(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ガラスフィルムの製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 33/03 20060101AFI20240920BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C03B33/03
B26F3/00 A
(21)【出願番号】P 2021567158
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045272
(87)【国際公開番号】W WO2021131617
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019231796
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】八木 直彦
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 博司
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-513789(JP,A)
【文献】特表2016-518262(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208655(WO,A1)
【文献】特開2019-026509(JP,A)
【文献】特表2019-512092(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118985(WO,A1)
【文献】特開2015-044710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/02
B26F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフィルムリボンと保護シートリボンとを重ねて巻回したガラスロールから、保護シートリボン上にガラスフィルムリボンを重ねた状態で巻き出し、前記ガラスフィルムリボンの先端が曲げ応力付与部を通過して所定長さだけ行き過ぎた後に、前記曲げ応力付与部で前記ガラスフィルムリボンに付与される曲げ応力により該ガラスフィルムリボンを幅方向に沿って切断することで、前記所定長さに対応する長さのガラスフィルムを製造する方法であって、
前記曲げ応力付与部は、前記ガラスロールにおける前記ガラスフィルムリボン及び前記保護シートリボンの巻き出し開始部よりも高い位置に配置され、
前記ガラスフィルムリボンは、巻き出し方向の前側に向かって上昇傾斜した状態で前記ガラスロール側から前記曲げ応力付与部に達していることを特徴とするガラスフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ガラスフィルムリボン及び前記保護シートリボンは、前記ガラスロールの巻き出し開始部から前記曲げ応力付与部に掛け渡されることを特徴とする請求項1に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ガラスフィルムリボンは、張力を付与されず且つ自重による垂れ下がりが生じ得る状態で掛け渡され、前記保護シートリボンは、張力を付与され且つ前記ガラスフィルムリボンの垂れ下がりを受け止めた状態で掛け渡されることを特徴とする請求項2に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記保護シートリボンを、前記ガラスロールの巻き出し開始部から前記曲げ応力付与部に向かって引っ張ることで、前記ガラスロールから前記保護シートリボン及び前記ガラスフィルムリボンを巻き出し、それらの巻き出しを停止した時に、前記ガラスフィルムリボンを切断することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記曲げ応力付与部の巻き出し方向の前側に、巻き出し方向の前側に向かって下降傾斜する下り傾斜テーブルが配置され、
前記ガラスフィルムリボンを切断する際に、前記ガラスフィルリボンを前記下り傾斜テーブル上に沿わせて保持することを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ガラスロールと前記曲げ応力付与部との間に、巻き出し方向の前側に向かって上昇傾斜する上り傾斜テーブルが配置され、
前記ガラスフィルムリボンを切断した後に、前記上り傾斜テーブルが前記切断した後のガラスフィルムリボンを受け止め支持することを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ガラスフィルムリボンを切断した後に、前記ガラスロールの最外層のガラスフィルムリボンが弛むことを防止する弛み防止処理がなされていることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記弛み防止処理は、前記切断した後のガラスフィルムリボンの先端側領域と前記保護シートリボンとをテープ状体で止着する処理であることを特徴とする請求項7に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記弛み防止処理は、前記ガラスロールの外周面に弛み防止部材を当接させる処理であることを特徴とする請求項7に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記弛み防止部材は、前記ガラスロールの外周面に当接する当接部が樹脂で形成された錘体であることを特徴とする請求項9に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記弛み防止部材は、前記ガラスロールの外周面に当接する外輪を有するワンウェイクラッチであることを特徴とする請求項9に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記外輪は、前記ガラスロールの外周面に当接する当接部が発泡樹脂で形成されていることを特徴とする請求項11に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記ガラスロールのロール軸には、ブレーキ装置が備えられていることを特徴とする請求項1~12の何れかに記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ガラスロールから前記ガラスフィルムリボンを巻き出す巻き出し長さを調整する長さ調整機構を備えることを特徴とする請求項1~13の何れかに記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項15】
ガラスフィルムリボンと保護シートリボンとを重ねて巻回したガラスロールから、保護シートリボン上にガラスフィルムリボンを重ねた状態で巻き出し、前記ガラスフィルムリボンの先端が曲げ応力付与部を通過して所定長さだけ行き過ぎた後に、前記曲げ応力付与部で前記ガラスフィルムリボンに付与される曲げ応力により該ガラスフィルムリボンを幅方向に沿って切断することで、前記所定長さに対応する長さのガラスフィルムを製造するように構成した装置であって、
前記曲げ応力付与部は、前記ガラスロールにおける前記ガラスフィルムリボン及び前記保護シートリボンの巻き出し開始部よりも高い位置に配置され、
前記ガラスフィルムリボンは、巻き出し方向の前側に向かって上昇傾斜した状態で前記ガラスロール側から前記曲げ応力付与部に達している構成としたことを特徴とするガラスフィルムの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスロールから巻き出したガラスフィルムリボンを曲げ応力付与部で幅方向に沿って切断するガラスフィルムの製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス板の製造の分野では、ガラスロールに巻回されたガラスフィルムリボンを所定間隔おきに幅方向に沿って切断することで、複数枚のガラス板(ガラスフィルム)を製造することが行われている。この場合、得られたガラスフィルムの品質保持のため、ガラスフィルムリボンの切断に際しては、樹脂シートリボン等の保護シートリボンにガラスフィルムリボンを重ねた状態で処理することが公知となっている。
【0003】
その具体例として、特許文献1に開示された製造技術が挙げられる。同文献に開示の製造技術は、保護シートリボン上に重ねられたガラスフィルムリボンを、ベルトコンベアによって水平方向に搬送した後、板状体上に移乗させて搬送し、然る後、板状体の前方端で方向変換させて切断するものである。切断に際して同文献では、板状体上での搬送の途中でガラスフィルムリボンに切断起点を形成し、切断起点の形成領域を方向変換させることで、切断に必要な曲げ応力を当該領域に付与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示の製造技術は、ガラスフィルムリボンを曲げ応力付与部(方向変換させる部位)まで搬送して切断する過程で、以下に示すような問題が生じる。
【0006】
すなわち、同文献に開示の製造技術において、ベルトコンベアの上流側(後側)にガラスロールを配置したならば、ガラスロールから巻き出されたガラスフィルムリボンを曲げ応力付与部まで移送する経路に無駄が生じて、当該経路がいたずらに複雑になる。その結果、ガラスフィルムリボンを効率良く切断することが困難になる。
【0007】
以上の観点から、本発明の課題は、ガラスロールから巻き出されたガラスフィルムリボンを曲げ応力付与部まで移送する経路の簡易化を図ることで、効率良くガラスフィルムリボンを切断できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために創案された本発明の第一の側面は、ガラスフィルムリボンと保護シートリボンとを重ねて巻回したガラスロールから、保護シートリボン上にガラスフィルムリボンを重ねた状態で巻き出し、前記ガラスフィルムリボンの先端が曲げ応力付与部を通過して所定長さだけ行き過ぎた後に、前記曲げ応力付与部で前記ガラスフィルムリボンに付与される曲げ応力により該ガラスフィルムリボンを幅方向に沿って切断することで、前記所定長さに対応する長さのガラスフィルムを製造する方法であって、前記曲げ応力付与部は、前記ガラスロールにおける前記ガラスフィルムリボン及び前記保護シートリボンの巻き出し開始部よりも高い位置に配置され、前記ガラスフィルムリボンは、巻き出し方向の前側に向かって上昇傾斜した状態で前記ガラスロール側から前記曲げ応力付与部に達していることに特徴づけられる。
【0009】
このような方法によれば、ガラスロールの巻き出し開始部から曲げ応力付与部を指向する向きと、ガラスロール側から曲げ応力付与部に達する際のガラスフィルムリボンの向きとが何れも、巻き出し方向の前側に向かって上昇傾斜する向きになる。これにより、ガラスロールから巻き出されたガラスフィルムリボンを曲げ応力付与部まで移送する経路に無駄が生じ難くなり、当該経路の簡易化を図ることができる。その結果、ガラスフィルムリボンを効率良く切断することが可能となる。
【0010】
この方法において、前記ガラスフィルムリボン及び前記保護シートリボンは、前記ガラスロールの巻き出し開始部から前記曲げ応力付与部に掛け渡されるようにしてもよい。
【0011】
このようにすれば、ガラスフィルムリボンをガラスロールの巻き出し開始部から曲げ応力付与部に掛け渡すだけで、ガラスフィルムリボンを移送する経路を形成することができる。これにより、当該経路がより一層簡易化されると共に、当該経路を形成するための装置の構成も簡易化される。
【0012】
この方法において、前記ガラスフィルムリボンは、張力を付与されず且つ自重による垂れ下がりが生じ得る状態で掛け渡され、前記保護シートリボンは、張力を付与され且つ前記ガラスフィルムリボンの垂れ下がりを受け止めた状態で掛け渡されるようにしてもよい。
【0013】
このようにすれば、張力が付与されていないガラスフィルムリボンを前述のように掛け渡すことで必然的に生じ得る垂れ下がりが、張力が付与された保護シートリボンによって受け止められるため、ガラスフィルムリボンの垂れ下がりによる破損や損傷等を抑止することができる。
【0014】
以上の方法において、前記保護シートリボンを、前記ガラスロールの巻き出し開始部から前記曲げ応力付与部に向かって引っ張ることで、前記ガラスロールから前記保護シートリボン及び前記ガラスフィルムリボンを巻き出し、それらの巻き出しを停止した時に、前記ガラスフィルムリボンを切断するようにしてもよい。
【0015】
このようにすれば、保護シートリボンをガラスロールの巻き出し開始部から曲げ応力付与部に向かって引っ張るだけで、ガラスフィルムリボン及び保護シートリボンを巻き出すことができるため、それらの巻き出し作業を容易に行えると共に、それらの巻き出しに必要な装置の構成が簡素化される。しかも、保護シートリボンを上述のように引っ張ることで、ガラスフィルムリボンを移送する経路を、ガラスロールの巻き出し開始部と曲げ応力付与部とを結ぶ仮想平面に近づけることが可能となる。これにより、ガラスフィルムリボンを前述のように掛け渡したことによる垂れ下がりが小さくなり、ガラスフィルムリボンの移送距離を短くすることができる。加えて、巻き出しを停止した時にガラスフィルムリボンの切断が行われるため、例えばガラスフィルムリボンを巻き出している途中(移送している途中)で切断する場合と比較して、正確な位置で適正にガラスフィルムリボンを切断することができる。
【0016】
以上の方法において、前記曲げ応力付与部の巻き出し方向の前側に、巻き出し方向の前側に向かって下降傾斜する下り傾斜テーブルが配置され、前記ガラスフィルムリボンを切断する際に、前記ガラスフィルリボンを前記下り傾斜テーブル上に沿わせて保持するようにしてもよい。
【0017】
このようにすれば、ガラスフィルムリボンの曲げ応力付与部を通過して行き過ぎた領域を下り傾斜テーブル上に沿わせて保持した状態で、曲げ応力付与部上でガラスフィルムリボンの切断を行うことができる。これにより、切断時に下り傾斜テーブル上でガラスフィルムリボンの先端の位置決めを適切に行うことができ、正確な長さのガラスフィルムを切り出すことが可能となる。
【0018】
以上の方法において、前記ガラスロールと前記曲げ応力付与部との間に、巻き出し方向の前側に向かって上昇傾斜する上り傾斜テーブルが配置され、前記ガラスフィルムリボンを切断した後に、前記上り傾斜テーブルが前記切断した後のガラスフィルムリボンを受け止め支持するようにしてもよい。
【0019】
このようにすれば、切断した後のガラスフィルムリボンの切り離しによる垂れ下がりを適切に受け止め支持することができる。詳述すると、切断した後のガラスフィルムリボンは、保護シートリボン上で受け止め支持されるが、保護シートリボンのみでは十分に受け止め支持することができない場合がある。ここでの構成によれば、切断した後のガラスフィルムリボンが上り傾斜テーブルによって確実に受け止め支持される。また、上り傾斜テーブルは、巻き出し方向の前側に向かって上昇傾斜しているため、上り傾斜テーブル上で受け止め支持されているガラスフィルムリボンの向きは、ガラスフィルムリボンをガラスロール側から曲げ応力付与部まで移送する経路の向きと合致する。これにより、切断した後のガラスフィルムリボンを再び移送させる動作を容易に且つ迅速に行わせることができる。
【0020】
以上の方法において、前記ガラスフィルムリボンを切断した後に、前記ガラスロールの最外層のガラスフィルムリボンが弛むことを防止する弛み防止処理がなされるようにしてもよい。
【0021】
このようにすれば、切断した後のガラスフィルムリボンがガラスロール側に引き戻されることで、ガラスロールの外周部の巻き締め力が弱められて弛んでしまう事態が回避される。詳述すると、
図13に示すように、曲げ応力付与部a1で切断した後のガラスフィルムリボンa2(同図に鎖線で示す)は、自重によって保護シートリボンa3上でガラスロールa4側に引き戻されるように移動する。このガラスフィルムリボンa2の移動は、ガラスロールa4の外周部の巻き締め力を弱める。これが原因となって、ガラスロールa4の最外層のガラスフィルムリボンa2が、符号Cで示すように、その内層側のガラスロールから膨らむように離反して弛む。この弛みは、ガラスフィルムリボンa2に破損や損傷等を生じさせる要因となる。なお、同図に示すガラスフィルムリボンa2の形態は一例に過ぎないが、本発明の要件を満たす他の形態であっても、同様にして弛みが生じる。ここでの構成によれば、ガラスロールに弛み防止処理がなされていることによって、弛みの発生が抑止される。その結果、弛みに起因するガラスフィルムリボンの破損や損傷等が未然に防止される。
【0022】
この方法において、前記弛み防止処理は、前記切断した後のガラスフィルムリボンの先端側領域と前記保護シートリボンとをテープ状体で止着する処理であってもよい。
【0023】
このようにすれば、ガラスフィルムリボンが幅方向に沿って切断された場合であっても、保護シートリボンは切断されずに曲げ応力付与部を通過した状態にある。そのため、切断した後のガラスフィルムリボンがガラスロール側に引き戻されようとしても、ガラスフィルムリボンにテープ状体を介して止着されている保護シートリボンの張力によって、ガラスフィルムリボンが引き戻され難くなる。これにより、ガラスロールの最外層のガラスフィルムリボンに弛みが生じる事態を回避できる。
【0024】
この処理に代えて、前記弛み防止処理は、前記ガラスロールの外周面に弛み防止部材を当接させる処理であってもよい。
【0025】
このようにすれば、切断した後のガラスフィルムリボンがガラスロール側に引き戻されようとしても、ガラスロールの外周面に弛み防止部材が当接していることで、ガラスロールの外周部の巻き締め力が弱められなくなる。したがって、この場合にも、ガラスフィルムリボンの切断後に、ガラスロールの最外層のガラスフィルムリボンに弛みが生じる事態を回避できる。
【0026】
この場合、前記弛み防止部材は、前記ガラスロールの外周面に当接する当接部が樹脂で形成された錘体であってもよい。
【0027】
このようにすれば、ガラスロールの最外層のガラスフィルムリボンの弛みを錘体によって防止した場合に発生し得る新たな問題に対処可能となる。すなわち、ガラスフィルムリボンをガラスロールから巻き出す際には、錘体とガラスロール(最外層のガラスフィルムリボン)の外周面との間に擦れが生じるという新たな問題が発生し得る。しかし、ここでの構成によれば、錘体の当接部を形成する樹脂が擦れに対して好適な材質であることにより、錘体とガラスロールの外周面との擦れによって当該外周面に傷が付く等の不具合が抑止される。
【0028】
この部材に代えて、前記弛み防止部材は、前記ガラスロールの外周面に当接する外輪を有するワンウェイクラッチであってもよい。
【0029】
このようにすれば、ガラスロールからガラスフィルムリボンが巻き出される際には、ワンウェイクラッチの動作により外輪がガラスロールの外周面に沿って転がることが許容される。これにより、外輪とガラスロールの外周面との擦れが生じ難くなり、当該外周面に傷が付く等の不具合がより一層確実に抑止される。一方、ガラスフィルムリボンが切断された後に、ガラスフィルムリボンがガラスロール側に引き戻されようとしても、ワンウェイクラッチの動作により外輪がガラスロールの外周面に沿って転がることが阻止される。換言すれば、切断後のガラスフィルムリボンがガラスロール側に移動してガラスロールの外周部の巻き締め力を弱めようとしても、そのようなガラスフィルムリボンの移動はワンウェイクラッチによって阻止される。これにより、ガラスフィルムリボンの切断後に、ガラスロールの最外層のガラスフィルムリボンに弛みが生じる事態を効率良く回避することができる。したがって、この場合には、ガラスフィルムリボンの弛みの防止と擦れの防止との両立を図ることができる。
【0030】
この場合、前記外輪は、前記ガラスロールの外周面に当接する当接部が発泡樹脂で形成されていてもよい。
【0031】
このようにすれば、外輪の当接部を形成する発砲樹脂が擦れに対して好適な材質であることにより、ガラスロールの外周面に適切な摩擦力を付与しつつ、当該外周面に傷が付く等の不具合をさらに一層確実に抑止できる。
【0032】
以上の方法において、前記ガラスロールのロール軸には、さらにブレーキ装置が備えられていてもよい。
【0033】
このようにすれば、ガラスフィルムリボンを切断する際に、ガラスフィルムリボンの巻き出しを停止することに対して有効に対処することができる。すなわち、所定の長さのガラスフィルムリボンをガラスロールから巻き出した後に、その巻き出しを停止して切断しようとすれば、ガラスロールは惰性により回転する。そのため、ガラスロールと曲げ応力付与部との間でガラスフィルムリボンに弛みが生じ、場合によっては、ガラスフィルムの破損や損傷等が生じ得る。しかし、ここでの構成によれば、ガラスロールが惰性で回転することをブレーキ装置によって阻止することができる。これにより、ガラスフィルムリボンを切断する場合におけるガラスロールと曲げ応力付与部との間でのガラスフィルムリボンの弛みの発生を未然に防止することができる。
【0034】
上記課題を解決するために創案された本発明の第二の側面は、ガラスフィルムリボンと保護シートリボンとを重ねて巻回したガラスロールから、保護シートリボン上にガラスフィルムリボンを重ねた状態で巻き出し、前記ガラスフィルムリボンの先端が曲げ応力付与部を通過して所定長さだけ行き過ぎた後に、前記曲げ応力付与部で前記ガラスフィルムリボンに付与される曲げ応力により該ガラスフィルムリボンを幅方向に沿って切断することで、前記所定長さに対応する長さのガラスフィルムを製造するように構成した装置であって、前記曲げ応力付与部は、前記ガラスロールにおける前記ガラスフィルムリボン及び前記保護シートリボンの巻き出し開始部よりも高い位置に配置され、前記ガラスフィルムリボンは、巻き出し方向の前側に向かって上昇傾斜した状態で前記ガラスロール側から前記曲げ応力付与部に達している構成としたことに特徴づけられる。
【0035】
これによれば、この装置と実質的に構成が同一の既述の方法による場合と実質的に同一の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、ガラスロールから巻き出されたガラスフィルムリボンを曲げ応力付与部まで移送する経路の簡易化が図られ、効率良くガラスフィルムリボンを切断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成を示す概略正面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成を示す要部拡大縦断正面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成を示す要部拡大斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造方法の基本となる実施状況を説明するための要部拡大斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造方法の基本となる実施状況を説明するための要部拡大斜視図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成に弛み防止に係る要件を加えた構成の第一例を説明するための要部拡大斜視図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成に弛み防止に係る要件を加えた構成の第二例を説明するための概略正面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成に弛み防止に係る要件を加えた構成の第二例の作用効果を説明するための概略正面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成に弛み防止に係る要件を加えた構成の第三例を説明するための概略正面図である。
【
図10】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成に弛み防止に係る要件を加えた構成の第三例についての変形例を説明するための概略正面図である。
【
図11】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成にさらに付随的要件を加えた構成を説明するための概略正面図である。
【
図12】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成に長さ調整に係る要件を加えた構成を説明するための概略正面図である。
【
図13】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置の基本構成に生じ得る問題点を説明するための概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造方法及びその製造装置について添付図面を参照しつつ説明する。
【0039】
図1は、本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造装置1の基本構成を示す概略正面図である。同図に示すように、この製造装置1は、ガラスロール2と、ガラスロール2から巻き出したガラスフィルムリボン3及び保護シートリボン4のうちのガラスフィルムリボン3のみを切断する切断装置5とを備える。ガラスロール2は、キャスター(図示略)により移動可能な台車2vに搭載され、切断装置5は、キャスター(図示略)により移動可能な基台5v上に配備されている。なお、同図では、便宜上、ガラスフィルムリボン3を実線で描き、保護シートリボン4を鎖線で描いている。
【0040】
ここで、ガラスフィルムリボン3は、厚みが300μm以下または200μm以下であり、幅寸法が100mm~2000mmまたは500mm~1000mmである。また、保護シートリボン4は、樹脂または発泡樹脂からなり、厚みが200μm以下であり、幅方向両端が、ガラスフィルムリボン3の幅方向両端から食み出している。
【0041】
切断装置5は、曲げ応力付与部としての円柱状または円筒状の折割バー6を有する。折割バー6は、基台5v上に枠部材5wを用いて固定された支持部材5xの上端に固定設置されている。この場合、折割バー6は、ガラスロール2におけるガラスフィルムリボン3及び保護シートリボン4の巻き出し開始部2zよりも高い位置に配置されている。詳しくは、折割バー6は、両リボン3、4が全く巻き出されていない状態での巻き出し開始部2z(その状態でのガラスロール2の最外層の上端部)よりも高い位置に配置されている。両リボン3、4は、ガラスロール2の巻き出し開始部2zから折割バー6に掛け渡されている。この場合、ガラスフィルムリボン3は、自重による垂れ下がりが生じ得る状態で掛け渡されている。また、保護シートリボン4は、ガラスフィルムリボン3の垂れ下がりを受け止めた状態で掛け渡されている。
【0042】
さらに、切断装置5は、折割バー6の後側に配置された上り傾斜テーブル7(以下、第一テーブル7という)と、折割バー6の前側に配置された下り傾斜テーブル8(以下、第二テーブル8という)とを有する。なお、この実施形態についての説明で、「前側」とは、巻き出された両リボン3、4の移送方向(巻き出し方向)の前側を意味し、紙面における右側である。また、「後側」とは、巻き出された両リボン3、4の巻き出し方向の後側を意味し、紙面における左側である。
【0043】
図2及び
図3に拡大して示すように、第一テーブル7は、前側に向かって上昇傾斜し、第二テーブル8は、前側に向かって下降傾斜している。図例では、第一、第二テーブル7、8は、折割バー6から僅かに離反しているが、折割バー6に接触していてもよい。第二テーブル8は、基台5v上において、折割バー6側の端部を支点として、
図2に実線で示す位置から鎖線で示す位置まで回動可能とされている。
【0044】
ガラスロール2からはガラスフィルムリボン3が保護シートリボン4上に重ねられた状態で巻き出される。巻き出された両リボン3、4は、基本的には、第一テーブル7の上面である第一移送面7aと、第二テーブル8の上面である第二移送面8aとに沿って移送される。なお、「第一、第二移送面7a、8aに沿って」とは、第一、第二移送面7a、8aの移送方向全領域に沿う場合に限られず、第一、第二移送面7a、8aの移送方向一部領域に沿う場合も含む。
図2は、ガラスフィルムリボン3が切断される前の状態を例示しており(
図1も同様)、図例では、第一移送面7aの前側領域のみに両リボン3、4が沿っている。また、第二移送面8aについては、移送方向全領域に保護シートリボン4が沿い且つ後側領域のみにガラスフィルムリボン3が沿っている。なお、図示しないが第二移送面8aの前側領域には、切断で得られたガラスフィルム11(詳細は後述する)が沿っている。この実施形態における説明で、保護シートリボン4が第一、第二移送面7a、8a沿っている事は、保護シートリボン4が第一、第二移送面7a、8aに接触している事と同義である。
【0045】
第一移送面7aは、前側に向かって上り勾配となる面であって、第二移送面8aは、前側に向かって下り勾配となる面である。第一移送面7aの水平面に対する傾斜角度α1は、20°~60°であって、第二移送面8aの水平面に対する傾斜角度α2は、20°~60°である。第二テーブル8は、第二移送面8aの傾斜角度α2を上記の角度範囲内で任意の角度に設定できるように基台5v上に保持されている。第一テーブル7は、この実施形態では基台5v上に固定設置されているが、第一移送面7aの傾斜角度α1を上記の角度範囲内で任意の角度に設定できるように基台5v上に保持されていてもよい。そして、第一移送面7aと第二移送面8aとのなす角度βは、60°~120°とされる。
【0046】
ガラスフィルムリボン3の切断は、両リボン3、4の移送が停止した状態で行われる。ここで、第一移送面7aは、後述する切断後のガラスフィルムリボン3を受け止め支持する受け面としての役割も果たす。第二移送面8aは、両リボン3、4の移送が停止した時に、両リボン3、4を沿わせて保持する役割も果たす。さらに、第二移送面8aは、後述する切断後のガラスフィルム11を移送する役割も果たす。第一移送面7aの上端7x及び第二移送面8aの上端8xは、何れも、折割バー6の上端よりも低い位置で且つガラスロール2の巻き出し開始部2zよりも高い位置に存在している。
【0047】
この実施形態では、保護シートリボン4を折割バー6よりも前側の位置で引っ張ることで、ガラスロール2から両リボン3、4を巻き出すようになっている。したがって、両リボン3、4が移送されている時は、保護シートリボン4に張力が付与される。この時は、ガラスフィルムリボン3に張力が付与されない。また、両リボン3、4の移送が停止した時は、保護シートリボン4が第二移送面8a上で定位置に保持されることで、折割バー6よりも後側に存する保護シートリボン4に、ガラスフィルムリボン3の垂れ下がりを受けるための張力が付与される。この時も、ガラスフィルムリボン3に張力が付与されない。
【0048】
なお、切断装置5は、
図1に示すように、第二移送面8aを通過した保護シートリボン4を巻き取るためのシートロール10を備えている。
【0049】
次に、以上述べた製造装置1の基本構成を用いてガラスフィルムを製造する方法を説明する。
【0050】
ガラスロール2からガラスフィルムリボン3及び保護シートリボン4が巻き出される過程では、両リボン3、4が第一移送面7aに沿って移送されることで、ガラスフィルムリボン3の先端3aが折割バー6を通過する。この後、両リボン3、4は、第二移送面8aに沿って移送され、
図4に示すように、ガラスフィルムリボン3の先端3aが、折割バー6を所定長さL1だけ行き過ぎた時点で、両リボン3、4の移送が停止する。両リボン3、4の移送は、この実施形態では、作業者が保護シートリボン4を上記の折割バー6よりも前側の位置で引っ張ることによって行われる。具体的には、作業者は、図例のように第二移送面8aに沿わせて保護シートリボン4を引っ張ることで、ガラスフィルムリボン3を上記の所定長さL1だけ行き過ぎた位置に到達させる。なお、上記の所定長さL1は、第二移送面8aに付されたマーク(図示略)によって作業者が視認することができる。したがって、作業者は、ガラスフィルムリボン3の先端3aを上記のマークに位置決めするための作業を行い、位置決めが完了した時点で、保護シートリボン4を引っ張る操作を取り止める。これにより、両リボン3、4の移送が停止する。なお、作業者は、保護シートリボン4を第二移送面8aから離反させて引っ張るようにしてもよいが、上記位置決めのための作業を行う際には、第二移送面8aに沿わせて引っ張る必要がある。ここで、同一長さのガラスフィルム11をガラスフィルムリボン3から繰り返し切り出す場合には、上記のマークは第二移送面8aの一箇所に付しておけばよい。但し、ガラスフィルムリボン3から切り出すガラスフィルム11の長さが複数種ある場合は、上記のマークは第二移送面8aにおける移送方向の複数箇所に付される。
【0051】
このように両リボン3、4の移送が停止した時点では、折割バー6によってガラスフィルムリボン3に十分な曲げ応力が付与されている。なお、この時点では、ガラスフィルムリボン3に十分な曲げ応力を確実に付与するために、両リボン3、4を折割バー6の周辺で第一、第二移送面7a、8aに押し付けるなどの操作を行ってもよい。このような状態の下で、折割バー6の上方(好ましくは折割バー6の中心軸線の上方)からガラスフィルムリボン3の一方の側縁部(
図4に矢印Aで示す部位)に、加傷手段を用いて傷(初期クラック)を入れる。この実施形態では、傷を入れる作業も、作業者によって行われる。これにより、ガラスフィルムリボン3の幅方向に沿って傷が鎖線で示すように他方の側縁部まで一直線状に進展する。すなわち、ガラスフィルムリボン3の一方の側縁部の一箇所に入れた傷が、曲げ応力の作用によって、ガラスフィルムリボン3の幅方向の全長及び厚み方向の全長に亘って進展する。その結果、ガラスフィルムリボン3の折割り(切断)が完了する。切断後のガラスフィルムリボン3は、保護シートリボン4を介して第二移送面8aにより受け止め支持される。なお、この時に保護シートリボン4に付与されている張力が大きい場合には、第二移送面8aによらずとも、切断後のガラスフィルムリボン3を保護シートリボン4により受け止め支持することができる。この後は、再び保護シートリボン4を引っ張ることで、両リボン3、4の移送が開始すると同時に、次に示すような事も行われる。すなわち、
図5に示すように、切断により得られたガラスフィルム11が、第二移送面8aに沿って保護シートリボン4上で移送される。この移送後に、第二テーブル8を
図2に鎖線で示す姿勢にすれば、ガラスフィルム11が、例えば梱包用パレット等に縦姿勢で容易に積み込まれる。
【0052】
以上述べた製造装置1の基本構成による作用効果は、以下に示す通りである。
【0053】
上記基本構成によれば、ガラスロール2の巻き出し開始部2zから折割バー6を指向する向きと、ガラスロール2側から折割バー6に達する際のガラスフィルムリボン3の向きとが何れも、前側に向かって上昇傾斜する向きになる。これにより、ガラスロール2から巻き出されたガラスフィルムリボン3を折割バー6まで移送する経路に無駄が生じ難くなり、当該経路の簡易化を図ることができる。その結果、ガラスフィルムリボン3を効率良く切断することが可能となる。
【0054】
上記基本構成によれば、両リボン3、4をガラスロール2の巻き出し開始部2zから折割バー6に掛け渡すだけで、ガラスフィルムリボン3を移送する経路を形成することができる。これにより、当該経路がより一層簡易化されると共に、当該経路を形成するための装置も第一テーブル7を設けるだけでよくなり、当該装置の構成も簡易化される。
【0055】
上記基本構成によれば、張力が付与されていないガラスフィルムリボン3を上述のように掛け渡すことで必然的に生じ得る垂れ下がりが、張力が付与された保護シートリボン4によって受け止められるため、ガラスフィルムリボン3の垂れ下がりによる破損や損傷等を抑止できる。
【0056】
上記基本構成によれば、折割バー6よりも前側の位置で、保護シートリボン4をガラスロール2の巻き出し開始部2zから折割バー6に向かって引っ張るだけで、両リボン3、4を巻き出すことができる。そのため、巻き出し作業を容易に行えると共に、巻き出しに必要な装置の構成も簡素化される。しかも、保護シートリボン4を上述のように引っ張ることで、ガラスフィルムリボン3を移送する経路を、ガラスロール2の巻き出し開始部2zと折割バー6とを結ぶ仮想平面に近づけることが可能となる。これにより、ガラスフィルムリボン3を上述のように掛け渡したことによる垂れ下がりが小さくなり、ガラスフィルムリボン3の移送距離を短くすることができる。加えて、両リボン3、4の巻き出し(移送)が停止した時点でガラスフィルムリボン3の切断が行われるため、例えばガラスフィルムリボン3を移送している時に切断する場合と比較して、正確な位置で適正にガラスフィルムリボン3を切断することができる。
【0057】
上記基本構成によれば、ガラスフィルムリボン3の折割バー6よりも前側の部位を第二テーブル8の第二移送面8a上に沿わせて保持した状態で、折割バー6上でガラスフィルムリボン3の切断を行うことができる。これにより、第二移送面8a上でガラスフィルムリボン3の先端3aの位置決めを適切に行えるため、正確な長さのガラスフィルム11を得ることができる。
【0058】
上記基本構成によれば、切断後のガラスフィルムリボン3の切り離しによる垂れ下がりが、第一テーブル7の第一移送面7aによって確実に受け止め支持されるため、保護シートリボン4のみでは十分に受け止め支持できない場合の弊害が回避される。また、第一テーブル7の第一移送面7aは、前側に向かって上昇傾斜しているため、第一移送面7a上で受け止め支持されているガラスフィルムリボン3の向きは、ガラスフィルムリボン3を折割バー6まで移送する経路の向きと合致する。これにより、切断後のガラスフィルムリボン3を再び移送させる動作を容易に且つ迅速に行わせることができる。
【0059】
本発明の実施形態に係る製造装置1は、以上の基本構成に加えて、既述の
図13に符号Cで示すような弛みを防止する弛み防止処理がなされている。以下、この弛み防止処理の第一例乃至第三例について図面を参照しつつ説明する。
【0060】
[第一例]
図6は、第一例に係る弛み防止処理を示す斜視図である。同図に示すように、この弛み防止処理は、切断後のガラスフィルムリボン3の先端側領域3Aと、保護シートリボン4とを、粘着テープ等のテープ状体12で止着する処理である。図例では、両リボン3、4の幅方向の二箇所を止着しているが、幅方向の一箇所または三箇所以上を止着してもよい。具体的には、ガラスフィルムリボン3が幅方向に沿って切断される前後において、保護シートリボン4には張力(巻き出し力)が付与されている。したがって、切断後のガラスフィルムリボン3は、この保護シートリボン4を介して第一テーブル7の第一移送面7aによって受け止め支持される。この場合、ガラスロール2の巻き出し開始部2zは、折割バー6よりも低い位置にあることから、切断後のガラスフィルムリボン3は、ガラスロール2側に引き戻されようとする。これに対しては、ガラスフィルムリボン3の切断直後に、切断後のガラスフィルムリボン3の先端側領域3Aと、張力が付与されている保護シートリボン4とを、例えば作業者がテープ状体12で止着する。このようにすれば、切断後のガラスフィルムリボン3がガラスロール2側に引き戻されようとしても、保護シートリボン4の張力によって、ガラスロール2の最外層のガラスフィルムリボン3に弛みが生じる事態を回避することができる。換言すれば、保護シートリボン4の張力によってガラスロール2の外周部の巻き締め力が弱められる事態が生じ難くなり、上記の弛みの発生を回避し得る。
【0061】
[第二例]
図7は、第二例に係る弛み防止処理を示す概略正面図である。同図に示すように、この弛み防止処理は、ガラスロール2の外周面(この実施形態ではロール軸2aの中心軸線の上方の面)2bに錘体13を当接させる処理である。この錘体13は、ガラスロール2の外周面2bへの当接部が樹脂で形成されている。なお、この錘体13の当接部以外は、樹脂であってもよく、金属やその他の材質であってもよい。さらに、この錘体13は、ガラスフィルムリボン3が全く巻き出されていない状態にある時にガラスロール2側に向かって下降傾斜するアーム14の先端に取り付けられ、このアーム14の後端は、台車2vの基台部15に立設固定された支柱16にヒンジ17を介して回動可能に連結されている。したがって、この錘体13は、自重によってガラスロール2の上に載せられた状態にあり、ガラスロール2の外径の変化に追随して上下動可能とされている。
【0062】
このようにした場合には、
図8に示すように、切断後のガラスフィルムリボン3の先端側領域3Aを含む領域が、第一テーブル7の第一移送面(受け面)7aによって受け止め支持され、当該領域が切り離されたことにより生じる垂れ下がりが確実に抑止される。この状態にある時に、切断後のガラスフィルムリボン3が自重によってガラスロール2側に引き戻されようとしても、錘体13とガラスロール2の外周面との摩擦によって、ガラスロール2の外周部の巻き締め力が弱められる事態を抑制できる。これにより、ガラスロール2の最外層のガラスフィルムリボン3に弛みが生じ難くなり、その弛みに起因する切断後のガラスフィルムリボン3の破損や損傷等が未然に防止される。但し、このようにした場合には、ガラスフィルムリボン3が巻き出されている間は、錘体13とガラスロール2の外周面2bとの間に擦れが生じる。しかし、錘体13の当該外周面2bへの当接部は樹脂で形成されているため、上記の擦れによってガラスロール2の外周面2bに傷が付く等の不具合が抑止される。
【0063】
[第三例]
図9は、第三例に係る弛み防止処理を示す概略正面図である。同図に示すように、この弛み防止処理は、ガラスロール2の外周面(この実施形態ではロール軸2aの中心軸線の上方の面)2bにワンウェイクラッチ18の外輪18aを当接させる処理である。この外輪18aは、ガラスロール2の外周面2bへの当接部が発泡樹脂で形成されている。さらに、このワンウェイクラッチ18は、ガラスフィルムリボン3が全く巻き出されていない時にガラスロール2側に向かって下降傾斜するアーム19の先端に取り付けられ、このアーム19の後端は、台車2vの基台部20に立設固定された支柱21にヒンジ22を介して回動可能に連結されている。したがって、このワンウェイクラッチ18は、自重によってガラスロール2の上に載せられた状態にあり、ガラスロール2の外径の変化に追随して上下動可能とされている。
【0064】
このようにした場合には、ガラスロール2からガラスフィルムリボン3が巻き出されている間は、ワンウェイクラッチ18の動作により外輪18aがガラスロール2の外周面に沿って転がることが許容される。これにより、外輪18aとガラスロール2の外周面2bとの擦れが生じ難くなり、当該外周面2bに傷が付く等の不具合がより一層確実に抑止される。一方、ガラスフィルムリボン3が切断された後に、切断後のガラスフィルムリボン3がガラスロール2側に引き戻されようとしても、ワンウェイクラッチ18の動作により外輪18aがガラスロール2の外周面に沿って転がることが阻止される。換言すれば、切断後のガラスフィルムリボン3がガラスロール2側に引き戻されるように移動してガラスロール2の外周部の巻き締め力を弱めようとしても、そのようなガラスフィルムリボン3の移動はワンウェイクラッチによって阻止される。これにより、既述の
図8に示した態様と同様にして、ガラスフィルムリボン3の切断後におけるガラスロール2の最外層のガラスフィルムリボン3に弛みが生じる事態を抑制できる。したがって、この場合には、ガラスフィルムリボン3の弛みの防止と擦れの防止との適切な両立を図ることができる。
【0065】
さらに、ワンウェイクラッチ18の外輪18aは、ガラスロール2の外周面2bに当接する当接部が発泡樹脂で形成されている。これにより、ガラスロール2の外周面2bに適切な摩擦力を付与しつつ、当該外周面2bに傷が付く等の不具合がさらに一層確実に抑止される。
【0066】
なお、この第三例に係る弛み防止処理は、
図10に示すように、第一テーブル7の第一移送面7a上で、ガラスフィルムリボン3の上面にワンウェイクラッチ18の外輪18aを当接させるものであってもよい。この場合には、保護シートリボン4に付与される張力を十分な大きさにすることで、外輪18aのガラスフィルムリボン3への当接位置で保護シートリボン4を第一移送面7aから上方に離反させるようにしてもよい。なお、このようにせずに、当該当接位置で保護シートリボン4を第一移送面7aに接触させるようにしてもよい。
【0067】
さらに、この実施形態に係る製造装置1は、既述の弛み防止処理がなされた上で、
図11に示すような構成が付加されていてもよい。すなわち、同図に示すように。ガラスロール2のロール軸2aに、ブレーキ装置23を備えるようにしてもよい。詳しくは、ガラスロール2のロール軸2aに、台車2vに搭載されたブレーキ装置23のブレーキシュー23aを当接させるようにしてもよい。このようにすれば、ガラスフィルムリボン3を切断する際に、ガラスフィルムリボン3の巻き出し(移送)を停止することに対して有効に対処することができる。すなわち、所定の長さのガラスフィルムリボン3をガラスロール2から巻き出した後に、その巻き出しを停止してガラスフィルムリボン3を切断しようとした場合には、ガラスロール2は惰性により回転する。これに起因して、ガラスロール2と折割りバー6との間でガラスフィルムリボン3に弛みが生じるおそれがあり、場合によっては、ガラスフィルムリボン3の破損や損傷等が生じ得る。しかし、ここでの構成によれば、ガラスロール2が惰性で回転することをブレーキ装置23によって阻止できる。これにより、ガラスフィルムリボン3を切断する際にガラスロール2と折割りバー6との間でガラスフィルムリボン3に弛みが生じる事態を効果的に回避できる。
【0068】
本発明の実施形態に係る製造装置1は、以上の構成に加えて、
図12に示すような長さ調整機構24を備えている。なお、図例では、ガラスロール2の巻き出し開始部2zが、ガラスロール2の下端部に位置している。また、図例のガラスロール2は、ガラスフィルムリボン3の外周側に保護シートリボン4が巻き掛けられているが、保護シートリボン4の上にガラスフィルムリボン3が重ねられた状態で巻き出されていく点は、既述の場合と同様である。加えて、ガラスロール2の巻き出し開始部2z(厳密には、ガラスロール2が最小径になる際の巻き出し開始部2z)よりも折割バー6が高い位置に配置されている点も、既述の場合と同様である。したがって、図例の製造装置1の主要部の構成及び作用効果は、既述の場合と同様である。また、図例の長さ調整機構24は、既述のように、ガラスロール2の巻き出し開始部2zがガラスロール2の上端部に位置している場合も同様に適用が可能である。
【0069】
同図に示すように、長さ調整機構24は、ガラスロール2から保護シートリボン4及びガラスフィルムリボン3を巻き出す際に、第二テーブル8の第二移送面8a上でガラスフィルムリボン3の巻き出し長さを調整するものである。詳しくは、長さ調整機構24は、ガラスフィルムリボン3の先端3aが折割バー6を行き過ぎた時点で、第二移送面8aに付されているマークにガラスフィルムリボン3の先端3aを正確に位置決めするために、巻き出し長さを微調整するものである。具体的には、長さ調整機構24は、ガラスロール2のロール軸2aと一体回転可能に同軸上に配置された大径ギヤ25と、大径ギヤ25に噛み合う小径ギヤ26と、小径ギヤ26と一体回転可能に同軸上に配置されたウォームホイル27と、ウォームホイル27に噛み合うウォーム28とを有する。小径ギヤ26、ウォームホイル27及びウォーム28は、エアシリンダ等の流体圧シリンダ29により上下昇降可能とされた昇降台30に保持されている。ウォーム28には、前側に向かって延び出し且つ前端にハンドル31を有する作動軸32が取り付けられている。作動軸32の後端部は、昇降台30の軸支部30aに回転可能に支持され、作動軸32の前端部は、基台5vに固設された複数(図例では二つ)の軸支壁材33に回転可能に支持されている。作動軸32は、軸支部30aと軸支壁材33との間で、複数個(図例では2個)の万能継手34により連結されている。ハンドル31は、第二テーブル8の下方に配置されている。ハンドル31の周辺部位(図例では前側の軸支壁材33)には、昇降台30を上昇及び下降させるための信号を発するスイッチ35が取り付けられている。
【0070】
この長さ調整機構24は、作業者によって以下のように操作される。先ず、作業者は、保護シートリボン4を第二移送面8aに沿わせて引っ張ることで、ガラスフィルムリボン3の先端3aをマークの近傍に位置させる。この状態で作業者は、スイッチ35を操作して昇降台30を同図に示す上昇端位置まで上動させる。この時点で、ガラスフィルムリボン3の先端3aからマークまで所定長さだけ空きがある場合には、作業者はハンドル31を正転させる。これにより、ガラスロール2が矢印W1方向に回転して、両リボン3、4が巻き出される。これとは逆に、ガラスフィルムリボン3の先端3aがマークを所定長さだけ行き過ぎている場合には、作業者はハンドル31を逆転させる。これにより、ガラスロール2が矢印W2方向に回転して、両リボン3、4が巻き取られる。このように作業者がハンドル31を操作している間は、保護シートリボン4に張力が付与されている。この場合、作業者は、ハンドル31の正転または逆転を一回だけ行うことで、或いは、正転と逆転とを繰り返し行うことで、ガラスフィルムリボン3の先端3aをマークに位置決めするための作業を行う。この位置決めが完了した時点で、作業者はハンドル31の操作を取り止める。この状態で、既述のようにガラスフィルムリボン3の切断を行い、然る後、作業者は、スイッチ35を操作して昇降台30を図示の状態から下降させる。これにより、大径ギヤ25と小径ギヤ26との噛み合いが解除され、ハンドル31から大径ギヤ25ひいてはガラスロール2に動力が伝達されなくなる。なお、ガラスフィルムリボン3の切断と、昇降台30の下降とは、上記の場合と順序が逆でもよい。この後においては、再び、作業者によって保護シートリボン4が引っ張られ、既述の場合と同様の操作が行われる。
【0071】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、種々のバリエーションが可能である。例えば、以上の実施形態では、曲げ応力付与部としての折割バーを、円筒状または円柱状をなすものとしたが、断面が楕円形やその他の湾曲形状をなすものであってもよく、さらには上部のみがそのような湾曲形状をなすものであってもよく、また湾曲形状をなさないものであってもよい。さらに、折割バーの個数も一個に限られず、複数個から構成されるものであってもよい。加えて、曲げ応力付与部は、折割バーを有しない構成(例えば第一、第二テーブルのみによる構成)であってもよく、何れにしても、曲げ応力付与部は、ガラスフィルムリボンを切断するために必要な曲げ応力を付与できるものであればよい。
【0072】
ガラスロールの外周面に当接させる弛み防止部材は、上記例示したものに限られず、例えば、当接部がゴム等で形成された錘体、さらには当接部がその他の材質で形成されたものであってもよい。
【0073】
以上の実施形態では、折割りバーの上方でガラスフィルムリボンに傷を入れたが、折割バーの後側つまり切断される前に、ガラスフィルムリボンに傷を入れるようにしてもよい。さらに、傷を入れる以外に、スクライブラインを入れるものであってもよいが、切断される前にガラスフィルムリボンにスクライブラインを入れておくことが好ましい。
【0074】
以上の実施形態では、第一、第二テーブルを平板状の部材としたが、複数の桟材を、移送方向に並列に、または移送方向と直交する方向に並列に、もしくは格子状に組み立てた部材などであってもよく、さらには、これらの部材以外の台などであってもよい。また、第一、第二移送面は、それらの一方が勾配のない面であってもよい。さらに、第一、第二移送面は、コンベア等の搬送面であってもよい。この場合には、作業者が保護シートリボンを引っ張らなくてもよい。さらに、作業者やコンベア等によらずに保護シートリボンを引っ張るために、曲げ応力付与部よりも前側の位置に引張ローラを別途設けてもよく、或いは既存のシートロール10(
図1参照)により保護シートリボンを引っ張るようにしてもよい。
【0075】
以上の実施形態では、ガラスフィルムリボン及び保護シートリボンをガラスロールの上端部から巻き出す場合に、例えば
図1に示すように、巻き出し直後の両リボンは、水平方向もしくは略水平方向に向かって巻き出されているが、前側に向かって上昇傾斜するように、或いは前側に向かって下降傾斜するように巻き出されてもよい。また、ガラスフィルムリボン及び保護シートリボンをガラスロールの下端部から巻き出す場合に、例えば
図12に示すように、巻き出し直後の両リボンは、前側に向かって上昇傾斜するように巻き出されているが、水平方向もしくは略水平方向に向かって、或いは前側に向かって下降傾斜するように巻き出されてもよい。
【0076】
以上の実施形態では、ガラスフィルムリボン及び保護シートリボンをガラスロールの上端部から巻き出す場合に弛み防止処理を行うようにしたが、この両リボンをガラスロールの下端部から巻き出す場合に同様の弛み防止処理を行うようにしてもよい。このようにする場合には、弛み防止部材のガラスロールへの当接を、カウンターウエイト方式としてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 製造装置
2 ガラスロール
2a ロール軸
2b ガラスロールの外周面
3 ガラスフィルムリボン
3A ガラスフィルムリボンの先端側領域
3a ガラスフィルムリボンの先端
4 保護シートリボン
6 折割バー(曲げ応力付与部)
7a 第一移送面
8a 第二移送面
11 ガラスフィルム
12 テープ状体
13 錘体
18 ワンウェイクラッチ
18a 外輪
23 ブレーキ装置
24 長さ調整機構
25 大径ギヤ
26 小径ギヤ
27 ウォームホイル
28 ウォーム
29 流体圧シリンダ
30 昇降台