の炉殻22と、その内部に配置された断熱材24とを有している。断熱材24は有底の円筒状の断熱壁25を構成している。そしてその断熱壁25は内側に処理室26を形成している。
この浸炭チャンバ12-1には吸引口32,33が設けられている。吸引口32には後述する第1排気ライン162が接続され、吸引口33には第2排気ライン166が接続されている(図4参照)。
【0026】
浸炭チャンバ12-1にはまた、その内部に浸炭ガスを供給するための供給口34が設けられている。供給口34から供給された浸炭ガスは、一旦ヘッダー36へと導かれ、更にこのヘッダー36に続く分岐管37及び分岐管37に設けられたノズル38から浸炭チャンバ12-1内部、詳しくは断熱壁25内側の処理室26へと導入される。尚ここでは分岐管37に1つのノズル38が設けられているが、複数のノズル38を設けておいても良い。尚、供給口34からは浸炭ガスが供給される外、窒素ガスが供給されるようになっている。
【0027】
断熱壁25には、処理室26内で供給された窒素ガスを撹拌させて対流させ、被処理品Wの昇温期においてその昇温を促進する対流加熱用のファン39と、これを回転させるモータ40とが設けられている。また断熱壁25には、モータ40を熱から保護するための水冷パネル41がモータ40近傍に設けられている。
【0028】
浸炭チャンバ12-1には、開口部44を開閉する引戸式の扉42が設けられている。扉42はシリンダ46によってフランジ48内面を摺動し、閉状態で開口部44をゴムパッキンを介して気密にシールする。この扉42には板状の断熱材55が一体移動する状態に設けられており、この断熱材55によって円筒状の断熱壁25の開口部52が閉鎖される。
浸炭チャンバ12-1においては、扉42の内面側にも、開口部44を気密にシールするゴムパッキンを熱から保護するための水冷パネル51が設けられている。
【0029】
以上浸炭チャンバ12-1についての構造を説明したが、他の浸炭チャンバ12-2や窒化チャンバ13も基本的に同様の構造である。このため浸炭チャンバ12-2や窒化チャンバ13の内部構造において、浸炭チャンバ12-1と同様の部分については符号のみを示して詳しい説明は省略する。
【0030】
但し、窒化チャンバ13は、炉内(チャンバ内)と連通する排出口170及び取出口176を更に備えている(図4参照)。窒化チャンバ13の排出口170には後述する圧力調整ライン172が接続され、また取出口176にはサンプリングライン177が接続されている。
【0031】
図4は、浸炭チャンバ12-1,12-2及び窒化チャンバ13に接続されている各種ガスの供給ライン及び排気ラインを示した図である。
同図に示すように、浸炭チャンバ12-1,12-2の各供給口34には、それぞれ窒素ガスと浸炭ガスとしてのアセチレンガスをチャンバ内に供給するための第1供給ライン149が接続されている。第1供給ライン149は、ガス流量を制御するマスフローコントローラ150と開閉弁151,152を含んで構成されている。第1供給ライン149は上流側が分岐管149aと149bとに分かれており、分岐管149aが窒素ガス供給源153から延びる配管153aに接続され、分岐管149bがアセチレンガス供給源154から延びる配管154aに接続されている。このように構成された第1供給ライン149により、浸炭チャンバ12-1,12-2においては、窒素ガスとアセチレンガスとを択一的にチャンバ内に供給可能とされている。
【0032】
一方、窒化チャンバ13の供給口34には、窒化ガスとしてのアンモニアガスを供給するための第2供給ライン156が接続されている。第2供給ライン156は、ガス流量を制御するマスフローコントローラ157と開閉弁158を含んで構成され、第2供給ライン156の上流側はアンモニアガス供給源160から延びる配管160aに接続されている。また窒化チャンバ13の供給口34には、配管159を介して窒素ガスも供給可能とされている。
【0033】
浸炭チャンバ12-1,12-2及び窒化チャンバ13の各吸引口32は、それぞれチャンバ内部のガスを排出するための第1排気ライン162に接続されている。第1排気ライン162は、真空ポンプ163と各チャンバに対応する開閉弁164とを含んで構成されており、開閉弁164の開閉によって、各処理チャンバと真空ポンプ163とが連通及び連通遮断されるようになっている。本例においては、処理チャンバと真空ポンプ167と連通させることで、チャンバの内部が所定の減圧状態(例えば1500Pa)に維持される。
【0034】
更に浸炭チャンバ12-1,12-2及び窒化チャンバ13の各吸引口33は、それぞれチャンバ内部のガスを排出するための第2排気ライン166に接続されている。第2排気ライン166は、真空ポンプ167と各チャンバに対応する開閉弁168とを含んで構成されており、開閉弁168の開閉によって、各処理チャンバと真空ポンプ167とが連通及び連通遮断されるようになっている。本例においては、処理チャンバと真空ポンプ167と連通させることで、チャンバの内部が大気圧から所定の減圧状態にまで一気に減圧される。
【0035】
窒化チャンバ13においては、窒化処理中のチャンバ内の圧力を大気圧近傍に維持するための圧力調整ライン172が排出口170に接続されている。圧力調整ライン172は圧力調整弁173と開閉弁174を含んで構成されており、圧力調整弁173にてチャンバ内が大気圧近傍、詳しくは大気圧よりも僅かに高い圧力(例えば105kPa)に調整される。
【0036】
また窒化チャンバ13の取出口176には、チャンバ内の雰囲気ガスを炉外に取り出すためのサンプリングライン177の一端が接続されている。サンプリングライン177はポンプ178と開閉弁179を含んで構成されている。サンプリングライン177の他端側には分析計180が設けられており、ポンプ178によって窒化チャンバ13内から取り出された雰囲気ガスは分析計180に供給される。
【0037】
分析計180はサンプリングライン177を通じて供給された雰囲気ガス中の元素濃度を分析する。分析計180はアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサ182と、水素濃度を検出する水素センサ184とを備え、サンプリングライン177を通じて取り出された雰囲気ガス中のアンモニア濃度及び水素濃度が検出される。そしてそれぞれ検出濃度に対応した信号が制御部186へ出力される。
ここでアンモニアセンサ182としては、たとえば、NDIR(非分散型赤外線式ガスセンサ)などを用いることができる。また、水素センサ184としては、たとえば、気体熱伝導式センサなどを用いることができる。
本例では、これらセンサの寿命を考慮して、サンプリングライン177を通じて供給されるガスが室温(25℃)程度となる位置に、分析計180が設けられている。
【0038】
なお、サンプリングライン177を通じて取り出された雰囲気ガスは、分析計180の下流側に延びる分析計排気ライン190を通じて排ガス管路192に送られる。この実施形態では、サンプリングライン177及び分析計排気ライン190がガス抽出ラインを成している。
排ガス管路192ではこのガス抽出ラインを通じて取り出された雰囲気ガスのほか、第1排気ライン162、第2排気ライン166及び圧力調整ライン172から送られてきたガスが合流し、それらが燃焼排気される。
【0039】
制御部186は、演算部187と出力部188とを有し、分析計180から送られてきたアンモニア濃度に対応した信号、及び、水素濃度に対応した信号に基づいて、窒化チャンバ13に供給する窒化ガス(ここではアンモニアガス)の流量を制御する。
演算部187では、アンモニア濃度に対応する分圧PNH3と、水素濃度に対応する分圧PH2とに基づいて、上記式(1)で定義された炉内の窒化ポテンシャルKNを演算する。
出力部188では、演算された窒化ポテンシャルと目標の窒化ポテンシャルとの差分に基づいてマスフローコントローラ157に信号を送信して、炉内の窒化ポテンシャルが目標の窒化ポテンシャルに近づくようにアンモニアガスの供給量を調整する。
【0040】
以上のようにこの実施形態では、サンプリングライン177、分析計180(アンモニアセンサ182、水素センサ184を含む)、制御部186、及びマスフローコントローラ157が窒化チャンバ13における雰囲気制御手段を成しており、実際に検出されたアンモニア濃度及び水素濃度を用いたフィードバック制御が実現されている。
【0041】
一方、図1に示す焼入れチャンバ14は、内部に油冷槽を有し、搬送ユニット20にて装入された窒化処理後の被処理品Wを油冷槽に浸漬して急冷し、焼入れを行う。
この焼入れチャンバ14は、浸炭チャンバ12-1,12-2、窒化チャンバ13と同じ側、即ち図1中上側に開口部44を有するとともに、その反対側(図中下側)にも開口部44を有し、それら開口部44が引戸式の扉42にて開閉されるようになっている。図1中46は、その扉42を開閉動作させるシリンダである。
【0042】
図2において、搬送ユニット20は、レール10上を走行する走行台車90を有しており、更に走行台車90上において、後述の保温チャンバ56を受渡しチャンバ54とともにレール10と直交方向である図2中左右方向に進退移動し、受渡しチャンバ54及び保温チャンバ56を浸炭チャンバ12-1,12-2及び窒化チャンバ13に対して連結及び連結解除させる連結台車92を有している。
94は、その連結台車92を図2中左右方向に微小ストローク進退移動させるシリンダで、保温チャンバ56及び受渡しチャンバ54は、このシリンダ94によりローラ96の転動を伴って図2中左右方向に進退移動せしめられる。
この実施形態では、これら連結台車92,ローラ96,シリンダ94等が進退移動手段を成している。
【0043】
搬送ユニット20は、浸炭チャンバ12-1,12-2,窒化チャンバ13側の前部に受渡しチャンバ54を、反対側の後部に、図7の工程K2、K4で被処理品Wを保温するための保温チャンバ56を有している。
【0044】
受渡しチャンバ54は、耐圧性の角筒状の筒壁58を有しており、その内部に被処理品Wを収容する収容室60を形成している。この収容室60には受渡し機構62が設けられている。
受渡し機構62は、浸炭チャンバ12-1、12-2と後部の保温チャンバ56との間で被処理品Wを受渡しするもので、図6に示しているようにフォーク部62Aと水平スライド部材62B,62Cとを有しており、それらを水平方向にスライドさせることによりフォーク部62Aにて被処理品Wを受渡しする。
【0045】
この受渡しチャンバ54には吸引口63が設けられており、この吸引口63が、図3に示す真空ポンプ64に対して吸引管66Aを通じて接続され、受渡しチャンバ54の内部が真空ポンプ64により真空吸引されるようになっている。
吸引管66上には電磁弁から成る開閉弁68Aが設けられており、開閉弁68Aの開閉によって、吸引口63と真空ポンプ64とが連通及び連通遮断されるようになっている。
【0046】
受渡しチャンバ54にはまた、図3に示しているように供給口70が設けられており、この供給口70を通じて窒素ガスが受渡しチャンバ54内に供給されるようになっている。
受渡しチャンバ54は、その前端即ち図2中左端が扉を有しない開口部72とされている。受渡しチャンバ54にはこの開口部72周りに偏平な枠状パッキン74が設けられている。
受渡しチャンバ54は、この枠状パッキン74を浸炭チャンバ12-1,12-2及び窒化チャンバ13の外面に気密に接触させる状態に、浸炭チャンバ12-1,12-2,窒化チャンバ13側への前進移動により、それら浸炭チャンバ12-1,12-2,窒化チャンバ13にドッキングされる。
【0047】
他方、後者の保温チャンバ56は有底円筒状をなす炉殻76の内部に断熱材78を有しており、その断熱材78が断熱壁80を構成している。
断熱壁80は内側に収容室82を形成しており、そこに被処理品Wを収容するようになっている。
収容室82には架台84が設けられている。収容室82内の被処理品Wは、その架台84上に載置されて支持される。
【0048】
この保温チャンバ56には、図5に示しているようにその内部を真空吸引するための吸引口86が設けられており、この吸引口86が、図3に示すように上記の真空ポンプ64に対して吸引管66Bを通じ接続されている。
この吸引管66B上には電磁バルブから成る開閉弁68Bが設けられており、開閉弁68Bの開閉動作によって吸引口86と真空ポンプ64とが連通及び連通遮断されるようになっている。
【0049】
保温チャンバ56は、断熱壁80の内部に、被処理品Wを保温するためのヒータ120が設けられている。そして保温チャンバ56には、断熱壁80の上部の開口104及び下部の開口106を開閉する断熱材製の扉110,112が設けられており、それらがシリンダ114,116にて開閉動作せしめられる。
【0050】
保温チャンバ56にはまた、冷却ガスとして窒素ガスを内部に供給する供給口88が炉殻76に設けられている。
またその内部には、供給された窒素ガスを水冷パイプ間に通すことで、熱交換により温度低下させる熱交換器98と、これにより冷却された窒素ガスを撹拌し、保温チャンバ56内で循環させる冷却ファン100と、これを回転させるモータ102とを有しており、それらが被処理品Wに対するガス冷却装置を構成している。
【0051】
このガス冷却装置では、冷却ファン100の回転により、温度低下した窒素ガスが断熱壁80の下部の開口106を通じ上向きに流れて被処理品Wに当り、これを冷却した後断熱壁80の上部の開口104より流出し、再び熱交換器98を通過してそこで温度低下せしめられる。そしてそのような循環流れを生じつつ被処理品Wを冷却処理する。
【0052】
即ちこの実施形態では、保温チャンバ56に、被処理品Wを保温する保温機能と併せて冷却機能も備えられている。
【0053】
図2に示しているように、保温チャンバ56と受渡しチャンバ54との間、詳しくは保温チャンバ56の受渡しチャンバ54側の端部には開口部122が設けられており、この開口部122が、シリンダ124によってフランジ126内面を摺動する扉128によって開閉されるようになっている。
【0054】
前記の浸炭チャンバ12-1におけるのと同様、この保温チャンバ56の扉128にもまた、断熱壁80の開口部129を開閉する板状の断熱材130が一体移動する状態に設けられており、また開口部122を気密にシールするゴムパッキンを熱から保護するための水冷パネル132が扉128に設けられている。
【0055】
次に本実施形態における一連の熱処理について説明する。図1の装入テーブル16上の被処理品Wを搬送ユニット20が受け取って搬送し、これを浸炭チャンバ12-1,12-2の何れかに装入する。
被処理品Wを受け取った浸炭チャンバ12-1,12-2の何れかは、その内部で被処理品Wに対する浸炭処理を行う。
搬送ユニット20は、その後浸炭処理された被処理品Wを浸炭チャンバ12-1,12-2の何れかから取り出して、これを保温チャンバ56で保温した上で、被処理品Wを窒化チャンバ13に装入する。
これを受けた窒化チャンバ13は、その被処理品Wに対し窒化処理を行う。
【0056】
その窒化処理が終ると、搬送ユニット20が窒化チャンバ13から窒化後の被処理品Wを取り出して、これを焼入れチャンバ14へと渡す。
窒化後の被処理品Wを受けた焼入れチャンバ14は、これを内部の油冷槽に浸漬して急冷し、焼入れを施す。
そして焼入れ後の被処理品Wが、焼入れチャンバ14から抽出テーブル18上へと排出される。
【0057】
以下に上記の一連の熱処理の要部の詳細を具体的に説明する。尚、以下の説明では浸炭処理を浸炭チャンバ12-1で行うものとする。
先ず搬送ユニット20は、受渡しチャンバ54において受渡し機構62により装入テーブル16上の被処理品Wを受け取り、これを受渡しチャンバ54内に収容する。
その後搬送ユニット20は何れかの浸炭チャンバ、ここでは例えば浸炭チャンバ12-1の位置まで移動し、被処理品Wを搬送する。
【0058】
その後搬送ユニット20は、シリンダ94により受渡しチャンバ54を後部の保温チャンバ56とともに浸炭チャンバ12-2側に微小距離前進移動させて、受渡しチャンバ54の先端の枠状パッキン74を浸炭チャンバ12-1の外面に密着させる状態に、浸炭チャンバ12-1に対しドッキングさせる。
【0059】
そして保温チャンバ56との間の扉128を閉鎖した状態で、真空ポンプ64により吸引口63を通じて受渡しチャンバ54内部が真空吸引され、受渡しチャンバ54内部が浸炭チャンバ12-1と同程度の真空圧まで減圧される。
【0060】
受渡しチャンバ54内の圧力が浸炭チャンバ12-1内の圧力と同程度の真空圧となったところで、浸炭チャンバ12-1の扉42を開いて、受渡しチャンバ54内の被処理品Wを受渡し機構62により浸炭チャンバ12-1内の処理室26に装入し、架台30上にセットする。
【0061】
被処理品Wが浸炭チャンバ12-1内に装入されると、被処理品Wの加熱が開始され、浸炭温度である930℃まで昇温せしめられる。
【0062】
その際に昇温を促進するため、浸炭チャンバ12-1内に窒素ガスが供給口34から供給されるとともに、対流加熱ファン39が回転せしめられて、その対流加熱ファン39による対流加熱とヒータ28による輻射熱とによって、被処理品Wが速やかに浸炭温度の930℃まで昇温せしめられる。
【0063】
被処理品Wが浸炭温度の930℃まで昇温したところで、浸炭チャンバ12-1内部の窒素ガスが吸引口33を通じて真空排気され、浸炭チャンバ12-1内部が設定された真空圧(1500Pa)に減圧される。
その後、供給口34を通じこの浸炭チャンバ12-1への導入ガスが窒素ガスから浸炭ガスへと切り替えられ、被処理品Wに対する浸炭が行われる。この際浸炭チャンバ12-1に導入される浸炭ガス(アセチレンガス)は、予めシミュレーションによって決定されたガス量で、決められた時間通りに導入される。
その後に浸炭ガスの供給を停止した状態で引続き被処理品Wが930℃の温度に保持され、被処理品Wに侵入したC原子の拡散処理が行われる。
【0064】
このようにして被処理品Wに対する浸炭処理を終えたところで、一旦浸炭チャンバ12-1から離れていた搬送ユニット20を再び浸炭チャンバ12-1に向けて前進移動させ、受渡しチャンバ54を浸炭チャンバ12-1に対しドッキングさせる。
そして受渡しチャンバ54と保温チャンバ56との間の扉128を開いた状態で、受渡しチャンバ54の内部と保温チャンバ56の内部とを真空ポンプ64により真空吸引し、それらを真空圧とする。
【0065】
その後に浸炭チャンバ12-1の扉42を開いて、浸炭チャンバ12-1内の浸炭処理後の被処理品Wを受渡しチャンバ54内に移動させ、引続いてこれを受渡しチャンバ54から保温チャンバ56へと移動させて、被処理品Wを保温チャンバ56内に収容する。
【0066】
被処理品Wを保温チャンバ56内に収容したところで、扉128を閉じ、その後保温チャンバ56内においてヒータ120にて被処理品Wを目的の温度(850℃)で保温する。尚、目的の温度(850℃)にまで被処理品Wの温度を低下させるためにガス冷却装置を働かせて強制的に冷却することも可能である。
【0067】
搬送ユニット20は、被処理品Wに対する保温を、浸炭チャンバ12-1から離れて移動する間も行い、受け渡しチャンバ54内の圧力と窒化チャンバ13内の圧力が同程度の真空圧となったところで、目的とする温度で保温した被処理品Wを、今度は窒化チャンバ13に受渡しチャンバ54を通じて装入する。
【0068】
窒化チャンバ13に装入された被処理品Wは、その後窒化温度である850℃に保持されながら窒化チャンバ13内部で窒化処理される。
詳しくは、窒化チャンバ13における扉42(図2参照)を閉じた状態で、被処理品Wが、ヒータ28による加熱にて窒化温度850℃に保温され、また供給口34を通じて供給された窒化ガス(アンモニアガス)がノズル38から処理室26内に導入されて、被処理品Wに対する窒化処理が行われる。
【0069】
その際、窒化チャンバ13内は窒素ガス導入による復圧後に、アンモニアガスが導入され、以降は圧力調整ライン172によって所定の圧力(ここでは大気圧より僅かに高い105kPa)に維持される。
【0070】
窒化処理中はマスフローコントローラ157によりアンモニアガスの流量が調整され、雰囲気制御が行われる。詳しくはサンプリングライン177を通じて雰囲気ガスの一部が分析計180に送られ、分析計180中のアンモニアセンサ182及び水素センサ184にて雰囲気ガス中のアンモニア濃度及び水素濃度が検出される。そして実際に検出されたアンモニア濃度及び水素濃度に基づく窒化ポテンシャルが制御部186にて演算され、演算された窒化ポテンシャルと目標の窒化ポテンシャルとの差分に基づいてマスフローコントローラ157がアンモニアガスの流量を調整する。
【0071】
窒化処理が終了したところで、窒化チャンバ13内部のガスが吸引口33を通じて真空排気され、窒化チャンバ13内部が受渡しチャンバ54内の圧力と同程度の真空圧になったところで、受渡しチャンバ54を窒化チャンバ13にドッキングさせる。そして窒化処理された被処理品Wを、窒化チャンバ13から取り出し、保温チャンバ56内に収容し、目的の温度(850℃)で保温する。
【0072】
次に搬送ユニット20は図1中左方向に移動して、窒化処理した被処理品Wを焼入れチャンバ14の前まで持ち来し、続いてこれを焼入れチャンバ14へと装入する。
【0073】
このとき搬送ユニット20においては、受渡しチャンバ54を焼入れチャンバ14に対してドッキングさせた後、扉128を閉じた状態の下で先ず受渡しチャンバ54内を真空吸引し、続いて受渡しチャンバ54内に供給口70を通じ窒素ガスを供給し、内部を大気圧状態とする。
【0074】
続いて保温チャンバ56内部の真空吸引を停止した上で、その内部に供給口88を通じ窒素ガスを供給し、その内部を大気圧状態とする。その状態で扉128及び焼入れチャンバ14側の扉42を開いて、保温チャンバ56内の浸炭窒化後の被処理品Wを受渡しチャンバ54を経由して焼入れチャンバ14内に装入する。
尚、ここでは保温チャンバ56から焼入れチャンバ14への被処理品Wの受渡しを、大気圧下で行う場合を示したが、これ以外の所定圧力下(例えば真空状態のまま)で被処理品Wの受渡しを実施することも可能である。
【0075】
被処理品Wを受け取った焼入れチャンバ14は、これを内部に備えてある油冷槽に浸漬させて急冷し、焼入れを行う。
焼入れされた被処理品Wは、その後焼入れチャンバ14の、レール10とは反対側の開口部44を通じて図1中下側の抽出テーブル18へと排出される。
そして抽出テーブル18上に排出された被処理品Wが、続いて下流工程へと引き取られて行く。
【0076】
このように構成された本実施形態の熱処理設備1によれば、浸炭処理を行う浸炭チャンバ12-1,12-2と窒化処理を行う窒化チャンバ13が完全に分離されるため、残留アセチレンによる影響を回避しつつ、浸炭と窒化を一連の処理として行うことができる。
【0077】
また本実施形態の熱処理設備1では、窒化処理における雰囲気制御手段が、雰囲気ガス中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサ182と、雰囲気ガス中の水素濃度を検出する水素センサ184とを含んで構成されているため、窒化温度が高い場合であっても、実際に測定されたアンモニア濃度および水素濃度に基づく雰囲気制御を行なうことで窒化制御の精度を高めることができる。
【0078】
また本実施形態の熱処理設備1は、窒化チャンバ13内の雰囲気ガスを取り出し排ガス管路192に導くガス抽出ライン(サンプリングライン177、分析計排気ライン190)を設けて、ガス抽出ライン上にアンモニアセンサ182及び水素センサ184を設けることで、これらセンサが常時高温に晒されるのを防止してセンサ寿命を高めることができる。
【0079】
本実施形態の熱処理設備1は、浸炭チャンバ12-1,12-2に内部の雰囲気ガスを炉外に排気する排気ライン162,166が接続され、窒化チャンバ13に炉内の圧力を大気圧近傍に維持する圧力調整ライン172が接続されている。このため、浸炭チャンバ12-1,12-2にて真空浸炭が、また窒化チャンバ13にて大気圧付近での窒化が実施可能であり、これら真空浸炭及び窒化をそれぞれの処理チャンバにて同時に行うことができる。
【0080】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。例えば、浸炭ガスはアセチレンガスに代えて、エチレンガス等の他のアセチレン系ガスを使用しても良い。また窒化ガスはアンモニアを含む混合ガスを使用しても良い。また本発明の熱処理設備が備える浸炭チャンバ及び窒化チャンバの数は適宜変更可能であり、窒化チャンバを複数設けておくことも可能である。この場合は、窒化チャンバ毎にガス抽出ライン、アンモニアセンサ及び水素センサを設けておけば良い。
【符号の説明】
【0081】
1 熱処理装置
10 レール
12-1,12-2 浸炭チャンバ
13 窒化チャンバ
14 焼入れチャンバ
20 搬送ユニット
28 ヒータ
54 受渡しチャンバ
56 保温チャンバ
162 第1排気ライン
163,166 真空ポンプ
166 第2排気ライン
172 圧力調整ライン
177 サンプリングライン(ガス抽出ライン)
182 アンモニアセンサ
184 水素センサ
190 分析計排気ライン(ガス抽出ライン)
192 排ガス管路
W 被処理品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7